IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ツー−シックス デラウェア インコーポレイテッドの特許一覧 ▶ コンセッホ スーペリオール デ インヴェスティガシオーネス シエンティフィーカス(セーエセイーセー)の特許一覧

特許7530310酸素の存在下において多孔質炭素中で固定化されたセレン、充電式電池における固定化セレンの製造方法および使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】酸素の存在下において多孔質炭素中で固定化されたセレン、充電式電池における固定化セレンの製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240731BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240731BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240731BHJP
   C01B 19/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
C01B19/00 Z
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021015540
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2021123528
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】16/784,703
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519146787
【氏名又は名称】ツー-シックス デラウェア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】II-VI Delaware,Inc.
(73)【特許権者】
【識別番号】521051244
【氏名又は名称】コンセッホ スーペリオール デ インヴェスティガシオーネス シエンティフィーカス(セーエセイーセー)
【氏名又は名称原語表記】Consejo Superior de lnvestigaciones Cientificas(CSIC)
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マルタ セヴィーリャ ソリス
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ ベニート フエルテス アリアス
(72)【発明者】
【氏名】ウェン-チン シウ
(72)【発明者】
【氏名】シャオミン リ
(72)【発明者】
【氏名】シェレシュ パッカー
(72)【発明者】
【氏名】エルギン イー.アイスラー
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106602010(CN,A)
【文献】特開2019-089158(JP,A)
【文献】JIA, Dandan et al.,High performance of selenium cathode by encapsulating selenium into the micropores of chitosan-derived porous carbon framework,Journal of Alloys and Compounds,2018年02月24日,vol.746,pp.27-35
【文献】ZHANG, He et al.,Alkaline lignin derived porous carbon as an efficient scaffold for lithium-selenium battery cathode,Carbon,2017年07月03日,vol.122,pp.547-555
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定化されたセレン体を調製する方法であって、
(a)セレン及び中に酸素種を有する多孔質外来テンプレート化炭素の混合物を形成するステップであって、前記外来テンプレート化炭素は、アルカリ金属塩又はアルカリ金属水酸化物と炭素源とを含む混合物を加熱して前記炭素源を炭化させて得られる三次元の相互接続された薄壁多孔質炭素であって、前記薄壁多孔質炭素は、200℃~250℃の温度での発熱重量の減少に関与しない十分な酸素量を有する炭素骨格である、ステップと、
(b)セレンの融点温度を超える温度にステップ(a)の混合物を加熱するステップと、
(c)ステップ(b)で加熱された混合物を周囲温度まで冷却し、固定化されたセレン体を形成するステップとを備え、
前記固定化されたセレン体中のセレン担持量が50wt%以下の場合、前記固定化されたセレン体中の酸素種の量は0.63ミリモル/グラム以上であり、
前記固定化されたセレン体中のセレン担持量が50wt%より多く60wt%以下(すなわち、50wt%<セレン担持量≦60wt%)の場合、前記固定化されたセレン体中の酸素種の量は0.5ミリモル/グラム以上であり、
前記固定化されたセレン体中のセレン担持量が60wt%以上の場合、前記固定化されたセレン体中の酸素種の量は0.31ミリモル/グラム以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
ステップ(a)の前に、前記外来テンプレート化炭素中の酸素種の量を増加させるために、前記外来テンプレート化炭素に後処理プロセスを施すステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記後処理プロセスは、前記外来テンプレート化炭素を酸化剤と反応させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記酸化剤が
硝酸、
過酸化水素、
有機過酸化物、
酸素、および
オゾン
のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法において、
前記酸化剤が、水性環境下において、
過硫酸アンモニウム、
過硫酸ナトリウム、
過硫酸カリウム、
マンガンの塩、
バナジウムの塩、および
クロムの塩
のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記多孔質外来テンプレート化炭素はアモルファスであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
前記多孔質外来テンプレート化炭素の細孔の60~95%がミクロ細孔であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前記多孔質外来テンプレート化炭素の細孔の50~99%がミクロ細孔であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
前記多孔質外来テンプレート化炭素が、ミクロ細孔、メソ細孔、およびマクロ細孔を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、
前記多孔質外来テンプレート化炭素が、1,400m/g以上のBET表面積を有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、高エネルギー密度のリチウム二次電池の分野に関する。より具体的には、本出願は、炭素-セレンナノ複合材料を調製する方法およびその応用に関する。また、本発明は、セレンと炭素を含む固定化セレンに関する。また、固定化セレンの製造方法およびその有用性にも関する。固定化セレンの用途の一つは、充電式電池にある。本発明は、0.1Cレートなどの低レートで充電した場合に、比容量などの電気化学的性能を実質的に回復させることができる一方で、最小レベルの容量フェードで高速レート(例えば、10Cレート)で放電-充電サイクルを実行することができる充電式電池にも関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月16日に出願された米国特許出願第15/434,655号の一部継続出願であり、また、2019年2月8日に出願された米国仮特許出願第62/802,929号の利益を主張する。上記出願の開示は、その全体が引用により本明細書に援用されるものとする。
【背景技術】
【0003】
人類のエネルギー需要の増大に伴い、リチウム硫黄電池やリチウムセレン電池など、質量比エネルギーが高く、体積エネルギー密度の高い二次電池が広く注目されている。硫黄やセレンなどの周期表の第6A族元素は、リチウムとの電気化学反応プロセスにおいて2電子反応メカニズムを示している。セレンの理論質量比容量(675mAh/g)は硫黄(1675mAh/g)よりも低いにもかかわらず、セレンの密度(4.82g/cm)は硫黄の密度(2.07g/cm)よりも高くなっている。このため、セレンの理論体積エネルギー密度(3253mAh/cm)は、硫黄の理論体積エネルギー密度(3467mAh/cm)に近い値となる。同時に、電気絶縁材料に近い硫黄と比較して、セレンは電気的に半導電性であり、より優れた導電性を示す。このため、セレンは、硫黄と比較して、より高い装填レベルでも高いレベルの活性とより優れた利用効率を示すことができ、高エネルギーおよび高出力密度の電池システムを実現することができる。さらに、セレン-炭素複合体は、硫黄-炭素複合体よりも導電性をさらに改善して、より高い活性を有する電極材料を得ることができる。
【0004】
中国特許公開第104393304号に記載されているように、グラフェン分散液にセレン化水素ガスを通すことにより、溶媒の熱で酸化グラフェンがグラフェンに還元されると同時に、セレン化水素がセレンに酸化される。このようにして調製したセレングラフェン電極材料は、エーテル電解質システム、1.5Mリチウムバイトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)/1,3-ジオキソラン(DOL)+ジメチルエーテル(DME)(体積比1:1)と対になり、充電比容量が、最初のサイクルで(セレンの理論比容量に近い)640mAh/gに達する。しかしながら、充放電プロセスでは、ポリセレニドイオンが電解液中に溶解して、シャトル効果が顕著に現れ、それにより、その後の容量低下が引き起こされる。同時に、このプロセスで使用される酸化グラフェン原料の調製手順は複雑であり、工業的な生産には適していない。
【0005】
中国特許第104201389号は、セレンと配合された窒素含有層状多孔質炭素複合集電体を利用したリチウム-セレン電池カソード材料を開示している。窒素含有層状多孔質炭素複合集電体を調製するには、先ず、紙片の表面に窒素含有導電性ポリマーを蒸着または成長させ、次いで、アルカリ活性化および高温炭化を行い、その結果、それ自体を支持するネットワーク構造としての炭素繊維を有する窒素含有層状多孔質炭素複合集電体が得られ、その後、そのような窒素含有層状多孔質炭素複合集電体を、セレンとさらに配合する。導電性ポリマーを調製するための蒸着方法は複雑であり、膜の形成または成長のプロセスを制御することは困難である。また、調製プロセスが複雑であり、望ましくないほど高いコストが伴う。
【0006】
さらに、電子機器、電気自動車/ハイブリッド車、航空宇宙/ドローン、潜水艦、その他の産業用、軍事用および民生用などの用途において、高速で充放電が可能な長寿命、高エネルギー密度、高出力密度の充電式電池への要求はますます高まっている。上記用途における充電式電池の例としては、リチウムイオン電池が挙げられる。しかしながら、リチウムイオン電池の技術が成熟するに連れて、より優れた性能とサイクル能力に対する要求が、リチウムイオン電池では満たされなくなってきている。
【0007】
原子酸素は原子量16で、2個の電子を移動させる能力を有している。高エネルギー密度の電池を作ることを目的に、リチウム-酸素充電式電池が研究されている。電池は、アノードとしてのリチウムやナトリウム金属と対となる酸素カソードを含む場合、最大の化学量論的なエネルギー密度を有する。しかしながら、Li/Na-酸素電池の技術的課題の大部分は未解決のままである。
【0008】
元素の硫黄も酸素グループに属しており、リチウムまたはナトリウム金属アノードと対になった場合、(酸素に次いで)2番目に高いエネルギー密度を持つ。リチウム-硫黄電池やナトリウム-硫黄電池が広く研究されている。しかしながら、Li-SやNa-S電池の放電プロセスで生成した多硫化イオン(中間体)は電解液中に溶解し、カソードからアノードへとシャトルする。アノードに到達すると、多硫化アニオンはリチウムやナトリウム金属と反応して、エネルギー密度が低下する。これは、電池システムにとって好ましくない。さらに、硫黄は絶縁体であるため、最低限の導電性を達成するには、高装填レベルの炭素材料が必要となる。硫黄の導電性が極めて低いため、Li/Na-S充電式電池は、高速の放電または充電が非常に困難である。
【発明の概要】
【0009】
本明細書に開示されているのは、黒鉛化度の高い二次元炭素ナノ材料を調製するプロセスである。この二次元炭素ナノ材料をセレンと混合して炭素-セレン複合材料を得て、これをリチウムを含むアノード材料と対をなすカソード材料として使用することで、高いエネルギー密度と安定した電気化学的性能を有するリチウム-セレン電池を得ることができる。同様のプロセスを用いて、さらにパウチセルを組み立てることができ、このパウチセルも優れた電気化学的特性を発揮する。
【0010】
また、容易に入手可能な原材料と簡単な調製手順でセレン-炭素複合材料を調製する方法も開示されている。
【0011】
本明細書に記載のセレン-炭素複合材料は、以下のステップからなる調製方法から得ることができる。
【0012】
(1)アルカリ金属有機塩またはアルカリ土類金属有機塩を高温で炭化させた後、希塩酸等の酸で洗浄し、乾燥させて二次元炭素材料を得る。
【0013】
(2)ステップ(1)で得られた二次元炭素材料とセレンを有機溶液中で混合し、有機溶媒を加熱して蒸発させた後、多段のヒートランピングおよび浸漬手順を経て二次元炭素材料とセレンの配合を達成し、炭素-セレン複合体を得る。
【0014】
ステップ(1)において、アルカリ金属有機塩は、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウムおよびショ糖酸ナトリウムのうちの1または複数から選択することができる。アルカリ土類金属有機塩は、グルコン酸カルシウム、ショ糖酸カルシウムのうちの一方または両方から選択することができる。高温炭化は、600~1000℃、好ましくは700~900℃で行うことができ、炭化時間は1~10時間、好ましくは3~5時間である。
【0015】
ステップ(2)において、有機溶媒は、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、四塩化炭素、およびジエチルエーテルまたは酢酸エチルのうちの1または複数から選択することができる。多段ヒートランピングおよび浸漬セクションは、ランピング速度2~10℃/分、好ましくは5~8℃/分で、200~300℃、好ましくは220~280℃の温度まで加熱し、その後、3~10時間、好ましくは3~4時間浸漬した後、400~600℃、好ましくは430~460℃まで加熱を続け、その後10~30時間、好ましくは15~20時間浸漬するものであってもよい。
【0016】
また、本明細書には、炭素-セレン複合材料を含むリチウム-セレン二次電池も開示されている。このリチウム-セレン二次電池は、リチウム含有アノードと、セパレータと、電解質とをさらに含むことができる。
【0017】
リチウム含有アノードは、リチウム金属、リチウム化グラファイトアノード、リチウム化シリコンカーボンアノード材料のうちの1または複数であってもよい(グラファイトアノードおよびシリコンカーボンアノード材料とリチウムアノードとを半電池に組み立て、放電することにより、リチウム化グラファイトアノードおよびリチウム化シリコンカーボンアノード材料を調製する)。セパレータ(膜)は、セルガード膜、ワットマン膜、セルロース膜またはポリマー膜に限定されるものではないが、これらの市販の膜であってもよい。電解液は、炭酸塩電解液、エーテル電解液およびイオン液体のうちの1または複数であってもよい。
【0018】
炭酸塩電解質は、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸エチルメチル(EMC)および炭酸プロピレン(PC)のなかから1または複数を選択することができ、溶質は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO)およびリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)のなかから1または複数を選択することができる。
【0019】
エーテル電解液の場合、溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、エチレングリコールジメチルエーテル(DME)およびトリエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)のなかから1または複数を選択することができ、溶質は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス-(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO)およびリチウムビス-フルオロスルホニルイミド(LiFSI)のなかから1または複数を選択することができ。
【0020】
イオン液体の場合、イオン液体は、1または複数の室温イオン液体[EMIm]NTf2(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ビストリフルオロメタンスルホンイミド塩)、[Py13]NTf2(N-プロピル-N-メチルピロリジン・ビストリフルオロメタンスルホンイミド塩)、[PP13]NTf2(N-プロピル-メチルピペリジンアルコキシ-N-ビストリフルオロメタンスルホンイミド塩)であってもよく、溶質は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、過塩素酸リチウム(LiClO)およびリチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)のなかから1または複数を選択することができる。
【0021】
また、本明細書には、炭素セレン複合材料を含むリチウム-セレンパウチセル電池も記載されている。
【0022】
先行技術と比較すると、本明細書に開示のセレン炭素複合材料の調製方法に関して、二次元炭素材料は、原材料が安価で容易に入手可能であること、調製方法が簡便で実用性が高く、大量生産に適していること、得られたセレン炭素複合材料が優れた電気化学的特性を示すこと等の利点を有している。
【0023】
また、本明細書には、セレンおよび炭素骨格を含む固定化セレン(固定化セレン体)も開示されている。固定化セレン体は、(a)固定化セレンシステムから自由になるために、セレン粒子が、9.5kJ/モル以上、9.7kJ/モル以上、9.9kJ/モル以上、10.1kJ/モル以上、10.3kJ/モル以上、または10.5kJ/モル以上の運動エネルギーに達するのに十分なエネルギーを得る必要があること、(b)490℃以上、500℃以上、510℃以上、520℃以上、530℃以上、540℃以上、550℃以上または560℃以上の温度が、セレン粒子が固定化セレンシステムから自由になるのに十分なエネルギーを得るために必要であること、(c)炭素骨格は、(細孔が20オングストローム未満で)500m/g以上、600m/g以上、700m/g以上、800m/g以上、900m/g以上、または1,000m/g以上の表面積を有すること、並びに、(d)炭素骨格は、(20オングストローム~1000オングストロームの細孔の場合)総表面積が20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下であること、のうちの少なくとも一つを含む。
【0024】
また、本明細書には、固定化されたセレンを含むカソードまたは充電式電池も開示されている。セレンは、硫黄に限定されるものではないが、硫黄などの他の元素でドープすることができる。
【0025】
また、本明細書には、アスペクト比が1以上、2以上、5以上、10以上または20以上であるプレートレット形態からなるセレンと炭素を含む複合体も開示されている。
【0026】
また、本明細書には、セレンおよび炭素を含み、アスペクト比が1以上、2以上、5以上、10以上または20以上であるプレートレット形態を有する複合体を含むカソードも開示されている。また、本明細書には、セレンおよび炭素を含み、上述したアスペクト比のプレートレット形態を有する複合体を含む充電式電池も開示されている。
