(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】エムトール信号伝達抑制剤を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬剤学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/445 20060101AFI20240731BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240731BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240731BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240731BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240731BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20240731BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240731BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
A61K31/445
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K39/395 G
A61K39/395 U
A61K31/513
A61K45/06
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2022550038
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 KR2021002105
(87)【国際公開番号】W WO2021167389
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0021549
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】PCT/KR2020/007922
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515238703
【氏名又は名称】コリア アドヴァンスド インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,セユン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ボア
(72)【発明者】
【氏名】パク,スン ジュ
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012721(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0125812(US,A1)
【文献】BIOCELL,2018年,42(suppl.4),54ページ LI-C09
【文献】BIOINFORMATION,2019年04月30日,Vol.15(5),Pages 321-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/445
A61K 39/395
A61K 31/513
A61K 31/4745
A61K 45/06
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロミタピド、その薬剤学的に許容される塩又はその光学異性質体を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬剤学的組成物であって、
前記癌は、黒色腫、脳腫瘍
、胃癌
、膵癌
、大腸癌
、膀胱癌、腎臓癌
、前立腺癌
、子宮内膜癌、卵巣癌
、骨腫瘍
、線維肉腫、及び皮膚癌からなる群から選ばれるものである固形癌であ
る、癌の予防又は治療用薬剤学的組成物。
【請求項2】
前記ロミタピドは、下記の化学式Iで表示される、請求項1に記載の癌の予防又は治療用薬剤学的組成物:
【化1】
【請求項3】
前記組成物は、
フルオロウラシル(Fluorouracil)、イリノテカン(Irinotecan)、および抗PD1抗体からなる群から選ばれる抗癌剤をさらに含
み、かつ、
前記癌は、大腸癌または黒色腫である、請求項1に記載の癌の予防又は治療用薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2020年2月21日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2020-0021549号に対して優先権を主張し、当該特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【0002】
本発明は、エムトール(mTOR)信号伝達抑制剤を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬剤学的組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
癌は人間の健康を脅かす最も多くて深刻な疾病であり、抗癌剤の研究及び開発は、癌患者の寿命延長のために重要である。ここ数年、癌治療方法は、癌遺伝体学及び分子薬学の急速な発展と新しい抗癌剤の開発によって多く発展してきたが、依然として、新しい治療剤の開発が必要である。大腸癌は、盲腸、結腸と直腸に発生する悪性腫瘍で、大腸の最も内側表面である粘膜で発生する。大腸癌は、韓国では胃癌に次いで2番目に多く発生する癌で、近年、食生活が西欧化しながらその発生頻度が急増しており、ここ10年の大腸癌による死亡率は約80%も増加し、その上昇速度が高まる一方にある。
【0004】
大腸癌の治療は、外科的切除、抗癌薬物治療、放射線治療に分けることができる。大腸癌の前段階であるポリプ又はポリプに限られた初期の大腸・直膓癌は、ポリプ切除術などで治療が可能である。大腸癌の治療には、1970年代に開発されたフルオロウラシル(Fluorouracil,5-FU)に続いてイリノテカン(irinotecan)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、カペシタビン(capecitabine)、TAS-102などの5つの抗癌剤と、上皮細胞成長因子受容体(epidermal growth factor receptor,EGFR)、血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)又は血管内皮成長因子受容体(VEGF-R)を標的とする標的抗癌剤として、セツキシマブ(cetuximab)、パニツムマブ(panitumumab)、ベバシズマブ(bevacizumab)、アフリベルセプト(aflibercept)、レゴラフェニブ(regorafenib)などの5つの標的抗癌剤が、米国FDAの承認を受けて使用されている。しかし、依然として、抗癌効果、安定性、体内吸収効果に優れた大腸癌治療剤の開発が至急な実情である。
【0005】
