(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】液体炭化水素燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10G 65/12 20060101AFI20240731BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20240731BHJP
B01J 29/16 20060101ALI20240731BHJP
C10G 3/00 20060101ALI20240731BHJP
C10G 45/60 20060101ALI20240731BHJP
C10G 47/16 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C10G65/12
B01J23/755 M
B01J29/16 M
C10G3/00 Z
C10G45/60
C10G47/16
(21)【出願番号】P 2020554751
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2019021619
(87)【国際公開番号】W WO2020090141
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018203413
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500371112
【氏名又は名称】株式会社レボインターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】傳 慶一
(72)【発明者】
【氏名】東 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】松永 興哲
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】菊地 則義
【審判官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/208497(WO,A1)
【文献】特表2013-503246(JP,A)
【文献】特開2017-39910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の第1反応工程及び第2反応工程を有する液体炭化水素燃料の製造方法:
第1反応工程:接触水素化分解反応触媒の存在下で、水素の供給圧力を0.2~0.95MPaとし、原料油の液量の液空間速度を0.05~0.5hr
-1とし、及び水素の流量と原料油の流量との比率を、原料油1Lあたり水素100~1000NLとして、原料油の接触水素化分解を行って分解液を製造する工程であって、
該接触水素化分解反応触媒が、下記の群1及び/又は群2から選択される1種以上を含む触媒である工程
群1:ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナを含む固体酸触媒、並びに
群2:該固体酸触媒に、ルテニウム、ニッケル、モリブデン及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持された触媒
第2反応工程:水素添加反応触媒の存在下で、水素の供給圧力を0.2~0.8MPaとし、該
第1反応工程によって得られた分解液の液量の液空間速度を0.2~5hr
-1とし、及び水素の流量と該分解液の流量との比率を、該分解液1Lあたり水素100~1000NLとして、該分解液に水素添加を行って液体炭化水素燃料を製造する工程であって、
該水素添加反応触媒が、下記の群3及び/又は群4から選択される1種以上を含む触媒である工程。
群3:ニッケル、パラジウム及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持されたシリカ、ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナを含む固体酸触媒、並びに
群4:ニッケル、パラジウム及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持された、MgO含有シリカ
【請求項2】
原料油が、菜種油、綿実油、パーム油、ココナツ油、ヒマワリ油、大豆油、コーン油、米油、油ヤシ油、ココヤシ油、ジャトロファ油、オリーブ油、廃食油、ダーク油、動物油、海藻又は藻由来の油脂、バイオマス乾留油、軽油の炭素数より多い石油中の炭化水素成分、及び各種廃オイルからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
【請求項3】
固体酸触媒が、シリカ、シリカ-アルミナ、ゼオライト、シリカ-ジルコニア、アルミナ-ジルコニア及びチタニアからなる群より選択される1種以上の固体酸触媒である、請求項1又は2に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
【請求項4】
接触水素化分解反応触媒又は水素添加反応触媒がさらに金属を担持してなり、該金属が、白金、イリジウム、鉄、コバルト、レニウム及びマグネシウムからなる群より選択される1種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
【請求項5】
液体炭化水素燃料が、使用目的に応じて制御された炭素分布を持ち且つ低温流動性及び酸化安定性のある液体炭化水素燃料である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
【請求項6】
