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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】漏洩検知方法及び漏洩検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/24 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
G01M3/24 A
G01M3/24 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020156035
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049807
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000718
【氏名又は名称】弁理士法人中川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】金氏 眞
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160019(JP,A)
【文献】特開2002-310840(JP,A)
【文献】特開2018-189411(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0171783(US,A1)
【文献】特開2019-152450(JP,A)
【文献】特開2021-021665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設されると共に圧力を持った液体が流通し、二次元的又は三次元的な曲り部分又は断面積が変化する断面積変化部分或いは弁部などの液体の流速及び流れの方向、又は流れの方向が変化する流れ変化部を有し、液体の漏洩を検知すべき管路に対し、検知起点及び検知終点を設定すると共に設定された前記検知起点と前記検知終点の間に監視点を設定し、
前記管路に設定された監視点に配置された監視装置によって該管路の内部を監視し、
圧力を持った液体と共に移動し、時刻毎の移動速度及び移動方向、又は移動方向の変化を記録し得るように構成されると共に、時刻毎の流通する液体を介して伝達された音を集音記録し得るように構成された移動体を前記管路の検知起点から挿入し、
前記検知起点からの時刻に対応した前記移動体の前記管路内に於ける移動速度及び移動方向、又は移動方向の変化を記録すると共に液体を介して伝達された音を集音して記録し、
前記管路の検知終点で前記移動体を回収した後、前記監視装置によって前記移動体が前記監視点を通過したことを検出したときの時刻と、時刻に対応した前記移動体が移動する過程で記録した該移動体の移動速度及び移動方向、又は移動方向が変化したときの移動変化データ及び流通する液体を介して伝達された音を集音した音データ、及び前記管路の敷設図によって管路に於ける漏洩位置を検知することを特徴とする漏洩検知方法。
【請求項2】
地中に埋設されると共に圧力を持った液体が流通し、二次元的又は三次元的な曲り部分又は断面積が変化する断面積変化部分或いは弁部などの液体の流速及び流れの方向、又は流れの方向が変化する流れ変化部を有する管路の漏れを検知するための漏洩検知装置であって、
外径が漏れを検知すべき管路の内径よりも小さく、且つ該管路の内部を液体と共に移動する移動体と、
漏れを検知すべき管路の敷設方向に沿った所定位置に配置され、前記移動体に配置された時計と同期した時計と、該管路の内部を監視して前記移動体の通過を検出すると共に移動体の通過を検出したときの時刻を記録する検出部材と、
前記移動体の内部には、前記管路内を液体が流通する際に該液体を介して伝達された音を集音する集音部材及び該集音部材が集音した音を記録する記録部材、及び該移動体の移動速度及び移動方向、又は移動方向の変化を感知して記録する加速度計、及び時計、が配置されていることを特徴とする漏洩検知装置。
【請求項3】
前記圧力を持った液体は、前記管路を層流状態を保持して流通することを特徴とする請求項2に記載した漏洩検知装置。
【請求項4】
前記移動体には外部に向けて音波を連続発信する連続音波発信部材が配置されており、
前記検出部材には前記移動体から発信された音波を受信して記録する音波受信記録部材が配置されていることを特徴とする請求項2に記載した漏洩検知装置。
【請求項5】