エムトール(mTOR,mechanistic target of rapamycin)タンパク質はセリン/トレオニンキナーゼ(kinase)であって、細胞の成長、細胞周期、タンパク質合成及びブドウ糖代謝などを調節する核心信号伝達因子である。特に、細胞成長信号調節の核心タンパク質として30%の固形癌細胞において異常に活性が増加しており、癌細胞においてこのようなエムトール及び上位段階因子(PI3K、Akt)が最も多く変化されていることが知られている。癌におけるエムトール信号の活性化は、エムトール遺伝子自体の突然変異、エムトールの活性を高める上位段階の発癌遺伝子(PI3K、Akt)及び腫瘍抑制因子(例うば、PTEN、TSC1/2)の突然変異によって発生する。したがって、エムトール関連信号伝達の抑制は、タンパク質合成阻害、脂質合成阻害、細胞成長抑制とともに細胞自己貪食(autophagy)を誘発して細胞死滅まで招くことがある。したがって、癌細胞成長の抑制と癌細胞死滅のためのエムトール関連信号伝達抑制剤の開発の必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、癌細胞成長の抑制と癌細胞死滅のための化合物を開発しようと鋭意研究努力した。その結果、エムトール(mTOR)信号伝達抑制剤を有効成分として含む組成物が癌治療に効果があることを究明し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、エムトール(mTOR)信号伝達抑制剤を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、本発明は、エムトール(mTOR)信号伝達抑制剤を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0009】
エムトール信号伝達抑制剤は、エムトール自体の活性を抑制する物質、或いはエムトールの活性を高める上位段階の因子の活性を抑制する物質を意味する。前記エムトール信号伝達抑制剤によって活性が抑制される標的は、エムトール、PI3K、Akt、S6K、S6などがあり得るが、これに限定されるものではない。
【0010】
本発明の一具現例において、前記エムトール信号伝達抑制剤は、ロミタピドである。
【0011】
ロミタピド(商品名:Jaxtapid(US)、Lojuxta(EU))は、Aegerion製薬社で開発した希少疾患治療剤であり、家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia)の治療にコレステロール降下剤として用いられる薬である。米国食品医薬局(FDA)は2012年12月21日、同型接合家族性高コールレスロール血症(homozygous familial hypercholesterolemia)患者のLDLコレステロール、総コレステロール、アポ脂蛋白B(apolipoprotein B)、非高密度脂質タンパク質(non-high-density HDL)コレステロールを減らすための薬としてロミタピドを承認した。
【0012】
前記ロミタピドのIUPAC名は、N-(2,2,2-トリフルオロエチル)-9-[4-[4-[[[4’-(トリフルオロメチル)[1,1’-ビフェニル]2-イル]カルボニル]アミノ]-1-ピぺリジニル]ブチル]-9H-フルオレン-9-カルボキサミドである。
【0013】
本発明の一具体例において、前記ロミタピドは、下記の化学式Iで表示される。
【0014】
【0015】
本発明の一具体例において、前記エムトール信号伝達抑制剤は、ロミタピド、その薬剤学的に許容される塩又はその光学異性質体である。
【0016】
本発明の一具現例において、前記癌は、固形癌である。
【0017】
本明細書上の用語“固形癌”とは、血液癌とは区別される特徴を有し、膀胱、乳房、腸、腎臓、肺、肝、脳、食道、胆嚢、卵巣、膵臓、胃、子宮頸、甲状腺、前立腺及び皮膚などの様々な固形臓器(solid organ)で細胞が異常成長して発生した塊からなる癌である。
【0018】
本発明の一具体例において、前記固形癌は、黒色腫、脳腫瘍、良性星細胞腫、悪性星細胞腫、脳下垂体腺腫、脳髄膜腫、脳リンパ腫、乏枝膠腫、上衣細胞腫、脳幹腫瘍、頭頸部腫瘍、喉頭癌、口腔咽頭癌、鼻腔/副鼻腔癌、鼻咽頭癌、唾液腺癌、下咽頭癌、甲状腺癌、口腔癌、胸部腫瘍、小細胞性肺癌、非小細胞性肺癌、胸腺癌、縦隔腔腫瘍、食道癌、乳癌、男性乳癌、腹部腫瘍、胃癌、肝癌、胆嚢癌、胆道癌、膵癌、小腸癌、大腸癌、直膓癌、肛門癌、膀胱癌、腎臓癌、男性生殖器腫瘍、陰茎癌、前立腺癌、女性生殖器腫瘍、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、子宮肉腫、膣癌、女性外部生殖器癌、女性尿道癌、骨腫瘍、十二指腸癌、線維肉腫、及び皮膚癌からなる群から選ばれるが、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明の一具現例において、前記癌は、血液癌である。
【0020】
本明細書上の用語“血液癌”とは、血液を構成する成分に発生した癌のことを指し、血液、造血器官、リンパ節、リンパ器官などに発生した悪性腫瘍を意味する。
【0021】
本発明の一具体例において、前記血液癌は、急性骨髄球性白血病、急性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性単球性白血病、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫からなる群から選ばれるが、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明の薬剤学的組成物は、有効成分である前記ロミタピド、その薬剤学的に許容される塩又はその光学異性質体の他にも、薬剤学的に許容される担体を含むことができる。
【0023】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に一般に用いられるものとして、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むこともできる。適合な薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0025】
本発明の薬剤学的組成物は、経口又は非経口で投与でき、例えば、脊椎腔内投与、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、胸骨内投与、腫瘍内投与、鼻内投与、脳内投与、頭蓋骨内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与できるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明の薬剤学的組成物の適度の投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々であり、通常の熟練した医師は、所望の治療又は予防に効果的な投与量(薬剤学的有効量)を容易に決定及び処方できる。本発明の好ましい具現例によれば、本発明の薬剤学的組成物の1日投与量は0.0001~100mg/kgである。
【0027】
本明細書において用語“薬剤学的有効量”は、上述した疾患を予防又は治療するのに十分な量を意味する。
【0028】