液体炭化水素燃料が、ガソリンに相当する液体炭化水素燃料、灯油に相当する液体炭化水素燃料、又は軽油に相当する液体炭化水素燃料である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料油、例えば油脂類およびバイオマス乾留油、または石油中の炭化水素等を、接触水素化分解及び水素添加することにより得られる、低温流動性に優れ、酸化安定性を有する等の液体燃料として優れた液体炭化水素燃料、該液体炭化水素燃料の製造方法、及び該液体炭化水素燃料の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能であり、かつカーボンニュートラルにより二酸化炭素を排出する量を低減する観点から、バイオマスから炭化水素を製造することが注目されており、液体燃料とすることが望まれている。
【0003】
現在バイオマスを原料とする燃料としては、脂肪酸メチルエステルがデイーゼル燃料として実用化されている。しかしながら、脂肪酸メチルエステルは、油脂をメチルエステル化する工程において、副産物として原料である油脂の10%程度のグリセリンが生じ、このグリセリンの完全な除去が困難で燃料品質も低下する。また低温流動性の観点からも、脂肪酸メチルエステルは粘度が大きいので問題がある。また脂肪酸メチルエステルは、炭素鎖に不飽和結合基を持ち酸化安定性が悪い。このように脂肪酸メチルエステルは品質に問題を残している。
【0004】
次の世代の液体炭化水素燃料として、バイオマス原料油を触媒存在下、水素と高温高圧の下で反応させ油脂のアルキル鎖を炭化水素とするものが考えられているが、実用化されている石油燃料製造のための技術すなわち高温高圧の水素化分解技術を踏襲したものに留まっている(特許文献1および非特許文献1)。これらの文献によれば、2~5MPaの高圧が必要とされており、常圧ではほとんど反応は進行しないと推定でき常圧の実験結果は記載されていない。特許文献1では好ましい圧力として1~5MPaを推奨している。特に参考にすべき当該分野の研究は非特許文献1であり、触媒がシリカ-アルミナに担持したニッケル、モリブデンであり、原料油脂がジャトロファ油で、加圧固定床式反応装置(1~8MPa)を用いて実験しているが、2~8MPaの結果は良好であるが、常圧~1Mpa付近では反応効率が極端に低下している。又原料のジャトロファ油の炭素成分の主としてCの15~17に限られた製品が得られているのみである。
【0005】
その他には、油脂類をガス化し、そのガスからフィッシャートロップシュ合成を経由して炭化水素を製造することも考えられている。これらは石油原料の場合の工程と同様で参考にはなるが高温高圧技術である。
【0006】
上記の文献などでの油脂類の接触水素化処理方法は、水素化により油脂類の不飽和結合基を飽和化し、酸素を除去するとともに油脂類のエステル部位が分解されるものである。水素化脱酸素反応においては、高温高圧の下、触媒存在でエステル部位と水素から、水素化脱水反応、脱カルボニル反応と脱二酸化炭素反応により、パラフィン系炭化水素、水、プロパンなどが生成する。
【0007】
例えば、触媒として水素化脱硫触媒、油脂類として精製パーム油を使用し、反応圧力6MPa、反応温度260℃以上で、パーム油が分解し、85%程度の軽油留分、10%の水、5%のガス(二酸化炭素、メタン、プロパン)が生成することが開示されている。得られた生成物は、炭素数15~炭素数18の直鎖炭化水素で構成され、軽油に近い物性を有しているとされている(非特許文献2)。しかしながら、n-パラフィンが主成分であるため低温流動性に欠けることや、その他燃料としての特性を十分満足させるものではない。
【0008】
一方、石油中の炭化水素に対する接触水素化分解技術は、ほぼ完成の域にあり実用化がなされているのは周知である。成書(非特許文献3)によれば、分解触媒としてゼオライト系の固体酸触媒に白金などの貴金属を添加した触媒が用いられ、高温高圧下の反応で、ナフサ、灯油、軽油などが生成されるとされている。この際、炭素鎖の分解の他に、環化脱水素化、脱水素化、異性化が起こり発熱量、オクタン価、セタン価など燃料に要求される物性が付与される。白金の触媒への添加で、上記諸反応で水素の不足に起因する触媒上の炭素生成が高圧水素で抑制され触媒寿命が実用に耐え得るとされている。
【0009】
バイオマス原料由来の液体炭化水素燃料についての開発現状は、主として軽油相当の燃料であり、今後、需要が見込まれる灯油相当のジェット燃料への開発はその緒に就いたところである(非特許文献5)。実用化を目指している技術は、1.バイマスを高温ガス化による合成ガスを製造し、フィッシャートロップシュ合成を経由して製造する、2.高温熱分解し原油を製造し水素処理を行う、3.バイオマスから発酵によりアルコールを得て、後に水素処理を行う、4.油脂の水素分解などであり、前述したように高温、高圧水素処理が必須の技術である。
【0010】
以上のいずれもが経済的に負担のかかる高圧水素を必須とした製造技術となっている。
【0011】
常圧で、水素不要の研究も行われている。
特許文献2によれば、炭素に担持したMgO触媒を用いて、400~430℃でパーム油、ジャトロファ油、廃食油などから軽油相当品を得ている。しかし炭素鎖分布は原料の炭素鎖と同様なものに限られるとされて、要求される用途に応じて柔軟に液体炭化水素燃料を得ることは難しい、すなわち、主たる製品としてガソリン、灯油相当の液体炭化水素燃料を得ることはできない。酸化安定性などに関しては述べられておらず、不飽和結合の飽和化については水素を使用しないので疑問が残る。
【0012】
特許文献3によれば、同じく常圧の水素圧力で行っている。特殊な触媒調製によって作成された触媒を用いて、常圧の実施例が開示されている。開示内容としては、[反応条件の最適化(温度、LHSV(液空間速度)、水素供給量、圧力1MPa以下など)及び触媒調製の最適化(モリブデン添加/硫化処理)を行うことで、炭素数に加えて、軽油、灯油の特性により近づけることができ、触媒寿命の工業的な長期化を達成できる。分留すれば、灯油相当品、軽油相当品が別個に得られる]とされている。しかしながら、燃料としての具備すべき特性すなわち低温流動性、酸化安定性などについてはなんら述べられていない。
【0013】
従って、内燃機関(ジェットエンジンを含む)などに応用可能なバイオ燃料に対して、例えば、非特許文献などに示された(
