(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】近視の進行防止用の眼用レンズの製造方法及びその眼用レンズを用いた眼鏡の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
G02C7/06
(21)【出願番号】P 2022197570
(22)【出願日】2022-12-12
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】202210494032.6
(32)【優先日】2022-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522023738
【氏名又は名称】麦得科科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ シン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ゼンホア
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111830731(CN,A)
【文献】特開2021-157126(JP,A)
【文献】特開2021-010774(JP,A)
【文献】特開2021-005080(JP,A)
【文献】特開2005-242346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸を中心として互いに対向する第1面及び第2面を有する光学ユニットを備え、
前記第1面は物体側面として凸面を呈しており、前記第2面は眼側面として凹面を呈して
いる眼用レンズの製造方法において、
前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面は、基礎ベクトル高度プロファイルと摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されており、前記少なくとも一方の面の面型は、以下
を満たすように製造されており、
Z(x,y)=Z
基礎(x,y)+Z
摂動(x,y)
ここで、Z(x,y)が対応する点の面ベクトル高度を示し、Z
基礎(x,y)が対応する点の基礎ベクトル高度を示し、且つ、以下のように限定されており、
【数5】
ここで、rが前記光軸までの径方向距離である√(x
2+y
2)を示し、
単位がmmであり、vが対応する面の基礎曲率を示し、kが円錐定数を示し、a
4とa
6がそれぞれ、4次の係数と6次の係数を示し、
前記摂動ベクトル高度プロファイルは、以下のように限定されており、
Z
摂動(x,y)=Sag(x,y)×Weight(x,y)
ここで、xとyがそれぞれ、前記少なくとも一方の面における各点の前記光軸をz軸としたデカルト座標系におけるx、yの座標値を示し、Z
摂動(x,y)が対応する点の摂動ベクトル高度を示し、Sag(x,y)が対応する点の摂動特徴ベクトル高度を示し、Weight(x,y)が対応する点の摂動重みを示し、
前記摂動重みは0ではない値であり、
Sag(x,y)=H・Z
1D
p(x)・Z
1D
p(y)
ここで、Hが摂動幅調節パラメータを示し、
単位がμmであり、Tが摂動空間周期を示し、
単位がmmであり、Z
1D
p()関数の数式は、
【数1】
であり、
ここで、δがZ
1D
p()の独立変数を示し、sin()が正弦関数を示し、sign()が記号関数を示し、∫が積分番号を示し、dが微分番号を示し、
ρ(δ)関数の数式は、
【数2】
であり、
ここで、ガウス記号で囲まれる関数は切り下げ関数を示し、
C()関数の数式は、
【数3】
であり、
ここで、σがC()の独立変数を示し、kが積分核を制御するための振幅の大きさを示し、w、γ、εが摂動特徴における山谷の相対位置と相対幅を制御するためのパラメータを示し、eが自然定数を示す、眼用レンズ
の製造方法。
【請求項2】
【数4】
ここで、tanh()が双曲線正接関数を示し、a、b、c、dが摂動重みを制御するためのパラメータを示す、請求項1に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項3】