【0027】
また、本明細書には、カソード、アノード、セパレータおよび電解液を有する充電式電池も開示されている。この充電式電池は、0.1C、0.2C、0.5C、1C、1.5C、2C、3C、4C、5C、6C、7C、8C、9C、10C、またはそれ以上の速度で充電することができる。カソードは、セレン、硫黄、テルル、酸素などのカルコゲン族の少なくとも1種の元素を含むことができる。アノードは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、IIIA族金属のうちの少なくとも1種の元素を含むことができる。セパレータは、表面が任意選択的に改質された有機セパレータまたは無機セパレータを含むことができる。電解液は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、IIIA族金属のうちの少なくとも1種の元素を含むことができる。電解液中の溶媒は、有機溶媒、炭酸塩系、エーテル系またはエステル系のものを含むことができる。
【0028】
充電式電池は、400mAh/g以上、450mAh/g以上、500mAh/g以上、550mAh/g以上、または600mAh/g以上の比容量を有することができる。この充電式電池は、50サイクル以上、75サイクル以上、100サイクル以上、200サイクル以上等の電気化学的サイクルを受けることができる。充電式電池は、高Cレート充放電サイクル(例えば、0.1Cで5サイクル、0.2Cで5サイクル、0.5Cで5サイクル、1Cで5サイクル、2Cで5サイクル、5Cで5サイクル、および10Cで5サイクル)を行った後、0.1Cのサイクルレートで、第2の放電比容量の30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える、または80%を超える電池比容量を保持することができる。充電式電池は、クーロン効率が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上であってもよい。充電式電池は、電子機器、電気自動車またはハイブリッド自動車、産業用アプリケーション、ドローンなどの軍事アプリケーション、航空宇宙アプリケーション、海洋アプリケーションなどに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、実施例1の炭素材料の50,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例1のリチウムセレン電池の0.1Cでの充放電曲線である。
図3図3は、比較例2のリチウムセレン電池の0.1Cでの充放電曲線である。
図4図4は、実施例1のパウチセル電池の光学画像である。
図5図5は、実施例1のパウチセル電池の0.05Cでの充放電曲線である。
図6図6は、固定化セレンの製造プロセスの流れ図である。
図7図7は、実施例9のプロセスで調製した炭素骨格の走査型電子顕微鏡画像である。
図8図8は、実施例9のプロセスで調製した炭素骨格のX線回折パターンである。
図9図9は、実施例9のプロセスで調製した炭素骨格のラマンスペクトルである。
図10図10Aは、実施例9のプロセスで調製した炭素骨格の累積および増分表面積のグラフである。図10Bは、実施例9のプロセスで調製した炭素骨格の累積および増分細孔量のグラフである。
図11図11Aは、実施例10のプロセスで調製した固定化セレンのTGA分析のグラフである。図11Bは、Se-Super P炭素およびSe-グラファイトを使用して実施例10のプロセスで調製した非固定化セレンサンプルのTGA分析のグラフである。図11Cは、アルゴンガスの流れの下で、16℃/分および10℃/分の加熱速度で、Se-Super P炭素(図11B)を使用して調製した非固定化セレンサンプルのTGA分析のグラフである。図11Dは、非固定化セレン(Se-Super P複合体-実線)、および実施例10のプロセスで調製した固定化セレンの2つの異なるサンプル(228-110(点線)および115-82-2(破線))の速度定数のグラフである。
図12図12は、実施例10のプロセスで調製した固定化セレンのラマンスペクトルのグラフである。
図13図13は、実施例10のプロセスで調製した固定化セレンのX線回折パターンのグラフである。
図14図14は、実施例10のプロセスで調製した固定化セレンのSEM画像である。
図15図15は、実施例11または実施例13のプロセスに従って調製したカソードを含むコインセル電池の分解図である。
図16図16は、実施例12のプロセスで調製した、図15に示すタイプの第1のリチウム-セレンコインセル電池(0.1C)(図16A-左側)および第2のリチウム-セレンコインセル電池(0.1Cの後に1C)(図16A-右側)のサイクル試験結果のグラフである。
図17図17は、実施例12のプロセスで調製した、図15に示すタイプのリチウム-セレンコインセル電池の、様々なサイクル速度でのサイクル試験のグラフである。
図18図18は、ポリマーセパレータを用いて実施例13に従って製造した図15に示すタイプのリチウム-硫黄ドープ-セレンコインセル電池の0.1Cサイクル試験結果のグラフである。
図19図19は、ポリマーセパレータを用いて実施例13に従って製造した図15に示すタイプのリチウム-硫黄ドープ-セレンコインセル電池の1Cサイクル試験結果のグラフである。
図20図20は、グルコースから製造された三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料のSEM画像である。
図21図21は、グルコースから製造された三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料のBET N等温線(a)および細孔サイズ分布(c)である。
図22図22は、大豆ミルから製造された三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料のSEM画像である。
図23図23は、大豆ミルから製造された三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料のBET N等温線(b)および細孔サイズ分布(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
特定の実施例と併せて、本発明を以下にさらに説明する。特に明記しない限り、以下の実施例の実験方法はすべて従来のものであり、試薬および材料はすべて市販のものから入手可能である。
【0031】
実施例1
(A)セレン炭素複合材料の調製
粉砕および破砕の後、適量のクエン酸カリウムを不活性雰囲気下で800℃で5時間焼成し、室温まで冷却する。希塩酸で中性のpHになるように洗浄し;ろ過および乾燥して二次元炭素ナノ材料(図1)を与え;50:50の質量比に従って、二次元炭素材料とセレンを秤量した後、セレンのエタノール溶液と均一に撹拌混合し;溶媒を蒸発させた後に、混合物をドライオーブンで乾燥し;乾燥した混合物を5℃/分で240℃に加熱して、3時間浸漬し;その後、5℃/分で450℃まで加熱し続け;20時間浸漬し;室温まで冷却し、これによりセレン炭素複合材料を得た。
【0032】
(B)セレン炭素複合体カソードの調製
上記のように調製したセレン炭素複合体を、カーボンブラックSuper P(TIMCAL)およびバインダCMC/SBR(重量比1:1)と、固定配合によって水とともに混合し、パルプ化、コーティング、乾燥および他の手順により、セレン炭素複合体カソードを得る。
【0033】
(C)リチウム-セレン電池の組立
上記のように調製したセレン炭素複合体カソード、アノードとしてリチウム箔、セパレータとしてのセルガードダイヤフラム、電解質としてのEC/DMC中の1MのLiPFを用いて、リチウムセレンコインセル電池およびリチウムセレンパウチセル電池に組み立てた(図4)。
【0034】
(D)リチウムセレン電池の試験
充放電装置を用いて、リチウム-セレンコインセル電池およびリチウム-セレンパウチセル電池の定電流充放電試験を行う。試験電圧範囲は1.0~3.0V、試験温度は25℃である。放電比容量および充放電電流のレベルは、セレンの質量に基づいて標準的に算出される。充放電電流は0.1Cまたは0.05Cである。リチウムセレンコインの充放電曲線を図2に示し、具体的な試験結果を以下の表1に示す。リチウムセレンパウチセルの試験結果を図5に示す。
【0035】
実施例2
条件は、二次元炭素用に炭化された原料がクエン酸ナトリウムであることを除いて、実施例1と同様である。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0036】
実施例3
条件は、二次元炭素用に炭化された原料がグルコン酸カリウムであることを除いて、実施例1と同様である。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0037】
実施例4
条件は、炭素材料の高温炭化温度が650℃であることを除いて、実施例1と同様である。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0038】
実施例5
条件は、乾燥した混合物を5℃/分で300℃に加熱し、この温度で3時間浸漬したことを除いて、実施例1と同じである。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0039】
実施例6
条件は、乾燥した混合物を5℃/分で240℃に加熱し、この温度で3時間浸漬した後、600℃まで加熱し続け、この一定温度で20時間浸漬したことを除いて、実施例1と同じである。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0040】
実施例7
条件は、リチウム-Se電池を、リチウムアノードシートの代わりにリチウム化グラファイトアノードで充填したことを除いて、実施例1と同様である。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0041】
実施例8
条件は、リチウム-Se電池を、リチウムアノードシートの代わりにリチウム化シリコンカーボンアノードを充填したことを除いて、実施例1と同様である。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0042】
比較例1
条件は、原料としてポリアクリロニトリルを用いたことを除いて、実施例1と同様である。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0043】
比較例2
条件は、ワンステップ配合法を用いてセレンと炭素の複合体を調製することを除いて、実施例1と同様である。この例では、乾燥したセレン炭素混合物を5℃/分で500℃まで加熱し、この温度で23時間浸漬して、セレン炭素複合材料を得た。このようにして得られたセレン炭素複合材料から作られた電池の充放電曲線を図3に示す。電池試験の結果を以下の表1にまとめた。
【0044】
このように、セレン炭素複合材料を調製する方法について説明してきたが、以下に、固定化セレンを製造する方法、および固定化セレンの使用、例えば充電式電池での使用について説明する。
【0045】
セレンは、酸素や硫黄と同族の元素、すなわち元素の周期表の第6族に属する元素である。セレンは、その実質的に高い導電性に関して、酸素や硫黄よりも有利な場合がある。米国特許出願公開第2012/0225352号は、良好な容量およびサイクル能力を有するLi-セレンおよびNa-セレン充電式電池の製造を開示している。しかしながら、あるレベルのポリセレニドアニオンが、そのような電池のカソードとアノードとの間をシャトルし、その結果、実際の使用のために実質的に改善しなければならない追加の電気化学的性能をもたらす。この分野に関連する文献には、以下のものが含まれる。
【0046】
「Electrode Materials for Rechargeable Batteries」,Ali Aboulmrane and Khalil Amine,米国出願公開第2012/0225352号,2012年9月6日.
「Lithium-Selenium Secondary Batteries Having non-Flammable Electrolyte」,Hui He,Bor Z.Jang,Yanbo Wang,and Aruna Zhamu,米国出願公開第2015/0064575号,2015年3月5日.
「Electrolyte Solution and Sulfur-based or Selenium-based Batteries including the Electrolyte Solution」,Fang Dai,Mei Cai,Qiangfeng Xiao,and Li Yang,米国出願公開第2016/0020491号,2016年1月21日.
「A New Class of Lithium and Sodium Rechargeable Batteries Based on Selenium and Selenium-Sulfur as a Positive Electrode」,Ali Abouimrane,Damien Dambournet,Kerena W.Chapman,Peter J.Chupa,Wei Wang,and Khalil Amine,J.Am.Chem.Soc.2012,134,4505-4508.
「A Free-Standing and Ultralong-life Lithium-Selenium Battery Cathode Enabled by 3D Mesoporous Carbon/Graphene Hierachical Architecture」,Kai Han,Zhao Liu,Jingmei Shen,Yuyuan Lin,Fand Dai,and Hongqi Ye,Adv.Funct.Mater.,2015,25,455-463.
「Micro-and Mesoporous Carbide-Derived Carbon-Selenium Cathodes for High-Performance Lithium Selenium Batteries」,Jung Tai Lee,Hyea Kim,Marin Oschatz,Dong-Chan Lee,Feixiang Wu,Huan-Ting Lin,Bogdan Zdyrko,Wan II Chao,Stefan Kaskel,and Gleb Yushin,Adv.Energy Mater.2014,1400981.
「High-Performance Lithium Selenium Battery with Se/Microporous Carbon Composite Cathode and Carbonate-Based Electrolyte」,Chao Wu,Lixia Yuan,Zhen Li,Ziqi Yi,Rui Zeng,Yanrong Li,and Yunhui Huang,Sci.China Mater.2015,58,91-97.
「Advanced Se-C Nanocomposites:a Bifunctional Electrode Material for both Li-Se and Li-ion Batteries」,Huan Ye,Ya-Xia Yin,Shuai-Feng Zhang,and Yu-Guo Guo,J.Mater.Chem.A.,May 23,2014.
「Lithium Iodide as a Promising Electrolyte Additive for Lithium-Sulfur Batteries:Mechanisms of Performance Enhancement」,Feixiang Wu,Jung Tae Lee,Naoki Nitta,Hyea Kim,Oleg Borodin,and Gleb Yushin,Adv.Mater.2015,27,101-108.
「A Se/C Composite as Cathode Material for Rechargeable Lithium Batteries with Good Electrochemical Performance」,Lili Li,Yuyang Hou,Yaqiong Yang,Minxia Li,Xiaowei Wang,and Yuping Wu,RSC Adv.,2014,4,9086-9091.
「Elemental Selenium for Electrochemical Energy Storage」,Chun-Peng Yang,Ya-Xia Yin,and Yu-Guo Guo,J.Phys.Chem.Lett.2015,6,256-266.
「Selenium@mesoporous Carbon Composite with Superior Lithium and Sodium Storage Capacity」,Chao Luo,Yunhua Xu,Yujie Zhu,Yihang Liu,Shiyou Zheng,Ying Liu,Alex Langrock,and Chunsheng Wang,ACSNANO,Vol.7,No.9,8003-8010.
【0047】
また、本明細書には、セレンおよび炭素を含む固定化セレンも開示されている。固定化セレンは、元素形態のセレンまたは化合物形態のセレンを含むことができる。セレンには、硫黄などの他の元素をドープすることができるが、硫黄に限定されるものではない。セレンを固定化することにより、電池のカソードとアノードとの間でシャトルすることなく、電気化学的に適切に機能する元素セレン原子の局在化が可能となる。セレンを固定化することにより、元素セレン原子は、放電プロセス中に2つの電子を獲得し、セレン分子/原子が固定化される場所でセレニドアニオンを形成することができる。その後、セレニドアニオンは、充電プロセス中に2個の電子を放出して、元素セレン原子を形成することができる。したがって、固定化されたセレンは、化学量論的レベルまでの比容量を有し、クーロン効率が95%以上、98%以上、または100%の高さであり、かつ実質的に改善された持続可能なサイクル能力を達成することができる充電式電池のための電気化学的活性剤として機能することができる。
【0048】
固定化されたセレンで作られた電池では、充電中の元素セレン原子とセレニドアニオンの電気化学的挙動が、望ましくは適切に機能するプロセスである。Sp炭素-炭素結合を持つ炭素骨格は、Dバンド炭素に囲まれたGバンドグラフェンのような局所ネットワークを介して、共役六員環芳香族π結合に分布する非局在化電子を有している。電位の存在下では、そのような非局在化電子は、僅かな電気抵抗で、あるいは電気抵抗無しで、炭素骨格を通って流れることができる。また、セレンの固定化は、炭素骨格のSp炭素-炭素結合を圧縮することもでき、その結果、炭素-炭素結合が強くなり、炭素骨格ネットワーク内の電子伝導性を向上させる可能性がある。同時に、セレンの固定化は、セレン粒子の圧縮ももたらし、その結果、セレン-セレン化学的および物理的相互作用がより強くなり、固定化されたセレン粒子間の導電性を向上させる可能性がある。セレンの固定化により炭素-炭素結合およびSe-Se結合の両方が強化されると、炭素骨格が結合できる安定化されたセレン部分の存在に加えて、圧縮により炭素-セレン相互作用も強化される。セレンのこの部分は、安定化されたセレン部分を炭素骨格がうまく固定化するための界面層として機能することができる。このため、炭素骨格と固定化されたセレンとの間には、最小限の電気抵抗で電子が流れる可能性があり、それにより、充電式電池において電気化学的な充電/放電プロセスが効率的に機能する可能性がある。これにより、充電式電池は、ほぼ化学量論的な比容量を維持し、電池の電気化学的性能へのダメージを抑えながら、ほぼすべての実用的な速度でサイクルする能力を有することができる。
【0049】
炭素骨格は、多孔質であってもよく、別の組成物でドープされていてもよい。炭素骨格の細孔サイズ分布は、サブオングストロームから数ミクロンの範囲であってもよく、または、細孔サイズ分布計が窒素、アルゴン、COまたは他の吸収剤をプロービング分子として使用することによって特徴付けることができる細孔サイズまでの範囲であってもよい。炭素骨格の多孔性は、サブオングストローム~1000オングストローム、または1オングストローム~100オングストローム、または1オングストローム~50オングストローム、または1オングストローム~30オングストローム、または1オングストローム~20オングストローム、のうちの少なくとも1つの範囲にピークを持つ細孔サイズ分布を含むことができる。炭素骨格の多孔性は、上述した範囲内に1つ以上のピークを有する細孔サイズ分布を有する細孔をさらに含むことができる。固定化されたセレンは、電子が最小の電気抵抗で迅速に伝達および収集され得る小さな細孔サイズを有する炭素骨格に有利に働く可能性があり、これにより、セレンが充電式電池で電気化学的により適切に機能することが可能になる。また、小さな細孔サイズは、セレンの第1の部分がセレン固定化の第2の部分のための第1の界面層を形成することができる、より多くの炭素骨格表面積を提供することもできる。さらに、中サイズの細孔の特定の部分および大サイズの細孔の特定の部分を有する炭素骨格中の存在は、バルク溶媒媒体から小さな細孔領域(リチウムイオンが配位した溶媒分子を失って固相のセレン化リチウムに輸送される可能性がある小さな細孔領域)への溶媒リチウムイオンの効果的な送達のために有益である可能性がある。
