(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】分散樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20240731BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20240731BHJP
C08L 23/14 20060101ALI20240731BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20240731BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L51/06
C08L23/14
C08L23/16
C08L23/02
(21)【出願番号】P 2021511326
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010407
(87)【国際公開番号】W WO2020203103
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019067270
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 俊司
(72)【発明者】
【氏名】土井 竜二
(72)【発明者】
【氏名】榊原 史泰
(72)【発明者】
【氏名】吉元 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】小池 諒
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172223(JP,A)
【文献】特開2008-222896(JP,A)
【文献】特開2009-209181(JP,A)
【文献】特開2011-148871(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186733(WO,A1)
【文献】特開平10-330561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/02
C08L 23/26
C08L 51/06
C08L 23/14
C08L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂に環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を導入した変性ポリオレフィン樹脂と、
水系分散媒と、を少なくとも含有し、
前記変性ポリオレフィン樹脂の下記式(1)で表される開環度が70以上
であり、
前記変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が、54,000以上である、分散樹脂組成物。
(1):開環度=変性度K×開環率R
(前記式(1)中、前記変性度Kは、前記ポリオレフィン樹脂に対する前記α,β-不飽和カルボン酸誘導体の含有率(重量%)を表し、前記開環率Rは、前記α,β-不飽和カルボン酸誘導体における環状構造の開環率(%)を表し、60~80%である。)
【請求項2】
乳化剤の含有量が、10重量%未満である、請求項1に記載の分散樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性ポリオレフィン樹脂の融点が、50℃以上である、請求項1
又は2に記載の分散樹脂組成物。
【請求項4】
前記変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が、1万以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂が、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の分散樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂は、熱可塑性の汎用樹脂である。ポリオレフィン系樹脂は、安価であり、且つ成形性、耐薬品性、耐候性、耐水性、電気特性等の多くの優れた性質を有する。そのため、ポリオレフィン系樹脂は、従来からシート、フィルム、成形物等として、幅広い分野で使用されている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂等の非極性樹脂成型品は、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、金属等の極性基材とは異なり、極性が低く、且つ結晶性を有する。そのため、非極性樹脂成型品は、難付着性基材として知られており、同種及び異種基材同士の接着や塗装が困難であった。
【0003】
この問題に対して、酸変性(不飽和カルボン酸及び/又はその無水物等による変性)したプロピレン系ランダム共重合体を、塗装前処理剤又は接着剤とすることが提案されている。また、近年、環境問題の観点から、酸変性したプロピレン系ランダム共重合体は、従来の有機溶剤系塗料から水系塗料へと移行している。さらに、乳化剤と酸変性したプロピレン系ランダム共重合体を含む組成物は、塗料化して基材へ塗工乾燥したときに、乳化剤が塗膜表面にブリードアウトしやすく、外観不良が発生する問題を有している。また、上記組成物の塗装面に別の塗料をさらに塗装する場合、塗料間の接着力が乏しくなる問題を有している。そのため、酸変性したプロピレン系ランダム共重合体を含み、乳化剤を含まない組成物が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2004/104090号
【文献】特開2007-031472号公報
【文献】特開2009-040920号公報
【文献】特開2007-039645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の水性樹脂組成物は、水に対する溶解性の高い溶剤を用いる。これにより、常圧時の沸点が185℃以上の水性化助剤を実質的に含有することなく、不飽和カルボン酸構造単位を含むポリオレフィンの水性分散体を製造している。また、特許文献2及び特許文献3に記載の水性樹脂組成についても、エチレングリコール系溶剤やアルコール系溶剤等の水への溶解性を有する溶剤を用いる。これにより、実質的に乳化剤を用いることなく、カルボキシル基や不飽和カルボン類を導入した変性ポリオレフィンの水性分散体を製造している。
【0006】
酸変性ポリオレフィン樹脂を使用して、優れた付着性や耐水性、耐薬品性を有する接着層や塗膜を得る場合、高分子量で酸変性度の低い酸変性ポリオレフィン樹脂を使用することが望ましい。しかしながら、これらの樹脂の水性分散体を調製することは難易度が高い。上記の特許文献において用いられている、水に対する溶解性の高い溶剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルといった乳化剤と比較して、水性化助剤としての性能に劣る。そのため、高分子量で低酸変性度の酸変性ポリオレフィン樹脂の良好な水性分散体を得ることは困難である。
特許文献4に記載の水性樹脂分散体は、ポリエーテル樹脂等の親水性高分子を、プロピレン系重合体に結合させて水への分散性を高めることにより、高分子量であっても乳化剤を実質的に添加することなく、分散粒子径の細かい安定性に優れた水性樹脂分散体を得ている。しかしながら、親水性の高い構造を分子内に導入したため、接着層や塗膜の耐水性が必ずしも充分とはいえない。
【0007】
本発明の課題は、乳化剤の添加量を低減しても、分散安定性を保持し得る分散樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、所定の式で表される開環度が70以上の変性ポリオレフィン樹脂及び水系分散媒を含有することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔6〕を提供する。
〔1〕ポリオレフィン樹脂に環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を導入した変性ポリオレフィン樹脂と、水系分散媒と、を少なくとも含有し、前記変性ポリオレフィン樹脂の下記式(1)で表される開環度が70以上である分散樹脂組成物。
(1):開環度=変性度K×開環率R
(前記式(1)中、前記変性度Kは、前記ポリオレフィン樹脂に対する前記α,β-不飽和カルボン酸誘導体の含有率(重量%)を表し、前記開環率Rは、前記α,β-不飽和カルボン酸誘導体における環状構造の開環率(%)を表す。)
〔2〕乳化剤の含有量が、10重量%未満である、上記[1]に記載の分散樹脂組成物。
〔3〕前記開環率Rが、60%以上である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の分散樹脂組成物。
〔4〕前記変性ポリオレフィン樹脂の融点が、50℃以上である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
〔5〕前記変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が、1万以上である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
