(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】自律走行装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20240731BHJP
【FI】
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2021047728
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】首藤 和正
(72)【発明者】
【氏名】小島 宏志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 郷志
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 武
(72)【発明者】
【氏名】三田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小西 勇介
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-217149(JP,A)
【文献】特開2015-47954(JP,A)
【文献】特開2007-286884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00- 1/87
G08G 1/00- 1/16
B25J 1/00-21/02
A47L 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面上を走行するための走行処理部と、
路面状態を測定する路面センサと、
前記路面センサの測定結果が複数種類の異常のいずれかである場合に前記走行処理部を走行禁止にする禁止制御部と、
前記走行処理部を走行禁止の状態から通常状態へ復帰させることが可能な復帰制御部と、
を備え、
前記復帰制御部は、複数種類の復帰制御を用いて前記走行処理部を通常状態へ復帰させることが可能であり、かつ、前記測定結果の異常の種類に応じて前記複数種類の復帰制御の中からいずれかの復帰制御を選択する、
自律走行装置。
【請求項2】
前記復帰制御部は、前記路面センサの測定プロファイルの種別を識別する識別情報に基づいて前記測定結果の異常の種類を判別する、
請求項1記載の自律走行装置。
【請求項3】
前記復帰制御部は、更に、前記測定プロファイルの時間変化に基づいて前記測定結果の異常の種類を判別する、
請求項2記載の自律走行装置。
【請求項4】
前記走行処理部は、進入禁止エリアが示されたマップ情報に基づき前記進入禁止エリアに進入しないように走行し、
前記複数種類の復帰制御の少なくとも一つには、前記禁止制御部が走行を禁止した箇所を前記マップ情報の前記進入禁止エリアに追加する制御が含まれる、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の自律走行装置。
【請求項5】
前記復帰制御部は、進入の禁止が時間の経過により解除される一時的進入禁止エリアを前記マップ情報に登録可能である、
請求項4記載の自律走行装置。
【請求項6】
前記一時的進入禁止エリアの登録が繰り返された場合に、前記一時的進入禁止エリアが時間の経過で禁止が解除されない前記進入禁止エリアに変更される、
請求項5記載の自律走行装置。
【請求項7】
前記復帰制御部は、時間帯によって進入が禁止される時間帯別進入禁止エリアを前記マップ情報に登録可能である、
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の自律走行装置。
【請求項8】
前記識別情報には、前記測定プロファイルに正常な路面の測定値が含まれる第1識別情報、前記測定プロファイルに段差の測定値が含まれる第2識別情報、前記測定プロファイルに溝の測定値が含まれる第3識別情報、前記測定プロファイルにノイズが含まれる第4識別情報のいずれか1つ又は複数が含まれる、
請求項2又は請求項3に記載の自律走行装置。
【請求項9】
前記路面センサは測定領域の各点の距離を検出する距離センサであり、
前記禁止制御部は、前記測定領域のいずれかの点に正常路面の距離値が得られない場合に、前記測定結果が異常と判別する、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の自律走行装置。
【請求項10】
前記複数種類の復帰制御の少なくとも一つには、前記禁止制御部の制御を無効化し、前記走行処理部をリセットすることで前記走行処理部に退避走行を行わせ、前記無効化を解除する制御が含まれる、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の自律走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、路面上を自律的に走行する自律走行装置について記載されている。特許文献1の自律走行装置は、路面に存在する段差、穴、障害物等を検出可能な検出部を有し、これらを検出した場合に進路を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自律走行装置は、一般に、下り階段等に進入してしまうことがないよう、何らかの制御がなされる。一方、完全な制御は存在しないため、自律走行装置にはフェールセーフな仕組みが求められることがある。しかしながら、フェールセーフの仕組みが過剰に働くと、例えば無駄に自律走行装置がエラー停止し、作業員が自律走行装置のエラー停止を解除する作業が増すなど、煩雑さが増加する。
【0005】
本発明は、フェールセーフな仕組みを維持しつつ、復帰作業を行う作業員の煩雑さを低減できる自律走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る自律走行装置は、
路面上を走行するための走行処理部と、
路面状態を測定する路面センサと、
前記路面センサの測定結果が複数種類の異常のいずれかである場合に前記走行処理部を走行禁止にする禁止制御部と、
前記走行処理部を走行禁止の状態から通常状態へ復帰させることが可能な復帰制御部と、
を備え、
