(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】振動検出装置、異常検出補助システム、及び振動検出方法
(51)【国際特許分類】
F16C 19/52 20060101AFI20240731BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240731BHJP
G01M 13/045 20190101ALI20240731BHJP
【FI】
F16C19/52
G01H17/00 A
G01M13/045
(21)【出願番号】P 2024520072
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2022034065
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504011128
【氏名又は名称】中山水熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭司
(72)【発明者】
【氏名】中山 慎司
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-71354(JP,A)
【文献】特開平4-194412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/52
G01H 17/00
G01M 13/045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受で生じた振動を検出してアナログ信号に変換する振動検出部と、
前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するサンプリング部と
、
前記デジタル信号に基づく振動波形の包絡線を検出する包絡線検出部と、
前記包絡線に対して周波数分析を行い、周波数成分毎の分析値を算出する周波数分析部とを備える異常検出補助システムであって、
前記振動は、前記転がり軸受に傷が生じた場合に、所定の第一周波数で振動する第一振動区間と前記第一振動区間の後に続く第二区間とを含む繰り返し単位が、所定の繰り返し周期で繰り返されるものであり、
前記サンプリング部は、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数で
、且つ折り畳みを防止する対策をせずにサンプリング
し、折り返し雑音を含んだ前記デジタル信号に変換する異常検出補助システム。
【請求項2】
前記サンプリングの周期は、前記繰り返し周期の1/2よりも短い請求項1記載の
異常検出補助システム。
【請求項3】
前記周波数成分毎の分析値の大きさが、前記繰り返し周期の逆数である繰り返し周波数を含む周波数範囲である基準周波数範囲内において予め設定された基準値を超えたとき、異常と判定する異常判定部をさらに備える請求項
1又は2記載の異常検出補助システム。
【請求項4】
前記基準周波数範囲は、前記転がり軸受の外輪に対応付けて設定された外輪周波数範囲を含み、
前記異常判定部は、前記周波数成分毎の分析値の大きさが、前記外輪周波数範囲内において前記基準値を超えたとき、前記外輪の異常と判定する請求項
3記載の異常検出補助システム。
【請求項5】
前記基準周波数範囲は、前記転がり軸受の内輪に対応付けて設定された内輪周波数範囲を含み、
前記異常判定部は、前記周波数成分毎の分析値の大きさが、前記内輪周波数範囲内において前記基準値を超えたとき、前記内輪の異常と判定する請求項
3記載の異常検出補助システム。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載の異常検出補助システムに用いる振動検出装置であって、
前記振動検出部と、前記サンプリング部とを備える振動検出装置。
【請求項7】
転がり軸受で生じた振動を検出してアナログ信号に変換する振動検出部と、
前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するサンプリング部とを備え、
前記振動は、前記転がり軸受に傷が生じた場合に、所定の第一周波数で振動する第一振動区間と前記第一振動区間の後に続く第二区間とを含む繰り返し単位が、所定の繰り返し周期で繰り返されるものであり、
前記サンプリング部は、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数で
、且つ折り畳みを防止する対策をせずにサンプリング
