(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】光学フィルム、偏光板および光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240731BHJP
C08G 64/00 20060101ALI20240731BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240731BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20240731BHJP
【FI】
G02B5/30
C08G64/00
B29C48/08
B29C48/00
(21)【出願番号】P 2020151048
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】中原 歩夢
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-021171(JP,A)
【文献】特開2012-031370(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017748(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/053212(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/199509(WO,A1)
【文献】特開2016-128556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08G 64/00
B29C 48/08
B29C 48/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂を含む光学フィルムの製造方法であって、
該ポリカーボネート系樹脂が、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含み、
該ジヒドロキシ化合物が下記式(4)で表され、
【化1】
該脂環式ジヒドロキシ化合物が、下記一般式(II)で表され、R
1が下記(IIb)で表される構造であり、n=0であり、
HOCH
2-R
1-CH
2OH (II)
【化2】
該ポリカーボネート系樹脂の重合時の複屈折Δnxyが0.015以上であり、
該製造方法は、押出成形法
における製膜ライン速度またはキャスト塗工法におけるライン速度が7m/min~
12m/minである製膜工程を含み、
得られる光学フィルムの配向度が5%以上であり、面内位相差Re(550)が20nm以下であり、65℃および90%RHで500時間保持した後の位相差変化率が10%以下であり、紫外域の耐候性試験におけるb値の変化率が1%以下である、
製造方法。
【請求項2】
得られる光学フィルムが紫外線吸収剤を含まない、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、偏光板および光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のディスプレイ市場においては、バッテリーの耐久時間を長くし、さらに発熱を抑制するためディスプレイ輝度を下げるニーズが存在する。このため、ディスプレイに用いられる偏光板として、光透過率の高い偏光板が求められている。しかし、このような光透過率の高い偏光板をディスプレイに用いると、加湿条件下において外観が悪化するという課題がある。
【0003】
さらに、近年ディスプレイが紫外線にさらされる環境で用いられることが増えてきており(例えば、PID(パブリック・インフォメーション・ディスプレイ)、携帯電話)、特にパネル側に光学フィルムが配置される偏光板においては、紫外光により光学フィルムの色相が変化し、ディスプレイの品位を損なうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、加湿条件下における位相差変化が抑制され、紫外域の耐候性試験における色相の変化が抑制され、さらに接着性に優れた光学フィルムおよび当該光学フィルムを含む偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態における光学フィルムは、複屈折Δnxyが0.015以上である樹脂から構成され、配向度は5%以上であり、面内位相差Re(550)は20nm以下であり、65℃および90%RHで500時間保持した後の位相差変化率は10%以下であり、紫外域の耐候性試験におけるb値の変化率は1%以下である。
1つの実施形態においては、上記樹脂はポリカーボネート系樹脂を含む。
1つの実施形態においては、上記ポリカーボネート系樹脂は、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む。
【化1】
1つの実施形態においては、上記ポリカーボネート系樹脂は、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位をさらに含み、該脂環式ジヒドロキシ化合物は、下記一般式(II)で表され、R
1が下記(IIb)で表される構造であり、n=0である。
HOCH
2-R
1-CH
2OH (II)
【化2】
1つの実施形態においては、上記光学フィルムの厚みは10μm~50μmである。
本発明の別の実施形態においては、偏光板が提供される。この偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも片面に接着剤層を介して貼り合わされた上記光学フィルムとを含む。
本発明の別の局面によれば、上記光学フィルムの製造方法が提供される。この製造方法は、ライン速度が7m/min~15m/minである製膜工程を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、特定の樹脂から構成され、複屈折Δnxyが0.015以上である樹脂フィルムを、特定の条件で製膜することにより、配向度が一定値以上となり、その結果、加湿信頼性試験における位相差変化が抑制され、紫外域の耐候性試験における色相の変化が抑制され、さらに接着性に優れた光学フィルムを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)複屈折(Δnxy)
複屈折Δnxyは、式:Δnxy=nx-nyによって求められる。
【0010】
A.光学フィルム
本発明の実施形態による光学フィルムは、樹脂から形成される。当該樹脂としては、代表的にはポリカーボネート樹脂が挙げられる。したがって、本発明の実施形態による光学フィルムは、代表的には、ポリカーボネート樹脂フィルムである。さらに、本発明の実施形態による光学フィルムは、好ましくは、紫外線吸収剤を含まない。光学フィルムが紫外線吸収剤を含まないことにより、画像表示装置に適用した場合にニュートラルな色相を維持することが可能となる。
