(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】心臓パフォーマンスを決定するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0205 20060101AFI20240731BHJP
A61B 5/029 20060101ALI20240731BHJP
A61B 5/0215 20060101ALI20240731BHJP
A61M 60/174 20210101ALN20240731BHJP
A61M 60/216 20210101ALN20240731BHJP
A61M 60/569 20210101ALN20240731BHJP
【FI】
A61B5/0205
A61B5/029
A61B5/0215 B
A61M60/174
A61M60/216
A61M60/569
(21)【出願番号】P 2020570922
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 US2019038039
(87)【国際公開番号】W WO2019246301
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510121444
【氏名又は名称】アビオメド インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】503146324
【氏名又は名称】ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】エル カテルジ アーマッド
(72)【発明者】
【氏名】タン チン
(72)【発明者】
【氏名】モイヤー クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】シップ アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】バブサー ソニャ サナット
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフィー ノーム
(72)【発明者】
【氏名】エデルマン エレーザー アール.
(72)【発明者】
【氏名】チャン ブライアン イェール
(72)【発明者】
【氏名】ケラー スティーブン
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/053504(WO,A1)
【文献】米国特許第06485431(US,B1)
【文献】国際公開第2016/195477(WO,A1)
【文献】特表2012-501218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/0205
A61B 5/029
A61B 5/0215
A61M 60/174
A61M 60/216
A61M 60/569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニューレと、血管内で回転し前記カニューレを通して血液をポンピングするように構成されたロータと、前記ロータを回転させるための電力を与えるように構成された駆動機構とを有する、血管内血液ポンプ、
前記血液ポンプの近位側または遠位側に動作可能に配置され、かつ、血管内での血液のポンピングから少なくとも部分的に生じる血管内の圧力を検出するように構成された、圧力センサ、ならびに
前記圧力センサに電気的に接続され、かつ、
血圧を表す前記圧力センサからの信号を検出
し、
心拍出量を血管の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形モデルに基づいて本来の心拍出量を計算
し、
心臓の複数の拍動を反映している、心臓の第1の大動脈圧波を検出し(ここで、反映される各拍動は重複切痕を含んでいる)、
前記複数の拍動のうちの第1の拍動において第1のポンピング速度で心臓に血行動態補助を適用し、
前記複数の拍動のうちの第2の拍動において該拍動の重複切痕の後に心臓に第2のポンピング速度をもたらすことにより、前記第2の拍動において心臓への血行動態補助を調整し、
前記第2の拍動において心臓の第2の大動脈圧波を検出し、
前記第2の大動脈圧波を、前記第2の拍動に対応する前記第1の大動脈圧波の一部と比較して、前記第2の大動脈圧波における変化を検出し、かつ大動脈の抵抗およびコンプライアンスを特定し、
ソフトウェア内にプログラムされた、心拍出量を大動脈の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づいて、心臓の本来の心拍出量を決定する
ように構成された、コントローラ
を備える、拍動している心臓の本来の心拍出量を決定するためのセンサ。
【請求項2】
前記非線形伝達関数は、ウィンドケッセルモデルを含む、請求項
1記載のセンサ。
【請求項3】
前記コントローラは、前記決定された心拍出量、前記血管の抵抗、または前記血管のコンプライアンスのうちの少なくとも1つに基づいてもたらされる血行動態補助を調整するようにさらに構成されている、請求項1~
2のいずれか一項記載のセンサ。
【請求項4】
患者の血管系内を延びるように構成されたカニューレを有する血液ポンプと、
前記血管系内での血液のポンピングから少なくとも部分的に生じる血管内の圧力を検出するように構成された、圧力センサと、
圧力センサ信号および前記血液ポンプの動作パラメータを受信し、
本来の心拍出量を決定し
、
前記決定された本来の心拍出量に基づいて前記血液ポンプの動作パラメータを調整
し、
第1のポンプ速度で動作するように前記血液ポンプに動作指令を送信し、
前記第1のポンプ速度でのポンピングにおける圧力を表す第1の圧力センサ信号を受信し、
第1の期間にわたる心臓の第1の心拍の第1のフェーズを特定し、
前記第1の圧力センサ信号に基づいて、第2の期間にわたる心臓の第2の心拍の第2のフェーズを予測し、
前記第2の心拍の前記第2のフェーズにおいて第2のポンプ速度で動作するように前記血液ポンプに動作指令を送信し、
前記第2のポンプ速度でのポンピングにおける圧力を表す第2の圧力センサ信号を受信し、
前記第1の圧力センサ信号を前記第2の圧力センサ信号と比較して、前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の圧力の変化を計算し、
前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の前記圧力の変化に基づいて、本来の心拍出量を計算する
ように構成されたコントローラと
を備える、機械的循環補助システム。
【請求項5】
前記圧力センサは、前記血液ポンプの近位側または遠位側に動作可能に配置され、かつ、大動脈圧を検出するように構成される、請求項
4記載のシステム。
【請求項6】
前記血液ポンプは、心臓内血液ポンプであり、前記カニューレは、心臓の左心室内を延びるように構成されている、請求項
4~
5のいずれか一項記載のシステム。
【請求項7】
前記血液ポンプは、
血管内で回転し前記カニューレを通して血液をポンピングするように構成されたロータと、
前記ロータを回転させるための電力を与えるように構成された駆動機構と
を備える、請求項
4~
6のいずれか一項記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラが、前記第2のフェーズの後に前記第2のポンプ速度を前記第1のポンプ速度に変更するようにさらに構成されている、請求項
4記載のシステム。
【請求項9】
前記第1のフェーズは、収縮期および拡張期のうちの一方であり、前記第2のフェーズは、収縮期および拡張期のうちの一方である、請求項
4、8のいずれか一項記載のシステム。
【請求項10】
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更することは、ポンプ速度を高めることを含む、請求項
4、8~
9のいずれか一項記載のシステム。
【請求項11】
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更することは、ポンプ速度を下げることを含む、請求項
4、8~
10のいずれか一項記載のシステム。
【請求項12】
心臓の本来の心拍出量を決定することは、ソフトウェア内にプログラムされた、心拍出量を大動脈の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づく、請求項
4、8~
11のいずれか一項記載のシステム。
【請求項13】
前記非線形伝達関数は、ウィンドケッセルモデルを含む、請求項
12記載のシステム。
【請求項14】
前記決定された本来の心拍出量に基づいて前記血液ポンプの動作パラメータを調整することは、ポンプ速度を高めるまたは下げる指令を前記血液ポンプに送信することを含む、請求項
4~
13のいずれか一項記載のシステム。
【請求項15】
ディスプレイをさらに備え、前記コントローラは、圧力センサ信号、前記血液ポンプの動作パラメータ、または前記本来の心拍出量のうちの少なくとも1つを表示するために準備するように構成されている、請求項
4~
14のいずれか一項記載のシステム。
【請求項16】
前記コントローラは、
前記
血液ポンプに供給された電流を検出し、そして
前記
血液ポンプに供給された電流に基づいて、ポンプの動作が寄与する血流量を決定する
ように構成されている、請求項
4~
15のいずれか一項記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年6月19日に出願された「METHODS AND SYSTEMS FOR IMPROVED ASSESSMENT OF VASCULAR AND CARDIAC STATE」という名称の米国特許仮出願第62/687,133号、2019年6月18日に出願された「SYSTEMS AND METHODS FOR SYSTEM IDENTIFICATION」という名称の米国特許仮出願第62/863,136号、および2019年6月18日に出願された「SYSTEMS AND METHODS FOR DETERMINING CARDIAC PERFORMANCE」という名称の米国特許仮出願第62/863,146号の優先権および恩典を主張する。これらの出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
心血管の疾患は、病気、死亡、および全世界の医療への負担の主要な原因である。心臓の健康のために、医薬品から機械装置および移植に至るまで、さまざまな治療の様態が開発されてきた。心臓ポンプシステムなどの一時的な心臓補助デバイスは血行動態補助を提供し、心臓の回復を促進する。一部の心臓ポンプシステムは心臓に経皮的に挿入され、心拍出量を補うために本来の心臓と並行して動作することができる。このようなデバイスの例として、IMPELLA(登録商標)ファミリーのデバイス(マサチューセッツ州DanversのAbiomed,Inc.)が挙げられる。このような心臓ポンプシステムは、血圧を検出する(または、膜をまたぐ差圧を査定する)センサを有し、モータ電流を監視することができ、ポンプの位置の特定を助けるためにセンサおよびモータ電流の読み取り値を使用する。
【0003】
所与の患者が必要とする心臓の補助は、患者ごとに異なる可能性がある。心拍出量(CO)は、心臓が送り出す血液の体積流量である。正常な心拍出量は、健康な成人において約5L/分であるが、所与の患者の身体的構成を含むさまざまな要因によって異なり得る。所与の心臓がもたらす心拍出量はどれほどか、どれほどの追加の補助をデバイスがもたらすべきか、それをもたらすのはいつか、および期間はどのくらいかを、公知の技術を使用して定量的に決定することは、臨床医にとって困難である。この決定は、インターベンションまたは他の心臓治療から回復中の患者について、とくに困難になり得る。したがって、臨床医は、流体で満たされたカテーテルを使用して心臓内または血管内の圧力を測定することなど、心機能の判断および間接的な推定に依存する傾向にある。とくには、心拍出量(CO)の定量化が困難である。1つの手法は、肺動脈カテーテル(PAC)を使用して、中心静脈圧および肺動脈圧をリアルタイムで測定する。PACは、全身酸素消費量の測定によるフィックの法則またはボーラス熱希釈法を用いたCOの推定に依存する。しかしながら、CO指標(metrics)に到達するために行わなければならない仮定、およびそれに対応する精度の欠如のために、PACは、複雑なインターベンションおよび心原性ショックなどの高リスクの状況での使用が制限される可能性がある。PACによる測定は、心機能の動的変化を考慮せず、連続的でないが、一方で全身の心室血管の連関の非線形局面には対処できない可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
概要
本明細書に記載のシステムおよび方法は、例えば血管内血液ポンプシステムなどの機械的循環補助デバイスを介してCOなどの血管および/または心臓パフォーマンスの指標を決定し、心臓パフォーマンスを使用して心臓のための機械的循環補助を較正、制御、および提供する。システムは、機械的循環補助デバイスと、デバイスを動作させ、デバイス動作条件および血行動態パラメータを表す入力を受信し、血管の抵抗およびコンプライアンスを含む血管パフォーマンスならびに本来の心拍出量を決定するように構成されたコントローラとを含む。システムおよび方法は、機械的循環補助デバイス(例えば、心臓ポンプ)を使用することによって、血管系の制御された乱れを導入し、それに応答して、一回拍出量、血管の抵抗およびコンプライアンス、心筋収縮能、心室エラスタンス、CO、ならびに左心室拡張終期圧などの心臓パラメータを決定し、最終的に本来の心拍出量を決定するように動作する。次いで、心臓のためのさらなる機械的循環補助を較正および制御するために、これらの決定されたパラメータを使用する。心臓の本来の心拍出量を決定することにより、機械的循環補助(例えば、血液ポンプ)を使用して、治療法を適用することができる。治療を実施するために、プロセス制御システムは、補助のレベルを提供および調整するための機械的循環補助デバイス(例えば、ポンプ)を作動または停止させる。
【0005】
システムおよび方法は、血管系の時変(time-variant)非線形モデルで構成され、デバイス-動脈の連関を使用して全身の血管抵抗およびコンプライアンスを継続的に決定し、それにより、心臓の一回拍出量を定量化する。いくつかの実装形態において、システムおよび方法は、血管系のウィンドケッセルモデルを使用して伝統的な線形近似を改善し、血管反応の動的変化を提供する。いくつかの態様において、システムおよび方法は、患者の心臓の本来の心拍出量を直接的に決定することができる心拍出量センサとして構成される。
【0006】
種々の適応において、システムおよび方法は、機械的循環補助システムを使用して心拍の最中に血管系を「ピング(ping)」し、次いで、後の1つまたは複数の期間または時点で、例えば後の心拍において、心臓による応答を検出するように、構成される。「ピング」は、短時間にわたって、例えば単一の心拍において、機械的循環補助システムの出力を増加または減少させ(例えば、心臓ポンプシステムのポンプ速度を高めまたは下げ)、それによって血圧および血流(例えば、大動脈圧および、左心室を出る血流)にスパイクを生じさせることを含む。ピングによって血行動態パラメータ(例えば、大動脈圧)がベースラインから変化し、この変化が検出され、別の時点での血行動態パラメータ(例えば、心臓がピングされていないときの大動脈圧)と比較されて、心臓パフォーマンスが決定される。ピングは、単一の心拍の一部(例えば、心拍の或るフェーズ)における期間(または、時点)においてポンプ速度を変化させること、および、この「変化」時間における血行動態パラメータを、ピングが適用されていない「通常」動作の期間または時点(例えば、後続の心拍の最中)の血行動態パラメータと比較することを必要とし得る。
【0007】
例示的な血行動態パラメータは、心拍、血圧、動脈酸素飽和度、混合静脈飽和度、中心静脈酸素飽和度、動脈血圧、平均動脈圧、右動脈圧、中心静脈圧、右心室圧、肺動脈圧、平均肺動脈圧、肺動脈閉塞圧、左心房圧、大動脈圧、差圧、左心室末期圧、一回拍出量、一回拍出量指数、一回拍出量変動、全身血管抵抗、全身血管抵抗指数、肺血管抵抗、肺血管抵抗指数、肺血管抵抗、肺血管抵抗指数、左心室一回仕事量、左心室一回仕事量指数、右心室一回仕事量、右心室一回仕事量指数、冠状動脈かん流圧、右心室拡張末期容積、右心室拡張末期容積指数、右心室収縮末期容積、右心室駆出率、動脈酸素含有量、静脈酸素含有量、動脈-静脈酸素含有量差、酸素運搬、酸素運搬指数、酸素消費量、酸素消費量指数、酸素摂取率、酸素摂取指数、総末梢抵抗、CO、心係数、および心拍出力(CPO)を含む。
【0008】
心拍内ピング(すなわち、単一の心拍においてポンプの動作を調整すること)は、(互いに連続して隣りあうあるいは他の拍動で隔てられている)複数の心拍の間で生じる血行動態パラメータの比較を可能にしつつ、また、ポンプ速度が比較的長い期間にわたって変更される場合に生じ得るノイズ(例えば、交感神経反応)も最小にする。上述のように、いくつかの態様において、血行動態パラメータの比較は、ポンプの流量と心臓の動作との間の、変化する非線形相互作用をモデル化および考慮する二要素ウィンドケッセルモデルなどの血管系のモデルでプログラムされた制御システムプロセッサによって、達成される。制御システムは、公知の項(入力として受信される)を使用してポンプの流量および心臓の動作(例えば、大動脈圧)の値を近似し、これにより、そのようなモデルを臨床用途において容易に検証および利用することが可能になる。システムおよび方法は、全身血管系の抵抗およびコンプライアンスなど、患者の心臓の健康を表す基準を提供し、これは、COおよび心臓パフォーマンスの他の局面の決定を可能にする。いくつかの用途において、システムおよび方法は、追加の測定または診断用カテーテルを必要とせずに展開される。全身の血管パフォーマンス(例えば、抵抗またはコンプライアンス)の変化を継続的かつ正確に追跡できかつ心臓の一回拍出量を推定できる能力により、現在の臨床実務において展開されているPACまたは他の診断から得られる伝統的な測定を超える著しい前進がもたらされる。
