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7530362共通の軽鎖を有するFIXa×FX二重特異性抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】共通の軽鎖を有するFIXa×FX二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240731BHJP
   C07K 16/36 20060101ALI20240731BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240731BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240731BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240731BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240731BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240731BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240731BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240731BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240731BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240731BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240731BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240731BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240731BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240731BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240731BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/36
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13
C12P21/08
A61P7/04
A61K39/395 Y
A61K39/395 N
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/34
A61K38/02
A61K48/00
A61K31/7088
【請求項の数】 44
(21)【出願番号】P 2021535950
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2019086808
(87)【国際公開番号】W WO2020128049
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】1820977.5
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1906816.2
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1908190.0
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512006066
【氏名又は名称】カイマブ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,イーチャン
(72)【発明者】
【氏名】ブラックウッド,ジョン,ケニス
(72)【発明者】
【氏名】マグリオッツィ,ロベルト
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/098363(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/067176(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021450(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
A61P 7/04
A61K 39/395
A61K 9/08
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/34
A61K 38/02
A61K 48/00
A61K 31/7088
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FIXa及びFXに結合し、FXのFIXa媒介活性化を触媒する二重特異性抗体であって、前記抗体は2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対は、第1のVLドメインと対合した第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、
第2の重鎖-軽鎖対は、第2のVLドメインと対合した第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、
前記第1のVHドメインは、HCDR1が配列番号441であり、HCDR2が配列番号436であり、HCDR3が配列番号433であると定義されたアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含むHCDRセットを含み、アミノ酸配列レベルで配列番号443のN1280H VHドメインと少なくとも95%同一であり、
前記第2のVHドメインは、HCDR1が配列番号598であり、HCDR2が配列番号467であり、HCDR3が配列番号565であると定義されたアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2及びHCDR3を含むHCDRセットを含み、アミノ酸配列レベルで配列番号632のT0999H VHドメインと少なくとも95%同一であり、
前記第1のVLドメイン及び前記第2のVLドメインは、各々、LCDR1が配列番号6であり、LCDR2が配列番号7であり、LCDR3が配列番号8であると定義されたアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2及びLCDR3を含むLCDRセットを含み、アミノ酸配列レベルで配列番号10の0128L VLドメインと少なくとも95%同一である、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記第1のVHドメインが、配列番号443のN1280H VHドメインと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1のVHドメインが配列番号443のN1280H VHドメインである、請求項1又は2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記第1のVHドメインが配列番号456のN1441H VHドメインである、請求項1又は2に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記第2のVHドメインが配列番号632を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記第1のVLドメイン及び前記第2のVLドメインが、各々、配列番号10の0128Lと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記第1のVLドメイン及び前記第2のVLドメインがアミノ酸配列において同一である、請求項1~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記第1のVLドメイン及び前記第2のVLドメインが配列番号416の0325Lアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
各重鎖-軽鎖対が、CH1ドメインと対合したCL定常ドメインを更に含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記重鎖-軽鎖対が共通の軽鎖を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
前記共通の軽鎖が0128L軽鎖の配列番号146のCLアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記共通の軽鎖が配列番号414の0325L軽鎖である、請求項11に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
各重鎖-軽鎖の重鎖が重鎖定常領域を含み、前記第1及び第2の重鎖-軽鎖対が会合して、前記重鎖定常領域の二量体化による四量体免疫グロブリンを形成している、請求項1~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
前記第1の重鎖-軽鎖対の前記重鎖定常領域が、前記第2の重鎖-軽鎖対の前記重鎖定常領域とは異なるアミノ酸配列を含み、前記互いに異なる2つのアミノ酸配列が、前記重鎖定常領域のヘテロ二量体化を促進するように操作されている、請求項13に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
前記重鎖定常領域が、ノブ・イントゥ・ホール変異又は電荷対変異を含む、請求項14に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
方の重鎖-軽鎖対の前記重鎖定常領域が、置換K439Eを含むヒトIgG4定常領域であり、他方の重鎖-軽鎖対の前記重鎖定常領域が、置換E356Kを含むIgG4領域であり、定常領域の番号付けがEU番号付けシステムに従うものである、請求項14に記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
