(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】IHH発現を調節するための核酸複合体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240731BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240731BHJP
A61K 31/7115 20060101ALI20240731BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20240731BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240731BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240731BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240731BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240731BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240731BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/7105
A61K31/7115
A61K31/7125
A61P1/16
A61P13/12
A61P1/18
A61P11/00
A61P17/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021505155
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2020011018
(87)【国際公開番号】W WO2020184700
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019047703
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515295979
【氏名又は名称】レナセラピューティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木澤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 鋼
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0252870(US,A1)
【文献】特表2014-511694(JP,A)
【文献】特開2013-099338(JP,A)
【文献】特表2014-530004(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0183948(US,A1)
【文献】国際公開第2019/022196(WO,A1)
【文献】特表2008-512087(JP,A)
【文献】特表2007-530571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IHH遺伝子転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含む核酸複合体であって、かつ、当該オリゴヌクレオチドが配列番号24、26、160、170、178、及び184のいずれかの核酸塩基配列を含む連続する14~30個のヌクレオチドである、核酸複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸複合体であって、
(i) 14~20個のオリゴヌクレオチドからなり、
(ii) 前記オリゴヌクレオチドは一本鎖オリゴヌクレオチドであり、
(iii) 前記オリゴヌクレオチドからなるアンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖からなるヘテロ2重鎖核酸である、核酸複合体。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドが少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1又は2に記載の核酸複合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の核酸複合体であって、
(i) 前記オリゴヌクレオチドが少なくとも1つのホスホロチオエートオリゴヌクレオチドを含むか、
(ii) 少なくとも1つのホスホジエステルオリゴヌクレオチドを含むか、又は
(iii) 前記オリゴヌクレオチドがホスホロチオエートオリゴヌクレオチドである、核酸複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の核酸複合体であって、前記オリゴヌクレオチドが修飾核酸塩基を含み、さらに、前記修飾核酸塩基が5-メチルシトシン、2’-MOE、BNA、LNA又はAmNAであってもよい、核酸複合体。
【請求項6】
前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖がRNAであることを特徴とする請求項2~5のいずれか1項に記載の核酸複合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の核酸複合体であって、
(i) 前記オリゴヌクレオチドが:
複数の核酸からなるギャップ領域;
複数の核酸からなる5’ウイング領域;
複数の核酸からなる3’ウイング領域;
を含み、
(ii) 前記核酸複合体が標識機能、精製機能及び/又は標的への送達機能を有する機能性部分を含み、前記機能性部分が蛍光タンパク質、ルシフェラー
ゼ、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチ
ド、コレステロール
、ビタミンE、トコフェロール類、トコトリエノール類、ビタミンA、ビタミンD、ビタミン
K、アシルカルニチン及びアシルCoAからなる群から選択される中間代謝物、糖脂質及びグリセリドから選択される化合物であってもよい、核酸複合体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸複合体を含む、線維症、Nash、肝臓の線維症、腎臓の線維症、膵臓の線維症、肺の線維症又は皮膚の線維症の治療薬。
【請求項10】
オリゴヌクレオチドからなるアンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的な核酸鎖であるセンス鎖からなるヘテロ2重鎖核酸複合体であって、前記アンチセンス鎖がセンス鎖にアニーリングして核酸複合体を形成し、核酸複合体が連続する1
4~30個のオリゴヌクレオチドを含み、前記オリゴヌクレオチドはIHH遺伝子転写産物に対して相補的である
、配列番号24、26、160、170、178、及び184のいずれかの核酸塩基配列を含む連続する14~30個のオリゴヌクレオチドであり、前記アンチセンス鎖がDNA鎖であり、前記センス鎖がRNA鎖であり、
かつ、前記アンチセンス鎖がRNase Hによって認識される少なくとも4個の核酸からなるギャップ領域;
少なくとも1つの修飾核酸を含む複数の核酸からなる5’ウイング領域;
少なくとも1つの修飾核酸を含む複数の核酸からなる3’ウイング領域;
を含むことを特徴とするヘテロ2重鎖核酸複合体。
【請求項11】
請求項10記載のヘテロ2重鎖核酸複合体であって、
(i) 前記アンチセンス鎖のギャップ領域及び前記センス鎖が少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、及び/又は
(ii) 前記オリゴヌクレオチドが少なくとも1つのホスホロチオエートオリゴヌクレオチド又は少なくとも1つのホスホジエステルオリゴヌクレオチドを含む、ヘテロ2重鎖核酸複合体。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のヘテロ2重鎖核酸複合体であって、
前記オリゴヌクレオチドが修飾核酸塩基を含み、前記修飾核酸塩基が5-メチルシトシン、2’-MOE、BNA、LNA又はAmNAであってもよい、ヘテロ2重鎖核酸複合体。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載のヘテロ2重鎖核酸複合体であって、前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列が、配列番号1又は配列番号2に表すIHH遺伝子配列中の連続する12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列からなる、ヘテロ2重鎖核酸複合体。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか1項に記載のヘテロ2重鎖核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤。
【請求項15】
請求項10~13のいずれか1項に記載のヘテロ2重鎖核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む線維症、Nash、肝臓の線維症、腎臓の線維症、膵臓の線維症、肺の線維症又は皮膚の線維症の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Indian hedgehog遺伝子(以下、IHH遺伝子)の発現を調節するためのヘテロ2重鎖核酸(Hetero duplex oligonucleotide, HDO)を含む核酸複合体に関する。また、本発明は、IHH遺伝子特異的な阻害剤に関する。また、本発明は、IHH遺伝子の転写産物の阻害剤を含む繊維症の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッジホッグは、胚発生中の前駆細胞の運命及び組織構築を制御する形態形成シグナル伝達経路であり、成人における肝臓損傷の間にヘッジホッグの再活性化が生じる。ヘッジホッグ(Hh)は、増殖、アポトーシス、移動及び分化を含む重要な細胞運命の決定を制御するシグナル伝達経路であり、肝臓を含む成体組織の数は創傷治癒応答、調節を行う(非特許文献1)。
【0003】
肝臓の線維化は、過剰な細胞外マトリックス(ECM: Extracellular matrix)沈着を特徴とする。これに関与する主要な細胞型の1つは、肝星状細胞(HSC:Hepatic Stem Cell)である。ECMは、細胞増殖、遊走及び分化を促進するタンパク質の複雑な混合物を含む。そのような役割を持つ1つのECM構成要素は、分泌型リンタンパク質1としても知られているマトリゲル糖リンタンパク質、オステオポンチン(OPN:Osteopontin)である(非特許文献2)。
【0004】
肝星状細胞(HSC:Hepatic Stem Cell)は、肝線維症において重要な役割を果たす。HSCにおけるIhh、Smo、Ptc、Gli2及びGli3のヘッジホッグシグナル伝達成分の発現は、Ihh、Smo及びGli2を標的とするヘッジホッグsiRNAベクターを構築し、それぞれHSCにトランスフェクトした結果、それぞれの標的遺伝子発現が減少した。HSC活性化及びコラーゲン分泌は、ヘッジホッグシグナリングによって調節され得ることが解った(非特許文献3)。
【0005】
非アルコール性脂肪肝炎(NASH:Nonalcoholic steatohepatitis)は、世界中の肝臓病の主要な原因である。しかしながら、良性脂肪症がどのようにNASHに進行するかの分子的根拠は不完全に理解されており、治療標的の同定は制限されている。転写調節因子TAZ(WWTR1)は、ヒト及びネズミのNASH肝臓において正常な肝臓若しくは脂肪肝よりも顕著に高い。さらに、脂肪細胞でTAZ因子の発現を促進した結果、繊維症を含むNASHの特徴が増加した。重要なこととして、NASHのマウスモデルにおける肝細胞のTAZのサイレンシングは、肝炎、肝細胞死及び線維症を防止又は逆転させたが、脂肪症は予防又は逆転しなかった。これらのことから、TAZ因子は、脂肪症、NASH進行への重要な過程に寄与する因子であることが判明した(非特許文献4)。
【0006】
しかしながら、これら肝臓病の病原性過程及びそれらの統合に対応する分子機構はまだほとんど解明されていません。非特許文献2、3は、肝星状細胞(HSC)の活性化がNASH線維症において重要な役割を果たすことを示している。NASHにおいて、HSCを活性化するための多くの要因が提案されているが、この分野の研究はまだ完全ではなく、FDA承認の治療戦略にも至っていない(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】Tabas et al. WO2017/184586 (PCT/US2017/028109)
【非特許文献】
【0008】
【文献】Alessia Omenetti et al., J Hepatol., 54(2): 366-373 (2011)
【文献】James Pritchett et al., HEPATOLOGY, Vol. 56, No. 3, 1108-1116(2012)
【文献】Tao Li et al., Int J Clin Exp Pathol, 8(11):14574-14579 (2015)
【文献】Angulo P. et al. Semin Liver Dis. 35(2):132-45(2015)
【文献】Wang X. et al., Cell Metabolism 24: 848-862 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