図2)、ガソリン、灯油(ジェット燃料)、軽油(ディーゼル燃料)の範囲の炭素分布のバイオマス由来の燃料が用途に応じて生産され、燃料としての具備すべき特性を満足すべく対策がなされ、かつ、低圧の水素で経済的に生産される技術が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2011-148909
【文献】特許5721152
【文献】WO2017/208497
【非特許文献】
【0015】
【文献】第6回 新エネルギーシンポジウム(2011年3月1日) “植物油からのバイオ軽油(BHD)の製造” (独)産業技術総合研究所 劉、村田、稲葉、高原
【文献】小山ら“自動車燃料のための植物油の水素化処理工程”SAE paper, No.2007-01-2030(2007) 1-6
【文献】新しい触媒化学 第2班 菊池ら 三共出版 1997年
【文献】製油所、油槽所における土壌汚染状況把握技術の開発 (汚染状況モニタリング技術グループ)岡村和夫、田崎雅晴
【文献】航空業界の再生可能ジェット燃料への取り組み状況(2) JPECレポート2015年度第10回 平成27年7月10日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、油脂類およびバイオマス乾留油、または石油中の炭化水素等の原料油を接触水素化分解することにより、低温流動性や酸化安定性に優れ、かつガソリン、灯油又は軽油に相当する液体炭化水素燃料の製造方法を提供することにある。
さらに本発明の課題は、その製造装置を経済的に提供することにある。さらに本発明の課題は、低い供給圧力で水素ガスを供給しても液体炭化水素燃料が製造可能な触媒や、かかる触媒を用いた製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、各種の液体炭化水素燃料の原料を、特定の分解触媒、及び特定の金属を担持した水添触媒の存在下、0.2~0.95MPaの低圧で、接触水素化分解反応及び水素添加反応を組み合わせて行うことにより、ガソリン、灯油あるいは軽油特性を殆ど満足したそれぞれに相当した液体炭化水素燃料を選択的かつ経済的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明の要旨は、下記の〔1〕~〔8〕に関する。
〔1〕 下記の第1反応工程及び第2反応工程を有する液体炭化水素燃料の製造方法:
第1反応工程:接触水素化分解反応触媒の存在下で、水素の供給圧力を0.2~0.95MPaとし、原料油の液量の液空間速度を0.05~0.5hr-1とし、及び水素の流量と原料油の流量との比率を、原料油1Lあたり水素100~1000NLとして、原料油の接触水素化分解を行って分解液を製造する工程であって、
該接触水素化分解反応触媒が、下記の群1及び/又は群2から選択される1種以上を含む触媒である工程
群1:ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナを含む固体酸触媒、並びに
群2:該固体酸触媒に、ルテニウム、ニッケル、モリブデン及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持された触媒
第2反応工程:水素添加反応触媒の存在下で、水素の供給圧力を0.2~0.95MPaとし、該分解液の液量の液空間速度を0.2~5hr-1とし、及び水素の流量と該分解液の流量との比率を、該分解液1Lあたり水素100~1000NLとして、該分解液に水素添加を行って液体炭化水素燃料を製造する工程であって、
該水素添加反応触媒が、下記の群3及び/又は群4から選択される1種以上を含む触媒である工程。
群3:ニッケル、パラジウム及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持されたシリカ、ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナを含む固体酸触媒、並びに
群4:ニッケル、パラジウム及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持された、MgO含有シリカ
〔2〕 原料油が、菜種油、綿実油、パーム油、ココナツ油、ヒマワリ油、大豆油、コーン油、米油、油ヤシ油、ココヤシ油、ジャトロファ油、オリーブ油、廃食油、ダーク油、動物油、海藻又は藻由来の油脂、バイオマス乾留油、軽油の炭素数より多い石油中の炭化水素成分、及び各種廃オイルからなる群より選択される1種以上である、前記〔1〕に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
〔3〕 固体酸触媒が、シリカ、シリカ-アルミナ、ゼオライト、シリカ-ジルコニア、アルミナ-ジルコニア及びチタニアからなる群より選択される1種以上の固体酸触媒である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
〔4〕 接触水素化分解反応触媒又は水素添加反応触媒がさらに金属を担持してなり、該金属が、白金、イリジウム、鉄、コバルト、レニウム及びマグネシウムからなる群より選択される1種以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
〔5〕 液体炭化水素燃料が、使用目的に応じて制御された炭素分布を持ち且つ低温流動性及び酸化安定性のある液体炭化水素燃料である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
〔6〕 液体炭化水素燃料が、ガソリンに相当する液体炭化水素燃料、灯油に相当する液体炭化水素燃料、又は軽油に相当する液体炭化水素燃料である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の液体炭化水素燃料の製造方法。