【0050】
炭素骨格の細孔容積は、0.01mL/g~5mL/gであってもよく、あるいは0.01mL/g~3mL/g、あるいは0.03mL/g~2.5mL/g、あるいは0.05mL/g~2.0mL/gであってもよい。100オングストローム未満、または50オングストローム未満、または30オングストローム未満、または20オングストローム未満の細孔サイズを有する細孔容積は、窒素、CO、アルゴンおよび他のプロービングガス分子によりBET機器を使用して測定可能な総細孔容積の30%を超え、または40%を超え、または50%を超え、または60%を超え、または70%を超え、または80%を超えるものであってもよい。BETで決定される炭素の表面積は、400m/gより大きいか、または500m/gより大きいか、または600m/gより大きいか、または700m/gより大きいか、または800m/gより大きいか、または900m/gより大きいか、または1000m/gより大きい。
【0051】
また、炭素は、実質的にアモルファスであるか、または5オングストローム付近のd間隔を中心とする非常に広いピークの特徴を有していてもよい。
【0052】
炭素は、DバンドとGバンドを特徴とするラマンピークシフトを有するSp炭素-炭素結合を含むことができる。一例では、炭素のSp炭素-炭素結合は、ラマンスペクトルにおいて、約296±50cm-1のFWHMを有する1364±100cm-1を中心とするDバンドと、約96±50cm-1のFWHMを有する1589±100cm-1を中心とするGバンドとを特徴とする。Gバンドに対するDバンドの面積の比率は、0.01~100、または0.1~50、または0.2~20の範囲であってもよい。
【0053】
炭素は、任意の形態、例えば、プレートレット、球状、繊維状、針状、管状、不規則なもの、相互接続されたもの、凝集したもの、離散したもの、または任意の固体粒子であってもよい。一定レベルのアスペクト比を有するプレートレット、繊維状、針状、管状または任意の形態は、より良好な粒子間接触を達成するために有益であり、それにより、より良好な導電性をもたらし、充電式電池の性能を向上させる可能性がある。
【0054】
炭素は、1ナノメートル~数ミリメートル、または数ナノメートル~1000ミクロン、または20nm~100ミクロンの粒子サイズの中央値を有する、任意の粒子サイズであってもよい。
【0055】
炭素骨格の特性はセレンの固定化に影響を与え、炭素骨格表面とセレン粒子との間の相互作用は充電式電池の性能に影響を与える。炭素骨格中のSp炭素の位置は、Seの固定化を達成するのに役立つ可能性がある。小さな炭素骨格細孔からのSp炭素が好ましい場合があり、これは、本明細書の実施例9で述べられるように、NLDFT表面積法によって定量化することができる。20オングストローム未満の炭素骨格細孔からの表面積は、500m/g以上、600m/g以上、700m/g以上、800m/g以上、900m/g以上、または1,000m/g以上であってもよい。また、20オングストローム~1000オングストロームの炭素骨格細孔からの表面積は、炭素骨格の全表面積の20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、または1%以下であってもよい。
【0056】
固定化セレンは、セレンの気化の定義を参照して、元素セレンよりも高い温度で気化するセレンを含むことができ、セレンの気化の定義によれば、Se-Super P複合体中の元素セレンは、480℃の温度で50%の重量を失い、Se/グラファイト複合体中の元素セレンは、471℃の温度で含有セレンの50%の重量を失う。固定化セレンは、480℃より高い温度で、例えば、温度が490℃以上、500℃以上、510℃以上、520℃以上、530℃以上、540℃以上、550℃以上、560℃以上、570℃以上、または580℃以上の温度で、その重量の50%を失う。固定化セレン中のセレンは、固定化セレンシステムの結合力および/または分子間力に打ち勝って気相へと自由になるためには、9.5kJ/モル以上、9.7kJ/モル以上、9.9kJ/モル以上、10.1kJ/モル以上、10.3kJ/モル以上、または10.5kJ/モル以上またはそれ以上の運動エネルギーを必要とする場合がある。一例では、気化する固定化セレンの最後の部分は、炭素骨格を離脱するために、11,635ジュール/モル以上(660℃以上)の運動エネルギーを必要とし、セレンの固定化にとって重要である場合があり、炭素骨格と固定化セレン分子の大部分との間の界面材料として機能することができる。このため、11,635ジュール/モル以上の運動エネルギーを必要とするセレンのこの部分は、界面セレンと呼ばれている。固定化セレン中の界面セレンの量は、固定化セレン全体の1.5%以上、2.0%以上、2.5%以上、または3.0%以上である。
【0057】
固定化セレンは、セレンが固定化Se-C複合システムから離脱するために、従来の(固定化されていない)セレンよりも高い活性化エネルギーを有するセレンを含むことができる。固定化されていないセレン(Se-Super P複合体システム)の活性化エネルギーは、ASTM法のE1641-16によれば、約92kJ/モルであることが求められた。セレンおよび炭素を含む固定化セレン中のセレンの活性化エネルギーは、95kJ/モル以上、98kJ/モル以上、101kJ/モル以上、104kJ/モル以上、107kJ/モル以上、または110kJ/モル以上である。セレンおよび炭素を含む固定化セレン中のセレンの活性化エネルギーは、Se-Super P複合体よりも3%以上、6%以上、9%以上、12%以上、15%以上、または18%以上大きい。固定化セレンは、固定化されていないセレンよりも安定している可能性があり、これは、セレンがSe-C複合体に固定化されることによりカソードとアノード間のセレンのシャトルが最小化(または排除)されることで、固定化セレンを含む電池が電気化学的に良好にサイクルすることができるためである。
【0058】
固定化されたセレンは、ラマン不活性またはラマン活性のセレンを含むことができ、典型的には255±25cm-1、または255±15cm-1、または255±10cm-1にラマンピークを有する。ラマン相対ピーク強度は、炭素のラマンスペクトルのDバンドピークの面積に対する255cm-1のラマンピークの面積として定義される。固定化された炭素は、ラマン相対ピーク強度が0.1%以上、0.5%以上、1%以上、3%以上、5%以上であるセレンを含むことができる。固定化されたセレンは、5%以上のセレン、10%以上のセレン、20%以上のセレン、30%以上のセレン、40%以上のセレン、50%以上のセレン、60%以上のセレン、または70%以上のセレンを含むことができる。
【0059】
固定化されたセレンは、純粋なセレンのラマンピークからの赤方偏移を有するセレンを含むことができる。赤方偏移は、固定化セレンのラマンピーク位置と純粋セレンのラマンピーク位置との間の正の差によって定義される。純粋なセレンのラマンピークは通常約235cm-1である。固定化されたセレンは、ラマンピークの赤方偏移が4cm-1以上、6cm-1以上、8cm-1以上、10cm-1以上、12cm-1以上、14cm-1以上、または16cm-1以上であるセレンを含むことができる。ラマンピークの赤方偏移は、セレン粒子が圧縮されていることを示唆している。
【0060】
固定化されたセレンは、圧縮下にある可能性のある炭素を含むことができる。圧縮下では、電子は最小の抵抗で流れることができ、これにより、充電式電池の放電・充電プロセス中に、電気化学的プロセスにおいて、セレンへの電子の高速送達やセレンアニオンからの電子の高速送達が容易になる。固定化されたセレンを含む炭素骨格のSp炭素-炭素結合のラマンスペクトルのDバンドおよびGバンドは、1cm-1以上、2cm-1以上、3cm-1以上、4cm-1以上または5cm-1以上の赤方偏移を示す場合がある。
【0061】
固定化セレンは、非固定化セレンよりも高い衝突頻度を有するセレンを含む。そのような高い衝突頻度は、固定化されたSe-Cシステム中のセレンが圧縮されていることに起因している可能性がある。非固定化セレン中のセレンの衝突頻度は、ATSM法のE1641-16によれば、約2.27×10であることが求められた。また、セレンおよび炭素を含む固定化セレン中のセレンの衝突頻度は、2.5×10以上、3.0×10以上、3.5×10以上、4.0×10以上、4.5×10以上、5.0×10以上、5.5×10以上、6.0×10以上、または8.0×10以上である。固定化セレンは、Se-C複合体中の非固定化セレンに比べて、衝突頻度が10%以上、30%以上、50%以上、80%以上、100%以上、130%以上、150%以上、180%以上、または200%以上、高くなることがある。これにより、セレン種間の衝突が増えるため、固定化セレンシステムの電子伝導性が向上する可能性がある。また、Se-C複合体中の固定化セレンは、炭素ホスト(例えば、炭素骨格)の壁との衝突頻度も高くなり、それにより、電気化学的サイクル中の炭素骨格からの電子の送達または収集が向上する可能性があり、これは、より多くのサイクルの達成および/または遥かに高いCレートでのサイクルなど、サイクル性能が改善された電池(固定化セレンを含む)をもたらす可能性があり、非常に望ましい。
【0062】
固定化セレンは、ホスト物質(炭素)からの離脱傾向の少ないセレンを含み、その運動速度定数は、非固定化/従来型セレンの運動速度定数の1/5以下、1/10以下、1/50以下、1/100以下、1/500以下、または1/1000以下である。本明細書の例では、固定化セレンが、そのホスト物質(炭素)から離れる傾向の少ないセレンを含み、その運動速度定数が(50℃で)、1×10-10以下、5×10-11以下、1×10-11以下、5×10-12以下、または5×10-13以下である。
【0063】
固定化セレンは、X線回折測定によって測定されるように、アモルファスであるセレンを含むことができる。約5.2オングストロームのd間隔を有する回折ピークは、炭素骨格のそれよりも相対的に小さいかまたは弱く、例えば、10%弱く、20%弱く、30%弱く、または40%弱い。
【0064】
固定化セレンは、炭素とセレンを物理的に混合した後、セレン分子を溶融および均質化(または混合またはブレンド)してセレンの固定化を達成することによって調製することができる。物理的混合は、ボールミリング(乾式および湿式)、乳鉢および乳棒による混合(乾式または湿式)、ジェットミリング、水平ミリング、摩滅ミリング、スラリー中の高剪断混合、ブレードによる通常のスラリー混合などによって達成することができる。物理的に混合されたセレンと炭素の混合物は、セレンの融点以上であって、炭素の融点以下の温度で加熱される。加熱は、アルゴン、ヘリウム、窒素に限られるものではないが、これらの不活性ガス環境下で行うことができる。加熱環境は、空気または反応性環境を含むようにしてもよい。セレンの固定化は、溶解したセレンを炭素に含浸させた後、溶媒を蒸発させることによって実現することができる。セレンを溶解するための溶媒は、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、窒素含有化合物、リン含有化合物、硫黄含有化合物、水等を含むことができる。
【0065】
固定化セレンは、炭素の存在下で大量のセレンを溶融させた後、余分な非固定化セレンを除去することによって、得ることができる。
【0066】
固定化されたセレンシステムまたはセレン体は、セレンシステムまたはセレン体中のセレンの総量の30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上の固定化セレンを含むことができる。固定化されていないセレンは、固定化セレンよりも低い温度で気化することができる。
【0067】
固定化セレンシステムまたはセレン体は、例えば硫黄および/またはテルルなどの周期表の第6族からの1または複数の追加/他の元素でドープされた固定化セレンを含むことができる。ドーパントレベルは、固定化されたセレンシステムまたはセレン体の重量に対して、100重量ppm~85重量%までの範囲であってもよい。
【0068】
固定化セレンを製造する例示的なプロセスを図6に示す。このプロセスでは、セレンと炭素が乾燥状態または湿潤状態で混合される(S1)。混合物は、任意選択的には、乾燥させて粉末にすることができ(S2)、その後、任意選択的には、乾燥粉末をペレット化することができる(S3)。ステップS1および任意選択的なステップS2およびS3の結果は、ステップS4の出発材料である炭素骨格を生成する。ステップS4では、セレンが炭素骨格内に溶け込む。炭素骨格に溶け込んだセレンを乾燥させることにより、ステップS5の固定化セレンを生成する。固定化セレンの調製および特性評価は、実施例10に関連して本明細書で後述する。
【0069】
固定化セレンは、充電式電池のカソード材料として使用することができる。カソードを製造するためには、水や有機溶媒に限定されるものではないが、それら液体媒体に固定化セレンが分散される。固定化セレンを含むカソードは、バインダ、任意には別のバインダ、任意には導電性促進剤、および電荷コレクタを含むことができる。バインダは、無機物であっても有機物であってもよい。有機バインダは、例えばCMCなどの天然物であってもよいし、例えばSBRゴムラテックスなどの合成物であってもよい。導電性促進剤は、炭素の一種であってもよく、例えば、グラファイト由来の微粒子、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノシート、カーボンブラック等であってもよい。電荷集電体は、例えば、アルミニウム箔、銅箔、カーボン箔、カーボンファブリックまたは他の金属箔であってもよい。カソードは、固定化セレン含有スラリー(または複数のスラリー)を電荷集電体上に塗布した後、通常の乾燥プロセス(空気乾燥、オーブン乾燥、真空オーブン乾燥など)を経て調製することができる。1または複数の固定化セレン含有スラリーは、高剪断ミキサ、通常のミキサ、遊星型ミキサ、二重遊星型ミキサ、ボールミル、垂直アトライタ、水平ミルなどによって調製することができる。固定化セレンを含むカソードには、電池アセンブリに使用する前に、プレス加工やローラーミル加工(またはカレンダー処理)を施すようにしてもよい。
【0070】
固定化セレンを含む充電式電池は、固定化セレンを含むカソードと、アノードと、セパレータと、電解質とを含むことができる。アノードは、リチウム、ナトリウム、ケイ素、黒鉛、マグネシウム、スズ、および/または、元素の周期表のIA族、IIA族、IIIA族などからの適切なかつ/または望ましい元素または元素の組合せを含むことができる。セパレータは、有機セパレータ、無機セパレータ、または固体電解質セパレータを含むことができる。有機セパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ハロゲン化ポリマー、ポリエーテル、ポリケトンなどのポリマーを含むことができる。無機セパレータは、ガラス繊維または石英繊維、固体電解質セパレータを含むことができる。電解質は、リチウム塩、ナトリウム塩または他の塩、周期表の1A族の塩、周期表のIIA族の塩、および有機溶媒を含むことができる。有機溶媒は、有機炭酸塩化合物、エーテル、アルコール、エステル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、リチウム含有溶媒などを含むことができる。
【0071】
固定化セレンを含む充電式電池は、電子機器、電気自動車またはハイブリッド車、産業用途、ドローンなどの軍事用途、航空宇宙用途、海洋用途などに使用することができる。
【0072】
固体化セレンを含む充電式電池は、セレンの400mAh/g有効量以上、450mAh/g以上、500mAh/g以上、550mAh/g以上、または600mAh/g以上の比容量を有することができる。固体化セレンを含む充電式電池は、50サイクル以上、75サイクル以上、100サイクル以上、200サイクル以上などの電気化学的サイクルを受けることができる。
【0073】
固体化セレンを含む充電式電池は、0.1C、0.2C、0.5C、1C、1.5C、2C、3C、4C、5C、6C、7C、8C、9C、10Cまたはそれ以上の速度で充電することができる。30サイクル以上(例えば、0.1Cで5サイクル、0.2Cで5サイクル、0.5Cで5サイクル、1Cで5サイクル、2Cで5サイクル、5Cで5サイクル、および10Cで5サイクル)の広範囲な高Cレートの充電・放電サイクルを行った後、固体化セレンを含む充電式電池は、0.1Cのサイクル速度で、第2の放電比容量の30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上の電池比容量を保持することができる。
【0074】
以下に、本発明の趣旨を説明するためのいくつかの実施例を示す。しかしながら、これらの実施例は、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【実施例
【0075】
特性評価の方法
走査型電子顕微鏡(SEM)画像を、エネルギー分散分析X線(EDX)検出器を備えたTescan Vega走査型電子顕微鏡で収集した。
【0076】
ラマンスペクトルを、RenishawのinViaラマンマイクロスコープ(共焦点)により収集した。レーザラマン分光法は、炭素とダイヤモンドの特性評価の標準として広く使用されており、炭素の様々な形態(同素体)(ダイヤモンド、グラファイト、バッキーボールなど)の各々を容易に識別できる特徴を提供する。フォトルミネッセンス(PL)技術と組み合わせることで、相純度、結晶サイズと配向、欠陥レベルと構造、不純物の種類と濃度、応力と歪みなど、ダイヤモンドの様々な特性を非破壊で調べることができる。特に、1332cm-1の1次ダイヤモンドのラマンピークの幅(半値全幅、FWHM)や、ダイヤモンドのピークとグラファイトのピーク(1350cm-1のDバンドと1600cm-1のGバンド)の間のラマン強度比は、ダイヤモンドや他の炭素材料の品質を直接示す指標となる。さらに、ダイヤモンドのラマンピークのシフトから、ダイヤモンドまたは他の炭素粒や膜中の応力や歪みのレベルを推定することができる。静水圧応力下でのダイヤモンドのラマンピークのシフト率は約3.2cm-1/GPaであり、引張応力下では低い波数に、圧縮応力下では高い波数にピークがシフトすることが報告されている。本明細書で説明するラマンスペクトルは、514nmの励起レーザによりRenishawのinViaラマン分光器を使用して収集したものである。ラマン分光法を使用するダイヤモンドの特性評価の詳細は、(1)A.M.Zaitsev,Optical Properties of Diamond,2001,Springer、並びに、(2)S.Prawer,R.J.Nemanich,Phil.Trans.R.Soc.Lond A(2004)362,2537-2565などの文献からも入手可能である。
【0077】
炭素サンプルのBET表面積および細孔サイズ分布のデータは、サンプル脱気調製用のSmart VacPrepを備えた3Flex(Mircomeritics)を用いて、窒素吸収およびCO吸収により測定した。サンプルは、通常、COおよびN吸収測定の前に、真空下において、250℃で2時間、Smart VacPrepで脱気される。窒素吸収は、BET表面積を決定するために使用される。窒素吸収データとCO吸収データを組み合わせて、炭素サンプルの細孔サイズ分布を計算した。NとCOの両方の吸収データを組み合わせて炭素材料の細孔サイズ分布を求めることについての詳細は、「Dual gas analysis of microporous carbon using 2D-NLDFT heterogeneous surface model and combined adsorption data of N and CO」,Jacek Jagiello,Conchi Ania,Jose B.Parra,and Cameron Cook,Carbon 91,2015,page 330-337を参照されたい。
【0078】
固定化セレンサンプルおよび対照サンプルの熱重量分析(TGA)およびTGA-示差走査熱量測定(DSC)のデータをNetzsch Thermal Analyzerを用いて測定した。TGA分析は、16℃/分、10℃/分、5℃/分、2℃/分、1℃/分、および他の加熱速度で、アルゴン流量約200mL/分の条件下で実施した。一貫性を保つために、TGA分析に使用した固定化セレンサンプルの典型的な量は約20mgであった。