線維症の治療薬は、ステロイド等の抗生物質からなる治療薬、例えば特発性肺線維症(IPF:(Idiopathic Pulmonary Fibrosis)の治療薬であるピルフェニドン(Pirfenidone)、ニンテダニブ(Nintedanib)などがある。
【0010】
ピルフェニドンは抗線維化薬である。主要な作用機序は,transforming growth factor-β(TGF-β)の産生抑制である。TGF-βは、2型肺胞上皮細胞が線維芽細胞・筋線維芽細胞に分化する「上皮間葉転換」という事象を制御して線維化を促進する。ピルフェニドンはその経路を遮断することで、抗線維化効果を発揮する。その他、basic-fibroblast growth factor(b-FGF)、stroma cell derived factor-1α(SDF-1α)、interferon-γ(IFN-γ)など線維化や炎症に関連する因子を抑制するメカニズムが知られる。
【0011】
ニンテダニブは抗線維化薬である。小分子のチロシンキナーゼ阻害薬の一つで、血管内皮細胞増殖因子受容体1-3型(VEGFR:vascular endothelial growth factor receptor)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR:fibroblast growth factor receptor)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR:platelet derived growth factor receptor)に作用する。当初は固形がん治療薬として開発された薬剤であるが、線維芽細胞の増殖抑制作用・線維化予防効果を見出されたことから、IPFの治療薬として臨床応用された。
【0012】
これらの低分子化合物からなる線維化治療薬は存在するが、新たな作用機序を有する治療薬が求められている。
【0013】
従来はまだIHH遺伝子の阻害剤が、繊維症の治療に用いられることは無く、示唆すらされていない。
【0014】
IHHタンパク質はヘッジホッグファミリーに属する分泌タンパクである。IHH遺伝子のイントロン1に転写因子TAZの結合領域があり、この領域を介してIHH遺伝子の発現は転写因子TAZにより正に制御される(特許文献1、非特許文献4)。
【0015】
本発明者らは、TAZはNASH線維化の増悪因子であり、IHH遺伝子はその増悪作用を仲介するだろうと考えた。さらに発明者らは、IHH遺伝子は肝細胞から分泌され、肝星細胞を活性化すると共に、活性化星細胞からもIHH遺伝子が分泌される一成分であることから、線維化の病態ではIHH遺伝子のオートクラインやパラクライン作用が亢進することでさらに病態が進行するだろうと考えた。ヘッジホッグファミリーが肝臓の線維化に関連する病態進展に関与している可能性が示唆されていることから、ヘッジホッグファミリーの一つであるIHH遺伝子の阻害剤は、IHH遺伝子の機能解明に有用であり、線維化の病態の進行を抑制もしくは遅延させることが期待できる。さらに、IHH遺伝子の阻害剤は、肝臓に限らず、腎臓、肺、皮膚等の組織及び臓器における炎症性疾患や線維化疾患の治療、予防、改善又はその進行の抑制もしくは遅延に有用である。
【0016】
本発明は、IHH遺伝子の阻害剤を提供することを解決すべき課題とする。IHH遺伝子の阻害剤としてIHH遺伝子の発現を調節するヘテロ2重鎖核酸(HDO)を含む核酸複合体を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者らは、動物における線維化に関連する遺伝子について研究を進めた結果、新たな遺伝子としてIHH遺伝子が線維化に関与していることを見出した。本発明では、IHH遺伝子の転写産物であるmRNA及びタンパク質の発現を低減させるための核酸複合体、すなわちIHH遺伝子の阻害剤及びIHH遺伝子の発現を阻害する方法が課題を解決する手段として開示される。
【0018】
そのようなIHH遺伝子の阻害剤は、繊維症、線維化疾患の治療、予防、改善又はその進行の遅延を、必要とする患者において行うことに有用である。
【0019】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがIHH遺伝子転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する核酸複合体。
[2] 前記オリゴヌクレオチドは一本鎖オリゴヌクレオチドである[1]の核酸複合体。
[3] 前記オリゴヌクレオチドからなるアンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖からなるヘテロ2重鎖核酸である[1]の核酸複合体。
[4] 前記オリゴヌクレオチドが少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、[1]~[3]のいずれかの核酸複合体。
[5] 前記オリゴヌクレオチドが少なくとも1つのホスホロチオエートオリゴヌクレオチドを含む、[1]~[4]のいずれかの核酸複合体。
[6] 前記オリゴヌクレオチドが少なくとも1つのホスホジエステルオリゴヌクレオレオチドを含む、[1]~[5]の核酸複合体。
[7] 前記オリゴヌクレオチドがホスホロチオエートオリゴヌクレオチドである、[5]に記載の核酸複合体。
[8] 前記オリゴヌクレオチドが修飾核酸塩基を含む、[1]~[7]のいずれかの核酸複合体。
[9] 前記修飾核酸塩基が5-メチルシトシン、2’-MOE、BNA、LNA若しくはAmNAである、[8]に記載の核酸複合体。
[10] 前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖がRNAであることを特徴とする[3]~[9]のいずれかの核酸複合体。
[11] 前記オリゴヌクレオチドが:
複数の核酸からなるギャップ領域;
複数の核酸からなる5’ウイング領域;
複数の核酸からなる3’ウイング領域;
を含むことを特徴とする[1]~[10]のいずれかの核酸複合体。
[12] 前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列が、配列番号1又は配列番号2に表すIHH遺伝子配列中の連続する12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列からなる、[1]~[11]のいずれかの核酸複合体。
[13] 前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列が、配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100、102、104、106、108、110及び112の何れかの配列からなる、[12]に記載の核酸複合体。
[14] 前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列が、配列番号26の配列からなる、[13]に記載の核酸複合体。
[15] 前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列が、配列番号118、120、122、124、126、128、130、132、134、136、138、140、142、144、146、148、150、152、154、156、158、160、162、164、166、168、170、172、174、176、178、180、182、184、186及び188の何れかの配列からなる、[1]~[11]のいずれかの核酸複合体。
[16] 前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列が、配列番号160、170又は178の配列からなる、[15]に記載の核酸複合体。
[17] [1]~[16]のいずれかの核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む医薬組成物。
[18] [1]に記載の核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む線維症の治療薬。
[19] [1]~[16]のいずれかの核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含むNashの治療薬。
[20] [1]~[16]のいずれかの核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む肝臓の線維症の治療薬。
[21] [1]~[16]のいずれかの核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む腎臓の線維症の治療薬。
[22] [1]~[16]のいずれかの核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む膵臓の線維症の治療薬。
[23] [1]~[16]のいずれかの核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む肺の線維症の治療薬。
[24] [1]~[16]のいずれかの核酸複合体を含む、IHH特異的な阻害剤を含む皮膚の線維症の治療薬。
[25] 12~30のオリゴヌクレオチドを含み、配列番号1~50の核酸塩基配列のいずれかの、少なくとも8の連続した核酸塩基を含む核酸塩基配列を有する核酸複合体。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-047703号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがIHH遺伝子転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する核酸複合体は、IHH遺伝子の発現を阻害することができ、線維症の治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2-1】ヒトIHH遺伝子coding配列式を示す図である。
【
図2-2】マウスIHH遺伝子coding配列式を示す図である。
【
図3-1】ヒト及びマウスIHH遺伝子coding配列からの1次スクリーニングを示すグラフである(Ren-1-1~-31)。
【
図3-2】ヒト及びマウスIHH遺伝子coding配列からの1次スクリーニングを示すグラフである(Ren-1-32~-55)。
【
図4】Ren-1-12 ASOのノックダウン作用のIC50値の算出を示すグラフである。
【
図5】マウスにおけるToc-Ren-1-12 HDO単回投与後のIHH遺伝子ノックダウン作用を示すグラフである。
【
図6】Ren-1-12の周辺配列における2次スクリーニングを示すグラフである。
【
図7】正常マウスにToc-Ren-1-12-22, -27, -31の各HDOを単回i.v.投与したときの肝臓におけるIHH遺伝子ノックダウン作用を示すグラフである。
【
図8】正常マウスにToc-Ren-1-12-27 HDOを単回i.v.投与したときの肝臓におけるIHH遺伝子ノックダウン作用の用量依存性を示すグラフである。
【
図9】正常マウスにToc-Ren-1-12-27 HDOを単回i.v.投与したときの肝臓におけるIHH遺伝子ノックダウン作用のDay3とDay7における経時変化を示すグラフである。
【
図10】メチオニン・コリン欠乏飼料(MCD飼料)により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOのIHH遺伝子発現に及ぼす影響を示す図である。
【
図11】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの炎症マーカー(A: TNFA及びB: CCL2)遺伝子発現に及ぼす影響を示す図である。
【
図12】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOのマクロファージマーカー(ADGRE1)遺伝子発現に及ぼす影響を示す図である。
【
図13-1】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの線維化マーカー(A: COL1A1, B: CTGF)遺伝子発現に及ぼす影響を示す図である。
【
図13-2】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの線維化マーカー(A: TGFB1, B: TIMP)遺伝子発現に及ぼす影響を示す図である。
【
図13-3】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの線維化マーカー(ACTA2)遺伝子発現に及ぼす影響を示す図である。
【
図14】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの血中肝臓逸脱酵素(ALT)活性に及ぼす影響を示す図である。
【
図15】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの体重(A)及び肝重量(B)に及ぼす影響を示す図である。
【
図16】MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの血中トリグリセライド濃度(A)及び血中コレステロール濃度(B)に及ぼす影響を示す図である。
【
図17】実施例1、実施例4で使用した37本のASOの3次スクリーニングの結果を示す図である。
【
図18】正常マウス肝臓のIHH mRNA発現に対するRen1 ASOのノックダウン活性を示す図である。*Vehicle投与群に比べ:p<0.05
