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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】駐車システム
(51)【国際特許分類】
   E04H 6/42 20060101AFI20240731BHJP
   E04H 6/18 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
E04H6/42 Z
E04H6/18 601A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020096867
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021188440
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】立本 和也
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075875(JP,A)
【文献】特開2010-252520(JP,A)
【文献】特開2010-112027(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105332533(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 6/00-6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用の駆動バッテリを搭載した車両の駐車システムであって、
温度の高い第1駐車場及び温度の低い第2駐車場を備えた駐車設備と、
前記駐車設備内で車両を移動させる移動手段と、
前記車両の駆動バッテリを充放電する充放電設備と、
前記車両の駆動バッテリの充電状態値及び劣化状態値のうち、少なくとも前記充電状態値を検出するバッテリ状態検出手段と、
前記移動手段によって走行予定のある車両を前記第1駐車場に移動すると共に走行予定のない車両を前記第2駐車場に移動し、前記バッテリ状態検出手段で検出された前記第1駐車場の車両の駆動バッテリの充電状態値に基づき、該駆動バッテリの充電状態が規定の充電状態に満たない前記第1駐車場の車両に対して前記充放電設備で該駆動バッテリの充電を行うか又は該充放電設備に該駆動バッテリの充電を指示する制御手段と、を備え
前記充放電設備は、車両間で相互充放電可能な車車間充放電設備と、商用電源を用いて車両を充電する商用電源用充放電設備と、を有し、
前記走行予定のある車両が、走行予定時期までに車両の駆動バッテリを前記充放電設備によって充電することを要する要充電車両であり、且つ該要充電車両が前記第1駐車場にある場合に、
前記制御手段は、
前記要充電車両の駆動バッテリを車車間充電で充電可能な電力を駆動バッテリに有する車車間充電車両が、前記第2駐車場にある場合には、該第2駐車場にある前記車車間充電車両から前記要充電車両の駆動バッテリに対して、前記車車間充放電設備で充電を行うか又は該車車間充放電設備に該車車間充電車両から該要充電車両の駆動バッテリへの充電を指示し、
前記車車間充電車両が、前記第2駐車場にはなく、前記駐車設備の前記第2駐車場以外の駐車場にある場合には、前記移動手段によって前記車車間充電車両を前記第2駐車場に移動させ、移動された該車車間充電車両から前記要充電車両の駆動バッテリに対して、前記車車間充放電設備で充電を行うか又は該車車間充放電設備に該車車間充電車両から該要充電車両の駆動バッテリへの充電を指示し、
前記車車間充電車両が前記駐車設備にない場合には、前記要充電車両の駆動バッテリに対して、前記商用電源用充放電設備で充電を行うか又は該商用電源用充放電設備に該要充電車両の駆動バッテリの充電を指示することを特徴とする駐車システム。
【請求項2】
前記駐車設備は、上下方向に複数の駐車階を有する立体駐車設備であり、
前記第1駐車場は、上部の駐車階に位置し、前記第2駐車場は、該第1駐車場よりも下部の駐車階に位置することを特徴とする請求項1に記載の駐車システム。
【請求項3】
前記制御手段は、
車両利用者の走行予定時期及び走行予定距離に応じた該当車両を前記駐車設備から選択して配車するにあたり、前記バッテリ状態検出手段で検出された検出値から走行可能距離を算出し、算出された前記走行可能距離に基づいて前記走行予定時期に前記走行予定距離を走行可能な該当車両を検索し、
