(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20240731BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
F16F15/04 P
E04H9/02 331A
(21)【出願番号】P 2024061944
(22)【出願日】2024-04-08
【審査請求日】2024-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597165629
【氏名又は名称】株式会社ノナガセ
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】長田 修一
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-141002(JP,A)
【文献】特開2016-142343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/04
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ穴を有する複数のゴム層と金属層とが交互に積層され、加硫成型によって形成される積層ゴム体と、この積層ゴム体の内部に前記ゴム層及び前記金属層の各穴を介して積層方向に配される塑性変形自在な柱状部材とを備えた免震装置であって、
前記金属層の前記穴の内周面と前記柱状部材の外周面とが、両者間に加硫成型に伴う薄皮被膜ゴムが存することなく、直接接触していることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記柱状部材はその軸方向に分割されて積層され、外周に環状の切欠き段部が形成された複数の分割体からなり、前記金属層は前記穴を介して前記分割体の前記切欠き段部に、前記ゴム層は前記穴を介して前記分割体の前記切欠き段部以外の外周部分にそれぞれ嵌合されていることを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項3】
前記ゴム層の前記穴の内周に、加硫成型時に前記金属層の前記穴の内周への未加硫ゴムの流れを阻止するためのシールリングが設けられていることを特徴とする請求項1記載の免震装置。
【請求項4】
前記シールリングは、加硫ゴム、樹脂及び金属のいずれかからなることを特徴とする請求項3記載の免震装置。
【請求項5】
前記シールリングは、高熱伝導部材からなることを特徴とする請求項3記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
免震装置として積層ゴム体に鉛プラグ(以下、柱状鉛ともいう)を封入した、鉛プラグ入り免震装置が知られている。この鉛プラグ入り免震装置において、鉛プラグは地震時には積層ゴム体のせん断変形に伴って弾塑性変形することにより、振動エネルギーを吸収する部材として機能する。しかしながら、昨今、長周期長時間地震動を対象とした各種免震装置の繰返し加振実験が行われた結果、エネルギー吸収部材の発熱による抵抗力(エネルギー吸収能力)の低下が指摘され問題視されてきている。
【0003】
特に、エネルギー吸収能力の低下は地震時における免震構造物の水平移動量の増大を招き、免震構造物周辺に設けられた擁壁との間により大きなクリアランスを確保しなければならないという問題を生じさせている。また、免震構造物の水平移動量の増大は、免震装置の鉛直支持荷重面積の減少を招き、座屈を引き起こすおそれもある。その結果、免震構造設計者は安全性を確保するために、長周期長時間地震動を考慮すべき地域に用いる免震装置の設計においては、安全率を大きくとる、すなわち免震性能の低下を織り込んだ免震設計を行っているのが実情である。
【0004】
