(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20240731BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20240731BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20240731BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
B23K35/22 310A
C22C13/02
C22C13/00
(21)【出願番号】P 2024046047
(22)【出願日】2024-03-22
【審査請求日】2024-03-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴大
(72)【発明者】
【氏名】吉川 俊策
(72)【発明者】
【氏名】飯島 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】出井 寛大
(72)【発明者】
【氏名】松藤 貴大
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 昂太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 滋人
(72)【発明者】
【氏名】足助 海斗
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/054630(WO,A1)
【文献】特開2017-205790(JP,A)
【文献】特表2022-546078(JP,A)
【文献】特許第7323853(JP,B1)
【文献】特許第7323854(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/26
C22C 13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ag:3.0~4.0%、Cu:0.1~1.0%、Bi:0.1~1.5%、Sb:3.0~6.0%、In:0.2~6.0%、Fe:0.020~0.040%、Co:0.001~0.020%、および残部がSnからなる合金組成を有することを特徴とするはんだ合金。
【請求項2】
前記合金組成は、更に、質量%で、Ge、Ga、As、Pd、Mn、Zn、Zr、およびMgの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
前記合金組成は下記(1)式および(2)式を満たす、請求項1または2に記載のはんだ合金。
0.0049≦Ag×Cu×Bi×Sb×In×Fe×Co≦0.0148 (1)
49.4≦Ag×Sb×In≦88.3 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、Cu、Bi、Sb、In、Fe、およびCoは、各々前記合金組成の含有量(質量%)を表す。
【請求項4】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末を有するはんだペースト。
【請求項5】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだボール。
【請求項6】
請求項1または2に記載のはんだ合金からなるはんだプリフォーム。
【請求項7】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。
【請求項8】
請求項1または2に記載のはんだ合金を有することを特徴とする車載電子回路。
【請求項9】
請求項1または2のはんだ合金を有することを特徴とするECU電子回路。
【請求項10】
請求項8に記載の車載電子回路を備えたことを特徴とする車載電子回路装置。
【請求項11】
請求項9に記載のECU電子回路を備えたことを特徴とするECU電子回路装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、エンジン、パワーステアリング、ブレーキ等を電気的に制御する機器に使用される車載電子回路が搭載されている。車載電子回路は、自動車の走行にとって非常に重要な保安部品となっている。特に、燃費向上のためにコンピューターで車を制御する電子回路のECU(Engine Control Unit)と呼ばれる車載電子回路は、長期間に渡って故障がなく安定した状態で稼働できるものでなければならない。このECUは、一般的にエンジン近傍に設置されているものが多く、使用環境としては、かなり厳しい条件となっている。
【0003】
このような車載電子回路が設置されるエンジン近傍は、エンジンの回転時には125℃以上という非常な高温となる。一方、エンジンの回転を止めたときには外気温度、例えば北米やシベリアなどの寒冷地であれば冬季に-40℃以下という低温になる。従って、車載電子回路は、エンジンの運転とエンジン停止の繰り返しにより、少なくとも-40℃~+125℃というヒートサイクル環境に曝される。
【0004】