本明細書において用語“予防”とは、疾患又は疾患状態の防止又は保護的な治療を意味する。本明細書において用語“治療”とは、疾患状態の減少、抑制、鎮静又は根絶を意味する。
【0029】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することによって単位容量の形態で製造されるか、又は多回容量容器内に内入させて製造されてよい。このとき、剤形は、内服薬、注射剤など、様々に製造されてよく、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、坐剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0030】
本発明の実施例によれば、本発明のロミタピドを含む薬剤学的組成物は、エムトール信号伝達過程を抑制する効果、及び細胞の自己貪食機転に関与するタンパク質の発現を増加させる効果がある。
【0031】
本明細書で使われた用語“自己貪食”は、細胞の調節過程において不要である又は機能しない細胞構成成分を自然的に分解する破壊過程である。
【0032】
前記自己貪食と関連した遺伝子は、ULK1、mTOR、ATG family、DDIT4などがある。
【0033】
ULK1は、自己貪食の開始に必要なタンパク質キナーゼを暗号化する遺伝子であり、mTORタンパク質の活性が高い条件ではULK1の活性が抑制されている。mTOR活性が抑制される場合に、ULK1の活性が増加することによって、自己貪食に関連した信号伝達を開始するように指示する。
【0034】
mTORはタンパク質キナーゼであって、細胞の成長と活性調節だけでなく自己貪食の抑制の核心因子である。mTORは、ULK1及び様々な自己貪食タンパク質を直接リン酸化することによって自己貪食の抑制を媒介し、mTORの活性が阻害される条件では逆に自己貪食が活発に促進される。
【0035】
ATG family遺伝子は、約30個以上で構成されたオートファジー関連遺伝子(Autophagy-Related Gene)であり、自己貪食の開始及び進行に関連した核心遺伝子を意味する。自己貪食の開始及び自己貪食膜の形成、分解対象である基質の認識及び自己貪食膜とライソゾームとの融合反応の自己貪食の全過程において必要な遺伝子である。
【0036】
DDIT4はREDD1とも知られた遺伝子であり、TSCタンパク質によってmTORを抑制するタンパク質である。したがって、DDIT4の増加はmTORの抑制を誘導することによって自己貪食の活性を高める。
【0037】
また、本発明の実施例によれば、本発明の前記薬剤学的組成物は、癌細胞の成長を抑制する効果及び生体内で腫瘍の成長を抑制する効果がある。したがって、本発明の前記薬剤学的組成物は、癌、より具体的には、黒色腫、血液癌、皮膚癌、大腸癌、脳癌、卵巣癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、十二指腸癌、線維肉腫、腎臓癌、肝癌、肺癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、骨腫瘍、子宮内膜癌などに対して抗癌効果がある。
【0038】
本発明の一具現例において、前記組成物は、抗癌剤をさらに含むものである。
【0039】
本発明の一具現例において、前記抗癌剤は、フルオロウラシル(Fluorouracil)、イリノテカン(Irinotecan)、抗PD1抗体、ベバシズマブ(Bevacizumab)、カペシタビン(Capecitabine)、セツキシマブ(Cetuximab)、ラムシルマブ(Ramucirumab)、オキサリプラチン(Oxaliplatin)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ペンブロリズマブ(Pembrolizumab)、ロイコボリン(Leucovorin)、トリフルリジン/チピラシル(Trifluridine/Tipiracil)、ニボルマブ(Nivolumab)、パニツムマブ(Panitumumab)、レゴラフェニブ(Regorafenib)、アフリベルセプト及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものである。
【0040】
本発明の一具現例において、前記抗癌剤は、フルオロウラシル(Fluorouracil)、イリノテカン(Irinotecan)、抗PD1抗体及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものである。
【0041】
本発明の一具現例において、前記組成物は、ロミタピドを0.5~6μM含むものである。
【0042】
本発明の実施例によれば、前記ロミタピド0.5~6μM及び前記フルオロウラシル1~12μMにおいて大腸癌細胞HCT116に対して抗癌シナジー効果を出すことができ、より具体的には、前記ロミタピド0.5~1.25μM及び前記フルオロウラシル1.25~5μMにおいて大腸癌細胞HCT116に対して最も優れた効果を示す。
【0043】
本発明の実施例によれば、前記ロミタピド1.25~6μM及び前記イリノテカン1~12μMにおいて大腸癌細胞HCT116に対して抗癌シナジー効果を出すことができ、より具体的には、前記ロミタピド2.5~6μM及び前記イリノテカン1.25~5μMにおいて大腸癌細胞HCT116に対して最も優れた効果を示す。
【0044】
本発明の実施例によれば、前記ロミタピド0.5~1.25μM及び前記フルオロウラシル10~22μMにおいて大腸癌細胞HT29に対して抗癌シナジー効果を出すことができる。
【0045】
本発明の実施例によれば、前記ロミタピド0.5~2.75μM及び前記イリノテカン4~22μMにおいて大腸癌細胞HT29に対して抗癌シナジー効果を出すことができ、より具体的に、前記ロミタピド0.625~2.5μM及び前記イリノテカン5~20μMにおいて大腸癌細胞HT29に対して最も優れた効果を示す。
【0046】
本発明の実施例によれば、前記ロミタピド2~3μM及び前記フルオロウラシル12.5~110μMにおいて大腸癌細胞SW480に対して抗癌シナジー効果を出すことができる。
【0047】
本発明の実施例によれば、前記ロミタピド2~3μM及び前記イリノテカン0.6~60μMにおいて大腸癌細胞SW480に対して抗癌シナジー効果を出すことができ、より具体的には、前記ロミタピド2~3μM及び前記イリノテカン0.6~1.56μM又は6.25~60μMにおいて大腸癌細胞SW480に対して最も優れた効果を示す。
【0048】
PD-1は、活性化されたT及びB細胞によって発現した主要免疫チェックポイント受容体であり、免疫抑制を媒介する。PD-1は、CD28、CTLA-4、ICOS、PD-1、及びBTLAを含む、CD28系受容体の一構成員である。PD-1に対する2個の細胞表面糖たんぱく質リガンド、すなわち、プログラムされた死滅リガンド-1(PD-L1)及びプログラムされた死滅リガンド-2(PD-L2)が確認されたが、それらは、高原提示細胞の他に多くのヒト癌上においても発現し、PD-1との結合時にサイトカイン分泌及びT細胞活性化を下方調節することが明らかにされた。PD-1/PD-L1相互作用を抑制すれば、前臨床モデルにおいて強力な抗腫瘍活性が媒介される。
