(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/0683 20060101AFI20240731BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240731BHJP
H01L 31/12 20060101ALI20240731BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20240731BHJP
H01L 33/58 20100101ALI20240731BHJP
H01L 33/60 20100101ALI20240731BHJP
【FI】
H01S5/0683
G02B3/00 A
H01L31/12 H
H01L31/12 E
H01S5/022
H01L33/58
H01L33/60
(21)【出願番号】P 2019215255
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】常友 啓司
(72)【発明者】
【氏名】日下 哲
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-060299(JP,A)
【文献】特開2012-163904(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0342853(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00ー 5/50
H01L 33/00ー33/64
G02B 3/00ー 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子からの入射光の放射角度を拡大して照射する放射角度変換素子と、
前記入射光に対する前記放射角度変換素子の反射光を受光する受光素子と、
前記受光素子の検出値に基づいて、前記発光素子の光出力を制御する制御部と、
を備える発光装置であって、
前記放射角度変換素子は、基板と、前記基板の一方の主面上に二次元配列された複数のマイクロレンズとを備え、
前記マイクロレンズは、所定の方角における前記反射光の強度が極大値を有するように形成されており、
前記受光素子は、前記所定の方角における前記反射光を受光するように配置されることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記マイクロレンズの表面は、接平面角度が45°以上となる曲面を含むことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記マイクロレンズは、平面視において略長方形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記マイクロレンズの長辺方向に接平面角度が45°以上となる曲面が含まれることを特徴とする請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光素子は、所定の波長の光を出射し、
前記放射角度変換素子は、前記基板の他方の主面上に形成された誘電体多層膜をさらに備え、
前記誘電体多層膜は、入射角度が所定の角度以上である場合の前記所定の波長における透過率が、入射角度が0°である場合の前記所定の波長における透過率よりも減少する透過率スペクトルを有することを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載の発光装置。
【請求項6】
前記誘電体多層膜は、入射角度が0°である場合の前記所定の波長における透過率が70%以上であり、入射角度が45°である場合の前記所定の波長における透過率が30%以下であることを特徴とする請求項
5に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置や照明装置、表示装置、スクリーン等に関し、特にマイクロレンズアレイなどの表面上に凹凸の構造物を備える放射角度変換素子を用いた光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入射光を様々な方向に散乱または角度変換させる放射角度変換素子は、ディスプレイの表示装置やスクリーンなどに使用され、さらに均一な照明強度を得る目的で、照明装置などの多種多様な装置に広く利用されている。一般的には、発光素子から出た光の放射角度を拡大する場合が多い。
【0003】
近年、光放射角度や角度毎の強度分布の均一化、あるいは拡散光を投影した際の面内強度の均一化など、さらに高度な性能が求められるようになってきた。例えば、アレイ状の面発光型レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)から、所定の角度で放射された光を、より広い角度範囲に拡散させ、かつ拡散角度に異方性を持たせたい、といったニーズがある。
【0004】
光を拡散させたり、その放射角度を拡大するなどして変換させる素子には、いくつかの種類がある。例えば平板の内部に、微小空間を分散させた構造としたり、微粒子を分散させたりしたようなもの(例えば、半透明樹脂板)、基材の表面に微小な凹凸をランダムにつけたもの(例えば、表面をエッチング等で荒らしたガラス)、基材の表面を加工して設計された凹凸を形成したもの(例えば、回折型素子)、基材の表面にレンズを多数並べたもの(例えば、マイクロレンズアレイ)などが知られている。
