(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】無機微粒子分散スラリー組成物、無機微粒子分散シート及び無機微粒子分散シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/10 20060101AFI20240731BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20240731BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240731BHJP
【FI】
C08L33/10
C08F220/18
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2020147712
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2019160487
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山内 健司
(72)【発明者】
【氏名】松窪 竜也
(72)【発明者】
【氏名】大塚 丈
(72)【発明者】
【氏名】金子 由実
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/235907(WO,A1)
【文献】特開平06-227855(JP,A)
【文献】特開2014-208753(JP,A)
【文献】特開2015-202987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/10
C08F 220/18
C08K 3/013
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル樹脂、無機微粒子、及び、有機溶剤を含有する無機微粒子分散スラリー組成物であって、
前記(メタ)アクリル樹脂は、重量平均分子量(Mw)が20万以上200万以下であり、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上60℃以下であり、
前記(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントを40重量%以上60重量%以下、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントを20重量%以上50重量%以下、及び、メタクリル酸エチルに由来するセグメントを1重量%以上40重量%以下含有
し、
前記メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、前記メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント及び前記メタクリル酸エチルに由来するセグメントの合計含有量が85重量%以上である、
無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル樹脂は少なくとも(メタ)アクリル樹脂(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)を含み、
前記(メタ)アクリル樹脂(A)は、重量平均分子量(Mw)が20万以上200万以下であり、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上40℃以下であり、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントを40重量%以上70重量%以下、及び、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントを30重量%以上60重量%以下含有し、
前記(メタ)アクリル樹脂(B)は、重量平均分子量(Mw)が5万以上100万以下であり、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上60℃以下であり、メタクリル酸エチルに由来するセグメントを30重量%以上50重量%以下、及び、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントを50重量%以上70重量%以下含有する、請求項1に記載の無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル樹脂(A)は、更にメタクリル酸エチルに由来するセグメントを含有する、請求項2に記載の無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量は、前記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量よりも30重量%以上少ない、請求項2~3のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量は、(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量よりも20重量%以上多い、請求項2~4のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項6】
更に、可塑剤を含有し、前記可塑剤は非芳香族の可塑剤であり、エチル基、ブチル基及びブトキシエチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する、請求項1~5のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項7】
(メタ)アクリル樹脂(B)は、更にグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを1~10重量%含有する、請求項2~
5のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物。
【請求項8】
請求項2~5及び7のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物を製造する方法であって、(メタ)アクリル樹脂(A)及び(メタ)アクリル樹脂(B)をそれぞれ別の容器で重合後、混合し、70℃以上の温度で加熱混合
することを特徴とす
る無機微粒子分散スラリー組成物
の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物を用いて得られる、無機微粒子分散シート。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれかに記載の無機微粒子分散スラリー組成物を用いる、無機微粒子分散シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温で優れた分解性を有するとともに、高い強度の成形体が得られ、更なる多層化及び薄膜化を実現して、優れた特性を有する全固体電池や積層セラミクスコンデンサ等のセラミクス積層体を製造することが可能な無機微粒子分散スラリー組成物に関する。また、該無機微粒子分散スラリー組成物を用いる無機微粒子分散シート及び無機微粒子分散シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セラミック粉末、ガラス粒子等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させた組成物が、積層セラミクスコンデンサ等の積層電子部品の生産に用いられている。
このような積層セラミクスコンデンサは、一般に、次のような方法を用いて製造される。まず、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、可塑剤、分散剤等の添加剤を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミル等を用いて均一に混合して無機微粒子分散スラリー組成物を得る。
得られた無機微粒子分散スラリー組成物を、ドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、SUSプレート等の支持体表面に流延成形し、有機溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
次に、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等により塗工し、これを複数枚積み重ね、加熱及び圧着して積層体を得る。得られた積層体を加熱して、バインダー樹脂等の成分を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成することによって、内部電極を備えたセラミック焼成体を得る。更に、得られたセラミック焼成体の端面に外部電極を塗布し、焼成することによって、積層セラミクスコンデンサが完成する。
【0003】
このような無機微粒子分散スラリー組成物では、一般に、ポリビニルアセタール樹脂(PVB)をバインダーとして用いることが一般的であるが、PVBは分解温度が高い為、低温焼成が望ましい用途等では用いることが出来ないという問題があった。