車載電子回路は、電子部品がプリント基板にはんだ付けされた電子回路である。電子部品の線熱膨張係数とプリント基板の線熱膨張係数とは大きく異なる。そして、車載電子回路がヒートサイクル環境に曝されると、電子部品とプリント基板がそれぞれ熱膨張・収縮を繰り返す。この繰り返しにより、一定の熱変位が電子部品とプリント基板とを接合しているはんだ付け部(以下、「はんだ継手」という。)で繰り返し発生する。このため、ヒートサイクル環境では、応力がはんだ継手に加わり続け、最終的にははんだ継手が破断してしまう。
【0005】
はんだ継手が完全に破断しない場合であっても、部分的に破断すると電子回路の抵抗値が上昇して誤動作の原因になり得る。自動車に搭載されているECUの誤動作は、重大な事故につながりかねない。このように、ECUの誤動作を回避するためには、耐ヒートサイクル性の向上が特に重要である。
【0006】
そこで、例えば特許文献1には、耐ヒートサイクル性を備えるはんだ合金として、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb-Fe-Coはんだ合金が開示されている。このはんだ合金は、耐ヒートサイクル性に加えて、熱伝導性に優れ、遊離の発生が抑えられている。また、同文献には、任意元素としてInを含有してもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のはんだ合金は、耐ヒートサイクル性と熱伝導性の両立を図ることができる優れた発明である。ただ、近年では温暖化がすすみ、最高気温は上昇しているため、使用環境の厳しさは更に増している。一方、寒冷地でも温暖化の影響はあるものの、従来と同様に零下40℃を下回ることがある。このため、特許文献1に記載のはんだ合金とは別に、耐ヒートサイクル性の向上に特化したはんだ合金が求められている。
【0009】
ここで、耐ヒートサイクル性は、はんだ継手の破断を抑制することにより向上すると考えられる。ここで、寒暖差が激しい地域では、はんだ継手を構成するはんだ合金と電極の熱膨張係数の違いにより、はんだ継手には引張応力と圧縮応力が交互に繰り返して加わると考えられる。このため、厳しい使用環境下に曝され続けると、はんだ継手は破断する。
【0010】
従来から、このような観点から耐ヒートサイクル性を向上させるために種々の組成探索が行われてきた。例えば特許文献1では、汎用性が高いはんだ合金を求める要求に応えるため、耐ヒートサイクル性と熱伝導性を1組成で満足するような合金組成が探索された。
【0011】
しかし、はんだ継手の破断が前述のような厳しい環境下に曝され続けても抑制されるためには、少なくともサイクル試験を行う前のはんだ継手の状態が破断を抑制するような特性を有する必要がある。また、このような特性は、例えばはんだ継手を構成する電極などに依存せず、はんだ合金に特有の特性であることが好ましい。
【0012】
例えば、はんだ合金の変形を抑制するためには、例えば、はんだ合金の引張強度が挙げられる。引張強度が高いと、はんだ継手を構成するはんだ合金の変形が抑制されるため、はんだ継手の破断を抑制することができると考えられる。
【0013】
また、従来から、溶融はんだの濡れ性の評価として、例えばメニスコグラフ法を用いた試験が行われてきた。しかし、メニスコグラフを用いた試験では、通常銅板が用いられるため、濡れ性の評価は銅板の表面性状に依存しており、濡れ上がりまでの時間や応力を測定することで濡れ性の指標としてきた。この方法では母材の表面性状に大きく作用される為、厳密な濡れ性評価は難しい。そこで、はんだ合金に特有の濡れ性を評価する手段として、溶融はんだの液滴を用いた表面張力を用いればよい。これにより、銅板などの表面性状に依存せずに、はんだ合金に特有の濡れ性としての評価が可能となる。
【0014】
更には、耐ヒートサイクル性のようにはんだ継手を構成する材質に依存する内的な応力とは別に、はんだ継手に外的な応力が加わる使用環境であっても、はんだ継手は破断してはならない。
【0015】
このように、はんだ継手には、内的な応力や外的な応力が常に加わる環境であっても、破断が抑制されなければならない。はんだ継手の破断を抑制する検討では、外的な応力に加えて、はんだ合金自体の特性の改善により内的な応力が加わったとしても、破断が抑制されることにも着目する必要がある。
【0016】
そこで、本発明の課題は、引張強度が高く、溶融はんだの表面張力が低く、且つシェア強度も高いことにより優れた信頼性を有するはんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、特許文献1に開示されているSn-Ag-Cu-Bi-Sb-Fe-Coはんだ合金において、耐ヒートサイクル性に寄与するはんだ合金の特性に着目し、高い引張強度と低い表面張力を示す合金組成を検討した。上記はんだ合金において、Biが多いとBiの偏析によりはんだ合金の脆化が懸念されるため、Biの含有量を低減する必要がある。
【0018】
ただ、Biの含有量が低いと引張強度が低下する傾向があるため、その補填としてSbの含有量を増やす必要がある。上記のはんだ合金では、Biの含有量を低減させるとともにSbの含有量を増加させているため、BiおよびSbの両元素での引張強度の更なる向上は望めない。また、CoやFeは合金組織の微細化に寄与するが、多量添加により粗大な化合物が析出するため、却って引張強度は低下する。
【0019】
