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  • 特許-低次酸化チタンの粉末及び分散体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】低次酸化チタンの粉末及び分散体
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019226621
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021095301
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 拓人
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119269(WO,A1)
【文献】特開2012-246203(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107522226(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106337158(CN,A)
【文献】特開2018-131370(JP,A)
【文献】清野学,酸化チタン 物性と応用技術 第1版,日本,技報堂出版株式会社,1991年,pp.270-273
【文献】大野悟 外4名,超微粒子の光触媒機能に関する研究,科学技術庁金属材料技術研究所研究報告集22,2000年,pp.97-105
【文献】石垣隆正,高温の熱プラズマ発生とセラミックス材料合成,Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan,日本,2007年,Vol.14,No.331,pp.423-428
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均球形度が0.7以上であり、Ti 、Ti 、及びTi を含む、低次酸化チタンの粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の粉末と、分散媒と、を含有する分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低次酸化チタンの粉末及び分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンを還元することによって得られる低次酸化チタン(還元型酸化チタンとも呼ばれる)は、構成元素であるチタンと酸素との比率に応じて異なる色を示し、当該比率を適切に調整することにより黒色となることが知られている。そのため、表面が低次酸化チタンで構成される粒子は、黒色顔料等の顔料として種々の用途に利用することができる。例えば特許文献1には、板状粒子上に低次酸化チタンの単層を形成させることで外観色と干渉色の色調が異なる二色性を呈する顔料を用いた化粧料が開示されている。また、黒色顔料などの用途として、特許文献2では、還元剤にNaBHを用いて作製した黒色酸化チタン粉末が開示されている。特許文献3では、酸化チタンを高温のアンモニアガスと反応させて作製した酸窒化チタン粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-280607号公報
【文献】特開2012-214348号公報
【文献】特開2010-30842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載されているように、従来の低次酸化チタンの粒子は板状等の形状であるが、本発明者らの検討によれば、低次酸化チタンの粒子はできる限り球状に近いことが望ましい場合がある。例えば、低次酸化チタンの粒子を分散媒に分散させて化粧料として用いる場合、塗工性を向上させる観点からは、低次酸化チタンの粒子が球状に近いほど望ましい。しかし、そのような低次酸化チタンの粒子は知られていない。
【0005】
そこで、本発明の一側面は、新規な低次酸化チタンの粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、平均球形度が0.7以上である、低次酸化チタンの粉末である。
【0007】
この低次酸化チタンの粉末は、主に低次酸化チタンの一次粒子で構成されていてよい。
【0008】
本発明の他の一側面は、上記粉末と分散媒とを含有する分散体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な低次酸化チタンの粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例の低次酸化チタンの粉末のX線回折の測定結果である。
図2】実施例の低次酸化チタンの粉末のSEM画像である。
図3】比較例の低次酸化チタンの粉末のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、平均球形度が0.7以上である、低次酸化チタンの粉末である。本明細書において、「低次酸化チタンの粉末」とは、低次酸化チタンの粒子の集合体を意味する。
【0012】
低次酸化チタンは、TiO(xは2未満の正の数)で表される。xは、例えば、0.2以上、0.4以上、0.6以上、0.8以上、又は1以上であってよく、1.95以下、1.9以下、1.85以下、又は1.8以下であってよい。低次酸化チタンは、例えば、TiO、TiO、Ti、Ti2.5、Ti、Ti等の混合物であってよく、その平均組成として、上記のTiOで表される組成を有していてよい。
【0013】
低次酸化チタンの粒子(粉末)がTiOで表される組成を有する低次酸化チタンで構成されていることは、熱重量・示差熱同時分析(TG-DTA)により確認することができる。低次酸化チタンを構成するTiO、TiO、Ti、Ti2.5、Ti、Ti等が存在することは、X線回折法(XRD)により確認することができる。