そこで、低温焼成が可能で焼成後の残留炭素成分が少ない(メタ)アクリル樹脂を用いることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、メタクリル酸イソブチル60~99重量%、メタクリル酸2-エチルヘキシル1~39重量%、およびβ位もしくはω位に水酸基を有するメタクリル酸エステル1~15重量%を共重合して得られる分子量16万~18万のメタクリル酸エステル共重合体よりなるセラミクス成形用バインダー樹脂が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では樹脂Tgが低い成分Aと樹脂Tgが高い成分Bとを混ぜて用いることが検討されている。
さらに、特許文献3では分子量10万以上かつTgが40℃以上の樹脂成分Bに対して、脆性を改良するために分子量が1万以下、樹脂Tgが-20℃以下である樹脂Aを混合することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-167836号公報
【文献】特許第6371616号公報
【文献】特開2018-79616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が約28℃から約52℃であり全体的に脆いという問題がある。このような樹脂組成物を用いて無機微粒子分散スラリーを作製し、離型PET上で乾燥させ、無機微粒子分散シートを形成した場合、得られる無機微粒子分散シートは非常に脆く、離型PETから剥がす際に割れてしまうという問題がある。
【0008】
また、上記無機微粒子分散スラリー組成物に可塑剤を多量添加し、シートを製造すると、得られたシートの腰がなくなり、均一な厚みのシートが製造できないという問題がある。
更に、取り扱い性の優れた無機微粒子分散シートを製造するためには、樹脂シートの引張試験において降伏応力が高く、かつ、破断伸度が大きい樹脂が好ましく、熱分解性に優れる(メタ)アクリル樹脂は樹脂Tgを高めることによって降伏応力は高くなるが、それに比例して脆くなる。また、破断伸度を大きくすると、樹脂Tgを下げる必要があり、シートの腰がなくなるため、高い降伏応力と破断伸度との両立は非常に難しい。
【0009】
引用文献2においては、分子量の高い(メタ)アクリル樹脂は異なるモノマー組成の樹脂同士は混ざらないため、樹脂Tgの高い成分Bの分子量を1万以下としているが、樹脂混合シートの降伏応力は分子量にも依存するため、高い降伏応力は得られないという問題がある。また、引用文献3においては、2種のポリマー組成の性状が異なるため、樹脂同士が混ざりにくく、これら樹脂組成を用いた無機粉分散シートは非常に脆いという問題がある。
【0010】
本発明は、低温で優れた分解性を有するとともに、高い強度の成形体が得られ、更なる多層化及び薄膜化を実現して、優れた特性を有する全固体電池や積層セラミクスコンデンサ等のセラミクス積層体を製造することが可能な無機微粒子分散スラリー組成物を提供することを目的とする。また、該無機微粒子分散スラリー組成物を用いる無機微粒子分散シート及び無機微粒子分散シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂、無機微粒子、及び、有機溶剤を含有する無機微粒子分散スラリー組成物であって、前記(メタ)アクリル樹脂は、重量平均分子量(Mw)が20万以上200万以下であり、ガラス転移温度(Tg)が40℃以上60℃以下であり、前記(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントを40重量%以上60重量%以下、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントを20重量%以上50重量%以下、及び、メタクリル酸エチルに由来するセグメントを1重量%以上40重量%以下含有する無機微粒子分散スラリー組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明者らは、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント、及び、メタクリル酸エチルに由来するセグメントを所定の割合で含有し、重量平均分子量及びガラス転移温度が所定の範囲である(メタ)アクリル樹脂が低温分解性に優れ焼成残渣が少ないことを見出した。また、このような(メタ)アクリル樹脂を含有するスラリー組成物が、極めて優れた低温分解性を発現し、高強度の成形体が得られ、更に、得られるセラミックグリーンシートの更なる積層化及び薄膜化を実現して、優れた特性を有する全固体電池を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
<(メタ)アクリル樹脂>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、(メタ)アクリル樹脂を含有する。
上記(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント、及び、メタクリル酸エチルに由来するセグメントを含有する。
上記セグメントを含有することにより、低温分解性に優れた樹脂とすることができる。
【0014】
上記(メタ)アクリル樹脂における上記メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントの含有量は40重量%以上60重量%以下である。
上記範囲とすることで優れた低温分解性を発揮することができる。また、得られる積層体の強度を充分に向上させることができる。
上記メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントの含有量は45重量%以上であることが好ましく、47重量%以上であることがより好ましく、57重量%以下であることが好ましく、55重量%以下であることがより好ましい。
【0015】
上記(メタ)アクリル樹脂における上記メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量は20重量%以上50重量%以下である。
上記範囲とすることで優れた低温分解性を発揮することができる。また、得られる積層体の強度を充分に向上させることができる。
上記メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量は25重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、45重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。
【0016】
上記(メタ)アクリル樹脂におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量は1重量%以上40重量%以下である。
上記範囲とすることで優れた低温分解性を発揮することができる。また、得られる積層体の強度を充分に向上させることができる。
上記メタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量は10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましく、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましい。
【0017】
また、上記(メタ)アクリル樹脂において、上記メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、上記メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント及び上記メタクリル酸エチルに由来するセグメントの合計含有量は70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることが好ましく、100重量%以下であることが好ましく、98重量%以下であることが好ましい。
【0018】
上記(メタ)アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)を下げる目的でエステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを含有しても良い。なお、上記エステル置換基の炭素数が8以上であるとは、(メタ)アクリル酸エステルにおける(メタ)アクリロイル基を構成する炭素以外の炭素数の合計が8以上であることを示す。
上記エステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを有することにより、(メタ)アクリル樹脂の分解終了温度を充分に低下させることができるとともに、得られる無機微粒子分散シートを強靭にすることができる。
上記エステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル酸エステルは、上記エステル置換基が分岐鎖構造を有することが好ましい。
上記エステル置換基の炭素数の好ましい上限は10、より好ましい上限は9である。
【0019】
上記エステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル酸エステルとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数が8以上であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
上記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n-ラウリル、(メタ)アクリル酸イソラウリル、(メタ)アクリル酸n-ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル等が挙げられる。
