(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】昇圧リアクトル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
H01F37/00 G
H01F37/00 J
H01F37/00 F
H01F37/00 M
H01F37/00 S
(21)【出願番号】P 2020185811
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山口 喬之
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-119415(JP,A)
【文献】特開2010-166013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対応する脚部の端面を突合せて閉磁路を構成する1対のE型コアと、
該1対のE型コアを互いに突合せて閉磁路を構成した状態において、該1対のE型コアの中脚部分に巻回した状態で装着される平角線からなる1つのコイル部と、
前記1対のE型コアと該コイル部を互いに組み合わせた組立体の全体を収納し得る高さを有するとともに、該コイル部の入力端および出力端を通過させる側の側壁部に、該入力端および該出力端を通過させる深さを有する切欠き部を備えた金属ケース本体、および該切欠き部に係合し、該切欠き部を塞いだ状態で該金属ケース本体に支持され、該入力端および該出力端に、各々密着させつつ挿通させる1対の貫通孔を備えたブラケット、とを組合せてなる金属ケースと、
該金属ケース内において、前記組立体の全体が浸漬されるまで充填された冷却用充填剤と、を備え
、
前記E型コアの外脚部分の高さを、前記中脚部分の高さよりも低く形成したことを特徴とする昇圧リアクトル装置。
【請求項2】
前記金属ケース本体を形成する材料はアルミニウムからなり、前記ブラケットを形成する材料が絶縁性の樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の昇圧リアクトル装置。
【請求項3】
前記ブラケットの、前記金属ケース本体との係合部には、該金属ケース本体の切欠き部の縁部と嵌合する、溝状のガイド部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の昇圧リアクトル装置。
【請求項4】
前記冷却用充填剤が、流動性を有する樹脂からなることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の昇圧リアクトル装置。
【請求項5】
前記ブラケットに設けられた1対の貫通孔は各々、前記平角線が立てられた状態で挿通し得るように、前記金属ケース本体の高さ方向に長い細長形状とされていることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載の昇圧リアクトル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車やハイブリッド車に搭載される昇圧用のリアクトル装置に関し、詳しくは、閉磁路を構成するコアの一部に平角線からなるコイル部を巻回してなる昇圧リアクトル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、HEV用の昇圧リアクトル装置については、放熱効果を向上させることを目的として、アルミケース内にリアクトル本体を収容し、このアルミケース内に熱伝導樹脂を充填する構成のものが知られている。このような、従来の昇圧リアクトル装置のリアクトル本体の構成としては、1対のU型コアを、両脚部の先端部を互いに突き合せることにより環状のコア部とするとともに、U型コアの突き合せた脚部に各々、平角線からなるコイルを巻回するようにして、2つのコイル部を配したものが知られている(特許文献1を参照)。
一方、電子部品等の実装スペースをできる限りコンパクト化することがHEV車等に求められており、HEV用の昇圧リアクトル装置等においては、少しでも低背化することが大命題とされていることから、上述したような構成とされた昇圧リアクトル装置の場合には、平角線コイルの入出力端末部分は巻回されたコイルの上面部から上方に持ち上げることなく水平に引き出される。
さらに、平角線コイルとアルミケースの間には絶縁をとる必要があるため、アルミケースの高さが平角線の入出力端末部分の引き出し位置よりも下方になるように配される。
【0003】
