(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】リチウム一次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 6/16 20060101AFI20240731BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20240731BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
H01M6/16 B
H01M4/06 X
H01M4/70 A
H01M4/06 L
(21)【出願番号】P 2020016238
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 春彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 皓己
(72)【発明者】
【氏名】渡部 徳久
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-059632(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119018(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/16
H01M 4/06
H01M 4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と電解液とを有するリチウム一次電池において、
前記正極は、
第1正極と、第2正極からなり、
前記第1正極は、前記第2正極を囲み、
前記第1正極と前記第2正極とに挟持された集電体を有し、
前記第2正極の密度を前記第1正極の密度で除算した比は、0.90以上であり、0.98以下である
ことを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項2】
前記第1正極は、筒状に形成され、
前記第2正極は、前記第1正極の内部に配置される
請求項
1に記載のリチウム一次電池。
【請求項3】
前記集電体は、筒状に形成され、
前記第2正極は、前記集電体の内部に配置される
請求項
1または請求項
2に記載のリチウム一次電池。
【請求項4】
前記第2正極は、筒状に形成される
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載のリチウム一次電池。
【請求項5】
前記負極は、リチウム金属またはリチウム合金から形成される
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のリチウム一次電池。
【請求項6】
正極と負極と電解液とを有するリチウム一次電池において、
前記正極は、
第1正極と、第2正極からなり、
前記第1正極は、前記第2正極を囲み、
前記第1正極と前記第2正極とに挟持された集電体を有し、
前記第2正極の密度を前記第1正極の密度で除算した比は、0.85以上であり、1より小さい
リチウム一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、リチウム一次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
インサイドアウト構造の円筒形リチウム電池が知られている(特許文献1)。このような円筒形リチウム電池は、中空円筒形の外側正極合剤と、この外側正極合剤の内周面に密着配置される中空円筒形の集電体と、この集電体の内周面に密着配置される中空円筒形の内側正極合剤とを備えている。このため、集電体は、正極合剤に接触する領域の面積を向上させることができ、円筒形リチウム電池は、良好な放電特性を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウム一次電池は、集電体と正極合剤とが適切に密着しないときに、集電体と正極合剤との間の接触抵抗が大きくなり、放電特性が低下することがある。
【0005】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、放電特性を向上させるリチウム一次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によるリチウム一次電池は、正極と負極と電解液とを有するリチウム一次電池において、その正極は、第1正極と、第2正極からなり、前記第1正極は、前記第2正極を囲み、その第1正極とその第2正極とに挟持された集電体を有している。前記第2正極の密度を前記第1正極の密度で除算した比は、0.90以上であり、0.98以下である。
【発明の効果】
【0007】
