(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
B60C9/18 L
B60C9/18 K
B60C9/18 N
(21)【出願番号】P 2020173755
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 健人
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-95173(JP,A)
【文献】実開昭61-24203(JP,U)
【文献】特開平6-16009(JP,A)
【文献】特開平6-286415(JP,A)
【文献】特開平10-81109(JP,A)
【文献】特開2020-32888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部のタイヤ径方向の内側に2層のベルトプライを含むベルト層を備え、
前記ベルト層は、各ベルトプライをそれぞれ形成する複数の第1コード及び第2コードを備え、これら第1コード及び第2コードは、それぞれタイヤ周方向に対して相互に逆向きに傾斜して延在し、かつ、子午線断面視でタイヤ径方向の内側と外側との位置関係が逆転するように、タイヤ幅方向の中央部で交差し、
交差した前記第1コード及び前記第2コードの境界線が、平面視でタイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅を有するジグザグ形状をなすタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層は、一方のベルトプライの端部が他方のベルトプライの端部よりもタイヤ幅方向の外側に突出し、タイヤ幅方向の外側の両端で、それぞれ突出しているベルトプライを形成するコードが異なる請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記境界線は、前記第1コードまたは前記第2コードのタイヤ周方向におけるコード間隔を1ピッチとした場合、前記ジグザグ形状の1周期に含まれるピッチ数を6以上40以下とする請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記境界線のタイヤ幅方向の振幅Sと前記ベルト層のタイヤ幅方向の幅Wとの関係が、0.05≦S/W≦0.15を満たす請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる複数の主溝を有し、
前記境界線は、一対の前記主溝で区画された陸部のタイヤ径方向の内側に位置する請求項1から4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ベルト層のタイヤ径方向の外側に、少なくとも前記境界線を含む領域を覆う2層のベルトカバー層が配置されている請求項1から5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第1コード及び前記第2コードは、タイヤ幅方向の内側でのタイヤ周方向に対する該コードが延びる方向の角度θaと、タイヤ幅方向の外側でのタイヤ周方向に対する該コードが延びる方向の角度θbとの関係が、0.7≦θa/θb≦0.9を満たす請求項1から6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
タイヤ周方向に対する前記第1コードが延びる方向の角度θ1と、前記第2コードが延びる方向の角度θ2との差分が3°以上となる請求項1から6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部のタイヤ径方向の内側にベルト層を備えたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トレッド部のタイヤ径方向の内側に2層のベルト層を備えた空気入りタイヤが知られている。この種のタイヤのベルトは、複数のコードをゴムで被覆して圧延加工した2枚のベルトプライを積層して構成されており、各ベルトプライは、タイヤ周方向に対してコードがそれぞれ傾斜して延在し、これら傾斜方向が互いに反対方向になっている。このような構成では、タイヤ転動時にベルト層の貼方向に起因してプライステア(横力)が生じるため、車両の流れ対策として残留コーナリングフォースを意図的に右や左へ発生させているが、近年では車両の直進性が向上し、残留コーナリングフォースで調整する必要性が低くなっている。
【0003】