このようにアルミケースの高さが平角線の引き出し位置よりも低くなることから、巻回コイルの上方部分はアルミケース内に充填された熱伝導樹脂から露出した状態となってしまう。このため、昇圧リアクトル装置の最大発熱部は巻回コイル上部に偏ることが一般的であり、装置の定格温度は最高温度が基準とされるため、巻回コイル上部の温度に合わせて昇圧リアクトル装置の出力を低下せざるを得ない。
したがって、装置の低背化を図りつつリアクトル本体を、なるべく上方まで上記熱伝導樹脂に浸漬し得る構成とすることが要請されていた。
このような要請に応じて構成された、従来の昇圧リアクトル装置本体の具体的な態様を表すと、大略、
図9A、B、Cに示すようなタイプのものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、
図9A、B、Cに示すような構成とされた従来のHEV用の昇圧リアクトル装置によっては以下のような問題があった。
すなわち、
図9A(b)のように各コイル部303A、304Aの端末部分303B、304Bを、各コイル部303A、304Aの長さを互いに等しくしたまま、エッジワイズ曲げにより折り曲げてリアクトルの同一側部側に引き出す場合、各コイル部303A、304Aの端末部分同士が交差しないように、この側部側から遠い方のコイル部303Aの端末部分303Bは、近い方のコイル部304Aの端末部分304Bよりも、少なくともコイル幅分は高い位置で引き出す必要があり、このため装置全体の高さが大きくなり低背化の要請に応えられなくなる。
一方、
図9A(a)のように、各コイル部303A、304Aの端末部分303B、304Bを、エッジワイズ曲げにより折り曲げて、各々のコイル部303A、304Aを近い側部側に引き出すようにすれば、低背化の要請には応えられるが、コイル部303A、304Aの端末部分303B、304Bに対応する端子台や絶縁樹脂部品等が、コイル部303A、304A毎に必要となるため、コスト的な面から採用することが困難である。
【0006】
また、
図9B(a)、(b)に示すように、コイル部403A、404Aが配されないベースコア部410A、Bのコアの体積を増やすように、この部分の高さを
図9A(a)、(b)に示すものよりも高くして、コイル部403A、404Aの上面位置の高さと同等とする形状のものも工夫されているが、このような形状のものにおいても、上記
図9A(a)、(b)と同様の問題が発生する。
【0007】
また、
図9A(a)、(b)や
図9B(a)、(b)における、コイル部303A、304A、403A、404Aの端末部分303B、304B、403B、404Bの引き出し方向と直交する方向に配線を引き出す工夫もされているが、各コイル部303A、304A、403A、404Aの端末部分303B、304B、403B、404Bの幅広面と端子台等のバスバーの幅広面を接合するような溶接方法をとる場合、平角線の幅広面が端子台のバスバー等と平行な状態となるように設定する必要があるが、このままでは平角線の幅広面がバスバーの幅広面と直交する状態に設定されてしまう。そのため、
図9C(a)に示すように、コイル部503A、504Aの端末部分503B、504Bをフラットワイズ曲げにより折り曲げた後、上記所望の状態となるように90°捩るような工夫がなされる。しかし、端末部分503B、504Bを90°捩るような形状とした場合、端末部分503B、504Bの幅広面と端子台等のバスバーの幅広面を接合する溶接方法は可能となるものの、平角線を捩ったことにより、コイル部503A、504Aが配されないベースコア部510A、Bの上方にスペースが余計に必要となりコンパクト化や低背化の要請に反するものとなってしまう。
また、
図9C(b)に示すように、
図9B(a)、(b)と同様に、コイル部503A、504Aが配されないベースコア部510A、Bの高さを高くして、コイル部503A、504Aの上面位置の高さと同等とする形状のものにおいては、
図9C(a)のものよりも、さらに端末部分503B、504Bの位置が高くなるため、よりコンパクト化や低背化の要請に反するものとなってしまう。
【0008】
このように、Uコアを用いた、
図9A、B、Cのいずれの構成の昇圧リアクトル装置においても、磁気的なバランスをとるために設けられた2つのコイル部303A、304A、403A、404A、503A、504Aの端末部分303B、304B、403B、404B、503B、504Bの引き出し処理が、装置のコンパクト化や低背化を妨げるものとなってしまう。
さらに、上述した