〔7〕 前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の液体炭化水素燃料の製造方法によって製造された液体炭化水素燃料。
〔8〕 原料油を接触水素化分解及び水素添加することにより液体炭化水素燃料を製造するための装置であって、少なくとも、原料油及び水素ガス供給部、接触水素化分解反応を実施する第1反応工程反応部、水素添加反応を実施する第2反応工程反応部、並びに反応生成物回収部から構成される、液体炭化水素燃料製造装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所定の処方にて油脂類およびバイオマス乾留油、または石油中の炭化水素等の原料油を、常圧に近い低圧水素の供給で接触水素化分解反応及び水素添加反応を組み合わせて実施することで所望の液体炭化水素燃料を製造することが達成できる経済的に有利な方法を提供できる。かかる方法によって得られた液体炭化水素燃料は、ガソリン、灯油及び/又は軽油相当品であり、本発明によればかかる燃料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の液体炭化水素燃料の製造装置の概略図である。
【
図2】
図2は、標準的なガソリン、灯油、軽油の炭素分布曲線の1例である。
【
図3】
図3は、本発明の製造方法によって得られた反応生成物の凝縮成分のクロマトグラムおよび炭素分布曲線である。非特許文献4には液体炭化水素燃料のガソリン、灯油、軽油に関して炭素分布の1例が示されているが、本発明により製造された反応生成物の凝縮成分の炭素分布は、
図2に示される標準的なガソリン、灯油、軽油の炭素分布とほぼ同様の傾向であることが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の特徴の一つは、低コストで液体炭化水素燃料を製造できる点にある。石油原料系の技術を、本発明分野の各種原料油にそのまま適用するという考えもあるが、高価な貴金属の触媒への使用や、高圧水素を使用することなどは、特にバイオマス原料を対象にする場合は地産地消型の燃料製造装置が重要ななこともしばしばであるため、経済的に受容されるための問題となる。接触水素化分解は高温高圧水素を使用することが前提のように解釈され、そうすることによりはじめて可能であるというのが技術通念として常識化しているのが実情である。
【0022】
本発明に見るように水素低圧下では、接触水素化分解反応(第1反応工程)のみでは高温のため水素添加反応が併発しにくい。したがって不飽和結合などが残存し燃料特性の一つの酸化安定性が劣り燃料として不具合が生じる。そのために第2反応工程の水素添加反応工程で補っているのであるが、これも低圧で行うことが可能なので低圧化の効果が大きく全体としてより経済的なプロセスとなるのである。
従って本発明における触媒とプロセスでは低圧化を可能にして合理化に多大の影響をあたえるものと考えている。
【0023】
1.液体炭化水素燃料の製造工程
本発明における原料油としては、限定されるわけではないが、菜種油、綿実油、パーム油、ココナツ油、ヒマワリ油、大豆油、コーン油、米油、油ヤシ油、ココヤシ油、ジャトロファ油、オリーブ油などの油脂類から選ばれる1種以上であることが好ましい。さらには海藻および藻類からの油脂や動物油も好ましい。また天ぷら油の使用済み廃食油は、現状ではより好ましい。油脂加工プロセスから出るダーク油、さらには動物油も利用可能である。バイオマス乾留油は剪定材などの廃木材を原料としたものであり、本発明における原料油に包含される。石油中の炭化水素も本発明における原料油に包含され、軽油及び軽油より炭素数の多い成分、及び各種廃オイルが挙げられる。原料油は1種類から構成されていてもよく、複数の種類から構成されていても良い。
【0024】
液体炭化水素燃料の製造の際の反応操作の一例を説明する。本発明においては、所定の反応条件の下、水素とともに原料油を、特定の触媒を充填した触媒層を通過させることにより生成油を得るものである。
【0025】
第1反応工程
第1反応工程においては、ゼオライトの酸点においてカルベニウムイオンが生成(非特許文献3)した結果、炭素鎖切断、環化脱水素化、脱水素化、異性化、原料油脂のエステル部の脱炭酸、水素化による分解が起こる。これにより、低温流動性等の燃料に要求される物性が付与される。
【0026】
処理する際の水素の供給圧力を、0.2~0.95MPaに設定する。1.0MPaを超える圧力では、法令上、高圧ガス設備の規制を受けるので、経済的に望ましくなくなる。水素の供給圧力が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。工業的には第2反応工程と連結することが好ましいので、第2反応工程の水素添加反応が効率よく行われる水素圧力である0.2~0.95MPaが選定される。供給圧力としては、好ましくは0.3MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上であり、一方、好ましくは0.95MPa以下、より好ましくは0.9MPa以下である。
【0027】
原料油の流量を所定の値に設定する。具体的には前記原料油の流量の液空間速度を0.05~0.5hr-1に設定する。本発明において、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向がある。液空間速度としては、好ましくは0.05hr-1以上、より好ましくは0.1hr-1以上であり、一方、好ましくは0.5hr-1以下、より好ましくは0.3hr-1以下である。
【0028】
水素流量と原料油の流量の比率は、原料油1Lあたり水素を100~1000NL(ノルマルリットル)に設定する。水素と原料油との比率が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、当該比率が上記の上限値を超える場合には、水素供給機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。上記比率としては、好ましくは200NL以上、より好ましくは300NL以上、更に好ましくは400NL以上であり、一方、好ましくは900NL以下、より好ましくは800NL以下である。