【0005】
これらの中で、マイクロレンズアレイを使った放射角度変換素子は、透過率が高く、拡散角度の制御が容易なため、高度な拡散性能を要求される場合に採用される(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-42772号公報
【文献】特開2017-9669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、発光素子から出射される光の強度は、発光素子に流す電流を増減することで制御される(定電流制御)が、発光素子の周囲温度によって光出力が変わる、あるいは、使用時間に応じて発光素子が劣化して光出力が変わるなど、一定電流を流す制御方法では、光出力が経時的に変化する現象が現れる。そのため、発光素子の近傍に受光素子(フォトダイオードなど)を設置し、発光素子の光出力をモニタして、そのモニタされた光出力を一定に保つような制御方法が一般的に採用されている(定出力制御)。このとき、受光素子によって検出される光(モニタ光)として、発光素子から周囲に放射される散乱光や、発光素子の外側に設置されたカバーガラス、カバーガラス上に形成された放射角度変換素子、筐体などで散乱される光が利用される。
【0008】
発光素子からの光出力を、受光素子によってその一部を検出し、そのモニタ結果を制御に利用する場合、当然ながら、受光素子で検出される光のパワーの大きい方が、ノイズやバックグラウンドなどの光との区別がつきやすいうえ、SN比(S/N)の高い信号の検出をするうえで有利なため検出精度の向上を図ることができ、検出回路も簡単になるので望ましい。しかしながら、従来技術では、通常、受光素子は利用する光の光路の障害にならない位置、もしくは物理的な構造上、都合のよい位置に配置されることが優先される。その結果、必ずしもSN比の高いとはいえない散乱光などの一部をモニタ光として利用するため、受光素子で検出される光のパワーが小さく、発光素子からの光出力が変動した場合に、その検出感度の向上を図りにくいという事情がある。そうすると、発光素子からの光出力の変動を所定の精度や確度の範囲内で抑制できない場合が生じ、アプリケーションによっては問題となる可能性がある。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、放射角度変換素子を用いた発光装置において、モニタ光の検出精度を向上することにより、光出力の変動を抑制し、安定した明るさの光を継続的に照射できる発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の発光装置は、発光素子と、発光素子からの入射光の放射角度を変換して照射する放射角度変換素子と、入射光に対する放射角度変換素子の反射光を受光する受光素子と、受光素子の検出値に基づいて、発光素子の光出力を制御する制御部とを備える。放射角度変換素子は、基板と、基板の一方の主面上に二次元配列された複数のマイクロレンズとを備える。マイクロレンズは、所定の方角における反射光の強度が他の方角よりも特異的に増加するように形成されており、受光素子は、所定の方角における反射光を受光するように配置される。
【0011】
マイクロレンズの表面は、接平面角度が45°以上となる曲面を含んでもよい。
【0012】
マイクロレンズは、平面視において略長方形状であってもよい。
【0013】
マイクロレンズの長辺方向に接平面角度が45°以上となる曲面が含まれてもよい。
【0014】
発光素子は、所定の波長の光を出射し、放射角度変換素子は、基板の他方の主面上に形成された誘電体多層膜をさらに備えてもよい。誘電体多層膜は、入射角度が所定の角度以上である場合の所定の波長における透過率が、入射角度が0°である場合の所定の波長における透過率よりも減少する透過率スペクトルを有してもよい。
【0015】
誘電体多層膜は、入射角度が0°である場合の所定の波長における透過率が70%以上であり、入射角度が45°である場合の所定の波長における透過率が30%以下であってもよい。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放射角度変換素子を用いた発光装置において、モニタ光の検出精度を向上することにより、光出力の変動を抑制し、安定した明るさの光を継続的に照射できる発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る発光装置を示す概略断面図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、放射角度変換素子を示す図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、マイクロレンズを示す図である。
【
図5】マイクロレンズアレイにおけるマイクロレンズの数学的な形状の一例を示す図である。
【
図6】発光素子および放射角度変換素子の配置と、特定の方角における反射光の強度が増加する部分との関係を示す図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、発光素子および放射角度変換素子の配置と、特定の方角における反射光の強度が増加する部分との関係を示す図である。