ここで、引張強度は、はんだ合金の固溶強化と析出強化により相乗的に向上させる必要がある。そこで、本発明者らは、特許文献1に記載の上記はんだ合金の中で、BiやSbの他にも固溶強化と析出強化に寄与する元素を添加する必要があることに着目した。このような元素として、本発明者らは、特許文献1に添加元素として例示されているInに着目した。
【0020】
Sn-Ag-Cu-Bi-Sb-Fe-Coはんだ合金において、Inは、0.5質量%程度がSnに固溶するが、これを超えると、Snより活性であるためにInSbを析出する。これにともない、SnSbの析出量は低減する。そして、InSbの析出によりSbが消費されると、Ag3In、Ag2In、AgIn2などが析出する。しかし、上述のように、特許文献1には、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb-Fe-Coはんだ合金が含有し得るInの含有量は、0.1質量%以下であることが開示されている。このため、特許文献1に記載のはんだ合金では、Inの含有量が少なくInによる固溶強化が不十分である。したがって、特許文献1に記載のSn-Ag-Cu-Bi-Sb-Fe-Co-Inはんだ合金では、更なる引張強度の向上は見込めない。
【0021】
Biは濡れ性を向上させるが化合物を形成しないため、低融点相を形成しやすく信頼性を損なう可能性がある。Inも同様である。ただし、InはSb及びAgと優先的に化合物を形成する。In量は、Sb+Ag量よりも少なければ化合物として消費され、Snに固溶するIn量が適正化されるため、低融点相を形成しにくい。Agの含有量((Ag3In(AgとInが3:1)、Ag2In(AgとInが2:1))、Sb量(InSb:InとSbが1:1)がInの含有量よりも少ない場合、InがSnに固溶する量を超え、低融点相を形成する懸念がある。
【0022】
ここで、Biは濡れ性を向上させるが化合物を形成しないため、Biの含有量が多いと低融点相を形成しやすく信頼性を損なう可能性がある。Inも低融点相を形成しやすいため、Biと同様に信頼性を損なう可能性がある。
【0023】
ただし、InはBi異なり、Sb及びAgと優先的に化合物を形成する。Inの含有量がSbとAgの含有量の合計よりも少なければ、Inは化合物として消費され、Snに固溶するIn量が適正化されるため、低融点相を形成しにくい。Agの含有量(Ag3In(AgとInが3:1)、Ag2In(AgとInが2:1)、およびSbの含有量(InSb:InとSbが1:1)がIn量よりも少ない場合、Inの含有量がSnに固溶する量を超え、低融点相を形成する懸念がある。さらに、Inの多量添加はβSn相をInSn4に相変態するため、はんだ合金の変形によるはんだ継手の破断が懸念される。
【0024】
このように、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb-Fe-Coはんだ合金では、従来のように、Biの含有量を低減した上で、Inを従来よりも多く含有する必要がある。一方でInの含有量が多すぎると上述の課題が生じる。このため、Inの含有量は適正な範囲にする必要がある。
【0025】
更に、Ag、Cu、Fe、およびCoもSnとの化合物を形成するため、SbおよびInとともに、種々の化合物が溶融はんだ中に形成されると、溶融はんだの表面張力が低下し、濡れ性が向上すると推察される。このように、本発明に係るはんだ合金では、はんだ合金の引張強度が向上するとともに、溶融はんだ自体の表面張力が低減し、更にはシェア強度も向上する知見が得られ、本発明は完成した。なお、本発明では、電子回路に関して例示したが、これらの効果を同時に発揮する必要がある用途であれば、これに限定されることはない。
これらの知見により得られた本発明は以下のとおりである。
【0026】
(0) 質量%で、Ag:3.0~4.0%、Cu:0.1~1.0%、Bi:0.1~1.5%、Sb:3.0~6.0%、In:0.2~6.0%、Fe:0.020~0.040%、Co:0.001~0.020%、および残部がSnからなることを特徴とするはんだ合金。
(1) 質量%で、Ag:3.0~4.0%、Cu:0.1~1.0%、Bi:0.1~1.5%、Sb:3.0~6.0%、In:0.2~6.0%、Fe:0.020~0.040%、Co:0.001~0.020%、および残部がSnからなる合金組成を有することを特徴とするはんだ合金。
【0027】
(2)合金組成(はんだ合金)は、更に、質量%で、Ge、Ga、As、Pd、Mn、Zn、Zr、およびMgの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する、上記(0)または上記(1)に記載のはんだ合金。
【0028】
(3) 合金組成(はんだ合金)は下記(1)式および(2)式を満たす、上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金。
0.0049≦Ag×Cu×Bi×Sb×In×Fe×Co≦0.0148 (1)
49.4≦Ag×Sb×In≦88.3 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、Cu、Bi、Sb、In、Fe、およびCoは、各々前記合金組成の含有量(質量%)を表す。
【0029】
(4)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだ粉末を有するはんだペースト。