開示のリチウム一次電池は、放電特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態のリチウム一次電池を示す部分断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のA-A’線断面を示し、リチウム一次電池を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願が開示する実施形態にかかるリチウム一次電池について、図面を参照して説明する。なお、以下の記載により本開示の技術が限定されるものではない。また、以下の記載においては、同一の構成要素に同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0010】
実施形態のリチウム一次電池1は、
図1に示されているように、いわゆるボビン型リチウム一次電池であり、電池ケース2と負極3と正極5とセパレータ6と電解液8とを備えている。
図1は、実施形態のリチウム一次電池1を示す部分断面図である。電池ケース2は、負極缶11と封口板12と正極端子板14と封口ガスケット15とを備えている。負極缶11は、導体から形成され、有底円筒形に形成されている。すなわち、負極缶11は、中空の円柱状に形成され、開口部16が形成され、底面部分17と側面部分18とを備えている。開口部16は、負極缶11のうちの円柱の一方の底面に対応する部位に形成されている。底面部分17は、円柱の他方の底面に沿うように、形成されている。側面部分18は、円柱の側面に沿うように、形成されている。
【0011】
封口板12は、導体から形成され、円板状に形成されている。封口板12は、負極缶11の開口部16を塞ぐように、開口部16に配置されている。電池ケース2は、封口板12が開口部16に配置されることにより、負極缶11と封口板12とに囲まれる内部空間19を形成している。正極端子板14は、導体から形成され、皿状に形成されている。正極端子板14は、正極端子板14の縁が封口板12の縁に接触するように配置されている。封口ガスケット15は、絶縁体から形成され、リング状に形成されている。封口ガスケット15は、封口板12の縁と正極端子板14の縁とを取り囲み、封口板12の縁と負極缶11の側面部分18の内周面との間に形成される隙間を塞ぎ、内部空間19を外部から密閉している。
【0012】
負極3は、金属リチウムから形成され、中空円筒形に形成されている。負極3は、負極缶11の側面部分18の内周面に密着するように、電池ケース2の内部空間19に配置され、負極缶11に電気的に接触している。正極5は、概ね円柱状に形成されている。正極5は、電池ケース2の内部空間19のうちの負極3の内側に配置されている。
【0013】
セパレータ6は、ポリプロピレン不織布から形成され、有底中空円筒形に形成されている。すなわち、セパレータ6は、円柱状に形成され、底面部分21と側面部分22とを備えている。底面部分21は、円柱の一方の底面に沿うように形成されている。側面部分22は、円柱の側面に沿うように形成されている。セパレータ6は、底面部分21が正極5と負極缶11の底面部分17との間に配置されるように、かつ、側面部分22が負極3と正極5との間に配置されるように、電池ケース2の内部空間19に配置されている。セパレータ6は、負極3と正極5とが電気的に接続しないように、負極3と正極5とを隔て、正極5と負極缶11とが電気的に接続しないように、正極5と負極缶11とを隔てている。
【0014】
図2は、正極5を示す分解斜視図である。正極5は、外側正極31と内側正極32と集電体33とを備えている。外側正極31は、正極合剤から形成され、中空円筒形に形成されている。正極合剤は、二酸化マンガンと黒鉛とフッ素樹脂と含有している。たとえば、外側正極31に含有される二酸化マンガンの質量と黒鉛の質量とフッ素樹脂の質量との比は、次式:
12:1:0.2
により表現される。なお、フッ素樹脂は、他の結着剤に置換されてもよい。
【0015】
内側正極32は、外側正極31を形成する正極合剤の組成と同じ組成の正極合剤から形成され、さらに、内側正極32の密度が外側正極31の密度より小さくなるように、形成されている。ここで、内側正極32の密度は、内側正極32の単位体積当たりの質量を示し、外側正極31の密度は、外側正極31の単位体積当たりの質量を示している。内側正極32の密度を外側正極31の密度で除算した比としては、0.95が例示される。内側正極32は、円筒の高さが外側正極31の円筒の高さと等しくなるように、中空円筒形に形成されている。内側正極32は、内側正極32の外周面と外側正極31の内周面とが向かい合うように、外側正極31の内部に配置されている。すなわち、外側正極31は、内側正極32を囲んでいる。
【0016】
集電体33は、ステンレス鋼に例示される金属から形成され、中空円筒形に形成されている。集電体33には、複数の空孔34が形成されている。
図3は、
図1のA-A’線断面を示し、リチウム一次電池1を示す断面図である。集電体33は、外側正極31と内側正極32とに挟持されるように、外側正極31の内部に配置され、外側正極31と内側正極32とに電気的に接続されている。
【0017】
集電体33のうちの外側正極31と内側正極32とに挟持されていない部分は、