図9A、B、Cのいずれの構成の昇圧リアクトル装置においても、リアクトル本体全体を上述した熱伝導樹脂に浸漬することが困難であり、リアクトル本体上部の発熱低減効果を向上させることができず、昇圧リアクトル装置の出力を低下せざるを得ない。
【0009】
本発明は、上述したような問題を解決するためになされたものであり、ケース内に配置された、コイル部を含むリアクトル本体全体を冷却用の熱伝導樹脂に浸漬させることを可能にしつつ、装置全体のコンパクト化および低背化を実現するとの課題を抜本的に改善し得る昇圧リアクトル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る昇圧リアクトル装置は、
互いに対応する脚部の端面を突合せて閉磁路を構成する1対のE型コアと、
該1対のE型コアを互いに突合せて閉磁路を構成した状態において、該1対のE型コアの中脚部分に巻回した状態で装着される平角線からなる1つのコイル部と、
前記1対のE型コアと該コイル部を互いに組み合わせた組立体の全体を収納し得る高さを有するとともに、該コイル部の入力端および出力端を通過させる側の側壁部に、該入力端および該出力端を通過させる深さを有する切欠き部を備えた金属ケース本体、および該切欠き部に係合し、該切欠き部を塞いだ状態で該金属ケース本体に支持され、該入力端および該出力端に、各々密着させつつ挿通させる1対の貫通孔を備えたブラケット、とを組合せてなる金属ケースと、
該金属ケース内において、前記組立体の全体が浸漬されるまで充填された冷却用充填剤と、を備え、
前記E型コアの外脚部分の高さを、前記中脚部分の高さよりも低く形成したことを特徴とするものである。
【0011】
また、前記金属ケース本体を形成する材料がアルミニウムからなり、前記ブラケットを形成する材料が絶縁性の樹脂からなることが好ましい。
また、前記ブラケットの、前記金属ケース本体との係合部には、該金属ケース本体の切欠き部の縁部と嵌合する、溝状のガイド部が形成されていることが好ましい。
【0012】
また、前記冷却用充填剤が、流動性を有する樹脂からなることが好ましい。
また、前記ブラケットに設けられた1対の貫通孔は各々、前記平角線が立てられた状態で挿通されるように、前記金属ケース本体の高さ方向に長い細長形状とされていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明の昇圧リアクトル装置では1対のE型コアと平角線よりなる1つのコイルを組み合せる構成を前提としている。
従来は、
図9A、B、Cを用いて説明したように、1対のU型コアと平角線よりなる2つのコイル部を組み合せる構成とすることが当業者の常識とされていたが、本発明において昇圧リアクトル装置に1対のE型コアと平角線よりなる1つのコイル部を組合せる構成を採用すれば本願発明の目的を達成し得るとの結論に至ったのには、本願発明者による発想の転換があり、それには以下のような時代背景が大きくかかわっている。
【0014】
すなわち、従来であれば、1対のE型コアと平角線よりなる1つのコイルを組み合せて、本発明の目的を達成し得る昇圧リアクトル装置を構成するような発想が生まれる余地はなかったと考えられるが、コア材料の進化と動作周波数の変化という技術的な進歩に本願発明者が着目したことにより、発想を転換することができ、本発明に到達し得たものである。
【0015】
まず、上記コア材料の進化とは、コアの形状の柔軟性が大幅に向上したことを意味する。すなわち、従来のコアとしては、ケイ素鋼板の板材を加工した「カットコア」が使用されており、板材を数十枚重ねてO字状に湾曲させて閉磁路を形成し、これを中央で切断して1対のU型コアを製造するようにしたものが一般的であった。
このため、昇圧リアクトル装置のコア形状(閉磁路構成形状)としては他の形状とすることが難しかった。また、このようなU型形状のコアと組み合わせ得るコイル部は、通常、各脚に各々巻回することになるため、1対の構成とされる。
しかし時代の変遷とともに、類似の材料を粉末にして混錬した圧粉コアが知られるようになってきている。圧粉コアは、磁性材料を金型で成型するタイプであり、異形状コアの成型が可能となってきたため、所望の特性が得られるコア形状を模索するようになってきている。
【0016】
一方、上述した動作周波数の変化とは以下のようなものである。
従来より、動作周波数が低い時よりも高い時の方がリアクトルに要求されるインダクタンスが小さくなることが知られている。
一方、大きなパワーのON/OFFをスイッチングする素子は周波数が高くなると、パワーロスが大きくなって発熱が過大となるため、システムを構成する上で大きな障害が発生していた。