【0079】
固定化セレンと非固定化セレンの活性化エネルギーと衝突頻度を、ASTM法のE1641-16に記載されている手順に従ってTGAで測定した。
【0080】
様々な炭素、Se-炭素サンプルおよび固定化セレンのX線回折結果をフィリップ回折計で収集した。
【0081】
Lanhe CT2001A電池サイクル試験機を用いて、固定化セレンを含む充電式電池の電池サイクル性能を試験した。固体化セレンを含む充電式電池の充電電流および放電電流は、固定化セレンに含まれるセレンの量とサイクル速度(0.1C、0.5C、1C、2C、3C、4C、5C、10Cなど)によって求められた。
【0082】
実施例9:炭素骨格の合成と特性評価
第一の残渣を形成するために、260gのクエン酸カリウムの装入物をるつぼに入れ、るつぼを管状炉内の石英管に入れた。アルゴンガスの流れを炉内に流し、炉を室温(約20~22℃)から600℃まで5℃/分で加熱した。この温度で炉を60分間保持した後、炉を停止し、炉が冷却された後、るつぼから装入物を取り出し、174.10グラムの処理残渣を回収した。第二および第三の処理残渣を形成するために、第一の処理残渣について説明したのと同じプロセスを、420グラムおよび974グラムのクエン酸カリウムの装入物について別々に繰り返した。結果として得られた第2および第3の処理残渣の重量は、それぞれ282.83グラムおよび651.93グラムであった。
【0083】
これら3つの処理残渣から1108.9グラムをまとめてるつぼに入れ、それを管状炉内の石英管に入れ、アルゴンガスの流れを炉内に流した。炉を5℃/分で800℃に加熱した。炉を800℃で1時間保持した。炉を冷却した後、石英管からるつぼを取り出し、その後、1085.74グラムの第一の最終残渣を回収した。
【0084】
本実施例に記載したのと同じ手順(800℃)に従って、炉内に導した120グラムのカリウム残渣の装入物は、約77グラムの第二の最終残渣(800℃)を生成した。
【0085】
第一の最終残渣と第二の最終残渣の組み合わせにより、約1,163グラムの第三の最終残渣が得られた。
【0086】
その後、第三の最終残渣1,163gを400mlの水と混合してスラリーを形成し、これを4個の2リットルビーカにほぼ均等に分けた。各スラリーのpHは13より大きいと測定された。次に、各ビーカに濃塩酸水溶液を加え、それにより二酸化炭素が激しく発生したが、これは約5未満のpHで沈静化した。さらに塩酸水溶液を加えて約1.9のpHを得た。次いで、スラリーをろ過し、洗浄してケーキをろ過し、これを120℃のオーブンで約12時間乾燥させ、続いて120℃で24時間真空乾燥して、4つの炭素骨格サンプル、合計約61.07グラムを得た。
【0087】
これらの炭素骨格サンプルを、SEM、XRD、ラマン、BET/細孔サイズ分布で特徴付けた。1つの炭素骨格についてのSEMの結果を図7に示す。本実施例に記載のプロセスで調製した典型的な炭素骨格粒子の表面形態は、シート状の形態を有し、それらのシートエッジが500nmと100nmの間のサンプル厚さで相互接続され、サンプル幅(または長さ)が0.5~2μmであり、よって1以上のアスペクト比(サンプル厚さに対するサンプル幅(またはシート長さ)の最長寸法の比率として定義される)、例えば、5以上のアスペクト比または10以上のアスペクト比を有していた。
【0088】
図8に示す1つの炭素骨格のX線回折パターンは、炭素骨格が実質的に同相でアモルファスであることを示している。しかしながら、それは約17°の2θ付近を中心とする広い回折ピークを示し、約5.21オングストロームのd間隔を示している。
【0089】
1つの炭素骨格のラマン散乱分光の結果を図9に示す。この図は、Sp炭素が、約1365cm-1(曲線1)のDバンドと約1589cm-1(曲線2)のGバンドとを有し、FWHMがそれぞれ296および96cm-1であることを示している。DバンドおよびGバンドはともにガウス分布とローレンシアン分布の混在を示し、Dバンドが約33%のガウス分布、Gバンドが約61%のガウス分布を有している。Gバンドの面積に対するDバンドの面積の比率は約3.5である。
【0090】
1つの炭素骨格のBET表面積は、窒素吸収によって1,205m/gと測定された。増分細孔表面積対細孔幅が、NLDFT法を用いて図10Aにプロットされており、1,515m/gの累積細孔表面積を示している。BET表面積とNLDFT表面積との間の不一致は、NLDFT分布が窒素およびCO吸収データの両方を用いて計算されているという事実に起因している可能性があり、CO分子は、窒素分子が入ることができる細孔よりも小さい細孔に入る可能性がある。3.48オングストロームでピークに達した細孔のNLDFT表面積は443m/g、5.33オングストロームでは859m/g、11.86オングストローム(最大20オングストローム)では185m/gとなり、20オングストローム以下の細孔では合計1,502m/gとなるが、20オングストローム~1000オングストロームの細孔のNLDFT表面積は僅か7.5m/gであり、20オングストローム以上の細孔の表面積は全表面積の約0.5%に過ぎない。
【0091】
炭素骨格サンプルの細孔サイズ分布を、窒素吸収とCO吸収によって求めた。窒素吸収とCO吸収の吸収結果を組み合わせることで、図10Bに示すような細孔サイズ分布が得られた。増分細孔容積(mL/g)対細孔幅(オングストローム)の関係は、3.66オングストローム、5.33オングストローム、11.86オングストロームに3つの主要なピークがあることを示しており、累計細孔容積(mL/g)対細孔幅(オングストローム)の関係は、3.66オングストロームのピークの下に約0.080mL/gの細孔、5.33オングストロームのピークの下に約0.240mL/gの細孔、11.86オングストロームのピークの下に約0.108mL/gの細孔があり、20オングストローム以下に0.43mL/gの細孔、20~100オングストロームに0.042mL/gの細孔があり、1000オングストロームまでに合計0.572mL/gの細孔があることを示している。
【0092】
実施例10:固定化セレンの調製と特性評価
メノウの乳鉢と乳棒のセットに(セレンのバルク特性を示す)セレン0.1206グラムを入れ、同じメノウの乳鉢と乳棒に実施例9に従って調製した炭素骨格0.1206グラムを入れる。セレンと炭素骨格の混合物を約30分間手動で粉砕し、粉砕したセレンと炭素骨格の混合物をステンレス鋼のダイ(直径10mm)に移す。ダイ内の混合物を約10MPaの圧力に加圧し、混合物のペレットを形成する。その後、このペレットを不活性環境(アルゴン)の存在下で密閉容器に装填し、ペレットを含む密閉容器をオーブンに入れる。ペレットの入った密閉容器を含むオーブンを、例えば12時間、(セレンの融解温度より高い)240℃に加熱する。しかしながら、使用は、セレンと炭素が部分的または完全に反応して本願に記載の特徴の一部またはすべてを有する固定化セレンを形成するのに十分な、セレンの融解温度より高い温度と時間の任意の組み合わせを想定している。次に、ペレットを室温に戻した後、ペレットを容器から取り出す。取り出したペレットは、本実施例10の固定化セレンである。
【0093】
次に、本実施例10の固定化セレンを、TGA-DSCおよびTGAにより特性評価を行った。TGA-DSC分析結果は、10℃/分の加熱速度で200ml/分のアルゴンガスの流れの下で、固定化セレンについて収集した。セレンの融点付近の温度(約230℃)では、観察可能な吸熱DSCピークはなく、これは、本実施例10の固定化セレンが、吸熱ピークが存在する約230℃に融点を有するはずのセレン分子/原子のバルク形態とは異なることを示している。
【0094】
調査の結果、加熱温度がTGA-DSCサンプルるつぼ(グラファイトやセラミックス)からセレン分子が逃げ始める温度に達すると、TGA-DSCデータが信頼できない可能性があることが明らかになった。このため、気相のセレン分子(サンプルるつぼからの)がアルゴンキャリアガスの流れに入って、TGA-DSC白金サンプルホルダと反応するようであり、それにより、実際のTGA-DSCの熱化学的挙動が歪められる。サンプルるつぼから放出されたセレン分子が白金サンプルホルダと反応することで、この温度領域での重量減少が抑制される。その後、白金サンプルホルダ内のセレン-白金複合体は、加熱温度が800℃を超える点に達すると気相中に放出される。セレンの完全な放出は1000℃で起こり得る。この調査は、本実施例10の固定化セレンサンプルの大部分を使い果たした。このため、本実施例10の前の部分で説明したのと同じプロセスを用いて、固定化セレンの新しいサンプル(約16グラム)を調製した。
【0095】
この新しい固定化セレンのサンプルの熱化学的挙動を、TGA分析により研究した。TGA分析は、これに使用される非常に小さな熱電対を覆うセラミックサンプルホルダを使用する。この新しい固定化セレンサンプルのTGA分析結果は、(本実施例10の固定化セレンの調製と同じプロセスで、50-50 Se-Super P炭素複合体、およびSe-グラファイト(粉砕グラファイト)を用いて作製された)セレン-炭素複合体のTGA分析結果(図11B)とともに、図11Aに示されている。Super Pは、リチウムイオン電池業界で広く使用されている商用グレードのカーボンブラックである。粉砕グラファイトは、Poco 2020グラファイトを粉砕して調製した。また、TGA分析データを以下の表2にまとめた。
【0096】
固定化セレンは、Se-Super P炭素複合体およびSe-グラファイト炭素複合体についての340℃に対して、約400℃から始まる初期重量減少温度を有することができ、固定化セレンの中間点の重量減少温度は、Se-Super P複合体の480℃およびSe-グラファイト複合体の471℃に対して、約595℃であり、主な重量減少は、Se-Super P複合体およびSe-グラファイト複合体については約544℃、固体化セレンについては660℃で完了した。Se-Super P炭素複合体およびSe-グラファイト炭素複合体は、560℃~780℃で0.6%未満の重量減少を示すが、固定化セレンは、主な重量損失の底(約660℃~1000℃)から約2.5%の重量減少を示す。これらの結果によれば、非固定化セレン(Se-Super P炭素複合体およびSe-グラファイト複合体)は、全セレンの約1.2%以下が約560℃以上の温度で複合体から離脱することができ、一方、固定化セレンは、全セレンの約5.0%が約660℃以上の温度で炭素骨格から離脱することができる。以下の詳細は、熱化学的挙動への洞察を与える例を提供するためものである。しかしながら、それらの詳細は、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0097】
熱化学的挙動の例としてTGA中間点重量減少温度のデータを用いると、加熱温度が上昇するに連れて、Se-Super P複合体およびSe-グラファイト複合体中のセレン分子の運動エネルギーは、これらのセレン分子がセレン分子間の分子間相互作用に打ち勝ってセレンの液相から離脱するのに十分なエネルギーを持つレベルまで上昇する。運動エネルギー=3RT/2であり、ここで、Rは気体定数であり、Tはケルビン単位の温度である。
【0098】
セレン分子がSe-Super P複合体の混合物から離脱する際に、Se-Super P複合体のセレン分子の平均運動エネルギーが、9,391ジュール/モルと測定されることが観測された。しかしながら、セレンが炭素骨格から気相のセレン分子に離脱するためには、固定化セレンは、約10,825ジュール/モルの平均運動エネルギーを持つように十分なより多くのエネルギーを得る必要がある。固定化セレン中のセレンは、原子の形態、分子の形態または任意の形態の何れかとして、セレンの分子間相互作用を超えて、セレンおよび炭素骨格と化学的に相互作用する可能性があると考えられている。さらに、660℃~1000℃に炭素骨格から離脱するセレンの最後の部分は、11,635ジュール/モル~15,876ジュール/モルまたはそれ以上の範囲の平均運動エネルギーを有している。これは、固定化セレン中のセレンが従来のセレン-炭素複合体中のセレンよりも安定であることを示唆している。本実施例10の固定化セレン中の安定化セレンは、固体化セレンを含む充電式電池の充放電サイクル中などの電気化学的プロセス中に、原子の形態、分子の形態または任意の形態の何れかとしてセレンが炭素骨格内に留まる能力を高める。一例では、セレンのこの最後の部分は、炭素骨格を離脱するために、11,635ジュール/モル以上(660℃以上)の運動エネルギーを必要とし、セレンの固定化のために重要であり、炭素骨格と固定化セレン分子の大部分との間の界面材料として働くことができる。この固定化セレン中の界面セレンの部分は、全固定化セレンの1.5%以上、2.0%以上、2.5%以上、または3.0%以上であってもよい。
【0099】
図11Aは、含有セレンの中間点重量減少の温度が628℃である、16℃/分の加熱速度での固定化セレンのTGA研究を示している。図11Cに示すように、Se-Super P複合体については、16℃/分の加熱速度での含有セレンの中間点重量減少時の温度は495℃である。様々な加熱速度(例えば、16℃/分、10℃/分、5℃/分、2.5℃/分、および1℃/分)についての活性化エネルギーおよび衝突頻度は、ASTM E1641-16およびE2958-14などの公知の方法を用いて決定および計算することができる。様々な加熱速度についての15%重量減少時の温度は、以下の表3に示すようになる。
【0100】
S-Super P複合体中のセレン(非固定化または従来型)の活性化エネルギーは、92.3kJ/モルであり、衝突頻度が2.27×10であることが求められた。固定化セレン(上記228-110)中のセレンの活性化エネルギーは、120.7kJ/モルであり、衝突頻度が12.4×10であることも求められた。また、実施例10と同じ手順で調製した固定化セレンの別のサンプル(上記155-82-2)は、120.0kJ/モルの活性化エネルギーを有し、18.3×10の衝突頻度を有することが測定された。
【0101】
セレンの運動速度定数は、以下のアレニウス式を用いて計算される。
ここで、kは速度定数、Eは活性化エネルギー、Aは衝突の頻度、Rは気体定数、Tはケルビン温度である。
【0102】
図11Dに示すように、上記のように求めた活性化エネルギーと衝突頻度を用いて、様々な温度でアレニウス式を用いて運動速度定数を計算した。図11Dは、固定化されていないセレン(S-Super P複合体-実線)の速度定数が固定化セレン(228-110(点線)、115-82-2(破線))の速度定数よりも遥かに高く、例えば、35℃では約4桁大きく、100℃では約3桁大きくなることを示している。一例では、50℃において、固定化されていないセレン(Super P)の速度定数は2.668×10-10であるが、固定化されたセレンは7.26×10-14(155-82-2)および3.78×10-14(228-110)の速度定数を有する。運動速度定数が低いセレンは、ホスト物質(炭素)から離れる傾向が少ないため、電池のサイクル性能の向上につながる可能性がある。
【0103】
図12は、1368cm-1にDバンドおよび1596cm-1にGバンドのラマンピークを有する固定化セレンのスペクトルを示しており、Gバンドの面積に対するDバンドの面積の比率が2.8である。図9に示す炭素骨格のラマンスペクトルと比較すると、セレン固定化により、両ラマンピークが高い波数にシフトし、Dバンドでは約3cm-1赤方偏移、Gバンドでは7cm-1赤方偏移し、これは、炭素骨格中のSp炭素の結合強度が強化されて、Dバンドでは約4cm-1赤方偏移、Gバンドでは8cm-1赤方偏移があることを示唆している。同時に、Gバンドの面積に対するDバンドの面積の比率も約3.4から2.8に減少し、Dバンドが相対的に弱くなるか、Gバンドが相対的に強くなるかのどちらかであることを示唆している。Gバンドは、炭素骨格がより容易に電子を伝導することを可能にして充電式電池で使用される場合に電気化学的性能のために望ましい可能性があるタイプの炭素に関連し得るため、より強いGバンドが望ましい場合がある。バルクまたは純粋なセレンは、通常、約235cm-1に鋭いラマンシフトピークを示す。固定化セレンの場合、図12のラマンスペクトルは、約257cm-1に広いラマンピーク(Gバンド面積の約12.7%)を示し、約500cm-1に新しい広いこぶ(Gバンド面積の約3.0%)を示している。セレンの固定化により、炭素骨格とセレンの両方のラマン特性が変化し、すべてのラマンピークが高い波数にシフトしていることから、炭素骨格の炭素-炭素Sp結合とセレンのセレン-セレン結合の両方が圧縮されていることを示唆している。
【0104】
セレン固定化による圧縮によって、炭素骨格の炭素-炭素間Sp結合とセレンのSe-Se結合の両方が強化され、より強いセレン-セレン相互作用と炭素-セレン相互作用が作り出される。このため、セレンがより強いSe-Se結合とより強い炭素-セレン相互作用に打ち勝つには、より多くの運動エネルギーが必要になる。これは、固定化セレンとSe-Super P複合体およびSe-グラファイト複合体とのTGA分析での観察結果を説明している。
【0105】
さらに、圧縮下では、炭素骨格が、結合レベルで電子を伝導する優れた能力を有し、圧縮下では、セレン原子または分子は、電子を伝導する優れた能力も有するものとなる。
【0106】
固定化セレンのセレン安定化と、炭素骨格およびセレン全体の電子伝導性の向上は、電気化学プロセスにおいて、例えば、最小レベルのシャトルによる活性物質の比容量の向上、固定化によるサイクル能力の向上、より高い速度で充放電される能力などにより、望ましい可能性がある。しかしながら、これは限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0107】
図13に示す実施例10に従って調製した固定化セレンのX線回折パターンは、約5.21オングストロームでのd間隔を持つ炭素骨格からの広角回折ピークの強度の減少(強度の僅か約1/3)を示しており、これは、固定化セレンがさらに炭素骨格をより無秩序にするか、または炭素骨格の秩序により多くの破壊を引き起こすことを示唆している。これは、一例では、炭素-炭素Sp結合に圧縮力がかかるためと考えられる。
【0108】
図14は、実施例10に従って調製した固定化セレンのSEM画像を示し、炭素骨格についての図7の画像と同様に、シート状の形態を示している。炭素骨格に固定化されたセレンが約50%存在するものの、シート間の接続部が破壊されていることを除き、炭素骨格の表面には観察可能なセレン粒子は見受けられず、その結果、高いアスペクト比を有する多くの平坦なシートが生成されている。このようなシート状の形態は、平面シートの方向に沿って整列した配向コーティングを形成するために非常に好ましい可能性があり、シート表面と表面との接触を生じさせ、シート間の導電性を改善し、それにより、充電式電池のような電気化学プロセスのための優れた電気性能がもたらされる可能性がある。
【0109】
実施例11:Seカソードの作製
乳鉢と乳棒に、実施例10に従って調製した56mgの固定化セレン、7.04mgのSuper P、182μLのカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液(CMC溶液52μLごとに1mgの乾燥CMCを含む)、21.126μLのSBRラテックス分散液(SBRラテックス分散液6.036μLごとに1mgの乾燥SBRラテックスを含む)、および200μLの脱イオン水を投入する。粒子、バインダおよび水を手動で30分間スラリーに粉砕し、カソードスラリーを生成する。次いで、このカソードスラリーを、導電性基板、例えば箔の片面に塗布し、空気乾燥させた。一例では、導電性基板または箔がアルミニウム(Al)箔である。しかしながら、任意の形状または形態の任意の適切なかつ/または望ましい導電性材料の使用が想定されるため、これは限定的な意味で解釈されるべきではない。説明のみを目的として、本明細書には、Al箔を使用してセレンカソードを形成することが記載される。しかしながら、これは限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0110】
次に、スラリーでコーティングしたAl箔を乾燥オーブンに入れ、55℃の温度に12時間加熱した。その結果、Al箔の片面に固定化セレンの乾燥シートを有し、Al箔のもう一方の面がコーティングされていない、すなわちアルミニウムの露出したセレンカソードが得られた。
【0111】
その後、セレンカソードを打ち抜いて、直径10mmのカソードディスクにした。これらのカソードディスクの一部を、充電式電池のカソードとして使用した。
【0112】
例12:Li-Se充電式電池の組立および試験
