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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス内配線劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/58 20200101AFI20240731BHJP
【FI】
G01R31/58
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021005569
(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公開番号】P2022110277
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 元
(72)【発明者】
【氏名】仲山 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 聡志
(72)【発明者】
【氏名】高見 弘樹
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-132877(JP,A)
【文献】特開2004-178027(JP,A)
【文献】特開2014-211382(JP,A)
【文献】特開2020-173137(JP,A)
【文献】特開2002-174651(JP,A)
【文献】特開2006-029158(JP,A)
【文献】特開2000-002737(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221619(WO,A1)
【文献】実開平6-72066(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/50-31/74、
31/08-31/11、
19/00-19/32、
31/00-31/01、
31/24-31/25、
31/40-31/44、
E02 9/00-9/18、
9/24-9/28、
G01L 7/00-23/32、
27/00-27/02、
G08C 13/00-25/04、
H04L 51/00-51/58、
67/00-67/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサと、
複数の前記センサから出力される信号を受信するコントローラと、
複数の前記センサに電力を供給する共通の電源線及び共通のグランド線と、
複数の前記センサと前記電源線、及び複数の前記センサと前記グランド線とをそれぞれ電気的に接続するワイヤハーネスと、
複数の前記センサから出力された信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち少なくとも一方に基づいて、前記ワイヤハーネス内の配線の劣化を診断するワイヤハーネス内配線劣化診断部と、
を備え
前記ワイヤハーネス内配線劣化診断部は、複数の前記センサから出力された信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち同時刻において複数の高電圧異常または低電圧異常が発生した状態を示す同時刻発生数に基づいて、前記ワイヤハーネス内の配線の劣化を診断することを特徴とするワイヤハーネス内配線劣化診断システム。
【請求項2】
前記コントローラと通信可能なサーバを更に備え、
前記ワイヤハーネス内配線劣化診断部は、前記サーバに設けられている請求項1に記載のワイヤハーネス内配線劣化診断システム。
【請求項3】
前記ワイヤハーネス内配線劣化診断部は、前記コントローラに設けられている請求項1に記載のワイヤハーネス内配線劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネス内配線劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械等の車両に用いられるワイヤハーネスは、高い導通信頼性が要求されている。そこで、経年劣化による導通不良などを事前に検知し、導通信頼性を維持する技術が提案されている。例えば特許文献1に記載されたコネクタ内部の接続端子同士の接続劣化を検知する技術をワイヤハーネスに応用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-188286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、コネクタの抜き差しに伴う経年劣化を検知できるが、コネクタの抜き差し等を殆ど行わないワイヤハーネスに適用し難い。すなわち、複数本の電線(配線)が束ねられたワイヤハーネスの場合、コネクタを含む電線の分岐部の抜き差しを殆ど行わず、且つ電線の分岐部はテープや保護材等でカバーされるので、外部から見えない状態となっている。このため、経年劣化の進行を把握し難い。また、水分、粉塵、振動や衝撃などの環境要因による経年劣化の場合、一瞬あるいは一時的に発生する導通不良の初期的な異常は分かり難い。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明は、ワイヤハーネス内の配線の劣化を容易に診断できるワイヤハーネス内配線劣化診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るワイヤハーネス内配線劣化診断システムは、複数のセンサと、複数の前記センサから出力される信号を受信するコントローラと、複数の前記センサに電力を供給する共通の電源線及び共通のグランド線と、複数の前記センサと前記電源線、及び複数の前記センサと前記グランド線とをそれぞれ電気的に接続するワイヤハーネスと、複数の前記センサから出力された信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち少なくとも一方に基づいて、前記ワイヤハーネス内の配線の劣化を診断するワイヤハーネス内配線劣化診断部と、を備えることを特徴としている。