【0011】
上記光学フィルムを構成する樹脂の複屈折Δnxyは、代表的には0.015以上であり、好ましくは0.018以上である。上記樹脂の複屈折Δnxyの上限は、例えば0.040であり得る。このような複屈折Δnxyを有する樹脂から構成される樹脂フィルムを、所定の速度以上のライン速度で製膜することにより、配向度が一定値以上となり、その結果、加湿条件下において位相差変化が顕著に抑制される。
【0012】
上記光学フィルムは、配向度が5%以上であり、好ましくは5.5%以上であり、より好ましくは6%以上である。配向度の上限は、例えば70%である。光学フィルムの配向度がこのような範囲であれば、光学フィルムの接着性が良好となる。このような範囲の配向度は、上記樹脂フィルムを、所定の範囲のライン速度で製膜することにより実現され得る。上記配向度は、例えばX線回折法(XRD)で測定される。
【0013】
上記光学フィルムの面内位相差Re(550)は20nm以下であり、好ましくは15nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。面内位相差の下限は、例えば0nmであり得る。すなわち、上記光学フィルムは、好ましくは実質的に光学的等方性を有する。光学フィルムのこのような面内位相差Re(550)は、上記樹脂フィルムを、所定の範囲のライン速度で製膜することにより得られ得る。
【0014】
上記光学フィルムの、温度65℃かつ湿度90%の条件下において500時間保存(加湿試験)した後の位相差変化は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下である。下限は、例えば0.01%であり得る。上記位相差変化(%)は、|(Re500-Re0)/Re0|×100(%)で表される。Re0は、試験開始前の光学フィルムの面内位相差(nm)であり、Re500は、試験後の光学フィルムの面内位相差(nm)である。光学フィルムの位相差変化がこのような範囲であれば、光学フィルムを画像表示装置に適用した場合に、画像表示装置上の場所ごとの位相差による色相変化が小さくなり、表示上の色ムラの発生が抑制されるという利点が得られ得る。
【0015】
上記光学フィルムは、紫外域の耐候性性試験においてb値の変化が抑制されている。b値の変化率は、1%以下であり、好ましくは0.95%以下である。b値の変化率の下限は、例えば、0%である。すなわち、光学フィルムは、耐候性が要求される用途においても良好に用いられ得る。光学フィルムが、後述する特定のポリカーボネート樹脂を含むことにより、このような利点が得られ得る。
【0016】
上記光学フィルムの厚みは、好ましくは10μm~50μmであり、より好ましくは20μm~40μmである。
【0017】
上記光学フィルムの透湿度は、好ましくは250g/m2・24h以下であり、より好ましくは150g/m2・24h以下である。下限は、例えば、1g/m2・24hであり得る。光学フィルムの透湿度がこのような範囲であれば、加湿環境下における位相差の変化を抑制できるという利点が得られ得る。
【0018】
上記光学フィルムは、光弾性係数の絶対値が好ましくは2×10-11m2/N以下、より好ましくは2.0×10-13m2/N~1.5×10-11m2/N、さらに好ましくは1.0×10-12m2/N~1.2×10-11m2/Nである。光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、加熱時の収縮応力が発生した場合に位相差変化が生じにくい。その結果、光学フィルムを画像表示装置に用いた場合に、画像表示装置の熱ムラが良好に防止され得る。
【0019】
本発明の実施形態によれば、上記のように、特定の範囲の複屈折Δnxyを有する樹脂を用いて、所定の範囲内のライン速度で製膜することにより、特定の範囲の配向度を有する光学フィルムが得られ得る。当該光学フィルムにおいては、所望の面内位相差(実質的には、光学的等方性)を満足し、さらに加湿信頼性試験における位相差変化の抑制、紫外域の耐候性試験における色相の変化の抑制および良好な接着性が両立される。
【0020】
上記樹脂フィルムを所定の速度以下のライン速度で製膜することにより、実質的には光学的等方性を有する光学フィルムを得ることができる。しかし、ライン速度が一定の速度以下であると、得られる光学フィルムの配向度が下がり、加湿信頼性試験における位相差変化および接着性の低下につながる。そこで、上記ライン速度を一定の速度以上とすることで、光学フィルムの配向度が上がり、加湿信頼性試験における位相差変化が抑制され、さらに接着性が向上する。すなわち、上記ライン速度の範囲を最適化することにより、所望の面内位相差、加湿信頼性試験における位相差変化の抑制および優れた接着性を両立することができる。このような光学フィルムは、例えば、PID(パブリック・インフォメーション・ディスプレイ)、携帯電話に好適に用いられ得る。
【0021】
B.構成材料
上記光学フィルムは、上記のとおり、代表的には、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂フィルムである。
【0022】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明に係るポリカーボネート樹脂は、下記構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を少なくとも含むものであり、分子内に少なくとも一つの結合構造 -CH
2-O- を有するジヒドロキシ化合物を少なくとも含むジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下反応させることにより製造される。
【化3】
【0023】
ここで、構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物としては、2個のアルコール性水酸基をもち、分子内に連結基-CH2-O-を有する構造を含み、重合触媒の存在下、炭酸ジエステルと反応してポリカーボネートを生成し得る化合物であれば如何なる構造の化合物であっても使用することが可能であり、複数種併用しても構わない。また、本発明に係るポリカーボネート樹脂に用いるジヒドロキシ化合物として、構造式(1)で表される結合構造を有さないジヒドロキシ化合物を併用しても構わない。以下、構造式(1)で表される結合構造を有するジヒドロキシ化合物をジヒドロキシ化合物(A)、構造式(1)で表される結合構造を有さないジヒドロキシ化合物をジヒドロキシ化合物(B)と略記することがある。
【0024】
(ジヒドロキシ化合物(A))
ジヒドロキシ化合物(A)における「連結基-CH2-O-」とは、水素原子以外の原子と互いに結合して分子を構成する構造を意味する。この連結基において、少なくとも酸素原子が結合し得る原子又は炭素原子と酸素原子が同時に結合し得る原子としては、炭素原子が最も好ましい。ジヒドロキシ化合物(A)中の「連結基-CH2-O-」の数は、好ましくは1以上、より好ましくは2~4である。