前記移動体に配置された連続音波発信部材は、前記管路の内周面に向けて放射状に音波を連続発信し得るように構成されていることを特徴とする請求項4に記載した漏洩検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された管路であって圧力を持った液体が流通する管路に於ける漏洩の有無、及び漏洩位置を検知するための方法と装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中には上水道や工業用水或いは農業用水を含む種々の圧力を持った液体が流通する管路が敷設されている。このような管路は、規格サイズの管を配列すると共に、流通する液体に対応させた構造を持った継手を介して管どうしを液密性を確保して接続されている。例えば、工業用水用や農業用水用の管路の場合、ヒューム管の管端どうしをパッキンを介して接続することで水密性を確保している。また、上水道用の管路の場合には、鋳鉄管の管端どうしをパッキンを介してボルト締結することで水密性を確保している。
【0003】
上記の如き管路は地中に一直線状に敷設されていることはなく、周囲の地形や環境などに対応して曲がっているのが一般的である。また、管路には、内部に入り込んだ空気を開放するための弁栓部や、断面積が減少し又は増大する部分が配置されているものもある。そして、このような管路の敷設経路は敷設図として記録されている。
【0004】
一方、地中に敷設された管路には、路面を走行する車両による振動に応じた力や地盤沈下に伴う力、地震時に於ける管路の敷設方向又は管路の敷設方向に対し交差する方向への力等の力が常に作用している。そして、管路に作用するこれらの力によって管の継ぎ目が離隔して隙間ができたり、長期間にわたる利用によって劣化して管壁にひび割れが生じたりすることがある。
【0005】
圧力を持った液体が流通する管路に継ぎ目の隙間や管壁のひび割れ等が生じると、流通している液体が地中に漏洩することとなり、流通する液体の性質に対応した不具合が生じる。例えば、工業用水や農業用水或いは上水の場合、これらの水には夫々の目的に応じた水処理が行われており、漏水によって処理費用の無駄が生じることとなる。また、管路からの漏水によって、該管路周囲の地盤が軟弱化したり、或いは土壌が変化する虞もある。特に、液体がオイル成分を含むような場合、環境汚染を引き起こす虞もある。
【0006】
このような管路に於ける漏洩の有無と位置を検知するために、本件出願人は特許文献1に記載された「漏洩検知装置及び漏洩検知方法」を開発し、既に特許権を取得している。この技術は、集音部材とこの集音部材で集音した音を記録する記録部材及び音波をパルス状に発信する発信部材とクロックを搭載した移動体と、移動体に搭載した発信部材のクロックと同期させて該発信部材から発信された音を受信する受信部材と、を有している。
【0007】
漏洩位置を検出する際には、移動体を、液体が管路を流通する際に発生する音を集音して記録すると共に、発信部材からパルス状の音波を発信しつつ、液体が流通する管路内で移動させる。そして、移動体から発信された音を受信部材で受信し、受信した音波の数、及び発信部材で発信された時刻と受信部材で受信した時刻との差、或いは受信したパルス間隔の時間差によって、時間軸に対応させた移動体の位置を検出する。更に、時間軸に対応して記録された液体が管路を流通する際に発生する音のデータと、移動体の位置を同じ時間軸に重ねることで漏洩位置を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5583994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された発明では、移動体に配置された発振部材から発信されたパルス状の音波を、クロックによって規定される時間軸に対応させて受信し記録している。この方法で移動体の移動位置を検出することができる。
【0010】
しかし、移動体から発信されたパルス状の音波は管路内を進行する過程で管壁に衝突して反射を繰り返し、移動体との距離が増加するのに伴ってパルスであることが不明確になる。このため、移動体の移動距離の増加に伴ってパルスの受信精度が低下する虞がある。
【0011】
パルスの受信精度の低下に伴って時間軸に対応した移動体の位置精度も低下することとなり、同一時間軸に対応させて記録した液体が管路を流通する際に発生した音の発生位置を検出したときの位置精度が低下する虞が生じている。
【0012】
本発明の目的は、圧力を持った液体が流通する管路に於ける移動体の位置と、この位置に対応させて漏洩位置を検知することができる漏洩検知方法と、この方法を実施する漏洩検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る代表的な漏洩検知方法は、地中に埋設されると共に圧力を持った液体が流通し、二次元的又は三次元的な曲り部分又は断面積が変化する断面積変化部分或いは弁部などの液体の流速及び流れの方向、又は流れの方向が変化する流れ変化部を有し、液体の漏洩を検知すべき管路に対し、検知起点及び検知終点を設定すると共に設定された前記検知起点と前記検知終点の間に監視点を設定し、前記管路に設定された監視点に配置された監視装置によって該管路の内部を監視し、圧力を持った液