該検索の結果、前記駐車設備に前記該当車両がなく、且つ前記走行予定時期までに車両の駆動バッテリを前記充放電設備によって充電することにより、前記走行予定距離を走行可能となる前記要充電車両が、前記第1駐車場にはなく、前記駐車設備の前記第1駐車場以外の駐車場にある場合に、前記移動手段によって、前記要充電車両を前記第1駐車場に移動させ、移動された該要充電車両の駆動バッテリに対して、前記充放電設備で充電を行うか又は該充放電設備に移動された該要充電車両の駆動バッテリの充電を指示することを特徴とする請求項1又は2に記載の駐車システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記車両利用者による配車希望がない場合に、前記第1駐車場に存在する車両のうち、前記走行可能距離が最も小さい車両を前記移動手段によって前記第2駐車場へ移動させることを特徴とする請求項3に記載の駐車システム。
【請求項5】
前記バッテリ状態検出手段は、車両の駆動バッテリの劣化状態値を検出可能であり、
前記制御手段は、前記駐車設備内に前記該当車両が複数存在する場合に、前記劣化状態値が小さい駆動バッテリを搭載した前記該当車両を優先的に配車車両として選択することを特徴とする請求項3又は4に記載の駐車システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駐車システム、特に、車両駆動用の駆動バッテリを搭載した車両の駐車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両では駆動バッテリの充電が重要であり、充電所要時間を考慮すると、電動車両を使用しない、駐車中の充電が望まれる。このように駐車中に電動車両の駆動バッテリを充電することが可能な駐車システムとしては、例えば、下記特許文献1に記載されるものがある。この駐車システムは、複数の駐車スペースの所定の箇所に充電用駐車スペースを設け、電動車両を搭載するパレットが充電用駐車スペースに移動されると、その充電用駐車スペースに設けられた充放電設備によってパレット上の電動車両の駆動バッテリが充電されるように構成されている。また、充電用駐車スペースが埋まっている状態で新たに駆動バッテリの充電を必要とする電動車両が入庫されたら、その車両を搭載するパレットを空いている駐車スペースに駐車しておき、充電用駐車スペースの電動車両の駆動バッテリの充電が完了したら、充電完了した電動車両を搭載するパレットを更に他の駐車スペースに移動し、上記充電待ちの電動車両のパレットを充電用駐車スペースに移動して駆動バッテリの充電を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5754722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動車両に搭載される駆動バッテリ、特にリチウムイオンバッテリは、温度が低いと充放電可能電力が低下する一方で、温度が高いほど劣化しやすいというトレードオフ特性がある。駐車設備は、車両の保管設備としての機能と、これから使用する、すなわち走行する車両の置き場、換言すれば配車設備としての機能を併せ持つ。しかしながら、上記駆動バッテリの温度に関するトレードオフ特性を両立させながら電動車両を配車・保管可能な駐車システムは存在しない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動バッテリの温度に関するトレードオフ特性を両立して電動車両を配車・保管することが可能な駐車システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態は、
車両駆動用の駆動バッテリを搭載した車両の駐車システムであって、
温度の高い第1駐車場及び温度の低い第2駐車場を備えた駐車設備と、
前記駐車設備内で車両を移動させる移動手段と、
前記車両の駆動バッテリを充放電する充放電設備と、
前記車両の駆動バッテリの充電状態値及び劣化状態値のうち、少なくとも前記充電状態値を検出するバッテリ状態検出手段と、
前記移動手段によって走行予定のある車両を前記第1駐車場に移動すると共に走行予定のない車両を前記第2駐車場に移動し、前記バッテリ状態検出手段で検出された前記第1駐車場の車両の駆動バッテリの充電状態値に基づき、該駆動バッテリの充電状態が規定の充電状態に満たない前記第1駐車場の車両に対して前記充放電設備で該駆動バッテリの充電を行うか又は該充放電設備に該駆動バッテリの充電を指示する制御手段と、を備え
前記充放電設備は、車両間で相互充放電可能な車車間充放電設備と、商用電源を用いて車両を充電する商用電源用充放電設備と、を有し、
前記走行予定のある車両が、走行予定時期までに車両の駆動バッテリを前記充放電設備によって充電することを要する要充電車両であり、且つ該要充電車両が前記第1駐車場にある場合に、
前記制御手段は、
前記要充電車両の駆動バッテリを車車間充電で充電可能な電力を駆動バッテリに有する車車間充電車両が、前記第2駐車場にある場合には、該第2駐車場にある前記車車間充電車両から前記要充電車両の駆動バッテリに対して、前記車車間充放電設備で充電を行うか又は該車車間充放電設備に該車車間充電車両から該要充電車両の駆動バッテリへの充電を指示し、
