(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】防水構造を用いた補修方法
(51)【国際特許分類】
E01C 7/18 20060101AFI20240731BHJP
E01C 23/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
E01C7/18
E01C23/00 Z
(21)【出願番号】P 2020167895
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】森 国光
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 誠
(72)【発明者】
【氏名】菊一 大輔
(72)【発明者】
【氏名】白石 洋介
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼久 正信
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-207413(JP,A)
【文献】実公昭59-041219(JP,Y2)
【文献】特開昭60-023502(JP,A)
【文献】特開2003-147716(JP,A)
【文献】特開2015-036470(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0089942(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/18
E01C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の下地の上部に、空気及び湿気の通過を許容する透湿防水シートを配設して防水層を形成し、
その防水層の上部に、透水性アスファルト舗装により透水性アスファルト層を形成する防水構造
を用いて、既設のアスファルト層の損傷箇所を補修する補修方法であって、
前記損傷箇所における既設のアスファルト層、及び、その既設のアスファルト層の下部における既設の防水層を撤去する撤去工程と、
既設の防水層の撤去部分に透湿防水シートを配設して新しい防水層を形成する防水層形成工程と、
その新しい防水層の上部に、透水性アスファルト舗装により新しい透水性アスファルト層を形成する透水性アスファルト層形成工程とを行う補修方法。
【請求項2】
前記防水構造には、前記防水層と前記透水性アスファルト層との間に熱緩衝材が備えられている請求項1に記載の
補修方法。
【請求項3】
前記熱緩衝材は、空気及び湿気の通過を許容する部材にて構成されている請求項2に記載の
補修方法。
【請求項4】
前記撤去工程において、既設のアスファルト層を撤去する部分よりも既設の防水層を撤去する部分の方が小さく設定され、
前記防水層形成工程において、透湿防水シートの外周部を既設の防水層の上部に重ね合わせる状態で既設の防水層の撤去部分に透湿防水シートを配設し、新しい防水層と新しい透水性アスファルト層との間に熱緩衝材を備えさせる
請求項1~3の何れか1項に記載の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装路等の防水構造、及び、その防水構造を用いた補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
舗装路等の防水構造として、コンクリート製の下地の上部に防水シート等から防水層を形成し、その防水層の上部にアスファルト舗装によりアスファルト層を形成しているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この防水構造では、コンクリート製の下地から発生する湿気により防水シートに部分的な膨れが生じてしまい、その膨れを抑えながらアスファルト舗装を行わなければならず、アスファルト舗装を行い難いものとなっている。また、アスファルト舗装を行う際に、防水層に高温の熱が伝達されて、防水層の膨れの内部に存在する空気や湿気が膨張することになり、防水層の膨れ度合いが増大して、アスファルト層にひび割れ等が生じることがあった。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の防水構造では、防水層を形成する防水シートとして、防水層下の過熱膨張した空気や水蒸気を外部に放出可能な防水シートを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の防水構造では、防水層下の空気や湿気を防水層の上部に放出できるものの、防水層とアスファルト層との間で空気や湿気が滞留してしまう可能性もあることから、防水層の上部に備えられるアスファルト層を通過して確実にアスファルト層の上部まで空気や湿気を放出できるとは言い難かった。よって、アスファルト層にひび割れ等が生じる可能性が残っており、改善の余地があった。
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、防水層下の空気や湿気をアスファルト層の上部まで放出させて、アスファルト層のひび割れの発生を適切に防止することができる防水構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は、コンクリート製の下地の上部に、空気及び湿気の通過を許容する透湿防水シートを配設して防水層を形成し、
その防水層の上部に、透水性アスファルト舗装により透水性アスファルト層を形成する防水構造を用いて、既設のアスファルト層の損傷箇所を補修する補修方法であって、
前記損傷箇所における既設のアスファルト層、及び、その既設のアスファルト層の下部における既設の防水層を撤去する撤去工程と、
