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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020572188
(86)(22)【出願日】2020-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2020004028
(87)【国際公開番号】W WO2020166421
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019024409
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】馬場 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐井 峰史
(72)【発明者】
【氏名】徳山 彰
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-156620(JP,A)
【文献】特開2011-056608(JP,A)
【文献】特開2011-183532(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109262038(CN,A)
【文献】特開2011-189463(JP,A)
【文献】特開平11-165212(JP,A)
【文献】特表2010-520064(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221362(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される軸状であり先端部に径方向に沿って延び周方向に沿って並ぶ複数のギャッシュが設けられたエンドミル本体と、
前記ギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面の先端側辺稜部に設けられる複数の切刃と、を備え、
前記切刃の回転軌跡は、側面視において円弧中心が前記軸線上に位置する先端側凸の円弧状であり、
前記切刃の回転軌跡の曲率半径は、前記エンドミル本体の外径の1/2より大きく、
前記切刃の刃先は、平面視において回転方向側に凸状に湾曲し、前記刃先の径方向両端を結ぶ仮想線に対する回転方向側への最大突出寸法が、前記エンドミル本体の外径の3%以上4%以下であり、
複数の前記切刃には、周方向に等間隔に並ぶ複数の親刃と、周方向においてそれぞれ前記親刃同士の間に配置され前記親刃よりも径方向の内側へ向けた刃長が短い子刃と、が含まれ、
前記親刃および前記子刃の組が、前記軸線を中心として180°回転対称に2組設けられており、
前記親刃は、
回転方向先端稜線に設けられる前記刃先と、
前記刃先の回転方向後方に隣接する第1の逃げ面と、
前記第1の逃げ面の回転方向後方に隣接する第2の逃げ面と、を有し、
前記親刃において、平面視における前記第2の逃げ面の径方向内端と前記軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の10%以上20%以下である、
エンドミル。
【請求項2】
前記ギャッシュの先端側を向く底面は、前記軸線と直交する平面に対し、40°以上50°以下で傾斜する、
請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
平面視における前記子刃の径方向内端と前記軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の4%以上9%以下である、
請求項1又は2に記載のエンドミル。
【請求項4】
平面視において、前記子刃の径方向内端と、前記親刃の前記第2の逃げ面の径方向内端と、が前記軸線を中心としてなす角度は、40°以上60°以下である、請求項1~3の何れか一項に記載のエンドミル。
【請求項5】
前記子刃は、
回転方向先端稜線に設けられる前記刃先と、
前記刃先の回転方向後方に隣接する第1の逃げ面と、
前記第1の逃げ面の回転方向後方に隣接する第2の逃げ面と、を有し、