なかでも、分岐鎖状の炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸イソステアリルがより好ましい。
メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソデシルは、他の長鎖アルキルメタクリレートと比較して特に分解性に優れる。
【0021】
上記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール単位(オキシエチレン単位)、プロピレングリコール単位(オキシプロピレン単位)、ブチレングリコール単位(オキシブチレン単位)等を有するものが挙げられる。
また、上記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、末端にアルコキシ基を有するものであってもよく、末端にエチルヘキシル基を有するものであってもよい。
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。上記アルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、分岐鎖状であることが好ましい。
また、上記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、分岐型のアルキレングリコール構造を有することが好ましい。
なかでも、エチレングリコール単位、プロピレングリコール単位、及び、ブチレングリコール単位のうち少なくとも1つを有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。また、ポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシポリプロピレングリコールメタクリレート、メトキシポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリブチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコールメタクリレートが更に好ましい。
メトキシポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリブチレングリコールメタクリレート、プロピレングリコール-ポリブチレングリコールメタクリレートは、他のアルキレングリコール(メタ)アクリレートと比較して、焼成残渣が少なく、低温分解性に特に優れる。
【0022】
上記(メタ)アクリル樹脂における上記エステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントの含有量は、好ましい下限が1重量%、より好ましい下限が4重量%、好ましい上限が10重量%、より好ましい上限が7重量%である。
上記範囲とすることで、得られる無機微粒子分散シートの強靭性を高めることができる。
【0023】
上記(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント、メタクリル酸エチルに由来するセグメント、エステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメント以外の他の(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを有していてもよい。
上記他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、炭素数が1~6であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステル、水酸基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸、炭素数が1~6であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリル酸エステル、及び、水酸基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0024】
上記グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート等が挙げられる。
【0025】
上記炭素数が1~6であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル以外のアルキル(メタ)アクリル酸エステルであり、直鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、分岐鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記直鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル等が挙げられる。
上記分岐鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸sec-ペンチル、(メタ)アクリル酸tert-ペンチル等が挙げられる。
上記環状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
なかでも、直鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。
【0026】
上記水酸基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと反応可能な官能基を有するものであれば特には限定されない。具体的には、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
なかでも、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルがより好ましい。
【0027】
上記(メタ)アクリル樹脂における上記他の(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントの含有量は、好ましい下限が1重量%、より好ましい下限が2重量%、更に好ましい下限が4重量%、好ましい上限が10重量%、より好ましい上限が7重量%、更に好ましい上限が6重量%である。
上記範囲とすることで、得られる(メタ)アクリル樹脂の低温分解性を充分に向上させることができ、また、得られる無機微粒子分散シートの強靭性を向上させることができる。
【0028】
本発明の好適な実施形態において、上記(メタ)アクリル樹脂は酸含有モノマーに由来するセグメントを有しない。上記(メタ)アクリル樹脂が酸含有モノマーに由来するセグメントを含有しない場合、低温での分解性を更に高めることができる。
上記酸含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸含有モノマー等が挙げられる。なお、酸含有モノマーに由来するセグメントはカルボキシル基等の酸を有する。
【0029】
上記(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は20万以上200万以下である。
上記範囲とすることで、無機微粒子分散スラリー組成物は、充分な粘度を有するものとなり、また、印刷性を充分に向上させることが可能となる。
上記Mwは30万以上であることが好ましく、40万以上であることがより好ましく、150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
また、上記(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、2以上であることが好ましく、8以下であることが好ましい。
上記範囲内とすることで、低重合度の成分が適度に含有されるため、無機微粒子分散スラリー組成物の粘度が好適な範囲となり、生産性を高めることができる。また、得られる無機微粒子分散シートのシート強度を適度なものとすることができる。更に、得られるセラミックグリーンシートの表面平滑性を充分に向上させることができる。
上記Mw/Mnは3以上であることがより好ましく、6以下であることがより好ましい。
なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算による平均分子量であり、カラムとして例えばカラムLF-804(昭和電工社製)を用いてGPC測定を行うことで得ることができる。
【0030】
上記(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は40℃以上60℃以下である。
上記範囲とすることで、可塑剤の添加量を少なくすることができ、また、低温分解性を向上させることができる。
上記Tgは42℃以上であることが好ましく、45℃以上であることがより好ましく、58℃以下であることが好ましく、55℃以下であることがより好ましい。
なお、上記ガラス転移温度(Tg)は、例えば、示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0031】
上記(メタ)アクリル樹脂は、混合物全体として上述したメタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント、メタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量、重量平均分子量(Mw)及びガラス転移温度(Tg)を満たす限り、組成の異なる2種以上の(メタ)アクリル樹脂の混合物であってもよい。