実施例11のカソードディスクを使用して、次に説明する図15の実施例に記載の方法で、Li-Se充電式コイルセル電池を組み立てた。この実施例では、実施例11の直径10mmのカソードディスク4を、コインセルの正極ケース(図15では「正極ケース」)として機能する2032ステンレス鋼製コインセル缶のベース2上に配置して、固定化セレンシート5が正極ケースのベース2から離れて上方に向き、むき出しのAl側が正極ケースのベース2と向き合って接触するようにした。次に、カソードディスク4の上に電池セパレータ6(直径19mm、厚さ25ミクロン)を固定化セレンシート5に接触させて配置した。一例では、電池セパレータ6は、有機セパレータ、無機セパレータまたは固体電解質セパレータであってもよい。有機セパレータは、ポリマー、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ハロゲン化ポリマー、ポリエーテル、ポリケトン等であってもよい。無機セパレータは、ガラスおよび/または石英繊維から作ることができる。
【0113】
次に、エチレンカーボネート(EC)溶媒およびジメチルカーボネート(DMC)溶媒(重量比50:50)中にLiPF(1M)を含む240μLの電解液7を正極ケース2内に導入した後、カソードディスク4と反対側のセパレータ6の面にリチウム箔ディスク8(直径15.6mm、厚さ250ミクロン)を配置した。次に、セパレータ6と反対側のリチウム箔ディスク8の面にステンレス鋼(SS)スペーサ10を配置した後、リチウム箔ディスク8と反対側のSSスペーサ10の面に、例えばニッケルからなる1または複数の発泡ディスク12を配置した。リチウム箔ディスク8、SSスペーサ10および/または発泡ディスク12は、アノードとして機能することができる。最後に、コインセル電池の負極として機能する、2032ステンレス鋼14から作られたケース14(図15では「負極ケース」)を、SSスペーサ10と反対側のニッケル発泡ディスク12の面と、正極ケース2のリム上に配置した。その後、正極ケース2と負極ケース14を、高圧、例えば1,000psiの圧力下で一緒に密封した。高圧下での正極ケース2と負極ケース14の密封は、(図15では下から上へ)カソードディスク4、セパレータ6、リチウム箔8、SSスペーサ10およびNi発泡ディスク12を含むスタックを一緒に圧縮する効果もあった。上記電池セパレータおよびグラスファイバセパレータを用いて、13個以上のコインセル電池を組み立てた。その後、組み立てたコインセル電池を以下の条件で試験した。
【0114】
組み立てたコインセル電池の一部は、Lanhe Battery Tester CT2001Aを使用して、0.1Cと1Cの充電・放電速度で試験した。各コインセル電池を、(1)1時間の休止、(2)1Vまで放電、(3)10分間の休止、(4)3Vまで充電、(5)10分間の休止、というステップで試験し、ステップ(2)~(5)を繰り返すことにより、サイクル試験を繰り返した。
【0115】
図16A(左)は、実施例11に従って調製したカソードを使用して実施例12に従って製造したコインセルのサイクル試験結果(0.1Cの充電・放電速度で313サイクル)を示している。このコインセルは、優れたサイクル安定性を示し、313サイクル後に633.7mAh/gの比容量を有し、これは初期比容量の93.4%の保持にあたる。初期放電比容量は化学量論値よりも高かったが、これはおそらくカソードおよびアノード表面でのいくつかの副反応によるものであろう。2サイクル目以降、比容量は当初はサイクル数とともに減少したが、比容量は約30サイクル~約120サイクルまで僅かに増加した後、約180サイクルまで安定した状態を維持し、その後減少した。また、図16B(右)は、別のコインセルの優れたサイクル安定性(0.1℃で100サイクル、その後1Cで500サイクル)を示しており、600サイクル目で462.5mAh/gの比容量を持ち、これは0.1Cでの2サイクル目の容量の66.0%の保持、または1Cでの105サイクル目の容量の80.3%の保持にあたる。クーロン効率は、95%以上、98%以上または100%に達する可能性があり、カソードとアノード間でシャトルする検出可能な量のセレンが存在しないことを示唆している。この電気化学的性能は、セレンがカソードに固定化され、カソード14からアノード2にセレンが溶解してシャトルするのを防いだ結果であると考えられる。
【0116】
図17は、実施例12に記載のポリマーセパレータを用いて組み立てたコインセルについて、様々な放電・充電サイクルレート(0.1C~10Cレート)でのサイクル試験結果を示している。試験プロトコルは、サイクルレート(0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、5C、および10C)を除いて、上述した試験と同様であり、各Cレートについて5サイクルの充放電を実施し、その後、サイクルレートを0.1Cサイクルに戻した。0.1Cレートでは、電池は化学量論値付近の比容量を示した。また、電池は、0.2C、0.5C、1C、2Cのサイクルレートでは良好なサイクル安定性を示した。また、電池は、急速充電および放電能力も示し、サイクルが進むに連れて比容量が減少したが、10Cレートで化学量論容量の56%でサイクルされた。換言すれば、10℃のレートで、電池は、化学量論値の56%の容量まで/この容量から、充電および放電に3.3分かかった。このような高速サイクルレートの下では、従来の電池が耐えることは期待できないであろう。
【0117】
固定化セレンを含むLi-Se電池は、試験開始時に0.1Cレートでサイクルした場合に、その比容量を全容量の98%の670mAh/gまで回復させることができる。(1)固定化セレンカソード中のセレンが安定化することで、セレンが炭素骨格から離れることを回避し、それにより、サイクル中にセレンがカソードとアノードの間を行き来することを回避して、電池のサイクル性能を向上させることができ、(2)Sp炭素-炭素結合および炭素骨格、セレン-セレン結合、および炭素-セレン相互作用が圧縮下にある可能性があり、その結果、炭素骨格内、セレン粒子内、および炭素とセレンの界面間で優れた導電性をもたらす可能性があり、それが、高Cレートでの観察されたサイクル性能を達成するのに役立つ可能性があると考えられる。
【0118】
本明細書に記載の原理に従って調製したセレンと炭素を含む固定化セレン体は、以下の特徴のうちの1または複数を含むことができる。
【0119】
(a)セレン粒子が固定化セレンから離脱するのに必要な運動エネルギーは、9.5kJ/モル以上、9.7kJ/モル以上、9.9kJ/モル以上、10.1kJ/モル以上、10.3kJ/モル以上、または10.5kJ/モル以上とすることができる。
【0120】
(b)セレン粒子が固定化セレンから離脱するのに必要な温度は、490℃以上、500℃以上、510℃以上、520℃以上、530℃以上、540℃以上、550℃以上、または560℃以上とすることができる。
【0121】
(c)炭素は、(20オングストローム未満の細孔の場合)500m/g以上、600m/g以上、700m/g以上、800m/g以上、900m/g以上、または1,000m/g以上の表面積を有することができる。
【0122】
(d)炭素は、(20オングストローム~1000オングストロームの細孔の場合)、全表面積の20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下、2%以下、1%以下の表面積を有することができる。
【0123】
(e)炭素および/またはセレンを圧縮下におくことができる。炭素および/またはセレンが圧縮下にない炭素-セレンシステムに対する、炭素および/またはセレンが圧縮下にある固定化セレンの利点は、電子の流れの改善、電子の流れに対する抵抗の減少、またはその両方を含むことができ、それにより、固体化セレンを含むカソードを有する充電式電池の充放電中に、セレンへの電子の送達、およびセレンアニオンからの電子の送達を容易にすることができる。
【0124】
(f)固定化セレンは、セレンが固定化Se-C複合体システムから離脱するために、従来の(固定化されていない)セレンの活性化エネルギーよりも高い活性化エネルギーを有するセレンを有することができる。一例では、固定化されていないセレン(Se-Super P複合体システム)の活性化エネルギーは、ASTM法のE1641-16により、92kJ/モルであると測定された。これに対して、一例では、セレンおよび炭素を含む固定化セレン中のセレンの活性化エネルギーは、95kJ/モル以上、98kJ/モル以上、101kJ/モル以上、104kJ/モル以上、107kJ/モル以上、または110kJ/モル以上とすることができる。別の例では、セレンおよび炭素を含む固定化セレン中のセレンの活性化エネルギーは、Se-Super P複合体中のセレンの活性化エネルギーよりも、3%以上、6%以上、9%以上、12%以上、15%以上、または18%以上大きくすることができる。
【0125】
(g)固定化セレンは、固定化されていないセレンよりも高い衝突頻度を有するセレンを含むことができる。一例では、固定化されていないセレンの衝突頻度は、ATSM法のE1641-16により、2.27×10と測定されている。これに対して、一例では、セレンおよび炭素を含む固定化セレン中のセレンの衝突頻度は、2.5×10以上、3.0×10以上、3.5×10以上、4.0×10以上、4.5×10以上、5.0×10以上、5.5×10以上、6.0×10以上、または8.0×10以上とすることができる。固定化セレンは、Se-C複合体中の固定化されていないセレンよりも、衝突頻度を10%以上、30%以上、50%以上、80%以上、100%以上、130%以上、150%以上、180%以上、または200%以上大きくすることができる。
【0126】
(h)固定化セレンは、固定化されていないセレン/従来型セレンの運動速度定数の1/5以下、1/10以下、1/50以下、1/100以下、1/500以下、または1/1000以下の運動速度定数を有するセレンを含むことができる。一例では、固定化されたセレンは、1×10-10以下、5×10-11以下、1×10-11以下、5×10-12以下、または5×10-13以下の運動速度定数(50℃)を有するセレンを含むことができる。
【0127】
固定化セレンの炭素および/またはセレンが圧縮された状態において、固定化セレンの炭素(または前記炭素によって規定される炭素骨格)のSpC-C結合のラマンスペクトルのDバンドおよび/またはGバンドは、炭素原料からの1cm-1以上、2cm-1以上、3cm-1以上、4cm-1以上、5cm-1以上の赤方(正)偏移を示す。
【0128】
固定化されたセレンの炭素および/またはセレンが圧縮されている状態において、セレンは、純粋なセレンのラマンピーク(235cm-1)から、例えば、4cm-1以上、6cm-1以上、8cm-1以上、10cm-1以上、12cm-1以上、14cm-1以上、または16cm-1以上、赤方(正の)偏移を有することができ、この赤方偏移は、セレン粒子の圧縮を示唆することができる。
【0129】
固定化されたセレンは、セレンの元素形態および/または化合物形態のセレンとすることができる。
【0130】
また、セレンおよび炭素を含む固定化セレンには、例えば、硫黄および/またはテルルを含む、これらに限定されない周期表の第6族からの1または複数の追加の元素(以下、「追加のG6元素」という)をドープすることができる。ドーパントレベルは、固定化セレンの総重量に対して、100重量ppm程度~85重量%程度の範囲とすることができる。一例では、固定化セレンは、15%~70%の炭素と、30%~85%のセレンと、任意選択的な追加のG6元素とを含むことができる。一例では、固定化セレンは、(1)15%~70%の炭素と、(2)30%~85%のセレン+追加のG6元素の混合物を含むことができる。セレン+追加のG6元素を含む混合物において、追加のG6元素は、混合物の0.1%~99%を構成することができ、セレンは、混合物の1%~99.9%を構成することができる。しかしながら、セレン+追加のG6元素のこれらの範囲は、限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0131】
固定化されたセレンは、5%以上のセレン、10%以上のセレン、20%以上のセレン、30%以上のセレン、40%以上のセレン、50%以上のセレン、60%以上のセレン、または70%以上のセレンを含むことができる。
【0132】
固定化されたセレンは、任意選択的には、例えば、硫黄、テルルなどの別の元素を含むことができる。
【0133】
固定化されたセレンは、ラマン不活性またはラマン活性である。ラマン活性の場合、固定化セレンは、255±25cm-1、255±15cm-1、または255±10cm-1にラマン相対ピーク強度を有することができる。
【0134】
固定化されたセレンは、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、3%以上、または5%以上のラマン相対ピーク強度を有するセレンを含むことができ、本明細書では、ラマン相対ピーク強度は、炭素ラマンスペクトルのDバンドピークの面積に対する255cm-1のラマンピークの面積として定義される。
【0135】
固定化されたセレンを含む炭素は、セレン固定化のための炭素骨格として機能することができる。炭素骨格は、1365±100cm-1に位置するラマンDバンドと1589±100cm-1に位置するGバンド、または1365±70cm-1に位置するDバンドと1589±70cm-1に位置するGバンド、または1365±50cm-1に位置するDバンドと1589±50cm-1に位置するGバンド、または1365±30cm-1に位置するDバンドと1589±30cm-1に位置するGバンド、または1365±20cm-1に位置するDバンドと1589±20cm-1に位置するGバンドを有するSp炭素-炭素結合を有することができる。
【0136】
固定化セレンの炭素は、DバンドとGバンドを特徴とするラマンピークを有するSp炭素-炭素結合を含むことができる。Gバンドに対するDバンドの面積の比率は、0.01~100、0.1~50、または0.2~20の範囲となり得る。
【0137】
固定化セレンの炭素は、DバンドとGバンドを特徴とするラマンピークを有するSp炭素-炭素結合を含むことができる。DバンドおよびGバンドの各々は、1cm-1以上、2cm-1以上、またはそれ以上のより高い波数にシフトする可能性がある。
【0138】
固定化セレンの炭素は、周期表の1または複数の他の元素でドープすることができる。
【0139】
固定化セレンの炭素は、多孔質であってもよい。炭素骨格の細孔サイズ分布は、1オングストローム~数ミクロンの範囲であり得る。細孔サイズ分布は、1オングストローム~1000オングストローム、1オングストローム~100オングストローム、1オングストローム~50オングストローム、1オングストローム~30オングストローム、または1オングストローム~20オングストロームに位置する少なくとも1つのピークを有することができる。炭素骨格の多孔度は、上記範囲内に複数のピークを有する細孔サイズ分布を有することができる。
【0140】
固定化セレンの炭素は、0.01mL/g~5mL/g、0.01mL/g~3mL/g、0.03mL/g~2.5mL/g、または0.05mL/g~2.0mL/gの細孔容積を含むことができる。
【0141】
固定化セレンの炭素は、測定可能な総細孔容積の30%を超え、40%を超え、50%を超え、60%を超え、70%を超え、または80%を超える(細孔サイズが100オングストローム未満、50オングストローム未満、30オングストローム未満、または20オングストローム未満ある)細孔容積を含むことができる。
【0142】
固定化セレンの炭素は、400m/gを超える、500m/gを超える、600m/gを超える、700m/gを超える、800m/gを超える、900m/gを超える、または1000m/gを超える表面積を含むことができる。
【0143】
固定化セレンの炭素はアモルファスであり、5.2オングストローム付近のd間隔を中心とする広いピークを持つことができる。
【0144】
固定化セレンの炭素は、任意の形態、例えば、プレートレット、球状体、繊維状体、針状体、管状体、不規則体、相互接続体、凝集体、離散体、または任意の固体粒子であってもよい。一定レベルのアスペクト比を有するプレートレット、繊維状体、針状体、管状体または任意の形態は、より良好な粒子間接触を達成するために有益であり、それにより、(異なるアスペクト比から作られた固定化セレンよりも)優れた導電性をもたらし、充電式電池などの電気化学セルにとって有益である可能性がある。
【0145】
固定化セレンの炭素は、1~9ナノメートルと2ミリメートルとの間の範囲、1~9ナノメートルと1000ミクロン未満との間の範囲、または20ナノメートルと100ミクロンとの間の範囲に中央値の粒子径を有する、任意の粒子径を有することができる。
【0146】
固定化セレンのセレンは、例えば、X線回折によって測定されるように、アモルファスであってもよい。約5.2オングストロームのd間隔を有する固定化セレンのセレンの回折ピークは、炭素骨格の回折ピークよりも弱く、例えば、10%弱く、20%弱く、30%弱く、または40%弱い。
【0147】
一例として、固定化セレンを調製する方法は、以下を含むことができる。
【0148】
(a)炭素とセレンを物理的に混合する。物理的混合方法としては、ボールミリング(乾式、湿式)、乳鉢と乳棒による混合(乾式、湿式)、ジェットミリング、水平ミリング、摩滅ミリング、スラリー中での高剪断混合、ブレードによる通常のスラリー混合等を挙げることができる。
【0149】
(b)ステップ(a)で物理的に混合された炭素とセレンを、セレンの融点以上の温度で加熱することができる。カーボンとセレンの混合物の加熱は、アルゴン、ヘリウム、窒素に限られるものではないが、これらの不活性ガス環境下で行うことができ、あるいは空気や反応性のある環境下で行うことができる。
【0150】
(c)任意選択的には、セレンの固定化を達成するために、加熱された炭素およびセレンを均質化または混合する。
【0151】
(d)ステップ(c)の固定化セレンを周囲温度または室温に冷却する。
【0152】
別の例では、固定化セレンは、セレンを炭素上に溶解した後、蒸発させることによって調製することができる。セレンを溶解する溶媒としては、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、窒素含有化合物、リン含有化合物、硫黄含有化合物、水などを用いることができる。
【0153】
別の例では、固定化セレンは、炭素上にセレンを溶融させ、その後、余分なまたは過剰な非固定化セレンを除去することによって調製することができる。
【0154】
一例として、固定化セレンの製造方法は、
(a)セレンと炭素を乾式または湿式の条件下で混合するステップと、
(b)任意選択的に、ステップ(a)の混合物を高温で乾燥するステップと、
(c)任意選択的に、ステップ(b)の乾燥混合物をペレット化するステップと、
(d)炭素上にセレンを溶融させて固定化セレンを生成するステップとを含むことができる。
【0155】
固定化セレンは、充電式電池のカソード材料として使用することができる。カソードは、無機バインダまたは有機バインダを含むことができる。無機バインダは、例えばCMCなどの天然物、または例えばSBRゴムラテックスなどの合成物であってもよい。カソードは、任意選択的な導電性促進剤、例えば、グラファイト由来の小粒子、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノシート、カーボンブラックなどを含むことができる。最後に、カソードは、例えば、アルミニウム箔、銅箔、カーボン箔、カーボンファブリックまたは他の金属箔などの電荷集電体を含むことができる。
【0156】
カソードを製造する方法は、固定化セレン含有スラリーを電荷集電体上に塗布し、続いて、スラリーが塗布された電荷集電体を乾燥(例えば、空気乾燥、オーブン乾燥、真空オーブン乾燥など)するステップを含むことができる。固定化セレンは、スラリー中に分散させることができ、このスラリーは、高剪断ミキサ、通常のミキサ、遊星型ミキサ、二重遊星型ミキサ、ボールミル、垂直アトライタ、水平ミル等で調製することができる。その後、スラリーを電荷集電体上に塗布し、次いで、空気中または真空中で乾燥させることができる。その後、コーティングされたカソードには、充電式電池での使用に先立って、プレス加工またはローラーミル加工(またはカレンダー処理)を施すようにしてもよい。
【0157】
本明細書に記載の固定化セレンを用いて充電式電池を製造することができる。充電式電池は、固体化セレンを含むカソードと、アノードと、アノードとカソードを分離するセパレータとを含むことができる。アノード、カソードおよびセパレータは、例えばLiPFのような電解液に浸漬することができる。アノードは、リチウム、ナトリウム、シリコン、グラファイト、マグネシウム、スズなどから構成することができる。
【0158】