前記子刃において、平面視における前記第2の逃げ面の径方向内端と前記軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の20%以上30%以下である、請求項1~の何れか一項に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドミルに関するものである。
本願は、2019年2月14日に、日本に出願された特願2019-024409号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
3軸加工機による金型等の切削加工に用いられるエンドミルとしては、例えば特許文献1に記載されているようなボールエンドミルが一般的に知られている。このようなボールエンドミルは、先端部に位置し回転軌跡が半球状をなす底刃と、底刃に連なる螺旋状の外周刃と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-337718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のボールエンドミルを用いて軸線と直交する平坦面を加工する場合、大径のボ-ルエンドミルを用いることでピックフィード間の段差高さ(以下、カスプハイトと呼ぶ)を小さくすることができ加工面粗さを向上させることができる。しかしながら、ボールエンドミルの外径を大きくすると大型の工作機械が必要となるなど、加工コストが高まるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、加工コストを抑制しつつカスプハイトを抑制した平坦面を形成できるエンドミルの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のエンドミルは、軸線回りに回転される軸状であり先端部に径方向に沿って延び周方向に沿って並ぶ複数のギャッシュが設けられたエンドミル本体と、前記ギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面の先端側辺稜部に設けられる複数の切刃と、を備え、前記切刃の回転軌跡は、側面視において円弧中心が前記軸線上に位置する先端側凸の円弧状であり、前記切刃の回転軌跡の曲率半径は、前記エンドミル本体の外径の1/2より大きく、前記切刃の刃先は、平面視において回転方向側に凸状に湾曲し、前記刃先の径方向両端を結ぶ仮想線に対する回転方向側への最大突出寸法が、前記エンドミル本体の外径の3%以上4%以下であり、複数の前記切刃には、周方向に等間隔に並ぶ複数の親刃と、周方向においてそれぞれ前記親刃同士の間に配置され前記親刃よりも径方向の内側へ向けた刃長が短い子刃と、が含まれ、前記親刃および前記子刃の組が、前記軸線を中心として180°回転対称に2組設けられており、前記親刃は、回転方向先端稜線に設けられる前記刃先と、前記刃先の回転方向後方に隣接する第1の逃げ面と、前記第1の逃げ面の回転方向後方に隣接する第2の逃げ面と、を有し、前記親刃において、平面視における前記第2の逃げ面の径方向内端と前記軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の10%以上20%以下である
【0007】
上述の構成のエンドミルによれば、先端部に設けられた円弧状の切刃の回転軌跡の曲率半径が、エンドミル本体の外径の1/2より大きい。このため、切刃の回転軌跡の半径とエンドミル本体の外径の1/2とが等しい従来のエンドミルと比較すると、エンドミル本体の外径を小型化しつつ、同ピックフィードで軸線と直交する平坦面を形成する場合のカスプハイトを小さくすることができる。したがって上述の構成によれば、エンドミルを小径化して比較的小型の工作機械を使用することで加工コストを抑制しつつ、カスプハイトを抑制して加工面の面粗さを向上できる。
【0008】
また、上述の構成のエンドミルによれば、先端部の複数の切刃には、複数の親刃と親刃同士の間に配置される子刃とが含まれる。このため、それぞれの切刃の切込み量を低減することができ、エンドミルで形成した加工面にむしれが生じることを抑制できる。
【0009】
