(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】白板紙及び塗工白板紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 23/10 20060101AFI20240731BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
D21H23/10
D21H27/00 E
(21)【出願番号】P 2021070410
(22)【出願日】2021-04-19
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小野 智弘
(72)【発明者】
【氏名】寺島 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】磯部 智史
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-100278(JP,A)
【文献】特開2010-285696(JP,A)
【文献】特開2008-248398(JP,A)
【文献】特開2005-194651(JP,A)
【文献】国際公開第2009/013913(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0200185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 23/10
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層、中層、及び裏層を有する白板紙の製造方法であって、脱墨パルプを含むパルプスラリーに硫酸バンドを添加した後に紙力剤を添加し、その後に
前記パルプスラリーの固形分100質量%に対して、1~20質量%の炭酸カルシウムを添加して紙料を調製し、前記調製した紙料を抄紙して、前記
表層を形成することを特徴とする白板紙の製造方法。
【請求項2】
少なくとも表層、表下層、中層、及び裏層を有する白板紙の製造方法であって、脱墨パルプを含むパルプスラリーに硫酸バンドを添加した後に紙力剤を添加し、その後に
前記パルプスラリーの固形分100質量%に対して、1~20質量%の炭酸カルシウムを添加して紙料を調製し、前記調製した紙料を抄紙して、前記
表層を形成することを特徴とする白板紙の製造方法。
【請求項3】
前記パルプスラリーの固形分100質量%に対して、前記硫酸バンドを0.1~2.0質量%添加する、請求項1
又は2に記載の白板紙の製造方法。
【請求項4】
前記パルプスラリーの固形分100質量%に対して、前記紙力剤を0.1~2.0質量%添加する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法。
【請求項5】
前記紙力剤が、ポリアクリルアミド系紙力剤である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法によって白板紙を得る工程と、得られた白板紙の少なくとも一方の表面に顔料塗工層を形成する工程とを有する、塗工白板紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白板紙及び塗工白板紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白板紙は、3~9層の多層抄きされた厚紙で、各種包装箱等に古くから用いられている。そのコスト的要請から、また、省資源的要請から、白板紙には古紙パルプが用いられている。
中層には、脱墨しない古紙パルプが用いられる。表層や表下層にはバージンパルプ等の白色度の高いパルプが用いられる。裏層は両面に白色度が必要な場合は表層等と同様とされ、その必要がない場合は白色度の低い古紙パルプが用いられる。
表層や表下層等には、中層の色を隠蔽する役割が求められる。そのため、これらの層に顔料を添加し、不透明度を高めることが行われている(特許文献1)。
【0003】
表層や表下層にも、バージンパルプに代えて、またはバージンパルプと共に古紙パルプが使用される場合が多い。表層や表下層等に使用される古紙パルプとしては、脱墨された白色度の高い古紙パルプ(脱墨パルプ)が用いられている。
表層や表下層等を形成する紙料に脱墨パルプを使用した場合、紙料の歩留まりが低下しやすいという製造上の問題が生じる。
これは、脱墨パルプが、バージンパルプと比較して微細な繊維を含みやすく、ワイヤーパートにおいて脱落しやすいためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱墨パルプを含む紙料の歩留まりを向上させるためには、紙料に、硫酸バンドを添加することが考えられる。しかし、脱墨パルプを含む紙料に硫酸バンドを使用すると、抄紙設備の配管等に析出物が付着する場合がある。配管等からこの析出物が脱落して紙料中に混入すると、白板紙の品質を損なう恐れがあった。
【0006】