し、折り返し雑音を含んだ前記デジタル信号に変換する振動検出装置。
【請求項8】
転がり軸受で生じた振動を検出してアナログ信号に変換する振動検出工程と、
前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するサンプリング工程とを含み、
前記振動は、前記転がり軸受に傷が生じた場合に、所定の第一周波数で振動する第一振動区間と前記第一振動区間の後に続く第二区間とを含む繰り返し単位が、所定の繰り返し周期で繰り返されるものであり、
前記サンプリング工程では、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数で
、且つ折り畳みを防止する対策をせずにサンプリング
し、折り返し雑音を含んだ前記デジタル信号に変換する振動検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の異常を検知するための振動検出装置、異常検出補助システム、及び振動検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道車両の軸受装置に振動検出素子を取り付け、検出した振動信号をサンプリングし、エンベロープ(包絡線)を求め、そのエンベロープに対してFFTによる周波数分析を行うことによって、軸受けの異常を診断する異常診断装置が知られている(例えば、特許文献1、段落0025、0026参照。)。
【0003】
特許文献1の段落0026には、サンプリング時間に応じて、フーリエ変換可能な最大の周波数(ナイキスト周波数)が決まるため、ナイキスト周波数以上の周波数は、振動信号中に含まれていないことが好ましいことが記載されている。ナイキスト周波数とは、サンプリング周波数の1/2の周波数のことであるから、ナイキスト周波数以上の周波数が振動信号中に含まれていないことは、サンプリング周波数を、振動信号に含まれる最も高い周波数の2倍以上にする必要があることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、振動信号に含まれる最も高い周波数の2倍以上のサンプリング周波数でサンプリングしようとすると、サンプリングを行うアナログデジタルコンバータやセンサ等の部材が高価となり、振動を検出する振動検出装置が高価になる。
【0006】
本発明の目的は、転がり軸受の異常を検知するための振動検出装置のコストを低減することが容易な振動検出装置、異常検出補助システム、及び振動検出方法を提供することである。
【0007】
本発明の一局面に従う振動検出装置は、転がり軸受で生じた振動を検出してアナログ信号に変換する振動検出部と、前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するサンプリング部とを備え、前記振動は、前記転がり軸受に傷が生じた場合に、所定の第一周波数で振動する第一振動区間と前記第一振動区間の後に続く第二区間とを含む繰り返し単位が、所定の繰り返し周期で繰り返されるものであり、前記サンプリング部は、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数でサンプリングする。
【0008】
また、本発明の一局面に従う異常検出補助システムは、上述の振動検出装置から、前記デジタル信号を取得するデジタル信号取得部と、前記デジタル信号に基づく振動波形の包絡線を検出する包絡線検出部と、前記包絡線に対して周波数分析を行い、周波数成分毎の分析値を算出する周波数分析部とを備える。
【0009】
また、本発明の一局面に従う振動検出方法は、転がり軸受で生じた振動を検出してアナログ信号に変換する振動検出工程と、前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するサンプリング工程とを含み、前記振動は、前記転がり軸受に傷が生じた場合に、所定の第一周波数で振動する第一振動区間と前記第一振動区間の後に続く第二区間とを含む繰り返し単位が、所定の繰り返し周期で繰り返されるものであり、前記サンプリング工程では、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数でサンプリングする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る振動検出装置を備えた異常検出補助システムの一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す異常検出補助システムの電気的構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】異常検出補助システムの処理の流れの一例を示す説明図である。