前記復帰制御部は、複数種類の復帰制御を用いて前記走行処理部を通常状態へ復帰させることが可能であり、かつ、前記測定結果の異常の種類に応じて前記複数種類の復帰制御の中からいずれかの復帰制御を選択する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フェールセーフな仕組みを維持しつつ、復帰作業を行う作業員の煩雑さを低減できる自律走行装置を提供できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る自律走行装置及び走行システムを示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る自律走行装置の一例を示す斜視図である。
【
図3】路面センサの測定プロファイルの一例を示す図で、(A)は正常路面の測定プロファイル、(B)は段差の測定プロファイル、(C)はノイズが含まれる第1の測定プロファイル、(D)はノイズが含まれる第2の測定プロファイル、(E)は幅広の溝を有する路面の測定プロファイルを示す。
【
図4】禁止制御部が実行するフェールセーフ処理の手順(A)、並びに、復帰制御部が実行するフェールセーブ処理の手順(B)を示すフローチャートである。
【
図5】
図4のステップS15の第1復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】
図4のステップS15の第1復帰制御を説明する図である。
【
図7】
図4のステップS16の第2復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【
図8】
図4のステップS16の第2復帰制御を説明する図である。
【
図9】
図4のステップS17の第3復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】
図4のステップS17の第3復帰制御を説明する図である
【
図11】
図4のステップS18の第4復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
【
図12】
図4のステップS18の第4復帰制御を説明する図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る自律走行装置及び走行システムを示すブロック図である。
図2は、本発明の実施形態に係る自律走行装置の一例を示す斜視図である。
【0011】
図1の走行システム1は、本発明の実施形態に係る自律走行装置10と、自律走行装置10を管理する管理装置80とを備える。管理装置80は、自律走行装置10と無線通信可能な通信部81と、自律走行装置10の進入禁止エリアが示されるマップ情報を記憶した記憶部82とを備える。マップ情報には、予め、下り階段、走行不能な大きな溝を有するエリアが進入禁止エリアとして登録されている。
【0012】
自律走行装置10は、鉄道駅の構内を自律的に移動するサービスロボットであり、路面上を走行可能な走行駆動部11と、走行の障害となるものが無いか検出する走行用センサ12と、無線通信を行う通信部13と、所定のサービスを提供するサービス提供部14と、フェールセーフ用に路面の状態を測定する路面センサ15と、作業員によりリセット操作が可能なリセット操作部16と、制御処理を行う制御部20とを備える。
【0013】
制御部20は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUがデータを展開するRAM(Random access memory)と、CPUが実行する制御プログラムを記憶した記憶装置と、CPUと各モジュールとの間で信号を受け渡すインタフェース21とを備えたコンピュータである。制御部20は、CPUが制御プログラムを実行することで複数の機能モジュールを実現する。複数の機能モジュールには、通信部13を介して管理装置80との通信を行う通信制御部22と、走行駆動部11を制御する走行制御部23と、フェールセーフ用に所定条件に基づいて走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止(走行禁止)にする禁止制御部24と、エラー停止した走行駆動部11及び走行制御部23を正常状態へ復帰させることが可能な復帰制御部25と、が含まれる。
【0014】
上記の構成のうち、走行駆動部11及び走行制御部23が、本発明に係る走行処理部の一例に相当する。
【0015】
走行駆動部11は、
図2に示すように、例えば前進駆動及び後退駆動が可能な駆動部11A(駆動輪及び駆動モータなど)と、進行方向を変更可能な操舵部11B(操舵輪及び操舵モータなど)とを備え、走行と進路の変更が可能である。
【0016】
走行用センサ12は、
図2では省略するが、前進又は後退時に進行の障害となるものがないか自律走行装置10の周囲の状況を検出する。走行用センサ12が検出する周囲の状況には、具体的には、壁面の存在、人の存在などが含まれる。走行用センサ12には、映像を取得する撮影手段、レーダー、超音波センサ、LiDAR(light detection and ranging)等の様々な手段が採用されてもよい。
【0017】
通信部13は、管理装置80と無線を介して通信可能な通信モジュールである。
【0018】
路面センサ15は、フェールセーフ用に路面の状態を測定するセンサであり、具体的には、自律走行装置10の進行方向に、走行可能な正常な路面があるか否かを測定する。一例として、路面センサ15は、線状又は面状の測定領域R1(
図2を参照)の各点の距離を測定可能な距離センサ(例えばLiDAR)である。測定領域R1は、一方に長い領域であり、自律走行装置10から進行方向に離間した下方に位置し、長手方向が進行方向と交差(例えば直交)する。路面センサ15は、測定点を走査することで測定領域R1の各点の測定を行う構成であってもよいし、測定領域R1の全域の測定を同時に行う構成であってもよい。路面センサ15は、センシング方向を前方斜め下方に向けて、自律走行装置10の前部に配置される。なお、路面センサ15は、自律走行装置10の後退用に、自律走行装置10の後部にも配置され、当該路面センサにより後退方向に正常な路面があることを測定可能であってもよい。
【0019】
サービス提供部14は、駅員又は利用客に所定のサービスを提供する。サービスの種類は、特に限定されるものでなく、例えば、利用客に駅構内や乗場などの各種案内を行うサービスであってもよいし、駅構内の状況を監視し監視情報を駅員に提供するサービスであってもよいし、どのようなサービスであってもよい。駅構内には、駅員から見えにくい箇所が多いため、駅員に駅構内の監視情報を提供するサービスは、特に有用なサービスとなる。
【0020】