【0029】
第1反応工程では、反応温度、即ち前記原料油と水素を保持する温度を好ましくは200~500℃、より好ましくは300~450℃に設定する。200℃未満では原料油の種類によって所望の反応が進行しない場合があり、500℃を超えると原料油の炭素生成が進行し触媒寿命が短くなる傾向がある。反応温度としては、350~450℃がさらに好ましい。ガソリンを主目的物にする場合は該反応温度を410~450℃に、灯油を主目的物にする場合は該反応温度を380~430℃に、軽油を主目的物にする場合は該反応温度を350~400℃にすることが、より好ましい。
【0030】
第2反応工程
第1反応工程を経て得られた分解液は高温であるので、水素添加反応が効率よく併発されず、オレフィンの生成やその他の種々の不飽和結合及び微量のエステル部位が残存する。これらの不飽和結合及びエステル部位(及び反応過程で変成される脂肪酸)は、酸化安定性を阻害し、また燃料性状の外観の色相を悪化させる不要な着色成分として存在する。したがって第2反応工程の水素添加反応で不飽和結合を飽和化し酸化安定性の付与、製品価値の外観としての色相を改善することが好ましい。とくに原料が油脂の場合は、微量のエステル部位の未分解と生成水との反応で脂肪酸が残存し、微量ながらも酸化安定性の悪化をもたらし決定的な欠陥となる。そのために、第2反応工程における水素添加反応で、第1反応工程を経て得られた分解液中の酸素分を水素化してほとんど完全に分解することが好ましい。
【0031】
本工程において、処理する際の水素の供給圧力を、0.2~0.95MPaに設定する。水素添加反応は熱力学的に水素の加圧系が有利であり、高圧水素は意味があるが、通常の油脂の水素添加(二重結合基の飽和化)が0.2~0.8MPaで可能であることを考えれば、高くても0.8MPa程度の低圧水素で前記分解液の水素添加を実施することができる。供給圧力としては、好ましくは0.3MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上であり、一方、好ましくは0.95MPa以下、より好ましくは0.9MPa以下である。
【0032】
また、第1反応工程を通過して得られた分解液の流量を液空間速度0.2~5hr-1に設定する。液空間速度としては、好ましくは0.2hr-1以上、より好ましくは0.25hr-1以上であり、一方、好ましくは5hr-1以下、より好ましくは3hr-1以下である。
【0033】
水素流量と分解液の流量の比率は、第1反応工程と同じく分解液1Lあたり水素を100~1000NLに設定する。上記比率としては、好ましくは200NL以上、より好ましくは300NL以上であり、一方、好ましくは900NL以下、より好ましくは800NL以下である。実用的には、第1反応工程と第2反応工程は連結するので水素流量を同一にすることが好ましい。
【0034】
第2反応工程では、反応温度、即ち前記分解液と水素を保持する温度を好ましくは140~360℃、より好ましくは200~340℃に保持する。140℃以下では水素添加反応は生起しにくく、熱力学的制限から360℃以上では逆反応の生起で水素添加反応が起こりにくくなる。
【0035】
任意工程
上記のように接触水素化分解反応、引き続いての水素添加反応で製造された生成物である液体炭化水素燃料を、例えば気液分離工程や精留工程等を経て所望の液体炭化水素燃料に分画することができる。なお、原料油に含まれている酸素分や硫黄分の反応に伴って水、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素等が発生する可能性があるが、複数の反応器の間や生成物回収工程に、公知の気液分離設備やその他の副生ガス除去装置を設置して、これらの成分を除去することができる。
【0036】
2.接触水素化分解反応触媒および水素添加反応触媒
本発明の液体炭化水素燃料の製造方法の第1反応工程は、接触水素化分解反応触媒の存在下に原料油と水素ガスとを反応させることで達成される。接触水素化分解反応触媒は、下記の群1及び/又は群2から選択される1種以上を含む触媒である。
群1:ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナを含む固体酸触媒
群2:該固体酸触媒に、ルテニウム、ニッケル、モリブデン及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持された触媒
【0037】
該触媒は、例えば以下のような方法で調製する。
第1反応工程においては、ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナの固体酸触媒、並びに該固体酸触媒に、活性促進剤であるルテニウム、ニッケル、モリブデン、銅からなる群より選択される1種以上の金属成分を、常法の含侵法により担持させることができる。金属の担持量としては、担体触媒100質量部に対して、好ましくは0.05~35質量部とする。より好ましくは0.1~30質量部であり、さらに好ましくは0.1~25質量部である。
【0038】
接触水素化分解反応触媒は、触媒担体としても機能する分解能のある固体酸が好ましく、シリカ、シリカ-アルミナ、ゼオライト、シリカ-ジルコニア、アルミナ-ジルコニア及びチタニアからなる群より選択される1種以上の固体酸がより好ましいものとして推奨される。ゼオライトとは結晶中に微細孔を有するアルミノケイ酸塩であり、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、ZSMゼオライトなどが好ましい。中でもY型ゼオライトの細孔径が最も大きく分解目的のより大きな分子が浸入しやすく細孔内を有効に使用できるので、本発明ではより好ましい。
【0039】