このため、従来、2枚のベルトプライを子午線断面視でタイヤ径方向に交差させて、タイヤ赤道面に対してタイヤ幅方向の一端側と他端側とで互いに反対方向に傾斜するコードからなるベルトプライをそれぞれトレッド部側に露出させたベルトを備えたタイヤが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このタイヤでは、トレッド部のタイヤ幅方向の一端側で発生するプライステアはその他端側で発生するプライステアにより相殺され、全体としてプライステアの発生を抑制することができるため、車両直進性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の構成では、反対方向に傾斜するコードからなるベルトプライを交差させる境界線がタイヤ周方向に直線状に延在するため、タイヤ幅方向の中央部(センター部)でベルトのタガ効果が薄れる。このため、ベルトが境界線に沿って屈曲することによりタイヤ幅方向の中央部でタイヤの偏摩耗が発生する問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、車両直進性を維持しつつ、タイヤの中央部の偏摩耗を抑制することができるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤは、トレッド部のタイヤ径方向の内側に2層のベルトプライを含むベルト層を備え、ベルト層は、各ベルトプライをそれぞれ形成する複数の第1コード及び第2コードを備え、これら第1コード及び第2コードは、それぞれタイヤ周方向に対して相互に逆向きに傾斜して延在し、かつ、子午線断面視でタイヤ径方向の内側と外側との位置関係が逆転するように、タイヤ幅方向の中央部で交差し、交差した第1コード及び第2コードの境界線が、平面視でタイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅を有するジグザグ形状をなすことを特徴とする。
【0008】
上記したタイヤにおいて、ベルト層は、一方のベルトプライの端部が他方のベルトプライの端部よりもタイヤ幅方向の外側に突出し、タイヤ幅方向の外側の両端で、それぞれ突出しているベルトプライを形成するコードが異なる構成とすることが好ましい。
【0009】
また、上記したタイヤにおいて、境界線は、第1コードまたは第2コードのタイヤ周方向におけるコード間隔を1ピッチとした場合、ジグザグ形状の1周期に含まれるピッチ数を6以上40以下とすることが好ましい。
【0010】
また、上記したタイヤにおいて、境界線のタイヤ幅方向の振幅Sとベルト層のタイヤ幅方向の幅Wとの関係が、0.05≦S/W≦0.15を満たすことが好ましい。
【0011】
また、上記したタイヤにおいて、トレッド部は、タイヤ周方向に延びる複数の主溝を有し、境界線は、一対の主溝で区画された陸部のタイヤ径方向の内側に位置することが好ましい。
【0012】
また、上記したタイヤにおいて、ベルト層のタイヤ径方向の外側に、少なくとも境界線を含む領域を覆う2層のベルトカバー層が配置されていることが好ましい。
【0013】
また、上記したタイヤにおいて、第1コード及び第2コードは、タイヤ幅方向の内側でのタイヤ周方向に対する該コードが延びる方向の角度θaと、タイヤ幅方向の外側でのタイヤ周方向に対する該コードが延びる方向の角度θbとの関係が、0.7≦θa/θb≦0.9を満たすことが好ましい。
【0014】
また、上記したタイヤにおいて、タイヤ周方向に対する第1コードが延びる方向の角度θ1と、第2コードが延びる方向の角度θ2との差分が3°以上となることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るタイヤは、車両直進性を維持しつつ、タイヤの中央部の偏摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図2は、空気入りタイヤのベルト層を示す概略平面図である。
【
図3】
図3は、ベルト層の境界線とトレッド部の陸部との位置関係を示す図である。
【
図4】
図4は、ベルト層とベルトカバー層との位置関係を示す部分拡大断面図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る空気入りタイヤのベルト層を示す概略平面図である。
【
図6A】
図6Aは、実施形態に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【
図6B】