【0009】
いくつかの適応において、本明細書に記載のシステムおよび方法は、単一の心拍において心臓ポンプシステムのポンプ速度を変更して、血管パフォーマンスへのその影響を検出する。これは、「通常」または「基準」心拍(例えば、心臓ポンプシステムが第1のポンプ速度で動作しているときの心拍)における、および「変調」心拍(例えば、心臓ポンプシステムが心拍の少なくとも一部において第1のポンプ速度とは異なるポンプ速度で動作しているときの心拍)における、1つまたは複数の血行動態パラメータの変化を比較することによって行うことができる。基準心拍は、変調心拍の前に生じても、後に生じてもよい。心拍を変調または「ピング」することにより、システムおよび方法は、通常の心拍と変調心拍との間の血行動態パラメータの違いを捕捉および定量化することができる。次いで、これらの違いが、血流、一回拍出量、CO、あるいは血管および/または心臓パフォーマンスの他の有用な指標の違いに関連付けられる。ポンプ速度を短時間(例えば、心拍の一部)だけ変更することにより、よりリアルタイムな精度で、システム測定値に追加のノイズを導入することなく、全身抵抗およびコンプライアンスをさまざまなポンプ速度において定量化することができる。
【0010】
いくつかの実装形態において、コントローラは、本明細書に記載の実装形態、局面、および方法のいずれかを実行するように提供および構成される。例えば、コントローラは、Abiomed,IncのAutomated Impella Controller(AIC)、または開示される機能を実行するようにプログラムされた任意の他の適切なコントローラであり得る。いくつかの実装形態において、システムおよび方法は、心臓ポンプなどの機械的循環補助デバイスを使用する。例示的な心臓ポンプは、カテーテルと、モータと、モータに動作可能に結合したロータと、ロータを少なくとも部分的に取り囲むポンプハウジングと、差圧センサなどの1つまたは複数のセンサと、コントローラとを含み、モータを作動させることによってロータが駆動され、血液がポンプハウジングを通って送られる。例えば、心臓ポンプシステムは、心臓内に展開されるように構成されたカニューレを備える血液ポンプと、心臓の内部または外部のいずれかに配置され、ポンプを駆動するように構成されたモータとを備えることができる。心臓ポンプシステムは、AICまたは任意の他の適切な制御システムに接続されたAbiomed,IncのImpella 3.5という心臓ポンプであってよい。
【0011】
本明細書に記載のシステムおよび方法は、そのフェーズにおける1つまたは複数の監視された血行動態パラメータを異なる拍動における同じパラメータと比較するために、心拍内で機械的循環デバイスの動作を変化させ、患者の血管パフォーマンスを表す指標を計算する。例えば、ポンプを血管内に挿入して、第1の心拍を含む一連のベースライン心拍において第1のポンプ速度(または、他の出力レベル)で動作させることができ、その後、第2のすなわちターゲット心拍におけるあるいはターゲット心拍の特定のフェーズにおけるきわめて短い期間(例えば、ターゲット心拍の重複切痕に、もしくはその後に位置する)について、ポンプ速度を高めるまたは下げることによって、心臓を「ピング」する。大動脈圧または他の血行動態パラメータが、一連のベースライン心拍およびターゲット心拍の両方において測定される。いくつかの適応において、血行動態パラメータは、第1の心拍および第2の心拍の同じ部分(例えば、両方の拍動の収縮期、あるいは両方の拍動の重複切痕時またはその後)において測定される。次いで、システムは、一連のベースライン心拍において(例えば、第1の心拍において)特定された大動脈圧などの血行動態パラメータを、ポンプ速度を高めた期間において(例えば、第2の心拍において)例えば同じセンサを使用することによって特定されたそのような血行動態パラメータと比較して、(COの決定または患者のより良好な治療のためのポンプ動作の変更に使用することが可能である)血管抵抗またはコンプライアンスを計算しあるいは特徴付ける。一連のベースライン心拍(例えば、第1の心拍を含む)は、ピングの後に生じても、ピングの前に生じてもよい。このような方法を、後述される
図1の心臓ポンプシステム100または任意の他の適切なポンプを使用して実行することができる。
【0012】
システムおよび方法を実施するため、ポンプまたは他の機械的循環補助デバイスは、患者の血管系内(例えば、患者の心臓内)に配置され、かつ患者の血行動態を変更するように動作可能である。例えば、デバイスの動作は、左心室の負荷低減または他の手段によって患者の大動脈圧を上昇させ得る。いくつかの実装形態において、ポンプは、経皮的挿入によって患者の心臓内に配置される血管内血液ポンプデバイスである。ポンプは、外科的に埋め込まれるデバイス、左心室補助デバイス、カウンターパルセーションデバイス、展開式心臓ポンプ、体外膜デバイス、または任意の他の適切なデバイスであってもよい。ポンプは、患者が心原性ショックの状態にあるあるいは他のかたちで血管の健康の低下に直面しているという理由により、適切であり得る。ポンプを、ポンプへの血液入口が左心室内に位置し、ポンプからの出口が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置することができる。ポンプは、
CO=ih+ip(1)
となるように本来の心臓の動作に寄与し、ここでCOは総心拍出量であり、ihは本来の心拍出量であり、ipはポンプの寄与による流量である。このようなポンプは、心臓から冠状動脈および血管系の他の領域への酸素化された血流を増加させることにより、心原性ショックの患者に救命の利点を提供することができる。
【0013】
血行動態パラメータが、ポンプまたは他の機械的循環補助システムの動作中に監視される(例えば、パラメータを心臓パフォーマンス中に継続的に監視することができ、選択された拍動の最中の選択された時点におけるパラメータを表す関連データを使用のために特定することができる)。適切な血行動態パラメータは、身体の器官および組織における血流に関連するパラメータを含む。例示的な血行動態パラメータは、心拍、血圧、動脈酸素飽和度、混合静脈飽和度、中心静脈酸素飽和度、動脈血圧、平均動脈圧、右動脈圧、中心静脈圧、右心室圧、肺動脈圧、平均肺動脈圧、肺動脈閉塞圧、左心房圧、大動脈圧、差圧、左心室末期圧、一回拍出量、一回拍出量指数、一回拍出量変動、全身血管抵抗、全身血管抵抗指数、肺血管抵抗、肺血管抵抗指数、肺血管抵抗、肺血管抵抗指数、左心室一回仕事量、左心室一回仕事量指数、右心室一回仕事量、右心室一回仕事量指数、冠状動脈かん流圧、右心室拡張末期容積、右心室拡張末期容積指数、右心室収縮末期容積、右心室駆出率、動脈酸素含有量、静脈酸素含有量、動脈-静脈酸素含有量差、酸素運搬、酸素運搬指数、酸素消費量、酸素消費量指数、酸素摂取率、酸素摂取指数、総末梢抵抗、CO、心係数、および心拍出力(CPO)を含む。一部の実装形態においては、拡張期における計算に、大動脈圧の代わりに差圧(Pdiff)を使用することができる(例えば、差圧が公知であり、大動脈圧が未知である場合)。Pdiffは、大動脈圧から左心室圧(LVP)を引いたものに等しい。多くの場合、LVPは、拡張期において大動脈圧よりもはるかに小さく、大動脈圧と比較して、拡張期の間に大きく変化することがない。これらの場合、Pdiffは大動脈圧に充分に近い(すなわち、LVPを無視できる)ため、AoPが利用できない場合に代理となることができる。大動脈圧の代わりにPdiffが使用される場合、本明細書で説明される特定の計算の結果の精度に影響が及ぶ可能性がある。
【0014】
ポンプ速度は、ポンプの動作の速度であり、ポンプの動作によってもたらされる血流の量に対応する。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は、ロータの回転速度に対応する。例えば、ポンプ速度は、10,000 RPM、20,000 RPM、30,000 RPM、40,000 RPM、50,000 RPM、60,000 RPM、70,000 RPM、80,000 RPM、90,000 RPM、100,000 RPM、または任意の適切な速度であり得る。ポンプ速度は、
図1に関連して上述したように、パワーレベルまたはPレベルに対応し得る。例えば、ポンプ速度は、P-1、P-2、P-3、P-4、P-5、P-6、P-7、P-8、P-9、または任意の他の適切な値である。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は代わりに、ポンプのチャンバが血液で満たされるおよび血液を放出する速度に対応する。血行動態パラメータを監視することにより、本明細書に記載のシステムおよび方法は、その血行動態パラメータの経時的変化を検出することができる。このような変化を、心臓のパフォーマンスを定量化するために使用することができる。
【0015】
いくつかの実装形態においては、心拍検出方法が、心臓パフォーマンス中(例えば、複数の心拍の最中)に血行動態パラメータを測定し、心臓の種々のフェーズおよびそれらの経時的順番を特定および予測し、次いで心臓の後続のフェーズがいつ生じるかの予測に基づいて、ポンプ速度の調整または他のやり方での心臓のピングのタイミングを決定することによって提供される。心拍サイクルにおける心拍の第1の(ベースライン)フェーズは、心臓のパフォーマンス中の第1の期間にわたって生じる心臓の収縮期、拡張期、または任意の他の適切なフェーズ、あるいはフェーズの組み合わせとして特定され得る。例えば、第1の期間は、0.05秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、あるいは所与の心拍または他のサイクルの任意の適切な長さの時間であり得る。
【0016】
第2のステップにおいて、心臓が「ピング」を受けるターゲットフェーズとなる心拍サイクルの第2のフェーズが、予測または特定される。例えば、第2のフェーズは、「ピング」の影響が心臓にもたらされる時間であるように第2のフェーズが選択されるという条件で、第2の心拍、異なる収縮期、異なる拡張期、または任意の他の適切なフェーズ、あるいはフェーズの組み合わせであり得る。システムおよび方法は、以前に監視された血行動態パラメータ(例えば、心拍サイクルの第1のフェーズにおいて測定された大動脈圧)に基づいて、心拍サイクルの第2のフェーズがいつ始まるかを予測し得る。心拍サイクルの第2のフェーズは、第2の期間にわたって生じると予測される。例えば、第2の期間は、0.05秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、または任意の適切な時間長であり得る。第2の期間は、特定の患者の心拍サイクルの第2のフェーズの長さに対応するように設定され得る。例えば、心拍サイクルの第2のフェーズが拡張期である場合、第2の期間は、特定の患者の平均拡張期間に設定されてよく、あるいは次に発生する拡張期間の予測長に設定されてよい。いくつかの例において、第2の期間は、心拍の期間よりも短い期間に予め設定され得る。第2のフェーズは、監視された血行動態パラメータおよび心拍サイクルの特定された第1のフェーズに基づいて予測される。心拍信号を監視することができ、その監視された信号に基づいて、システムおよび方法は、次の拡張期または収縮期がいつ生じるかを予測する。心拍サイクルのフェーズのタイミングを予測することにより、システムおよび方法は、ポンプ速度の上昇または低下(「ピング」)のタイミングを、心拍サイクルの第2のフェーズが始まるときに正確に始まる(あるいは、その影響を及ぼすことができる)ように決定することができる。例えば、システムおよび方法を、結果として生じる血流の増加が、例えば後続の心拍における重複切痕の開始時またはその直後、後続の心拍の収縮期の途中、拡張期の全体、または後続の心拍の予め決められた部分など、ターゲット心拍内の好ましい時点または期間の開始と同時に生じるように、ポンプ出力の短時間の増加で(例えば、より高いポンプ速度で心臓の負荷を減らすことによって)心臓をピングするように構成することができる。
【0017】
特定の実装形態において、心拍サイクルの第1のフェーズは、第1の心拍の拡張期であり、心拍サイクルの第2のフェーズは、直後の第2の心拍の拡張期である。心拍サイクルの第1のフェーズは、第1の心拍の収縮期であり得、心拍サイクルの第2のフェーズは、第2の心拍の収縮期である。いくつかの実装形態において、第2のフェーズは、第1の心拍から除去された複数の拍動である心拍の最中であり、他の実装形態において、第2のフェーズは、第1の心拍に隣接する心拍の最中である。
【0018】
ベースラインおよびターゲット心拍フェーズの確立後に、例えば第2の心拍において第1のポンプ速度とは異なる第2のポンプ速度でポンプを動作させることによって心臓をピングするように、ポンプ速度が変更される。ポンプ速度の調整は、心拍をピングするためのポンプ速度の上昇または低下であり得る。例えば、ポンプは、例えば心拍の拡張期などの心拍の一期間においてポンプ速度が一時的に高くなるように調整され得る。さらに、ポンプは、心拍の同じ期間においてまたは同じ心拍における何らかの他の時点で、速度がベースラインに戻されるようにあるいはさもなくば下げられるように調整され得る。ポンプ速度をベースラインから一時的に下げることによって逆に起こるように、ピングを構成することも可能である。
【0019】
ポンプ速度を一時的に変更してベースラインに戻すことによって、心臓を、例えばより高いポンプ速度において瞬間的に「ピング」する。いくつかの実装形態において、心臓ポンプを、第1のベースラインポンプ速度で動作させ、次いで、後続の心拍の収縮期または拡張期(または、他のターゲット期間)において、より高い第2のポンプ速度に瞬間的に変化させ、その後にすぐに第1のポンプ速度に戻す。いくつかの実装形態において、ポンプ速度の変化は、心拍の長さよりも短い時間しか続かないため、ポンプは、ピングされた心拍と同じ心拍の最中にベースラインへと戻る。例えば、ピングの長さがターゲット心拍の継続時間よりも短くなるように、ピング全体をターゲット心拍内で生じさせてもよい。単一の心拍においてポンプ速度を変更することで、第1および第2のフェーズの間の血行動態データの収集へのノイズの影響が低減され、精度が向上する。
【0020】
ポンプ速度は、所望の部分においてポンプ速度の変化をもたらすように調整される。例えば、速度の変化を、心拍内の収縮期、拡張期、またはその両方においてもたらすことができる。いくつかの実装形態においては、ポンプ速度を調整するために、コントローラはポンプに信号を送信し、制御信号の送信とポンプ速度の変化との間の任意の時間遅延を考慮するのに間に合うように、ターゲットフェーズの開始前に、ポンプ速度を変更する。ポンプは、ターゲット心拍の所望の部分(例えば、拡張期、重複切痕時またはその後)において速度の実際の上昇または低下をもたらさなければならない。ピングは、心拍の公知の期間中にポンプ速度の上昇が一時的に生じるようにタイミングをはかる。例えば、速度ピングの開始を、拡張期の開始、拡張期の終了、収縮期の開始、収縮期の終了、ピーク収縮期圧、または任意の他の適切な時期に同期させることができる。速度ピングの終了を、拡張期の開始、拡張期の終了、収縮期の開始、収縮期の終了、ピーク収縮期圧、または任意の他の適切な時期に同期させることができる。いくつかの実装形態において、ピングは、設定された期間においてポンプ速度を高めるまたは下げることによって実現される。例えば、ピングが拡張期において生じるように、ピングを拡張期の開始に同期させることができる。あるいは、ピングが次の心拍の収縮期において生じるように、ピングを拡張期の終わりに同期させることができる。他の適応において、ピングは、収縮期の開始、収縮期の終わり、収縮期血圧のピーク、または任意の他の適切な時期に同期される。ピングは、設定された期間にわたって続くように構成される。いくつかの適応において、ピングは、心拍のフェーズの長さに対応する期間にわたって続くように設定される。例えば、ピングを、約0.05秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、または任意の他の適切な時間にわたって続くように設定することができる。
【0021】
機械的循環補助(例えば、ポンプ速度)を瞬間的に調整することによって心臓または他の血管系をピングすることは、心臓または他の血管系に乱れを加え、これにより、全身抵抗、コンプライアンス、および、心拍出量を含む心臓パフォーマンスの追加の指標の決定が可能になる。このような決定を、患者の身体に(血行動態補助を提供するポンプ以外の)さらなるハードウェアを導入することなく行うことができる(ただし、所望であれば、そのような追加のハードウェアを依然として使用することもできる)。決定を行うために、通常の心拍およびピングされた心拍における血行動態波形(例えば、大動脈圧(または、心室内圧)波形)が、後述のウィンドケッセルモデルなどの非線形モデルを介して比較される。通常の心拍とピングされた心拍との間の圧力波形(または、他の血行動態パラメータ)の変化は、2つの期間(ベースライン(通常)心拍の期間およびターゲット(ピング)心拍の期間)におけるモデル内の異なる値に反映され、これが、2つのモデル方程式を生成する。2つの期間の圧力波形を知ることで、2つのモデル方程式の間の未知の変数の数を減らすことができ、抵抗およびコンプライアンスを計算することができる。次いで、計算された抵抗およびコンプライアンスの値、ならびに大動脈圧波形を使用し、式(2):
を適用することによって、総心血流量を計算することができ、ここで、Cはコンプライアンスであり、Rは抵抗であり、Pは大動脈圧波形であり、i
hは本来の心血流量であり、i
pはポンプの寄与による流量であり、i
h+i
pは総心血流量である。COを、或る期間(例えば、5秒、10秒、または30秒)にわたって式(1)から得られる総心血流量i
h+i
pの平均を取ることによって計算することができる。例えば、期間は、単一の心拍の長さであってよく、COの計算は、その心拍の期間のCOを表すことができる。少なくともこの点で、システムおよび方法は、本明細書に開示されるピング技術に基づいて、心臓の本来の心拍出量を決定するためのCOセンサとして機能する。
