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  • 特許-膜蒸留式蒸留装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】膜蒸留式蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/36 20060101AFI20240731BHJP
   B01D 5/00 20060101ALI20240731BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20240731BHJP
   B01D 65/10 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D5/00 A
B01D63/02
B01D65/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021534023
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028053
(87)【国際公開番号】W WO2021015162
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019136755
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】池田 充志
(72)【発明者】
【氏名】橋本 知孝
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-130874(JP,A)
【文献】特開2019-025449(JP,A)
【文献】特開昭55-097282(JP,A)
【文献】特開平6-154558(JP,A)
【文献】特開2014-36919(JP,A)
【文献】特開2015-229154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成されたハウジングと、前記ハウジングの内部の左右に長手方向に沿って配置された蒸発部および冷却部とを備え、
前記蒸発部は、束状の多孔質中空糸膜からなる膜モジュールを備えており、
前記蒸発部に被処理液を供給して生成された蒸気が前記冷却部で冷却されて蒸留水が生成される膜蒸留式蒸留装置であって、
前記蒸発部と前記冷却部との間に介在されて前記ハウジングの長手方向に沿って延びる分離壁を備え、前記蒸発部で発生する被処理液の漏出液が、前記分離壁によって蒸留水と分離され
前記分離壁は、前記ハウジングの長手方向全体に延びて、前記ハウジングの下部から起立するように設けられており、
前記分離壁の上方に蒸気の流路が形成されている膜蒸留式蒸留装置。
【請求項2】
前記蒸発部で生成された蒸気に含まれる液滴を捕捉するデミスタを更に備える請求項1に記載の膜蒸留式蒸留装置。
【請求項3】
前記漏出液の濃度を検出する濃度センサを更に備える請求項1または2に記載の膜蒸留式蒸留装置。
【請求項4】
前記冷却部は、冷却水となる被処理液との熱交換により蒸気を冷却する熱交換器を備え、
熱交換後の被処理液が前記ハウジングの外部で更に加熱されて前記蒸発部に供給される請求項1からのいずれかに記載の膜蒸留式蒸留装置。
【請求項5】
記ハウジングを複数備えることにより、複数の空間が形成されており、
前記蒸発部および冷却部は、複数の前記空間のそれぞれに配置されて多段接続されている請求項に記載の膜蒸留式蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蒸留式蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質膜を用いて被処理液を膜蒸留する膜蒸留式蒸留装置として、特許文献1には、多孔質膜を介して被処理液から水蒸気を放出する蒸発部と、生成された水蒸気を凝結する凝結部とを備える構成が開示されている。
【0003】
この蒸留装置は、蒸発部から漏出して多孔質膜に沿って流下する漏出液を貯留する漏出液回収部を蒸発部の下部に備えており、凝結部で生成された凝結水を回収する凝結水回収部から漏出液回収部を分離することで、漏出液と凝結水との混合防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-130874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された蒸留装置は、海水等の漏出液が多孔質膜に沿って流下する際に固体状の塩が発生し、長時間の運転により多孔質膜表面の塩が大きな塊状に成長して落下した場合に、一部が凝結水に溶け込むおそれがあった。
【0006】
上記特許文献1には、蒸発部と凝結部とをそれぞれ異なる外筒に収容し、これらの外筒同士を複数の通気管で連結する構成も開示されているが、構成が煩雑になるため小型化が困難であり、放熱ロスが生じ易いという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、高純度の蒸留水をコンパクトな構成により効率良く生成することができる膜蒸留式蒸留装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、筒状に形成されたハウジングと、前記ハウジングの内部の左右に長手方向に沿って配置された蒸発部および冷却部とを備え、前記蒸発部は、束状の多孔質中空糸膜からなる膜モジュールを備えており、前記蒸発部に被処理液を供給して生成された蒸気が前記冷却部で冷却されて蒸留水が生成される膜蒸留式蒸留装置であって、前記蒸発部と前記冷却部との間に介在されて前記ハウジングの長手方向に沿って延びる分離壁を備え、前記蒸発部で発生する被処理液の漏出液が、前記分離壁によって蒸留水と分離され、前記分離壁は、前記ハウジングの長手方向全体に延びて、前記ハウジングの下部から起立するように設けられており、前記分離壁の上方に蒸気の流路が形成されている膜蒸留式蒸留装置により達成される。