【
図4】転がり軸受に傷が生じた場合の振動を示すアナログ信号の、典型的な一例を示す波形図である。
【
図6】転がり軸受の構造を説明するための説明図である。
【
図7】サンプリング部によるサンプリングを説明するための説明図である。
【
図8】サンプリングによる折り畳みを説明するための説明図である。
【
図10】周波数成分毎の分析値をグラフ化して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る振動検出装置を備えた異常検出補助システムの一例を示すブロック図である。
【0012】
図1に示す異常検出補助システム1は、振動検出装置2と、異常検出補助装置3とを備えている。振動検出装置2は、例えば、異常検出対象である転がり軸受Bを備えたモータMの筐体に取り付けられている。あるいは、振動検出装置2は、モータMを備えた機械装置の筐体等に取り付けられていてもよい。振動検出装置2は、転がり軸受Bを備えたモータM等に取り付けられることによって、転がり軸受Bで生じた振動を検出可能とされている。
【0013】
転がり軸受Bは、外輪B1、内輪B2、及び転動体B3を備えている。なお、転がり軸受Bは、モータMに用いられる例に限られず、種々の用途に用いられるものでよく、振動検出装置2は、転がり軸受Bで生じた振動が伝わる箇所に取り付けられていればよい。
【0014】
図2は、
図1に示す異常検出補助システム1の電気的構成の一例を示すブロック図である。
図2に示す異常検出補助システム1は、振動検出装置2と、異常検出補助装置3とを備えている。
【0015】
振動検出装置2は、振動検出部21と、サンプリング部22と、通信部23とを備えている。振動検出部21とサンプリング部22とは、例えば加速度センサ20等として一体に構成されていてもよい。
【0016】
振動検出部21は、振動を検出してアナログ信号Aに変換し、サンプリング部22へ出力する。振動検出部21は、振動を加速度として検出するものであってよく、一軸の振動を検出するものであってよく、あるいは互いに直交するX軸、Y軸、及びZ軸方向の振動を検出し、X軸、Y軸、及びZ軸方向の振動を表すアナログ信号Ax,Ay,Azをアナログ信号Aとしてサンプリング部22へ出力してもよい。
【0017】
加速度は、振動を表す情報の一例に相当する。なお、振動検出部21は、振動を検出することができればよく、振動を加速度によって検出するものに限らない。振動検出部21は、例えば、速度によって振動を検出してもよく、変位によって振動を検出してもよい。
【0018】
サンプリング部22は、アナログ信号Aをサンプリングしてデジタル信号Dに変換し、通信部23へ出力する。サンプリング部22は、例えばアナログデジタルコンバータとして構成されている。サンプリング部22は、サンプリング周波数Fsでアナログ信号Aをサンプリングする。
【0019】
通信部23は、異常検出補助装置3と無線通信可能な通信インターフェイス回路である。通信部23は、デジタル信号Dを無線通信により異常検出補助装置3へ送信する。
【0020】
異常検出補助装置3は、例えばパーソナルコンピュータを用いて構成されている。異常検出補助装置3は、例えば演算部31、通信部32(デジタル信号取得部)、ディスプレイ33、キーボード34、及びマウス35を備えている。
【0021】
通信部32は、振動検出装置2の通信部23と無線通信可能な通信インターフェイス回路である。通信部32は、振動検出装置2から送信されたデジタル信号Dを取得し、演算部31へ送信する。通信部23,32の通信方式は、例えばWiFi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等、種々の無線通信方式を用いることができる。
【0022】
なお、通信部23,32は、無線通信を行う例に限られず、有線通信を行ってもよい。あるいは、サンプリング部22から出力されたデジタル信号Dを、メモリカード等の記憶媒体に記憶し、その記憶媒体を異常検出補助装置3が読み取ることによって、デジタル信号Dを異常検出補助装置3が取得するようにしてもよい。この場合、記憶媒体を読み取る読み取り装置がデジタル信号取得部の一例に相当する。
【0023】
また、振動検出装置2と異常検出補助装置3とが、一体の一つの装置として構成されていてもよい。この場合、通信部23,32を備える必要はなく、サンプリング部22から出力されたデジタル信号Dが、直接又は間接に演算部31へ入力されてもよい。この場合、演算部31がデジタル信号取得部の一例に相当する。
