(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】複製効率の高い免疫調節ワクシニアウイルス株
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20240731BHJP
C12N 15/863 20060101ALI20240731BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240731BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240731BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20240731BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/863 Z
A61P37/02
A61P35/00
A61K35/768
(21)【出願番号】P 2020547310
(86)(22)【出願日】2018-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2018083318
(87)【国際公開番号】W WO2019106205
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】102017128538.5
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520188536
【氏名又は名称】スッター,ゲルド
(73)【特許権者】
【識別番号】520188547
【氏名又は名称】ロハス エクスポシト,ホアン ホセ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【氏名又は名称】植田 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】スッター,ゲルド
(72)【発明者】
【氏名】ロハス エクスポシト,ホアン ホセ
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-506974(JP,A)
【文献】特表平06-503227(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0275777(US,A1)
【文献】特表2016-506722(JP,A)
【文献】Virology,1992年,Vol. 188,pp.217-232
【文献】J. Virol.,2010年,Vol. 84, No. 17,pp.8422-8432
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換えの免疫調節ワクシニアウイルスであって、前記ウイルスが、機能的に活性なK1L、機能的に不活性化されたA56Rおよび機能的に不活性化されたA26Rを有し、前記ウイルスが哺乳動物細胞で複製能力があり、感染したHeLa細胞の膜へのカルレティキュリン移動を引き起こ
し、
前記ウイルスが識別子として配列番号1をさらに担持する、前記免疫調節ワクシニアウイルス。
【請求項2】
前記ウイルスが、B21R、C10L、C9L、C4L、M1L、A51R、A52R、A55R、及びB13R/B14Rからなる群から選択される機能的に不活性化されたオープンリーディングフレームの1つ以上をさらに含む、請求項
1に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
【請求項3】
前記ウイルスが、J2R、C11R、及びF4Lからなる群から選択される機能的に不活性化されるか、部分的に欠失したか、または完全に欠失した遺伝子の少なくとも1つをさらに含む、請求項1
または2に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
【請求項4】
前記ウイルスが、細胞周期活性化細胞及び/または腫瘍細胞において複製能力のある及び溶解性である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
【請求項5】
前記ウイルスが感染の際に合胞体形成を引き起こす、請求項1~
4のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルスをコードする核酸。
【請求項7】
請求項
6に記載の核酸を含む、ウイルスベクター。
【請求項8】
1つ以上の導入遺伝子の少なくとも1つの挿入を有する1つ以上の挿入部位を担持することを特徴とする、請求項1~
5のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、または請求項
7に記載のベクター。
【請求項9】
前記導入遺伝子が、腫瘍抗原、腫瘍関連抗原、疾患関連抗原、及び病原体由来抗原をコードする遺伝子を含む群から選択される、請求項
8に記載の組換え免疫調節ワクシニアウイルスまたはベクター。
【請求項10】
医薬における使用のための、請求項1~
5のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、請求項
7に記載のベクター、または請求項
9に記載の組換え免疫調節ワクシニアウイルスもしくはベクター。
【請求項11】
がんの治療における使用、及び/またはがんワクチンとしての使用のための
医薬組成物であって、請求項1~
5のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、請求項
7に記載のベクター、または請求項
9に記載の組換え免疫調節ワクシニアウイルスもしくはベクターを含む医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、請求項
7に記載のベクター、または請求項
9に記載の組換え免疫調節ワクシニアウイルスもしくはベクターと、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤と、を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬としての使用のための新規の複製効率の高い免疫調節ワクシニアウイルス株(IOVA)及びその誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルスが初めてヒトのがんの治療における腫瘍溶解性ウイルスとして使用するための市場承認を得た。このような成功は、一般的には、ウイルスに対して、及び、がんの治療のためにワクシニアウイルスの使用にも対して、科学的関心を再度フォーカスした。ワクシニアウイルスの使用は、例えば、ヒトにおけるポックスウイルス感染に対して予防する、ワクチン接種アプローチだけでなく、例えば、腫瘍ワクチンに対する、他の多くの医療や臨床試験にも適用されてきた。
【0003】
科学界は、腫瘍溶解性ウイルスの最初の臨床研究で得られたデータから、これらのウイルスまたは設計されたウイルスベクターががん細胞において選択的に複製し、感染したがん細胞の溶解を積極的に促進できることを知っている。しかしながら、そのような感染したがん細胞の直接溶解は、かさばる腫瘍を根絶するのに十分であることがまれであり、転移性疾患を治癒することもまれである。これらの結果は、疾患の再発を避けるために、より強力かつ選択的なウイルスに対するものだけでなく、腫瘍破壊の代替メカニズムに対する増加した必要性をも示す。
【0004】