斯かる問題は、脱墨パルプを含む紙料に硫酸バンドに加え、さらに、不透明度を高めるための顔料として炭酸カルシウムを添加した場合に特に生じやすい傾向があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、脱墨パルプを含む紙料の歩留まりを維持しつつ、紙料中に析出物を混入させることなく、安定した品質の白板紙または塗工白板紙を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]複数の層を有する白板紙の製造方法であって、脱墨パルプを含むパルプスラリーに硫酸バンドを添加した後に紙力剤を添加し、その後に炭酸カルシウムを添加して紙料を調製し、前記調製した紙料を抄紙して、前記複数の層の少なくとも一部を形成することを特徴とする白板紙の製造方法。
[2]前記白板紙が、少なくとも表層、中層、及び裏層を有し、前記調製した紙料を抄紙して前記表層を形成する、[1]に記載の白板紙の製造方法。
[3]前記白板紙が、少なくとも表層、表下層、中層、及び裏層を有し、前記調製した紙料を抄紙して、前記表層及び表下層の少なくとも一方を形成する、[1]に記載の白板紙の製造方法。
[4]前記パルプスラリーの固形分100質量%に対して、前記硫酸バンドを0.1~2.0質量%添加する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法。
[5]前記パルプスラリーの固形分100質量%に対して、前記紙力剤を0.1~2.0質量%添加する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法。
[6]前記パルプスラリーの固形分100質量%に対して、前記炭酸カルシウムを1~20質量%添加する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法。
[7]前記紙力剤が、ポリアクリルアミド系紙力剤である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法。
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載の白板紙の製造方法によって白板紙を得る工程と、得られた白板紙の少なくとも一方の表面に顔料塗工層を形成する工程とを有する、塗工白板紙の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の白板紙の製造方法又は塗工白板紙の製造方法によれば、脱墨パルプを含む紙料の歩留まりを維持しつつ、紙料中に析出物を混入させることなく、安定した品質の白板紙又は塗工白板紙を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[白板紙]
本発明の白板紙の製造方法によって得られる白板紙は、複数の層を有する多層抄紙である。本発明の白板紙の製造方法によって得られる白板紙は、少なくとも表層、中層、裏層が積層された3層以上の多層抄紙であることが好ましく、表層、表下層、中層、裏層が積層された4層以上の多層抄紙であることがさらに好ましい。
【0010】
表層とは、白板紙において、最も表側に配置される層であり、裏層は最も裏側(表層と反対側)に配置される層であり、中層とは、表層と裏層との間に配置される層である。表層と中層の間には、表下層を設けてもよい。裏層と中層の間には、裏下層を設けてもよい。中層は一層で形成しても複数の層で形成しても構わないが、低質の古紙パルプの使用量を増やすためには、複数層で形成することが好ましい。
【0011】
表層には、通常白色度の高いパルプが使用される。白色度の高いパルプとしては、バージンパルプや古紙の脱墨パルプが挙げられる。表層を構成するパルプの一部又は全部として脱墨パルプを使用する場合、表層を構成する紙料としては、後述の[紙料の調製]で説明する方法により調製した紙料を使用することが好ましい。
【0012】
表層の坪量は、15~90g/m2とすることが好ましく、25~70g/m2とすることがより好ましい。各層の坪量は、JIS P8124に準拠して測定することができる。
表層の坪量が好ましい下限値以上であれば、中層の黒っぽさを充分に隠蔽することができる。また、表層の坪量が好ましい上限値以下であれば、抄紙時の膨れを抑止しやすい。
【0013】
表下層を設ける場合は、表下層を構成するパルプは、中層のパルプよりも、白色度が高く、表層のパルプよりも白色度が低いパルプを使用する。表下層を構成するパルプの一部又は全部として脱墨パルプを使用する場合、表下層を構成する紙料としては、後述の[紙料の調製]で説明する方法により調製した紙料を使用することが好ましい。
【0014】
表下層の坪量は、15~90g/m2とすることが好ましく、25~75g/m2とすることがより好ましい。
表下層の坪量が好ましい下限値以上であれば、表層と共に、中層の黒っぽさを充分に隠蔽することができる。また、表下層の坪量が好ましい上限値以下であれば、抄紙時の膨れを抑止しやすい。
【0015】
中層は通常複数の層から構成されるが、一層であってもよい。中層が複数の層から構成される場合、各層を構成するパルプは、総て同じであってもよいし、異なっていてもよい。
