(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】屋根材セットの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04D 1/00 20060101AFI20240731BHJP
E04D 1/30 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
E04D1/00 A
E04D1/30 601E
(21)【出願番号】P 2020093988
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 俊文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 襟子
(72)【発明者】
【氏名】河端 成昭
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-033426(JP,A)
【文献】特開平08-086050(JP,A)
【文献】特開2004-068353(JP,A)
【文献】特開2001-073522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/00
E04D 1/30
E0D 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根材セットの施工方法であって、
前記屋根材セットは、
隅棟に隣接する下地面に千鳥葺きされる複数の屋根材を備え、
前記複数の屋根材は、
前記隅棟に沿わない複数の通常屋根材と、
前記隅棟に沿う複数の隅棟屋根材とを含み、
前記複数の通常屋根材の各々は、
隅棟に隣接する下地面に千鳥葺きされる屋根材であって、
前記隅棟の横方向に対する角度θ、前記屋根材の働き幅B及び前記屋根材の働き長さLは、以下の式1を満た
し、
【数1】
前記複数の隅棟屋根材の各々は、前記隅棟側の端縁の横方向に対する角度が、前記角度θと同じであり、
前記複数の隅棟屋根材は、形状及び大きさが同じであり下地面の第1隅棟に沿って葺かれる複数のプレカット材と、下地面の第2隅棟に沿うように施工現場で切断される複数のカット材と、を含み、
屋根勾配、前記働き幅B及び前記働き長さLの三つのうちのいずれか二つから残りの一つを関係式に基づいて決定して、前記複数の屋根材を施工する、
屋根材セットの施工方法。
【請求項2】
前記複数のカット材は、原材がラフカットされたものである、
請求項1に記載の屋根材セットの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根材、屋根材セット、屋根材セットの施工構造、及び屋根材セットの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、瓦葺きのプレカット工法が開示されている。このプレカット工法では、予め工場で瓦を切断して隅瓦を作製し、この隅瓦を現場の屋根に持ち込んで野地板の上に葺く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した瓦葺きのプレカット工法では、作製される隅瓦の形状が、一段毎に異なる。このため、形状の異なる複数種類の隅瓦を作製する必要があり、作製に手間を要する。また、施工の際には、一段毎に複数種類の隅瓦の中から適切な形状を有する隅瓦を選択する必要があり、手間を要する。
【0005】
本発明は上記事由に鑑みてなされており、作製が容易で、かつ、施工が容易な屋根材セットの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る屋根材は、隅棟に隣接する下地面に千鳥葺きされる屋根材であって、前記隅棟の横方向に対する角度θ、前記屋根材の働き幅B及び前記屋根材の働き長さLは、以下の式1を満たす。
【0007】
【0008】
本発明の一態様に係る屋根材セットは、隅棟に隣接する下地面に千鳥葺きされる複数の屋根材を備える。前記複数の屋根材は、前記隅棟に沿わない複数の通常屋根材と、前記隅棟に沿う複数の隅棟屋根材とを含む。前記複数の通常屋根材の各々は、式1を満たす前記屋根材である。前記複数の隅棟屋根材の各々は、前記隅棟側の端縁の横方向に対する角度が、前記角度θと同じである。前記複数の隅棟屋根材は、形状及び大きさが同じである。
【0009】
本発明の一態様に係る屋根材セットの施工構造は、前記屋根材セットの施工方法であって、前記複数の通常屋根材及び前記複数の隅棟屋根材が、水下側から水上側に向かって順に施工される。