【0030】
(5)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだボール。
【0031】
(6)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金からなるはんだプリフォーム。
【0032】
(7)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金を有するはんだ継手。
【0033】
(8)上記(0)~上記(2)のいずれか1項に記載のはんだ合金を有することを特徴とする車載電子回路。
【0034】
(9)上記(0)~上記(2)のいずれか1項のはんだ合金を有することを特徴とするECU電子回路。
【0035】
(10)上記(8)に記載の車載電子回路を備えたことを特徴とする車載電子回路装置。
【0036】
(11)上記(9)に記載のECU電子回路を備えたことを特徴とするECU電子回路装置。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、引張強度試験後の断面を1000倍に拡大したSEM写真であり、
図1(a)は比較例9であり、
図1(b)は実施例12であり、
図1(c)は実施例14である。
【
図2】
図2は、
図1を3000倍に拡大したSEM写真であり、
図2(a)は比較例9であり、
図2(b)は実施例12であり、
図2(c)は実施例14である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を以下により詳しく説明する。本明細書において、はんだ合金組成に関する「%」は、特に指定しない限り「質量%」である。
【0039】
1. はんだ合金
(1) Ag:3.0~4.0%
Agは、濡れ性の向上に寄与するとともに、Ag3Snの網目構造を形成してはんだ合金の靭性が向上するため、シェア強度の向上に寄与する。Agの含有量が4.0%を超えると、粗大なAg3Snが形成され、はんだ合金の靭性が低下するためにシェア強度が低下する。Agの含有量の上限は4.0%以下であり、好ましくは3.8%以下であり、より好ましくは3.6%以下である。
【0040】
一方、Agの含有量が3.0%未満であると、Ag3Snの網目構造が形成されず、靭性が低下することによりシェア強度が劣化する。Agの含有量の下限は3.0%以上であり、好ましくは3.1%以上であり、より好ましくは3.2%以上であり、更に好ましくは3.3%以上であり、特に好ましくは3.4%以上である。
Agの好ましい範囲は、3.2~3.6%である。
【0041】
(2) Cu:0.1~1.0%
Cuは、表面張力を低減し、析出強化により引張強度の向上を図り、更には接合界面に薄い金属間化合物を形成することによりシェア強度を図ることができる。Cuの含有量が1.0%を超えると、接合界面に厚い金属間化合物が形成されるため、シェア強度が低下する。Cuの含有量の上限は1.0%以下であり、好ましくは0.9%以下であり、より好ましくは0.8%以下であり、更に好ましくは0.7%以下である。
【0042】
一方、Cuの含有量が0.1%未満であると、Snとの化合物が十分に析出せずに表面張力が劣り、これにともない引張強度およびシェア強度も劣る。Cuの含有量の下限は0.1%以上であり、好ましくは0.3%以上であり、より好ましくは0.5%以上であり、更に好ましくは0.6%以上である。
Cuの好ましい範囲は、0.5~0.9%である。
【0043】
(3) Bi:0.1~1.5%
Biは、融点の低下により表面張力を低減し濡れ性を向上させ、固溶強化により引張強度の向上を図ることができる。また、Biは、引張強度の向上とともにシェア強度の向上を図ることができる。Biの含有量が1.5%を超えると、Biが偏析してはんだ合金が脆化すため、シェア強度が劣る。Biの含有量の上限は1.5%以下であり、好ましくは1.2%以下であり、より好ましくは1.0%以下であり、更に好ましくは0.9%以下であり、特に好ましくは0.8%以下である。
【0044】
一方、Biの含有量が0.1%未満であると、Biの固溶量が不十分となり引張強度が劣る。また、Biの含有量が少ないため、濡れ性を向上させる効果が発揮されない。更にはBiの含有量が少ないと脆化は抑制されるものの、引張強度が劣化することにともない、シェア強度も劣化する。Biの含有量の下限は0.1%以上であり、好ましくは0.3%以上であり、より好ましくは0.4%以上であり、更に好ましくは0.5%以上であり、特に好ましくは0.6%以上であり、最も好ましくは0.7%以上である。
Biの好ましい範囲は、0.5~1.5%である。
【0045】
(4) Sb:3.0~6.0%
Sbは、SnSbの形成によりはんだ合金の析出強化に寄与する。これにともない、シェア強度も向上する。Sbの含有量が6.0%を超える場合には、粗大なSnSb化合物が析出し、溶融はんだの流動性が阻害されるため、表面張力が増加し、濡れ性が劣化する。また、Sbの偏析によりはんだ合金の脆化が起こるためシェア強度が劣化する。Sbの含有量の上限は6.0%以下であり、好ましくは5.5%以下であり、より好ましくは5.0%以下であり、更に好ましくは4.5%以下である。
【0046】
