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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】固着具と固着具の固定方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/04 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
F16B37/04 Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023177873
(22)【出願日】2023-09-26
【審査請求日】2023-12-25
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506037009
【氏名又は名称】赤羽 廣志
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 廣志
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第02762365(FR,A1)
【文献】特表2011-521181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の成形品部材に第1の孔と、底部に前記第1の孔の内径より小さい内径の第2の孔とからなる2段孔を有し、この2段孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具であって、
円柱状の本体に上記第1の孔の孔径と同じか所定値小さい外径の頭部と、
この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる栓体部と、
この栓体部の外側周面上に円錐台における最大外径と最小外径との間のほぼ1/2の位置に設けられ、上記第2の孔の上部から孔周面が溶融された際に当該周面樹脂が流れ込む溝と、
を具備したことを特徴とする固着具。
【請求項2】
熱可塑性樹脂の成形品部材に第1の孔と、底部に前記第1の孔の内径より小さい内径の第2の孔とからなる2段孔を有し、この2段孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具であって、
円柱状の本体に上記第1の孔の孔径と同じか所定値小さい外径の頭部と、
この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる第1の栓体部と、
この第1の栓体部に隣接して設けられた溝と、
この溝に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記溝に接する側を前記第1の栓体部の最大外径を変えた最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる第2の栓体部と、
を具備したことを特徴とする固着具。
【請求項3】
熱可塑性樹脂の成形品部材に第1の孔と、底部に前記第1の孔の内径より小さい内径の第2の孔とからなる2段孔を有し、この2段孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具の固定方法であって、
上記固着具は、円柱状の本体に上記第1の孔の孔径と同じか所定値小さい外径の頭部と、この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる栓体部と、この栓体部の外側周面上に円錐台における最大外径と最小外径との間のほぼ1/2の位置に設けられ、上記第2の孔の上部から孔周面が溶融された際に当該周面樹脂が流れ込む溝とを有し、
上記2段孔に前記固着具が挿入されて前記固着具の頭部が加熱・加圧された際、上記第2の孔の上部から孔周面が前記固着具の栓体部と溝とにより溶融されて前記固着具が上記2段孔に固定されることを特徴とする固着具の固定方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂の成形品部材に第1の孔と、底部に前記第1の孔の内径より小さい内径の第2の孔とからなる2段孔を有し、この2段孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具の固定方法であって、
上記固着具は、円柱状の本体に上記第1の孔の孔径と同じか所定値小さい外径の頭部と、この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる第1の栓体部と、この第1の栓体部に隣接して設けられた溝と、この溝に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記溝に接する側を前記第1の栓体部の最大外径を変えた最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる第2の栓体部とを有し、