一方又は両方の重鎖-軽鎖対の前記重鎖定常領域が、置換S228Pを含むヒトIgG4定常領域であり、定常領域の番号付けがEU番号付けシステムに従うものである、請求項13~16のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
方の重鎖-軽鎖対の前記重鎖定常領域が配列番号409を含み、他方の重鎖-軽鎖対の前記重鎖定常領域が配列番号410を含む、請求項13~17のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項19】
配列番号443又は配列番号456の第1のVHドメインアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、
配列番号632の第2のVHドメインアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号416のVLドメインアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と
を含む請求項13~18のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項20】
配列番号419のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と
を含む請求項13~19のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項21】
配列番号426のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と
を含む請求項13~19のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項22】
ヒトIgGである請求項1~21のいずれか1項に記載の二重特異性抗体。
【請求項23】
ヒトIgG4である請求項22に記載の二重特異性抗体。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか1項に記載の抗体をコードする単離された核酸。
【請求項25】
請求項1~23のいずれか1項に規定される第1のVHドメインを含む抗体重鎖と、
請求項1~23のいずれか1項に規定される第2のVHドメインを含む抗体重鎖と、
請求項1~23のいずれか1項に規定される第1若しくは第2のVLドメインを含む抗体軽鎖と
をコードする組換えDNAを含むインビトロの宿主細胞。
【請求項26】
配列番号419又は配列番号426のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と
をコードする組換えDNAを含む、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を製造するキットであって、
請求項1~23のいずれか1項に規定される第1のVHドメインを含む抗体重鎖又は該重鎖をコードする核酸と、
請求項1~23のいずれか1項に規定される第2のVHドメインを含む抗体重鎖又は該重鎖をコードする核酸と、
請求項1~23のいずれか1項に規定される第1のVLドメインを含む抗体軽鎖又は該軽鎖をコードする核酸と、
請求項1~23のいずれか1項に規定される第2のVLドメインを含む抗体軽鎖又は該軽鎖をコードする核酸と
を含むキット。
【請求項28】
配列番号419若しくは配列番号426のアミノ酸配列を含む第1の重鎖又は該第1の重鎖をコードする核酸と、
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖又は該第2の重鎖をコードする核酸と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖又は該共通の軽鎖をコードする核酸と
を含む請求項27に記載のキット。
【請求項29】
請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を製造する方法であって、
請求項25又は26に記載の宿主細胞を、前記二重特異性抗体の発現のための条件下で培養すること、及び
前記宿主細胞の培養物から前記二重特異性抗体を回収すること
を含む方法。
【請求項30】
請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体又は請求項24に記載の単離された核酸を、溶液中に、薬学的に許容される賦形剤と共に含む組成物。
【請求項31】
ヒト患者の身体の治療方法における使用のための請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
血友病A患者の出血を制御する治療方法における使用のための請求項30に記載の組成物。
【請求項33】
血友病A患者の出血を制御する治療用の薬剤の製造のための請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項34】
前記患者が、血流中の阻害性抗体の存在に起因して、FVIIIを用いる治療に耐性である、請求項31または32に記載の組成物。
【請求項35】
前記患者が、血流中の阻害性抗体の存在に起因して、FVIIIを用いる治療に耐性である、請求項33に記載の使用。
【請求項36】
前記患者が、血流中の阻害性抗体の存在に起因して、FIXa及びFXに対する別の二重特異性抗体を用いる治療に耐性である、請求項31、32、34のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項37】
前記患者が、血流中の阻害性抗体の存在に起因して、FIXa及びFXに対する別の二重特異性抗体を用いる治療に耐性である、請求項33または35に記載の使用。
【請求項38】
前記患者がエミシズマブを用いる治療に耐性である、請求項36に記載の組成物。
【請求項39】
前記患者がエミシズマブを用いる治療に耐性である、請求項37に記載の使用。
【請求項40】
阻害性抗薬物抗体の発生を低減させつつ血友病A患者を治療する方法で使用するための、FVIIIa活性を補充するポリペプチド薬物若しくはそのコード核酸を含む組成物、該組成物は、第1のFVIIIa活性を補充するポリペプチド薬剤および第2のFVIIIa活性を補充するポリペプチド薬剤、または、第1のFVIIIa活性を補充するポリペプチド薬剤、第2のFVIIIa活性を補充するポリペプチド薬剤、第3のFVIIIa活性を補充するポリペプチド薬剤のいずれかを含む、であって、
前記血友病A患者を治療する方法が、
FVIIIa活性を補充する第1のポリペプチド薬物を、1~12か月の期間にわたって前記患者に投与することと、
FVIIIa活性を補充する第2の異なるポリペプチド薬物に切り替えて、1~12か月の期間にわたって前記患者に投与することと、
前記第1のポリペプチド薬物又はFVIIIa活性を補充する第3の異なるポリペプチド薬物のいずれかに切り替えて、1~12か月の期間にわたって前記患者に投与することと
を含み、
前記FVIIIa活性を補充する第1、第2又は第3のポリペプチド薬物は請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であり、
各場合において、前記FVIIIa活性を補充するポリペプチド薬物又はそのコード核酸は、前記患者においてFVIIIaを機能的に補充する治療有効量で投与され、前記患者が、前記FVIIIa活性を補充するポリペプチド薬物のいずれかに対する阻害性抗薬物抗体を発生させるリスクが、該FVIIIa活性を補充するポリペプチド薬物による治療を受け続ける患者と比較して低減される、組成物。
【請求項41】
前記FVIIIa活性を補充する第1、第2及び第3のポリペプチド薬物が、任意の順序で、組換えの又は血漿由来のFVIII、エミシズマブ及び請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体である、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
前記治療が、前記患者への前記組成物の皮下投与を含む、請求項31、32、34、36、38および40のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項43】
前記治療が、皮下投与を含む、請求項33、35、37、39のいずれか1項に記載の使用。
【請求項44】
血友病A患者を治療するための組合せ医薬又はキットであって、少なくとも
請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体(第1の二重特異性抗体)と
組換えの若しくは血漿由来のFVIII、エミシズマブ又は請求項1~23のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、第1の二重特異性抗体とは異なる二重特異性抗体(第2の二重特異性抗体)とを含む組合せ医薬又はキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固カスケード中の第IXa因子および第X因子凝固因子に結合する二重特異性抗原結合分子(例えば、抗体)に関する。そのような二重特異性抗体は、第X因子を活性化することによって第VIII因子を機能的に置換し、FVIIIが欠乏している患者、すなわちA型血友病患者に血液凝固能力を回復させる。
【背景技術】
【0002】
血友病は、多くの凝固因子のうちの1つの機能(部分的または全体)の損失により、血液の凝固能力が低下する遺伝性疾患である。血友病Aは、血液凝固第VIII因子(FVIII)の欠乏である。この疾患は、患者が残存FVIII機能を保持する程度、および血液凝固カスケード中の他の構成成分のバランスに応じて、軽度、中程度、および重度の形態を有する。治療しない場合、血友病Aは、制御不能な出血を引き起こし、これは、特に関節血症からの関節の損傷により、重度の障害を引き起こす可能性がある。この疾患はしばしば致死的であり、生命を脅かす可能性がある。血友病Aの世界的な発生率は、約1:10,000と考えられている。血友病B(異なる血液凝固因子、第IX因子の欠乏)は、あまり一般的ではなく、発生率は、約1:50,000である。両方の疾患は、X連鎖であるため、通常男性に見られ、男性出生における血友病Aの発生率は、約5,000人に1人である。
【0003】