【0009】
この膜蒸留式蒸留装置は、前記蒸発部で生成された蒸気に含まれる液滴を捕捉するデミスタを更に備えることが好ましい。
【0010】
また、前記漏出液の濃度を検出する濃度センサを更に備えることが好ましい。
【0012】
前記冷却部は、冷却水となる被処理液との熱交換により蒸気を冷却する熱交換器を備えることが好ましく、熱交換後の被処理液が前記ハウジングの外部で更に加熱されて前記蒸発部に供給されるように構成することができる。この構成においては、前記ハウジングを複数備えることにより、複数の空間を形成し、前記蒸発部および冷却部を、複数の前記空間のそれぞれに配置して多段接続することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高純度の蒸留水をコンパクトな構成により効率良く生成することができる膜蒸留式蒸留装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。
図2図1に示す膜蒸留式蒸留装置の要部断面図である。
図3図1に示す膜蒸留式蒸留装置の変形例を示す要部断面図である。
図4図1に示す膜蒸留式蒸留装置の他の変形例を示す要部断面図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。
図6図5に示す膜蒸留式蒸留装置の要部断面図である。
図7図5に示す膜蒸留式蒸留装置の変形例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。図1に示すように、膜蒸留式蒸留装置1は、筒状に形成されたハウジング10と、ハウジング10の内部空間Sに配置された蒸発部20および冷却部30とを備えている。
【0016】
図2は、図1に示すハウジング10の断面図である。ハウジング10は、円形状の断面を有しており、左右に配置された蒸発部20と冷却部30との間に分離壁11が介在されている。分離壁11は、蒸発部20と冷却部30と共に、ハウジング10の長手方向に沿ってハウジング10の全体に延びており、ハウジング10の下部から起立するように設けられている。分離壁11の高さは必ずしも制限されないが、分離壁11の上方に蒸気の流路を確保しつつ、蒸発部20の全体を冷却部30から分離できるように、蒸発部20の最上部よりも高い位置まで延びていることが好ましい。
【0017】
蒸発部20は、疎水性多孔質膜からなる複数の中空糸膜22を束状に構成した膜モジュール21を備えている。疎水性多孔質膜の材料としては、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等を例示することができる。海水等の被処理液は、膜モジュール21の各中空糸膜22に一端側から導入されて他端側から排出される間に、一部が水蒸気となって中空糸膜22を透過し、空間S内に放出される。
【0018】
蒸発部20の直上におけるハウジング10の内壁と分離壁11との間には、デミスタ23が配置されている。デミスタ23は、例えば網板やパンチングメタル等を積層して構成することができ、蒸発部20で生成された蒸気に含まれる液滴を捕捉する。
【0019】
冷却部30は、金属材料等からなる複数の伝熱管32から構成される熱交換器31を備えている。海水等の被処理液は、ポンプ2の作動により冷却水として熱交換器31に一端側から供給され、各伝熱管32の内部を通過して他端側から排出される過程で、伝熱管32表面の蒸気を冷却して蒸留水を生成する。生成された蒸留水は、送液ポンプ7の作動により、不図示の回収タンク等に回収することができる。
【0020】
冷却部30から排出された被処理液は、加熱装置4において熱源との熱交換により加熱された後、蒸発部20に供給される。膜蒸留式蒸留装置1を船舶用造水装置として使用する場合、ディーゼル機関の冷却等に用いられたジャケット冷却水を熱源として使用することができる。但し、本実施形態の膜蒸留式蒸留装置1は、船舶用以外の用途にも適用可能であり、それぞれの用途に応じて利用可能な温水や蒸気等の高温流体を熱源とすることができる。
【0021】
ハウジング10の内部空間Sは、真空ポンプやアスピレータ等の真空装置3による抽気によって減圧され、蒸発部20による蒸気の生成が促されると共に、生成された蒸気が分離壁11の上方を通過して冷却部30に導かれる。空間Sの抽気は、真空ポンプやアスピレータ等の真空装置を使用せずに、水エゼクタ等の他の手段により行うことも可能である。
【0022】
蒸発部20は、使用材料の経年劣化等により、被処理液が液体の状態で中空糸膜22から漏出し、漏出液が発生するおそれがある。この漏出液は、開閉弁5の操作により、塩濃度を測定可能な濃度センサ6aを備えるチャンバ6を通過して、ブラインとして外部に排出することができる。
【0023】
本実施形態の膜蒸留式蒸留装置1は、分離壁11が蒸発部20と冷却部30との間に介在されてハウジング10の長手方向に沿って延びるように配置されているので、構成をコンパクトにしつつ、漏出液の成分が蒸留水に混合されるのを確実に防止することができる。したがって、例えば、蒸発部20の長さが長い場合や、中空糸膜22の外表面に塊状の析出物(例えば、金属塩等)が生成される場合でも、蒸留水を高純度に維持することができる。
【0024】