上記2段孔に前記固着具が挿入されて前記固着具の頭部が加熱・加圧された際、上記第2の孔の上部から孔周面が前記固着具の第1の栓体部と溝と第2の栓体部とにより溶融されて前記固着具が上記2段孔に固定されることを特徴とする固着具の固定方法。
【請求項5】
合成樹脂の成形品部材に設けられた孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具であって、
上記固着具は、円柱状の本体に上記孔の孔径と同じ外径の頭部と、この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる栓体部と、この栓体部の外側周面上に設けられた溝とを有し、
上記合成樹脂の成形品部材に設けられた孔に熱可塑性樹脂のリングが置かれた後、前記孔に前記固着具が挿入された際、前記固着具の頭部が加熱・加圧され前記固着具の栓体部により前記リングが溶融されて前記固着具が前記孔に固定されることを特徴とする固着具の固定方法。
【請求項6】
炭素基材に設けられた孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具であって、
上記固着具は、円柱状の本体に上記孔の孔径と同じ外径の頭部と、この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる栓体部と、この栓体部の外側周面上に設けられた溝とを有し、
上記炭素基材に設けられた孔に熱可塑性樹脂のリングが置かれた後、前記孔に前記固着具が挿入された際、前記固着具の頭部が加熱・加圧され前記固着具の栓体部により前記リングが溶融されて前記固着具が前記孔に固定されることを特徴とする固着具の固定方法。
【請求項7】
上記リングは、熱可塑性樹脂または熱可塑性接着剤であって常温で固着具を固定することを特徴とする請求項又は請求項に記載の固着具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、量産化に適した合成樹脂の成形品部材やカーボン(炭素基材)に嵌め込み固定して使用するのに適した固着具と固着具の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂の成形品からなる部材にねじ孔を形成してボルトなどをねじ込み固定すると、引張り、ねじり、振動その他の外力を受けたとき、あるいはボルトなどを反覆して着脱したときにねじ孔が変形し、または破壊して使用できなくなる。
そこで、合成樹脂等の成形品部材に設けられた孔に対して、嵌め込み固定してボルトなどを安定よく固定しておくことができると共に反覆着脱に耐えるようにしたナット状の金属製固着具(インサート)が実用化されている。さらに、このような固着具が成形品部材の孔に喰い込んで充分な強度で固定されるように固着具の外側周面にローレット状その他の凹凸を設ける方法が提案されている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
このような固着具を成形品部材に嵌め込む際は、成形品部材に設けられたボス孔に固着具を加熱(200℃前後)しながら加圧して嵌め込んでいる。このような合成樹脂の成形品部材は熱可塑性樹脂であるからできることである。素材の合成樹脂が熱可塑性樹脂でなく熱硬化性樹脂の成形品部材やカーボン(炭素基材)などは加熱(200℃前後)しても溶けないのであるからこのような構成で固着具を嵌め込み固定するのは無理なことである。
そこで本発明者は、合成樹脂として熱可塑性樹脂だけでなく熱硬化性樹脂でできた成形品部材に設けられた孔やカーボン(炭素基材)に設けられた孔に固定できる固着具と固着具の固定方法に関して本年7月10日に出願した。特願2023-133165
【0004】
しかしながら、上述した固着具は固着具後端部に熱可塑性樹脂が接着剤等で取り付けられている。これでは、固着具に熱可塑性樹脂を取り付ける手間がかかって量産化に向いていないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭50-85756号公報