一方、Sbの含有量が3.0%未満であると、析出強化が発現せず、固溶強化も不十分になるため、引張強度が劣化する。これにともない、シェア強度も劣化する。Sbの含有量の下限は3.0%以上であり、好ましくは3.1%以上であり、より好ましくは3.5%以上であり、更に好ましくは4.0%以上である。
Sbの好ましい範囲は、3.1~6.0%である。
【0047】
(5) In:0.2~6.0%
Inは、Snに固溶することによる固溶強化、およびInSbおよびAg3In等の析出による析出強化により、引張強度の向上に寄与する。また、Inが、はんだ合金中に含まれることで融点の低下により表面張力が低下し、濡れ性の向上に寄与する。前述のように、Inは種々の化合物の析出に寄与するが、析出する化合物は微細な析出挙動を示すため、高い濡れ性は維持される。更に、Inは、Snの相変態を制御することによりシェア強度の向上に寄与する。
【0048】
Sn-Ag-Cu-Bi-Sb-Fe-Coはんだ合金において、Inは、0.5%まではSnに固溶し、0.5%以上になるとInの活性によりInSbを形成する。固溶限を超えたSbがInSbにより消費され、更にInが固溶限を超えて含有されていると、Ag3InやAg2Inなどを形成する。このように、Inは固溶強化および析出強化を図ることができるため、引張強度の向上に寄与する。
【0049】
Inの含有量が6.0%を超えると、Sn相がβSnからγSnへの相変態が起きるため、はんだ合金が変形し、シェア強度が劣化する。Inの上限は6.0%以下であり、好ましくは5.5%以下であり、より好ましくは5.0%以下であり、更に好ましくは4.0%以下である。
【0050】
一方、Inの含有量が0.2%未満であると、固溶強化が不十分になり、引張強度とシェア強度が劣化する。また、Inの含有量が少ないため濡れ性を向上させる効果が発揮されない。Inの下限は0.2%以上であり、好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは2.0%以上であり、更に好ましくは3.0%以上である。
Inの好ましい範囲は、3.0~6.0%である。
【0051】
(6) Fe:0.020~0.040%
Feは、溶融はんだの凝固時に凝固核として機能するため、合金組織が微細になり、はんだ合金の靭性が向上するためにシェア強度が向上する。Feの含有量が0.040%を超えると、粗大なSnFe化合物が析出し、溶融はんだの流動性が阻害されるため、表面張力が増加することにより濡れ性が低下する。Feの含有量の上限は0.040%以下であり、好ましくは0.035%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
【0052】
一方、Feの含有量が0.020%未満であると、合金組織が微細にならず、はんだ合金の靭性が低下するためにシェア強度が劣化する。Feの含有量の下限は0.020%以上であり、好ましくは0.025%以上である。
Feの好ましい範囲は、0.020~0.030%である。
【0053】
(6) Co:0.001~0.020%
Coは、Feと同様に、溶融はんだの凝固時に凝固核として機能するため、合金組織が微細になり、はんだ合金の靭性が向上するためにシェア強度が向上する。Coの含有量が0.020%を超えると、液相線温度が上昇し、また、粗大なSnCo化合物が析出するため、表面張力が劣化する。Coの含有量の上限は0.020%以下であり、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.012%以下であり、更に好ましくは0.010%以下であり、特に好ましくは0.009%以下である。
【0054】
一方、Coの含有量が0.001%未満であると、合金組織が微細にならず、はんだ合金の靭性が低下するためにシェア強度が劣化する。Coの含有量の下限は0.001%以上であり、好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.005%以上であり、更に好ましくは0.006%以上であり、特に好ましくは0.008%以上である。
Coの好ましい範囲は、0.006~0.010%である。
【0055】
(7) (1)式および(2)式
0.0049≦Ag×Cu×Bi×Sb×In×Fe×Co≦0.0148 (1)
49.4≦Ag×Sb×In≦88.3 (2)
上記(1)式および(2)式中、Ag、Cu、Bi、Sb、In、Fe、およびCoは、各々合金組成の含有量(質量%)を表す。
【0056】
本発明に係るはんだ合金を構成する元素は、従来のはんだ合金と同程度の液相線温度と固相線温度であり、表面張力が低減し、引張強度とシェア強度の向上に寄与する。このため、(1)式を満たすと、これらの効果を1組成で更に向上させることができる。また、(2)式は、固溶強化および析出強化に寄与するとともに、化合物の形成により表面張力を低下させることにより濡れ性を向上させる元素から構成される。(1)式および(2)式は、本発明の好ましい態様であるため、これらの式を満たさない合金組成であっても、前述のように各構成元素の含有量が適正であれば、実用上問題ない程度の効果は得られる。これらの式を同時に満たす合金組成では、本発明におけるすべての評価が最高水準に達する。
【0057】