より最近には、ワクシニアウイルスに基づくウイルス及びウイルスベクターが腫瘍溶解剤として試験されており、腫瘍細胞の直接溶解とは異なるメカニズムを介して腫瘍を破壊する能力があるため、最も有望であるらしい(Kirn et al., 2009)。一方で、腫瘍関連内皮細胞におけるウイルスの複製は、腫瘍血流の破壊、低酸素症、及び大規模な腫瘍壊死をもたらすことが実証され(Breitbach et al. 2013);他方、腫瘍内のワクシニアウイルスの複製は、溶解後の腫瘍関連抗原(TAA)の放出と、腫瘍内に存在する局所免疫抑制の克服により、抗腫瘍免疫応答を誘発することができる(Thorne et al., 2010)。
【0005】
これらの代替メカニズムは、臨床評価で重要であることが証明され、免疫系が腫瘍溶解性ベクターの活性を決定する上で果たすという非常に重要な役割を強調した。無作為化臨床試験において、最も効果的なウイルスは、細胞性免疫応答の活性化を最適化するために免疫活性化サイトカインを発現するウイルスであることが証明された(Breitbach et al., 2011;Heo et al., 2013)。しかしながら、これらのより強力なサイトカイン発現ウイルスによってされ、一部の患者は、腫瘍に対する有効な免疫応答を誘発しない。効果的な抗腫瘍免疫応答の生成には、免疫細胞のさらに多くの異なる系統の活性化と共同作業が必要であり、単一のサイトカインの発現は、ウイルスによって誘発される全体的な免疫をほとんど変更できない。したがって、強力な免疫応答を活性化するより高い能力を持つ新規株の生成に関する研究が依然として必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の課題は、ヒトの疾患の治療に有用な、新たに適合した、及び/またはより強力なウイルス、及び/またはウイルスベクターを提供することであり、感染の際にウイルスまたはベクターは、追加のより強力であるが、安全上の理由から、そのような治療を必要とする患者における非常に特異的な免疫応答を誘発及び/または活性化する。
【0007】
この課題は、本出願の請求項1に明記されているような、新たに同定された複製効率の高い免疫調節ワクシニアウイルス株によって解決された。さらなる実施形態は、この新たに同定及び/または適合された免疫調節ワクシニアウイルスならびにベクターのバリエーションに言及し、新たに同定及び/または適合されたワクシニアウイルス株を含む好ましい使用及び組成物は、従属請求項に記載される。
【0008】
既知のワクシニアウイルス株に対する免疫応答を研究している間、特によく特性評価されたワクシニアウイルス株(Western Reserve(WR))と比較して、本発明者らは新規のワクシニアウイルス株を分離、生成、及び特性評価することができた。この新規株は明らかに改善された免疫学的プロファイルを示す。理論に拘束されることなく、新規株は腫瘍細胞の感染の際に免疫原性細胞死の増加の強力な促進を示し、それによって免疫反応を感染した及びまだ感染していない腫瘍細胞に対して向け直すと考えられる。
【0009】
ワクシニアウイルスWR株は、腫瘍細胞におけるその高い複製能力のために腫瘍溶解性として試験され、腫瘍に対する免疫応答を増加するためのGM-CSFの送達に使用された明確に定義されたウイルス株である。腫瘍選択性を有するベクターを提供するために、感染細胞の新陳代謝の活性化に関与する異なるワクシニアウイルス遺伝子の欠失に成功し、得られたウイルスベクターの複製が高複製指数を有する細胞に制限された。チミジンキナーゼまたはウイルス増殖因子などの遺伝子の欠失は、臨床試験で試験されたウイルス候補にすでに含まれている(Zeh et al., 2015)。
【0010】
WO2015027163は、典型的なウイルスの免疫回避遺伝子の一部におけるゲノム欠失を含む腫瘍溶解性ワクシニアウイルスが記載されている一例である。この特定の場合に腫瘍溶解性ウイルスは、例えば、B8R、B18R、及びA35R遺伝子内の欠失を含む。
【0011】
EP2136633は別の例であり、腫瘍溶解治療アプローチにおけるGM-CSF発現ワクシニアウイルスの治療的使用を記載している。
【0012】
これらの腫瘍学のアプローチでは、ワクシニアウイルスWR株は、新規に開発された腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの開発及び比較のための、現在のゴールドスタンダードと考えられている。
【0013】
しかしながら、この主張された成功に加えて、重症のがん患者における治療アプローチの基礎としてワクシニアウイルスWRを検討すると、いくつかの懸念がいまだ存在する。ワクシニアウイルスWRは、マウスの脳で複数回継代した後、in vivoで選択されたため、実際にはマウス細胞で複製能力の高いウイルスが得られたが、がん患者のがん患者の治療における安全な使用を妨げる可能性がある神経向性と神経毒性により、病原性が警告されている。
【0014】
それにもかかわらず、本出願の文脈において、ワクシニアウイルスWRは、本発明の新規に開発されたワクシニアウイルス株との比較として選択され、本発明の主な目的は、大幅に改善された免疫学的プロファイルと高い溶解及び/または腫瘍溶解能力を有する、新規の複製能力のある免疫調節ワクシニアウイルス株を提供することである。
【0015】
MVA(修飾されたワクシニアアンカラ)は、そのホスト範囲制限、換言すると哺乳動物宿主由来の細胞におけるその複製欠陥を特徴とするので、高度に弱毒化されたMVA株による追加の比較は、有用ではないように見える。MVAは、病原体に対するワクチン接種のための抗原の送達に広く使用されており(総説についてVolz & Sutter, 2017を参照されたい)、その生物学的及び免疫学的プロファイルに関して特性評価されている(Meyer et al., 1991)。さらに、MVAは哺乳動物細胞で複製できない高度に改変されたワクシニアウイルスであり、以前は、腫瘍関連抗原(TAA)を送達することにより腫瘍に対するワクチン接種に使用されていた(Zhang et al., 2012)。このウイルスは理想的な安全性プロファイルを示しているようであり、発現した腫瘍抗原に対する免疫応答をin vivoで効果的に生成することが証明されたという事実に関係なく、ほとんどの患者は検証可能な抗腫瘍応答を全く示さず、誘発された免疫は、腫瘍内で局所的に発生する免疫抑制によって妨げられ、無効な抗腫瘍応答をもたらすように見える(Marigo et al., 2008)。
【0016】
したがって、進歩は改善された免疫療法に向けて述べられているかもしれないが、がんを根絶することができる効果的な免疫応答を確立するために、がんのウイルス療法で使用されるより効果的なワクシニアウイルス株への必要性が依然として存在する。
【0017】
本発明は、ここで、この目標に向けたさらなるステップを記載し、ヒト及びマウス細胞において複製能力があり、本発明者らの最良の知識によれば、免疫学的に関連したカルレティキュリン(CRT)の外膜への転座により、感染細胞の外細胞膜でのカルレティキュリンの露出をもたらし、これにより強力で改善された免疫応答が開始される、概して最初のワクシニアウイルスさえである新規ワクシニアウイルス株を開示する。
【0018】
カルレティキュリン(CRT)は多機能タンパク質であると見られ、ホルモン応答性DNAエレメントの転写調節及びMHCクラスIタンパク質の成熟に関与すると記載されており、また、小胞体内のCa2+イオンまたは誤って折りたたまれたタンパク質を結合して不活性化し、主に小胞体(ER)の貯蔵コンパートメントに位置しているとも記載されている。CRTはER内腔の最も豊富なタンパク質を表すが、細胞死の場合、タンパク質の画分がER内腔から細胞表面に移動する可能性があり、より具体的には、CRTが細胞表面で「eat-me」シグナルとして機能し(Gardai et al., 2005)、CD91陽性細胞(主にマクロファージ及び樹状細胞(DC))による貪食を仲介することが示唆されている。
