(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】電気化学セルおよび電気化学セルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20240731BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20240731BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20240731BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240731BHJP
【FI】
H01M8/1213
C25B1/042
C25B15/00 302A
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2020114580
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-02-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-310737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
C25B 1/04
C25B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素極と、
前記水素極に積層されている電解質と、
前記電解質に積層されている反応防止層と、
前記反応防止層に積層されている酸素極と、を備え、
前記反応防止層は、厚さが20μmよりも大きくて気孔率が10%よりも高い多孔質構造を有
し、
前記反応防止層は、60%以上の気孔率を有し、
前記反応防止層は、100μm以上かつ500μm以下の厚さを有する、
電気化学セル。
【請求項2】
前記反応防止層は、ガドリニウム(Gd)、サマリウム(Sm)、およびイットリウム(Y)のうちの少なくとも1つの酸化物を含有するドープセリアである、請求項
1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の電気化学セルを備える電気化学セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気化学セルおよび電気化学セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物電気化学セルは、その高い作動温度(600~1000℃)から、高価な貴金属触媒を用いなくても十分な反応速度を得ることができる。そのため、固体酸化物燃料電池(SOFC)として動作する場合、他のタイプの燃料電池と比較して最も発電効率が高く、二酸化炭素(CO2)の発生も少ない。そのため、次世代のクリーンな発電システムとして期待されている。
【0003】
また、高温水蒸気電解セル(SOEC)として動作する場合には、その高い動作温度により原理的に低い電解電圧で水素を製造することが可能であることから、高効率水素製造装置として期待されている。さらには、SOFC/SOECを用いた電力貯蔵システムとしての利用も検討されている。
【0004】
固体酸化物電気化学セルの酸素極には、高い導電率を持つペロブスカイト型酸化物が一般的に用いられている。例えば、高温作動タイプにはランタン-マンガン系酸化物(LaMnO3系)を使用し、中低温作動タイプにはランタン-コバルト系酸化物(LaCoO3系)を使用する場合が多い。LaCoO3系酸化物は、LaMnO3系酸化物に比べて導電率および電極触媒活性が高い。その一方で、固体酸化物電気化学セルの電解質として一般的に使用されるジルコニア系酸化物(ZrO2系)との反応性が大きい。そのため、セル作製の焼成時に固相反応が起こる場合がある。この場合、La2Zr2O7などの高抵抗相が形成されて、セル性能が低下する可能性がある。
【0005】
この高抵抗相の形成を防ぐ方法として、電解質と酸素極との間にCeO2系酸化物からなる緻密な薄い反応防止層を形成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.Phys.Chem.Solids.,343-348(2005)
【文献】Proc.SOFC-IX,Electrochem.Soc.,1695-1706(2005)
【文献】Electrochem.Acta,54,3309-3315(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記反応防止層を形成した電気化学セルが高温で運転していると、電解質成分と酸素極成分が拡散してCeO2系酸化物の形態が変化し、セル性能の低下を引き起こす可能性がある。
【0009】
そこで、本発明の実施形態は、セル性能を高めることが可能な電気化学セルおよび電気化学セルスタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態に係る電気化学セルは、一実施形態に係る電気化学セルは、水素極と、水素極に積層されている電解質と、電解質に積層されている反応防止層と、反応防止層に積層されている酸素極と、を備える。反応防止層は、厚さが20μmよりも大きくて気孔率が10%よりも高い多孔質構造を有する。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態によれば、セル性能の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る電気化学セルの一部の構造を簡略化した断面図である。
【
図2】実施例1~4の電気化学セルの製造工程を示す断面図である。
【
図3】各実施例で形成された反応防止層を拡大した断面図である。
【
図4】各比較例で形成された反応防止層を拡大した断面図である。
【
図5】各実施例および各比較例の評価測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による電気化学セルについて説明するが、本発明は以下の実施形態や実施例に限定されるものではない。また、以下の説明で参照する模式図は、各構成の位置関係を示す図であり、粒子の大きさや各層の厚さの比等は実際のものと必ずしも一致するものではない。
