(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】吊架線保護カバー
(51)【国際特許分類】
B60M 1/22 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
B60M1/22 F
(21)【出願番号】P 2019168022
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修平
(72)【発明者】
【氏名】小林 武弘
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-043537(JP,A)
【文献】特開平06-099766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に沿って二分割された半円筒部と、半円筒部の一端に鍔部と、他端に半径方向に突出し、前記鍔部に有する嵌合凹部にはめ込み可能な嵌合凸部とをそれぞれ備えた一対の分割体からなり、両分割体を半円筒部の軸線方向に互い違いに係合させることにより吊架線周りに糸巻状に組まれ、前記鍔部と嵌合凸部とのはめ込み位置で両者に係合するストッパにより軸線方向に抜け止めされて前記両分割体が固定される吊架線保護カバーであって、
前記鍔部は、前記嵌合凸部との並び方向に開口して前記ストッパを挿通させる通し孔を備え、
前記ストッパは、弾性的に縮小変形して原形より狭小幅の前記通し孔を貫通でき、先端部が抜け出たら復元して通し孔の出口側の開口縁に係合し抜け止めするように側方へ突出するロック用突起を具備し、
前記嵌合凸部は、前記鍔部との嵌合状態で前記通し孔を通した抜け止め位置で前記ストッパに係合して前記鍔部と嵌合凸部の軸線方向の相対移動を阻止する係合部と、この係合部における前記ストッパの貫通方向の対向部に前記鍔部との嵌合状態における前記通し孔を通した抜け止め位置で前記ストッパを受け入れて軸線方向の相対移動を阻止する切り欠き部とを具備し、
前記ストッパは、前記切り欠き部に進入する基部と、この基部の進入方向先端部の上下両側部から前方に延出し、相互間を弾性的に縮小変形可能に後方へ折り返され
、係合位置への途上で前記通し孔に抜け止めする保持用突起及び前
記ロック用突起をそれぞれ備えた一対の脚部とを具備するものにおいて、
前記ストッパの前記基部は、脚部の相互間を前方に突出した位置決め凸部を具備し、
前記嵌合凸部の前記係合部は、前記鍔部と嵌合凸部との嵌合状態において前記位置決め凸部を受け入れて前記ストッパを係合位置に位置決めする一方、鍔部と嵌合凸部との軸線方向のずれがある不完全嵌合状態においてストッパの係合位置への進入途上で前記位置決め凸部の受け入れを妨げる位置決め凹部を具備することを特徴とする吊架線保護カバー。
【請求項2】
前記半円筒部とストッパは、識別可能な異なる明度で着色されていることを特徴とする請求項1に記載の吊架線保護カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電車線路において吊架線にハンガイヤを介してトロリ線を吊支するために、吊架線上のハンガイヤの掛け止め箇所に装着される吊架線保護カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吊架線保護カバーは、軸線方向に沿って二分割された半円筒部と、半円筒部の一端に鍔部と、他端に半径方向に突出し、鍔部の嵌合凹部に嵌め込み可能な嵌合凸部とをそれぞれ備えた一対の分割体を半円筒部の軸線方向に互い違いに係合させることにより吊架線周りに糸巻状に組み付けて構成している(特許文献1)。一対の分割体は、鍔部及び嵌合凸部間にストッパを係合させて固定する。ストッパは、弾性的に縮小変形させて鍔部の通し孔に貫通させ、嵌合凸部の係合凹部に係合させる一方、先端部が通し孔を抜け出たら原形に復帰して通し孔から抜け止めする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の吊架線保護カバーにおいては、一対の分割体の組み付けが不完全で嵌合凹部と嵌合凸部が軸線方向にずれた位置にあっても、ストッパを正常な係合位置に配置できるので、吊架線への装着不良を認識し難く、鉄道の運行時に振動で脱落する危険がある。吊架線への装着が運行時間外の夜間作業になる為手元が暗いなどの視認性の劣悪な状況では、半円筒部及びストッパが暗色系の同一色のため、識別性に難点があり、分割体の組み付け不良を一層確認し難くしている。
