(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20240731BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/145 D
H03H9/145 Z
(21)【出願番号】P 2019014854
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2022-01-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 敏正
(72)【発明者】
【氏名】海老原 均
(72)【発明者】
【氏名】小林 尚都
(72)【発明者】
【氏名】北島 正幸
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-294049(JP,A)
【文献】特開昭58-138116(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119025(WO,A1)
【文献】特開2016-82570(JP,A)
【文献】特開2007-49288(JP,A)
【文献】特開2010-251889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H9/145
H03H9/25
H03H9/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられ、複数の第1格子電極を有する一対の第1反射器と、前記一対の第1反射器の間に設けられ複数の第1電極指を有する一対の第1櫛型電極とを備える第1弾性波共振器と、
前記第1弾性波共振器と直列接続または並列接続され、前記圧電基板上に設けられ複数の第2格子電極を有する一対の第2反射器と、前記一対の第2反射器の間に設けられ前記複数の第1格子電極のデュティ比の平均値とデュティ比の平均値が異なる複数の第2電極指を有する一対の第2櫛型電極とを備える第2弾性波共振器と、
前記圧電基板の前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器が設けられた面と反対の面に接合された支持基板と、
を備え、
前記一対の第1反射器の間には、前記一対の第1櫛型電極以外の櫛型電極は設けられておらず、
前記一対の第2反射器の間には、前記一対の第2櫛型電極以外の櫛型電極は設けられておらず、
前記複数の第1電極指のピッチの平均値をDb1とし、前記複数の第2電極指のピッチの平均値をDb2としたとき、|Db1-Db2|≦0.005(Db1+Db2)であ
り、
前記複数の第1格子電極のピッチの平均値をDa1とし、前記複数の第2格子電極のピッチの平均値をDa2としたとき、|Da1-Da2|≦0.005(Da1+Da2)であり、
前記複数の第1格子電極のデュティ比の平均値と前記複数の第2格子電極のデュティ比の平均値との差は1%以上かつ20%以下であるフィルタ。
【請求項2】
前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは直列接続されている請求項
1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは並列接続されている請求項
1に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第1弾性波共振器の共振周波数と前記第2弾性波共振器の共振周波数とは等しい請求項1から
3のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項5】
入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、
前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された1または複数の並列共振器と、
を備え、
前記複数の直列共振器は、前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器を含み、前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器は直列接続され、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器との間には並列共振器は接続されていない請求項1から
4のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
入力端子と出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列共振器と、
前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、
を備え、
前記複数の並列共振器は前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器を含み、前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器は並列接続され、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器との間には直列共振器は接続されていない請求項1から
4のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記複数の第1格子電極が配列する第1方向における前記一対の第1反射器の前記複数の第1格子電極の幅の合計を前記第1方向における前記一対の第1反射器の幅で除した第1デュティ比と、前記第1格子電極が配列する第2方向における前記一対の第2反射器の前記複数の第2格子電極の幅の合計を前記第2方向における前記一対の第2反射器の幅で除した第2デュティ比と、は異なる請求項1から
6のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記複数の第1格子電極のピッチの最大値と最小値の差は、|Da1-Da2|より小さく、
前記複数の第2格子電極のピッチの最大値と最小値の差は、|Da1-Da2|より小さい請求項1から
7のいずれか一項に記載のフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば櫛型電極を有するフィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波共振器では、圧電基板上に複数の電極指を有するIDT(Interdigital Transducer)および反射器が設けられている。反射器はIDTが励振する弾性波を反射しIDT内に閉じ込める。共振周波数または反共振周波数が異なる弾性表面波共振器を直列接続または並列接続することが知られている(例えば特許文献1から3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2001-510950号公報
【文献】特開2016-82570号公報
【文献】特開2017-204743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弾性表面波共振器においては、スプリアスが生じることがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、スプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられ、複数の第1格子電極を有する一対の第1反射器と、前記一対の第1反射器の間に設けられ複数の第1電極指を有する一対の第1櫛型電極とを備える第1弾性波共振器と、前記第1弾性波共振器と直列接続または並列接続され、前記圧電基板上に設けられ複数の第2格子電極を有する一対の第2反射器と、前記一対の第2反射器の間に設けられ前記複数の第1格子電極のデュティ比の平均値とデュティ比の平均値が異なる複数の第2電極指を有する一対の第2櫛型電極とを備える第2弾性波共振器と、前記圧電基板の前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器が設けられた面と反対の面に接合された支持基板と、を備え、前記一対の第1反射器の間には、前記一対の第1櫛型電極以外の櫛型電極は設けられておらず、前記一対の第2反射器の間には、前記一対の第2櫛型電極以外の櫛型電極は設けられておらず、前記複数の第1電極指のピッチの平均値をDb1とし、前記複数の第2電極指のピッチの平均値をDb2としたとき、|Db1-Db2|≦0.005(Db1+Db2)であり、前記複数の第1格子電極のピッチの平均値をDa1とし、前記複数の第2格子電極のピッチの平均値をDa2としたとき、|Da1-Da2|≦0.005(Da1+Da2)であり、前記複数の第1格子電極のデュティ比の平均値と前記複数の第2格子電極のデュティ比の平均値との差は1%以上かつ20%以下であるフィルタである。
【0009】
上記構成において、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは直列接続されている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器とは並列接続されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第1弾性波共振器の共振周波数と前記第2弾性波共振器の共振周波数とは等しい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、入力端子と出力端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された1または複数の並列共振器と、備え、前記複数の直列共振器は、前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器を含み、前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器は直列接続され、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器との間には並列共振器は接続されていない構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、入力端子と出力端子との間に直列に接続された1または複数の直列共振器と、前記入力端子と前記出力端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の並列共振器は前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器を含み、前記第1弾性波共振器および前記第2弾性波共振器は並列接続され、前記第1弾性波共振器と前記第2弾性波共振器との間には直列共振器は接続されていない構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記複数の第1格子電極が配列する第1方向における前記一対の第1反射器の前記複数の第1格子電極の幅の合計を前記第1方向における前記一対の第1反射器の幅で除した第1デュティ比と、前記第1格子電極が配列する第2方向における前記一対の第2反射器の前記複数の第2格子電極の幅の合計を前記第2方向における前記一対の第2反射器の幅で除した第2デュティ比と、は異なる構成とすることができる。