【
図8】横軸を経度、縦軸を緯度として、反射光の強度分布を二次元的に表した図である。
【
図9】
図8について経度90°における反射光強度を表した図である。
【
図10】
図8について緯度33°における反射光強度を表した図である。
【
図11】マイクロレンズの長辺方向において反射光強度増加部が現れる機序を説明するための図である。
【
図13】マイクロレンズの短辺方向において反射光強度増加部が現れない機序を説明するための図である。
【
図14】反射光強度増加部を確認する実験を説明するための図である。
【
図15】マイクロレンズの長辺方向から、参照光を入射させたときの概略図である。
【
図16】
図15に示すように参照光を入射させたときの反射光の観測図である。
【
図17】放射角度変換素子の条件を変えたときの反射光の観測図である。
【
図18】マイクロレンズの短辺方向から、参照光を入射させたときの概略図である。
【
図19】
図18に示すように参照光を入射させたときの反射光の観測図である。
【
図20】変形例に係る放射角度変換素子を説明するための図である。
【
図21】変形例に係る放射角度変換素子における誘電体多層膜の透過率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る発光装置10を示す概略断面図である。この発光装置10は、発光素子12と、発光素子12からの入射光ILの放射角度を変換して、出射光OLとして照射する放射角度変換素子14と、入射光ILに対する放射角度変換素子14の反射光RLを受光する少なくとも一個の受光素子15と、受光素子15の検出値に基づいて、発光素子12の光出力を制御する制御部17と、を備える。
【0021】
本実施形態において、発光素子12は、VCSELアレイである。他の実施形態では、発光素子12は、FP型の半導体レーザや発光ダイオード(LED)やそれらのアレイなどであってもよい。
【0022】
図2(a)~(c)は、放射角度変換素子14の概略的な図を示す。
図2(a)は、放射角度変換素子14の平面図である。
図2(b)は、放射角度変換素子14の長辺方向の側面図である。
図2(c)は、放射角度変換素子14の短辺方向の側面図である。
【0023】
放射角度変換素子14は、基板16と、基板16の一方の主面上に形成されるマイクロレンズアレイ18とを備える。
【0024】
基板16は、光の利用効率を高めるという観点から、適用される波長範囲内で透明であることが望ましい。基板16の材質は、石英、ガラスや透明樹脂から選択されてよい。ガラスとしては、これらに限られないが、ソーダライムガラス、白板硝子、ホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、リン酸系ガラス、フツリン酸系ガラスなどを使用することができ、機能別では低誘電率ガラスや無アルカリガラス、高屈折率ガラス、光学ガラスなどの多成分系ガラス、強化ガラスなどを使用することができる。透明樹脂としては、これらに限られないが、環状(ポリ)オレフィン樹脂、芳香族ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、シリコーン系樹脂などを使用することができる。
【0025】
マイクロレンズアレイ18は、
図2(a)に示すように、基板16の一方の主面上に、複数のマイクロレンズ20が二次元に配列されたものである。マイクロレンズアレイ18は、基板16の一方の主面上に、基板16と同じもしくは基板16とは異なる材料で層の形態で形成されてよい。なお、
図2(a)において区画された略長方形内に複数の同心円が記入されているが、これは等高線的に凸または凹面の態様を平面上で表現したものであり、このような同心円が実際に描かれているわけではないことに留意する。他の図面においても同様である。
【0026】
マイクロレンズアレイ18を形成する材料としては、光の利用効率の観点から透明性が高いものがよく、成形性も加味すると透明樹脂もしくは透明な有機-無機ハイブリッド材料でもよい。マイクロレンズアレイ18を構成する材料としては、これらに限られるものではないが、硬化性樹脂としては、加熱もしくは紫外線などの光を照射することで硬化が可能な樹脂や硬化剤や触媒などの作用により硬化が可能な樹脂を含み、エポキシ系樹脂、(不飽和)ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂などを使用することができる。さらに、熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、(環状)ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用することができる。また、有機-無機ハイブリッド材料としては、Si(シリコン)のアルコキシドを加水分解及び縮重合して得られるゾルゲル硬化物などを使用することができる。
【0027】
上記の材料のうち、基板16の一方の主面上に未硬化の樹脂によって塗膜を形成したのちに、金型によって所望の形状を転写して作製する方法である2P(ツーピース)成形方法においては、これらに限られないがエポキシ系やアクリル系などの硬化性樹脂を使用することが望ましい。一方で、マイクロレンズアレイ18を射出成型方法によって作製する場合においては、熱可塑性樹脂を使用することもありうる。