【0049】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上述した本発明のエムトール(mTOR)信号伝達抑制剤を有効成分として含む薬剤学的組成物を対象体(subject)に投与する段階を含む癌の予防又は治療方法を提供する。
【0050】
本明細書で使われた用語“投与”又は“投与する”は、本発明の組成物の治療的、又は予防的有効量を、前記対象疾患を患っている或いは患う可能性のある対象体(個体)に直接投与することによって、対象体の体内で同一量を形成させることを指す。
【0051】
前記組成物の“治療的有効量”は、組成物を投与しようとする対象体に、治療的又は予防的効果を提供するのに十分な組成物の含有量を意味し、“予防的有効量”も含む意味である。
【0052】
また、本明細書で使われた用語“対象体(個体)”は、ヒト、マウス、ラット、ギニアピッグ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、チンパンジー、ヒヒ及びアカゲザルなどを含む哺乳類である。最も具体的には、本発明の対象体はヒトである。
【0053】
本発明の一具現例において、前記薬剤学的組成物を対象体に投与する段階は、前記組成物と抗癌剤を併用して投与する。
【0054】
本発明の一具現例において、前記抗癌剤は、フルオロウラシル(Fluorouracil)、イリノテカン(Irinotecan)、抗PD1抗体及びそれらの組合せからなる群から選ばれるものである。
【0055】
本発明の上記の癌の予防又は治療方法は、本発明の一態様である薬剤学的組成物を投与する段階を含む方法であるので、重複する内容については、本明細書の過度な重複性を避けるためにその記載を省略する。
【発明の効果】
【0056】
本発明の特徴及び利点を要約すれば、次の通りである:
本発明は、エムトール(mTOR)信号伝達抑制剤を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0057】
本発明の組成物は、癌細胞の成長を抑制して癌細胞を死滅させる効能を示すので、抗癌剤として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図2】ヒト正常腸上皮細胞及び大腸癌細胞株HCT116にそれぞれDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞の形状を分析した結果である。
【
図3】ヒト正常腸上皮細胞及び大腸癌細胞株HCT116にそれぞれDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図4】代表大腸癌細胞株3種(HCT116、HT29、SW480)に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5A】脳癌細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5B】乳癌細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5C】血液癌細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5D】結腸癌細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5E】肺癌細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5F】卵巣癌細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5G】胃癌細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図5H】膀胱癌、骨癌、十二指腸癌、子宮内膜癌、線維肉腫、腎臓癌、肝癌、膵癌、前立腺癌、皮膚癌、黒色腫細胞株を対象にロミタピドを処理した後に細胞の生存率を分析した結果である。
【
図6】ウェスタンブロットを用いて、大腸癌細胞HCT116に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図7A】ウェスタンブロットを用いて、大腸癌細胞SW480に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達及び自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図7B】ウェスタンブロットを用いて、大腸癌細胞HT29に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達及び自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図7C】ウェスタンブロットを用いて、乳癌細胞MDA-MB-231に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達及び自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図7D】ウェスタンブロットを用いて、乳癌細胞MDA-MB-468に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達及び自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図7E】ウェスタンブロットを用いて、胃癌細胞HS746Tに対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達及び自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図7F】ウェスタンブロットを用いて、胃癌細胞SNU1に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達及び自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図7G】ウェスタンブロットを用いて、胃癌細胞SNU216に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞のエムトール信号伝達及び自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図8】ウェスタンブロットを用いて、大腸癌細胞HCT116に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に細胞の自己貪食と関連したタンパク質を分析した結果である。
【
図9】ウェスタンブロットを用いて、ヒト大腸癌細胞株HCT116にそれぞれDMSO対照群薬物、ロミタピド及び3-メチルアミン(3-MA)を処理した後に自己貪食による細胞死滅を分析した結果である。
【
図10】顕微鏡を用いて、ヒト大腸癌細胞株HCT116にそれぞれDMSO対照群薬物、ロミタピド及び3-メチルアミン(3-MA)を処理した後に自己貪食による細胞死滅を分析した結果である。
【
図11】ヒト大腸癌細胞株HCT116にそれぞれDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に、RNA-seq分析を用いて有意の遺伝子-機転関係を分析した結果である。
【