【0014】
図1は、一実施形態に係る電気化学セルの一部の構造を簡略化した断面図である。本実施形態に係る電気化学セル1は、水素極支持型の固体酸化物電気化学セルである。この電気化学セル1では、水素極100と、電解質103と、反応防止層104と、酸素極105と、がこの順番で積層されている。
【0015】
水素極100は、基体101と、基体101上に積層された活性層102とで構成される。基体101は、多孔質層であってもよいし、活性層102と同じ構造であってもよい。基体101および活性層102には、金属粒子と金属酸化物を含む焼結体を用いることができる。焼結体に含まれ又は酸化物に固溶している金属粒子には、例えばニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)と銅(Cu)からなる群から選ばれる1種以上、もしくはそれらを含む合金が挙げられる。
【0016】
また、金属酸化物には、例えば酸化イットリウム(Y2O3)、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2)等からなる群から選ばれる1種以上の安定化剤が固溶された安定化ジルコニアや、酸化サマリウム(Sm2O3)、Gd2O3とY2O3等からなる群から選ばれる1種以上の酸化物とCeO2が固溶したドープセリア等が挙げられる。
【0017】
電解質103は、Y2O3,Sc2O3,Yb2O3,Gd2O3,CaO,MgO,CeO2等からなる群から選ばれる1種以上の安定化剤が固溶された安定化ジルコニアやSm2O3、Gd2O3とY2O3等からなる群から選ばれる1種以上の酸化物とCeO2が固溶したドープセリアで構成される。
【0018】
反応防止層104は、Sm2O3、Gd2O3とY2O3等からなる群から選ばれる1種以上の酸化物とCeO2が固溶したドープセリアで構成される。
【0019】
酸素極105は、ペロブスカイト酸化物を含む焼結体で構成される。ペロブスカイト酸化物は、主として、Ln1-xAxB1-yCyO3-δで表される。「Ln」には、例えばランタン(、La)などの希土類元素が挙げられる。「A」は、例えば、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、およびバリウム(Ba)等が挙げられる。「B」及び「C」には、例えば、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、Co,FeとNi等が挙げられる。なお、ペロブスカイト酸化物のx、yとδは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦δ≦1を満たす。酸素極105には、ペロブスカイト酸化物の他に、Sm2O3、Gd2O3とY2O3等からなる群から選ばれる1種以上の酸化物をCeO2にドープしたセリアをさらに含んでもよい。
【0020】
上記のように構成された電気化学セル1を複数積層した積層体が、電気化学セルスタックである。なお、この電気化学セルスタックでは、全ての層が電気化学セル1である必要はなく、少なくとも一層が電気化学セル1であればよい。
【0021】
以下、下記の実施例により、
図2(a)~
図2(d)を参照して電気化学セル1の製造方法を具体的に説明する。
【0022】
(実施例1)
まず、
図2(a)に示すように、基体前駆体111を作製する。本実施例では、酸化ニッケル(NiO)と(Gd
2O
3)
0.1(CeO
2)
0.9の組成になるようにGd
2O
3をドープしたセリア(GDC)を重量比6:4で混合した粉末を用意する。続いて、この粉末から作製したペーストをシート状に成形する。これにより、基体前駆体111が完成する。
【0023】
次に、
図2(b)に示すように、基体前駆体111上に活性層前駆体112を形成し、続いて活性層前駆体112上に電解質103を形成する。本実施例では、活性層前駆体112は、NiOとGDCの混合物で形成される。また、電解質103は、イットリア安定化ジルコニアを用いて形成される。
【0024】
次に、
図2(c)に示すように、電解質103上に反応防止層104を形成する。本実施例では、GDCを焼成し、続いて、この焼成物を厚さ300μm、気孔率80%程度になる多孔質形状に形成する。気孔率は、単位体積当たりに空隙が占める割合を示す。この気孔率は、例えば増孔剤を投入するか、または例えばセラミック3Dプリンタを用いて多孔質パターンを設定することによって調整することができる。
【0025】
次に、1200℃以上かつ1600℃以下の温度条件で、基体前駆体111、活性層前駆体112、電解質103、および反応防止層104を焼成する。この焼成工程は、各層内及び各層間が十分な強度になるまで行われる。
【0026】
次に、反応防止層104上に酸素極105を形成する。本実施例では、La(Sr)Co(Fe)O3-δから成る層を反応防止層104上に形成し、続いて900℃以上かつ1200℃以下の範囲内で焼成する。これにより、反応防止層104に酸素極105を強固に接着することができる。
【0027】
次に、基体前駆体111、活性層前駆体112、電解質103、反応防止層104、および酸素極105から成る積層体を水素極出力特性評価装置に設置する。水素極出力特性評価装置内で、700℃以上で基体前駆体111側に乾燥水素を、酸素極105側に体積比4:1で混合したN
2/O
2混合気体を流すと、基体前駆体111および活性層前駆体112が還元されて、基体101および活性層102が形成される。これにより、
図1に示す電気化学セル1が完成する。
【0028】
水素極出力特性評価装置は、水素極側の水蒸気濃度を制御し、電気化学セル1をSOFCモードもしくはSOECモードで動作させ、その際の電流と電圧との関係を示すI-V特性を評価することができる。還元反応を行った後に、測定温度で電気化学セル1をSOECとして作動させ、初期のI-V特性評価を行った。
【0029】