【0022】
上述の技術の適応を、さまざまなやり方で応用することができる。いくつかの実装形態において、血行動態パラメータは、第2の心拍の第2のフェーズにおいて監視される。例えば、心臓ポンプシステムは、大動脈圧または任意の他の血行動態パラメータを継続的に監視することができる。いくつかの実装形態において、第1のフェーズにおいて監視された血行動態パラメータは、第2のフェーズにおいて監視された血行動態パラメータと比較される。例えば、第1のフェーズにおいて心臓によってポンピングされた第1の血液量、および第2のフェーズにおいて心臓によってポンピングされた第2の血液量を、計算することができる。第1の血液量と第2の血液量との間の数値差を計算して、第1のフェーズにおける血行動態パラメータを第2のフェーズと定量的に比較することができる。例えば、流量曲線の曲線下面積(AUC)は、血液量を表すことができる。第1のフェーズおよび第2のフェーズにおけるAUCの違いは、第1のポンプ速度および第2のポンプ速度でポンピングされる血液量の違いを示し得る。さらに、第1のフェーズと第2のフェーズとの間の血行動態パラメータの比較は、血行動態パラメータの変化の線形性を評価することを含み得る。例えば、大動脈圧は、ポンプ速度間で線形には変化しない可能性があり、すなわち或るポンプ速度から次のポンプ速度への大動脈圧の変化が、線形な進行ではない可能性がある。大動脈圧の変化がポンプ速度間でどのように推移するかに応じて、異なるポンプ速度における大動脈圧を予測することができる。
【0023】
心臓の心臓パフォーマンスを表す指標を、第1のフェーズと第2のフェーズとの間の血行動態パラメータの変化に基づいて計算することができる。例えば、心臓パフォーマンスを表す指標を、第1の心拍および第2の心拍における心臓サイクルの異なる圧力波形から決定することができ、そのような指標は、全身抵抗、全身コンプライアンス、CO、CPO、一回拍出量、一回仕事量、駆出率、心筋収縮能、心室エラスタンス、心係数、患者の生存の予測であり得る。心臓パフォーマンスを表す多数の指標は、相互に関連している。例えば、COは、患者の心臓内に配置された血管内ポンプを通る血液の流量に基づいて決定される。一回拍出量は左心室機能の指標であり、その式はSV=CO/HRであり、ここでSVは一回拍出量であり、COは心拍出量であり、HRは心拍数である。一回仕事量は、血液を排出するために心室によって行われる仕事量であり、一回拍出量から式SW=SV*MAPに従って計算することができ、ここでSWは一回仕事量であり、SVは一回拍出量であり、MAPは平均動脈圧である。心仕事量は、一回仕事量と心拍数との積によって計算される。CPOは、心臓のポンピング能力を表す心機能の尺度であり、単位はワットである。CPOは、以下の式:
CPO=MAP*CO/451(3)
によって表される心拍出力の式を使用して計算され、ここでCPOは心拍出力であり、MAPは平均動脈圧であり、COは心拍出量であり、451はmmHg x L/minをワットに変換するために使用される定数である。駆出率は、一回拍出量を心室の血液量で割り算することによって計算することができる。チャンバ圧力、前負荷状態、後負荷状態、心臓回復、流れ負荷状態、可変体積負荷状態、および/または心拍サイクル流れ状態などの他のパラメータを、これらの値から計算することができ、あるいはこれらのパラメータを介して決定することができる。いくつかの実装形態において、心臓の心臓パフォーマンスを表す指標は、動的かつ非線形な心臓および血管の相互作用をモデル化するために、血管系の2要素ウィンドケッセルモデル(例えば、
図5のウィンドケッセルモデル)を介して計算される。したがって、このプロセスは、血管系の時変非線形モデルを採用し、心室-血管連関の良好に制御された類似物である血管内血液ポンプデバイスと患者の血行動態機能との間の連関を使用して、追加の外部測定を必要とすることなく、継続的に全身の血管抵抗および血管コンプライアンスを決定し、心臓の一回拍出量を定量化する。
【0024】
ポンプの動作を、心臓パフォーマンスを表す指標に基づいて調整することができる。ポンプ動作の調整は、ポンプ速度の上昇、ポンプ速度の低下、ポンプ配置の調整、ポンプのオフ、または任意の他の適切な調整を含み得る。例えば、心臓パフォーマンスを表す指標が一回拍出量である場合、一回拍出量がしきい値を下回る場合にポンプ速度を上げることができる一方で、一回拍出量がしきい値を上回る場合にポンプ速度を下げることができる。
【0025】
いくつかの実装形態においては、COセンサが、患者の本来の心臓の心拍出量を決定するために提供される。COセンサは、本明細書に記載の方法を実行するように構成された1つまたは複数のハードウェア、ソフトウェア、およびファームウェア要素を含み得る。いくつかの実装形態において、COセンサは、圧力センサを備えた機械的循環補助デバイス(例えば、血管内血液ポンプ)と、圧力センサから測定値を受信し、本明細書で説明されるとおりの拍動内ピングを使用して本来の心拍出量を決定するように構成されたプロセッサとを含む。機械的循環補助デバイスを、患者の心臓内に少なくとも部分的に配置されるように構成することができる。いくつかの適応において、血管内血液ポンプは、カニューレと、カニューレを通って血液をポンピングするように構成されたロータと、ロータを回転させるための電力を与えるように構成された駆動機構とを含む。いくつかの実装形態において、カニューレは、カニューレの遠位端が左心室内にありカニューレの近位端が大動脈内にあるよう大動脈弁をまたいで延びるように、構成される。例えば、カニューレが、ポンプへの血液入口が左心室内に位置しポンプからの出口が大動脈内に位置するように大動脈弁をまたいで配置されたときに、心臓ポンプシステムは「適切な位置にある」と見なすことができる。駆動機構は、内蔵モータ、駆動ケーブル、駆動シャフト、または任意の他の適切な要素、あるいはこれらの組み合わせを含み得る。
【0026】
COセンサは、カニューレに結合した細長いカテーテル本体を含み得る。細長いカテーテルは、駆動ケーブル、血液ポンプを制御システムに接続する電気配線、任意の適切な要素、またはこれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実装形態において、ポンプは、ポンプハウジングおよびモータハウジングを含み、モータハウジングは、モータハウジングの遠位端でカニューレに結合する。ロータをポンプハウジング内で回転させ、カニューレへの血流を生じさせることができる。
【0027】
COセンサは、血液ポンプ(あるいは、血液ポンプの近位側または遠位側)に動作可能に配置され、かつ血管内での血液のポンピングから少なくとも部分的に生じる血管内の圧力を検出するように構成された、血行動態パラメータセンサを含み得る。例えば、圧力センサは、ポンプハウジングまたはカニューレ上あるいはその付近に位置する光学センサであってよい。別の例として、圧力センサは、大動脈圧を測定するように構成された圧力測定管腔を備えることができる。差圧センサを使用することもでき、差圧センサの一方の側または表面を大動脈圧に曝すことができ、差圧センサの第2の側または表面を心室内圧に曝すことができ、差圧センサは、大動脈圧と心室内圧との間の差を測定することができる。
【0028】
COセンサは、圧力センサに電気的に接続され、かつ血圧を表すセンサからの信号を検出するように構成された、コントローラを含む。コントローラの全部または一部が、血管内血液ポンプから分離した/遠隔のコントローラユニット内にあってよい。いくつかの実装形態において、制御システムは、血管内血液ポンプの内部にある。
【0029】
心臓のピングの結果としての血行動態値の変化に基づく血管抵抗およびコンプライアンスとCOを相関させる非線形モデルに基づいてCOを計算するように、コントローラを構成することができる。例えば、非線形モデルは、ウィンドケッセルモデル、または患者の大動脈弁をまたいでて配置された心臓ポンプシステムと相関して使用される単純化ウィンドケッセルモードであってよい。このモデルの支配方程式は、
であり、ここでCはコンプライアンスであり、Pは大動脈圧であり、Rは抵抗であり、i
hは本来の心臓の動作からの流れであり、i
pはポンプからの流れである。拡張期において、大動脈弁は閉じており、したがって左心室を通る唯一の流れは、弁をまたいで配置されたポンプの作用からの流れである。したがって、心臓電流源を割り引き、ポンプの流れが一定であると仮定することにより、モデルを以下のように簡略化することができる。
次いで、抵抗およびコンプライアンスを、以下の2つの式によって決定することができ、ここでP1およびP2は、異なるポンプ速度で測定された圧力波形(例えば、ピング時の圧力波形と、ピングの前または後のいずれかの別の圧力波形)である。
低いポンプ速度においては、ポンプ流量i
p1、およびしたがって式(5)の項i
p1Rをゼロと近似することができ、これにより式(5)について単純な指数関数:
がもたらされる。ポンプ流量は、ポンプ速度、大動脈圧と心室内圧との間の圧力差、およびポンプの型式など、さまざまな要因によって決定される。例えば、特定の型式のポンプにおいては、大動脈圧と心室内圧との間の圧力差が約40~50 mmHgであり、ポンプ速度が約23,000 RPMの場合、ポンプ流量はゼロに近くなる。その圧力レベル(40~50 mmHg)において、速度が30,000 PRMを超える場合、流量をゼロと近似することはできない。式(6)および上述の簡略化を使用してRを決定した後に、i
p1Rの項を再び式(5)に追加して、Cを正確に決定することができる。
【0030】
いくつかの実装形態において、P
0は、
となるように、対応するポンプ速度の逆数に比例すると想定される。したがって、t=0において、式(5)および(6)は、
となる。
式(5a)および(6a)から、Rを以下:
のように計算することができ、ここでP
1(t=0)およびP
2(t=0)は、それぞれ第1の心拍および第2の心拍の拡張期の始まりにおいて測定された初期大動脈圧である。次いで、所望の期間(例えば、5秒、10秒、1分、または所望のとおりの任意の所与の期間)について、総心血流量を式(3)から計算することができる。具体的には、CO、またはこの所望の時間の平均心血流量を、
と計算することができ、ここでt
endは所望の期間の終了時点に等しく、t
startは所望の期間の開始時点に等しい。大動脈圧波形の反復性ゆえに、所望の時間区間が充分に長い(例えば、10秒である)場合、上述の式におけるコンプライアンスの項、すなわち、
C×(P(t=t
end)-P(t=t
start))
はゼロに近くなり得、あるいは、COよりもはるかに小さいので式(8)においてゼロと近似され得る。したがって、COを
と計算することができる。
次いで、COは、
に等しくなり、ここでMAPはt
startからt
endまでの所望の時間ウインドウ内の平均動脈圧である。
【0031】
いくつかの局面において、機械的循環補助を、本明細書に記載されるシステムおよび方法に従って、血液ポンプを使用して患者に提供することができる。機械的循環補助の提供は、患者の血管系内で血液ポンプを動作させること、本明細書に記載のシステムおよび方法のいずれかを使用して患者の心臓のCOを決定すること、および決定されたCOに基づいて血液ポンプのポンピング速度を調整することを含むことができる。
【0032】
いくつかの局面において、機械的循環補助システムは、心臓の左心室内に延びるように構成されたカニューレと、左心室拡張末期圧を検出するように構成された圧力センサとを有する、心臓内血液ポンプを備えることができる。このシステムを、本明細書に記載の方法のいずれかに従ってCOを決定するように構成することができる。
【0033】
いくつかの実装形態において、ポンプが患者の心臓内に配置される。患者が、心原性ショックの状態にある、冠状動脈インターベンションを受けている、心臓発作を起こしている、あるいはそれ以外で心臓の健康の低下に直面しているという理由で、ポンプを患者へと導入することができる。ポンプを、ポンプへの血液入口が左心室内に位置し、ポンプからの出口が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置することができる。ポンプは、心臓からのCOが本来のCO+ポンプ出力に等しくなるように、本来の心臓の動作に寄与する。
【0034】
第1の大動脈圧波を検出することができる。第1の大動脈圧波は、心臓の複数の拍動を反映しており、反映される各拍動は、重複切痕を含む。圧力波形を、圧力センサによって測定することができる。いくつかの実装形態において、圧力センサはポンプに内蔵され得る。いくつかの実装形態において、圧力センサはポンプの外部に配置され、流体または電気信号を受信する。圧力センサは、ポンプの動作を制御するように構成されたコントローラと通信することができる。
【0035】
血行動態補助を、複数の拍動のうちの第1の拍動において、第1のポンピング速度で心臓に適用することができる。例えば、第1のポンピング速度は、上述のPレベルなどの第1のロータ速度であり得る。心臓への血行動態補助は、複数の拍動のうちの第2の拍動(例えば、収縮期またはその重複切痕後)において心臓に第2のポンピング速度を提供することによって、第2の拍動において調整される。第1のポンピング速度は、第2のポンピング速度とは異なるように設定されると考えられる。
【0036】
心臓の第2の大動脈圧波を、第2の拍動において検出することができる。第2の大動脈圧波を、第2の拍動に対応する第1の大動脈圧波の一部と比較して、第2の大動脈圧波における変化を検出することができる。いくつかの例においては、第2の大動脈圧波の一部によって表される時間長についての曲線下面積(AUC)を、第1の大動脈圧波の一部によって表される同じ時間長と比較することによって、第2の大動脈圧波を第1の大動脈圧波と比較することができる。いくつかの例においては、第1および第2の大動脈圧波の全体的な最大値および最小値を比較することができる。第1および第2の大動脈圧波の形状または傾斜を比較することができ、すなわち波の導関数の経時的な変化を通して比較することができる。いくつかの実装形態において、第1の大動脈圧波は、非線形モデル(例えば、以下で説明されるウィンドケッセルモデル)を介して第2の大動脈圧波と比較される。異なる波形は、モデルに2組の値を提供し、大動脈圧波形ごとに1つずつ、2つの異なる方程式をもたらす。第1および第2の大動脈圧波の間の変化を使用して、全身血管系の抵抗およびコンプライアンスを特定することができる。さらに、第1の大動脈圧波と第2の大動脈圧波との間の血行動態パラメータの比較は、第1および第2のポンプ速度の間の大動脈圧波における変化の線形性を評価することを含むことができる。例えば、大動脈圧は、ポンプ速度間で線形には変化しない可能性があり、すなわち或るポンプ速度から次のポンプ速度への大動脈圧の変化が、線形な進行ではない可能性がある。大動脈圧の変化がポンプ速度間でどのように推移するかに応じて、異なるポンプ速度における大動脈圧を予測することができる。
【0037】
いくつかの実装形態において、COが、COを全身抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づいて決定される。いくつかの実装形態において、非線形伝達関数は、ウィンドケッセルモデルを含む。いくつかの実装形態において、伝達関数は、大動脈圧波形にさらに関係する。
【0038】
システムおよび方法は、第1の心拍における血行動態パラメータを第2の心拍における血行動態パラメータと比較して、第1の心拍と第2の心拍との間の血行動態パラメータの変化を計算することができる。この変化は少なくとも部分的に、機械的循環補助デバイスの第1および第2の出力レベルの間の違いによって引き起こされる。例えば、血行動態パラメータが大動脈圧である場合、デバイスの出力レベルを上げると、測定される大動脈圧が高くなり、出力レベルを下げると、測定される大動脈圧が低くなる。第1のポンプ出力レベルから第2のポンプ出力レベルへの大動脈圧のこの変化は、大動脈圧の変化への機械的循環補助デバイスの寄与を示している。
【0039】
心臓の血管および/または心臓パフォーマンスを表す指標を、第1の心拍と第2の心拍との間の血行動態パラメータの変化に基づいて計算することができる。例えば、第1の心拍および第2の心拍における血行動態パラメータを、以下で説明されるウィンドケッセルモデルなどの非線形モデルを介して比較することができる。通常の心拍とピングされた心拍との間の血行動態パラメータの変化は、2つの期間(第1の心拍についての期間および第2の心拍についての期間)におけるモデル内の異なる値に反映されるため、2つのモデル方程式を使用して心臓パフォーマンスを決定することができる。いくつかの実装形態において、心臓パフォーマンスを示す指標は、心拍出量である。心拍出量を計算するために、上述のように、血管抵抗およびコンプライアンスを、第1の心拍と第2の心拍との間の血行動態パラメータの変化に基づいて決定することができる。2つの期間の血行動態パラメータ波形を知ることで、2つのモデル方程式の間の未知の変数の数を減らすことができ、抵抗およびコンプライアンス(最終的には、心拍出量)を計算することができる。
【0040】
いくつかの実装形態において、本明細書で説明されるシステムおよび方法は、患者の心拍をモデル化して、患者の心臓機能を表す1つまたは複数の心拍を構築するためにプロセッサが使用できる一連の正弦曲線として心拍を表すことを含む。次いで、構築された心拍は、プロセッサによってポンプ速度を調整するために使用される。上述のように、血液ポンプは、第1のポンプ速度(または、他の動作パラメータ)で動作し、次いで心臓をピングするために第2のポンプ速度(または、他の動作パラメータ)へと調整され、その後にベースラインの第1の速度またはパラメータへと速やかに下げられる。血行動態パラメータ(例えば、大動脈圧)が、ピングの期間を含むポンプの動作の期間に監視される。プロセッサは、(i)第1の動作パラメータ(ポンプ速度)、(ii)第2の動作パラメータ(例えば、ピング中のポンプ速度)、ならびに(iii)例えば第1の拡張期および第2の拡張期などの第1および第2の期間における血行動態パラメータに基づいて、心臓の心臓パフォーマンスを表す指標を計算する。指標は、ウィンドケッセルモデルに関連して上述したような伝達関数または方程式の組において使用される。血行動態パラメータの数学的表現が、第1および第2の拡張期について、コントローラプロセッサによって決定される。例えば、数学的表現は、所与のポンプ速度における血行動態パラメータを表す正弦曲線の和または他の波形関数であり得る。