図12】ヒト大腸癌細胞株HCT116にそれぞれDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に、RNA-seq分析を用いて自己貪食機転関連の有意の遺伝子を分析した結果である。
【
図13】大腸癌細胞HCT116に対してDMSO対照群薬物及びロミタピドを処理した後に癌細胞コロニー増殖程度を測定した結果である。
【
図14A】マウスに異種移植した大腸癌細胞HCT116をロミタピド(50mg/Kg)で処理した後に、腫瘍のサイズ変化を対照群と比較分析した結果である。
【
図14B】マウスに異種移植した大腸癌細胞HCT116をロミタピド(25、50mg/Kg)で処理した後に、腫瘍のサイズ変化を分析した結果である。
【
図14C】マウスに異種移植した大腸癌細胞HCT116をロミタピド(10mg/Kg)で処理した後に、腫瘍のサイズ変化を分析した結果である。
【
図15A】大腸癌細胞HCT116細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図15B】大腸癌細胞HCT116細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図15C】大腸癌細胞HCT116細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図16A】大腸癌細胞HT29細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図16B】大腸癌細胞HT29細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図16C】大腸癌細胞HT29細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図17A】大腸癌細胞SW480細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図17B】大腸癌細胞SW480細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図17C】大腸癌細胞SW480細胞に対して5-FU又はイリノテカンとロミタピドとの薬物シナジー効能を分析した結果である。
【
図18A】マウスに移植した大腸癌細胞MC38に対してロミタピドと抗PD1を併用処理した後に、シナジー効果を肉眼で分析した結果である。
【
図18B】マウスに移植した大腸癌細胞MC38に対してロミタピドと抗PD1を併用処理した後に、シナジー効果を腫瘍体積を測定して分析した結果である。
【
図18C】マウスに移植した大腸癌細胞MC38に対してロミタピドと抗PD1を併用処理した後に、シナジー効果を免疫細胞(CD4+、CD4+/CD44+、CD8+、CD8+/IFNγ、Foxp3、NK、NK/IFNγ)を分析して確認した結果である。
【
図19A】マウスに移植した皮膚黒色腫細胞B16F10に対してロミタピドと抗PD1を併用処理した後に、シナジー効果を肉眼で分析した結果である。
【
図19B】マウスに移植した皮膚黒色腫細胞B16F10に対してロミタピドと抗PD1を併用処理した後に、シナジー効果を腫瘍体積を測定して分析した結果である。
【
図20】ロミタピドが処理された大腸癌患者由来オルガノイドの生存力を分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【実施例】
【0060】
本明細書全体を通じて、特定物質の濃度を示すために使われる“%”は、別に断らない限り、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、そして液体/液体は(体積/体積)%である。
【0061】
〔実施例1:細胞の培養方法〕
NCM460細胞(ヒト結腸正常細胞)、HCT116細胞(ヒト結腸癌細胞、p53野生型)、HT29細胞(ヒト結腸癌細胞、p53突然変異体)、SW480細胞(ヒト結腸癌細胞、p53突然変異体)、MDA-MB-231細胞(ヒト乳癌細胞)、MDA-MB-468細胞(ヒト乳癌細胞)、HS746T細胞(ヒト胃癌細胞)、SNU1細胞(ヒト胃癌細胞)、SNU2細胞(ヒト胃癌細胞)、MC38細胞(ネズミ大腸癌細胞)、B16F10細胞(ネズミ黒色腫細胞)、をATCC(American Type Culture Collection,Virginia,USA)から購入して使用した。
【0062】
NCM460、HCT116細胞は、2mMグルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン及び10%ウシ胎児血清(FBS)が補充されたMcCoy’s 5a培地(Sigma Aldrich,Missouri,USA)で37℃、5% CO2の条件で培養した。HT29、SW480細胞は、2mMグルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン及び10%ウシ胎児血清(FBS)が補充されたRPMI培地(Sigma Aldrich,Missouri,USA)で37℃、5% CO2の条件で培養した。MDA-MB-231、MDA-MB-468、HS746T、MC38、B16F10細胞は、2mMグルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン及び10%ウシ胎児血清(FBS)が補充されたDMEM培地(Sigma Aldrich,Missouri,USA)で37℃、5% CO2の条件で培養した。SNU1、SNU2細胞は、2mMグルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、25mM HEPES、25mM NaHCO3及び10%ウシ胎児血清(FBS)が補充されたRPMI培地(Sigma Aldrich,Missouri,USA)で37℃、5% CO2の条件で培養した。
【0063】
〔実施例2:ロミタピドが処理された細胞の生存力分析(viability assay)〕
<実施例2-1.ロミタピドが処理された大腸癌細胞の生存力分析>
NCM460、HCT116、HT29、SW480細胞を96ウェルプレートに10
4細胞/ウェルの密度で接種し、24時間、37℃で培養した後、様々な濃度(0、1、2、5、10μM)のロミタピド(Sigma Aldrich,Missouri,USA)で処理した。ロミタピド処理後にプレートを5% CO
2、37℃で24時間培養した。その後、細胞を、分析試薬(CellTiter-Glo(登録商標) Reagent)100μLを各ウェルに添加した後、VICTOR X Multilabel Reader(PerkinElmer,Massachusetts,USA)を用いて発光(luminescence)を測定し、これによって細胞の生存率(%)を計算した。結果は
図2~
図4に示した。
【0064】
前記実験から、ロミタピドを処理した抗癌細胞は、正常細胞と比較して細胞の生存率が減少していることを確認した(
図2)。前記結果は、ロミタピドが癌細胞特異的に抗癌効果を有することを示す。
【0065】
また、前記実験から、代表大腸癌細胞株3種(HCT116、HT29、SW480)においてロミタピドの容量が増加するほど細胞の生存率が減少していることを確認した(