【
図19】NASH病態モデルマウスに対するToc-Ren-1-12-27の影響を示すマウス肝臓組織図(hematoxylin and eosin染色)である。aはNormal Diet+Vehicle投与群、bはNormal Diet+HDO投与群、cはMCD Diet+Vehicle投与群、dはMCD Diet+HDO投与群の肝臓組織図を示す。図中、Cは中心静脈を示し、Gはグリソン鞘を示し、〇は炎症細胞集簇を示し、矢印(→)は脂肪滴を示す。
【
図20】Ren1-12-27投与5週間後のNASH病態モデルマウスの肝臓組織図(Oil red O染色)である。eはNormal Diet+Vehicle投与群、fはNormal Diet+HDO投与群、gはMCD Diet+Vehicle投与群、hはMCD Diet+HDO投与群を示す。図中、Cは中心静脈を示し、Gは グリソン鞘を示し、矢印(←)は脂肪滴を示す。
【
図21】Ren1-12-27投与5週間後のNASH病態モデルマウスの肝臓組織図(Sirius染色)である。iはNormal Diet+Vehicle投与群、jはNormal Diet+HDO投与群、kはMCD Diet+Vehicle投与群、lはMCD Diet+HDO投与群を示す。図中、Cは中心静脈を示し、Gはグリソン鞘を示し、矢印(↑)はコラーゲン線維を示す。
【
図22】正常マウス由来肺線維芽細胞(MPF)におけるRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果を示す図である。AはIHH mRNAの発現抑制効果を示し、BはMalat-1 mRNAの発現抑制効果(ポジティブコントロール)を示す。
【
図23】正常マウス由来皮膚線維芽細胞(MDF)におけるRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果を示す図である。AはIHH mRNAの発現抑制効果を示し、BはMalat-1 mRNAの発現抑制効果(ポジティブコントロール)を示す。
【
図24】TGF-beta1刺激した正常マウス由来腎尿細管上皮細胞(MRPTEC)におけるRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがIHH(Indian hedgehog)遺伝子の転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する核酸複合体である。IHH遺伝子の転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する核酸はIHH遺伝子の転写産物に対してアンチセンス核酸として作用する。すなわち、IHH遺伝子の特異的な阻害剤として作用し、標的遺伝子であるIHH遺伝子の発現、又は通常転写産物レベルをアンチセンス効果によって抑制する活性を有する。
【0023】
IHH遺伝子の転写産物とは、IHH遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されたmRNAのことであり、塩基の修飾を受けていないmRNAや、スプライシングを受けていないmRNA前駆体等も含まれる。通常、「転写産物」は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される、いかなるRNAであってもよい。
【0024】
特定の実施形態において、核酸複合体のオリゴヌクレオチドは一本鎖オリゴヌクレオチドである。つまり、一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO: antisense oligonucleotide)である。
【0025】
また、特定の実施形態において、核酸複合体は、オリゴヌクレオチドからなるアンチセンス鎖と、前記アンチセンス鎖に相補的である核酸鎖であるセンス鎖からなるヘテロ2重鎖核酸(HDO:Heteroduplex oligonucleotide)であり、アンチセンス鎖がセンス鎖核酸鎖にアニーリングしている。アンチセンス鎖を第1の核酸鎖と呼び、センス鎖を第2の核酸鎖と呼ぶことがある。このような核酸複合体を2重鎖核酸複合体という。
【0026】
また、特定の実施形態において、核酸複合体は、製造時は一本鎖のオリゴヌクレオチドであって、DNAヌクレオチド若しくはDNAヌクレオチドアナログからなるアンチセンス鎖と、3~10ヌクレオチドからなるリンカー部分と、前記アンチセンス鎖に相補的であるRNAヌクレオチド若しくはRNAヌクレオチドアナログからなるセンス鎖を含む構造であってもよい。この構造の核酸複合体は一本鎖ヘテロ二本鎖(single stranded heteroduplex oligonucleotide:ss-HDO)と言われるものであり、例えば、WO2017/131124A1に記載されているX-L-Yの構造からなるオリゴヌクレオチドである。Xはアンチセンス鎖で、Yはアンチセンス鎖に対する相補鎖で、Lがリンカーの役割をするヌクレオチドからなる。この一本鎖オリゴヌクレオチドを医薬組成物として用いる際は、生理食塩水や水性注射剤、非水性注射剤、懸濁性注射剤、固形注射剤等に用いられる溶媒若しくは血液または血漿中でアンチセンス鎖と、アンチセンス鎖に対する相補鎖がリンカーを支点として一分子アニーリングして2重鎖構造をとる。このような核酸複合体は、医薬組成物として作用するときは一分子アニーリングして2重鎖構造をとるため、2重鎖核酸複合体の一つである。
【0027】
本発明のIHH遺伝子特異的な阻害剤を含む医薬組成物を実施するためのヘテロ2重鎖核酸(HDO)の基本的な形態は以下に述べるものである。すなわち、HDOは活性本体であるDNAで構成されるアンチセンス鎖(Active鎖)と、それと相補的な配列を有するRNAで主に構成されるセンス鎖(Carrier鎖)との2本鎖で構成される(
図1)。さらにHDOはそのセンス鎖にリガンド構造を含むことを特徴とする。このような形態を持つことによりIHH遺伝子特異的な阻害剤を含む医薬組成物はヒトにおける血中での安定性が高く、リガンドの性能に応じた標的組織に効率よくデリバリーされる。HDOが細胞内に送達された後にはRNase Hにより速やかにRNA鎖が除かれる。そこでフリーになったDNA鎖とmRNAとの間で新たに2本鎖構造を形成し、細胞内RNase Hの作用によりmRNAが分解されることでノックダウン作用が発揮される。
【0028】
特定の実施形態において、核酸複合体は、12~30のオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがIHH遺伝子の転写産物に対して相補的である核酸塩基配列を有する。
【0029】
本発明の核酸複合体のアンチセンス鎖であるオリゴヌクレオチドは、IHH遺伝子の転写産物であるmRNAを標的とする。該アンチセンス鎖の塩基配列は、ヒトIHH遺伝子の塩基配列中の部分配列又はマウスIHH遺伝子の塩基配列中の部分配列に相補的であり、好ましくはヒトIHH遺伝子の塩基配列中の部分配列に相補的である。ヒトIHH遺伝子の遺伝子の塩基配列を配列番号1に、マウスIHH遺伝子の塩基配列を配列番号2に表す。すなわち、本発明の12~30のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを含み、当該オリゴヌクレオチドがIHH転写産物に対して相補的である核酸塩基配列は、ヒトIHH遺伝子の塩基配列中の部分配列又はマウスIHH遺伝子の塩基配列中の部分配列に相補的である配列である。
【0030】
具体的には、例えば、前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列は、配列番号4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、100、102、104、106、108、110及び112の何れかの配列からなっていてもよい。この中でも、配列番号19、24、26、28、76、78、84又は86の配列からなる核酸塩基配列が好ましく、さらに、配列番号26の配列からなる核酸塩基配列が好ましい。
【0031】
配列番号26の配列に対するセンス鎖の配列(配列番号25)は、配列番号1の塩基配列の598番目の塩基から611番目の塩基(14塩基長)である。この配列に対して、配列のスタート部位を配列番号1の塩基配列の603番596番目の塩基にずらすと共に塩基長を13から20としたセンス鎖に相補的な配列を前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列とすることもできる。
【0032】
具体的には、例えば、前記オリゴヌクレオチドの核酸塩基配列が、配列番号118、120、122、124、126、128、130、132、134、136、138、140、142、144、146、148、150、152、154、156、158、160、162、164、166、168、170、172、174、176、178、180、182、184、186及び188の何れかの配列からなっていてもよい。この中でも、配列番号160、170又は178の配列からなる核酸塩基配列が好ましい。
【0033】
以下、DHOについて詳述する。1本鎖オリゴヌクレオチドは、以下の記載のアンチセンス鎖に関する記載に基づいて作製し、使用することができる。
【0034】
第1の核酸鎖は、
(i)ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含み、該核酸鎖における該ヌクレオチド及び任意に含まれる該ヌクレオチドアナログの総数は8~100であり、
(ii)転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含み、
(iii)少なくとも1つの非天然ヌクレオチドを含み、
(iv)前記転写産物にハイブリダイズする。
【0035】
第2の核酸鎖は、
(i)RNAヌクレオチドと、任意にヌクレオチドアナログと、任意にDNAヌクレオチドとを含み、
(ii)DNAヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを含み、又は、
(iii)PNAヌクレオチドを含む。
【0036】
「アンチセンス効果」とは、標的転写産物(RNAセンス鎖)と、例えば、その部分配列に相補的なDNA鎖、又は通常アンチセンス効果が生じるように設計された鎖等とがハイブリダイズすることによって生じる、標的遺伝子の発現又は標的転写産物レベルの抑制を意味する。ある場合において、ハイブリダイゼーション産物により前記転写産物を被覆することによって生じ得る翻訳の阻害又はエキソンスキッピング等のスプライシング機能変換効果、及び/又は、ハイブリダイズした部分が認識されることにより生じ得る前記転写産物の分解によって生じる、前記抑制を意味する。
【0037】
「相補性」という文言は、ここでは水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック型塩基対(天然型塩基対)や非ワトソン-クリック型塩基対(フーグスティーン型塩基対等)を形成できる関係のことを意味する。アンチセンス鎖の十分な数の核酸塩基が、標的核酸の対応する核酸塩基と水素結合し得る場合、アンチセンス鎖及び標的核酸は互いに相補的であるので、所望の効果が生じる(例えば、IHH遺伝子などの標的核酸のアンチセンス阻害)。アンチセンス鎖とIHH遺伝子との間の非相補的核酸塩基は、アンチセンス鎖が標的核酸に特異的にハイブリダイズできるという条件で許容され得る。さらに、アンチセンス化合物はタウ核酸の1つ以上のセグメントに対してハイブリダイズでき、それにより介入する又は隣接するセグメントはハイブリダイゼーション事象(例えば、ループ構造、ミスマッチ又はヘアピン構造)に関与しない。当該アンチセンス鎖は、IHH遺伝子をコードするmRNAの配列に対して相補的である。相補的であるとは、アンチセンス鎖がIHH遺伝子をコードするmRNAに結合できる程度に相補的であればよく、例えば、80%以上、90%以上、又は95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上相補的であればよい。100%相補的であってもよい。0~4個程度のミスマッチがあってもよい。
【0038】
特定の実施形態において、本明細書に提供されているアンチセンス鎖又はこの特定の部分は、タウ核酸、標的領域、標的セグメントもしくはこの特定の部分に対して80~100%、好ましくは90~100%、より好ましくは95~100%、若しくは100%相補的である。標的核酸に対するアンチセンス鎖の相補性の割合は慣例の方法を使用して求められ得る。
【0039】
例えば、アンチセンス鎖の20核酸塩基のうちの16が標的領域に対して相補的であり、したがって特異的にハイブリダイズするアンチセンス鎖は80%の相補性を表す。この例において、残りの非相補的核酸塩基には、相補的核酸塩基が集まり得る又は散在し得、これらの非相補的核酸塩基は互いに又は相補的核酸塩基に隣接している必要はない。例えば、標的核酸と完全な相補性の2つの領域の隣に4つの非相補的核酸塩基を有する18核酸塩基長であるアンチセンス鎖は、標的核酸に対して14が標的領域に対して相補的であるから77.8%の全体の相補性を有するので、本発明の範囲内である。標的核酸の領域に対するアンチセンス鎖の相補性の割合は、当該技術分野において公知のBLASTプログラム等によって求めることができる。
【0040】
ある実施形態においては、第1の核酸鎖は、標的遺伝子の転写産物等の標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸であって、第1の核酸鎖が前記転写産物にハイブリダイズした際に、少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む領域を有する核酸である。