【0041】
次いで、心臓パフォーマンスが、正弦曲線の和または他の波形からプロセッサによって計算される。計算は、(ポンプが第1のポンプ速度で動作している)第1の拡張期についての血行動態パラメータを表す第1の波形を分解して正弦曲線の第1の組を決定し、(ポンプが第2のポンプ速度で動作している)第2の拡張期についての血行動態パラメータを表す第2の波形を分解して正弦曲線の第2の組を決定することを含むことができる。これらの分解は、フーリエ変換を第1の波形、第2の波形、またはその両方に適用することを含む。正弦曲線の組は、合計された1つまたは複数の正弦曲線を含み得る。
【0042】
大動脈内の血流はポンプの寄与(i
p)に本来の心臓の寄与(i
h)を加えたものに等しいため、正弦曲線の第1の組および正弦曲線の第2の組を比較して、大動脈内の血流への患者の心臓の寄与(i
h)を決定することができる。例えば、血行動態パラメータが大動脈圧である場合、それをフーリエ変換からもたらされる正弦曲線の和として、
と表すことができ、ここでPは大動脈圧であり、f
nはポンプ速度または他の動作パラメータに関連する周波数であり、A
nおよびθ
nは動作パラメータの係数である。動作パラメータの変化は、正弦曲線を変化させる。動作パラメータ間の圧力の変化は流量の変化に比例するため、動作パラメータ間の正弦曲線の組の違いを使用して、変化した動作パラメータから流量の差を計算することができる。いくつかの実装形態においては、フーリエ変換を、或る範囲のポンプ速度のうちの各ポンプ速度について計算することができる。いくつかの実装形態において、「ピングされた」ポンプ速度への患者の反応は、短い期間での速度変化の限界(すなわち、ポンプを高い速度へと高め、あるいはポンプを低い速度へと遅くするために要する時間)ゆえに、最小限であり得る。
【0043】
デバイスの動作パラメータの変化からもたらされる経時的な血行動態パラメータのその構成周波数への分解は、血行動態パラメータを複雑な数式または一連の方程式を使用して特徴付けることを可能にする。いくつかの実装形態において、数学的表現は、正弦曲線の比較に基づく指数方程式である。血行動態パラメータ波形が数式によって特徴付けられた後に、血管抵抗およびコンプライアンスなどの心臓パラメータは、方程式から決定され得る。例えば、血行動態パラメータ波形が、
(ここで、BはR*Cに等しく、Dはi
p*Cに等しく、Pは圧力であり、Rは全身抵抗であり、Cは全身コンプライアンスである)の形態の一連の指数関数として特徴付けられる場合、少なくとも3つの時点についてのこれらの係数(すなわち、3つの公知のポンプ動作パラメータに対応する3つの公知の圧力測定値)で連立方程式を解くことによって、全身抵抗およびコンプライアンスの値を計算することができる。
【0044】
患者の心臓機能を表す心拍を、ポンプの動作パラメータの変化から生じる血行動態パラメータの漸進的変化を表す正弦曲線の比較に基づいてシミュレートすることができる。例えば、血液ポンプを、或る範囲のポンプ速度(例えば、P-1、P-2、P-3、P-4、など)で動作させることができ、各ポンプ速度は、ポンプ内のロータの回転速度および類似の周波数(例えば、100Hz、200Hz、300Hz、400Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、3000Hz、など)に対応する。ポンプの速度(または、周波数)を変更すると、ポンプの動作によってもたらされる血管系内の血流が変化するため、血行動態パラメータの値が変化する。複数のポンプ速度(または、ポンプによってもたらされる血流などの動作パラメータ)を徐々に通過して、1つまたは複数の血行動態パラメータに対応する変化を特定すること、血行動態波形を形成すること、および、各ポンプ速度からもたらされる血行動態波形を分解することによって、拡張期における圧力と流量との間の関係が確立される。次いで、将来の心臓機能をシミュレートして機械的循環補助の引き渡しおよび制御を患者に知らせるために使用することができる数学的表現として(測定された血行動態パラメータの関数として)、患者の全体的な心臓機能をマッピングすることができる。例えば、記録された心拍の測定された大動脈圧波形を、以下で説明される方法を使用して構築することができ、その心拍のCOを計算することができる。
【0045】
上述のように、いくつかの実装形態において、ポンプ速度の短時間の変化を、1つの心拍内でポンプに適用することができる。ポンプ速度のこの変化を、インパルス刺激と見なすことができる。この心拍について記録された大動脈圧を、この短時間の速度変化またはインパルス刺激がない場合の心拍の大動脈圧と比較することができる。両者(変更された心拍の大動脈圧および「通常の」心拍の大動脈圧)の差を、大動脈圧のインパルス応答:
Δp(t)=p
1(t)-p
2(t)
と見なすことができ、ここでP
1(t)は、インパルス刺激において測定された圧力波形であり、P
2(t)は、インパルス刺激のない圧力波形であり、ΔP(t)は、大動脈圧のインパルス応答である。
このインパルス刺激が拡張期においてのみ適用される場合、2つの心拍についての総心血流量の差を、
Δi(t)=i
1(t)-i
2(t)
と表すことができ、ここでi
1(t)およびi
2(t)は、それぞれインパルス刺激のある心拍およびインパルス刺激のない心拍についてのポンプ流量であり、Δi(t)は、心血流量のインパルス応答である。
次いで、大動脈圧とポンプ流量の関係を、周波数ドメインにおいて、
と推定することができ、ここで、ΔP(f)は、Δp(t)の周波数ドメイン表現(例えば、高速フーリエ変換またはFFT)であり、ΔI(f)は、Δi(t)の周波数ドメイン表現であり、H(f)は、大動脈圧とポンプ流量の関係についての周波数ドメイン伝達関数である。
この関係H(f)が上述のように確立されると、p(t)として測定された大動脈圧における任意の心拍の総心血流量を、
と計算することができ、ここでP(f)は、p(t)の周波数ドメイン表現であり、IFFTは、逆高速フーリエ変換である。
[本発明1001]
以下の工程を含む、患者の血管パフォーマンスを決定するための方法:
調整可能なポンプ速度で動作するように構成されたポンプを心臓内に配置する工程と、
前記ポンプを第1のポンプ速度でポンピングさせる工程と、
前記第1のポンプ速度でのポンピングの最中に血行動態パラメータを監視する工程と、
第1の期間にわたる心臓の第1の心拍の第1のフェーズを特定する工程と、
前記監視された血行動態パラメータに基づいて、第2の期間にわたる心臓の第2の心拍の第2のフェーズを予測する工程と、
前記第2の心拍の前記第2のフェーズにおいてポンプ速度を第2のポンプ速度に変更する工程と、
前記第2のフェーズにおいて前記血行動態パラメータを監視する工程と、
前記第1のフェーズにおける前記監視された血行動態パラメータを、前記第2のフェーズにおける前記監視された血行動態パラメータと比較して、前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の前記血行動態パラメータの変化を計算する工程と、
前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の前記血行動態パラメータの前記変化に基づいて、血管パフォーマンスを表す指標(metrics)を計算する工程。
[本発明1002]
前記第2のフェーズの後に前記第2のポンプ速度を前記第1のポンプ速度に変更する工程
をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記血行動態パラメータは、大動脈圧である、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1004]
前記第1のフェーズは収縮期および拡張期のうちの一方であり、前記第2のフェーズは、収縮期および拡張期のうちの一方である、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1005]
前記第1のフェーズは、第1の拡張期であり、前記第2のフェーズは、第2の拡張期である、本発明1004の方法。
[本発明1006]
前記第1のフェーズは、第1の収縮期であり、前記第2のフェーズは、第2の収縮期である、本発明1004の方法。
[本発明1007]
前記第1の心拍の前記第1のフェーズを特定する工程は、前記第1のポンプ速度でポンピングさせる工程における前記監視された血行動態パラメータの経時的な変化に基づく、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1008]
心臓の前記第2の心拍の前記第2のフェーズを予測する工程は、心拍サイクルの前記特定された第1のフェーズに基づく、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記第1のフェーズにおいて前記血行動態パラメータを前記第2のフェーズと比較することは、
前記第1のフェーズにおいて心臓によってポンピングされる第1の血液量を計算することと、
前記第2のフェーズにおいて心臓によってポンピングされる第2の血液量を計算することと、
前記第1の血液量と前記第2の血液量との間の数値差を決定することと
を含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の前記血行動態パラメータの経時的な前記変化の線形性を評価する工程
をさらに含む、本発明1008の方法。
[本発明1011]
心臓の心臓パフォーマンスを決定することは、
前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の前記血行動態パラメータの前記変化に基づいて、全身血管系の血管コンプライアンスおよび血管抵抗を計算することと、
ウィンドケッセルモデルを使用して心臓の心拍出量を計算することと
によって決定される、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1012]
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更することは、ポンプ速度を高めることを含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1013]
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更することは、ポンプ速度を下げることを含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1014]
以下のステップを含む、プロセッサ制御の血管内デバイスを使用して患者の心臓の心拍出量を決定するための方法:
心臓の複数の拍動を反映している、心臓の第1の大動脈圧波を検出するステップであって、反映される各拍動は重複切痕を含んでいる、ステップと、
前記複数の拍動のうちの第1の拍動において第1のポンピング速度で心臓に血行動態補助を適用するステップと、
前記複数の拍動のうちの第2の拍動において該拍動の重複切痕の後に心臓に第2のポンピング速度をもたらすことにより、前記第2の拍動において心臓への血行動態補助を調整するステップと、
前記第2の拍動において心臓の第2の大動脈圧波を検出するステップと、
前記プロセッサによって前記第2の大動脈圧波を前記第1の大動脈圧波のうちの前記第2の拍動に対応する部分と比較して、前記第2の大動脈圧波における変化を検出し、血管系の抵抗およびコンプライアンスを特定するステップと、
ソフトウェア内にプログラムされた、心拍出量を血管の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づいて、心臓の本来の心拍出量を決定するステップ。
[本発明1015]
前記非線形伝達関数は、ウィンドケッセルモデルを含む、本発明1014の方法。
[本発明1016]
血行動態補助が、大動脈弁をまたいで配置されるように構成されたカニューレを有する心臓内血液ポンプによってもたらされる、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1017]
前記決定された心拍出量、前記抵抗、または前記コンプライアンスのうちの少なくとも1つに基づいて血行動態補助を調整する工程
をさらに含む、前記本発明のいずれかの方法。
[本発明1018]
カニューレと、血管内で回転し前記カニューレを通して血液をポンピングするように構成されたロータと、前記ロータを回転させるための電力を与えるように構成された駆動機構とを有する、血管内血液ポンプ、
前記血液ポンプの近位側または遠位側に動作可能に配置され、かつ、血管内での血液のポンピングから少なくとも部分的に生じる血管内の圧力を検出するように構成された、圧力センサ、ならびに
前記圧力センサに電気的に接続され、かつ、血圧を表す前記圧力センサからの信号を検出するように構成され、かつ、心拍出量を血管の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形モデルに基づいて本来の心拍出量を計算するように構成された、コントローラ
を備える、拍動している心臓の本来の心拍出量を決定するためのセンサ。
[本発明1019]
前記コントローラは、
心臓の複数の拍動を反映している、心臓の第1の大動脈圧波を検出し(ここで、反映される各拍動は重複切痕を含んでいる)、
前記複数の拍動のうちの第1の拍動において第1のポンピング速度で心臓に血行動態補助を適用し、
前記複数の拍動のうちの第2の拍動において該拍動の重複切痕の後に心臓に第2のポンピング速度をもたらすことにより、前記第2の拍動において心臓への血行動態補助を調整し、
前記第2の拍動において心臓の第2の大動脈圧波を検出し、
前記第2の大動脈圧波を、前記第2の拍動に対応する前記第1の大動脈圧波の一部と比較して、前記第2の大動脈圧波における変化を検出し、かつ大動脈の抵抗およびコンプライアンスを特定し、そして
ソフトウェア内にプログラムされた、心拍出量を大動脈の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づいて、心臓の本来の心拍出量を決定する
ように構成されている、本発明1018のセンサ。
[本発明1020]
前記非線形伝達関数は、ウィンドケッセルモデルを含む、本発明1019のセンサ。
[本発明1021]
前記コントローラは、前記決定された心拍出量、前記血管の抵抗、または前記血管のコンプライアンスのうちの少なくとも1つに基づいてもたらされる血行動態補助を調整するようにさらに構成されている、本発明1018~1020のいずれかのセンサ。
[本発明1022]
以下の工程を含む、血液ポンプを使用して患者に機械的循環補助を提供するための方法:
血液ポンプを患者の血管系内で動作させる工程と、
前記およびセンサのいずれかを使用して患者の心臓の心拍出量を決定する工程と、
前記決定された心拍出量に基づいて血液ポンプのポンピング速度を調整する工程。
[本発明1023]
患者の血管系内を延びるように構成されたカニューレを有する血液ポンプと、
前記血管系内での血液のポンピングから少なくとも部分的に生じる血管内の圧力を検出するように構成された、圧力センサと、
圧力センサ信号および前記血液ポンプの動作パラメータを受信し、
本明細書に記載の方法の態様のいずれかの方法のいずれかに従って本来の心拍出量を決定し、そして
前記決定された本来の心拍出量に基づいて前記血液ポンプの動作パラメータを調整する
ように構成されたコントローラと
を備える、機械的循環補助システム。
[本発明1024]
前記圧力センサは、前記血液ポンプの近位側または遠位側に動作可能に配置され、かつ、大動脈圧を検出するように構成される、本発明1023のシステム。
[本発明1025]
前記血液ポンプは、心臓内血液ポンプであり、前記カニューレは、心臓の左心室内を延びるように構成されている、本発明1023~1024のいずれかのシステム。
[本発明1026]
前記血液ポンプは、
血管内で回転し前記カニューレを通して血液をポンピングするように構成されたロータと、
前記ロータを回転させるための電力を与えるように構成された駆動機構と
を備える、本発明1023~1025のいずれかのシステム。
[本発明1027]
前記コントローラは、
第1のポンプ速度で動作するように前記ポンプに動作指令を送信し、
前記第1のポンプ速度でのポンピングにおける圧力を表す第1の圧力センサ信号を受信し、
第1の期間にわたる心臓の第1の心拍の第1のフェーズを特定し、
前記第1の圧力センサ信号に基づいて、第2の期間にわたる心臓の第2の心拍の第2のフェーズを予測し、
前記第2の心拍の前記第2のフェーズにおいて第2のポンプ速度で動作するように前記ポンプに動作指令を送信し、
前記第2のポンプ速度でのポンピングにおける圧力を表す第2の圧力センサ信号を受信し、
前記第1の圧力センサ信号を前記第2の圧力センサ信号と比較して、前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の圧力の変化を計算し、そして
前記第1のフェーズと前記第2のフェーズとの間の前記圧力の変化に基づいて、本来の心拍出量を計算する
ように構成されている、本発明1023~1026のいずれかのシステム。
[本発明1028]
前記第2のフェーズの後に前記第2のポンプ速度を前記第1のポンプ速度に変更することをさらに含む、本発明1027のシステム。
[本発明1029]
前記第1のフェーズは、収縮期および拡張期のうちの一方であり、前記第2のフェーズは、収縮期および拡張期のうちの一方である、本発明1027~1028のいずれかのシステム。
[本発明1030]
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更することは、ポンプ速度を高めることを含む、本発明1027~1029のいずれかのシステム。
[本発明1031]