前記車車間充電車両が、前記第2駐車場にはなく、前記駐車設備の前記第2駐車場以外の駐車場にある場合には、前記移動手段によって前記車車間充電車両を前記第2駐車場に移動させ、移動された該車車間充電車両から前記要充電車両の駆動バッテリに対して、前記車車間充放電設備で充電を行うか又は該車車間充放電設備に該車車間充電車両から該要充電車両の駆動バッテリへの充電を指示し、
前記車車間充電車両が前記駐車設備にない場合には、前記要充電車両の駆動バッテリに対して、前記商用電源用充放電設備で充電を行うか又は該商用電源用充放電設備に該要充電車両の駆動バッテリの充電を指示することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、走行予定のない車両は保管車両として温度の低い第2駐車場に移動されるので、その保管車両の駆動バッテリの不要な劣化を抑制することができる一方、走行予定のある車両は、例えば、これから使用するための配車車両として温度の高い第1駐車場に移動されるので、その配車車両の駆動バッテリの充放電性能を確保することができる。更に、走行予定のある第1駐車場の車両の駆動バッテリの充電状態が規定の充電状態に満たない場合には、充放電設備で、その車両の駆動バッテリの充電を行うか又は充電が指示されるので、第1駐車場の車両の駆動バッテリの充電状態を規定の走行可能状態とし続けることができる。
【0008】
また、本発明の他の構成は、前記駐車設備は、上下方向に複数の駐車階を有する立体駐車設備であり、前記第1駐車場は、上部の駐車階に位置し、前記第2駐車場は、該第1駐車場よりも下部の駐車階に位置することを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる構成は、前記制御手段は、車両利用者の走行予定時期及び走行予定距離に応じた該当車両を前記駐車設備から選択して配車するにあたり、前記バッテリ状態検出手段で検出された検出値から走行可能距離を算出し、算出された前記走行可能距離に基づいて前記走行予定時期に前記走行予定距離を走行可能な該当車両を検索し、該検索の結果、前記駐車設備に前記該当車両がなく、且つ前記走行予定時期までに車両の駆動バッテリを前記充放電設備によって充電することにより、前記走行予定距離を走行可能となる前記要充電車両が、前記第1駐車場にはなく、前記駐車設備の前記第1駐車場以外の駐車場にある場合に、前記移動手段によって、前記要充電車両を前記第1駐車場に移動させ、移動された該要充電車両の駆動バッテリに対して、前記充放電設備で充電を行うか又は該充放電設備に移動された該要充電車両の駆動バッテリの充電を指示することを特徴とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の更なる構成は、前記制御手段は、前記車両利用者による配車希望がない場合に、前記第1駐車場に存在する車両のうち、前記走行可能距離が最も小さい車両を前記移動手段によって前記第2駐車場へ移動させることを特徴とすることを特徴とする。
【0014】
本発明の更なる構成は、前記バッテリ状態検出手段は、車両の駆動バッテリの劣化状態値を検出可能であり、前記制御手段は、前記駐車設備内に前記該当車両が複数存在する場合に、前記劣化状態値が小さい駆動バッテリを搭載した前記該当車両を優先的に配車車両として選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、駆動バッテリの温度に関するトレードオフ特性を両立して車両を配車・保管することができると共に、走行予定のある配車車両を規定の走行可能状態に保持しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の駐車システムの一実施の形態を示す概略構成図である。
図2図1の駐車設備の説明図である。
図3図1のコントロールユニットで行われる演算処理を示すフローチャートである。
図4図1のコントロールユニットで行われる演算処理を示すフローチャートである。
図5図1のコントロールユニットで行われる演算処理を示すフローチャートである。