また、上述の構成のエンドミルによれば、切刃の刃先は、平面視において回転方向側に凸状に大きく湾曲する。より具体的には、刃先の径方向両端を結ぶ仮想線に対する回転方向側への最大突出寸法が、エンドミル本体の外径の3%以上4%以下となるように回転方向前方に凸状に湾曲する。このため、各切刃は、切屑を径方向外側に速やかに排出することができる。すなわち上述の構成によれば、エンドミルの切屑排出性能を高めることができる。加えて、刃先が回転方向前方に凸状に湾曲することで切削時に刃先にビビリ振動が発生することを抑制することができる。
【0010】
上述のエンドミルにおいて、前記ギャッシュの先端側を向く底面は、前記軸線と直交する平面に対し、40°以上50°以下で傾斜する、構成としてもよい。
【0011】
上述の構成のエンドミルによれば、ギャッシュの底面が40°以上で傾斜するため切屑をスムーズに排出することができる。
また、上述の構成のエンドミルによれば、ギャッシュの底面が50°以下であるため、エンドミルの剛性を十分に確保して加工時のエンドミルの振動および破損を抑制できる。
【0012】
上述のエンドミルにおいて、平面視における前記子刃の径方向内端と前記軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の4%以上9%以下である、構成としてもよい。
【0013】
上述の構成のエンドミルによれば、平面視における子刃の径方向内端と軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の4%以上である。すなわち、上述の構成によれば、子刃の開始位置が軸線から十分に離れているため、中心ポケットが十分に確保され切屑の詰まりを抑制できる。
また、上述の構成のエンドミルによれば、平面視における子刃の径方向内端と軸線との距離が、エンドミル本体の外径の9%以下である。子刃の開始位置が軸線から離れすぎると、切刃の回転軌跡において親刃のみで切削する領域が広くなり、親刃への負荷が大きくなり親刃に損傷を生じる虞がある。すなわち、上述の構成によれば、親刃の損傷を抑制することができる。
【0014】
上述のエンドミルにおいて、前記親刃は、回転方向先端稜線に設けられる前記刃先と、前記刃先の回転方向後方に隣接する第1の逃げ面と、前記第1の逃げ面の回転方向後方に隣接する第2の逃げ面と、を有し、前記親刃において、平面視における前記第2の逃げ面の径方向内端と前記軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の10%以上20%以下である、構成としてもよい。
【0015】
上述の構成のエンドミルによれば、第2の逃げ面の開始位置を軸線から十分に離すことで、第1の逃げ面の幅(すなわち刃厚)を十分に確保することができる。結果的に、エンドミルの剛性を十分に確保できる。一方で、第2の逃げ面の開始位置を軸線から離しすぎると製造が困難となる。すなわち、上述の構成のエンドミルによれば、第2の逃げ面の開始位置を軸線から離しすぎないことで、容易に製造することができる。
【0016】
上述のエンドミルにおいて、平面視において、前記子刃の径方向内端と、前記親刃の前記第2の逃げ面の径方向内端と、が前記軸線を中心としてなす角度は、40°以上60°以下である、構成としてもよい。
【0017】
上述の構成のエンドミルによれば、平面視において、子刃の径方向内端と親刃の第2の逃げ面の径方向内端との軸線周りの角度は、40°以上である。このため、軸線の近傍において親刃の回転方向前方の空間を十分に確保して切屑の詰まりを抑制できる。
また、上述の構成のエンドミルによれば、平面視において、子刃の径方向内端と親刃の第2の逃げ面の径方向内端との軸線周りの角度は、60°以下である。このため、軸線の近傍において親刃の第1の逃げ面の幅(すなわち刃厚)を十分に確保して、親刃の剛性を十分に確保し親刃の振動を抑制することができる。
【0018】
上述のエンドミルにおいて、前記子刃は、回転方向先端稜線に設けられる前記刃先と、前記刃先の回転方向後方に隣接する第1の逃げ面と、前記第1の逃げ面の回転方向後方に隣接する第2の逃げ面と、を有し、前記子刃において、平面視における前記第2の逃げ面の径方向内端と前記軸線との距離が、前記エンドミル本体の外径の20%以上30%以下である、構成としてもよい。
【0019】