出血エピソードの予防は、患者の生活の質を改善し、致命的な失血のリスクを減らすために不可欠である。血友病Aの場合、失われた補因子は、FVIIIの投与によって置き換えられ得る。患者への投与のためのFVIIIは、組換え発現されてもよいか、または血漿から精製されてもよい。典型的には、この治療を受けている患者は、48時間毎または1週間当たり3回、FVIIIを自己注射する。
【0004】
FVIIIによる治療は、完璧な解決策ではない。重大な欠点は、体内で同種抗体の産生を誘発する可能性があることである。これは、同種抗体がFVIIIに結合し、その活性を妨げ、出血が発生すると患者を危険な状況に置くため、FVIIIによる治療を効果のない状態にする。そのような阻害抗体は、重度の血友病のためにFVIIIで治療された患者の約30%において発生する。
【0005】
組換え型ではなく、血漿由来のFVIIIによる治療は、患者において阻害抗体を誘発するリスクがより低いことが報告されている。これは、FVIIIに関連して自然に見られ、免疫原性エピトープをマスクし得るヴォン・ヴィレブランド因子(VWF)を保持している血漿由来の形態による可能性がある。しかしながら、阻害抗体のリスクを完全に回避するFVIIIの形態はまだ産生されていない。
【0006】
免疫原性がより高い可能性があるにもかかわらず、組換えFVIIIは、安定性がより高く、貯蔵および輸送がより簡単かつ安価であるため、血漿由来の形態に比べていくつかの利点を提供する。寄付された血漿からの製品を介して感染を伝播するリスクは、C型肝炎およびHIVなどのウイルスが感染した血液製剤がレシピエントに不注意に広がっていた1980年代と比較して現在大幅に減少したが、当然のことながら、厳しい安全管理の必要性が残っている。
【0007】
Bドメイン切断ポリペプチドであるツロクトコグアルファ(NovoEight(登録商標))などのFVIIIの新しい組換え型が開発されている。しかしながら、そのような製品は、FVIIIに対する中和抗体を発生させる患者には効果がない。一部の患者は、抗FVIII抗体の発生を防ぐために免疫寛容導入法をうまく受けている。しかしながら、阻害抗体を有するか、または阻害抗体を発生させるリスクがある患者に使用するためのFVIIIの代替手段に対するかなりの需要が残っている。
【0008】
1つのそのような代替手段は、活性化されたエプタコグアルファ(NovoSeven(登録商標))として既知の組換え第VIIa因子である。しかしながら、それは半減期が短く、数時間毎に注射されなければならない。その使用は、長期的な保護治療の実行可能な選択肢ではなく、救援療法または阻害抗体を有する血友病患者における手術中の止血カバーの提供に主として制限されている。
【0009】
別の利用可能な製品は、活性化プロトロンビン複合体濃縮物(aPCC)であるFEIBA(第VIII因子阻害剤迂回活性)であり、これは同様に、出血エピソードを制御し、第VIII因子に対する阻害剤を有する血友病患者における外科的介入中の出血を防ぐために使用され得る。
【0010】
現在、遺伝子療法、siRNAを使用した抗トロンビンの抑制、TFPI(組織因子経路阻害剤)、コンシズマブに対する抗体など、様々な他の代替療法が追求されている。
【0011】
1つの新しいアプローチは、第IXa因子(FIXa)および第X因子(FX)の両方を標的とするヒト化二重特異性IgG抗体である。二重特異性抗体は、一方のアームでFIXaに、他方のアームでFXに結合し、これら2つの補因子を一緒にし、それによりFVIIIと同じ方法でFXのFIXa触媒活性化を促進する。したがって、抗体は、血液凝固カスケード中のFVIIIを機能的に置き換える(図1)。その構造がFVIIIとは完全に異なるため、抗体は、抗FVIII抗体によって中和できず、したがって投与されたFVIIIに対する同種抗体が発生したか、または発生させるリスクがある患者に適している。
【0012】
2012年、Kitazawaらは、92匹の実験動物をヒトFIXaまたはFXで免疫化し、抗FIXaおよび抗FX抗体遺伝子を発現のための宿主細胞に共トランスフェクトすることによって産生された、約40,000の抗FIXa/X二重特異性抗体のスクリーンからの、FXを活性化することが可能であったFIXa/X二重特異性抗体の単離を報告した[1]。選択した抗体を精製して、hBS23に指定されたヒト化抗体を生成し、これは、FVIII欠失血漿中の凝固活性および霊長類におけるインビボ止血活性を示した[1]。hBS910[2]に指定されたこの抗体のより強力な型は、治験薬名ACE910、INNエミシズマブで臨床試験に参加した[3]。ACE910の開発は、世界の主要な抗体グループのうちの1つで行われた。それにもかかわらず、適切なインビボ有効性、ならびに臨床規模の製造に適した生化学的および生物物理学的特性を有する分子を操作するのに7年以上かかった。
【0013】
最大1mg/kgの用量でACE910を皮下投与された48名の健康な男性対象の第I相研究において、2名の対象が、抗ACE910抗体の検査で陽性と出た[4]。抗体は、線形の薬物動態プロファイルおよび約4~5週間の半減期を有することが報告された[4]。その後、エミシズマブを最大3mg/kgの毎週の皮下用量で、18名の日本人の重度の血友病A患者に投与し、これらの患者における出血を制御するために、凝固因子のエピソード使用を低減することが報告された[5]。2016年12月、エミシズマブは、血友病A患者における出血を低減するための第III相臨床試験で、その一次エンドポイントを満たしたことが報告された(「HAVEN 1」研究)。予防的治療を受けていない患者と比較して、エミシズマブ予防法で治療された患者に関して、出血数の統計的に有意な低減が報告された。この試験は、以前にバイパス剤予防治療を受けた人々における患者内比較において、エミシズマブ予防治療による経時的な出血数の統計的に有意な低減を含む、すべての二次エンドポイントを満たしていることも報告された。したがって、エミシズマブの有効性データは有望であるが、HAVEN 1研究での患者の死亡によって安全性への懸念が高まった。承認された薬物は、エミシズマブと組み合わせてaPCCを投与された患者における血栓性微小血管障害症および血栓塞栓症のリスクに関する枠組み警告文を伴う。上記のように、aPCCは、二重特異性抗体による治療の主要な患者群である、FVIIIに対する阻害抗体を有する患者において、出血を制御するために使用される。
【0014】
血友病の管理は、通常は乳児期にある診断の時点から始まり、患者の生涯にわたって継続的な治療が必要であり、副作用なしで許容され、かつ数十年またはさらには100年にもわたって有効なままである療法を必要とすることに留意することが重要である。したがって、低免疫原性を含む長期の安全性は、数週間、数か月、またはさらには数年などのより短い継続期間にわたって投与されることを目的とする抗体と比較して、抗血友病抗体にとってより重要である。
【0015】
WO2018/098363は、ヒト抗体酵母ライブラリ(Adimab)から単離されたFIXおよびFXに結合する二重特異性抗体を記載した。WO2018/098363は、二重特異性抗体の抗FIXaアームの親和性の増加が、FVIIIa活性の増加をもたらすことを開示した(アッセイにおける血液凝固時間の減少によって表される)。二重特異性抗体「BS-027125」を、最初に選択された「親」抗体の親和性成熟によって生成し、これは、FIXa結合アームの親和性を増加させた。BS-027125は、一段階凝固アッセイにおいて約90%のFVIIIa様活性を達成することが報告された。エミシズマブと比較した場合、BS-027125は、FIXチモーゲン、FIXaおよびFXチモーゲンに対するはるかに高い親和性結合、ならびにFXaへのはるかに低い結合(結合は検出されず)を呈することが報告された。FIX結合アーム「BIIB-9-1336」は報告によると、FIXチモーゲン(タンパク質分解活性化の前の成熟FIX)よりもFIXa(活性化FIX)に対する選択的結合を示し、FVIIIaによって結合したFIXaエピトープと重複するエピトープに結合することがわかった。FX結合アーム「BIIB-12-917」は報告によると、FXチモーゲンに選択的に結合し、(活性化)FXaへの検出可能な結合を欠き、(FXaではなくFXチモーゲン中に存在する)活性化ペプチド内にあるFXのエピトープに結合したことを示した。次いで、BIIB-9-1336を含む選択されたFIX結合抗体にさらなる変異を導入し、FIXaに対する特異性および/または親和性がさらに増加した抗体を選択するためのライブラリを生成した。
【0016】
WO2018/141863およびWO2018/145125はまた、抗FIXaxFX二重特異性抗体、および出血を治療または低減するための凝固促進剤としてのそれらの使用について記載した。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、血液凝固第FIXa因子および第FX因子に結合する改善された二重特異性抗原結合分子に関する。本発明の二重特異性抗原結合分子は、FXのFXaへのFIXa触媒活性化を増強し、血友病A患者において欠けている天然の第FVIIIa補因子に効果的に取って代わって、患者の血液の凝固能力を回復させることができる。図2を参照されたい。
【0018】
本明細書で報告されるように、本発明者らは、FX活性化の増強における非常に高い効力を含む、治療製品としての開発に適した品質を有する多くの二重特異性抗原結合分子を生成することに成功した。抗FIXaおよび抗FXに対する新規結合部位を有する二重特異性抗原結合分子について記載され、これは、血液凝固カスケード中でFVIIIaに効果的に取って代わるために使用され得る。具体的には、異なる抗FX結合部位の配列と組み合わせて非常に活性であり、したがって様々な異なるFIXa-FX二重特異性抗体に組み込まれ得、製造の容易さなどのさらなる所望の特性を有する二重特異性抗体の選択に柔軟性を提供する、抗FIXa結合部位が記載される。
【0019】
本発明者らは、強力な(potent)FVIII模倣活性(インビトロアッセイでの高性能によって示されるような)と、臨床規模の製造に適した強力な(robust)生化学的および生物物理学的特性(発現、二重特異性分子アセンブリ、精製および製剤を含む)を組み合わせた二重特異性抗体を設計した。この二重特異性抗体は、完全にヒト由来であるため、ヒトのインビボ療法における免疫原性のリスクを最小限に抑える。
【0020】
本発明の態様は、添付の特許請求の範囲に記載されており、本発明のさらなる実施形態および好ましい特徴は、以下に記載されている。
【0021】