図6図5の演算処理で行われるサブルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の駐車システムの一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態の駐車システムの概略構成図、図2は、図1の駐車設備1の説明図である。この実施の形態の駐車システムは、車両の駆動源としてモータのみを搭載し、このモータを駆動するために、例えば、リチウムイオンバッテリを駆動バッテリとして搭載する電動車両のみを駐車対象の車両Vとして扱う。なお、この実施の形態の車両Vは、例えば、搭載される駆動バッテリの充電状態値(SOC:State of Charge)及び劣化状態値(SOH:State of Health)を検出するバッテリチェッカなどのバッテリ状態検出装置を有しており、図示しない無線通信手段を介して、後述するコントロールユニット2に送信する。なお、車両Vの駆動バッテリの充電状態値や劣化状態値の検出は、上記以外の手段であってもよい。
【0019】
この駐車システムは、一例として、図2に示すような立体駐車設備を駐車設備1とする。この駐車設備1では、例えば、最下階(地上階でなくともよい)を車両Vの出入口とし、車両Vを昇降装置3で設備の上下方向に昇降する。駐車設備1には、上下方向に複数の駐車階PFが設けられており、各駐車階PFに昇降された車両Vは、その階の駐車スペースに移動されて駐車する。各階の駐車スペースへの移動は、例えば、車両Vをパレットに搭載し、そのパレットを略水平方向に移動させて行う。これらの昇降・移動装置が、この実施の形態の移動手段を構成している。この移動手段による車両Vの移動は、後述するコントロールユニット2によって制御される。
【0020】
この駐車設備1の各駐車階PFには、車両Vの駆動バッテリの充放電を行う充放電設備4、5が設けられている。具体的には、例えば、商用電源を用いて車両の駆動バッテリを充電する急速充放電設備4と、車両Vの駆動バッテリの電力を用いて他の車両Vの駆動バッテリを充電する車車間充放電設備5を備えている。この実施の形態では、これらの充放電設備は、後述するコントロールユニット2からの指令に従って各駐車階PFの車両Vの充放電を独立して制御するように構成されているが、個別の態様として、コントロールユニット2が充放電設備を制御するようにしてもよい。なお、この実施の形態では、車車間充放電設備と区別しやすいように急速充放電設備又は急速充電という用語を用いるが、これに代えて、普通充放電設備又は普通充電という用語を用いてもよい。更には、急速充放電設備と普通充放電設備を併設してもよい。
【0021】
上記コントロールユニット2は、制御手段としてのコンピュータシステムを備えて構成される。このコンピュータシステムは、周知のコンピュータシステムと同様に、高度な演算処理機能を有する演算処理装置に加え、例えばプログラムを記憶する記憶装置や、センサ信号を読込んだり、他のコントロールユニットと相互通信を行ったりするための入出力装置を備えて構成される。なお、コントロールユニット2は、上記移動手段を制御したり、上記充放電設備に対して指令を出力したりするための専用のコントロールユニットである必要はなく、例えば、パーソナルコンピュータに必要なアプリケーションソフトウエアを取り込んで構築することも可能である。
【0022】
この実施の形態では、図1に示すように、駐車設備1の上下方向に設けられた複数の駐車階PFを、例えば、上部、中部、下部と区分した場合、上部に位置する駐車階PFを第1駐車場P1、下部に位置する駐車階PFを第2駐車場P2、中部に位置する駐車階PFを第3駐車場P3と設定している。この実施の形態の駐車設備1は、上下に高い立体駐車設備なので、一般に、上部に位置する第1駐車場P1は温度が高く、下部に位置する第2駐車場P2は温度が低い。前述のように、電動車両の駆動バッテリ、特にリチウムイオンバッテリは、温度が高い方が充放電可能電力に優れる一方、温度が高いほど劣化し易いというトレードオフ特性を有する。そこで、この実施の形態では、温度が高い第1駐車場P1には走行予定のある車両Vを移動(駐車)し、温度が低い第2駐車場P2には走行予定のない車両Vを移動(駐車)する。すなわち、第1駐車場P1に移動(駐車)される車両Vは、車両利用者のために配車される配車車両であり、第2駐車場P2に駐車(移動)される車両Vは保管車両である。なお、第3駐車場P3には、車両利用者が利用した後の車両Vを一時的に移動(駐車)する。
【0023】
更に、この実施の形態では、レンタカーの顧客のような車両利用者の走行予定に合わせて車両Vを駐車設備1内で移動(駐車)する。その際、第1駐車場P1の車両Vは、例えば、車両利用者がすぐに利用したいという要望に応えられるように、各車両Vの駆動バッテリの充電状態値を監視し、駆動バッテリの充電状態値が予め設定された規定値以下になると上記急速充放電設備4又は車車間充放電設備5を用いて、その車両Vの駆動バッテリの充電を行う。また、例えば、車両利用者の利用、すなわち走行予定時期に走行予定距離を走行可能な車両Vが第1駐車場P1にない場合であって、その走行予定時期までに充電時間がある場合には、第2駐車場P2の車両Vを第1駐車場P1に移動し、上記急速充放電設備4又は車車間充放電設備5を用いて、その車両Vの駆動バッテリの充電を行う。