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更することは、ポンプ速度を下げることを含む、本発明1027~1030のいずれかのシステム。
[本発明1032]
心臓の本来の心拍出量を決定することは、ソフトウェア内にプログラムされた、心拍出量を大動脈の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づく、本発明1027~1031のいずれかのシステム。
[本発明1033]
前記非線形伝達関数は、ウィンドケッセルモデルを含む、本発明1032のシステム。
[本発明1034]
前記決定された本来の心拍出量に基づいて前記血液ポンプの動作パラメータを調整することは、ポンプ速度を高めるまたは下げる指令を前記血液ポンプに送信することを含む、本発明1023~1033のいずれかのシステム。
[本発明1035]
ディスプレイをさらに備え、前記コントローラは、圧力センサ信号、前記血液ポンプの動作パラメータ、または前記本来の心拍出量のうちの少なくとも1つを表示するために準備するように構成されている、本発明1023~1034のいずれかのシステム。
[本発明1036]
前記コントローラは、
前記ポンプに供給された電流を検出し、そして
前記ポンプに供給された電流に基づいて、ポンプの動作が寄与する血流量を決定する
ように構成されている、本発明1023~1035のいずれかのシステム。
[本発明1037]
以下の工程を含む、心臓の本来の心臓パフォーマンスを決定するための方法:
患者内の血行動態パラメータを変化させるように動作することができる機械的循環補助デバイスを患者の血管系内に配置し、第1の心拍において前記デバイスを第1の出力レベルで動作させる工程と、
前記第1の心拍において血行動態パラメータを検出する工程と、
第2の心拍において第2の出力レベルを出力するように前記デバイスを動作させる工程と、
前記第2の心拍において前記血行動態パラメータを検出する工程と、
前記第1の心拍における前記血行動態パラメータを前記第2の心拍における前記血行動態パラメータと比較して、前記第1の心拍と前記第2の心拍との間の前記血行動態パラメータの変化を計算する工程。
[本発明1038]
前記第1の心拍と前記第2の心拍との間の前記血行動態パラメータの前記変化に基づいて、心臓の本来の心臓パフォーマンスを表す指標を計算する工程
をさらに含む、本発明1037の方法。
[本発明1039]
前記機械的循環補助デバイスは、心臓の左心室内を延びるように構成されたカニューレを有する心臓内血液ポンプを備える、本発明1037または1038の方法。
[本発明1040]
前記血行動態パラメータは、大動脈圧であり、前記機械的循環補助デバイスは、大動脈圧を検出するように構成された圧力センサを備える、本発明1037~1039のいずれかの方法。
[本発明1041]
前記第1の心拍と前記第2の心拍との間の前記血行動態パラメータの前記変化に基づいて、心臓の血管コンプライアンスおよび血管抵抗を計算する工程と、
心臓の本来の心拍出量を計算する工程と
をさらに含む、本発明1037~1040のいずれかの方法。
[本発明1042]
前記第1の心拍の第1の拡張期における前記監視された血行動態パラメータを、前記第2の心拍の第2の拡張期における前記監視された血行動態パラメータと比較して、前記第1の拡張期と前記第2の拡張期との間の前記血行動態パラメータの変化を計算する工程と、
前記第1の拡張期と前記第2の拡張期との間の前記血行動態パラメータの前記変化に基づいて、大動脈の抵抗およびコンプライアンスを決定する工程と、
心拍出量を大動脈の抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づいて、心拍出量を決定する工程と
をさらに含む、本発明1037~1041のいずれかの方法。
[本発明1043]
以下の工程を含む、患者の心臓の本来の心拍出量を決定するための方法:
血管内血液ポンプを第1のポンプ速度で動作させる工程と、
第1の心拍の第1の拡張期において、前記第1のポンプ速度での前記血管内血液ポンプの動作の最中に血行動態パラメータを監視する工程と、
前記第1の拡張期における前記血管内血液ポンプの第1の動作パラメータを決定する工程と、
前記血管内血液ポンプの動作が第2の心拍の第2の拡張期において変化するように、前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更する工程と、
前記第2の心拍の前記第2の拡張期において前記血行動態パラメータを監視する工程と、
前記第2の拡張期における前記血管内血液ポンプの第2の動作パラメータを決定する工程と、
(i)前記第1の動作パラメータ、(ii)前記第2の動作パラメータ、ならびに(iii)前記第1の拡張期および前記第2の拡張期における前記血行動態パラメータに基づいて、心臓の心臓パフォーマンスを表す指標を計算する工程。
[本発明1044]
前記第1の動作パラメータを決定する工程は、前記第1の拡張期において前記血液ポンプによってもたらされる第1の血流量を決定することを含み、前記第2の動作パラメータを決定する工程は、前記第2の拡張期において前記血液ポンプによってもたらされる第2の血流量を決定することを含む、本発明1043の方法。
[本発明1045]
前記第1および第2の拡張期について、前記血行動態パラメータの数学的表現を決定する工程と、
(i)前記数学的表現、(ii)前記第1の動作パラメータ、および(iii)前記第2の動作パラメータに基づいて、前記第1および第2の拡張期の心臓パフォーマンスの表現を計算する工程と
をさらに含む、本発明1043~1044のいずれかの方法。
[本発明1046]
心臓パフォーマンスを計算することは、
前記第1の拡張期の前記血行動態パラメータを表す第1の波形を、フーリエ変換を使用して分解し、正弦曲線の第1の組を決定することと、
前記第2の拡張期の前記血行動態パラメータを表す第2の波形を、フーリエ変換を使用して分解し、正弦曲線の第2の組を決定することと、
前記正弦曲線の第1の組と前記正弦曲線の第2の組とを比較して、大動脈内の血流に対する患者の心臓の寄与を決定することと
を含む、本発明1045の方法。
[本発明1047]
前記数学的表現は、前記正弦曲線の比較に基づく指数方程式である、本発明1046の方法。
[本発明1048]
前記正弦曲線の比較に基づいて、患者の心臓機能を表す理想的心拍をシミュレートする工程をさらに含む、本発明1047の方法。
[本発明1049]
心臓パフォーマンスを表す前記指標を計算する工程は、
経時的な前記血行動態パラメータの前記数学的表現に基づいて、心臓の血管コンプライアンスおよび血管抵抗を決定することと、
前記決定された血管コンプライアンスおよび血管抵抗を使用して、心臓の心拍出量を計算することと
を含む、本発明1037~1048のいずれかの方法。
[本発明1050]
前記血行動態パラメータは、大動脈圧である、本発明1037~1049のいずれかの方法。
[本発明1051]
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更する工程は、ポンプ速度を高めることを含む、本発明1037~1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
前記第1のポンプ速度を第2のポンプ速度に変更する工程は、ポンプ速度を下げることを含む、本発明1037~1050のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】患者の血管に挿入された例示的な心臓ポンプシステムを示している。
【
図2】特定の実装形態による心臓の心臓パフォーマンスを表す指標を計算するためのプロセスを示している。
【
図3】特定の実装形態による心臓ポンプシステムの圧力の時間に対するプロット300を示している。
【
図4】特定の実装形態による圧力、モータ速度、および流量の時間に対するプロットを示している。
【
図5】特定の実装形態によるウィンドケッセルモデルを示している。
【
図6】特定の実装形態による患者に組み合わせられたCOセンサを示している。
【
図7】特定の実装形態によるCOを決定するためのプロセスを示している。
【
図8】特定の実装形態による2つの心拍の間の血行動態パラメータの変化を決定するためのプロセスを示している。
【
図9】特定の実装形態によるCOを決定するためのプロセスを示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
詳細な説明
本明細書に記載のシステム、方法、およびデバイスの全体的な理解をもたらすために、特定の例示的な態様を説明する。本明細書に記載の態様および特徴は、経皮的心臓ポンプシステムに関連した使用について具体的に説明されるが、以下で概説される構成要素および他の特徴は、任意の適切なやり方で互いに組み合わせることが可能であり、外科的切開を使用して埋め込まれる心臓ポンプシステムや大動脈内ポンプなど、他の種類の心臓治療および心臓ポンプシステムへの適合および適用が可能であることを、理解できるであろう。
【0048】
本明細書に記載のシステム、デバイス、および方法は、臓器内に完全または部分的に位置する補助デバイスによって、その臓器の機能を評価することを可能にする。とくには、システム、デバイス、および方法は、経皮的心室補助デバイスなどの心臓ポンプシステムを使用して、心臓の機能を評価することを可能にする。例えば、そのようなデバイスを、心原性ショックの治療に使用することができる。
【0049】
心臓ポンプシステムを使用して心臓の機能を評価することで、医療専門家に心臓機能の変化を警告することができ、専門家が補助デバイスによってもたらされる補助の程度/レベル(すなわち、デバイスによってポンピングされる血液の流量)を特定の患者のニーズに基づいて調整することを可能にすることができる。例えば、患者の心臓機能が悪化しているときに補助の程度を増加させることができ、あるいは患者の心臓機能が回復して、正常な心臓機能のベースラインへと戻るときに、補助の程度を減少させることができる。これにより、心臓の回復を促進するようにデバイスを心臓機能の変化に動的に応答させることを可能にでき、患者を徐々に治療から切り離すことを可能にすることができる。さらに、心臓機能の評価は、心臓ポンプシステムの使用をいつ終了させることが適切であるかを示すことができる。本明細書に提示されるいくつかの態様は、大動脈弁をまたいで埋め込まれ、部分的に左心室に位置する心臓ポンプシステムを対象とするが、考え方は、心臓、心臓血管系、または身体の他の領域内のデバイスに適用可能である。
【0050】
心機能の評価は、心臓とデバイスとの相互作用を利用して心臓パラメータを決定することを含むことができる。伝統的な線形近似を改善し、血管反応の動的変動を提供するために、血管系のウィンドケッセルモデルを使用して、本明細書に記載のシステムおよび方法は、心臓ポンプシステムによって血管系の制御された乱れを導入し、これに応答して、一回拍出量、血管抵抗およびコンプライアンス、CO、ならびに左心室拡張末期圧などの心臓パラメータを計算する。とくには、本明細書に記載のシステム、デバイス、および方法は、機械的循環補助システムを使用して心拍を「ピング」する。「ピング」は、例えば単一の心拍において、或る期間にわたって心臓ポンプシステムのポンプ速度を高めることで、大動脈の圧力および流れにスパイクを生じさせることを含む。ピングの最中に血行動態パラメータが変化し、これを検出して別の時点(すなわち、心臓ポンプシステムがピングされていないとき)の血行動態パラメータと比較して、他の血行動態パラメータを計算したり、あるいは心臓パフォーマンスを測定したりすることが可能である。
【0051】
心臓ポンプシステムの作用を使用することによって血管および心臓パフォーマンスを継続的に測定することで、適切なデバイス補助の滴定に役立つ追加の臨床データを提供することができる。またシステムおよび方法は、本来の心拍出量の決定を含む心臓および血管の状態の決定のために、デバイス-動脈連関の使用も提供する。本明細書に提示される機械的循環補助システムは、心臓内に位置し、本来の心室機能と並行して働く。これにより、システムは、いくつかのより侵襲的なデバイスとは異なり、本来の心室機能を検出するための充分な感度を有することができる。したがって、システム、デバイス、および方法は、機械的循環補助システムを、補助デバイスとしてだけでなく、診断および予測ツールとして使用することも可能にする。心臓ポンプシステムは、心臓に流体力学的に結合する(hydraulically coupling)ことによって、心臓機能に関する情報を抽出するセンサとして機能することができる。いくつかの実装形態においては、心臓ポンプシステムが一定のレベル(例えば、ロータの一定の回転速度)で動作する一方で、補助デバイスに供給される電力が測定される。特定の実装形態においては、本来の心臓機能をさらに調べるために、心臓ポンプシステムのロータの速度を(例えば、デルタ、ステップ、またはランプ関数として)変更することができる。
【0052】
図1は、患者の血管に挿入された例示的な心臓ポンプシステムを示している。一例として、本開示と互換性のある心臓ポンプシステムが、米国特許出願公開第2018-0078159-A1号に開示されており、この米国特許出願公開の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。一般に、任意の他の心臓ポンプシステムまたは他の機械的循環補助システム(ならびに、患者から生理学的データを取得するためのセンサ)を、本開示とともに使用することができる。いくつかの実装形態において、本明細書に記載のシステムおよび方法は、展開式のポンプ(例えば、Heartmate PHP(商標)ファミリーのデバイス(Thoratec Corporation))または左心房から大腿動脈へのバイパスポンプ(例えば、TandemHeartファミリーのデバイス(LivaNova、PLC))を使用することができる。いくつかの実装形態において、本明細書に記載のシステムおよび方法は、IMPELLA(登録商標)ファミリーのデバイス(マサチューセッツ州DanversのAbiomed,Inc.)を使用することができる。
【0053】
心臓ポンプシステム100は、心臓内、部分的に心臓内、心臓の外部、部分的に心臓の外部、部分的に血管系の外部、または患者の血管系の任意の他の適切な場所で動作してよい。カニューレ173が、ポンプへの血液入口(例えば、血液入口172)が左心室内に位置し、ポンプからの出口(例えば、出口開口部170)が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置されたときに、心臓ポンプシステムが「適切な位置にある」と見なすことができる。心臓ポンプシステム100は、心臓ポンプ106および制御システム104を含む。制御システム104の全部または一部が、心臓ポンプ106から分離した/遠隔のコントローラユニット内にあってよい。いくつかの実装形態において、制御システム104は、心臓ポンプ106の内部にある。制御システム104および心臓ポンプ106は、縮尺どおりに示されているわけではない。ポンプシステム100は、細長いカテーテル本体105と、モータハウジング102と、ポンプ要素が形成される駆動シャフトとを含む。ポンプ100は、ポンプハウジング134およびモータハウジング102を含み、モータハウジング102は、モータハウジング102の遠位端111においてカニューレ173に結合している、ドライブシャフト上のインペラブレードをポンプハウジング134内で回転させて、吸い込みヘッド174におけるカニューレ173への血流を生じさせることができる。吸い込みヘッド174は、カニューレ173の遠位端部分171に血液入口172をもたらす。血液の流れ109は、カニューレ173を第1の方向108に通過し、カニューレ173の1つまたは複数の出口開口部170においてカニューレ173を出る。
【0054】
ポンプハウジング134内の駆動シャフトの回転が、ベアリングギャップ内のポンプ要素を回転させる。血液適合性流体が、細長いカテーテル105を通り、モータハウジング102を通ってカニューレ173の近位端部分へと送り出され、ここで流体はポンプを潤滑する。血液適合性流体の流れは、ポンプのベアリングギャップを通る第2の方向122を有する。ベアリングギャップを出た後で、血液適合性流体は、流れ方向123に従い、血液の流れに混ざり込み、血液とともに大動脈へと流れ込む。
【0055】
心臓ポンプ100は、シース175を通って患者の血管に挿入される。ポンプハウジング134は、ロータおよび内部ベアリングを囲み、患者の血管へと経皮的に挿入されるようなサイズであってよい。いくつかの実装形態において、ポンプは、血管系を通り、大動脈弓164を過ぎて進められる。ポンプが左心室内に図示されているが、代わりに、血液を患者の下大静脈または右心房から右心室を通って肺動脈へとポンピングするように、ポンプを右心に配置してもよい。
【0056】
心臓ポンプ100を血管または心室において安定させるために、カニューレ173の遠位端部分171において、吸い込みヘッド174の遠位側に、可撓性の突出部176が含まれる。可撓性の突出部176は、非外傷性であり、吸い込みヘッド174が血管の壁に近付き、吸い込みによって血管の壁に貼り付く可能性を防止する役に立つ。可撓性の突出部176は吸い込みを有さないため、可撓性の突出部176は、ポンプ100を機械的に延ばすが、流体に関して延ばすわけではない。いくつかの実装形態においては、可撓性の突出部をピグテールとして形成することができる。いくつかの局面において、ポンプは、必ずしも可撓性の突出部を含まなくてもよい。
【0057】
細長いカテーテル105は、流体供給ラインおよび電気接続ケーブルを備えた接続126を収容する。さらに、接続126は、流体リザーバからポンプへと血液適合性流体を供給し、制御システム104内に収容される。
【0058】