セパレータは、有機セパレータ、無機セパレータまたは固体電解質セパレータから構成することができる。有機セパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ハロゲン化ポリマー、ポリエーテル、ポリケトンなどのポリマーを含むことができる。無機セパレータは、ガラス繊維または石英繊維、固体電解質セパレータを含むことができる。
【0159】
電解質は、有機溶媒中に、リチウム塩、ナトリウム塩、または1A族、IIA族およびIIIA族の他の塩を含むことができる。有機溶媒は、有機炭酸塩化合物、エーテル、アルコール、エステル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、リチウム含有溶媒などを含むことができる。
【0160】
本発明の充電式電池は、電子機器、電気自動車またはハイブリッド自動車、産業アプリケーション、ドローンなどの軍事アプリケーション、航空宇宙アプリケーション、海洋アプリケーションなどに使用することができる。
【0161】
充電式電池は、セレンの400mAh/g有効量以上、セレンの450mAh/g有効量以上、セレンの500mAh/g有効量以上、セレンの550mAh/g有効量以上、またはセレンの600mAh/g有効量以上の電気化学的容量を有することができる。
【0162】
充電式電池は、50サイクル以上、75サイクル以上、100サイクル以上、200サイクル以上などの電気化学的なサイクルを受けることができる。
【0163】
充電式電池は、0.1C、0.2C、0.5C、1C、1.5C、2C、3C、4C、5C、6C、7C、8C、9C、10Cまたはそれ以上の速度で充電および/または放電することができる。
【0164】
充電式電池は、高Cレート充電・放電サイクル(0.1Cで5サイクル、0.2Cで5サイクル、0.5Cで5サイクル、1Cで5サイクル、2Cで5サイクル、5Cで5サイクル、10Cで5サイクル)を行った後、サイクルレート0.1Cで第2の放電比容量の30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える、80%を超える電池比容量を保持することができる。
【0165】
充電式電池は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または約100%のクーロン効率を有することができる。
【0166】
電池のクーロン効率は、次のように定義される。
【0167】
充電式電池は、0.1C、0.2C、0.5C、1C、1.5C、2C、3C、4C、5C、6C、7C、8C、9C、10Cまたはそれ以上のCレートで充電することができる。Cレートとは、電池の最大容量に対する、電池が放電される速度を示す指標である。例えば、1Cレートは、放電電流が1時間で電池全体を放電することを意味している。例えば、100アンペア時の容量を持つ電池の場合、これは100アンペアの放電電流に相当する。この同じ電池についての5Cレートは500アンペアになり、0.5Cレートは50アンペアになる。
【0168】
充電式電池のカソードは、セレン、硫黄、テルル、酸素などのカルコゲン族の1または複数の元素を含むことができる。
【0169】
充電式電池のアノードは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、IIIA族金属のうちの少なくとも1の元素を含むことができる。
【0170】
充電式電池のセパレータは、有機セパレータまたは無機セパレータを含むことができる。
【0171】
充電式電池の電解質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、IIIA族金属のうちの少なくとも1の元素を含むことができ、電解質の溶媒は、有機溶媒、炭酸塩系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒を含むことができる。
【0172】
充電式電池は、400mAh/g以上、450mAh/g以上、500mAh/g以上、550mAh/g以上、または600mAh/g以上の比容量を有することができる。
【0173】
充電式電池は、50サイクル以上、75サイクル以上、100サイクル以上、200サイクル以上等の電気化学的サイクルを受けることができる。
【0174】
充電式電池は、高Cレート充電・放電サイクル(0.1Cで5サイクル、0.2Cで5サイクル、0.5Cで5サイクル、1Cで5サイクル、2Cで5サイクル、5Cで5サイクル、10Cで5サイクル)を行った後、0.1Cのサイクルレートで、第2の放電比容量の30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える、または80%を超える比容量を有することができる。
【0175】
充電式電池は、クーロン効率が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上であってもよい。
【0176】
また、本明細書には、セレンおよび炭素を含む複合体も開示されており、当該複合体は、アスペクト比が1以上、2以上、5以上、10以上または20以上であるプレートレット形態を有することができる。
【0177】
複合体のセレンは、例えば、X線回折によって測定されるように、アモルファスであってもよい。セレンの回折ピークは、約5.2オングストロームのd間隔を有することができ、炭素骨格の場合よりも弱くてもよく、例えば、炭素骨格よりも10%弱く、20%弱く、30%弱く、または40%弱い。
【0178】
一例では、組成物を調製する方法が、以下を含むことができる。
【0179】
(a)炭素とセレンを物理的に混合する。物理的混合は、ボールミリング(乾式および湿式)、乳鉢および乳棒による混合(乾式または湿式)、ジェットミリング、水平ミリング、摩滅ミリング、スラリー中の高剪断混合、ブレードによる通常のスラリー混合などによって達成することができる。
【0180】
(b)ステップ(a)で物理的に混合された炭素とセレンとをセレンの融解温度以上に加熱することができる。前記加熱は、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス環境の存在下で、または空気または反応性環境で行うことができる。
【0181】
(c)ステップ(b)で加熱された炭素およびセレンは、セレンの固定化を達成するための助けとして均質化または混合することができる。
【0182】
別の例では、複合体は、炭素上にセレンを溶解した後、蒸発させることによって調製することができる。セレンを溶解するための溶媒は、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、窒素含有化合物、リン含有化合物、硫黄含有化合物、水などを含むことができる。
【0183】
複合体は、セレンを炭素上に(または炭素中に)溶融させた後、余分なまたは過剰な非固定化セレンを除去することによって調製することができる。
【0184】
一例として、複合体を製造する方法は、
(a)セレンと炭素を乾式または湿式の条件下で混合するステップと、
(b)任意選択的に、ステップ(a)の混合物を高温で乾燥させるステップと、
(c)任意選択的に、ステップ(b)の乾燥混合物をペレット化するステップと、
(d)炭素中にセレンを溶融させて固定化セレンを生成するステップとを含むことができる。
【0185】
複合体は、充電式電池のカソード用のカソード材料として用いることができる。カソードは、無機バインダまたは有機バインダを含むことができる。無機バインダは、例えばCMCなどの天然物、または例えばSBRゴムラテックスなどの合成物であってもよい。カソードは、任意の導電性促進剤、例えば、グラファイト由来の小粒子、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノシート、カーボンブラックなどを含むことができる。最後に、カソードは、例えば、アルミニウム箔、銅箔、カーボン箔、カーボンファブリックまたは他の金属箔などの電荷集電体を含むことができる。
【0186】
カソードの製造方法は、固定化セレン含有スラリーを電荷集電体上にコーティングした後、スラリーでコーティングされた電荷集電体を乾燥(例えば、空気乾燥、オーブン乾燥、真空オーブン乾燥等)するステップを含むことができる。固定化セレンはスラリー中に分散させることができ、それは、高剪断ミキサ、通常のミキサ、遊星型ミキサ、二重遊星型ミキサ、ボールミル、垂直アトライタ、水平ミルなどによって調製することができる。次いで、スラリーを荷電集電体上に塗布した後、室内空気中または真空中で乾燥させることができる。その後、コーティングされたカソードには、充電式電池での使用に先立って、プレス加工またはローラーミル加工(またはカレンダー処理)を施すことができる。
【0187】
充電式電池は、上記組成物を用いて製造することができる。この充電式電池は、0.1C、0.2C、0.5C、1C、1.5C、2C、3C、4C、5C、6C、7C、8C、9C、10Cまたはそれ以上の速さで充電することができる。
【0188】
実施例13:硫黄をドープした固定化セレン、電極およびその電池の調製
実施例10に記載の原理および手順に従って、以下の表4に詳述する硫黄ドープ固定化セレンの合成において、セレンの5原子パーセント(at%)、セレンの20at%、セレンの35at%、およびセレンの50at%を、別々に硫黄で置換した。硫黄ドープ固定化セレンのサンプルは、実施例9に記載の原理および手順に従って調製した炭素骨格を用いて合成した。
【0189】
次に、このようにして調製した硫黄ドープ固定化セレンのサンプルを使用して、固定化セレンについての実施例11に記載の原理および手順に従って硫黄ドープ固定化セレンを含む複数のカソード4を調製した。
【0190】
次に、このようにして調製した本実施例の硫黄ドープ固定化セレンを含むカソードを使用して、実施例12に記載の原理および手順に従ってコインセル電池を調製した。
【0191】
次に、本実施例の組み立てたコインセル電池を、実施例12にも記載されている同じ試験プロトコルに従って、0.1Cおよび1Cの充放電サイクル速度で、実施例12に記載の電池試験機で試験した。
【0192】
硫黄ドープ固定化セレンサンプル(表4のSe50S50)を用いて作られた硫黄ドープ固定化セレンカソードからなるカソードを含むコイルセル電池の0.1℃での電気化学的サイクル結果は、図18に示されており、2サイクル目の放電容量が821mAh/g(これは良好であると考えられる)であり、定常クーロン効率が95%以上、通常は98%以上(これも良好であると考えられる)、または100%の高さであった。
【0193】
セレンが0.1Cのサイクルレートで675mAh/gの化学量論的比容量を持つと仮定すると、硫黄比容量は約1,178mAh/gと推定される(これは硫黄においては良いと考えられる)。95%以上、98%以上、または100%の高さのクーロン効率は、カソードとアノードの間でシャトルされる硫黄の量がそれほど多くないことを示している。硫黄ドープ固定化セレン電池の硫黄種は、炭酸塩を含む電解質中で良好に機能する。一般に、硫黄は、電解質として炭酸塩を有するLi-S電池では良好に機能しないと考えられていることから、従来のLi-S電池は、通常、エーテルベースの電解質を使用する。炭酸塩ベースの電解質は、通常、現在のリチウムイオン電池で使用されている。炭酸塩ベースの電解質は、エーテルベースの電解質と比較して、より経済的であり、市場で遥かに広く入手可能である。
【0194】
硫黄ドープ固定化セレンサンプル(表4のSe50S50)を用いて作られた硫黄ドープ固定化セレンカソードからなるカソードを含むコイルセル電池の1Cのサイクルレートでの電気化学的サイクル結果は、図19に示されており、2サイクル目の放電容量が724mAh/gであり、定常クーロン効率が95%以上、通常は98%以上、または100%の高さであった。
【0195】
セレンの比容量を1Cのサイクルレートで625mAh/gと仮定すると、硫黄の比容量は約966mAh/gと推定される(これも予想外である)。硫黄は絶縁体であり、導電率が非常に低い。通常、Li-S電池は、1Cレートのような高速サイクルレートでは良好にサイクルすることができない。
【0196】
このように、硫黄ドープ固定化セレンは、充電式電池のカソード材料として使用することで、Li-S電池に付随する2つの基本的な課題であるシャトル効果と低サイクルレートを克服することができる。この2つの課題が解決されることで、硫黄ドープ固定化セレンからなるカソードを含む電池は、実際の用途において高エネルギー密度と高出力密度を実現することができる。
【0197】
一例では、固定化された硫黄ドープセレンシステムまたはセレン体は、(a)セレン、炭素および硫黄を混合して、セレン-炭素-硫黄混合物を形成するステップと、(b)ステップ(a)の混合物をセレンの融点よりも高い温度に加熱するステップと、(c)ステップ(b)で加熱した混合物を周囲温度または室温まで冷却し、それにより固定化された硫黄ドープセレン体を形成するステップとを含む方法によって形成することができる。
【0198】
ステップ(c)の硫黄ドープ固定化セレン体は、炭素骨格体中にセレンおよび硫黄を含むことができる。
【0199】
ステップ(a)は、乾燥状態または湿潤状態で行うことができる。
【0200】
ステップ(b)は、混合物を均質化または混合することを含むことができる。
【0201】
ステップ(a)は、セレン-炭素-硫黄混合物をセレン体に形成することを含むことができる。ステップ(b)は、セレン体をセレンの融解温度を超える温度に加熱することを含むことができる。ステップ(c)は、セレン体を周囲温度または室温に冷却させるか、または冷却を可能にすることを含むことができる。
【0202】
ステップ(b)は、セレンと炭素と硫黄が完全にまたは部分的に反応するのに十分な時間、混合物を加熱することを含むことができる。
【0203】
別の例では、硫黄ドープ固定化セレンシステムまたはセレン体を調製する方法は、(a)炭素骨格を形成するステップと、(b)セレンおよび硫黄を炭素骨格内に溶融させるステップとを含むことができる。
【0204】
別の例では、固定化された硫黄ドープセレンシステムまたはセレン体を形成する方法が、(a)セレン、炭素および硫黄を混合するステップと、(b)ステップ(a)に続いて、セレンおよび硫黄を炭素中に溶解させ、それにより固定化された硫黄ドープセレンシステムまたはセレン体を形成するステップとを含むことができる。
【0205】
セレンおよび硫黄を溶解するための溶媒は、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、窒素含有化合物、リン含有化合物、硫黄含有化合物または水とすることができる。溶媒には、ステップ(a)の前、ステップ(a)の間、またはステップ(b)の間に、セレン、硫黄または炭素のうちの1または複数を添加することができる。
【0206】
上記方法は、(c)過剰の非固定化セレン、非固定化硫黄、またはその両方を固定化された硫黄ドープセレンシステムまたはセレン体から除去するステップをさらに含むことができる。
【0207】
また、本明細書には、導電性基板上に配置された硫黄ドープ固定化セレンからなるカソードと、導電性基板と直接接触し、かつ硫黄ドープ固定化セレンと接触するように配置されたセパレータと、セパレータによってカソードから間隔をあけて配置されたアノードとを含む充電式電池も開示されている。
【0208】
この充電式電池は、リチウムによってセパレータから間隔をあけて配置されたアノードをさらに含むことができる。一例では、リチウムが、リチウム箔の形態であってもよい。
【0209】
充電式電池は、カソードと、セパレータと、アノードと、電解質に浸漬されたリチウムとをさらに含むことができる。
【0210】
充電式電池において、固定化された硫黄ドープセレンは、セレンおよび硫黄が炭素内に溶融したセレン-炭素-硫黄混合物を含むことができる。
【0211】
充電式電池では、セパレータを、有機材料、無機材料または固体電解質から形成することができる。
【0212】
充電式電池は、95%以上のクーロン効率を有することができる。
【0213】
このように、セレン炭素複合材料を調製する方法、固定化セレンを製造する方法、および例えば充電式電池での固定化セレンの使用、好ましいレベルの酸素種の存在下で多孔質炭素中に固定化セレンを製造する方法、および固定化セレンの充電式電池における使用について説明する。
【0214】
なお、セレンは、硫黄、セレン、テルル等を含むカルコゲン元素の一つである。本開示のセレンに関する記述は、硫黄、テルル等の他のカルコゲン元素にも同様に適用可能である。
【0215】
本発明において、セレン原子または分子は、(充電式電池の充電状態において)元素として酸化形態または(充電式電池の放電状態において)セレン化物としての還元形態の何れかで固定化され、セレン原子は、多孔質炭素の細孔内に局在して、放電プロセス中および充電プロセス中に充電式電池の電気化学反応を適切にサイクルさせることを可能にする。放電プロセス中、カソードに存在する元素セレン原子(中性、Se)が還元され、2つの電子を獲得してセレニドアニオン(Se2-)になり、これは通常、塩、セレン化リチウム、LiSeとして存在し、依然としてカソードに局在する。放電プロセスの化学エネルギーは、充電式電池の電気エネルギーへと効果的に変換され、電池の固有の内部電気抵抗の存在に起因する熱への変換が最小限に抑えられる。充電式電池の充電プロセス中、カソードでLiSe形態のセレニドアニオンが酸化されて、2個の電子を失い、依然としてカソードに局在する元素セレン原子が形成されるため、電気エネルギーは、効果的に化学エネルギーに変換される。セレンが多孔質炭素に固定化されていない場合、電気化学的還元/酸化(ReDox)プロセス中に、中間セレン種(通常はポリセレニドの形態、Se 2-)がカソードに形成されて、電池システムの液体電解質に溶解し得る。その後、溶解した中間ポリセレニド種は、液体電解液中でカソードから電池セパレータを通ってアノードに運ばれ、そこで金属リチウムと出会って金属リチウム原子と反応し、リチウムアノードの表面にリチウムとセレンからなる塩を形成する。アノード上でのリチウムと中間セレン種の反応により発生する化学エネルギーは、電気エネルギーではなく熱に変換されるが、それは非常に望ましくない。さらに、アノード上に形成されるセレン塩は、その後、部分的にではあるがポリセレニドアニオンに変換されて、電池の電解質中に溶解するとともに、カソードに戻されて、そこで電子を得ることにより追加の電気エネルギーを消費して、元素セレンに還元される。セレンの電気化学的エネルギーを熱に変換したり、追加の電気エネルギーを消費したりすることは、たとえ充電式電池をサイクルさせることができたとしても、望ましくないほど低いサイクル効率のために望ましくない。なお、望ましくないほどサイクル効率が低い電池は、望ましいサイクル数の間に適切に機能しないことが多いことに留意されたい。
【0216】
したがって、本発明は、リチウムアノード、セレンカソード、セパレータおよび電解質を含む充電式電池の適切なサイクルを達成するために、多孔質炭素骨格中にセレンを固定化することが好ましいことを具体化する。セレンは、多孔質炭素中に固定化されており、例えば、95kJ/モル以上、98kJ/モル以上、101kJ/モル以上、104kJ/モル以上、107kJ/モル以上、または110kJ/モル以上の活性化エネルギーを有することができる。セレンと多孔質炭素を含む固定化セレンにおけるセレンと炭素の相互作用は、より頻繁であることが多く、例えば、2.5×10以上、3.0×10以上、3.5×10以上、4.0×10以上、4.5×10以上、5.0×10以上、5.5×10以上、6.0×10以上、または8.0×10以上の衝突頻度を有する。セレンと多孔質炭素を含む固定化セレンの運動速度定数(50℃)は、例えば、1×10-10以下、5×10-11以下、1×10-11以下、5×10-12以下、または5×10-13以下である。炭素の骨格は、セレンを適切に固定化する上で重要な役割を果たしている。活性化エネルギー、衝突頻度および運動速度定数の望ましいレベルでのセレンの固定化を達成するためには、炭素骨格の微細孔内にセレンを空間的に閉じ込めるために、一定量のミクロ孔性(20オングストローム以下の細孔サイズ)を有する炭素が望ましい。炭素骨格中の一定量のメソ孔性(20オングストローム~500オングストロームの間の細孔サイズ)および/またはマクロ孔性(500オングストロームより大きい細孔サイズ)の存在は、セレンの固定化には重要ではないが、電池放電プロセス中のリチウムイオンのカソードへの輸送と、電池充電プロセス中のカソードからのリチウムイオンの輸送とを成功させるためにも好ましい。ミクロ孔性、メソ孔性またはマクロ孔性の量は、通常、炭素骨格の重量単位(g)当たりの細孔容積(mL)の量によって特徴付けられる。多孔質炭素中に高レベルのセレンを空間的に閉じ込めるためには、ミクロ孔性、メソ孔性およびマクロ孔性を含む高レベルの量の多孔性が必要とされる場合がある。セレンが多孔質炭素骨格中に(グラムベースで)より多く装填されるほど、充電式電池のサイクルプロセス中に、より多くの化学エネルギーおよび電気エネルギーを相互変換することができる。
