(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物および冷媒輸送ホース
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20240731BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240731BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
F16L11/04
C08L21/00
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2021031923
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】若林 健太
(72)【発明者】
【氏名】友井 修作
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-105284(JP,A)
【文献】特開平09-143366(JP,A)
【文献】特開平06-145425(JP,A)
【文献】特開2007-327027(JP,A)
【文献】特開平06-294485(JP,A)
【文献】国際公開第1997/016485(WO,A1)
【文献】特開2012-189129(JP,A)
【文献】特開2014-095093(JP,A)
【文献】特表2016-516099(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/080668(US,A1)
【文献】国際公開第2021/019836(WO,A1)
【文献】特開2021-046490(JP,A)
【文献】特開2021-116847(JP,A)
【文献】特開2021-120584(JP,A)
【文献】特開2022-122705(JP,A)
【文献】特開2022-122718(JP,A)
【文献】特開2022-133078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/04
C08L 101/00
C08L 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂がポリアミド6とポリアミド6/12共重合体の混合物、ポリアミド12、エチレン-ビニルアルコール共重合体またはポリブチレンテレフタレートを含み、
熱可塑性樹脂がポリアミド6とポリアミド6/12共重合体の混合物またはポリアミド12を含む場合はエラストマーが臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体を含み、
熱可塑性樹脂がエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む場合はエラストマーがマレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体、マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体と熱可塑性ポリエステルエラストマーの混合物、マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体と熱可塑性ポリアミドエラストマーの混合物またはスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を含み、
熱可塑性樹脂がポリブチレンテレフタレートを含む場合はエラストマーがマレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体を含み、
25℃での10%モジュラスM10[MPa]、温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数PC
H2O[g・mm/(m
2・24h)]、150℃での引張試験における破断強度TB
150[MPa]、150℃での引張試験における破断伸びEB
150[%]が、式(1)、式(2)および式(3)
0.9≦M10×PC
H2O≦90 ・・・(1)
1.0≦TB
150≦20 ・・・(2)
50≦EB
150 ・・・(3)
を満たす、冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
150℃で168時間静置した後の温度25℃での引張試験における破断伸びが50%以上である、請求項1に記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有し、熱可塑性樹脂組成物中のエラストマーの比率が50質量%以上85質量%未満である、請求項1または2に記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物の温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数PC
H2Oが4.0g・mm/(m
2・24h)以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物が、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の加工助剤を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
内層、補強層および外層を含む冷媒輸送ホースであって、外層が請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む、冷媒輸送ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物および冷媒輸送ホースに関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む冷媒輸送ホース外層用熱可塑性樹脂組成物および前記熱可塑性樹脂組成物からなる外層を含む冷媒輸送ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化要求が高まる中、これまで自動車に使われていたゴム製のホースを、ゴムに代えてバリア性の高い樹脂で作製し、薄肉化することにより、軽量化を実現しようとする取り組みがある。特に、現行の自動車のエアコンディショナーの冷媒輸送ホースは主材料がゴムであり、その主原料をバリア性の高い樹脂で置き換えることができれば、軽量化が実現できる。
【0003】