【0041】
ここでは、「核酸」とはモノマーヌクレオチドを意味する場合もあり、複数のモノマーから構成されるオリゴヌクレオチドを意味する場合もある。「核酸鎖」という文言は、ここではオリゴヌクレオチドを称するためにも用いられる。核酸鎖は、その全部又は一部を、自動合成機の使用といった化学合成法によって調製してもよく、ポリメラ―ゼ、ライゲース又は制限酵素反応に限定されるわけではないが、酵素処理により調製してもよい。
【0042】
第1の核酸鎖の鎖長としては特に制限はないが、12~30塩基であり、12~25塩基であり、又は13~20塩基である。ある場合においては、通常、前記標的に対する核酸鎖によるアンチセンス効果の強さや、費用、合成収率等の他の要素に応じて、鎖長は選択される。
【0043】
第2の核酸鎖の鎖長は、第1の核酸鎖と同じであってもよい。その場合、12~30塩基であり、12~25塩基であり、又は13~20塩基である。また、第1の核酸鎖の鎖長に対して数塩基から十数塩基長くても短くてもよい。
【0044】
「RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチド」は、通常、4~20塩基の連続したヌクレオチドを含む領域であり、5~16塩基の連続したヌクレオチドを含む領域であり、又は、6~12塩基の連続しヌクレオチドを含む領域である。また、この領域には、天然型DNAのような、RNAヌクレオチドにハイブリダイズした際に、RNA鎖を切断するRNaseHによって認識されるヌクレオチドを用いることができる。修飾されたDNAヌクレオチド及び他の塩基といった、好適なヌクレオチドは、この分野において知られている。また、RNAヌクレオチドのような、2’位にヒドロキシ基を有するヌクレオチドは、不適当であることも知られている。「少なくとも4つの連続したヌクレオチド」を含むこの領域への利用に関し、当業者であればヌクレオチドの適合性を容易に決定することができる。
【0045】
ある実施形態において、第1の核酸鎖は「ヌクレオチド及び任意にヌクレオチドアナログ」を含む。この文言は、第1の核酸鎖は、DNAヌクレオチド、RNAヌクレオチドを有し、また当該核酸鎖において任意にヌクレオチドアナログを更に有していてもよいということを意味する。
【0046】
ここで「DNAヌクレオチド」は、天然に存在するDNAヌクレオチド、又はその塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットが修飾されているDNAヌクレオチドを意味する。同様に、「RNAヌクレオチド」は、天然に存在するRNAヌクレオチド、又はその塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットが修飾されているRNAヌクレオチドを意味する。塩基、糖又はリン酸塩結合のサブユニットの修飾とは、1の置換基の付加、又は、サブユニット内における1の置換のことであり、サブユニット全体を異なる化学基に置換することではない。ヌクレオチドを含む領域の一部又は全部は、DNA分解酵素等に対する耐性が高いという観点から、DNAは修飾されたヌクレオチドであってもよい。このような修飾としては、例えば、シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、チミジンの5-デメチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、キラル-メチルホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、2’-O-メチル化、2’-メトキシエチル(MOE)化、2’-アミノプロピル(AP)化、2’-フルオロ化が挙げられるが、体内動態に優れているという観点から、ホスホロチオエート化が好ましい。さらに、かかる修飾は同一のDNAに対して、複数種組み合わせて施されていてもよい。また、後述の通り、同様の効果を奏するために、RNAヌクレオチドに修飾を施してもよい。
【0047】
ある場合において、修飾されたDNAの数や位置によっては、ここで開示する二重鎖核酸が奏するアンチセンス効果等に影響を与えることになるかもしれない。これらの態様は、標的遺伝子の配列等によっても異なるため、一概には言えないが、当業者であれば、後記のアンチセンス法に関する文献の記載を参酌しながら、決定することができる。また、修飾後の二重鎖核酸複合体が有するアンチセンス効果を測定し、得られた測定値が、修飾前の二重鎖核酸複合体のそれよりも有意に低下していなければ(例えば、修飾後の二重鎖核酸複合体の測定値が修飾前の二重鎖核酸複合体の測定値の30%以上であれば)、当該修飾は評価することができる。アンチセンス効果の測定は、例えば、後述の実施例において示されているような、細胞等に被検核酸化合物を導入し、該被検核酸化合物が奏するアンチセンス効果によって抑制された該細胞等における標的遺伝子の発現量(mRNA量、cDNA量、タンパク質量等)を、ノザンブロッティング、定量的PCR、ウェスタンブロッティング等の公知の手法を適宜利用することによって行うことができる。
【0048】
ここで「ヌクレオチドアナログ」は天然には存在しないヌクレオチドを意味し、ヌクレオチドの塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットにおいて、2以上の置換基が付加されており、若しくは、サブユニット内が2以上置換されており、又はサブユニット全体を異なる化学基に置換されていることを意味する。2以上の置換を伴うアナログの例としては、架橋化核酸が挙げられる。架橋化核酸は、糖環における2箇所の置換に基づいて架橋ユニットが付加されるヌクレオチドアナログであり、典型的には、2’位の炭素と4’位の炭素とが結合しているヌクレオチドアナログが挙げられる。ある実施形態における第1の核酸鎖においては、標的遺伝子の転写産物の部分配列に対する親和性及び/又は核酸分解酵素に対する耐性が増大させるという観点から、第1の核酸鎖はヌクレオチドアナログをさらに含む。「ヌクレオチドアナログ」としては、修飾(架橋、置換等)により、標的遺伝子の転写産物の部分配列に対する親和性及び/又は核酸分解酵素に対する耐性が増大されているヌクレオチドであればよく、例えば、特開平10-304889号公報、国際公開第2005/021570号、特開平10-195098号公報、特表2002-521310号公報、国際公開第2007/143315号、国際公開第2008/043753号、国際公開第2008/029619号、国際公開第2008/049085号(以下、これら文献を「アンチセンス法に関する文献」とも称する)において、アンチセンス法に好適に用いられるとして開示されている核酸が挙げられる。すなわち、前記文献に開示されている核酸:ヘキシトール核酸(HNA)、シクロヘキセン核酸(CeNA)、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、2’-O-メチル化核酸、2’-MOE(2’-O-メトキシエチル)化核酸、2’-AP(2’-O-アミノプロピル)化核酸、2’-フルオロ化核酸、2’F‐アラビノ核酸(2'-F-ANA)、BNA(架橋化核酸(Bridged Nucleic Acid)が挙げられる。
【0049】
ある実施態様におけるBNAとしては、2’位の炭素と4’位の炭素とが、2以上の原子によって架橋されているリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドであればよい。架橋化核酸の例は当業者に知られている。このようなBNAの一のサブグループとしては、2’位の炭素と4’位の炭素とが、4’-(CH2)p-O-2’、4’-(CH2)p-S-2’、4’-(CH2)p-OCO-2’、4’-(CH2)n-N(R3)-O-(CH2)m-2’によって架橋されているBNAを挙げられる(ここで、p、m及びnは、各々1~4、0~2及び1~3の整数である。R3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、及びユニット置換基(蛍光あるいは化学発光標識分子、核酸切断活性官能基、又は細胞内若しくは核内移行シグナルペプチド等)を示す)。さらに、ある実施態様におけるBNAにおいて、3’位の炭素における置換基:OR2及び5’位の炭素における置換基:OR1のR1及びR2は、典型的には水素原子であるが、同一又は異なっていてもよく、核酸合成の水酸基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、又は、-P(R4)R5(式中、R4及びR5は、同一又は異なっていてもよく、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルチオ基、炭素数1~6のシアノアルコキシ基、又は、炭素数1~5のアルキル基で置換されたアミノ基を示す)であってもよい。このようなBNAとしては、例えば、LNA(ロックド核酸(Locked Nucleic Acid(登録商標)、2’,4’-BNA)とも称される、α-L-メチレンオキシ(4’-CH2-O-2’)BNA又はβ-D-メチレンオキシ(4’-CH2-O-2’)BNA、ENAとも称されるエチレンオキシ(4’-(CH2)2-O-2’)BNA、β-D-チオ(4’-CH2-S-2’)BNA、アミノオキシ(4’-CH2-O-N(R3)-2’)BNA、2’,4’-BNANCとも称されるオキシアミノ(4’-CH2-N(R3)-O-2’)BNA、2’,4’-BNACOC、3’アミノ-2’,4’-BNA、5’-メチルBNA,cEt-BNAとも称される(4’-CH(CH3)-O-2’)BNA、cMOE-BNAとも称される(4’-CH(CH2OCH3)-O-2’)BNA、AmNAとも称されるアミドBNA(4’-C(O)-N(R)-2’)BNA(R=H,Me),当業者に知られた他のBNAが挙げられる。
【0050】
さらに、ある実施態様における修飾核酸においては、塩基部位が修飾されていてもよい。塩基部位の修飾としては、例えば、シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、チミジンの5-デメチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化が挙げられる。さらにまた、ある実施態様における修飾核酸においては、リン酸ジエステル結合部位が修飾されていてもよい。リン酸ジエステル結合部位の修飾としては、例えば、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、キラル-メチルホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化が挙げられるが、体内動態に優れているという観点から、ホスホロチオエート化が用いられる。また、このような塩基部位の修飾やリン酸ジエステル結合部位の修飾は同一の核酸に対して、複数種組み合わせて施されていてもよい。
【0051】
全体として、修飾されたヌクレオチド及び修飾されたヌクレオチドアナログは、ここで例示したものに限定されるわけではない。多数の修飾されたヌクレオチド及び修飾されたヌクレオチドアナログが当該分野では知られており、例えば、Tachasらの米国特許第8299039号明細書の記載、特に17~22欄の記載を、本願の実施態様として利用することもできる。
【0052】
当業者であれば、このような修飾核酸の中から、アンチセンス効果、標的遺伝子の転写産物の部分配列に対する親和性、核酸分解酵素に対する耐性等の観点を考慮し、適宜ヌクレオチドアナログを選択して利用することができるが、ある実施形態において、ヌクレオチドアナログは下記式(1)で表わされるLNAである。
【0053】
【0054】
式(1)中、Baseは、置換基を有していてもよい芳香族複素環基若しくは芳香族炭化水素環基、例えば、天然型ヌクレオシドの塩基部位(プリン塩基、ピリミジン塩基)又は非天然型(修飾)ヌクレオシドの塩基部位を示す。なお、塩基部位の修飾の例は、前述の通りである。
【0055】
R1、R2は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、核酸合成の水酸基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成の保護基で保護されたリン酸基、又は、-P(R4)R5[ここで、R4及びR5は、同一又は異なっていてもよく、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、アミノ基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキルチオ基、炭素数1~6のシアノアルコキシ基、又は、炭素数1~5のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。]を示す。
【0056】
なお、前記化学式において示されている化合物はヌクレオシドであるが、ある実施形態における「LNA」及び通常BNAには、当該ヌクレオシドにリン酸基が結合した形態(ヌクレオチド)も含まれる。すなわち、LNAといったBNAは、二重鎖核酸複合体を含む核酸鎖に、ヌクレオチドとして組み込まれる。
【0057】
ある実施態様における「複数の核酸からなるヌクレオチドアナログを含むウイング領域」は、前記少なくとも4つ以上の連続したDNAヌクレオチドを含む複数の核酸からなる領域(以下「DNAギャップ領域」とも称する)の5'末側及び/又は3'末側に配置されるものである。
【0058】