【0217】
セレン固定化用の多孔質炭素のミクロ孔性の量は、0.3mL/g以上、0.4mL/g以上、または0.5mL/g以上とすることができる。ミクロ孔性、メソ孔性またはマクロ孔性を含む多孔性の合計量は、0.4mL/g以上、0.5mL/g以上、および0.6mL/g以上である。ミクロ孔性、メソ孔性またはマクロ孔性を含む多孔性の合計量のうちのミクロ孔性の割合は、50%~99%、55%~97%、60%~95%以下である。
【0218】
電解質のバルクと、ミクロ細孔にセレンが固定化されている場所との間のリチウム輸送には短い経路が好ましく、メソ孔性およびマクロ孔性の存在は、リチウムイオンの出入りを成功させてミクロ細孔に固定化されているセレンにアクセスするために重要であり、充電式電池の放電および充電プロセス中に電気化学プロセスが適切に機能することを可能にすることができる。多孔質炭素の粒子サイズの1つは、小さいことが好ましく、例えば、5μm以下、2μm以下、1μm以下、0.5μm以下、または0.2μm以下とすることができ、炭素粒子は、相互に連結された薄壁を有する比較的大きな寸法であってもよく、あるいは粒子全体に関しては小さい寸法であってもよい。多孔質炭素の寸法は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、光学顕微鏡、レーザ散乱式粒子サイズ分析器等によって特徴付けることができる。
【0219】
セレンは、ミクロ孔性、メソ孔性、マクロ孔性を含む多孔性を有する多孔質炭素粒子の細孔の空間内に固定化されている。セレンは、多孔質炭素の細孔内でセレンと炭素骨格との強い相互作用により固定化される。表面積の大きい多孔質炭素は、セレンが炭素骨格と相互作用する活性な部位をより多く有することができる。多孔質炭素は、BET表面積が600m/g以上、800m/g以上、1,000m/g以上、1,200m/g以上、または1,400m/g以上であることが好ましい。
【0220】
セレンは、セレン種と炭素骨格の表面との化学的相互作用により、多孔質炭素中に効果的に固定化されている。多孔質炭素中の酸素関連官能基は、セレンとの強い化学的相互作用を確立する重要な種であると考えられる。このような強い化学的相互作用は、セレンの効果的な固定化をもたらし、それにより、活性化エネルギーの増加、運動速度定数の減少、および/または衝突頻度の増加をもたらすことができる。骨格炭素原子とセレン原子または分子との間の望ましいレベルの化学的相互作用を達成するために、多孔質炭素中の炭素とセレンとの間のインターフェースとしての酸素関連基または種の量は、電気化学的な放電および充電サイクルプロセスにおいて適切に機能することができる充電式電池にとってセレンの固定化が効果的であるように、十分に高くしなければならない可能性がある。酸素関連種の量または酸素官能基の量は、酸素分析器(例えば、LECO酸素分析器)で分析された多孔質炭素中の酸素含有量によって特徴付けるようにしてもよい。多孔質炭素の酸素含有量は、LECO機器と同様に機能する他の機器、例えば、広範囲のコールドトラップメカニズムのオプションを有する質量分析検出器、熱伝導率検出器などのガス検出器による温度プログラム脱離(または熱重量分析、またはTGA)によって特徴付けるようにしてもよい。
【0221】
セレン固定化用の多孔質炭素は、酸素含有量が2%以上、3%以上、5%以上、より好ましくは7%以上であることが好ましい。
【0222】
多孔質炭素中の酸素種は、温度プログラム脱離(TPD)、典型的にはCO形成酸素種、CO形成酸素種、および水形成酸素種によって、分類し、特徴付けるようにしてもよい。キャリアガスとしてのヘリウム、窒素またはアルゴンのような不活性ガスの流れの中で、多孔質炭素のサンプルは、規定された加熱速度で、1,000℃程度の高い温度に温度プログラム加熱される。多孔質炭素サンプル中の酸素種は、様々な温度で破壊され、CO、COおよび/または水を形成し、それらがキャリアガスにより溶出する。セレン固定化に用いられる多孔質炭素の場合、CO生成に関連する酸素量に対するCO生成に関連する酸素量の比率は、0.05~0.95、0.15~0.85、または0.2~0.8の範囲内であってもよく、CO生成に関連する酸素量は、2%以上、3%以上、5%以上、より好ましくは7%以上であり、COの形成に関連する酸素量は、2%以上、3%以上、5%以上、より好ましくは7%以上であり、水の形成に関連する酸素量は、2%以上、3%以上、5%以上、より好ましくは7%以上であってもよい。
【0223】
他の態様では、骨格炭素の酸素種の密度(マイクロモル/平方メートル、またはμモル/m)は、炭素表面とセレン原子との間の十分なレベルの化学的相互作用を達成して、充電式電池の適切なサイクルのために十分なセレンの固定化をもたらす上で重要である。セレン固定化のための多孔質炭素は、酸素量が0.8μモル/m以上、1.0μモル/m以上、1.2μモル/m以上、1.4μモル/m以上、より好ましくは1.6μモル/m以上であることが好ましく、またはCO生成に関連する酸素量が、0.8μモル/m以上、1.0μモル/m以上、1.2μモル/m以上、1.4μモル/m以上、より好ましくは1.6μモル/m以上であり、またはCOの生成に関連する酸素量が、0.8μモル/m以上、1.0μモル/m以上、1.2μモル/m以上、1.4μモル/m以上、より好ましくは1.6μモル/m以上である。
【0224】
骨格炭素中の適切な量の酸素種の存在は、Se-C複合体の酸化安定性に重要な役割を果たしていると考えられる。周囲条件下では、酸素種の量が少ない炭素骨格からなるSe-C複合体は、周囲条件下で容易に酸化され;このようなSe-C複合体の新鮮な材料は、適切な量の酸素種を含む炭素骨格を持つSe-C複合体と同様の温度-重量挙動を示し;しかしながら、驚くことに、約2年3ヶ月間周囲条件下で年月を経た酸素種の量が少ないSe-C複合体が、200~250℃の温度で主な発熱重量減少を示し、Se-C複合体の総重量減少が、作られたばかりの炭素上に装填されたセレンの量を超えることを発見し;別の例では、それらの温度下での重量減少の量は、Se-C複合体の炭素骨格の量とよく相関しているようであり、炭素骨格の量が多くなるほど、200~250℃の温度での発熱重量減少が大きくなり;別の例では、酸素種の量が少ない炭素骨格を用いて製造された年月を経た(27ヶ月)されたSe-C複合体の酸素含有量は、約24%まで増加し;別の例では、酸素種の量が少ない炭素骨格を用いて製造された年月を経たSe-C複合体の密度が実質的に減少することも興味深いことである。本発明の範囲または趣旨を限定するものではないが、発熱重量損失は、周囲酸素種(周囲条件下での環境酸素および/または水分)による炭素-セレン複合体の酸化、および/または周囲酸素種による元素セレンによる炭素の酸化に関連している可能性があり、ともに酸化炭素種の形成をもたらし;Se-C複合体の酸化は、複合体の細孔口の近傍で起こる可能性があり;細孔口の近傍で新たに形成された酸化炭素種は、閉鎖された気孔を形成する可能性があり;閉鎖された気孔は、その後、密度測定中にヘリウムガスのプロービング分子によってアクセスできなくなり、これは、低量の酸素種を有する炭素骨格で作られた年月を経たSe-C複合体サンプルの密度の減少をもたらすこととなる。アルゴンや窒素などの不活性キャリーガスの存在下で200℃~250℃の温度での酸化炭素種の分解生成物は、例えば、二酸化炭素、一酸化炭素、二セレン化炭素、酸化セレン化炭素などのように、炭素、セレンおよび/または酸素に関連し得る。また、酸素種の量が少ない独立炭素骨格は、周囲の条件下で安定であることにも留意されたい。酸素量の少ない炭素骨格で作られたSe-C複合体中の炭素および/またはセレンは、セレンとともに環境酸素種に攻撃され易いと考えられる。このような酸化不安定性は、Li-Seの充電式電池の電気化学サイクル性能の低下につながる可能性があり、周囲環境下と同様に、電気化学サイクル環境下では、炭素骨格が元素セレンによってゆっくりと酸化される可能性がある。Se-C複合体中に酸化炭素種を形成することは望ましくない。酸化炭素種中のセレンの量は、充電式電池の電気化学的サイクルに参加しない可能性があり、その結果、充電式電池の比容量が永久的に失われることになり;炭素骨格はまた、固定化のためにセレンをホストすることに加えて、(1)放電プロセス中の外部回路から元素セレンへの電子の送達、および(2)充電プロセス中のセレンアニオン(Se2-)から外部回路への電子の捕捉のために導電経路を提供する重要な役割も果たす。また、炭素の一部が元素セレンによって酸化されて酸化炭素種が形成されると、炭素骨格の電気抵抗率が大幅に上昇する可能性があり、よって、各電気化学サイクルにおける電子送達と電子捕捉のための導電経路が付与され、(1)エネルギー効率の低さおよび(2)熱管理の観点から、充電式電池としては実際に好ましくないと考えられる、電気エネルギーおよび化学エネルギーの熱への損失は言うまでもなく、最終的には充電式電池が正常に機能しないレベルに達する。
【0225】
一方、十分な酸素量を有する炭素骨格で作られたSe-C複合体は、新鮮なサンプルと周囲条件下で約2年半年月を経たサンプルとの間で熱重量分析(TGA)の挙動に変化はなく、200~250℃程度の温度では発熱重量減少はなく、TGAの総重量減少は、新鮮なサンプル作製時のセレン担持量(重量比)とほぼ同じであり、酸素量の増加もなく、密度の低下もない。このため、十分な量の酸素種を含む炭素骨格を有するSe-C複合体は、界面酸素種により炭素とセレンとの間に強い化学的相互作用を適用して、Se-C複合体の酸化安定性を向上させることで、セレンの十分なレベルの固定化を達成することができる。
【0226】
炭素骨格中のセレンの効果的な固定化は、おそらくは炭素骨格とセレン(任意の化学形態)との間の強い化学的相互作用を可能にする界面種として、Se-C複合体中に十分な量の酸素種が存在することによって達成することができる。固定化されたセレン炭素複合体中の望ましい酸素種の量は、炭素骨格源中の酸素種のレベルおよびSe-C複合体中のセレン担持のレベル(重量比)に依存し得る。セレン担持量が50%以下の場合、Se-C複合体中の酸素種の量は、0.63mmol/g以上、0.94mmol/g以上、1.56mmol/g以上、または2.19mmol/g以上であり;セレン担持量が50%~60%(60%を含む)の場合、Se-C複合体中の酸素種の量は、0.5mmol/g以上、0.75mmol/g以上、1.25mmol/g以上、または1.75mmol/g以上であり;セレン担持量が60%以上の場合、Se-C複合体中の酸素種の量は、0.31mmol/g以上、0.47mmol/g以上、0.78mmol/g以上、または1.09mmol/g以上である。
【0227】
Se-C複合体中の十分な量の酸素種は、200℃~250℃の温度での発熱重量減少に関与する酸素種とは関係がないことに留意されたい。200℃~250℃の温度での発熱重量減少に関与する酸素種は、空気中の酸素および/または水分などの酸素種による環境下でのSe-C複合体の後酸化に起因している可能性が高い。
【0228】
多孔質炭素中の酸素種の量は、通常、多孔質炭素を製造するプロセス中に生成され、このプロセスは通常、典型的には700℃より低い温度で、より好ましくは650℃より低い温度で、さらに好ましくは600℃より低い温度で、前駆体を炭素に変換する炭化プロセスと、その後に、典型的には700℃より高い温度で、より好ましくは750℃より高い温度で、おそらくは約800℃以上の温度で、炭素を多孔質炭素に活性化する活性化プロセスとを含む。多孔質炭素の多孔性の量は、活性化の程度に依存する。活性化の程度は、水蒸気、CO、塩基(NaOH、KOHなど)、塩(KCO、NaCO、ZnClなど)などの様々な活性化化学物質による活性化温度および活性化時間によって制御される。活性化条件が厳しいほど、多孔質炭素に生じる多孔度が高くなる。より高い温度、例えば1,000℃前後での活性化および/または一定期間の活性化は、多孔質炭素により高いレベルの多孔性を生じさせることになり、好ましい。しかしながら、より高い温度での活性化および/またはより長い期間の活性化は、多孔質炭素のための酸素種の高いレベルの減少をもたらし、その結果、多孔質炭素中の酸素種のレベルがより低くなり、好ましくない。より高いレベルの酸素種は、比較的低い温度および/またはより短い期間の活性化によって多孔質炭素のために保存されるようにしてもよいが、その場合、好ましくない低い多孔性がもたらされる可能性がある。本開示は、高い活性化エネルギー、高い衝突頻度、または低いレベルの運動速度定数によって特徴付けられる、好ましい高レベルの固定化とともに好ましい高レベルのセレンの担持によるセレン固定化のための多孔質炭素の多孔性の量および酸素種の量の両方の点に関して、本発明の趣旨を想起させるものである。
【0229】
前の段落で説明したように、より高い活性化温度での活性化および/またはより長い期間の活性化は、より高いレベルの酸素種の減少に繋がる。妥協したアプローチの一つは、比較的低い温度、例えば約800℃以下の温度で、そして比較的長い期間、例えば10分以上の期間、活性化するものである。また、本発明は、過酷な活性化プロセスの結果として生じる好ましくい高いレベルの多孔性を有する多孔質炭素の後処理も具体化し、それは多孔質炭素中の酸素種の量の増大をもたらす。そのような酸素種の増大された多孔質炭素は、前の段落で説明したように、多孔性の量および酸素種の量の両方の望ましいレベルを有する。
【0230】
多孔質炭素は、酸化剤で後処理することができる。酸化剤は、酸素を含む化学物質であってもよい。多孔質炭素の後処理は、液相で行ってもよいし、気相で行ってもよい。多孔質炭素の液相後処理は、水性環境下で行うようにしてもよい。また、多孔質炭素の液相後処理は、疎水性または親水性の有機溶媒中で行うようにしてもよい。また、多孔質炭素の液相後処理は、塩溶融条件下で行うようにしてもよい。
【0231】
多孔質炭素の後処理は、例えば液体媒体の沸点以下など、比較的低温で液体中に行うようにしてもよい。大気圧よりも高い高圧下では、後処理温度は、液体媒体の大気圧沸点よりも高くてもよい。真空下では、後処理温度は、液体媒体の大気圧沸点よりも低くしなければならない場合がある。
【0232】
酸化剤は、硝酸、過酸化水素、過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなど)、マンガン、バナジウム、クロム、または還元を可能にする高い酸化原子価状態を有する他の遷移金属関連元素の塩であってもよい。酸化剤は、酸素、オゾン、有機過酸化物であってもよい。
【0233】
水性環境下での多孔質炭素の後処理は、酸性条件、pH中性条件、塩基性条件の何れの条件下で行ってもよい。
【0234】
後処理された多孔質炭素は、洗浄および乾燥することができる。乾燥された後処理済みの多孔質炭素は、ガスの流れ、より好ましくは不活性ガスの流れの下で、静的条件下で、高温(例えば、150℃以上、200℃以上、または250℃以上)でさらに処理するようにしてもよい。そのような熱処理は、CO形成に関連する酸素種、CO形成に関連する酸素種、およびHO形成に関連する酸素種の分布を再平衡化する可能性がある。
【0235】
多孔質炭素の後処理は、酸素種の量を30%以上、50%以上、100%以上、または150%以上、増加させることができる。
【0236】
セレンと炭素骨格の化学的相互作用を高める重要な部位として機能する酸素種を保存する温度でセレンの固定化を行うことがより好ましい場合がある。多孔質炭素の細孔内にセレンを溶融させる温度は、セレンの融点以上となり得る。S、Teなどの他の元素や他の不純物をドープすると、セレンの融点が低下する場合がある。
【0237】
セレン(ドーパントの有無にかかわらず)は、含浸の方法により炭素骨格上に担持され得る。セレンは、溶媒に溶解してセレン溶液を形成することができる。その後、セレン溶液を多孔質炭素に含浸させた後、蒸発によって溶媒を除去して、多孔質炭素の内部にセレンを残す。このような含浸プロセスは、十分な量のセレン担持を達成するために繰り返すことができる。この方法は、多孔質炭素へのセレン担持の温度をセレンの融点よりも低いレベルまで実質的に下げることができる。
【0238】
セレン固定化のための多孔質炭素を製造するための供給源は、再生可能な炭素源、例えば、砂糖、グルコース、デンプン、タンパク質、大豆ミール、ナッツ、殻(ナッツ、米、小麦などの殻)、木の繊維やおがくずなどのバイオマス、または自然界に関連する任意の炭素源からのものであってもよいが、これらに限定されるものではない。本発明のセレン固定化のための多孔質炭素を製造するための供給源は、前のセクションで述べたような炭素を含む塩であってもよい。また、セレン固定化のための多孔質炭素を製造するための供給源は、炭素を含む酸、例えば、クエン酸、グルコン酸、タンニン酸などであってもよい。また、炭素源は、例えば、ポリオール、またはポリアクリロニトリルまたはポリフェノールのようなポリマーに由来する化学物質であってもよい。
【0239】
炭素の製造方法の説明
本明細書に記載の炭素材料は、以下のステップを含む調製方法によって得ることができる。
(1)様々な成分として、不活性塩、活性化剤および炭素前駆体を混合するステップ。この混合プロセスは、様々な成分の溶液をボールミルで粉砕するプロセスまたは凍結乾燥するプロセスを含むことができる。
(2)混合物を高温の不活性雰囲気下で炭化させた後、熱水で洗浄して無機塩を除去し、乾燥させて、相互に連結した湾曲した薄い炭素層を含む3D多孔質材料を得る。
ステップ(1)では、不活性塩を、塩化カリウム、塩化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムのなかから選択することができる。活性化剤は、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムまたはシュウ酸カリウムのなかから選択することができる。炭素前駆体は、上述した再生可能炭素源のなかから選択することができる。ステップ(2)では、高温の炭化は、800~900℃、好ましくは800~850℃で行うことができ、炭化時間は1~8時間、好ましくは1~4時間である。
【0240】
本発明は、薄壁相互接続多孔質炭素を製造するための主な2つのプロセス、自己テンプレート化プロセスと外来テンプレート化プロセスを具体化したものである。
【0241】
自己テンプレート化プロセス(Self-templated Process)は、炭素を含み、炭化され得る塩、例えば、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウム、酒石酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸ナトリウムなどを使用することを含む。塩が加熱されると、先ず、分解を伴う溶融プロセスを経て、水、二酸化炭素、一酸化炭素、軽質炭化水素、および酸素化炭化水素であるタール状の粘着性で臭いのある油が形成され;分解が進行するに連れて、元の塩のカチオンが、新たに形成された炭酸塩、および/またはシュウ酸塩、および/または他の形態の塩のアニオンと可溶性の形態になり;新たに形成された炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩、および/または他の形態のアニオンの濃度が溶解性の飽和点に達すると、分解プロセスの進行とともに、新たに形成された炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩、および/または他の形態のアニオンの過飽和の状態が構築され始め;(ここで、塩の溶解度の過飽和は熱力学的に準安定であることに留意されたい);動力学的にそれ以上(またはもはや)安定ではない過飽和の点に達すると、新たに形成された炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩および/または他のアニオンの塩が結晶化する。ヒドロキシル基を含む有機カルボン酸塩(例えば、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウム、酒石酸カリウムなど)は、結晶化の阻害剤である場合があり;そのような結晶化阻害剤は、より高いレベルの過飽和を構築することを可能にし、それは通常、サイズが小さい微結晶の大きな集団をもたらす。新たに結晶化した炭酸塩、重炭酸塩または他の形態の塩は、粒子サイズが非常に均一である可能性がある。温度の上昇および/または時間の進行とともに分解が続くと、溶融物の粘度が高くなり、炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩および/または他の形態の塩の新たに形成された微結晶の表面を均一に被覆することができる。その後、炭素は、最終的には、新たに形成された微結晶の表面上で固化する。この炭素テンプレートプロセスは、本開示では、自己テンプレート化プロセス、炭化プロセスとして記載している。自己テンプレート化プロセスの温度は700℃未満であり得る。そのような自己テンプレート化プロセスは、温度を一定の速度で上昇させることにより、あるいは昇温速度を変化させながら行うようにしてもよい。また、このような自己テンプレート化プロセスは、700℃以下の温度で加熱温度を一定に保持することにより、あるいは浸漬と呼ばれる方法で行うようにしてもよい。