制御システム104は、電力をモータに送りモータ速度を制御することによってポンプ106を制御する、コントローラ182を含む。制御システム104は、ライン内の空気を知らせる電流の低下についてモータ電流を監視し、差圧信号の変化を監視し、流れの位置を監視し、吸い込みを監視し、あるいは任意の他の適切な測定を監視するための回路を含む。いくつかの実装形態において、制御システム104は、差圧信号およびモータ電流などの測定値を表示するための表示画面を含む。制御システム104は、センサの故障、接続126の切断または破損、あるいは患者の健康の突然の変化をオペレータに警告するための警告音、警告灯、またはインジケータを含むことができる。
【0059】
モータ108は、ロータを設定された速度に維持するために必要な速度で動作するように構成される。結果として、以下でさらに説明されるように、ロータ速度を維持するためにモータが引き出すモータ電流を監視して、根底にある心臓の状態を理解するために使用することができる。制御システム104は、補助対象の心臓の心拍サイクル内でポンプの速度を変更して、ポンプを通る血流の変化をもたらすように構成され、ポンプの速度の変更は、心拍サイクル内の所定のイベントに関係する心拍サイクルごとに少なくとも1つのイベントによって心拍に同期され、すなわち本明細書において説明されるシステム、デバイス、および方法は、心臓ポンプシステムを使用して心拍を「ピング」する。「ピング」が発生すると、心臓ポンプシステム(または、他の機械的循環補助デバイス)のポンプ速度が、例えば心拍サイクルの一フェーズの間など、比較的短い時間にわたって高められ、あるいは低くされ、その後にベースラインまたは他の速度に変更される。ポンプ速度を、単一の心拍における期間または複数の心拍にまたがる期間にわたって高めることができる。
【0060】
心臓ポンプは、さまざまなポンプ速度またはPレベルで動作することができる。Pレベルは、心臓ポンプシステムのパフォーマンスレベルであり、システムの流量制御に関係する。Pレベルが高くなると、心臓ポンプシステムに関する流量、モータ電流、および1分あたりの回転数が増加し、したがって、より高いPレベルは、心臓ポンプシステムに関するより多い流量およびより高い1分あたりの回転数に対応する。例えば、パワーレベルP-1が、ロータの第1の1分あたりの回転(RPM)数に対応できる一方で、パワーレベルP-2は、第2のRPM数に対応することができる。いくつかの例において、ポンプは、P-0からP-9までの範囲の10個の異なるパワーレベルで動作する。これらのPレベルは、0RPM~100,000RPMまたは任意の適切な数に対応できる。
図3に示され、以下で説明されるように、ロータの速度を変更すると、心臓のCOが変化する。
【0061】
いくつかの実装形態においては、ポンプ速度が、単一の心拍における収縮期、拡張期、またはその両方において高められる。ピングは、ポンプ速度の上昇が心拍の公知の期間にわたって発生するようにタイミングをはかる。例えば、速度ピングの開始を、拡張期の開始、拡張期の終了、収縮期の開始、収縮期の終了、ピーク収縮期圧、または任意の他の適切な時期に同期させることができる。速度ピングの終了を、拡張期の開始、拡張期の終了、収縮期の開始、収縮期の終了、ピーク収縮期圧、または任意の他の適切な時期に同期させることができる。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は、設定された期間にわたって高められ、あるいは低くされる。例えば、ピングの開始を、拡張期の開始、重複切痕または重複切痕後、拡張期の終了、収縮期の開始、収縮期の終了、ピーク収縮期圧、または任意の他の適切な時期に同期させることができる。ピングは、設定された期間にわたって続いてよい。例えば、ピングは、0.05秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、または任意の他の適切な時間にわたって続いてよい。
【0062】
制御システム104は、電流センサ(図示せず)を含む。コントローラ182は、1つまたは複数の電線などを介し、接続126によってモータ108に電流を供給する。接続126を介してモータ108に供給される電流は、電流センサによって測定される。機械式ポンプのモータが被る負荷は、圧力ヘッドの力に対応し、あるいは大動脈圧と左室圧との間の差に対応する。心臓ポンプ106は、所与の圧力ヘッドにおける定常状態動作において公称負荷を被り、この公称負荷からの変動は、例えば左室収縮の力学などの外部負荷条件の変化の結果である。動的負荷条件の変化は、ポンプロータを一定または実質的に一定の速度で動作させるために必要なモータ電流を変化させる。上述のように、モータは、ロータを設定された速度に維持するために必要な速度で動作することができ、ロータ速度を維持するためにモータが引き出すモータ電流を監視して、根底にある心臓の状態を検出するために使用することができる。心臓の状態を、圧力センサ112を使用して心拍サイクルの最中に圧力ヘッドを同時に監視することによって正確に定量化および理解することができる。心臓パラメータ推定器185が、電流センサからの電流信号、ならびに圧力センサ112からの圧力信号を受信する。心臓パラメータ推定器185は、これらの電流および圧力信号を使用して、心臓の機能を明らかにする。心臓パラメータ推定器185は、格納されたルックアップテーブルにアクセスして、圧力および電流信号に基づいて心臓の機能を明らかにするための追加の情報を取得することができる。例えば、心臓パラメータ推定器185は、圧力センサ112から大動脈圧を受信することができ、ルックアップテーブルを用いて、大動脈圧を使用してデルタ圧力を決定することができる。心臓パラメータ推定器185は、コントローラ182にプログラムされたソフトウェアであってよく、あるいは有線または無線接続によってコントローラ182に接続された別個のハードウェアであってよい。心臓パラメータ推定器185は、本明細書に記載のアルゴリズムを実行するように構成される。例えば、心臓パラメータ推定器185を、ポンプに送られる電流に基づいてポンプ流量を推定するように構成してもよく、本明細書に記載の方法に従って本来の心拍出量を明らかにするように構成してもよい。
【0063】
圧力センサのさまざまな実装形態を使用することができる。一例は、光学センサまたは差動センサである。差圧センサは、カニューレ172に統合された可撓膜である。センサの一方側が、カニューレの外部の血圧に曝され、他方側が、カニューレの内部の血圧に曝される。センサは、カニューレの外部の圧力と内部の圧力との間の差に比例する電気信号(差圧信号)を生成し、これを心臓ポンプシステムによって表示してもよい。心臓ポンプシステムが大動脈弁をまたぐ正しい位置に配置されると、センサの上部(外面)が大動脈圧に曝され、センサの下部(内面)が心室内圧に曝される。したがって、差圧信号は、大動脈圧と心室内圧との間の差にほぼ等しい。光学センサまたは流体充てんカラムなど、他のセンサを使用することも可能である。
【0064】
図2が、心臓の心臓パフォーマンスを決定するためのプロセス200を示している。このプロセスは、監視対象の血行動態パラメータを比較し、心臓の心臓パフォーマンスを表す指標(例えば、CO)を計算するために、患者の心臓内のポンプの動作を変更(ピング)することに関連する一連のステップを含む。例えば、以下で説明されるプロセスは、ポンプの速度を短時間にわたって高め、ポンプ速度を高めた当該時間における大動脈圧を通常のポンプ動作における大動脈圧と比較して、血管抵抗または血管コンプライアンスを計算し、あるいは明らかにすることができ、これを使用してCOを割り出し、さらには/あるいは患者をより良好に処置するようにポンプの動作を変更することができる。血管抵抗または血管コンプライアンスは、ウィンドケッセルモデル(
図5で後述)または他の非線形時間依存モデルを介して、ポンプの通常動作およびポンプの高い速度での動作にそれぞれ1つずつの2つの方程式の系を構築することによって決定され、この系を、測定または推定による圧力および流量の値を使用して解いて、全身の血管系の抵抗値およびコンプライアンス値を計算することができる。プロセス200を、
図1の心臓ポンプシステム100または任意の他の適切な機械的循環補助システムを使用して実行することができる。
【0065】
ステップ202において、ポンプ(例えば、
図1のポンプ102)が、患者の心臓内に配置される。いくつかの実装形態において、ポンプは、経皮的挿入によって患者の心臓内に配置される血管内血液ポンプデバイスである。いくつかの実装形態において、ポンプは、外科的に埋め込まれたデバイス、左心室補助デバイス、カウンターパルセーションデバイス、展開式心臓ポンプ、または任意の他の適切なデバイスであってよい。ポンプは、患者が心原性ショックの状態にあるかあるいは他のかたちで健康の低下に直面しているという理由で、患者へと導入される可能性がある。ポンプを、ポンプへの血液入口(例えば、
図1の血液入口172)が左心室内に位置し、ポンプからの出口(例えば、
図1の出口開口部170)が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置することができる。
ポンプは、
CO=i
h+i
p(1)
となるように本来の心臓の動作に寄与し、ここでCOは総心拍出量であり、i
hは本来の心拍出量であり、i
pはポンプの寄与による流量である。
【0066】
ステップ204において、血行動態パラメータが、ポンプを第1のポンプ速度で動作させつつ監視される。血行動態パラメータは、体内の血流に関連する任意のパラメータであってよい。例えば、血行動態パラメータは、心拍、血圧、動脈酸素飽和度、混合静脈飽和度、中心静脈酸素飽和度、動脈血圧、平均動脈圧、右動脈圧、中心静脈圧、右心室圧、肺動脈圧、平均肺動脈圧、肺動脈閉塞圧、左心房圧、大動脈圧、差圧、左心室末期圧、一回拍出量、一回拍出量指数、一回拍出量変動、全身血管抵抗、全身血管抵抗指数、肺血管抵抗、肺血管抵抗指数、肺血管抵抗、肺血管抵抗指数、左心室一回仕事量、左心室一回仕事量指数、右心室一回仕事量、右心室一回仕事量指数、冠状動脈かん流圧、右心室拡張末期容積、右心室拡張末期容積指数、右心室収縮末期容積、右心室駆出率、動脈酸素含有量、静脈酸素含有量、動脈-静脈酸素含有量差、酸素運搬、酸素運搬指数、酸素消費量、酸素消費量指数、酸素摂取率、酸素摂取指数、総末梢抵抗、CO、心係数、およびCPOのうちの少なくとも1つを含むことができる。ポンプ速度は、ポンプの動作の速度であり、ポンプの動作によってもたらされる血流の量に対応する。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は、ロータの回転速度に対応し得る。例えば、ポンプ速度は、10,000 RPM、20,000 RPM、30,000 RPM、40,000 RPM、50,000 RPM、60,000 RPM、70,000 RPM、80,000 RPM、90,000 RPM、100,000 RPM、または任意の適切な速度であり得る。ポンプ速度は、
図1に関連して上述したように、パワーレベルまたはPレベルに対応し得る。例えば、ポンプ速度は、P-1、P-2、P-3、P-4、P-5、P-6、P-7、P-8、P-9、または任意の他の適切な値であり得る。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は、代わりに、ポンプのチャンバが血液で満たされるおよび血液を放出する速度に対応し得る。
【0067】
ステップ206において、心臓の第1の心拍の第1のフェーズが特定される。例えば、第1のフェーズは、収縮期、拡張期、または任意の他の適切なフェーズであり得る。第1の心拍の第1のフェーズは、血行動態パラメータ波形の形状から特定される。例えば、血行動態パラメータは、大動脈圧であり得る。プロセス200は、大動脈圧波形の極小値を特定し、極小値から重複切痕を決定することを含み、重複切痕の開始が拡張期の開始を表す。第1の心拍の第1のフェーズは、第1の期間において生じる。例えば、第1の期間は、0.05秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、または任意の適切な時間長であり得る。
【0068】
ステップ208において、第2の心拍の第2のフェーズが、監視対象の血行動態パラメータに基づいて予測される。例えば、第2のフェーズは、収縮期、拡張期、または任意の他の適切なフェーズであり得、第2のフェーズは、第1のフェーズ(例えば、拡張期)と同じフェーズであり得る。第2のフェーズは、血行動態パラメータを経時的に監視し、血行動態パラメータにおけるパターンを決定して、心拍サイクルの第2のフェーズがいつ始まるかを予期することによって予測される。いくつかの実装形態において、第2のフェーズの予測は、心拍サイクルの特定された第1のフェーズにさらに基づくことができる。例えば、第1のフェーズが第1の心拍の拡張期であり、第2のフェーズが第1の心拍の直後の第2の心拍の拡張期である場合、第2のフェーズは、心拍の平均の長さを決定し、心拍の長さを第1のフェーズの開始時間に追加することによって第2のフェーズの開始を計算することにより、予測可能である。第2の心拍の第2のフェーズは、第2の期間にわたって生じる。例えば、第2の期間は、0.05秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、または任意の適切な時間長であり得る。第2の心拍(および、後続の心拍)がいつ始まるかを推定することにより、システムは、ポンプ速度の変化の時期を、その効果(左心室からの流量の増加、大動脈圧の上昇、など)が第2の心拍の所望の第2のフェーズにおいて生じるように決定することができる。
【0069】
一例において、第1のフェーズは第1の心拍の拡張期であり、第2のフェーズは第2の心拍の拡張期である。別の例において、第1のフェーズは第1の心拍の収縮期であり、第2のフェーズは第2の心拍の収縮期である。一例において、第1のフェーズは第1の心拍の拡張期であり、第2のフェーズは第1の心拍の収縮期である。
【0070】
ステップ210において、ポンプ速度が、ポンプが心拍サイクルの第2のフェーズにおいて第2のポンプ速度で動作するように変更されることで、この第2のフェーズにおいて心拍が「ピング」される。ポンプ速度は、高められても、あるいは下げられてもよい。
図3に示され、以下で説明されるように、ポンプ速度を拡張期において高めることができ、すなわち、第1のフェーズが第1の心拍の収縮期であってよく、第2のフェーズが第1の心拍の拡張期であってよい。ポンプ速度の変化を達成するために、コントローラ(例えば、
図1のコントローラ104)は、信号の送信とポンプ速度の物理的な変化との間に存在し得る時間遅延を考慮し、ポンプ速度の変化が第2のフェーズにおいて生じるように、第2のフェーズの開始前に、ポンプ速度を変更する信号をポンプへと送信することができる。単一の心拍においてポンプ速度を変更することにより、第1および第2のフェーズの間の血行動態データの収集に影響を与えるノイズまたは外部要因がほとんどまたはまったく存在しないことが保証される。
【0071】
「ピング」後にポンプ速度が変化する。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は、第2の心拍の第2のフェーズの後に再び第1のポンプ速度に変更される。例えば、心臓ポンプは、収縮期または拡張期の期間においてのみ第2のポンプ速度で動作し、その後にその期間において再び第1のポンプ速度に戻ることができる。
【0072】
ステップ212において、血行動態パラメータは、ピングが発生している間、第2の心拍の第2のフェーズにおいて監視される。例えば、心臓ポンプシステムは、大動脈圧または任意の他の血行動態パラメータを継続的に監視することができる。ステップ214において、第1のフェーズにおいて監視された血行動態パラメータは、第2のフェーズにおいて監視された血行動態パラメータと比較される。例えば、第1のフェーズにおいて心臓によってポンピングされた第1の血液量、および第2のフェーズにおいて心臓によってポンピングされた第2の血液量を、計算することができる。第1の血液量と第2の血液量との間の数値差を計算して、第1の心拍の第1のフェーズにおける血行動態パラメータを、第2の心拍の第2のフェーズと定量的に比較することができる。
【0073】
ステップ216において、心臓の心臓パフォーマンスを表す指標が、第1のフェーズと第2のフェーズとの間の血行動態パラメータの変化に基づいて計算される。例えば、心臓パフォーマンスを表す指標は、全身抵抗、心臓コンプライアンス、CO、CPO、一回拍出量、一回仕事量、駆出率、心筋収縮能、心室エラスタンス、心係数、患者の生存の予測であり得る。例えば、心拍サイクルの第1のフェーズにおいて心臓によってポンピングされた第1の血液量と心拍サイクルの第2のフェーズにおいて心臓によってポンピングされた第2の血液量との間の数値差を、計算することができる。血液量の数値差を使用して、個々の心拍の一回拍出量、または所望の期間の平均心拍出量(CO)を決定することができる。心臓パフォーマンスを表す多数の指標は、相互に関連している。例えば、COは、ポンプを通過する血液の流量に基づいて決定される。一回拍出量は左心室機能の指標であり、その式はSV=CO/HRであり、ここでSVは一回拍出量であり、COは心拍出量であり、HRは心拍数である。一回仕事量は、血液を排出するために心室によって行われる仕事であり、一回拍出量から式SW=SV*MAPに従って計算することができ、ここでSWは一回仕事量であり、SVは一回拍出量であり、MAPは平均動脈圧である。心仕事量は、一回仕事量と心拍数との積によって計算される。CPOは、心臓のポンピング能力を表す心機能の尺度であり、単位はワットである。CPOは、式CPO=mAoP*CO/451を使用して計算され、ここでCPOは心出力であり、mAoPは平均動脈圧であり、COは心拍出量であり、451はmmHg x L/分をワットに変換するために使用される定数である。駆出率は、一回拍出量を心室の血液量で割り算することによって計算することができる。チャンバ圧力、前負荷状態、後負荷状態、心臓回復、流れ負荷状態、可変体積負荷状態、および/または心拍サイクル流れ状態などの他のパラメータを、これらの値から計算することができ、あるいはこれらのパラメータを介して決定することができる。いくつかの実装形態において、心臓の心臓パフォーマンスを表す指標は、動的かつ非線形な心臓および血管の相互作用をモデル化するために、血管系の2要素ウィンドケッセルモデル(例えば、