Hが5μm~10μmの範囲内にあり、Tが0.8mm~2mmの範囲内にあり、 kが-2~2の範囲内にあり、 wが3~7の範囲内にあり、γが0.1~1の範囲内にあり、εが0.8~1.2の範囲内にある、請求項1に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項4】
aが0.5~5の範囲内にあり、bが0.5~4の範囲内にあり、cが10~20の範囲内にあり、dが0.5~4の範囲内にある、請求項2に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項5】
前記基礎ベクトル高度プロファイルは、球面又は非球面を呈している、請求項1に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項6】
k、a
4、a
6がいずれも、ゼロとなった場合、前記基礎ベクトル高度プロファイルは、球面を呈している、請求項1に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項7】
前記光学ユニットは、着用者の近視を矯正するための基準ディオプターを有する、請求項1に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項8】
前記第1面と前記第2面のうちの一方は、前記基礎ベクトル高度プロファイルと前記摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されているが、他方は別の基礎ベクトル高度プロファイルのみによって限定されている、請求項1に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項9】
前記眼用レンズは、眼鏡レンズに位置決めされたことに適した光学装置である、請求項1に記載の眼用レンズ
の製造方法。
【請求項10】
眼鏡フレームと、前記眼鏡フレームに嵌合された眼鏡レンズと、を含
む眼鏡の製造方法において、
前記眼鏡レンズは、請求項1~9のいずれか1項に記載の眼用レンズが用いられる、眼鏡
の製造方法。
【請求項11】
前記第1面は前面であり、前記第2面は後面である、請求項10に記載の眼鏡
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、視力矯正技術に関し、更に具体的に、近視の進行防止用の眼用レンズ及びそれを用いた眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや携帯電話の普及に伴い、近視は、全世界的によく見られる視覚障害となり、その罹患率が増加しつつあるものである。幾つかの国では、特にアジア地域の国では、学齢児の近視罹患率は現在、80%にも達したようである。
【0003】
画像を明瞭に視認するために、人間の眼における光学系は、画像を網膜に合焦させる必要があり、特に、中心窩に合焦させる必要がある。近視(myopia、短視(nearsightedness)とも呼ばれる)は、軸上の画像が網膜の中心窩よりも前方に合焦されたことに起因する視覚障害である。近視患者にとって、遠位の物体は、その画像が網膜の中心窩ではなく、中心窩よりも前方に合焦されたので、ぼやけて見える。それを明瞭に視認できるように、或る形式の光学的矯正を受けないとできないこととなっている。
【0004】
図1は、近視原理の模式図であり、ここで、近視患者の眼球屈折力が眼軸の長さと一致しないので、遠位物体からの平行光101が眼球光学系を透過して集束された焦点103は網膜102の前方に位置する。
図2は、近視矯正メカニズムの模式図であり、ここで、その視覚光路に1枚の凹レンズ204を添加することにより、遠位物体からの平行光201が該凹レンズ204を透過して発散光205となり、該発散光205がさらに眼球光学系を透過して網膜202に集束されて、鮮明な焦点203として形成される。
【0005】
近視の進行は、発症年齢とは関係しないことが知られている(即ち、近視の程度は時間の経過に伴って強くなる)。高度近視となると、網膜症(網膜剥離を含む)、白内障、および、緑内障の罹患リスクが増加する可能性がある。
【0006】
