(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】金属置換ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/46 20060101AFI20240731BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240731BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C01B39/46
B01J20/30
B01J20/18 D
(21)【出願番号】P 2020075680
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019083365
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520360567
【氏名又は名称】山崎 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 康夫
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082990(WO,A1)
【文献】米国特許第03943233(US,A)
【文献】中国特許出願公開第1485136(CN,A)
【文献】特開昭54-068799(JP,A)
【文献】特開昭60-127219(JP,A)
【文献】特開2001-354412(JP,A)
【文献】米国特許第04556550(US,A)
【文献】中国特許出願公開第102849754(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/46
B01J 20/30
B01J 20/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト中のカチオンが金属イオンによりイオン交換された金属置換ゼオライトの製造方法であって、
有機構造規定剤を用いないで製造したゼオライトをケーキ状に形成する第1工程と、
第1工程で形成されたケーキ状のゼオライトの上に、該ゼオライトの表面に密着可能に多孔質シートを設置する第2工程と、
第2工程において、金属イオンを含む酸性の金属イオン交換液を、前記多孔質シートを介してケーキ状のゼオライトに通液する第3工程とを有
し、
多孔質シートが、ろ紙、織布又は不織布であって、厚さが0.22mm以上2.42mm以下であり、濾水時間が200秒以上700秒以下であり、ケーキ状のゼオライトの上面のうち、90%以上を被覆する面積を有する、金属置換ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
第2工程において、多孔質シートの上に、イオン交換液よりも比重の大きい粒子を戴置することにより、多孔質シートをゼオライト表面に密着可能に設置する、請求項1に記載の金属置換ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
粒子がアルミナボールであって2層以上戴置する、請求項2に記載の金属置換ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
多孔質シートがろ紙(JIS P 3801 5種C)である請求項1~3の何れか一項に記載の金属置換ゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機構造規定剤(OSDA)を用いないで製造したゼオライト中のカチオンを金属イオン交換した金属イオン交換体であるゼオライトを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OSDAを用いずにゼオライトを製造する方法は公知である(特許文献1)。特許文献1に記載の方法は、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水からなる反応混合物に種結晶を混ぜて、高温高圧下でゼオライトを製造する。反応混合物は、固相であるアルミノシリケートのゲルと液相であるアルカリ水溶液とを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2011/013560号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゼオライトの中の[AlO2
-]サイトのカチオンを遷移金属等の金属のカチオンにイオン交換した金属置換ゼオライトは、各種触媒活性を有し、種々の用途に用いられている。このような金属置換ゼオライトにおける金属カチオン量を高めることが、触媒活性を向上させる点から求められている。
