(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】医薬品容器用ガラス、これを用いた医薬品容器用ガラス管及び医薬品容器
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20240731BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20240731BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20240731BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20240731BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C03C3/091
B65D1/00 110
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
(21)【出願番号】P 2020568136
(86)(22)【出願日】2020-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2020001704
(87)【国際公開番号】W WO2020153294
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019009119
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019148449
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新井 智
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037343(JP,A)
【文献】特開2015-013793(JP,A)
【文献】特開2018-100214(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093176(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0339122(US,A1)
【文献】米国特許第04065317(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0317506(US,A1)
【文献】特開2017-218353(JP,A)
【文献】特開2017-036202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0148368(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
A61J 1/05
A61J 1/06
B65D 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、SiO
2 60~85%、Al
2O
3 5~17.5%、B
2O
3 0~4%、Li
2O 0~6%、Na
2O 0~8.3%、K
2O 0~5%、Li
2O+Na
2O+K
2O0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~4%を含有し、モル比K
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)の値が0.24以下、且つモル比Al
2O
3/(Li
2O+Na
2O+K
2O)の値が0.67以下であり、CaO≧MgOを満たすことを特徴とする医薬品容器用ガラス。
【請求項2】
ガラス組成として、モル%で、SiO
2 60~85%、Al
2O
3 5~17.5%、B
2O
3 0~5%、Li
2O 0~7%、Na
2O 0~8.3%、K
2O 0~5%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3.7%を含有し、モル比K
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)の値が0.24以下、且つモル比Al
2O
3/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.67以下であり、CaO≧MgOを満たすことを特徴とする医薬品容器用ガラス。
【請求項3】
ガラス組成として、モル%で、SiO
2 60~85%、Al
2O
3 3~7%、B
2O
3 0~5%、Li
2O 0~7%、Na
2O 0~8.3%、K
2O 0~5%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3.7%を含有し、モル比K
2O/(Li
2O+Na
2O+K
2O)の値が0.24以下、モル比Al
2O
3/(Li
2O+Na
2O+K
2O)が0.5以下、且つモル比SiO
2/Al
2O
3の値が16以下であり、CaO≧MgOを満たすことを特徴とする医薬品容器用ガラス。
【請求項4】
ガラス組成として、モル%で、Na
2O 0~7.9%、K
2O 0~3%を含有することを特徴とする請求項1~
3の何れかに記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項5】
ガラス組成として、モル%で、MgO 0~0.5%、CaO 0~0.5%、SrO 0~0.3%、BaO 0~0.3%を含有することを特徴とする請求項1~
4の何れかに記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項6】
B
2O
3の含有量が、0.01~1モル%であることを特徴とする請求項1~
5の何れかに記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項7】
ZrO
2の含有量が、0~2モル%であることを特徴とする請求項1~
6の何れかに記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項8】
ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)におけるクラスが、少なくともHGA1であることを特徴とする請求項1~
7の何れかに記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項9】
作業点が、1300℃以下であることを特徴とする請求項1~
8の何れかに記載の医薬品容器用ガラス。
【請求項10】
請求項1~
9の何れかに記載の医薬品容器用ガラスからなることを特徴とする医薬品容器用ガラス管。
【請求項11】
請求項1~
9の何れかに記載の医薬品容器用ガラスからなることを特徴とする医薬品容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工性及び耐加水分解性に優れた医薬品容器用ガラス、これを用いた医薬品容器用ガラス管及び医薬品容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医薬品を保管する充填容器として種々のガラス容器が用いられている。医薬品は経口剤と非経口剤の2種類に大別されるが、特に非経口剤については、ガラス容器に充填・保管された薬剤を直接患者の血液中へ投与するため、ガラス容器には非常に高い品質が要求される。
