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  • 特許-装飾用ガラス物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】装飾用ガラス物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/12 20060101AFI20240731BHJP
   C03C 3/14 20060101ALI20240731BHJP
   C03C 3/145 20060101ALI20240731BHJP
   C03C 3/15 20060101ALI20240731BHJP
   C03C 3/155 20060101ALI20240731BHJP
   A44C 27/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C03C3/12
C03C3/14
C03C3/145
C03C3/15
C03C3/155
A44C27/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020033380
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2020172427
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019072600
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 晋作
(72)【発明者】
【氏名】榎本 朋子
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105461222(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107324660(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106477877(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104445925(CN,A)
【文献】特開2015-074572(JP,A)
【文献】特開2012-171848(JP,A)
【文献】特開平07-002544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
A44C 27/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、La 14~63%、 0.1~25%、SiO 10%以下、Bi 10%以下を含有し、酸化鉛を実質的に含有せず、屈折率が2.2以上、かつアッベ数が42以下であることを特徴とする装飾用ガラス物品。
【請求項2】
着色度λ5が395以下であることを特徴とする請求項1に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項3】
モル%で、La 14~63%、B 0.1~25%、Al 0~50%、ZrO 0~40%、Nb 0~80%、Gd 0~60%、Ta 0~60%、La+Nb+Ta+Gd 14~95%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項4】
さらにモル%で、TiO 0~85%を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項5】
面取り加工が施されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項6】
疑似宝石であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の装飾用ガラス物品を備えることを特徴とする装飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指輪、ペンダント、イヤリング、ブレスレット等の装飾品用途に好適な装飾用ガラス物品に関する。
【背景技術】
【0002】
日本硝子工業会によれば、クリスタルガラスは「酸化鉛を主要成分として含むガラス、および酸化カリウム、酸化バリウム、酸化チタニウム等を主要成分として含むガラスで、高い透明度を有し、かつ屈折率ndが1.52以上で光沢のある美しい輝き、および済んだ音色で特徴づけられる」と定義されている。これらのクリスタルガラスは、輝き、透明性、反響、重厚感、加工性等に優れ、装飾品(宝飾品、芸術品、食器等)に用いられている。
【0003】
しかし、鉛を含有するクリスタルガラスは人体に有害であり、かつ傷が付き易いという問題があることから、実質的に鉛を含まないクリスタルガラスの開発がなされている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2588468号公報
【文献】特許第4950876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載された無鉛クリスタルガラスは、装飾品としての十分な輝きが得られない。また、「ファイア」と呼ばれる虹色の輝きも弱い傾向がある。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、輝きとファイアに優れた装飾用ガラス物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の装飾用ガラス物品は、酸化鉛を実質的に含有せず、屈折率が1.9以上、かつアッベ数が40以下であることを特徴とする。本発明のガラス物品は屈折率が高いため、ガラス物品の内部と外部(大気)との屈折率差が大きくなり、ガラス物品内部で光が反射しやすくなる。その結果、装飾用ガラス物品としての十分な輝きを得やすくなる。また、本発明のガラス物品はアッベ数が小さく、高分散であるため、ファイアが発現しやすくなる。なお本明細書において「実質的に含有しない」とは、ガラス組成として意図的に含有させないことを意味し、不可避的不純物の混入を排除するものではない。客観的には、含有量がモル%で0.1%未満であることを意味する。
【0008】
本発明の装飾用ガラス物品は、着色度λが395以下であることが好ましい。このようにすれば、可視光が透過しやすくなるため、無色透明になりやすい。なお「着色度λ」とは、厚み10mmでの透過率曲線において光透過率が5%となる最短波長(nm)を示す。
【0009】