上述の構成のエンドミルによれば、第2の逃げ面の開始位置を軸線から十分に離すことで、第1の逃げ面の幅(すなわち刃厚)を十分に確保することができる。結果的に、エンドミルの剛性を十分に確保できる。一方で、第2の逃げ面の開始位置を軸線から離しすぎると製造が困難となる。すなわち、上述の構成のエンドミルによれば、第2の逃げ面の開始位置を軸線から離しすぎないことで、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、加工コストを抑制しつつカスプハイトを抑制した平坦面を形成できるエンドミルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態のエンドミルの平面図である。
図2図2は、一実施形態のエンドミルの側面図である。
図3図3は、図2とは直交する方向から見た一実施形態のエンドミル1の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るエンドミルについて、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のエンドミル1の平面図である。図2および図3は、互いに直交する方向から見たエンドミル1の側面図である。
【0023】
本実施形態のエンドミル1は、金属材料等からなる被削材に対して、例えば仕上げ加工や中仕上げ加工等の切削加工(転削加工)を施す切削工具(転削工具)である。
【0024】
本実施形態のエンドミル1は、軸線Oに沿って延びる軸状のエンドミル本体2と、エンドミル本体2の先端部に設けられる複数の切刃9と、を有する。
【0025】
エンドミル本体2は、例えば超硬合金や高速度工具鋼等からなる。エンドミル本体2の基端側には、図示略のシャンク部が設けられる。シャンク部は、マシニングセンタ等の工作機械の主軸に取り付けられる。エンドミル本体2は、工作機械により軸線O回りに回転される。エンドミル1は、上記回転とともに軸線O方向への切り込みや軸線Oに直交する径方向への送りを与えられて、被削材に切り込んでいき、被削材を切削加工する。本実施形態のエンドミル1は、主に、軸線Oと直交する平面の加工に用いられる。また、エンドミル1は、被削材に対して例えば曲面加工、ポケット加工、深掘り加工、R加工(凸R、凹R)、面取り加工等の各種加工を施すために用いることができる。
【0026】
本明細書において、軸線Oに直交する方向を径方向という。径方向のうち、軸線Oに接近する向きを径方向内側といい、軸線Oから離間する向きを径方向外側という。また、軸線O回りに周回する方向を周方向という。本明細書において、周方向のうち、切削時に工作機械の主軸によりエンドミル本体2が回転させられる向きをエンドミル回転方向Tという。また、本明細書において、特定部位に対してエンドミル回転方向T側の領域を回転方向前方側とよびエンドミル回転方向T側と反対側の領域を回転方向後方側と呼ぶ場合がある。
また、本明細書において、「平面視」とは図1に示すように軸線Oの軸方向から見た状態であり、図2および図3に示すように「側面視」とは軸方向と直交する方向から見た状態を意味する。
【0027】
図2に示すように、エンドミル本体2の外周には、周方向に互いに間隔をあけて複数の切屑排出溝4が形成されている。本実施形態ではこれらの切屑排出溝4が、互いに周方向に等間隔に配置されている。本実施形態の例では、エンドミル本体2の外周に切屑排出溝4が4つ形成されている。
【0028】
切屑排出溝4は、エンドミル本体2の軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い周方向へ向けて延びている。本実施形態では、切屑排出溝4が、エンドミル本体2の先端側に開口し、該先端側から基端側へ向かうに従い徐々にエンドミル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。切屑排出溝4は、エンドミル本体2の基端側の端部において、エンドミル本体2の外周に切り上がっている。
【0029】
図1に示すように、エンドミル本体2の先端部には、溝状の複数のギャッシュ7が設けられる。ギャッシュ7は、径方向に沿って延びる。また複数のギャッシュ7は、周方向に沿って並ぶ。ギャッシュ7の径方向内側の端部は、軸線O近傍に配置されている。ギャッシュ7は、径方向内側の端部から径方向外側へ向かうに従い徐々に軸線O方向の基端側へ向けて延びている。