中層は、少なくとも表層と裏層の間に挟まれる層であるため、通常は、基紙を構成する層の内、最も低級なパルプが使用されるのが一般的である。例えば、新聞、雑誌、切符、中質反古、茶模造、段ボール、台紙、地券、ボール、等の離解パルプが挙げられる。
中層の合計坪量は、塗工板紙の用途により必要とされる厚みに応じて、適宜調整されるが、一層当たりの坪量は、15~90g/m2とすることが好ましく、25~75g/m2とすることがより好ましい。
【0016】
裏下層を設ける場合は、裏下層を構成するパルプは、中層のパルプよりも、白色度が高く、裏層のパルプよりも白色度が低いパルプを使用する。裏下層には、上記表層や表下層に使用されるパルプを使用してもよいが、通常は、表層と比較して低級な古紙、即ち中質繊維を多く含んだ古紙が使用される。例えば、新聞、雑誌、色上、ボール等の未晒脱墨古紙パルプが使用されるのが一般的である。
裏下層を構成するパルプの一部又は全部として脱墨パルプを使用する場合、裏下層を構成する紙料としては、後述の[紙料の調製]で説明する方法により調製した紙料を使用してもよい。
【0017】
裏下層の坪量は、15~90g/m2とすることが好ましく、25~75g/m2とすることがより好ましい。
裏下層の坪量が好ましい下限値以上であれば、裏層と共に、中層の着色異物を充分に隠蔽することができる。また、裏下層の坪量が好ましい上限値以下であれば、充分な紙層強度を得ることができる。
【0018】
裏層には、表層程の白色度は求められないが、人の目に触れるため、通常、中層よりも白色度の高いパルプが使用される。オフィス用紙等のシュレッダー処理物由来のパルプを含ませてもよい。オフィス用紙等のシュレッダー処理物を離解処理したパルプは、脱墨、漂白処理を行わなくても白色度が比較的高いので、裏層に配合することが好ましい。
裏層を構成するパルプの一部又は全部として脱墨パルプを使用する場合、裏層を構成する紙料としては、後述の[紙料の調製]で説明する方法により調製した紙料を使用してもよい。
【0019】
裏層の坪量は、15~90g/m2とすることが好ましく、25~70g/m2とすることがより好ましい。中層の坪量は、塗工板紙の用途により必要とされる厚みに応じて、適宜調整される。
裏層の坪量が好ましい下限値以上であれば、中層の着色異物を充分に隠蔽することができる。また、裏層の坪量が好ましい上限値以下であれば、充分な紙層強度を得ることができる。
【0020】
[紙料の調製]
本発明の白板紙の製造方法においては、複数の紙層のうちその一部の層を形成するために、脱墨パルプを含むパルプスラリーに硫酸バンドを添加した後に紙力剤を添加し、その後に炭酸カルシウムを添加して紙料を調製する。以下、この方法により調製した紙料を「本紙料」という場合がある。
【0021】
(パルプスラリー)
本紙料の調製に使用するパルプスラリーは、少なくとも脱墨パルプを含む。本紙料の調製に使用するパルプスラリーは、脱墨パルプに加えて、バージンパルプを含んでいてもよい。
【0022】
本紙料の調製に使用するパルプスラリーにおいて、全パルプに対する脱墨パルプの割合に特に限定はなく、いずれの層の形成に使用するか、得られる白板紙に求められる品質、製造上の便宜等を考慮して適宜調整すればよい。
本発明を適用する意義を充分に得やすいことから、全パルプに対する脱墨パルプの割合は40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0023】
脱墨パルプは脱墨された白色度の高い古紙パルプである。白色度を高めるために、脱墨後、漂白処理を行ったものでもよい。
脱墨パルプの原料とする古紙としては、例えば、上白、罫白、特白、中白、白マニラなどの一度使用されているが印刷部分の少ない紙、カード、模造、色上、ケント、白アートなどの印刷物や色づけされ一度は使用された紙類、印刷用塗工紙、飲料用パック、オフィス用紙等使用済みの上質系古紙、さらに切符類、中質反古、ケント、マニラ等の事業系中質古紙、新聞、雑誌、雑紙等の一般中質古紙、切茶、無地茶、雑袋、段ボール等の茶系古紙、ボール、白台紙、台紙等の回収された紙器・古箱等が挙げられる。機密性を有するオフィス用紙や切符等の古紙はシュレッダー処理物であってもよい。
脱墨パルプの原料とする古紙は、一種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
本紙料で表層を形成する場合、上白・カード類、特白・中白・白マニラ類、模造・色上類等の白色度の高い古紙に由来する脱墨パルプが好ましく使用できる。
本紙料で表下層を形成する場合、表層と比較して低級な古紙、即ち中質繊維を多く含んだ古紙が好ましく使用できる。例えば、新聞、雑誌、色上、ボール等に由来する脱墨パルプが好ましい。中でも、雑誌古紙に由来する脱墨パルプを使用すると中層の隠蔽性に優れるので好ましい。
【0025】
古紙パルプではない、いわゆるバージンパルプとしては、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、グランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、ストーングランドパルプ(SGP)等の機械パルプが挙げられる。