【0010】
本発明の一態様に係る屋根材セットの施工方法は、前記屋根材セットの施工方法であって、屋根勾配、前記働き幅B及び前記働き長さLの三つのうちのいずれか二つから残りの一つを関係式に基づいて決定して、前記複数の屋根材を施工する。
【発明の効果】
【0011】
前記一態様に係る屋根材セットの施工方法にあっては、屋根材の作製が容易で、かつ、屋根材の施工が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る屋根構造の平面図である。
【
図2】
図2は、同上の屋根構造の一部を示した平面図である。
【
図3】
図3は、同上の屋根構造の1段目の屋根材を施工する様子を示した斜視図である。
【
図4】
図4は、同上の屋根構造の2段目の屋根材を施工する様子を示した斜視図である。
【
図5】
図5は、同上の屋根構造の屋根材を2段目まで施工した様子を示した平面図である。
【
図6】
図6は、同上の屋根構造が有する通常屋根材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)実施形態
本発明は、隅棟に隣接する下地面に施工される屋根材、この屋根材を含む屋根材セット及びこの屋根材セットの施工構造並びに施工方法に関する。
【0014】
図1に本実施形態の屋根材セット3の施工構造である屋根構造1を示す。この屋根構造1が適用される建物は、例えば、人が住む住宅建築物である。なお、建物は、住宅建築物のほか、店舗、工場又は倉庫等の非住宅建築物であってもよい。
【0015】
本実施形態の屋根構造1は、寄棟屋根を形成しており、一つの大棟10と、四つの隅棟11とを有している。なお、屋根構造1によって形成される屋根は、隅棟を有する屋根であればよく、寄棟屋根に限定されない。屋根構造1によって形成される屋根は、例えば、方形屋根又は入母屋屋根等であってもよい。
【0016】
屋根構造1は、屋根下地2(
図3参照)と、屋根材セット3とを備えている。屋根材セット3は、複数の屋根材30,31を備えている。複数の屋根材30,31は、屋根下地2の上面を構成する下地面20に葺かれている。屋根下地2は、隅棟11を介して隣接する複数の下地面20を有している。本実施形態の屋根下地2は、四つの下地面20を有している。各下地面20は、屋根下地2の上面において隣り合う二つの隅棟11の間の部分である。四つの下地面20のうち、二つの下地面20の各々は台形状であり、残りの二つの下地面20の各々は三角形状である。
【0017】
図2に示すように、各下地面20において、水下側(軒側)に向かう方向と、水上側(軒とは反対側)に向かう方向との二方向を「縦方向」と定義する。各下地面20において、縦方向と直交し、かつ、水平で互いに逆向きとなる二方向を「横方向」と定義する。
【0018】
図1に示すように、隅棟11を介して隣接する二つの下地面20のうち、一方の下地面20の横方向と、他方の下地面20の横方向とは、上方から見て直交する。各隅棟11は、上方から見て、隣接する下地面20の横方向とのなす角度が45°になる。以下では、
図2に示すように、各下地面20において隣接する二つの隅棟11のうちの右側に位置する一方の隅棟11を第1隅棟111といい、左側に位置する他方の隅棟11を第2隅棟112という。
【0019】
本実施形態の屋根下地2は、野地板21及び下葺材22(
図3参照)を有している。野地板21は水下側に近い部分ほど下方に位置するように傾斜している。
【0020】
図3に示すように、野地板21の上面には、下葺材(防水シート)22が敷かれている。下葺材22は、例えば、合成高分子系下葺材又はアスファルトルーフィング(アスファルトフェルト及び改質アスファルトルーフィングを含む)である。下葺材22は、野地板21の上面に沿っている。
【0021】
本実施形態の屋根下地2は、複数の桟材23を更に有している。複数の桟材23は、下葺材22の上面に沿って縦方向に間隔をあけて並んでいる。複数の桟材23は、下葺材22を介して野地板21の上方に位置している。各桟材23は、横方向に延びた角柱状に形成されている。
【0022】
各桟材23は、例えば、木材・プラスチック複合材等の木質系材料から形成される。各桟材23は、例えば、桟材23及び下葺材22を貫通する複数の固着具(図示せず)によって、野地板21に固定される。各桟材23を野地板21に固定するための固着具は、例えば、釘又はねじである。本実施形態では、下葺材22の上面と、複数の桟材23の表面とで、下地面20が形成される。野地板21の上面に沿った下地面20の勾配が、屋根勾配である。野地板21の上面の勾配が、屋根勾配とも言える。