通信制御部22は、通信部13を介して管理装置80と通信を行って、管理装置80からマップ情報を読み込むことと、マップ情報を更新するための更新データを送信することができる。さらに、通信制御部22は、禁止制御部24が走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止させた場合に、管理装置80にエラー停止したことを示す情報を送信する機能を有してもよい。同様に、通信制御部22は、復帰制御部25が走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止の状態から正常状態に復帰させた場合に、復帰したことを示す情報を送信する機能を有してもよい。
【0021】
走行制御部23は、走行用センサ12の出力と、管理装置80から読み込まれたマップ情報と、走行経路を決定する所定の走行アルゴリズムに基づいて、走行駆動部11を制御して自律走行装置10を走行させる。走行制御部23は、決定された走行経路を走行する際、常時、走行用センサ12の出力から進行方向に人、物などの障害物が無いか監視し、障害物が有る場合には、減速、停止、迂回などを行って、障害物を避けて走行を継続する。また、走行制御部23は、自律走行装置10の現在位置情報とマップ情報とを参照して進入禁止エリアに進入しないように走行経路を決定する。走行制御部23は、上記の現在位置情報を、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)に基づく相対的な自己位置の推定(事前の地図生成時に検出された周囲映像又は周囲形状と、現在検出されている周囲映像又は周囲形状との照合に基づく現在位置の推定等)によって取得すればよい。あるいは、走行制御部23は、GPS(Global Positioning System)、又は、ビーコンによる屋内位置情報測位システムなどの測位システムを用いて、上記の現在位置情報を取得してもよい。走行制御部23は、走行中、常に、進入禁止エリアに進入しないか監視し、進入しそうなときには、進入禁止エリアを避けた走行経路に変更する。したがって、なんらかの異常が生じなければ、自律走行装置10が下り階段等の進入禁止エリアに進入することはない。上記のなんらかの異常としては、例えば測位システムを用いて取得された現在位置情報に大きな誤差が生じるなど、予期される異常に加え、自律走行装置10の使用時に予期されていない異常が生じる可能性もある。
【0022】
走行駆動部11及び走行制御部23は、フェールセーフのために禁止制御部24の制御によってエラー停止されることがある。エラー停止とは、走行駆動部11及び走行制御部23が走行を停止し、かつ、リセットされないと再動作することが不可となる停止状態を意味する。走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止にする手段には、制御上の手段が適用されてもよいし、機械的な手段が適用されてもよい。具体的な制御上の手段としては、走行制御部23から走行駆動部11へ駆動指令が出力されないように走行制御部23の動作を停止させる等の手段が適用されてもよい。具体的な機械的な手段としては、走行駆動部11へブレーキを作用させる、あるいは、走行駆動部11への駆動電力の供給を停止させる等の手段が適用されてもよい。作業員は、リセット操作部16を介して手動により走行駆動部11及び走行制御部23をリセットすることができ、また、復帰制御部25は、制御処理により走行駆動部11及び走行制御部23をリセットすることができる。リセットにより、エラー停止が解除される。
【0023】
禁止制御部24は、なんらかの異常が生じて、自律走行装置10が下り階段等の進入禁止エリアに進入しようとした場合、あるいは、進行先の路面が走行可能な状態でない場合に、自律走行装置10の走行を停止する制御を行う。具体的には、禁止制御部24は、路面センサ15により測定領域R1の全ての点で正常路面を示す結果が示されていれば正常と判別する。一方、禁止制御部24は、測定領域R1のいずれかの点で正常な結果が示されていなければ異常と判別する。そして、禁止制御部24は、正常と判別されていれば、走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止させないが、異常と判別した場合に、走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止させる。
【0024】
復帰制御部25は、禁止制御部24が異常と判別して走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止させた場合に、異常の種類を判別し、自動復帰可能な異常の種類であれば、走行制御部23を通常状態に復帰させる。復帰制御部25は、複数種類の復帰制御を実行可能であり、異常の種類に応じて、複数種類の復帰制御の中からいずれかを選択して実行する。
【0025】
<路面センサ15の測定プロファイルの一例>
図3は、路面センサ15の測定プロファイルの一例を示す図である。
図3の(A)は正常路面の測定プロファイル、(B)は段差を含んだ測定プロファイル、(C)はノイズが含まれる第1の測定プロファイル、(D)はノイズが含まれる第2の測定プロファイル、(E)は幅広の溝を有する路面の測定プロファイルを示す。測定プロファイルとは、路面センサ15の測定結果を、横軸を各測定点の位置、縦軸を距離(路面センサ15と測定点との距離)の測定値として、グラフに表わしたときのグラフ線の輪郭に相当する。なお、路面が平面であれば、路面センサ15から測定領域R1の各点までの距離は、測定領域R1の中央において最も短く、測定領域R1の左右端部に近づくほど長くなる。よって、実際の測定プロファイルは測定領域R1の端に近づくにつれて距離値が大きなる。しかし、
図3、並びに、以下の説明では、上記の左右端部に近づくほど距離値が大きくなる作用は補正によりゼロにされたものとして説明する。
【0026】
前述のように、路面センサ15は、所定の測定領域R1(進行方向に向かって斜め下方で進行方向と交差する領域、
図2を参照)の各点までの距離を計測する。路面センサ15は、測定領域R1の状況に応じて、次のように異なる測定プロファイルの結果を出力する。
【0027】
図3(A)は、正常路面を正常に検出したときの測定プロファイルを示す。この測定プロファイルでは、測定領域R1の各点の測定値が、正常路面までの距離L1±許容誤差δLの範囲内に含まれる。
【0028】