【文献】特開昭58-124809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、特願2023-133165で出願した固着具は固着具後端部に熱可塑性樹脂を接着剤等で取り付けるため固着具に熱可塑性樹脂を取り付ける手間がかかって量産化に向いていないという課題があった。この発明の目的は、量産化に適した熱可塑性樹脂だけでなく熱硬化性樹脂でできた成形品部材に設けられた孔やカーボン(炭素基材)に設けられた孔に固定できる固着具と固着具の固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂の成形品部材に第1の孔と、底部に前記第1の孔の内径より小さい内径の第2の孔とからなる2段孔を有し、この2段孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具であって、円柱状の本体に上記第1の孔の孔径と同じか所定値小さい外径の頭部と、この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる栓体部と、この栓体部の外側周面上に円錐台における最大外径と最小外径との間のほぼ1/2の位置に設けられ、上記第2の孔の上部から孔周面が溶融された際に当該周面樹脂が流れ込む溝とを具備したものである。
また、本発明は、熱可塑性樹脂の成形品部材に第1の孔と、底部に前記第1の孔の内径より小さい内径の第2の孔とからなる2段孔を有し、この2段孔に加熱・加圧されて固定されるナット状の金属製の固着具の固定方法であって、上記固着具は、円柱状の本体に上記第1の孔の孔径と同じか所定値小さい外径の頭部 と、この頭部に隣接して前記円柱状の本体の外側周面上に多数の凹凸条を有し、前記頭部に接する側を最大外径として円錐台形状に所定の勾配で外径が小さくなる栓体部と、この栓体部の外側周面上に円錐台における最大外径と最小外径との間のほぼ1/2の位置に設けられ、上記第2の孔の上部から孔周面が溶融された際に当該周面樹脂が流れ込む溝とを有し、上記2段孔に前記固着具が挿入されて前記固着具の頭部が加熱・加圧された際、上記第2の孔の上部から孔周面が前記固着具の栓体部と溝とにより溶融されて前記固着具が上記2段孔に固定されるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、量産化に適した熱可塑性樹脂だけでなく熱硬化性樹脂でできた成形品部材に設けられた孔やカーボン(炭素基材)に設けられた孔に固定できる固着具と固着具の固定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る第1実施例が適用可能な固着具の一例を示す片側断面図。
図2】第1実施例が適用可能な成形品部材の形状を示す断面図。
図3】固着具が成形品部材の孔に仮置きされた状態を示す図。
図4】固着具が成形品部材の孔に固定された状態を示す図。
図5】第2実施例に用いられるリングの断面図。
図6】第2実施例が適用可能な成形品部材の形状を示す断面図。
図7】第2実施例が適用可能なリングと成形品部材の形状を示す断面図。
図8】第2実施例における固着具が成形品部材の孔に仮置きされた状態を示す図。
図9】第2実施例における固着具が成形品部材の孔に固定された状態を示す図。
図10】第3実施例が適用可能なカーボン(炭素基材)の形状を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、この発明の第1実施例に係るインサートと呼ばれる固着具1を示す片側断面図である。すなわち、この固着具1は、短い円柱状の本体2に端面aを有する外側周面上に設けられてローレット(凹凸条)を有する頭部3、小径部4、外側周面上に設けられ方形網目のローレット(凹凸条)を有する栓体部5、および後端部6を有して設けられている。
頭部3は、後述する熱可塑性樹脂でできた成形品部材の孔径と同じ外径で加工されている。この頭部は固着具の大きさに応じて成形品部材の孔径より所定値小さくしても良い。
また、栓体部5は、小径部4に接する側を最大外径とした円錐台形状となっていて後端部6に向かって外径を小さくしている。そのため本実施例では勾配の角度が4度となっている。この勾配の角度は固着具の大きさや材質に応じて0.1度~10度の範囲で加工される。
【0011】
また、栓体部5の最大外径は、後述する成形品部材の孔径と同じ外径で加工されている。この最大外径は固着具の大きさに応じて成形品部材の孔径より所定値小さくしても良い。さらに、栓体部5には溝7が設けられている。溝7は円錐台のほぼ1/2の位置に設けられている。ただし、溝の位置はこれに限らず固着具の大きさにより適宜対応する。
【0012】
本体2には、端面aから雌ねじ8が貫通ねじとして設けられている。
なお、雌ねじは、クローズエンドで加工されていてもよい。また、小径部4を設けなくてもよい。
【0013】
本実施例の固着具1は、1/100mm単位で切削加工される。
例えば、固着具1の寸法は、全長(端面aから後端部6)が10.00mm、頭部3の外径が6.00mmで長さが2.00mm、小径部4の外径が5.80mmで長さが0.50mm、栓体部5の小径部4に接する側の最大外径が6.00mmで長さが7.50mmで切削加工されている。雌ねじ8はM4で加工されている。
なお、固着具1は、本実施例では黄銅を用いているが、ステンレス鋼、炭素鋼、アルミニウム、亜鉛等の金属を用いても良い。
【0014】