このように、免震性能の低下を織り込んだ免震設計を行う結果、通常の免震設計と比較して安全性の高い免震装置にならざるを得ず、一般的に免震装置の大型化をもたらすことになる。また、オイルダンパー、摩擦ダンパー、履歴型ダンパーなどの減衰装置を付加的に配置し、応答変形量を抑制することもあり、免震構造物のコストアップを余儀なくされている。
【0005】
上記のような状況から、如何にして鉛プラグ等のエネルギー吸収部材の発熱を抑えるか、あるいは如何にして発生した熱をエネルギー吸収部材から外方へ移動させるかが重要な課題になってきている。
【0006】
特許文献1には、積層ゴム体が繰返し変形した際に生じる発熱を、速やかに積層ゴム体から放熱し、免震性能の力学的な低下を防止することを目的とした免震装置が開示されている。特許文献2、3には長周期地震動を受けた時でも、鉛プラグ又は錫プラグの温度上昇を極力低下させることができ、長周期地震動でも免震機能を有効に発揮することができる免震支持装置が開示されている。
【0007】
しかしながら、上記先行技術はいずれも、免震装置の製造過程において、鉛プラグ等のエネルギー吸収部材の外周面と鋼板等の金属層との間に形成される薄皮被膜ゴム層(詳細は、後述する)に着目して課題解決を図ったものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-141002
【文献】特開2016-142343
【文献】特開2016-176577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明は、上記のような、免震性能の低下を織り込んだ設計によって生じる免震装置の大型化を回避し、長周期長時間地震動のような繰返し加振を受けたとしても発熱による免震性能の低下が抑制され、免震装置のコスト及び免震構造体の建築費用の上昇を抑え、広く免震建築物が建設されて多くの人々の生命・財産を守ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般的な鉛プラグ入り積層ゴム体の製造方法は、予め所定の形状に仕上げられた鋼板(金属層)と、未加硫ゴム板(ゴム層)とを交互に積層する「積層・モールド組み込み工程」と、「加硫成型工程」と、「鉛プラグ挿入工程」とからなる。
【0011】
具体的には、積層される鋼板及びゴム板には加硫成型後に鉛プラグを挿入するための穴が予め形成されており、積層・モールド組み込み工程では、成型用のプラグピンをモールドの下型に立設させ、該プラグピンを鋼板及び未加硫ゴム板の各穴に通し、すなわちプラグピンを案内ピンとして鋼板及び未加硫ゴム板を順次積層している。プラグピンは、加硫成型後に鋼板及びゴム板の各穴が連続することによって形成された挿入穴に圧入される鉛プラグの径と同寸法に仕上げられている。
【0012】
このとき、プラグピンの直径と鋼板に予め穴開けされた穴径が同一寸法であると、クリアランスがゼロとなり、積層・モールド組み込み工程での組み立てが困難となる。さらには、加硫成型後にモールド解体(脱型)を行う際に、プラグピンと鋼板がかじり、プラグピンが抜けなくなるばかりか、加硫成型工程後モールド内に残っている空気を排出するバンピング作業や、加硫時の加温による未加硫ゴムの膨張等による積層方向(上下方向)の動きが、プラグピンと鋼板とのかじりで拘束され、結果成型不良を引き起こすことになる。
【0013】
そのため、一般的にプラグピン直径に対し鋼板に開けられる穴は所定のクリアランス(例えば1mmから2mm程度)が形成されるように穴径(内径)が大きく加工されている。さらに、プラグピンにテーパー加工を施すなどの工夫もなされ、積層・モールド組み込みがスムーズに行え、支障なく積層ゴム体の加硫成型が行え、その後のモールド解体(脱型)も問題なく実施できるよう取合い寸法が定められている。
【0014】