図3(B)は、下り階段等の低い段差があるときの測定プロファイルを示す。この測定プロファイルでは、所定幅W1以上の範囲の各点の測定値が、正常路面までの距離L1+許容誤差δLよりも大きな値(例えば、距離L1+段差分の距離L2±許容誤差δL)となる。残りの範囲では、各点の測定値は、正常路面までの距離L1±許容誤差δLの範囲内に含まれる。なお、段差に対して自律走行装置10がまっすぐに進んだ場合には、測定領域R1の全ての点の測定値が、正常路面までの距離L1+許容誤差δLよりも大きな値となる。
【0029】
図3(C)は、細い溝又は測定困難な物体が測定領域R1に含まれるときの測定プロファイルを示す。この測定プロファイルでは、測定領域R1の一部にひげ状に値が飛び抜けたノイズNが含まれる。測定困難な物体とは、鏡面、金属などの光沢物、黒体、透明体などである。
【0030】
図3(D)は、日光などの強い光が路面センサ15の受光部に差し込んだ場合の測定プロファイルを示す。この測定プロファイルでは、測定領域R1の広い範囲の各点でひげ状に値が飛び抜けたノイズNが含まれる。
【0031】
図3(E)は、走行不可能な幅広の溝がある場合の測定プロファイルを示す。この測定プロファイルでは、測定領域R1中に所定幅W2min~W2maxの各点の測定値が、正常路面までの距離L1+許容誤差δLよりも大きな値となり、その他の範囲の各点の測定値が正常路面までの距離L1±許容誤差δLに含まれる。所定幅の最大値W2maxは、段差と識別される所定幅W1(
図3(B)を参照)よりも小さく設定される。
【0032】
<測定プロファイルの識別フラグ>
禁止制御部24及び復帰制御部25は、上記のように異なる測定プロファイルの種別を、複数の識別フラグ(床フラグ、階段フラグ、溝フラグ、ノイズフラグ)を用いて識別する。識別フラグは、本発明に係る測定プロファイルの識別情報の一例に相当し、床フラグ、階段フラグ、溝フラグ及びノイズフラグはそれぞれ本発明に係る第1識別情報、第2識別情報、第3識別情報及び第4識別情報の一例に相当する。
【0033】
床フラグは、測定領域R1の少なくとも一部の範囲に正常路面までの距離L1±許容誤差δLの値が含まれる場合に有効値にされる。階段フラグは、測定領域R1中の所定幅W1以上の範囲の測定値が正常路面までの距離L1+許容誤差δLよりも大きな値となる場合に有効値にされる。溝フラグは、測定領域R1中の幅W2min~W2maxの範囲で測定値が正常路面までの距離L1±許容誤差δLよりも大きな値となる場合に有効値にされる。ノイズフラグは、測定領域R1のいずれかにひげ状に値が飛び抜けたノイズNを有する場合に有効値にされる。
【0034】
したがって、例えば、
図3(A)の測定プロファイルは、“床フラグ=○(有効値)、階段フラグ=×(無効値)、溝フラグ=×、ノイズフラグ=×”と識別される。
図3(B)の測定プロファイルは、“床フラグ=○、階段フラグ=○、溝フラグ=×、ノイズフラグ=×”と識別される。
図3(C)の測定プロファイルは、“床フラグ=○、階段フラグ=×、溝フラグ=×、ノイズフラグ=○”と識別される。
図3(D)の測定プロファイルは、“床フラグ=○、階段フラグ=×、溝フラグ=×、ノイズフラグ=○”と識別される。
図3(E)の測定プロファイルは、“床フラグ=○、階段フラグ=×、溝フラグ=○、ノイズフラグ=×”と識別される。
【0035】
床フラグのみ有効値で、他のフラグが無効値と識別される測定プロファイルは、走行可能な正常な路面の測定結果を表わす。一方、階段フラグ、溝フラグ及びノイズフラグのいずれか1つ又は複数が有効値と識別された測定プロファイルは、走行不可となる可能性を含んだ測定結果を表わす。
【0036】
なお、測定プロファイルの種別を識別する識別情報は、上記の各フラグに限られない。例えば、想定される路面の状況が異なる場合には、当該状況に合わせて、異なる識別情報が適用されてもよい。また、ノイズフラグを日光等の入射光によるノイズと、物の反射によるノイズとを区別する複数のフラグに分けてもよいし、溝フラグを階段フラグに含めてもよいなど、使用する識別フラグは様々に変更可能である。
【0037】
<異常の種類>
前述したように、禁止制御部24は、路面センサ15の測定プロファイルに応じて、先の路面が正常であると確認できない場合、すなわち何らかの異常を有する可能性がある場合に、走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止させる。当該制御によりフェールセーフな仕組みを実現できる。一方、復帰制御部25は、路面センサ15の測定結果から示される異常の種類をより詳細に識別し、識別された異常の種類に応じて、走行駆動部11及び走行制御部23のエラー停止を解除(正常状態へ復帰)するか否かを判別する。さらに、解除(正常状態へ復帰)する場合には、復帰制御部25は、識別された異常の種類に応じて、どのように解除(正常状態へ復帰)するか、すなわち、複数の復帰制御の中からいずれを選択するかを判別する。
【0038】
復帰制御の選択のため、復帰制御部25は、異常の種類を、測定プロファイルの種別(床フラグ、階段フラグ、溝フラグ及びノイズフラグの各値)と、測定プロファイルの種別(床フラグ、階段フラグ、溝フラグ及びノイズフラグの各値)の時間変化とに基づいて、詳細に判別する。
【0039】
具体的には、復帰制御部25は、階段フラグが有効値である場合(床フラグは有効値でも無効値でも良い)に、第1種の異常(下り階段が前方にある異常)であると判別する。また、復帰制御部25は、床フラグ及びノイズフラグが有効値で、数秒後にノイズフラグが無効値に変化した場合に、第2種の異常(測定困難な物体が測定領域R1を通過した異常)であると判別する。また、復帰制御部25は、床フラグ及びノイズフラグが有効値で、数秒後にもノイズフラグが有効値のままである場合に、第3種の異常(測定困難な物体又は細い溝が前方にある異常)と判別する。また、復帰制御部25は、床フラグ及び溝フラグが有効値の場合に、第4種の異常(走行不可能な溝が前方にある異常)と判別する。
【0040】
上記の第1種の異常は、マップ情報の進入禁止エリアのデータ、あるいは、マップ情報の受信に関する何らかの異常であり、原因を特定しにくい異常である。第2種の異常は、利用客の移動等に伴う異常(靴の装飾、車椅子などが測定領域R1を通過した異常)であり、少しの待機で通常の走行が継続できる異常に相当する。第3種の異常は、測定困難な物体又は日光などによる測定異常であり、当該エリアを避けることで通常の走行制御を継続できる異常に相当する。第4種の異常は、急遽の修繕工事などで側溝の蓋が外されていた場合あるいは側溝の蓋が破損した場合などマップ情報に登録されていない路面状況が生じた場合などに生じる異常に相当する。復帰制御部25は、上記のような異常の種類に応じて複数種類の復帰制御の中からいずれかの復帰制御を実行する。