第1反応工程では、先に述べたように油脂のエステル部位は前記触媒で水素ガスの下、脱カルボニル反応、脱炭酸反応、水素化脱水反応により分解される。また炭素鎖の切断による低分子化分解反応、脱水素反応、異性化反応及び環化反応など、ガソリン、灯油もしくは軽油への燃料改質で要求される反応は、固体酸のブレンステッド酸点により生起されるカルベニームイオンによって進行する。したがって、上記二点を満足させるためには固体酸を金属触媒の担体として機能させ、金属触媒を担持させることが、前記諸反応に対応する観点から好ましい。したがって触媒担体は、固体酸であり、シリカ-アルミナ結合点で発現される酸点が活性点であるので基本的にシリカ-アルミナやゼオライトが好適である。
【0040】
第1反応工程において、接触水素化分解反応継続の結果、経時的に触媒に炭素が徐々に蓄積することがある。許容されない程度に分解反応効率が低下した場合は、炭素除去を行うことが好ましい。触媒から炭素除去を行う場合、空気などで、酸化除去を行うのが推奨される。適時空気酸化などで炭素を燃焼除去する方策もあるが、急激な発熱が伴うのを避けるため、酸素濃度1%程度から徐々に酸化を進め、触媒層温度を450℃以下に抑えることが推奨される。最終的に空気のみで処理し温度上昇が認められなくなれば終了する。しかる後に水素還元をして反応に供することになる。
なお、ガソリン及び灯油を主たる製品とする製造工程では、反応温度を比較的高温にするため、炭素生成速度が活性水素による炭素生成抑制効果を上回るため炭素蓄積による触媒劣化が大きく触媒活性維持が難しくなる傾向がある。その場合の対策として第1反応工程の構成としてプレリアクターを炭素生成抑制のために設置することが好ましい。このプレリアクターではエステル部位の分解も生起するが炭素鎖の切断を主目的としている。該目的のためプレリアクターは貴金属、Niなどを添加したゼオライト主体の触媒で構成される。2基並列に設けることがより好ましく、これによって交互に炭素鎖切断反応を行い交互に上記の酸素酸化を行って炭素を除去して連続運転を行うものである。しかる後水素化接触分解反応に接続する。
【0041】
第2反応工程で用いられる水素添加反応触媒は、下記の群3及び/又は群4から選択される1種以上を含む触媒である。
群3:ニッケル、パラジウム及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持されたシリカ、ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナを含む固体酸触媒
群4:ニッケル、パラジウム及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上が担持された、MgO含有シリカ
第2反応工程で使用される触媒に関して、固体酸のシリカ、ゼオライト及び/又はシリカ-アルミナに、ニッケル、パラジウム及び銅からなる群より選択される金属成分の1種以上を、常法の含侵法により担持させることができる。また、水添反応触媒は市販触媒も一般に普及しており好適に使用できる。
【0042】
従って金属成分も特に限定されず使用できる。ニッケル、パラジウム及び銅の群に限定されず、好ましくは水素化能を有する金属成分の1種以上を担持した固体酸、及び、かかる金属成分の1種以上を担持したMgO含有のシリカも、第2反応工程で使用される触媒として好適に使用できる。
【0043】
水素添加反応触媒における金属の担持量としては、担体100質量部に対して、好ましくは0.05~35質量部、より好ましくは0.1~30質量部、更に好ましくは0.1~25質量部である。
【0044】
第2反応工程でも、触媒の劣化は避けられない。例えばエステル部位の僅かな未反応または分解中途の脂肪酸によりニッケルなどの金属石鹸が生じ、活性が失われてゆく。このような場合、第1反応工程の触媒と同様の方法で脂肪酸を酸化除去し、金属の活性を回復する。また酸化処理の後に水素気流中で硫化処理をすることも好ましく行われる。
【0045】
第1反応工程又は第2反応工程で用いられる固体酸の粒径としては、0.01~3.0mmのものが好ましく、0.03~3.0mmのものがより好ましい。粒子サイズが0.01mmより小さくなると、触媒層の圧力損失が過大になり、また飛散する触媒の量が増す傾向にあって好ましくない。また粒子サイズが3mmより大きくなると、触媒間に空間ができるので、油脂が通ることができるが、粒子が大きい分、単位体積当りの表面積が小さいので、接触効率が悪くなる傾向にあり好ましくない。工業的利用の場合は触媒粒子の取り扱い(ハンドリング)の点で、0.5~3mm粒子径のものがより好ましく採用される。
【0046】
第1反応工程又は第2反応工程で用いられる触媒のBET比表面積は、例えば、150m2/g以上が好ましく、250m2/g以上がより好ましく、400m2/g以上がさらに好ましく、1200m2/g以下が好ましく、1000m2/g以下がより好ましく、800m2/g以下がさらに好ましい。
【0047】
第1反応工程での触媒に関して、ルテニウムとニッケルは酸点の活性を維持する。銅は水素化分解を促進、モリブデンは異性化や脱水素など燃料改質に寄与する。さらなる金属の白金、イリジウム、鉄、コバルト、レニウム、マグネシウムも代替金属又は追加添加金属として好適であり、これら金属がさらに担持された触媒はより好ましい。
【0048】
第2反応工程での触媒に関して、さらなる金属の白金、イリジウム、鉄、コバルトも代替金属又は追加金属として好適である。マグネシウムは担体の機能の向上の目的で添加される。これら金属がさらに担持された触媒はより好ましい。
【0049】
接触水素化分解反応触媒又は水素添反応触媒は、公知の反応管等の反応器に充填されることが好ましい。反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。水素は原料油又は分解液に対して向流又は並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独又は複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0050】