【0024】
図3図6は、上記コントロールユニット2内で実行される演算処理のフローチャートである。このうち、図6のフローチャートは、図5の演算処理のサブルーチンを示しているが、その他のフローチャートは、個別のサンプリング周期又は実行タイミングで行われる個別の演算処理である。なお、後述する配車希望やそれに伴う走行予定時期、走行予定距離などは、例えば電気通信網などの個別の入力手段でコントロールユニット2に入力される。また、例えば、レンタカー業務などの場合、実配車された車両が駐車設備1に戻ってきたら、後述する検索対象車両に加えるものとする。
【0025】
図3のフローチャートに示す演算処理は、比較的頻度の高いサンプリング周期で実行され、まずステップS1で、前述のように各車両から送信される駐車設備内の全ての車両の充電状態値(図ではSOC)及び劣化状態値(図ではSOH)を読込む。充電状態値(SOC)は、駆動バッテリの完全充電時の充電状態に対する現在の充電状態の割合、劣化状態値(SOH)は、駆動バッテリの非劣化時(新品時)の健全状態に対する現在の健全状態の割合である。
【0026】
次にステップS2に移行して、全車の走行可能距離を算出してから復帰する。走行可能距離は、充電状態値(SOC)と劣化状態値(SOH)の積値に非劣化状態完全充電時走行可能距離(LiL)を乗じて求める。比劣化状態完全充電時走行可能距離(LiL)は、駆動バッテリが非劣化(新品)で且つ完全充電されたときに走行可能な距離である。
【0027】
この演算処理によれば、駐車設備内の全ての車両の走行可能距離が所定のサンプリング周期で随時算出される。その際、充電状態値と劣化状態値の乗算値を用いて走行可能距離を算出することにより、現在の駆動バッテリの状態で車両を走行することができる距離を適正に求めることができる。
【0028】
図4のフローチャートに示す演算処理は、比較的頻度の低い実行周期で実行され、まずステップS11で、第1駐車場内に車両で充電状態値(SOC)が予め設定された規定値以下の要充電車両を検索する。この規定値は、例えば、完全充電時の充電状態値よりも少し小さい程度の充電状態値に設定されている。
【0029】
次にステップS12に移行して、要充電車両があるか否かを判定し、要充電車両がある場合にはステップS13に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0030】
上記ステップS13では、第2駐車場の車両又は第2駐車場に移動される車両で上記要充電車両を車車間充電できる車車間充電車両を検索する。この車車間充電車両は、(第2駐車場の)車両のうち、その車両の駆動バッテリで要充電車両の駆動バッテリを充電できるだけの電力を有する車両を示す。なお、車車間充電車両は、必ずしも1台でなくともよい。
【0031】
次にステップS14に移行して、車車間充電車両があるか否かを判定し、車車間充電車両がある場合にはステップS15に移行し、そうでない場合にはステップS16に移行する。
【0032】
上記ステップS15では、上記車車間充放電設備に対して要充電車両の駆動バッテリを車車間充電車両の駆動バッテリで車車間充電するように指示してから復帰する。
【0033】
一方、上記ステップS16では、上記急速充放電設備に対して要急速充電車両の駆動バッテリを急速充電するように指示してから復帰する。
【0034】
この演算処理によれば、配車車両を駐車している第1駐車場の車両の駆動バッテリの充電状態値が規定値以下になると、その車両の駆動バッテリが車車間充電又は急速充電されるので、例えばレンタカーの顧客などの車両利用者がすぐに車両を利用したいといった要望に確実に応えることができる。また、第2駐車場の保管車両で第1駐車場の上記要充電車両を車車間充電できる場合には、その第2駐車場の保管車両の駆動バッテリで要充電車両の駆動バッテリを車車間充電するので、車車間充電を行った第2駐車場の保管車両の駆動バッテリは、車車間充電分だけ充電状態値が調整される。リチウムイオンバッテリなどの駆動バッテリは、充電状態値によって劣化し易い(一般に、充電状態値が大きいほど劣化し易いが、特定の充電状態値で劣化し易いものもある)という特性があるので、保管車両の駆動バッテリの充電状態値を調整することは、その駆動バッテリの劣化を抑制することにつながる。
【0035】
図5のフローチャートに示す演算処理は、車両利用者から配車希望があった場合や、オペレータが配車及び保管を指示した場合、或いは比較的頻度の低い実行周期で実行され、まずステップS21で、配車希望があるか否かを判定し、配車希望がある場合にはステップS22に移行し、そうでない場合にはステップS31に移行する。配車希望は、例えば配車希望のリストの形態で読込まれる。
【0036】
上記ステップS22では、全ての配車希望の走行予定時期を読込んでからステップS23に移行する。