体と共に移動し、時刻毎の移動速度及び移動方向、又は移動方向の変化を記録し得るように構成されると共に、時刻毎の流通する液体を介して伝達された音を集音記録し得るように構成された移動体を前記管路の検知起点から挿入し、前記検知起点からの時刻に対応した前記移動体の前記管路内に於ける移動速度及び移動方向、又は移動方向の変化を記録すると共に液体を介して伝達された音を集音して記録し、前記管路の検知終点で前記移動体を回収した後、前記監視装置によって前記移動体が前記監視点を通過したことを検出したときの時刻と、時刻に対応した前記移動体が移動する過程で記録した該移動体の移動速度及び移動方向、又は移動方向が変化したときの移動変化データ及び流通する液体を介して伝達された音を集音した音データ、及び前記管路の敷設図によって管路に於ける漏洩位置を検知することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明に係る代表的な漏洩検知装置は、地中に埋設されると共に圧力を持った液体が流通し、二次元的又は三次元的な曲り部分又は断面積が変化する断面積変化部分或いは弁部などの液体の流速及び流れの方向、又は流れの方向が変化する流れ変化部を有する管路の漏れを検知するための漏洩検知装置であって、外径が漏れを検知すべき管路の内径よりも小さく、且つ該管路の内部を液体と共に移動する移動体と、漏れを検知すべき管路の敷設方向に沿った所定位置に配置され、前記移動体に配置された時計と同期した時計と、該管路の内部を監視して前記移動体の通過を検出すると共に移動体の通過を検出したときの時刻を記録する検出部材と、前記移動体の内部には、前記管路内を液体が流通する際に該液体を介して伝達された音を集音する集音部材及び該集音部材が集音した音を記録する記録部材、及び該移動体の移動速度及び移動方向、又は移動方向の変化を感知して記録する加速度計、及び時計、が配置されているものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る漏洩検知方法は、圧力を持った液体(以下単に「液体」という)が流通する管路(以下単に「管路」という)の漏れを検知するための方法である。この検知方法では、予め漏れを検知すべき管路に、検知起点と検知終点を設定しておき、該検知起点から移動体を挿入して液体と共に移動させている。そして、移動体の移動過程で、時刻に対応した移動速度及び移動方向の変化又は移動方向の変化(以下「移動状態の変化」という)、液体を通して伝えられた音、を記録しておき、検知終点で移動体を回収した後、移動変化データ、音データと管路の敷設図とによって漏水位置を検知することができる。
【0016】
管路に於ける曲り部分や断面積変化部分或いは弁部などでは、液体の流速及び流れの方向、又は流れの方向が変化する。このため、移動体の移動速度及び移動方向の変化、又は移動方向の変化を検知して検知時刻と共に記録しておき、この記録を敷設図と突き合わせることで、敷設図に於ける移動体の通過時刻を知ることができる。
【0017】
また、移動体の移動過程で液体を介して伝達された音(以下「伝達音」という)を集音して時刻に対応させて記録する。そして、敷設図に於ける移動体の通過時刻と集音時刻を関連付けることで、該管路に於ける漏洩位置を推測することができる。
【0018】
本発明に係る漏洩検知装置は、伝達音を集音する集音部材及び該集音部材が集音した音を記録する記録部材、及び該移動体の移動速度及び移動方向、又は移動方向の変化を感知して記録する加速度計、及び時計、が配置されている。このため、本発明に係る漏洩検知方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施例に係る漏洩検知方法を説明する模式図である。
図2】本実施例に係る漏洩検知装置の構成を説明する模式図である。
図3】第2実施例に係る漏洩検知方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る漏洩検知方法について説明する。本発明に係る漏洩検知方法は、液体が流通する管路に於ける漏洩の有無と、漏洩が生じている場合にはその位置を検知するためのものである。特に、漏洩位置を検知するに際し、標準時を基準とする時刻に対応した管路内に於ける移動体の移動状態の変化を記録すると共に伝達音を記録し、これらの記録と管路の敷設図を突き合わせることによって、漏洩部位を検知するものである。
【0021】
圧力を持った液体が流通する管路は、該管路の起点から終点まで一直線状に敷設されているものなどはなく、二次元的又は三次元的な曲り部分、断面積が変化する部分など、流速及び流れの方向、又は流れの方向が変化する部分を複数有している(流れ変化部)。特に、水管橋や川などの下側を通過するサイフォンでは三次元的な変化部分を有している。また、管路に巻き込まれた空気を抜くための弁栓部が略一定の間隔をもって配置されている。そして、このような流れ変化部、弁栓部などの位置は目的の管路の敷設図に記載されている。