【0019】
新規ワクシニアウイルス株は、哺乳動物細胞中で複製能力があると記載されている。この理論に束縛されることなく、この特性は、とりわけ、ウイルス骨格におけるK1L遺伝子の存在及び機能的活性に依存すると考えられている。特に、新規な株は、哺乳動物、特にヒト及びマウス細胞株、例えば、HeLa細胞、143B細胞、CT26細胞、LLC1細胞、またはMCF-7細胞などのがん細胞においてよく複製することが示されている。これらの結果との比較では、MVAが、これらの細胞内または哺乳動物起源の他の細胞内で複製しないことが知られていることに留意すべきである。
【0020】
さらに、新規のクシニアウイルス株は、他のワクシニアウイルス株の全て及び/または少なくとも一部と、いくつかのハウスキーピング遺伝子を共有している。それは、しかしながら、その免疫学的プロファイルではかなり異なり、本出願の文脈において、IOVA(免疫腫瘍溶解性ワクシニア)と命名された。
【0021】
ワクシニアウイルスゲノムの多くの遺伝子は、さまざまなウイルス株の免疫学的プロファイルを形成及び決定する免疫回避遺伝子であると記載されている(Smith et al., 2013)。長年にわたり、研究は、そのような免疫回避遺伝子の潜在的な作用機序を同定するために行われてきた。得られた結果によれば、これらの免疫回避遺伝子は、とりわけ、天然受容体と競合し、サイトカイン誘導性免疫応答の効力を低下させる、サイトカインの可溶性受容体を発現する。他の遺伝子は、さまざまな免疫活性化遺伝子を活性化するための細胞内経路を遮断し、したがって、ウイルス特異的免疫応答を妨害及び低減する。
【0022】
要約については、表1が、ワクシニアウイルスの現在同定されている免疫回避遺伝子、及びさまざまなワクシニア株におけるその存在または不在について列挙する。それはまた、対応する遺伝子産物の潜在的な機能または作用機序を示す。
【表1】
【0023】
表1において使用されるオープンリーディングフレーム(ORF)の命名法は、(ワクシニアウイルスコペンハーゲン(COP)株について確立された命名システムを指し(Goebel et al. 1990)、制限エンドヌクレアーゼHindIIIによってサイズが減少するウイルスゲノムのDNAフラグメントに割り当てられたアルファベットの文字によって同定される。例外は、ワクシニアウイルスCOP株に存在しないため、牛痘ウイルスCPXV-GRIゲノム中のDNAフラグメントを参照する文字を含むORF C8L及びB21Rである。このようなHindIIIフラグメントのさまざまなORFは番号で同定される。末尾の文字は、転記の方向を示す:Rは右、Lは左である。
【0024】
さらに、表1は、これまでに同定された免疫回避遺伝子と、よく特性評価されているワクシニアウイルス株COP、WR、MVA、及びMVA祖先株CVAとの機能性に関する比較を提供する。表1において、さまざまな遺伝子がさまざまなウイルスゲノムにおいて機能的(「+」で示される)、部分的/完全に欠失し、機能的に不活性(「-」で示される)かどうかを示す。
【0025】
本明細書において記載され、及び以下IOVAとして同定される、新規のワクシニアウイルス株は、それ自身の免疫学的プロファイルを有する。これは、機能的に発現する遺伝子の一部をCVAまたはWRと共有し、機能的に不活性な遺伝子の一部をMVAと共有する。これは、新規のワクシニアウイルスIOVAの1つの分離株の全長配列を、公開されているWR、COP、CVA、MVAの配列と比較して、配列レベルでも本発明者らによって確認されている。
【0026】
本発明者らはまた、新規IOVA株を簡単に同定するためのPCRアッセイを開発した。このため、試験される任意のワクシニアウイルスのDNAフラグメントは、一方のC2L ORF(オープンリーディングフレーム)の領域または配列と、N2L ORFの領域または配列とにおいて特異的に結合するPCRオリゴヌクレオチド(プライマー)で増幅できる。標準パラメーターで実行されるPCRは、ほとんどのワクシニアウイルスに対して、ORF C2L-C1L-N1L-N2Lの配列を含む増幅フラグメントを生成する。これらのPCR産物は二本鎖DNAフラグメントであるため、制限エンドヌクレアーゼBstXIによる酵素処理を受ける。結果として、例えば、ワクシニア株WR、COP、及びCVAにおいて得られる特異的なDNA産物は切断されず、アガロースゲル電気泳動の際に3280bp(分子量)周辺の単一のバンドを示す。対照的に、特異的なIOVA DNA産物は、BstXIによって切断され、アガロースゲルで約2360bpと約920bpの分子量を有する二つのバンドを示す。その理由は、新規IOVAウイルスがN1L ORFに非常に特異的な変異を有し、機能的な不活性N1Lと新しいBstXI制限部位をもたらすことである。MVAの場合には、C2L遺伝子配列は、MVAゲノム内で欠失し、したがって、この特異的なPCRによるDNA産物の全く増幅が存在しないであろう。
【0027】
表1及び本出願で提示されるデータから分かるように、IOVA自体ならびにその全ての誘導体は、それが多くの遺伝子及び/または機能的欠失をCVA、WR、及びMVAと共有しているが、その安全性の特徴だけでなく、その免疫学的プロファイルに関しても独特である。
【0028】
本発明の本質的な中心である、この免疫学的プロファイルは、とりわけ、ウイルス感染細胞の外膜上のカルレティキュリンの提示と相関している。
【0029】
したがって、新規な株の免疫学的プロファイルは、とりわけ、ウイルス感染細胞の外膜上の測定可能なカルレティキュリンの提示を誘発すると記載される。この理論に拘束されることなく、この特性は、機能的不活性、ウイルス骨格内のB21R*、C10L、C9L、C4L、C2L、N1L、N2L、M1L、A26R、A51R、A52R、A55R、A56R、及びB13R/B14R(CPXV-GRI命名法に対応する*を除いてワクシニアウイルスCop株の命名法)からなる群から選択される少なくとも1つの免疫回避遺伝子の部分的または完全な欠失に依存すると考えられている。
【0030】
これらの機能的に不活性な、部分的または完全に欠失した遺伝子の結果として、新しく生成されたウイルスは宿主の免疫応答を回避するために、その機能の一部を失っただけでなく、免疫回避戦略における変化までもがさらに導入されている。
【表2】
【0031】
この文脈で特に興味深いのは、通常は厳密に内部にあり、小胞体に位置するカルレティキュリンタンパク質であるが、新規ワクシニアウイルス株に感染した後、がん細胞の細胞表面に移動すると、ウイルス感染細胞に対する特異的な免疫反応を開始及び強化することができるという効果である。カルレティキュリンは、外膜に提示されるときに「eat-me」シグナルとして作用すると記載されている危険関連分子パターン(DAMPs)であり、免疫原性細胞死のマーカーとして使用し得る。ワクシニアウイルスWRと比較して、新たに生成されたワクシニアウイルス株IOVAは、はるかに低い用量で、したがってはるかに効率的に、がん細胞を溶解または殺傷する(
図3A)。
【0032】
発明者らは、ヒトとマウスの両方の細胞株において、WRが培養腫瘍細胞の70~80%しか殺傷することができず;細胞の約20~30%がウイルス媒介の破壊を回避し、感染多重度が大幅に増加した場合でも代謝活性を維持したことを示した。
【0033】