【0030】
ギャッシュ7の数は、切屑排出溝4の数に対応する。本実施形態の例では、エンドミル本体2には、4つのギャッシュ7が設けられる。これらのギャッシュ7には、後述する切刃9の種類(親刃9Aおよび子刃9B)に応じて、複数種類のギャッシュ7A、7Bが含まれる。ギャッシュ7A、7Bの詳細は後述する。
【0031】
複数の切刃9は、エンドミル本体2の先端部において周方向に互いに間隔をあけて配置される。切刃9の数は、ギャッシュ7の数に対応しており、本実施形態の例では4つ(4本)の切刃9が設けられている。つまり、本実施形態のエンドミル1は、4枚刃のエンドミルである。
【0032】
切刃9は、ギャッシュ7のエンドミル回転方向Tを向く壁面の先端側辺稜部に設けられる。複数(本実施形態の例では4つ)の切刃9は、エンドミル本体2の軸線O方向の先端部に、軸線O回りに互いに間隔をあけて配置される。
【0033】
図2に示すように、切刃9は、側面視でエンドミル本体2の先端外周側へ向けて凸となる円弧状をなすボール刃である。切刃9の軸線O回りの回転軌跡は、側面視において円弧中心が軸線O上に位置する先端側凸の円弧状である。切刃9の回転軌跡の曲率半径Rは、エンドミル本体2の外径Dの1/2より大きい。なお、エンドミル本体2の外径Dとは、エンドミルの工具径Dを意味する。切刃9の回転軌跡の曲率半径Rが大きくなり過ぎるとエンドミル1の製造が困難となるため、切刃9の回転軌跡の曲率半径Rはエンドミル本体2の外径Dの3倍以下であることが好ましい。
【0034】
本実施形態のエンドミル1によれば、先端部に設けられた円弧状の切刃9の回転軌跡の曲率半径Rが、エンドミル本体2の外径Dの1/2より大きい。このため、切刃の回転軌跡の半径とエンドミル本体の外径の1/2とが等しい従来のエンドミルと比較すると、エンドミル本体2の外径Dを小型化しつつ、同ピックフィードで軸線Oと直交する平坦面を形成する場合のカスプハイトを小さくすることができる。したがって上述の構成によれば、エンドミル1を小径化して比較的小型の工作機械を使用することで加工コストを抑制しつつ、カスプハイトを抑制して加工面の面粗さを向上できる。
なお、本実施形態の切刃9の回転軌跡の曲率半径Rは、エンドミル本体2の直径と略等しい。このような切刃9の曲率半径Rを採用することで、上述の効果をより十分に得ることができる。
【0035】
図1に示すように、切刃9は、刃先14と、すくい面13と、第1の逃げ面11と、第2の逃げ面12と、有する。切刃9は、すくい面13と第1の逃げ面11との回転方向先端稜線に設けられる。
【0036】
図1に示す平面視において、切刃9の刃先14は、回転方向側に凸状に湾曲する。このため、各切刃9は、切屑を径方向外側に速やかに排出することができる。すなわち上述の構成によれば、エンドミルの切屑排出性能を高めることができる。加えて、刃先14が回転方向前方に凸状に湾曲することで切削時に刃先14にビビリ振動が発生することを抑制することができる。
【0037】
図1に示すように、また、刃先14の径方向両端を結ぶ仮想線Lを想定する。刃先14は、仮想線Lに対する回転方向側への最大突出寸法Eが、エンドミル本体2の外径Dの3%以上4%以下であることが好ましい。刃先14の最大突出寸法Eを3%以上とすることで、刃先14の湾曲を十分に大きくして、上述したように切屑の排出性能を高めることができる。さらに、刃先14の湾曲を十分に大きくすることで、切削抵抗が軽減され刃先14の振動を抑制できる。一方で、刃先14の最大突出寸法Eが4%を超えると、刃先14の成形が困難となる。すなわち、本実施形態によれば、刃先14の最大突出寸法Eを4%以下とすることで、エンドミル1を容易に製造することができ安価なエンドミル1を提供できる。
【0038】
後述するように、本実施形態のエンドミル1において4つの切刃9には、2つの親刃9Aと2つの子刃9Bとが含まれる。本実施形態において、全ての切刃9(すなわち、親刃9Aおよび子刃9B)の、最大突出寸法Eは、互いに等しい。しかしながら、親刃9Aの最大突出寸法Eと子刃9Bの最大突出寸法Eとは、上述の範囲内の値であれば、互いに異なっていてもよい。