時代の変遷とともに、素子の改善等が行われ、パワーロスを軽減することが可能となり、高い周波数でスイッチングをするシステムが徐々に利用できるようになったことから、インダクタンスを小さくした、コンパクトなリアクトルを利用可能となってきている。
【0017】
このような技術の進歩に着目し、本願発明者は、コイルの1ターン当たりに取得できるインダクタンスが大きいE型コアを1対突き合わせたコイル構造の中脚部分に、1つの平角線コイル部を組み合わせた基本構造をなす、昇圧リアクトル装置を発明するに至ったものである。
【0018】
このように1対のE型コアと平角線よりなる1つの平角線コイル部を組合せた構成を採用する場合にも、E型コアの中脚部分に巻回されたコイルの両端部を、入力端および出力端として外部に取り出す必要があるが、本発明の昇圧コイルにおいては、ケース本体に切欠き部を設けて、その切欠き部に、絶縁樹脂により形成されたブラケットを係合し、そのブラケットに穿設した貫通孔を通して、上記コイル部の入力端および出力端を外部に引き出し、それら入力端および出力端を外部端子と接続させるように構成することにより、コイルの巻回部上部位置から、その入力端および出力端を高さ方向に持ち上げることなくケース外部に引き出すことができる。
【0019】
また、このように、ケースを金属製のケース本体と絶縁樹脂製のブラケットに分割することで、ケース本体とコイル端末部分(入力端および出力端)間の絶縁性を確保することができる。
さらに、リアクトル本体全体をケース内に収容することができ、リアクトル本体全体が浸漬するように熱伝導樹脂を充填し、全体的に熱分布の均一化を図ることによって、最大発熱部の温度を低下させることができるので、装置の定格温度の低下を抑制しつつ装置の低背化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】本発明の実施形態に係る、昇圧リアクトル装置の全体を示す斜視図である。
【
図1B】
図1Aに示す昇圧リアクトル装置において、充填剤を充填する前の状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1Aに示す昇圧リアクトル装置の断面斜視図である。
【
図5】本実施形態におけるリアクトル本体を示し、(a)はコイル部の斜視図、(b)はE型コアの斜視図、(c)はコイル部とコアとを組み合わせた状態の斜視図である(コアはボビン(樹脂成型体)に封止された状態で表されている)。
【
図6A】本実施形態の対比例として、コイル上面が充填剤から露出した形態における連続負荷状態の温度分布を濃度変化により示すものである((a)は断面正面図、(b)は断面平面図、(c)は断面側面図である)。
【
図6B】本実施形態の対比例として、コイル上面が充填剤から露出した形態において、連続負荷状態とした後、短時間大負荷をかけた状態における温度分布を濃度変化により示すものである((a)は断面正面図、(b)は断面平面図、(c)は断面側面図である)。
【
図7A】本実施形態として、コイル上面が充填剤で覆われた非露出形態において、連続負荷状態の温度分布を濃度変化により示すものである((a)は断面正面図、(b)は断面平面図、(c)は断面側面図である)。
【
図7B】本実施形態として、コイル上面が充填剤で覆われた非露出形態において、連続負荷状態とした後、短時間大負荷をかけた状態における温度分布を濃度変化により示すものである((a)は断面正面図、(b)は断面平面図、(c)は断面側面図である)。
【
図8】(a)、(b)、(c)共に、本発明の実施形態のリアクトル組立体におけるE型コアの具体的な態様を示す斜視図である。
【
図9A】従来技術としてのU型コアを採用し、エッジワイズ曲げによるコイル配線でコア高さをすべて同じにした構成を示すものである((a)は一例の斜視図、(b)は他例の斜視図である)。
【
図9B】従来技術としてのU型コアを採用し、エッジワイズ曲げによるコイル配線でコイル巻回部以外高さが増加した構成を示すものである((a)は一例の斜視図、(b)は他例の斜視図である)。
【
図9C】従来技術としてのU型コアを採用し、フラットワイズ曲げによるコイル配線での構成を示すものである((a)は一例の斜視図、(b)は他例の斜視図である)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態に係る昇圧リアクトル装置について、
図1A、Bおよび
図2~5を適宜用いて説明する。本実施形態の昇圧リアクトル装置100は、上部が開口した金属(アルミニウム等)製等の熱伝導性の良い材料からなる金属ケース108と、その内部に収納された主にE型コア101A,B(