上記構成において、前記複数の第1格子電極のピッチの最大値と最小値の差は、|Da1-Da2|より小さく、前記複数の第2格子電極のピッチの最大値と最小値の差は、|Da1-Da2|より小さい構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、比較例および実施例における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図である。
【
図4】
図4は、弾性波共振器R1およびR2の通過特性を示す図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、弾性波共振器を直列に接続した場合の通過特性を示す図である
【
図6】
図6(a)は、シミュレーション1におけるスプリアスを示す図、
図6(b)は周波数に対するQ値を示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1および比較例1に係るフィルタの通過特性を示す図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(d)は、実施例2およびその変形例1から3に係るラダー型フィルタの回路図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例2の変形例4に係るフィルタの回路図、
図9(b)は、実施例2の変形例5に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照し実施例について説明する。
【実施例1】
【0019】
図1(a)は、比較例および実施例における弾性波共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、圧電基板の法線方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は圧電基板の結晶方位とは限らないが、圧電基板が回転YカットX伝搬基板のときにはX方向が結晶方位のX軸方位となる。
【0020】
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10は、支持基板10bおよび圧電基板10aを備えている。圧電基板10aは支持基板10b上に接合されている。1ポート弾性波共振器26では、圧電基板10a上にIDT24および反射器20が形成されている。IDT24および反射器20は、圧電基板10a上に形成された金属膜12により形成される。一対の反射器20は、IDT24のX方向の両側に設けられている。
【0021】
IDT24は、対向する一対の櫛型電極18を備える。櫛型電極18は、複数の電極指14と、複数の電極指14が接続されたバスバー15と、を備える。一対の櫛型電極18は、少なくとも一部において一方の櫛型電極18の電極指14と他方の櫛型電極18の電極指14とが互い違いとなるように、対向して設けられている。反射器20は、複数の格子電極16と、複数の格子電極16が接続されたバスバー17と、を備える。
【0022】
一対の櫛型電極18の電極指14が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極18のうち一方の櫛型電極18の電極指14のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。反射器20は、弾性波を反射する。これにより弾性波のエネルギーがIDT24内に閉じ込められる。
【0023】
圧電基板10aは、例えばタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または水晶基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である。支持基板10bは、例えば、単結晶サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、水晶基板またはシリコン基板等である。圧電基板10aと支持基板10bとの間に酸化シリコン膜または窒化アルミニウム膜等の絶縁膜が設けられていてもよい。支持基板10bは設けられていなくてもよい。
【0024】
金属膜12は、例えばアルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜である。アルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜と圧電基板10aとの間にチタン膜またはクロム膜等の金属膜が設けられていてもよい。波長λは例えば500nmから2500nm、電極指14および格子電極16のX方向の幅は例えば200nmから1500nm、金属膜12の膜厚は例えば50nmから500nm、弾性波共振器26の静電容量は例えば0.1pFから10pFである。圧電基板10a上に金属膜12を覆うように保護膜または温度補償膜として機能する絶縁膜が設けられていてもよい。
【0025】
図2(a)および
図2(b)は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図2(a)に示すように、端子T1とT2との間に弾性波共振器R1およびR2が直列に接続されている。
図2(b)に示すように、弾性波共振器R1およびR2の一端は端子T1とT2との間の直列経路に接続され、他端はグランドに接続されている。
【0026】
図3(a)および
図3(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図である。