図3、
図4)。
【0066】
前記結果は、ロミタピドが様々な大腸癌細胞を死滅させるのに非常に効果的であることを示す。
【0067】
<実施例2-2.ロミタピドが処理された癌細胞の生存力分析>
大腸癌細胞以外の様々な120種の癌細胞に対して様々な濃度のロミタピドを処理し、細胞生存力を分析した。
【0068】
細胞の生存力を分析するために、細胞にロミタピド処理後に37℃で5% CO2又は10% CO2条件で72時間培養した後、1時間室温で平衡化させ、CellTiterGlo試薬(Promega)を添加して1時間後に発光(luminescence)を測定し、これによって細胞の生存率(%)を計算した。120種の細胞は、ATCC(American Type Culture Collection,Virginia,USA)から購入して使用した。
【0069】
様々な癌細胞に対して細胞生存力を分析した結果は、次の通りである(表1、
図5A~
図5H)。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
前記実験から、ロミタピドが様々な癌腫及び癌細胞株において非常に低濃度で抗癌効果を奏することを確認した。その癌の種類は、黒色腫、血液癌、皮膚癌、大腸癌、脳癌、卵巣癌、膀胱癌、乳癌、子宮癌、十二指腸癌、線維肉腫、腎臓癌、肝癌、肺癌、膵癌、前立腺癌、胃癌、骨腫瘍、子宮内膜癌などが含まれる。
【0074】
〔実施例3:ロミタピドが処理された細胞の信号伝達分析(cell signaling assay)〕
<実施例3-1.ロミタピドが処理された大腸癌細胞及び乳癌細胞の信号伝達分析>
HCT116、SW480、HT29、MDA-MB-231、MDA-MB-468細胞株でのロミタピドの機能を確認するために、ロミタピド添加時における細胞の信号伝達効果を調べてみた。
【0075】
様々な濃度(0、5、10μM)でロミタピドが処理された細胞を、プロテアーゼ-抑制剤カクテルを含有するRIPA緩衝液で溶解した。全体細胞溶解物(Whole-cell lysate)を氷上で30分間インキュベーションした後、4℃、13,300xgで15分間遠心分離し、上澄液を収集した。対照群として、mTOR抑制成分として知られたトリン(Torin)を1μM処理したHCT116、SW480、HT29、MDA-MB-231、MDA-MB-468細胞を使用した。
【0076】
ウェスタンブロット分析のために、前記で得られた上澄液を10% SDS-PAGEゲルにローディングして分離し、分離されたタンパク質をPVDF膜にブロッティングした。その後、ブロットに次(表2)のように抗体を添加し、4℃で、12時間インキュベーションした。
【0077】
【0078】
その後、ブロットをTBST(a mixture of tris-buffered saline(TBS) and Tween 20)で洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ-結合(horseradish peroxidase-conjugated)2次抗体(Cell signaling)と37℃で1時間インキュベーションし洗浄した後、強化された化学発光(ECL;Amersham)を検出した。
【0079】
前記実験から、ロミタピドはHCT116において濃度依存的に標的タンパク質(p-AKT、p-mTOR、p-S6K、p-S6)のリン酸化レベルを顕著に減少させることを確認した(
図6)。また、SW480、HT29、MDA-MB-231、MDA-MB-468においてロミタピドが標的タンパク質(p-S6K、p-S6)のリン酸化レベルを顕著に減少させることを確認したし、ロミタピドがLC3IのLC3IIへの誘導を増加させることを確認した(
図7A~
図7D)。このような結果は、ロミタピドがエムトール(mTOR)及びエムトールの上位信号伝達経路(AKT、p-S6K、p-S6)を抑制する効果に非常に優れていることを示す。
【0080】
<実施例3-2.ロミタピドが処理された胃癌細胞の信号伝達分析>
HS746T、SNU1、SNU2細胞株でのロミタピドの機能を確認するために、ロミタピド添加時における細胞の信号伝達効果を調べてみた。
【0081】
様々な濃度(0、5、10μM)でロミタピドが処理された細胞を、プロテアーゼ-抑制剤カクテルを含有するRIPA緩衝液で溶解した。全体細胞溶解物(Whole-cell lysate)を氷上で30分間インキュベーションした後、4℃、13,300xgで15分間遠心分離し上澄液を収集した。対照群として、mTOR抑制成分として知られたトリン(Torin)を1μM処理した細胞を使用した。
【0082】
ウェスタンブロット分析のために、前記で得られた上澄液を10% SDS-PAGEゲルにローディングして分離し、分離されたタンパク質をPVDF膜にブロッティングした。その後、ブロットに次(表3)のように抗体を添加し、4℃で、12時間インキュベーションした。
【0083】
【0084】
その後、ブロットをTBST(a mixture of tris-buffered saline(TBS) and Tween 20)で洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ-結合(horseradish peroxidase-conjugated)2次抗体(Cell signaling)と37℃で1時間インキュベーションし洗浄した後、強化された化学発光(ECL;Amersham)を検出した。
【0085】
前記実験から、ロミタピドは、濃度依存的に標的タンパク質(p-S6K、p-S6)のリン酸化レベルを顕著に減少させることを確認したし、ロミタピドがLC3IのLC3IIへの誘導を増加させることを確認した(
図7E~
図7G)。このような結果は、ロミタピドがエムトール(mTOR)及びエムトールの上位信号伝達経路(AKT、p-S6K、p-S6)を抑制する効果に非常に優れていることを示す。
【0086】
〔実施例4:ロミタピドが処理された細胞の自己貪食分析(autophagy assay)〕
HCT116細胞株でのロミタピドの細胞自己貪食機能の連関性を確認するために、ロミタピド添加時における細胞の信号伝達効果を調べてみた。
【0087】
細胞自己貪食に関連した細胞信号伝達変化分析のための様々な濃度(0、5、10μM)でロミタピドが処理されたHCT116細胞を、ウェスタンブロットで分析した。ウェスタンブロットのために、実施例3で得られた上澄液を10% SDS-PAGEゲルにローディングして分離し、分離されたタンパク質をPVDF膜にブロッティングした。その後、ブロットに抗p-AMPK、抗LC3、抗p-ULK1抗体(Cell Signaling Technology,Massachusetts,USA)を添加し、4℃で、12時間インキュベーションした。その後、ブロットをTBST(a mixture of tris-buffered saline(TBS) and Tween 20)で洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ-結合(horseradish peroxidase-conjugated)2次抗体(Cell signaling)と37℃で1時間インキュベーションし洗浄した後、強化された化学発光(ECL;Amersham)を検出した。