図2は、熱可塑性樹脂で成形された成形品部材11の構成例を示す断面図である。成形品部材11には、ボス12に孔13が設けられ、ボス12の上面に端面bを設けて形成されたものである。孔13は、上部が固着具1の頭部3の外径と同じ孔径、下部が前記孔径より所定値小さい孔径の2段で形成されている。例えば、孔13の全体の深さが10.00mmで、上部の孔径が6.00mmで端面bからの深さが4.00mm、下部の孔径が5.40mmで深さが6.00mmで形成されている。
【0015】
次に、固着具1の構成についてさらに詳しく説明する。
固着具1は、上述したように栓体部5が設けられているが、これは熱硬化性樹脂の成形品部材11に設けられた孔13に嵌め込む際の案内(ガイド)となるものである。さらに本発明の固着具1は、栓体部5が、従来のように成形品部材の孔周面を削るものではなく、詳しくは後述するが孔13の孔周面から溶融されて栓体部5の溝7を中心に包み込むように固まるものである。従来のように孔の内径より大きい外径の固着具を無理に嵌め込む発想とは全く異なる新規のものである。
【0016】
次に、このような構成において、成形品部材11の孔13に固着具1を嵌め込み固定する方法について説明する。すなわち、本嵌め込み固定方法は、固着具1を加熱しながら加圧して成形品部材11の孔13へ嵌め込むものである。まず、パーツフィーダー等により固着具1が成形品部材11の孔13に供給される。その際、固着具1は栓体部5が案内(ガイド)となって成形品部材11の孔13に仮置き状態となる。
【0017】
図3に示すように、孔13の下部の孔に栓体部5の溝7が乗る状態となる。この状態で、固着具1が上方(図上)から加熱されながら加圧され、孔13の孔周面が溶け出して固着具1の孔13への進入を可能ならしめる。すなわち、加熱される固着具1は栓体部5の溝7の接触部に熱が集中して孔周面の溶融が加圧も加わって加速する。溶融した孔周面は、栓体部5の溝7を中心にして上下に広がって栓体部5のローレット周面に流れ込む。
【0018】
図4は、固着具1が加熱・加圧された後の状態を示すものである。固着具1は、成形品部材11の孔13に嵌め込まれ固定されている。固着具1の全長と成形品部材11の孔13の端面bから底までの深さが同じなので所定位置まで加圧されて止まる。その結果、固着具1の端面aと成形品部材11の端面bとがフラットに同一平面で一致されている(所定位置)。これは、固着具1が孔13の底(所定位置)まで加圧されるので、その深さ以上に孔13に喰い込むことがないからである。
【0019】
また、この栓体部5の溝7を中心とした孔周面に溶融して流れ込んだ成形品部材11の熱可塑性樹脂は、方形網目のローレットに喰い込むと共に溝7にも流れ込んでいるので固着具1が孔13に固定された状態になっている。
これにより、固着具1は、成形品部材11の孔13への引っ張り強度(引き抜き強度)を保ち、ねじり強度(回転トルク)も確保することができる。また、上述した固着具1の挿入によるボスの孔13の内部からの膨張圧力がないのでボス12の上部に時々生じる割れを回避することが可能となる。さらに、ボス12の経年劣化による割れも回避できるものと思われます。
【0020】
また、本実施例の固着具1の頭部3は、切削工程のコストダウンをするため外側周面上のローレット(凹凸条)を設けなくてもよい。本実施例の固着具1の栓体部5は、溝7の上部を第1の栓体部、溝の下部を第2の栓体部として切削加工するようにしてもよい。例えば、第1の栓体部の勾配を0度~10度の範囲とし、第2の栓体部の勾配を0度~10度の範囲としてもよい。さらに、第1の栓体部の最大外径と第2の栓体部の最大外径とを変えてもよい。これは、固着具の大きさや材質に応じて適宜対応すれば良い。なお、第1の栓体部の勾配の0度、第2の栓体部の勾配の0度とは、円錐台形状ではなく円柱形状となる。また、第1の栓体部と第2の栓体部の長さも固着具の大きさや材質に応じて適宜対応すれば良く、要は図4に示すように溝を中心とした上下の部分が溶融されればよいのである。
【0021】
次に第2実施例について説明する。
図5は、第2実施例に係る熱可塑性樹脂で成形されたリング20の断面図である。リング20は、外径6.00mm、内径が5.30mm、長さが6.00mmで形成されている。なお、リング20は、熱可塑性の接着剤でもよく、要は熱で溶けて常温で固まればよいのである。
図6は、熱硬化性樹脂で成形された成形品部材31の構成例を示す断面図である。成形品部材31には、ボス32に孔33が設けられ、ボス32の上面に端面cを設けて形成されたものである。孔33の内径は6.00mmで深さ10.00mmで形成されている。
図7は、成形品部材31の孔33にリング20を挿入した状態を示す断面図である。
【0022】
次に、このような構成において、成形品部材31の孔33に第1実施例で示した固着具1を嵌め込み固定する方法について説明する。