そこで、本発明は、分割体の組み付け不良に伴う装着不良の危険を未然に防止する吊架線保護カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明においては、軸線方向に沿って二分割された半円筒部3と、半円筒部3の一端に鍔部4と、他端に半径方向に突出し、鍔部4の嵌合凹部8にはめ込み可能な嵌合凸部5とをそれぞれ備えた一対の分割体2,2を半円筒部3の軸線方向に互い違いに係合させることにより吊架線周りに糸巻状に組み付ける吊架線保護カバーを構成する。鍔部4と嵌合凸部5の間をストッパ11で係合させて両分割体の分離を阻止する。鍔部4は、嵌合凸部5との並び方向に開口してストッパ11を挿通させる通し孔9aを備える。嵌合凸部5は、通し孔9aに挿入したストッパ11が係合して鍔部4と嵌合凸部5の軸線方向の相対移動を阻止する係合部10を備える。ストッパ11は、弾性的に縮小変形させて原形より狭小幅の通し孔9aに貫通させ、先端部が抜け出たら原形に復帰して通し孔9aに抜け止めするための側方へ突出するロック用突起13bを備える。嵌合凸部5における係合部10は、通し孔9aに挿入して抜け止め位置にあるストッパ11に係合して鍔部4と嵌合凸部5の軸線方向の相対移動を阻止する一方、鍔部4と嵌合凸部5の軸線方向にずれた不完全嵌合状態でストッパ11の係合位置への進入を妨げる。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、一対の半円筒部の組み付けが不完全で嵌合凹部と嵌合凸部が軸線方向にずれた位置にあれば、ストッパが嵌合凹部の係合部により係合位置への進入を妨げられて係合できないし、ストッパが通し孔に対する抜け止め位置で係合部に係合することによるクリック音がないので、吊架線への吊架線保護カバーの装着異常を認識でき、吊架線に確実に装着できる。
また、ストッパを暗所において両分割体と識別可能な明度にすれは、吊架線への装着作業が手元の暗い状況などであっても視認性が良好で、ストッパの半円筒部に対する位置関係が明確になり、係合操作を確実に行うことができるので、吊架線に一層確実に装着できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る吊架線保護カバーの斜視図である。
【
図6】
図1の吊架線保護カバーの分解斜視図である。
【
図7】
図1の吊架線保護カバーのストッパの係合前の状態の一部拡大斜視図である。
【
図8】
図1の吊架線保護カバーのストッパの係合状態の一部拡大斜視図である。
【
図9】
図1の吊架線保護カバーの正面図であり、(A)はストッパを抜いた状態、(B)はストッパが保持位置にある状態、(C)はストッパがロック位置にある状態を示す。
【
図10】
図1の吊架線保護カバーの断面図であり、(A)はストッパの係合状態、(B)はストッパの係合阻害状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1実施例を図面を参照して説明する。
図1ないし
図5において、吊架線保護カバー1は、円筒部の両端に鍔部を備えた糸巻き状をなす。
図6に示すように、吊架線保護カバー1は、円筒部が軸線方向に沿って二分割され、一端に鍔部4をそれぞれ備えた合成樹脂製の一対の分割体2,2を鍔部4が両端に配置されるように互い違いに組み付けて構成される。
【0009】
分割体2は、吊架線保護カバー1の円筒部を軸線に沿って二分した半円筒部3と、これら半円筒部3の一端に半径方向に拡がる鍔部4と、半円筒部3の他端に軸線直交方向に延出する嵌合凸部5とを具備する。半円筒部3の側縁部には、互いを組み付ける際にスライド係合可能な軸線方向の溝6と突条7とを備えている。鍔部4には、半円筒部3の円弧状側面の軸線に対して反対側の中央部に嵌合凸部5がはまる嵌合凹部8を備える。半円筒部3には他方の分割体2の鍔部4に突き当たって位置決めする円弧状突起3aを有する。
【0010】
鍔部4及び嵌合凸部5の外側面には、外側に向かって張り出しストッパ11を介して結合される貫通保持部9及び係合部10を備える。貫通保持部9には、係合部10に向かって開口する軸線直交方向の矩形の通し孔9aを備える。係合部10は、軸線方向に延出する板状を成す。係合部10の貫通保持部9に面した側面には、嵌合凸部5の外側面と先端部から貫通保持部9側に突出した掛け部10cにより形成される反対側面に向かう切り欠き10aと、切り欠き10aから反対側面に向かってさらに凹んだ位置決め凹部10bとを備える。