本発明の装飾用ガラス物品は、酸化ビスマスの含有量が、モル%で30%以下であることが好ましい。酸化ビスマスを含有させると、ガラス物品が過度に着色してファイアに劣る傾向がある。そこで、酸化ビスマスの含有量を少なくすることにより、ファイアに優れたガラス物品としやすくなる。
【0010】
本発明の装飾用ガラス物品は、モル%で、La 0~63%、B 0~40%、Al 0~50%、ZrO 0~40%、Nb 0~80%、Gd 0~60、Ta 0~60%を含有し、La+Nb+Ta+Gd 0.1~100%を含有することが好ましい。ガラス組成をこのように規定することにより、所望の光学定数を有するガラス物品を得やすくなる。
【0011】
本発明の装飾用ガラス物品は、さらにモル%で、TiO 0~85%を含有することが好ましい。
【0012】
本発明の装飾用ガラス物品は、面取り加工が施されていることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品内部で光が反射しやすくなり、輝きを高めることが可能となる。
【0013】
本発明の装飾用ガラス物品は疑似宝石として好適である。
【0014】
本発明の装飾品は、上記の装飾用ガラス物品を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、輝きとファイアに優れた装飾用ガラス物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例におけるNo.8、34及び35の試料を示す平面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の装飾用ガラス物品は、屈折率(nd)が1.9以上であり、2.0以上、2.1以上、2.2以上、特に2.25以上であることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品の内部と外部(大気)との屈折率差が大きくなり、ガラス物品内部で光が反射しやすくなる。その結果、装飾用ガラス物品としての十分な輝きを得やすくなる。なお、屈折率の上限は特に限定されないが、大きすぎるとガラス化が不安定になるため、2.6以下、2.5以下、特に2.4以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の装飾用ガラス物品のアッベ数(νd)は42以下、40以下、35以下、30以下、特に25以下であることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品が高分散となり、ファイアが発現しやすくなる。なお、アッベ数の下限は特に限定されないが、小さすぎるとガラス化が不安定になるため、10以上、特に15以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の装飾用ガラス物品の組成は、上記の光学特性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、モル%で、La 0~63%、B 0~40%、Al 0~50%、ZrO 0~40%、Nb 0~80%、Gd 0~60、Ta 0~60%し、La+Nb+Ta+Gd 0.1~100%を含有するものが挙げられる。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。
【0020】
Laはガラス骨格を形成する成分であり、透過率を低下させることなく屈折率を高める成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。Laの含有量は0~63%、0~60%、特に1~55%であることが好ましい。Laの含有量が少なすぎると、上記効果が得にくくなる。一方、Laの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0021】
Nbは屈折率を高める効果が大きい成分であり、アッベ数を低下させ高分散にする成分である。またガラス化範囲を広げる効果もある。Nbの含有量は0~80%であり、1~78%、5~75%、10~73%、特に20~70%であることが好ましい。Nbの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0022】
Gdは屈折率を高める成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。ただし、Gdの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。従って、Gdの含有量は0~60%、0.1~60%、1~50%、2~45%、特に3~40%であることが好ましい。
【0023】
Taは屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、Taの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなり、また原料コストが高くなる傾向がある。従って、Taの含有量は0~60%、0.1~60%、1~50%、2~45%、特に3~40%であることが好ましい。
【0024】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。従って、Bの含有量は0~40%、0.1~40%、1~30%、2~25%、特に3~20%であることが好ましい。
【0025】
Alはガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Alの含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。従って、Alの含有量は0~50%、0.1~40%、1~30%、2~25%、特に3~20%であることが好ましい。
【0026】
ZrOは屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、ガラス化範囲を広げる効果がある。ただし、ZrOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなり、また溶融温度が高くなりすぎる。従って、ZrOの含有量は0~40%、0.1~40%、1~30%、2~25%、特に3~20%であることが好ましい。
【0027】
La+Nb+Ta+Gdの含有量は好ましくは0.1~100%、より好ましくは10~95%、特に好ましくは20~90%である。La+Nb+Ta+Gdが少なすぎると、所望の屈折率、アッベ数が得にくくなる。
【0028】
本発明の装飾用ガラス物品には、上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0029】