(1)式の上限は好ましくは0.0148以下であり、より好ましくは0.0145以下であり、更に好ましくは0.0143以下であり、特に好ましくは0.0140以下であり、最も好ましくは0.0136以下であり、0.0129以下、0.0124以下、0.0119以下、0.0114以下、0.0113以下、0.0112以下であってもよい。(1)式の下限は好ましくは0.0049以上であり、より好ましくは0.0050以上であり、更に好ましくは0.0059以上であり、特に好ましくは0.0065以上であり、最も好ましくは0.0069以上であり、0.0071以上、0.0083以上、0.0085以上、0.0086以上、0.0095以上、0.0105以上であってもよい。
(1)式の更に好ましい範囲は、0.0050~0.0119である。上記上限および下限は、各々(1)式の更なる好ましい範囲を規定することができる。
【0058】
(2)式の上限は好ましくは88.3以下であり、より好ましくは85.0以下であり、更に好ましくは81.0以下であり、更により好ましくは80.0以下である。(2)式の下限は好ましくは49.4以上であり、より好ましくは51.0以上であり、更に好ましくは68.0以上であり、特に好ましくは75.0以上である。
(2)式の更に好ましい範囲は、51.0~85.0である。上記上限および下限は、各々(1)式の更なる好ましい範囲を規定することができる。
【0059】
(1)式および(2)式の計算には、合金組成の実測値である表1および表2に示す数値を用いた。(1)式および(2)式より算出される値については、(1)式は小数点第4位まで、(2)式は小数点第1位まで算出する。この計算規則は本出願で使用され、また、すべての組成物が同じ方法で扱われなければならないため、他の文献などで説明されるさらなる組成物に関する計算にも同様に使用されることを意図している。
【0060】
(8) 質量%で、Ge、Ga、As、Pd、Mn、Zn、Zr、およびMgの少なくとも1種を合計で0.1%以下
本発明に係るはんだ合金は、本発明の効果が損なわれない範囲において、任意元素を含有してもよい。これらの任意元素は、合計で0.1%以下であれば本発明の効果が維持される。
【0061】
(9) 残部:Sn
本発明に係るはんだ合金の残部はSnである。前述の元素の他に不可避的不純物を含有してもよい。本発明に係るはんだ合金の残部は、Sn及び不可避的不純物からなるものであってもよい。不可避的不純物を含有する場合であっても、前述の効果に影響することはない。なお、Niははんだ継手の接合界面に析出する化合物の遊離を促進するため、含有しない方がよい。
【0062】
本発明で評価した表面張力の値は、静的表面張力であり、ペンダントドロップ法を用いて評価される。本発明で採用するペンダントドロップ法では、管(ニードル)の先端から液体を押し出し、ニードルの先端に形成された液滴の形状から表面張力を算出する。従来のようにCuとの接触角を求める手法では、Cuなどの表面性状に応じて測定値が変動するため、はんだ合金自体の表面張力は測定されていなかった。しかし、本発明では、電極の材質や表面性状などに依存しないはんだ合金自体の表面張力を測定することにより、はんだ合金自体の濡れ性を評価することができる。本発明に係るはんだ合金では、表面張力が0.515N/m以下であれば十分に電極などに濡れることができ、0.515超~0.535N/m以上であれば、問題なく電極などに濡れる。0.535N/mを超える場合には、濡れ性が劣る。
【0063】
2. はんだペースト
本発明に係るはんだペーストは、上述の合金組成からなるはんだ粉末とフラックスとの混合物である。本発明において使用するフラックスは、常法によりはんだ付けが可能であれば特に制限されない。したがって、一般的に用いられるロジン、有機酸、活性剤、そして溶剤を適宜配合したものを使用すればよい。本発明において金属粉末成分とフラックス成分との配合割合は特に制限されないが、好ましくは、金属粉末成分:70~90質量%、フラックス成分:10~30質量%である。
【0064】
3. はんだボール
本発明に係るはんだ合金は、はんだボールとして使用することができる。はんだボールとして使用する場合は、本発明に係るはんだ合金を、当業界で一般的な方法である滴下法を用いてはんだボールを製造することができる。また、はんだボールを、フラックスを塗布した1つの電極上にはんだボールを1つ搭載して接合する等、当業界で一般的な方法で加工することによりはんだ継手を製造することができる。はんだボールの粒径は、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上であり、特に好ましくは30μm以上である。はんだボールの粒径の上限は好ましくは3000μm以下であり、より好ましくは1000μm以下であり、さらに好ましくは800μm以下であり、特に好ましくは600μm以下である。
【0065】
4. はんだプリフォーム
本発明に係るはんだ合金は、プリフォームとして使用することができる。プリフォームの形状としては、ワッシャ、リング、ペレット、ディスク、リボン、ワイヤー等が挙げられる。
【0066】
5. はんだ継手
本発明に係るはんだ継手は、少なくとも2つ以上の被接合部材の接合に好適に使用される。被接合部材とは、例えば、素子、基板、電子部品、プリント基板、絶縁基板、ヒートシンク、リードフレーム、電極端子等を用いる半導体及び、パワーモジュール、インバーター製品など、本発明に係るはんだ合金を用いて電気的に接続されるものであれば特に限定されない。