【0024】
演算部31は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成されている。演算部31は、例えば所定の演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性の記憶装置、及びこれらの周辺回路等を用いて構成されている。
【0025】
そして、演算部31は、例えば上述の記憶装置に予め記憶された異常検出補助プログラムを実行することによって、包絡線検出部311、周波数分析部312、及び異常判定部313として機能する。
【0026】
包絡線検出部311は、デジタル信号Dに基づく振動波形の包絡線を検出する。
【0027】
周波数分析部312は、包絡線検出部311によって検出された包絡線に対して周波数分析を行い、周波数成分毎の分析値を算出する。
【0028】
異常判定部313は、周波数分析部312で算出された周波数成分毎の分析値の大きさが、後述する繰り返し周期Trの逆数である繰り返し周波数Frを含む周波数範囲である基準周波数範囲内において予め設定された基準値を超えたとき、異常と判定する。
【0029】
次に、
図1に示す異常検出補助システム1の動作について説明する。
図3は、異常検出補助システム1の処理の流れの一例を示す説明図である。
図3では、通信部23,32によるデジタル信号Dの送受信は省略している。
【0030】
まず、振動検出部21が、転がり軸受Bで生じた振動を検出してアナログ信号Aに変換し、サンプリング部22へ出力する。
【0031】
図4は、転がり軸受Bに傷が生じた場合の振動を示すアナログ信号Aの、典型的な一例を示す波形図である。転がり軸受Bに傷が生じた場合、
図4に示すように、繰り返し周期Tr間隔で繰り返し単位A1が繰り返される振動波形となることが知られている。
【0032】
図5は、
図4に示す繰り返し単位A1の一例の拡大図である。繰り返し単位A1は、第一周波数F1で振動する第一区間Z1と、第一区間Z1の後に続く第二区間Z2とを含む。第二区間Z2は、第一区間Z1における振動が収束した区間である。第二区間Z2におけるアナログ信号Aの振幅は、例えば、第一区間Z1におけるアナログ信号Aの最大振幅の1/10以下となっている。
【0033】
第一区間Z1におけるアナログ信号Aの周波数は、第一周波数F1となっている。第一区間Z1におけるアナログ信号Aの周波数がばらつく場合は、ばらつき範囲の最大周波数を第一周波数F1とすればよい。
【0034】
繰り返し周期Trの逆数である繰り返し周波数Frは、転がり軸受Bの構造、回転速度、及び傷の位置によって決まることが知られている。
図6は、転がり軸受Bの構造を説明するための説明図である。転がり軸受Bの回転周波数をFb、転がり軸受Bのピッチ円直径をDa、転動体B3の直径をDb、転動体B3の接触角をR、転動体数をNとした場合、外輪B1及び内輪B2に傷が生じた場合の繰り返し周波数Frは、それぞれ下記の式(1)及び式(2)となる。
【0035】
外輪B1に傷が生じた場合の繰り返し周波数Fr=(N/2)×Fb×{1-(Db/Da)cosR} ・・・(1)
【0036】
内輪B2に傷が生じた場合の繰り返し周波数Fr=(N/2)×Fb×{1+(Db/Da)cosR} ・・・(2)
【0037】
図3を参照して、次に、サンプリング部22が、サンプリング周波数Fsでアナログ信号Aをサンプリングしてデジタル信号Dに変換する。
図7は、サンプリング部22によるサンプリングを説明するための説明図である。
図7では、アナログ信号Aの波形を破線で、デジタル信号Dで表される波形を実線で示している。また、サンプリングポイントをxマークで示している。
【0038】
サンプリング周波数Fsは、第一区間Z1におけるアナログ信号Aの周波数である第一周波数F1の2倍よりも低い。そのため、第一区間Z1におけるアナログ信号Aに対してアンダーサンプリングとなっている。
【0039】
また、サンプリング周波数Fsの逆数であるサンプリング周期Tsは、繰り返し周期Trの1/2よりも短い。従って、サンプリング周波数Fsは、繰り返し周波数Frの2倍よりも高い周波数となっている。なお、サンプリング周波数Fsは、第一周波数F1の2倍よりも低い範囲内で、なるべく高い周波数が望ましい。例えば、サンプリング周期Tsは、繰り返し周期Trの1/4よりも短く、サンプリング周波数Fsは、繰り返し周波数Frの4倍よりも高い周波数とすることがより好ましい。
【0040】