特許文献1に記載の方法では、シリコンのアルミニウムに対する比率(SiO2/Al2O3モル比)が小さい、すなわちアルミニウム濃度の高いゼオライトが得られる。ゼオライト中のアルミニウムは通常ほとんどがゼオライト骨格内に存在するため、SiO2/Al2O3モル比が小さいゼオライトはブレンステッド酸量が大きい。このような良好なイオン交換体であるゼオライトに対して、通常のイオン交換方法、例えばゼオライト粉末を懸濁させた水中に金属カチオンを添加する方法では、ゼオライト中のカチオンを金属イオンに交換するイオン交換率が不十分である。これに対し、ゼオライトをろ紙上でケーキ状にして、そこに金属イオン塩の水溶液を流通させてイオン交換する方法(以下[ケーキ法]ともいう)によれば、ゼオライト中のアルミニウムに対して金属イオンを多く含む、すなわち高イオン交換率を有する金属イオン交換体のゼオライトを得ることができる。
【0005】
しかしながら、出願人は、上記のケーキ法では金属イオン交換液が酸性であると、イオン交換液を通液後のケーキ状のゼオライトは鉛直方向において、ゼオライトのアルミニウム濃度すなわち、SiO2/Al2O3モル比に差異がみられる場合があること、また得られたゼオライトが十分な金属濃度を有しない場合があることを知見した。このために、ケーキ状のゼオライトに酸性の金属イオン交換液を通液してゼオライトを金属イオン交換する場合、金属置換ゼオライトの品質の均一性やケーキ全体の金属イオン交換量に改善の余地があった。
【0006】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る金属カチオン交換体ゼオライトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゼオライト中のカチオンが金属イオンによりイオン交換された金属置換ゼオライトの製造方法であって、
有機構造規定剤を用いないで製造したゼオライトをケーキ状に形成する第1工程と、
第1工程において形成されたケーキ状のゼオライトの上に多孔質シートを該ゼオライトの表面に密着可能に設置する第2工程と、
金属イオンを含む酸性のイオン交換液を前記多孔質シートを介してケーキ状のゼオライトに通液する第3工程とを有する金属置換ゼオライトの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ケーキ法により酸性の金属イオン交換液で金属イオン交換する場合であっても、金属イオン交換量が高く、品質バラつきが抑制された金属置換ゼオライトを容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明は、ゼオライト中のカチオンが金属イオンによりイオン交換された金属置換ゼオライトの製造方法であって、
有機構造規定剤を用いないで製造したゼオライトをケーキ状に形成する第1工程と、
第1工程において形成されたケーキ状のゼオライトの上に多孔質シートを該ゼオライトの表面に密着可能に設置する第2工程と、
金属イオンを含む酸性のイオン交換液を、前記多孔質シートを介してケーキ状のゼオライトに通液する第3工程とを有する金属置換ゼオライトの製造方法を提供する。
【0010】
本発明者は、ケーキ状ゼオライトに酸性の金属イオン交換液を通液する場合、シリコンのアルミニウムに対する比率(SiO2/Al2O3モル比)が大きくなり、アルミニウムが除去されていること、金属イオン交換率(M/Alモル比)は高いが、ゼオライト中の金属イオンの濃度は低いことを知見した。特に通液後のケーキの中心部と上部において、金属イオン交換率に差があり、特にケーキの上部において、SiO2/Al2O3モル比が大きく、ゼオライト中の金属イオンの濃度が低い傾向があることも見出した。
【0011】
本明細書において、金属イオン交換率とは、ゼオライト中のアルミニウム濃度Alに対する金属イオン濃度Mの比率(M/Alモル比)をいう。この比率は、イオン交換し得る骨格内に存在するアルミニウムがイオン交換量であることを前提としたものである。
【0012】
上記の組成ムラや金属担持量の低下の理由は、ゼオライトのアルミニウムが酸性の金属イオン交換液によりイオン交換液中に溶出されること、特にケーキの上部でその傾向が高いことにある。
そこで、発明者は、鋭意検討した結果、イオン交換液の自由界面とケーキ状ゼオライト層との間に多孔質の介在物を設けることでイオン交換液通液時のゼオライトからのアルミニウム溶出を防止できることを知見した。具体的には、ケーキ状ゼオライトの上面に多孔質シートを密着可能に接触させ、その状態において、多孔質シートを介してケーキ状のゼオライトに酸性の金属イオン交換液を通液することで、ケーキ状ゼオライトの脱アルミニウムを効果的に抑制できることを見出した。