【0007】
本発明に係るワイヤハーネス内配線劣化診断システムでは、ワイヤハーネス内配線劣化診断部は複数のセンサから出力された信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち少なくとも一方に基づいて、ワイヤハーネス内の配線の劣化を容易に診断することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワイヤハーネス内の配線の劣化を容易に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るワイヤハーネス内配線劣化診断システムを示す概略構成図である。
図2】建設機械におけるコントローラとセンサとの接続を示す回路図である。
図3】センサ出力電位と変異量との関係を示す図である。
図4】コントローラによるセンサ出力信号の電圧異常判断を示すフローチャートである。
図5】サーバのワイヤハーネス内配線劣化診断部によるワイヤハーネス内の配線の劣化診断を示すフローチャートである。
図6】高電圧異常テーブルの例を示す図である。
図7】低電圧異常テーブルの例を示す図である。
図8】ワイヤハーネス内配線劣化診断システムの変形例を示す概略構成図である。
図9】ワイヤハーネス内配線劣化診断システムの変形例を示す回路図である。
図10】ワイヤハーネス内配線劣化診断システムの変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明に係るワイヤハーネス内配線劣化診断システムの実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複説明は省略する。
【0011】
図1は実施形態に係るワイヤハーネス内配線劣化診断システムを示す概略構成図である。本実施形態に係るワイヤハーネス内配線劣化診断システム1は、複数の建設機械10(10A~10N)と、ネットワーク40を介してこれらの建設機械とそれぞれ通信可能と構成されたサーバ20と、ネットワーク40を介してこれらの建設機械から送信された各データを記憶するデータベース30と、を備えている。
【0012】
建設機械10は、ワイヤハーネス内配線劣化診断システム1中のノードとしての存在であって、例えば油圧ショベルからなり、土木作業、建設作業、解体作業、浚渫作業等が行われる作業現場で所定のユーザに使用されている。本実施形態において、ワイヤハーネス内配線劣化診断システム1のノードとして建設機械10の例を挙げるが、フォークリフト、自動車、バス、船舶、飛行機等であっても良い。また、建設機械としては、油圧ショベルの他、ホイールローダやブルドーザ等であっても良い。
【0013】
図2は建設機械におけるコントローラとセンサとの接続を示す回路図である。建設機械10には、対地角度、旋回角度、圧力等を検知する複数(ここでは、5つ)のセンサ11A~11Eが取り付けられている。これらのセンサ11A~11Eは、共通の電源線12Pと共通のグランド線12Gを介して電力が供給されている。
【0014】
より具体的には、5つのセンサ11A~11Eのうち、センサ11A~11Cは、それぞれの電源側がワイヤハーネス内の結線13を介して電源線12Pと電気的に接続され、それぞれのグランド側がワイヤハーネス内の結線14を介してグランド線12Gと電気的に接続されている。残りのセンサ11D,11Eは、それぞれの電源側がワイヤハーネス内の結線15を介して電源線12Pと電気的に接続され、それぞれのグランド側がワイヤハーネス内の結線16を介してグランド線12Gと電気的に接続されている。そして、センサ11A~11Eは、センサ11D,11Eの上流側に配置されている。なお、ここでの結線は、配線と同じ意味である。
【0015】
ワイヤハーネス内の結線13は、電源線12Pと接続する分岐部13Aと、センサ11A~11Cとそれぞれ接続する3本の電線を束ねる分岐部13Bとを有する。分岐部13A及び分岐部13Bは、電線を圧着する圧着部、電線を束ねるカシメ部、又は分岐コネクタ等によってそれぞれ構成されている。ワイヤハーネス内の結線14は、グランド線12Gと接続する分岐部14Aと、センサ11A~11Cとそれぞれ接続する3本の電線を束ねる分岐部14Bとを有する。分岐部14A及び分岐部14Bは、電線を圧着する圧着部、電線を固定するカシメ部、又は分岐コネクタ等によってそれぞれ構成されている。
【0016】