【0037】
上記ステップS23では、上記ステップS22で読込まれた走行予定時期のうち、走行予定時期の最も早い配車希望を選択してからステップS24に移行する。
【0038】
上記ステップS24では、上記ステップS23で選択された配車希望の走行予定距離を読込んでからステップS25に移行する。
【0039】
上記ステップS25では、駐車設備内の全ての車両のうち、上記図3の演算処理で算出された走行可能距離が上記ステップS24で読込まれた走行予定距離を超える車両を配車該当車両として検索してからステップS26に移行する。すなわち、このステップS25では、上記急速充放電設備や車車間充放電設備による充電を行うことなく、走行予定距離を走行可能な車両を検索している。
【0040】
上記ステップS26では、配車該当車両があるか否かを判定し、配車該当車両がある場合にはステップS27に移行し、そうでない場合にはステップS28に移行する。
【0041】
上記ステップS27では、配車該当車両を走行予定のある車両として第1駐車場に移動してからステップS29に移行する。なお、配車該当車両が第1駐車場にある場合には移動は行わない。
【0042】
上記ステップS29では、配車該当車両を配車車両として、配車希望の検索対象車両から削除してからステップS30に移行する。
【0043】
一方、上記ステップS28では、図6のサブルーチンの演算処理、具体的には充電有の配車処理を行ってから上記ステップS30に移行する。
【0044】
上記ステップS30では、上記ステップS23で選択された配車希望を、上記リスト形態の検索対象配車希望から削除してから復帰する。
【0045】
また、上記ステップS31では、残余車両があるか否かを判定し、残余対象車両がある場合にはステップS32に移行し、そうでない場合には復帰する。この残余車両とは、上記第1駐車場にある上記検索対象車両を示す。
【0046】
上記ステップS32では、第1駐車場の残余車両のうち、走行可能距離の最も小さい車両を保管車両として選択してからステップS33に移行する。
【0047】
上記ステップS33では、上記ステップS32で選択された保管車両を第2駐車場に移動してからステップS34に移行する。なお、保管車両が第2駐車場にある場合には移動は行わない。
【0048】
上記ステップS34では、上記保管車両を残余車両から削除してから復帰する。
【0049】
この演算処理によれば、レンタカーの顧客などの車両利用者の配車希望のうち、走行予定時期の早い配車希望が選択され、走行可能距離が走行予定距離よりも大きい車両があれば、その車両が配車該当車両として第1駐車場に移動(駐車)される。この第1駐車場は、前述のように、温度が高いので、この第1駐車場に移動(駐車)される配車該当車両、すなわち走行予定のある車両は、駆動バッテリの高い充放電性能が確保される。
【0050】
また、この演算処理では、第1駐車場にある検索対象車両、すなわち残余車両のうち、走行可能距離の最も小さい車両が走行予定のない保管車両として選択されて第2駐車場に移動(駐車)される。走行可能距離の小さい車両は、例えば、駆動バッテリの十分な充電に時間を要し、配車希望に応じて充電し始めても、走行予定時期に間に合わないおそれがある。そこで、充電が走行予定時期に間に合わない可能性の高い車両を保管車両とする。また、走行可能距離の小さい車両は、一般的に、充電状態値も小さい。前述のように、充電状態値によって駆動バッテリは劣化し易いことから、劣化しにくい充電状態値の駆動バッテリを搭載する車両を優先的に保管車両として、温度の低い第2駐車場に移動(駐車)することで、駆動バッテリの劣化をより効果的に抑制することが可能となる。
【0051】
次に、上記図5の演算処理のステップS28で実行されるサブルーチンの演算処理、即ち充電有の配車処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。このサブルーチンの演算処理では、まずステップS41で、充電有余時間算出する。この充電有余時間は、例えば走行予定時期(時刻)から現在時刻を減算して得られる。
【0052】
次にステップS42に移行して、上記ステップS41で算出された充電有余時間は駐車設備にある車両を十分充電することが可能な時間か否かを判定し、十分充電できる時間である場合にはステップS43に移行し、そうでない場合にはステップS44に移行する。
【0053】
上記ステップS43では、駐車設備内の車両の走行可能距離を上記劣化状態値(SOH)と上記非劣化状態完全充電時走行可能距離(LiL)の積値に再設定してから上記ステップS44に移行する。
【0054】