対照的に、新規IOVAウイルスの誘導体は、試験した全ての細胞株で少なくとも95%以上、及び95%を超えてさえも細胞を破壊し、驚くべきことに、ヒト細胞株HeLaにおいて、新規IOVA誘導体は、ワクシニアウイルスWRよりも少なくとも40倍効率的である非常に改善された細胞毒性を実証したが、HeLaにおけるIOVAの増殖能力に関しては、ワクシニアウイルスWRと非常に類似していた。ウイルス感染細胞を殺傷するためのこのより完全な効率は、特に腫瘍寛解のリスクを低減し、したがって、非常に有利である。
【0034】
したがって、細胞周期活性化細胞及び/または腫瘍細胞の感染のため、ならびにこの文脈において、特に腫瘍溶解性ウイルスとしての使用またはがんの治療における使用のためだけでなく、ワクチン接種の目的及びより一般的な免疫刺激の目的のため、したがって一般的な医薬での使用のためにも、新規ワクシニアウイルス株を使用することは非常に有利である。
さらに、更なる実施形態によれば、新規ワクシニアウイルス株IOVAは機能的に不活性なA56R遺伝子を含む。この遺伝子産物の発現の欠如は、感染細胞を隣接した細胞に融合させる能力、すなわち、哺乳動物細胞及び腫瘍細胞の感染の際に合胞体を形成するウイルスの能力と相関する。
【0035】
合胞体形成は、多くのウイルス感染症で記載されており、これらの感染症のほとんどでは、その形成は細胞変性効果によって引き起こされる膜不安定化の結果であるが、他の一部のウイルスは、この合胞体形成を促進するタンパク質をコードしており、中和抗体の標的にならずに感染を拡大するメカニズムとして機能する。興味深いことに、A56R遺伝子産物は、そのような合胞体形成を阻害するために、ワクシニアウイルスWRによって発現する(
図1)。
【0036】
合胞体細胞死は非常に免疫原性であると記載されているため、新規ワクシニアウイルスIOVAががん細胞で合胞体形成を引き起こすという発見は、腫瘍溶解性ウイルスの潜在的に興味深い表現型と考えられている:腫瘍細胞の融合は、樹状細胞によって効率的に取り込まれ、したがって非常に特異的な免疫反応を向上することができる腫瘍抗原の効果的な放出に関連するエキソソーム様小胞の放出を誘発する。
【0037】
さらに、更なる実施形態によれば、新規ワクシニアウイルス株IOVAは機能的に不活性なA26R及びA56R遺伝子を含む。これらの遺伝子産物の発現の欠如は、哺乳動物細胞及び腫瘍細胞の感染の際の向上した合胞体形成と相関し、したがって、感染細胞を隣接細胞と融合させるウイルスの能力とも相関する。
【0038】
IOVAウイルス特異的抗腫瘍効果の可能性のあるメディエーターとしてのシンシチウム形成及びそのような融合におけるA56R単独の、またはA26Rの欠失と組み合わせての欠失の効果を調査するために、単一のA56+IOVAウイルスバリアントを、変異したA56R遺伝子を置き換えて、IOVA/A56+を作成することによって改変した(
図1及び
図6)。A56R遺伝子発現が回復すると、IOVA/A56+ウイルスは腫瘍細胞を融合する一定の能力を維持するが、IOVA/A26-/A56-ウイルスと比較して融合細胞の数は減少する(
図6)。これは、両方の遺伝子が相互作用して感染細胞の融合を完全に阻害する可能性があることを示す。
【0039】
合胞体形成は、例えば、麻疹ウイルスまたはアデノウイルスに由来する他の候補腫瘍溶解性ウイルスの生産的複製に負の影響を持つことが知られている。驚くべきことに、IOVAウイルスとの関連での合胞体形成は複製能力への影響が最小限であることが実証されており、IOVA/A56-及びIOVA/A56+に感染した細胞から非常に類似したウイルス収量が得られた(
図2)。
【0040】
驚くべきことに、合胞体の形成は、本発明によるがん細胞の細胞毒性に顕著な正の影響を及ぼした。試験した全ての細胞株において、合胞体形成ウイルスは、特に143B及びMCF-7がん細胞株において、がん細胞のより効果的な殺傷を行い、IOVA/A56+は培養がん細胞の殺傷が減少しているワクシニアウイルスWRと同様に機能した(
図3)。したがって、IOVA/A56-及びIOVA/A56-/A26-が仲介する合胞体形成は、増強したがん細胞の破壊に寄与する。
【0041】
がん細胞の感染後に大きなプラークの表現型が観察された。IOVA/A56-とIOVA/A56+のウイルスの両方とも、単一のがん細胞の感染後に生成されるプラークの直径の増加によって示されるように、がん細胞を殺傷し、がん細胞において拡散する増強した能力を示す(
図7)。
【0042】
免疫原性細胞死の誘導に関して、合胞体形成は、CRT移動の誘導からも独立しており、HMGB1及びATPなどの更なるDAMPの追加の分泌からも独立しており、A56-ウイルスとA56+ウイルスの両方で非常に類似していた(
図4a~c)。
【0043】
興味深いことに、本発明の文脈において、感染細胞の外膜上のカルレティキュリンの独立した露出に加えて、それ自体ですでにがん細胞において増強された細胞変性効果を有する同胞体形成の表現型が、本明細書に記載の免疫調節ワクシナウイルス株IOVAの抗腫瘍効果をさらに高めたことが示されている。
【0044】
したがって、新規ワクシニアウイルス株は、さらに機能的に不活性なA56R及び/またはA26R遺伝子が含まれていてもよく、したがって、合胞体形成の原因となり、腫瘍細胞の融合を誘導する。感染細胞の膜上のカルレティキュリンの強化された提示と組み合わせて、これはさらに大きな溶菌、したがって抗腫瘍活性をもたらし、結果としてがん細胞、腫瘍塊、の増強した破壊をもたらし、最終的には腫瘍に対するより強い免疫応答の生成をもたらす。
【0045】
新規IOVAウイルス、その誘導体、及び/またはそのウイルスベクターの安全性を高めるために、複製を特定の細胞範囲のみに制限するために追加の改変が導入されたか、または導入され得る。
【0046】
したがって、別の実施形態によれば、新規ワクシニアウイルス株、IOVAは、宿主範囲、換言すると、複製細胞及び/またはがん細胞における細胞範囲制限された複製能力を有するように改変される。
【0047】
この文脈において、「複製細胞」という用語は、活性化された細胞周期を有し、高い指数で複製する細胞を含む。この定義に該当する細胞は、がん細胞などの継続的に複製している細胞だけでなく、例えば、活性化された免疫系に属する細胞及び必要に応じて腫瘍に浸潤する可能性を有する細胞をも含む。
【0048】
さらに、以下で使用される「がん細胞」という用語は、容赦なく、制御不能に分裂し、例えば、固形腫瘍塊を形成することによってか、または異常な細胞で血液及び/または他の体腔をあふれさせることによって、正常組織に取って代わるか、または廃棄する能力を有する細胞を含む。さらに、「がん細胞」という用語は、必要に応じて、それらの、既知の腫瘍マーカー遺伝子産物を発現し、それらの発現によって同定され得る細胞も指す。
【0049】
新規ワクシニアウイルス株の細胞範囲特異性を改善するために、F4L、J2R、及びC11Rからなる群から選択されるいわゆるハウスキーピング遺伝子の1つ以上を不活性化することにより、細胞範囲制限された複製能力を得ることができる。例えば、不活性化または変異したJ2R遺伝子を持つウイルスは、ウイルスのチミジンキナーゼを発現しないため、その効果的な複製は、細胞周期が継続的に活性化されている細胞、または代替的に腫瘍細胞に限定される。本発明によれば、そのような不活性化は、ワクシニアの命名法ではJ2Rと呼ばれるTK遺伝子の位置に代替的な発現カセット(トレーサー色を発現する)を挿入することによって例示的に行われた。
【0050】