ワイヤハーネス内の結線15は、電源線12Pと接続する分岐部15Aと、センサ11D,11Eとそれぞれ接続する2本の電線を束ねる分岐部15Bとを有する。分岐部15A及び分岐部15Bは、電線を圧着する圧着部、電線を束ねるカシメ部、又は分岐コネクタ等によってそれぞれ構成されている。ワイヤハーネス内の結線16は、グランド線12Gと接続する分岐部16Aと、センサ11D,11Eとそれぞれ接続する2本の電線を束ねる分岐部16Bとを有する。分岐部16A及び分岐部16Bは、電線を圧着する圧着部、電線を固定するカシメ部、又は分岐コネクタ等によってそれぞれ構成されている。
【0017】
また、建設機械10は、機械全体の各制御を行うコントローラ17を備えている。コントローラ17は、例えば演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記憶した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって各制御処理を行う。
【0018】
例えば、コントローラ17は、センサ11A~11Eから出力された各検知結果を受信し、受信した結果に基づいて掘削動作、旋回動作及び走行動作等を制御する。コントローラ17は、信号線18を介してセンサ11A~11Eとそれぞれ接続され、センサ11A~11Eから出力された信号を受信する。センサ11A~11Eは、検知された結果を該信号線18経由でコントローラ17に出力する。
【0019】
また、コントローラ17は、センサ11A~11Eからの出力信号に基づいて、センサ出力信号の高電圧異常又は低電圧異常の有無を判断する。より具体的には、例えば電源線12Pと接続されたワイヤハーネスにおいて、腐食や摩耗によって分岐部13Aの接触抵抗が増加した場合(言い換えれば、ワイヤハーネス内の結線13が劣化した場合)、センサ11A~11Cからの出力が低電位レベル側に引き寄せられるため、低電圧異常が発生し易くなる。このとき、センサ11D及びセンサ11Eは、分岐部13Aの下流側に配置されるので、それぞれの出力も低電位レベル側に引き寄せられることになり、低電圧異常が発生し易くなる。
【0020】
また、腐食や摩耗によって分岐部13Bの接触抵抗が増加した場合(言い換えれば、ワイヤハーネス内の結線13が劣化した場合)、センサ11A~11Cからの出力が低電位レベル側に引き寄せられるため、低電圧異常が発生し易くなる。一方、センサ11D及びセンサ11Eは、センサ11A~11Cとは異なったワイヤハーネス内の結線15を介して電源線12Pと接続されるため、分岐部13Bの接触抵抗による影響を受けない。
【0021】
グランド線12Gと接続されたワイヤハーネスでは、腐食や摩耗によって分岐部14Aの接触抵抗が増加した場合(言い換えれば、ワイヤハーネス内の結線14が劣化した場合)、センサ11A~11Cからの出力が高電位レベル側に引き寄せられるため、高電圧異常が発生し易くなる。このとき、センサ11D及びセンサ11Eの出力も高電位レベル側に引き寄せられるので、高電圧異常が発生し易くなる。
【0022】
また、腐食や摩耗によって分岐部14Bの接触抵抗が増加した場合(言い換えれば、ワイヤハーネス内の結線14が劣化した場合)、センサ11A~11Cからの出力が高電位レベル側に引き寄せられるため、高電圧異常が発生し易くなる。一方、センサ11D及びセンサ11Eは、センサ11A~11Cとは異なったワイヤハーネス内の結線16を介してグランド線12Gと接続されるため、分岐部14Bの接触抵抗による影響を受けない。
【0023】
図3はセンサ出力電位と変異量との関係を示す図である。図3において、横軸は変異量を示し、縦軸はセンサ出力電位を示す。また、グランド電位(GND電位)に近いハッチング領域は低電圧異常診断領域であり、電源電位に近いハッチング領域は高電圧異常診断領域であり、低電位差異常診断領域と高電圧異常診断領域との間であって斜線で示すのは正常時のセンサ出力レンジである。従って、各センサの出力電位が低電圧異常診断領域に入るときに低電圧異常が発生し、高電圧異常診断領域に入るときに高電圧異常が発生することになる。
【0024】
また、コントローラ17は、通信部19及びネットワーク40を介してサーバ20のデータベース30に各情報を送信する。例えば、コントローラ17は、建設機械10の稼働日数や稼働時間等を含む稼働情報、センサ出力信号の電圧異常情報等を定期的に(例えば1日1回の頻度で)データベース30に送信する。データベース30は、コントローラ17から送信された各情報を記憶する。なお、ネットワーク40は無線でも良く有線でも良い。
【0025】
サーバ20は、ワイヤハーネス内配線劣化診断システム1を構成するメインのコンピュータであり、建設機械10のメーカーの本社、支社、工場或いは管理センタに設置され、複数の建設機械10からそれぞれの稼働情報等を定期的に収集し、これらの建設機械10を集中管理している。サーバ20は、例えば演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記憶した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって各処理を行う。
【0026】
なお、本実施形態において、データベース30は、サーバ20と別体に設けられているが、サーバ20の内部に設けられても良い。
【0027】