〔6〕前記ポリオレフィン樹脂が、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の分散樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乳化剤の添加量を低減しても、分散安定性を保持し得る分散樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書中、「AA~BB」との表記は、AA以上BB以下を示す。
【0011】
[1.分散樹脂組成物]
本発明の分散樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂に環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を導入した変性ポリオレフィン樹脂と、水系分散媒と、を少なくとも含有する。そして、変性ポリオレフィン樹脂は、式(1)で表される開環度が70以上である。
(1):開環度=変性度K×開環率R
(式(1)中、変性度Kは、ポリオレフィン樹脂に対するα,β-不飽和カルボン酸誘導体の含有率(重量%)を表し、開環率Rは、α,β-不飽和カルボン酸誘導体における環状構造の開環率(%)を表す。)
【0012】
変性ポリオレフィン樹脂の式(1)で表される開環度が70以上であると、乳化剤の添加量を低減しても、分散安定性を保持し得る分散樹脂組成物を得ることが出来る。これは、次の理由によると推察される。
変性度Kは、ポリオレフィン樹脂に導入した環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体の量である。開環率Rは、α,β-不飽和カルボン酸誘導体における環状構造の開環率である。なお、本発明において、α,β-不飽和カルボン酸誘導体の環状構造は、水分子により開環される。そのため、開環構造は、ジカルボキシ基を有する。即ち、本発明の変性ポリオレフィン樹脂において、開環度は、変性ポリオレフィン樹脂におけるカルボキシ基の存在量に関連するパラメータといえる。
水系分散媒中、上記のカルボキシ基は、有機アミン類等の中和剤が存在することにより、有機アミン類等の共役酸を対イオンとするカルボン酸イオンとして存在する。当該カルボン酸イオンは、負電荷を有する。そのため、水系分散媒中、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、それぞれのカルボン酸イオンの静電反発力により分散安定化する。従って、本発明の分散樹脂組成物は、乳化剤の量を低減しても、分散安定性を保持し得ると推察される。
【0013】
ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸等の環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を導入した変性ポリオレフィン樹脂は従来公知である。しかしながら、従来公知の変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂に導入したα,β-不飽和カルボン酸誘導体の環状構造を化学反応に利用して、種々の効果を発揮し得るものである。そのため、ポリオレフィン樹脂に導入したα,β-不飽和カルボン酸誘導体の環状構造は、開環しない方が望ましい、即ち、開環度は低い方が望ましい。
一方、本発明において、変性ポリオレフィン樹脂は、α,β-不飽和カルボン酸誘導体の環状構造の開環度を70以上に設定する、即ち、開環度を高くする。
【0014】
乳化剤の添加量を低減しつつ、分散安定性を保持するには、変性度を高くすることは有効である。しかしながら、変性度を高くし過ぎると耐水性が低下する傾向にある。そのため、特に塗膜や接着層の耐水性が求められる場合、乳化剤の添加量を低減しつつ、分散安定性を保持するために、変性度を高くしないことが好ましい。本発明者等は種々検討していたところ、変性度を高くする代わりに開環率を高くしても、乳化剤の添加量を低減しつつ、分散安定性を保持する上で有効になることを見出した。
ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸等の環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を導入した変性ポリオレフィン樹脂は、環状構造が水分子によって開環する。そのため、例えば大気中の水分子に触れることにより、時間が経つにつれて開環率Rの増大が認められる。しかしながら、大気中の水分は変性ポリオレフィン樹脂の内部まで到達することが出来ない。従って、開環率Rの増大は一定の範囲でレベルオフする。
【0015】
開環率Rの増大がレベルオフする水準は、環境湿度や樹脂の比表面積にも依存する。一般に、比表面積が高いほど、開環率Rがレベルオフする水準も高くなる。しかしながら、通常使用されるペレット形状であっても、大気に長期間曝した状態で開環率Rが50%を上回ることはない。
本発明者らは、開環率を極力上げることにより、変性度を比較的低く抑えたままでも分散安定性を効果的に向上出来ると考え、鋭意検討した結果、高湿度かつ高温度の条件下で、変性ポリオレフィン樹脂を一定期間保管することにより、開環率Rを50%超とでき、それにより分散樹脂組成物の分散安定性を大きく向上し得ることを見出した。
【0016】
[1-1.変性ポリオレフィン樹脂]
変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂に環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を導入して得られる。また、変性ポリオレフィン樹脂は、上記数式(1)で表される開環度が、70以上であり、100以上が好ましい。開環度が70以上であると、ポリオレフィン樹脂に環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を導入した変性ポリオレフィン樹脂を用いて分散樹脂組成物を調製した場合、乳化剤の量を低減しても、分散安定性を保持し得る。また、その上限は、600以下が好ましく、450以下がより好ましく、300以下がさらに好ましい。
なお、開環度は、変性度Kと開環率Rの積として定義される。変性度Kと開環率Rの詳細を下記に示す。
【0017】
変性度Kは、α,β-不飽和カルボン酸誘導体のグラフト重量(重量%)である。即ち、変性度Kは、ポリオレフィン樹脂に導入した環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体の割合を示す。変性度Kは、変性ポリオレフィン樹脂の開環度に応じて設定し得る。変性度Kは、1.2~6.0重量%がより好ましく、1.4~5.0重量%が更に好ましい。
変性度Kは、ポリオレフィン樹脂に環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を導入する際の、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体及びラジカル発生剤の使用量、反応温度、反応時間等によって調整し得る。
【0018】
変性度Kは、JIS K-0070(1992)に準拠して次の通り算出し得る。
精秤した約0.5gの変性ポリオレフィン樹脂と約100gのトルエンを、冷却管及び温度計を取り付けた300mlセパラブルフラスコに投入し、ホットスターラー上で内温が80℃となるように加熱しながら撹拌溶解する。樹脂溶解後、15mlのメタノールを加え5分間保持する。その後、5~6滴の指示薬(1%フェノールフタレイン-メタノール溶液)を添加し、0.1mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定する。この際、中和に要した滴定量から、次式より変性ポリオレフィン樹脂の変性度Kを算出し得る。なお、変性度Kの測定は、開環処理前の変性ポリオレフィン樹脂をトルエン等の有機溶剤に溶解した後、大過剰のメタノール中に滴下して析出させることによって精製した試料を用いて行う。
K={B×f×F/(S×1000)}×100
ここで、Kは、変性度(重量%)を表し、Bは、水酸化カリウム-エタノール溶液の滴定量(ml)を表し、fは、0.1mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液のファクターを表し、Fは、α,β-不飽和カルボン酸誘導体の式量×1/10であり、Sは、変性ポリオレフィン樹脂の重量(g)を表す。
【0019】
開環率Rは、α,β-不飽和カルボン酸誘導体における環状構造の開環率(%)である。即ち、開環率Rは、ポリオレフィン樹脂に導入した環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体の開環率を示す。開環率Rは、変性ポリオレフィン樹脂の開環度に応じて設定し得る。開環率Rは、50~100%が好ましく、60~80%がより好ましい。
【0020】
開環率Rの測定の詳細は、以下の通りである。
先ず、変性ポリオレフィン樹脂を有機溶剤に溶解して溶液を得る。次に、KBr板に該溶液を塗布、乾燥して薄膜を形成し、FT-IR(例、「FT/IR-4100」、日本分光社製)にて、400~4000cm-1の赤外吸光スペクトルを観測する。解析は、付属ソフトウェア(例、「Spectro Manager」、日本分光社)によって行う。