該DNAギャップ領域の5’末端に配置されたヌクレオチドアナログを含む領域(以下「5’ウイング領域」とも称する)、及び該DNAギャップ領域の3’末端に配置されたヌクレオチドアナログを含む領域(以下「3’ウイング領域」とも称する)は、それぞれ独立したものであり、前記アンチセンス法に関する文献に挙げられているヌクレオチドアナログを少なくとも1種含んでいればよく、さらに、かかるヌクレオチドアナログ以外に天然型の核酸(DNA又はRNA)も含まれていてもよい。また、5’ウイング領域及び3’ウイング領域の鎖長は独立的に、通常1~10塩基であり、1~7塩基、1~5塩基、又は2~5塩基である。
【0059】
さらに、5’ウイング領域及び3’ウイング領域において、ヌクレオチドアナログ及び天然型のヌクレオチドの種類や数や位置については、ある実施形態における二重鎖核酸複合体が奏するアンチセンス効果等に影響を与える場合もあるため、好ましい態様は、配列等によっても変わり得る。一概には言えないが、当業者であれば、前記アンチセンス法に関する文献の記載を参酌しながら、好ましい態様を決定することができる。また、前記「少なくとも4つ以上の連続したDNAヌクレオチド」を含む領域同様に、修飾後の二重鎖核酸が有するアンチセンス効果を測定し、得られた測定値が、修飾前の二重鎖核酸のそれよりも有意に低下していなければ、当該修飾は好ましい態様であると評価することができる。
【0060】
修飾オリゴヌクレオチドからなるIHH遺伝子のmRNAに対するアンチセンス鎖は、1~10個の塩基からなる5’ウイング領域(5’wing site)、8~25個の塩基からなるギャップ領域、及び1~10個の塩基からなる3’ウイング領域(3’wing site)からなり得る。アンチセンス鎖は、2-10-2で表わされるモチーフ、3-10-3で表されるモチーフ等を有することができる。ここで、モチーフの1番目の数字は、5’ウイング領域内の塩基の数を表し、2番目の数字は、ギャップ領域内の塩基の数を表し、3番目の数字は、3’ウイング領域内の塩基の数を表す。
【0061】
なお、従前から試みられているRNAやLNAのみからなるアンチセンス法は、標的となるmRNAと結合することで翻訳を抑制したが、その効果は概して不十分であった。一方DNAのみからなるアンチセンス法では、標的遺伝子と結合するとDNAとRNAからなる二本鎖構造となるため、RNaseHの標的となることでmRNAが切断されることにより強い標的遺伝子発現抑制効果が期待できたが、標的遺伝子との結合自体が弱いため実際の効果はやはり不十分だった。
【0062】
従って、第1の核酸鎖において、中央に少なくとも4塩基以上の鎖長のDNAが配置され、さらにRNA(すなわち、標的転写産物)と強い結合能力を持つLNA(又は他のBNA)が両端に配置されることによって、このような複合鎖は、RNaseHによる標的RNAの切断を促進することとなる。「鎖長が4塩基であるDNA」は、DNAヌクレオチドだけに制限されるわけではなく、第1の核酸鎖が転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを、第1の核酸鎖が含むことも意図するものである。ある実施形態において、標的転写産物とのヘテロ二重鎖形成により生じるアンチセンス効果が極めて高いという観点から、第1の核酸鎖が転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む領域の、5'末側及び3'末側に配置された修飾核酸を含むウイング領域は、任意にヌクレオチドアナログを含んでいることが望ましい。該ヌクレオチドアナログはBNAであってもよく、例えばLNAであってもよい。
【0063】
ある実施形態における第2の核酸鎖は、前述の第1の核酸鎖と相補的な核酸である。第2の核酸鎖の塩基配列と第1の核酸鎖の塩基配列とは、完全に相補的である必要はなく、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有していればよい。
【0064】
第2の核酸鎖としては、RNA、DNA、PNA(ペプチド核酸)及びBNA(例えば、LNA)からなる群から選択される少なくとも1種の核酸からなるオリゴブクレオチドである。より具体的には、第2の核酸鎖は、(i)RNAヌクレオチドと、任意にヌクレオチドアナログと、任意にDNAヌクレオチドとを含み、(ii)DNAヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを含み、又は、(iii)PNAヌクレオチドを含む。
【0065】
「RNAヌクレオチドと、任意にヌクレオチドアナログと、任意にDNAヌクレオチドとを含む」という文言は、第2の核酸鎖はRNAヌクレオチドを含み、さらに任意にヌクレオチドアナログを含んでもよく、さらにまた任意にDNAヌクレオチドを含んでもよいということを意味する。「DNAヌクレオチド及び/又はヌクレオチドアナログを含む」という文言は、第2の核酸鎖はDNAヌクレオチド及びヌクレオチドアナログのいずれかを含んでいてもよく、またDNAヌクレオチド及びヌクレオチドアナログを共に含んでいてもよいということを意味する。「PNAヌクレオチドを含む」とは第2の核酸鎖はPNAヌクレオチドから構成されてもよいということを意味する。
【0066】
しかしながら、ある実施形態における二重鎖核酸複合体が細胞内のRNaseHに認識され、第2の核酸鎖が分解されることにより、第1の核酸鎖のアンチセンス効果が発揮し易くなるという観点から、第2の核酸鎖はRNAを含む。また、ある実施形態における二重鎖核酸複合体にペプチド等の機能性分子を結合させ易いという観点からは、第2の核酸鎖はPNAであってもよい。
【0067】
ここで、「RNAヌクレオチド」は、天然に存在するRNAヌクレオチド、又はその塩基、糖若しくはリン酸塩結合のサブユニットが修飾されているRNAヌクレオチドを意味する。塩基、糖又はリン酸塩結合のサブユニットの修飾とは、1の置換基の付加、又は、サブユニット内における1の置換のことであり、サブユニット全体を異なる化学基に置換することではない。
【0068】
第2の核酸鎖において、核酸の一部又は全部は、RNA分解酵素等の核酸分解酵素に対する耐性が高いという観点から、修飾されたヌクレオチドであってもよい。このような修飾としては、例えば、シトシンの5-メチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、N4-メチル化、チミジンの5-デメチル化、5-フルオロ化、5-ブロモ化、5-ヨード化、アデニンのN6-メチル化、8-ブロモ化、グアニンのN2-メチル化、8-ブロモ化、ホスホロチオエート化、メチルホスホネート化、メチルチオホスホネート化、キラル-メチルホスホネート化、ホスホロジチオエート化、ホスホロアミデート化、2’-O-メチル化、2’-メトキシエチル(MOE)化、2’-アミノプロピル(AP)化、2’-フルオロ化が挙げられる。また、ウラシル塩基をチミジン塩基に置換したRNAヌクレオチドの利用も考えられるが、薬物動態に優れているという観点から、ホスホロチオエート化が用いられる。また、かかる修飾は同一の核酸に対して、複数種組み合わせて施されていても良く、例えば、後述の実施例において用いられているように、酵素による切断に対する抵抗性を付与するため、同一のRNAに対して、ホスホロチオエ―ト化及び2’-O-メチル化を施してもよい。しかしながら、RNaseHによってRNAヌクレオチドが切断されることを期待し、又は望む場合には、ホスホロチオエ―ト化及び2’-O-メチル化のいずれかのみを施すことができる。
【0069】
修飾の数や位置は、ある実施形態における二重鎖核酸複合体が奏するアンチセンス効果等に影響を与える場合もあるため、第2の核酸鎖におけるヌクレオチドアナログの数及び修飾の位置には好ましい態様が存在する。この好ましい態様は、修飾対象となる核酸の種類、配列等によっても異なるため、一概には言えないが、前述の第1の核酸鎖同様に、修飾後の二重鎖核酸が有するアンチセンス効果を測定することにより特定することができる。このような好ましい態様として、第2の核酸鎖が特定の細胞の核内に送達されるまで、RNaseA等のRNA分解酵素による分解を抑制しつつも、特定の細胞内においてはRNaseHにより該核酸鎖が分解されることにより、アンチセンス効果を発揮し易いという観点から、第2の核酸鎖はRNAであって、第1の核酸鎖のヌクレオチドアナログを含む領域(すなわち、5’ウイング領域及び/又は3’ウイング領域)に対して相補的な領域は、修飾された核酸又はヌクレオチドアナログであり、前記修飾又はアナログがRNA分解酵素等の酵素による分解を抑制する効果を有するものである。ある実施態様においては、前記修飾はRNAに対する2’-O-メチル化及び/又はホスホロチオエ―ト化である。また、このような場合、第1の核酸鎖のヌクレオチドアナログを含む領域に相補的な領域の全てが修飾されていてもよく、第1の核酸鎖の修飾核酸を含む領域に相補的な領域の一部が修飾されていてもよい。さらに、修飾されている領域は、該一部を含む限り、第1の核酸鎖の修飾核酸を含む領域よりも長くなっていてもよく、短くなっていてもよい。
【0070】
ある実施形態における二重鎖核酸複合体において、第2の核酸鎖に機能性部分が結合していてもよい。第2の核酸鎖と機能性部分との結合は、直接的な結合であってもよく、他の物質を介した間接的な結合であってもよいが、ある実施形態において、共有結合、イオン結合、水素結合等で第2の核酸鎖と機能性部分とが直接的に結合していることが好ましく、より安定した結合が得られるという観点から、共有結合がより好ましい。
【0071】
ある実施形態において、「機能性部分」の構造上、特に制限はなく、それを結合する二重鎖核酸複合体及び/又は核酸鎖に所望の機能を付与する。所望の機能としては、標識機能、精製機能及び標的への送達機能が挙げられる。標識機能を付与する部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化合物が挙げられる。精製機能を付与する部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチド等の化合物が挙げられる。
【0072】
また、第1の核酸鎖を特異性高く効率的に標的部位に送達し、かつ当該核酸によって標的遺伝子の発現を非常に効果的に抑制するという観点から、第2の核酸鎖に機能性部分として、ある実施形態における二重鎖核酸複合体を標的部位に送達させる活性を有する分子が結合していることが好ましい。
【0073】
「標的への送達機能」を有する部分として、例えば、肝臓等に特異性高く効率的にある実施形態における二重鎖核酸複合体を送達できるという観点から、脂質が挙げられる。このような脂質としては、コレステロール、脂肪酸等の脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)、ビタミンA,ビタミンD)、ビタミンK等の脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン)、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質、グリセリド、並びにそれらの誘導体等を例示することができるが、これらの中では、より安全性が高いという観点から、ある実施形態において、コレステロール、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)を利用することが好ましい。また、脳に特異性高く効率的に本発明の二重鎖核酸を送達できるという観点から、ある実施形態における「機能性部分」としては、糖(例えば、グルコース、スクロース)が挙げられる。また、各臓器の細胞表面にある各種タンパク質に結合することにより、当該臓器に特異性高く効率的にある実施形態における二重鎖核酸複合体を送達できるという観点から、受容体のリガンドや抗体、及び/又はそれらの断片等のペプチド又はタンパク質が、ある実施形態における「機能性部分」として挙げられる。
【0074】
以上、いくつかの実施態様において、二重鎖核酸複合体の好適な典型例について説明したが、いくつかの実施態様における二重鎖核酸は上記典型例に限定されるものではない。また、いくつかの実施形態において、第1の核酸鎖、第2の核酸鎖及び第3の核酸鎖は、当業者であれば公知の方法を適宜選択することにより調製することができる。例えば、標的転写産物の塩基配列(又は、いくつかの場合においては標的遺伝子の塩基配列)の情報に基づいて、核酸の塩基配列を設計し、市販の核酸自動合成機(アプライドバイオシステムズ社製、べックマン社製等)を用いて合成し、次いで、得られるオリゴヌクレオチドを逆相カラム等を用いて精製することにより、核酸を調製することができる。そして、このようにして調製した核酸を適当な緩衝液中にて混合し、約90~98℃にて数分間(例えば、5分間)かけて変性させた後、約30~70℃にて約1~8時間かけてアニーリングさせることにより、いくつかの実施形態における二重鎖核酸複合体を調製することができる。また、機能性部分が結合している二重鎖核酸複合体は、予め機能性部分を結合させた核酸種を用いて、前記の通り、合成、精製及びアニーリングすることにより、調製することができる。機能性部分と核酸とを結合させるための多くの方法は、当該分野においてよく知られている。
【0075】
以上、本発明の二重鎖核酸の好適な実施態様について説明したが、いくつかの実施形態にかかる「第2の核酸鎖」は、アンチセンス効果を低下させることなく、アンチセンス核酸を標的部位に効率良く送達できるという点において優れている。従って、いくつかの実施形態における二重鎖核酸は上記実施態様に限定されるものではなく、例えば、前述の第1の核酸鎖の代わりに、下記アンチセンス核酸を含む態様も提供することができる。
【0076】