また、サーバ20は、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21を有する。ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、各建設機械10から送信されたセンサ出力信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち少なくとも一方に基づいて、ワイヤハーネス内の結線13~16の劣化を診断する。より具体的には、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、センサ11A~11Eの出力信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち同時刻において複数の高電圧異常または低電圧異常が発生した状態を示す同時刻発生数に基づいて、ワイヤハーネス内の結線13~16の劣化を診断する。
【0028】
以下、図4を参照してコントローラによるセンサ出力信号の電圧異常判断に関する制御処理を説明する。図4に示す制御処理は、建設機械10に取り付けられた全てのセンサを対象にし、所定の周期で繰り返し実行される。
【0029】
まず、ステップS10では、パラメータの初期化が行われる。このとき、コントローラ17は、センサ出力信号変数S[n]、センサ出力信号高電圧異常変数D_high_S[n]、センサ出力信号低電圧異常変数D_low_S[n]、センサ出力信号電圧異常検知時刻YH_clock[n]をそれぞれ初期化する。
【0030】
ステップS10に続くステップS11では、S[i]にセンサiの信号の取り込みが行われ、ここでのi=i+1である。ステップS11に続くステップS12では、コントローラ17は、i=nであるか否かを判断する。そして、i=nでないと判断された場合、制御処理はステップS11に戻る。一方、i=nであると判断された場合、制御処理はステップS13に進む。
【0031】
ステップS13では、コントローラ17はS[i]>S_highであるか否かを判断する。S_highは、上記図3に基づいて予め設定された高電圧異常閾値であり、コントローラ17の記憶装置に記憶されている。そして、S[i]>S_highであると判断された場合、制御処理はステップS14に進む。ステップS14では、コントローラ17は、センサ出力信号の高電圧異常と判断する。一方、S[i]>S_highでないと判断された場合、ステップS15に進む。
【0032】
ステップS15では、コントローラ17は、S[i]<S_lowであるか否かを判断する。S_lowは、上記図3に基づいて予め設定された低電圧異常閾値であり、コントローラ17の記憶装置に記憶されている。そして、S[i]<S_lowであると判断された場合、制御処理はステップS16に進む。ステップS16では、コントローラ17は、センサ出力信号の低電圧異常と判断する。一方、S[i]<S_lowでないと判断された場合、ステップS17に進む。
【0033】
ステップS14又はステップS16に続くステップS17では、コントローラ17は、センサ出力信号電圧異常検知時刻D[i]を測定する。ここで、コントローラ17は、D[i]=clock[i]することでセンサ出力信号電圧異常検知時刻を測定する。
【0034】
ステップS17に続くステップS18では、コントローラ17は、i=nであるか否かを判断する。そして、i=nでないと判断された場合、制御処理はステップS13に戻る。一方、i=nであると判断された場合、制御処理はステップS19に進む。
【0035】
ステップS19では、コントローラ17は、センサ出力信号電圧異常(高電圧異常又は低電圧異常)S[i]とセンサ出力信号電圧異常検知時刻D[i]とをセットとしてコントローラ17の記憶装置に記憶させる。これによって、センサ出力信号の電圧異常判断処理が終了する。
【0036】
なお、コントローラ17は、記憶装置に記憶されたS[i]とD[i]とを定期的に(例えば1日1回の頻度で)サーバ20側のデータベース30に送信する。具体的には、コントローラ17は、記憶されたS[i]とD[i]を読み出し、所定のフィルタ処理を行った後、その処理結果を建設機械のID(以下では、ノードIDという)情報とともに、通信部19及びネットワーク40を介してサーバ20側のデータベース30にアップロードする。
【0037】
次に、図5図7を参照してサーバ20のワイヤハーネス内配線劣化診断部21によるワイヤハーネス内の配線の劣化診断を説明する。図5はサーバのワイヤハーネス内配線劣化診断部によるワイヤハーネス内の配線の劣化診断を示すフローチャートである。図5に示す制御処理は、サーバ20によって管理された全ての建設機械10を対象にし、各建設機械10に取り付けられた全てワイヤハーネスについて、所定の周期で繰り返し実行される。
【0038】
まず、ステップS20では、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、各建設機械10から送信されたセンサ出力信号電圧異常S[i]とセンサ出力信号電圧異常検知時刻D[i]に基づいて、下記(1)~(8)に示すフィールドからなるレコードの高電圧異常診断テーブルDSH_TBLを作成し、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21が行った異常診断結果データベースの直近の所定期間分のデータ異常診断記録から下記(1)と(2)を結合した文字列を検索キーとして下記(3)~(7)を検索した結果をテーブルDSH_TBLの対応フィールドに当て嵌める。