図6Bは、実施形態に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の各実施形態の説明において、他の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。各実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2は、空気入りタイヤのベルト層を示す概略平面図である。
図3は、ベルト層の境界線とトレッド部の陸部との位置関係を示す図である。
図4は、ベルト層とベルトカバー層との位置関係を示す部分拡大断面図である。
図1において、子午線断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLはタイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向に係るタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。
【0019】
また、本明細書において、タイヤの各部材の寸法及び角度は、タイヤが規定リムに組み込まれ、規定内圧となるようにタイヤに空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤには荷重がかけられない。規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0020】
本実施形態に係る空気入りタイヤ1(以下、単にタイヤ1と称する場合もある)は、
図1に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部2と、トレッド部2のタイヤ幅方向両側に形成され、タイヤ径方向内側に延在する一対のサイドウォール部4,4と、これらサイドウォール部4のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部5,5とを備えている。また、タイヤ1は、一対のビード部5,5間に装架されているカーカス層6と、カーカス層6のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層7と、ベルト層7のタイヤ径方向外側に配置されるベルトカバー層8と、カーカス層6のタイヤ径方向内側に配置されるインナーライナ層9とを備えている。
【0021】
トレッド部2は、ゴム部材であるトレッドゴム層2Aを有しており、タイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出している。これにより、トレッド部2は、表面21がタイヤ1の輪郭の一部を構成し、この表面21は、車両走行時に路面と接触する踏面(トレッド面ともいう)となる。トレッド部2の表面21には、タイヤ周方向に延在する複数本(
図1では4本)の主溝22が形成され、これら複数本の主溝22によって、複数列(5列)の陸部23がトレッド部2に区画される。
【0022】
主溝22は、タイヤ赤道面CLを挟んでタイヤ幅方向内側に位置する2本のセンター主溝22Aと、センター主溝22Aよりもタイヤ幅方向外側に位置する2本のショルダー主溝22Bとを備える。この
図1の例では、車幅方向外側に位置する一方のショルダー主溝22Bは、車幅方向内側に位置する他方のショルダー主溝22B及びセンター主溝22Aよりも溝幅が小さく形成されている。ここで、車幅方向内側及び車幅方向外側は、タイヤ1を車両に装着した際の車幅方向に対する向きとして規定される。センター主溝22A及びショルダー主溝22Bの溝幅は上記に限るものではなく、すべての主溝22が同等の溝幅に形成されていてもよい。また、センター主溝22Aとショルダー主溝22Bとを区別する必要しない場合には単に主溝22と称する。
【0023】
また、陸部23は、一対のセンター主溝22A,22Aの間にタイヤ周方向に延在するセンター陸部23Aと、センター主溝22Aとショルダー主溝22Bとの間にタイヤ周方向に延在するセカンド陸部23Bと、ショルダー主溝22Bのタイヤ幅方向外側に位置しタイヤ周方向に延在するショルダー陸部23Cとを備える。これらセンター陸部23A、セカンド陸部23B及びショルダー陸部23Cを区別しない場合には単に陸部23と称する。
【0024】
また、トレッド部2には、各陸部23にタイヤ周方向と交差する方向に延在する複数のラグ溝24が設けられている。これらラグ溝24は、主溝22に連通していてもよく、または少なくとも一端が主溝22に連通せず陸部23内で終端していてもよい。
【0025】