I-V特性評価を行った後、酸素極105を剥離し、反応防止層104の圧力損失を測定した。また、電気化学セル1の切断面を作製し走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて反応防止層104の構造観察を実施した。得られたSEM画像から、反応防止層104の気孔率を算出した。
【0030】
(実施例2)
実施例2では、上述した実施例1と同様の製造方法で、基体前駆体111上に、活性層前駆体112、電解質103、反応防止層104、および酸素極105を順次に積層する。ただし、本実施例では、反応防止層104の厚さは、実施例1よりも薄い100μmに設計される。
【0031】
次も、実施例1と同様の製造方法で基体前駆体111および活性層前駆体112を還元して基体101および活性層102を形成する。これにより実施例2に係る電気化学セルが完成する。
【0032】
その後、実施例1と同様に、電気化学セル1の初期状態におけるI-V特性評価を行いう。さらに、反応防止層104の圧力損失および気孔率も測定する。
【0033】
(実施例3)
実施例3でも、上述した実施例1と同様の製造方法で、基体前駆体111上に、活性層前駆体112、電解質103、反応防止層104、および酸素極105を順次に積層する。ただし、本実施例では、反応防止層104の厚さは、実施例1よりも厚い500μmに設計される。
【0034】
次も、実施例1と同様の製造方法で基体前駆体111および活性層前駆体112を還元して基体101および活性層102を形成する。これにより実施例3に係る電気化学セルが完成する。
【0035】
その後、実施例1と同様に、電気化学セル1の初期状態におけるI-V特性評価を行う。さらに、反応防止層104の圧力損失および気孔率も測定する。
【0036】
(実施例4)
実施例4でも、上述した実施例1と同様の製造方法で、基体前駆体111上に、活性層前駆体112、電解質103、反応防止層104、および酸素極105を順次に積層する。ただし、本実施例では、反応防止層104の厚さは実施例1よりも薄い500μmに設計される。加えてセラミック3Dプリンタを用いて多孔質パターンを調整することによって、反応防止層104の気孔率が、実施例1よりも小さい60%程度に設計される。
【0037】
次も、実施例1と同様の製造方法で基体前駆体111および活性層前駆体112を還元して基体101および活性層102を形成する。これにより実施例4に係る電気化学セルが完成する。
【0038】
その後、実施例1と同様に、電気化学セル1の初期状態におけるI-V特性評価を行う。さらに、反応防止層104の圧力損失および気孔率も測定する。
【0039】
(比較例1)
比較例1では、反応防止層104の形成方法が上述した実施例1と異なる。本比較例では、スクリーンプリント法またはテープキャスト法を用いてGDC粒子を含むスラリーを電解質103上に塗布する。このとき、反応防止層104の厚さは、実施例1よりも大幅に薄い5μmに設計される。
【0040】
上記のように反応防止層104を形成した後、実施例1と同様に酸素極105を反応防止層104上に積層する。続いて、基体前駆体111および活性層前駆体112を還元して基体101および活性層102を形成する。これにより比較例1に係る電気化学セルが完成する。
【0041】
その後、実施例1と同様に、電気化学セルの初期状態におけるI-V特性評価を行う。さらに、反応防止層104の圧力損失および気孔率も測定する。
【0042】
(比較例2)
比較例2でも、反応防止層104の形成方法が上述した実施例1と異なる。本比較例では、上述した比較例1と同様に、GDC粒子を含むスラリーを電解質103上に塗布することによって、反応防止層104を形成する。ただし、本比較例では、反応防止層104の厚さは、比較例1よりも厚くて実施例1よりも薄い20μmに設計される。
【0043】
上記のように反応防止層104を形成した後、実施例1と同様に酸素極105を反応防止層104上に積層する。続いて、基体前駆体111および活性層前駆体112を還元して基体101および活性層102を形成する。これにより比較例2に係る電気化学セルが完成する。
【0044】
その後、実施例1と同様に、電気化学セルの初期状態におけるI-V特性評価を行う。さらに、反応防止層104の圧力損失および気孔率も測定する。
【0045】
(評価測定結果)
図3は、実施例1~実施例4で形成された反応防止層104を拡大した断面図である。また、
図4は、比較例1、2で形成された反応防止層104を拡大した断面図である。さらに、
図5は、各実施例および各比較例の評価測定結果を示す表である。
【0046】
図5に示す表には、反応防止層104の厚さ、気孔率、および圧力損失と、電気化学セルの電流密度とが、実施例および比較例ごとに示されている。電流密度は、I-V特性の一つであり、電気化学セルを電圧1.3VでSOECとして動作させたときの電流密度である。なお、表に示す反応防止層104の厚さは、計測値であり、設計値と一致している。
【0047】
実施例1~実施例4で形成された反応防止層104は、
図3に示すように、厚くて気孔率も高い。そのため、電解質103の成分と酸素極105成分の拡散が起こりにくくなる。特に、厚さが100~500μm、気孔率が60%以上、圧力損失が0.1~10MPa/mの範囲内であれは、電流値密度が少なくとも0.85A/cm
2以上となる。これにより、セル性能が高くなる。
【0048】
一方、比較例1、2で形成された反応防止層104は、
図4に示すように薄くて気孔率も低い。この場合、電解質103の成分と酸素極105成分の拡散を十分に抑制することができないため、電流密度が0.68A/cm
2以下となる。その結果、セル性能が不十分となる。
【0049】
上記のように、実施例1~4の反応防止層104を有する電気化学セル1は、比較例1、2に係る電気化学セルに比べ高い電流密度特性を有する。したがって、本実施形態によれば、セル特性を高めることが可能となる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1:電気化学セル
100:水素極
101:基体
102:活性層
103:電解質
104:反応防止層
105:酸素極
111:基体前駆体
112:活性層前駆体