一方で、このようにすると、加硫成型工程でプラグピンと鋼板の穴内周面との間のクリアランス部分に加熱・加圧された未加硫ゴムが流入する状態となり、加硫成型後の積層ゴム体の鉛プラグ挿入用の穴内周面には薄皮被膜ゴムが形成されることになる。このような薄皮被膜ゴムが形成されていたとしても、プラグピンは加硫成型後に挿入される鉛プラグの設計上の寸法と同一直径であり、加硫成型後の積層ゴム体の挿入穴の直径を小さくすることはないため、その後の鉛プラグ挿入工程に支障はなく、鉛プラグと積層ゴム体は一体化できる。
【0015】
そして、上記のような薄皮被膜ゴムが免震装置の製造過程で形成されるのを余儀なくされてるにしても、免震性能としては現在要求されている各検収条件等を十分満たしていることから、そのような免震装置は問題ないものとして市場に提供されている。
【0016】
この出願の発明者は、薄皮皮膜ゴムといえどもゴム材料は断熱材であるとの視点から、従来の積層ゴムタイプの免震装置の製造では特段問題視されずに容認されている、換言すれば、存在することが当然視されている柱状鉛と積層ゴム体のその挿入穴内周との間に存在する薄皮被膜ゴムの断熱性、熱伝導性の具合に着目した。
【0017】
そして、この出願の発明者は、柱状鉛と積層ゴム体の挿入穴内周との間に存在する薄皮被膜ゴムの熱伝導に与える影響について、該薄皮被膜ゴムの有無により、柱状鉛に生じた熱が積層ゴム体内部に配されて鉛プラグを取り囲む鋼板へどのように伝わるのかをシミュレーション(CAE熱解析による)検証した。
【0018】
解析の結果、従来免震装置としての基本性能には影響が生じないため、何ら問題視されていなかった(少なくとも熱伝導の視点での従来例は不知)柱状鉛と積層ゴム体のその挿入穴内周との間に存在する薄皮被膜ゴムが、柱状鉛の発熱を積層ゴム体の鋼板へ逃がす、換言すれば熱移動させる作用に大きな影響を与える非常に厄介なものとなることが判明した。
【0019】
シミュレーション内容を具体的に説明すると、柱状鉛と積層ゴム体の挿入穴内周面との間に薄皮被膜ゴム(厚み0.5mm)を存在させたケースと、柱状鉛が直接鋼板の穴内周面に接触しているケースを想定し、それぞれ鉛プラグの中心位置が発熱し続ける(5mw/mm3を入力)ものとし、その熱が積層ゴム体の鋼板を通じ積層ゴム体内部に拡散されつつ、柱状鉛の温度がサチュレートする(飽和状態になる)ときの温度を表示させた。なお、積層ゴム体の外周面が接する外気の温度は30度C一定とし、積層ゴム体の上下面と接する部材は全て鋼材(SS400)として熱の拡散条件を統一した。
【0020】
また、鉛プラグ入り積層ゴム体の諸元は、積層ゴム体直径φ800mm、柱状鉛φ160mm×1本(中央に配置)、ゴム層6mm×33層(層厚198mm)、内部鋼板4.5mm×32層、ゴムのせん断弾性係数G4とし、それぞれの熱伝導率をゴム0.13w/(m・k)、鉛35w/(m・k)、鋼板51.6(m・k)とした。CAE熱解析で柱状鉛の温度がサチュレートするのは以下のとおりであった。
【0021】
薄皮被覆ゴムあり:260.6度C
薄皮被覆ゴムなし:195.3度C
温度差 : 65.3度C
【0022】
薄皮被膜ゴムの有無で柱状鉛に発生した熱がどの程度積層ゴム体内の鋼板に伝わり、どのくらい柱状鉛内部に蓄熱していくのかをみると、柱状鉛外周面と積層ゴム体の挿入穴の内周面に存在する高々0.5mm程度の薄皮被膜ゴムを排除しただけの構成で、それが存在する場合に比べて鉛プラグ温度がかなり低い状態で(その差65.3度C)でサチュレートすることが判明した。
【0023】
つまり、積層ゴム体内の鋼板へ柱状鉛の熱が直接伝わる構成をとることで、繰返しせん断変形を受け柱状鉛の温度が上昇しても、その温度は低く保たれ、免震装置としての減衰特性・エネルギー吸収能力の低下が抑制される効果が生じる。これは、熱伝導率が、鋼材51.6(m・k)であるところゴム材料0.13w/(m・k)であり、およそ400倍もの差があるためである。
【0024】
また、上記のCAE熱解析では柱状鉛が1本配置されている積層ゴム体についての比較をしたが、柱状鉛が複数本の場合も薄皮被膜ゴムの有無によって同様の結果が得られる。このように、柱状鉛の本数に拘わらず、薄皮被膜ゴムが排除されていれば同様に熱伝導率の良い鋼材と柱状鉛の外周面が直接接触することができるので柱状鉛の発熱は抑制され、長周期長時間地震動のような繰返し加振を受けても良好な免震性能を示すことができる。