【0003】
また、医薬品容器には、充填された薬剤の成分が変質しないことが求められる。ガラス成分が薬剤中に溶出すると、薬剤の性質を変化させ、患者の健康、ひいては生命にまで影響を及ぼす虞がある。そのため、各国薬局方によって医薬品容器用ガラスからのガラス成分の溶出量が制限されている。
【0004】
そこで、ガラスからの溶出成分の基準を満たすガラス材質としてホウケイ酸ガラスが用いられている。
【0005】
近年、医学・薬学の発展によって、薬効が高い薬剤が開発されつつあるが、そのような薬剤を、B2O3を多く含むガラス容器に充填・保管することで、ガラス容器内面が浸食され、容器内表面が剥離しフレークスとして薬剤中を浮遊する、デラミネーションと呼ばれる現象が問題となっている。デラミネーション等により発生した不溶性異物は、薬剤とともに患者の体内に注射された場合、血管の中で血栓を形成する等、人体に有害となる虞があるからである。
【0006】
また、このような薬効が高い薬剤にも対応できるように、従来よりも水や薬剤に対してガラス成分の溶出が少ない、より耐加水分解性に優れたガラスが望まれている。
【0007】
医薬品容器用ガラスは、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、カートリッジ等、複雑な形状への加工が要求されるため、同時に、ガラスの粘度が低く、優れた加工性を有することも望まれている。更に、加工時の作業温度についても、作業温度が高い場合、加工中にガラスに含まれる成分が蒸発し易くなり、これが容器内面、ひいてはガラス容器中の薬剤を汚染してしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情から、特許文献1はデラミネーションの低減を目的にB2O3含有量を低減させたガラスを提案している。しかし、B2O3を低減させるとガラスの粘度が高くなるため、ガラスを低粘度化させるためにNa2Oを多く含有させている。そのため、耐加水分解性が劣るという問題がある。
【0010】
本発明の技術的課題は、優れた耐加水分解性と加工性を両立させた医薬品容器用ガラス、これを用いたガラス管及び医薬品容器を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ガラスを構成する各成分について鋭意検討を行い、各々の成分の含有量を厳密に規制することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0012】
具体的には、本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラスの耐加水分解性に影響を与え易いNa2Oの含有量を厳密に規制することで、ガラスの耐加水分解性を向上させている。更に、K2O/(Li2O+Na2O+K2O)のモル比の値とAl2O3/(Li2O+Na2O+K2O)のモル比の値を厳密に規制することにより、優れた耐加水分解性と加工性を両立させることが可能である。
【0013】
すなわち、本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 3~20%、B2O3 0~5%、Li2O 0~9%、Na2O 0~12%、K2O 0~6%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%を含有し、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.60以下、且つモル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)の値が50以下であることを特徴とする。ここで、「Li2O+Na2O+K2O」とは、Li2O、Na2O、K2Oの含有量の合量であり、「K2O/(Li2O+Na2O+K2O)」とは、K2Oの含有量をLi2O、Na2O、K2Oの含有量の合量で除した値であり、「Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)」とは、Al2O3の含有量をLi2O、Na2O、K2Oの含有量の合量で除した値である。
【0014】
このようにすると、優れた耐加水分解性と加工性を両立させた医薬品容器用ガラスを得やすくなる。
【0015】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、Li2O 0~7%、Na2O 0~7.9%、K2O 0~3%を含有することが好ましい。
【0016】
このようにすると、より優れた耐加水分解性を得ることが容易になる。
【0017】
本発明の医薬品容器用ガラスは、MgO、CaO、SrOおよびBaOの含有量の合量が0~5モル%であることが好ましい。
【0018】
このようにすると、より優れた耐加水分解性を得ることが容易になる。
【0019】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、MgO 0~0.5%、CaO 0~0.5%、SrO 0~0.3%、BaO 0~0.3%を含有することが好ましい。
【0020】
このようにすると、より優れた耐加水分解性を得ることが容易になる。
【0021】
本発明の医薬品容器用ガラスは、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が、0.24以下であることが好ましい。
【0022】
このようにすれば、より優れた加工性を得ることが容易になる。
【0023】
本発明の医薬品容器用ガラスは、モル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)の値が、0.85以下であることが好ましい。
【0024】
このようにすれば、より優れた加工性を得ることが容易になる。
【0025】
本発明の医薬品容器用ガラスは、B2O3の含有量が、0.01~1モル%であることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、デラミネーションの発生を抑制しつつ、良好な加工性を得ることができる。
【0027】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ZrO2の含有量が、0~2モル%であることが好ましい。
【0028】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 5~17.5%、B2O3 0~4%、Li2O 0~6%、Na2O 0~8.3%、K2O 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~5%を含有し、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.24以下、且つモル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.67以下であることを特徴とする。