同様に、C11R、F4Lの機能的不活性化、欠失、または変異も、単独で、またはお互いもしくはJ2Rと組み合わせて、本発明によるワクシニアウイルス株の複製能力を細胞周期活性化細胞及び/または腫瘍細胞に制限する。したがって、上記の宿主範囲制限の結果を有するF4L、J2R、及びC11Rからなる群の1つ以上の遺伝子を機能的に不活性化するためのウイルスゲノムへのそのような変異または欠失の追加は、新規ウイルス株の安全性特徴を明らかに改善する。
したがって、細胞範囲が制限されたワクシニアウイルス株IOVAは、改善した安全性特徴のため、医薬での使用に特に有利である。
【0051】
本発明の新規ワクシニアウイルス株は、ワクシニアウイルスWRと比較して、驚くべきことに、感染の際に免疫原性細胞死を誘導することができることが本発明者らによってさらに示された。
【0052】
この文脈において、「免疫原性細胞死」という用語は、死にかけている細胞に対する免疫応答を開始及び活性化することができ、微生物と発がん性の両方のネオ抗原に対する免疫応答を引き起こすことができる損傷に関連する分子パターン(DAMP)分子の放出または露出を特徴とする細胞死の一形態として理解されるべきである(Galluzzi et al., 2017)。腫瘍細胞に対する免疫応答を媒介し得る死にかけている細胞によって放出または暴露されるDAMPの長いリストの中で、細胞の細胞表面でのカルレティキュリンの暴露、及び独立した、細胞外空間への高移動度グループボックス1タンパク質(HMGB1)またはATPの放出が記載されている。
【0053】
免疫原性細胞死はさらに、樹状細胞(DC)を活性化し、その結果、死にかけている細胞に存在する抗原に対して特異的なT細胞を活性化するために、異なるDAMPを露出または放出する細胞死の一形態として記載できる。アポトーシスは、例えば非免疫原性及び寛容原性の細胞死としても定義され、同一のDAMPによって定義することはできないので、これは、外部からは誘発されない。
【0054】
そのようなマーカーの背景知識により、本発明者らは、ウイルスによって引き起こされる細胞死のタイプを実際に記載及び分類することが可能であった。その結果、ワクシニアウイルスWRと比較して、新規ワクシニアウイルス株であるIOVAは、感染の際に溶解作用と殺細胞作用の増加を引き起こすだけでなく、一部のDAMP、すなわち、HMGB1とATPを測定することで、及び免疫原性細胞死のために死んだ感染細胞の細胞外膜に提示されたCRTの量を測定することによって、示すこともできることが明らかに実証された。
【0055】
これは、哺乳動物細胞、特に腫瘍細胞または細胞周期活性化細胞で複製する新規ワクシニアウイルス株が、ワクチン接種目的のワクチンまたはアジュバントとしてだけでなく、さらなる免疫療法または免疫腫瘍治療、特にがんの治療に使用する腫瘍溶解性ウイルスとしての状況でも非常に有用であることを印象的に証明する。
【0056】
要約すると、新規ワクシニアウイルス株IOVAとその誘導体、ベクター、及び組換え体は、哺乳動物のがん株で複製する能力を持ち、ゴールドスタンダードのワクシニアウイルスWRと比較して、細胞周期活性化細胞及び/または腫瘍細胞を破壊する向上した能力を誘発するため、溶解性、またはがん細胞の場合は腫瘍溶解性であると説明できる。
【0057】
重要なことに、IOVA及びその誘導体または組換え体は、細胞の感染の際に免疫原性細胞死を誘導するのに特に適しており、それによって免疫療法アプローチにおいて使用されるのに非常に期待されている。それらは、安全で効率的な免疫療法または免疫腫瘍治療のための新規プラットフォームウイルスとして特に適している。
【0058】
さらなる実施形態によれば、本出願はまた、その核酸配列を特徴とする単離されたIOVAウイルスを提供する。単離されたIOVAの配列情報は、塩基対改変を含むことができるが、IOVAの免疫学的プロファイルに影響を与えない。したがって、IOVAウイルスは、配列解析とJ2R、C11R、F4L、B21R*、C10L、C9L、C4L、C2L、N1L、N2L、M1L、A26R、A51R、A52R、A55R、A56R、及びB13R/B14Rからなる群から選択されるうちの少なくとも一つ以上の機能的に非活性化または欠失したORFの存在とによって同定され得る。
【0059】
さらなる一実施形態によれば、IOVA及びその誘導体は、N1L ORFに新たに生成されたBstXI制限酵素部位を導入する、C2L-C1L-N1L-N2L(配列番号1)の独自のヌクレオチド配列ストレッチの存在によって同定され得る。この配列では、C2Lは3個の微小欠失に分布する51個のヌクレオチドの欠失を組み込む。N1Lは、早期終止コドンを組み込んだ2個のヌクレオチドの欠失を組み込む。N2Lは、短いN2Lバージョンをコードする15個のヌクレオチドの欠失を組み込む。したがって、配列番号1に示す配列がIOVAの独自の配列であり、ORFの一部に微小欠失を組み込むIOVAのC2L-C1L-N1L-N2L領域の独自のストレッチを表すが、このような遺伝子の完全な欠失ではなく、機能的であるC1L ORFの微小欠失はない。
【0060】
さらに、単離されたIOVAは、1つの実施形態によれば、プラットフォームテクノロジーとみなされ、前述のPCR分析、またはウイルスのハウスキーピング、もしくはK1L、A56R、A26R、J2R、C11R、F4L、B21R*、C10L、C9L、C4L、C2L、N1L、N2L、M1L、A51R、A52R、A55R、及びB13R/B14RからなるORFの群から選択された機能的に不活性な免疫回避遺伝子のうちの少なくとも1つ以上の直接の配列比較によって同定される、関連する誘導体または組換え体の生成を可能にする。
【0061】
さらなる実施形態によれば、本出願はまた、IOVAに由来するウイルスベクターを提供する。このウイルスベクターはIOVAとして機能的に活性と機能的に不活性な遺伝子の同じセットを含む。本出願の文脈における用語「ウイルスベクター」はまた、細胞をトランスフェクトしてそのような細胞からのIOVAの産生を可能にするために協調して働くIOVAの機能的に活性及び機能的に不活性な遺伝子のセットの一部または範囲をそれぞれ含むかまたは担持する2つ以上のベクター分子を含む。
【0062】
IOVA自体、単離されたウイルス、IOVAの核酸配列、及びIOVA特異的核酸配列を含むウイルスベクターは、プラットフォーム技術とみなされる。
【0063】
前記IOVAプラットフォームはまた、IOVAの誘導体を含み、これはPCR及びBstXI酵素による制限酵素消化によって同定することができ、なおIOVAと同じ機能的特徴及び特性、特に哺乳動物細胞周期活性化細胞における複製能力、特に感染細胞におけるカルレティキュリンの外膜への移動及び/または独立した合胞体形成の誘導を利用する。
【0064】
前記IOVAプラットフォームは、IOVAの組換え体をさらに含む。IOVAの骨格には、そのゲノムにトランスジェニック挿入するための、よく記載されているワクシニアウイルス挿入部位がいくつか含まれている。ワクシニアウイルスとの密接な関係により、熟練した開業医は、腫瘍抗原、腫瘍関連抗原、疾患関連抗原、及び/または病原体由来抗原をコードする遺伝子などの導入遺伝子の挿入のための1つまたはいくつかの場所を知っており、それらを使用することができる。
【0065】
したがって、さらなる実施形態によれば、本発明は、組換えまたはトランスジェニックのIOVAまたはその誘導体もしくはウイルスベクターを提供する。全てのプラットフォーム技術と同様に、十分に記載された挿入部位への追加の遺伝子または遺伝情報の導入は、特許請求されたプラットフォームメンバーの主な特性に影響を与えず、これらは独立して(i)感染細胞の融合または合胞体形成の誘導、(ii)DAMP、特にカルレティキュリンの顕著な放出または露出の誘導、及び/または(iii)感染細胞の免疫原性細胞死の誘導であり、これは、さらに大きな免疫学的効果、または腫瘍細胞の感染の場合には腫瘍細胞の増強された破壊によるより効果的な抗腫瘍活性に寄与する可能性がある。