標的遺伝子の発現をアンチセンス効果によって抑制する活性を有する二重鎖核酸複合体であって、(i)標的遺伝子の転写産物に相補的なアンチセンス核酸であって、DNAを含まない核酸と、(ii)(i)の核酸に相補的な核酸とを含む二重鎖核酸複合体。
【0077】
すなわち、ある実施形態において、アンチセンス核酸はRNaseH非依存的アンチセンス効果を有する。「RNaseH非依存的アンチセンス効果」とは、標的遺伝子の転写産物(RNAセンス鎖)と、その部分配列に相補的な核酸鎖とがハイブリダイズすることによる翻訳の阻害やエキソンスキッピング等のスプライシング機能変換効果によって生じる標的遺伝子の発現を抑制する活性のことを意味する。
【0078】
「DNAを含まない核酸」は、天然型DNA及び修飾されたDNAを含まないアンチセンス核酸を意味し、例えば、PNA又はモルホリノ核酸からなる核酸が挙げられる。また、「DNAを含まない核酸」において、第1の核酸鎖又は第2の核酸鎖同様に、核酸の一部又は全部は、核酸分解酵素に対する耐性が高いという観点から、修飾されたヌクレオチドにて構成されていてもよい。このような修飾の例としては前述の通りであり、さらに、修飾は同一の核酸に対して複数種組み合わせて施されていてもよい。また、修飾された核酸の数や修飾の位置に関する好ましい態様は、前述の第1の核酸鎖同様に、修飾後の二重鎖核酸が有するアンチセンス効果を測定することにより特定することができる。
【0079】
「DNAを含まない核酸」の塩基配列と、該核酸に相補的な核酸の塩基配列又は標的遺伝子の転写産物の塩基配列とは、完全に相補的である必要はなく、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有していればよい。
【0080】
「DNAを含まない核酸」の鎖長としては特に制限はないが、通常10~35塩基であり、好ましくは12~25塩基であり、より好ましくは13~20塩基である。
【0081】
いくつかの実施形態における二重鎖核酸複合体を含む組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤等として、経腸管的(経口的等)又は非経腸管的に使用することができる。
【0082】
これら製剤化においては、薬理学上もしくは飲食品として許容される担体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、pH調節剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。
【0083】
製剤化等に際し、非特許文献1に示すように、機能性部分として脂質が結合している、いくつかの実施形態における二重鎖核酸複合体においては、カイロミクロンやカイロミクロンレムナント等のリポタンパク質との複合体を形成させてもよい。さらに、経腸投与の効率を高めるという観点から、前記リポタンパク質に加え、大腸粘膜上皮透過性亢進作用を有する物質(例えば、中鎖脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸又はそれらの誘導体(塩、エステル体又はエーテル体))及び界面活性剤(非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤)との複合体(混合ミセル、エマルジョン)であってもよい。
【0084】
いくつかの実施形態における組成物の好ましい投与形態としては特に制限はなく、経腸管的(経口的等)又は非経腸管的、より具体的には、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気道内投与、直腸投与及び筋肉内投与、輸液による投与が挙げられる。
【0085】
いくつかの実施形態における組成物は、ヒトを含む動物を対象として使用することができるが、ヒト以外の動物としては特に制限はなく、種々の家畜、家禽、ペット、実験用動物等を対象とすることができる。
【0086】
いくつかの実施形態における組成物を投与又は摂取する場合、その投与量又は摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品など)等に応じて、適宜選択されるが、ある実施形態にかかる組成物の有効摂取量は、ヌクレオチド換算で0.001mg/kg/日~50mg/kg/日であることが好ましい。
【0087】
本発明は、IHH遺伝子特異的な阻害剤、又はIHH遺伝子の転写産物の阻害剤を含む繊維症の治療薬を包含する。
【0088】
また、本発明のIHH遺伝子特異的な阻害剤によりIHH遺伝子を阻害することにより、COL1A1遺伝子、CTGF遺伝子、ADGRE1発現が低下し、TGFB1遺伝子、CCL2遺伝子発現が上昇する。
【0089】
本発明のIHH遺伝子特異的な阻害剤を含む医薬組成物が治療薬としての用途を有する疾患は、主に肝臓、腎臓、膵臓、肺又は皮膚の線維症を含む炎症性の疾患である。肝臓における線維症は、脂肪肝(fatty liver)、アルコール性脂肪性肝疾患(alcoholic steatohepatitis:ASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)、非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)、慢性肝炎(Chronic hepatitis)、肝硬変症(Liver cirrhosis)の他、ウイルス性、自己免疫性、胆汁うっ滞性、代謝性、うっ血性、薬物性、感染性等の肝疾患等を含む。腎臓の線維症としては、腎臓線維症(Kidney fibrosis)、腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis:NSF)、腎臓線維腫(Kidney fibroma)等を意味する。膵臓の線維症としては、膵嚢胞線維症(cystic fibrosis:CF、システィック・ファイブローシス)等を意味する。
【0090】
肺の線維症とは、肺線維症(pulmonary fibrosis)、間質性線維症(Interstitial pulmonary fibrosis)、急性びまん性間質性肺線維症(Acute diffuse interstitial pulmonary fibrosis)、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)等を意味する。皮膚の線維症としては、皮膚線維化疾患(Skin fibrosis disease)、強皮症(Scleroderma)、全身性強皮症(Systemic scleroderma)、限局性強皮症(localized scleroderma)、膠原病(Collagen disease)、皮膚線維種(dermatofibroma)等を意味する。
【実施例】
【0091】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0092】
[実施例1] 1次スクリーニング
NCBIのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)よりヒトIHHとマウスIHHの各遺伝子におけるcoding配列情報を入手し、
図2に示すヒトIHH遺伝子coding配列:NCBI Reference Sequence: NM_002181.3(配列番号1)、マウスIHH遺伝子coding配列:NCBI Reference Sequence: NM_010544.3(配列番号2)の配列(センス鎖)に基づいて中から55本のアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)をデザインした。それらの配列情報を表1に示す。表1には、ヒトIHH遺伝子coding配列又はマウスIHH遺伝子coding配列中の配列をセンスオリゴヌクレオチドとして示し、その配列に相補的な配列をアンチセンスオリゴヌクレオチドとして示す。マウスHepa1-6細胞株を市販の24-well plateに1×10
5 cells/ml/wellずつ播種し、24時間CO
2インキュベータ中で培養した。その翌日にLipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific)を用いてASO(各20 nM)のトランスフェクションを行い、CO
2インキュベータ中にて48時間培養した。培養後の24-well plateの各ウェルよりRNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いてTotal RNAを抽出した。その後、逆転写反応と定量PCRはRotor Gene Probe RT-PCR Kit(QIAGEN)を用い、定量PCR装置はRotor-Gene Q(QIAGEN)を使用した。その際、マウスIHHとマウスGAPDHのプライマーとプローブはTaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific)でデザインされた試薬を使用し、mRNA発現量はマウスIHHとマウスGAPDHの各Ct値を測定した後、ΔΔCt法に基づく相対定量法により算出した。
【0093】
上記の方法で55本のASO(Ren-1-1~-55)についてIHH遺伝子のノックダウンスクリーニングを行った。結果を
図3-1及び3-2に示す。
図3-1はRen-1-1~-31、
図3-2はRen-1-32~-55までのスクリーニング結果を示す。PBS-1~8はネガティブコントロールでAPOB-1~2はポジティブコントロールに用いたアンチセンス核酸であり、配列情報は文献(Nat Commun. 2015 Aug 10;6:7969.)より入手した。
図3-1及び3-2に示すように、No.12(Ren-1-12)で78%のノックダウン効果が確認された(
図3-1,3-2)。
【0094】
【0095】
表中のAntisenseの欄に記載されている配列はすべてヌクレオチド間にホスホロチオエート(PS)結合を含む。それらのうち太字部分の塩基にはLNA修飾を含む。Motifの欄の例えば3-8-3は3個のLNA修飾核酸-8個の非修飾核酸-3個のLNA修飾核酸(すべてのヌクレオチド間にPS修飾含む)の計14mer核酸塩基で構成されるアンチセンス核酸を示す。Species specificityの欄のhuman/mouseとはヒトとマウスとで完全マッチするアンチセンス核酸であることを示す。また、mouseとはマウス配列とは完全マッチするが、ヒト配列とは完全マッチしないアンチセンス核酸であることを示す。GC contentはウェブサイト(http://www.ngrl.co.jp/tools/0217oligocalc.htm)に基づいて算出した。LNA修飾アンチセンス核酸のTm値はウェブサイト(https://www.exiqon.com/ls/pages/exiqontmpredictiontool.aspx)に基づいて算出した。ヒト及びマウスのcoding領域内の配列情報はNCBIのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より入手した。
【0096】
[実施例2] Ren-1-12 ASOのIHH遺伝子ノックダウン作用のIC50値算出
実施例1のスクリーニングでヒットしたRen-1-12についてIHH遺伝子ノックダウン活性のIC50値を求めた。実験は基本的に実施例1と同様の方法で行った。その結果、Ren-1-12におけるノックダウン作用のIC50値は1.07 nM、対照に用いたAPOB ASOのIC50値は2.52 nMと算出された(
図4A, B)。今回用いたAPOBの配列は文献情報(Nat Commun. 2015 Aug 10;6:7969.)でもin vivoで有効性が確認済の配列である。本実験のin vitroノックダウン試験においてRen-1-12 ASOのIHH遺伝子ノックダウン活性は対照に用いたAPOB ASOよりも明らかに強かったことから、in vivoでも有効性が期待できる配列であることが示唆された。
【0097】
[実施例3] Toc-Ren-1-12 HDOの肝臓におけるIHH遺伝子ノックダウン作用
実施例1のスクリーニングでヒットしたRen-1-12 ASOがマウス肝臓においてどの程度のノックダウン作用を示すか調べた。In vivo試験には、Ren-1-12 ASOより、該アンチセンス鎖に相補的なセンス鎖を含むヘテロ2本鎖構造をデザインした後、センス鎖にトコフェロール(Toc)をリガンドとして付与したHDOを用いた(表2)。ポジティブコントロールとしてToc-APOB HDO(表2)を使用した。マウス肝臓からのTotal RNAの抽出にはRNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いた。その後、逆転写反応と定量PCRはRotor Gene Probe RT-PCR Kit(QIAGEN)を用い、定量PCR装置はRotor-Gene Q(QIAGEN)を使用した。その際、マウスIHHとマウス18SrRNAのプライマーとプローブはTaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific)でデザインされた試薬を使用した。mRNA発現量はマウスIHHとマウス18SrRNAの各Ct値を測定した後、ΔΔCt法に基づく相対定量法により算出した。以上の方法でToc-Ren-1-12 HDO及びToc-APOB HDOを単回i.v.投与した1、3、7日後のIHH遺伝子ノックダウン効果を調べたところ、7日後にToc-Ren-1-12 HDOはToc-APOB HDOとほぼ同等のノックダウン作用を示した(
図5)。Toc-APOB HDOは既にin vivoでの薬効評価に使えることが示されている(Nat Commun. 2015 Aug 10;6:7969.)ことから、Toc-Ren-1-12 HDOもin vivoでの薬効評価に十分使える可能性のある核酸複合体であることが示された。