【0039】
すくい面13は、ギャッシュ7のエンドミル回転方向Tを向く壁面のうち先端側の端部に位置する。すくい面13は、刃先14の回転方向前方側に隣接する。
【0040】
第1の逃げ面11および第2の逃げ面12は、エンドミル本体2の先端面において周方向に並ぶギャッシュ7同士の間に配置される。第1の逃げ面11は、ギャッシュ7のエンドミル回転方向Tとは反対側に隣接する。第1の逃げ面11は、刃先14の回転方向後方に隣接する。第2の逃げ面12は、第1の逃げ面11のさらに回転方向後方に隣接する。
第1の逃げ面11および第2の逃げ面12は、それぞれ刃先14から回転方向後方側へ向かうに従い基端側に向かって所定の逃げ角で傾斜する。第2の逃げ面12の逃げ角は、第1の逃げ面11の逃げ角より大きい。
【0041】
図1に示すように、複数の切刃9には、周方向に等間隔に並ぶ複数の親刃9Aと、周方向においてそれぞれ親刃9A同士の間に配置される子刃9Bと、が含まれる。親刃9Aと子刃9Bとは、互いに刃長が異なる。
【0042】
親刃9Aは、径方向の内側へ向けた刃長が、子刃9Bと比較して長くされている。親刃9Aの径方向内側の先端は、軸線Oを越えた位置に配置されている。つまり親刃9Aは、径方向内側へ向けて延びる刃長方向の先端が、軸線Oに達しているとともに、軸線Oの先にまで延びている。なお、本実施形態において親刃9Aの刃先14は、軸線Oの直上は通過せず、2本の親刃9Aが軸線Oを挟んですれ違うように配置されている。
【0043】
子刃9Bは、親刃9Aよりも径方向の内側へ向けた刃長が短い。子刃9Bの刃長方向の先端は、軸線Oを越えない位置に配置されている。つまり子刃9Bは、径方向内側へ向けて延びる刃長方向の先端が、軸線Oに達していない。
本実施形態では、親刃9Aおよび子刃9Bの組が、軸線Oを中心として180°回転対称に2組設けられている。
【0044】
本実施形態のエンドミル1によれば、先端部の複数の切刃9には、複数の親刃9Aと親刃9A同士の間に配置される子刃9Bとが含まれる。このため、親刃のみが設けられたエンドミルと比較して、それぞれの切刃9の切込み量を低減することができ、エンドミル1で形成した加工面にむしれが生じることを抑制できる。
【0045】
図1に示すように、平面視における子刃9Bの径方向内端と軸線Oとの距離を子刃開始寸法Aとする。本実施形態において、子刃開始寸法Aは、エンドミル本体2の外径Dの4%以上9%以下であることが好ましい。
【0046】
エンドミル本体2の先端において軸線Oの近傍は、親刃9Aによって切削された切屑の詰まりが生じやすい。子刃開始寸法Aをエンドミル本体2の外径Dの4%以上とすることで、子刃9Bの径方向内端を軸線Oから十分に離すことができ、軸線Oの近傍の中心ポケットが十分に確保され切屑の詰まりを抑制できる。
【0047】
また、子刃9Bの開始位置が軸線Oから離れすぎると、切刃9の回転軌跡において親刃9Aのみで切削する領域が広くなり、親刃9Aへの負担が大きくなりすぎて親刃9Aに損傷が生じる虞がある。子刃開始寸法Aをエンドミル本体2の外径Dの9%以下とすることで、親刃9Aへの負担を軽減して親刃9Aの損傷を抑制できる。
【0048】
上述したように、親刃9Aおよび子刃9Bは、それぞれ形状の異なる第1の逃げ面11および第2の逃げ面12を有する。すなわち、親刃9Aは第1の逃げ面11Aおよび第2の逃げ面12Aを有し、子刃9Bは第1の逃げ面11Bおよび第2の逃げ面12Bを有する。
【0049】
親刃9Aにおいて、平面視における第2の逃げ面12Aの径方向内端と軸線Oとの距離HAをエンドミル本体2の外径Dの10%以上20%以下とすることが好ましい。
親刃9Aにおいて、第2の逃げ面12Aの開始位置を軸線Oから外径Dの10%以上離すことで、第1の逃げ面11Aの幅TAを十分に確保することができる。結果的に、親刃9Aの刃厚を大きくし親刃9Aの剛性を十分に確保できる。一方で、第2の逃げ面12Aの開始位置を軸線Oから離しすぎると製造が困難となる。すなわち、第2の逃げ面12Aの開始位置を軸線Oから外径Dの20%以下とすることで、エンドミル1を容易に製造することができる。
【0050】
子刃9Bにおいて、平面視における第2の逃げ面12Bの径方向内端と軸線Oとの距離HBが、エンドミル本体2の外径Dの20%以上30%以下とすることが好ましい。