【0013】
(第1工程)
第1工程では有機構造規定剤を用いないで製造したゼオライト(以下、OSDAフリーゼオライト)をケーキ状に形成する。
本明細書において、有機構造規定剤を用いないで製造したとは有機構造規定剤を含まない反応混合物を加熱して得られたことを指す。反応混合物は種結晶を含んでいてもよいが、この種結晶は有機構造規定剤を用いて製造されたものであってもよい。種結晶中の有機構造規定剤は焼成して除去されていることが好ましい。OSDAフリーゼオライトの結晶型としては、MFI型、AEI型、FAU型、PAU型、MTW型、RTH型、MSE型、ベータ型等が知られているが、工業的な利用可能性、細孔径が分子レベルで大きく拡散速度が大きい点からベータ型が好ましい。例えばOSDAフリーベータ型ゼオライトの合成方法としては、例えば国際公開2011/013560号パンフレットに記載の方法を採用することができる。また、中国特許出願公開第101249968A号明細書に記載の方法も採用することができる。更に、Chemistry of Materials, Vol.20, No.14, p.4533-4535 (2008)に記載の方法を採用することもできる。他の結晶型であるOSDAフリーゼオライトの製造方法も公知である。
【0014】
OSDAフリーベータ型ゼオライトの合成方法の一例を挙げるならば、以下の通りである。
(i)以下に示す(a)又は(b)で示すモル比で表される組成の反応混合物となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、及び水を混合し、
(a) SiO2/Al2O3=10~40、特に12~40
Na2O/SiO2=0.05~0.25、特に0.1~0.25
H2O/SiO2=5~50、特に10~25
(b)SiO2/Al2O3=40~200、特に44~200
Na2O/SiO2=0.24~0.4、特に0.25~0.35
H2O/SiO2=10~50、特に15~25
(ii)SiO2/Al2O3比が8~30であり、かつ平均粒子径が150nm以上、特に150~1000nm、とりわけ200~600nmである、有機化合物を含まないベータ型ゼオライトを種結晶として用い、これを、前記反応混合物中のシリカ成分に対して0.1~20質量%の割合で該反応混合物に添加し、
(iii)前記種結晶が添加された前記反応混合物を100~200℃、特に120~180℃で密閉加熱する。平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡による観察における最大頻度の結晶の粒子直径を指す。
【0015】
シリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
アルカリ源としては、例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。従って、前記のNa2Oは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。
【0018】
第1工程においてケーキ状に形成するゼオライトの[AlO2
-]サイトのカチオン種としては、目的とするイオン交換種の金属以外のカチオンが挙げられ、具体的にはナトリウム、アンモニウムが挙げられ、アンモニウムが好ましい。この理由は以下の通りである。
シリカ源、アルミナ源、アルカリ源を含む反応混合物を加熱して得られるゼオライトは、一般にナトリウム等のアルカリ金属を含んでいる。アルカリ金属を含むゼオライトは、これを石油化学工業における触媒として用いる場合や、内燃機関の排ガス浄化用触媒として用いる場合に、所期の特性を発揮しにくい。一方、アンモニウム型ゼオライトにはこのような問題がなく、またゼオライトはナトリウム型から簡便にアンモニウム型にイオン交換できる。この理由から、反応混合物を加熱して得られる原料ゼオライトにおけるナトリウムイオンをアンモニウムイオンによるイオン交換によって除去し、アンモニウム型のゼオライトとし、このアンモニウム型のゼオライトをケーキ状ゼオライトとすることが特に好ましい。
【0019】