図8は、第一周波数F1の2倍よりも低いサンプリング周波数Fsでアナログ信号Aをサンプリングすることにより生じる折り畳みを説明するための説明図である。
図8では、アナログ信号Aを、横軸を周波数、縦軸を信号強度とする周波数スペクトルで表している。0.5Fsは、ナイキスト周波数となる。
【0041】
図8に示すように、振動を表すアナログ信号Aの、ナイキスト周波数(0.5Fs)よりも高い周波数の部分は、ナイキスト周波数(0.5Fs)よりも低い周波数に折り畳まれてサンプリングされる。その結果、折り畳み
図Eに示すように、異なる周波数の信号が重なり、それらの信号の強度の合計が、サンプリングされたデジタル信号Dが示す波形となる。
【0042】
このように、異なる周波数の信号が折り畳まれて重なると、振動信号の周波数や波形などは正しく把握することができず、従来「折り返し雑音」等と呼ばれ、このような折り畳みを防止する対策が必要とされてきた。しかしながら、異常検出補助システム1で検出するのはエンベロープ、すなわち全体の強度変化なので、元々複数の周波数の信号の強度の合計が一つの周波数の信号の強度として捉えられても全く支障ない。
【0043】
次に、包絡線検出部311は、サンプリング部22で生成されたデジタル信号Dから、分析対象外の直流成分を除去するオフセット除去処理を実行し、サンプリング波形D1を生成する(ステップS1)。デジタル信号Dで表される信号波形にオフセットが有ると、包絡線(エンベローブ)の形状が変わってしまう。そのため、目的とする波形が得られなくなってしまう。その結果、異常検出の検出感度が低下する。そこで、包絡線検出部311は、オフセット除去処理(ステップS1)を実行することが好ましい。
【0044】
次に、包絡線検出部311は、サンプリング波形D1に対して例えばヒルベルト変換(ステップS2)を実行することによって、サンプリング波形D1で表される信号波形の包絡線(エンベローブ)を取得し、その包絡線を表す包絡線波形D2を生成する。
【0045】
図9は、包絡線波形D2の一例を示す波形図である。
図9では、包絡線波形D2を実線で示し、仮にサンプリング周波数Fsを第一周波数F1の2倍以上としてサンプリングした場合に得られる包絡線波形Dxを破線で示している。
【0046】
包絡線波形D2は、サンプリング周波数Fsが第一周波数F1の2倍に満たず、標本化定理を満たしていない。その結果、サンプリング周波数Fsが標本化定理を満たす包絡線波形Dxと、包絡線波形D2とは、第一区間Z1で異なる波形となっている。しかしながら、包絡線波形Dxとは波形は異なるものの、包絡線波形D2においても、繰り返し周期Tr間隔で振動波形が現れる特徴は、包絡線波形Dxと同様維持される。
【0047】
すなわち、標本化定理を満たさない包絡線波形D2であっても、繰り返し周期Trの逆数である繰り返し周波数Frの周波数成分を含むことになる。
【0048】
次に、包絡線検出部311は、包絡線波形D2に対して例えば複素数の絶対値を取る処理を実行し、包絡線波形D3を生成する(ステップS3)。
【0049】
次に、周波数分析部312は、包絡線検出部311で生成された包絡線波形D3から、分析対象外の直流成分を除去するオフセット除去処理を実行し、分析対象波形D4を生成する(ステップS4)。包絡線波形D3に直流成分(オフセット)があると、ステップS5の高速フーリエ変換(FFT)を行った際に、0~2Hzにわたる強いピークが現れる。そのため、もし転がり軸受Bの傷による2Hz以下のピークがあっても、傷によるピークかオフセットによるピークか判別することができず、転がり軸受Bの異常を判定することができなくなるおそれがある。
【0050】
そこで、周波数分析部312は、ステップS4のオフセット除去処理を実行し、包絡線波形D3から直流成分を除去するオフセット除去処理(ステップS4)を実行することが好ましい。
【0051】
次に、周波数分析部312は、分析対象波形D4に基づいて、高速フーリエ変換(FFT)による周波数分析を行い、周波数成分毎の分析値D5を算出する(ステップS5)。
【0052】
図10は、周波数成分毎の分析値D5をグラフ化して示す説明図である。
図10には、比較対象としてサンプリング周波数Fsを第一周波数F1の2倍以上としてサンプリングした場合に得られる包絡線波形Dxに基づく分析値Dyを示している。
【0053】
図10に示すように、サンプリング周波数Fsが第一周波数F1の2倍に満たないアンダーサンプリングとなっている分析値D5であっても、サンプリング周波数Fsが第一周波数F1の2倍以上で標本化定理を満たす分析値Dyと同様、繰り返し周波数Frにピークが現れる。