(1)高電圧異常に関連するノードID、
(2)ノードIDの高電圧異常が発生した時刻
(3)上記(1)と(2)との組み合わせによって検索されるセンサ11A出力信号の高電圧異常診断結果、
(4)上記(1)と(2)との組み合わせによって検索されるセンサ11B出力信号の高電圧異常診断結果、
(5)上記(1)と(2)との組み合わせによって検索されるセンサ11C出力信号の高電圧異常診断結果、
(6)上記(1)と(2)との組み合わせによって検索されるセンサ11D出力信号の高電圧異常診断結果、
(7)上記(1)と(2)との組み合わせによって検索されるセンサ11E出力信号の高電圧異常診断結果、
(8)高電圧異常に関連するワイヤハーネス内の結線の劣化診断結果。
【0039】
続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、作成したテーブルDSH_TBLのレコードを「ノードID」、「発生時刻」の優先順での昇順にソートした後に、ソートした結果に対してテーブルの最初のレコードから順に1から始めて続き番号をフィールド「No.」に割り当てる。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、テーブルDSH_TBLのレコード数から「ノードID」の重複を除いたノードIDの数を計算しその値をH_Node_ID_Maxと定義して設定し、併せてそのノードIDを順に高電圧異常ノードID配列H_Node_ID[H_Node_ID_Max]として定義して設定する。
【0040】
そして、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21がステップS20で作成した高電圧異常テーブルは、例えば図6に示すものである。図6中のノードA、ノードB、ノードC、ノードD、ノードEは例えば建設機械10A、建設機械10B、建設機械10C、建設機械10D、建設機械10Eにそれぞれ対応するものである。
【0041】
ステップS20に続くステップS21では、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、各建設機械10から送信されたセンサ出力信号電圧異常S[i]とセンサ出力信号電圧異常検知時刻D[i]に基づいて、下記(9)~(16)に示すフィールドからなるレコードの低電圧異常診断テーブルDSL_TBLを作成し、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21が行った異常診断結果データベースの直近の所定期間分のデータ異常診断記録から下記(9)と(10)を結合した文字列を検索キーとして下記(11)~(15)を検索した結果をテーブルDSL_TBLの対応フィールドに当て嵌める。
(9)低電圧異常に関連するノードID、
(10)ノードIDの低電圧異常が発生した時刻
(11)上記(9)と(10)との組み合わせによって検索されるセンサ11A出力信号の低電圧異常診断結果、
(12)上記(9)と(10)との組み合わせによって検索されるセンサ11B出力信号の低電圧異常診断結果、
(13)上記(9)と(10)との組み合わせによって検索されるセンサ11C出力信号の低電圧異常診断結果、
(14)上記(9)と(10)との組み合わせによって検索されるセンサ11D出力信号の低電圧異常診断結果、
(15)上記(9)と(10)との組み合わせによって検索されるセンサ11E出力信号の低電圧異常診断結果、
(16)低電圧異常に関連するワイヤハーネス内の結線の劣化診断結果。
【0042】
続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、作成したテーブルDSL_TBLのレコードを「ノードID」、「発生時刻」の優先順での昇順にソートした後に、ソートした結果に対してテーブルの最初のレコードから順に1から始めて続き番号をフィールド「No.」に割り当てる。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、テーブルDSL_TBLのレコード数から「ノードID」の重複を除いたノードIDの数を計算しその値をL_Node_ID_Maxと定義して設定し、併せてそのノードIDを順に低電圧異常ノードID配列L_Node_ID[L_Node_ID_Max]として定義して設定する。
【0043】
そして、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21がステップS21で作成した低電圧異常テーブルは、例えば図7に示すものである。図7中のノードA、ノードB、ノードC、ノードD、ノードEは例えば建設機械10A、建設機械10B、建設機械10C、建設機械10D、建設機械10Eにそれぞれ対応するものである。
【0044】