第1の態様では、本発明は、(i)FIXa結合部位を含むFIXa結合ポリペプチドアームと、(ii)FX結合部位を含むFX結合ポリペプチドアームとを含む、二重特異性抗原結合分子に関する。FIXaおよび/またはFX結合ポリペプチドアームは、それぞれFIXaまたはFX結合部位を含む抗体Fv領域を含んでもよい。抗体Fv領域は、抗体VH-VLドメイン対である。VHドメインは、VHドメインフレームワーク内にHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含み、VLドメインは、VLドメインフレームワーク内にLCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む。ポリペプチドアームは、抗体重鎖(任意選択でIgG定常領域を含むもの)および/または抗体軽鎖を含んでもよい。
【0022】
したがって、本発明の抗原結合分子は、
第1および第2の抗体Fv領域であって、第1および第2の抗体Fv領域は、それぞれFIXaおよびFXについての結合部位を含む、第1および第2の抗体Fv領域と、
インビボで分子の半減期を延長するための半減期延長領域と、を含み得る。
【0023】
半減期延長領域は、第1の抗体Fv領域に共有結合した(例えば、融合タンパク質として)第1のポリペプチドと、第2の抗体Fv領域に共有結合した(例えば、融合タンパク質として)第2のポリペプチドとを含む、ヘテロ二量体化領域であってもよく、2つのポリペプチドは、互いと共有結合的および/または非共有結合的に対になる。ヘテロ二量体化領域の第1および第2のポリペプチドは、同一または異なるアミノ酸配列を有してもよい。ヘテロ二量体化領域は、1つ以上の抗体定常ドメインを含んでもよく、例えば、それは、抗体Fc領域であってもよい。
【0024】
本発明の二重特異性抗原結合分子は、FIXa結合ポリペプチドアームのFIXa結合部位を通してFIXaに結合し、FX結合ポリペプチドアームのFX結合部位を通してFXに結合し、それによりFXのFXaへのFIXa触媒活性化を増強することが可能である。これは、本明細書に記載のインビトロFX活性化アッセイで決定され得る。
【0025】
FIXa結合部位は、FIXa結合ポリペプチドアームの相補性決定領域(CDR)のセットによって提供されてもよく、CDRのセットは、HCDR1、HCDR2、HCDR3、ならびにLCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、任意選択で、HCDR1は配列番号406であり、HCDR2は配列番号407であり、HCDR3は配列番号408である。任意選択で、LCDR1は配列番号6であり、LCDR2は配列番号7であり、LCDR3は配列番号8である。
【0026】
FIXa結合ポリペプチドアームにおけるHCDRのセットは、本明細書に示される任意の抗FIX VHドメインのHCDRのセットであってもよく、例えば、表S-9Aに示される任意のもの、表Nで同定される任意のもの、または図20で示されるVHドメイン、N0128H、N0436H、N0511H、N1091H、N1172H、N1280H、N1314H、N1327H、またはN1333Hの任意のものであり得る。HCDR1は、配列番号441であり得る。HCDR2は、配列番号634または配列番号436であり得る。HCDR3は、配列番号635または配列番号433であり得る。CDRはN1280 CDRであり得、HCDR1は配列番号441であり、HCDR2は配列番号436であり、HCDR3は配列番号433である。あるいは、CDRはN1333H CDRであり得る。
【0027】
FIXa結合ポリペプチドアームにおけるLCDRのセットは、本明細書に示される任意の抗FIX VLドメインのLCDRのセットであり得る。LCDRは、表S-50に示されるような0128LのLCDRであり得る。LCDR1は配列番号6であり得、LCDR2は配列番号7であり得、及び/またはLCDR3は配列番号8であり得る。
【0028】
任意選択で、CDRのセットの1つ以上のアミノ酸は、これらの配列とは異なるように変異されてもよい。例えば、CDRのセットは、1、2、3、4、または5個のアミノ酸改変を含んでもよく、改変した残基(複数可)は、重鎖または軽鎖CDRのいずれか1つ以上にある。例えば、CDRのセットは、1つまたは2つの保存的置換を含んでもよい。変異、例えば、置換の選択は、本明細書の実施例に提供される情報および分析によって情報を得ることができる。
【0029】
FIXa結合ポリペプチドアームは、HCDRのセット、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む抗体VHドメインを含んでもよい。HCDR1の配列は、任意選択で1つまたは2つのアミノ酸改変(例えば、置換)を伴う配列番号406であってもよい。HCDR2の配列は、任意選択で1つまたは2つのアミノ酸改変(例えば、置換)を伴う配列番号407であってもよい。HCDR3の配列は、任意選択で1つまたは2つのアミノ酸改変(例えば、置換)を伴う配列番号408であってもよい。
【0030】
FIXa結合ポリペプチドアームは、LCDRのセット、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含む抗体VLドメインを含んでもよい。LCDR1の配列は、任意選択で1つまたは2つのアミノ酸改変(例えば、置換)を伴う配列番号6であってもよい。LCDR2の配列は、任意選択で1つまたは2つのアミノ酸改変(例えば、置換)を伴う配列番号7であってもよい。LCDR3の配列は、任意選択で1つまたは2つのアミノ酸改変(例えば、置換)を伴う配列番号8であってもよい。
【0031】
FIXa結合ポリペプチドアームの抗体Fv領域は、免疫グロブリン重鎖v、dおよびj遺伝子セグメントの組換えを通して生成されたVHドメインであって、v遺伝子セグメントが、VH3-7(例えば、VH3-7*01)であり、j遺伝子セグメントが、JH6(例えば、JH6*02)であり、任意選択で、d遺伝子セグメントが、DH1-26(例えば、DH1-26*01)である、VHドメインを含んでもよく、および/またはそれは、免疫グロブリン軽鎖vおよびj遺伝子セグメントの組換えを通して生成されたVLドメインであって、v遺伝子セグメントが、VL3-21(例えば、VL3-21*d01)であり、j遺伝子セグメントが、JL2(例えば、JL2*01)である、VLドメインを含んでもよい。別の実施形態では、VLドメインは、免疫グロブリン軽鎖vおよびj遺伝子セグメントの組換えを通して生成されたVLドメインであって、v遺伝子セグメントが、VL3-21(例えば、VL3-21*d01)であり、j遺伝子セグメントが、JL3(例えば、JL3*02)である、VLドメインであり得る。
【0032】
FIXaポリペプチド結合アームのVHドメインのアミノ酸配列は、表20に示されるVHドメイン、例えば、N1280H VHドメインと少なくとも90%の配列同一性を共有してもよい。配列同一性は、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であってもよい。任意選択で、VHドメインは、本明細書に示される抗FIX VHドメインの1つであってもよく、例えば、表S-9Aに示される任意のもの、表Nで同定される任意のもの、または図20で示されるVHドメイン、N0128H、N0436H、N0511H、N1091H、N1172H、N1280H、N1314H、N1327H、またはN1333Hの任意のものであり得る。任意選択で、VHドメインは、N1280H、N1333H、N1441、N1442、またはN1454である。任意選択で、抗FIXa VHドメインは、最大5個のアミノ酸置換、すなわち、1、2、3、4または5個の置換を有する、該VHドメイン(例えば、N1280H)のいずれかのアミノ酸配列を含む。置換は、任意選択で1つ以上のフレームワーク領域中にあり得、例えば、FR3に、任意選択でIMGT位置84および/またはIMGT位置86に1つまたは2つの置換があり得る。
【0033】
VLドメインのアミノ酸配列は、配列番号10と少なくとも90%の配列同一性を共有してもよい(0128L)。配列同一性は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であってもよい。任意選択で、VLドメインのアミノ酸配列は、配列番号10である。VLドメインのアミノ酸配列は、代替的には、配列番号416であり得る。
【0034】
FX結合部位は、FX結合ポリペプチドアーム内のCDRのセットによって提供されてもよい。FX結合ポリペプチドアームは、抗体VH-VLドメイン対(すなわち、抗体Fv領域)、フレームワーク内にHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含むVHドメイン、ならびにフレームワーク内にLCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含むVLドメインを含んでもよい。
【0035】
FX結合部位は、本明細書で同定される任意の抗FX VHドメインのHCDR(例えば、表S10-Cおよび/または図11に示されるVHドメインのHCDR1、HCDR2およびHCDR3の任意のセット)および0128L LCDRによって提供され得る。
【0036】
FX結合ポリペプチドアームは、表S-10Cおよび/または図11のいずれか、例えば、T0687H、T0736HまたはT0999H VHドメインを含む、本明細書に開示されるVHドメインと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するVHドメインを含み得る。配列同一性は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であってもよい。任意選択で、VHドメインは、最大5個のアミノ酸置換、すなわち、1、2、3、4または5個の置換を有する、該VHドメインのアミノ酸配列を含む。置換は、任意選択で1つ以上のフレームワーク領域中にあり得る。
【0037】
FX結合ポリペプチドアームは、T0201 VHドメインと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するVHドメインを含み得る(図11に示される)。配列同一性は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であってもよい。任意選択で、VHドメインは、最大5個のアミノ酸置換、すなわち、1、2、3、4または5個の置換を有する、該VHドメインのアミノ酸配列を含む。置換は、任意選択で1つ以上のフレームワーク領域中にあり得る。