【0028】
図3(a)~(c)は、マイクロレンズ20を示す。
図3(a)は、マイクロレンズ20の平面図である。
図3(b)は、マイクロレンズ20の長辺方向の側面図である。
図3(c)は、マイクロレンズ20の短辺方向の側面図である。
【0029】
本実施形態において、マイクロレンズ20は、凸性の曲面であり中心軸Axに対称な形状である。他の実施形態では、マイクロレンズは、本発明の作用効果を奏する限り凹性の曲面であってもよい。具体的な形状としては、球面の一部からなる球面形状や、それ以外の非球面形状であってもよい。非球面形状は、中心軸Axに近い範囲においては球面に近似された近軸曲率半径を備える場合もあり、さらに、求められる光学的仕様と、形成のしやすさなどから、適宜高次係数を有する一定の数式で表される。非球面形状は中心軸Axからの距離に従ってその曲率が変動するものであり、設計の自由度が非常に高いが、反面複雑性が高くなる。他の実施形態では、マイクロレンズは本発明の作用効果を奏する限り球面形状であってもよい。設計や仕様選択の自由度が低くなるが、曲率が一定のため金型なども含めて作製しやすいメリットがある。また、本発明の作用効果を奏する限り、中心軸に対称でない曲面やレンズであってもよい。
【0030】
マイクロレンズ20は、配列する面内の直交する二方向について有効範囲が異なり、長辺方向における有効範囲は、短辺方向における有効範囲より大きく、さらに対角方向における有効範囲は、長辺方向における有効範囲より大きい。本実施形態で用いたマイクロレンズアレイ18の個々のマイクロレンズ20は、平面視において略長方形状である。
【0031】
図3(a)~(c)に示すマイクロレンズ20において、凸性の曲面を「レンズ面20a」とし、マイクロレンズ20の中心軸Axとレンズ面20aとの交点を「マイクロレンズ頂点20b」とし、略長方形であるマイクロレンズ20の周囲を「マイクロレンズ周端部20c」とし、マイクロレンズ頂点20bからレンズ面20aに沿ってマイクロレンズ周端部20cに達し、レンズ面20aの等高線の直角となるレンズ面20a上の仮想線を「マイクロレンズ母線20d」とし、中心軸Axからレンズ面20aまでの距離(変数)を「r」とする。
【0032】
図4は、放射角度変換素子14の概略拡大断面図である。
図4に示すように、軸対称の面を有するマイクロレンズ20の中心軸Axに垂直な面VPと、レンズ面20a上の一点における接平面TPとのなす角θを「接平面角度θ」とする。本実施形態では、平行平板状の基板16の一方の主面上にマイクロレンズアレイ18が形成され、もう一方の主面がフラットな面となっている。マイクロレンズアレイ18が、その中心軸Axが発光素子12から出射される光ILの進行方向と平行になるように配置されるとき、マイクロレンズアレイ18の形成されていないフラットな主面は、マイクロレンズ20の中心軸Axに垂直な面VPに対応する。
【0033】
図5は、マイクロレンズアレイ18におけるマイクロレンズ20の数学的な形状の一例を示す。
図5において、実線は、距離r[mm]に対するレンズ面の座標(Z[mm])を表す。破線は、距離rに対する接平面角度θ[°]を表す。r=0は、マイクロレンズ20の中心軸Axに対応する。
図5から分かるように、接平面角度θは、中心軸Axから離れるに従って大きくなる。中心軸Axに対称な凸面形状を備え、平面視で略長方形状のマイクロレンズ20においては、長辺方向、さらに対角方向に、より大きな接平面角度θを有する曲面が現れる。
図5には、短辺方向、長辺方向および対角方向におけるマイクロレンズ20の範囲が図示されている。
【0034】
本実施形態においては、マイクロレンズ20は、距離rが大きくなるに従い、レンズ面の座標Zが小さくなる凸性の非球面形状のレンズであり、マイクロレンズを構成する材料は十分に透明であり、短辺方向のエリアは0.0081mm×2=0.0162mmであり、長辺方向のエリアは0.0125mm×2=0.025mmであり、対角線方向のエリアは0.0149mm×2=0.0298mmである。
【0035】
本実施形態で用いたマイクロレンズアレイ18においては、短辺方向、長辺方向および対角方向におけるマイクロレンズ20のエリアにおいて、いずれの方向においても、接平面角度θが、45°以上となる曲面とその範囲が現れる。本実施形態においては、接平面角度θが45°となるような中心軸Axからの距離は0.0048mmであるので、短辺方向、長辺方向および対角方向の各方向について、角度θが45°以上となる範囲をそれぞれrth
(S)、rth
(L)、rth
(D)とすると、それらの値は、rth
(S)=0.0033mm、rth
(L)=0.0077mm、rth
(D)=0.0101mmである。
【0036】
マイクロレンズアレイ18の製造方法として、2P(ツーピース)成形法を用いることができる。2P成形法では、マイクロレンズアレイ18の形状が反転された金型を、基板16の一方の主面上に展開した未硬化の樹脂などに押し当てて、その金型の形状を樹脂に転写しながら加熱もしくは紫外線などの光の照射によって硬化させる。その後、金型を離形することで基板16と一体化したマイクロレンズアレイ18を得ることができる。さらに、加熱してポストキュアを行ってもよい。この場合、硬化がさらに促進し、その剛性や機械的強度、耐候性などの向上が期待できる。このような転写による成形法においては、一定の大きさの基板16上に、一気にすべてのマイクロレンズ20を形成するような金型を用いることもできる。