上記ステップS44では、上記ステップS41で算出された充電有余時間が車車間充電所要時間より大きいか否かを判定し、充電有余時間が車車間充電所要時間より大きい場合にはステップS45に移行し、そうでない場合にはステップS53に移行する。なお、車車間充電所要時間は、例えば、代表的な充電状態値にある車両の駆動バッテリを車車間充電で十分な充電状態値まで充電するのに必要な時間とする。
【0055】
上記ステップS45では、上記充電有余時間の車車間充電で走行可能距離が走行予定距離を超える要車車間充電車両を検索してからステップS46に移行する。
【0056】
上記ステップS46では、要車車間充電車両があるか否かを判定し、要車車間充電車両がある場合にはステップS47に移行し、そうでない場合には上記ステップS53に移行する。
【0057】
上記ステップS47では、第2駐車場の車両又は第2駐車場に移動される車両で上記要車車間充電車両を車車間充電できる車車間充電車両を検索してからステップS48に移行する。
【0058】
上記ステップS48では、上記ステップS47で車車間充電車両があったか否かを判定し、車車間充電車両がある場合にはステップS51に移行し、そうでない場合にはステップS49に移行する。
【0059】
上記ステップS49では、(第3駐車場を含めて)第1駐車場の車両で上記要車車間充電車両を車車間充電できる車車間充電車両を検索してからステップS50に移行する。
【0060】
上記ステップS50では、上記ステップS49で車車間充電車両があったか否かを判定し、車車間充電車両がある場合には上記ステップS51に移行し、そうでない場合には上記ステップS53に移行する。
【0061】
上記ステップS51では、上記要車車間充電車両を走行予定のある車両として第1駐車場に移動すると共に車車間充電車両を走行予定のない車両として第2駐車場に移動し、車車間充放電設備に対して要車車間充電車両の駆動バッテリを車車間充電車両の駆動バッテリで車車間充電するように指示してからステップS52に移行する。なお、要車車間充電車両が第1駐車場にある場合や、車車間充電車両が第2駐車場にある場合には移動は行わない。
【0062】
上記ステップS52では、要車車間充電車両を配車車両として検索対象車両から削除すると共に車車間充電車両を残余車両から削除してから上記図5の演算処理のステップS30に移行する。
【0063】
一方、上記ステップS53では、上記ステップS41で算出された充電有余時間が急速充電所要時間より大きいか否かを判定し、充電有余時間が急速充電所要時間より大きい場合にはステップS54に移行し、そうでない場合にはステップS58に移行する。なお、急速充電所要時間は、例えば、代表的な充電状態値にある車両の駆動バッテリを急速充電で十分な充電状態値まで充電するのに必要な時間とする。
【0064】
上記ステップS54では、上記充電有余時間の急速充電で走行可能距離が走行予定距離を超える要急速充電車両を検索してからステップS55に移行する。
【0065】
上記ステップS55では、要急速充電車両があるか否かを判定し、要急速充電車両がある場合にはステップS56に移行し、そうでない場合には上記ステップS58に移行する。
【0066】
上記ステップS56では、上記要急速充電車両を走行予定のある車両として第1駐車場に移動し、急速充放電設備に対して要急速充電車両の駆動バッテリを急速充電するように指示してからステップS57に移行する。なお、要急速充電車両が第1駐車場にある場合には移動は行わない。
【0067】
上記ステップS57では、要急速充電車両を配車車両として検索対象車両から削除してから上記図5の演算処理のステップS30に移行する。
【0068】
また、上記ステップS58では、選択された配車希望に対して配車できない旨の処理を行ってから上記図5の演算処理のステップS30に移行する。
【0069】
この演算処理では、走行予定時間までの充電有余時間が駐車設備の車両の駆動バッテリを十分充電できる時間である場合には、劣化状態値に基づいて各車両の走行可能距離が再設定される。各車両の駆動バッテリを十分充電することができれば、現在の充電状態値は考慮する必要がないので、各車両の劣化状態値のみを考慮して走行可能距離を再設定する。
【0070】
上記充電有余時間で車車間充電が可能な場合、まず充電有余時間の車車間充電で走行可能距離が走行予定距離を超える要車車間充電車両を検索する。要車車間充電車両があった場合には、まず第2駐車場の車両で要車車間充電車両を車車間充電できる車車間充電車両を検索し、第2駐車場の車車間充電車両があれば、その車両の駆動バッテリで要車車間充電車両の駆動バッテリを車車間充電する。第2駐車場に車車間充電車両がなかった場合には、第1駐車場か第3駐車場で車車間充電車両を検索し、車車間充電車両があれば、その車両の駆動バッテリで要車車間充電車両の駆動バッテリを車車間充電する。車車間充電された車両は、配車車両として温度の高い第1駐車場に移動(駐車)され、車車間充電によって駆動バッテリの充電状態値が小さくなった車両は、保管車両として温度の低い第2駐車場に移動(駐車)される。これらの場合の効果は、上記図4及び図5の演算処理における効果の説明と同等である。