サイドウォール部4は、タイヤ幅方向におけるトレッド部2の両側にそれぞれ配置されており、トレッド部2のショルダー陸部23Cからタイヤ径方向内側に延びて形成されている。このように形成されるサイドウォール部4は、タイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出する部分である。
【0026】
また、ビード部5は、各サイドウォール部4のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されており、それぞれのビード部5は、ビードコア50と、ビードフィラー51とを備えている。ビードコア50は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー51は、カーカス層6に沿って配置されるゴム部材により形成されている。
【0027】
カーカス層6は、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維からなるカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。カーカス層6のカーカスコードは、タイヤ子午線方向に沿って延在しつつ、タイヤ周方向への傾斜角度が所定の範囲内となって設けられている。カーカス層6は、タイヤ幅方向の両側に配設されるビード部5間にトロイダル状に架け渡されて、タイヤ1の骨格を構成する。具体的には、カーカス層6は、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部5のうち、一方のビード部5から他方のビード部5にかけて配設されており、カーカス層6の両端部は、ビードコア50及びビードフィラー51を包み込むように、該ビードコア50の廻りにタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されている。
【0028】
ベルト層7は、複数のベルトプライをタイヤ径方向に積層することにより構成され、カーカス層6のタイヤ径方向外側に配置されている。本実施形態では、ベルト層7は2層からなり、第1ベルトプライ71及び第2ベルトプライ72を備えて構成されている。ベルト層7の詳細な構成については後述する。
【0029】
ベルト層7のタイヤ径方向外側には、ベルトカバー層8が配設されている。ベルトカバー層8は、コートゴムで被覆されたスチール或いは有機繊維材から成る複数のコードを圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向へのベルト角度が所定角度(例えば、±5°)の範囲内になっている。本実施形態では、ベルトカバー層8は、ベルト層7を全体的に覆う2層のベルトフルカバー81と、ベルト層7のタイヤ幅方向端部を覆うベルトエッジカバー82とを有する。
【0030】
インナーライナ層9は、タイヤ1におけるタイヤ内側の表面であるタイヤ内面10に配置されてカーカス層6を覆う空気透過防止層であり、タイヤ1に充填された空気の洩れを防止し、また、カーカス層6の露出による酸化を抑制する。具体的には、インナーライナ層9は、カーカス層6のタイヤ内面10側に配置されると共に、各タイヤ幅方向両端部が一対のビード部5の位置まで至っており、タイヤ周方向にトロイダル状に掛け回されて配置されている。
【0031】
次に、ベルト層7について説明する。上述したように、ベルト層7は、第1ベルトプライ71と第2ベルトプライ72とを備える。これら第1ベルトプライ71及び第2ベルトプライ72は、タイヤ幅方向の内側すなわち中央部(タイヤ赤道面CLの付近)でタイヤ径方向の位置関係が逆転するように交差している。具体的には、
図1に示すように、タイヤ赤道面CLを中心として、トレッド部2をタイヤ幅方向の一端側(車幅方向外側)の第1領域R1と他端側(車幅方向内側)の第2領域R2とに分けた場合、第1領域R1では、第1ベルトプライ71は第2ベルトプライ72のタイヤ径方向外側に位置し、第2領域R2では、第1ベルトプライ71は第2ベルトプライ72のタイヤ径方向内側に位置している。
【0032】
また、本実施形態では、タイヤ径方向外側に位置する第1ベルトプライ71及び第2ベルトプライ72からなる外側層は、タイヤ径方向内側に位置する第1ベルトプライ71及び第2ベルトプライ72からなる内側層よりもタイヤ幅方向の長さが短く形成されている。このため、第1領域R1では、内側層となる第2ベルトプライ72の端部72Aが外側層となる第1ベルトプライ71の端部71Aよりもタイヤ幅方向外側に突出し、第2領域R2では、内側層となる第1ベルトプライ71の端部71Bが外側層となる第2ベルトプライ72の端部72Bよりもタイヤ幅方向外側に突出している。