【0029】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 5~17.5%、B2O3 0~5%、Li2O 0~7%、Na2O 0~8.3%、K2O 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3.7%を含有し、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.24以下、且つモル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)が0.67以下であることを特徴とする。
【0030】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 5~20%、B2O3 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3%を含有することを特徴とする。
【0031】
本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 3~7%、B2O3 0~5%、Li2O 0~7%、Na2O 0~8.3%、K2O 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3.7%を含有し、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.24以下、モル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)が0.5以下、且つモル比SiO2/Al2O3の値が16以下であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)におけるクラスが、少なくともHGA1であることが好ましい。
【0033】
なお、本発明において、「ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)」とは以下の試験を指す。
(1)ガラス試料をアルミナ乳鉢で粉砕し、篩で300~425μmに分級する。
(2)得られた粉末試料をアセトンで洗浄し、140℃のオーブンで乾燥する。
(3)乾燥後の粉末試料10gを石英フラスコに入れ、さらに50mLの精製水を加えて蓋をし、オートクレーブ内で処理する。処理は、100℃から121℃まで1℃/分で昇温した後、121℃で30分間保持し、100℃まで0.5℃/分で降温する、という処理条件によって行う。
(4)オートクレーブ処理後、石英フラスコ内の溶液を別のビーカーに移し、さらに石英フラスコ内を15mLの精製水で3回洗浄し、その洗浄液もビーカーに加える。
(5)ビーカーにメチルレッド指示薬を加え、0.02mol/L塩酸水溶液で滴定する。
(6)0.02mol/L塩酸水溶液1mLをNa2O 620μgに相当するとしてガラス1gあたりのアルカリ溶出量に換算する。
【0034】
なお、「ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)におけるクラスが、少なくともHGA1である」とは、上記試験により求めたNa2O換算したガラス1gあたりのアルカリ溶出量が62μg/g以下であることを意味する。
【0035】
本発明の医薬品容器用ガラスは、作業点が、1300℃以下であることが好ましい。なお、「作業点」とは、ガラスの粘度が104.0dPa・sになる温度を意味する。
【0036】
このようにすると、医薬品容器等への加工時に加工温度を高くする必要がないため、加工中におけるガラス成分の蒸発を少なくでき、容器内面の汚染を抑制しやすい。
【0037】
本発明の医薬品容器用ガラス管は、上記した医薬品容器用ガラスからなることが好ましい。
【0038】
本発明の医薬品容器は、上記した医薬品容器用ガラスからなることが好ましい。本発明の医薬品容器用ガラスは、耐加水分解性が高い。更に加工温度を低くできるため、加工中におけるガラス成分の蒸発を少なくでき、容器内面の汚染を抑制しやすい。その結果、耐加水分解性、ひいては化学耐久性に優れた医薬品容器を得やすくできる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
各成分の組成範囲を限定した理由を述べる。なお、以下の説明では、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0040】
SiO2はガラスのネットワーク構造を構成する成分の一つである。SiO2の含有量が少なすぎるとガラス化しにくくなり、また熱膨張係数が増大して、耐熱衝撃性が低下しやすくなる。一方、SiO2の含有量が多すぎると液相温度が上昇し、失透しやすくなる。よって、SiO2の含有量は好ましくは60~85%であり、65~85%、68~83%、特に70~80%である。
【0041】
Al2O3はガラスのネットワーク構造を構成する成分の一つであり、ガラスの耐加水分解性を向上させる効果がある。Al2O3の含有量が少なすぎると、耐加水分解性が悪化しやすくなる。一方、Al2O3の含有量が多くなりすぎると、粘度が高くなる。よって、Al2O3の含有量は、好ましくは3~20%であり、4~20%、4~17.5%、4.5~17.5%、5~15%、5.3~14%、5.4~13%、5.5~12.4%、5.6~12%、5.7~11.5%、5.8~11%、5.9~10%、特に6~9%である。
【0042】
B2O3はガラスの粘度を下げ、溶融性や加工性を向上させる効果がある。しかしB2O3はデラミネーションを引き起こす要因の一つと考えられており、その含有量が多くなりすぎると耐デラミネーション性が悪化し、フレークスが発生しやすくなる。よって、B2O3の含有量は、好ましくは0~5%であり、0.01~4%、0.02~3%、0.03~2%、0.04~1%、0.04~0.8%、特に0.05~0.5%である。
【0043】
アルカリ金属酸化物(R2O)であるLi2O、Na2O及びK2Oは、ガラスの粘度を低下させ、加工性や溶融性を高める効果がある。R2Oの含有量の合量の下限は、好ましくは0.1%以上であり、0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、6.5%以上、7%以上、7.5%以上、特に8%以上である。なお、ガラスの加工性を特に重視する場合は、R2Oの含有量の合量の下限は、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、10.5%以上、11%以上である。一方、これらの成分の含有量の合量が多すぎると、ガラスの耐加水分解性が悪化したり、熱膨張係数が増大して耐熱衝撃性が低下したりする。よって、R2Oの含有量の合量の上限は、好ましくは26%以下であり、23%以下、20%以下、18%以下、17.5%以下、17%以下、17%未満、16%以下、15%以下、14%以下、13.9%以下、13%以下、12%以下、特に11%以下である。
【0044】