【0023】
図2に示すように、各下地面20には、複数の屋根材30,31が千鳥葺きされている。本明細書において、千鳥葺きとは、縦方向に隣り合う屋根材30,31が、横方向において屋根材30,31の働き幅Bの半分の寸法(半裁サイズ)だけずれた状態で葺かれることを意味する。各屋根材30,31は、平板状の横葺き屋根材であって、例えば、セメント系成形材料を成形し、養生硬化することで製造される。
【0024】
本実施形態では、各下地面20において横方向に並ぶ屋根材30,31が、第1隅棟111側(右側)に位置する屋根材31から第2隅棟112側(左側)に向かって順に葺かれ、各下地面20において縦方向に並ぶ屋根材30,31が、水下側に位置する屋根材30,31から水上側に向かって(本実施形態では、軒先から棟に向かって)順に葺かれる。
【0025】
各下地面20において、複数の屋根材30,31は、横方向に隣り合う屋根材30,31のうち第2隅棟112側に位置する屋根材30,31における第1隅棟111側の端部が、第1隅棟111側に位置する屋根材30,31における第2隅棟112側の端部の上に重なる状態で葺かれる(
図3及び
図4参照)。また、各下地面20において、複数の屋根材30,31は、横方向に隣り合う屋根材30,31の水下側の端縁同士が縦方向において揃う状態で葺かれる。なお、複数の屋根材30,31は、横方向に隣り合う屋根材30,31の端面同士が突き付けられた状態で、葺かれてもよい。この場合、複数の屋根材31は、例えば、第2隅棟112側(左側)に位置する屋根材31から第1隅棟111側に向かって順に葺かれてもよく、また、横方向の中央に位置する屋根材31から第1隅棟111側及び第2隅棟112側に向かって順に葺かれてもよい。
【0026】
各下地面20において、複数の屋根材30,31は、縦方向に隣り合う屋根材30,31のうち上段の屋根材30,31における水下側の端部が、下段の屋根材30,31における水上側の端部の上に重なる状態で葺かれる(
図4参照)。
【0027】
図5に示すように、各屋根材30,31の上面は、隣接する屋根材30,31によって覆われて露出しない非曝露部32と、隣接する屋根材30,31によって覆われずに露出する曝露部33とを有している。非曝露部32は、屋根材30,31の上面において、水上側に位置する一段上の屋根材30,31によって覆われる水上側の端部と、第2隅棟112側(左側)に位置する一つ横の屋根材30,31によって覆われる第2隅棟112側の端部とで構成されている。曝露部33は、屋根材30,31の上面において、非曝露部32を除く他の部分である。屋根材30,31の働き長さLは、曝露部33の縦方向の寸法である。屋根材30,31の働き幅Bは、曝露部33の横方向の寸法である。
【0028】
屋根材30,31の厚みが大きい場合、屋根材30,31の表面に防水のための形状を付加することができる。この形状としては、例えば、屋根材30,31における水上側の端縁及び第2隅棟112側の端縁の各々に表面側に突出した堰等が挙げられる。このため、屋根材30,31の厚みが大きい場合には、防水性を確保しながら、各屋根材30,31の働き長さL及び働き幅Bを微調整することができる。なお、屋根材30,31は、厚みが小さくてもよい。
図3及び
図4に示すように、各屋根材30,31は、非曝露部32が複数の固着具12によって屋根下地2に固定されることで、屋根下地2に対して固定される。具体的に各屋根材30,31は、水上側の端部と第2隅棟112側の端部における水下側の部分とが、複数の固着具12により、縦方向において隣り合う二つの桟材23にそれぞれ固定される。この場合、固着具12としては、例えば、屋根材30,31を通って桟材23に打ち込まれる釘又はねじが用いられる。
【0029】
縦方向において隣り合う二つの屋根材30,31のうち上段の屋根材30,31は、水上側の端部のみが固着具12によって桟材23に固定されてもよい。この場合、上段の屋根材30,31の第2隅棟112側の端部は、下段の屋根材30,31の水上側の端部にクリップ等の固定具によって固定されてもよい。また、複数の桟材23は省略可能である。この場合、各屋根材30,31は、例えば、下葺材22の上面に沿って配置され、屋根材30,31及び下葺材22を通って野地板21に打ち込まれた固着具によって屋根下地2に固定される。
【0030】
図1に示すように、屋根構造1は、複数の屋根材30,31として、複数の通常屋根材30と、複数の隅棟屋根材31とを備えている。