【0022】
このため、先ず漏洩を検知すべき管路に対し、検知始点と検知終点となる弁栓部を設定すると共にこれらの弁栓部を敷設図上で特定する。そして、検知始点として設定された弁栓部から移動体を挿入して液体と共に移動させ、時刻に対応させて移動体が流れ変化部を通過したときに生じた移動状態の変化を検知して記録する。
【0023】
更に、検知終点で移動体を回収した後、記録した移動状態が変化した部位の順序と流れ変化部を敷設図に突き合わせることで、移動体が上流側から順に流れ変化部を通過したことを知ることが可能である。即ち、移動体の移動状態が変化したときの時刻の経緯の記録から、上流側から順に配置された流れ変化部に対する通過時刻を知ることが可能である。そして、上流側の流れ変化部の通過時刻と下流側に隣接した流れ変化部の通過時刻と、両流れ変化部間の距離とから、この間の移動体の移動速度を知ることが可能となる。
【0024】
また、移動体が管路内を移動する過程で時刻に対応させて伝達音を記録し、この記録と管路内を移動した移動体の時刻に対応した移動位置の記録を突き合わせることで、敷設図上で、管路に於ける漏洩個所を検知することが可能である。特に、伝達音を記録した時刻とこの時刻に於ける移動体の移動速度と、上流側の流れ変化部を通過したときの時刻とから、この上流側の流れ変化部から伝達音を検知した位置までの距離を計算することで、より高い精度で漏洩位置を検知することが可能である。
【0025】
従って、管路内に挿入された移動体の移動状態の変化の記録と伝達音の記録を標準時を基準とした時刻に対応させて行い、夫々の記録及び記録した時刻と管路の敷設図とを突き合わせることによって、移動体が通過した流れ変化部の位置と、管路に生じている漏洩位置を高い精度で検知することが可能となる。
【0026】
このように本発明に係る漏洩検知方法では、移動体の移動状態の変化、伝達音の集音、という夫々が独立した事象を標準時を基準とした時刻毎に検知して記録することによって両者を関連付けている。即ち、移動状態の変化の記録から、目的の管路の敷設図に記載された流れ変化部を移動体が通過した時刻を検知することによって、隣接する流れ変化部間の移動速度を計算することが可能となる。そして、伝達音を集音した時刻と、該時刻前後の移動体が流れ変化部を通過した時刻を比較すると共に、これらの流れ変化部間の移動速度から伝達音を集音した位置(漏洩位置)を特定することが可能である。
【0027】
尚、本発明に係る漏洩検知方法に於いて、目的の管路に設定する検知始点と検知終点の位置は限定するものではなく、該管路に於けるこれまでの検知履歴などに対応させて適宜設定することが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る漏洩検知方法に於いて、管路に設定された検知始点と検知終点の間に監視点を設定し、この監視点に監視装置を配置して管路の内部を移動体が通過したことを検知し得るように構成することが好ましい。尚、監視装置としては、管路の内部を流通する物体を認識し得る機能を有するものであれば良く、監視方法や構造を限定するものではない。このような機能を有するものとして、扇状に光を照射すると共に反射光を感知して監視する装置、或いは超音波を発信し反射した超音波を検知して監視する装置や、管路内を撮影して監視する装置、移動体から音波を発信させると共にこの音波を受信して監視する装置などがあり、何れも利用することが可能である。
【0029】
このため、管路を移動した移動体の監視点の通過を監視装置によって確実に検出することが可能となり、この結果、移動体が監視点を通過したときの時刻を正確に検出することが可能である。従って、移動体が管路内を移動して監視点を通過した時刻を夫々正確に検出することが可能となり、検出した時刻と管路の敷設図とを突き合わせることによって漏洩位置を検出することが可能である。
【0030】
本発明に係る漏洩検知方法の第1実施例について、図1により説明する。前述したように、圧力を持った液体が流通する管路は敷設長が数キロメートルから数十キロメートルに及ぶのが一般的であり、周囲の地形や環境に合わせて平面的な及び立体的な曲り部を有している。同図(a)は漏洩を検知すべき管路の敷設図(以下管路又は敷設図を符号Aで示す)であり、管路Aに配置された複数の曲り部のうち、立体的な曲り部を示す模式図である。
【0031】
また、図1(b)は液体を介して伝達された伝達音を集音した記録を示す図であり、図1(c)は移動体の移動状態の変化の記録を示す図であり、図1(d)は標準時を基準とする時間軸を示す図である。
【0032】
図1(a)に示すように、管路Aには複数の弁栓部B(B1、B2、B3)が配置されている。また、管路Aには、液体の流速及び流れの方向又は流れの方向が変化する複数の曲り部分や、断面積の変化部分からなる流れ変化部C(C1~C3)を有している。そして、隣接する弁栓Bと流れ変化部Cとの距離L1~L4は敷設図A上で測定することが可能である。