【0088】
前記実験から、ロミタピドは濃度依存的にAMPKのリン酸化レベルを顕著に増加させ、ULK1のリン酸化レベルを減少させ、LC3IのLC3IIへの誘導を明確に増加させることを確認した(
図8)。このような結果は、ロミタピドが自己貪食機転に関与するタンパク質の発現を大きく増加させる効果を有することを示す。
【0089】
また、HCT116細胞株でのロミタピドの細胞自己貪食機能の連関性を確認するために、ロミタピド及び自己貪食機能抑制剤である3-メチルアミン(3-MA,Sigma Aldrich,Missouri,USA)を同時に処理する場合の細胞の信号伝達効果及び細胞の生存力を調べてみた。
【0090】
細胞自己貪食に関連した細胞信号伝達変化分析のために、5μMでロミタピドが処理されたHCT116細胞及び3-MA1mMとロミタピド5μMを同時に処理したHCT116細胞を、ウェスタンブロットで分析した。ウェスタンブロット過程は、抗体として抗LC3を使用した以外は、上述したウェスタンブロット過程と同一である。
【0091】
また、細胞の生存能分析のために、HCT116細胞を96ウェルプレートに104細胞/ウェルの密度で接種し、24時間、37℃で培養した後、5μMのロミタピド、3-MA 1mM又は5μMのロミタピドと3-MA 1mMで処理した。処理後にプレートを5% CO2、37℃で24時間培養した。その後、細胞を、分析試薬(CellTiter-Glo(登録商標) Reagent)100μLを各ウェルに添加した後、結果を顕微鏡で観察した。
【0092】
前記実験から、ロミタピドと3-MAを共に処理したHCT116細胞は、LC3IのLC3IIへの誘導を明確に減少させていることを確認した(
図9)。また、細胞生存能分析から、ロミタピドと3-MAを共に処理したHCT116細胞において細胞の死滅が抑制されることを確認した(
図10)。
【0093】
前記結果は、本発明のロミタピドがAMPK及びmTOR信号伝達過程を抑制し、これによって細胞自己貪食機転タンパク質の発現を増加させることを示す。
【0094】
〔実施例5:ロミタピドが処理された細胞の有意の遺伝子発現及び機転分析(RNA-seq assay)〕
ロミタピドの薬物機転と遺伝子との連関性を確認するために、RNA-seq実験を用いて有意に発現する遺伝子及び関連機転に対する分析を、GSEA(Gene set enrichment analysis)及びパスウエイエンリッチメント解析(Pathway enrichment analysis)を用いて行った。
【0095】
GSEAは、生物学的特徴に基づいて構成された様々な遺伝子集合のうち、2クラスの発現値が統計的に重要な差を示す有意の遺伝子集合を抽出するための分析方法である。
【0096】
有意の遺伝子集合を最終検出するために、遺伝子に対する様々な生物学的な情報を持つ遺伝子注釈データベース(KEGG pathway,Gene Ontologyなど)を用いて、RNA-seq実験に使用された全遺伝子のうち、特定機能を有する遺伝子をグループ化して様々な遺伝子集合を発掘し、各遺伝子集合内で2クラス間の発現値の差を参照して有意の遺伝子を決定し、これに基づいて統計的に有意の遺伝子集合を最終検出した。
【0097】
有意の遺伝子集合が属した機転は、自己貪食を含むエムトール機転と関連した癌関連機転が検出されたし、その他に免疫、老化及び糖尿関連機転などが検出された(
図11、表4)。
【0098】
【0099】
【0100】
また、自己貪食機転関連有意遺伝子分析(Differentially Expressed Genes analysis,DEG analysis)から、自己貪食に関連した遺伝子であるATG family、ULK1、DDIT4などが有意に発現することが分かった(
図12)。DEG分析は、遺伝子の発現値を測定し統計的に処理して、対照群と比較群との間に発現差が出る有意の遺伝子(Differentially Expressed Genes)候補群を選抜する分析である。
【0101】
前記結果から確認できるように、ロミタピドの癌細胞に対する効果は、i)エムトール信号伝達機転の抑制、及びii)自己貪食と関連した遺伝子発現、によって奏される。
【0102】
〔実施例6:ロミタピドが処理された細胞のコロニー増殖分析(cell colony forming assay)〕
HCT116細胞株においてロミタピドと癌細胞コロニー増殖率との連関性を確認するために、HCT116細胞を培養するウェルにロミタピド添加時の癌細胞コロニー増殖率を調べてみた。
【0103】
HCT116細胞を12ウェルプレートに105細胞/ウェルの密度で接種し、24時間、37℃で培養した後、細胞を0、5μM濃度のロミタピドで処理した。ロミタピド処理後にプレートを5% CO2、37℃で48時間培養した。その後、クリスタルバイオレット500μLを各ウェルに添加した後、10分間常温で細胞を染色し、これによって細胞の増殖力を分析した。
【0104】
実験から、ロミタピドを処理したウェルでの細胞増殖率が、ロミタピドを処理していないウェルでの増殖率よりも顕著に低いことを確認した(
図13)。
【0105】
このような結果は、ロミタピドが非常に優れた抗癌効果を有していることを示す。
【0106】
〔実施例7:動物実験から確認したロミタピドの抗癌効果分析〕
マウス異種移植モデルでのロミタピド抗癌効果を確認するために、腫瘍を移植したマウスにロミタピドを処理した後、腫瘍のサイズ変化を調べてみた。
【0107】
動物実験を、韓国科学技術院動物実験倫理委員会が承認したガイドラインにしたがって行った。HCT116細胞(4×10
6)を8~12週齢の雄BALB/cヌードマウスに皮下注射して移植した。平均腫瘍体積が50mm
3に到達した後、マウスを無作為に2個の異なるグループ(5匹/グループ)に割り振った。マウスの体重と腫瘍の直径を2日に1回ずつ測定した。腫瘍体積は、カリパスを用いて一般式0.5×(width)
2×(Length)によって評価したし、P-valuesを決定するためにスチューデントT検定を用いた。ロミタピド処理のために、実験開始後1日、2日、3日、7日、8日、9日、13日、14日、15日、16日に、50mg/kgのロミタピドをマウスの腹腔に注射した。対照群としてDMSOをマウスの腹腔に注射した(
図14A)。
【0108】
また、追加動物実験を行って、実験開始後2日間隔で総5回にわたって25、50mg/kgのロミタピドをマウスの腹腔に注射した。対照群としてDMSOをマウスの腹腔に注射した(
図14B)。
【0109】
また、追加動物実験を行って、実験開始後2日間隔で総5回にわたって10mg/kgのロミタピドをマウスの腫瘍内に注射した。対照群としてDMSOをマウスの腫瘍内に注射した(
図14C)。
【0110】
実験から、ロミタピドを処理したマウス異種移植モデルの腫瘍の成長は、対照群と比較して成長が抑制されることを確認した(
図14)。
【0111】
このような結果は、ロミタピドが非常に優れた抗癌効果を有していることを示す。
【0112】
〔実施例8:抗癌薬物併用処理によるシナジー効果分析(Drug synergy)〕
HCT116、HT29、SW480細胞を96ウェルプレートにシードし、薬物無しで又は単一薬物で処理するか、指定された濃度で組み合わせて48時間処理した。各ウェルにおいてDMSOの最終濃度は<0.01%であったし、処理された量は、細胞から観察可能な毒性がないことを確認した。分析のために次のような薬物を使用した。