【0025】
さらに具体的には、ジヒドロキシ化合物(A)としては、例えば、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレンで例示されるような、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]ジフェニルメタン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-1-フェニルエタン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[3,5-ジメチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,4-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,3-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]プロパン、2,2-ビス[(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-tert-ブチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-4-メチルペンタン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]オクタン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]デカン、2,2-ビス[3-ブロモ-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンで例示されるような、ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)アルカン類、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,1-ビス[3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロペンタンで例示されるような、ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)シクロアルカン類、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ジフェニルエ-テル、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テルで例示されるような、ジヒドロキシアルコキシジアリールエーテル類、4,4’-ビス(2-ヒドロキエトキシフェニル)スルフィド、4,4’-ビス[4-(2-ジヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]スルフィドで例示されるような、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルフィド類、4,4’-ビス(2-ヒドロキエトキシフェニル)スルホキシド、4,4’-ビス[4-(2-ジヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]スルホキシドで例示されるような、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルホキシド類、4,4’-ビス(2-ヒドロキエトキシフェニル)スルホン、4,4’-ビス[4-(2-ジヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]スルホンで例示されるような、ビスヒドロキシアルコキシアリールスルホン類、1,4-ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,3-ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,2-ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,3-ビス[2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロピル]ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、1,3-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-5,7-ジメチルアダマンタン、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、および下記一般式(6)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
【0027】
これらジヒドロキシ化合物(A)は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明において、前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
なお、ジヒドロキシ化合物(A)のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。本願発明においては、ジヒドロキシ化合物(A)として、イソソルビドが好適に用いられる。
【0029】
(ジヒドロキシ化合物(B))
本発明においては、ジヒドロキシ化合物としてジヒドロキシ化合物(A)以外のジヒドロキシ化合物である、ジヒドロキシ化合物(B)を用いてもよい。ジヒドロキシ化合物(B)としては、例えば、脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジオール類を、ポリカーボネートの構成単位となるジヒドロキシ化合物として、ジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物とともに用いることができる。
【0030】
本発明に使用できる、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、好ましくは、通常5員環構造又は6員環構造を含む化合物を用いる。また、6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネートの耐熱性を高くすることができる。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、より好ましくは30以下である。この値が大きくなるほど、耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価だったりする。炭素原子数が小さくなるほど、精製しやすく、入手しやすくなる。