既設の防水層の撤去部分に透湿防水シートを配設して新しい防水層を形成する防水層形成工程と、
その新しい防水層の上部に、透水性アスファルト舗装により新しい透水性アスファルト層を形成する透水性アスファルト層形成工程とを行う点にある。
【0009】
本構成によれば、コンクリート製の下地の上部に透湿防水シートを配設して防水層が形成され、更に、防水層の上部に透水性アスファルト層が形成されているので、防水層下の水分や空気は、防水層を通過して防水層の上部に到達し、更に、透水性アスファルト層も通過して透水性アスファルト層の上部まで到達することになる。これにより、防水層下の水分や空気を透水性アスファルト層の上部に確実に放出することができるので、透水性アスファルト層のひび割れの発生を適切に防止することができる。
又、本構成によれば、撤去工程、防水層形成工程、透水性アスファルト層形成工程を順次行うことで、損傷箇所における既設のアスファルト層だけでなく、既設の防水層も撤去して、損傷箇所において、透湿防水シートによる新しい防水層、及び、新しい透水性アスファルト層を形成することができる。これにより、単に損傷箇所を補修できるだけでなく、補修後には、防水層下の空気や湿気を透水性アスファルト層の上部に確実に放出させて、補修箇所となる透水性アスファルト層やその補修箇所の周囲となる既設のアスファルト層のひび割れの発生を適切に防止することができ、効果的な補修を行うことができる。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、前記防水構造には、前記防水層と前記透水性アスファルト層との間に熱緩衝材が備えられている点にある。
【0011】
本構成によれば、透湿防水シートと透水性アスファルト層との間に熱緩衝材を設けることで、透水性アスファルト舗装を行う際に、透湿防水シートに高温の熱が伝達されるのを防止することができ、透湿防水シートの損傷や劣化を防止することができる。
【0012】
本発明の第3特徴構成は、前記熱緩衝材は、空気及び湿気の通過を許容する部材にて構成されている点にある。
【0013】
熱緩衝材を備えることで、透湿防水シートに高温の熱が伝達されるのを防止できるものの、防水層下の空気や湿気が上方側へ通過するのを熱緩衝材が阻害してしまう可能性がある。そこで、本構成によれば、熱緩衝材を空気及び湿気の通過を許容する部材にて構成している。これにより、防水層下の空気や湿気が熱緩衝材も通過することになり、防水層下の空気や湿気の透水性アスファルト層の上部への放出を確実に行うことができる。
【0016】
本発明の第4特徴構成は、前記撤去工程において、既設のアスファルト層を撤去する部分よりも既設の防水層を撤去する部分の方が小さく設定され、
前記防水層形成工程において、透湿防水シートの外周部を既設の防水層の上部に重ね合わせる状態で既設の防水層の撤去部分に透湿防水シートを配設し、新しい防水層と新しい透水性アスファルト層との間に熱緩衝材を備えさせる点にある。
【0017】
本構成によれば、既設のアスファルト層を撤去する部分よりも既設の防水層を撤去する部分の方が小さく設定されているので、防水層形成工程にて配設される透湿防水シートの全体が露出されることになる。これにより、透湿防水シートの全体を覆う状態で熱緩衝材を備えることができるので、透水性アスファルト舗装を行う際に、透湿防水シートに高温の熱が伝達されるのを的確に防止することができる。しかも、防水層形成工程では、透湿防水シートの外周部を既設の防水層の上部に重ね合わせる状態で既設の防水層の撤去部分に透湿防水シートを配設するので、既設の防水層と新しい防水層との間に隙間が生じることなく、的確な防水層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】撤去工程における既設のアスファルト層を撤去した状態を示す図
【
図3】撤去工程における既設の防水層を撤去した状態を示す図
【
図4】防水層形成工程における透湿防水シートを配設した状態を示す図
【
図5】熱緩衝材設置工程における熱緩衝材を配設する状態を示す図
【
図6】透水性アスファルト層形成工程における透水性アスファルト層を形成した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る防水構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
この防水構造1は、
図1に示すように、既設のアスファルト舗装路2の損傷箇所に用いられている。
図1では、既設のアスファルト舗装路2の損傷箇所を左右方向の中央部としており、その損傷箇所に補修後の新しい防水構造1として備えられている。
【0020】
既設のアスファルト舗装路2では、
図1の左右方向の中央部を除く両側に示すように、コンクリート製の下地10の上部に既設の防水層21が形成され、その既設の防水層21の上部に、アスファルト舗装により既設のアスファルト層22が形成されている。
【0021】
このような、既設のアスファルト舗装路2では、既設の防水層21の下の空気や湿気の膨張等により、既設のアスファルト層22に部分的な膨れ上がりが生じる場合がある。そこで、膨れ上がり箇所を既設のアスファルト層22の損傷箇所として、その損傷箇所を新しい防水構造1を用いて補修している。
【0022】
新しい防水構造1では、
図1の左右方向の中央部に示すように、コンクリート製の下地10の上部に、空気及び湿気の通過を許容する透湿防水シート11を配設して防水層12を形成している。そして、その防水層12の上部に、透水性アスファルト舗装により透水性アスファルト層13を形成している。また、防水層12と透水性アスファルト層13との間に熱緩衝材14を備えている。熱緩衝材14については、例えば、裏面にスリットが形成されたタイルとすることができる。
【0023】