ステップS21に続くステップS22では、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、ワイヤハーネス高電圧異常の同時刻発生数が一定(ここでは、2)以上か否かを判断する。具体的には、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、まずH_Node_ID_Indexを定義し、H_Node_ID_Index=1と初期化する。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、ステップS20で作成した図6に示す高電圧異常診断テーブルDSH_TBLについて、レコードの先頭から以下の処理をH_Node_ID_Index>H_Node_ID_Maxとなるまで繰り返す。
【0045】
すなわち、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、まず高電圧異常診断テーブルDSH_TBLについて、ノードIDがH_Node_ID[H_Node_ID_Index]の値に等しいレコードの中で、レコードNo.の最も小さいレコードNo.をH_D_Indexと定義し設定し、同じく最も大きいレコードNo.をH_D_NumBotと定義し設定する。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、高電圧異常診断テーブルDSH_TBLの先頭からH_D_Index番目のレコードの「ワイヤハーネス」フィールドに同レコードのセンサ11A~11Eの中に高電圧異常が同時刻に複数(同時刻発生数)発生している状態で、この同時刻発生数が2以上である場合に「ワイヤハーネス高電圧異常」と判断し(ステップS23参照)、そうでなければ「ワイヤハーネス正常」と判断する(ステップS24参照)。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、H_D_Index=H_D_Index+1として次の候補に移す。そして、このような処理はH_D_Index≧H_D_NumBotとなるまで繰り返される。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、H_Node_ID_Index=H_Node_ID_Index+1として次のノードID候補に移す。ステップS22~S24の判断結果は、例えば図6中の「ワイヤハーネス」の欄に示されている。
【0046】
ステップS23又はステップS24に続くステップS25では、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、ワイヤハーネス低電圧異常の同時刻発生数が一定(ここでは、2)以上か否かを判断する。具体的には、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、まずL_Node_ID_Indexを定義し、L_Node_ID_Index=1と初期化する。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、ステップS21で作成した図7に示す低電圧異常診断テーブルDSL_TBLについて、レコードの先頭から以下の処理をL_Node_ID_Index>L_Node_ID_Maxとなるまで繰り返す。
【0047】
すなわち、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、まず低電圧異常診断テーブルDSL_TBLについて、ノードIDがL_Node_ID[L_Node_ID_Index]の値に等しいレコードの中で、レコードNo.の最も小さいレコードNo.をL_D_Indexと定義し設定し、同じく最も大きいレコードNo.をL_D_NumBotと定義し設定する。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、低電圧異常診断テーブルDSL_TBLの先頭からL_D_Index番目のレコードの「ワイヤハーネス」フィールドに同レコードのセンサ11A~11Eの中に低電圧異常が同時刻に複数(同時刻発生数)発生している状態で、この同時刻発生数が2以上である場合に「ワイヤハーネス低電圧異常」と判断し(ステップS26参照)、そうでなければ「ワイヤハーネス正常」と判断する(ステップS27参照)。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、L_D_Index=L_D_Index+1として次の候補に移す。そして、このような処理はL_D_Index≧L_D_NumBotとなるまで繰り返される。続いて、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、L_Node_ID_Index=L_Node_ID_Index+1として次のノードID候補に移す。ステップS25~S27の判断結果は、例えば図7中の「ワイヤハーネス」の欄に示されている。
【0048】
ステップS26又はステップS27に続くステップS28では、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、ワイヤハーネス内の結線の劣化を診断する。ここでは、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、上記ステップS22~S27の結果に基づいて、あるノードIDに「ワイヤハーネス高電圧異常」及び「ワイヤハーネス高電圧異常」のうち少なくとも一方があるときに、該ノードIDのワイヤハーネス内の結線が劣化したと診断する。