図2に示すように、通常屋根材30は、各下地面20において横方向の両端部を除く他の部分に葺かれて、いずれの隅棟11にも沿わない。隅棟屋根材31は、各下地面20において横方向の両端部の各々に葺かれ、隅棟11に沿う。すなわち、屋根材には、隅棟11に沿う隅棟屋根材31と、隅棟11に沿わない通常屋根材30との2種類があり、屋根材セット3は、複数の通常屋根材30と、複数の隅棟屋根材31とを含んでいる。
【0031】
複数の通常屋根材30は、形状及び大きさが同じである。なお、本明細書における「同じ」とは、厳密な同一性までは要求されず、当該分野において同じとみなし得る程度であればよい。
【0032】
図6に示すように、通常屋根材30は、平板状であり、かつ、平面視で横方向に延びた矩形状である。通常屋根材30は、水上側の端縁300、水下側の端縁301、第1隅棟111側の端縁302及び第2隅棟112側の端縁303を有している。通常屋根材30の水上側の端縁300及び水下側の端縁301の各々は、横方向と平行な直線状である。通常屋根材30の第1隅棟111側の端縁302及び第2隅棟112側の端縁302の各々は、縦方向と平行な直線状である。各通常屋根材30は、働き幅Bが互いに同じになり、かつ、働き長さLが互いに同じになるように、屋根下地2に施工される。なお、通常屋根材30の形状は、本実施形態の形状に限定されない。通常屋根材30は、例えば、六角形の平板状に形成されてもよい。
【0033】
隅棟屋根材31は、平板状であり、かつ、
図5に示すように、平面視台形状である。隅棟屋根材31は、水上側の端縁310、水下側の端縁311、第1隅棟111側の端縁312及び第2隅棟112側の端縁313を有している。
【0034】
隅棟屋根材31の水上側の端縁310及び水下側の端縁311の各々は、横方向と平行である。隅棟屋根材31の端縁312及び端縁313のうち隣接する隅棟11とは反対側に位置する端縁は、縦方向と平行である。隅棟屋根材31の端縁312及び端縁313のうち隣接する隅棟11側に位置する端縁は、隣接する隅棟11に沿うように縦方向に対して傾斜している。なお、通常屋根材30及び隅棟屋根材31の各々の水下側の端縁301,311は、横方向と非平行であってもよい。
【0035】
隅棟屋根材31は、横方向に並ぶ通常屋根材30と、働き長さLが同じなるように屋根下地2に葺かれる。隅棟屋根材31における隣接する隅棟11側の端縁の横方向に対する角度αは、隅棟11の横方向に対する角度である隅棟角度θと同じである。隅棟角度θは、隅棟屋根材31が施工される屋根の屋根勾配から算出できる。例えば、屋根勾配が2.5寸勾配である場合、隅棟角度θは、45.87°である。なお、隅棟角度θは、限定されないが、隅棟11が谷にならないように、45°以上であることが好ましい。
【0036】
隅棟屋根材31は、例えば、原材4から作製される。原材4は、例えば、
図6に示す通常屋根材30と同じ形状及び同じ大きさを有する。すなわち、通常屋根材30は、原材4として利用可能である。なお、原材4は、通常屋根材30とは形状又は大きさが異なってもよい。
【0037】
隅棟屋根材31は、例えば、通常屋根材30と形状及び大きさが同じ原材4の横方向の一端部又は両端部を、手動カッター若しくは電動カッター等の切断機、又は瓦金槌等を用いて切断することによって作製される。
【0038】
本実施形態の屋根構造1は、
図2に示すように、複数の隅棟屋根材31として、複数のプレカット材34と、複数のカット材35とを含んでいる。なお、
図2では、プレカット材34とカット材35とが容易に理解できるように、プレカット材34及びカット材35の各々にドットを付しているが、実際のプレカット材34及びカット材35には、ドットは付されない。
【0039】
複数のプレカット材34は、形状及び大きさが同じである。複数のプレカット材34は、各下地面20において、第1隅棟111に沿って葺かれる。各プレカット材34は、働き幅Bが互いに同じになり、かつ、働き長さLが互いに同じになるように、屋根下地2に施工される。なお、プレカット材34の働き幅Bは、曝露部33の横方向の最大寸法である。
【0040】
プレカット材34は、原材4をプレカットすることにより作製される。このため、第1隅棟111に沿う隅棟屋根材31を施工現場において作製する必要が無くなり、作業者の手間が軽減される。また、施工現場において原材4の切断に伴う廃材が発生せず、施工現場における廃材の処理の手間も削減できる。なお、本明細書において「プレカット」とは、原材4を予め施工現場に運ばれる前に工場等において切断することを意味する。
【0041】
屋根材セット3は、隅棟角度θ、通常屋根材30の働き幅B及び通常屋根材30の働き長さLが、以下の式1を満たすように施工する。