【0037】
別の製造方法としては、ステップアンドリピート法を用いることができる。ステップアンドリピート法では、求められる基板より小さいサイズに対応した金型を用いて、数回~数十回の転写を繰り返して、求められるより大きなサイズの基板上にマイクロレンズ20を形成する。また、金型を用いてマイクロレンズアレイ18を製造する方法としては射出成型方法などがある。しかしながら、マイクロレンズアレイ18の製造方法はこれらの方法に限定されない。
【0038】
上記のような放射角度変換素子14と、発光素子12(VCSELアレイ)とを組み合わせて、
図1に示すような発光素子12から出射された光ILを所定の放射角度または拡散角度を有する光OLに変換し、前方に照射する発光装置10を構成した。光の放射角度を変換するとは、マイクロレンズ20を出射した光が、屈折や散乱等により、所定の角度にわたって拡大や拡散する作用であり、その方角や場所によらず光強度の大きな偏りや分布が小さいものは、均一照明などの用途に有効である。
【0039】
本発明者は、このように放射角度変換素子14と、発光素子12とを組み合わせて発光装置10を構成した場合に、発光素子12と、放射角度変換素子14との配置に対して、所定の方角における反射光RLが、特異的にその強度を増すことを見出した。さらに発明者は、その反射光RLをモニタ光として受光するようにPD(Photo Diode)やAPD(Avalanche Photo diode)などの受光素子15を配置することにより、モニタ光の検出精度を向上できるという思想に至った。
【0040】
図1に示すように、制御部17は、発光素子12および受光素子15に接続されている。制御部17は、受光素子15の検出値を発光素子12の駆動電流にフィードバックして発光素子12の光出力を一定に保つ制御(定出力制御)を行う。本実施形態においては、受光素子15でモニタされる反射光RLは強度が高く、SN比が高いので、安定した明るさの光を継続的に照射できる発光装置10を実現できる。
【0041】
図6および
図7(a)~(c)は、発光素子12および放射角度変換素子14の配置と、特定の方角における反射光RLの強度が増加する部分との関係を示す図である。反射光RLの強度が特異的に増加する部分を「反射光強度増加部60」とする。ここでは、各要素の配置と反射光強度増加部60の位置を表すために、極座標(球座標)と、一部、経度と緯度の考え方によって球Sの表面の位置を表すことにする。
【0042】
発光素子の中心Osと、放射角度変換素子14の中心Mと、それらを結ぶ線分OsMは、球Sの軸A上にある。軸Aは球Sの中心Oを通過する。発光素子12や放射角度変換素子14の中心とは、発光素子12や放射角度変換素子14の平面視における対角線の交点近傍でもよいし、適宜定めた発光素子12や放射角度変換素子14の中央部分における点でもよいし、そのほか光学的あるいは幾何学的に定められる中心でもよい。ここでは、発光素子12や放射角度変換素子14の中心は、発光素子12の光出射面や放射角度変換素子14の表面にあり、平面視における光出射面や放射角度変換素子14の表面の対角線の交点とした。
【0043】
発光素子12は、その中心Osが球Sの表面上にあるように配置される。放射角度変換素子14は、中心Mが球Sの中心Oと一致するように配置される。放射角度変換素子14は、上述のように、平行な主面を有する基板16の少なくともいずれか一方の主面上に複数のマイクロレンズ20を配列させて形成したものであり、マイクロレンズ20は発光素子12に相対しており、マイクロレンズ20の光軸Axは軸Aに平行である。発光素子12から出射した光は、軸Aに略対称に進み、放射角度変換素子14におけるマイクロレンズアレイ18が形成された面である面ML1から入射する。放射角度変換素子14におけるもう一方の面ML2は平面であり、面ML2から光は出射する(
図1参照)。面ML2は後述の赤道面Eqと平行であり、軸Aに垂直である。また、軸A上にあって、点Oに対して点Osの対称な点を点Rとする。
【0044】
マイクロレンズアレイ18のマイクロレンズ20がその平面視(点Oから垂直にみた視点)で略長方形状であって、二次元に密に配列されている場合を考える。ここで、点Mを通りマイクロレンズ20の長辺と平行な直線が球Sと交わる点を点As、点Bsとし、点Mを通りマイクロレンズ20の短辺と平行な直線が球Sと交わる点を点Cs、点Dsとする。
【0045】
経度0°は、Os-Ds-Rを結ぶ子午線であり、経度90°はOs-As-Rを結ぶ子午線であり、経度180°はOs-Cs-Rを結ぶ子午線であり、経度270°はOs-Bs-Rを結ぶ子午線である。
【0046】
緯度0°は、球Sの周りをAs-Cs-Bs-Dsを結ぶ線で表される。これは観念上赤道に対応する。緯度90°は、点Osに対応する。これは観念上、極の一つに対応する。放射角度変換素子14の中心Mは、As-Cs-Bs-Dsで囲まれた赤道面Eq上にある。
【0047】