【0033】
また、
図2に示すように、第1ベルトプライ71は、スチールコードからなる複数の第1コード710を有し、並列された多数の第1コード710をコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。また、第2ベルトプライ72も同様に、スチールコードからなる複数の第2コード720を有し、並列された多数の第2コード720をコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。これら第1コード710及び第2コード720は、スチールコードに限るものではなく、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等有機繊維材を用いて作成される構成としてもよい。
【0034】
複数の第1コード710は、タイヤ周方向(タイヤ赤道面CL)に対してほぼ一様に傾斜して延在する。第1コード710のタイヤ周方向に対する傾斜角度θ1は、例えば、10°以上40°以下の範囲内となっており、より好ましくは、22°以上30°以下の範囲内である。また、複数の第2コード720も同様に、タイヤ周方向(タイヤ赤道面CL)に対してほぼ一様に傾斜して延在している。第2コード720のタイヤ周方向に対する傾斜角度θ2は、例えば、10°以上40°以下の範囲内となっており、より好ましくは、22°以上30°以下の範囲内である。
図2の例では、第1コード710は、タイヤ周方向に対して右下がりに傾斜し、第2コード720は、タイヤ周方向に対して左下がりに傾斜している。すなわち、第1コード710及び第2コード720は、それぞれタイヤ周方向に対して相互に逆向きに傾斜して延在している。また、これらの傾斜角度θ1、θ2の大きさは同等となっており、第1コード710及び第2コード720は、タイヤ赤道面CLに対して、傾斜方向がそれぞれ対称に配列されている。
【0035】
上記した構成では、ベルト層7のタイヤ径方向の外側層は、第1領域R1に位置する第1ベルトプライ71と第2領域R2に位置する第2ベルトプライ72とから構成されており、この第1ベルトプライ71の第1コード710のタイヤ周方向に対する傾斜方向と第2ベルトプライ72の第2コード720のタイヤ周方向に対する傾斜方向とが逆方向となる。さらに、この外側層では、第1コード710と第2コード720とがタイヤ赤道面CLに対して傾斜方向がそれぞれほぼ対称となるように配列されている。このため、このようなベルト層7を備えるタイヤ1では、トレッド部2のタイヤ幅方向の一端側(第1領域R1)で発生するプライステアは、その他端側(第2領域R2)で発生するプライステアにより相殺され、全体としてプライステアの発生を抑制することができ、車両直進性の向上を図ることができる。
【0036】
また、ベルト層7のタイヤ径方向の外側層は、内側層よりもタイヤ幅方向の長さが短く形成されており、内側層となる各ベルトプライ71、72の端部71B、72Aが外側層となる各ベルトプライ71、72の端部71A、72Bよりもタイヤ幅方向外側に突出している。このため、ベルト層7は、タイヤ幅方向外側の両端で、それぞれ突出している各ベルトプライを形成するコードが異なっている。すなわち、第1領域R1では、第2ベルトプライ72を形成する第2コード720が突出し、第2領域R2では、第1ベルトプライ71を形成する第1コード710が突出している。一般に、タイヤの耐久性を考慮してベルト層の外層側の幅を内側層の幅よりも短く形成することは行われている。本構成では、タイヤ幅方向の外側の両端で、それぞれ突出しているベルトプライの各コードの傾斜方向を逆向きにすることにより、タイヤ1の耐久性を確保しつつ、プライステアの発生の更なる抑制を実現できる。
【0037】
ところで、上記のように、タイヤ周方向に対して逆(反対)向きに傾斜する各コードをそれぞれ有する各ベルトプライを単純にタイヤ幅方向の中央部で交差させる構成では、各ベルトプライの交差により形成される境界線がタイヤ周方向に直線状に延在する。このため、タイヤ幅方向の中央部でベルト層のタガ効果が薄れ、ベルト層が境界線に沿って屈曲することによりタイヤ幅方向の中央部でタイヤの偏摩耗が発生する問題が想定される。
【0038】
本実施形態では、