図5のウィンドケッセルモデル)を介して計算される。したがって、このプロセスは、血管系の時変非線形モデルを採用し、心室-血管連関の良好に制御された類似物あるデバイス-動脈連関を活用して、追加の外部測定を必要とすることなく、継続的に全身の血管抵抗および血管コンプライアンスを決定し、心臓の一回拍出量を定量化する。
【0074】
随意によるステップ218において、心臓パフォーマンスを表す指標に基づいて、ポンプの動作が調整される。いくつかの実装形態においては、ポンプ速度が、心臓パフォーマンスを表す指標に基づいて高められ、あるいは下げられる。
【0075】
図3は、特定の実装形態による心臓ポンプシステムの圧力対時間のプロット300を示している。プロット300のy軸が、大動脈圧(mmHg)を表す一方で、x軸は、時間を心拍長のパーセンテージとして表している。とくには、プロット300は、大動脈圧へのピングの影響を示している。t
1が第1の心拍の時間を表し、t
2が第1の心拍の後の第2の心拍の時間を表す。時間t
1およびt
2は、心臓ポンプシステムが少なくとも部分的に患者の心臓内に配置されているときに起こる。点310が、第1の心拍における収縮期ピーク圧力を表し、点320が、第2の心拍における収縮期ピーク圧力を表す。点312が、第1の心拍における重複切痕を表し、点322が、第2の心拍における重複切痕を表す。拡張期t
3およびt
4は、それぞれ第1および第2の心拍の拡張期を表す。時間t
1において、ポンプは第1のポンプ速度で動作する。時間t
4において、ポンプは、第1のポンプ速度よりも速い第2のポンプ速度で動作する。
【0076】
より高いポンプ速度では、測定される大動脈圧および総流量が、より低いポンプ速度と比較して大きくなる。したがって、ポンプが第1のポンプ速度よりも高い第2のポンプ速度で動作する拡張期t4において、大動脈圧は、ポンプが第1のポンプ速度で動作する拡張期t3における大動脈圧よりも高い。拡張期t3およびt4の間の大動脈圧の差は、影付きの領域324によって図示されている。この差は、同じ期間t4における流量およびCOの増加に相関する。
【0077】
図4が、圧力、モータ速度、および流量の時間に対するプロットを示している。圧力のプロット410のy軸は、大動脈圧(mmHg)を表し、モータ速度のプロット420のy軸は、モータ速度をPレベルによって表し、流量のプロット530のy軸は、流量(mL/s)を表している。プロット410、420、430のx軸は、時間を心拍長のパーセンテージとして表している。3つのプロットのすべてについて、t
1が第1の心拍の時間を表し、t
2が第1の心拍の後の第2の心拍の時間を表す。時間t
1およびt
2は、心臓ポンプシステムが少なくとも部分的に患者の心臓内に配置されているときに起こる。時点440において、第2の心拍が始まる。時点450において、第2の心拍の拡張期t
3が始まる。時点460において、第2の心拍が終わる。
【0078】
圧力のプロット410は、上述のプロット300と同様である。点410が、第1の心拍の重複切痕を表し、点414が、第2の心拍の重複切痕を表し、点416が、第2の心拍の収縮期上り行程の開始を表す。プロット410の点410(第1の心拍の重複切痕)に対応する時点450において、モータ速度のプロット420に示されるように、ポンプ速度が高められる。期間t1において、ポンプは、ポンプ速度P-4で動作する。拡張期t3において、ポンプは、ポンプ速度P-6で動作する。コントローラがポンプ速度を変更する信号をポンプに送信してから、ポンプ速度が高くなるまでに、時間遅延が存在する可能性がある。圧力のプロット410および流量のプロット430に見られるように、期間t3において、ポンプ速度がP-6まで上昇すると、流量および圧力の両方が増加する。
【0079】
図5は、ウィンドケッセルモデル500を示している。ウィンドケッセルモデル500は、電流源510、電流源520、抵抗530、およびコンプライアンス540を含む。このモデルの支配方程式は、
であり、ここでCはコンプライアンスであり、Pは圧力であり、Rは全身抵抗であり、i
hは本来の心臓の動作からの流れであり、i
pはポンプからの流れである。しかしながら、拡張期においては大動脈弁が閉じているため、左心室を通る唯一の流れは、弁をまたいで配置されたポンプからの流れである。したがって、心臓電流源を割り引き、ポンプの流れが一定であると仮定することにより、モデルを以下:
のように簡略化でき、ここでP
0は、拡張期における初期大動脈圧である。次いで、抵抗およびコンプライアンスを、以下の2つの式によって決定することができ、ここでP1およびP2は、異なるポンプ速度で測定された圧力波形である。
低いポンプ速度においては、i
p1Rをゼロと近似することができ、式(5)に関して単純な指数関数がもたらされる。式(6)およびこの簡略化を使用してRを決定した後に、i
p1Rの項を再び式(5)に追加して、Cを正確に決定することができる。
【0080】
このようにして、血管の状態を、心臓ポンプの速度の変化によって引き起こされる大動脈圧の差を測定することにより、この期間において血管の状態が安定なままであるという仮定を根拠に、心臓ポンプシステムによって測定される大動脈圧の波形の分析を通じて決定することができる。全身血管抵抗は、2つの異なるImpella動作点における上述の式と、推定されたImpella流量の差とを使用して決定される。次いで、これらの血管の状態の値を上述の一般式において測定された大動脈圧とともに使用して、心臓からの流れを計算することにより、心臓パフォーマンスを決定することができる。流量波形の脈動駆出成分は、心拍出量またはCOを推定するために、心拍サイクルの駆出フェーズにわたって数値積分される。
【0081】
図6が、患者600に結合したCOセンサ610を示しており、COセンサは、本来の心拍出量を決定するように構成されている。COセンサ610は、本明細書に記載の方法を実行するように構成された種々のハードウェア要素を含み得る。いくつかの実装形態において、COセンサは、血管内血液ポンプ(例えば、
図1のポンプ202)と、ポンプを動作させ、ポンプの動作状態および血管内圧力を表す入力を受信し、かつ本来の心臓を決定するためのコントローラとを含む。血管内血液ポンプを、少なくとも部分的に患者の心臓内に配置されるように構成することができる。いくつかの実装形態において、血管内血液ポンプは、カニューレと、血管内で回転しカニューレを通して血液をポンピングするように構成されたロータと、ロータを回転させるための電力を与えるように構成された駆動機構とを含む。いくつかの実装形態において、カニューレは、カニューレの遠位端が左心室内にあり、カニューレの近位端が大動脈内にあるように、大動脈弁をまたいで延びるように構成され得る。例えば、カニューレが、ポンプへの血液入口が左心室内に位置し、ポンプからの出口が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置されたときに、心臓ポンプシステムが「適切な位置にある」と見なすことができる。駆動機構は、内蔵モータ、駆動ケーブル、駆動シャフト、または任意の他の適切な要素、あるいはこれらの組み合わせを含み得る。
【0082】
いくつかの実装形態において、COセンサ610は、カニューレに結合した細長いカテーテル本体を含む。細長いカテーテルは、駆動ケーブル、血液ポンプを制御システムに接続する電気配線、任意の適切な要素、またはこれらの任意の組み合わせを含み得る。いくつかの実装形態において、血液ポンプは、ポンプハウジングおよびモータハウジングを含み、モータハウジングは、モータハウジングの遠位端でカニューレに結合する。ロータをポンプハウジング内で回転させ、カニューレへの血流を生じさせることができる。
【0083】
COセンサ610は、血管内での血液のポンピングことから少なくとも部分的に生じる血管内の圧力を検出するように構成された圧力センサを含む。例えば、圧力センサは、血液ポンプの一部である光学式圧力センサであってよく、あるいは差圧センサを使用することができる。差圧センサの一方側または一方の表面を、大動脈圧に曝すことができ、差圧センサの第2の側または表面を、心室内圧に曝すことができ、差圧センサは、大動脈圧と心室内圧との間の差を測定することができる。別の例として、圧力センサ612は、大動脈圧を測定するように構成された圧力測定管腔を備えることができる。
【0084】
COセンサ610は、コントローラ614を含む。コントローラ614は、圧力センサ612に結合する。コントローラ614を、圧力センサ612に直接的または間接的に結合させることができる。例えば、コントロール614を、電気配線、無線信号、または任意の他の適切な手段を介して圧力センサ612に接続することができる。コントローラ614は、血圧を表す圧力センサからの信号を検出するように構成される。コントローラ614の全部または一部は、血管内血液ポンプから分離した/遠隔のコントローラユニット内にあってよい。いくつかの実装形態において、制御システムは、血管内血液ポンプの内部にある。
【0085】
いくつかの実装形態において、コントローラ614は、COを血管抵抗および血管コンプライアンスに相関させる非線形モデルに基づいてCOを計算するように構成される。例えば、非線形モデルは、
図5に関して上述したようなウィンドケッセルモデルであり得る。
【0086】
図7が、COを決定するためのプロセス700を示している。プロセス700を、
図1の心臓ポンプシステム100または任意の他の適切なポンプを使用して実行することができる。いくつかの実装形態において、ポンプは、経皮的挿入によって患者の心臓内に配置される血管内血液ポンプデバイスである。ポンプは、患者が心原性ショックの状態にあるかあるいは他のかたちで健康の低下に直面しているという理由で、患者へと導入される可能性がある。ポンプを、ポンプへの血液入口(例えば、
図1の血液入口172)が左心室内に位置し、ポンプからの出口(例えば、
図1の出口開口部170)が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置することができる。ポンプは、
CO=i
h+i
p(1)
であるように本来の心臓の動作に寄与し、ここでCOは総心拍出量であり、i
hは本来の心拍出量であり、i
pはポンプの寄与による流量である。
【0087】
ステップ702において、第1の大動脈圧波が検出される。第1の大動脈圧波は、心臓の複数の拍動を反映しており、反映される各拍動は、重複切痕を含む。圧力波形を、圧力センサによって測定することができる。いくつかの実装形態において、圧力センサはポンプに内蔵され得る。いくつかの実装形態において、圧力センサはポンプの外部に配置され得る。圧力センサは、ポンプの動作を制御するように構成されたコントローラと通信することができる。
【0088】
ステップ704において、血行動態補助が、複数の拍動のうちの第1の拍動において、第1のポンピング速度で心臓に適用される。例えば、第1のポンピング速度は、上述のPレベルなどの第1のロータ速度であり得る。ステップ706において、心臓への血行動態補助は、複数の拍動のうちの第2の拍動において、第2の拍動においてその重複切痕後に心臓に第2のポンピング速度を提供することによって調整される。第1のポンピング速度は、第2のポンピング速度とは異なる。
【0089】
ステップ708において、心臓の第2の大動脈圧波が、第2の拍動において検出される。ステップ710において、第2の大動脈圧波は、第2の大動脈圧波における変化を検出するために、第1の大動脈圧波のうちの第2の拍動に対応する部分と比較される。第1および第2の大動脈圧波の間の変化を使用して、全身血管系の抵抗およびコンプライアンスを特定することができる。
【0090】
ステップ712において、COが、COを全身抵抗およびコンプライアンスに関連付ける非線形伝達関数に基づいて決定される。伝達関数は、大動脈圧波形にさらに関係し得る。いくつかの実装形態において、非線形伝達関数は、
図5に関連して上述したようなウィンドケッセルモデルを含む。
【0091】
図8は、2つの心拍の間の血行動態パラメータの変化を決定するためのプロセス800を示している。ステップ802において、機械的循環補助デバイスが、患者の血管系内に配置される。いくつかの実装形態において、デバイスは、経皮的挿入によって患者の心臓内に配置される血管内血液ポンプデバイスである。デバイスは、患者が心原性ショックの状態にあるかあるいは他のかたちで血管の健康の低下に直面しているという理由で、患者へと導入される可能性がある。デバイスは、左心デバイスまたは右心デバイスであってよい。いくつかの実装形態において、デバイスは、デバイスへの血液入口(例えば、
図1の血液入口172)が左心室内に位置し、デバイスからの出口(例えば、
図1の出口開口部170)が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置される。
【0092】
デバイスは、患者における血行動態パラメータを変更するように動作可能である。例えば、デバイスの動作が、左心室から大動脈へと血液をポンピングすることにより、患者の大動脈圧に影響を及ぼすことができる。デバイスは、第1の出力レベルで、心臓が鼓動している間に動作する。第1の出力レベルは、第1の出力レベルでのデバイス動作における患者の本来の血流に対する機械的循環補助デバイスの寄与による第1の血流速度に対応する。例えば、第1の出力レベルは、上述のPレベルなどの第1のモータ速度に関連付けられ得る。
【0093】
デバイスは、第1の心拍の期間を含む期間にわたって第1の出力レベルで動作し、患者の血行動態パラメータは、デバイスの動作の最中に監視され、その監視の結果が、各々の心拍内の時間の関数として決定され、デバイスのメモリ(または、他のデータストレージデバイス)に保存される。上述のように、血行動態パラメータは、身体の器官または組織における血液の流れに関連する任意のパラメータであってよい。ステップ804において、血行動態パラメータが、第1の心拍の間に検出され、第1の心拍に時間的に一致する。その心拍(または、第1の出力レベルにおける任意の他の時間)の最中のデバイス出力レベルおよび血行動態パラメータの測定値は、心拍サイクルのイベント(収縮期、拡張期、重複切痕、など)に一致する。結果として、血行動態パラメータおよびデバイス出力レベルを、心拍の最中のさまざまな時点における心臓サイクルのイベントに関連付けることができる。例えば、第1の出力レベルで動作するポンプが、第1の心拍の重複切痕時またはその後に、第1の測定された血行動態パラメータ(例えば、大動脈圧)を有することを、容易に検出することができる。いくつかの実装形態において、血行動態パラメータは大動脈圧であり、機械的循環補助デバイスは、大動脈圧を検出するように構成された圧力センサを含む。いくつかの適応において、圧力センサは、患者の左心室内を部分的に延びるカニューレ上に含まれる。
【0094】
ステップ806において、デバイスは、第2の心拍内の1つまたは複数の期間を含む第2の期間において第2の出力レベルを出力するように動作する。第2の出力レベル(第2の心拍においてもたらされる)は、第1の出力レベル(第1の心拍においてもたらされる)よりも大きくても、あるいは小さくてもよい。例えば、第2の出力レベルは、第1のモータ速度よりも大きく、あるいは第1のモータ速度よりも小さい第2のモータ速度またはPレベルに関連付けられてよく、その出力レベルを、第2の心拍において、第1の出力レベルがもたらされるときのフェーズ時点と同じフェーズ時点(例えば、重複切痕またはその後)においてもたらすことができる。
【0095】
ステップ808において、血行動態パラメータが、第2の心拍の最中(その第2の出力レベルの期間中)に、第2の心拍の心臓フェーズにおける第1の心拍と同じ時点またはその付近で検出される。血行動態パラメータを、第1または第2の心拍の全体にわたって測定することができ、あるいはそれぞれの拍動のうちの一部について測定することができる。例えば、血行動態パラメータを、第2の心拍の収縮期または拡張期、あるいは重複切痕において測定することができる。
【0096】
ステップ810において、第1の心拍において測定された血行動態パラメータが、第2の心拍において測定された血行動態パラメータと比較される。これらの2つの測定値は、2つの異なる拍動においてではあるが、心臓サイクルのほぼ同じ時点で取得されている。血行動態測定における差は、第1の心拍と第2の心拍との間のポンプ速度の変化に起因して生じる。例えば、血行動態パラメータが大動脈圧である場合、出力レベルを上げると、測定される大動脈圧が高くなり、出力レベルを下げると、測定される大動脈圧が低くなる。第1の出力レベルから第2の出力レベルへの大動脈圧のこの変化は、総心拍出量の変化への機械的循環補助デバイスの寄与に相関している。
【0097】
図9は、心拍「ピング」プロセスによって心拍出量を決定するためのプロセス900を示している。プロセス900を、
図1の心臓ポンプシステム100または任意の他の適切なポンプを使用して実行することができる。ポンプは、経皮的挿入によって患者の心臓内に配置される。患者は、心原性ショックの状態にあるかあるいは他のかたちで血管の健康の低下に直面している可能性がある。ポンプは、左心デバイスまたは右心デバイスであってよい。ポンプは、ポンプへの血液入口(例えば、
図1の血液入口172)が左心室内に位置し、ポンプからの出口(例えば、
図1の出口開口部170)が大動脈内に位置するように、大動脈弁をまたいで配置される。ポンプは、
CO=i
h+i
p(1)
となるように本来の心臓の動作に寄与し、ここでCOは総心拍出量であり、i
hは本来の心拍出量であり、i
pはポンプの寄与による流量である。
【0098】
ステップ902において、ポンプは、第1の心拍の期間を含む第1の期間の間、第1のポンプ速度で動作する。ステップ904において、血行動態パラメータが、第1の心拍の第1の拡張期において、第1のポンプ速度での心臓ポンプの動作の最中に監視される。血行動態パラメータは、体内の血液の流れに関係する。ポンプ速度は、ポンプの動作の速度であり、ポンプの動作によってもたらされる血流の量に対応する。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は、ポンプのロータの回転速度に対応する。例えば、ポンプ速度は、10,000 RPM、20,000 RPM、30,000 RPM、40,000 RPM、50,000 RPM、60,000 RPM、70,000 RPM、80,000 RPM、90,000 RPM、100,000 RPM、または任意の適切な速度以上であり得る。ポンプ速度は、