理論に拘束されることなく、より効果的な抗腫瘍活性は、特にカルレティキュリンの提示及び/または他のHMGB1またはATPなどのDAMPの増加した放出によって引き起こされる可能性のある、そのような感染細胞に対するより強い免疫応答に起因すると考えられている。放出されたHMGB1はTLR4及びRAGEに結合し、炎症性応答を引き起こすことができるが、放出されたATPは免疫細胞に対する「find-me」シグナルとしても機能するらしい。
【0066】
要約すると、新規ワクシニアウイルス株IOVAとその誘導体、ベクター、及び組換え体は、哺乳動物のがん株で複製する能力を持ち、ゴールドスタンダードのワクシニアウイルスWRと比較して、細胞周期活性化細胞及び/または腫瘍細胞を破壊する向上した能力を誘発するため、溶解性、またはがん細胞の場合は腫瘍溶解性であると説明できる。
【0067】
IOVAまたはその誘導体は、独自の免疫学的プロファイルとその安全性特徴により、すでに確立されているワクシニアウイルス株に匹敵するか、それよりも優れているため、医薬において、特に腫瘍学的アプローチにおいて、または腫瘍溶解薬としてもしくはがんまたは他の病原体に対するワクチンとして使用することができる。
【0068】
重要なことに、IOVAウイルス及びその誘導体または組換え体は、細胞の感染の際に免疫原性細胞死を誘導するのに特に適しており、それによって免疫療法アプローチにおいて使用されるのに非常に推奨されている。それらは、安全で効率的な免疫療法または免疫腫瘍治療のための新規ウイルスプラットフォームとして特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1A】IOVAウイルス感染後のがん細胞における合胞体形成。蛍光顕微鏡写真(40倍)がヒトのがん細胞株の感染後(感染の24時間後)に示される。HeLa及びCT26細胞を0.5のMOIで感染させた。143B、MCF-7、及びLLC1を、5のMOIで感染させた。mCherryは、P11プロモーターの下で全てのウイルスから発現する。細胞をIOVA/A56-で感染させたとき、細胞の大規模な融合(合胞体)を観察することができる。
【
図1B】IOVAウイルス感染後のがん細胞における合胞体形成。蛍光顕微鏡写真(40倍)がマウスのがん細胞株の感染後(感染の24時間後)に示される。HeLa及びCT26細胞を0.5のMOIで感染させた。143B、MCF-7、及びLLC1を、5のMOIで感染させた。mCherryは、P11プロモーターの下で全てのウイルスから発現する。細胞をIOVA/A56-で感染させたとき、細胞の大規模な融合(合胞体)を観察することができる。
【
図2A-1】ヒト及びマウスの腫瘍細胞におけるIOVAウイルスのウイルス生成。ヒトの腫瘍細胞株をWR/TK-、IOVA/A56-、またはIOVA/A56+で、5のMOIで感染させ、子孫をさまざまな時点でのプラークアッセイによって測定した。ウイルス収量は、2つの独立した実験を実施することによって、各細胞株について四重で評価した。平均+SDがプロットされる。*、WR/TK-と比較して有意p<0.05。#、IOVA/A56+と比較して有意p<0.05。
【
図2B】ヒト及びマウスの腫瘍細胞におけるIOVAウイルスのウイルス生成。マウスの腫瘍細胞株をWR/TK-、IOVA/A56-、またはIOVA/A56+で、5のMOIで感染させ、子孫をさまざまな時点でのプラークアッセイによって測定した。ウイルス収量は、2つの独立した実験を実施することによって、各細胞株について四重で評価した。平均+SDがプロットされる。*、WR/TK-と比較して有意p<0.05。#、IOVA/A56+と比較して有意p<0.05。
【
図3A-1】IOVAウイルス存在は、腫瘍細胞に対して増加した細胞毒性を示す。がん細胞は、WR/TK-、IOVA/A56-、またはIOVA/A56+で、100から0.0005PFU/細胞の範囲の用量で感染させた。感染後3日目に、細胞の生存率を決定した。ヒトのがん細胞を試験した。4つの異なる反復を、細胞株について定量し、各MOIの平均±SDが示される。
【
図3B-1】IOVAウイルス存在は、腫瘍細胞に対して増加した細胞毒性を示す。がん細胞は、WR/TK-、IOVA/A56-、またはIOVA/A56+で、100から0.0005PFU/細胞の範囲の用量で感染させた。感染後3日目に、細胞の生存率を決定した。マウスのがん細胞を試験した。4つの異なる反復を、細胞株について定量し、各MOIの平均±SDが示される。
【
図4A-1】IOVAウイルスによる免疫原性細胞死の誘導。(A)感染細胞の表面上のカルレティキュリンの発現の分析。示された腫瘍細胞株をWR/TK-、IOVA/A56-、またはIOVA/A56+で、5のMOIで感染させ、感染後24時間のカルレティキュリン+細胞集団を、フローサイトメトリーによって決定した。非感染細胞(モック)及びスタウロスポリン1μMは、それぞれ、陰性及び陽性の対照として使用した。(A)カルレティキュリン+細胞のパーセンテージ。さまざまな治療の個々の反復の値と手段±SEMがプロットされる。ELISAアッセイ及びENLITEN ATPアッセイ系が、示された腫瘍細胞株の感染(5のMOI)後24時間でそのような濃度を決定するために、それぞれ使用された。データは、四重に得られ、WR/TK-に対する倍率変化+SDとしてプロットされる。*、WR/TK-と比較して有意p<0.05。#、モックと比較して有意p<0.05。
【
図4B】IOVAウイルスによる感染後の細胞上清中のHMGB1の濃度。ELISAアッセイ及びENLITEN ATPアッセイ系が、示された腫瘍細胞株の感染(5のMOI)後24時間でそのような濃度を決定するために、それぞれ使用された。データは、四重に得られ、WR/TK-に対する倍率変化+SDとしてプロットされる。*、WR/TK-と比較して有意p<0.05。#、モックと比較して有意p<0.05。
【
図4C】IOVAウイルスによる感染後の細胞上清中のATPの濃度。ELISAアッセイ及びENLITEN ATPアッセイ系が、示された腫瘍細胞株の感染(5のMOI)後24時間でそのような濃度を決定するために、それぞれ使用された。データは、四重に得られ、WR/TK-に対する倍率変化+SDとしてプロットされる。*、WR/TK-と比較して有意p<0.05。#、モックと比較して有意p<0.05。
【
図5A-1】ウイルス同定のためのPCRアッセイ。
図5A:PCRアッセイに用いたPCR産物の配列。
【
図5B】ウイルス同定のためのPCRアッセイ。
図5B:このアッセイは、WR、COP、及びCVAに対して3300bpの単一のバンドを示す全ての他のワクシニアウイルス株とは対照的に、IOVAに対して2つのバンド(2320及び920bp)の独自のパターンを生成するので、PCRアッセイの結果は、IOVA株の配列を明確に同定する。MVA株はC2Lの欠失のために増幅産物をまったく生成しない。
【
図6】IOVAウイルス感染後の合胞体中の核の数。ヒト腫瘍細胞株をWR/TK-、IOVA/A56-/A26-、またはIOVA/A56+/A26-で、5のMOIで感染させた。感染後16時間で、培養物を、ヘキスト33342で染色し、1つの合胞体中の核の数を顕微鏡下で計数した。個々の反復及び平均±SEMの値がプロットされる。***、WR/TK-と比べて有意p<0.0001。
【