原料ゼオライトのアンモニウムイオンによるイオン交換には、アンモニウム化合物が用いられ、特に硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウムを用いることが好ましい。硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム化合物によってイオン交換を行う場合、塩化アンモニウムと炭酸アンモニウム、あるいは硫酸アンモニウムと炭酸アンモニウムを混合するなどして、これらの化合物の水溶液のpHを6.5~7.5にすることが好ましい。イオン交換は、アンモニウムイオンを含む水溶液を加熱した状態下に、又は非加熱の状態下に行うことができる。原料ゼオライトのアンモニウムイオンによるイオン交換は、原料ゼオライトとアンモニウムイオンとを接触させる任意の方法で行うことができるが、好ましくはフィルターケーキ法を採用し、前記の方法にて原料ゼオライトをケーキ状に成形し、これにアンモニウムイオンを含む水溶液を通液させることが、得られるアンモニウムイオン置換型ゼオライトにおけるアンモニウム交換効率を高める点で好ましい。通常、原料ゼオライトは水などで分散されたスラリーをヌッチェ(ブフナー漏斗)等に入れて水分と濾別することでケーキ状に形成される。
【0020】
アンモニウムイオンを含む水溶液を通液した後の原料ゼオライトを洗浄して、アンモニウム置換ゼオライトを得る。このアンモニウム型ゼオライトは、アルカリ金属イオンの含有量が極めて低減したものとなる。
【0021】
(第2工程)
本工程では、第1工程において形成されたケーキ状のゼオライトの上に多孔質シートを該ゼオライトの表面に密着可能に設置する。これにより酸性の金属イオン交換液をゼオライトの上部からゼオライトに注いで通液する際に、ゼオライト中のアルミニウムが金属イオン交換液に溶出することが効果的に防止される。ゼオライトケーキの表面の凹凸に追随してゼオライトケーキ表面に密着するために、多孔質シートとしては、可撓性を有するものが挙げられ、具体的には、ろ紙、織布、不織布が挙げられ、ろ紙が好ましく、特にろ紙(JIS P 3801 5種C)が好ましい。ろ紙の材質としては、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素化樹脂が挙げられ、可撓性、酸性イオン交換液に対する安定性や価格や廃棄処理の簡便性の点でセルロースが好ましく挙げられる。多孔質シートは折り曲げを有さず平坦であることが、ゼオライトへの密着性の点で好ましい。多孔質シートは1枚で用いられてもよく2枚以上積層して用いられてもよい。
【0022】
多孔質シートは、厚さが0.22mm以上2.42mm以下であることが、可撓性が高いことやアルミニウムの溶出防止効果が高い点で好ましく、0.44mm以上0.88mm以下であることがより好ましい。ここでいう多孔質シートの厚さは、複数枚積層する場合はその合計の厚さである。複数枚積層する場合はアルミニウムの溶出防止効果の点で、2枚以上6枚以下であることが好ましく、2枚以上4枚以下であることが特に好ましい。
【0023】
多孔質シートは濾過速度の制御の点で濾水時間が200秒以上700秒以下であることが好ましく、100秒以上200秒以下であってもよい。多孔質シートは、ゼオライトケーキとイオン交換液が直接接触してゼオライト中のアルミニウムが溶出するのを防止するのが目的であるので、できる限り圧力損失が大きくイオン交換液がゼオライトに濾過に要する速度以上の速度で対流や攪拌でゼオライトと接触するのを防ぐことができる圧力損失が必要であるが、一方でゼオライトケーキの厚みと下部の真空度によって濾過速度を制御しながらイオン交換を行う上で、ゼオライトケーキの濾過抵抗よりも多孔質シートの濾過抵抗が小さいことが望ましいからである。濾水時間はJISP3801によりヘルツベルヒ濾過速度試験器を使用し、10cm2の濾過面において、20℃、100mLの蒸留水を0.98kPaの圧力により濾過する時間を指す。
【0024】
多孔質シートは取り扱い性の点で破裂強さが60kPa以上150kPa以下であることが好ましく、80kPa以上120kPa以下であることがより好ましい。破裂強さはJISP8112(紙-破裂強さ試験方法)により測定した圧力を指す。
【0025】
多孔質シートは取り扱い性の点で湿潤破裂強さが8kPa以上30kPa以下であることが好ましく、10kPa以上20kPa以下であることがより好ましい。湿潤破裂強さはJISP3801により測定した圧力を指す。
【0026】
多孔質シートは、ケーキ状のゼオライトの上面の略全体を被覆する面積を有することが好ましく、具体的には、ケーキ状のゼオライトの上面のうち、90%以上を被覆する面積を有することが好ましく、99%以上を被覆する面積を有することがより好ましい。
【0027】