【0014】
低次酸化チタンの粉末は、きわめて球状に近い形状の(球形度が高い)低次酸化チタンの粒子で構成されており、0.7以上の平均球形度を有している。低次酸化チタンの粉末の平均球形度は、0.8以上又は0.9以上であってもよい。
【0015】
低次酸化チタンの粉末の平均球形度は、以下の手順で測定される。
まず、低次酸化チタンの粉末0.1gとイオン交換水50mlとを、ポリスチレン製のサンプル菅(容量:100ml(例えば、アズワン社、PS-100))に入れ、超音波ホモジナイザー(例えば、Branson Ultrasonics Corporation、モデル:DIGITALSONIFIER450)を使用し、Amplitude:50の出力にて60秒間超音波処理を施して分散液を調製する。続いて、超音波処理終了後、10秒以内に分散液をナノパーコレーター(JEOL社製:4KA0122-00 50pcs/ca)の上に乗せ、2分間馴染ませる。その後、テルモシリンジ(TERUMO社製:SS-05SZ)でイオン交換水を吸い取る。その後、オスミウムコーター(HPC-30W、株式会社真空デバイス)で低次酸化チタンの粒子上にオスミウムを蒸着する。
そして、SEM(JSM-7001F、日本電子株式会社)を用いて、観察倍率3000~4000倍で、オスミウムで被覆された低次酸化チタンの粒子を観察する。得られたSEM画像に対して、粒子像分析装置(例えば、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」(株式会社マウンテック社製))を用いて、200個の低次酸化チタンの粒子について円形度を自動計測し、下記式:
球形度=(円形度)
に従って求められる各粒子の球形度の平均値として算出される。
なお、「Mac―View」の測定条件を下記に示す。
自動取り込みモード
取得モード:球形
検出感度:20(標準)
検出確度:標準(0.7)
操作密度:6(標準)
操作回数:5(回)
ハイカット:反射低減は無し
ローカット:40
【0016】
低次酸化チタンの粉末では、低次酸化チタンの粒子が高い球形度を有していることにより、低次酸化チタンの粒子同士が凝集しにくいという利点がもたらされ得る。
【0017】
低次酸化チタンの粉末は、主に低次酸化チタンの一次粒子で構成されている。低次酸化チタンの粉末が主に低次酸化チタンの一次粒子で構成されていると、低次酸化チタンの粉末が分散しやすいという利点がもたらされ得る。低次酸化チタンの粉末中の低次酸化チタンの一次粒子の割合は、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、更に好ましくは90体積%以上、特に好ましくは95体積%以上である。
【0018】
低次酸化チタンの粉末中の低次酸化チタンの一次粒子の割合は、以下の手順で測定される。
まず、上記の平均球形度の測定に用いたSEM画像を用いて、粒子像分析装置(例えば、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」(株式会社マウンテック社製))により、200個の低次酸化チタンの一次粒子(単粒子)について粒子径を測定し、その中で最も大きな粒子径を最大一次粒子径とする。次に、低次酸化チタンの粉末の粒度分布測定により得られた粒度分布において、最大一次粒子径より大きい値の粒子を二次粒子とし、低次酸化チタンの粉末全体から当該二次粒子の体積割合を差し引き、その差分を低次酸化チタンの一次粒子の割合とする。
【0019】
なお、上記の低次酸化チタンの一次粒子の割合を算出する際に用いられる低次酸化チタンの粉末の粒度分布測定は、以下の手順で実施される。
まず、低次酸化チタンの粉末100mgとイオン交換水50mLとを、ポリスチレン製のサンプル菅瓶(容量:100mL(例えば、アズワン社、PS-100))に入れ、超音波ホモジナイザー(例えば、Branson Ultrasonics Corporation、モデル:DIGITALSONIFIER450)を使用し、Amplitude:10%の出力にて、60秒間の超音波分散処理を施す。続いて、超音波分散処理が終了してから30秒以内に、レーザー回折散乱法による粒度分布測定装置(例えば、Beckman Coulter社、型式LS 13 320)を用いて、以下の測定条件にて、分散された低次酸化チタンの粉末の体積基準の粒度分布を測定する。
(測定条件)
分散媒:水
屈折率:2.71
測定間隔:log(d2/d1)=0.04となる間隔
(d1:ある測定点(μm)、d2:その隣の測定点(μm))
【0020】
以上説明した低次酸化チタンの粉末は、例えば以下の方法で製造することによって平均球形度が高い粉末となる。
【0021】
まず、平均球形度が0.7以上である二酸化チタン(TiO)の粉末を用意する。このような二酸化チタンの粉末としては、市販品を購入してもよいが、市販品は必ずしも平均球形度が高くないため、市販品を融点以上の温度の高温域を通過させ球状化させる粉末溶融法により球状化して、平均球形度を0.7以上に調整した上で用いることが好ましい。二酸化チタンの粉末の平均球形度の測定方法は、上述した低次酸化チタンの粉末の平均球形度の測定方法と同じである。二酸化チタンの粉末の平均球形度は、平均球形度が高い低次酸化チタンの粉末を得やすくする観点から、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上である。
【0022】
続いて、用意したTiOの粉末と還元剤とを反応させる。具体的には、例えば、TiOと還元剤との混合物を、例えば電気炉において、不活性ガス雰囲気下で焼成する。これにより、二酸化チタンが還元されて、低次酸化チタンが生成する。不活性ガスは、例えば、窒素ガスであってよく、アルゴンガスであってもよい。