【0042】
【0043】
式1を満たすことは、
図5に示すように、通常屋根材30の曝露部33における第1隅棟111側の端縁の水下側の端点P1と、同曝露部に33おける水上側の端縁の中央の点P2とを通過する仮想直線aが、隅棟11と平行になることを意味する。点P2は、当該通常屋根材30の上段において横方向に並ぶ二つの通常屋根材30の境界における水下側の端点でもある。
【0044】
式1を満たすことで、
図2に示すように、複数の屋根材30,31を下地面20に千鳥葺きするにあたって、各プレカット材34の形状及び大きさを同じにすることができる。このため、第1隅棟111に沿う隅棟屋根材31としては、1種類のプレカット材34を製作するだけでよく、プレカット材34を効率良く製造することが可能になる。また、プレカット材34が1種類であると、プレカット材34を在庫として保管しやすくなる。また、形状の異なる複数種類のプレカット材を複数段施工する場合、一段毎に適切な種類のプレカット材34を選択する必要があるが、プレカット材34が1種類であると、施工するプレカット材34を一段毎に選択する手間を省くことができ、施工が容易になる。
【0045】
なお、仮想直線aは、隅棟11に対して厳密に平行であることまでは要求されず、当該分野において平行とみなし得る程度であればよい。すなわち、tanθと2L/Bとは、完全に一致しなくてもよい。また、本実施形態のプレカット材34は、プレカット材34の働き幅Bと、通常屋根材30の働き幅Bとが同じになるように屋根下地2に葺かれるが、プレカット材34の働き幅Bは、通常屋根材30の働き幅Bと異なってもよい。
【0046】
複数のカット材35は、各下地面20において、第2隅棟112に沿って葺かれる。本実施形態のカット材35は、原材4を第2隅棟112に沿うように施工現場において切断することにより作製される。このため、下地面20及び屋根材30,31の各々の形状及び大きさ、並びに下地面20における屋根材30,31の設置位置等に、過度な精度が要求されない。
【0047】
なお、カット材35は、原材4をラフカットすることで、作製されてもよい。ここで、「ラフカット」とは、原材4が予め施工現場に運ばれる前において、隅棟11側(第2隅棟112側)の端縁が、概ね隅棟11(第2隅棟112側)に沿うように原材4を切断することを意味する。
【0048】
また、軒先の長さ(下地面20の水下側の端縁の長さ)が所定長さである場合、カット材35は、原材4をプレカットすることにより作製されてもよい。特に、以下の式2を満たす場合には、プレカット材34及びカット材35として、働き幅Bが同じ屋根材を用いることができる。なお、式2におけるnは、正の偶数である。
【0049】
【0050】
複数の屋根材30,31は、例えば、以下に示すように施工される。まず、
図3に示すように、下地面20において最も水下側に位置する1段目の複数の屋根材30,31を、第1隅棟111側から第2隅棟112側に向かって順に葺く。すなわち、最初に第1隅棟111に沿うプレカット材34を葺き、続いて複数の通常屋根材30を葺き、最後に第2隅棟112に沿うカット材35を葺く。この場合、横方向に隣り合う屋根材30,31は、第2隅棟112側に位置する屋根材30,31における第1隅棟111側の端部が、第1隅棟111側に位置する屋根材30,31における第2隅棟112側の端部の上に重ねられる。また、各屋根材30,31は、前述したように固着具12等を用いて、縦方向に隣り合う二つの桟材23に固定される。また、カット材35は、原材4を第2隅棟112に沿うように施工現場において切断することで作製されて、屋根下地2に施工される。
【0051】
次に、
図4に示すように、1段目の複数の屋根材30,31の水上側に、2段目の複数の屋根材30,31を、第1隅棟111側から第2隅棟112側に向かって順に葺く。この場合、2段目の複数の屋根材30,31は、1段目の複数の屋根材30,31と同様に施工される。ただし、2段目の複数の屋根材30,31の各々は、水下側の端部が1段下の屋根材30,31の水上側の端部に重なり、かつ、1段下の屋根材30,31に対して働き幅Bの半分だけ横方向にずらした状態で、葺かれる。
【0052】
そして、以後、3段目から最上段までの複数の屋根材30,31を2段目の複数の屋根材30,31と同様に1段ずつ施工していく。これにより、下地面20の全体にわたって複数の屋根材30,31が施工される。
【0053】
上述した複数の屋根材30,31の施工は、屋根勾配、通常屋根材30の働き幅B及び通常屋根材30の働き長さL(