【0041】
<フェールセーフ処理>
図4(A)は、禁止制御部24が実行するフェールセーフ処理の手順を示すフローチャートである。
図4(B)は、復帰制御部25が実行するフェールセーフ処理の手順を示すフローチャートである。これらのフェールセーフ処理は、自律走行装置10の起動時に開始され、自律走行装置10の動作中に常に実行される。フェールセーフ処理は、走行制御部23による自律走行の制御、並びに、サービス提供部14によるサービス提供の処理と並行して実行される。
【0042】
フェールセーフ処理が開始されると、禁止制御部24は、路面センサ15の測定結果を入力し(ステップS1)、路面センサ15の測定プロファイルの種別を表わす識別フラグ(床フラグ、階段フラグ、溝フラグ、ノイズフラグ)を更新する(ステップS2)。路面センサ15の測定周期は、前方の異常箇所を自律走行装置10が異常箇所に進入する前に検出できるよう、短い周期に設定されている。ステップS2の測定プロファイルと識別フラグとの関係は、前述した通りである。
【0043】
識別フラグを更新したら、禁止制御部24は、床フラグのみが有効値であるか判別し(ステップS3)、YESであれば、処理をステップS1に戻し、ステップS1から処理を繰り返す。一方、NOであれば、禁止制御部24は、走行駆動部11及び走行制御部23が既にエラー停止中か判別し(ステップS4)、エラー停止中でなければ、走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止させる(ステップS5)。エラー停止により、走行駆動部11の駆動が停止され、走行制御部23の制御処理が停止され、リセットされないと走行制御部23が再始動しない状態となる。
【0044】
エラー停止の処理を行った後も、禁止制御部24は、処理をステップS1に戻し、ステップS1からの処理を繰り返し実行する。
【0045】
復帰制御部25は、フェールセーフ処理が開始されると、禁止制御部24によりエラー停止の処理が実行されるまで待機処理を続ける(ステップS7)。そして、エラー停止の処理が実行されたら、まず、復帰制御部25は、識別フラグを読み込み(ステップS8)、異常の種類を特定するために、測定プロファイルの時間変化の判別を要する測定プロファイルであるか判別する(ステップS9)。具体的には、ステップS9で、復帰制御部25は、床フラグ及びノイズフラグが有効値でかつ階段フラグ及び溝フラグが無効値であるかを判別する。その結果、ステップS9の判別結果がNOであれば、復帰制御部25は、エラー停止時の識別フラグの値に基づいて、エラー停止の原因となった異常の種類を判別する(ステップS10)。上述した異常の種類が適用される場合、ステップS10では、第1種の異常(下り階段が前方にある異常)、又は、第4種の異常(走行不可能な溝が前方にある異常)と判別される。
【0046】
一方、ステップS9の判別結果がYESであれば、復帰制御部25は、所定時間(例えば数秒)待機し(ステップS11)、待機後の識別フラグを読み込み(ステップS12)、エラー停止時の識別フラグの値と待機後の識別フラグの値(すなわち、識別フラグの時間変化)とに基づいてエラー停止の原因となった異常の種類を判別する(ステップS13)。上述した異常の種類が適用される場合、ステップS13では、第2種の異常(測定困難な物体が測定領域R1を通過した異常)、又は、第3種の異常(測定困難な物体又は細い溝が前方にある異常)と判別される。ステップS10及びステップS13の異常の種類の判別方法は、<異常の種類>の項目で述べた通りである。
【0047】
続いて、復帰制御部25は、判別された異常の種類に応じた分岐処理(ステップS14)を行って、異常の種類に応じた第1~第4の復帰制御のサブルーチン(ステップS15~S18)に処理を移行する。そして、ステップS15~S18のいずれかのサブルーチンを完了したら、復帰制御部25は、処理をステップS7に戻す。
【0048】
<第1復帰制御>
図5は、
図4のステップS15の第1復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
図6は、
図4のステップS15の第1復帰制御を説明する図である。第1復帰制御は、原因を特定しにくい異常(第1種の異常)に対応する制御処理である。詳細には、路面センサ15の測定プロファイルが下り階段等の段差を示しており、エラー停止の原因となった異常が、マップ情報に関する何らかの異常で、異常の原因を特定しにくい場合に、第1復帰制御が実行される。
【0049】
第1復帰制御では、復帰制御部25は、走行駆動部11及び走行制御部23の復帰処理は行わず、作業員による手動のリセット操作がなされるのを待機する(ステップS21)。そして、手動のリセット操作があれば、復帰制御部25は、第1復帰制御のサブルーチンを終了する。
【0050】
図6に示すように、第1復帰制御が選択される異常の場合、自律走行装置10は、走行駆動部11及び走行制御部23のエラー停止により、エラーランプを点灯させ、走行の停止を維持する(プロセスJ1)。ここで、作業員は、自律走行装置10が進入禁止エリアに進入しようとした原因を別途調査し、原因が取り除かれたことを確認したら、手動で自律走行装置10を進入禁止エリアの外に移動させる(プロセスJ2)。上記原因としては、例えば自律走行装置10が現在位置情報を得るために使用している測位システムに信号不良が生じたことなどが想定できる。さらに、作業員は、リセット操作部16を操作して手動で走行駆動部11及び走行制御部23をリセットする(プロセスJ3)。そして、リセットにより自律走行装置10が正常状態に復帰し、自律走行を再開する(プロセスJ4)。
【0051】
プロセスJ2~J4の段階では、自律走行装置10が進入禁止エリアの外へ移動されることで、路面センサ15の測定プロファイルは、床フラグのみ有効値(正常な走行路面を示す測定結果)となっている。したがって、リセットした後、再び、禁止制御部24によりエラー禁止の処理がなされて、自律走行が再開不可となることはない。
【0052】
第1復帰制御によれば、異常の原因調査が別途必要なときには、自動的な復帰処理が行われず、フェールセーフの仕組みが維持される。
【0053】
<第2復帰制御>
図7は、
図4のステップS16の第2復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