従来の単一光(即ち、単焦点)眼鏡を用いた近視矯正が行われると、特に発育期にある子供の場合、その近視は逆に加速で進行していくことが判明された研究があった。そのような単一光眼鏡レンズは、遠位物体に対する中心視力又は中心窩視力を完全に矯正するためのものである。着用者が室内にいて近位物体を注視している場合、調整遅れ又は周囲デフォーカス理論によると、近位物体から生み出された鮮明な画像信号が網膜に伝えられると、眼軸の伸長をトリガする神経生理的信号が生成されることとなっている。
【0007】
それに関して、公開番号CN104678572A、CN111095082Aの中国特許出願では、それぞれ、近視の進行を抑制するための眼鏡レンズが提案されている。CN104678572Aでは、眼鏡レンズは、処方部分に対応して、標準条件で患者の中心窩視力屈折異常に対して処方矯正の第1の屈折力を与えるための第1の領域と、第1の領域での屈折力とは異なる屈折力を与えることで、像を網膜以外の位置に合焦させることで近視の進行を抑制するための第2の領域と、の2つの屈折領域に分けられている。
【0008】
CN111095082Aでは、眼鏡レンズは、同様に、患者の中心窩視力屈折異常を矯正するための、相応な第1の屈折力矯正部分を含むものであるが、画像を網膜外に合焦させることで近視の進行を抑制または緩和するには、少なくとも3つの異なる光学素子が用いられる点がCN104678572Aと相違する。
【0009】
しかしながら、上記従来技術では、眼鏡レンズは、少なくとも2つの異なる屈折領域または素子に分けられ、且つ、各領域での屈折力が異なるものであるため、近視患者は、近位のものを見ているとき、ゴーストが網膜に形成されてしまう場合がよくある。それにより、近視患者の視覚疲労を引き起こすと同時に、患者がそのような眼鏡を装着している時間にも影響を与えて(例えば、視覚疲労のため、眼鏡を外す頻度が高くなること)、近視の進行に対する抑制または緩和の効果にさらに影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、従来技術に存在する上記問題及び他の技術的課題を解決するために、改良された近視の進行防止用の眼用レンズ及び当該眼用レンズを用いた眼鏡を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様は、光軸を中心として互いに対向する第1面及び第2面を有する光学ユニットを備え、前記第1面と前記第2面のうちの少なくとも一方の面は、基礎ベクトル高度プロファイルと摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されており、前記摂動ベクトル高度プロファイルは、以下のように限定されている、近視の進行防止用の眼用レンズを提供する。
Z
摂動(x,y)=Sag(x,y)×Weight(x,y)
ここで、xとyがそれぞれ、前記少なくとも一方の面における各点の前記光軸をz軸としたデカルト座標系におけるx、yの座標値を示し、Z
摂動(x,y)が対応する点の摂動ベクトル高度を示し、Sag(x,y)が対応する点の摂動特徴ベクトル高度を示し、Weight(x,y)が対応する点の摂動重みを示し、
Sag(x,y)=H・Z
1D
p(x)・Z
1D
p(y)
ここで、Hが摂動幅調節パラメータを示し、Tが摂動空間周期を示し、Z
1D
p()関数の数式は、
【数1】
であり、
ここで、δがZ
1D
p()の独立変数を示し、sin()が正弦関数を示し、sign()が記号関数を示し、∫が積分番号を示し、dが微分番号を示し、
ρ(δ)関数の数式は、
【数2】
であり、
ここで、ガウス記号で囲まれる関数は切り下げ関数を示し、
C()関数の数式は、
【数3】
であり、
ここで、σがC()の独立変数を示し、kが積分核を制御するための振幅の大きさを示し、w、γ、εが摂動特徴における山谷の相対位置と相対幅を制御するためのパラメータを示し、eが自然定数を示す。
【0012】
幾つかの実施の形態では、
【数4】
ここで、tanh()が双曲線正接関数を示し、a、b、c、dが摂動重みを制御するためのパラメータを示す。
幾つかの実施の形態では、Hが5μm~10μmの範囲内にあり、Tが0.8mm~2mmの範囲内にあり、 kが-2~2の範囲内にあり、 wが3~7の範囲内にあり、γが0.1~1の範囲内にあり、εが0.8~1.2の範囲内にある。
幾つかの実施の形態では、aが0.5~5の範囲内にあり、bが0.5~4の範囲内にあり、cが10~20の範囲内にあり、dが0.5~4の範囲内にある。