補修方法としては、撤去工程、防水層形成工程、透水性アスファルト層形成工程を順次行うことで、既設のアスファルト層22の損傷箇所に防水構造1を新しく構築している。
【0024】
撤去工程では、損傷箇所における既設のアスファルト層22を撤去し(
図2参照)、その既設のアスファルト層22の下部における既設の防水層21を撤去する(
図3参照)。
【0025】
図2は、既設のアスファルト層22を撤去した状態を示しており、そのアスファルト層22の撤去部分23がその周囲のアスファルト舗装路2よりも下方側に窪んだ凹状となっている。アスファルト層22の撤去部分23では、既設のアスファルト層22が撤去されているので、既設の防水層21の上面部が露出している。アスファルト層22の撤去部分23の大きさについては、アスファルト層22において膨れ上がった損傷箇所よりも外側に広げて、損傷箇所とその周囲を含む大きさに設定されている。
【0026】
図3は、既設の防水層21を撤去した状態を示しており、その防水層21の撤去部分24が、アスファルト層22の撤去部分23内において、更に下方側に窪んだ凹状となっている。防水層21の撤去部分24では、既設の防水層21が撤去されているので、下地10の上面部が露出している。例えば、防水層21の撤去部分24は、アスファルト層22の撤去部分23内において、その中央部に位置するように設定されている。
【0027】
この撤去工程において、
図1~
図3に示すように、既設のアスファルト層22を撤去する撤去部分23よりも既設の防水層21を撤去する撤去部分24の方が小さく設定されている。
【0028】
防水層形成工程では、
図1及び
図4に示すように、既設の防水層21の撤去部分24に、空気及び湿気の通過を許容する透湿防水シート11を配設して新しい防水層12を形成する。透湿防水シート11を配設するに当たり、透湿防水シート11の外周部を既設の防水層21の上部に重ね合わせる状態で防水層21の撤去部分24に透湿防水シート11を配設している。透湿防水シート11は、防水層21の撤去部分24よりも大きく構成されている。透湿防水シート11の中央部に防水層21の撤去部分24を位置させ、透湿防水シート11にて防水層21の撤去部分24の上部の全体を覆い、透湿防水シート11の外周部を、その周方向の全周に亘って既設の防水層21の上部に重ね合わせている。これにより、既設の防水層21と新しい防水層12との間に隙間が生じることなく、的確な防水層を形成することができる。
【0029】
防水層形成工程の次に、透水性アスファルト層形成工程を行うが、透水性アスファルト層形成工程を行う前に、新しい防水層12と透水性アスファルト層13(
図1参照)との間に熱緩衝材14を設置する熱緩衝材設置工程(
図5参照)を行い、その後、透水性アスファルト層形成工程(
図6参照)を行う。熱緩衝材設置工程では、新しい防水層12(透湿防水シート11)の上部に保護モルタルを塗布し、その保護モルタルを乾燥養生したのち、
図5に示すように、保護モルタルの上部に熱緩衝材14を載置する。熱緩衝材14は、透湿防水シート11と同様に、空気及び湿気の通過を許容する部材にて構成されている。熱緩衝材14は、新しい防水層12(透湿防水シート11)と同一又は略同一の大きさに構成され、新しい防水層12(透湿防水シート11)の上部全体を覆うように設置する。
【0030】
透水性アスファルト層形成工程では、
図6に示すように、新しい防水層12(透湿防水シート11)の上部に、熱緩衝材14を介在させて、透水性アスファルト舗装により新しい透水性アスファルト層13を形成する。ちなみに、透水性アスファルト舗装については、通常、150~170℃の温度にて行うが、例えば、120℃程度の中温化技術を用いて行うのが好ましい。
【0031】
透水性アスファルト層形成工程では、アスファルト層22の撤去部分23の全体に亘って透水性アスファルト舗装を施して、アスファルト層22の撤去部分23の上部の全体に透水性アスファルト層13(
図6のグレー部分)を形成している。この透水性アスファルト層形成工程では、その周囲のアスファルト舗装路2における既設のアスファルト層22の上端部に対して、透水性アスファルト層13の上端部が面一となるように、透水性アスファルト舗装を行っている。
【0032】
このように、アスファルト層22の損傷箇所に新しい防水構造1を備えることで、
図1の点線矢印にて示すように、新しい防水層12(透湿防水シート11)の下の水分や空気は、防水層12を通過して防水層12の上部に到達し、更に、熱緩衝材14及び透水性アスファルト層13も通過して透水性アスファルト層13の上部まで到達することになる。これにより、新しい防水層12(透湿防水シート11)の下の水分や空気を透水性アスファルト層13の上部に確実に放出することができるので、透水性アスファルト層13のひび割れの発生を適切に防止することができる。
【0033】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0034】
(1)上記実施形態では、既設のアスファルト舗装路2の損傷箇所に防水構造1を用いて、既設のアスファルト舗装路2の損傷箇所を補修する補修方法を例示しているが、例えば、防水構造1を用いた舗装路を新築の舗装路として構築することもできる。
【0035】
(2)上記実施形態において、透湿防水シート11(防水層12)の厚みや熱緩衝材14の厚み等については、舗装路の設置条件や施工状況等に応じて、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 防水構造
2 既設のアスファルト舗装路
10 下地
11 透湿防水シート
12 新しい防水層
13 透水性アスファルト層
14 熱緩衝材
21 既設の防水層
22 既設のアスファルト層
23 アスファルト層の撤去部分
24 防水層の撤去部分