図8は、
図4のステップS16の第2復帰制御を説明する図である。第2復帰制御は、少しの待機で通常の走行を継続できるような異常に対応する制御処理である。すなわち、路面センサ15の測定プロファイルの時間変化から、利用客の移動等に伴う測定異常(靴の装飾、車椅子等の金属部品の一部が測定領域R1を通過した異常)が生じた場合に、第2復帰制御が実行される。
【0054】
第2復帰制御では、復帰制御部25は、走行駆動部11及び走行制御部23をリセットさせ(ステップS31)、第2復帰制御のサブルーチンを終了する。
【0055】
図8に示すように、第2復帰制御が選択される異常の場合、自律走行装置10は、エラー停止によりエラーランプが点灯されて走行が停止され(プロセスJ11)、数秒(一例として
図8では2秒と記す)の待機(プロセスJ12)の後、ノイズフラグが有効値から無効値へ変化していることで、第2復帰制御が実行されて、走行駆動部11及び走行制御部23がリセットされる(プロセスJ13)。そして、自律走行装置10が正常状態に復帰し、自律走行を再開する(プロセスJ14)。
【0056】
プロセスJ13、J14の段階では、路面センサ15の測定プロフィルは、床フラグのみ有効値(正常な走行路面を示す測定結果)となっているので、リセットの後、再び、禁止制御部24によりエラー禁止処理がなされて、自律走行が再開不可となることがない。
【0057】
第2復帰制御によれば、すぐに自律走行の再開が可能であると特定可能な異常の場合に、自動的に復帰処理が行われるので、作業員がリセット操作に駆け付けるような煩雑な作業を省くことができる。
【0058】
<第3復帰制御>
図9は、
図4のステップS17の第3復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
図10は、
図4のステップS17の第3復帰制御を説明する図である。第3復帰制御は、測定プロファイルの異常が生じたエリアを避けることで走行を継続できるような異常に対応する制御処理である。具体的には、路面センサ15の測定プロファイルから測定困難な物体又は日光などによる測定異常が継続される場合に、第3復帰制御が実行される。
【0059】
第3復帰制御に移行すると、まず、復帰制御部25は、禁止制御部24によるエラー停止とは別に、走行制御部23に進行方向への移動を禁止する設定を、二重の安全性確保のために行う(ステップS41)。次に、復帰制御部25は、禁止制御部24の制御を無効化するミューティング処理を行う(ステップS42)。ミューティング処理により、後段のリセット後に、再び、禁止制御部24によりエラー停止の制御が働いてしまうことが回避される。続いて、復帰制御部25は、通信制御部22を介して管理装置80にエラー停止された箇所周辺を進入禁止エリアに含めるマップ更新情報を送信させる(ステップS43)。更新されたマップ情報は、その後の走行制御部23による走行制御に反映されることになる。
【0060】
ステップS43において、復帰制御部25は、エラー停止された箇所から所定の範囲(以下、「箇所周辺」と言う)を時間の経過で進入禁止が解除される一時的進入禁止エリアとする更新データを送信してもよい。一時的進入禁止エリアは、管理装置80の制御によって、時間の経過(例えば30分~2時間後など)により進入禁止エリアから外されるように更新される。当該更新がなされると、走行制御部23は、更新後の進入禁止エリアに基づいて走行制御を行うことになる。一時的進入禁止エリアの設定により、測定異常が一時的に生じるような場合に対応して、しばらくの間、当該箇所周辺に自律走行装置10が進入しないように制御でき、かつ、その後、測定異常が生じなくなる頃に、当該箇所周辺を再度走行可能な状態に戻すことができる。
【0061】
ここで、管理装置80は、同一の箇所周辺について一時的進入禁止エリアの設定が、複数回、繰り返し行われた場合には、当該箇所周辺を時間の経過で解除されない継続的な進入禁止エリアに変更する更新を行ってもよい。当該更新がなされると、走行制御部23は、更新後の進入禁止エリアに基づいて走行制御を行うことになる。このような管理装置80の制御により、測定異常が継続的に生じるような場合に対応して、当該箇所周辺を進入禁止エリアに設定することができる。
【0062】
さらに、ステップS43においては、復帰制御部25は、エラー停止された箇所周辺を、時間帯に応じて進入禁止にする時間帯別進入禁止エリアとして設定する更新データを送信してもよい。時間帯別進入禁止エリアは、管理装置80の制御、あるいは、走行制御部23の制御により、該当する時間帯にのみ当該箇所周辺への自律走行装置10の進入を禁止するエリアを表わす。時間帯別進入禁止エリアの設定により、例えば、日光の差し込みなど、所定の時間帯のみ路面センサ15の測定異常が生じるような箇所周辺に対して、当該時間帯における自律走行装置10の進入が禁止され、無駄に自律走行装置10がエラー停止されることを低減できる。また、当該時間帯以外には、当該箇所周辺を走行可能な状態に戻すことができる。
【0063】
次に、復帰制御部25は、走行駆動部11及び走行制御部23をリセットする(ステップS44)。当該リセットは、フェールセーフ処理(
図4(A))のステップS5のエラー停止を解除するためのものである。リセットされると、走行駆動部11及び走行制御部23の走行制御が開始され、進入禁止エリアの情報からエラー停止された箇所から退避走行(後方へ進行)等が行われる。そして、走行が行われたら、復帰制御部25は、ステップS42のミューティング処理を解除し、また、ステップS41で行われた進行方向の移動禁止の設定を解除する(ステップS45)。ミューティング処理の解除により、禁止制御部24のフェールセーフ処理が再開される。そして、復帰制御部25は、第3制御処理のサブルーチンを終了する。
【0064】