幾つかの実施の形態では、前記基礎ベクトル高度プロファイルは、球面又は非球面を呈している。
幾つかの実施の形態では、前記少なくとも一方の面の面型は、以下のように限定されている。
Z(x,y)=Z
基礎(x,y)+Z
摂動(x,y)
ここで、Z(x,y)が対応する点の面ベクトル高度を示し、Z
基礎(x,y)が対応する点の基礎ベクトル高度を示し、且つ、以下のように限定されており、
【数5】
ここで、rが前記光軸までの径方向距離である√x
2+y
2を示し、vが対応する面の基礎曲率を示し、kが円錐定数を示し、a
4とa
6がそれぞれ、4次の係数と6次の係数を示す。
幾つかの実施の形態では、k、a
4、a
6がいずれも、ゼロとなった場合、前記基礎ベクトル高度プロファイルは、球面を呈している。
幾つかの実施の形態では、前記光学ユニットは、着用者の近視を矯正するための基準ディオプターを有する。
幾つかの実施の形態では、前記第1面は、基本的に凸面を呈しており、前記第2面は、基本的に凹面を呈している。
幾つかの実施の形態では、前記第1面と前記第2面のうちの一方は、前記基礎ベクトル高度プロファイルと前記摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されているが、他方は別の基礎ベクトル高度プロファイルのみによって限定されている。
幾つかの実施の形態では、前記眼用レンズは、眼鏡レンズに位置決めされたことに適する。
本開示の別の態様は、眼鏡フレームと、前記眼鏡フレームに嵌合された眼鏡レンズと、を含み、前記眼鏡レンズは、上述した眼用レンズが用いられる、眼鏡を提供する。
幾つかの実施の形態では、前記第1面は前面であり、前記第2面は後面である。
従来技術と比べて、本開示の近視の進行防止用の眼用レンズは、特定の領域に分けられず、その光学的設計は、少なくとも、特殊な連続曲面関数の摂動に応じて、摂動関数の摂動空間周期、摂動幅、山谷の大きさ、および、相対位置を合理的に選択することで、網膜神経に対して競争性のあるデフォーカス信号を生成するとともに、近視患者が近位のものを見ているときに生じたゴースト現象を著しく低減するということにある。それにより、近視の進行を抑制または緩和するとともに、ゴーストによる近視患者の視覚疲労を回避し、又は、著しく軽減させて、近視患者の着用による視覚体験を効果的に向上する。
理解すべきなのは、上記説明は、本開示の技術案をより明確に理解して、明細書の内容を基にして実施できるように、本開示を概略的に記述したものに過ぎない。また、本開示の上記目的及び他の目的、特徴、利点をさらに明確で分かりやすくするために、以下は、添付図面を組み合わせながら、本開示の具体的な実施の形態を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図3Aは本開示の幾つかの実施の形態に係る眼用レンズ300を模式的に示す断面図、
図3Bは本開示の幾つかの実施の形態に係る眼用レンズ300を模式的に示す平面図、
図3Cは本開示の別の幾つかの実施の形態に係る眼用レンズ300を模式的に示す断面図、
図3Dは本開示の別の幾つかの実施の形態に係る眼用レンズ300を模式的に示す平面図。
【
図4】
図4Aは実施例1における眼鏡レンズのシミュレーション結像を示す図、
図4Bは比較例1における眼鏡レンズのシミュレーション結像を示す図、
図4Cは比較例2における眼鏡レンズのシミュレーション結像を示す図。
【
図5】実施例1と比較例2における眼鏡レンズのMTF曲線を示す図。 当業者であれば理解できるように、以下の添付図面は説明するためのものに過ぎず、本開示の範囲を如何なる方式によって制限する意図がない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
理解すべきなのは、本開示では、添付図面及び説明が簡素化され、本開示を明確に理解してもらうための助かりとなる構成部分について例を挙げながら説明するが、また、明瞭化や簡潔化の目的で、典型的な眼用レンズにおいてよく見られる他の構成部分が示されていない。そのため、当業者であれば分かるように、他の構成部分は、本開示の実施中に、選択可能なもの、及び/又は、必要なものとして見なされる。このような構成部分は、当技術分野で公知されたものであり、且つ、本開示がより良く理解されるには不利なものとして見なされる懸念があるので、本開示では、このような構成部分に対する説明が省略される。本開示は、当業者が既に把握している構成部分に対する全ての変更や変形をカバーすることを意図している。