【0067】
本発明に係るはんだ合金を用いた接合方法は、例えばリフロー法を用いて常法に従って行えばよい。フローソルダリングを行う場合のはんだ合金の溶融温度は概ね液相線温度から20℃程度高い温度でよい。また、本発明に係るはんだ合金を用いて接合する場合には、凝固時の冷却速度を考慮した方がさらに合金組織を微細にすることができる。例えば2~3℃/s以上の冷却速度ではんだ継手を冷却する。この他の接合条件は、はんだ合金の合金組成に応じて適宜調整することができる。
【0068】
6. 車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、ECU電子回路装置
本発明に係るはんだ合金は、自動車に搭載する電子回路のはんだ付けに用いてもよい。
【0069】
そのような電子回路を構成する電子部品としては、チップ抵抗部品、多連抵抗部品、QFP、QFN、パワートランジスタ、ダイオード、コンデンサ等が例示される。これらの電子部品を組み込んだ電子回路は基板上に設けられ、電子回路装置を構成するのである。
【0070】
本発明において、そのような電子回路装置を構成する基板、例えばプリント配線基板は特に制限されない。またその材質も特に制限されないが、耐熱性プラスチック基板(例:高Tg低CTEであるFR-4)が例示される。プリント配線基板としては、Cuランド表面をアミンやイミダゾール等の有機物(OSP:OrganicSurfaceProtection)で処理したプリント配線基板が好ましい。
【0071】
7. その他
本発明に係るはんだ合金は、その原材料として低α線量材を使用することにより低α線量合金を製造することができる。このような低α線量合金は、メモリ周辺のはんだバンプの形成に用いられるとソフトエラーを抑制することが可能となる。
【実施例】
【0072】
本発明を以下の実施例により説明するが、本発明が以下の実施例に限定されることはない。
本発明の効果を立証するため、表2および表3に記載のはんだ合金を用いて、(1)固相線温度および液相線温度、(2)表面張力、(3)引張強度、および(4)シェア強度を評価した。
【0073】
(1) 固相線温度および液相線温度
表1及び表2に記載した各合金組成を有するはんだ合金について、DSC曲線から各々の温度を求めた。DSC曲線は、セイコーインスツルメンツ社製のDSC(型番:Q2000)により、大気中で5℃/minで昇温して得られた。得られたDSC曲線から液相線温度を求め、溶融温度とした。また、DSC曲線から固相線温度も評価した。固相線温度が206℃以上であるとともに、液相線温度が230℃未満である場合には、「◎」と判定した。固相線温度が206℃未満であるとともに液相線温度が230℃未満である場合、もしくは固相線温度が206℃以上であるとともに液相線温度が230℃以上240℃未満である場合には、「〇」と判定した。液相線温度が240℃以上である場合には、「×」と判定した。
【0074】
(2) 表面張力
表1及び表2に記載した各合金組成を有するはんだ合金について、接触角計(協和界面科学株式会社製、型番DM-700)を用い、窒素雰囲気(酸素濃度2000ppm以下)、250℃の雰囲気で、ペンダントドロップ法で測定した。形成された表面張力は、協和界面科学社製の画像処理式固液界面解析システム DropMaster 500を用いて求めた。表面張力が0.515N/m以下である場合には「◎」と判定し、0.515N/mを超えるとともに0.535N/m以下である場合には「〇」と判定し、0.535N/mを超える場合には「×」と判定した。
【0075】
(3) 引張強度
引張強度はJISZ3198-2に準じて測定された。表1および表2に記載の各はんだ合金について、金型に鋳込み、ゲージ長が30mm、直径8mmの試験片が作製された。作製された試験片は、Instron社製のType5966により、室温で、6mm/minのストロークで引っ張られ、試験片が破断したときの強度が計測された。また、試験前の断面積S0に対する試験片の破断部分の断面積S1の割合から、絞りが計測された。引張強度が40MPa以上の場合には「◎」と評価し、35MPa以上40MPa未満の場合には「〇」と評価し、35MPa未満の場合には「×」と評価した。
【0076】
(4) シェア強度
(4-1)ペーストの作製
表1及び表2に示す各はんだ合金の粉末をアトマイズ法により作製した。この合金の粉末をロジン、溶剤、チキソ剤、有機酸等を含むフラックス(千住金属工業株式会社製「GLV」)と混和してはんだペーストを作製した。はんだペーストの合金粉末は88質量%とし、フラックスは質量12%とした。このソルダペーストを6層のプリント基板(FR-4、Cu-OSP)のCuランドに150μmのメタルマスクでペースト印刷した後、3216のチップ抵抗器をマウンターで実装した。その後、最高温度245℃、保持時間40秒の加熱条件、リフロー雰囲気がN2(酸素濃度2000ppm以下)で溶融させてリフローを行い、はんだ付けを行って試験基板を作製した。
【0077】
(4-2)シェア強度の測定
シェア強度試験は、上記試験基板に対して、継手強度試験機STR-5100を用いて、25℃で、試験速度6mm/min、試験高さは100μmの条件で行った。シェア強度が90MPa以上である場合に「◎」と判定し、85MPa以上90MPa未満である場合には「〇」と判定し、85MPa未満である場合には「×」と判定した。