多孔質シートは、金属イオン交換液の通液時において多孔質シートが該ゼオライトの表面に密着可能にゼオライト上に設置する。これにより、ゼオライトからのアルミニウムの溶出が効果的に抑制される。金属イオン交換液の通液は、ヌッチェ等に形成されたケーキ状のゼオライトケーキ上に金属イオン交換液を湛液させて行う場合がある。この場合、多孔質シートの重さによっては多孔質シートが浮き上がってしまい、多孔質シートとゼオライトとの密着性が低下してしまう場合がある。このため金属イオン交換液を湛液させる場合には、金属イオン交換液よりも比重の大きい重石を多孔質シート上に戴置させることにより、多孔質シートを、金属イオン交換液の通液時において多孔質シートが該ゼオライトの表面に密着可能にゼオライト表面に密着可能に設置させることができる。重石の形状はゼオライト表面の形状により異なる。例えば重石は粒子状のものを複数用いることが、ゼオライト表面の凹凸に対する多孔質シートへの追従性を一層高めることが容易な点で好ましい。そのような粒子状の複数の重石としては、酸性の金属イオン交換液に対して安定なものが挙げられ、例えばアルミナ、ガラス、ジルコニウム、窒化ケイ素、チタニウムが挙げられる。ケーキ状のゼオライト100質量部に対し、粒子の重さは限定されないが例えば10質量部以上100質量部以下であることが多孔質シートのゼオライトへの密着性の向上や金属イオン交換効率等の点で好ましく20質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。また粒子の粒径は例えば500μm以上5mm以下であることが、取り扱いの容易性や多孔質シートのゼオライトへの密着性向上の点で好ましく、800μm以上2mm以下であることがより好ましい。また、最充重点の観点から複数の粒径の粒子を用いることも望ましい。粒子の形状は取り扱いのしやすさから球状であることが望ましく、球状以外の形状、例えば不定形であってもよい。粒子の粒径は篩分け法により測定する。粒子は1種のみ用いてもよく、材質や粒径の異なるまた2種以上を組み合わせて用いてもよい。粒子は、多孔質シート上に層状に敷き詰めることが好ましい。その場合、一層敷き詰めてもよく、二層以上敷き詰めてもよい。
【0028】
(第3工程)
第3工程では、金属イオンを含む酸性のイオン交換液を、前記多孔質シートを介してケーキ状のゼオライトに通液する。金属イオンの金属としては、Fe、Ni、Co、Cu、Mn、Zn、Sn、Ag、Li、K、Cs、Au、Ca、Mg、Pt、Pd、Rh、Ir等が挙げられる。特にFe、Co、Niは金属イオンを含むイオン交換液において酸性の還元剤を添加することで、首尾よく触媒活性に優れた二価イオン(鉄の場合は鉄(II)イオン)の置換体が得られ、産業上の本発明の意義が高い点で好ましい。
更に、本製造方法では前記のケーキ状のゼオライトのゼオライト中のカチオンの金属カチオンによるイオン交換を、当該ケーキ状ゼオライトに対し、金属イオンを含む酸性のイオン交換液を通液することにより行う。例えばアンモニウム置換型ゼオライトのケーキに銅イオン又は金属イオン含有水溶液を通液することにより該アンモニウム型ゼオライトにおけるアンモニウムイオンを金属カチオンによりイオン交換する。
【0029】
ケーキに通液させるイオン交換液としては、金属イオン含有水溶液が挙げられる。金属イオン含有水溶液の金属イオン源としては、目的とする金属の酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、塩化塩等が挙げられる。金属イオン含有水溶液における金属イオン濃度は、0.01mol/L以上0.3mol/L以下が好ましく、0.03mol/L以上0.2mol/L以下がより好ましい。金属担持量を高める点から、ゼオライト1gあたりの通液総量は、0.5~1000mlが好ましく、1~100mlがより好ましく、5~50mlが特に好ましい。また、ゼオライト1gで1分当たりの通液量(通液速度)は、0.005~20mlが好ましく、0.01~10mlが好ましい。
【0030】
特に、容器中のケーキ状のゼオライト上に金属イオン含有水溶液を注ぎ、金属イオン含有水溶液を湛液した状態とすることが、作業効率やゼオライトケーキにひび割れを生じさせない点で好ましい。湛液した状態とは例えば、目視においてゼオライト表面の大部分よりも金属イオン含有水溶液の水面が上に位置する状態を差す。湛液した状態にしないままで下部からイオン交換液を真空吸引すると、ゼオライトケーキにひび割れを生じさせ、そのひび割れを通して、イオン交換液が短絡流通して、ゼオライトケーキ全体のイオン交換が促進されないばかりか、ひび割れの部分だけイオン交換液が流通することで、その部分のアルミニウムの溶出が過度に進行する場合があるからである。例えば、ゼオライト表面の90%以上、特に95%以上よりも金属イオン含有水溶液の水面が上に位置する状態を差す。このような湛液した状態は、ケーキ状のゼオライトに金属イオン含有水溶液を注いだ時点でのみ観察される場合であっても該当するものとする。
【0031】
ケーキ状のゼオライトに金属イオン含有水溶液を通液する際には、下方によって水分を減圧吸引することが加圧チャンバーの準備などが必要ないことから操作の簡便性の点で好ましい。減圧吸引の程度は、上記の通液速度となるように調整することが好ましい。
【0032】