図5(a)を参照)とコイル部103からなるリアクトル組立体100Aと、前記金属ケース108およびリアクトル組立体100Aの間に注入された絶縁性を有する冷却用の充填剤110とを備えてなる。
【0022】
<コア部>
本発明の実施形態に係る昇圧リアクトル装置100は、1対のE型コア101A、Bを備える(
図5(b)を参照)。両E型コア101A、Bは、各ベースコア部101A4、101B4から直角に突出した各脚部(外脚コア部101A1、B1、中脚コア部101A3、B3、および外脚コア部101A2、B2)の先端が互いに対向するように端面を突き合わせる配置とすることで、
図5(b)に示すように、日字状のコア部が形成されて閉磁路が構成される。また、突き合わせられた棒状の中脚コア部101A3、B3の外周に、
図5(a)に示す1つのコイル部103が巻回されるように装着されて、
図5(c)に示すように、リアクトル組立体100Aが構成される。
なお、
図5(c)に示すように、E型コア101A、Bの外側には、後述の樹脂成型体104A、B(ボビンとE型コアの一体成形品)が装着され、コイル部103との絶縁が行われる。
【0023】
また、E型コア101A、Bを構成するコア部材は、鉄材によって形成されている。鉄系を用いることにより、高い磁気密度を実現し、かつ本構造により低下しやすい結合度を高く設定することができる。鉄系材料としては、電磁鋼板、圧粉磁心(純鉄、Fe-Si-AL系合金、Ni-Fe-Mo系合金、Ni-Fe系合金)、アモルファス等を用いることができる。
また、上記E型コア101A、Bの先端部は直接突き合わせても良いが、両先端部間にスペーサーを介在させてもよいし、エアギャップを設けてもよい。
【0024】
<コイル部>
また、上記コイル部103は平角線をエッジワイズ巻きによって巻回することにより形成されている。平角線は、
図1等に示すように帯状の扁平な導線であって、例えば、厚みが0.5~6.0mm、幅が1.0~16.0mm等とされたものが一般的に用いられる。平角線を用いることで占積率が向上し、コンパクト化を図ることができるとともに表皮効果についても優位とすることができる
。
【0025】
上記コイル部103は、1対のE型コア101A、Bに対して1つであり、突き合わせた中脚コア部101A3、B3に跨るように組付けられる。コイル部103は、平角線が矩形状に順次巻回されてなる巻回部103Aと、その両端に位置する入力端103Bおよび出力端103Cとからなり、両端の入出力端103B、Cが巻回部103Aからそのまま縦向きでコイル上面と平行に引き出されている。
E型コア101A、Bと組み付けられたコイル部103の入出力端103B、Cは、
図5(c)に示すように、その下端はE型コア101A、Bに対応する樹脂成型体104A、Bの上面に若干の間隙をもって外側に向けて通り、先端が金属ケース108を貫通して
図1A、Bに示すように外部端子103D、Eにそれぞれ溶接等によって互いの幅広面同士が接続される。
【0026】
上記コイル部103の巻回部103Aは予め筒状に巻回されていて、金属ケース108に収納される際に、E型コア101A、Bの中脚コア部101A3、B3に巻回部103Aを嵌挿してコアと組み合わせ、その入出力端103B、Cをケース本体108Aの切欠き部113に係合するブラケット108Bの貫通孔111B、Cに挿通して、ケース外に導き外部端子103D、Eと接続してなる。
【0027】
<樹脂成型体>
E型コア101A、Bは、樹脂成型体(コイル部103のボビンや、E型コア101A、Bのカバーを含む)104A、B内に嵌め込まれた状態で収容されており、コイル部103と組付けられてなるリアクトル組立体100Aの状態で、金属ケース108中にセットされ、内部空間に流動性樹脂による充填剤110が金属ケース本体108Aの上縁の部位にまで充填されることにより、全体が一体化される。
E型コア101A、Bとコイル部103は、樹脂成型体104A、Bが、間に介在することにより絶縁される。樹脂成型体材料としては、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等及び上記樹脂成形体材料にガラス及び熱伝導性フィラーを添加したものを用いることができる。
なお、上記樹脂成型体104A、Bは、1対のE型コア101A、Bに対応して1対の分割構造104A、Bに形成される(
図5(c)を参照)。
【0028】
<金属ケース>