たとえば、特開2009-137195号公報(特許文献1)には、ポリアミド/ポリエーテル共重合体を耐湿・耐水バリア材とした冷媒輸送ホースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車等のエアーコンディショナーに用いられる冷媒輸送ホースにおいて、ホース外側からの水蒸気の透過は、エアーコンディショナー内部での水分の凍結を生じる原因となるため、水蒸気バリア性に優れる材料が必要とされるが、特許文献1に記載のポリアミド/ポリエーテル共重合体は、柔軟性および耐熱性が不充分である。
本発明は、冷媒輸送ホースに要求される柔軟性、耐熱性、耐熱老化性および水蒸気バリア性をバランスできる水蒸気バリア材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(I)は、熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物であって、25℃での10%モジュラスM10[MPa]、温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数PCH2O[g・mm/(m2・24h)]、150℃での引張試験における破断強度TB150[MPa]、150℃での引張試験における破断伸びEB150[%]が、式(1)、式(2)および式(3)
0.9≦M10×PCH2O≦90 ・・・(1)
1.0≦TB150≦20 ・・・(2)
50≦EB150 ・・・(3)
を満たすことを特徴とする。
本発明(II)は、内層、補強層および外層を含む冷媒輸送ホースであって、外層が本発明(I)の熱可塑性組成物樹脂を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物であって、25℃での10%モジュラスM10[MPa]、温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数PCH2O[g・mm/(m2・24h)]、150℃での引張試験における破断強度TB150[MPa]、150℃での引張試験における破断伸びEB150[%]が、式(1)、式(2)および式(3)
0.9≦M10×PCH2O≦90 ・・・(1)
1.0≦TB150≦20 ・・・(2)
50≦EB150 ・・・(3)
を満たす、冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
[2]150℃で168時間静置した後の温度25℃での引張試験における破断伸びが50%以上である、[1]に記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
[3]熱可塑性樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有し、熱可塑性樹脂組成物中のエラストマーの比率が50質量%以上85質量%未満である、[1]または[2]に記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
[4]熱可塑性樹脂組成物の温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数PCH2Oが4.0g・mm/(m2・24h)以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
[5]熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびビニルアルコール系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
[6]エラストマーが、ブチル系ゴム、変性ブチル系ゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミドエラストマーおよびポリエステルエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
[7]熱可塑性樹脂組成物が、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の加工助剤を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物。
[8]内層、補強層および外層を含む冷媒輸送ホースであって、外層が[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性組成物樹脂を含む、冷媒輸送ホース。
【発明の効果】
【0008】
本発明の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、耐熱性、耐熱老化性および水蒸気バリア性のバランスに優れる。
本発明の冷媒輸送ホースは、柔軟性、耐熱性、耐熱老化性および水蒸気バリア性のバランスに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明(I)は冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物に関する。
冷媒輸送ホースとは、エアコンディショナーなどの冷媒を輸送するためのホースをいう。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特に、自動車のエアコンディショナーの冷媒を輸送するためのホースに好適に用いられる。エアコンディショナーの冷媒としてはハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、炭化水素、二酸化炭素、アンモニア、水などを挙げることができ、HFCとしてはR410A、R32、R404A、R407C、R507A、R134aなどが挙げられ、HFOとしてはR1234yf、R1234ze、1233zd、R1123、R1224yd、R1336mzzなどが挙げられ、炭化水素としてはメタン、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、イソブタン、ヘキサフルオロプロパン、ペンタンなどが挙げられる。
【0010】
冷媒輸送ホースの構造は、特に限定されないが、典型的には、内層と補強層と外層とからなる。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、冷媒輸送ホースの外層を形成するための材料として用いられる。
【0011】
熱可塑性樹脂組成物の25℃での10%モジュラス[MPa]をM10で表し、熱可塑性樹脂組成物の温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数[g・mm/(m2・24h)]をPCH2Oで表すとき、熱可塑性樹脂組成物は式(1)
0.9≦M10×PCH2O≦90 ・・・(1)
を満たし、好ましくは式(1′)
0.9≦M10×PCH2O≦45 ・・・(1′)
を満たし、より好ましくは式(1″)
5≦M10×PCH2O≦45 ・・・(1″)
を満たす。