また、蒸発部20で発生した蒸気が冷却部30に導かれる途中にデミスタ23を配置しているので、漏出液等の液滴が蒸気に含まれる場合でも、この液滴を確実に除去することができ、蒸留水の純度をより高めることができる。デミスタ23は、捕捉した液滴が落下した際に蒸留水に混入するのを確実に防止するため、分離壁11の蒸発部20側に配置することが好ましい。デミスタ23は、本発明において必須のものではなく、デミスタ23を備えない構成であっても、高純度の蒸留水を効率良く生成することが可能である。
【0025】
ハウジング10から排出されるブラインは、チャンバ6内の濃度センサ6aにより塩濃度が測定されるため、この塩濃度に基づいて膜モジュール21の膜劣化等の状況を把握することができ、膜モジュール21の交換時期を判断することができる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されない。例えば、蒸発部20と冷却部30との間に介在される分離壁11は、ハウジング10の長手方向に沿って延びることにより、被処理液の漏出液を蒸留水と分離可能に構成されていればよく、例えば、図3(a)~(d)に断面図で示すように、ハウジング10の空間Sに蒸発部20および冷却部30を上下に配置して、それぞれの間にトレイ状の分離壁11を水平に配置することができる。
【0027】
図3(a)および(b)に示す構成は、蒸発部20の上方に冷却部30を配置して、冷却部30で生成された蒸留水を分離壁11に貯液可能とされている。一方、図3(c)および(d)に示す構成は、冷却部30の上方に蒸発部20を配置して、蒸発部20で発生する漏出液等のブラインを分離壁11に貯液可能とされている。図3(a)および(c)においては、ハウジング10の両端部に分離壁11の両端部がそれぞれ支持されているが、図3(b)および(d)に示すように、分離壁11の長手方向に沿った一方縁部も、ハウジング10の内壁面に固定することができる。
【0028】
また、冷却部30は、蒸発部20で生成された蒸気を冷却可能な構成であれば特に限定されないが、本実施形態のように、加熱前の被処理液を冷却水とする熱交換器31を備えることが好ましい。熱交換器31は、本実施形態のような伝熱管式(多管式)以外に、プレート式等であってもよい。図4に示すように、冷却部30が、内部を被処理液が通過するプレート33を複数並列配置したプレート式の熱交換器を備える場合、いずれかのプレート33を分離壁11として兼用することが可能である。
【0029】
図5は、本発明の他の実施形態に係る膜蒸留式蒸留装置の概略構成図である。図5に示す膜蒸留式蒸留装置1は、2つのハウジング10,10内部の空間S1,S2に蒸発部20および冷却部30をそれぞれ配置し、各空間S1,S2の蒸発部20,20同士および冷却部30,30同士を接続することにより、2段式として構成したものである。図6は、図5に示すハウジング10,10の断面図である。図5および図6において、図1および図2と同様の構成部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0030】
図5および図6に示すように、2つの空間S1,S2のうち1段目となる空間S1には、膜モジュール21-1を有する蒸発部20、および、2つの熱交換器31-3,31-4を有する冷却部30が、分離壁11を介して配置されている。また、2段目となる空間S2には、膜モジュール21-2を有する蒸発部20、および、2つの熱交換器31-1,31-2を有する冷却部30が、分離壁11を介して配置されている。2つのハウジング10,10は並列に配置されており、被処理液は、2段目から1段目に向けて熱交換器を31-1,31-2,31-3,31-4の順に通過して、加熱装置4で加熱された後、1段目から2段目に向けて膜モジュールを21-1,21-2の順に通過する。
【0031】
このように、膜蒸留式蒸留装置1を2段以上の多段式に構成し、多段接続された蒸発部20および冷却部30の間にそれぞれ分離壁11を介在させることで、高純度の蒸留水をより効率良く生成することができる。各ハウジング10,10は直列に接続してもよく、接続されたハウジング10,10の端部で被処理液の流路が折り返されるように構成することができる。
【0032】
膜蒸留式蒸留装置1を多段式に構成する場合、ハウジング10を複数備える代わりにハウジング10の内部を仕切部材で仕切ることにより、複数の空間を形成してもよい。例えば、図7(a)に示すように、ハウジング10の内部を水平な仕切部材12により上下に分割して空間S1,S2を形成することで、図6に示す構成と同様に構成することができる。図7(b)に示すように、空間S1,S2は、ハウジング10の内部を垂直な仕切部材12により左右に分割して形成することも可能である。図7(c)は、十字状の仕切部材12により形成された4つの空間S1,S2,S3,S4を示しており、それぞれに配置された蒸発部20および冷却部30を、分離壁11で分離すると共に多段接続することにより、各空間S1~S4を1段目から4段目として機能させることができる。
【0033】
本発明の膜蒸留式蒸留装置は、海水を膜蒸留して淡水を生成するのに好適に使用されるが、被処理液は海水以外であってもよい。また、本発明の膜蒸留式蒸留装置は、膜蒸留式造水装置として好適に使用されるが、例えば、種々の水溶液の濃縮等に使用することもできる。
【符号の説明】
【0034】
1 膜蒸留式蒸留装置
6a 濃度センサ
10 ハウジング
11 分離壁
20 蒸発部
21 膜モジュール
22 多孔質中空糸膜
23 デミスタ
30 冷却部
31 熱交換器
S 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7