【0038】
FX結合ポリペプチドアームは、表S-10Cに示される任意のもの、表Tで同定される任意のもの、または図11からの任意のものなど、本明細書で同定される任意のVHドメインのアミノ酸配列を含み得る。任意選択で、VHドメインは、T0201H、T0687H、T0736H、またはT0999Hである。
【0039】
FX結合ポリペプチドアームは、配列番号10の0128L VLドメインと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するVLドメインを含み得る。配列同一性は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%であってもよい。任意選択で、VLドメインは、最大5個のアミノ酸置換、すなわち、1、2、3、4または5個の置換を有する、0128L VLドメインのアミノ酸配列を含む。任意選択で、VLドメインのアミノ酸配列は、配列番号10である。代替的には、VLドメイン配列は、配列番号416である。
【0040】
FX結合ポリペプチドアームは、以下:
免疫グロブリン重鎖v、d、およびj遺伝子セグメントの組換えを通して生成されたVHドメインであって、vおよびj遺伝子セグメントが、IGHV1-46(例えば、VH1-46*03)およびIGHJ1(例えば、JH1*01)であり、任意選択で、d遺伝子セグメントが、IGHD6-6(例えば、DH6-6*01)である、VHドメインと、
免疫グロブリン軽鎖vおよびj遺伝子セグメントの組換えを通して生成されたVLドメインであって、vおよびj遺伝子セグメントが、IGLV3-21(例えば、VL3-21*d01)およびIGLJ2(例えば、JL2*01)またはIGLJ3(例えば、JL3*02)である、VLドメインと、を含む抗体Fv領域を含んでもよい。
【0041】
したがって、本発明の一態様は、FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であり、この抗体は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対は、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、
第2の重鎖-軽鎖対は、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、
第1のVHドメインは、HCDR1は配列番号406であり、HCDR2は配列番号407であり、HCDR3は配列番号408であると定義されたアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含むHCDRのセットを含み、および/または第1のVHドメインは、アミノ酸配列レベルでN1280H VHドメインと少なくとも95%同一であり、
第2のVHドメインは、アミノ酸配列レベルでT0201H VHドメインと少なくとも95%同一であり、
第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、各々、LCDR1は配列番号6であり、LCDR2は配列番号7であり、LCDR3は配列番号8であると定義されたアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含むLCDRのセットを含み、および/または第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、アミノ酸配列レベルで配列番号10の0128L VLドメインと少なくとも95%同一である。
【0042】
本発明の別の態様は、FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であり、この抗体は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対は、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、
第2の重鎖-軽鎖対は、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、
第1のVHドメインは、免疫グロブリン重鎖v、d、およびj遺伝子セグメントの組換え産物であり、v遺伝子セグメントは、IGHV3-7(例えば、VH3-7*01)であり、j遺伝子セグメントは、IGHJ6(例えば、JH6*02)であり、
第2のVHドメインは、免疫グロブリン重鎖v、d、およびj遺伝子セグメントの組換え産物であり、v遺伝子セグメントは、IGHV1-46(例えば、VH1-46*03)であり、j遺伝子セグメントは、IGHJ1(例えば、JH1*01)であり、任意選択で、d遺伝子セグメントは、IGHD6-6(例えば、DH6-6*01)であり、
第1のVLドメインおよび第2のVLドメインは、共に、ヒト免疫グロブリン軽鎖vおよびj遺伝子セグメントの組換え産物であり、v遺伝子セグメントは、IGLV3-21(例えば、VL3-21*d01)であり、j遺伝子セグメントは、IGLJ2(例えば、JL2*01)またはIGLJ3(例えば、JL3*02)である。
【0043】
本発明の別の態様は、FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であり、この抗体は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対は、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、
第2の重鎖-軽鎖対は、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、
第1のVHドメインは、N1280H VHドメインと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有し、
第2のVHドメインは、T0201H VHドメインと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有し、
第1のVLドメインおよび第2のVLドメインは各々、0128L VLドメインと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0044】
第1のVHドメインは、HCDR1は配列番号406であり、HCDR2は配列番号407であり、HCDR3は配列番号408であると定義されたアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含むHCDRのセットを含み得る。
【0045】
第1のVHドメインは、N1280Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有し得る。第1のVHドメインは、N1280H HCDR1、N1280H HCDR2、およびN1280H HCDR3を含むN1280H HCDRのセットを含み得る。例えば、それは、N1280H VHドメインであり得る。代替的には、VHドメインは、N1441H、N1442H、またはN1454H VHドメインであり得る。
【0046】
例示的なVHドメインおよびVH CDRのセットのアミノ酸配列を図20および/または表S-9Aに示す。二重特異性抗体の第1のVHドメインは、これらのVHドメインの任意のものであってもよく、またはこれらのVHドメインの任意のものと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有し得る。任意選択で、それは、最大5個のアミノ酸置換、すなわち、該VHドメインと比較して1、2、3、4または5個の置換を有するVHドメインのアミノ酸配列を含み得る。置換は、任意選択でフレームワーク領域中にある。
【0047】
第1のVHドメインに保持または導入され得る残基および置換の例には、以下のものが含まれる(N1280Hを参照して定義され、図14に示すようにIMGT番号が付けられている):
FR3のLys84での別の残基(例えば、Asp、Glu、His、Asn、Gln、Met、Thr、Gly、Ser、Ala、Ile、Leu、ValまたはTyr)の置換、例えば、Lys84AspまたはLys84Glu、および
FR3のSer86での別の残基、例えば、Glu(Ser86Glu)などの負に帯電した残基の置換。
【0048】
その他の例には以下が含まれる:
Gln3、Val5、Gly9、Gly11、Gly16、Gly17、およびLeu21 FR1のうちの1つ以上での負に帯電した残基(例えば、AspもしくはGlu)またはHisの置換、例えば、Gln3Asp、Gln3Glu、Gln3His、Val5Glu、Gly9Glu、Gly11Asp、Gly11Glu、Gly11His、Gly16Glu、Gly17Asp、Gly17Glu、またはLeu21Aspのうちのいずれか、
FR3のVal68および/またはVal71での負に帯電した残基の置換、例えば、Val68Asp、Val68Glu、またはVal71Glu、
FR3のArg75でのHis、Gln、またはLeuの置換、
FR3のArg80でのSer、Thr、Gly、Leu、またはLysの置換、ならびに
FR3のAsn82でのAspまたはHisの置換。
【0049】
上記の配列の特徴のいずれか1つまたは複数を含めることができる。
【0050】
第2のVHドメインは、T0201Hまたは図11および/もしくは表S-10Cで示される任意の他のVHドメインであってもよく、あるいはT0201Hまたは図11および/もしくは表S-10Cで示される任意の他のVHドメインと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有し得る。任意選択で、それは、最大5個のアミノ酸置換、すなわち、該VHドメインと比較して1、2、3、4または5個の置換を有するVHドメインのアミノ酸配列を含み得る。置換は、任意選択でフレームワーク領域中にある。第2のVHドメインは、T0201H HCDR1であるHCDR1、T0201H HCDR1であるHCDR2、および/またはT0201H HCDR3であるHCDR3を含み得る。これらのCDRのアミノ酸配列を、図11および12、ならびに表S-10Cに示す。さらなるCDRの例を、図12および表Tに示す。例えば、第2のVHドメインは次のものを含み得る:
T0201 HCDR1もしくはT0736 HCDR1であるHCDR1、