図1に示されているように、封口板12にスポット溶接され、封口板12に電気的に接続されている。このため、正極端子板14は、封口板12を介して集電体33に電気的に接続されている。
【0018】
電解液8は、電解質が有機溶媒に溶解されている非水溶液から形成されている。電解液8は、負極3と正極5とが電解液8に浸漬されるように、内部空間19に充填されている。
【0019】
[リチウム一次電池1の製造方法]
負極3は、板状の金属リチウムが屈曲されることにより作製される。正極5の外側正極31は、予め定められた密度になるように、正極合剤が成型加工されることにより、作製される。内側正極32は、外側正極31の密度が内側正極32の密度より大きくなるように、正極合剤が成型加工されることにより、作製される。集電体33は、複数の空孔34が形成された板状のステンレス鋼が屈曲されることにより作製される。
【0020】
電解液8は、負極3と正極5とセパレータ6とが負極缶11の内部に適切に配置された後に、負極缶11の内部に注液される。電解液8は、負極缶11の内部に注液されることにより、正極5の内側正極32の内部に貯留する。内側正極32には、電解液8が内側正極32の内部に貯留されることにより、高速に浸透する。電解液8は、内側正極32に浸透した後に、集電体33の複数の空孔34を通過して外側正極31に供給され、外側正極31に浸透する。内側正極32を電解液8が浸透する浸透スピードは、外側正極31の密度が内側正極32の密度より大きいことにより、外側正極31を電解液8が浸透する浸透スピードに比較して、高速である。このため、リチウム一次電池1は、外側正極31の密度が内側正極32の密度に等しい他のリチウム一次電池に比較して、外側正極31に電解液8を高速に供給することができ、外側正極31に電解液8を高速に浸透させることができる。電解液8が外側正極31の全体に浸透するまでの時間が長いときに、リチウム一次電池1の放電特性に悪影響を及ぼすことがある。リチウム一次電池1は、電解液8が外側正極31に高速に浸透することにより、放電特性に及ぼす悪影響を低減することができ、放電特性を向上させることができる。
【0021】
外側正極31と内側正極32とは、正極合剤から形成されていることにより、電解液8が浸透することにより、膨張する。内側正極32が膨張する膨張率は、外側正極31の密度が内側正極32の密度より大きいことにより、外側正極31が膨張する膨張率より大きい。このため、集電体33は、外側正極31と内側正極32とに電解液8が浸透することにより、集電体33が外側正極31と内側正極32とに密着するように、外側正極31と内側正極32とに強い圧力で挟持される。リチウム一次電池1は、集電体33が外側正極31と内側正極32とに密着することにより、集電体33と外側正極31との間の接触抵抗を低減することができ、集電体33と内側正極32との間の接触抵抗を低減することができる。
【0022】
負極缶11の開口部16は、電解液8が負極缶11の内部に注液された後に、封口板12と正極端子板14と封口ガスケット15とにより、塞がれる。封口板12と正極端子板14と封口ガスケット15とは、開口部16が塞がれた後に負極缶11の側面部分18がカシメられることにより、側面部分18に固定される。
【0023】
リチウム一次電池1は、負極缶11と正極端子板14とが電気回路に電気的に接続されることにより、予め定められた電圧を電気回路に印加し、電気回路に直流電力を供給する。正極合剤は、リチウム一次電池1が放電することにより、膨張する。内側正極32が膨張する膨張率は、外側正極31の密度が内側正極32の密度より大きいことにより、外側正極31が膨張する膨張率より大きい。このため、集電体33は、リチウム一次電池1が放電することにより、外側正極31と内側正極32とに密着するように、外側正極31と内側正極32とに強い圧力で挟持される。リチウム一次電池1は、放電末期でも、集電体33と外側正極31との間の接触抵抗を低減することができ、集電体33と内側正極32との間の接触抵抗を低減することができる。
【0024】
実施形態のリチウム一次電池1の効果を確認するために、内側正極32の密度が互いに異なる複数のリチウム一次電池試料が作製されている。その複数のリチウム一次電池試料は、内側正極32の密度が互いに異なること以外は、互いに同様に作製されている。その複数のリチウム一次電池試料は、比較例のリチウム一次電池と実施例1のリチウム一次電池と実施例2のリチウム一次電池と実施例3のリチウム一次電池と実施例4のリチウム一次電池とを含んでいる。比較例のリチウム一次電池の内側正極32の密度を比較例のリチウム一次電池の外側正極31の密度で除算した比は、1に等しい。実施例1のリチウム一次電池の内側正極32の密度を実施例1のリチウム一次電池の外側正極31の密度で除算した比は、0.98に等しい。実施例2のリチウム一次電池の内側正極32の密度を実施例2のリチウム一次電池の外側正極31の密度で除算した比は、0.95に等しい。実施例3のリチウム一次電池の内側正極32の密度を実施例3のリチウム一次電池の外側正極31の密度で除算した比は、0.90に等しい。実施例4のリチウム一次電池の内側正極32の密度を実施例4のリチウム一次電池の外側正極31の密度で除算した比は、0.85に等しい。