子刃9Bにおいて、第2の逃げ面12Bの開始位置を軸線Oから外径Dの20%以上離すことで、第1の逃げ面11Bの幅TBを十分に確保することができる。結果的に、子刃9Bの刃厚を大きくし子刃9Bの剛性を十分に確保できる。一方で、第2の逃げ面12Bの開始位置を軸線Oから離しすぎると製造が困難となる。すなわち、第2の逃げ面12Bの開始位置を軸線Oから外径Dの30%以下とすることで、エンドミル1を容易に製造することができる。
【0051】
図1に示すように、平面視において、子刃9Bの径方向内端と、親刃9Aの第2の逃げ面12Aの径方向内端と、が軸線Oを中心としてなす角度をギャッシュ開き角θとする。
ギャッシュ開き角θは、40°以上60°以下であることが好ましい。
【0052】
ギャッシュ開き角θを40°以上とすることで、軸線Oの近傍において、親刃9Aの回転方向前方の空間を十分に確保して切屑の詰まりを抑制できる。また、ギャッシュ開き角θを60°以下とすることで、軸線Oの近傍において親刃9Aの第1の逃げ面11Aの幅を十分に確保して、親刃9Aの刃厚を大きくし親刃9Aの剛性を十分に確保し親刃9Aの振動を抑制し、振動に起因する加工面の表面性状の悪化を抑制できる。
【0053】
エンドミル本体2の先端部には、複数の切刃9に対して、回転方向前方にそれぞれギャッシュ7が隣接配置されている。複数のギャッシュ7には、互いに長さ(溝長)が異なる複数種類のギャッシュが含まれている。具体的には、複数のギャッシュ7には、親刃9Aのギャッシュ7Aと、子刃9Bのギャッシュ7Bとが含まれる。
【0054】
本実施形態では、親刃9Aのギャッシュ7Aおよび子刃9Bのギャッシュ7Bの組が、軸線Oを中心として180°回転対称に2組設けられている。エンドミル本体2の平面視において、親刃9Aのギャッシュ7Aに対して子刃9Bのギャッシュ7Bの長さが短い。
【0055】
図2は、親刃9Aのギャッシュ7Aを示す。また、図3は、子刃9Bのギャッシュ7Bを示す。図2および図3に示すように、ギャッシュ7A、7Bは、それぞれ軸方向の先端側を向く底面7cを有する。親刃9Aのギャッシュ7Aおよび子刃9Bのギャッシュ7Bともに、ギャッシュ7の底面7cは、軸線Oと直交する仮想的な平面Pに対し傾斜角αで傾斜する。傾斜角αは、40°以上50°以下であることが好ましい。底面7cの傾斜角αを40°以上とすることで、切刃9で切削した切屑をスムーズに行うことができる。また、底面7cの傾斜角αを50°以下とすることで、エンドミル1の剛性を十分に確保して加工時のエンドミルの振動および破損を抑制できる。
【実施例
【0056】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の各構成に関する効果について実証する。
本実施例では、上記実施形態に基づき、後段の表1に示す複数のサンプルを製造した。各サンプルのエンドミルは、工具径Dが10mmかつ、切刃の回転軌跡の曲率半径Rが10mmであり、各パラメータが異なる。また、各サンプルのエンドミルは、2枚の親刃9Aと2枚の子刃9Bを有する4枚刃である。
【0057】
本実施例では、以下の加工条件において様々なエンドミルのサンプルを用いて、工具軸と直交する平面に対する等高線加工を行い、このときの切削面(加工面)の送り方向と軸線方向の加工面粗さ(算術平均粗さRa(μm)および最大高さRz(μm))を測定した。測定結果を、後段の表1にまとめる。
また、表1には、工具径の1/2と、切刃の回転軌跡の曲率半径が一致する従来のエンドミルの実施結果を合わせて記載する。従来のエンドミルは、2枚刃のエンドミルである。
【0058】
<加工条件>
・被削材:日立金属工具鋼株式会社製、DAC(JIS G4404 SKD61相当材、硬度43HRC)
・機械:オークマ株式会社製、HSK-A63
・切削条件:回転数n=8800回転/分
送り速度Vf=2220mm/分
ピックフィード0.2mm
取りしろ0.1mm
溶性の切削油剤を用いた湿式加工
【0059】
【表1】
【0060】
各サンプルのうち、基準サンプルは、各パラメータの値を範囲の中央値としたサンプルである。基準サンプルは、算術平均粗さRaおよび最大高さRzともに十分に抑制されることが確認された。