図10に示すように、第3復帰制御が選択される異常の場合、自律走行装置10は、エラー停止によりエラーランプが点灯されて走行が停止され(プロセスJ21)、数秒の待機(プロセスJ22)の後、ノイズフラグが無効値を維持していることで、第3復帰制御が実行される。そして、ステップS41~S45の処理により、各ステップに対応したプロセスJ23~J25が実現される。プロセスJ25のマップ情報の更新により、エラー停止された箇所周辺a1が、進入禁止エリア(あるいは、一時的進入禁止エリア、又は、時間帯別進入禁止エリア)に設定される。その後、走行駆動部11及び走行制御部23がリセットされる(プロセスJ26)。リセット時、自律走行装置10はエラー停止された箇所に位置するので、測定プロファイルを識別する識別フラグは、ノイズフラグが有効値のままであるが、プロセスJ24のミューティング処理により、リセット後にすぐに禁止制御部24が再びエラー停止の制御を行ってしまうことがない。したがって、リセットにより走行(退避走行)が開始され(プロセスJ27)、走行によりノイズフラグが無効値とされる。そして、ミューティング処理が解除されて(プロセスJ28)、自律制御装置は通常の走行に戻る。さらに、プロセスJ25で、エラー停止された箇所周辺が進入禁止エリアに追加されているので、自律走行装置10が、再び、同じ箇所周辺に進んで、エラー停止されることも抑制される。
【0065】
第3復帰制御によれば、路面センサ15の測定に関する異常であり、当該エリアを避けることで通常の走行制御を継続できる異常である場合に、当該エリアが進入禁止エリアに追加されて自動的に復帰制御が行われるので、作業員がリセット操作に駆け付けるような煩雑な作業を省くことができる。
【0066】
<第4復帰制御>
図11は、
図4のステップS18の第4復帰制御のサブルーチンを示すフローチャートである。
図12は、
図4のステップS18の第4復帰制御を説明する図である。第4復帰制御は、側溝の蓋が外されるなどマップ情報に登録されていない新たな路面状況が生じたことに起因する異常に対応する制御処理である。
【0067】
第4復帰制御では、復帰制御部25は、数秒待機した後(ステップS51)、禁止制御部24によるエラー停止とは別に、走行制御部23に進行方向への移動を禁止する設定を、二重の安全性確保のために行う(ステップS52)。次に、復帰制御部25は、禁止制御部24の制御を無効化するミューティング処理を行う(ステップS53)。ミューティング処理により、後段のリセット後に、再び、禁止制御部24によりエラー停止の制御が働いてしまうことが回避される。
【0068】
続いて、復帰制御部25は、通信制御部22を介して管理装置80にエラー停止された箇所周辺を進入禁止エリアに追加するマップ更新情報を送信させる(ステップS54)。更新されたマップ情報は、その後の走行制御部23による走行制御に反映されることになる。
【0069】
次に、復帰制御部25は、走行駆動部11及び走行制御部23をリセットする(ステップS55)。すると、走行駆動部11及び走行制御部23の走行制御が開始され、進入禁止エリアの情報からエラー停止された箇所から退避走行(後方へ進行)等が行われる。そして、走行が行われたら、復帰制御部25は、ステップS53のミューティング処理を解除し、また、ステップS52で行われた進行方向の移動禁止の設定を解除する(ステップS56)。ミューティング処理の解除により、禁止制御部24の処理が再開される。そして、復帰制御部25は、第4制御処理のサブルーチンを終了する。
【0070】
図12に示すように、例えば路面に溝m1が生じて第4復帰制御が選択された場合、自律走行装置10は、エラー停止によりエラーランプが点灯されて走行が停止され(プロセスJ31)、その後、ステップS51~S54の処理により、各ステップに対応したプロセスJ32~J35が実現される。さらに、走行駆動部11及び走行制御部23がリセットされる(プロセスJ36)。リセット時、自律走行装置10はエラー停止された箇所に位置するので、測定プロファイルを識別する識別フラグは、溝フラグが有効値のままであるが、ミューティング処理のプロセスJ34により、リセット後にすぐに禁止制御部24によって再びエラー停止の制御が行われてしまうことない。したがって、リセットにより走行(退避走行)が開始され(プロセスJ37)、走行により溝フラグが無効値とされる。そして、ミューティング処理が解除されて(プロセスJ38)、自律制御装置は通常の走行に戻る。さらに、プロセスJ35で、エラー停止された箇所周辺a1が進入禁止エリアに追加されているので、自律走行装置10が、再び、同じ箇所周辺a1に進んで、エラー停止されることも抑制される。
【0071】
第4復帰制御によれば、マップ情報に登録のない新たな路面状況が生じて路面センサ15の測定プロファイルが異常となった場合に、当該エリアが進入禁止エリアに追加されて自動的に復帰制御が行われるので、作業員がリセット操作に駆け付けるような煩雑な作業を省くことができる。
【0072】
以上のように、本実施形態の自律走行装置10によれば、路面センサ15の測定結果が異常を表わす場合に、禁止制御部24が、走行駆動部11及び走行制御部23をエラー停止(走行禁止)させる。当該エラー停止により、走行制御部23の走行制御になんらかの異常が生じたときでも、自律走行装置10が下り階段等の走行不能領域へ進入してしまうといった悪い事態を回避することができる。すなわち、フェールセーフな仕組みが実現する。さらに、復帰制御部25は、エラー停止された走行駆動部11及び走行制御部23を、複数種類の復帰制御を用いて通常状態へ復帰させることが可能であり、加えて、復帰制御部25は、複数種類の復帰制御の中から異常の種類に応じた復帰制御を実行する。したがって、原因の特定が困難な異常、原因の特定が可能でありかつ或る原因が特定される異常など、複数種類の異常がある場合に、これらの異常の種類に適した復帰制御を実現できる。したがって、フェールセーフな仕組みを維持したまま、異常の種類に応じて復帰制御によって、復帰作業を行う作業員の煩雑さを低減することができる。
【0073】
駅構内においては、不特定多数の利用客が移動し、また、階段などの自律走行装置10が走行不能となる領域が多いので、自律走行装置10のフェールセーフな仕組みは重要である。一方、駅構内では、不特定多数の利用客が移動し、加えて、日光が差し込む場合もあるので、正常な路面を確認するために行われる路面センサ15の測定には、様々な異常が現れやすい。例えば、利用客は、測定異常の原因となる金属片を靴や持ち物に付けていることがあり、また、靴や持ち物に光沢を有する材料、透明な材料、あるいは、黒色の材料など、測定異常の原因となる材料が使用されていることがあり、これらが路面センサ15の測定領域R1上を通った場合には、路面センサ15の測定結果に異常が生じやすい。したがって、当該測定結果に異常が含まれる場合に、常に、自律走行装置10がエラー停止し、作業員が復帰処理を行う必要があると、作業員の煩雑さが非常に増加する。また、駅構内においては、自律走行装置10の箇所まで駆け付けるのに、作業員は、多くの利用客の間を通り抜け、比較的に長い距離を移動しなければならない。したがって、駅構内で使用する自律走行装置に、本実施形態の自律走行装置10を適用することで、上記のような作業員の煩雑さを低減できるといった顕著な効果が奏される。