熱可塑性樹脂組成物が上記の式を満たすことにより、冷媒輸送ホースの肉厚を薄くし、ホースの柔軟性も向上することができる。
熱可塑性樹脂組成物が上記の式を満たすようにする方法は、水蒸気バリア性の良好な樹脂およびゴムを選定し、ゴムを40質量%以上配合することである。
【0012】
熱可塑性樹脂組成物の150℃での引張試験における破断強度[MPa]をTB150で表すとき、熱可塑性樹脂組成物は式(2)
1.0≦TB150≦20 ・・・(2)
を満たし、好ましくは式(2′)
2.0≦TB150≦20 ・・・(2′)
を満たし、より好ましくは式(2″)
3.0≦TB150≦20 ・・・(2″)
を満たす。
熱可塑性樹脂組成物が上記の式を満たすことにより、冷媒輸送ホースの耐熱性が向上するという利点を有する。
熱可塑性樹脂組成物が上記の式を満たすようにする方法は、融点が高い樹脂を使用することである。
【0013】
熱可塑性樹脂組成物の150℃での引張試験における破断伸び[%]をEB150で表すとき、熱可塑性樹脂組成物は式(3)
50≦EB150 ・・・(3)
を満たし、好ましくは式(3′)
100≦EB150 ・・・(3′)
を満たし、より好ましくは式(3″)
200≦EB150 ・・・(3″)
を満たす。
熱可塑性樹脂組成物が上記の式を満たすことにより、冷媒輸送ホースの耐熱性が向上するという利点を有する。
熱可塑性樹脂組成物が上記の式を満たすようにする方法は、融点が高い樹脂を使用することである。
【0014】
熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性樹脂およびエラストマーを含む。
熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、熱可塑性樹脂を含むマトリックスとエラストマーを含むドメインとからなる海島構造を有する。熱可塑性樹脂組成物が海島構造を有することにより、柔軟性と水蒸気バリア性、押出加工性が良好な材料を作成できる。
【0015】
熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂およびビニルアルコール系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0016】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXD6などが挙げられるが、なかでもポリアミド12が好ましい。
【0017】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられるが、なかでもポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
ビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性エチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、なかでもエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物を構成するエラストマーは、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは、ブチル系ゴム、変性ブチル系ゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミドエラストマーおよびポリエステルエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
ブチル系ゴムとしては、ブチルゴム(IIR)、イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体などが挙げられる。
【0021】
変性ブチル系ゴムとしては、ハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム)、ハロゲン化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体(塩素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体、臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体)などが挙げられるが、なかでも臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体(Br-IPMS)が好ましい。
【0022】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、エチレン-α-オレフィン共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ペンテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体など)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体などが挙げられるが、なかでも無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体が好ましい。
【0023】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、およびそれらの無水マレイン酸変性品などが挙げられるが、なかでもスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。
【0024】
ポリアミドエラストマー(TPA)は、ハードセグメントがポリアミド(たとえばポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)である熱可塑性エラストマーである。ポリアミドエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリアミドエラストマーの市販品としては、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPAシリーズ、アルケマ社製「PEBAX」(登録商標)などが挙げられる。
【0025】