図3(a)に示すように、弾性波共振器R1の反射器20における格子電極16のピッチをDa1、格子電極16のY方向の幅をWa1とする。IDT24における電極指14のピッチをDb1、電極指14のY方向の幅をWb1とする。反射器20のピッチDa1は隣接する格子電極16の中心の距離であり、IDT24のピッチDb1は隣接する電極指14の中心の距離である。2×Db1はほぼ弾性波の波長λとなる。
【0027】
図3(b)に示すように、弾性波共振器R2の反射器20における格子電極16のピッチをDa2、格子電極16のY方向の幅をWa2とする。IDT24における電極指14のピッチをDb2、電極指14のY方向の幅をWb2とする。
【0028】
弾性波共振器R1の反射器20およびIDT24のデュティ比はそれぞれPa1=Wa1/Da1およびPb1=Wb1/Db1である。弾性波共振器R2の反射器20およびIDT24のデュティ比はそれぞれPa2=Wa2/Da2およびPb2=Wb2/Db2である。
【0029】
弾性波共振器R1とR2のIDT24におけるピッチDb1とDb2は略等しく、デュティ比Pb1とPb2は略等しい。これにより、弾性波共振器R1およびR2の共振周波数は略等しく、反共振周波数は略等しくなる。弾性波共振器R1とR2の反射器20におけるピッチDa1とDa2は略等しい。デュティ比Pa1とPa2は異なり、デュティ比Pa1はPa2より小さい。
【0030】
IDT24は弾性表面波に加えバルク波を励振する。支持基板10b上に圧電基板10aを接合した弾性波共振器では、バルク波が圧電基板10aと支持基板10bとの界面で反射する。反射されたバルク波はスプリアスとなる。圧電基板10aが厚いとバルク波が圧電基板10a内で減衰しスプリアスが小さくなる。圧電基板10aの厚さが20λ以下のとき、バルク波によるスプリアスが大きくなる。
【0031】
[シミュレーション1]
弾性波共振器R1とR2の反射器20の格子電極16のデュティ比を異ならせ、弾性波共振器の通過特性のシミュレーションを行った。シミュレーション条件は以下である。
圧電基板10a:厚さが20μmの42°YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
支持基板10b:厚さが500μmのサファイア基板
金属膜12:圧電基板10a側から膜厚が50nmのチタン膜、膜厚が111nmのアルミニウム膜
IDT24のピッチ:2×Db1=2×Db2=2.13μm
IDT24の対数:152対
IDT24の開口長:21λ
IDT24のデュティ比:Pb1=Pb2=50%
反射器20のピッチ:2×Da1=2×Da2=2.15μm
反射器20の対数:10対
反射器20のデュティ比:Pa1=48%、Pa2=53%
【0032】
図4は、弾性波共振器R1およびR2の通過特性を示す図である。
図4に示すように、共振周波数frより低い周波数帯域にスプリアスA1およびA2が生成されている。スプリアスA1およびA2はバルク波に起因するスプリアスである。反射器20のデュティ比が大きい弾性波共振器R2のスプリアスA1およびA2の周波数は弾性波共振器R1のスプリアスA1およびA2の周波数より低い。このように、反射器20のデュティ比によりスプリアスが形成される周波数が異なる。弾性波共振器R1とR2の共振周波数frは略等しく、弾性波共振器R1とR2の反共振周波数faは略等しい。
【0033】
シミュレーションした弾性波共振器の通過特性から弾性波共振器を2つ直列に接続した場合の通過特性をシミュレーションした。
図5(a)および
図5(b)は、弾性波共振器を直列に接続した場合の通過特性を示す図である。R1+R1は弾性波共振器R1を2つ直列に接続した場合であり、R1+R2は弾性波共振器R1とR2を直列に接続した場合である。
【0034】
図5(a)に示すように、弾性波共振器を直列に接続すると、反共振周波数faにおける減衰量が大きくなる。共振周波数より低い周波数帯域にスプリアスA1およびA2が形成されている。
【0035】
図5(b)に示すように、R1+R2ではR1+R1に比べスプリアスA1からA3が小さい。これは、スプリアスA1からA3が形成される周波数が弾性波共振器R1とR2で異なるためと考えられる。
【0036】
反射器20のデュティ比Paを変えた弾性波共振器のスプリアスの周波数およびQ値をシミュレーションした。反射器20のデュティ比Pa以外のシミュレーション条件は
図4のシミュレーションと同じである。
【0037】
図6(a)は、シミュレーション1におけるスプリアスを示す図、
図6(b)は周波数に対するQ値を示す図である。
図6(a)に示すように、デュティ比Paが大きくなるとスプリアスA1からA3の周波数は低くなる。これは、反射器20のデュティ比が大きいと反射器20における弾性波が遅くなるためと考えられる。デュティ比Paが50%におけるスプリアスA1からA3の周期は約24MHzである。デュティ比Paが8%変わるとスプリアスA1からA3の周波数は約10MHz変化する。これにより、デュティ比Paが約20%変化すると、スプリアスA1からA3の周波数は約1周期変化する。
【0038】
図6(b)に示すように、共振周波数frと反共振周波数faの間の周波数帯域ではデュティ比Paが大きくなるとQ値が高くなる。反共振周波数faより周波数の高い帯域ではデュティ比Paが小さくなるとQ値が高くなる。このように、反共振周波数faより低い周波数帯域と高い周波数帯域とでQ値はトレードオフの関係にある。
【0039】
図6(a)のように、弾性波共振器R1とR2の反射器20のデュティ比を適切に選択すれば、弾性波共振器R1とR2とを直列に接続したフィルタのスプリアスを抑制できる。スプリアスが形成される周波数が弾性波共振器R1とR2で異なるため、フィルタとしてのスプリアスが抑制されると考えられる。このような理由と考えると、