波数1700~1750cm-1に現れるピークを、開環したα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピークに帰属し、ピーク高さをAとする。波数1750~1820cm-1に現れるピークを、開環していないα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピークに帰属し、ピーク高さをBとする。そして、開環率R(%)は、(A/(A+B)×100)の式から算出し得る。後述の実施例における開環率は、この方法で算出した値である。
【0021】
変性ポリオレフィン樹脂の融点は、50~120℃が好ましく、60~110℃がより好ましく、60℃~100℃がさらに好ましい。融点が50℃以上であると、十分な付着性を発揮し得る。一方、融点が120℃以下であると、比較的低温で焼き付けを行っても優れた付着性を発揮し得る。
融点は、例えば、ポリオレフィン樹脂のベース樹脂の種類により調整し得る。
【0022】
DSCによる融点の測定の詳細は、以下の通りである。
JIS K7121(1987)に準拠し、DSC測定装置(例、「DISCOVERY DSC2500」、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持する。10℃/分の速度で降温し、-50℃まで至った後、5分間安定保持する。その後、10℃/分で150℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度を融点とする。
【0023】
変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、10,000~200,000が好ましく、50,000~180,000がより好ましく、70,000~170,000がさらに好ましい。
重量平均分子量は、例えば、ポリオレフィン樹脂のベース樹脂の重量平均分子量や変性成分の使用量等により調整し得る。
【0024】
GPCの測定条件の詳細は、以下の通りである。後述の実施例における変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、この条件で測定した値である。
測定機器:HLC-8320GPC(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:TSKgel(東ソー社製)
標準物質:ポリスチレン(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器:示差屈折計(東ソー製)
【0025】
分散樹脂組成物中の変性ポリオレフィン樹脂の平均粒子径は、50nm以上が好ましく、60nm以上がより好ましく、70nm以上がさらに好ましい。一方、その上限は、250nm以下が好ましく、230nm以下がより好ましく、210nm以下がさらに好ましい。平均粒子径は、分散の程度を表すものであり、数値が小さいほど分散性に優れることを示す。
【0026】
本明細書中、平均粒子径は、動的光散乱法で測定したZ平均粒子径である。測定機器としては、マルバーン社製のゼータサイザーナノ ZS等が挙げられる。
【0027】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂は、特に限定されるものではない。ポリオレフィン樹脂を構成するオレフィンとしては、α-オレフィンが好適に用いられる。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが挙げられる。
ポリオレフィン樹脂は、1種単独のオレフィン重合体であってもよく、2種以上のオレフィン重合体の共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂が共重合体である場合、ポリオレフィン樹脂はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0028】
ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン基材等の非極性樹脂基材への十分な付着性を発現させるという観点から、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体が好ましい。
ここで、「ポリプロピレン」とは、基本単位がプロピレン由来の構成単位である重合体を表す。「エチレン-プロピレン共重合体」とは、基本単位がエチレン及びプロピレン由来の構成単位である共重合体を表す。「プロピレン-1-ブテン共重合体」とは、基本単位がプロピレン及びブテン由来の構成単位である共重合体を表す。「エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体」とは、基本単位がエチレン、プロピレン及びブテン由来の構成単位である共重合体を表す。樹脂本来の性能を著しく損なわない量である限り、これらの(共)重合体は、基本単位以外の他のオレフィン由来の構成単位を少量含有していてもよい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂は、構成単位100モル%中、プロピレン由来の構成単位を50モル%以上含むことが好ましい。プロピレン由来の構成単位を上記範囲で含むと、プロピレン樹脂等の非極性樹脂基材に対する付着性を保持し得る。
【0030】
エチレン-プロピレン共重合体又はプロピレン-1-ブテン共重合体がランダム共重合体である場合、好ましくは、構成単位100モル%中、エチレン由来の構成単位又はブテン由来の構成単位が5~50モル%であり、プロピレン由来の構成単位が50~95モル%である。
【0031】
ポリオレフィン樹脂の融点の下限は、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。ポリオレフィン樹脂の融点が50℃以上であると、変性ポリオレフィン樹脂をインキ、塗料等の用途に用いる際、十分な塗膜強度を発現し得る。そのため、基材との付着性が十分に発揮され得る。また、インキとして用いる際、印刷中のブロッキングを抑制し得る。また、その上限は、120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂の融点が120℃以下であると、変性ポリオレフィン樹脂をインキ、塗料等の用途に用いる際、塗膜が固くなりすぎることを抑制し得る。そのため、塗膜が適度な柔軟性を発揮し得る。
ポリオレフィン樹脂の融点の一実施形態としては、50~120℃が好ましく、60~110℃がより好ましく、60~100℃がさらに好ましい。
【0032】
(変性成分)
変性成分は、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む。環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、及び無水アコニット酸等の環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体が挙げられる。中でも、無水マレイン酸が好ましい。
【0033】
変性成分は、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体以外の成分を含んでもよい。例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アコニット酸等のα,β-不飽和カルボン酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイミド、N-フェニルマレイミドが挙げられる。
【0034】
環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分をポリオレフィン樹脂に導入する方法としては、公知の方法であってよい。このような方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を溶融又は溶媒に溶解し、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分及びラジカル発生剤を添加し、変性する方法が挙げられる。
【0035】
ラジカル発生剤としては、例えば、公知のラジカル発生剤の中から選択することができる。ラジカル発生剤としては、例えば、パーオキシド類(例、ジ-tert-ブチルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシドベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキシド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート)及びアゾニトリル類(例、アゾビスイソブチロニトリル)が挙げられる。
【0036】
反応装置としては、例えば、温水や蒸気で加温可能なジャケットを有する反応タンクや、二軸押出機を用いることができる。
【0037】
反応は、回分式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。