図7A】がん細胞におけるプラークのサイズ。がん細胞単層は、0.0001のMOIで1時間、示されたウイルスで感染し、培養培地と1%カルボキシメチルセルロースの1:1混合物で覆って4日間培養した。固定及びクリスタルバイオレット染色の後、プラークの直径を測定した。個々の反復の値と平均±SEMがプロットされる。*、WR/TK-と比較して有意p<0.05。#、IOVA/A56-と比較して有意p<0.05。
【実施例】
【0070】
実施例1:IOVAゲノムにおける欠失
新規の免疫腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(IOVA)株は、チミジンキナーゼ(TK、J2R)遺伝子に欠失を組み込んで生成され、がん細胞における選択的複製を付与する。また、mCherry遺伝子は、ウイルス複製をモニターするために、ワクシニアウイルス特異的プロモーターP11の制御下のTK部位にクローン化されている。
【0071】
さらに、新たに生成されたIOVAには、免疫調節因子とみなされ、B21R*、C10L、C9L、C4L、C2L、N1L、N2L、M1L、A26R、A51R、A52R、A55R、A56R、及びB13R/B14RのORFから選択された遺伝子の中の、いくつかの欠失または機能的不活性化が含まれる。これらの遺伝子をコードするタンパク質の機能は、上記の表1に要約されている。
【0072】
IOVAゲノムはさらに、A26R及び/またはA56R遺伝子の変異バージョンを含むことを特徴とする。ビリオンにおけるA26タンパク質の存在は、直接的なウイルス-細胞融合メカニズムを妨げ、その欠失は合胞体の誘導と関連している。A56Rは、赤血球凝集活性を持つウイルス調節タンパク質をコードしており、ワクシニアウイルスにおけるその不活化は、融合性の表現型を持つウイルスをもたらすと考えられている。全ての遺伝子の欠失または部分的欠失、及び全ての機能的不活性化または遺伝子の挿入は、配列決定により確認されている。
【0073】
実施例2:IOVAにより誘導される合胞体形成
腫瘍破壊についての合胞体形成の長所と短所を評価するために、本発明者らは、相同組換えにより、新規IOVAゲノムにおける野生型ワクシニアウイルスA56R遺伝子配列を回復した。得られたウイルスは、IOVA/A56-という名前の短縮型A56RバージョンのIOVAと比較して、IOVA/A56+と名付けられた。
【0074】
感染の際、IOVA/A56-ウイルスに感染した細胞が隣接する細胞と融合することが観察され(
図1)、巨大な合胞体の形成がmCherry発現によって追跡されたヒトとマウスの腫瘍細胞株の両方で明確に観察できた。仮説どおり、IOVA/A56+での野生型A56の発現は、ワクシニアウイルスWR株と非常によく似た表現型を回復し、合胞体形成をもたらさなかった。
【0075】
さらに、IOVA/A56+/A26-への感染後も最大10細胞の融合が観察される可能性があるため、IOVA/A56-/A26-における野生型A56の発現は、合胞体の形成を部分的にのみブロックしていると説明し得ることが観察された(
図6)。
【0076】
実施例3:IOVAの複製能力
ヒト及びマウスのがん細胞株の幅広いパネルで、標準株ワクシニアウイルスWRと比較したIOVAの複製能力を試験した。
【0077】
新しく生成されたIOVAの複製をモニターするため、2つのIOVAウイルス分離株(A56-及びA56+)と、対照としてのWR/TK-との複製能力を、いくつかのヒト及びマウスのがん細胞株で試験した。
【0078】
このために、ヒト及びマウスの腫瘍細胞株をWR/TK-、IOVA/A56-、またはIOVA/A56+で、5のMOIで感染させ、子孫をさまざまな時点でのプラークアッセイによって測定した。ウイルス収量は、2つの独立した実験を実施することによって、各細胞株について四重で評価した(これまでに、Rojas JJ et al., Cell Rep.2016に記載されている)。
【0079】
図2に示すように、両方のIOVAウイルス(A56-とA56+)は、試験したほとんどの細胞株において、対照株WR/TK-と非常に類似した増殖曲線を示し、合胞体形成IOVAの初期の時点で収量がわずかに減少しただけであった。
【0080】
実施例4:IOVAの細胞毒性
ヒト及びマウスのがん細胞株の幅広いパネルで、標準株ワクシニアウイルスWRと比較したIOVA感染の細胞毒性効果を試験した。
【0081】
このために、種々のがん細胞株は、WR/TK-、IOVA/A56-、またはIOVA/A56+で、100から0.0005PFU/細胞の範囲の用量で感染させた。感染後3日目に、細胞の生存率を決定した。ヒトとマウスの両方のがん細胞を試験した。4つの異なる反復を、細胞株について定量し、各MOIの平均±SDが示される。
【0082】
興味深いことに、IOVAウイルスによる感染は、ワクシニアウイルスWRに比べてがん細胞における細胞毒性の明確に増強されたレベルをもたらした(
図3)。ワクシニアウイルスWRは、最高の感染多重度(MOI)であっても、培養中のがん細胞の約70~80%を殺傷することができた。逆に、IOVA/A56-ウイルスは培養腫瘍細胞の95~100%を殺傷することができ、EC50(細胞の50%を殺傷するのに必要なウイルスの量)を低減した。
【0083】
驚くべきことに、IOVA/A56-は、HeLa細胞の細胞培養生存率を50%減少させるのに必要なウイルスの量を、ワクシニアウイルスWR(WR/TK-)と比較して、40倍以上で低減した。IOVA/A56+はまた、in vitroでのがん細胞に対する増強した細胞毒性の表現型を示したが、A56で回復したウイルスは、HeLA、CT-26、及びLLC1細胞をIOVA/A56-と同様の率で殺傷した。それにもかかわらず、143B及びMCF-7細胞において、細胞毒性はWR/TK-感染で得られたものと非常に類似しており、ウイルス媒介の大きな合胞体形成が増強された腫瘍の破壊に寄与している可能性があることを示唆する。
【0084】
実施例5:がん細胞におけるIOVAウイルスの大きなプラークの表現型
がん細胞におけるプラークの増加したサイズは、腫瘍全体へのウイルスのより良好な拡散、及びより高い抗腫瘍活性と関連していた。IOVAウイルスのプラークサイズを試験するために、がん細胞株のパネルを0.0001のMOIで感染させ、感染の1時間後、感染細胞をカルボキシメチルセルロースで覆って培養した。感染後4時間で、培養物を固定し、クリスタルバイオレットで染色し、プラークの直径を決定した。
図7に示すように、IOVA/A56-とIOVA/A56+の両方は、WR/TK-ウイルス対照と比較して、試験した全てのがん細胞株でより大きなプラークを誘導した。HeLa細胞において、IOVAウイルスでの感染後のプラークは、WR/TK-と比べて、平均40%大きかった。印象的なことに、非常に大きなプラークが、IOVAウイルスによる感染後の143B及びMCF-7で観察され、143B細胞の場合はWR/TK-によって生成されたプラークの直径の2倍のプラークとであり、MCF-7の場合は2.6倍大きなプラークであった。
プラークのサイズに関して、IOVA/A56-による大きな合胞体の生成は、MCF-7乳癌細胞株の場合を除いて顕著な影響はなく、IOVA/A56-と比較して、IOVA/A56+ウイルスで生成されたプラークが1.4倍小さかった。
【0085】
実施例6:IOVAウイルスは、がん細胞の細胞膜上のカルレティキュリンの提示と免疫原性細胞死とを誘導する。
IOVAウイルスががん細胞に対する免疫応答を誘発及び増強できる可能性があるかどうかを試験するために、本発明者らは最初に、IOVA/A56-、もしくはIOVA/A56+、または対照ウイルスWR/TK-による感染後のヒトがん細胞の表面上のカルレティキュリン(CRT)の露出をフローサイトメトリーにより分析した。