【0049】
以上のように構成されたワイヤハーネス内配線劣化診断システム1では、コントローラ17はセンサ11A~11Eから出力された信号に基づいてセンサ出力信号の高電圧異常又は低電圧異常の有無をそれぞれ判断し、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21はセンサ11A~11Eから出力された信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち少なくとも一方に基づいて、ワイヤハーネス内の結線13~16の劣化を診断するので、ワイヤハーネス内の結線の劣化を容易に診断することができる。しかも、ワイヤハーネスに対し特別な設計変更や製造変更を行わずに、センサ出力信号の電圧異常に基づいて診断できるので、簡易な構成でワイヤハーネス内の結線13~16の劣化を精度良く診断することができる。
【0050】
なお、本実施形態において、高電圧異常又は低電圧異常の同時刻発生数を2以上とした例を挙げて説明したが、同時刻発生数を3以上、4以上としても良く、このようにすれば、ワイヤハーネス内の結線劣化を診断する精度を高めることができる。また、本実施形態において、上記高電圧異常診断テーブルと低電圧異常診断テーブルの作成順序を入れ替えても良く、高電圧異常と低電圧異常の同時刻発生数が一定以上かの判断処理を入れ替えても良い。
【0051】
また、本実施形態において、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、更にセンサ11A~11Eから出力された信号の高電圧異常及び低電圧異常のうち少なくとも一方の同時刻発生頻度に基づいて、ワイヤハーネス内の結線の劣化を診断するのが好ましい。例えば、ワイヤハーネス内配線劣化診断部21は、高電圧異常及び低電圧異常のうち少なくとも一方の同時刻発生数が所定間隔で所定の数(同時刻発生頻度という)(ここでは、2)以上繰り返された場合、ワイヤハーネスが劣化したと診断する。このようにすれば、ノイズ等による誤診断を減らすことができる。
【0052】
なお、本実施形態に係るワイヤハーネス内配線劣化診断システム1について、様々な変形例も考えられる。
【0053】
[変形例1]
例えば図8に示す変形例1では、ワイヤハーネス内配線劣化診断システム1は、サーバ20と通信可能な端末50を更に備えている。端末50は、例えば保守員やユーザ等が持つPC(Personal Computer)や携帯端末である。携帯端末としては、スマートフォン、タブレット端末、携帯電話、PDA(Personal Data Assistant)などが挙げられる。
【0054】
そして、サーバ20は、ワイヤハーネス内配線劣化診断結果をノードIDとともに端末50に送信し、保守員やユーザ等に知らせる。保守員やユーザ等は、端末50を介してどの建設機械10のどのワイヤハーネス内の結線が劣化したかを容易に特定することができ、劣化したものを迅速に交換することが可能になるので、建設機械10の安定した稼働を維持することができる。
【0055】
[変形例2]
図9に示す変形例2では、建設機械10において、コントローラ17は、信号線18に代えて車内ネットワーク18Aを介してセンサ11A~11Eとそれぞれ接続されている。車内ネットワーク18Aは、例えばCAN(Controller Area Network)からなる。従って、センサ11A~11Eは、検知された結果をCAN経由でコントローラ17に出力する。
【0056】
[変形例3]
また、図10に示す変形例3では、ワイヤハーネス内配線劣化診断部は、サーバ20側ではなく、コントローラ17に設けられている。すなわち、図10に示すように、コントローラ17は、ワイヤハーネス内配線劣化診断部171を有する。この場合、ワイヤハーネス内配線劣化診断部171は、サーバ20の記憶装置に記憶されたセンサ出力信号電圧異常S[i]とセンサ出力信号電圧異常検知時刻D[i]に基づいて、上述内容に従って搭載された建設機械10のワイヤハーネス内の結線13~16の劣化を診断する。更に、ワイヤハーネス内配線劣化診断部171は、その診断結果を定期的にサーバ20に送信し、サーバ20のデータベース30に記憶させる。
【0057】
そして、サーバ20は、受信した各建設機械10のワイヤハーネス内配線劣化診断部171の診断結果を精査することで誤診断を減らすことができる。また、サーバ20は、各建設機械10のワイヤハーネス内配線劣化診断部171によって診断された結果を端末50に送信し、保守員やユーザ等に知らせる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0059】
1 ワイヤハーネス内配線劣化診断システム
10 建設機械
11A,11B,11C,11D,11E センサ
12P 電源線
12G グランド線
13,14,15,16 結線
13A,13B,14A,14B,15A,15B,16A,16B 分岐部
17 コントローラ
18 信号線
18A 車内ネットワーク
19 通信部
20 サーバ
21 ワイヤハーネス内配線劣化診断部
30 データベース
40 ネットワーク
50 端末
171 ワイヤハーネス内配線劣化診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10