【0038】
ポリオレフィン樹脂に、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を導入することにより、通常、ポリオレフィンを主鎖とし、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分に由来する構成単位を含む側鎖を有するグラフト重合体が得られる。
【0039】
[製造方法]
変性ポリオレフィン樹脂の製造方法は、特に限定されるものではない。一例を以下に示す。
まず、ポリオレフィン樹脂を用意する。ポリオレフィン樹脂は、エチレンと、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等のα-オレフィンとを、チーグラー・ナッタ触媒又はメタロセン触媒等の触媒の存在下、重合することにより調製し得る。ポリオレフィン樹脂は、市販品を用いてもよい。
【0040】
つぎに、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を、ポリオレフィン樹脂に導入する。変性方法は、公知の方法、例えば、グラフト重合方法で行うことができる。グラフト重合反応の際には、ラジカル発生剤を用いてもよい。変性ポリオレフィン樹脂を得る方法としては、トルエン等の溶剤に、ポリオレフィン樹脂と環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分を加熱溶解し、ラジカル発生剤を添加する溶液法;バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等の機器に、ポリオレフィン樹脂、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分、及びラジカル発生剤を添加し混練する溶融混練法が挙げられる。ここで、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分は、一括添加してもよく、逐次添加してもよい。
【0041】
グラフト重合反応の際には、環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分は、好ましい量でグラフトする観点から、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、1.0~12.0質量部の量で用いることが好ましい。
【0042】
環状構造を有するα,β-不飽和カルボン酸誘導体を含む変性成分の合計100質量%に対する、ラジカル発生剤の添加量の好ましい範囲は次の通りである。添加量の下限は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。ラジカル発生剤の添加量が1質量%以上であると、グラフト効率を保つことができる。一方、添加量の上限は、好ましくは200質量%以下であり、より好ましくは100質量%以下である。ラジカル発生剤の添加量が200質量%以下であると経済的である。
【0043】
ポリオレフィン樹脂にグラフト重合しない未反応物は、例えば貧溶媒で抽出して除去してもよい。このようにして、グラフト重合体が得られる。
【0044】
変性ポリオレフィン樹脂は、開環度が70以上となるように得られたグラフト重合体を水分子と反応させることで製造し得る。例えば、変性ポリオレフィン樹脂を水に浸漬する、変性ポリオレフィン樹脂を加湿条件下に置く、等の開環処理を行うことで製造し得る。この際、水や加湿条件の温度、浸漬時間や加湿条件下に置く時間を変更することで、開環率(%)と開環度を調整し得る。
【0045】
変性ポリオレフィン樹脂の開環率を極力上げることにより、変性度を比較的低く抑えたままでも分散安定性を効果的に向上させることが出来る。開環率を上げる方法としては、例えば、容器の底に水を張り、変性ポリオレフィン樹脂のペレットが直接水に触れない様に上げ底をしてペレットを置き、容器を密閉して50℃の乾燥機に3日間以上保管することにより、開環率を60~70%まで上げることが出来る。さらには、密閉した空間を継続的に水蒸気で充たすことによって、50℃で湿度100%とした場所に、変性ポリオレフィン樹脂のペレットを2日間以上保管することによっても、開環率を65~80%まで上げることが可能である。いずれの方法でも、保管温度を室温よりも上げることで環状構造と水分子との反応性を上げつつ、蒸気圧を上げることにより、ペレット内部に水分子が侵入しやすくすることができる。その結果、通常の大気中で保管する場合、或いは単に室温で水中に浸漬する場合と比較して開環率を上げることができる。
【0046】
[1-2.水系分散媒]
本発明の分散樹脂組成物は、水系分散媒を含有する。水系分散媒は、水単独でもよいし、水に溶解可能な溶剤を水と併用してもよい。水に溶解可能な溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン等の低級ケトン類が挙げられる。
【0047】
水系分散媒の使用量は、特に限定されるものではなく、分散樹脂組成物の用途に応じて任意に変更し得る。一例として、変性ポリオレフィン樹脂の固形分濃度が、10~50重量%となる量が好ましく、20~40重量%となる量がさらに好ましい。
【0048】
[1-3.乳化剤]
乳化剤は、変性ポリオレフィン樹脂を、水系分散媒に分散させる際、分散体の安定化を図る目的で添加する従来公知のものを使用し得る。例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0049】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ジオクチルスルホコハク酸エステル塩、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0051】
本発明の分散樹脂組成物において、乳化剤の含有量は、10重量%未満が好ましく、5重量%未満がより好ましい。下限は特に限定されず、乳化剤を含有しなくもてよい。乳化剤の含有量が10重量%未満であると、乳化剤の添加による付着性の低下を抑制し得る。
【0052】
本発明の分散樹脂組成物は、付着性(接着性)が低く、塗料等の塗工が困難な基材のための中間媒体として有用であり、例えば、付着性(接着性)の乏しいポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系基材同士の接着剤として使用し得る。この際、基材がプラズマ、コロナ等により表面処理されているか否かを問わず用いることができる。
【0053】
また、本発明の分散樹脂組成物は、金属と樹脂との優れた接着性をも発揮し得る。金属としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスが挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂等の非極性樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂が挙げられる。従って、本発明の分散樹脂組成物は、接着剤、プライマー、及び塗料用バインダー及びインキ用バインダーとして、又はこれらの成分として、用いることができる。
【0054】
本発明の分散樹脂組成物は、変性ポリオレフィン樹脂と水系分散媒の他に、溶液、硬化剤、及び接着成分からなる群より選択される少なくとも1種の成分をさらに含んでも良い。
【0055】
(溶液)
溶液としては、有機溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶剤;メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチルシクロヘキサノン等のケトン溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノナン、デカン等の脂肪族又は脂環式炭化水素溶剤が挙げられる。環境問題の観点から、芳香族溶剤以外の有機溶剤が好ましく、脂環式炭化水素溶剤とエステル溶剤又はケトン溶剤との混合溶剤がより好ましい。
有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
【0056】
また、変性ポリオレフィン樹脂と溶液を含む樹脂組成物の溶液の保存安定性を高めるために、アルコール(例、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール)、プロピレン系グリコールエーテル(例、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル)を、1種単独で、又は2種以上混合して用いてもよい。この場合、上記有機溶剤に対して、1~20質量%添加することが好ましい。
【0057】
また、溶液としては、例えば、下記一般式(1)で表され、且つその分子量が200未満である化合物が好ましい。
【0058】
R-O-(ClH2lO)mH・・・・・・式(1)
一般式(1)中、Rは、CnH2n+1であり、nは、10以下の整数である。nは、8以下の整数であることが好ましく、7以下の整数であることがより好ましく、6以下の整数であることがさらに好ましく、5以下の整数であることがさらにより好ましく、4以下の整数であることがとりわけ好ましい。