【0026】
(硫酸バンド)
硫酸バンドは硫酸アルミニウムの慣用名である。硫酸バンドは代表的な無機凝集剤である。硫酸バンドを添加することにより、微細な繊維を含む脱墨パルプがワイヤーパートにおいて脱落することを抑制し、パルプスラリーの歩留まりを向上させることができる。
【0027】
硫酸バンドの添加量は、パルプスラリーの固形分100質量%に対して、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.4~1.0質量%であることがより好ましい。
硫酸バンドの添加量が上記好ましい下限値以上であることにより、パルプスラリーの歩留まり向上効果を得やすい。また、上記上限値以下であることにより、析出物が生じることをより確実に抑制できる。
【0028】
(紙力剤)
紙力剤は、製品の紙に強度をもたせるための抄紙用薬品である。紙力剤は、湿潤紙力剤(wet strengthening agent)と乾燥紙力剤(dry strengthening agent)とに分けられるが、本紙料に用いる紙力剤は内部強度、表面強度、層間強度向上のため、乾燥紙力剤であることが好ましい。
【0029】
乾燥紙力剤としては、例えば、澱粉、植物ガムなどの天然系紙力剤、ポリアクリルアミ系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、スチレンブタジエンラテックス、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラニン樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、ポリアミドエポキシ系樹脂、グリセロールポリグリシジルエーテル樹脂、ポリエチレンイミン樹脂等の合成系紙力剤など例示できる。これらを単独で又は混合して使用することができる。
これらの中でも、澱粉類、ポリビニルアルコール樹脂、スチレンブタジエンラテックス、ポリアクリルアミ系樹脂が好ましい。中でも、ポリアクリルアミド系紙力剤を用いることが強度発現効果、パルプ歩留り向上のため好ましい。
【0030】
ポリアクリルアミド系紙力剤としては、特に限定されず、アニオン性、両性、カチオン性のいずれも使用することができる。
中でも両性のポリアクリルアミド系紙力剤が紙力の向上と、紙料中に析出物が混入することを防止する効果に優れるので好ましい。
【0031】
紙力剤の添加量は、パルプスラリーの固形分100質量%に対して、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.2~1.5質量%であることがより好ましい。
紙力剤の添加量が上記好ましい下限値以上であることにより、析出物が生じることをより確実に抑制できる。また、上記上限値以下であることにより、過凝集による水切れ悪化を抑制しやすい。
【0032】
(炭酸カルシウム)
炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムでも重質炭酸カルシウムでも、これらの併用でもよい。
軽質炭酸カルシウムの場合、体積基準平均一次粒子径D50は、0.2~10μmが好ましく、1~5μmがより好ましく、2~3μmがさらに好ましい。
ここで、一次粒子径とは、軽質炭酸カルシウムの水分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置の循環系に滴下し、その後超音波処理してから測定した粒子径をいう。また、体積基準平均一次粒子径D50は体積基準による50%一次粒子径である。
【0033】
炭酸カルシウムの添加量は、パルプスラリーの固形分100質量%に対して、1~20質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。
炭酸カルシウムの添加量が上記好ましい下限値以上であることにより、形成した層の不透明度を高めやすい。また、上記上限値以下であることにより、析出物が生じることをより確実に抑制できる。
炭酸カルシウムは、水分散液として添加することが好ましい。これにより炭酸カルシウムの分散性が優れる。水分散液には分散剤を添加してもよい。
【0034】
(その他の成分)
本紙料には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を添加することができる。
その他の成分としては、炭酸カルシウム以外の顔料、耐水化剤、撥水剤、発泡性マイクロカプセル、サイズ剤、染料、填料、pH調整剤、スライムコントロール剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、防腐剤、殺鼠剤、防虫剤、保湿剤、鮮度保持剤、脱酸素剤、マイクロカプセル、発泡剤、界面活性剤、電磁シールド材、帯電防止剤、防錆剤、芳香剤、消臭剤等を必要に応じて選択し、配合することができる。これらは複数種併用することもできる。