中心Osを含む発光素子12から所定の角度で放射された光は、理想的には軸Aに対称に進み、赤道面Eq上に配置された放射角度変換素子14の面ML1に入射する。放射角度変換素子14に入射した光は、表面のマイクロレンズ20の作用により、その放射角が変換(拡大)されて放射角度変換素子14の面ML2から出射する。放射角度変換素子14から出射した光は所定の放射角度で、点Rの方向に向かって進む。
【0048】
一実施例に係る放射角度変換素子14では、2.8mm×2.3mm×厚さ0.3mmのガラス基板(D263 T eco)上に、紫外線硬化性アクリル系樹脂を用いて、2P成形法によって、マイクロレンズ20を形成した。マイクロレンズ20は、その曲面形状が、中心軸からの距離をr[mm]とすると、Z[mm]=0.0231-104.43×r2+7735.5×r4で表される軸対称性の凸性の非球面形状である。
【0049】
マイクロレンズアレイ18の各マイクロレンズ20は、長辺の長さが0.025mmであり、短辺の長さが0.0162mmであり、対角線の長さは0.0298mmである平面視で長方形状であり、Sagの最大値は長辺方向が0.0161mmであり、短辺方向が0.0068mmであり、対角方向が0.0231mmである。マイクロレンズアレイ18においては、マイクロレンズ20がガラス基板上に12000個(長辺方向に100個、短辺方向に120個)隙間なく配列されている。
【0050】
このようなマイクロレンズアレイ18について、BRDF(双方向反射率分布関数)を測定した。BRDFの測定は装置としてRadiant Zemax社製IS-SAを用いた。BRDFは、マイクロレンズアレイ18に対して、基板16の主面(例えば面ML2)と垂直な方向から、平行光を照射し、マイクロレンズアレイ18のまわりに配された半球ドームに投影された反射光の強度を測定した。BRDFの測定は、445nm、555nmおよび595nmの各波長を含む三種類の光源について行った。上記の球座標の観念と、測定結果とをリンクさせて説明する。
【0051】
図8、
図9および
図10は、BRDFによる測定結果を示す。
図8、
図9および
図10は、特に555nmの波長を含む光を照射したときの測定結果であるが、445nmおよび595nmの波長の光を照射したときであっても測定結果は殆ど変らなかった。
【0052】
図8は、横軸を経度、縦軸を緯度として、反射光の強度分布を二次元的に表した図である。
図8では0°~180°にわたる経度の範囲において、光強度を求めたが、180°~360°の経度範囲(Cs-Bs-Ds)においてもほぼ対称な強度分布が現れる。
【0053】
図9は、
図8について経度90°における反射光強度を表した図であり、横軸は緯度、縦軸は光の強度(任意単位)を表している。
【0054】
図10は、
図8について緯度33°における反射光強度を表した図であり、横軸は経度、縦軸は光の強度を表している。
【0055】
図8~
図10から、発光素子12からの光を、所定の形状パラメータを備える放射角度変換素子14によって拡散等させる場合に、それぞれの要素の配置に対して、所定の方角に反射光強度が大きくなる特異点(すなわち、反射光強度増加部60)が存在しうることがわかる。この実施例においては、経度90°および270°(この方角は、放射角度変換素子14の中心Mからみて、放射角度変換素子14の長辺方向と一致することに注意する)近傍であり、且つ緯度が33°近傍に反射光強度増加部60が現れる。
【0056】
したがって、本実施形態に係る発光装置10のように、反射光強度増加部60にPDやAPDなどの受光素子15を配置することによって、余分な部品や要素を加えることなく、SN比の良好なモニタ光を得ることが可能となり、安定した明るさを継続的に発揮できる発光装置10を実現できる。
【0057】
本発明者は、このような反射光強度増加部60が生じる機序について検討した。本発明者は、様々な実験から以下の知見を得た。
1)反射光強度増加部60は、球座標でいうところの発光素子12を含む半球に現れる。
2)放射角度変換素子14の面ML1からの直接の反射光は寄与しない。透明誘電体から成るマイクロレンズアレイ18の表面からの正反射の強度はわずかである。
3)マイクロレンズアレイ18のマイクロレンズ20間のギャップなどの散乱によっても、直接的に反射光強度増加部60が形成されているのではない。これは、ギャップを黒く染めて光学的な反射光の寄与をなくしても、同様の結果が得られたからである。
4)マイクロレンズ20の接平面角度θの大きさが大きくなるほど反射光強度増加部60が顕著に表れる。これは勾配の強い面をマイクロレンズ20が含むときである。
5)反射光強度増加部60は、子午線Os-As-Rと子午線Os-Bs-R上の点を中心に分布的に生じる。逆に、反射光強度増加部60は、子午線Os-Ds-Rと子午線Os-Cs-Rと重なって形成されない。
【0058】
マイクロレンズ20は、その形状が非球面形状で、数学的には中心近傍の曲率半径rと高次項を有し、中心軸Axの周りに対称である。接平面角度θは中心軸Axから離れるにつれて大きくなる。先述のように、マイクロレンズ20は、平面視で長方形状であるので、マイクロレンズ20の中心軸Axから短辺方向のエッジまでの距離は、中心軸Axから長辺方向のエッジまでの距離より短い。従って、接平面角度θはマイクロレンズの長辺方向、さらに対角方向のほうが大きくなる。
【0059】
図11は、マイクロレンズ20の長辺方向において反射光強度増加部60が現れる機序を説明するための図である。