【0033】
尚、図1(a)に示す管路Aには複数の漏洩部D1、D2、D3が存在するものとし、本発明はこれらの漏洩部D1~D3の位置を検知するための方法を提案するものである。
【0034】
また、同図(a)に於いて、t0~t4は管路Aに於ける弁栓部B1と弁栓部B2、及びこれらの弁栓部B1、B2の間に配置された夫々の流れ変化部C1~C3を通過する際に生じた流れ状態の変化を記録した時刻を示している。また、T1~T3は異常な伝達音を記録した時刻を示している。
【0035】
管路Aに配置された弁栓部Bは、主として管路Aの内部に巻き込まれた空気を大気に排出する際の排気弁としての機能を有するものであり、管路Aに対し略同じ距離をもって複数配置されている。これらの弁栓部Bは管路Aから立ち上げられた管と弁とによって構成されており、この菅を通して管路Aに対する移動体の挿入や取出、検視装置の取り付けなどを行うことが可能である。
【0036】
管路Aに形成された曲り部からなる流れ変化部C1、C2では、曲り形状の大きい側から曲り形状の小さい側に向けて液体の流れの方向が変化することとなる。このため、液体と共に管路Aの内部を移動する移動体も移動方向が変化し、この変化を検知することによって、移動体が曲り部を通過したことを認識することが可能である。
【0037】
また、管路Aに形成された断面積が変化した流れ変化部C3では、液体の流速が変化こととなる。このため、移動体の移動速度も変化し、この変化を検知することによって、移動体が断面積が変化する流れ変化部C3を到達したことを認識することが可能である。
【0038】
管路Aの漏洩を検知するに際し、先ず敷設図A上で、検知始点B1と検知終点B2を設定すると共に、検知始点B1から検知終点B2に至る間に存在する流れ変化部Cの位置、及び検知始点B1、各流れ変化部C、検知終点B2までの間の相互の距離を計測しておく。このとき、検知始点B1から検知終点B2までの距離は限定するものではなく、数キロメートル~数十キロメートルであって良い。
【0039】
上記の如くして管路Aに検知始点B1と検知終点B2を設定した後、検知始点B1から移動体10を管路Aに挿入する。この操作は、把持部材21によって移動体10を把持した状態で、弁栓部B1から移動体10を管路Aに挿入し、移動体10が管路Aの略中心に達したときに開放する。把持部材21による把持が解放された移動体10は管路A内を液体と共に移動する。また、検知終点B2には移動体10の到着時刻を想定して該移動体10を回収する回収部材22を管路Aの内部に配置しておく。
【0040】
移動体10は、移動速度及び移動方向又は移動方向の変化(移動状態の変化)を感知して標準時を基準とした時刻に対応させて記録し得るように構成されている。本実施例では、移動状態の変化を、移動体10に作用する三次元的な加速度の変化によって感知し得るように構成されている。また、液体を介して伝達された伝達音を集音して時刻に対応させて記録し得るように構成されている。
【0041】
移動体10は管路Aに挿入される以前から標準時を基準とする時刻を計時している。そして、移動体10は検知始点となる弁栓部B1から管路Aに挿入されて液体と共に下流側への移動を開始したとき、最初の移動状態の変化(移動速度の変化)を感知することとなる。この結果、図1(c)、(d)に示すように、移動状態の変化を感知したピーク30を時刻t0と共に記録する。同時に図1(b)に示すように伝達音を集音して記録する。
【0042】
管路Aの内部を液体と共に移動する移動体10は、該移動体10の移動に伴って、移動状態の変化(ピーク31~34)を感知しつつ、時刻t1~t4に対応させて記録して行く。即ち、移動体10に於ける移動速度の変化、移動体10の水平面内に於ける姿勢の変化、移動体10の垂直面内に於ける姿勢の変化、感知し、感知した移動状態の変化を時刻に対応させて記録して行く。同時に集音した伝達音を時刻に対応させて記録して行く。
【0043】
そして、移動体10が検知終点となる弁栓部B2に到達したとき、該弁栓部B2に配置された回収部材22によって回収する。その後、移動体10を管路Aから取り出し、この移動体10から、移動状態の変化を記録した流れ変化データ、及び伝達音を集音して記録した音データ、を取り出す。
【0044】
移動体10から取り出した流れ変化データと音データを経過した時刻を基準として並べ、敷設図Aと突き合わせると共に、最初に移動状態の変化を感知したピーク30と検知始点となる弁栓部B1を一致させて基準とし、流れ変化データと敷設図Aを突き合わせる。この結果、図1(d)に示す標準時を基準とした時間軸に対応させた、移動状態の変化を感知したピークによって表示された流れ変化データを示す図1(c)、伝達音を集音した集音ピークによって表示された音データを示す図1(b)、管路Aの敷設図Aである図1(a)が完成する。