【0031】
本発明で使用できる5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には、下記一般式(II)又は(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
HOCH2-R1-CH2OH (II)
HO-R2-OH (III)
(式(II)、(III)中、R1、R2はそれぞれ、炭素数4~20のシクロアルキレン基を示す。)
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、一般式(II)において、R1が下記一般式(IIa)(式中、R3は炭素数1~12のアルキル基又は水素原子を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0032】
【0033】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、一般式(II)において、R1が下記一般式(IIb)(式中、nは0又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0034】
【0035】
上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、一般式(II)において、R1が下記一般式(IIc)(式中、mは0、又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノールなどが挙げられる。
【0036】
【0037】
また、上記一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、一般式(II)において、R1が下記一般式(IId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノールなどが挙げられる。
【0038】
【0039】
一般式(II)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、一般式(II)において、R1が下記一般式(IIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3-アダマンタンジメタノールなどが挙げられる。
【0040】
【0041】
また、上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、一般式(III)において、R2が下記一般式(IIIa)(式中、R3は炭素数1~12のアルキル基又は水素原子を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-メチル-1,4-シクロヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0042】
【0043】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、一般式(III)において、R2が下記一般式(IIIb)(式中、nは0又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。
【0044】
【0045】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又はトリシクロテトラデカンジオールとしては、一般式(III)において、R2が下記一般式(IIIc)(式中、mは0、又は1を示す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6-デカリンジオール、1,5-デカリンジオール、2,3-デカリンジオールなどが用いられる。
【0046】
【0047】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、一般式(III)において、R2が下記一般式(IIId)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3-ノルボルナンジオール、2,5-ノルボルナンジオールなどが用いられる。
【0048】
【0049】
上記一般式(III)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、一般式(III)において、R2が下記一般式(IIIe)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3-アダマンタンジオールなどが用いられる。
【0050】
【0051】
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、特に、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。本願発明においては、ジヒドロキシ化合物(B)として、トリシクロデカンジメタノールが好適に用いられる。
【0052】
本発明に使用できる脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが挙げられる。本発明に使用できるオキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0053】
本発明に使用できる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-2,5-ジエトキシジフェニルエーテル、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ-2-メチル)フェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0054】
本発明に使用できる環状エーテル構造を有するジオール類としては、例えば、スピログリコール類、ジオキサングリコール類が挙げられる。なお、上記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジオール類の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、1種又は2種以上を式(4)で表されるジヒドロキシ化合物とともに用いることができる。
【0055】
これらのジヒドロキシ化合物(B)を用いることにより、用途に応じた柔軟性の改善、耐熱性の向上、成形性の改善などの効果を得ることができる。本発明に係るポリカーボネート樹脂を構成する全ジヒドロキシ化合物に対するジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物の割合は特に限定されないが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下である。他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の含有割合が多過ぎると、光学特性等の性能を低下させたりすることがある。