一般式(1)中、lは、5以下の整数であり、4以下の整数であることが好ましく、3以下の整数であることがより好ましい。
一般式(1)中、mは、5以下の整数であり、4以下の整数であることが好ましく、3以下の整数であることがより好ましく、2以下の整数であることがさらに好ましく、1であることがさらにより好ましい。
【0059】
一般式(1)で表され、且つその分子量が200未満である化合物は、グリコールエーテル系の化合物であることが好ましい。グリコールエーテル系の化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール類の水素原子が、アルキル基に置換された構造である。
【0060】
一般式(1)で表される化合物は、一分子中に疎水基と親水基を有する。これにより、一般式(1)で表される化合物を添加することにより、変性ポリオレフィン樹脂を容易に水中に分散、乳化させることができる。そのため、本発明の分散樹脂組成物が良好な保存安定性を保つことができるようになる。
【0061】
一般式(1)で表される化合物として、より詳細には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノデシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましい。
【0062】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、200未満である。これにより、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(本発明の分散樹脂組成物)の沸点の上昇を抑えることができる。その結果、該水分散体組成物、又は該水分散体組成物を含むプライマー等を塗工した後、塗膜の高温又は長時間乾燥を省略することができる。
【0063】
一般式(1)で表される化合物の分子量とは、IUPAC原子量委員会で承認された(12C=12とする)相対原子質量から求める分子量である。
【0064】
一般式(1)で表され、且つその分子量が200未満である化合物は、一般式(1)で表される化合物単独であってもよいし、2種以上の一般式(1)で表される化合物の組み合わせであってもよい。後者の場合、それぞれの化合物の配合比は特に限定されない。
【0065】
(硬化剤)
硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリアミン化合物、ポリオール化合物、或いはそれらの官能基が保護基でブロックされた架橋剤が例示される。
硬化剤は1種単独であってもよく、複数種の組み合わせであってもよい。
【0066】
硬化剤の配合量は、変性ポリオレフィン樹脂中の変性度Kにより適宜選択できる。また、硬化剤を配合する場合は、目的に応じて有機スズ化合物、第三級アミン化合物等の触媒を併用することができる。
【0067】
(接着成分)
接着成分としては、所望の効果を阻害しない範囲でポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等の公知の接着成分を用いることができる。
【0068】
分散樹脂組成物は、ポリオレフィン系基材等の非極性樹脂同士や非極性樹脂と金属の接着に優れるので、接着剤、プライマー、塗料用バインダー及びインキ用バインダーとして用いることができ、例えば、アルミラミネートフィルム等のラミネートフィルムにおける接着剤として有用である。
【0069】
[プライマー、バインダー]
本発明の分散樹脂組成物は、プライマー、塗料用バインダー又はインキ用バインダーとして利用し得る。本発明の分散樹脂組成物は、溶液安定性に優れており、自動車のバンパー等ポリオレフィン基材への上塗り塗装時のプライマー、上塗り塗料やクリアーとの付着性に優れる塗料用バインダーとして好適に利用し得る。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。また、「部」とは、特に断りがない限り、質量部を示す。
【0071】
[変性度K(重量%)]:変性度Kは、JIS K-0070(1992)に準拠して次の通り算出した。まず、精秤した約0.5gの変性ポリオレフィン樹脂と約100gのトルエンを、冷却管及び温度計を取り付けた300mlセパラブルフラスコに投入し、ホットスターラー上で内温が80℃となるように加熱しながら撹拌溶解した。樹脂溶解後、15mlのメタノールを加え5分間保持した。その後、5~6滴の指示薬(1%フェノールフタレイン-メタノール溶液)を添加し、0.1mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液で滴定した。そして、中和に要した滴定量から、次式より変性ポリオレフィン樹脂の変性度Kを算出した。
K={B×f×9.806/(S×1000)}×100
Kは、変性度(重量%)を表し、Bは、水酸化カリウム-エタノール溶液の滴定量(ml)を表し、fは、0.1mol/L水酸化カリウム-エタノール溶液のファクターを表し、9.806は、無水マレイン酸の式量×1/10であり、Sは、変性ポリオレフィン樹脂の重量(g)を表す。
【0072】
[開環率R(%)]:変性ポリオレフィン樹脂を有機溶剤に溶解して溶液を得た。KBr板に溶液を塗布、乾燥して薄膜を形成し、FT-IR(「FT/IR-4100」、日本分光社製)にて、400~4000cm-1の赤外吸光スペクトルを観測した。なお、解析は、付属ソフトウェア(「Spectro Manager」、日本分光社)によって行った。
波数1700~1750cm-1に現れるピークを、開環したα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピークに帰属し、そのピーク高さをAとした。波数1750~1820cm-1に現れるピークを、開環していないα,β-不飽和カルボン酸誘導体のカルボニル基由来のピークに帰属し、そのピーク高さをBとした。そして、開環率R(%)は、(A/(A+B)×100)に各ピーク高さA及びBを代入して算出した。
【0073】
[開環度]:変性度Kの値と開環率Rの積で算出した。
【0074】
[融点(℃)]:JIS K7121(1987)に準拠して測定した。より詳細には、DSC測定装置(「DISCOVERY DSC2500」、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持した。10℃/分の速度で降温し、-50℃まで至った後、5分間安定保持した。その後、10℃/分で150℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度を融点とした。
【0075】
[重量平均分子量(Mw)]:以下の測定条件で測定した値である。
測定機器:HLC-8320GPC(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム:TSKgel(東ソー社製)
標準物質:ポリスチレン(東ソー製、GLサイエンス製)
検出器:示差屈折計(東ソー製)
温度:40℃
流速:1.0mL/分
【0076】
[平均粒子径(nm)]:製造直後の分散樹脂組成物について、動的光散乱法による粒度分布測定装置(ゼータサイザーナノ ZS(マルバーン社製))を用い、平均粒子径を測定した。なお、以下の試験は、平均粒子径が測定できた分散樹脂組成物についてのみ行った。
【0077】
[遠心分離時の安定性]:製造直後の分散樹脂組成物について、遠心分離機にて室温、4000rpmの条件で10分間処理を行い、分離や沈殿物発生の有無を目視で確認し、下記基準に従って評価した。
A:異常なし
B:少量の沈殿物が認められる
C:層分離やゲル状物、多量の沈殿物が認められる
【0078】
[濾過性の評価]:変性ポリオレフィン樹脂水性分散体(分散樹脂組成物)200mLを金属メッシュ(#400)で濾過した際の濾過速度と残渣量を、下記基準に従って評価した。
濾過速度
A:1分未満に濾過完了
B:1分以上5分未満で濾過完了
C:5分以上10分未満で濾過完了
D:10分以上15分未満で濾過完了
E:15分以上経過しても濾過が完了しない
残渣量
A:無し又はごく微量
B:少量存在
C:多量に存在
【0079】
[耐水性(通常基材使用)]
<試験片の作製>
超高剛性ポリプロピレン板の表面をイソプロピルアルコールで脱脂した後、膜厚(乾燥塗膜)が10以上15μm以下となるよう変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物をスプレー塗装し、樹脂の融点+15℃で5分間プレヒートを行った。次に、その塗膜の上に、ベースコートとしてプロタッチファインメタリック(ロックペイント製)を、所定の硬化剤を配合して専用シンナーで粘度調整を行った後に、乾燥膜厚が約20μmとなる様にスプレー塗装して、10分間室温で静置した。更にその塗膜の上に、クリアーコートとしてエコロックハイパークリヤーS(ロックペイント製)を、所定の硬化剤を配合して専用シンナーで粘度調整を行った後に、乾燥膜厚が25~30μmとなる様にスプレー塗装して、10分間室温で静置した。その後、樹脂の融点+15℃で30分間の焼付け処理を行い、試験片を作製した。
【0080】
<塗膜外観評価>
上記にて作製した試験片について、40℃の温水に10日間浸漬後、塗膜外観(ブリスター発生の有無等)を目視で観察し、下記基準に従って評価した。