図2(b)のように弾性波共振器R1とR2が接続されている場合においてもスプリアスが抑制される。
【0040】
[シミュレーション2]
図2(a)および
図2(b)のように弾性波共振器R1およびR2を直列接続および並列接続し端子T1とT2との間の通過特性をシミュレーションした。
【0041】
シミュレーション条件は以下である。
直列接続(
図7(a))
実施例1:デュティ比Pa1=48%、Pa2=53%
比較例1:デュティ比Pa1=Pa2=48%
並列接続(
図7(b))
実施例1:デュティ比Pa1=48%、Pa2=53%
比較例1:デュティ比Pa1=Pa2=48%
その他のシミュレーション条件はシミュレーション1と同じである。
【0042】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1および比較例1に係るフィルタの通過特性を示す図である。
図7(a)に示すように、共振周波数frより低い周波数帯域にスプリアスが生成されている。実施例1では、比較例1よりスプリアスが小さい。
図7(b)に示すように、反共振周波数faより高い周波数帯域にスプリアスが生成されている。実施例1では、比較例1よりスプリアスが小さい。
【0043】
実施例1によれば、弾性波共振器R1(第1弾性波共振器)は、格子電極16(第1格子電極)を有する一対の反射器20(第1反射器)と、一対の反射器20の間に設けられ複数の電極指14(第1電極指)を有する一対の櫛型電極18(第1櫛型電極)と、を備える。弾性波共振器R2(第2弾性波共振器)は、格子電極16(第2格子電極)を有する一対の反射器20(第2反射器)と、一対の反射器20の間に設けられ複数の電極指14(第2電極指)を有する一対の櫛型電極18(第2櫛型電極)と、を備える。弾性波共振器R2は弾性波共振器R1と直列接続または並列接続されている。
【0044】
このような構成において、弾性波共振器R2の格子電極16の平均のデュティ比Pa2(すなわちデュティ比の平均値)は弾性波共振器R1の格子電極16の平均のデュティ比Pa1(すなわちデュティ比の平均値)と異なる。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0045】
なお、弾性波共振器R1およびR2の共振周波数が異なるとスプリアス以外の通過特性が異なってしまう。そこで、弾性波共振器R2の電極指14の平均のピッチDb2(すなわちピッチの平均値)は弾性波共振器R1の電極指14の平均のピッチDb1(すなわちピッチの平均値)と略等しくする。これにより、弾性波共振器R1およびR2の共振周波数を略等しくできる。弾性波共振器R1およびR2の反共振周波数を略等しくすることが好ましい。
【0046】
電極指14の平均のピッチDbは、IDT24のX方向の幅を電極指14の本数で除することで算出できる。格子電極16の平均のデュティ比Paは、反射器20のX方向の格子電極16の幅Wbの合計を反射器20のX方向の幅で除することにより算出できる。
【0047】
平均のピッチDb1とDb2とが略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度に略等しいとの意味であり、例えば、|Db1-Db2|≦0.005(Db1+Db2)である。
【0048】
弾性波共振器R1とR2の共振周波数が略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度の略等しいとの意味である。例えば、弾性波共振器R1とR2の共振周波数の差は弾性波共振器R1とR2の共振周波数の平均の1%以内の範囲であることが好ましい。
【0049】
圧電基板10aの弾性波共振器R1およびR2が設けられた面と反対の面に接合された支持基板10bを備える。このとき、バルク波に起因するスプリアスを抑制できる。バルク波に起因するスプリアスは圧電基板10aの厚さが20λ(すなわちIDT24のピッチDb1およびDb2の40倍)以下のとき大きい。よって、弾性波共振器R1とR2でデュティ比Pa1とPa2を異ならせることが好ましい。圧電基板10aの厚さは10λ以下でもよく1λ以下でもよい。圧電基板10aの厚さは0.1λ以上でもよく、0.2λ以上でもよい。
【0050】
圧電基板10aとして36°~48°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板を用いると、IDT24が励振する弾性波は主にSH(Shear Horizontal)波となる。このとき、バルク波が励振されやすい。よって、Pa1とPa2を異ならせることが好ましい。
【0051】
基板10は支持基板10bを備えず圧電基板10aでもよい。この場合、バルク波に起因するスプリアスは小さいものの、Pa1とPa2を異ならせることで、他の不要波に起因するスプリアスを抑制できる。
【0052】
弾性波共振器R1とR2の格子電極16の平均のピッチDa1とDa2は略等しい。これにより、スプリアスを抑制できる。平均のピッチDa1とDa2とが略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度の略等しいとの意味であり、例えば、|Da1-Da2|≦0.005(Da1+Da2)である。
【0053】
弾性波共振器R1とR2の格子電極16は各々略一定であることが好ましい。これにより、スプリアスを抑制できる。平均のピッチDa1とDa2とが略等しいとは、スプリアスの抑制する効果を奏する程度の略等しいとの意味であり、例えば、反射器20内の格子電極16のピッチの最大値と最小値の差が|Da1-Da2|に比べ小さいことである。例えば、格子電極16のピッチの最大値と最小値の差は、|Da1-Da2|/2以下であり、|Da1-Da2|/10以下である。
【0054】