T0201 HCDR2であるHCDR2、および/または
T0201 HCDR3、T0687 HCDR3、もしくはT0736 HCDR3であるHCDR3。
【0051】
任意選択で、HCDR1は、配列番号636または配列番号598である。任意選択で、HCDR2は、配列番号467である。任意選択で、HCDR3は、配列番号637、配列番号638、配列番号639、または配列番号565である。
【0052】
第2のVHドメインに保持または導入され得る残基および置換の例には、以下のものが含まれる(T0201Hを参照して定義され、図13に示すようにIMGT番号が付けられている):
Cys114での別のアミノ酸残基の置換、例えば、置換された残基がIle、Gln、Arg、ValまたはTrp(好ましくはIle、ValまたはLeu)である、
FR1のGln3について別の正に帯電した残基の置換、例えば、Gln3ArgまたはGln3Lys、
フレームワーク領域の残基の生殖細胞系列、例えば、Ile5Val(FR1の残基5でのイソロイシンについてバリンの置換)、またはフレームワーク領域の非生殖細胞系列残基の、異なる非生殖細胞系列残基による置換、例えば、Ile5Arg(FR1の残基5のイソロイシンについてアルギニンの置換)、
FR1のGlu11での別のアミノ酸残基(例えば、Lys、AlaまたはGly)の置換、例えば、Glu11Lys、
FR1のGly16についての正に帯電したアミノ酸残基の置換、例えば、Gly16Arg、
FR2の39位にMetが存在するか、代替的には、この位置にLeuが存在する、
CDR2の62位および/または64位にSerが存在する、
FR3のPhe71でのTyrの置換、
FR3のThr82での正に帯電した残基の置換、例えば、Thr82ArgまたはThr82Lys、FR3の85位でのSerの存在、または代替的にはこの位置でのThrの存在、
FR3のThr86での正に帯電した残基の置換、例えば、Thr86ArgまたはThr86Lys。
【0053】
上記の配列の特徴のいずれか1つまたは複数を含めることができる。
【0054】
FIXa結合ポリペプチドアームおよびFX結合ポリペプチドアームは各々、抗体Fvを含んでもよく、各FvのVLドメインは、同一のアミノ酸配列を有し、すなわち、二重特異性抗原結合分子は、共通のVLドメインを有する。分子は、可変領域および定常領域、任意選択でヒトラムダ定常領域を含む、共通の軽鎖を有してもよい。
【0055】
二重特異性抗原結合分子は、以下
FIXa結合性Fv領域を含む抗体重鎖および軽鎖の第1の対(重鎖-軽鎖対)と、
FX結合性Fv領域を含む第2の重鎖-軽鎖対と、を含む、四量体免疫グロブリンであってもよく、
各重鎖は、VHドメインおよび定常領域を含み、各軽鎖は、VLドメインおよび定常領域を含み、第1および第2の重鎖-軽鎖対は、それらの重鎖定常領域のヘテロ二量体化を通して会合して、免疫グロブリン四量体を形成する。
【0056】
上記のように、軽鎖は、共通の軽鎖であってもよく、すなわち、第1および第2の重鎖-軽鎖対の軽鎖は、同一のアミノ酸配列を有する。各重鎖-軽鎖対は、CH1ドメインと対になった0128L CL定常ドメインを含み得る。軽鎖の配列は、配列番号405であり得る。代替的には、軽鎖の配列は、配列番号414であり得る。例示的な免疫グロブリンアイソタイプは、任意選択でIgG4 PEなどの定常ドメインが操作されたヒトIgG、例えばIgG4を含む。
【0057】
二重特異性抗体のFcドメインは、ホモ二量体化よりもヘテロ二量体化を促進するように操作することができる。例えば、第1の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域は、第2の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域とは異なるアミノ酸配列を含み得、ここで、異なるアミノ酸配列は、重鎖定常領域のヘテロ二量体化を促進するように操作される。例としては、ノブ・イントゥ・ホール変異または電荷対変異などがある。代替的には、第1の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域は、第2の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域と同一であってもよく、その場合、ホモ二量体およびヘテロ二量体の両方がアセンブルすると予想され、これらは続いて、抗体製造プロセスにおける1つ以上の精製工程を使用して分離され、1つの抗FIXaアームおよび1つの抗FXアームを含む所望のヘテロ二量体を単離する。
【0058】
本明細書で例示される二重特異性抗体の有利な特徴は、それらがKymouseプラットフォームを使用して、ヒト免疫グロブリン遺伝子セグメントから生成されていることである。マウスCDRをヒト抗体可変ドメインにグラフト化すること、およびこれらの変化に起因する機能の損失を軽減するために操作された可変ドメインを反復精製することなどの「ヒト化」ステップを必要とし得る、通常の実験動物の免疫化から生成される抗体とは異なり、本発明の抗体は、完全なヒト抗体可変ドメインを用いて最初から生成および選択された。完全なヒト抗体の使用は、上記のように、低免疫原性が最も重要である血友病治療の状況において特に適している。本発明の二重特異性抗体の免疫原性が低いため、それらは、FVIIIなどの他の治療に対する阻害抗体を伴うかまたは伴わない患者を含む、血友病A患者の治療に適したものとなる。本発明の抗原結合分子を投与されている患者は、療法に対する免疫原性応答を発生させるリスクが最小限であるべきである。
【0059】
二重特異性分子の作用機序は、深部静脈血栓症および肺塞栓症などの合併症のリスクが低い良好な安全性プロファイルとも関連している。二重特異性分子の活性は、天然のFVIIIの活性および既存の血液凝固経路に統合されている作用機構に匹敵し、天然の凝固カスケードの上流誘発の状況においてのみ活性化される。
【0060】
本発明による二重特異性抗体は、本明細書に例示されるように、第Xase因子アッセイ、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)アッセイおよびトロンビン生成アッセイ(TGA)を含む、FVIII模倣活性の多くの機能的に関連するアッセイにおいて強い活性を示した。
【0061】
他の望ましい特徴には、半減期の長さ(必要な投与頻度を低減する)、および高濃度での製剤に対する分子の適応性(家庭環境での皮下注射を促進する)が含まれる。
【0062】
患者のコンプライアンスは、特に10代および若年成人の患者の間で、長期の自己投与療法にとって重要な問題であると認識されている。治療が現場で成功するためには、その投与スケジュールは、患者が理解し、最小限の不便さで従うことができるように単純である必要がある。投与間隔を長くすることが望ましいが、治療活性を犠牲にすることなく投与頻度を低減するには、長いインビボ半減期と、投与期間の終わりに向かう「トラフ」濃度での十分な有効性の両方を備えた製品が必要である。本発明による抗原結合分子は、望ましくは、長いインビボ半減期を有する。これは、FcRnを介してインビボでリサイクルされるFc領域を含めることで容易になる。本発明による抗原結合分子はまた、好ましくは、低濃度で高い機能的活性を維持する。本発明者らは、本発明による二重特異性抗体が、エミシズマブと同様の血栓形成活性を有するが、より低い濃度で最も顕著である血栓形成活性の増加を伴うことを見出した。本明細書に開示されるデータは、本発明による二重特異性抗体が、例えば抗体およびエミシズマブが以下の濃度で試験される場合、少なくとも1~300nMの範囲の濃度でエミシズマブと同じまたはそれを超える血栓形成活性を有することを示す:
1~30nM、例えば、1nM、3nM、10nM、および/または30nM、
100~300nM、例えば、100nMおよび/または300nM。
【0063】
活性は、本明細書に記載のトロンビン生成アッセイで測定することができる。低濃度での効果的な活性は、投与期間の終わりに向かって出血に対する保護が維持されることを保証するのに役立つ可能性がある-抗体のインビボ濃度は次の投与が予定される前の最後の数日に最低となる。それはまた、血友病患者において問題を生じる出血の一般的な部位である関節を含む、血液循環によって相対的に灌流されにくい体の領域を保護する際に補助となり得る。
【0064】
本発明のさらなる態様は、添付の特許請求の範囲に記載され、かつ本開示に記載されるように、二重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物、および血友病Aの治療用を含む薬剤におけるそれらの使用に関する。
【0065】
単一特異性抗体もまた、本発明の態様として提供される。したがって、抗FIXa抗体は、本明細書で定義されるような第1の重鎖-軽鎖対の2つのコピーを含み得る。抗FX抗体は、本明細書で定義されるような第2の重鎖-軽鎖対の2つのコピーを含み得る。
【0066】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体の配列をコードする核酸分子、そのような核酸を含有する宿主細胞、および宿主細胞を培養し、抗体を発現させ、任意選択で抗体を単離または精製することによって抗体を産生する方法を含む。これにより発現された抗体が得られる。本明細書に記載される抗体のVHおよびVLドメインも、同様に産生され得、また本発明の態様である。抗体の適切な産生方法には、連続培養またはバッチ培養(例えば、流加培養)によるバイオリアクター内の宿主細胞(例えば、哺乳動物細胞)からの大規模発現が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
ここで、本発明の態様および実施形態を、図面を参照してより詳細に説明する。
【0068】
図1】血液凝固カスケードを示している[6]。
図2】(A)FIXaおよびFXと相互作用するFVIIIaの補因子作用、(B)FIXaおよびFXと相互作用する二重特異性抗体の補因子作用、(C)血小板の表面でFIXa(9a)およびFX(10)と相互作用する二重特異性抗体、を示している。この実施形態における二重特異性抗体は、各々が(NからCに)VH1-CH1-CH2-CH3ドメインを含む2つのジスルフィド結合した重鎖および(NからCに)VL-CLドメインを含む2つの同一の軽鎖(共通の軽鎖)を有する4鎖分子である。この図では、VH1-VLを含む結合部位はFXに結合し、VH2-VLを含む結合部位はFXaに結合する。