塗膜外観
A:異常なし
B:2mm以下のブリスターが発生するが、実用上問題無いレベル
C:2mm超のブリスター発生
【0081】
<付着性評価>
次に、カッターナイフを用いて塗膜上に2mm間隔で素地に達する碁盤目状の切込み(11本×11本の切込みで合計100個の碁盤目を形成)を入れた。切込み上にセロハンテープ(ニチバン製)を密着させて180°の角度で剥離する操作を3回繰り返した後、碁盤目数100のうち剥離されなかった碁盤目数にて付着性を評価した。
【0082】
[耐水性(難付着性基材使用)]
基材として難付着性ポリプロピレン板(リサイクル材を7割配合)を用いたこと以外は、上記と同様に試験片を作製し、塗膜外観と付着性の評価を行った。
【0083】
(製造例1)
プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分70モル%、ブテン成分30モル%、Tm=75℃)100.0部、無水マレイン酸4.0部、ラウリルメタクリレート2.6部、及び2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン1.5部を、220℃に設定した二軸押出機を用いて混練して反応を行った。押出機出口に設けたダイスより排出された反応物のストランドを、ペレタイザーでカッティングすることにより、反応物のペレットを得た。該反応物のペレットを大過剰の酢酸エチル中に投入し、45℃で3時間攪拌することによって精製し、重量平均分子量が78,000、Tmが70℃、無水マレイン酸及びラウリルメタクリレートのグラフト重量が各々2.6重量%、1.8重量%の反応物を得た。
精製した反応物を、上げ底をした容器中に入れ、該反応物が直接水に触れない程度まで容器底面に水を張った。その後、容器を密閉して50℃の送風乾燥機に3日間保管(相対湿度100%)することにより、開環率が64%、すなわち開環度が166の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0084】
(製造例2)
攪拌機、冷却管、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中で、プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分70モル%、ブテン成分30モル%、Tm=75℃)100.0部をo-キシレン400g中に加熱溶解した。系内の温度を140℃に保持して撹拌しながら、無水マレイン酸3.2部を一括添加し、続いて、ジ-t-ブチルパーオキサイド1.2部を1時間かけて滴下した。その後、さらに3時間反応を行った。
反応終了後、40℃以下まで冷却した後、該反応物を大過剰のメチルエチルケトン中に投入することで精製し、重量平均分子量が118,000、Tmが70℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.9重量%の反応物を得た。
精製した反応物を、上げ底をした容器中に入れ、該反応物が直接水に触れない程度まで容器底面に水を張った。その後、容器を密閉して50℃の送風乾燥機に3日間保管(相対湿度100%)することにより、開環率が61%、すなわち開環度が116の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0085】
(製造例3)
プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分80モル%、ブテン成分20モル%、Tm=85℃)100.0部、無水マレイン酸2.9部、オクチルメタクリレート2.3部、及びジラウリルパーオキサイド1.2部を、190℃に設定した二軸押出機を用いて混練して反応を行ったことと、精製操作時の温度を55℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、重量平均分子量が79,000、Tmが80℃、無水マレイン酸及びオクチルメタクリレートのグラフト重量が各々1.9重量%及び1.5重量%、開環率が63%、すなわち開環度が120の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0086】
(製造例4)
プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分80モル%、ブテン成分20モル%、Tm=85℃)100.0部、及び無水マレイン酸3.8部を用いたこと以外は、製造例2と同様にして、重量平均分子量が121,000、Tmが80℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.3重量%、開環率が61%、すなわち開環度が140の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0087】
(製造例5)
二軸押出機の温度を170℃に変更したこと以外は、製造例3と同様にして、重量平均分子量が150,000、Tmが80℃、無水マレイン酸及びオクチルメタクリレートのグラフト重量が各々1.7重量%及び1.3重量%、開環率が60%、すなわち開環度が102の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0088】
(製造例6)
プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分90モル%、ブテン成分10モル%、Tm=100℃)100.0部、無水マレイン酸3.0部、及び2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン2.0部を、200℃に設定した二軸押出機を用いて混練して反応を行ったことと、精製操作時の温度を60℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、重量平均分子量が75,000、Tmが95℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.0重量%、開環率が61%、すなわち開環度が122の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0089】
(製造例7)
プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分90モル%、ブテン成分10モル%、Tm=100℃)100.0部、無水マレイン酸3.0部、及び2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン2.0部を、180℃に設定した二軸押出機を用いて混練して反応を行った。押出機出口に設けたダイスより排出された反応物のストランドを、ペレタイザーでカッティングすることにより、反応物のペレットを得た。該反応物のペレットを大過剰の酢酸エチル中に投入し、60℃で3時間攪拌することによって精製し、重量平均分子量が98,000、Tmが95℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.7重量%の反応物を得た。
60~70℃となる様に継続的に飽和蒸気(蒸気圧0.3MPa)を供給することによって相対湿度100%とした密閉空間に、精製した反応物のペレットを2日間以上保管することによって、開環率が72%、すなわち開環度が122の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0090】
(製造例8)
二軸押出機の設定温度を165℃に変更したこと以外は、製造例6と同様にして、重量平均分子量が133,000、Tmが95℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.7重量%、開環率が62%、すなわち開環度が105の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0091】
(製造例9)
プロピレン-エチレンランダム共重合体〔P-E〕(プロピレン成分89モル%、エチレン成分11モル%、Tm=65℃)100.0部、無水マレイン酸4.0部、ラウリルメタクリレート4.0部、及びジ-t-ブチルパーオキサイド2.0部を、220℃に設定した二軸押出機を用いて混練して反応を行った。押出機内にて減圧脱気を行い、残留する未反応物を除去し、重量平均分子量が54,000、Tmが64℃の反応物を得た。反応物を大過剰のアセトン中に投入することで精製して、無水マレイン酸及びラウリルメタクリレートのグラフト重量を測定したところ、各々3.2重量%、3.0重量%であった。
精製した反応物を、上げ底をした容器中に入れ、反応物が直接水に触れない程度まで容器底面に水を張った。その後、容器を密閉して50℃の送風乾燥機に3日間保管(相対湿度100%)することにより、開環率が65%、すなわち開環度が208の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0092】
(製造例10)