【0011】
ストッパ11は、黒色系の分割体2と異なる明度である白色系を有して、分割体2と目視にて明確に識別できる断面略M字状の弾性合成樹脂材で構成される。ストッパ11は、後部上下角部を面取りした直方形状の基部12と、この基部12の先端面の上下両側部から前方に延出してから上下に折り返され、基部12を挟んで上下に対向し、基部12の後方までそれぞれ延びる一対の脚部13と、基部12の脚部13,13間から前方に突出した位置決め凸部14を具備する。脚部13は、前端同士及び後端同士を接近可能な上下に弾性変形可能な板状をなし、上下幅より狭小な通し孔9aに挿入できる。脚部13の前端部及び中間部の上下外側面には、貫通保持部9の通し孔9aを通過したら原形への戻りにより通し孔9aの出口側の開口縁部に抜け止めする保持用突起13a及びロック用突起13bを有する。両突起13a,13bは、挿入方向前側面が通し孔9aに円滑に挿入され、後側面が通し孔9aの開口縁部に引っ掛かるようにくさび状をなす。保持用突起13aは、貫通保持部9にストッパ11を保持して分割体2に一体に組み付けておき紛失を防止できる。ロック用突起13bは、ストッパ11を通し孔9aに押し込んで掛け部10cが基部12の側面上に至る係合位置でストッパ11を抜け止めする。位置決め凸部14は、通し孔9aに差し込むストッパ11をと、係合部10の係合凹部10b内に進入して係合位置に位置決めする一方、半円筒部3,3の組み付け不完全により鍔部4と嵌合凸部5とに軸線方向のずれが生じている嵌合不十分の状態で、掛け部10cに係合位置への進入を妨げられて、分割体2,2の固定を阻止する。
【0012】
この吊架線保護カバー1を吊架線に装着するには、
図6に示すように、吊架線を挟んで一対の分割体2,2の半円筒部3を軸線方向に互い違いに配置し、溝6と突条7をスライド係合させて、鍔部4の嵌合凹部8に嵌合凸部5を嵌め込む。次いで、
図9に示すように、一対の分割体2,2の組み付け状態で固定部9の通し孔9aにストッパ11を差し込む。ストッパ11は、
図7に示すように、固定部9の通し孔9aに予め通して一体に組み込んでおいてもよい。ストッパ11の両脚部13の後端部を上下につまんで先端部を通し孔9aに押し込めば、先端部が上下に縮小変形して、通し孔9aに挿入することができる。ストッパ11は、保持用突起13aが通し孔9aから出ると、原形に復帰して通し孔9aの出口側の開口より拡がるので縁部に掛かり抜け止めされ、固定部9に保持される。さらにストッパ11を通し孔9aに押し込むと、脚部13,13間が狭まるように幅方向に縮小変形して、通し孔9aをロック用突起13bが通過すると、原形に復帰して通し孔9aの開口より拡がるので縁部に掛かり抜け止めされる。この状態で、
図8,
図10(A)に示すように、ストッパ11の基部12が係合部10の切り欠き10a内に、また位置決め凸部14が位置決め凹部10bに進入して係合し、この係合位置で掛け部10cが基部12の側面上に至り鍔部4と嵌合凸部5との軸線方向の移動を阻止し分割体2,2を固定する。もし、
図10(B)に示すように、半円筒部3,3の組み付け時に、鍔部4と嵌合凸部5とが軸線方向にずれた嵌合不十分の状態であれば、ストッパ11を通し孔9aに押し込んでも、位置決め凸部14が位置決め凹部10bへの進入を妨げられ、またストッパ11のロック用突起13bが通し孔9aを通過する時のスナップ係合のクリック音がしないことによって装着不良を確認できる。
一方、吊架線保護カバー1を吊架線から取り外すには、ストッパ11の両脚部13の後端部を横につまんで幅方向に縮小変形させながら通し孔9aから引き出し、ロック用突起13bが入口側開口を抜け出れば、ストッパ11が係合部10の切り欠き10aから離脱するので、分割体2,2を軸線方向にスライドさせて分離することができる。ストッパ11は、一方の分割体2の固定部9に組み付けておけば、紛失が防止される。
【符号の説明】
【0013】
1 吊架線保護カバー
2 分割体
3 半円筒部
3a 円弧状突起
4 鍔部
5 嵌合凸部
6 溝
7 突条
8 嵌合凹部
9 貫通保持部
9a 通し孔
10 係合部
10a 切り欠き部
10b 位置決め凹部
10c 掛け部
11 ストッパ
12 基部
13 脚部
13a 保持用突起
13b ロック用突起
14 位置決め凸部