一般的に、組成が異なる(メタ)アクリル樹脂同士はそれぞれの分子量が高いもの同士では混ざり合わず、樹脂溶液が濁り、溶液の流動性が非常に悪くなるため、組成が異なる(メタ)アクリル樹脂の混合物を用いたシートは表面平滑性が悪く、強度の高いシートは得られない。
そのため、2種以上の(メタ)アクリル樹脂を混合する場合、それぞれの(メタ)アクリル樹脂を構成するセグメントはエステル置換基が4以下であるものが好ましく、かつ、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントが含まれることが望ましい。
【0032】
上記(メタ)アクリル樹脂が2種以上の(メタ)アクリル樹脂の混合物である場合、ガラス転移温度(Tg)が低い(メタ)アクリル樹脂(A)とガラス転移温度(Tg)が高い(メタ)アクリル樹脂(B)との混合物であることが好ましい。
このような(メタ)アクリル樹脂の混合物であることで低温分解性が高く、樹脂溶液が濁ることがなく、強靭な無機微粒子分散シートを作製可能な(メタ)アクリル樹脂とすることができる。
本発明の好適な実施形態において、上記(メタ)アクリル樹脂(A)と上記(メタ)アクリル樹脂(B)とのガラス転移温度(Tg)の差は、低温分解性及び強靭性の観点から、好ましくは8℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは12℃以上、好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下、更に好ましくは40℃以下である。
【0033】
上記Tgが低い(メタ)アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントとメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントとを含むことが好ましい。
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸イソブチルに由来するセグメントの含有量は30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましく、60重量%以下であることが好ましく、55重量%以下であることがより好ましい。
また、上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量は40重量%以上であることが好ましく、45重量%以上であることがより好ましく、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。
【0034】
更に、上記(メタ)アクリル樹脂(A)は、ガラス転移温度(Tg)を下げるために、上述したエステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル樹脂を含有していてもよい。
上記(メタ)アクリル樹脂(A)における上記エステル置換基の炭素数が8以上である(メタ)アクリル樹脂の含有量は、好ましい下限が5重量%、好ましい上限が40重量%である。上記範囲とすることで、得られる無機微粒子分散シートの強靭性を高めることができる。
【0035】
また、上記(メタ)アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント以外に、メタクリル酸エチルに由来するセグメントを含有することが好ましい。また、上述した他の(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを含有してもよい。
【0036】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量は2重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましく、15重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量が上記下限以上であると、後述する(メタ)アクリル樹脂(B)との相溶性が良くなり、混合樹脂溶液が透明で流動性が良くすることができる。上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量が上記上限以下であると、樹脂Tgが高くなりすぎず、得られる無機微粒子分散シートの脆化を抑制することができる。
【0037】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は20万以上であることが好ましく、40万以上であることがより好ましく、200万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
上記範囲とすることで、得られる無機微粒子分散シートが脆くなることがなく、好適な強度のセラミクス積層体を作製することができる。
【0038】
上記(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は30℃以上であることが好ましく、32℃以上であることがより好ましく、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましい。
上記範囲とすることで、得られる無機微粒子分散シートが脆くなることがなく、好適な硬度のセラミクス積層体を作製することができる。
【0039】
上記Tgが高い(メタ)アクリル樹脂(B)は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメントとメタクリル酸エチルに由来するセグメントとを含むことが好ましい。
上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸イソブチルに由来するセグメントの含有量は50重量%以上であることが好ましく、55重量%以上であることがより好ましく、70重量%以下であることが好ましく、65重量%以下であることがより好ましい。
(メタ)アクリル樹脂(B)中に(メタ)アクリル樹脂(A)中に含まれるメタクリル酸イソブチルのセグメントを含むことによってそれぞれの樹脂溶液を混合した際に相溶性が高まる。
また、上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量は30重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることがより好ましく、50重量%以下であることが好ましく、45重量%以下であることがより好ましい。
【0040】
上記(メタ)アクリル樹脂(B)は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、メタクリル酸エチルに由来するセグメント以外に、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントを含有することが好ましい。また、上述した他の(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを含有してもよい。
【0041】
上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量は5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましい。
上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量が上記下限以上であると、(メタ)アクリル樹脂(A)樹脂溶液と混合した際に相溶性が良くすることができる。上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量が上記上限以下であると、樹脂Tgが高くなりすぎず、得られる無機微粒子分散シートの脆化を抑制することができる。
【0042】
また、上記(メタ)アクリル樹脂(B)は、得られるセラミクス積層体の強度を充分に向上させることができることから、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントを含有していてもよい。
【0043】
上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来するセグメントの含有量は、低温分解性の観点から、10重量%以下であることが好ましく、7重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることが更に好ましく、4重量%以下であることが更により好ましく、3重量%以下であることが特に好ましい。下限は特に限定されず、0重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましい。
上記範囲とすることで、得られる無機微粒子分散シートの耐溶剤性を改善して、全固体電池の作製に用いた際に、電気的特性に優れる全固体電池を作製することができる。また、(メタ)アクリル樹脂の低温分解性を充分に向上させることができる。
【0044】
上記(メタ)アクリル樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は5万以上であることが好ましく、10万以上であることがより好ましく、100万以下であることが好ましく、50万以下であることがより好ましい。