【0045】
そして、同図から、移動状態の変化のピーク31が管路Aの曲り部の通過に対応するとの認識から該ピーク31と流れ変化部C1、同様にしてピーク32と流れ変化部C2、ピーク33が移動体10の移動速度の上昇に対応するとの認識から該ピーク33と流れ変化部C3、ピーク34と検知終点となる弁栓部B2、を夫々一致させると共に各ピーク30~34に対応した時刻t0~t4を対応させることが可能となる。
【0046】
更に、弁栓部B1から流れ変化部C1までの距離L1と時刻t0から時刻t1までの時間によって、移動体10が距離L1を移動する際の移動速度V1(図示せず)を計算することが可能となる。同様にして移動体10が距離L2を移動する際の移動速度V2、距離L3を移動する際の移動速度V3、距離L4を移動する際の移動速度V4を計算する。
【0047】
このため、時々刻々変化する移動体10の移動位置を確認することが可能である。尚、移動体10が距離L1~L4を移動する際の移動速度V1~V4は必ずしも同じ値とはならない。
【0048】
伝達音を記録した音データを示す図1(b)に表示された集音ピーク41、42、43に対応した時刻T1、T2、T3によって、各集音ピーク41~43が管路Aに於ける位置を略認識することが可能である。即ち、集音ピーク41は流れ変化部C1と流れ変化部C2の間に位置すること、集音ピーク42は流れ変化部C2と流れ変化部C3の間に位置すること、集音ピーク43は流れ変化部C3と流れ変化部C4の間に位置すること、を認識することが可能である。
【0049】
このようにして集音ピーク41~43に対応する管路Aの位置を漏洩部D1~D3として認識することが可能である。しかし、この場合、移動体10が各流れ変化部C1~C3を通過した時刻、及び弁栓部B2に到達した時刻を基準としたものであり、隣接する流れ変化部C1~C3からの距離X1~X3が明確にされたものではない。
【0050】
このため、既に計算されている移動体10の移動速度を利用して上流側に位置している流れ変化部C1~C3からの距離X1~X3を計算する。即ち、集音ピーク41が流れ変化部C1と流れ変化部C2との間にあり、この間の移動体10の移動速度がV1で、移動体10が流れ変化部C1を通過した時刻がt1、集音ピーク41の時刻がT1であることから、時刻t1から時刻T1までの時間と移動速度V1と、によって距離X1を計算する。この結果、流れ変化部C1から距離X1だけ下流側に集音ピーク41を発生させた漏洩部D1が存在する、としてこの漏洩部D1を検知することが可能である。
【0051】
同様にして流れ変化部C2から距離X2だけ下流側に漏洩部D2が存在すること、流れ変化部C3から距離X3だけ下流側に漏洩部D3が存在することを検知することが可能である。
【0052】
次に本発明に係る漏洩検知方法の第2実施例について図3により説明する。尚、前述した実施例と同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
本実施例は、管路Aに配置された弁栓部B1を検知始点として設定すると共に弁栓部B2を検知終点とする点では前述の実施例と同じである。そして、弁栓部B1と弁栓部B2の間に配置されている複数の弁栓部のなかから選択された弁栓部B3に監視装置23を配置して管路A内を監視することで、移動体10の通過を確認して移動体10が弁栓部B3を通過した正確な時刻を測定し得るように構成されている。
【0054】
監視装置23の構成は特に限定するものではなく、例えば、管路Aの垂直断面内で円周方向に向けて異なる角度で複数の方向に超音波を発信させると共に反射波を受信し得るように構成することが可能である。この場合、管路A内に発信されている超音波を移動体10が横切ったときの反射波を受信することで、該管路Aを監視することが可能である。
【0055】
本実施例では、移動体10に後述する超音波発信装置12を取り付けておき、発信された超音波を受信することで、管路A内を監視し得るように構成している。このため、監視装置23は、管路Aの内部に配置された受信部23aと、標準時を基準とした時刻を刻む時計及び受信部23aで受信した音を記録する記録部材などを収容した制御部23bとによって構成されている。
【0056】
そして、図3(e)に示すように、監視装置23によって移動体10を検出したとき、制御部23bでは、時刻t5に対応した検出ピーク51が記録される。従って、時刻t5を弁栓部B3よりも下流側に位置する流れ変化部Cを検知する際の基準時刻として再設定することが可能となる。
【0057】
次に、上記の如き漏洩検知方法を実施する際に利用して有利な本発明に係る漏洩検知装置Eの構成について図2により説明する。漏洩検知装置Eを構成する移動体10は、管路Aを流通する液体と共に該管路Aの略中心に沿って移動しつつ、移動状態の変化を感知して記録すると共に伝達音を集音して記録する。
【0058】