図3】成熟タンパク質の残基番号付けを伴う第IX因子のアミノ酸配列(配列番号334)を示す。シグナルペプチド(直線下線付き)は、分泌後に開裂される。プロペプチド(波下線付き)は、成熟すると開裂される。成熟第IX因子は、軽鎖(残基1~145)および重鎖(残基146~415)を含む。活性化ペプチド(枠付き)は、活性化時に開裂され、Cys132とCys289との間のジスルフィド架橋によって結合された軽鎖(残基1~145)および重鎖(残基181~415、太字)を含む、活性化第IXa因子を生成する。
図4】残基番号付けを伴う第X因子のアミノ酸配列(配列番号335)を示す。残基1~31は、シグナルペプチドである(直線下線付き)。残基32~40は、プロペプチドである(波下線付き)。Fx軽鎖は、残基41~179である。FX重鎖は、残基183~488である。FXa重鎖は、残基235~488(太字)である。
図5】本発明の一実施形態である共通の軽鎖を有する二重特異性IgGを示す。
図6】抗FIXa VHドメイン配列N0436Hおよび抗FX VHドメイン配列T0200を互いに機能的に組み合わせるため、およびN0128L共通VLドメインと対合するために最適化するプロセスを要約する。
図7】(A)二重特異性分子のFVIII模倣活性のインビトロアッセイ(FXaseまたはテナーゼアッセイ)の原理、および(B)陰性対照と比較したFIXa-FX二重特異性分子についての前向きな結果を示すアッセイからの実施例データ、を示す。
図8】FXaseアッセイ(標準反応条件)で様々な抗FXアームを有する二重特異性抗体をスクリーニングした結果を示している。二重特異性抗体パネルは、各々がN0128H抗FIX VHドメインおよび0128L共通VLドメインと組み合わされた一連の抗FX VH試験ドメインを含む。
図9】抗FXT0200Hドメインの系統について同定されたB細胞クラスターを示している。
図10】FXaseアッセイで最適化された二重特異性抗体をスクリーニングした結果を示している。(A)N0128H、N1172HまたはN1280H抗FIX VHドメインおよび0128L共通軽鎖と組み合わせた名前付き抗FX VHドメインを含むIgG4二重特異性抗体についてのFXase活性。10分(600秒)で405nmでのOD。(B)N1280H抗FIX VHドメインおよびN0128L共通軽鎖と組み合わせた名前付き抗FX VHドメインを含むIgG4二重特異性抗体についてのFXase活性。
図11】T0200H B細胞クラスターから選択した抗FX VHドメインのアミノ酸配列アライメントである。比較のために生殖細胞系列の配列(配列番号518)を示す。CDRは枠で囲まれている。
図12】CDR3の末端の4残基が個別に他のアミノ酸に変異しているT0201H VHドメインの変異体を同定する。例えば、T0590H VHドメインはT0201H VHドメインのCys114Ala変異体である。すなわち、IMGT位置114のシステインがアラニンに置き換えられている。
図13】VHドメインT0201Hのアミノ酸配列を示し、(A)はFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4、(B)はIMGT番号付けを示すために、注釈付けられている。
図14】N192HおよびN1280Hに対して整合された、VHドメインN0128Hのアミノ酸配列を示し、(A)はFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4、(B)はIMGT番号付けを示すために、注釈付けられている。
図15】FXaseアッセイにおける(A)IXAX-1280.0201.0128および(B)コンパレーター抗体AbEの活性の動態を示している。抗体はプロテインAによって精製され、ホモ二量体/ヘテロ二量体混合物で構成されている。
図16】Xaseアッセイにおける二重特異性抗体の結果を示している。「E」は、抗体E陽性対照である。FXase活性は、12.5μg/mL(10.4nM)の最終濃度に対して正規化された試料について、10分でOD405nmとしてプロットされる。二重特異性抗体は、活性の順にランク付けされている。
図17】FVIII模倣活性(FXase)に対する二重特異性抗体最適化の効果を示している。各々、抗FIXaアームに名前付きVHドメイン、および抗FXアームにT0638H VHドメインを有し、そのどちらもが0128L共通軽鎖VLドメインと対になっている、二重特異性抗体の結果が示されている。FVIII模倣活性(FXase)は、秒単位の時間(X軸)の関数として、405nm(Y軸)でインビトロ発色第X因子活性化アッセイを使用して測定した。最適化された二重特異性抗体は個別に標識されている。ヒトIgG4アイソタイプ対照は、FVIII模倣活性を示さない。キーは、最大のFXase活性の順に、対応するグラフの右側に抗体のVHドメインの名前を示す。すなわち、N1333H>N1280H>N1172H>N1091H>N0511H>N0436H>N0128H>対照である。
図18】N0128H、N1172HまたはN1280H抗FIX VHドメインおよび0128L共通軽鎖と組み合わせた名前付き抗FX VHドメインを含むIgG4二重特異性抗体についてのaPTTアッセイの結果を示す。
図19】FVIII枯渇ヒト血漿を使用した一段階活性化aPTT凝固アッセイにおけるIXAX-1280.0201.0128二重特異性抗体(プロテインAで精製)についての用量反応を示している。
図20】N0128H、N0436H、N0511H、N1091H、N1172H、N1280H、N1314H、N1327H、およびN1333HのVHドメインアミノ酸配列を示し、それらのフレームワーク領域とCDRを同定するために注釈が付けられている。
図21】抗原に結合する二重特異性抗体のSPRセンサーグラムであり、(A)アイソタイプ対照抗体または(B)単一特異性抗体のセンサーグラムと比較して、FIXおよびFXへの同時結合が示されている。
図22】T0681Hの選択されたCDR1およびCDR2配列バリアントについてのFXaseアッセイの要約結果を示している。AbE対照で示されている場合を除き、試料はプロテインAクロマトグラフィーにより精製され、それらの最終濃度は12.5μg/mL(10.4nM)に正規化された。AbE陽性対照抗体の3つの試料が含まれている。(i)プロテインA精製;12.5μg/mL、(ii)プロテインA精製;37.5μg/mL、(iii)プロテインA精製、次いで、イオン交換クロマトグラフィーによるさらなる精製;37.5μg/mL。示されているすべてのデータは、10分の時点でサンプリングされたものである。
図23】インビトロでの二重特異性抗体FXase活性に対するT0201H CDR1、CDR2、およびCDR3変異誘発の効果をまとめたものである。二重特異性抗体抗FXT0201HバリアントVHドメインは、HEK細胞において、抗FIX N01280HアームおよびN128_IgL共通軽鎖で発現され、プロテインAクロマトグラフィーで精製され、濃度0.15mg/ml(125nMの最終濃度)に正規化された。5μlの精製された物質を使用して、インビトロFXaseアッセイを実施した。示されているデータは10分の時点のものである。点線は、T0201HのFXase活性を表している。
図24】抗FXT0201H VHドメインの配列変異が二重特異性抗体活性に及ぼす影響を調べたaPTT凝固アッセイの要約結果を示している。凝固時間(秒)は、FVIII欠乏血漿に、名前付けされた抗FX VHアーム、抗FIX N01280Hアーム、およびN128_IgL共通軽鎖を含む二重特異性抗体を添加した後に記録された。二重特異性抗体をHEK細胞で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーで精製し、0.1mg/ml、0.3mg/ml、および0.5mg/mlの3つの異なる濃度で分析した。点線は、ヒトIgG4アイソタイプ対照を添加したFVIII欠乏血漿、またはPBSを添加した正常なプールヒト血漿の凝固時間を示している。
図25】変異誘発プロセスでFVIII模倣活性が徐々に改善されたVHドメインのCDRを同定している。黒の網掛けは、同じ表内にあるドメインよりも良好なVHドメインを同定している。
図26】トロンビン生成アッセイ(TGA)のトリガーとして第IXa因子を使用した正常なプール血漿のトロンビン生成曲線を示している。トロンボグラムは、試料血漿中の経時的なトロンビンの生成を示し、経時的に(分)、凝固中に生成されたトロンビンの濃度(nM)としてプロットされる。
図27】AbE、アイソタイプ対照、正常血漿およびエミシズマブキャリブレーターと比較した、T0201HのCDR1、CDR2およびCDR3の単一および複合バリアントを含む最終濃度133nMの二重特異性抗体を添加したFVIII欠乏血漿のトロンビン生成について記載している。0.3nMでFIXaトリガー。(A)80分のトロンボグラム。(B)25分のトロンボグラム。
図28】AbE、アイソタイプ対照、正常血漿、エミシズマブキャリブレーターと比較した、T0201HのCDR1、CDR2、およびCDR3単一および複合変異体を含む二重特異性抗体を添加したFVIII欠乏血漿で実行したTGAからのトロンビンCmax(nM)およびTmax(分)を示している。試験抗体はプロテインAクロマトグラフィーによってのみ精製されたため、ヘテロ二量体とホモ二量体の混合物を表している。(A)抗体濃度133nM。(B)抗体濃度80nM。
図29】(A)二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0128および(B)エミシズマブキャリブレーターを添加したFVIII欠乏血漿で実行されたTGAからのCmax(nM)およびTmax(分)用量反応を示している。使用したアイソタイプ対照(プラス記号)はヒトIgG4であり、FVIII欠乏血漿に添加した。正常なプール血漿(クロス記号)にPBSを添加した。
図30】TGAにおけるIXAX-1280.0999.0325およびAbEのCmaxの用量反応曲線を示している。縦方向の点線は、4.5μg/ml(30nM)、10μg/ml(66.6nM)、および45μg/ml(300nM)に対応する最終抗体濃度を示す。水平方向の線は、健康なボランティアから収集された正常なプール血漿のCmaxを表す。
図31】0.1nM、1nM、10nM、100nM、および300nMの抗体濃度での、ヒトFVIII枯渇血漿中の(A)IXAX-1280.0999.0325「BiAb_1」および(B)AbEのトロンボグラムを示している。正常なヒト血漿試料のトロンボグラムは、影付きで示されている。