【0071】
要車車間充電車両がなく、且つ、上記充電有余時間で急速充電が可能な場合、充電有余時間の急速充電で走行可能距離が走行予定距離を超える要急速充電車両を検索する。要急速充電車両があった場合には、その車両を急速充放電設備で急速充電する。急速充電された車両は、配車車両として温度の高い第1駐車場に移動(駐車)される。この場合の効果は、上記図5の演算処理における効果の説明と同等である。
【0072】
このように、この実施の形態の駐車システムでは、走行予定のない車両Vは保管車両として温度の低い第2駐車場P2に移動されるので、その保管車両の駆動バッテリの不要な劣化を抑制することができる一方、走行予定のある車両Vは、これから使用するための配車車両として温度の高い第1駐車場P1に移動されるので、その配車車両の駆動バッテリの充放電性能を確保することができる。更に、走行予定のある第1駐車場P1の車両Vの駆動バッテリの充電状態が規定の充電状態に満たない場合には、充放電設備4、5で、その車両Vの駆動バッテリの充電が指示されるので、第1駐車場P1の車両Vの駆動バッテリの充電状態を規定の走行可能状態とし続けることができる。
【0073】
また、車両利用者の走行予定時期及び走行予定距離に応じた該当車両を駐車設備1から選択して配車する場合、駆動バッテリの充電状態値や劣化状態値を用いて車両Vの走行可能状態が算出され、走行可能距離が走行予定距離よりも大きい第1駐車場P1の車両Vが走行予定時期に走行予定距離を走行可能な配車車両として選択されるので、車両利用者は、車両Vを充電することなく、走行予定距離を走行することができる。
【0074】
また、上記第1駐車場P1に上記該当車両がなく、且つ、走行予定時期までに駆動バッテリを充電する時間がある場合には、第2駐車場P2に保管されている車両Vを第1駐車場P1に移動して配車車両に設定し、その配車車両の駆動バッテリが走行予定時期までに充電されるので、車両利用者は、車両Vを充電することなく、走行予定距離を走行することができる。
【0075】
また、温度の低い第2駐車場P2に保管される車両Vの駆動バッテリで充電状態値が規定値以下の第1駐車場P1の車両Vの駆動バッテリが車車間充電される。例えば、リチウムイオンバッテリなどの駆動バッテリは、充電状態値によって劣化しやすい特性があるので、第2駐車場P2に保管される車両Vの駆動バッテリで第1駐車場P1の車両Vの駆動バッテリを車車間充電すれば、その第2駐車場P2の車両Vの駆動バッテリの充電状態値を調整することができ、第2駐車場P2に保管される車両Vの駆動バッテリの不要な劣化を抑制することができる。
【0076】
また、例えば充電回数などの経時的影響を反映した劣化状態値と充電状態値の乗算値から走行可能距離を算出することで、より正確な走行可能距離を算出することが可能となる。
【0077】
以上、実施の形態に係る駐車システムについて説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、立体駐車設備の上部の駐車階を温度の高い第1駐車場、下部の駐車階を温度の低い第2駐車場としたが、駐車設備内の実際の温度状態に応じて第1駐車場及び第2駐車場を設定すればよい。また、必要に応じて、それぞれの駐車場に温度調整装置を設けてもよい。また、駐車設備の形態は、立体駐車設備に限定されるものではなく、あらゆる駐車設備を対象とすることができる。
【0078】
また、温度の高い上記第1駐車場への車両の移動は、配車希望の走行予定時期よりも規定時間(時期)だけ前の時刻(時期)に行うようにしてもよい。例えば、温度の低い第2駐車場に保管されている車両を、走行予定時期よりも遥かに早い時期に第1駐車場に移動してしまうと、その分だけ、車両の駆動バッテリの温度が早い時期に高くなり、駆動バッテリの劣化が促進されるおそれがある。したがって、そのような場合には、走行予定時期よりも少し前に第1駐車場に移動することが好ましい。
【0079】
また、前述のように、急速充放電設備に代えて普通充放電設備を設置することもできるし、急速充放電設備と普通充放電設備を併設することもできる。
【0080】
また、例えばレンタカー業務の場合、劣化状態値の小さい、すなわち劣化の進んだ駆動バッテリを搭載する車両を優先的に配車車両に設定することも考えられる。
【符号の説明】
【0081】
1 駐車設備
2 コントロールユニット(制御手段)
3 昇降装置(移動手段)
4 急速充放電設備(充放電設備)
5 車車間充放電設備(充放電設備)
P1 第1駐車場
P2 第2駐車場
V 車両
PF 駐車階
図1
図2
図3
図4
図5
図6