管路Aの略中心に沿って移動する移動体10の構成については特に限定するものではないが、該移動体10の比重を液体の比重に対し適度な値に設定しておくことが好ましい。例えば、移動体10の比重を液体の比重と略同じに設定することで、管路Aの略中心に沿って移動させることが可能である。この場合、管路Aを流通する液体が層流状態を保持していることが好ましい。また、移動体10を、比重が液体の比重よりも僅かに小さくなるように設定し、外周に比重調整部材を取り付けることで、管路Aの略中心に沿って移動させることも可能である。
【0059】
移動体10の形状は特に限定するものではなく、内部に配置すべき各部材を収容することが可能な長さを有する円筒体であることが好ましい。そして、前後端の形状は球形であることが好ましい。また、寸法は限定するものではないが、目的の管路Aの内径よりも充分に小さい外径を有することが必要であり、且つ弁栓部Bを容易に通過し得る寸法であることが必要である。通常弁栓部Bを構成する管は直径が75mmであるため、移動体10の外径は50mm~70mm程度であることが好ましい。また、長さは収容すべき部材の構成に対応するものの、約100mm~約200mm程度であることが好ましい。
【0060】
特に、移動体10は、管路Aの内部を移動する際の姿勢の安定化をはかるために、内部に収容する機器類を、重量が低部に集中するように配置することが好ましい。このように配置することで、移動中に生じる虞のあるローリングを少なくすることが可能である。
【0061】
また、移動体10が管路Aに形成された流れ変化部Cとなる水平方向又は垂直方向の曲り部を通過する際には、該移動体10を水平方向に又は垂直方向に回転させるように移動する。このため、このときの移動状態の変化を感知して移動体10が曲り部を通過したことを認識することが可能である。また、管路Aが二方に又は三方に分岐したとき液体の流速が変化する。このため、このときの移動状態の変化を感知して移動体10が管路Aの分岐部を通過したことを認識することが可能である。
【0062】
移動体10が管路Aの内部を移動する際に、該管路Aに形成されている屈曲部などで管壁に接触する虞がある。このため、移動体10の外周面にはクッション材が配置されていることが好ましい。このクッション材は移動体10の内部に収容されている機器類に対する衝撃を緩和する機能を有するものであり、このような機能を発揮し得るものであれば材質などを限定するものではない。
【0063】
移動体10に配置される伝達音を集音する集音部材、集音部材で集音した音を記録する記録部材の構成は特に限定するものではなく、管路A内を流通する液体を介して伝達された音を確実に集音することが可能なマイク、及び記録部材であれば良い。このような、集音部材、記録部材は1組あれば良い。しかし、管路A内で発生した音は管壁などに反射して明確なピークを生じないことが多い。このため、指向性の異なる2組の集音部材と、夫々の集音部材に対応させた2組の記録部材を配置しておくことが好ましい。
【0064】
移動体10には外部に向けて音波を連続発信させる連続音波発信部材を設けておくことが好ましい。この連続音波発信部材の構成は特に限定するものではなく、通常利用される音波発信部材であって良い。しかし、弁栓部Bに配置された監視装置23が確実に連続発信音を受信し得るようにするために、音波を放射状に発信することが好ましい。このため、移動体10にリング状に形成した連続音波発信部材を利用することが好ましい。
【0065】
弁栓部Bに配置された監視装置23は、移動体10から発信された連続発信音を受信して記録する機能を有する。特に、移動体10が管路A内を移動し、弁栓部Bに対向したときに連続発信音を確実に受信し得ることが必要である。従って、このような機能を有するものであれば特に限定するものではない。
【0066】
漏洩検知装置Eには標準時計が配置されており、移動体10に配置され集音した伝達音の音データを記録する記録部材、及び弁栓部Bに配置され監視装置23は、標準時を基準として制御される。即ち、同一時刻に移動体10に配置された記録部材は伝達音を集音して音データを記録し、音波受信記録部材2は移動体10から発信された連続発信音を受信して記録し得るように構成されている。
【0067】
本実施例に於いて、管路Aを流通する液体は層流状態を保持している。
【0068】
液体が層流状態で流通する管路Aに移動体10を挿入したとき、移動体10は層流状態を保持して流通する液体に伴って管路Aの略中心に沿って移動する。そして、移動体10が管路Aの略中心に沿って移動する過程で、液体から発生する音を集音して記録することが可能である。
【0069】