【0056】
上記他のジヒドロキシ化合物の中で、脂環式ジヒドロキシ化合物を用いる場合、ポリカーボネートを構成する全ジヒドロキシ化合物に対するジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物と脂環式ジヒドロキシ化合物の合計の割合は特に限定されないが、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0057】
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂における、ジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合については、任意の割合で選択できるが、式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位:脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位=1:99~99:1(モル%)が好ましく、特に式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位:脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位=10:90~90:10(モル%)であることが好ましい。上記範囲よりも式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多く脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少ないと着色しやすくなり、逆に式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が少なく脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位が多いと分子量が上がりにくくなる傾向がある。
【0058】
さらに、脂肪族ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコール類、芳香族ジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジオール類を用いる場合、ポリカーボネートを構成する全ジヒドロキシ化合物に対するジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物とこれらの各ジヒドロキシ化合物の合計の割合は特に限定されず、任意の割合で選択できる。また、ジヒドロキシ化合物(A)、例えば式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位とこれらの各ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との含有割合も特に限定されず、任意の割合で選択できる。
【0059】
ポリカーボネート系樹脂の詳細は、例えば、特開2012-31370号公報(特許第5448264号)に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0060】
C.光学フィルムの製造方法
光学フィルムは、例えば、B項に記載のポリカーボネート系樹脂等の樹脂をフィルム成形することによって得られる。フィルムを形成する方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。具体例としては、押出成形法、ブロー成形法、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法等が挙げられる。中でも得られるフィルムの平滑性を高め、良好な光学的均一性を得ることができる押出成形法、又はキャスト塗工法が好ましく、より好ましくはキャスト塗工法が採用され得る。キャスト塗工法のライン速度は、好ましくは7m/min~15m/minであり、より好ましくは7m/min~12m/minである。B項に記載の樹脂フィルムを所定の速度以下のライン速度で製膜することにより、実質的には光学的等方性を有する光学フィルムを得ることができる。しかし、ライン速度が一定の速度以下であると、得られる光学フィルムの配向度が下がり、加湿信頼性試験における位相差変化および接着性の低下につながる。そこで、上記ライン速度を一定の速度以上とすることで、光学フィルムの配向度が上がり、加湿信頼性試験における位相差変化が抑制され、さらに接着性が向上する。すなわち、上記範囲のライン速度によりキャスト製膜を行うことにより、所望の面内位相差、加湿信頼性試験における位相差変化の抑制および優れた接着性を両立することができる。さらに、上記範囲のライン速度によりキャスト製膜を行うことで、MD方向(長手方向)の膜厚ムラおよび膜厚ムラに起因する位相差ムラを抑制することができる。
【0061】
D.偏光板
偏光板は、代表的には、偏光子と、該偏光子の少なくとも片面に接着剤層を介して貼り合わされた上記光学フィルムと、を有する。上記のとおり、光学フィルムは偏光子との接着性に優れる。該偏光子においては、偏光子の少なくとも片面に保護層を有していてもよい。さらに、該偏光板の視認側と反対側の面に、粘着剤層およびセパレーターを有していてもよい。偏光子、保護層、粘着剤層およびセパレーターについては、業界で周知に構成が援用されるので、詳細な説明は省略する。
【0062】
上記接着剤層を構成する接着剤組成物としては、代表的には、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が挙げられる。該活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、活性エネルギー線硬化型化合物を含む。
【0063】
本発明に係る活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、例えば、硬化性成分として、活性エネルギー線硬化型化合物(A)、(B)および(C)を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物であって、組成物全量を100重量%としたとき、SP値が29.0(MJ/m3)1/2以上32.0(MJ/m3)1/2以下である活性エネルギー線硬化型化合物(A)を0.0~4.0重量%、SP値が18.0(MJ/m3)1/2以上21.0(MJ/m3)1/2未満である活性エネルギー線硬化型化合物(B)を5.0~98.0重量%、およびSP値が21.0(MJ/m3)1/2以上26.0(MJ/m3)1/2以下である活性エネルギー線硬化型化合物(C)を5.0~98.0重量%含有する。なお、本発明において、「組成物全量」とは、活性エネルギー線硬化型化合物に加えて、各種開始剤や添加剤を含む全量を意味するものとする。