Li2Oは既述の通り、ガラスの粘度を低下させ、加工性や溶融性を高める効果がある。R2Oの中でも、ガラスの粘度を低下させる効果はLi2Oが最も高く、次いでNa2O、K2Oの順に効果が高い。しかし、Li2Oの含有量が多過ぎると耐加水分解性が悪化しやすくなる。よって、Li2Oの含有量は、好ましくは0~9%であり、0~8%、0~7%、0~6.5%、0~6.3%、0~6.1%、0~6%、0~5.9%、0~5.8%、0~5.7%、0~5.5%、0~5%、0~4.5%、0~4%、特に0~3.5%である。特に耐失透性については、Li2O含有量が6%以下で、特に失透が起こり難い。
【0045】
なお、ガラスの加工性を重視する場合は、Li2Oの含有量は、好ましくは0.1~9%であり、0.5~8%、1~7%、2~6.5%、2.5~6.3%、3~6.1%、3.5~6%、特に4~5%であってもよい。
【0046】
さらに、ガラスの加工性と耐加水分解性の両立を重視する場合、Li2Oの含有量は、好ましくは2~8%、2.5~7%、特に3~6.5%である。
【0047】
Na2Oは、Li2Oと同様にガラスの粘度を低下させ、加工性や溶融性を高める効果がある。また、含有量が少なすぎる場合は耐失透性が低下することがある。一方、前述したとおり、Na2Oは含有量が多すぎると、特に耐加水分解性が悪化する成分である。よって、Na2Oの含有量は、好ましくは0~12%であり、0~10%、0~9%、0~8.5%、0~8.3%、0~8%、0~7.9%、0~7.5%、0~7%、0~6.5%、0~6%、0~5.5%、特に0~5%である。
【0048】
なお、ガラスの加工性を重視する場合は、Na2Oの含有量は、好ましくは0.1~12%であり、0.5~11%、1~10%、2~9%、2.5~8.5%、3~8%、3.5~7.9%、4~7.5%、4.5~7%、特に5~6.5%であってもよい。
【0049】
K2Oは、Li2O、Na2Oに比べると低いものの、ガラスの粘度を低下させ、加工性や溶融性を高める効果がある。しかし、K2Oの含有量が多すぎると耐加水分解性が悪化する。一方、含有量が少なすぎる場合は、耐失透性が低下することがある。よって、K2Oの含有量は、好ましくは0~6%であり、0~5%、0~4%、0~3%、0~2.9%、0~2.8%、0~2.7%、0~2.6%、0~2.5%、0~2%、特に0~2%未満である。
【0050】
なお、ガラスの加工性を重視する場合は、K2Oの含有量は、好ましくは0.01~11%であり、0.05~10%、0.1~8%、0.5~6%、0.8~5.5%、1~5%、1.2~4%、1.4~3.5%、特に1.5~3%であってもよい。
【0051】
上記したアルカリ金属酸化物(R2O)の中でも、ガラスの粘度を低下させる効果はLi2Oが最も高く、次いでNa2O、K2Oの順に効果が高い。よって、ガラスの粘度を下げる観点からは、それぞれの含有量の関係は、好ましくはLi2O≧Na2O≧K2O、Li2O≧Na2O>K2O又はLi2O>Na2O≧K2Oであり、特に、Li2O>Na2O>K2Oであることが好ましい。また、K2Oが占める割合が多すぎると、ガラスの粘度と耐加水分解性の両方を良好に保つことが困難になる。そのため、粘度と耐加水分解性を両立させる観点からも、Na2O>K2Oであることが好ましい。
【0052】
ガラスに含まれるアルカリ金属酸化物(R2O)のうち、Li2Oが占める割合が多過ぎると、ガラスの耐失透性が低下する。そのため、ある実施形態においては、耐失透性の観点から、アルカリ金属酸化物(R2O)のうち、Na2O>Li2Oの関係を満たすようにしてもよい。また、ガラスの耐失透性を改善する効果はK2Oが最も高く、次いでNa2O、Li2Oの順に効果が高い。ガラスの耐加水分解性と耐失透性を両立させる観点からは、好ましくはLi2O≧Na2O≧K2O、Li2O≧K2O>Na2O又はLi2O>Na2O≧K2Oであり、特にLi2O>K2O>Na2Oであることが好ましい。
【0053】
また、アルカリ金属酸化物(R2O)の中でK2Oが占める割合が多すぎると、ガラスの粘度を低下させる効果が低くなる。そのため、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の上限は、好ましくは0.60以下であり、0.50以下、0.40以下、0.24以下、0.22以下、0.21以下、0.18以下、特に0.15以下である。このようにすることで、ガラスの粘度を低下させやすくなる。一方、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が小さすぎると、ガラスの耐加水分解性が悪化する虞がある。そのため、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の下限は、好ましくは0超、0.01以上、特に0.03以上、0.05以上、0.8以上、0.1以上、0.13以上である。
【0054】
Al2O3の含有量を多くすると、耐加水分解性が向上する一方、ガラスの粘度が上昇する。また、Li2O、Na2O及びK2Oの含有量を多くすると、耐加水分解性が悪化する一方、ガラスの粘度が低下する。本発明において、ガラスの耐加水分解性と加工性を両立させるためには、これらの特性に関係する成分の含有量のバランスを厳密に制御する必要がある。よって、モル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)の値は、好ましくは50以下であり、40以下、30以下、20以下、10以下、5以下、3以下、2以下、1.2以下、0~1、0~0.85、0~0.8、0超~0.74、0.01~0.7、0.1~0.67、0.2~0.65、0.3~0.61、0.33~0.60、0.34~0.59、0.4~0.55、特に0.4超~0.5である。上記のように、Al2O3とLi2O、Na2O及びK2Oの含有量を制限することで、良好な耐加水分解性と加工性を両立することが容易になる。特に、モル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.67以下である場合、耐加水分解性と加工性の両立がより容易になる。
【0055】
SiO2に対してAl2O3の含有量が少なすぎると、ガラスの耐加水分解性が悪化する上に、耐失透性も悪化する。本発明において、ガラスの耐加水分解性と加工性に加えて、耐失透性を良好に保つためには、SiO2とAl2O3の成分バランスを厳密に制御することが望ましい。よって、モル比SiO2/Al2O3の上限範囲は、好ましくは30以下、20以下、18以下、17以下、16以下、特に15以下である。また、SiO2に対してAl2O3の含有量が多すぎると、耐加水分解性と加工性を両立しにくくなる。よって、モル比SiO2/Al2O3の下限範囲は、好ましくは3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、特に12以上である。
【0056】
ガラスの耐加水分解性と加工性を両立させるために、本発明において最も含有量が多い成分であるSiO2の含有量と、粘度を低下させる働きを持つLi2O、Na2OおよびK2O含有量のバランスを規制することが好ましい。よって、モル比SiO2/(Li2O+Na2O+K2O)の値は、好ましくは10以下であり、8以下、7.9以下、7以下、6.9以下、6.5以下、6.1以下、6.0以下、5.9以下、特に5.7以下である。上記のようにSiO2とLi2O、Na2O及びK2Oの含有量を制限することで、良好な耐加水分解性と加工性を両立することが容易になる。特に、モル比SiO2/(Li2O+Na2O+K2O)の値が6.9以下である場合、耐加水分解性と加工性の両立がより容易になる。