【0113】
【0114】
HCT116細胞は、10,000個細胞/ウェルで、HT29及びSW480細胞は5,000個細胞/ウェルで接種した。48時間インキュベーション後に、細胞を、分析試薬(CellTiter-Glo(登録商標) Reagent)100μLを各ウェルに添加した後、VICTOR X Multilabel Reader(PerkinElmer,Massachusetts,USA)を用いて発光(luminescence)を測定し、これによって細胞の生存率(%)を計算した。
【0115】
薬物シナジーはHSAモデルを用いて評価した。HSA点数は、>10、-10~10、<-10の範囲に分けた。これはそれぞれ、シナジー(synergy)、加算的(additive)及び拮抗作用(antagonism)を示す。点数は、薬物容量の4×4、3×3、2×7マトリックスにおいて個別点数で示し、全体的な薬物反応効果の分布は、2次元及び3次元の等高線グラフで示した。
【0116】
前記実験から、ロミタピドが、既存の大腸癌薬物として使われている2種の薬物、すなわち、5-FU又はイリノテカンと併用処理をした時に、シナジー効果が出ることを確認した(
図15~
図17)。
【0117】
〔実施例9:動物実験を用いたロミタピド及び抗PD1の併用処理によるシナジー効果分析〕
同種移植腫瘍マウスモデルにおいて、雌C57B6/Nマウス(野生型、6週齢)に2種のMC38大腸癌とB16F10皮膚黒色腫細胞株を用いて実験を行った。MC38大腸癌とB16F10皮膚黒色腫細胞は、2×105を皮下注射した。2モデルにおいて使用したロミタピドは、45%食塩水、40% PEG300、5% Tween-80、10% DMSOで剤形化した。
【0118】
MC38大腸癌は、5回容量を腫瘍注入後に、10日後からロミタピドを20mg/kg容量で腹腔内投与し、10mg/kg抗PD-1mAb(クローンRMP1-14,BioXCell,West Lebanon,NH,USA)又はラットIgG2aアイソタイプ対照群(クローン2A3,BioXCell,BE0089)をPBSで1、4、7、10日に投与した(
図18A及び
図18B)。
【0119】
B16F10皮膚黒色腫では、腫瘍注入10日後からロミタピドを40mg/kg容量で腹腔内に3回、3、5、7日に投与したし、20mg/kg抗PD-1mAb(クローンRMP1-14,BioXCell,West Lebanon,NH,USA)又はラットIgG2aアイソタイプ対照群(クローン2A3,BioXCell,BE0089)をPBSで1、3、5、7日に投与した。苦痛の徴候が観察される、正常体重に比して20%の体重減少を示す又は腫瘍体積が1000mm
3を超えると、マウスを直ちに安楽死させた(
図19A及び
図19B)。
【0120】
両実験から、ロミタピドを処理したマウス同種移植モデルの腫瘍の成長は、対照群と比較して明確な腫瘍の成長が抑制及び減少されることを確認したし、抗PD-1mAbを処理した実験群と比較しても、より優れた成長抑制及び減少現象を示したし、ロミタピドと抗PD-1mAbを共に処理した実験群ではシナジー現象による腫瘍サイズの減少効果が確認できた。
【0121】
また、MC38大腸癌の腫瘍細胞での免疫細胞(CD4+、CD4+/CD44+、CD8+、CD8+/IFNη、Foxp3、NK、NK/IFNγ)分析によれば、ロミタピド単独処理群と抗PD-1mAbを処理した実験群を比較すると、ロミタピド単独処理群において、抗PD-1mAbを処理した実験群に比べてより高い(CD4+、NK、NK/IFNγ)或いは類似のレベル(CD4+/CD44+、CD8+、CD8+/IFNγ、Foxp3)の免疫細胞発現が確認されたし、2種の薬物を同時に処理した実験群では、全ての免疫細胞の発現が顕著に増加していることが確認できた(
図18C)。
【0122】
〔実施例10:ロミタピドが処理された大腸癌患者由来オルガノイドの生存力分析〕
下のような方法で2種類の大腸癌患者由来オルガノイド(オルガノイド01-46歳男性、オルガノイド02-74歳女性)を用いて、ロミタピド処理によるオルガノイドの生存力を分析した結果、ロミタピドの容量が増加するほどオルガノイドの生存率が減少することを確認した(
図20)。前記結果は、ロミタピドが様々な大腸癌細胞を死滅させることに非常に効果的であることを示す。
【0123】
1.映像ベース評価(Imaging based evaluation of drugs)
大腸癌患者由来オルガノイドを48ウェルプレート(SPL,cat32048)で5~7日培養する。
【0124】
リン酸緩衝生理食塩水(DPBS;Welgene LB001-02)200μLを使用し、ピペッティングによってオルガノイドをプレートから分離して新しいチューブに移した。
【0125】
オルガノイドを、Hoechst(Thermo,#H-1399)を1:2,000の割合で培養液に入れた後、30分間、37℃、5% CO2培養器で反応させて染色させた。
【0126】
染色したオルガノイドは、1,350rpm/3分間遠心分離し、上澄液を除去した。
【0127】
96ウェルプレートに同量のオルガノイドを入れた後、同体積の薬物を入れた。
【0128】
分注後にハイコンテンツ(High Contents)イメージングベーススクリーニング装備であるCytation5(Biotek社)を活用し、オルガノイドの数、状態及び面積をDAPI信号によって確認した。
【0129】
その後、培養液交換無しで24時間ごとに総3回/72時間の間にオルガノイド面積の変化を観察した。
【0130】
Cytation5装備によって導出された生資料(raw data)に基づき、下の公式を適用させて薬物の効能を算出した。また、特定濃度での薬物全体効能(Total Effectiveness)は、オルガノイド成長阻害とオルガノイド死滅との和と定義する。
【0131】
Cytation5を用いてHoechstで染色した各オルガノイドの面積(μm2)を確認し、各ウェルにある全オルガノイドの面積を合算した。
【0132】
72時間薬物処理後に、オルガノイドの面積と最初0時間でのオルガノイドの面積との差を値として算出した。
【0133】
2.評価算出公式
特定濃度の薬物によるオルガノイドの死滅を観察するために、オルガノイドの死滅によるサイズ変化を算出したし、そのために、オルガノイド初期面積に対する薬物処理後72時間で観察されるオルガノイド面積の割合で算出した(公式1)。
【0134】
全体効能評価は、薬物処理72時間後に、非処理群の損傷したオルガノイド割合に対する薬物処理群の損傷したオルガノイドの割合で算出されてよい(公式2)。
【0135】
(公式1)特定濃度で損傷したオルガノイド割合=1-(薬物処理後のオルガノイド面積(72h)/オルガノイド初期面積(0hr))
(公式2)特定濃度で薬物の効能(%)=(薬物処理群の損傷したオルガノイド割合/非処理群の損傷したオルガノイド割合)*100
特定濃度での薬物効能=全体効能
結論的に、前記実施例に記載された実験は、ロミタピドがエムトール関連信号伝達を抑制し、細胞の自己貪食機転を活性化させて抗癌効果を起こし、ロミタピドが既存の抗癌剤と併用して投与される場合にシナジー効果を起こすことを示す。