上記の本発明の方法によって、使用目的に応じて制御された炭素分布を持ち且つ低温流動性及び酸化安定性のある液体炭化水素燃料を製造することができる。あるいは、上記の本発明の方法によって、ガソリンに相当する液体炭化水素燃料、灯油に相当する液体炭化水素燃料、又は軽油に相当する液体炭化水素燃料を製造することができる。本発明においては、第1反応工程における反応温度を設定することで、これらの液体炭化水素燃料を個別に製造できることが特徴の一つである。
【0051】
3.液体炭化水素燃料及び液体炭化水素燃料製造装置
本発明の液体炭化水素燃料は、本発明の液体炭化水素燃料の製造方法によって製造されたことを特徴とする。得られた液体炭化水素燃料は、沸点や炭素数の観点からガソリン、軽油、灯油に相当する炭化水素をそれぞれ主たる製品として得られるから、燃料としての価値が高い。
【0052】
本発明の液体炭化水素燃料製造装置は、原料油を接触水素化分解、水素添加することにより液体炭化水素燃料を製造するための装置であって、少なくとも、原料油の供給手段、水素ガスの供給手段、供給された原料油と供給された水素ガスを、接触水素化分解反応触媒の存在下で反応させる第1反応工程反応部、生成した分解液と供給された水素ガスを水素添加反応触媒の存在下で反応させる第2反応工程反応部、並びに反応生成物回収部を備えた液体炭化水素燃料製造装置である。さらに、本発明の液体炭化水素燃料製造装置には、原料油の流量と水素ガスの流量を調節する手段、並びに水素ガス製造または回収装置や反応終了物を蒸留分離する生成物分離装置等が備えられていることが好ましい。
【0053】
以下、
図1を参照しつつ本発明の液体炭化水素燃料製造装置をより具体的に説明する。
本発明の製造装置は、〔1〕原料油及び水素ガス供給部、〔2〕(第1反応工程及び第2反応工程の)反応部並びに〔3〕反応生成物回収部の少なくとも三部から構成される。〔1〕の原料油及び水素ガス供給部では、原料油はライン1から液供給ポンプ2を通して反応管7の上部に、水素はライン3から水素ガス流量調節ユニット4を通して反応管7の上部に供給される。〔2〕の反応部の反応管7は水素化分解反応器として、また反応管11は水素添加反応器として用いられる。反応管の内部中央にはそれぞれ温度計5および温度計9が設置されており、温度計6を備えた電気加熱炉8および温度計10を備えた電気加熱炉12で加熱および温度調節が行われる。第2反応工程において新鮮な水素を供給するためのライン(図示せず)が設けられていてもよい。〔3〕の反応生成物回収部では、反応管11の下部から排出される気液混合物は凝縮器13で冷却され、圧力調節弁14を介して気液分離装置15に導かれる。ついで凝縮物受器16では主に水分が回収される。生成物の炭化水素および未反応物は冷却機能を備えた第2段目の凝縮物受器17に蓄えられる。凝集物受器17からは未反応水素ガスおよびガス状の炭化水素が排出される(ガス状炭化水素は別の装置で水素ガスと分離され、燃料などとして使用される。)。凝縮物受器17の内容物は別の蒸留装置で、ガソリン、軽油又は灯油相当の炭化水素と未反応物(高沸点物)に分離される。水素化分解反応管と水素添加反応管の中間には必要に応じて反応液サンプリングが行えるようにサンプリング口Sが設けられている。
【0054】
水素ガス製造または回収装置としては、例えば、本発明の液体炭化水素燃料製造装置において生成物から分離された低沸点ガス状物のリサイクル原料供給部、または都市ガスの供給部を備えた、水蒸気改質反応装置(例えば、ルテニウム-アルミナ触媒を有する装備)が挙げられる。
【0055】
生成物分離を行うための生成物分離装置は、例えば常圧または減圧蒸留塔を採用することができる。低沸点ガス状物質は水素ガス製造装置にリサイクルされる。また、反応条件を変化させる代替として、灯油相当分、ガソリン相当分が多く所望される場合は軽油相当分を接触水素化分解装置にリサイクル供給させて灯油相当分、ガソリン相当分に変換してもよい。
【0056】
生成物分離装置、すなわち蒸留塔下部から排出される高沸点物は、燃焼用燃料として回収し、全体装置に必要な熱源に利用するために燃焼、エネルギー回収装置に供給してもよい。
【実施例】
【0057】
以下に、試験例及び実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
【0058】
試験例1:炭素分布制御性の確認試験(第1反応工程試験)
接触水素化分解反応の実施
液体炭化水素燃料製造装置として、
図1に示すような構成の加圧系の固定床流通式反応装置を用いた。なお、試験例1は、第1反応工程の確認試験なので、反応管11は触媒を充填せずに単にラインの役割を果たした。
【0059】
反応管7内部に触媒(50cc)を充填し、第1反応工程で油脂類の接触水素化分解反応を行った。反応器としては内径16.7mm、触媒充填長さ260mmの反応管7を用い、触媒層には熱電対を中心に設置し、触媒層の温度を実測した。
【0060】
反応管7は、電気加熱炉8により温度調節を行い、第1反応工程の反応生成物(分解液)を、常温水冷却器(凝縮器)13で冷却した後、凝縮成分の分離を行った。凝縮物受器(炭化水素)17で回収された液体成分のガスクロトグラフィー分析を行った。水素流量は、水素ガス流量調節ユニット4で制御した。原料油である油脂類の供給は定量液体ポンプ2で行った。
【0061】
反応条件は以下の通りであった。
原料:市販食用大豆油
原料油流量:12.6mL/hr
水素流量:10,080NmL/hr(即ち、原料油1Lあたり、水素ガスの流量は800NLであった。)
水素(ガス)の供給圧力:0.8MPa
液空間速度:0.25(原料油供給量L/hr/触媒L)
反応温度:370℃、400℃、430℃と3レベルを行った。
触媒:ゼオライト100質量部に対して4質量部の銅を担持させたもの。東ソー(株)製のゼオライト330(1mmペレット)に銅を添加した。触媒調製は常法にしたがって含侵法で行った。触媒の量:50cc、触媒層高さ:260mm。