ポリエステルエラストマー(TPEE)は、ハードセグメントがポリエステル(たとえばポリブチレンテレフタレート)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリテトラメチレングリコール)またはポリエステル(たとえば脂肪族ポリエステル)である熱可塑性エラストマーである。ポリエステルエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリエステルエラストマーの市販品としては、東洋紡株式会社製「ペルプレン」(登録商標)、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)などが挙げられる。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物中のエラストマーの比率は、好ましくは50質量%以上85質量%未満であり、より好ましくは55質量%以上85質量%未満であり、さらに好ましくは60質量%以上85質量%未満である。エラストマーの比率が少なすぎると、ホースの柔軟性が不充分になる。エラストマーの比率が多すぎると、ホースの押出加工性が悪くなる。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の比率は、好ましくは15質量%超過50質量%以下であり、より好ましくは15質量%超過45質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%超過40質量%以下である。熱可塑性樹脂の比率が少なすぎると、ホースの押出加工性が悪くなる。熱可塑性樹脂の比率が多すぎると、ホースの柔軟性が不充分になる。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは加工助剤を含む。加工助剤を添加することにより、熱可塑性樹脂組成物の押出加工性を向上させることができる。
加工助剤は、好ましくは、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などが挙げられるが、ステアリン酸が好ましい。
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウムなどが挙げられるが、なかでもステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。
脂肪酸エステルとしては、やし油、ひまし油、パーム油、牛脂などの加水分解から得られた高級脂肪酸と低級アルコール、高級アルコール、多価アルコールとのエステル化反応により得られる脂肪酸エステルなどが挙げられる。
脂肪酸アミドとしては、ステアリルアミド、パミチルアミド、オレイルアミドなどが挙げられる。
加工助剤の含有量は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは1.0~5.0質量%であり、より好ましくは1.0~3.0質量%であり、さらに好ましくは1.0~2.0質量%である。
【0029】
熱可塑性樹脂組成物は、架橋剤を含むことができる。架橋剤を添加することにより、エラストマーが架橋され、エラストマーを50質量%以上配合することが可能となる。
架橋剤としては、1分子中に複数のアミノ基を有する化合物が好ましく、なかでもN-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン(3,3′-DAS)、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン(4,4′-DAS)などのジアミンが好ましい。
架橋剤の添加量は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは0~6質量%であり、より好ましくは1~5質量%であり、さらに好ましくは2~5質量%である。
【0030】
熱可塑性樹脂組成物は、加工助剤および架橋剤以外の添加剤を含んでもよい。加工助剤および架橋剤以外の添加剤としては、熱老化防止剤やカラーマスターバッチが挙げられる。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物は、150℃で168時間静置した後の温度25℃での引張試験における破断伸びが、好ましくは50%以上であり、より好ましくは100%以上であり、さらに好ましくは200%以上である。150℃で168時間静置した後の温度25℃での引張試験における破断伸びを、以下、「熱老化後破断伸び」という。熱可塑性樹脂組成物の熱老化後破断伸びが上記の数値範囲に入ることにより、その熱可塑性樹脂組成物を用いてホースを作製したときに、ホースの耐熱老化性が向上する。熱可塑性樹脂組成物の熱老化後破断伸びが上記の数値範囲に入るようにする方法は、熱老化防止剤が添加された樹脂や融点が高い樹脂を使用する。
【0032】
熱可塑性樹脂組成物の温度60℃および相対湿度100%における水蒸気透過係数PCH2Oは、好ましくは4.0g・mm/(m2・24h)以下であり、より好ましくは3.8g・mm/(m2・24h)以下であり、さらに好ましくは3.5g・mm/(m2・24h)以下である。水蒸気透過係数PCH2Oが上記の数値範囲に入ることにより、その熱可塑性樹脂組成物を用いてホースを作製したときに、ホースの水蒸気バリア性が向上する。熱可塑性樹脂組成物の水蒸気透過係数PCH2Oが上記の数値範囲に入るようにする方法は、使用するエラストマーをブチル系ゴム、変性ブチル系ゴムにすることである。
【0033】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂と、エラストマーと、必要に応じて、加工助剤、架橋剤などの添加剤とを、二軸混練押出機などで混錬することにより、製造することができる。
【0034】
本発明(II)は冷媒輸送ホースに関する。
本発明(II)の冷媒輸送ホースは、内層、補強層および外層を含み、外層が本発明(I)の熱可塑性組成物樹脂を含むことを特徴とする。
本発明(II)の冷媒輸送ホースは、外層が本発明(I)の熱可塑性組成物樹脂を含むことにより、柔軟性、耐熱性、耐熱老化性および水蒸気バリア性をバランスできる。
内層は、限定するものではないが、熱可塑性樹脂組成物、熱可塑性エラストマー組成物、ゴムなどからなる層である。
補強層は、限定するものではないが、たとえば編組した繊維の層である。
【0035】
冷媒輸送ホースの製造方法は、特に限定されないが、たとえば、まず内層を押出成形によりチューブ状に押出し、次いでそのチューブ上に補強層となる繊維を編組し、さらにその繊維上に外層を押出成形によって被覆することにより、冷媒輸送ホースを製造することができる。
【0036】
本発明(II)の冷媒輸送ホースは、エアコンディショナーなどの冷媒を輸送するためのホースとして用いることができ、特に、自動車のエアコンディショナーの冷媒を輸送するためのホースに好適に用いられる。
【実施例】
【0037】
[原材料]
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
(熱可塑性樹脂)
PA6: 宇部興産株式会社製ポリアミド6「UBEナイロン」1011FB
PA6/12: 宇部興産株式会社製ポリアミド6/12共重合体「UBEナイロン」7024B