図1に関連して上述したように、パワーレベルまたはPレベルに対応し得る。例えば、ポンプ速度は、P-1、P-2、P-3、P-4、P-5、P-6、P-7、P-8、P-9、または任意の他の適切な値であり得る。いくつかの実装形態において、ポンプ速度は、ポンプのチャンバが血液で満たされるおよび血液を放出する速度に対応する。血行動態パラメータを監視することにより、本明細書に記載のシステムおよび方法は、その血行動態パラメータについて、第1および第2の心拍のフェーズを含む経時的な変化を特定することができる。そのような比較を使用して、本明細書においてさらに充分に論じられるように、心臓のパフォーマンスを(例えば、COを介して)定量化することができる。
【0099】
ステップ906において、拡張期における血管内血液ポンプの第1の動作パラメータが決定される。例えば、動作パラメータは、ポンプに供給される電流、ポンプによってもたらされる血流の速度、または患者の血管系におけるポンプの配置であってよい。具体的には、第1の動作パラメータを決定することは、拡張期において血液ポンプによってもたらされる第1の血流速度を決定することを含み得る。この第1の動作パラメータおよび測定された血行動態パラメータは、第1の心拍の心拍サイクルの特定の時点で特定され得る。ポンプからの流量は、ポンプ速度を維持するために血液ポンプのモータへと供給されるモータ電流に基づいて推定される。
【0100】
所与の血管内血液ポンプシステムに関して、流量出力ipを、ポンプの速度(1分あたりの回転数またはRPM)と、そのポンプ速度での動作を維持するためにポンプに供給されるモータ電流とによって決定することができる。ポンプ速度およびモータ電流から流量へのこの数学的計算は、ポンプ速度およびモータ電流がテーブルへのインデックスであり、テーブル内の流量値がベンチテストによって事前入力されているルックアップテーブルを設定することによって、実現可能である。別のやり方は、ポンプ速度とモータ電流との可能な組み合わせの一部について、流量を事前に決定することである。例えば、流量i1がポンプ速度40,000RPMおよびモータ電流500mAでの流量を表し、流量i2がポンプ速度40,000RPMおよびモータ電流510mAでの流量を表す場合、ポンプ速度40,000RPMおよびモータ電流505mAにおける流量i3は、i1およびi2の平均を取ることによって計算可能である。
【0101】
ステップ908において、第2の心拍の第2の拡張期において心臓ポンプの動作によって第2の出力レベルがもたらされるように、第1のポンプ速度が第2のポンプ速度に変更される。第2のポンプ速度は、第1のポンプ速度より大きくても、小さくてもよい。いくつかの実装形態においては、ポンプ速度の上昇のタイミングが、ポンプ速度の上昇が心拍の予測された期間において生じるように決定される。例えば、ポンプへの速度変更の指示の送信からその速度変化が物理的に生じるまでの時間遅延を考慮するように、速度の上昇の開始を拡張期の開始に同期させることができる。速度上昇の終了を、拡張期の開始、拡張期の終了、収縮期の開始、収縮期の終了、ピーク収縮期圧、または任意の他の適切な時期に同期させることができる。いくつかの実装形態において、システムは、ポンプ速度が設定された期間にわたって高められ、あるいは下げられるように構成される。例えば、速度変化は、約0.05秒、0.1秒、0.2秒、0.3秒、または任意の他の適切な時間にわたって続いてよい。第2の心拍は、第1の心拍とは異なる。血行動態パラメータは、第2の心拍の最中に測定され、これを、第1の心拍において第1の血行動態パラメータを測定した時点と同じ拍動における時点(重複切痕など)において行うことができる。いくつかの実装形態において、検出および測定は、第1の心拍の後に生じる第2の心拍に適用される。
【0102】
ステップ910において、血行動態パラメータが、第2の心拍の第2の拡張期において、例えば拡張期の重複切痕で監視される。ステップ912において、第2の拡張期における血管内血液ポンプの第2の動作パラメータが決定される。第2の動作パラメータを決定することは、第2の拡張期において血液ポンプによってもたらされる第2の血流速度(または、モータ動作パラメータの第2のレベル)を決定することを含み得る。
【0103】
ステップ914において、心臓の心臓パフォーマンスを表す指標が計算される。この指標は、(i)第1の動作パラメータ、(ii)第2の動作パラメータ、ならびに(iii)第1の拡張期および第2の拡張期における(例えば、両方の期間中の重複切痕における)血行動態パラメータに基づく。指標を、ウィンドケッセルモデルに関連して上述したような伝達関数または方程式の組において使用することができる。いくつかの実装形態において、血行動態パラメータの数学的表現が、第1および第2の拡張期について決定される。例えば、数学的表現は、正弦曲線の合計であり得る。
【0104】
指標は、心拍出量を決定するために使用できる波形を構築するために使用される。心臓パフォーマンスの計算は、第1の拡張期についての血行動態パラメータを表す第1の波形を分解して、正弦曲線の第1の組を決定し、第2の拡張期についての血行動態パラメータを表す第2の波形を分解して、正弦曲線の第2の組を決定することを含み得る。これらの分解は、フーリエ変換を第1の波形、第2の波形、またはその両方に適用することを含み得る。正弦曲線の組は、合計された1つまたは複数の正弦曲線を含み得る。
【0105】
ポンプが患者の血管系において動作しているとき、大動脈内の血流は、ポンプの寄与(i
p)に本来の心臓の寄与(i
h)を加えたものに等しい。正弦曲線の第1の組と正弦曲線の第2の組とを比較して、大動脈内の血流への患者の心臓(i
h)の寄与を決定することができる。例えば、大動脈圧が血行動態パラメータであってよく、大動脈圧を、フーリエ変換からもたらされる正弦曲線の合計として、
と表すことができ、ここで、Pは大動脈圧であり、f
nは動作パラメータに関連する周波数であり、A
nおよびθ
nは動作パラメータの係数である。動作パラメータ間の圧力の変化は流量の変化に比例するため、動作パラメータ間の正弦曲線の組の差を使用して、動作パラメータ間の流量の差を計算することができる。いくつかの実装形態においては、フーリエ変換を、或る範囲のポンプ速度のうちの各ポンプ速度について計算することができる。いくつかの実装形態において、「ピングされた」ポンプ速度への患者の反応は、短い期間での速度変化の限界(すなわち、ポンプを高い速度へと高め、あるいはポンプを低い速度へと遅くするために要する時間)ゆえに、最小限であり得る。
【0106】
経時的な血行動態パラメータをその構成周波数へと分解することにより、血行動態パラメータを、数式または一連の方程式を使用して決定することができる。いくつかの実装形態において、数学的表現は、正弦曲線の比較に基づく指数方程式である。血行動態パラメータ波形が数式によって特徴付けられた後に、血管抵抗およびコンプライアンスなどの心臓パラメータは、方程式から決定され得る。例えば、血行動態パラメータ波形が、
(ここで、BはR*Cに等しく、Dはi
p*Cに等しく、Pは圧力であり、Rは全身抵抗であり、Cは全身コンプライアンスである)の形態の一連の指数関数として特徴付けられる場合、全身抵抗およびコンプライアンスの値を、2つの時点におけるこれらの係数(すなわち、2つの公知の圧力測定値)で連立方程式を解くことによって計算することができる。
【0107】
いくつかの実装形態において、患者の心臓機能を表すモデル心拍を正弦曲線の比較に基づいてシミュレートし、心拍出量、機械的循環補助の適用時期、およびレベルを決定するために使用することができる。例えば、血液ポンプを、或る範囲のポンプ速度(例えば、P-1、P-2、P-3、P-4、など)で動作させることができ、各ポンプ速度は、ポンプ内のロータの回転速度および類似の周波数(例えば、100Hz、200Hz、300Hz、400Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、3000Hz、など)に対応する。ポンプの速度(または、周波数)を変更すると、ポンプの動作によってもたらされる血管系内の血流が変化するため、血行動態パラメータの値が変化する。複数のポンプ速度(または、ポンプによってもたらされる血流などの動作パラメータ)を徐々に通過して、1つまたは複数の血行動態パラメータに対応する変化を特定し、血行動態波形を形成し、各ポンプ速度からもたらされる血行動態波形を分解することによって、拡張期における圧力と流量との間の関係が確立される。次いで、患者の全体的な心臓機能を、将来の心臓機能をシミュレートし、機械的循環補助の引き渡しおよび制御を患者に知らせるために使用することができる数学的表現として(測定された血行動態パラメータの関数として)マッピングすることができる。
例えば、記録された心拍の測定された大動脈圧波形を、以下で説明される方法を使用して構築することができ、その心拍のCOを計算することができる。
【0108】
上述のように、いくつかの実装形態において、ポンプ速度の短時間の変化を、1つの心拍内でポンプに適用することができる。ポンプ速度のこの変化を、インパルス刺激と見なすことができる。この心拍について記録された大動脈圧を、この短時間の速度変化またはインパルス刺激がない場合の心拍の大動脈圧と比較することができる。両者(変更された心拍の大動脈圧および「通常の」心拍の大動脈圧)の差を、大動脈圧のインパルス応答:
Δp(t)=p
1(t)-p
2(t)
と見なすことができ、
ここでP
1(t)は、インパルス刺激において測定された圧力波形であり、P
2(t)は、インパルス刺激のない圧力波形であり、ΔP(t)は、大動脈圧のインパルス応答である。このインパルス刺激が拡張期においてのみ適用される場合、2つの心拍についての総心血流量の差を、
Δi(t)=i
1(t)-i
2(t)
と表すことができ、
ここでi
1(t)およびi
2(t)は、それぞれインパルス刺激のある心拍およびインパルス刺激のない心拍についてのポンプ流量であり、Δi(t)は、心血流量のインパルス応答である。
次いで、大動脈圧とポンプ流量の関係を、周波数ドメインにおいて
と推定することができ、
ここで、ΔP(f)は、Δp(t)の周波数ドメイン表現(例えば、高速フーリエ変換またはFFT)であり、ΔI(f)は、Δi(t)の周波数ドメイン表現であり、H(f)は、大動脈圧とポンプ流量の関係についての周波数ドメイン伝達関数である。
この関係H(f)が上述のように確立されると、p(t)として測定された大動脈圧における任意の心拍の総心血流量を、
と計算することができ、ここでP(f)は、p(t)の周波数ドメイン表現であり、IFFTは、逆高速フーリエ変換である。
【0109】
図10は、同じ10秒の期間についての2つのプロットを示しており、一方は大動脈圧であり、一方は心血流量である。上側のプロットのy軸が、大動脈圧(mmHg)を表す一方で、x軸は、時間(秒)を表す。下側のプロットのy軸が、計算による総心血流量(リットル/分)で表す一方で、x軸は、時間(秒)を表す。この例において、全身の血管抵抗RおよびコンプライアンスCは公知である。例えば、RおよびCを、図示の10秒の期間において取得された大動脈圧の測定値を上記のようにポンプデータと組み合わせて使用して、計算することができる。総心血流量i
h+i
pは、式(2):
を適用することにより、R、C、および大動脈圧波形を使用して計算される。COを、或る期間(例えば、5秒、10秒、または30秒)にわたって式(1)から得られる総心血流量i
h+i
pの平均を取ることによって計算することができる。
図7の例において、期間は10秒である。この期間の平均R値は、0.6143 mmHg*sec/mlであり、平均C値は、1.5 mL/mmHgであり、計算によるCOは6.9 L/minになる。
【0110】
上記は、あくまでも本開示の原理の例示にすぎず、装置を、限定ではなく例示の目的で提示された上述の局面以外の局面によって実施することが可能である。本明細書に開示の装置は、心臓ポンプの経皮的挿入において使用されるものとして示されているが、止血を必要とする他の用途の装置に適用可能であることを理解されたい。
【0111】
当業者であれば、本開示を検討することで、変更および修正に想到できるであろう。開示された特徴は、本明細書に記載の1つまたは複数の他の特徴とともに、任意の組み合わせおよび部分的組み合わせ(複数の従属する組み合わせおよび部分的組み合わせを含む)にて実装可能である。上述され、あるいは上記で例示された種々の特徴は、それらのあらゆる構成要素も含め、他のシステムに組み合わせ、あるいは統合することが可能である。さらには、特定の特徴が省略され、あるいは実装されなくてもよい。
【0112】
上述のシステムおよび方法は、心臓ポンプシステムまたはAICなどの心臓ポンプシステムのコントローラ上に局所的に実装され得る。心臓ポンプシステムは、データ処理装置を含み得る。本明細書に記載のシステムおよび方法は、別個のデータ処理装置上で遠隔的に実施され得る。別個のデータ処理装置は、クラウドアプリケーションを介して心臓ポンプシステムに直接的または間接的に接続され得る。心臓ポンプシステムは、リアルタイム(または、ほぼリアルタイム)で別個のデータ処理装置と通信し得る。
【0113】
一般に、本明細書に記載の主題および機能的動作の局面は、デジタル電子回路、あるいは本明細書に開示の構造およびそれらの構造的同等物を含むコンピュータソフトウェア、ファームウェア、またはハードウェア、あるいはそれらのうちの1つ以上の組み合わせに実装可能である。本明細書に記載の主題の局面は、1つまたは複数のコンピュータプログラム製品、すなわちデータ処理装置によって実行され、もしくはデータ処理装置の動作を制御するようにコンピュータ可読媒体上に符号化されたコンピュータプログラム命令の1つまたは複数のモジュールとして実装可能である。コンピュータ可読媒体は、機械可読ストレージデバイス、機械可読ストレージ基板、メモリデバイス、機械可読伝搬信号に影響を与える組成物、またはそれらのうちの1つまたは複数の組み合わせであり得る。「データ処理装置」という用語は、例えば、プログラム可能なプロセッサ、コンピュータ、あるいは複数のプロセッサまたはコンピュータなど、データを処理するためのすべての装置、デバイス、および機械を包含する。装置は、ハードウェアに加えて、例えばプロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、またはそれらのうちの1つまたは複数の組み合わせを構成するコードなど、該当のコンピュータプログラムのための実行環境を生成するコードを含むことができる。伝播信号は、人工的に生成された信号であり、例えば適切な受信機装置への送信のための情報を符号化するために生成される機械生成の電気、光学、または電磁信号である。
【0114】
コンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、またはコードとしても知られる)は、コンパイラ型言語またはインタープリタ型言語を含む任意の形式のプログラミング言語で記述可能であり、例えばスタンドアロンのプログラムあるいはコンピューティング環境における使用に適したモジュール、コンポーネント、サブルーチン、または他のユニットとして、任意の形式で展開可能である。コンピュータプログラムは、ファイルシステム内のファイルに対応し得る。プログラムを、他のプログラムまたはデータを保持するファイルの一部(例えば、マークアップ言語ドキュメントに保存された1つ以上のスクリプト)に格納でき、該当のプログラムに専用の単一のファイルに格納でき、あるいは複数の協調的なファイル(例えば、コードの1つ以上のモジュール、サブプログラム、または一部を格納するファイル)に格納することができる。コンピュータプログラムを、1つのコンピュータ、あるいは1つの場所に位置し、もしくは複数の場所に分散して通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0115】
本明細書に記載のプロセスおよび論理フローは、入力データを操作して出力を生成することによって機能を実行するために、1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行する1つまたは複数のプログラム可能なプロセッサによって実行可能である。また、プロセスおよび論理フローは、例えばFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)などの専用の論理回路によって実行することができ、装置をそのような専用の論理回路として実装することも可能である。
【0116】
コンピュータプログラムの実行に適したプロセッサは、例えば、汎用および専用の両方のマイクロプロセッサ、ならびに任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つまたは複数のプロセッサを含む。一般に、プロセッサは、読み出し専用メモリまたはランダム・アクセス・メモリあるいはその両方から命令およびデータを受信する。コンピュータの主要な要素は、命令を実行するためのプロセッサ、ならびに命令およびデータを格納するための1つまたは複数のメモリデバイスである。一般に、コンピュータは、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、または光ディスクなど、データを格納するための1つまたは複数の大容量記憶デバイスをさらに含み、あるいはデータの受信、データの転送、もしくはその両方のために、そのような大容量記憶デバイスに動作可能に結合する。しかしながら、コンピュータが必ずしもそのようなデバイスを有する必要はない。
【0117】
変更、置換、および修正の例が、当業者にとって解明可能であり、本明細書に開示される情報の範囲から逸脱することなく行うことが可能である。本明細書において引用されるすべての参考文献は、それらの全体が参照によって組み入れられ、本出願の一部を形成する。