【0057】
更に、アルカリ金属酸化物(R2O)のLi2O/(Na2O+K2O)の値を適切に規制することが好ましい。このようにすると、アルカリ金属酸化物の中で粘度を下げる効果が高いLi2Oの効果を享受しつつ、耐加水分解性を特に悪化させるNa2Oの影響を抑制できる。そのため、Li2O/(Na2O+K2O)の下限は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、特に好ましくは0.7以上である。一方、Li2O/(Na2O+K2O)が大きすぎると、原料コストが高くなる。そのため、Li2Oと、Na2O及びK2Oの含有量の合量のモル比Li2O/(Na2O+K2O)の上限は、好ましくは2.0以下であり、1.5以下、1.2以下、1.1以下、1.0以下、1.0未満、0.9以下、0.8以下、0.8未満である。
【0058】
アルカリ土類金属酸化物(R’O)であるMgO、CaO、SrO及びBaOは、ガラスの粘度を低下させる効果がある。また、耐加水分解性にも影響を与える。これらの成分含有量が多過ぎると、ガラスの耐加水分解性や耐失透性が低下する上、ガラス中から薬剤中に溶出したR’Oが炭酸塩あるいは硫酸塩として析出する虞がある。したがって、R’Oの合計量は、好ましくは0~10%であり、0~5%、0~4%、0~3.7%、0~3%、0~2%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.01%、0.01%未満、特に含有しないことが好ましい。なお、本発明において、「含有しない」とは、積極的に添加しないという意味であり、不可避的不純物まで排除するものではない。
【0059】
ここで、R’Oの炭酸塩あるいは硫酸塩の析出のしやすさは、それぞれの塩の溶解度に依存する。具体的には、MgOの溶解度が最も高く、次いでCaO、SrO、BaOの順に溶解度は低くなる。したがって、MgOが最も塩の析出を生じにくく、BaOが最も塩の析出を生じやすい。そのため、溶解度に着目する場合、R’Oの含有量は、MgO≧CaO≧SrO≧BaOが好ましく、MgO>CaO>SrO>BaOがより好ましい。
【0060】
一方で、ガラスの粘度を低下させる効果はBaOが最も高く、次いでSrO、CaO、MgOの順に効果は低くなる。そのため、加工性を重視する場合、R’Oの含有量は、BaO≧SrO≧CaO≧MgOが好ましく、BaO>SrO>CaO>MgOがより好ましい。
【0061】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、MgOを規制することが好ましい。上記したように、MgOは炭酸塩あるいは硫酸塩の溶解度が高く、塩の析出が起こり難い成分である。しかし、Mgイオンは水和ケイ酸と反応しやすいため、ガラス中のMgイオンが溶出すると、ガラス表面に生成する水和ケイ酸とMgイオンが反応して不溶性のケイ酸マグネシウム水和物皮膜を生成する虞がある成分でもある。この皮膜は振動等によって剥離して薄片状の不溶性異物となる可能性がある。また、MgOの含有量が多すぎると、耐加水分解性が悪化する。そのため、本発明においては、MgOを厳密に規制することが好ましい。よって、MgOの含有量は、好ましくは0~10%であり、0~8%、0~5%、0~3%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.05%、0~0.03%、0~0.03%未満、0~0.01%、0~0.01%未満である。また、MgOは、含有しないことが好ましい。なお、ガラスの加工性を特に重視する場合には、MgOを0.01%以上含有しても良い。
【0062】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、耐加水分解性を向上させるために、CaOを厳密に規制することが好ましい。CaOの含有量は、好ましくは0~10%であり、0~8%、0~5%、0~3%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%であり、0~0.05%、0~0.03%、0~0.03%未満、0~0.01%、0~0.01%未満である。また、CaOは、含有しないことが好ましい。なお、ガラスの加工性を特に重視する場合には、CaOを0.01%以上含有しても良い。
【0063】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、炭酸塩あるいは硫酸塩の析出を抑制し、耐加水分解性を向上させるために、SrOを厳密に規制することが好ましい。SrOの含有量は好ましくは0~1%であり、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.01%、0~0.01%未満、特に含有しないことが好ましい。
【0064】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、炭酸塩あるいは硫酸塩の析出を抑制し、耐加水分解性を向上させるために、BaOを厳密に規制することが好ましい。BaOの含有量は好ましくは0~1%であり、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.01%、0~0.01%未満、特に含有しないことが好ましい。
【0065】
また、前述したとおり、MgOは炭酸塩あるいは硫酸塩の溶解度が高く、塩の析出が起こり難い成分である一方、Mgイオンは水和ケイ酸と反応しやすいため、不溶性のケイ酸マグネシウム水和物皮膜を生成する虞がある成分でもある。そのため、本発明の医薬品容器用ガラスは、モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値を規制することが好ましい。モル比MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)の値は、好ましくは1以下であり、1未満、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.5未満、0.4以下、0.3以下、0.2以下、0.1以下、特に0である。
【0066】
また、MgO+CaOの値は、好ましくは0~10%であり、0~5%、0~4%、0~3.7%、0~3%、0~2%、0~1%、0~0.9%、0~0.8%、0~0.7%、0~0.6%、0~0.5%、0~0.4%、0~0.3%、0~0.2%、0~0.1%、0~0.01%、0~0.01%未満、特に好ましくは含有しない。このようにすると、炭酸塩あるいは硫酸塩の析出が起こりにくくなる。なお、「MgO+CaO」とは、MgO、CaOの含有量の合量である。
【0067】