【0074】
さらに、本実施形態の自律走行装置10によれば、復帰制御部25は、測定プロファイルの種別を識別する識別フラグに基づいて、異常の種類を判別する。このような判別方法によれば、複雑なパターン認識処理を行う場合と比較して、復帰制御部25の負荷が軽減され、さらに、復帰制御部25は、フェールセーフの仕組みが阻害されないように単純明快な条件で復帰制御を行うことができる。
【0075】
加えて、本実施形態の自律走行装置10によれば、路面センサ15の測定プロファイルの時間変化に基づいて、異常の種類を判別する。このような判別方法によれば、復帰制御部25は、一時的な物の通過を原因とした異常を判別することができ、一時的な物の通過に対応した復帰制御を実現できる。
【0076】
さらに、本実施形態の自律走行装置10によれば、第3種及び第4種の復帰制御(
図4(B)のステップS17、S18)において、復帰制御部25が、エラー停止された箇所周辺を進入禁止エリアとしてマップ情報に追加又は登録する。したがって、通常状態への復帰後に、当該箇所周辺に路面センサ15の測定異常の原因が残されているような場合に、当該箇所周辺に自律走行装置10が再度進入し、エラー停止が繰り返されてしまうといった事態を低減できる。
【0077】
さらに、本実施形態の自律走行装置10によれば、第3種の復帰制御(
図9)において、復帰制御部25は、マップ情報に一時的進入禁止エリアを設定できる。一時的進入禁止エリアの設定により、路面センサ15の測定異常が一時的に生じるような場合に対応して、しばらくの間、当該箇所周辺に自律走行装置10が進入しないように制御でき、かつ、その後、測定異常が生じる状況が無くなった場合に、当該箇所周辺を再度走行可能な状態に戻すことができる。
【0078】
さらに、本実施形態の走行システム1によれば、一時的進入禁止エリアの設定が、複数回繰り返された場合に、一時的進入禁止エリアが継続的に進入禁止となる通常の進入禁止エリアに変更される。したがって、路面センサ15の測定異常が、同一の箇所周辺で何度も繰り返される場合に、当該箇所周辺を継続的な進入禁止エリアに設定して、当該箇所周辺でエラー停止が何度も発生してしまうことを低減することができる。
【0079】
さらに、本実施形態の自律走行装置10によれば、第3種の復帰制御(
図9)において、復帰制御部25は、マップ情報に時間帯別進入禁止エリアを設定できる。時間帯別進入禁止エリアの設定により、例えば、日光の照射など、時間帯によって路面センサ15の測定結果に異常が生じるような場合に対応して、当該時間帯に自律走行装置10が当該箇所周辺に進入しないように制御でき、異常が生じない別の時間帯においては当該箇所周辺を走行可能な状態に戻すことができる。
【0080】
さらに、本実施形態においては、路面センサ15の測定プロファイルの種別を識別する識別フラグには、正常な路面の測定値が含まれることを示す床フラグ、段差の測定値が含まれることを示す階段フラグ、溝の測定値が含まれることを示す溝フラグ、並びに、ノイズが含まれることを示すノイズフラグが含まれる。このような識別フラグを用いることで、路面センサ15の測定プロファイルに生じる異常の種類を、フェールセーフの仕組みを阻害しない正確さで判別することができる。
【0081】
さらに、本実施形態の自律走行装置10によれば、路面センサ15は距離センサであり、禁止制御部24は、測定領域R1のいずれかの点で正常な路面の距離値が得られない場合に、異常と判別し、エラー停止の制御を行う。このような構成により、自律走行装置10又は走行システム1に何らかの異常が生じた場合でも、自律走行装置10が下り階段等の走行不能領域に進入してしまうことを、高い信頼性を持って抑制することができる。
【0082】
さらに、本実施形態の自律走行装置10によれば、第3種及び第4種の復帰制御(
図9、
図11)において、復帰制御部25は禁止制御部24の制御を無効化するミューティング処理を行った後、エラー停止された走行駆動部11及び走行制御部23をリセットすることで自律走行装置10を退避走行させ、その後、ミューティングを解除する。したがって、路面センサ15の測定結果に異常が残っている場合でも、リセット直後に、再び、エラー停止の制御が働いてしまうといった事態を避けて、走行制御部23の制御によって退避走行を行わせることができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、路面センサとしてLiDARを一例に示したが、路面の状況を検出できれば、その他の様々なセンサが適用されてもよい。また、上記実施形態では、路面センサの測定結果の異常の種類について、幾つかの具体例を示したが、異常の種類は実施形態の例に限定されず、様々な異常の種類が含まれていてもよい。また、復帰制御の種類についても実施形態の例に限定されず、様々な種類の復帰制御が含まれていてもよい。また、上記実施形態では、進入禁止エリアが示されたマップ情報が、管理装置に記憶される例を示したが、自律走行装置の記憶部にマップ情報が記憶されてもよい。また、走行制御部23による通常走行の制御において自律走行装置10が下り階段等の走行不能領域に進入しないようにする制御方法は、マップ情報を利用した方法に限られず、路面センサ15とは別のセンサで下り階段を検出することで当該箇所に進入しないように制御するなど、どのような制御方法が適用されてもよい。
【0084】
さらに、上記実施形態では、本発明に係る自律走行装置を、鉄道駅の構内を移動するサービスロボットに適用した例を示したが、本発明に係る自律走行装置は、空港、工場、倉庫、商業施設、病院など、様々な施設で使用されてもよい。また、本発明に係る自律走行装置は、サービスロボットの走行装置として適用されることに限定されず、AGV(Automated guided vehicle)、フォークリフトなど、物を搬送する装置に適用されてもよいし、その他、建機又は様々な産業車両の走行装置に適用されてもよいなど、その用途は限定されない。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 走行システム
10 自律走行装置
11 走行駆動部(走行処理部)
15 路面センサ
16 リセット操作部
20 制御部
23 走行制御部(走行処理部)
24 禁止制御部
25 復帰制御部
80 管理装置
82 記憶部
R1 測定領域