【0078】
【0079】
【0080】
表1および表2から明らかなように、実施例1~40はいずれも必須元素であるAg、Cu、Bi、Sb、In、Fe、およびCoの含有量が本発明の範囲内であるため、すべての評価判定が「〇」もしくは「◎」であった。特に、(1)式および(2)式を満たす実施例2、3、6、7、12~17、20、25、26、28、および32~40は、いずれも、すべての評価判定が「◎」であり、実施例の中でも優位性がある結果を示した。
【0081】
一方、比較例1および比較例2は、Agの含有量が適正ではないため、シェア強度が劣った。比較例3は、Cuの含有量が少ないため、表面張力、引張強度、およびシェア強度が劣った。比較例4は、Cuの含有量が多いため、シェア強度が劣った。
【0082】
比較例5は、Biの含有量が少ないため、表面張力、引張強度、およびシェア強度が劣った。比較例6は、Biの含有量が多いため、シェア強度が劣った。比較例7は、Sbの含有量が少ないため、引張強度、およびシェア強度が劣った。比較例8は、Sbの含有量が多いため、表面張力、およびシェア強度が劣った。
【0083】
比較例9は、Inの含有量が少ないため、表面張力、引張強度、およびシェア強度が劣った。比較例10は、Inの含有量が多いため、シェア強度が劣った。比較例11は、Feの含有量が少ないため、表面張力が劣った。比較例13は、Coの含有量が少ないため、シェア強度が劣った。比較例14は、Coの含有量が多く液相線温度が上昇し、高い表面張力を示した。
【0084】
引張強度試験後の断面を観察した結果を
図1および
図2に示す。
図1は、引張強度試験後の断面を1000倍に拡大したSEM写真であり、
図1(a)は比較例9であり、
図1(b)は実施例12であり、
図1(c)は実施例14である。
図2は、
図1を3000倍に拡大したSEM写真であり、
図2(a)は比較例9であり、
図2(b)は実施例12であり、
図2(c)は実施例14である。
図1および
図2から明らかなように、実施例12および実施例14ではInSb、Ag
2In、およびAg
3Inが析出していることがわかった。また、実施例14では、InSb、Ag
2In、およびAg
3Inに加えて、Cu
6Sn
5が析出していることがわかった。
【0085】
下記表3は、表1および表2の中から任意に選択した実施例および比較例について、本実施例で評価した濡れ性の結果と、従来から行われているメニスコグラフ法を用いた評価結果と、を示す。
【0086】
メニスコグラフ法は、以下のように評価された。
(1)試験板の作製
フラックス(千住金属工業株式会社製「ES-1100」)を、銅板(幅10mm×長さ30mm×厚さ0.3mm)に対して塗布した。フラックスを塗布した銅板を、120℃で15分間、大気雰囲気で加熱処理して、試験板を得た。このような試験板を、表3に示す各実施例及び比較例のそれぞれについて、5枚ずつ用意した。
【0087】
(2)評価方法
得られた試験板を、それぞれ、表3に示す合金組成を有する溶融はんだが導入されているはんだ槽に浸漬させ、ゼロクロスタイム(sec)を得た。ここで、試験装置としてSolder Checker SAT-5100(RHESCA社製)を用い、次のように評価した。各実施例及び各比較例の5枚の試験板のゼロクロスタイム(sec)の平均値により、はんだ濡れ性を評価した。試験条件は、以下のように設定した。
【0088】
はんだ槽への浸漬速度:10mm/sec
はんだ槽への浸漬深さ:4mm
はんだ槽への浸漬時間:10sec
はんだ槽温度:255℃
ゼロクロスタイム(sec)の平均値が短いほど、濡れ速度は速くなり、はんだ濡れ性が良いことを意味する。
【0089】
(3)判定基準
ゼロクロスタイム(sec)の平均値が1.2秒以下である場合には「◎」と判定し、1.2秒を超え、1.3秒以下である場合には「〇」と判定し、1.3秒を超える場合には、「×」と判定した。
【0090】
【0091】
表3から明らかなように、メニスコグラフ法と、本実施例で評価したペンダントドロップ法とでは、異なる評価結果になることがあることがわかった。また、メニスコグラフ法では評価結果が「◎」である合金組成であっても、ペンダントドロップ法では「〇」である評価結果であった。このため、本実施例で評価したペンダントドロップ法では、溶融はんだ自体の濡れ性を直接評価することができるため、より厳密に濡れ性を評価することができることがわかった。
【要約】 (修正有)
【課題】表面張力を低く抑え、且つ引張強度およびシェア強度が高いことにより優れた信頼性を有するはんだ合金、はんだペースト、はんだボール、はんだプリフォーム、はんだ継手、車載電子回路、ECU電子回路、車載電子回路装置、およびECU電子回路装置の提供。
【解決手段】はんだ合金は、質量%で、Ag:3.0~4.0%、Cu:0.1~1.0%、Bi:0.1~1.5%、Sb:3.0~6.0%、In:0.2~6.0%、Fe:0.020~0.040%、Co:0.001~0.020%、および残部がSnからなる合金組成を有する。好ましくは、合金組成は、更に、質量%で、Ge、Ga、As、Pd、Mn、Zn、Zr、およびMgの少なくとも1種を合計で0.1%以下を含有する。
【選択図】
図1