本実施例に係る漏洩検知装置Aの構成について図2により説明する。漏洩検知装置Eを構成する移動体10は、アルミニウム等の金属或いはプラスチックによって形成され、円筒状で滑らかな外周面を有する本体10aと、半球形で滑らかな外周面を有するキャップ10bとを有している。そして、本体10aに図示しないパッキンを介してキャップ10bを装着したとき、内部に管路の漏れを検知するのに必要な機器類を収容する収容空間10cが形成されている。従って、移動体10の収容空間10cは密閉された空間として構成されている。
【0070】
本実施例では、移動体10に形成された収容空間10cに2組の集音部材、記録部材が配置されている。即ち、移動体10には、前後に夫々集音部材を構成するとなる集音マイク11a、集音マイク11aによって集音した音を記録する録音機11bが配置されている。特に、一方の集音マイク11aは移動体10の移動方向下流側の端部側に配置され、下流側に対する指向性を有している。また、他方の集音マイク11aは移動体10の上流側の端部側に配置され、上流側に対する指向性を有している。
【0071】
移動体10に形成された収容空間本体10cには、帯状の連続音波発信部材12が内周面に沿って貼り付けるようにして配置されている。このため、移動体10の外部に対し放射状に音波を発信することが可能である。発信する音波の周波数や強度は限定するものではなく、管路Aの太さや流通する液体の性質などの条件に対応させて適宜設定することが好ましい。
【0072】
更に、上記収容空間10cには、集音マイク11a、録音機11b、連続音波発信部材12を制御する制御部13及び電源14が配置されている。更に、収容区間10cには、移動体10の制御の基準となる標準時計15aと、移動体10の移動速度及び移動方向の変化又は移動方向の変化を感知して記録し得るように構成された加速度計15bが配置されている。
【0073】
管路Aに配置された弁栓部から選択された弁栓部B3には、漏洩検知装置Eを構成する監視装置23が配置されている。この監視装置23は音波受信記録部材からなり、音波を受信するためにマイクによって構成された受信部23aと、受信部23aが受信した音波を記録すると共に標準時計を有する制御部23bと、を有して構成されている。
【0074】
受信部23aは弁栓部B3を構成する弁や配管などの管路A内を移動する移動体10から連続発信された音波を良好に受信し得る位置に取り付けられている。特に、受信部23aを取り付ける位置としては、弁栓部B3を構成する配管と管路Aを構成する本管との交差部分であることが好ましい。
【0075】
上記の如く構成された漏洩検知装置Eでは、移動体10を検知始点となる」弁栓部B1から管路Aに挿入するのに先立って、移動体10の」制御部13、弁栓部B3に配置した監視装置23の制御部23bによる夫々の制御を開始する。
【0076】
管路Aに挿入された移動体10では該管路A内を移動しつつ、加速度計15bによる移動状態の変化を感知して時刻に対応させて記録して行く。同時に集音11aで伝達音を集音し、集音した伝達音を時刻に対応させて録音機11bで記録して行く。更に、連続音波発信部材12から外部に向けて放射状に音波を連続発信する。
【0077】
その後、前述の第1実施例で説明したように、管路Aに挿入された移動体10が下流側の流れ変化部Cを通過したとき、加速度計15bが流れ状態の変化を感知してピーク30~34を記録して行く。同時に、移動体10が漏洩部Dを通過したとき、この漏洩部Dからの伝達音をマイク11aが集音し、時刻に対応させて録音機11bに記録して行く。
【0078】
特に、移動体10が弁栓部B3を通過する際には、該弁栓部B3に配置された監視装置23の受信部23aが移動体10から発信された連続音波を受信し、受信したときの受信ピーク51を時刻に対応させて制御部23bで記憶する。
【0079】
そして、移動体10が管路Aの検知終点に設定された弁栓部B2に到達したとき、回収部材22によって回収されて管路Aから離脱し、前述の第1実施例と同様の手順で管路Aに於ける漏洩の有無、漏洩部D1~D3の検知作業を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の漏洩検知方法及び漏洩検知装置は、圧力を持った液体が流通する管路であれば、水用の管路、油用の管路に利用することが可能である。特に、管路に配置された多くの弁栓部の中から検知始点と検知終点の弁栓部を利用することで良く、漏洩検知作業を容易に行うことがかのぅである。
【符号の説明】
【0081】
A 管路、敷設図
B、B1~B3 弁栓部(B1検知始点、B2検知終点)
C、C1~C3 流れ変化部
D、D1~D3 漏洩部
E 漏洩検知装置
L1~L4、X1~X3 距離
t0~t5、T1~T3 時刻
10 移動体
10a 本体
10b キャップ
10c 収容空間
11a 集音マイク
11b 録音機
12 連続音波発信部材
13 制御部
14 電源
15a 標準時計
15b 加速度計
21 把持部材
22 回収部材
23 監視装置
23a 受信部
23b 制御部
31~34 移動状態の変化を記録したピーク
41~43 集音ピーク
51 検出ピーク
図1
図2
図3