図8に示すように、孔33の下部のリング20に栓体部5の溝7が乗る状態となる。この状態で、固着具1が上方(図上)から加熱されながら加圧され、リング20の孔周面が溶け出して固着具1の孔33への進入を可能ならしめる。すなわち、加熱される固着具1は栓体部5の溝7の接触部に熱が集中してリング20の周面の溶融が加圧も加わって加速する。溶融したリング20の周面は、栓体部5の溝7を中心にして上下に広がって栓体部5のローレット周面に流れ込む。
【0023】
図9は、固着具1が加熱・加圧された後の状態を示すものである。固着具1は、成形品部材31の孔33に嵌め込まれ固定されている。固着具1の全長と成形品部材31の孔33の端面cから底までの深さが同じなので所定位置まで加圧されて止まる。その結果、固着具1の端面aと成形品部材31の端面cとがフラットに同一平面で一致されている(所定位置)。これは、固着具1が孔33の底(所定位置)まで加圧されるので、その深さ以上に孔33に喰い込むことがないからである。そもそも、成形品部材31は、熱硬化性樹脂であるので、熱によって溶けることはない。
【0024】
また、この栓体部5の溝7を中心としたリング20が溶融して流れ込んだ熱可塑性樹脂は、方形網目のローレットに喰い込むと共に溝7にも流れ込み、さらに成形品部材31の孔33周面に溶けて貼り付いているので固着具1が孔33に固定された状態になっている。
これにより、固着具1は、成形品部材31の孔33への引っ張り強度(引き抜き強度)を保ち、ねじり強度(回転トルク)も確保することができる。また、上述した固着具1の挿入によるボスの孔33の内部からの膨張圧力がないのでボス32の上部に時々生じる割れを回避することが可能となる。さらに、ボス32の経年劣化による割れも回避できるものと思われます。
なお、第1実施例で示した成形品部材の孔は2段孔であったが、2段孔でない従来の熱可塑性樹脂の孔であっても第2実施例で示したリングを用いることにより本発明の固着具1を用いることができる。
【0025】
次に第3実施例について説明する。
図10は、第3実施例に係るカーボン等の炭素基材51に形成された孔53の構成例を示す断面図である。本実施例の孔53は、内径が6.00mm、深さ10.00mmで形成されている。炭素基材51は粘性がなく脆いのであるが、上述した第1実施例の固着具1を第2実施例で示したリング20を用いて容易に嵌め込み固定することができる。これにより、固着具1は、炭素基材51の孔53への引っ張り強度(引き抜き強度)を保ち、ねじり強度(回転トルク)も確保することができる。
【0026】
本発明者は、全く新しい発想に基づく固着具の試作を繰り返しているが、上述した熱硬化性樹脂の成形品部材だけでなく、カーボン(炭素基材)の板に開けた孔に対しても従来不可能であった固着具の実用化を上述した実施形態により実用化することに成功した。同様に、従来の熱可塑性樹脂の成形品部材に対しても上述した実施形態により実用化することに成功した。つまり、本発明の固着具は、素材として従来の熱可塑性樹脂で成形された成形品部材だけでなく、熱硬化性樹脂で成形された成形品部材、また粘性に乏しいカーボン(炭素基材)にも用いることができる。さらに、木材、ガラス、陶器に設けた孔にも固定できることを試作で確認した。また、合成樹脂の中でも、応力により割れやすいポリカーボネートにも本実施形態の固着具は孔内部から応力(膨張圧力)を発生させないので実用化することができた。
【0027】
以上説明したように上記発明の実施の形態によれば、量産化に適した熱可塑性樹脂だけでなく熱硬化性樹脂でできた成形品部材に設けられた孔やカーボン(炭素基材)に設けられた孔に固定できる固着具と固着具の固定方法を提供することができる。
【0028】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0029】
1…固着具、2…本体、3…頭部、4…小径部、5…栓体部、6…後端部、7…溝、8…雌ねじ、11,31…成形品部材、12,32…ボス、13,33,53…孔、20…リング、51…カーボン。
【要約】
【課題】量産化に適した熱可塑性樹脂だけでなく熱硬化性樹脂でできた成形品部材に設けられた孔やカーボン(炭素基材)に設けられた孔に固定できる固着具と固着具の固定方法を提供する。
【解決手段】本発明の固着具1は、短い円柱状の本体2に端面aを有する外側周面上に設けられてローレット(凹凸条)を有する頭部3、小径部4、外側周面上に設けられ方形網目のローレット(凹凸条)を有する栓体部5、および後端部6を有して設けられている。頭部3は、後述する熱可塑性樹脂でできた成形品部材の孔径と同じ外径で加工されている。栓体部5は、小径部4に接する側を最大外径とした円錐台形状となっていて後端部6に向かって外径を小さくしている。この円錐台形状は勾配の角度が4度となっている。さらに、栓体部5には溝7が設けられている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10