PA12: 宇部興産株式会社製ポリアミド12「UBESTA」(登録商標)3012U
EVOH: 三菱ケミカル株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン量48%)「ソアノール」(登録商標)H4815
PBT: 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリブチレンテレフタレート「ノバデュラン」(登録商標)5010R
(エラストマー)
Br-IPMS: エクソンモービル・ケミカル社製臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体「EXXPRO」(登録商標)3745
SIBS: 株式会社カネカ社製スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体「SIBSTAR」(登録商標)102T
Mah-EB: 三井化学株式会社製マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体「タフマー」(登録商標)MH7020
TPA: 宇部興産株式会社製熱可塑性ポリアミドエラストマー「UBESTA」(登録商標)XPA 9063X1
TPEE: 東洋紡株式会社製熱可塑性ポリエステルエラストマー「ペルプレン」(登録商標)S-3001
(加工助剤)
St-Ca: 堺化学工業株式会社製ステアリン酸カルシウム「SC-PG」
St-Mg: 堺化学工業株式会社製ステアリン酸マグネシウム「SM-PG」
(架橋剤)
6PPD: Solutia社製N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン「SANTOFLEX」(登録商標)6PPD
【0038】
[実施例1~10]
熱可塑性樹脂、エラストマー、加工助剤および架橋剤を、表1および表2に示す配合比率で、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に投入し、235℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物について、10%モジュラスM10、水蒸気透過係数PCH2O、破断強度TB150、破断伸びEB150および熱老化後破断伸びを測定し、押出加工性を評価した。測定・評価結果を表1および表2に示す。
【0039】
[比較例1~4]
比較例1として東レ・デュポン株式会社製熱可塑性ポリエステルエラストマー「ハイトレル」(登録商標)4057Nを、比較例2として東レ・デュポン株式会社製熱可塑性ポリエステルエラストマー「ハイトレル」(登録商標)3001を、比較例3としてアロン化成株式会社製アクリル系エラストマー「トライゼクト」(登録商標)XB-A60を、比較例4としてデュポン社製ナイロン樹脂「ZYTEL」(登録商標)ST811HSを選び、それらについて、10%モジュラスM10、水蒸気透過係数PCH2O、破断強度TB150、破断伸びEB150および熱老化後破断伸びを測定し、押出加工性を評価した。測定・評価結果を表1および表2に示す。
なお、各測定・評価項目の測定・評価方法は、以下のとおりである。
【0040】
[水蒸気透過係数の測定]
熱可塑性樹脂組成物の試料を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を試料組成物中の最も融点の高いポリマー成分の融点+10℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの条件で平均厚み0.2mmのシートに成形した。
得られたシートを切り出し、GTRテック株式会社製水蒸気透過試験機を用いて、温度60℃、相対湿度100%で、水蒸気透過係数を測定した。
【0041】
[10%モジュラスM10の測定]
水蒸気透過係数の測定において作製した平均厚み0.2mmのシートを、JIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K7161に準拠して、温度25℃、相対湿度50%、速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から10%伸張時における応力(10%モジュラス)を求めた。
【0042】
[破断強度TB150の測定]
水蒸気透過係数の測定において作製した平均厚み0.2mmのシートを、JIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K7161に準拠して、温度150℃、速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から破断したときの応力(破断強度)を求めた。
【0043】
[破断伸びEB150の測定]
水蒸気透過係数の測定において作製した平均厚み0.2mmのシートを、JIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K7161に準拠し、温度150℃、速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から破断したときの伸び(破断伸び)を求めた。
【0044】
[熱老化後破断伸びの測定]
水蒸気透過係数の測定において作製した平均厚み0.2mmのシートを、空気雰囲気で150℃に設定されたオーブンに168時間静置し、熱老化処理を行った。熱老化処理後のシートをJIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K7161に準拠して、温度25℃、相対湿度50%、引張速度500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から破断したときの伸び(破断伸び)を求めた。
【0045】
[押出加工性の評価]
熱可塑性樹脂組成物の試料を、Tダイシート成形装置(トミー機械工業株式会社製)を使用して235℃で押出し、金属の冷却ロール上に引き落とし、ピンチロールで引取り、巻取機で巻き取ることにより、熱可塑性樹脂組成物のフィルムを作製した。いずれのフィルムも厚みは200μmとし、問題なく成形できる場合を○、軽微な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生する場合を△、深刻な粒や穴開きやシート端部の切れなどが発生する場合を×として評価した。
【0046】
【0047】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の冷媒輸送ホース用熱可塑性樹脂組成物は、冷媒輸送ホースの外層を形成するための材料として好適に利用することができる。
本発明の冷媒輸送ホースは、自動車等のエアコンディショナーの冷媒を輸送するためのホースとして好適に利用することができる。