また、MgOとCaOの含有量のモル比MgO/CaOは、好ましくは9.0未満であり、8.0以下、6.0以下、5.0未満、3.0未満、1.0以下、1.0未満、0.5以下である。更に好ましくは、0.9以下、0.7未満、0.5未満、0.4未満、0.3未満、0.2未満、0.1未満である。このようにすることで、耐加水分解性を向上させることができる。また、前述したとおり、本発明において、MgOは不溶性のケイ酸マグネシウム水和物皮膜を生成する虞があるが、CaOはMgOと比べてSiO2と反応しにくい成分であり、不溶性の皮膜を生成する虞が少ない。そのため、モル比MgO/CaOを規制することで、容器の安全性を向上させることができる。また、ガラスの粘度も低くできるため、優れた加工性を得ることができる。
【0068】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、耐加水分解性加工性の両立のために、CaOとLi2O含有量のバランスを規制することがより好ましい。CaOとLi2Oの含有量のモル比CaO/Li2Oは、好ましくは2.0以下であり、1.5以下、1.2以下、1.1以下、1.0以下、1.0未満、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、0.1以下、特に好ましくは0である。
【0069】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、SiO2、Al2O3、B2O3、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrOおよびBaO含有量の合計が、好ましくは90%以上であり、93%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、98.5%以上、特に99%以上である。このようにすることで、上記した成分の効果を効率よく得ることができるため、優れた耐加水分解性と加工性の両立がより容易になる。
【0070】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、ガラス組成として、上記以外の他の成分を含んでもよい。例えば、ガラスの耐アルカリ性を向上させるためにZrO2を含有してもよい。しかし、ZrO2の含有量が多すぎるとガラスの粘度が上昇し、また耐失透性も低下する。ZrO2を含有する場合、その含有量は、好ましくは0~3%であり、0~2.5%、0~2%、0~1.5%、0.1~0.8%、特に好ましくは0.2~0.6%である。
【0071】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、ZnOを含有してもよい。ZnOは、ガラスの粘度を低下させる効果がある一方、その含有量が多過ぎるとガラスの耐加水分解性に影響を与える。本発明において、ZnOの含有量は、好ましくは0~4%であり、0~1%、できれば含有しない。
【0072】
また、ガラスを着色したい場合には、TiO2とFe2O3をバッチ原料に添加すればよい。この場合、標準的なTiO2とFe2O3の含有量の合計量は、好ましくは7%以下、6%以下、5%以下、1%以下、さらには0.5%以下であることが好ましい。
【0073】
また、清澄剤として、F、Cl、Sb2O3、SnO2、SO3等を1種類以上含有しても良い。この場合、標準的な清澄剤の含有量は合計量で5%以下、特に1%以下、さらには0.5%以下であることが好ましい。
【0074】
また、化学的耐久性、高温粘度等の改良のために、P2O5、Cr2O3、PbO、La2O3、WO3、Nb2O3、Y2O3等をそれぞれ、3%以下、2%以下、1%以下、1%未満、0.5%以下で添加してもよい。
【0075】
また、不純物として、H2、CO2、CO、H2O、He、Ne、Ar、N2等の成分をそれぞれ0.1%まで含んでもよい。またPt、Rh、Au等の貴金属元素の混入量はそれぞれ500ppm以下、さらには300ppm以下であることが好ましい。
【0076】
また、上記した組成範囲の他に、例えば、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 5~17.5%、B2O3 0~4%、Li2O 0~6%、Na2O 0~8.3%、K2O 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~5%を含有し、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.24以下かつモル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.67以下であるガラスを例示することができる。各成分の限定理由及び好ましい範囲は既述の内容と重複するため、ここでは説明を割愛する。
【0077】
また、上記した組成範囲の他に、例えば、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 5~17.5%、B2O3 0~5%、Li2O 0~7%、Na2O 0~8.3%、K2O 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3.7%を含有し、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.24以下かつモル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.67以下であるガラスも例示することができる。各成分の限定理由及び好ましい範囲は既述の内容と重複するため、ここでは説明を割愛する。
【0078】
また、本発明の医薬品容器用ガラスの別の態様として、上記した組成範囲の他に、例えば、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 5~20%、B2O3 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3%を含有するガラスも例示することができる。各成分の限定理由及び好ましい範囲は既述の内容と重複するため、ここでは説明を割愛する。
【0079】
さらに、本発明の医薬品容器用ガラスの別の態様として、上記した組成範囲の他に、例えば、ガラス組成として、モル%で、SiO2 60~85%、Al2O3 3~7%、B2O3 0~5%、Li2O 0~7%、Na2O 0~8.3%、K2O 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 0.1~26%、SrO 0~1%、BaO 0~1%、MgO+CaO+SrO+BaO 0~3.7%を含有し、モル比K2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.24以下、モル比Al2O3/(Li2O+Na2O+K2O)が0.5以下、且つモル比SiO2/Al2O3の値が16以下であるガラスも例示することができる。各成分の限定理由及び好ましい範囲は既述の内容と重複するため、ここでは説明を割愛する。
【0080】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)におけるクラスが、少なくともHGA1であることが好ましい。