【0025】
この発明は上記のような知見に基づくものであり、次のように特定される。
すなわち、この発明は、それぞれ穴を有する複数のゴム層と金属層とが交互に積層され、加硫成型によって形成される積層ゴム体と、この積層ゴム体の内部に前記ゴム層及び前記金属層の各穴を介して積層方向に配される塑性変形自在な柱状部材とを備えた免震装置であって、
前記金属層の前記穴の内周面と前記柱状部材の外周面とが、両者間に加硫成型に伴う薄皮被膜ゴムが存することなく、直接接触していることを特徴とする免震装置にある。
【0026】
より具体的には、前記柱状部材はその軸方向に分割されて積層され、外周に環状の切欠き段部が形成された複数の分割体からなり、前記金属層は前記穴を介して前記分割体の前記切欠き段部に、前記ゴム層は前記穴を介して前記分割体の前記切欠き段部以外の外周部分にそれぞれ嵌合されている免震装置である。
【0027】
金属層は穴を介して分割体の切欠き段部に嵌合されることにより、金属層の穴の周縁部は上下の分割体に挟持され、しかも金属層の穴の内周面はゴム層から半径方向内方に離間した位置で分割体の外周面(切欠き段部の周側面)に接触することになる。このため、未加硫ゴムが金属層の穴内周面と分割体外周面との間に入り込むのはほぼ不可能となり、金属層の穴の内周面と分割体の外周面とが、直接接触した状態に保たれる。これにより、免震装置が繰返しせん断変形を受け柱状部材が発熱しても、その熱は金属層に直接伝わるので、その温度は低く保たれ、免震装置としての減衰特性・エネルギー吸収能力が低下するのを防止できる。
【0028】
さらに、前記ゴム層の前記穴の内周に、加硫成型時に前記金属層の前記穴の内周への未加硫ゴムの流れを阻止するためのシールリングが設けられている構成によっても、前記金属層の前記穴の内周面と前記柱状部材の外周面とが、直接接触している免震装置を得ることができる。
【0029】
シールリングとしては、天然ゴム、ウレタンゴム等の加硫ゴム、フッ素樹脂、ナイロン、ポリアミド等の樹脂、アルミニウム、鉛、錫などの金属のいずれかを用いることができる。このようなシールリングを設けることにより、加硫成型時に未加硫ゴムがゴム層の穴の内周側に流れ込むのが阻止されるため、金属層の穴内周面に薄皮被膜ゴムが形成されることがない。したがって、前記金属層の前記穴の内周面と前記柱状部材の外周面とが、直接接触している免震装置を得ることができる。
【0030】
さらに、シールリングとしては高熱伝導部材を用いることができる。高熱伝導部材は加硫成型時に未加硫ゴムがゴム層の穴内周側に流れ込むのを阻止し、金属層の穴内周面に薄皮被膜ゴムが形成されるのを防げるだけでなく、該高熱伝導部材と接触する金属層の穴内周近傍の上下面からも伝熱が行われる結果、免震装置が地震等の外乱により水平せん断変形した際にも速やかに当該変形に対して隙間なく追従し、柱状部材に生じる発熱をより効果的に金属層へ伝えることができる。
【0031】
高熱伝導部材としては、少なくともゴム層の熱伝導率0.13w/(m・k))より高い熱伝導性を有し、熱伝導率が10w/(m・k)を超える高熱伝導ゴムを用いることができる。この高熱伝導ゴムは、ゴム材料にカーボンファイバー、銅やアルミニウムの不織布、銅やアルミニウムの繊維、カーボンナノチューブ等を混ぜ合わせたものとして知られている。
【発明の効果】
【0032】
この発明によれば、長周期長時間地震動のような繰返し加振を受けたとしてもエネルギー吸収部材の発熱による免震性能の低下が抑制される免震装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】
図1のA-A線矢視による拡大断面図である。
【
図3】分割した柱状鉛を拡大して示す断面図である。
【
図4】分割体の外周部分をさらに拡大して示す断面図である。