上記範囲とすることで、得られる無機微粒子分散シートが脆くなることがなく、好適な強度のセラミクス積層体を作製することができる。
【0045】
上記(メタ)アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、60℃以下であることが好ましく、59℃以下であることがより好ましい。
上記範囲とすることで、得られる無機微粒子分散シートが脆くなることがなく、好適な強度のセラミクス積層体を作製することができる。
【0046】
上記(メタ)アクリル樹脂が上記(メタ)アクリル樹脂(A)及び上記(メタ)アクリル樹脂(B)の混合物である場合、2種の樹脂の樹脂溶液中での相溶性の観点から、上記(メタ)アクリル樹脂(A)及び上記(メタ)アクリル樹脂(B)とは、同様のモノマー成分により構成されていることが望ましい。
また、上記(メタ)アクリル樹脂(A)及び上記(メタ)アクリル樹脂(B)は、メタクリル酸イソブチルに由来するセグメント、メタクリル酸n-ブチルに由来するセグメント及びメタクリル酸エチルに由来するセグメントを含有することが好ましい。
更に、上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量は、上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸n-ブチルに由来するセグメントの含有量よりも30重量%以上少ないことが望ましい。
また、上記(メタ)アクリル樹脂(B)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量は、上記(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸エチルに由来するセグメントの含有量よりも20重量%以上多いことが望ましい。上記(メタ)アクリル樹脂における上記(メタ)アクリル樹脂(A)と上記(メタ)アクリル樹脂(B)との混合比は特に限定されないが、10:90~90:10であることが好ましい。
2種の相溶性を示す樹脂を混合した場合、混合樹脂の樹脂TgはFOXの式に従う。
このような組成とすることで、上記(メタ)アクリル樹脂(A)と上記(メタ)アクリル樹脂(B)との樹脂溶液中で相溶性を特に向上させることができる。このため、セラミックグリーンシートを作製した際に上記(メタ)アクリル樹脂(A)の影響によりセラミックグリーンシートを割れにくくすることができ、また、上記(メタ)アクリル樹脂(B)の影響により腰のあるシートとして取り扱い性が良好となる。
【0047】
また、上記(メタ)アクリル樹脂は、上記(メタ)アクリル樹脂(A)及び上記(メタ)アクリル樹脂(B)をそれぞれ別の容器で重合後、混合し、70℃以上の温度で加熱混合したものであることが好ましい。
上記構成とすることにより、混合樹脂溶液の相溶性が高まり、樹脂溶液の流動性が良好となる。
【0048】
上記(メタ)アクリル樹脂は、10℃/分で加熱した場合の90重量%分解温度の好ましい上限が300℃である。
これにより、極めて高い低温分解性を実現して脱脂に要する時間を短縮することが可能となる。
上記90重量%分解温度の好ましい下限は230℃、より好ましい下限は250℃、より好ましい上限は290℃、更に好ましい上限は280℃、更により好ましい上限は270℃である。
なお、上記90重量%分解温度は、例えば、TG-DTA等を用いて測定することができる。
【0049】
上記(メタ)アクリル樹脂は、厚み20μmのシート状に成形した場合の引張試験における最大応力が20N/mm2以上であることが好ましい。
なお、上記最大応力は、オートグラフによる引張試験によって測定することができる。
通常、(メタ)アクリル樹脂は硬くて脆いため、シート状に成形して引っ張ると歪みが5%未満で破断する。そのため、ガラス転移温度が低い組成とすると降伏値を示さない。
一方、本発明の樹脂組成物において、(メタ)アクリル樹脂の組成を調整することで、シート状に成形して引っ張った際にも降伏応力を示すものとなる。この際のシート厚みは500μm程度とすることが好ましい。
【0050】
上記(メタ)アクリル樹脂の製造する方法としては特に限定されない。例えば、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸エチル、その他必要に応じて添加される他のモノマーを含む原料モノマー混合物に有機溶剤等を加えてモノマー混合液を調製し、更に、得られたモノマー混合液に重合開始剤を添加して、上記原料モノマーを共重合させる方法が挙げられる。
重合させる方法は特に限定されず、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、界面重合、溶液重合等が挙げられる。なかでも、溶液重合が好ましい。
【0051】
上記重合開始剤としては、例えば、P-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロキシパーオキサイド、t-ブチルハイドロキシパーオキサイド、過酸化シクロヘキサノン、ジコハク酸パーオキサイド等が挙げられる。
これらの市販品としては、例えば、パーメンタH、パークミルP、パーオクタH、パークミルH-80、パーブチルH-69、パーヘキサH、パーロイルSA(何れも日油社製)等が挙げられる。
【0052】
また、上記(メタ)アクリル樹脂が上記(メタ)アクリル樹脂(A)及び上記(メタ)アクリル樹脂(B)の混合物である場合、上記(メタ)アクリル樹脂を製造する方法としては、上記(メタ)アクリル樹脂(A)及び上記(メタ)アクリル樹脂(B)を別々に重合した後、加熱混合する方法が挙げられる。
上記(メタ)アクリル樹脂(A)及び上記(メタ)アクリル樹脂(B)を製造する方法としては、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸エチル、その他必要に応じて添加される他のモノマーを含む原料モノマー混合物に有機溶剤等を加えてモノマー混合液を調製する。その後、更に、得られたモノマー混合液に重合開始剤を添加して、上記原料モノマーを共重合させる方法が挙げられる。
重合させる方法は特に限定されず、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、界面重合、溶液重合等が挙げられる。なかでも、溶液重合が好ましい。
上記加熱混合時の温度は、両樹脂Tgよりも高い温度が望ましいという観点から、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0053】
<有機溶剤>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されないが、無機微粒子分散シートを作製する際に、塗工性、乾燥性、無機粉末の分散性等に優れたものであることが好ましい。
例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロパノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、テキサノール、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール等が挙げられる。なかでも、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノールが好ましい。また、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテートがより好ましい。なお、これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
上記有機溶剤の沸点は90~160℃であることが好ましい、上記沸点が90℃以上であることで、蒸発が早くなりすぎず、取り扱い性に優れる。上記沸点を160℃以下とすることで、無機微粒子分散シートの強度を向上させることが可能となる。
【0055】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記有機溶剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は60重量%である。上記範囲内とすることで、塗工性、無機微粒子の分散性を向上させることができる。
【0056】
<無機微粒子>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、無機微粒子を含有する。
上記無機微粒子は特に限定されず、例えば、ガラス粉末、セラミック粉末、蛍光体微粒子、珪素酸化物等、金属微粒子等が挙げられる。
【0057】
上記ガラス粉末は特に限定されず、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末や、CaO-Al2O3-SiO2系、MgO-Al2O3-SiO2系、LiO2-Al2O3-SiO2系等の各種ケイ素酸化物のガラス粉末等が挙げられる。