【0081】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、ISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)によるNa2O換算のアルカリ溶出量が、好ましくは62μg/g未満であり、60μg/g以下、57μg/g以下、55μg/g以下、53μg/g以下、特に50μg/g以下である。アルカリ溶出量が多すぎると、ガラスをアンプルやバイアルに加工し、薬剤を充填して保存した際に、ガラスから溶出したアルカリ成分によって薬剤成分が変質する虞がある。
【0082】
また、ガラスの耐アルカリ性はデラミネーションに対する耐性を判断する一つの指標となる。本発明の医薬品容器用ガラスは、ISO695に準じた試験による耐アルカリ性が少なくともクラス2であることが好ましい。ここで、「ISO695に準じた耐アルカリ性試験」とは、以下の試験を指す。
(1)表面を全て鏡面仕上げとした表面積Acm2(但し、Aは10~15cm2とする)のガラス試料片を準備する。始めに前処理として、試料をフッ酸(40wt%)と塩酸(2mol/L)を体積比で1:9となるように混合した溶液を調製する。これに試料を浸し、10分間マグネチックスターラーで攪拌する。試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。
(2)その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(3)試料の質量m1を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(4)水酸化ナトリウム水溶液(1mol/L)と炭酸ナトリウム水溶液(0.5mol/L)を体積比で1:1になるように混合した溶液800mLを調製する。溶液をステンレス製の容器に入れてマントルヒーターにて沸騰させる。白金線で吊るした試料を投入して3時間保持する。試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(5)試料の質量m2を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(6)沸騰アルカリ溶液に投入する前後の質量m1、m2(mg)と試料の表面積A(cm2)から、以下の算出式によって単位面積あたりの質量減少量を算出し、耐アルカリ性試験の測定値とする。
(単位面積あたりの質量減少量)=100×(m1-m2)/A
【0083】
なお、「ISO695に準じた試験による耐アルカリ性がクラス2」とは、上記により求めた単位面積あたりの質量減少量が175mg/dm2以下であることを意味する。なお、上記により求めた単位面積あたりの質量減少量が75mg/dm2以下であれば、「ISO695に準じた試験による耐アルカリ性がクラス1」となる。本発明の医薬品容器用ガラスは、単位面積あたりの質量減少量の好ましい値が、好ましくは130mg/dm2以下であり、特に75mg/dm2以下であることが好ましい。
【0084】
デラミネーションは、クエン酸やリン酸緩衝液等、pHが中性付近であっても強いアルカリ性のような挙動を示す溶液を共に用いた薬剤をガラス容器に充填、保存した際に起こることが多い。ISO695に準じた試験により求めた単位面積あたりの質量減少量が175mg/dm2より大きくなると、デラミネーションを引き起こす可能性が高くなる。そのため、本発明の医薬品容器用ガラスは、上記単位面積あたりの質量減少量が、好ましくは130mg/dm2以下であり、特に75mg/dm2以下であることが好ましい。
【0085】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、YBB00342004に準じた耐酸性試験において、単位面積あたりの質量減少量が、好ましくは1.5mg/dm2以下、特に0.7mg/dm2以下である。質量減少量が多くなると、アンプルやバイアルなどの瓶容器を作製し、薬液を充填、保存した際、ガラス成分の溶出量が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす虞がある。なお、「YBB00342004に準じた耐酸性試験」とは、以下の試験を指す。
【0086】
ここで、「YBB00342004に準じた耐酸性試験」とは、以下の試験を指す。
(1)表面を全て鏡面仕上げとした表面積Acm2(但し、Aは100±5cm2とする)のガラス試料片を準備する。始めに前処理として、試料をフッ酸(40wt%)と塩酸(2mol/L)を体積比で1:9となるように混合した溶液を調製する。これに試料を浸し、10分間マグネチックスターラーで攪拌する。試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。
(2)その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(3)試料の質量m1を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(4)塩酸溶液(6mol/L)を800mL用意する。溶液をシリカガラス製の容器に入れて、電熱器にて沸騰させる。白金線で吊るした試料を投入して6時間保持する。試料を取り出し、精製水による2分間の超音波洗浄を3回行い、エタノールによる1分間の超音波洗浄を2回行う。その後、試料を110℃のオーブン中で1時間乾燥させ、デシケータ内で30分間放冷する。
(5)試料の質量m2を精度±0.1mgまで測定し、記録する。
(6)沸騰酸溶液に投入する前後の質量m1、m2(mg)と試料の表面積A(cm2)から、以下の算出式によって単位面積あたりの質量減少量の半分を算出し、耐酸性試験の測定値とする。
(単位面積あたりの質量減少量)=1/2×100×(m1-m2)/A
【0087】
また、本発明の医薬品容器用ガラスは、作業点が、好ましくは1350℃以下、1300℃以下、1260℃以下、特に1250℃以下である。作業点が高温になると、ガラス管をアンプルあるいはバイアルに加工する際の加工温度がより高温になり、ガラスに含まれるアルカリ成分の蒸発が著しく増加する。蒸発したアルカリ成分はガラス管内壁に付着し、そのガラス管がガラス容器へと加工される。そのようなガラス容器は薬剤を充填、保存した際に薬剤を変質させる原因となる。また、ホウ素を多く含むガラスでは、作業点が高温になるとホウ素の蒸発も増加し、デラミネーションの原因となりうる。
【0088】
本発明の医薬品容器用ガラスは、化学強化処理に供することにより、その表面に圧縮応力層を形成することが可能である。具体的には、本発明の医薬品容器用ガラスは、475℃のKNO3溶融塩中に7時間浸漬して化学強化(イオン交換)処理を行った際に形成される圧縮応力層の圧縮応力値が、100MPa以上であることが好ましく、200MPa以上、特に300MPa以上となることが好ましい。また、圧縮応力層の深さは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上、特に30μm以上が好ましい。
【0089】