なお、本実施例の加工対象は金型用途であるため、算術平均粗さRaが、0.15μm以下かつ最大高さRzが1.5μm以下の表面性状の好ましい範囲として、加工面を評価する。
【0061】
サンプルA-1~A-4は、ギャッシュ底面の傾斜角α(図2および図3)を様々に変化させたサンプルのグループである。
サンプルA-2、A-3のエンドミルによる加工では、表面粗さを好ましい範囲内とすることができた。一方で、サンプルA-1のエンドミルによる加工では、傾斜角αが小さすぎるために切削時に切屑詰まりが発生し、加工面の表面性状が悪化したと考えられる。また、サンプルA-4のエンドミルによる加工では、傾斜角αが大きくギャッシュが広すぎることで、刃先の剛性が低減し振動の影響により表面性状が悪化したと考えられる。
【0062】
サンプルB-1~B-4は、ギャッシュ開き角θ(図1)を様々に変化させたサンプルのグループである。
サンプルB-2、B-3のエンドミルによる加工では、表面粗さを好ましい範囲内とすることができた。一方で、サンプルB-1のエンドミルによる加工では、ギャッシュ開き角θが小さすぎるために切削時に切屑詰まりが発生し、加工面の表面性状が悪化したと考えられる。また、サンプルB-4のエンドミルによる加工では、ギャッシュ開き角θが大きすぎるために切刃9の幅刃が狭くなることで、刃先の剛性が低減し振動の影響により表面性状が悪化したと考えられる。
【0063】
サンプルC-1~C-5は、子刃開始寸法A(図1)を様々に変化させたサンプルのグループである。
サンプルC-3、C-4のエンドミルによる加工では、表面粗さを好ましい範囲内とすることができた。一方で、サンプルC-1のエンドミルは、子刃9Bの開始位置が軸線Oに一致する。サンプルC-1のエンドミルによる加工では、一対の子刃9B同士が軸線Oにおいて互いに繋がっているために、切削時に切屑詰まりが発生し加工面の表面性状が悪化したと考えられる。サンプルC-2のエンドミルによる加工では、軸線Oの近傍のポケットが狭いために切削時に切屑詰まりが発生し加工面の表面性状が悪化したと考えられる。また、サンプルC-5のエンドミルによる加工では、親刃9Aのみで切削する領域が広くなり親刃9Aの損傷が生じる虞がある。このため、表面性状の悪化が見られなかったが、サンプルC-5のエンドミルの評価を×とした。
【0064】
サンプルD-1~D-4は、親刃9Aの第2の逃げ面12Aの開始位置の軸線Oからの距離HA(図1)を様々に変化させたサンプルのグループである。
サンプルD-2、D-3のエンドミルによる加工では、表面粗さを好ましい範囲内とすることができた。一方で、サンプルD-1のエンドミルによる加工では、距離HAが小さすぎるために親刃9Aの刃厚が低下し親刃9Aの剛性が低減するため振動の影響により表面性状が悪化したと考えられる。また、サンプルD-4のエンドミルによる加工では、親刃9Aの第2の逃げ面12Aの開始位置を軸線Oから離しすぎているために振動の影響により表面性状が悪化したと考えられる。加えて、サンプルD-4のエンドミルは、製造が困難となりエンドミルが高価となってしまう。
【0065】
サンプルE-1~E-4は、最大突出寸法E(図1)を様々に変化させたサンプルのグループである。
サンプルE-2、E-3のエンドミルによる加工では、表面粗さを好ましい範囲内とすることができた。一方で、サンプルE-1のエンドミルによる加工では、刃先14の湾曲が不十分であるため、切削抵抗が大きくなり振動の影響により表面性状が悪化したと考えられる。また、サンプルE-4のエンドミルによる加工では、刃先の湾曲が大きすぎて製造することができなかった。このため、サンプルE-4のエンドミルの評価を×とした。
【0066】
以上に、本発明の様々な実施形態を説明したが、各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0067】
1…エンドミル
2…エンドミル本体
7,7A,7B…ギャッシュ
7c…底面
9…切刃
9A…親刃
9B…子刃
11,11A,11B…第1の逃げ面
12,12A,12B…第2の逃げ面
14…刃先
D…外径
E…最大突出寸法
HA,HB…距離
L…仮想線
O…軸線
R…曲率半径
T…エンドミル回転方向
図1
図2
図3