また、上記ガラス粉末として、SnO-B2O3-P2O5-Al2O3混合物、PbO-B2O3-SiO2混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物、Bi2O3-B2O3-BaO-CuO混合物、Bi2O3-ZnO-B2O3-Al2O3-SrO混合物、ZnO-Bi2O3-B2O3混合物、Bi2O3-SiO2混合物、P2O5-Na2O-CaO-BaO-Al2O3-B2O3混合物、P2O5-SnO混合物、P2O5-SnO-B2O3混合物、P2O5-SnO-SiO2混合物、CuO-P2O5-RO混合物、SiO2-B2O3-ZnO-Na2O-Li2O-NaF-V2O5混合物、P2O5-ZnO-SnO-R2O-RO混合物、B2O3-SiO2-ZnO混合物、B2O3-SiO2-Al2O3-ZrO2混合物、SiO2-B2O3-ZnO-R2O-RO混合物、SiO2-B2O3-Al2O3-RO-R2O混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、SrO-ZnO-P2O5混合物、BaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物等のガラス粉末も用いることができる。なお、Rは、Zn、Ba、Ca、Mg、Sr、Sn、Ni、Fe及びMnからなる群より選択される元素である。
特に、PbO-B2O3-SiO2混合物のガラス粉末や、鉛を含有しないBaO-ZnO-B2O3-SiO2混合物又はZnO-Bi2O3-B2O3-SiO2混合物等の無鉛ガラス粉末が好ましい。
【0058】
上記セラミック粉末は特に限定されず、例えば、アルミナ、フェライト、ジルコニア、ジルコン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸亜鉛、チタン酸ランタン、チタン酸ネオジウム、チタン酸ジルコン鉛、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、錫酸バリウム、錫酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、フォルステライト等が挙げられる。
また、ITO、FTO、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タングステン、ランタンストロンチウムマンガナイト、ランタンストロンチウムコバルトフェライト、イットリウム安定化ジルコニア、ガドリニウムドープセリア、酸化ニッケル、ランタンクロマイト等も使用することができる。
上記蛍光体微粒子は特に限定されず、例えば、蛍光体物質としては、ディスプレイ用の蛍光体物質として従来知られている青色蛍光体物質、赤色蛍光体物質、緑色蛍光体物質などが用いられる。青色蛍光体物質としては、例えば、MgAl10O17:Eu、Y2SiO5:Ce系、CaWO4:Pb系、BaMgAl14O23:Eu系、BaMgAl16O27:Eu系、BaMg2Al14O23:Eu系、BaMg2Al14O27:Eu系、ZnS:(Ag,Cd)系のものが用いられる。赤色蛍光体物質としては、例えば、Y2O3:Eu系、Y2SiO5:Eu系、Y3Al5O12:Eu系、Zn3(PO4)2:Mn系、YBO3:Eu系、(Y,Gd)BO3:Eu系、GdBO3:Eu系、ScBO3:Eu系、LuBO3:Eu系のものが用いられる。緑色蛍光体物質としては、例えば、Zn2SiO4:Mn系、BaAl12O19:Mn系、SrAl13O19:Mn系、CaAl12O19:Mn系、YBO3:Tb系、BaMgAl14O23:Mn系、LuBO3:Tb系、GdBO3:Tb系、ScBO3:Tb系、Sr6Si3O3Cl4:Eu系のものが用いられる。その他、ZnO:Zn系、ZnS:(Cu,Al)系、ZnS:Ag系、Y2O2S:Eu系、ZnS:Zn系、(Y,Cd)BO3:Eu系、BaMgAl12O23:Eu系のものも用いることができる。
【0059】
上記金属微粒子は特に限定されず、例えば、鉄、銅、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、アルミニウム、タングステンやこれらの合金等からなる粉末等が挙げられる。
また、カルボキシル基、アミノ基、アミド基等との吸着特性が良好で酸化されやすい銅や鉄等の金属も好適に用いることができる。これらの金属粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、金属錯体のほか、種々のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等を使用してもよい。
【0060】
上記無機微粒子は、リチウム又はチタンを含有することが好ましい。具体的には例えば、LiO2・Al2O3・SiO2系無機ガラス等の低融点ガラス、Li2S-MxSy(M=B、Si、Ge、P)等のリチウム硫黄系ガラス、LiCeO2等のリチウムコバルト複合酸化物、LiMnO4等のリチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムジルコニウム複合酸化物、リチウムハフニウム複合酸化物、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.5P0.5O4)、リン酸チタンリチウム(LiTi2(PO4)3)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、Li4/3Ti5/3O4、LiCoO2、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2-SiS系ガラス、Li4GeS4-Li3PS4系ガラス、LiSiO3、LiMn2O4、Li2S-P2S5系ガラス・セラミクス、Li2O-SiO2、Li2O-V2O5-SiO2、LiS-SiS2-Li4SiO4系ガラス、LiPON等のイオン導電性酸化物、Li2O-P2O5-B2O3、Li2O-GeO2Ba等の酸化リチウム化合物、LixAlyTiz(PO4)3系ガラス、LaxLiyTiOz系ガラス、LixGeyPzO4系ガラス、Li7La3Zr2O12系ガラス、LivSiwPxSyClz系ガラス、LiNbO3等のリチウムニオブ酸化物、Li-β-アルミナ等のリチウムアルミナ化合物、Li14Zn(GeO4)4等のリチウム亜鉛酸化物等が挙げられる。
【0061】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記無機微粒子の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限が10重量%、好ましい上限が90重量%である。10重量%以上とすることで、充分な粘度を有し、優れた塗工性を有するものとすることができ、90重量%以下とすることで、無機微粒子の分散性に優れるものとすることができる。
【0062】
<その他>
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、更に、可塑剤を含有していてもよい。
上記可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジ(ブトキシエチル)、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、トリエチレングリコールジブチル、トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)、トリエチレングリコールジヘキサノエート、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸ジエチル、アセチルクエン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、アセチルオキシマロン酸ジエチル、エトキシマロン酸ジエチル等が挙げられる。
これらの可塑剤を用いることで、通常の可塑剤を使用する場合と比較して可塑剤添加量を低減することが可能となる(バインダーに対して30重量%程度添加されるところ、25重量%以下、更に20重量%以下に低減可能)。
なかでも、構造中にベンゼン環等の芳香環を含まない非芳香族の可塑剤を使用することが好ましく、アジピン酸、トリエチレングリコール、クエン酸又はコハク酸に由来する成分を含有することがより好ましい。なお、芳香環を有する可塑剤は、燃焼して煤になりやすいため好ましくない。
【0063】
また、上記可塑剤としては、エチル基、ブチル基等の炭素数2以上のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数4以上のアルキル基を有するものがより好ましい。
上記可塑剤は、炭素数が2以上のアルキル基を含有することで、可塑剤への水分の吸収を抑制して、得られる無機微粒子分散シートにボイドやふくれ等の不具合を発生することを防止することができる。特に、可塑剤のアルキル基は分子末端に位置していることが好ましい。
また、上記可塑剤は、エチル基等の炭素数が2の官能基、ブチル基等の炭素数が4の官能基、ブトキシエチル基等の官能基を有することが好ましい。上記官能基は末端分子鎖に存在することが好ましい。
末端分子鎖にエチル基等の炭素数が2の官能基を持つ可塑剤はメタクリル酸エチルに由来するセグメントとの相性がよく、末端分子にブチル基等の炭素数が4の官能基を持つ可塑剤はメタクリル酸ブチルに由来するセグメントとの相性が良い。炭素数が2又は4の官能基を持つ可塑剤は本発明にかかる(メタ)アクリル樹脂との相性が良く、樹脂の脆性を好ましく改善することができる。更には、ブトキシエチル基はメタクリル酸エチルに由来するセグメント及びメタクリル酸ブチルに由来するセグメントの両方の組成と相性がよく好ましく用いることができる。
【0064】
上記可塑剤は、炭素:酸素比が5:1~3:1であることが好ましい。
炭素:酸素比を上記範囲とすることで、可塑剤の燃焼性を向上させて、残留炭素の発生を防止することができる。また、(メタ)アクリル樹脂との相溶性を向上させて、少量の可塑剤でも可塑化効果を発揮させることができる。