【
図5】この発明の別の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、この発明の実施形態を示す平面図、
図2は
図1のA-A線矢視による拡大断面図、
図3は分割した柱状鉛を拡大して示す断面図、
図4は分割体の外周部分をさらに拡大して示す断面図である。
【0035】
図1、
図2に示すように、免震装置10は積層ゴム体11と、積層ゴム体11の内部に配される塑性変形自在な柱状部材を構成する、円柱状の柱状鉛12とを有する。積層ゴム体11は、複数の金属層を構成する鋼板13a、13b、14と、複数のゴム層15とを積層して形成される。鋼板13a、13b、14及びゴム層15は、いずれも円形のもので、したがって、積層ゴム体11は平面視円形のものである。
【0036】
鋼板13a、13b、14のうち、厚肉の鋼板13a、13bは、積層ゴム体11の上下部に配され、図示しないフランジプレートを介して、例えば、それぞれ免震構造物及びその基礎に連結される連結鋼板である。また、薄肉の鋼板14は積層ゴム体11の内部に配される内部鋼板である。これらの鋼板13a、13b、14にはそれぞれ円形の穴16a、16b、18が開けられている。
【0037】
同様に、ゴム層15にも円形の穴19が開けられている。連結鋼板13a、13bに設けられた穴16a、16b、内部鋼板14に設けられた穴18及びゴム層15に設けられた穴19は平面視同一位置に設けられ、柱状鉛12はこれらの穴16a、16b、18、19を介して、積層ゴム体11の内部に積層方向に配されている。
【0038】
柱状鉛12はその軸方向に分割された複数の分割鉛12a、12b、12cからなっている(
図3参照)。上下部の分割鉛12a、12bは、連結鋼板の穴16a、16bに嵌合されている。
【0039】
下部分割鉛12bは、その上端部が連結鋼板13bの穴16bから突出する厚みを有し、この突出上端部は穴16bよりも大径に作られ、穴16bの周縁部に係合している。この突出上端部の上面には凹部20が形成され、外周には環状の切欠き段部21が形成されている。この切欠き段部21は最下部の内部鋼板14の穴18に嵌合されている。突出上端部の切欠き段部21以外の外周部分は最下部のゴム層15の穴19に嵌合されている。
【0040】
上部分割鉛12aは、連結鋼板13aと同じ厚みを有し、下端部は連結鋼板13aの穴16aよりも小径に作られることにより、凸部22を形成している。
【0041】
内部分割鉛12cは、上面に凹部23が下面に凸部24がそれぞれ形成され、凹部23には上側に隣接する内部分割鉛12cの凸部24が嵌合されている。内部分割鉛12cの外周には環状の切欠き段部25が形成されている。この切欠き段部25は、内部鋼板14の穴18に嵌合されている。また、内部分割鉛12の切欠き段部25以外の外周部分はゴム層15の穴19に嵌合されている。
【0042】
上記実施形態による免震装置10は以下のようにして製造される。
1.下部連結鋼板13bの穴16bに下部分割鉛12bを嵌合させてセットする。
2.最下部のゴム板15(未加硫で加硫後にゴム層15となる、以下同じ)の穴19に下部分割鉛12bの下部連結鋼板13bからの突出上端部を嵌合させることにより、ゴム板15を下部連結鋼板13b上に載置する。
3.最下部の内部鋼板14の穴18に下部分割鉛12bの切欠き段部21を嵌合させることにより、最下部の内部鋼板14を最下部のゴム板15の上に載置する。
【0043】
4.下部分割鉛12bの凹部20に内部分割鉛12cの凸部24を嵌合させることにより、内部分割鉛12cを下部分割鉛12bの上に載置する。
5.ゴム板15の穴19に内部分割鉛12cを嵌合させることにより、ゴム板15を内部鋼板14の上に載置する。
6.内部鋼板14の穴18に内部分割鉛12cの切欠き段部25を嵌合させることにより、内部鋼板14をゴム板15の上に載置する。
【0044】