プロピレン-エチレンランダム共重合体〔P-E〕(プロピレン成分89モル%、エチレン成分11モル%、Tm=65℃)100.0部、及び無水マレイン酸3.8部を用いたこと以外は、製造例2と同様にして、重量平均分子量が149,000、Tmが64℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.8重量%、開環率が61%、すなわち開環度が171の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0093】
(製造例11)
プロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体〔P-E-B〕(プロピレン成分65モル%、エチレン成分24モル%、1-ブテン成分11モル%、Tm=65℃)100.0部、及び無水マレイン酸3.7部を用いたこと以外は、製造例2と同様にして、重量平均分子量が125,000、Tmが60℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.6重量%、開環率が63%、すなわち開環度が164の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0094】
(製造例12)
製造例9と同様にして得た反応物のペレット(開環処理は未実施)を、大過剰のメチルエチルケトン中に投入し、45℃で3時間攪拌することによって精製した。精製した反応物を、大気中(約25℃、約50RH%)に1日静置することにより、重量平均分子量が54,000、Tmが64℃、無水マレイン酸及びラウリルメタクリレートのグラフト重量が各々3.2重量%及び3.0重量%、開環率が24%、すなわち開環度が77の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0095】
(製造例13)
製造例11と同様にして反応物(精製済み、開環処理は未実施)を得た。精製した反応物を、大気中(約25℃、約50RH%)に1日静置することにより、重量平均分子量が125,000、Tmが60℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.6重量%、開環率が28%、すなわち開環度が73の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0096】
(製造例14)
製造例7と同様にして得た反応物のペレット(精製済み、開環処理は未実施)を、水を張った容器中に入れ、該反応物を水に浸漬させた状態で、容器を密閉して室温(約25℃)で3日間保管することにより、重量平均分子量が98,000、Tmが95℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.7重量%、開環率が48%、すなわち開環度が82の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0097】
(製造例15)
製造例1と同様にして得た反応物を精製した。精製した反応物の開環を促進する処置を特段施すことなく速やかに測定を実施したところ、重量平均分子量が78,000、Tmが70℃、無水マレイン酸及びラウリルメタクリレートのグラフト重量が各々2.6重量%、1.8重量%、開環率が17%、すなわち開環度が44の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0098】
(製造例16)
製造例2と同様にして得た反応物を精製した。精製した反応物を、上げ底をした容器中に入れ、反応物が直接水に触れない程度まで容器底面に水を張った。その後、容器を密閉して50℃の送風乾燥機に8時間保管(相対湿度100%)することにより、重量平均分子量が118,000、Tmが70℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.9重量%、開環率が32%、すなわち開環度が61の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0099】
(製造例17)
製造例4と同様にして得た反応物を精製した。精製した反応物を、大気中(約25℃、約50RH%)に1日静置することにより、重量平均分子量が121,000、Tmが80℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.3重量%、開環率が25%、すなわち開環度が58の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0100】
(製造例18)
製造例7と同様にして得た反応物を精製した。精製した反応物を、水を張った容器中に入れ、反応物を水に浸漬させた状態で、容器を密閉して室温(約25℃)で1日保管することにより、重量平均分子量が98,000、Tmが95℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.7重量%、開環率が38%、すなわち開環度が65の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0101】
(製造例19)
製造例10と同様にして得た反応物を精製した。精製した反応物の開環を促進する処置を特段施すことなく速やかに測定を実施したところ、重量平均分子量が149,000、Tmが64℃、無水マレイン酸のグラフト重量が2.8重量%、開環率が18%、すなわち開環度が50の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0102】
(製造例20)
二軸押出機の設定温度を170℃に変更したこと以外は製造例7と同様にして、重量平均分子量が103,000、Tmが95℃、無水マレイン酸のグラフト重量が1.6重量%、開環率が73%、すなわち開環度が117の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0103】
(製造例21)
プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分80モル%、ブテン成分20モル%、Tm=85℃)100.0部、及び無水マレイン酸7.9部を用いたこと以外は、製造例2と同様にして、重量平均分子量が112,000、Tmが80℃、無水マレイン酸のグラフト重量が4.3重量%、開環率が70%、すなわち開環度が301の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0104】
(製造例22)
プロピレン-ブテンランダム共重合体〔P-B〕(プロピレン成分80モル%、ブテン成分20モル%、Tm=85℃)100.0部、及び無水マレイン酸10.7部を用いたこと以外は、製造例2と同様にして、重量平均分子量が105,000、Tmが80℃、無水マレイン酸のグラフト重量が6.0重量%、開環率が72%、すなわち開環度が432の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0105】
(製造例23)
プロピレン-エチレンランダム共重合体〔P-E〕(プロピレン成分91モル%、エチレン成分9モル%、Tm=75℃)100.0部、無水マレイン酸5.0部、ラウリルメタクリレート5.0部、及びジ-t-ブチルパーオキサイド2.5部を用いたこと以外は、製造例9と同様にして、重量平均分子量が133,000、Tmが78℃、無水マレイン酸及びラウリルメタクリレートのグラフト重量が各々3.8重量%、3.5重量%、開環率が70%、すなわち開環度が266の変性ポリオレフィン樹脂を得た。
【0106】
(実施例1)
撹拌機、冷却管、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中に、製造例1で得た変性ポリオレフィン樹脂100g、メチルシクロヘキサン50g、及びプロピレングリコールモノプロピルエーテル50gを添加し、フラスコ内温を85℃にして30分混練した。次に、モルホリン4gを添加し、フラスコ内温を85℃にして60分混練した。その後、90℃の脱イオン水290gを60分かけて添加した。引き続き、メチルシクロヘキサン及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの一部を減圧下にて除去した。その後、室温まで撹拌しつつ冷却し、脱イオン水にて固形分を30重量%となるよう調整した変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のメチルシクロヘキサン及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.5重量%であった。
【0107】
(実施例2)
撹拌機、冷却管、温度計、及びロートを取り付けた四つ口フラスコ中に、製造例2で得た変性ポリオレフィン樹脂100g、トルエン30g、及びエチレングリコールモノブチルエーテル100gを添加し、フラスコ内温を85℃にして30分混練した。次に、N,N-ジメチルエタノールアミン5gを添加し、フラスコ内温を85℃にして60分混練した。その後、90℃の脱イオン水290gを60分かけて添加した。引き続き、トルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの一部を減圧下にて除去した。その後、室温まで撹拌しつつ冷却し、脱イオン水にて固形分を30重量%となるよう調整した変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、1.5重量%であった。