また、プロピレングリコール骨格やトリメチレングリコール骨格の高沸点有機溶剤も、炭素数が4以上のアルキル基を含有し、炭素:酸素比が5:1~3:1であれば好ましく用いることができる。
【0065】
上記可塑剤の沸点は240℃以上390℃未満であることが好ましい。上記沸点を240℃以上とすることで、乾燥工程で蒸発しやすくなり、成形体への残留を防止できる。また、390℃未満とすることで、残留炭素が生じることを防止できる。なお、上記沸点は、常圧での沸点をいう。
【0066】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記可塑剤の含有量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は3.0重量%である。上記範囲内とすることで、可塑剤の焼成残渣を少なくすることができる。
【0067】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物における上記(メタ)アクリル樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は30重量%である。
上記(メタ)アクリル樹脂の含有量を上記範囲内とすることで、低温で焼成しても脱脂可能な無機微粒子分散スラリー組成物とすることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂の含有量は、より好ましい下限が6重量%、より好ましい上限が12重量%である。
【0068】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物は、更に、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
上記界面活性剤は特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
上記ノニオン系界面活性剤としては特に限定されないが、HLB値が10以上20以下のノニオン系界面活性剤であることが好ましい。ここで、HLB値とは、界面活性剤の親水性、親油性を表す指標として用いられるものであって、計算方法がいくつか提案されており、例えば、エステル系の界面活性剤について、鹸化価をS、界面活性剤を構成する脂肪酸の酸価をAとし、HLB値を20(1-S/A)等の定義がある。具体的には、脂肪鎖にアルキレンエーテルを付加させたポリエチレンオキサイドを有するノニオン系界面活性剤が好適であり、具体的には例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等が好適に用いられる。なお、上記ノニオン系界面活性剤は、熱分解性がよいが、大量に添加すると無機微粒子分散スラリー組成物の熱分解性が低下することがあるため、含有量の好ましい上限は5重量%である。
【0069】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物の粘度は特に限定されないが、20℃においてB型粘度計を用いプローブ回転数を5rpmに設定して測定した場合の粘度の好ましい下限が0.1Pa・s、好ましい上限が100Pa・sである。
上記粘度を0.1Pa・s以上とすることで、ダイコート印刷法等により塗工した後、得られる無機微粒子分散シートが所定の形状を維持することが可能となる。また、上記粘度を100Pa・s以下とすることで、ダイの塗出痕が消えない等の不具合を防止して、印刷性に優れるものとすることができる。
【0070】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を作製する方法は特に限定されず、従来公知の攪拌方法が挙げられ、具体的には、例えば、上記(メタ)アクリル樹脂、上記無機微粒子、上記有機溶剤及び必要に応じて添加される可塑剤等の他の成分を3本ロール等で攪拌する方法等が挙げられる。
【0071】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を、片面離型処理を施した支持フィルム上に塗工し、有機溶剤を乾燥させ、シート状に成形することで、無機微粒子分散シートを製造することができる。このような無機微粒子分散シートもまた本発明の1つである。
本発明の無機微粒子分散シートは、厚みが1~20μmであることが好ましい。
【0072】
本発明の無機微粒子分散シートの製造方法としては、例えば、本発明の無機微粒子分散スラリー組成物をロールコーター、ダイコーター、スクイズコーター、カーテンコーター等の塗工方式によって支持フィルム上に均一に塗膜を形成する方法等が挙げられる。
なお、無機微粒子分散シートを製造する場合、重合液をそのまま無機微粒子分散スラリー組成物として、(メタ)アクリル樹脂を乾燥させずに、無機微粒子分散シートに加工することが好ましい。
(メタ)アクリル樹脂を乾燥させると、再度溶液化した際にパーティクルと呼ばれる未乾燥粒子が発生し、このようなパーティクルは、カートリッジフィルター等を用いた濾過でも除去することが難しく、無機微粒子分散シートの強度に悪影響を及ぼすためである。
【0073】
本発明の無機微粒子分散シートを製造する際に用いる支持フィルムは、耐熱性及び耐溶剤性を有すると共に可撓性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。支持フィルムが可撓性を有することにより、ロールコーター、ブレードコーターなどによって支持フィルムの表面に無機微粒子分散スラリー組成物を塗布することができ、得られる無機微粒子分散シート形成フィルムをロール状に巻回した状態で保存し、供給することができる。
【0074】
上記支持フィルムを形成する樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフロロエチレン等の含フッ素樹脂、ナイロン、セルロース等が挙げられる。
上記支持フィルムの厚みは、例えば、20~100μmが好ましい。
また、支持フィルムの表面には離型処理が施されていることが好ましく、これにより、転写工程において、支持フィルムの剥離操作を容易に行うことができる。
【0075】
本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を塗工乾燥することで無機微粒子分散シートを製造することができる。本発明の無機微粒子分散スラリー組成物を用いる無機微粒子分散シートの製造方法もまた本発明の1つである。
また、本発明の無機微粒子分散スラリー組成物、無機微粒子分散シートを、誘電体グリーンシート、電極ペーストに用いることで積層セラミクスコンデンサを製造することができる。
【0076】
上記全固体電池を製造する方法としては、電極活物質及び電極活物質層用バインダーを含有する電極活物質層用スラリーを成形して電極活物質シートを作製する工程、前記電極活物質シートと本発明の無機微粒子分散シートとを積層して積層体を作製する工程、及び、前記積層体を焼成する工程とを有する製造方法が挙げられる。
【0077】
上記電極活物質としては特に限定されず、例えば、上記無機微粒子と同様のものを用いることができる。
【0078】
上記電極活物質層用バインダーとしては、上記(メタ)アクリル樹脂を用いることができる。
【0079】
上記電極活物質シートと本発明の無機微粒子分散シートとを積層する方法としては、それぞれシート化した後、熱プレスによる熱圧着、熱ラミネート等を行う方法等が挙げられる。
【0080】
上記焼成する工程において、加熱温度の好ましい下限は250℃、好ましい上限は350℃である。
【0081】
上記製造方法により、全固体電池を得ることができる。
上記全固体電池としては、正極活物質を含有する正極層、負極活物質を含有する負極層、及び、正極層と負極層との間に形成された固体電解質層を積層した構造を有することが好ましい。
【0082】
上記積層セラミクスコンデンサを製造する方法としては、本発明の無機微粒子分散シートに導電ペーストを印刷、乾燥して、誘電体シートを作製する工程、及び、前記誘電体シートを積層する工程を有する製造方法が挙げられる。
【0083】
上記導電ペーストは、導電粉末を含有するものである。
上記導電粉末の材質は、導電性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅及びこれらの合金等が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
上記導電ペーストを印刷する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、ダイコート印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0085】
上記積層セラミクスコンデンサの製造方法では、上記導電ペーストを印刷した誘電体シートを積層することで、積層セラミクスコンデンサが得られる。
【発明の効果】
【0086】
本発明によれば、低温で優れた分解性を有するとともに、流動性及び透明性が高く、高い強度の成形体が得られ、更なる多層化及び薄膜化を実現して、優れた特性を有する全固体電池や積層セラミクスコンデンサ等のセラミクス積層体を製造することが可能な無機微粒子分散スラリー組成物を提供することができる。また、該無機微粒子分散スラリー組成物を用いる無機微粒子分散シート及び無機微粒子分散シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0087】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0088】