なお、化学強化(イオン交換)後の圧縮応力値(CS)と試料表面からの深さ(DOL)は次のようにして測定できる。まず試料の両表面に鏡面研磨を施した後、475℃のKNO3溶融塩中に7時間浸漬して化学強化(イオン交換)処理を行う。続いて試料の表面を洗浄し、表面応力計(株式会社折原製作所製FSM-6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値(CS)と試料表面からの深さ(DOL)を算出する。算出にあたり、試料の屈折率を1.50、光弾性定数を29.5[(nm/cm)/MPa]とする。なお、化学強化処理前後でガラスの表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、ガラス組成は実質的に相違しない。
【0090】
次に、本発明の医薬品容器用ガラス管を製造する方法を説明する。以下の説明はダンナ-法を用いた例である。
【0091】
まず、ガラス原料を所定のガラス組成になるように調合してガラスバッチを作製する。次に、このガラスバッチを1550~1700℃の溶融窯に連続投入して溶融、清澄を行った後、得られた溶融ガラスを回転する耐火物に巻きつけながら、耐火物先端部から空気を吹き出しつつ当該先端部からガラスを管状に引出す。
【0092】
続いて、引き出した管状ガラスを所定の長さに切断することでガラス管を得る。このようにして得られたガラス管はバイアルやアンプルの製造に供される。
【0093】
なお、本発明の医薬品容器用ガラス管は、ダンナ-法に限らず、従来周知の任意の手法を用いて製造してもよい。例えば、ベロー法あるいはダウンドロー法は本発明の医薬品容器用ガラス管の製造方法として有効である。
【0094】
次に、本発明の医薬品容器を製造する方法を説明する。以下は、一例として、ガラス管を縦式加工方法で加工し、医薬品容器を製造する例である。
【0095】
まず、ガラス管を用意する。次に、ガラス管を垂直に立てた状態で、バーナーによりガラス管の一方側の端部を加熱し、成形具を用いて肩部及び口部を形成する。次に、バーナーでガラス管の肩部より上方の部分を加熱して溶断する。
【0096】
続いて、溶断した部分をバーナーで加熱成形して底部を形成し、医薬品容器を得る。
【0097】
なお、ガラス管側の溶断した部分は、バーナーで加熱することにより開口させ、次の容器製造に供される。このようにして、上述した成形加工を繰り返すことにより、ガラス管から複数の医薬品容器を得ることができる。
【0098】
更に、本発明の医薬品容器用ガラス管を用いて得られたアンプル、バイアル等の医薬品容器を、KNO3溶融塩中に浸漬してイオン交換することにより、化学強化された医薬品容器を得ることができる。
【0099】
また、本発明の医薬品容器用ガラス管は、その外面に、コーティングすることが可能である。コーティングは、フッ素、シリコン、界面活性剤等の、無機コーティング及び有機コーティングのうち任意の材料を選択することができる。
【0100】
さらに本発明の医薬品容器用ガラス管を用いて得られたアンプル、バイアル等の医薬品容器も、その内面及び/又は外面に、コーティングすることが可能である。コーティングは、フッ素、シリコン、界面活性剤等の、無機コーティング及び有機コーティングのうち任意の材料を選択することができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0102】
表1~5は本発明の実施例(No.1~15、17~63)及び比較例(No.16)を示している。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
各試料は以下のようにして調製した。
【0109】
まず表に示す組成となるように550gのバッチを調合し、白金坩堝を用いて1550℃で2.5時間溶融した。なお、試料の均質性を高めるため、溶融過程で2回の攪拌を行った。更に試料の均質性を高めるため、一旦ガラスを水砕・乾燥し、再度白金坩堝を用いて1550℃で1時間溶融し、1回の攪拌を行った。試料中の泡を減らすため、1600℃で2時間溶融した。溶融後、インゴットを作製し、測定に必要な形状に加工して各種評価に供した。結果を表1~3に示す。
【0110】
耐加水分解性試験はISO720に準じた耐加水分解性試験(アセトン洗浄)で行った。詳細な試験手順は以下の通りである。ガラス試料をアルミナ乳鉢でアルミナ乳棒を用いて粉砕し、篩で粒径300~425μmに分級した。得られた粉末をアセトンで洗浄し、140℃のオーブンで乾燥させた。乾燥後の粉末試料10gを石英フラスコに入れ、さらに50mLの精製水を加えて蓋をした。試料の入った石英フラスコをオートクレーブ内に設置し処理を行った。処理条件は100℃から121℃まで1℃/分で昇温した後、121℃で30分間保持し、100℃まで0.5℃/分で降温した。石英フラスコ内の溶液を別のビーカーに移し、さらに石英フラスコ内を15mLの精製水で3回洗浄し、その洗浄水もビーカーに加えた。ビーカーにメチルレッド指示薬を加え、0.02mol/L塩酸溶液で滴定した。0.02mol/L塩酸溶液1mLをNa2O 620μgに相当すると換算してアルカリ溶出量を求め、耐加水分解性の測定値とした。
【0111】
ガラスの耐アルカリ性はISO695に準じた試験により評価した。
【0112】
ガラスの耐酸性は、YBB00342004に準じた耐酸性試験により評価した。
【0113】
また、歪点Psは、ASTM C336に準拠したファイバー延伸法を用い、ガラスの粘度が1014.5Pa・sになる温度を求めた。
【0114】
徐冷点Ta及び軟化点Tsは、ASTM C388に準拠したファイバー延伸法を用い、ガラスの粘度が107.6dPa・sになる温度を求めた。
【0115】
作業点(ガラスの粘度が104.0dPa・sになる温度)及びガラスの粘度が103.0dPa・sになる温度の測定は、白金球引き上げ法を用いて求めた。
【0116】
線熱膨張係数の測定は、約5mmφ×20mmのロッド状に成形したガラス試料を用い、ディラトメーターにより、20~300℃の温度範囲において行った。
【0117】
液相温度の測定は、約120×20×10mmの白金ボートに粉砕したガラス試料を充填し、線形の温度勾配を有する電気炉に24時間投入した。その後、顕微鏡観察にて結晶析出箇所を特定し、結晶析出箇所に対応する温度を電気炉の温度勾配グラフから算出し、この温度を液相温度とした。
【0118】
液相粘度の算出は、歪点、徐冷点、軟化点、作業温度とFulcherの粘度計算式からガラスの粘度曲線を求め、この粘度曲線から液相温度におけるガラスの粘度を算出し、この粘度を液相粘度とした。
【0119】
化学強化(イオン交換)後の試料の圧縮応力値(CS)と試料表面からの深さ(DOL)は、表面応力計(株式会社折原製作所製FSM-6000)を用いて求めた。
【0120】
表1~5から明らかなように、本発明の実施例は、作業点が1321℃以下、耐加水分解性試験によるアルカリ溶出量が58.9μg/g以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の医薬品容器用ガラスは、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、カートリッジなどの医薬品容器を製造するためのガラスとして好適である。また、経口剤用医薬品の医薬品容器や飲料用びんにも応用可能である。