図11は、マイクロレンズ20の中心軸を通り、マイクロレンズ20の長辺方向に平行な断面を示したものである。
図12は、
図11の一部の拡大図である。
【0060】
マイクロレンズアレイ18に入射した光のうち、第1マイクロレンズ20(1)の裾(中心軸から比較的離れた部分)の近傍に入射した光IL1は、接平面TP(1)に対する入射角度が大きい場合は、全反射に近い強度で反射され、隣接する第2マイクロレンズ20(2)に入射する。このときは第2マイクロレンズ20(2)の接平面TP(2)に対する入射角度は小さいので、わずかな反射損失でマイクロレンズアレイ18の内部に入射し伝搬する。光IL1は、面ML2によって反射しマイクロレンズ側に向かう。次いでマイクロレンズの曲面に達した光IL1は、第3マイクロレンズ20(3)を透過してマイクロレンズアレイ18から再び出射し、発光素子12を含む半球側のエリアに進む。
【0061】
上記の機序を想定した場合、マイクロレンズ20の表面は、接平面角度θが45°以上となる曲面を含む必要がある。接平面角度θが45°以上となる曲面を含まないマイクロレンズの場合、第1マイクロレンズ20(1)の表面で反射された光が直接的に、
図6で示した発光素子12を含む上半球のエリアに進むが、その光強度は小さいために反射光強度の高い特異なエリアは形成されにくい。
【0062】
マイクロレンズ20の表面は、接平面角度θが50°以上となる曲面を含むことが望ましく、接平面角度θが55°以上となる曲面を含むことが望ましく、接平面角度θが60°以上となる曲面を含むことがさらに望ましい。マイクロレンズ20の表面がこのような曲面を含む場合、第1マイクロレンズ20(1)の表面で反射される強度が大きくなるとともに、第2マイクロレンズ20(2)から入射して、マイクロレンズアレイ18の内部を伝搬、反射して、第3マイクロレンズ20(3)から出射する反射光の強度も大きくなる。したがって、反射光強度増加部60が形成される。
【0063】
反射光強度増加部60の形成に、放射角度変換素子14の面ML2が寄与していることは、面ML2に直接につやなし黒色で塗装、すなわち面ML2への入射を実質的にゼロとすることによって、反射光強度増加部60が形成されないという事情から分かった。
【0064】
また、面などの界面からの反射光の強度(反射率)は、入射角度がゼロ(垂直入射)の場合は4%程度であるが、フレネル反射の原理から、入射角度が大きく、特に50°を超えるあたりから10%を超える反射率を呈することは周知である。このことから、反射光強度増加部60の形成の元となる光の、面ML2への入射角度も大きいほうが、反射光強度が大きくなる傾向がある。従って、面ML2への入射角度は45°以上であり、50°以上が好ましく、55°以上がさらに好ましい。
【0065】
反射光強度増加部60がいずれの方角に形成されるかは、マイクロレンズ20の形状や実質的な密度、マイクロレンズアレイ18の厚み、基板16の厚みなどによって変動し得る。
【0066】
以上は、接平面角度θが45°以上となる曲面を有するマイクロレンズ20の長辺方向の事情である。このような曲面を有するエリアが小さいまたは備えることがないマイクロレンズ20の短辺方向では、このような反射光強度増加部60が形成されない。
図13は、マイクロレンズ20の短辺方向において反射光強度増加部60が現れない機序を説明するための図である。
図13は、マイクロレンズ20の中心軸を通り、マイクロレンズ20の短辺方向に平行な断面を示したものである。
【0067】
図13に示すように、第1マイクロレンズ20(1)の裾の近傍に入射した光IL2は、上述のマイクロレンズ20長辺方向の場合とは異なり、第1マイクロレンズ20(1)の面ML1からマイクロレンズアレイ18内に入射し、面ML2から出射する。従って、マイクロレンズ20の短辺方向では、長辺方向で発生したような発光素子12を含む半球側のエリアに進む光は生じない、または生じたとしても非常に少ないので、反射光強度増加部60が形成されない。
【0068】
本発明者は、以上の事情について実験的に確認した。
図14は、反射光強度増加部を確認する実験を説明するための図である。上記のBRDFによる測定に供した放射角度変換素子14について、
図14で示したように、面ML1の側から、基板16の主面(面ML2)に対して60°の入射角で光を入射させたうえで、マイクロレンズアレイ18から垂直上方に出射される光を金属顕微鏡で観測した。これは強度が特異的に大きくなる反射光が形成されるときと、逆の光路で光を入射させた場合の光学特性を理解することによって、光の逆進性から、反射光強度が特異的に増大する部分が存在するということを説明するものである。
【0069】
図15は、マイクロレンズ20の長辺方向から、参照光を入射させたときの概略図である。
図16は、
図15に示すように参照光を入射させたときの反射光の観測図である。
図16では、同心円状の「影72」が配列しているのが確認できるが、これはマイクロレンズ20から垂直な方向に反射された参照光の分布である。
図16においては、平面視略長方形状のマイクロレンズ20の長辺方向であって、中心軸から離れた部分に、新月状の光強度の大きい部位70が観測できる。光の逆進性の観点から、マイクロレンズ20の長辺方向であって、中心軸から離れた部分に入射する光が原因となって、反射光強度増加部が形成されることが理解できる。