(実施例1)
(1)(メタ)アクリル樹脂の調製
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴、及び、窒素ガス導入口を備えた2Lセパラブルフラスコを用意した。2Lセパラブルフラスコに、表1に示す配合となるようにモノマー合計100重量部投入した。更に、有機溶剤として酢酸ブチル50重量部とを混合し、モノマー混合液を得た。
なお、モノマーとしては、以下のものを用いた。
iBMA:メタクリル酸イソブチル
nBMA:メタクリル酸n-ブチル
EMA:メタクリル酸エチル
MMA:メタクリル酸メチル
GMA:メタクリル酸グリシジル
2EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
【0089】
得られたモノマー混合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら湯浴が沸騰するまで昇温した。重合開始剤を酢酸ブチルで希釈した溶液を加えた。また重合中に重合開始剤を含む酢酸ブチル溶液を数回添加した。
重合開始から7時間後、室温まで冷却し重合を終了させた。これにより、(メタ)アクリル樹脂を含有する樹脂組成物を得た。
【0090】
(2)無機微粒子分散スラリー組成物の調製
得られた樹脂組成物40重量部に、無機微粒子としてLi2S-P2S5系ガラス(平均粒子径2.0μm)、可塑剤としてアジピン酸ジ(ブトキシエチル)、有機溶剤として酢酸ブチルを表1に示す配合比となるように添加し、高速攪拌機で混練し、無機微粒子分散スラリー組成物を得た。
【0091】
(実施例2、3及び比較例1~10)
「(1)(メタ)アクリル樹脂の調製」において、モノマーの配合を表1に示す通りに変更し、有機溶剤の添加量を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル樹脂を作製した。
得られた(メタ)アクリル樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして無機微粒子分散スラリー組成物を作製した。
【0092】
【0093】
(実施例4~24、比較例11、12)
「(1)(メタ)アクリル樹脂の調製」において、モノマーの配合及び有機溶剤の添加量を表2に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物(A)を作製した。
また、「(1)(メタ)アクリル樹脂の調製」において、モノマーの配合及び有機溶剤の添加量を表2に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして(メタ)アクリル樹脂(B)を含有する樹脂組成物(B)を作製した。樹脂組成物(A)(B)を室温まで冷却後、(メタ)アクリル樹脂(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)の樹脂固形分の重量比が1:1になるよう密閉容器に配合し、80℃条件下で4時間混練し(メタ)アクリル樹脂(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)との混合物を含有する樹脂溶液を得た。
得られた樹脂溶液を用い、表2の組成になるよう有機溶剤、可塑剤、無機微粒子を配合し、高速攪拌装置で攪拌し、無機微粒子分散スラリー組成物を得た。
【0094】
【0095】
<評価>
実施例及び比較例で得られた(メタ)アクリル樹脂、無機微粒子分散スラリー組成物について以下の評価を行った。結果を表3及び4に示した。
【0096】
(1)平均分子量測定
得られた(メタ)アクリル樹脂について、カラムとしてLF-804(SHOKO社製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。なお、実施例4~24、比較例11及び12については、得られた(メタ)アクリル樹脂(A)、(メタ)アクリル樹脂(B)、及び、(メタ)アクリル樹脂(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)との混合物について測定を行った。
【0097】
(2)ガラス転移温度測定
得られた(メタ)アクリル樹脂について、示差走査熱量計(DSC)を用いてガラス転移温度(Tg)を測定した。具体的には、50mL/min流量の窒素雰囲気下、昇温速度5℃/minにて室温から150℃までの温度を評価した。なお、実施例4~24、比較例11及び12については、得られた(メタ)アクリル樹脂(A)、(メタ)アクリル樹脂(B)、及び、(メタ)アクリル樹脂(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)との混合物について測定を行った。
【0098】
(3)引張試験
実施例1~3及び比較例1~10で得られた樹脂組成物を離型処理したPETフィルムにアプリケーターを用いて塗工し、100℃送風オーブンで10分間乾燥させることで、厚み20μmの樹脂シートを離型処理したPETフィルム上に作製した。方眼紙をカバーフィルムとして用い、はさみで幅1cmの短冊状に切断し、樹脂シートをフィルムから剥離して試験片を作製した。
また、実施例4~24、比較例11及び12で得られた樹脂溶液を用いた以外は同様にして試験片を作製した。
得られた試験片について、23℃、50RH条件下でオートグラフAG-IS(島津製作所社製)を用いてチャック間距離3cm、引張速度10mm/minにて引張試験を行い、応力-ひずみ特性(降伏応力の有無、最大応力測定、破断伸度測定)を確認した。結果について以下の基準で評価した。
○:降伏応力を示し、最大応力が20N/mm2以上、かつ破断伸度が50%以上である場合
×:上記○以外の場合
【0099】
(4)焼結性
得られた無機微粒子分散スラリー組成物をTG-DTAのアルミナパンに詰め、10℃/minにて昇温し、溶剤を蒸発、樹脂、可塑剤を熱分解させた。その後、重量が36重量%を示した(90重量%脱脂が終了した)温度を測定し、分解終了温度とした。得られた分解終了温度について以下の基準で評価した。
○:分解終了温度が270度を超えており、300℃以下の場合
×:分解終了温度が300℃を超えていた場合
【0100】
(5)透明性及び流動性
実施例1~3及び比較例1~10で得られた樹脂組成物、実施例4~24、比較例11及び12で得られた樹脂溶液をガラス瓶に移し、状態を目視にて確認した。透明性及び流動性について以下の基準で評価した。
<透明性>
○:透明であった。
△:濁りは見られないが、曇っていた。
×:白濁していた。
<流動性>
○:容器を傾けた際になめらかに流れた。
△:容器を傾けた際に流れたが、液表面のうねりが平らになるのにかなり時間がかかった。
×:ゾルまたはゲル状であり、容器を傾けた際になめらかに流れなかった。
【0101】
(6)シート強度
実施例及び比較例で得られた無機微粒子分散スラリー組成物をアプリケーターを用いてシート厚みが30μmとなるようにギャップを調整して離型処理したPETフィルム上に塗工し、100℃に設定したオーブンで30分間乾燥させ、離型処理したPETフィルム上に無機微粒子分散シートを得た。
【0102】
得られた無機微粒子分散シートを幅1cmの短冊状に切断し、無機微粒子分散シートをフィルムから剥離し、「(3)引張試験」と同様にして無機微粒子分散シートのシート強度を以下の基準で評価した。
〇:最大応力が6N/mm2以上、かつ、破断伸度が10%以上である場合
×:上記〇以外の場合
【0103】
(7)シート巻取性
「(6)シート強度」で得られた無機微粒子分散シートを幅1cmの短冊状に切断し、離型処理したPETフィルムを残した状態で、直径10cmの塩化ビニルパイプに巻き付け、室温で1週間養生した。1週間養生後、PETフィルムを剥がし、無機微粒子分散シートの状態を顕微鏡で観察して、以下の基準で評価した。
〇:シートにひび、割れ等がなく、緻密な状態を維持している。
×:表面や端部にひび、割れが見られた。
【0104】
【0105】
【0106】
実施例ではいずれの評価においても優れた特性が確認された。特に2種の(メタ)アクリル樹脂(A)及び(B)との混合物を用いた実施例6及び9では分子量があまり高くないにも関わらず非常に高い強度特性が得られた。
一方、比較例の組成は引張試験においては最大応力や破断伸度が低く、得られる樹脂シートが脆く、セラミックグリーンシートとした際に取り扱い性に問題が生じた。
また、比較例で得られた無機微粒子分散シートは脆く、引張試験機のチャックに取り付ける際にボロボロと崩れ、問題が生じた。更に、無機微粒子分散シートの巻取性評価では、比較例で得られた無機微粒子分散シートは養生中に割れやひびが発生したが、実施例で得られた無機微粒子分散シートでは樹脂同士や可塑剤との相溶性が良好であるので長期養生中もひびや割れは発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、低温で優れた分解性を有するとともに、高い強度の成形体が得られ、更なる多層化及び薄膜化を実現して、優れた特性を有する全固体電池や積層セラミクスコンデンサ等のセラミクス積層体を製造することが可能な無機微粒子分散スラリー組成物を提供することができる。また、該無機微粒子分散スラリー組成物を用いる無機微粒子分散シート及び無機微粒子分散シートの製造方法を提供することができる。