図2に示すように、交差した第1ベルトプライ71及び第2ベルトプライ72の境界線100が、平面視でタイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅を有するジグザグ形状をなしている。この境界線100は、タイヤ径方向外側、すなわち外層側のベルトプライの各コードが内側に潜り込む点を結んで得られる線とする。このジグザグ形状の境界線100は、複数本(
図2では7本)の第1コード710及び第2コード720をそれぞれ短冊状に形成し、これらを交互に折り合わせることにより形成される。この構成によれば、境界線100がタイヤ周方向に沿って直線状に延びるものと比べて、タイヤ幅方向の中央部におけるベルト層7のタガ効果を高めてベルト層7の曲げ剛性の向上を図ることができる。このため、ベルト層7が境界線100に沿って屈曲することが抑えられタイヤ幅方向の中央部におけるタイヤ1(トレッド部2)の偏摩耗の発生を抑制することができる。
【0039】
次に、境界線100のジグザグ形状について詳しく説明する。上記したように、第1ベルトプライ71と第2ベルトプライ72とが交差した境界線100は、タイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅を有するジグザグ形状をなしている。この境界線100は、第1コード710または第2コード720のタイヤ周方向におけるコード間隔を1ピッチとした場合に、ジグザク形状の1周期に含まれるピッチ数が6以上40以下となっている。すなわち、タイヤ周方向におけるコード間隔Pと境界線100の1周期分の長さLとの関係が、6≦L/P≦40の範囲内となっている。本実施形態では、複数の第1コード710及び複数の第2コード720は、いずれもほぼ平行に配列されているため、コード間隔Pはどこで測定しても同等な数値になるが、
図2に示す第1ベルトプライの端部71B(ベルト端部)からベルト層7のタイヤ幅方向の幅Wの1/10の距離0.1W離れた位置で測定している。
【0040】
ここで、L/P(1周期に含まれるピッチ数)が6よりも小さい場合には、形成される境界線が直線に近い形状となり、該境界線に沿ってベルト層が屈曲しやすくなる。また、L/Pが40よりも大きい場合には、ジグザグ形状の境界線の直線部分の長さが大きくなりすぎて該直線部分でベルト層が屈曲しやすくなる。本実施形態では、6≦L/P≦40の範囲内とすることにより、境界線100に沿ってベルト層7が屈曲することを効果的に抑制することができ、タイヤ幅方向の中央部でのタイヤ1の偏摩耗を抑制できる。なお、このL/Pは、16≦L/P≦24とすることが更に好ましい。
【0041】
また、
図3に示すように、境界線100のタイヤ幅方向の振幅Sとベルト層7のタイヤ幅方向の幅Wとの関係が、0.05≦S/W≦0.15を満たしている。このS/Wが0.05よりも小さい場合には、形成される境界線が直線に近い形状となり、該境界線に沿ってベルト層が屈曲しやすくなる。また、S/Wが0.15よりも大きい場合には、タイヤ幅方向の振幅Sが大きくなることにより、ジグザク形状の境界線の直線部分でベルト層が屈曲しやすくなる。本実施形態では、0.05≦S/W≦0.15を満たすことにより、境界線100に沿ってベルト層7が屈曲することを効果的に抑制することができ、タイヤ幅方向の中央部でのタイヤ1の偏摩耗を抑制できる。なお、このS/Wは、0.08≦S/W≦0.12とすることが更に好ましい。
【0042】
また、上記したタイヤ周方向における境界線100の1周期分の長さLと該境界線100のタイヤ幅方向の振幅Sとの関係が、1.0≦L/S≦2.0を満たしている。このため、周期が長過ぎたり振幅を大き過ぎたりしてタガ効果が薄れることを抑制できるという効果を奏する。L/Sは、1.3≦L/S≦1.7とすることが更に好ましい。
【0043】
また、上記した境界線100は、一対のセンター主溝22A、22Aで区画されたセンター陸部23Aのタイヤ径方向内側に位置している。このセンター陸部23Aのタイヤ幅方向の幅Waは、上記した境界線100のタイヤ幅方向の振幅Sよりも大きく設定されており、境界線100は、センター陸部23Aによって覆われている。この構成によれば、トレッド部2のパターン剛性で曲げ剛性が弱い主溝22を避けて境界線100を配置することができるため、境界線100でのベルト層7の屈曲を抑制することができ、タイヤ1の偏摩耗を更に抑制することができる。
【0044】
また、上記したように、ベルト層7のタイヤ径方向外側にはベルトカバー層8が配置されている。このベルトカバー層8は、