7.内部分割鉛12cの凹部23に、その上に配される内部分割鉛12cの凸部24を嵌合させる。
8.以下、5~7の手順を、設計の積層数-1まで繰り返す。
9.最上部のゴム板15の穴19に最上部の内部分割鉛12cを嵌合させることにより、最上部のゴム板15を最上部の内部鋼板14上に載置する。
10.最上部の内部分割鉛12cの凹部23に上部分割鉛12aの凸部22を嵌合させることにより、上部分割鉛12aを最上部の内部分割鉛12cの上に載置する。
11.上部連結鋼板13aの穴16aに上部分割鉛12aを嵌合させることにより、上部連結鋼板13aをセットする。
12.加硫成型を実施する。
【0045】
上記実施形態による免震装置10によれば、内部鋼板14はその穴18に分割鉛12b、12cの切欠き段部21、25が嵌合されるので、内部鋼板14の穴18の周縁部は上下の内部分割鉛12c、12c間(又は分割鉛12b、12c間)に挟持されたうえ、しかも
図4に拡大して示すように、内部鋼板14の穴18の内周面はゴム板15から半径方向内方に寸法Sだけ離間した位置で分割鉛12cの外周面(切欠き段部21、25の周側面)に接触することになる。
【0046】
このため、加硫成型時にゴム板15の未加硫ゴムは内部鋼板14の穴18の内周面と分割鉛12cの外周面との間に入り込むことができず、内部鋼板14の穴18の内周面と分割鉛12の外周面とは直接接触した状態に保たれる。これにより、免震装置が繰返しせん断変形を受け柱状鉛12が発熱しても、その熱は直接内部鋼板14に伝わるので、その温度は低く保たれ、免震装置としての減衰特性・エネルギー吸収能力が低下するのを防止できる。
【0047】
図5は別の実施形態を示す部分断面図である。この実施形態の柱状鉛12は、上記実施形態のように分割されたものではなく、一般に用いられている円柱状のものである。免震装置10を構成する積層ゴム体11は、上記実施形態のものと同様に、いずれも円形の上下部の連結鋼板13a、13b、複数の内部鋼板14及び複数のゴム層15を積層して形成される。また、鋼板13a、13b、14に円形の穴16a、16b、18がそれぞれ設けられ、ゴム層15に円形の穴19が設けられ、これらの穴は平面視同一位置に設けられている点も上記実施形態と同様である。
【0048】
この実施形態では、ゴム層15の内周にシールリング30が設けられている。シールリング30の内径は内部鋼板14の穴18の径とほぼ等しく、したがってゴム層15の穴19の径は内部鋼板14の穴18の径よりも大きくなっている。シールリング30は、その厚みが加硫成型後のゴム層15の厚みよりも0.5~1.0mm程度厚く設定されている。
【0049】
シールリング30としては、天然ゴム、ウレタンゴム等の加硫ゴム、フッ素樹脂、ナイロン、ポリアミド等の樹脂、アルミニウム、鉛、錫などの金属のいずれかを用いることができる。さらに、シールリングとしては高熱伝導部材、例えばゴム材料にカーボンファイバー、銅やアルミニウムの不織布、銅やアルミニウムの繊維、カーボンナノチューブ等を混ぜ合わせたものを用いることができる。
【0050】
上記実施形態による免震装置10は以下のようにして製造される。
1.成形用プラグピンPをセットする。プラグピンを用いず、プラグピンPと同径の柱状鉛12あるいは柱状錫を成型時からセットしてもよい。
2.プラグピンPに穴16bを通して下部連結鋼板13bを設置する。
3.プラグピンPにシールリング30を通して、これを下部連結鋼板13b上に載置する。
【0051】
4.プラグピンPに最下部のゴム板15(未加硫で加硫後にゴム層15となる、以下同じ)の穴19を通して、これをシールリング30の外周で下部連結鋼板13b上に載置する。
5.プラグピンPに穴18を通して内部鋼板14をゴム板15上に載置する。
6.プラグピンPにシールリング30を通して、これを内部鋼板14上に載置する。
【0052】
7.プラグピンPにゴム板15の穴19を通して、これをシールリング30の外周で内部鋼板14上に載置する。
8.以下、5~7の手順を、設計の積層数-1まで繰り返す。