前記1対のE型コア101A、Bを互いに突き合わせて閉磁路を構成する際に、E型コア101A、Bの中脚コア部101A3、B3に1つのコイル部103を組付けてリアクトル組立体100Aを形成されるが、金属ケース本体108Aは、このリアクトル組立体100Aを収容し得る高さと平面的広さを有するように構成される。金属ケース本体108A(側壁部)は、底板109Cの周囲に板状のアルミニウムが立設されてなる略箱状に形成され、四方の外側下端部には取付孔109Bを有する取付ボス部109Aが設置されている。底板109Cの形状はリアクトル組立体100Aの外形に相当した形状とされているが、より詳細には、底板109Cとリアクトル組立体100Aの間に、充填剤110が充填され得る程度のクリアランス(例えば2~4mm程度)が設けられた状態とされている。
【0029】
金属ケース本体108A(側壁部)の上縁は、リアクトル組立体100Aのコイル部103の巻回部103Aの上面より高い位置にあり、後に内部に充填される充填剤110にリアクトル組立体100Aの全体が埋没し、露出しないように設定されている。そして、前記コイル部103の入出力端103B、Cを通過させる部位のケース本体108Aの上縁部を除去して、ブラケット108Bを設置するための切欠き部113(
図4を参照)を設け、この切欠き部113の両端がブラケット108Bを係合保持する縁部114となる。
【0030】
<ブラケット>
上記ブラケット108Bは、絶縁性樹脂により成形されている。なお、
図3、
図4はブラケット108Bを金属ケース本体108Aへ組み付ける際の前後の状態を示している。
図1に示すように、該ブラケット108Bは、上部分が横長の基部107Aとなり、下端部に水平方向の端子台107Bを有する。基部107Aの両端部の端面に、前記金属ケース本体108Aの切欠き部113の両端の縁部114に係合保持される溝状のガイド部112を備えている。
【0031】
また、基部107Aは、切欠き部113に跨るような前後2つ折れの形状に構成されることで、金属ケース108からの充填剤110の漏れの防止効果を向上させるように構成されている。
また、基部107Aの両端部近傍の内側には、前記コイル部103の入力端103Bおよび出力端103Cを、縦向きの状態で各々密着させつつ挿通させる1対の貫通孔111B、Cを備える。この密着状態は、形成される隙間が金属ケース108内に充填される流動性を有する充填剤110が漏れ出ない程度とされる。
【0032】
また、上記端子台107Bには、前記貫通孔111B、Cを通って外部に突出した入力端103Bおよび出力端103Cの先端部がTIG溶接等によって接続固定されるL字状の外部端子103D、Eが固定されるもので、その水平方向部分を横方向から係合固定して縦方向部分の上部に、上記入出力端103B、Cが接続される構造である。
【0033】
<充填剤>
また、金属ケース108内には、この金属ケース108の内部に収納されたリアクトル組立体108Aの熱分布の均一化を図り得る充填剤110が充填されている。この充填剤110としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂等およびこれらの樹脂材に熱伝導性フィラーを添加したもの等が用いられ、充填時には液状やゲル状の流動性を有する状態とされ、その後の処理により固化した状態とされる。
【0034】
本実施形態においては、リアクトル組立体100Aの全体が充填剤110に浸漬されるように構成され、これにより熱分布の均一化が図られる。
また、コイル部103の巻回部103Aから引き出される入力端103Bおよび出力端103Cも、その全体がこの充填剤110に浸漬されるので、その一部だけが充填剤110に浸漬された場合に、充填剤110と空気の界面において生じる剥離問題も防止することができる。
【0035】
<温度分布の対比結果>
上述したように、本実施形態に係る昇圧リアクトル装置においては、リアクトル組立体100Aの全体が、金属ケース108内に注入された充填剤110に埋没するように構成されているため、温度分布を均一化する効果を奏することができる。
図6A、B(本実施形態の対比例)と
図7A、B(本実施形態)とは、リアクトル組立体100A´、100Aの上部が、充填剤110から露出している場合(本実施形態の対比例)と、充填剤110に埋没している場合(本実施形態)とで、リアクトル組立体100A´、100Aの温度分布が大きく変化することを示すために行ったシミュレーション結果を表すものである。
【0036】
なお、
図6Aは、対比例において、連続負荷をかけている状態を示すリアクトル組立体100A´の温度分布を表すものであり、