【0086】
このために、細胞を5のMOIで感染させ、ウイルス感染の24時間後に、非酵素的細胞解離溶液を使用して剥離した。カルレティキュリンは、ヒト抗カルレティキュリン-AlexaFluor405抗体(Abcam, Ref N° ab210431)で4℃で1時間インキュベートすることによって検出された。非感染細胞及びスタウロスポリン(1μM)は、それぞれ、陰性及び陽性の対照として使用した。
【0087】
HeLa細胞の感染の際に、WR/TK-は、約15%の細胞でCRTの表面露出を誘導し(
図4a);逆に、両方のIOVAウイルスに感染の際に、80%を超える驚くほど高いレベルの細胞がCRTを表面に発現した。同様に、CRTの露出は、143B細胞では約35%(WR/TK-の場合)から約90%(IOVAウイルスの場合)に増加し、MCF-7細胞では3%から72%以上に増加した。
【0088】
IOVAウイルスに感染した際の顕著な免疫原性細胞死の起こり得る誘導をさらに調査するために、HMGB1及びATPの放出は、ELISAアッセイ及びルシフェラーゼ媒介ATPアッセイシステムをそれぞれ使用して決定された。
【0089】
試験した全ての細胞株で、IOVA/A56-とIOVA/A56+の両方で、WR/TK-に感染した細胞と比較して、感染細胞の上清に著しく高い濃度のHMGB1が検出され(
図4b)、1.23倍(143B細胞、IOVA/A56-)~1.68倍(MCF-7細胞、IOVA/A56+)の範囲の増加であった。感染細胞の上清のATP濃度も、IOVAウイルスに感染すると、WR/TK-感染後のレベルと比較して増加し(
図4c)、1.12倍(143B細胞、IOVA/A56+)~2.27倍(HeLa、IOVA/A56-)の範囲の増加であった。
【0090】
これらの結果は、ワクシニアウイルスWRではなくIOVAウイルスが、感染したヒトがん細胞の免疫原性細胞死を誘導することを示す。したがって、IOVAは、臨床試験における抗腫瘍活性の点で大きな利益を表す可能性のある、特に有望な候補ウイルスとして提案できる。
【0091】
実施例7:IOVAウイルスまたはそれらの誘導体の同定のためのPCRアッセイ
IOVA株を同定するために、ウイルスのDNAは、感染細胞の細胞抽出物をプロテイナーゼKで消化し、製造者の指示に従って、QIAampゲノムDNAキット(QIAGEN)を用いて単離される。C2L-C1L-N1L-N2Lフラグメント(
図5a;配列番号1)をカバーするIOVAの独自の配列は、次のオリゴを使用してPCRによって増幅される:フォワード5’-ATGTTATCCTGGACATCGTAC-3’(配列番号2)及びリバース5’-TCATGACGTCCTCTGCAATGG-3’(配列番号3)。これら2つのプライマーを使用したPCR産物は、独自の配列番号1よりも50bp大きくなり、安定性の理由から、PCR反応の設計にはさらに50bpが含まれていた。PCR産物(配列番号4)をQIAquick PCR精製キットを用いて精製し、BstXI制限酵素で消化する。
【0092】
このアッセイを使用することにより、3384bpの単一のバンドを示す全ての他のワクシニア株と対照的に、IOVA株は、1%アガロース中の電気泳動によって可視化される、2つのDNAバンド(2361及び923bp)特異的かつ独自のパターンを生成するので、IOVA株を明確に同定することができる。MVAゲノムDNAのPCRは、C2L配列の不存在のために、PCR産物をまったく生成しない(
図5b)。
本発明は以下の態様を含み得る。
[1]
免疫調節ワクシニアウイルスであって、前記ウイルスが哺乳動物細胞で複製能力があり、感染細胞の膜へのカルレティキュリン移動を引き起こし、それによって免疫原性細胞死を促進する、前記免疫調節ワクシニアウイルス。
[2]
前記ウイルスがA56R陰性であるか、または前記ウイルスがA26R陰性及びA56R陰性である、請求項1に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
[3]
前記ウイルス及び/またはその任意の誘導体が、前記ウイルスゲノムの一部である配列番号1で定義された変異したC2-C1-N1-N2領域のヌクレオチド配列上の1つのBstXI制限酵素部位の存在によって定義される、請求項1または2に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
[4]
前記ウイルスがK1L陽性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
[5]
前記ウイルスが、B21R、C10L、C9L、C4L、C2L、N1L、N2L、M1L、A51R、A52R、A55R、及びB13R/B14Rからなるオープンリーディングフレームの群から選択される機能的に不活性化された免疫回避遺伝子の1つ以上をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
[6]
前記ウイルスが、J2R、C11R、及びF4Lからなる群から選択される機能的に不活性化されるか、部分的に欠失したか、または完全に欠失した遺伝子の少なくとも1つをさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
[7]
前記ウイルスが、細胞周期活性化細胞及び/または腫瘍細胞において複製能力のある及び溶解性である、請求項1~6のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
[8]
前記ウイルスが感染の際に合胞体形成を引き起こす、請求項1~7のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス。
[9]
請求項1~8に記載の免疫調節ワクシニアウイルスをコードする核酸配列またはそのフラグメント。
[10]
請求項9に記載の核酸配列またはその実質的な部分を含む、ウイルスベクターまたは免疫調節ワクシニアウイルスの誘導体。
[11]
1つ以上の組換え導入遺伝子の少なくとも1つの挿入を有する1つ以上の挿入部位を担持することを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、請求項10に記載のベクター及び免疫調節ワクシニアウイルスの誘導体。
[12]
前記導入遺伝子が、腫瘍抗原、腫瘍関連抗原、疾患関連抗原、及び病原体由来抗原をコードする遺伝子を含む群から選択される、請求項11に記載の組換え免疫調節ワクシニアウイルスまたはベクター。
[13]
医薬における使用のための、請求項1~8のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、請求項10に記載のベクター、または請求項12に記載の組換え免疫調節ワクシニアウイルス。
[14]
がんの治療における使用、及び/またはがんワクチンとしての使用のための、請求項1~8のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、請求項10に記載のベクター、または請求項12に記載の組換え免疫調節ワクシニアウイルス。
[15]
請求項1~8のいずれか1項に記載の免疫調節ワクシニアウイルス、請求項10に記載のベクター、または請求項12に記載の組換え免疫調節ワクシニアと、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤と、を含む医薬組成物。
【0093】
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