【0098】
【0099】
[実施例4] 2次スクリーニング
実施例1のスクリーニングでヒットしたRen-1-12を基に新たに36本のASOをデザインした。36本のASOの配列は、Ren-1-12のセンス鎖の配列が配列番号1の塩基配列の598番目の塩基から611番目の塩基(14塩基長)であるのに対して、配列のスタート部位を配列番号1の塩基配列の603番596番目の塩基にずらすと共に塩基長を13から20とした。その結果を表3に示す。これらの36本(Ren-1-12-1~-36)の配列について実施例1と同様の方法でIHH遺伝子のノックダウンスクリーニングを行った結果を
図6に示す。2次スクリーニングの結果から、Ren-1-12-22, 27, 31の3配列が特に強いノックダウン作用を示した。
【0100】
【0101】
表中のAntisenseの欄に記載されている配列はすべてヌクレオチド間にホスホロチオエート(PS)結合を含む。それらのうち太字部分の塩基にはLNA修飾を含む。Motifの欄の例えば3-8-3は3個のLNA修飾核酸-8個の非修飾核酸-3個のLNA修飾核酸(すべてのヌクレオチド間にPS修飾含む)の計14mer核酸塩基で構成されるアンチセンス核酸を示す。Species specificityの欄のhuman/mouseとはヒトとマウスとで完全マッチするアンチセンス核酸であることを示す。また、mouseとはマウス配列とは完全マッチするが、ヒト配列とは完全マッチしないアンチセンス核酸であることを示す。GC contentはウェブサイト(http://www.ngrl.co.jp/tools/0217oligocalc.htm)に基づいて算出した。LNA修飾アンチセンス核酸のTm値はウェブサイト(https://www.exiqon.com/ls/pages/exiqontmpredictiontool.aspx)に基づいて算出した。ヒト及びマウスのcoding領域内の配列情報はNCBIのウェブサイト(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)より入手した。
【0102】
[実施例5] 正常マウスにToc-Ren-1-12-22, -27, -31の各HDOを単回i.v.投与したときの肝臓におけるIHH遺伝子ノックダウン作用の比較
実施例4で選出されたRen-1-12-22, -27, -31の3配列の中からNASH病態モデルでの薬効評価に進める配列を決めるために、正常マウスにToc-Ren-1-12-22, -27, -31の各HDO(表4)を10 nmol/kgの用量で単回i.v.投与した3日後におけるノックダウン作用を比較した。その結果、Ren-1-12-27が最も強いノックダウン率(48%)を示した(
図7)。以上の結果から、Ren-1-12-27をNASH病態モデルでの薬効評価に用いることとした。
【0103】
【0104】
[実施例6] 正常マウスにToc-Ren-1-12-27 HDOを単回i.v.投与したときの肝臓におけるIHH遺伝子ノックダウン作用の用量依存性
実施例5で最も強いノックダウン作用を示したToc-Ren-1-12-27 HDOの投与量を1, 3, 10, 30 nmol/kgで単回i.v.投与したときの3日後におけるIHH遺伝子ノックダウン作用を調べた。その結果、
図8に示すようにRen-1-12-27 は用量依存的なノックダウン作用を示した(3 nmol/kgで55%,抑制、10 nmol/kgで57%,抑制、30 nmol/kgで72%抑制)。
【0105】
[実施例7] 正常マウスにToc-Ren-1-12-27 HDOを単回i.v.投与したときの肝臓におけるIHH遺伝子ノックダウン作用の経時変化のDay3とDay7との比較
実施例5でToc-Ren-1-12-27 HDOの肝臓におけるノックダウン作用の用量依存性を投与3日後で評価したが、さらに7日後におけるIHH遺伝子ノックダウン作用を調べた。その結果、
図9に示すように、Ren-1-12-27 は30 nmol/kgの投与量で投与3日後から7日後にかけて60~70%程度のノックダウン率を維持することが示された。以上より、NASH病態モデルでの評価の際にはRen-1-12-27の投与量を30 nmol/kgとし、週1回の投与で行うこととした。
【0106】
[実施例8] マウスHepa 1-6細胞におけるRen-1 ASOによるIHH遺伝子ノックダウン作用のIC50値算出
実施例4で見出した強いノックダウン作用を示すASOのうち上位19検体についてIC50値を算出した。結果を表5に示す。実施例4の2次スクリーニングではRen-1-12-22, 27, 31が特に強いノックダウン作用を示したが、実際にIC50値を算出したところ、Ren-1-12-34が最も強いIC50値を示した。
【0107】
【0108】
[実施例9] メチオニン・コリン欠乏飼料(MCD飼料)により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOのIHH遺伝子発現に及ぼす影響
6週齢雌性C57BL/6Jマウスを日本チャールズリバーから購入した。メチオニン・コリン欠乏飼料(MCD飼料)及びコントロール飼料(通常食)はリサーチダイエット社より購入した。まずC57BL/6JマウスをVehicle(生理食塩水)投与群(V群)とToc-Ren-1-12-27 HDO(30 nmol(0.3mg)/kg)投与群[I(IHH)群]とに分け、さらにそれぞれの群についてMCD飼料群(M群)とNormal飼料群(N群)とに分けた。すなわち、本実験に用いるマウスは以下の計4群に分けた[(1)Vehicle投与/Normal 飼料群(VN群)、(2)Vehicle投与/MCD飼料群(VM群)、(3)Toc-Ren-1-12-27 HDO(30 nmol(0.3mg)/kg)投与/Normal飼料群(IN群)、(4)Toc-Ren-1-12-27 HDO(30 nmol(0.3mg)/kg)投与/MCD飼料群(IM群)]。給餌は初回投与(Day 0)の1週間前から開始し、Vehicle及びToc-Ren-1-12-27 HDOの投与はDay 0より週1回、5週間実施した。サンプリングは週1回行い、マウスの体重を測定後、心臓よりヘパリン採血し、肝臓組織を採取した後、肝重量を測定した。血清サンプルより血中肝臓逸脱酵素(ALT)活性、血中トリグリセライド濃度及び血中コレステロール濃度を測定した。これらの測定には、トランスアミナーゼCII-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社)、ラボアッセイ(TM)トリグリセライド(富士フイルム和光純薬株式会社)、ラボアッセイ(TM)コレステロール(富士フイルム和光純薬株式会社)を使用した。各種肝臓遺伝子発現(IHH, COL1A1, CTGF, ADGRE1, ACTA2, TGFB1, CCL2, TIMP1, TNF)は、以下の方法により測定した。マウス肝臓からのTotal RNAの抽出にはReliaPrep(商標) RNA Tissue Miniprep System (Promega)を用いた。逆転写反応はPrimeScript(TM) RT Master Mix (TaKaRa Bio)を用いて行った。定量PCR反応はLuna Universal qPCR Master Mix(NEB)を用いて行い、定量PCR装置はStepOnePlus-01(Thermo Fisher Scientific)を使用した。各遺伝子毎のプライマーとプローブはThermo Fisher Scientific にて遺伝子毎にデザイン済のTaqMan Gene Expression Assay試薬を使用した。mRNA発現量はマウス各遺伝子とマウス18SrRNAの各Ct値を測定した後、ΔΔCt法に基づく相対定量法により算出した。統計処理は3要因の分散分析(3-way ANOVA)を用いて行い、危険率は5%未満を有意とした。
【0109】
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにVehicle又はToc-Ren-1-12-27 HDO を週1回、5週間投与したマウスでのIHH 遺伝子発現に及ぼす影響を調べた結果、
図10に示すように、Day0, 7, 14においてIHHの発現が顕著に上昇し、VM群と比較してIM群においてIHHの発現が顕著に低下した。
【0110】
[実施例10] MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの炎症マーカー遺伝子(TNFA及びCCL2)発現に及ぼす影響
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにVehicle又はToc-Ren-1-12-27 HDO を週1回、5週間投与したマウスでの炎症マーカー遺伝子(TNFA及びCCL2)発現に及ぼす影響を調べた結果、
図11A、Bに示すように、VN群と比較してVM群においてTNFAとCCL2の発現が顕著に上昇し、Day14でVM群と比較してIM群においてTNFAとCCL2遺伝子の発現が顕著に低下した。
【0111】
[実施例11] MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOのマクロファージマーカー(ADGRE1)遺伝子発現に及ぼす影響
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにVehicle又はToc-Ren-1-12-27 HDO を週1回、5週間投与したマウスでのADGRE1遺伝子発現に及ぼす影響を調べた結果、
図12に示すように、Day14の時点でADGRE1の発現が低下する傾向を示した。
【0112】
[実施例12] MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの線維化マーカー(COL1A1, CTGF, TGFB1, TIMP, ACTA2)遺伝子発現に及ぼす影響
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにVehicle又はToc-Ren-1-12-27 HDO を週1回、5週間投与したマウスでの線維化マーカー(COL1A1, CTGF, TGFB1, TIMP, ACTA2)遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。その結果、
図13-1Aに示すように、Day7の時点でCOL1A1遺伝子の発現が顕著に上昇し、Day35の時点でCOL1A1遺伝子の発現が有意に低下した(P<0.05)。CTGFの発現は
図13-1Bに示すようにDay14とDay28で低下傾向は示したものの、有意ではなかった。TGFB1の発現は
図13-2Aに示すようにDay14とDay35で低下傾向は示したものの、有意ではなかった。TIMPとACTA2の発現については
図13-2B及び
図13-3に示すように全期間において低下傾向はみられなかった。
【0113】
[実施例13] MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの血中肝臓逸脱酵素(ALT)活性に及ぼす影響
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにVehicle又はToc-Ren-1-12-27 HDO を週1回、5週間投与したマウスでの血中肝臓逸脱酵素(ALT)活性に及ぼす影響を調べた結果、
図14に示すように、VN群と比較してVM群においてALT活性が有意に上昇した(P<0.0001)。
【0114】
[実施例14] MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの体重及び肝重量に及ぼす影響
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにVehicle又はToc-Ren-1-12-27 HDO を週1回、5週間投与したマウスでの体重及び肝重量に及ぼす影響を調べた結果、
図15A、Bに示すように、VN群と比較してVM群において体重と肝重量が有意に低下した(P<0.0001)。
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにビークル又はToc-Ren-1-12-27 HDOを週1回、6週間投与したマウスでの体重及び肝重量に及ぼす影響を調べた結果、
図16に示すように、VN群と比較してVM群において体重及び肝重量が有意に低下(いずれもP<0.0001)した。このときVM群とIM群との間に有意な変化は確認されなかった。
【0115】
[実施例15] MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにおけるToc-Ren-1-12-27 HDOの血中トリグリセライド濃度及び血中コレステロール濃度に及ぼす影響
MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにVehicle又はToc-Ren-1-12-27 HDO を週1回、5週間投与したマウスでの血中トリグリセライド濃度及び血中コレステロール濃度に及ぼす影響を調べた。その結果、
図16A、Bに示すように、VN群と比較してVM群において血中トリグリセライド濃度及び血中コレステロール濃度が有意に低下した(いずれもP<0.0001)。このとき、VM群とIM群との間に血中トリグリセライド濃度で有意な変化は確認されなかったが、血中コレステロール濃度は有意に上昇した(P<0.05)。
【0116】