TiOは屈折率を高める効果が大きい成分であり、化学的耐久性を高める効果もある。またアッベ数を低下させ高分散にする効果もある。TiOの含有量は0~85%、0.1~83%、5~80%、10~80%、30~77%、特に50~75%であることが好ましい。TiOの含有量が多すぎると、吸収端が長波長側にシフトするため可視光(特に短波長域の可視光)の透過率が低下しやすくなる。また、ガラス化しにくくなる。
【0030】
本発明の装飾用ガラス物品に使用するガラスには、所望の色調を付与するため、上述したもの以外の遷移金属酸化物や希土類酸化物といった着色成分を含有させてもよい。具体的には、遷移金属酸化物としては、Cr、Mn、Fe、CoO、NiO、CuO、V、MoO、RuO等が挙げられる。希土類酸化物としては、CeO、Nd、Eu、Tb、Dy、Er等が挙げられる。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物は単独で含有させてもよく、2種以上を含有させてもよい。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物の含有量(2種以上含有させる場合は合量)は、0~5%、0.001~3%、0.01~2%、特に0.02~1%であることが好ましい。なお、含有させる成分によっては着色が強くなりすぎて、可視域透過率が低下し、所望の輝きやファイアが得られない場合がある。その場合は、上記の遷移金属酸化物及び希土類酸化物の含有量を1%未満、0.5%以下、さらには0.1%以下としてもよい。
【0031】
本発明の装飾用ガラス物品に使用するガラスには、上記成分以外にも、ガラス化範囲を広げるためSiO、ZnO、MgO、CaO、SrO、BaO等を各々10%以下の範囲で含有させてもよい。
【0032】
なお酸化ビスマス(Bi)を含有させると、ガラス物品が過度に着色してファイアに劣る傾向がある。従って、本発明の装飾用ガラス物品における酸化ビスマスの含有量は、モル%で30%以下、20%以下、10%以下、特に1%以下であることが好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0033】
本発明の装飾用ガラス物品は、人体に有害である酸化鉛を実質的に含有しない。
【0034】
本発明の装飾用ガラス物品は、La、Nb、B等のガラス化範囲を広げる成分を積極的に含有させることにより、ガラス作製時における不当な結晶化を抑制し、ガラス物品のサイズを大きくする(例えば、直径2mm以上、3mm以上、4mm以上、特に5mm以上)ことが容易になる。
【0035】
本発明の装飾用ガラス物品に使用するガラスの着色度λは395以下、390以下、380以下、特に370以下であることが好ましい。このようにすれば、可視光が透過しやすくなるため、無色透明のガラスが得やすくなる。また、輝きやファイアを高めやすくなる。
【0036】
本発明の装飾用ガラス物品に使用するガラスの密度が高いほど、外観の重厚感が増し、装飾用ガラス物品(特に宝飾用ガラス物品)としての高級感が高まるため好ましい。ガラスの密度としては、例えば3g/cm以上、4g/cm以上、特に5g/cm以上であることが好ましい。
【0037】
本発明の装飾用ガラス物品は、宝飾品、芸術品、食器等の装飾品用途に使用することができる。例えば、指輪、ペンダント、イヤリング、ブレスレット等の装飾品(宝飾品)に疑似宝石として取り付けて使用することができる。装飾用ガラス物品の形状は特に限定されず球形、楕球形、多面体等が挙げられる。
【0038】
本発明の装飾用ガラス物品は、いわゆるブリリアント加工等の面取り加工が施されていることが好ましい。このようにすれば、ガラス物品内部で光が反射しやすくなり、輝きを高めることが可能となり、特に疑似宝石として好適となる。
【実施例
【0039】
以下、本発明の装飾用ガラス物品について、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
表1~4は本発明の実施例(No.1~33)及び比較例(No.34~35)を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
まず表に示す各ガラス組成となるように原料を調合して原料バッチを作製した。得られた原料バッチを均質になるまで溶融した後、急冷してガラス試料を得た。なお溶融温度は、試料No.1~33は1500~2000℃、試料No.34~35は1400~1500℃とした。得られたガラス試料はガラス転移温度付近(450~700℃)でアニールした後、下記の方法により、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、着色度(λ)の測定、及び外観評価(輝き、ファイア、色調)を行った。
【0046】
屈折率(nd)、アッベ数(νd)は、ガラス試料に対して直角研磨を行い、KPR-2000(島津製作所製)を用いて測定した。屈折率(nd)はヘリウムランプd線(587.6nm)に対する測定値で評価した。アッベ数(νd)は上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd-1)/(nF-nC)}の式から算出した。
【0047】
着色度(λ)は、10±0.1mmの厚さに研磨したガラス試料について分光透過率を測定し、得られた透過率曲線において透過率5%と示す波長を採用した。なお、分光透過率は日本分光製V-670を用いて測定した。
【0048】
外観評価を次のように行った。まず、各試料の平面形状が5~7mmφ程度の大きさになるようにブリリアント加工を行った。次に、加工したガラス試料について、蛍光灯光源下で目視にて、輝き及びファイアを評価した。評価は以下に示す4段階で行った。また、目視による色調評価を行った。なお、No.8、34及び35の試料の平面写真を図1に示す。
【0049】
[輝き]
◎:輝いて見え、輝きが強い。
○:輝いて見える。
△:少しだけ輝いて見える。
×:ほとんど輝いて見えない(ガラス窓と同程度)。
【0050】
[ファイア]
◎:虹色(様々な色)の輝きが見える。
○:虹色の輝きが見えるが、色数が少ない。
△:少しだけ虹色の輝きが見える。
×:虹色の輝きはほとんど見えない。
【0051】
表1~4から明らかなように、実施例であるNo.1~33の試料は屈折率が1.90以上、アッベ数が41.4以下であり、輝き及びファイアが良好であった。一方、比較例試料No.34~35は、屈折率が1.56以下と低く、アッベ数が45以上と高いため、輝き及びファイアに劣っていた。
図1