【0064】
活性エネルギー線硬化型化合物(A)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が29.0(MJ/m3)1/2以上32.0(MJ/m3)1/2以下である化合物であれば限定なく使用することができる。活性エネルギー線硬化型化合物(A)の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値29.5)、N-メチロールアクリルアミド(SP値31.5)などが挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリレート基とは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を意味する。
【0065】
活性エネルギー線硬化型化合物(B)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が18.0(MJ/m3)1/2以上21.0(MJ/m3)1/2未満である化合物であれば限定なく使用することができる。活性エネルギー線硬化型化合物(B)の具体例としては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレート(SP値19.0)、1,9-ノナンジオールジアクリレート(SP値19.2)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(SP値20.3)、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート(SP値19.1)、ジオキサングリコールジアクリレート(SP値19.4)、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(SP値20.9)などが挙げられる。なお、活性エネルギー線硬化型化合物(B)としては市販品も好適に使用可能であり、例えばアロニックスM-220(東亞合成社製、SP値19.0)、ライトアクリレート1,9ND-A(共栄社化学社製、SP値19.2)、ライトアクリレートDGE-4A(共栄社化学社製、SP値20.9)、ライトアクリレートDCP-A(共栄社化学社製、SP値20.3)、SR-531(SARTOMER社製、SP値19.1)、CD-536(SARTOMER社製、SP値19.4)などが挙げられる。
【0066】
活性エネルギー線硬化型化合物(C)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が21.0(MJ/m3)1/2以上26.0(MJ/m3)1/2以下である化合物であれば限定なく使用することができる。活性エネルギー線硬化型化合物(C)の具体例としては、例えば、アクリロイルモルホリン(SP値22.9)、N-メトキシメチルアクリルアミド(SP値22.9)、N-エトキシメチルアクリルアミド(SP値22.3)などが挙げられる。なお、活性エネルギー線硬化型化合物(C)としては市販品も好適に使用可能であり、例えばACMO(興人社製、SP値22.9)、ワスマー2MA(笠野興産社製、SP値22.9)、ワスマーEMA(笠野興産社製、SP値22.3)、ワスマー3MA(笠野興産社製、SP値22.4)などが挙げられる。
【0067】
上記接着剤組成物の詳細は、例えば、特開2019-147865号公報に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。上記光学フィルムと、上記接着剤組成物から構成される接着剤層とを貼り合わせることで、光学フィルムの接着性がさらに優れたものとなり得る。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法および評価方法は以下の通りである。
(1)面内位相差
実施例および比較例で得られた光学フィルムを長さ4cmおよび幅4cmに切り出し、測定試料とした。当該測定試料について、Axometrics社製、製品名「Axoscan」を用いて面内位相差Re(550)を測定した。
(2)屈折率および複屈折Δnxy
アッベ屈折率計(DR-M2、アタゴ社製)により測定した。測定は23℃環境下で行った。
(3)厚み
10μm以下の厚みは、干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD-9800」)を用いて測定した。10μmを超える厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC-351C」)を用いて測定した。
(4)配向度
実施例および比較例で得られた光学フィルムを用いて、X線回折法(XRD)により、配向度を求めた。
(5)加湿位相差変化
実施例および比較例で得られた光学フィルムを、5cm×5cmに切りだし、片方の面に粘着剤をハンドローラーで貼り付け、粘着剤面をアルカリガラスの片面に貼り付けて試験片を得た。試験片を温度65℃かつ湿度90%のオーブンに500時間保存(加湿試験)し、試験開始前および試験後の位相差変化(%)を算出した。位相差変化が10%以下であるものと良、10%を超えるものを不良とした。
(6)平行色相a値およびb値
実施例および比較例で得られた光学フィルムの平行色相a値および平行色相b値を求めた。測定は、分光高度計(日本分光社製、商品名「V-7100」)を用いて行った。紫外線フェード試験機(装置名;紫外線フェードメーター試験機U48、スガ試験機株式会社製)投入前のb値と、100h投入後のb値との変化率が1%以下であるものを良、1%を超えるものを不良とした。
(7)接着性
実施例および比較例で得られた光学フィルムと偏光子とを貼り合わせ、積層体を得た。得られた積層体を、偏光子の延伸方向と平行に200mm、直交方向に15mmの大きさに切り出し、該積層体をガラス板に貼り合わせた。そして光学フィルムと偏光子との間にカッターナイフで切り込みを入れ、テンシロン万能試験機RTC(株式会社エー・アンド・デイ社製)により、90度方向に光学フィルムと偏光子とを剥離速度1000mm/minで剥離し、その剥離強度(N/15mm)を測定した。剥離強度が1N/15mm以上の場合を良、1N/15mm未満の場合を不良とした。
【0069】
[実施例1]