【0025】
複数のリチウム一次電池試料の作製の結果は、比較例のリチウム一次電池と実施例1のリチウム一次電池と実施例2のリチウム一次電池と実施例3のリチウム一次電池とが適切に作製されたことを示している。複数のリチウム一次電池試料の作製の結果は、さらに、内側正極32が割れる合剤割れが実施例4のリチウム一次電池に発生し、実施例4のリチウム一次電池が適切に作製されないことを示している。すなわち、複数のリチウム一次電池試料の作製の結果は、内側正極32の密度を外側正極31の密度で除算した比が0.90以上であるときに、内側正極32の合剤割れを防止することができ、リチウム一次電池1が適切に作製されることを示している。
【0026】
実施例4のリチウム一次電池を除く複数のリチウム一次電池試料は、初期内部抵抗の測定が実施され、連続放電試験が実施されている。
【0027】
[初期内部抵抗の測定]
実施例1のリチウム一次電池の初期内部抵抗の測定結果は、比較例のリチウム一次電池の初期内部抵抗を100としたときに、実施例1のリチウム一次電池の初期内部抵抗が98に等しいことを示している。実施例2のリチウム一次電池の初期内部抵抗の測定結果は、比較例のリチウム一次電池の初期内部抵抗を100としたときに、実施例2のリチウム一次電池の初期内部抵抗が95に等しいことを示している。実施例3のリチウム一次電池の初期内部抵抗の測定結果は、比較例のリチウム一次電池の初期内部抵抗を100としたときに、実施例3のリチウム一次電池の初期内部抵抗が90に等しいことを示している。
【0028】
複数のリチウム一次電池試料の初期内部抵抗の測定結果は、内側正極32の密度が小さいほど、初期内部抵抗が低減ことを示している。すなわち、複数のリチウム一次電池試料の初期内部抵抗の測定結果は、内側正極32の密度が小さいほど、集電体33と外側正極31および内側正極32との間の接触抵抗が低減することを示している。さらに、複数のリチウム一次電池試料の初期内部抵抗の測定結果は、内側正極32の密度が小さいほど、集電体33と外側正極31および内側正極32との密着性が向上することを示している。
【0029】
[連続放電試験]
連続放電試験では、温度が23℃である雰囲気で複数のリチウム一次電池試料の各々が300Ωの定抵抗負荷を用いて放電され、複数のリチウム一次電池試料の各々の放電容量が測定されている。実施例1のリチウム一次電池の連続放電試験の結果は、比較例のリチウム一次電池の放電容量を100としたときに、実施例1のリチウム一次電池の放電容量が103に等しいことを示している。実施例2のリチウム一次電池の連続放電試験の結果は、比較例のリチウム一次電池の放電容量を100としたときに、実施例2のリチウム一次電池の放電容量が108に等しいことを示している。実施例3のリチウム一次電池の連続放電試験の結果は、比較例のリチウム一次電池の放電容量を100としたときに、実施例3のリチウム一次電池の放電容量が110に等しいことを示している。
【0030】
複数のリチウム一次電池試料の連続放電試験の結果は、内側正極32の密度が小さいほど、放電容量が増加することを示している。さらに、複数のリチウム一次電池試料の連続放電試験の結果は、内側正極32の密度が小さいほど、放電末期でも集電体33の集電効果を維持することができることを示している。すなわち、複数のリチウム一次電池試料の連続放電試験の結果は、内側正極32の密度が小さいほど、リチウム一次電池の放電容量が増加し、放電特性が向上することを示している。
【0031】
[リチウム一次電池の効果]
実施形態のリチウム一次電池1は、外側正極31と内側正極32と集電体33と負極3と電解液8とを備えている。外側正極31は、筒状に形成されている。内側正極32は、外側正極31の内部に配置されている。集電体33は、外側正極31と内側正極32との間に挟持され、外側正極31と内側正極32とに電気的に接触している。負極3は、リチウムを含有している。電解液8には、負極3と外側正極31と内側正極32とが浸漬されている。外側正極31の密度は、内側正極32の密度より大きい。
【0032】
リチウム一次電池1は、内側正極32を浸透した電解液8を外側正極31の内側から外側正極31に高速に供給することができ、外側正極31に電解液8を浸透させる浸透スピードを向上させることができる。リチウム一次電池1は、電解液8が外側正極31に浸透する浸透スピードが向上することにより、電解液8を短時間で注液することができ、短時間に作製されることができる。
【0033】
内側正極32と外側正極31とは、電解液8が内側正極32と外側正極31とに浸透することにより、また、リチウム一次電池1が放電することにより、膨張する。内側正極32の膨張率は、外側正極31の密度が内側正極32の密度より大きいことにより、外側正極31の膨張率より大きい。リチウム一次電池1は、内側正極32と外側正極31とが電解液8に浸漬されたときに、集電体33を内側正極32と外側正極31とで強く挟持されることができ、集電体33を内側正極32と外側正極31とに密着させることができる。リチウム一次電池1は、集電体33が内側正極32と外側正極31とに密着することにより、集電効率を向上させることができ、内部抵抗を低減することができ、放電容量を増加し、放電特性を向上させることができる。