炭酸カルシウム以外の顔料としては、白土、クレー、焼成クレー、タルク、酸化チタン、等が挙げられる。
【0035】
(紙料の調製方法)
本発明は、脱墨パルプを含むパルプスラリーに、まず硫酸バンドを添加した後に、紙力剤を添加し、その後に炭酸カルシウムを添加して紙料を調製する。
炭酸カルシウムは、抄紙直前に添加することが好ましい。これにより、パルプスラリー中に、硫酸バンド由来の硫酸イオンが残っていても、析出物の原因となる硫酸カルシウムが生じる前に、炭酸カルシウムをワイヤー上に供給しやすくなる。
【0036】
(抄紙工程)
本発明の白板紙の製造方法においては、少なくとも一部の層を、本紙料を抄紙して形成する。
少なくとも表層、表下層、中層、裏層を有する白板紙を製造する場合、特に少なくとも表層、中層、裏層を有し、表下層を有しない白板紙を製造する場合、本紙料を抄紙して表層を形成することが好ましい。
少なくとも表層、表下層、中層、裏層を有する白板紙を製造する場合、本紙料を抄紙して表層及び表下層の少なくとも一方を形成することが好ましい。すなわち、表層及び表下層の両方、又は表層及び表下層の一方を本紙料を抄紙して形成することが好ましい。表層及び表下層の両方を、本紙料を抄紙して形成することが特に好ましい。
【0037】
抄紙方法に特に限定はないが、少なくとも、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートを備える抄紙機を用いることが好ましい。また、ドライヤーパートにおいて、サイズプレスを行ってもよい。また、ドライヤーパートの後にカレンダーパート(プレカレンダー)を設けた抄紙機を用いてもよい。
【0038】
ワイヤーパートとしては、公知の多段式のワイヤーパートを適宜使用できる。
多段式のワイヤーパートは、少なくとも2つ以上のワイヤーパート部を有する。
一般に製紙用として使用されているワイヤーパート部の型式としては、円網式、長網式、短網式、傾斜式、ツインワイヤー式等がある。
多段式のワイヤーパートでは、これらの方式を多段に組み合わせることができる。例を挙げるならば、長網抄合わせ、短網抄合わせ、短網円網コンビネーション、長網円網コンビネーション等がある。
中でも、短網抄き合わせを使用することが微細繊維を多く含む脱墨パルプの歩留りが向上する点で好ましい。
【0039】
プレスパートとしては、公知のプレス機を適宜使用できるが、シュープレスを含むことが好ましい。また、ロールプレスとシュープレスとを組み合わせることも好ましい。シュープレスを用いると、プレスパートでの搾水を充分に行えるため、ドライヤーパートでサイズプレスをする際の水分量を制御しやすい。
【0040】
ドライヤーパートとしては、公知のドライヤーを適宜使用できる。例えば、湿潤状態の白板紙に接触して加熱するシリンダードライヤーや、赤外線乾燥機、熱風乾燥機等の非接触のドライヤーを、単独で、又は組み合わせて使用できる。
【0041】
[塗工白板紙の製造方法]
本発明の塗工白板紙の製造方法は、本発明の白板紙の製造方法によって白板紙を得る工程と、得られた白板紙の少なくとも一方の表面に顔料塗工層を形成する工程とを有する方法である。
顔料塗工層を形成するための顔料塗工液は、顔料とバインダーを含む。
顔料としては、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、サチンホワイト、タルク等の一般塗被紙製造分野で使用されている公知公用の顔料の1種以上が本発明の効果を損なわない範囲内で適宜使用できる。特に、炭酸カルシウムは優れた印刷適性をもたらすので好ましい。
【0042】
バインダーとしては、水系接着剤が好ましい。水系接着剤としては、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、デキストリン、酵素変性澱粉、水溶性澱粉等の澱粉類;スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン-メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの共重合体ラテックス等のアクリル系共重合体ラテックス等のラテックス類;カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白等の蛋白類、各種ポリビニルアルコール、各種ポリアクリルアミド、メラミン樹脂等の合成樹脂系接着剤;カルボキシメチルセルロース等の各種セルロース誘導体、等が挙げられ、これら接着剤から1種あるいは2種以上を選択して使用できる。
【0043】
中でも、バイブロン粘弾性により測定したガラス転移温度が-50~30℃のラテックスを配合すると、塗工面の柔軟性が増し、耐折れ割れ性が向上するため好ましい。
ラテックスのガラス転移温度は、-50~0℃であることがより好ましい。
また、上記ラテックスと共に澱粉を配合することが好ましい。ラテックスと澱粉を併用すると、裏層内部の微細繊維の固定と、裏層の表面の表面強度のバランスがとれるので好ましい。
ラテックスと澱粉の質量比は、100:0~5:50であることが好ましい。
【0044】