8時間連続運転の集積サンプルを評価した。
【0062】
反応生成物の凝縮成分をガスクロマトグラフィー分析した。結果を
図3に示す。この結果から、反応温度の上昇に従って、より低分子炭化水素が生成していることが分かる。
図2と
図3との比較から、石油系のガソリン、灯油又は軽油に相当するものがほぼ得られていることが分かる。このように、本発明において、反応条件(反応温度及び液空間速度など)の微調整で所望の炭素分布を持つ生成物が得られることが期待できる。
【0063】
反応生成物の凝縮成分の酸価を測定した結果を以下に示す。
370℃の場合:酸価:14.5
400℃の場合:酸価:1.8
430℃の場合:酸価:0.6
このように、反応温度の上昇につれて酸価が低下し、反応の効率が上昇していることが窺える(未反応エステルと生成水で脂肪酸が生成されるため。)。
【0064】
これらの結果から、水素添加処理、蒸留工程を行うことにより、所望の炭素数の液体炭化水素燃料が得られると期待できる。
【0065】
実施例1:軽油相当品、灯油相当品のプロダクトミックス製造試験
接触水素化分解反応及び水素添加反応の実施
軽油相当品はバイオディーゼル燃料として現在の事業製品として重要である。灯油相当品はバイオジェット燃料として次世代への開発製品として注目されており、航空業界への提供が要望されている。そこで、事業製品と開発製品の併産を可能にするべく液体炭化水素燃料の製造試験を行った。
【0066】
バイオディーゼル燃料(軽油相当):炭素数C15~C20(当該燃料の主たる成分)
バイオジェット燃料(灯油相当):炭素数C8~C14(当該燃料の主たる成分)
【0067】
本実施例では、第1反応工程、第2反応工程の連続装置として、
図1に示すような構成の加圧系の固定床流通式反応装置を用いた。
反応管7及び11の内部に、下記の触媒の所定量を充填し、第1反応工程で油脂類の接触水素化分解反応を、第2反応工程で生成物の水素添加反応を行った。各触媒層には熱電対を中心に設置し、触媒層の温度を実測した。
第2反応工程の反応生成物を、常温水冷却器(凝縮器)13で冷却した後、凝縮成分の分離を行った。第1反応工程出口の分解液、及び凝縮物受器(炭化水素)17で回収された液体成分について、下記の評価を行った。ここで、第1反応工程の出口水素を全量第2反応工程に供給する。分解液は当然、第1反応工程に続いて全量が第2反応工程に供給される。
【0068】
反応条件は以下の通りであった。
原料:市販食用大豆油
原料油流量:12.6mL/hr
水素流量:10,080NmL/hr(即ち、原料油1Lあたり、水素ガスの流量は800NLであった。)
水素(ガス)の供給圧力:0.8MPa
連続反応時間:24hr
【0069】
第1反応工程
液空間速度:0.25(原料油供給量L/hr/触媒L)
反応温度:400℃
触媒:ゼオライト100質量部に対して:ルテニウム+ニッケル+銅+モリブデン:18質量部を担持させたもの。東ソー(株)製のゼオライト330(3mmペレット)に各金属を添加した。触媒調製は常法にしたがって含侵法で行った。触媒の量:50mL、充填高さ:260mm。
【0070】
第2反応工程
液空間速度:0.50(分解液供給量L/hr/触媒L)
反応温度:280℃
触媒:日揮触媒化成(株)製、N102F(MgO含有シリカにニッケルが担持された触媒)。ニッケル:21質量部/NiO+SiO+MgO+その他:79質量部、3mmペレット。触媒の量:25mL、充填高さ:130mm。
【0071】
なお、表1に試験例1及び実施例1の主な条件をまとめた。
【0072】
【0073】
第2反応工程を経て得られた液体炭化水素燃料について、以下の評価を行った。
低温流動性評価として、凝固点(℃)
酸化安定性評価として、酸価(mgKOH/g-サンプル)及びヨウ素価(I2g/100g-サンプル)
ガスクロマトグラフィー分析:
(C8~14)/(C15~20)%(即ち、灯油相当品と軽油相当品の成分比率を意味する。)
【0074】
24時間後の集積サンプルを分析した。結果を以下に示す。
凝固点:-20℃以下であったことを確認した。
酸価:0.1以下であったことを確認した(第1反応工程出口の分解液の酸価:3.30)
ヨウ素価:7.7(第1反応工程出口の分解液のヨウ素価:27.9;原料のヨウ素価:126.3)
灯油、軽油の成分比率(C8~C14)/(C15~20):42%/58%
【0075】
上記の実験結果から、第2反応工程を経て得られた液体炭化水素燃料の分留操作を行えば灯油相当品、軽油相当品が4:6の割合で採取可能となることが分かった。さらに、得られた液体炭化水素燃料の低温流動性、酸化安定性は、灯油相当品と軽油相当品の混合物として十分満足できるものであった。具体的には次の通り。
低温流動性(凝固点)に関しては、バイオディーゼル燃料では凝固点-7.5℃以下が推奨されているので十分満足すると判断できる。
【0076】
酸化安定性(酸価)に関しては、酸価:0.1以下を得ており、例えば軽油規格の0.13をクリアーしている。酸化安定性(ヨウ素価)に関しては、第2反応工程後7.7という値を得ている。従来品の脂肪酸メチルエステルディーゼル燃料の指針が100以下であることを考えれば格段に改良されている。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の製造方法で得られた液体炭化水素燃料は、ガソリン相当、灯油相当又は軽油相当の液体炭化水素燃料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 ライン
2 液供給ポンプ
3 ライン
4 水素ガス流量調節ユニット
5 温度計
6 温度計
7 水素化分解反応管
8 電気加熱炉
9 温度計
10 温度計
11 水素添加反応管
12 電気加熱炉
13 凝縮器
14 圧力調整弁
15 気液分離装置
16 凝縮物受器(水分)
17 凝縮物受器(炭化水素)
S サンプリング口(第1反応工程出口サンプル採取)