【0034】
また、実施形態のリチウム一次電池1の内側正極32は、筒状に形成されている。このとき、リチウム一次電池1は、内部空間19に電解液8が注液されるときに、内側正極32の内部に電解液8が入り込むことにより、内側正極32の全体に電解液8を高速に浸透させることができる。リチウム一次電池1は、内側正極32に電解液8が高速に浸透することにより、内側正極32を通過した電解液8を外側正極31に高速に供給させることができ、外側正極31に電解液8を浸透させる浸透スピードを向上させることができる。
【0035】
また、実施形態のリチウム一次電池1の内側正極32の密度を外側正極31の密度で除算した比は、0.90以上であり、0.98以下である。リチウム一次電池1は、その比が0.98以下であることにより、内側正極32を浸透した電解液8を外側正極31に高速に供給することができ、外側正極31に電解液8を浸透させる浸透スピードを向上させることができる。このようなリチウム一次電池1は、その比が0.90以上であることにより、合剤割れに例示される不具合の発生を防止することができ、適切に作製されることができる。
【0036】
なお、リチウム一次電池は、このような不具合の発生が防止されているときに、その比が0.90未満であってもよい。たとえば、リチウム一次電池は、正極合剤の組成が変更されることにより、このような不具合の発生を防止することができる。正極合剤の組成の変更としては、結着剤の増量、添加物の添加が例示される。また、その比は、集電体33が外側正極31と内側正極32とに密着するときに、1より小さく、かつ、0.98より大きい範囲に含まれてもよい。
【0037】
ところで、既述のリチウム一次電池1の外側正極31は、中空円筒形に形成されているが、内側正極32を囲む他の形状に形成されている他の外側正極に置換されてもよい。たとえば、その外側正極は、横断面が円と異なる図形である筒状に形成されていてもよく、さらに、内側正極32を完全に囲んでいなくてもよく、隙間が形成されていてもよい。リチウム一次電池は、外側正極がこのような形状に形成された場合でも、既述のリチウム一次電池1と同様に、外側正極に電解液8を高速に浸透させたり、集電体33を内側正極32と外側正極とに密着させたりすることができ、放電特性を向上させることができる。既述のリチウム一次電池1の外側正極31は、隙間なく内側正極32を囲んでいることにより、隙間が形成された外側正極に比較して、内部が広がるように変形し難く、集電体33を内側正極32と外側正極とに適切に密着させることができる。
【0038】
ところで、既述のリチウム一次電池1の外側正極31は、内側正極32を囲んでいるが、内側正極32を囲まないように形成されていてもよい。このようなリチウム一次電池も、外側正極31の膨張率が内側正極32の膨張率と異なることにより、外側正極31と内側正極32とが適切に固定されているときに、集電体33を内側正極32と外側正極とに強く密着させることができる。このため、このようなリチウム一次電池も、放電特性を向上させることができる。
【0039】
ところで、既述のリチウム一次電池1の集電体33は、中空円筒形に形成されているが、中空円筒形と異なる形状に形成されている他の集電体に置換されていてもよい。その集電体としては、複数の短冊状に形成されたものが例示される。既述のリチウム一次電池1の集電体33は、概ね全体が外側正極31と内側正極32とに密着しているが、一部が外側正極31と内側正極32とに密着している他の集電体に置換されていてもよい。このような集電体が設けられたリチウム一次電池も、既述のリチウム一次電池1と同様に、放電特性を向上させることができる。既述のリチウム一次電池1は、集電体33が筒状に形成されていることにより、複数の短冊状に形成された集電体が設けられたリチウム一次電池に比較して、集電体33の取り扱いを容易化することができ、容易に作製されることができる。
【0040】
また、実施形態のリチウム一次電池1の負極3は、金属リチウムから形成されている。ところで、既述のリチウム一次電池1の負極3は、金属リチウムから形成されているが、リチウムを含有するリチウム合金から形成されてもよい。そのリチウム合金としては、リチウムアルミ合金が例示される。このような負極が設けられたリチウム一次電池も、既述のリチウム一次電池1と同様に、放電特性を向上させることができる。
【0041】
以上、実施例を説明したが、前述した内容により実施例が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1 :リチウム一次電池
3 :負極
5 :正極
8 :電解液
11:負極缶
31:外側正極(第1正極)
32:内側正極(第2正極)
33:集電体