【0054】
周波数分析部312は、周波数成分毎の分析値D5を、例えば
図10に示すように、一方の軸を周波数、他方の軸を分析値とした二次元平面にグラフ化してディスプレイ33によって表示させてもよい。ユーザは、グラフ化された分析値D5を見て、繰り返し周波数Frにおけるピークの有無を確認することによって、転がり軸受Bの異常を検知することができる。
【0055】
次に、異常判定部313は、周波数成分毎の分析値D5の大きさが、繰り返し周波数Frを含む周波数範囲である基準周波数範囲内において予め設定された基準値を超えたとき、転がり軸受Bの異常と判定する。基準値は、例えば実験的に求めて適宜設定することができる。異常判定部313は、判定結果をディスプレイ33によって表示させてもよい。
【0056】
基準周波数範囲は、外輪B1に傷が生じた場合の繰り返し周波数Frを含む外輪周波数範囲、すなわち外輪B1に対応付けて設定された外輪周波数範囲と、内輪B2に傷が生じた場合の繰り返し周波数Frを含む内輪周波数範囲、すなわち内輪B2に対応付けて設定された内輪周波数範囲とを含む。
【0057】
外輪周波数範囲としては、例えば式(1)で示す外輪B1に傷が生じた場合の繰り返し周波数Frに対して、振動検出装置2の測定誤差や包絡線検出部311及び周波数分析部312の演算誤差等を含む程度の幅を持たせた値を用いることができる。内輪周波数範囲としては、例えば式(2)で示す内輪B2に傷が生じた場合の繰り返し周波数Frに対して、振動検出装置2の測定誤差や包絡線検出部311及び周波数分析部312の演算誤差等を含む程度の幅を持たせた値を用いることができる。
【0058】
異常判定部313は、周波数成分毎の分析値D5の大きさが外輪周波数範囲内において基準値を超えたとき、転がり軸受Bの外輪B1の異常と判定し、周波数成分毎の分析値D5の大きさが内輪周波数範囲内において基準値を超えたとき、転がり軸受Bの内輪B2の異常と判定してもよい。
【0059】
以上、振動検出装置2、及び異常検出補助システム1によれば、サンプリング周波数Fsを第一周波数F1の2倍よりも低いアンダーサンプリングとしつつ、転がり軸受Bの異常を検知することが可能となる。その結果、サンプリング周波数Fsが低い、従って安価なアナログデジタルコンバータ等を用いてサンプリング部22を構成することができる。従って、転がり軸受Bの異常を検知するための振動検出装置2、及び振動検出装置2を用いる異常検出補助システム1のコストを低減することが容易となる。
【0060】
なお、異常検出補助システム1は、異常判定部313を備えなくてもよい。また、包絡線検出部311は、オフセット除去処理(ステップS1)を実行せず、デジタル信号Dに対してヒルベルト変換(ステップS2)を実行してもよい。また、包絡線検出部311は、包絡線を取得することができればよく、包絡線の取得方法はヒルベルト変換に限らない。
【0061】
また、包絡線検出部311は、複素数の絶対値を取る処理(ステップS3)を実行しなくてもよく、周波数分析部312は、包絡線波形D2に対してオフセット除去処理(ステップS4)を実行してもよい。また、周波数分析部312は、オフセット除去処理(ステップS4)を実行せず、包絡線波形D2又は包絡線波形D3に対して高速フーリエ変換(ステップS5)を実行してもよい。
【0062】
すなわち、本発明の一局面に従う振動検出装置は、転がり軸受で生じた振動を検出してアナログ信号に変換する振動検出部と、前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するサンプリング部とを備え、前記振動は、前記転がり軸受に傷が生じた場合に、所定の第一周波数で振動する第一振動区間と前記第一振動区間の後に続く第二区間とを含む繰り返し単位が、所定の繰り返し周期で繰り返されるものであり、前記サンプリング部は、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数でサンプリングする。
【0063】
また、本発明の一局面に従う振動検出方法は、転がり軸受で生じた振動を検出してアナログ信号に変換する振動検出工程と、前記アナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換するサンプリング工程とを含み、前記振動は、前記転がり軸受に傷が生じた場合に、所定の第一周波数で振動する第一振動区間と前記第一振動区間の後に続く第二区間とを含む繰り返し単位が、所定の繰り返し周期で繰り返されるものであり、前記サンプリング工程では、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数でサンプリングする。