金属イオン含有水溶液の好ましいpHは2~6.5、特に2.1~5である。本発明で用いるpHを酸性とするために、金属イオン含有水溶液は酸を含むことが好ましい。この酸は、アルミニウムが溶出しにくく、金属イオンのイオン交換を妨げにくいものが好ましい。例えば、アスコルビン酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、アミノ酸が挙げられる。例えば、金属イオン交換液が金属イオンとしてFe(II)イオンを有する場合、Fe(II)イオンをFe(III)イオンに酸化されることを防止する酸としてアスコルビン酸が好ましい。また、酸ではないが、アスコルビン酸に代わる還元剤としてアミンを用いることもできる。鉄(II)イオン含有水溶液中におけるアスコルビン酸の含有量は、添加する二価の鉄のモル数の0.1~10倍、特に0.5~8.5倍とすることが、二価の鉄の酸化を効果的に防止する観点から好ましい。
【0033】
アンモニウム置換ゼオライトのケーキは、上述した通り、アンモニウム置換ゼオライトを水等の溶媒に懸濁したスラリーを調製し、これを濾過板上で濾過させることにより形成する。鉄(II)イオン交換の場合には、このスラリーにも、アスコルビン酸を含有させておくことが好ましい。このスラリー中のアスコルビン酸の量は、アンモニウム置換ゼオライト100質量部に対して1質量部以上150質量部以下であることが、二価の鉄の酸化を効果的に防止する観点から好ましい。
【0034】
通液後の金属置換ゼオライトは洗浄後、乾燥や焼成してもよい。
【0035】
ケーキ法を用いると、ゼオライトを銅イオン含有水溶液中に分散させる従来の方法に比べて、金属イオン交換液とゼオライトとの接触時間が短いため、金属イオン交換液の組成制御が容易であり、ゼオライトに含まれるイオン交換サイトに対して高い割合で金属イオンを保持させることができる。しかも、本発明では、イオン交換液が酸性の場合であっても、ゼオライトに含まれるイオン交換サイトであるアルミニウムの溶出を効果的に防止でき、ケーキの鉛直方向におけるSiO2/Al2O3モル比や金属イオン交換率(M/Alモル比)を均一なものとすることができる。
従って、金属イオン交換量が高く、品質の高い金属置換ゼオライトが得られる。金属置換ゼオライトは触媒となる場合は、単位体積当たりの触媒活性点が高く、結果として触媒単位体積当たりの活性が高くなるほか、均一な触媒活性が得られる。
【0036】
このようにして得られた本実施形態の金属置換ベータ型ゼオライトは、固体酸触媒や吸着剤として有望なものであり、更に詳細にはパラフィンを接触分解する触媒、例えば石油化学工業における長鎖炭化水素(例えばヘキサン)のクラッキング触媒として特に有望であり、また、ガソリンエンジン及びディーゼルエンジン等の各種内燃機関の排ガス浄化用ハイドロカーボントラップとしても有望なものである。
【実施例】
【0037】
〔製造例1〕
(1)種結晶の合成
水酸化テトラエチルアンモニウムをOSDAとして用い、アルミン酸ナトリウムをアルミナ源とし、微粉状シリカ(MizukasilP707)をシリカ源とする従来公知の方法により、165℃、96時間、攪拌加熱を行って、SiO2/Al2O3モル比が24.0のベータ型ゼオライトを合成した。これを電気炉中で空気を流通しながら550℃で10時間焼成して、OSDAを含まない結晶を製造した。この結晶を走査型電子顕微鏡により観察した結果、平均粒子径は280nmであった。この有機物を含まないベータ型ゼオライトの結晶を、種結晶として使用した。
【0038】
(2)OSDAフリーベータ型ゼオライトの合成
純水13.9gに、アルミン酸ナトリウム0.235gと、36質量%水酸化ナトリウム1.828gを溶解して水溶液を得た。微粉状シリカ(Cab-O-sil、M-5)2.024gと、前記の種結晶0.202gを混合したものを、少しずつ前記の水溶液に添加して攪拌混合し、反応混合物を得た。この反応混合物におけるSiO2/Al2O3モル比は70、Na2O/SiO2モル比は0.3、H2O/SiO2モル比は20であった。この反応混合物を60mLのステンレス製密閉容器に入れて、熟成及び攪拌することなしに140℃で34時間、自生圧力下で静置加熱した。密閉容器を冷却後、生成物を濾過、温水洗浄して白色粉末を得た。この生成物についてX線回折測定を行ったところ、不純物を含まないベータ型ゼオライトであることが確認された。組成分析の結果、そのSi/Alモル比は6.4であった。
【0039】
〔実施例1〕
(1-1)アンモニウム置換ゼオライトの調製
製造例1で得られたナトリウム型のOSDAフリーベータ型ゼオライトを1400gとり、8500ml、60℃の水に懸濁し、下部に真空ビンを接続した直径330mmのヌッチェに5Cのろ紙をおきその上に注ぐことで、厚さ2cm程度のゼオライトケーキを形成した。