【0015】
本開示の実施形態における近視の進行防止用の眼用レンズによれば、球面又は非球面の基礎面型(例えば、従来の光学的眼鏡レンズの近視処方領域に対応)に特殊な連続曲面関数に基づく摂動が加わる。光は、当該摂動関数で定義された眼用レンズと着用者の目を順次に透過してから、網膜に集束された鮮明な焦点に摂動を加える。摂動を受けた焦点は、依然として網膜に鮮明な像が結像されることを可能にすると同時に、網膜神経に対して競争性のあるデフォーカス信号を生成することにより、眼軸の伸長を阻止又は緩和することができ、つまり、近視の程度が強くなるのを抑制または緩和することができる。上述した既知の近視進行抑制技術と比べて、本開示の眼用レンズは、近視の進行を抑制または緩和するとともに、近位のものを見ているときに生じたゴーストによる近視患者の視覚疲労を防止し、又は、著しく軽減させて、近視患者の着用による視覚体験を効果的に向上する。
【0016】
本明細書に用いられる「上」、「下」、「横」、「縦」、「前」、「後」などのような相対方位を示す用語は、眼用レンズが着用されたという条件下で理解されるべきである。
【0017】
本明細書に用いられる「眼用レンズ」という用語は、切断されていない光学レンズ、又は、特定の眼鏡フレームに嵌合されるようにエッジングされた眼鏡レンズ、又は、眼鏡レンズに位置決めされることに適する光学デバイスを指してもよい。光学デバイスは、眼鏡レンズの前面または後面に位置決めされてもよい。光学デバイスは、光学チップであってもよい。光学デバイスは、眼鏡レンズに取外し可能に位置決めされるように配置されてもよく、例えば、眼鏡レンズを含む眼鏡フレームに挟まれたクリップとして配置されてもよい。
【0018】
図3Aと
図3Bは、それぞれ、本開示の幾つかの実施の形態に係る眼用レンズ300を模式的に示す断面図と平面図である。眼用レンズ300は、光学ユニット310を含む。例えば、眼用レンズ300は、光学ユニット310そのものであってもよい。光学ユニット310は、基本的に光軸320を中心として互いに対向する第1面311及び第2面312を有する。例えば、第1面311は、基本的に凸面を呈している物体側面(前面とも呼ばれる)とされてもよく、第2面312は、基本的に凹面を呈している眼側面(後面とも呼ばれる)とされてもよい。第1面311は、基礎ベクトル高度プロファイルと摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されているが、第2面312は別の基礎ベクトル高度プロファイルのみによって限定されている。例えば、基礎的なベクトル高さプロファイルは、球面又は非球面を呈していもよい。
図3Cと
図3Dは、それぞれ、本開示の別の幾つかの実施の形態に係る眼用レンズ300を模式的に示す断面図と平面図であり、ここで、第2面312は、基礎ベクトル高度プロファイルと摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されているが、第1面311は別の基礎ベクトル高度プロファイルのみによって限定されている。代替的な実施の形態として、第1面311と第2面312はともに、それぞれの基礎ベクトル高度プロファイルと摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されてもよい。理解すべきなのは、光学ユニット310は、(例えば、摂動ベクトル高度プロファイルによる貢献がない場合)着用者の近視を矯正するための基準ディオプターを与えるものとして設計される。
【0019】
基礎ベクトル高度プロファイルと摂動ベクトル高度プロファイルとが重ねられて限定されている面型は、以下の方程式(1)で表されてもよい。
【数6】
ここで、x、yがそれぞれ、対応する面における各点の光軸320をz軸としたデカルト座標系におけるx、yの座標値を示し、単位がmmであり、Z(x,y)が対応する点のベクトル高度を示し、単位がμmであり、Z
基礎(x,y)が対応する点の基礎ベクトル高度を示し、単位がμmであり、Z
摂動(x,y)が対応する点の摂動ベクトル高度を示し、単位がμmである。