【0242】
温度が上昇するに連れて、新たに形成された自己テンプレート化された三次元相互接続薄壁炭素は、活性化化学物質として、新たに形成された微結晶による活性化プロセスを受ける。一例として、活性化プロセスは、本質的に、炭素とKCO(原料としてのクエン酸カリウムからの)のような新たに形成された微結晶との間の高温レドックス反応、KCO+C→KO+2COに基づくものであってもよく、これは約700℃以上で生じる。炭素の消費は、炭素に多孔性(特に、ミクロ多孔性)の生成をもたらし、三次元の相互接続された薄壁多孔質炭素の形成に繋がる。活性化温度は、1,100℃程度の高さとすることができる。昇温速度は、1℃/分未満~100℃/分の範囲内であってもよい。不活性キャリアガス、例えば窒素またはアルゴンの流れを、多孔質炭素の製造プロセスに使用することができる。また、COや水蒸気などの反応性ガスを、活性化のために、かつ活性化中に、別々にまたは一緒に使用することができる。
【0243】
炭素の多孔性の生成に寄与する追加または二次反応が存在し得る。これらの反応プロセスのいくつかは、i)炭化および/または活性化プロセス中に生成されるCOによる炭素のガス化、ii)炭素による金属酸化物の還元(例えば、KO+C→CO+2K)、iii)炭素層内への特定の新規に形成された金属種(例えば、K)のインターカレーション、またはiv)カリウムの場合に特に関連する、カチオンに関連する触媒効果を含む可能性がある。特に、800~850℃を超える温度でゆっくりと発生する未反応のKCOの分解(KCO→KO+CO)により生成されるCOの結果として、炭素(C+CO=2CO)のガス化が関連している。
【0244】
外来テンプレート化プロセス(Foreign-templated Process)は、外来粒子(foreign particles)、例えば、活性化剤(例えば、アルカリ金属の塩およびKCOなどの炭酸塩、KOHなどのアルカリ金属水酸化物)を、任意選択的には不活性塩(例えば、KCl、NaClなど)とともに使用して、炭素源から大量の多孔性を生成することを含むことができる。外来粒子は、炭化の前または炭化の後に、より好ましくは炭化の前に、炭素源と混合することができる。外来粒子と炭素源とのそのような混合は、任意選択的には機械的な粉砕が後に続く、物理的な混合によって、または水溶液、水性スラリーまたは有機液体媒体を使用する対応物からの外来粒子の化学物質とともに炭素源を再結晶化することによって達成されるものであってもよい。再結晶化プロセスの乾燥プロセスは、蒸発、空気乾燥、オーブン乾燥、噴霧乾燥または凍結乾燥のいずれかの方法で行うことができる。
【0245】
混合物が外来テンプレート化プロセスで加熱されると、自己テンプレート化プロセスについて前の段落で説明したのと同様に、塩テンプレート粒子上で炭素源の炭化-活性化が行われる。炭化プロセス中、炭素源は、温度の上昇および時間の経過とともに、何らかの方法で溶融して分解し、CO、CO、水、軽質炭化水素、および粘着性でベトベトした重質炭化水素のような副生成物が形成され得る。溶融物の粘度が上昇し、最終的に、溶融物は、外来粒子の表面を被覆して固化し、外来粒子の表面に、相互接続された薄壁炭素コーティングを形成することができる。温度が上昇し続けると、活性化プロセスが開始されて、多孔性を生じさせる。これは、本質的には、約700℃以上の温度で行われる高温レドックス反応、例えばKCO+C→KO+2COに基づくものであってもよい。
【0246】
一例として、外来粒子が任意選択的に不活性塩、別の例としてKClを含む場合、KCOなどの活性化化学物質の融点は、891℃から、別の例では約630℃まで低下する。約630℃などの温度でのKCl-KCO液相系の形成により、相互接続薄壁カーボンの活性化が著しく促進される可能性がある。これはおそらく、活性化化学物質(この場合、KCOなど)と相互接続薄壁炭素の表面との間のより密接な接触を介して、炭化生成物(相互接続薄壁炭素)とKCOの反応性が向上したことに起因するものと考えられる。これは、活性化化学物質を含む外来粒子および任意選択的に不活性塩を用いた外来テンプレート化プロセスが、十分な量の酸素を含む種を十分に保持しながら、十分な量の多孔性を有する三次元の相互接続された薄壁多孔質炭素の合成を達成するためのより実行可能な戦略(それほど厳しくない条件、すなわち、低い活性化温度での活性化)であることを示唆している可能性がある。同時に、炭素の表面は、溶融したKCl-KCO液相によって隔離され、それにより、おそらくは、形成されたCOガス分子の固化した三次元相互接続薄壁多孔質炭素の表面への拡散が抑制されることによって、形成されたCOと形成された相互接続薄壁多孔質炭素との二次反応を防止する。これは、相互接続された薄壁の多孔質炭素のより高い収率を得るために望ましいものとなる。さらに、「モノリシック」に溶融したKCl-KCO液相は、揮発性炭素のような放出ガスのガス拡散を制限する可能性があり、その結果、三次元の相互接続された薄壁多孔質炭素上へのそれらの再堆積が生じる可能性があり、望ましいことに、相互接続された薄壁多孔質炭素の収率を向上させる。
【0247】
実施例14.三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料:炭素の製造と特性評価--外来テンプレート化プロセス:グルコースのような炭素源、K CO のような活性化化学物質および任意選択的なKClなどの不活性塩を含む水性混合物の凍結乾燥による
適量のKCl、KCOおよびグルコースを蒸留水に溶解した後、この溶液を液体窒素(-196℃)で凍結させ、その後、凍結乾燥機に移し、温度-50℃、圧力0.06mbarで凍結乾燥し、KCl、KCOおよびグルコースの固体混合物を得た。その後、この固体混合物を不活性雰囲気下で850℃で1時間炭化させ、室温まで冷却した後、高温の蒸留水で洗浄し、ろ過し、乾燥させて、図20に示すような三次元の相互接続された薄壁多孔質炭素ナノ材料を得た。
【0248】
グルコース由来の三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料の表面積は、2,316m/gであり、総細孔容積が1.04cm/gであり、微細孔容積が0.90cm/gであって、ミクロ孔性として述べた約86%の細孔と、メソおよびマクロ孔性として述べた約14%の細孔とを有することが測定された。三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料のN吸着等温線と細孔サイズ分布が、図21に示されている。
【0249】
別の実施例では、グルコースの代わりに大豆ミールが使用される。図22に示すように、大豆ミールに由来する三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料の巨視的構造は、グルコースに由来するものと類似している。しかしながら、この材料は、2,613m/gの表面積、1.42cm/gの細孔容積、1.0cm/gの微細孔容積を有し、細孔の約70%がミクロ孔性であり、細孔の約30%がメソ孔性およびマクロ孔性である。この材料のN吸着等温線と細孔サイズ分布は図23に示されている。大豆ミール由来のこの材料のメソ孔性の量は、グルコース由来のものよりも多くなっている。
【0250】
上記の表5は、前駆体、活性剤/テンプレート剤、前駆体/活性剤/テンプレート剤の重量比および炭化率の様々な組合せについて外来テンプレートにより製造された三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料の数多くの異なる例を示しており、テクスチャー特性および化学組成の様々な組合せがもたらされている。ここで、VBET=見かけの表面積、V=全細孔容積、Vmicro=微細孔容積である。
【0251】
実施例15:三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料:キャパシタの製造および性能
実施例14の三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料は、電気化学キャパシタの電極として使用することができる。電極は、例えば、PTFEまたはPVDFなどの有機バインダを含む。任意選択的には、電極は、例えば、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどのような導電性促進剤も含む。典型的な例では、85wt%の活性材料、10wt%のバインダ、および5%の導電性促進剤の混合物が調製される。
【0252】
電極を製造する方法は、乳鉢中で様々な成分のスラリーまたはそれらの乾燥混合物を調製することを含むことができる。スラリーは、集電体上にコーティングすることも、ディスク電極のような自立型電極に成形することもできる。その後、電極は、電気化学キャパシタでの使用に先立って、プレス加工またはローラーミル加工することができる。
【0253】
上記のような電極を用いて、対称電気化学キャパシタを組み立てることができる。電極は、同一質量、同一厚さのものを2つ使用することができる。集電体は、使用する電解質に応じて、金、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル等で作ることができる。
【0254】
電解質は、硫酸や塩酸などの酸性水溶液、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基性溶液、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどの塩とすることができ、電解質は、例えば、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートなどの有機塩のような有機溶液、または1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどのイオン液体、または純粋な上記のようなイオン液体のような有機溶液であってもよい。
【0255】
電気化学キャパシタは、0.2A/g、0.5A/g、1A/g、5A/g、10A/g、20A/g、50A/g、またはそれ以上の速度で充電することができる。組み立てた電気化学キャパシタは、コンピュータ制御のポテンシオスタットを使用して試験した。試験は、サイクリックボルタンメトリー実験(CV)、電気化学インピーダンス分光法研究(EIS)および定電流充電/放電(CD)サイクル試験からなる。セル電圧は、酸または塩基性溶液中では1Vまで、塩水溶液中では1.5Vまで、有機およびイオン液体電解質溶液中では3Vまでとすることができる。
【0256】
一例では、電解質として1MのHSOの溶液を使用している。グルコース由来の三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料(グルコースベースと称する)で作られた電気化学キャパシタは、0.2A/gで57F/gのセル容量を有し、大豆ミール由来の三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料(大豆ミールベースと称する)を用いた電気化学キャパシタは、60F/gのセル容量を有している。110A/gの超大電流密度では、セル容量がそれぞれ24F/gおよび31F/gである。
【0257】
別の実施例では、電解質として1MのLiSOの溶液を使用する。グルコースベースの電気化学キャパシタは0.2A/gで37F/gのセル容量を有し、大豆ミールベースの電気化学キャパシタは39F/gのセル容量を有する。20A/gの電流密度では、セル容量がそれぞれ25F/gおよび29F/gである。
【0258】
別の実施例では、電解質としてアセトニトリル中のEMImTFSIの溶液(1:1wt%)を使用する。グルコースベースの電気化学キャパシタは、0.2A/gで36F/gのセル容量を有し、大豆ミールベースの電気化学キャパシタは、39F/gのセル容量を有する。30A/gの電流密度では、セル容量がそれぞれ28F/gおよび30F/gである。
【0259】
様々な電解質を用いた電気化学キャパシタのラゴンのようなプロットを図X8に示す。電気化学キャパシタのロバスト性は、5~10A/gで5,000サイクルを超える長期サイクルによって試験した。
【0260】
実施例16 三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料:外来テンプレート化プロセス、砂糖、グルコース、大豆ミールまたはおがくずのような炭素源、K CO のような活性化化学物質、および任意選択的なKClのような不活性塩の混合(およびそれに続く任意選択的な粉砕)によって製造された炭素
砂糖、グルコース、大豆ミール、おがくず(例えば、松のおがくず、桜のおがくずまたはオークのおがくず)のような炭素源、KCOのような活性化化学物質、および任意選択的な不活性塩などを適切な量、インクルーダに量り入れ、その後、機械的な粉砕を含むことができる物理的な混合を行い、次いで、セラミック、鋼、ステンレス鋼などで作られたるつぼに移した。不活性ガスの流れ(これも任意である)の下で、混合物を、炭化の期間、100℃/分未満の昇温速度で、任意選択的には700℃以下の浸漬温度に加熱し、または700℃以上の活性化温度に直接加熱し、活性化の期間、その温度で留めた。昇温プロセスを通じて、炭素源は、CO、CO、水、軽質炭化水素、および重質でベトベトした油性炭化水素に分解することにより炭化プロセスを経る。活性化プロセス中、CO、CO、水、炭素の揮発性物質が生成され続ける場合がある。
【0261】
活性化後、混合物を水と混合し、任意選択的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等のような酸で中和する。次いで、炭素スラリーを、ろ過し、例えば、5,000μS/cm未満、3,000μS/cm未満、1,000μS/cm未満の低い導電性のレベルまで水で洗浄し、任意選択的には、300μS/cm未満、100μS/cm未満、さらには50μS/cm未満の導電性まで脱イオン水または蒸留水で洗浄する。ろ過されたケーキは、オーブンで乾燥して水分を除去することができる。
【0262】
その後、得られた三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料は、酸素含有量、SEM、XRD、ラマン、TGA-DSC、NおよびCOのBET表面積および細孔サイズ分布を用いて特徴付けた。
【0263】
次の表5は、市販の炭素、例えば、米国のペンシルバニア州ピッツバーグのCalgon Carbonから入手可能なElite C、日本の大阪府のKruray Co.Ltd.から入手可能なYP-50、日本の東京都のLion Specialty Chemicals Co.Ltd.から入手可能なKetjenカーボンブラック、日本の兵庫県のKansai Coke and Chemicals Co.Ltd.から入手可能なMaxsorbに対する、237-8(クエン酸カリウムから合成した自己テンプレート化炭素)、237-51A(クエン酸カリウムから合成した自己テンプレート化炭素)、SKK2(外来テンプレート化炭素)のような三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料などの三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料の元素分析を示すものである。
【0264】
上記表6には、2つのグループの炭素が示されており、一方のグループは、例えば、237-8(クエン酸カリウムから合成した自己テンプレート化炭素)、237-51A(グルコースから合成した外来テンプレート化炭素)、237-101D(クエン酸カリウムから合成した自己テンプレート化炭素)、SKK2(砂糖から合成した外来テンプレート化炭素)などの三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料であり、酸素含有量が1.5wt.%より高く、2.0wt.%より高く、3.0wt.%より高く、または4.0wt.%より高い。XRD研究は、上記の表中の炭素材料が何れもアモルファスであることを示している。ラマン研究は、上記の表中の炭素材料が何れも本質的にアモルファスであり、DピークおよびGピークの両方でアモルファス炭素シグネチャラマン散乱を示している。
【0265】
次に、調製した相互連結薄壁多孔質炭素を使用して、セレンの固定化を調製する。上述したように、適切な量のセレンと炭素を一緒に混合し、次いで、高いレベルの酸素種の存在下で、セレンを相互接続薄壁多孔質炭素内に溶融させることにより、本発明の固定化セレンをもたらす。なお、本開示の固定化セレンを製造するプロセスについては、前述した説明を参照されたい。その後、この固定化セレンを、酸素含有量分析、XRD、ラマン、SEM、TGA-DSC等により特徴付ける。
【0266】
1.5wt.%より高い、2.0wt.%より高い、3%wt.より高い、または4.0wt.%より高い酸素含有量を有する三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料中の固定化セレンと、酸素含有量が1.5%wt.未満、2.0wt.%未満、3%wt.未満、または4.0wt.%未満の市販の炭素で調製した固定化炭素-セレン複合体の酸素含有量の分析の表。
【0267】
上記の表7は、固定化セレンの2つの異なるグループを示しており、一方のグループ(グループIと称する、すなわち、Ketjen 600JD、237-8、237-51A、237-67、237-101DおよびSKK-2)は、1%~10%、1.5%~9%、または2%~8%の範囲で、三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料の酸素含有量の約半分である酸素含有量を有し、他方のグループ(グループIIと称する、すなわち、Elite CおよびMaxsorb MSP20X)は、炭素の酸素含有量の少なくとも5倍以上の酸素含有量を有するか、または8%を超える、9%を超える、または10%を超える酸素含有量を有する。なお、Ketjun炭素は非多孔性炭素であり、その炭素-セレン複合体は非固定化セレンと考えられており、よって、その酸素含有量は1%未満と非常に低いままであることに留意されたい。
【0268】
グループIの固定化セレンの酸素種は、セレンの固定化における界面化学基として重要な役割を果たす可能性があり、炭素とセレンとの間の強い相互作用を可能にし、その結果、三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料の細孔内のセレン原子または種のより密な充填をもたらす。これは、本開示の実施例に示す強化された衝突頻度によって証明することができる。また、炭素骨格とセレン原子またはセレン化学種との間のそのような相互作用は、より高い固有密度をさらに証明する可能性もある。
【0269】
一例として、三次元相互接続薄壁多孔質炭素ナノ材料から、固定化セレンのサンプル、例えば炭素とセレンの比率を50対50(重量比)として、クエン酸カリウムから合成した自己テンプレート化炭素を製造した。その密度が3.42g/cmであることを発見して驚いた。セレンの密度は4.819g/cmであることに留意されたい。4.819g/cmを使用すると、固定化セレンの複合体中の炭素密度は約2.8g/cmと計算される。また、ダイヤモンドは約3.5g/cmの密度を有し、グラファイトは約2.3g/cmの密度を有し、アモルファス炭素は約2.0g/cmの典型的な密度を有することにも留意されたい。
【0270】
次に、前述したように、固定化セレン、水性媒体または有機媒体、および少なくとも1のバインダを適量混合し、次いで、電荷集電体、例えばアルミニウム箔上にコーティングして、固体化セレンを含むカソードをもたらすことにより、固体化セレンを使用して充電式電池のカソードを作製する。なお、本開示の固体化セレンを含むカソードの製造プロセスについては、前述した説明を参照されたい。
【0271】
そして、得られた固体化セレンを含むカソードを用いて、アノード、例えばリチウム、セパレータ、電解質を有する充電式電池を組み立てる。本開示の固体化セレンを含むカソードを有する充電式電池を組み立てるプロセスについては、前述した説明を参照されたい。
【0272】
このようにして得られた炭素サンプルは、キャパシタや充電式電池の電極製造プロセスでさらに使用することができる。
【0273】
実施例は、添付の図面を参照して説明されている。上述した実施例を読んで理解すれば、他の人に修正や変更が思い浮かぶであろう。このため、前述した実施例は、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23