【0053】
9.プラグピンPにシールリング30を通して、さらに穴19を通して最上部のゴム板15を内部鋼板14上に載置する。
10.プラグピンPに穴16aを通して上部連結鋼板13aを設置する。
11.加硫成型を実施する。
12.脱型後、プラグピンPを抜き取って形成される穴に柱状鉛12を挿入する。
【0054】
上記実施形態によれば、ゴム板15の穴19の内周にシールリング30が設けられているので、加硫成型時に未加硫ゴムがゴム板15の穴19の内周側に流れ込むのが阻止され、内部鋼板14の穴18の内周面に薄皮被膜ゴムが形成されることがない。したがって、内部鋼板14の穴18の内周面と柱状鉛12の外周面とが、直接接触している免震装置を得ることができる。
【0055】
上記製造工程においてプラグピンPを用いる場合は、上述したように成型後のプラグピンPの抜き取りを容易にするために、プラグピンPと内部鋼板14の穴18の内周面との間にクリアランスが形成される。したがって、プラグピンPを抜き取ってできる挿入穴に該プラグピンと同径の柱状鉛12を挿入すると、柱状鉛12と内部鋼板14の穴18の内周面との間にクリアランスが形成されることになる。しかし、通常、柱状鉛12は上方から圧力を加えて穴に挿入されるため、径方向外方に膨らみ、クリアランスが消滅する。すなわち、内部鋼板14の穴18の内周面と柱状鉛12の外周面とが直接接触することになる。
【0056】
また、シールリングとして高熱伝導部材を用いることにより、高熱伝導部材は加硫成型時に未加硫ゴムがゴム層15の穴内周側に流れ込むのを阻止し、内部鋼板14の穴18の内周面に薄皮被膜ゴムが形成されるのを防げるだけでなく、該高熱伝導部材と接触する内部鋼板14の穴18内周近傍の上下面Tからも伝熱が行われる結果、免震装置が地震等の外乱により水平せん断変形した際にも速やかに当該変形に対して隙間なく追従し、柱状鉛12に生じる発熱をより効果的に金属層へ伝えることができる。
【0057】
また、シールリング30は、その厚みが加硫成型後のゴム層15の厚みよりも0.5~1.0mm程度厚く設定されていることにより、加硫成型時にはシールリングが厚み方向に潰れるので、未加硫ゴムの内部鋼板14の穴18の内周への流れを完全に防ぐことができる。
【0058】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態では積層ゴム体内に柱状鉛が1本配置されている免震装置が示されているが、柱状鉛が複数本配されていても、この発明を適用できる。柱状鉛が積層ゴム体の内部で上下に分割して離間して配された免震装置であっても、この発明を適用できる。さらに、柱状部材の材料は鉛に限らず、錫等他の金属材料を用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
10:免震装置
11:積層ゴム体
12:柱状鉛
12a、12b:上下部分割鉛
12c:内部分割鉛
13a、13b:上下部連結鋼板
14:内部鋼板
15:ゴム層
16a、16b:上下部連結鋼板の穴
18:内部鋼板の穴
19:ゴム層の穴
21:下部分割鉛の切欠き段部
25:内部分割鉛の切欠き段部
30:シールリング
【要約】
【課題】長周期長時間地震動のような繰返し加振を受けたとしても発熱による免震性能の低下が抑制され、免震装置のコスト及び免震構造体の建築費用の上昇を抑える。
【解決手段】それぞれ穴18、19を有する複数のゴム層15と金属層14とが交互に積層され、加硫成型によって形成される積層ゴム体12と、積層ゴム体12の内部にゴム層15及び金属層14の各穴18、19を介して積層方向に配される塑性変形自在な柱状部材12とを備える。例えば、ゴム層15の穴19の内周にシールリング30を配することにより、未加硫ゴムの流れが阻止され、金属層14の穴18の内周面と柱状部材12の外周面とが、両者間に加硫成型に伴う薄皮被膜ゴムが存することなく、直接接触している。
【選択図】
図5