顔料塗工液は、顔料100質量部に対して、バインダーを2~50質量部含有することが好ましく、5~25質量部含有することがより好ましい。
バインダーの割合が好ましい下限値以上であれば、顔料塗工層の塗工層の強度を充分な物としやすい。また、バインダーの割合が好ましい上限値以下であれば、インキ乾燥性が優れるとともに製函適性も優れることになる。
また、必要に応じて、適宜、分散剤、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、蛍光染料、離型剤、耐水化剤、流動性改良剤、スライムコントロール剤、防腐剤、染料、着色顔料等の1種以上を含有させてもよい。
【0045】
顔料塗工液の塗工量は、5~50g/m2であることが好ましく、8~40g/m2であることが好ましく、10~35g/m2であることがさらに好ましい。
顔料塗工層を複数回、例えば二回に分けて塗布する場合、一回目(下塗り層)と二回目(上塗り層)の塗工液は同じでもよく、異なっていても良い。
顔料塗工液は、表層に直接塗布してもよいし、表層に塗布したサイズプレス液による塗膜を介して塗布してもよい。顔料塗工液を塗布する前に、プレカレンダーにより表層表面に平滑化処理を施してもよい。顔料塗工液は、1回のみ塗布してもよいし、複数回塗布してもよい。特に下塗り層用の顔料塗工液と上塗り層用の顔料塗工液を塗布し、下塗り層と上塗り層を順次形成することが好ましい。
顔料塗工液を塗布することにより、表層側の印刷適性を高めたり、白色度を高めたりすることができる。
【0046】
コーターはオンマシンでもオフマシンでも構わないが、抄紙機に付属する公知のコーターパートを用いるオンマシンであることが好ましい。コーターパートの塗工装置としては、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、スライドビードコーター、ツーロールあるいはメータリングブレード方式のサイズプレスコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター、キャレンダーによるニップコーター等が適宜用いられる。
【0047】
中でも、ロッドメタリングコーターやカーテンコーターは塗工量が一定となるため、塗工ムラなどを抑制した塗工層を得ることができるので好ましい。なお、塗布された塗工層は、公知の乾燥装置で乾燥され、顔料塗工層が形成される。コーターパートは複数有していてもよい。この場合、顔料塗工層を複数回に分けて塗布することができる。
【0048】
コーターパートの後に、必要に応じてカレンダーパートを設けてもよい。コーターパートの後にカレンダーパートを設けることにより、顔料塗工層が平滑化処理される。
コーターパートの後のカレンダーパートには、公知のカレンダー装置が適宜使用でき、例えば、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトニップカレンダー、熱カレンダー、シューカレンダー等が挙げられる。これらを組み合わせて使用しても構わない。中でも、金属ロールと弾性ロールを備えたソフトニップカレンダーは、紙厚を維持しつつ、塗工層を平滑化処理することができるので好ましい。なお、コーターパートの後のカレンダーパートは、オンマシンでもオフマシンでも構わない。
【0049】
[作用機序]
紙料に硫酸バンドと炭酸カルシウムを併用した際に生じる析出物は、炭酸カルシウムと硫酸バンドとが反応することにより生成する硫酸カルシウムであると考えられる。また、炭酸カルシウムを新たに添加しなくとも析出物が生じるのは、脱墨パルプに古紙由来の炭酸カルシウムが含まれており、これが、硫酸バンドとが反応して硫酸カルシウムを生成するためであると考えられる。
生成した硫酸カルシウムは、抄紙機内の配管等で蓄積していき、凝集してある程度の大きさになると、配管等から剥がれ、紙層に析出物として移るため大きな品質トラブルとなる。
本発明者は、生成した硫酸カルシウムは、時間が経つと凝集して析出物となるが、生成直後は微細な粒子であると考え、この段階で、硫酸カルシウムの凝集を防ぐ対策を取ることを検討した。
【0050】
本発明では、この硫酸カルシウムが微細な粒子である内に、紙力剤を添加する。これにより、紙力剤が、パルプ繊維を結合する際に、スラリー中に分散している微細な硫酸カルシウムを取り込みパルプ繊維に固定することができ、硫酸カルシウムの微細な粒子が凝集して析出物となることを防止できる。
また、紙力剤を添加する段階では、新たな炭酸カルシウムは添加されていないので、硫酸バンドと多量の炭酸カルシウムとの反応が一気に進んで析出物を生じさせる可能性も小さい。
【0051】
本発明では、紙力剤を添加した後に、新たな炭酸カルシウムを添加して紙料を調製するが、新たに添加した炭酸カルシウムと硫酸バンドとの反応による析出物は生じにくい。これは、硫酸バンド由来の硫酸イオンの大部分が既に消費されているためであると考えられる。
また、新たな炭酸カルシウムの添加を最後に行うので、新たな炭酸カルシウムの添加から抄紙までの時間を短くできる。この点からも、新たに添加した炭酸カルシウムと硫酸バンドの反応と、その後の凝集を抑制できるものと考えられる。