次に、塩化アンモニウムと炭酸アンモニウムを水に溶解してpHを7に調整したイオン交換液を用意し、40℃とし上記のゼオライトケーキに注ぎ下部の真空によって除去する操作を5回繰り返した。
次に、イオン交換液を60℃に加温し、ゼオライトケーキに注ぎ、過剰な溶質を洗浄した。洗浄度合いは、洗浄液のpH及び電気伝導度を測定し、所定値(pH=7、30μS/m)となるまで行った。得られたアルミニウム置換ゼオライトのSi/Alモル比は4.5であった。
【0040】
(1-2)ケーキ状のゼオライトの形成
水5360mlに、アスコルビン酸1080gを加えて溶解させた後に、実施例1の(1-1)で得られたアンモニウム置換ベータ型ゼオライトを1074g投入し、400rpmで、10分程度攪拌した。得られたスラリーを下部に真空ビンを接続した直径330mmのヌッチェにろ紙(アドバンテック社製「No.5C、直径330mm、厚さ0.22mm、濾水時間570秒、破裂強さ92kPa、湿潤破裂強さが12kPa、保持粒子径 1μm)をおきその上に注ぐことで、厚さ2cm程度のゼオライトケーキを形成した。
【0041】
(2)多孔質シートの設置
上記(1-2)で得られたゼオライトケーキの上に、その表面全体を被覆する面積を有するろ紙(1-1と同一のもの)を三枚積層して置いた。更にその上に、直径1mmの球状のアルミナボール(ニッカトー社製、SSA-995)を2層(一部3層の箇所もある)敷き詰めた。アルミナボールは合計重量は410gであった。
(3)イオン交換液の通液
次に、水14430mlに、アスコルビン酸を溶解させた後に、硫酸鉄(II)七水和物を加えて溶解させて、鉄(II)イオン濃度を0.1mol/L、アスコルビン酸濃度を0.74mol/Lに調整した鉄イオン交換液(25℃、pH2.13)を用意した。これを4分割してそれぞれ1回分とし、その1回分(3607ml)を多孔質シート及びアルミナボールを介してゼオライトケーキに注ぎ、下部の真空によって除去する操作を4回繰り返した。操作はゼオライトケーキ表面全体が水面下に存在する湛液状態が維持されるように行った。1回の除去にかける10分間~30分間程度となるように真空度を調整した。上記の過程において、ゼオライトケーキの表面よりもイオン交換液の自由界面が上に位置する湛液状態を数回観察した。
次に、純水をゼオライトケーキに注ぎ、過剰な溶質を洗浄した。洗浄度合いは、洗浄液のpH及び電気伝導度を測定し、所定値(pH=7、40μS/m)となるまで行った。
得られたケーキ層がウェットの状態で上層及び下層に二等分し、上層及び下層それぞれのFe/Alモル比率、Si/Alモル比率、Fe濃度、Na濃度、Al濃度を上記の方法にて測定分析した。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
(1)懸濁ゼオライトでのイオン交換
実施例1の(2)で調製した鉄イオン交換液中に実施例1の(1-1)で得たアンモニウム型ゼオライト粉末を添加し、120分間懸濁させた。下部に真空ビンを接続した直径80mmのヌッチェに5Cのろ紙をおきその上に懸濁物を注ぐことで、厚さ1cm程度の銅置換ゼオライトケーキを形成した。
次に、純水をゼオライトケーキに注ぎ、過剰な溶質を洗浄した。洗浄度合いは、洗浄液のpH及び電気伝導度を測定し、所定値(pH=7、30μS/m)となるまで行った。これを取り出して乾燥した。得られたゼオライトのFe/Alモル比率、Si/Alモル比率、Fe濃度、Na濃度、Al濃度を上記の方法にて測定分析した。結果を表1に示す。表1の%は質量%を示す。
【0043】
(比較例2)
実施例1において、上記(2)多孔質シートの設置を行わなかった。その点以外は、実施例1と同様にして、ウェット状態の鉄置換ゼオライトを得、実施例1と同様にして、組成分析を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
表1に示すように、比較例1では、イオン交換率を示すFe/Alモル比が低く、イオン交換が不十分であった。
また、比較例2では、比較例1に比してFe/Alモル比が高いものの、Fe濃度が比較例1に比して低いことが示すように、ゼオライト質量当たりの鉄イオン濃度が比較例1に比して十分に向上しない結果となった。比較例2では特に上層においてSi/Alモル比が高くなっていることから、酸性のイオン交換液に起因して、特に上層においてゼオライト中からアルミニウムが溶出し、ゼオライト中の[AlO2
-]サイトが減り、これに起因してイオン交換率が低下したものと考えられる。
これに対し、本願実施例1では、上層でのSi/Alモル比が高くなることが抑制され、Alの溶出が効果的に抑制されている。その結果、Fe/Alモル比及びFe濃度が高いという顕著な効果を奏することが示された。