図6Bは、対比例において、連続負荷をかけた後、さらに短時間(1~30秒程度)に亘って大負荷をかけた状態におけるリアクトル組立体100A´の温度分布を表すものである。
また、同様に、
図7Aは、本実施形態において、連続負荷をかけている状態を示すリアクトル組立体100Aの温度分布を表すものであり、
図7Bは、本実施形態において、連続負荷をかけた後、さらに短時間(1~30秒程度)に亘って大負荷をかけた状態におけるリアクトル組立体100Aの温度分布を表すものである。
いずれの図も、(a)は断面正面図、(b)は断面平面図、(c)は断面側面図を示すものである。
【0037】
図6Aの対比例においては、各断面図(a)、(b)、(c)から明らかなように、133℃の温度分布の範囲がコイル103A´の上部を中心として大きく広がっており、また、
図6Bの対比例においては、各断面図(a)、(b)、(c)に示すように、150℃の温度分布の範囲が広く確認できる。
一方、
図7A、Bの本実施形態においては、各断面図(a)、(b)、(c)から明らかなように、150℃の温度分布の範囲が確認できず、
図6A、Bの対比例に比して、133℃の範囲が縮小していることが確認でき、上記対比例に比べると、温度分布の均一化が大幅に改善されていることが明らかである。
【0038】
なお、上記実施形態のリアクトル組立体100AにおけるE型コア101A、Bの具体的な形状としては、
図8(a)、(b)、(c)に示すように、種々の態様のものを採用することができる。なお、
図8(a)、(b)、(c)は、E型コア601A、B、701A、B、801A、Bとコイル603、703、803との位置関係を主眼に示すものであるため、前述したボビン等の樹脂成型体は省略されている。
【0039】
すなわち、
図8(a)のコア601A、Bにおいては、中脚部601A3(、601B3(図示せず))、両外脚部601A1、2、601B1、2およびこれらの脚部を接続するベースコア部601A4、B4の高さが互いに一致しているため、上面が略平坦となるように形成されている。
【0040】
一方、
図8(b)のコア701A、Bにおいては、中脚部701A3(、701B3(図示せず))とベースコア部701A4、701B4の高さは一致しているが、両外脚部701A1、2、701B1、2は一段低く形成されている。このように、中脚部701A3(、701B3(図示せず))よりも両外脚部701A1、2、701B1、2の高さを一段低く形成することにより、コイル部703Aの端末部分703Bの引き出し処理が容易となる。
【0041】
さらに、
図8(c)のコア801A、Bにおいては、中脚部801A3(、801B3(図示せず))と両外脚部801A1、2、801B1、2の高さは一致しているが、ベースコア部801A3、B3が一段高く形成されている。コア801A、Bの上面を、コイル部803Aの上面と同等まで体積を増やすように、高く形成し、長手方向(コイル部軸方向)を薄くすることにより、断面積が同等でありながら長手方向の寸法を削減してコンパクト化を図っても、電気的特性が同程度の昇圧リアクトル装置を形成することができる。
図8(a)、(b)、(c)に示す、上記いずれの態様においても、コイル部603A、703A、803Aの上面と同程度の高さで端末部分603B、703B、803Bを引き出すことができ、装置の低背化を図ることができる。
【0042】
本発明の昇圧リアクトル装置としては上記実施形態のものに限られるものではなく、その他の種々の態様の変更が可能である。
例えば、金属ケース108の形状としても
図3に記載されたものに限られるものではなく、リアクトル本体100Aを設置収納し得る形状のものであればよい。
また、金属ケース108のブラケット108Bの形状としても上記に限られるものではなく、例えば、上記実施形態において、各貫通孔111B、111Cの近傍の領域をカバーする、1対の小型のブラケットを金属ケース本体108Aに各々係合するように形成してもよい。
【符号の説明】
【0043】
100 昇圧リアクトル装置
100A、100A´ リアクトル本体(組立体)
101A、B E型コア
101A1、A2、B1、B2 外脚コア部
101A3、B3 中脚コア部
101A4、B4 ベースコア部
103 コイル部
103A 巻回部
103B 入力端
103C 出力端
103D、E 外部端子
104A、B 樹脂成型体(ボビンを含む)
107A 基部
107B 端子台
108 金属ケース
108A 金属ケース本体(側壁部)
108B ブラケット
109A 取付ボス部
109B 取付孔
110 充填剤
111B、C 貫通孔
112 ガイド部
113 切欠き部
114 縁部