以上の結果より、MCD飼料により作製したNASH病態モデルマウスにToc-Ren-1-12-27 HDO(30 nmol(0.3mg)/kg)を週1回、5週間投与することによりIHH mRNAの発現が低下し、代表的な線維化マーカーであるCOL1A1 mRNAの発現が有意に低下することが示された(P<0.05)。
したがって、Toc-Ren-1-12-27 HDOはNASH治療薬となりうる化合物であることが検証された。
【0117】
[実施例16] 3次スクリーニング
実施例1、実施例4で使用した37本のASO(Ren-1-2、Ren-1-3、Ren-1-4、Ren-1-5、Ren-1-6、Ren-1-7、Ren-1-9、Ren-1-11、Ren-1-12、Ren-1-12-13、Ren-1-12-27、Ren-1-14、Ren-1-15、Ren-1-16、Ren-1-17、Ren-1-18、Ren-1-19、Ren-1-23、Ren-1-24、Ren-1-25、Ren-1-26、Ren-1-28、Ren-1-29、Ren-1-33、Ren-1-35、Ren-1-36、Ren-1-37、Ren-1-38、Ren-1-39、Ren-1-40、Ren-1-41、Ren-1-43、Ren-1-44、Ren-1-48、Ren-1-47、Ren-1-49、Ren-1-50)及びネガティブコントロールとしてPBS、ポジティブコントロールとしてAPOB遺伝子のアンチセンス核酸について、実施例1、実施例4と異なる核酸濃度50nMにて再度スクリーニングを実施した。スクリーニングの方法は、核酸濃度50nMが異なる以外は、実施例1、実施例4と同様の方法で行った。結果を
図17に示す。50nMの濃度では、Ren-1-11とRen-1-41がIHHのmRNAの発現を阻害することが示された。
【0118】
[実施例17] 正常マウス肝臓のIHH遺伝子発現に対するRen-1-12-27、Ren-1-11、Ren-1-39、Ren-1-41のノックダウン活性
本実験は新たにin vitroスクーリングにより、IHH遺伝子発現に対し、強いノックダウン作用を示した4つのASO(Ren-1-12-27、Ren-1-11、Ren-1-39、Ren-1-41)を用いて、in vivoでのノックダウン活性を調べた。
25匹6週齢の正常マウス(c57BL/6j)を体重により5群(Vehicle、Ren-1-12-27、Ren-1-11、Ren-1-39、Ren-1-41)に分けた。ノックダウン活性はポジティブコントロールのRen-1-12-27(17 mer)とネガティブコントールのVehicle投与群と比較した。ASOの投与量は30 nmol/10ml/kgに設定し、マウスの尾静脈より投与を行った(投与日をDay 0とした)。投与三日後(Day 3)に、マウスはイソフルラン麻酔下にて心内採血を行い、開腹し、肝臓を摘出した。肝臓組織からトータルmRNAを抽出し、逆転写、qPCRし、IHH mRNAの発現を計測した。結果を
図18に示す。
【0119】
Vehicle投与群と比較して、いずれのRen-1 ASOを投与群のIHH mRNA発現は低下した。Ren-1-11、Ren-1-39はRen-1-12-27と同程度(20%)のノックダウン活性を示した。Ren-1-41投与群のIHH mRNA発現はVehicle投与群に比べ、半分程度(53%)低下し、有意にノックダウンされた。
【0120】
[実施例18] MCD餌によるマウスNASH・肝線維化に対するToc-Ren-1-12-27の影響
6週齢のマウスをNormal Diet群とMCD(Methionine and Choline Deficient)Diet群に分け、MCD DietによるNASH・肝線維化モデルを作成した。MCD投与1週間後、Toc-Ren1-12-27を30 nmol/kgの用量で週1回、5週間、iv投与を行った。
【0121】
図19はRen1-12-27投与 5週間後の肝臓組織のHE染色図を示す。
Vehicle投与群では、Normal Diet群(
図19a)に比べ、炎症性細胞の集まりはMCD Diet投与(
図19c)により(黒丸内)、肝臓内脂肪滴、風船様変化が多く見られる。
【0122】
一方、HDO投与群では、Normal Diet群(
図19b)においても、炎症性細胞の集まりは観察された。MCD Diet投与により多く観察された炎症性細胞の集まり(
図19c)は、HDO投与により減少し、
図19dでは観察されなかった。また、肝臓内脂肪滴、風船様変化がHDO投与群では減少傾向を示した。
【0123】
図20はRen1-12-27投与5週間後の肝臓組織のOil red O染色図を示す。Vehicle投与群では、Normal Diet群(
図20e)に比べ、肝組織細胞の脂肪変性はMCD Diet投与(
図20g)により多く見られる(Oil red O染色により赤色に染まっている)。また、脂肪滴空胞が多く観察された。
【0124】
一方、HDO投与群では、Normal Diet群(
図20f)に比べ、脂肪変性は多く観察された(
図20h)が、Vehicle投与群(
図20g)に比べ、Oil red O染色により赤く染まっている脂肪組織と脂肪滴の数は明らかに減少した。
【0125】
図21はRen-1-12-27投与5週間後の肝臓組織のSirius染色図を示す。今回の試験では、観察期間が短いため、Normal Diet群(
図21i)に比べ、MCD Diet(
図21k)による肝臓線維化は観察されなかった。また、MCD Diet群において、Ren-1 HDO投与群(
図21l)のコラーゲン染色はVehicle投与群(
図21k)と比較して、顕著な変化は観察されなかった。
【0126】
表6はNAFLD activity score*(NAS)の判定結果を示す。Normal Diet群において、Vehicle投与群とRen-1 HDO投与群のNASは大きな差はなく、病理診断ではNAFLDであった。
【0127】
一方、MCD Diet投与群では、Vehicle投与群のNASは5であり、病理診断はNASHであった。これに対し、Ren-1 HDO投与群のNASは3に低下し、病理診断ではBorderline NASHであった。Ren-1 HDO投与はMCD Dietによる脂肪肝形成、炎症細胞の浸潤に治療効果が認められた。
【0128】
NAS判定においても、各投与群の線維化ステージは0~1Aであり、顕著な差は認められなかった。
【0129】
【表6】
NAFLD: nonalcoholic fatty liver disease; NASH: nonalcoholic steatohepatitis; NAS: NAFLD activity score;
* Kleiner DE1, Brunt EM, Van Natta M, et al., Design and validation of a histological scoring system for nonalcoholic fatty liver disease. Hepatology. 2005 Jun;41(6):1313-21.
【0130】
[実施例19] 正常マウス由来肺線維芽細胞(MPF)におけるRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果
正常マウス肺線維芽細胞 [Mouse pulmonary fibroblasts, MPF: Cat No.M3300-57]は、ScienCell Research Laboratories社より購入した。MPFを用いたRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果を調べる実験は以下の方法で実施した。市販の接着細胞培養用24ウェルプレートに、滅菌水で700倍に希釈したPoly-L-Lysine (PLL)溶液(ScienCell Research Laboratories)を0.5 ml/wellずつ分注し、CO2インキュベータ中にて2時間インキュベートすることによりPLLコーティングを行った。次に、事前に専用培地(Fibroblast Medium, Cat. #2301)を用いて培養させたMPFをPLLコーティングした接着細胞培養用24ウェルプレートに1×10
5 cells/wellになるように播種した。その翌日にリポフェクトアミン2000(Thermo Fisher Scientific)を用いてRen-1-12-27ASOをトランスフェクションした。その際のASOの用量は0、0.3、1、3、10、30 (nM)を用い、ポジティブコントロールとしてのMalat-1ASOの用量は0、10 (nM)を用いた。次にトランスフェクションしてから2日後にSV96 Total RNA Isolation System(Promega)を用いてTotal RNAを精製し、Total RNAからのcDNA合成はPrimeScript
TMRT Master Mix(TAKARA BIO INC.)を用いて実施した。qPCR反応はStepOnePlus-01(Thermo Fisher Scientific)を用いて実施し、マウスRen-1とマウス18SrRNAのプライマー/プローブはTaqMan Gene Expression Assays(Thermo Fisher Scientific)でデザインされた試薬を使用し、mRNA発現量はマウスRen-1とマウス18SrRNAの各Ct値を測定した後、ΔΔCt法に基づく相対定量法により算出した。この方法でMPFにおけるRen-1-12-27ASOによるIHH mRNA発現抑制効果を調べた結果を
図22に示す。
【0131】
本実験の結果から、MPFにRen-1-12-27ASOをトランスフェクションすることでIHH mRNA発現が抑制されることがわかった(
図22A)。またポジティブコントロールとして用いたMalat-1 mRNAの発現もMalat-1ASOにより抑制された(
図22B)。
【0132】
[実施例20] 正常マウス由来皮膚線維芽細胞(MDF)におけるRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果
正常マウス皮膚線維芽細胞 [Mouse dermal fibroblasts, MDF: Cat No.M2300-57]は、ScienCell Research Laboratories社より購入した。MDFを用いたRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果を調べる実験は実施例19と同様の方法で以下の様に実施した。すなわち、あらかじめ専用培地(Fibroblast Medium-2, Cat. #2331)を用いて培養させておいたMDFを事前にPLLコーティングした接着細胞培養用24ウェルプレートに1×10
5 cells/wellになるように播種し、実施例22と同様の方法でトランスフェクション、RNA抽出、cDNA合成、qPCRを行った。このような方法でMDFにおけるRen-1-12-27ASOによるIHH mRNA発現抑制効果を調べた結果を
図23に示す。
【0133】
本実施例の結果から、MDFにRen-1-12-27 ASOをトランスフェクションすることでIHH mRNA発現が抑制されることがわかった(
図23A)。またポジティブコントロールとして用いたMalat-1 mRNAの発現もMalat-1ASOにより抑制された(
図23B)。
【0134】
[実施例21] TGF-beta1刺激した正常マウス由来腎尿細管上皮細胞(MRPTEC)でのRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果
正常マウス由来腎尿細管上皮細胞 [Mouse renal proximal tubular epithelial cells, MRPTEC: Cat No.M4100]は、ScienCell Research Laboratories社より購入した。MRPTECを用いたRen-1-12-27によるIHH mRNA発現抑制効果を調べる実験は以下の方法で実施した。すなわち、あらかじめ専用培地(Epithelial Cell Medium-animal, Cat. #4131 NZ)中にて培養させたMRPTECを事前にPLLコーティングした接着細胞培養用24ウェルプレートに1×10
4cells/wellになるように播種し、その翌日に実施例19と同様の方法でトランスフェクションを行った。次にその翌日に1mlのPBSで2回細胞を洗浄した後、RPMI1640、0.2%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシンを含む培地(0.5 ml)に交換した。さらにその翌日にRen-1-12-27無添加(ネガティブコントロール)のウェルを除くすべてのウェルにTGF-beta1(10 ng/ml)を添加し、さらに24時間培養した後、RNA抽出、cDNA合成、qPCRを行った。以上の方法でTGF-beta1刺激したときのMRPTECにおけるRen-1-12-27ASOによるIHH mRNA発現抑制効果を調べた結果を
図24に示す。
【0135】
本実施例の結果から、TGF-beta1で刺激したMRPTECにおいてRen-1-12-27ASOをトランスフェクションすることでIHH mRNA発現が著明に抑制されることがわかった(
図24)。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の核酸複合体は、線維症治療薬として有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0137】
配列番号3~194 合成
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】