図4に示すように、2層構造のベルトフルカバー81を備え、このベルトフルカバー81が少なくともベルト層7の境界線100を含む領域100Aを覆っている。この領域100Aは、タイヤ幅方向に振幅Sの距離を有し、タイヤ周方向に延在する領域である。通常、タイヤ回転時には回転に伴いベルト層がタイヤ径方向外側へせり上がる傾向にある。このため、ベルトカバー層を設けない構成では、曲げ剛性が比較的弱い境界線部分でベルト層がせり上がり、タイヤの接地長が大きくなってセンター摩耗が生じやすい問題が想定される。本実施形態では、上記のように、2層構造のベルトフルカバー81が少なくともベルト層7の境界線100を含む領域100Aを覆うことにより、ベルト層7の境界線100の境界線100を含む領域100Aを補強して曲げ剛性を高めることができる。これにより、ベルト層7がせり上がりを防止して、タイヤ1のセンター摩耗(中央部の偏摩耗)を抑制することができる。
【0045】
次に、本実施形態の変形例について説明する。上記した実施形態では、第1コード710及び第2コード720の各傾斜角度θ1、θ2の大きさを同等に形成した構成を説明したが、各傾斜角度θ1、θ2の大きさは同等に限るものではない。この変形例では、第1コード710と第2コード720とがタイヤ周方向に対してそれぞれ逆方向に傾斜するとともに、第1コード710の傾斜角度θ1と第2コード720の傾斜角度θ2とを異ならせている。この構成によれば、異なる傾斜角度の各コードを交差させることで、中間のベルト角度に相当するベルト剛性を設定することができる。このため、ベルト層7の製造時にベルト角度の設定チャンネルを増やすことなく、細かいチューニングが可能となり、生産性と設計自由度が高まるといった効果を奏する。
【0046】
具体的には、外側層の第1領域R1(車幅方向外側)に位置する第1ベルトプライ71の第1コード710の傾斜角度θ1を27°、第2領域R2(車幅方向内側)に位置する第2ベルトプライ72の第2コード720の傾斜角度θ2を30°に設定すると、ベルト層7全体では、傾斜角度が28.5°相当のベルト剛性とすることができる。さらに、車幅方向外側よりも車幅方向内側の傾斜角度を大きく設定することにより、操縦安定性と乗り心地性を向上するチューニングを行うことができる。また、これとは反対に、車幅方向外側の第1コード710の傾斜角度θ1を30°、車幅方向内側の第2コード720の傾斜角度θ2を27°に設定すると、車幅方向外側のタイヤショルダー部の接地長さを小さくして高周波帯域のロードノイズを抑制するチューニングを行うことができる。このように、各コードの傾斜角度は、操縦安定性、乗り心地性またはロードノイズのチューニングによって変更することができ、各コードの傾斜角度の差分は、3°以上8°以下とすることが好ましい。
【0047】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態に係る空気入りタイヤのベルト層を示す概略平面図である。この
図5において、上記した第1実施形態に係るベルト層7と同一の構成要素は同一の符号を付して説明を省略する。この第2実施形態に係るベルト層7Aは、第1コード710及び第2コードの傾斜角度がタイヤ幅方向の位置によって変化する構成を有する。ここでは、第1コード710を例示して説明するが第2コード720も同様である。
【0048】
具体的には、
図5に示すように、第1コード710は、タイヤ幅方向の内側でのタイヤ周方向に対する傾斜角度(該コードが延びる方向の角度)θaは、タイヤ幅方向の外側での傾斜角度θbよりも小さく形成されている。すなわち、第1コード710は、タイヤ幅方向の内側(中心側)に近づくほど、第1コード710の延びる方向がタイヤ周方向に近づくように変化して傾斜角度θaが小さくなる。ここで、タイヤ幅方向の内側での傾斜角度θaは、タイヤ赤道面CLと、このタイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向外側へ0.1Wの距離だけ離間した位置でのタイヤ周方向に延びる想像線と、を同一の第1コード710がそれぞれ交差した2点を直線で結び、この直線と上記想像線とで形成される角度として計測される。また、タイヤ幅方向の内側での傾斜角度θbは、内側層となる第1ベルトプライ71の端部(車幅方向内側の端部)71B上と、この端部71Bからタイヤ幅方向内側へ0.1Wの距離だけ離間した位置でのタイヤ周方向に延びる想像線と、を同一の第1コード710がそれぞれ交差した2点を直線で結び、この直線と上記想像線とで形成される角度として計測される。
【0049】