図6(a)のように、平均のデュティ比Pa1とPa2との差が大きすぎると、スプリアスが1周期以上変化してしまう。また、
図6(b)のように、Q値の差が大きくなってしまう。そこで、平均のデュティ比Pa1とPa2との差|Pa1-Pa2|は20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
【0055】
平均のデュティ比Pa1とPa2との差が小さすぎるとスプリアスを抑制する効果が小さくなる。そこで、平均のデュティ比Pa1とPa2との差は1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0056】
デュティ比Pa1およびPa2は、30%以上かつ70%以下が好ましく、40%以上かつ60%以下がより好ましい。
【0057】
弾性波共振器R1およびR2の反射器20の格子電極16の本数は略等しいことが好ましく、IDT24の電極指14の本数は略等しいことが好ましい。例えば弾性波共振器R1とR2との格子電極16の本数は±10%程度の範囲で等しいことが好ましく、電極指14の本数は±10%の範囲で等しいことが好ましい。
【実施例2】
【0058】
実施例2はラダー型フィルタの例である。
図8(a)から
図8(d)は、実施例2およびその変形例1から3に係るラダー型フィルタの回路図である。
図8(a)から
図8(d)に示すように、入力端子T1と出力端子T2との間に、直列に1または複数の直列共振器S1からS4が接続され、並列に1または複数の並列共振器P1からP4が接続されている。直列共振器および並列共振器の個数は適宜選択できる。
【0059】
図8(a)のように、実施例2では、少なくとも1つの直列共振器S1おいて複数の直列共振器S1aおよびS1bが直列接続されている。直列共振器S1aおよびS1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0060】
図8(b)のように、実施例2の変形例1では、少なくとも1つの直列共振器S1において複数の直列共振器S1aおよびS1bが並列接続されている。直列共振器S1aおよびS1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0061】
図8(c)のように、実施例2の変形例2では、少なくとも1つの並列共振器P1において複数の並列共振器P1aおよびP1bが直列接続されている。並列共振器P1aおよびP1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0062】
図8(d)のように、実施例2の変形例3では、少なくとも1つの並列共振器P1において複数の並列共振器P1aおよびP1bが並列接続されている。並列共振器P1aおよびP1bをそれぞれ弾性波共振器R1およびR2とする。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0063】
実施例2およびその変形例では、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4のうち1つの共振器を複数の直列接続または並列接続された弾性波共振器R1およびR2で構成したが、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP4のうち少なくとも1つの共振器を複数の直列接続または並列接続された弾性波共振器R1およびR2で構成すればよい。
【0064】
実施例2のように、弾性波共振器R1およびR2は直列接続された直列共振器S1aおよびS1bであり、直列共振器S1aとS1bとの間に並列共振器P1からP4は接続されていない。この構成は直列共振器S1を直列共振器S1aとS1bに直列分割した構成に等価である。このように、ラダー型フィルタの直列共振器S1を直列分割して、直列共振器S1aとS1bの反射器20のデュティ比を異ならせることでスプリアスを抑制できる。
【0065】
実施例2の変形例4のように、弾性波共振器R1およびR2は並列接続された並列共振器P1aおよびP1bであり、並列共振器P1aとP1bとの間に直列共振器S1からS4は接続されていない。この構成は並列共振器P1を並列共振器P1aとP1bに並列分割した構成に等価である。このように、ラダー型フィルタの並列共振器P1を並列分割して、並列共振器P1aとP1bの反射器20のデュティ比を異ならせることでスプリアスを抑制できる。
【0066】
図9(a)は、実施例2の変形例4に係るフィルタの回路図である。
図9(a)に示すように、1または複数の直列共振器S1からS4のうち2つの直列共振器が直列に接続された弾性波共振器R1およびR2でもよい。1または複数の並列共振器P1からP4のうち2つの並列共振器が並列に接続された弾性波共振器R1およびR2でもよい。これにより、スプリアスを抑制できる。
【0067】
図9(b)は、実施例2の変形例5に係るデュプレクサの回路図である。
図9(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。送信フィルタ40には大電力の高周波信号が印加される。そこで、送信フィルタ40に実施例2のフィルタを用いることが好ましい。
【0068】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0069】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 基板
10a 圧電基板
10b 支持基板
12 金属膜
14 電極指
16 格子電極
18 櫛型電極
20 反射器
24 IDT
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