図5参照)の三つの事項を決定した後に行われる。複数の屋根材30,31の施工を行うにあたり、前記三つの事項のうちいずれか二つの事項が決まっている場合、これら二つの事項と関係式とに基づいて残りの一つを算出して決定する。
【0054】
例えば、屋根下地2に施工される通常屋根材30の形状及び大きさが決まっている場合、屋根勾配と、通常屋根材30の働き幅Bとから、通常屋根材30の働き長さLを決定する。この場合、以下の式3~5を用いて通常屋根材30の働き長さLを算出する。なお、式3における屋根勾配は、寸法勾配である。
【0055】
【0056】
表1に、屋根勾配が2.5寸勾配であり、通常屋根材30の働き幅Bが485mmであるときの算出結果を示す。
【0057】
【0058】
また、屋根下地2に施工される通常屋根材30の形状及び大きさが決まっていない場合、屋根勾配と、通常屋根材30の働き長さLとから、通常屋根材30の働き幅Bを決定する。この場合、上記式3並びに以下の式6及び式7を用いて通常屋根材30の働き幅Bを算出する。
【0059】
【0060】
表2に、屋根勾配が2.5寸勾配であり、通常屋根材30の働き長さLが300mmであるときの算出結果を示す。
【0061】
【0062】
屋根勾配が決まっていない場合、通常屋根材30の働き幅Bと通常屋根材30の働き長さLとから、屋根勾配を決定する。
【0063】
この場合、上記式4並びに以下の式8及び式9を用いて、屋根勾配を算出する。
【0064】
【0065】
(2)態様
以上説明した実施形態から明らかなように、第1の態様の屋根材(通常屋根材)30は、隅棟11に隣接する下地面20に千鳥葺きされる屋根材30であって、以下に示す構成を有する。隅棟11の横方向に対する角度θ、屋根材30の働き幅B及び屋根材30の働き長さLは、以下の式1を満たす。
【0066】
【0067】
この態様によれば、複数の屋根材30,31を下地面20に千鳥葺きするにあたって、隅棟11に沿って設けられる隅棟屋根材31(プレカット材34)の形状及び大きさを同じにすることができる。このため、隅棟屋根材31としては、1種類だけ製作すればよく、隅棟屋根材31を効率良く製造することが可能になる。また、隅棟屋根材31を在庫として保管しやすくなる。また、隅棟屋根材31が一種類であると、隅棟屋根材31を複数段施工する場合に、一段毎に適切な形状及び大きさを有する隅棟屋根材31を選択する必要が無く、施工が容易になる。
【0068】
第2の態様の屋根材30は、第1の態様との組み合わせにより実現され得る。第2の態様では、角度θは、45°以上である。
【0069】
この場合、隅棟11が谷にならないようすることができる。
【0070】
第3の態様の屋根材セット3は、以下に示す構成を有する。屋根材セット3は、隅棟11に隣接する下地面20に千鳥葺きされる複数の屋根材30,31を備える。複数の屋根材30,31は、隅棟11に沿わない複数の通常屋根材30と、隅棟11に沿う複数の隅棟屋根材31とを含む。複数の通常屋根材30の各々は、第1又は第2の態様の屋根材30である。複数の隅棟屋根材31の各々は、隅棟11側の端縁の横方向に対する角度αが、角度θと同じである。複数の隅棟屋根材31は、形状及び大きさが同じである。
【0071】
この態様によれば、形状及び大きさが同じ複数の隅棟屋根材31を用いて、複数の屋根材30,31を千鳥葺きすることができる。
【0072】
第4の態様の屋根材セット3の施工構造は、第3の態様の屋根材セット3の施工構造であって、以下に示す構成を有する。複数の通常屋根材30及び複数の隅棟屋根材31が、水下側から水上側に向かって順に施工される。
【0073】
この態様によれば、複数の通常屋根材30及び複数の隅棟屋根材31が、水下側から水上側に向かって順に施工された屋根構造1を提供できる。
【0074】
第5の態様の屋根材セット3の施工方法は、第3の態様の屋根材セット3の施工方法であって、以下に示す構成を有する。
【0075】
屋根勾配、働き幅B及び働き長さLの三つのうちのいずれか二つから残りの一つを関係式に基づいて決定して、複数の屋根材30,31を施工する。
【0076】
この態様によれば、屋根勾配、働き幅B及び働き長さLのうちいずれか二つが決まっている場合に、残りの一つを関係式に基づいて決定することで、複数の屋根材30,31を下地面20に千鳥葺きするにあたって、隅棟11に沿って設けられる隅棟屋根材31の形状及び大きさを同じにすることができる。
【符号の説明】
【0077】
B 働き幅
L 働き長さ
θ 隅棟角度
1 屋根構造(設置構造)
11 隅棟
20 下地面
3 屋根材セット
30 通常屋根材
31 隅棟屋根材