x軸方向とy軸方向は、特に制限されていないが、デカルト座標系の右手法則に従うものであればよい。例示的に、x軸方向は、眼用レンズの着用時に横方向であってもよく、即ち、両眼を結ぶ線と基本的に平行な方向であってもよい。
【0020】
Z
基礎 (x,y)は以下の方程式(2)で表されてもよい。
【数7】
ここで、rが光軸までの径方向距離である√(x
2+y
2)を示し、単位がmmであり、vが対応する面の基礎曲率を示し、kが円錐定数を示し、a
4とa
6がそれぞれ、4次の係数と6次の係数を示す。
方程式(2)では、非球面の基礎ベクトル高度プロファイルが全体的に記述されているが、しかし、k、a
4、a
6を全部、ゼロにすることで、方程式(2)が球面を記述することが可能となる。
【0021】
Z
摂動(x,y)は摂動特徴ベクトル高度関数と摂動重み関数によって限定されてもよい。幾つかの実施の形態では、Z
摂動 (x,y)は以下の方程式(3)で表されてもよい。
【数8】
ここで、Sag(x,y)が対応する点の摂動特徴ベクトル高度を示し、単位がμmであり、Weight(x,y)が対応する点の摂動重みを示す。
【0022】
Sag(x,y)は以下の方程式(4a)で表されてもよい。
【数9】
ここで、Hが摂動幅調節パラメータを示し、単位がμmであり、Tが摂動空間周期を示し、単位がmmであり、Z
1D
p()が一次元摂動関数を示し、その数式は以下の方程式(4b)で表される。
【数10】
ここで、δがZ
1D
p()の独立変数を示し、sin()が正弦関数を示し、sign()が記号関数を示し、∫が積分番号を示し、dが微分番号を示し、
ρ(δ)関数の数式は、以下の方程式(4c)で表され、
【数11】
ここで、ガウス記号で囲まれる関数は切り下げ関数を示し、
C()関数の数式は、以下の方程式(4d)で表され、
【数12】
ここで、σがC()の独立変数を示し、kが方程式(4b)における積分核を制御するための振幅の大きさを示し(単位無し)、w、γ、εが摂動特徴における山谷の相対位置と相対幅を制御するためのパラメータを示し(単位無し)、eが自然定数を示す。
特定の実施の形態では、Hが約5μm~10μmの範囲内にあってもよく、Tが約0.8mm~2mmの範囲内にあってもよく、kが約-2~2の範囲内にあってもよく、 wが約3~7の範囲内にあってもよく、γが約0.1~1の範囲内にあってもよく、εが約0.8~1.2の範囲内にあってもよい。
【0023】
Weight(x,y)は以下の方程式(5)で記述されてもよい。
【数13】
ここで、tanh()が双曲線正接関数を示し、a、b、c、dが摂動重みを制御するためのパラメータを示す(単位無し)。
特定の実施の形態では、aが約0.5~5の範囲内にあってもよく、bが約0.5~4の範囲内にあってもよく、cが約10~20の範囲内にあってもよく、dが約0.5~4の範囲内にあってもよい。
【0024】
本開示の改良された近視の進行防止用の眼用レンズは、少なくとも上述した構成要件に基づく連続曲面を有する光学ユニットによって、空間内の光波の位相分布に摂動を加えることで、摂動を受けた光波は、眼球光学系を透過してから、主視線軸近傍の網膜(例えば、中心窩領域)の近距離空間(例えば、網膜前方)に連続した競争性のあるデフォーカス信号を形成することができ、近視の進行(即ち、近視の程度が強くなること)を抑制または緩和した効果が得られる。それと同時に、摂動ベクトル高度プロファイルのパラメータを合理的に選択して、摂動の空間周期、摂動幅、山谷の大きさ、および、相対位置を調整することにより、摂動を受けた光波は、上述したデフォーカス信号を生成したとしても、依然として網膜の中心窩領域にゴーストがない(又は、ゴーストが軽減された)結像信号が生成されることが可能であり、それにより、近視患者が眼用レンズを着用している場合、近位のものを見ているときに生じた疲労感を著しく低減することができる。
【0025】
以下は、本開示の具体的な実施例と比較例に対する性能比較を行う実験例を組合せながら、更に詳しく説明する。
【0026】
[実施例1]
以下の表1に示すパラメータに基づいて、本開示の実施例1に係る近視の進行防止用の眼鏡レンズを設計して準備する。ここで、以下の表1に示すパラメータに基づいて基礎ベクトル高度プロファイルと摂動ベクトル高度プロファイルとを重ねられたものが前面だけである。
【表1】
【0027】