【0023】
還元剤は、TiOを還元できるものであれば特に限定されない。還元剤の例としては、CaH、LiAlH、NaAlH、KAlH、TiH、NaBH、H、NH等が挙げられる。還元剤が粉末状である場合、TiOの粉末と還元剤の粉末とを例えば乳鉢などで予め混合することができる。この場合、混合する時間は、例えば、10分間以上であってよく、1時間以下であってよい。還元剤がガス状である場合、ガス状の還元剤をそのまま導入しながら焼成を行ってよい。あるいは、ガス状の還元剤を導入する際に、上記不活性ガスと予め混合した上で導入してもよい。
【0024】
TiOの配合量に対する還元剤の配合量のモル比(還元剤/TiO)は、例えば、1/5以上であってよく、6/1以下であってよい。焼成温度は、例えば、500℃以上であってよく、1200℃以下であってよい。焼成時間は、例えば、10時間以上であってよく、20時間以下であってよい。
【0025】
焼成後の低次酸化チタンの粉末には、還元剤に起因する不純物が含まれているため、焼成後の低次酸化チタンの粉末を洗浄することが好ましい。洗浄は、例えば、熱水、アルコール及び有機酸からなる群より選ばれる少なくとも一種によって行われる。アルコールは、例えば、メタノール、エタノール、又はこれらの混合物であってよい。有機酸は、例えば酢酸であってよい。ハロゲン化物イオンなどのイオン性不純物の低次酸化チタンの粉末への混入を抑制できる観点から、有機酸で洗浄することが好ましい。
【0026】
洗浄後の低次酸化チタンの粉末は、例えば、乾燥された後で解砕されることが好ましい。乾燥温度は、例えば、100℃以上であってよく、200℃以下であってよい。乾燥時間は、例えば、10時間以上であってよく、20時間以下であってよい。解砕は、例えば乳鉢を用いて、低次酸化チタンの粉末を構成する低次酸化チタンの粒子同士の凝集を解きつつ、低次酸化チタンの粒子の形状が崩れない程度の力で行われる。これにより、上述したような平均球形度を有する低次酸化チタンの粉末が得られる。
【0027】
上述した低次酸化チタンの粉末は、黒色顔料等の顔料(着色フィラー)として好適に用いられる。このような顔料(着色フィラー)は、例えば、化粧料、半導体等の電子部品、ペンキやインクなどの塗料をはじめとする着色剤として好適に用いられる。
【0028】
低次酸化チタンの粉末が上述したような用途で用いられる場合、低次酸化チタンの粉末は、例えば分散媒に分散されて用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上述した低次酸化チタンの粉末と、低次酸化チタンの粉末を分散させる分散媒とを含有する分散体である。この低次酸化チタンの粉末は、高い平均球形度を有するため、分散媒に分散されて用いられた場合に、優れた塗工性を発揮する。
【0029】
分散媒は、分散体の用途に応じて適宜選択され、例えば、水、アルコール、ケトン、エステル、樹脂等であってよい。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム・スチレン)樹脂等であってよい。
【0030】
分散体中の低次酸化チタンの粉末の含有量は、分散体の用途に応じて適宜選択され、分散体全量を基準として、例えば、5質量%以上であってよく、90質量%以下であってよい。分散体中の分散媒の含有量は、分散体の用途に応じて適宜選択され、分散体全量を基準として、例えば、10質量%以上であってよく、95質量%以下であってよい。
【実施例
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例:低次酸化チタンの粉末の作製及び評価]
TiOの粉末(東邦チタニウム社、HT0110)を粉末溶融法により球状化して、平均球形度が0.84である粉末を得た。続いて、TiOとCaHとを乳鉢で20分間混合した。なお、TiOの配合量に対するCaHの配合量のモル比(CaH/TiO)は、4.2/1とした。
【0033】
得られたTiOとCaHとの混合物を、電気炉において、窒素雰囲気下で焼成した。焼成は、10℃/分で600℃まで昇温させた状態で12時間行った。続いて、焼成後の粉末をメタノール及びエタノール、水、酢酸の順で洗浄した後、120℃以上で12時間乾燥させた。乾燥後の粉末を乳鉢で解砕して、黒色の低次酸化チタンの粉末を得た。なお、当該粉末が低次酸化チタンで構成されている(二酸化チタンが還元されている)ことは、X線回折測定により確認した(図1参照)。なお、図1中、□がTi、△がTi、〇がTiに由来するピークをそれぞれ表す。
【0034】
得られた低次酸化チタンの粉末の平均球形度を測定したところ、0.86であった。また、低次酸化チタンの粉末のSEM画像を図2に示す。図2から分かるように、得られた低次酸化チタンの粉末は、高い平均球形度(球状に近い形状)を有していた。この低次酸化チタンの粉末は、主に低次酸化チタンの一次粒子で構成されており、一次粒子同士の凝集は少なかった。
【0035】
また、上述した方法により、低次酸化チタンの粉末中の低次酸化チタンの一次粒子の割合を求めた。すなわち、まず、上記の低次酸化チタンの粉末のSEM画像から最大一次粒子径を求めたところ、3.5μmであった。続いて、上述した方法により得られた粒度分布において、当該最大一次粒子径より大きい値の粒子(二次粒子)の体積割合を差し引き、低次酸化チタンの一次粒子の割合を求めたところ、96体積%であった。
【0036】
[比較例:市販品の低次酸化チタンの粉末の評価]
市販品の低次酸化チタンの粉末(Tilack D-M、赤穂化成株式会社)の平均球形度を測定したところ、0.22であった。また、市販品の低次酸化チタンの粉末のSEM画像を図3に示す。図3から分かるように、市販品の低次酸化チタンの粉末では、粒子同士が凝集しており、一次粒子は少なかった。
図1
図2
図3