【0064】
これらの構成によれば、第一周波数の2倍より低い低周波数でサンプリングできればよいので、サンプリングを行う部材として安価な部材を用いることが可能となる。その結果、転がり軸受の異常を検知するための振動検出装置のコストを低減することが容易となる。
【0065】
また、前記サンプリング周波数は、前記第一周波数の2倍より低いことが好ましい。
【0066】
この構成によれば、第一周波数に対して標本化定理を満たさない低周波数でサンプリングされることが明らかである。
【0067】
また、前記サンプリングの周期は、前記繰り返し周期の1/2よりも短いことが好ましい。
【0068】
この構成によれば、サンプリングされたデジタル信号には、繰り返し周期の逆数である繰り返し周波数の周波数成分が含まれる。
【0069】
また、本発明の一局面に従う異常検出補助システムは、上述の振動検出装置から、前記デジタル信号を取得するデジタル信号取得部と、前記デジタル信号に基づく振動波形の包絡線を検出する包絡線検出部と、前記包絡線に対して周波数分析を行い、周波数成分毎の分析値を算出する周波数分析部とを備える。
【0070】
この構成によれば、第一周波数の2倍より低い低周波数でサンプリングされたデジタル信号の包絡線に対する周波数成分毎の分析値が得られる。周波数成分毎の分析値を得ることができれば、その分析値から転がり軸受の異常を検知することが容易となる。
【0071】
また、前記周波数成分毎の分析値の大きさが、前記繰り返し周期の逆数である繰り返し周波数を含む周波数範囲である基準周波数範囲内において予め設定された基準値を超えたとき、異常と判定する異常判定部をさらに備えることが好ましい。
【0072】
この構成によれば、転がり軸受の異常を自動的に検知することが可能となる。
【0073】
また、前記基準周波数範囲は、前記転がり軸受の外輪に対応付けて設定された外輪周波数範囲を含み、前記異常判定部は、前記周波数成分毎の分析値の大きさが、前記外輪周波数範囲内において前記基準値を超えたとき、前記外輪の異常と判定することが好ましい。
【0074】
この構成によれば、転がり軸受の外輪の異常を自動的に検知することが可能となる。
【0075】
また、前記基準周波数範囲は、前記転がり軸受の内輪に対応付けて設定された内輪周波数範囲を含み、前記異常判定部は、前記周波数成分毎の分析値の大きさが、前記内輪周波数範囲内において前記基準値を超えたとき、前記内輪の異常と判定することが好ましい。
【0076】
この構成によれば、転がり軸受の内輪の異常を自動的に検知することが可能となる。
【0077】
また、前記振動検出装置をさらに備えることが好ましい。
【0078】
この構成によれば、振動検出装置は、異常検出補助システムに含まれる。
【0079】
なお、発明を実施するための形態の項においてなされた具体的な実施態様又は実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、本発明は、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではない。
【符号の説明】
【0080】
1 異常検出補助システム
2 振動検出装置
3 異常検出補助装置
20 加速度センサ
21 振動検出部
22 サンプリング部
23 通信部
31 演算部(デジタル信号取得部)
32 通信部(デジタル信号取得部)
33 ディスプレイ
311 包絡線検出部
312 周波数分析部
313 異常判定部
A アナログ信号
A1 繰り返し単位
B 転がり軸受
B1 外輪
B2 内輪
B3 転動体
D デジタル信号
D1 サンプリング波形
D2,D3 包絡線波形
D4 分析対象波形
D5 分析値
F1 第一周波数
Fr 繰り返し周波数
Fs サンプリング周波数
M モータ
Tr 繰り返し周期
Ts サンプリング周期
Z1 第一区間
Z2 第二区間
【要約】
振動検出装置2は、転がり軸受Bで生じた振動を検出してアナログ信号Aに変換する振動検出部21と、アナログ信号Aをサンプリングしてデジタル信号Dに変換するサンプリング部22とを備え、振動は、転がり軸受Bに傷が生じた場合に、所定の第一周波数F1で振動する第一振動区間Z1と第一振動区間Z1の後に続く第二区間Z2とを含む繰り返し単位A1が、所定の繰り返し周期Trで繰り返されるものであり、サンプリング部22は、前記アナログ信号を、前記第一周波数の2倍より低いサンプリング周波数でサンプリングする。