【0108】
(実施例3)
製造例3で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のメチルシクロヘキサン及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.3重量%であった。
【0109】
(実施例4)
製造例4で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.1重量%であった。
【0110】
(実施例5)
撹拌機、冷却管、温度計、及びロートを取り付けた四つ口フラスコ中に、製造例5で得た変性ポリオレフィン樹脂100g、エマルゲン420(花王製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)5g、トルエン30g、及びエチレングリコールモノブチルエーテル100gを添加し、フラスコ内温を85℃にして30分混練した。次に、N,N-ジメチルエタノールアミン5gを添加し、フラスコ内温を85℃にして60分混練した。その後、90℃の脱イオン水290gを60分かけて添加した。引き続き、トルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの一部を減圧下にて除去した。その後、室温まで撹拌しつつ冷却し、脱イオン水にて固形分を30重量%となるよう調整した変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率をガスクロマトグラフィーにより確認した結果、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、1.5重量%であった。
【0111】
(実施例6)
製造例6で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のメチルシクロヘキサン及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.0重量%であった。
【0112】
(実施例7)
製造例7で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.01重量%、1.3重量%であった。
【0113】
(実施例8)
製造例8で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例5と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.5重量%であった。
【0114】
(実施例9)
製造例9で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のメチルシクロヘキサン及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.0重量%であった。
【0115】
(実施例10)
製造例10で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、1.9重量%であった。
【0116】
(実施例11)
製造例11で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のメチルシクロヘキサン及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.6重量%であった。
【0117】
(実施例12)
製造例12で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例5と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.1重量%であった。
【0118】
(実施例13)
製造例13で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.8重量%であった。
【0119】
(実施例14)
製造例14で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.5重量%であった。
【0120】
(実施例15)
製造例20で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.01重量%、1.4重量%であった。
【0121】
(実施例16)
製造例21で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.4重量%であった。
【0122】
(実施例17)
製造例22で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.7重量%であった。
【0123】
(実施例18)
製造例23で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のトルエン及びエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.01重量%、1.8重量%であった。
【0124】
(比較例1)
製造例15で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様に行い、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物(分散樹脂組成物)を得た。変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物中のメチルシクロヘキサン及びプロピレングリコールモノプロピルエーテルの含有率は、変性ポリオレフィン樹脂水分散体組成物に対して、各々0.02重量%、2.4重量%であった。
【0125】
(比較例2)
製造例16で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行った。しかしながら、水分散体調製中に変性ポリオレフィン樹脂の凝集物が発生し、変性ポリオレフィン樹脂水分散体を得ることは出来なかった。
【0126】
(比較例3)
製造例17で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。しかしながら、水分散体調製中に変性ポリオレフィン樹脂の凝集物が発生し、変性ポリオレフィン樹脂水分散体を得ることは出来なかった。
【0127】
(比較例4)
製造例18で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例2と同様に行った。しかしながら、水分散体調製中に変性ポリオレフィン樹脂の凝集物が発生し、変性ポリオレフィン樹脂水分散体を得ることは出来なかった。
【0128】
(比較例5)
製造例19で得た変性ポリオレフィン樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。しかしながら、水分散体調製中に変性ポリオレフィン樹脂の凝集物が発生し、変性ポリオレフィン樹脂水分散体を得ることは出来なかった。
【0129】
上記実施例1~18及び比較例1~5で得られた分散樹脂組成物について、ベース樹脂の種類、変性ポリオレフィン樹脂の融点、重量平均分子量、変性度K(重量%)、開環率R(%)、開環度、平均粒子径、乳化剤の使用量、濾過性(濾過速度、残渣量)の評価の一覧を表1に示す。
【0130】
【0131】
比較例1~5の結果からわかるように、変性ポリオレフィン樹脂の開環度が70未満であると、平均粒子径が250nm超であるか、乳化不良である。そのため、当該変性ポリオレフィン樹脂から分散樹脂組成物を製造すると、分散性に劣ることがわかる。一方、実施例1~18の結果からわかるように、変性ポリオレフィン樹脂の開環度が70以上であると、平均粒子径が250nm以下である。そのため、変性ポリオレフィン樹脂から分散樹脂組成物を製造すると、ベース樹脂の種類によらず、また乳化剤の配合量が10重量%未満であっても、分散性に優れる。従って、本発明の分散樹脂組成物は、乳化剤の添加量を低減しても、分散安定性を保持し得るといえる。
さらに、実施例7と実施例14の結果を比較するとわかるように、開環率を60%以上とした分散樹脂組成物は、開環率が60%未満の分散樹脂組成物と比較して、平均粒子径が小さく、濾過性が良い傾向が認められる。そのため、より良好な分散樹脂組成物を得ることが出来る。
【0132】
【0133】
表2からわかるように、本発明の分散樹脂組成物は、遠心分離時の安定性の評価が、「A」又は「B」であり、分散安定性を保持していた。通常基材を使用した耐水性の評価は、外観評価に異常がなく、付着性も優れている。また、難付着性基材を使用した耐水性の評価は、外観評価に異常がないか、ブリスターが発生しても2mm以下であり、実用可能なレベルの付着性も確保できている。
一方、比較例1では遠心分離時の安定性の評価が、「C」であり、分散安定性が劣っていた。通常基材を使用した耐水性の評価は、外観評価に2mm以下のブリスターが発生しており、本発明の分散樹脂組成物に比較して付着性が劣っていた。また、難付着性基材を使用した耐水性の評価は、2mm超のブリスターが発生し、付着性も発現しなかった。