本実施形態では、タイヤ幅方向内側での傾斜角度θaとタイヤ幅方向外側での傾斜角度θbとは、0.7≦θa/θb≦0.9を満たすようになっており、例えば、傾斜角度θaは24°、傾斜角度θbは30°に設定されている。ここで、θa/θbが0.7よりも小さいと、境界線部分のベルト曲げ剛性が比較的高くなり過ぎることでベルト層がせり上がらずに、境界線部分のタイヤの接地長が小さくなるため、ショルダー摩耗が生じやすいという問題がある。また、θa/θbが0.9よりも大きいと、境界線部分のベルト曲げ剛性が比較的弱いことでベルト層がせり上がり、境界線部分のタイヤの接地長が大きくなるため、センター摩耗が生じやすいという問題がある。本実施形態では、タイヤ幅方向内側での傾斜角度θaとタイヤ幅方向外側での傾斜角度θbとは、0.7≦θa/θb≦0.9を満たすため、タイヤ幅方向内側の傾斜角度θaを浅くすることでベルト層7Aのタガ効果を高め、ベルト層7Aの曲げ剛性の向上を図ることができる。なお、θa/θbは、0.75≦θa/θb≦0.85とすることが更に好ましい。
【実施例】
【0050】
図6A、
図6Bは、本実施形態に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。この性能試験では、実施例1から実施例27に示す複数種類の空気入りタイヤについて、車両直進性能とセンター部摩耗量に関する評価を行った。評価に用いられた空気入りタイヤ1は、タイヤサイズを255/35ZR19(96Y)とする。これらタイヤをリムサイズ19×9Jのリムホイールにリム組みし、空気圧を230kPaに調整し、排気量が3500CCのFRセダンに装着してテスト走行をすることにより各評価を行った。
【0051】
車両直進性能の評価は、テストコースにおいて、上記タイヤを装着した評価車両で所定の路面上を所定速度で走行し、テストドライバーが車両直進性について官能評価して指数化を行った。この官能評価では、従来例のタイヤを基準(100)とし、指数が大きいほど、車両直進性能が優れていることを示している。また、指数が98以上であれば、車両直進性能が適正に確保されているといえる。
【0052】
センター部摩耗量に関する評価は、テストコースにおいて、上記タイヤを装着した評価車両で所定のパターンで加減速と旋回を含めて繰り返し耐久走行し、両ショルダー部の平均摩耗量に対するセンター部(中央部)の摩耗量の比率を算出した。この評価では、ショルダー部とセンター部との摩耗量が同一であるものを基準(1)とし、比率が1より大きいほどセンター部が摩耗している傾向が強く、偏摩耗していることを示す。すなわち、比率が1に近いほど、センター部の耐偏摩耗性能に優れていることを示している。なお、上記した各評価に関し、従来例のタイヤは、ベルトコードが交差した境界線がタイヤ周方向に沿って直線状に延在するベルト層を有する構成とする(例えば、特開2013-95173号公報
図2参照)。
【0053】
図6A、
図6Bに示すように、実施例1から実施例27のタイヤ1は、従来例との対比において、車両直進性能を適正に確保しつつ、センター部の耐偏摩耗性能を大きく向上することができた。特に、境界線100をジグザグ形状とした場合、タイヤ幅方向の外側の両端でそれぞれ突出している各コードの傾斜方向を異ならせた場合、上記L/Pを6≦L/P≦40の範囲内とした場合、上記S/Wを0.05≦S/W≦0.15の範囲内とした場合、上記L/Sを1.0≦L/S≦2.0の範囲内とした場合、境界線100が陸部23のタイヤ径方向の内側に位置する場合、少なくとも境界線100を含む領域100Aを覆う2層のベルトカバー層8が設けた場合、上記したθa/θbが0.7≦θa/θb≦0.9の範囲内になる場合、または、上記したθ1とθ2との差分が3°以上8°以下である場合には、センター部の耐偏摩耗性能をより一層向上させる効果を発揮することが見いだせた。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、タイヤとして空気入りタイヤを例示して説明したが、これに限るものではなく、エアレスタイヤのような空気が充填されていないタイヤにも適用することもできることは勿論である。また、本実施形態で例示した空気入りタイヤに充填される気体としては、通常の又は酸素分圧を調整した空気の他にも、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 空気入りタイヤ(タイヤ)
2 トレッド部
7、7A ベルト層
8 ベルトカバー層
22 主溝
23 陸部
71 第1ベルトプライ
72 第2ベルトプライ
100 境界線
100A 領域
710 第1コード
720 第2コード