【0070】
図17は、放射角度変換素子14の条件を変えたときの反射光の観測図である。ここでは、放射角度変換素子14の面ML2をつやなし黒色で塗装したのちに、
図15と同じ観測方法で、反射光を観測した。その結果、
図16に示す観測図と異なり、マイクロレンズ20の長辺方向であって、中心軸から離れた部分に、新月状の光強度の大きい部位は観測されなかった。このことから、特異的な方角に形成される反射光強度増加部の形成は、放射角度変換素子14の平面状の面ML2からの反射が寄与していることが裏付けられる。
【0071】
図18は、マイクロレンズ20の短辺方向から、参照光を入射させたときの概略図である。
図19は、
図18に示すように参照光を入射させたときの反射光の観測図である。
図19から分かるように、マイクロレンズ20から垂直な方向に反射された反射光の分布(影72)は見られるが、反射光の強度の大きい部分は観測されない。この実験結果から、マイクロレンズ20の短辺方向では、反射光強度増加部が形成されないことが確認された。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る発光装置10では、所定の方角における反射光RLの強度が他の方角よりも特異的に増加するようにマイクロレンズ20を形成した。そして、その所定の方角における反射光RLをモニタ光として受光するように受光素子15を配置した。これにより、モニタ光の検出精度を向上することができるので、安定した明るさを継続的に発揮できる発光装置10を実現できる。
【0073】
また、本実施形態に係る発光装置10では、モニタ光を受光素子に効率よく導くための部品(たとえばハーフミラーのような分光素子)を取りつける必要がない。したがって、余分な部品や要素を加える必要がないので、安価な発光装置10を実現できる。
【0074】
図20は、変形例に係る放射角度変換素子114を説明するための図である。
図20に示す放射角度変換素子114は、基板16と、基板16の一方の主面上に形成されるマイクロレンズアレイ18と、基板16の他方の主面ML2上に形成される誘電体多層膜19と、を備える。
【0075】
図21は、変形例に係る放射角度変換素子114における誘電体多層膜19の透過率スペクトルを示す。
図21において、実線は、誘電体多層膜19への入射角度が0°のときの透過率スペクトルを表し、破線は、誘電体多層膜19への入射角度が所定の角度(0°より大きい)のときの透過率スペクトルを表す。本変形例において、誘電体多層膜19は、入射角度が所定の角度以上である場合の所定の波長λoにおける透過率が、入射角度が0°である場合の所定の波長λoにおける透過率よりも減少する(反射率が増加することと同義)透過率スペクトルを有する。例えば、誘電体多層膜19は、入射角度が0°である場合の所定の波長λoにおける透過率が70%以上であり、入射角度が45°である場合の所定の波長λoにおける透過率が30%以下である。
【0076】
上述した反射光強度増加部60を構成する光線は、面ML2への入射角度が所定の角度(上記実施例では45°)以上である光線である。一方、誘電体多層膜19は、入射角度が増加するとともに、透過率スペクトル全体が短波長方向にシフトする特性を備える。従って、所定の角度以上における透過率スペクトルにおいて、用いる光の波長λoにおける透過率が小さい(反射率が大きい)誘電体多層膜19を面ML2上に備えることにより、特定の方角に形成される反射光強度増加部60における光強度をさらに増加することができる。波長λoにおいて反射率の増加を期待する入射角度と反射率は、求められる光学特性に応じて適宜決定すればよい。
【0077】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0078】
上述の実施形態では、長辺方向にのみに接平面角度θが45°以上となる曲面を備える、平面視で略長方形状のマイクロレンズについて説明したが、本発明のマイクロレンズに求められるのは、発光素子と放射角度変換素子と配置に対して、反射光強度の増大する特異的な方角が存在することである。したがって、平面視で略長方形状のマイクロレンズは、長辺方向に加えて短辺方向についても接平面角度θが45°以上となる曲面を有していてもよい。
【0079】
また、マイクロレンズの形状は平面視で略長方形状に限られず、平面視で略正方形状、台形状、平行四辺形状、ひし形状などであってもよい。また、マイクロレンズアレイに含まれるマイクロレンズは、すべて同一形状である必要はない。
【0080】
上述したように、反射光強度の増大する方角は、マイクロレンズの光学的または幾何学的な特性に依存する。マイクロレンズアレイは、これらの特性が異なる複数のマイクロレンズを含んでもよい。この場合、反射光強度の増大する方角が複数現れる放射角度変換素子を構成できる。
【符号の説明】
【0081】
10 発光装置、 12 発光素子、 14 放射角度変換素子、 15 受光素子、 16 基板、 17 制御部、 18 マイクロレンズアレイ、 19 誘電体多層膜、 20 マイクロレンズ、 20(1) 第1マイクロレンズ、 20(2) 第2マイクロレンズ、 20(3) 第3マイクロレンズ、 60 反射光強度増加部、 114 放射角度変換素子。