[比較例1]
比較例1では、実施例1における眼鏡レンズと基本的に同一であるパラメータに基づいて、従来の単一光眼鏡レンズを準備するが、相違点は、その前面は実施例1と同一の基礎ベクトル高度プロファイルのみが用いられる(即ち、レンズ材料の屈折率、光学ユニットの半径、v、k、a4、a6などのパラメータが同じである)が、摂動ベクトル高度プロファイルが与えられない点だけである。
【0028】
[比較例2]
比較例2では、実施例1における眼鏡レンズと基本的に同一であるパラメータに基づいて、従来の近視の進行防止用の眼鏡レンズを準備するが、相違点は、その前面は実施例1と同一の基礎ベクトル高度プロファイルが用いられた(即ち、レンズ材料の屈折率、光学ユニットの半径、v、k、a4、a6などのパラメータが同じである)上で、レンズの中心部近傍に直径1.1mmの複数の島状デフォーカス領域が重ねられて形成された点だけである。
【0029】
[実験例]
実施例1、比較例1、および、比較例2における眼鏡レンズをそれぞれ、用いて、近視患者が同等の着用条件で近位のものを見ている場合に視力20/20(~1.0)に対応するアルファベットE(左向きに開口したもの)を見たときにその網膜に形成された像をシミュレーションする。ここで、眼鏡レンズから角膜までの距離が12mmであり、眼が鼻側に向かって下向きに回動し、且つ、眼が近位のものを見ている場合に調節を行うときの典型的な球面収差(Z4
0,OSA標準)が0.04μmである(入射瞳径が6mmである)。
【0030】
図4A~
図4Cには、それぞれ、実施例1、比較例1、および、比較例2における眼鏡レンズに基づくシミュレーション結像図が順次に示される。
【0031】
図4Aと
図4Bを比較したところ、比較例1における画像と比べて、実施例1による画像は僅かにぼやけているが、書体が十分にはっきりと見えるものであり、且つ、加わった摂動ベクトル高度プロファイルにはデフォーカス画像が適当に生じたので、(アルファベット全体の視認度に対して影響を及ぼすことなく)書体の縁部が適当にぼやけていることを確認できる。つまり、実施例1における眼鏡レンズは、近視患者による近位観察の要求を満足するとともに、網膜には競争性のあるデフォーカス信号を効果的に生成して、近視の進行を抑制または緩和することができる。
【0032】
また、
図4Aと
図4Cを比較したところ、比較例2における画像と比べて、実施例1による画像はより鮮明なものであり、且つ、加わった摂動ベクトル高度プロファイルにはデフォーカス画像が適当に生じたので、縁部におけるゴーストが滑らかなものとなり、ゴーストの程度が著しく低くなることを確認できる。つまり、実施例1における眼鏡レンズは、近視の進行を抑制または緩和するとともに、近視患者が近位のものを見ているときに生じたゴースト現象を効果的に低減して、ゴーストによる近視患者の近位観察時の疲労を回避し、又は、著しく軽減させて、近視患者の着用による視覚体験を効果的に向上することができる。
【0033】
また、実施例1と比較例2における眼鏡レンズをそれぞれ、用いて、MFTテストを行った。
図5には、実施例1と比較例2における眼鏡レンズのMTF曲線が示される。ここで、実施例1によるMFT測定値は、全ての周波数において、いずれも、比較例2によるMTF測定値よりもはるかに高いことを確認できる。
【0034】
本文で使用される用語の「約」と「基本的に」は、前記量に等しい、又は、接近した量を示すものである(例えば、依然として、所望の機能を実行し、又は、所望の結果を実現させる量)。例えば、特に説明される場合を除き、用語の「約」と「基本的に」は、前記量の10%以内(例えば、10%高くなり、又は、10%低くなる)、5%以内(例えば、5%高くなり、又は、5%低くなる)、1%以内(例えば、1%高くなり、又は、1%低くなる)、0.1%以内(例えば、0.1%高くなり、又は、0.1%低くなる)、又は、0.01%以内(例えば、0.01%高くなり、又は、0.01%低くなる)量を示すことができる。
【0035】
本文では、本開示の種々の実施の形態が既に説明されている。具体的な実施例を参照しながら、本開示を説明してきたが、本明細書は、本開示を説明するためのものに過ぎず、本開示を制限するものではない。本開示の基本的な思想及び範囲から逸脱しない限り、当業者は、様々の修正や応用を想到できるはずである。