イソソルビド(以下「ISB」と略記することがある)81.98質量部に対して、トリシクロデカンジメタノール(以下「TCDDM」と略記することがある)47.19質量部、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と略記することがある)175.1質量部、及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液0.979質量部を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。次いで、圧力を常圧から13.3kPaにし、加熱槽温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。反応容器全体を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、加熱槽温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に到達させた。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出して、ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂の複屈折Δnxyは0.015であった。得られたポリカーボネート樹脂を100℃で12時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅1700mm、設定温度:250℃)、キャストロール(設定温度:60℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、製膜ライン速度を7m/minとして、ポリカーボネート樹脂から構成される光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムの配向度は7.4%であり、面内位相差Re(550)は6nmであり、厚みは40μmであった。得られた光学フィルムを、上記(5)~(7)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
製膜ライン速度を8m/minとし、厚みを30μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの配向度は5.7%であり、面内位相差Re(550)は3nmであった。得られた光学フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3]
ポリカーボネート樹脂の複屈折Δnxyを0.018としたこと、製膜ライン速度を10m/minとしたことおよび厚みを20μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの配向度は6.1%であり、面内位相差Re(550)は2nmであった。得られた光学フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例4]
ポリカーボネート樹脂の複屈折Δnxyを0.024としたこと、製膜ライン速度を12m/minとしたことおよび厚みを20μmとしたこと以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの配向度は8.1%であり、面内位相差Re(550)は2nmであった。得られた光学フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
ポリカーボネート樹脂の複屈折Δnxyを0.016としたこと、製膜ライン速度を5m/minとしたこと以外は実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの配向度は4.8%であり、面内位相差Re(550)は5nmであった。得られた光学フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
複屈折Δnxyが0.018であるトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(コニカミノルタ社製、商品名「KC4UA」)を用いたことおよびライン速度を15m/minとしたこと以外は実施例1と同様にして光学フィルムを得た。得られた光学フィルムの配向度は5.1%であり、面内位相差Re(550)は2nmであった。得られた光学フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例3]
(ポリエステルカーボネート系樹脂の重合)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン29.60質量部(0.046mol)、イソソルビド(ISB)29.21質量部(0.200mol)、スピログリコール(SPG)42.28質量部(0.139mol)、ジフェニルカーボネート(DPC)63.77質量部(0.298mol)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物1.19×10-2質量部(6.78×10-5mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネート系樹脂を水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。得られたポリカーボネート樹脂の複屈折Δnxyは0.012であった。
【0076】
(光学フィルムの作製)
得られたポリエステルカーボネート系樹脂(ペレット)を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:270℃)、Tダイ(幅1700mm、設定温度:270℃)、キャストロール(設定温度:75℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、製膜ライン速度を8m/minとして、厚み40μmの長尺状の光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムの配向度は4.3%であり、面内位相差Re(550)は7nmであった。得られた光学フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0077】
[比較例4]
厚み40μmのトリアセチルセルロースフィルムをラビング処理し、コーティングを行った。得られた光学フィルムの面内位相差Re(550)は3nmであり、厚みは2μmであった。得られた光学フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1から明らかなように、本発明の実施例の光学フィルムは、加湿位相差変化、耐候性および接着性のすべてにおいて優れていることがわかる。これは、特定の複屈折Δnxyを有する特定のポリカーボネート樹脂を含む樹脂フィルムを、特定のライン速度で製膜することにより実現されると推察される。さらに、実施例1~4と比較例4との比較から、紫外線吸収剤を含まない光学フィルムを用いることで、耐候性試験における色相変化が抑制されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の実施形態による光学フィルムおよび偏光板は、画像表示装置に好適に用いられる。