図32】TGAにおけるIXAX-1280.0999.0325およびAbEのTmaxの用量反応曲線を示している。縦方向の点線は、4.5μg/ml(30nM)、10μg/ml(66.6nM)、および45μg/ml(300nM)に対応する抗体濃度を示す。水平方向の線は、健康なボランティアから収集された正常なプール血漿のTmaxを表す。
図33】市販のヒトFVIII枯渇血漿中のTGAアッセイにおける、市販のエミシズマブキャリブレーターと比較した、BiAb_1(IXAX-1280.0999.0325)、BiAb_2(IXAX-1454.0999.0325)、BiAb_3(IXAX-1441.0999.0325)、BiAb_4(IXAX-1442.0736.0325)の(A)Cmaxおよび(B)Tmaxの観点からのトロンビン生成能力を示している。
図34】ヒトFVIII枯渇血漿中のTGAアッセイにおける、市販のエミシズマブキャリブレーターと比較した、BiAb_1(IXAX-1280.0999.0325)の(A)Cmaxおよび(B)Tmaxの観点からのトロンビン生成能力を示している。
図35】安定的にトランスフェクトされたCHO細胞の8つの独立したミニプールから発現された二重特異性抗体IXAX-1172.0201.0128の精製収率およびヘテロ二量体の%を示している。
図36】8つの独立したミニプールから発現した0.3mg/mlに正規化された二重特異性抗体IXAX-1172.0201.0128について、FXaseアッセイによる二重特異性抗体活性(10分での活性)と、ヘテロ二量体の%との相関をプロットする。ピアソンの相関係数は0.9939と計算された。
図37】(A)は、1mlのCaptoSP ImpResカラムでのイオン交換クロマトグラフィーと、20nMのリン酸ナトリウム、pH6.0中で最大500nMまでの線形NaClグラジエントによるIXAX-1280.0999.0128の分離を示している。吸光度、mAU(ミリ吸光度単位);導電率、mS/cm(ミリジーメンス/センチメートル)。ピーク1は、NINA-1280.0128単一特異性抗FIX抗体である。ピーク2は、IXAX-1280.0999.0128二重特異性抗体である。ピーク3は、TINA-0999.0128単一特異性抗FX抗体である。(B)は、段階的溶出を伴うイオン交換クロマトグラフィーによるIXAX-0436.0202.0128の分離を示している。ピーク1は、NINA-0436.0128単一特異性抗FIX抗体である。ピーク2は、IXAX-0436.0202.0128二重特異性抗体である。ピーク3は、TINA-0202.0128単一特異性抗FX抗体である。(C)は、イオン交換クロマトグラフィーによるIXAX-1172.0201.0128の分離を示している。ピーク1は、NINA-1172.0128抗FIX単一特異性抗体である。ピーク2は、IXAX-1172.0201.0128二重特異性抗体である。
図38】二重特異性抗体(A)IXAX-1280.0999.0325、(B)IXAX-1454.0999.0325、(C)IXAX-1441.0999.0325、および(D)IXAX-1442.0736.0325の各々について、精製されたFIX/FXヘテロ二量体の陽イオン交換精製を示している。
図39】IXAX-1280.0999.0325およびAbEを用いたFXaseアッセイにおける用量反応を示している。点線は、4.5μg/ml、10μg/mlおよび45μg/mlに対応する抗体濃度を示している。
図40】IXAX-1280.0999.0325およびAbEを用いた発色性FVIII模倣活性ハイフンアッセイにおける用量反応を示している。
図41】IXAX-1280.0999.0325およびAbEを用いたaPTTアッセイにおける用量反応を示している。縦方向の点線は、66.6nM(10μg/ml)および300nM(45μg/ml)の最終抗体濃度を表す。水平方向の線は、健康なボランティアから収集された正常なプール血漿のaPTT値を表す。
図42】阻害剤血漿中の二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0325(丸)、IXAX-1441.0999.0325(ひし形)、およびAbE(クロス)の効果を調べたaPTT凝固時間アッセイの結果を示す。血友病Aの患者から得られた血漿を使用した一段階aPTT凝固アッセイで、これらの抗体の用量反応が示され、FVIIIに対して70BUの特異的阻害剤レベルが実証されている。水平方向の点線は、ヒトIgG4アイソタイプ対照を添加した阻害剤血漿の凝固時間を示している。
図43】血友病Aの患者から得られた血漿を用いたトロンビン生成アッセイにおける、IgG4二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0325、IXAX-1441.0999.0325、およびAbE(すべてプロテインA、続いて陽イオン交換クロマトグラフィーで精製された)についてのトロンビンピーク高さ(Cmax)用量反応が示され、FVIIIに対して70BUの特異的阻害剤レベルを実証している。nM単位の二重特異性抗体濃度が各希釈について示されている。
図44】血友病Aの患者から得られた血漿を用いたトロンビン生成アッセイにおける、IgG4二重特異性抗体(A)IXAX-1280.0999.0325、(B)IXAX-1441.0999.0325、および(C)AbE(すべてプロテインA、続いて陽イオン交換クロマトグラフィーで精製された)についての用量反応が示され、FVIIIに対して70BUの特異的阻害剤レベルを実証している。分析された二重特異性抗体濃度は、100、33.3、11.1、3.7、および1.23nMである。灰色の網掛け部分は、正常なプール血漿のトロンビン生成を示している。TGAトリガーはFIXaである。
【発明を実施するための形態】
【0069】
血液凝固
血液凝固カスケードが、図1に示される。凝固(Coagulation)または凝固(clotting)は、損傷した血管からの失血を止めて、血管が修復されることを可能にする、最も重要な生物学的プロセスのうちの1つである。凝固の機構には、フィブリンの沈着および成熟とともに、血小板の活性化、接着、および凝集を伴う。凝固の誤調節は、過度の出血(血友病)または閉塞性凝固(血栓症)を引き起こす可能性がある。凝固は、すべての哺乳動物において高度に保存されている。それは、凝固因子の複雑なネットワークによって制御される。血管の内側を覆う内皮が損傷すると、凝固が開始する。内皮下組織因子(TF)の血漿第VII因子(FVII)への曝露は、一次止血(外因性経路)をもたらし、損傷部位に緩い栓が形成される。追加の凝固因子、特に第IX因子(FIX)および第VIII因子(FVIII)の活性化は、二次止血(内因性経路)をもたらし、フィブリン鎖が形成されて栓を強化する。外因性および内因性経路は、最終的に共通点に集中し、カルシウムと一緒に、かつリン脂質表面上に結合した第Xa/Va因子複合体の形成が、プロトロンビン(第II因子)からトロンビン(第IIa因子)を生成する。
【0070】
FVIIIは、トロンビンまたは第Xa因子(FXa)によって開裂され、結果として生じる第VIIIa因子(FVIIIa)は、A1サブユニット、A2サブユニット、および軽鎖からなるヘテロ三量体構造を示す。活性化すると、かつカルシウムイオンおよびリン脂質表面(血小板上)の存在下で、FVIIIaは、その軽鎖およびA2サブユニットを介してFIXaに結合し、同時にそのA1サブユニットを介してFXに結合し、活性な固有の「テナーゼ」または「Xase」複合体を形成し、FVIIIa補因子は、FIXaおよびFXを近接させ、FIXaの触媒速度定数をアロステリックに増強する。図2aを参照されたい。第X因子は、FIXaのセリンプロテアーゼ活性によって活性化され、凝固カスケードが継続し、血餅の構造ポリマーであるフィブリンの沈着に至る。
【0071】
血友病は、FVIII補因子活性の欠損(血友病A)またはFIX酵素活性の欠損(血友病B)のいずれかによるXase複合体の欠乏によって生じる。
【0072】
第IX因子(FIX)
第IX因子は、補因子として第VIII因子を必要とするセリンプロテアーゼである。それは、不活性な前駆体として血液中を循環し、上述のように、止血チャレンジ時に内因性または外因性経路を通して活性化される。
【0073】
文脈が他の意味を必要としない限り、本明細書で言及される第IX因子は、ヒト第IX因子であり、第IXa因子は、ヒト第IXa因子である。
【0074】
ヒト第IX因子のアミノ酸配列が、図3に示される。第IX因子遺伝子の長さは、約34kbであり、8つのエクソンを含む。転写物は、短い5’非翻訳領域、オープンリーディングフレームおよび終止コドン、ならびに3’非翻訳領域を含む。ORFは、461アミノ酸のプレ-プロ-タンパク質をコードし、プレ配列(シグナルペプチド)は、分泌のために第IX因子を方向付け、プロペプチド配列は、ビタミンK依存性カルボキシラーゼの結合ドメインを提供し、これは、隣接するGLAドメイン中のある特定のグルタミン酸残基をカルボキシル化し、残りは、第IX因子チモーゲンを表し、これは、プレおよびプロ配列の除去後に循環に入る。成熟415残基FIXタンパク質は、NからC末端まで、12個のグルタミン酸残基が翻訳後にγカルボキシル化されるGLAドメイン、2つの上皮成長因子(EGF)様ドメイン、活性化ペプチド配列、および触媒セリンプロテアーゼドメインを含む。FIXは、内因性経路を通して生成された活性化第XI因子、または外因性経路のTF/FVIIa複合体のいずれかによって活性化される。いずれにせよ、活性化は、R145に続くペプチド結合の開裂(α-開裂)およびR180に続くペプチド結合の開裂(β-開裂)を伴い、介在配列に対応する活性化ペプチドを放出し、それにより活性化FIXa分子を生成し、これは、軽鎖のC132と重鎖のC289との間のジスルフィド架橋によって結合された、N末端軽鎖(GLA-EGF-EGF)およびC末端重鎖(触媒ドメイン)を有する。残基番号付けは、成熟FIXポリペプチド配列中のアミノ酸を指す。Xase複合体が形成されるリン脂質表面上では、リン脂質と結合するのはFIXaのGLAドメインであり、一方、触媒ドメインは、リン脂質表面よりも高く(>70Å)、FVIIIaのA2ドメインによって調整される[7、8]。
【0075】
FIXa活性の欠失である血友病Bの分子基盤は多様であり、活性化開裂部位における様々な点変異、ナンセンス変異、mRNAスプライス部位変異、欠失、挿入、またはミスセンス変異を含む[9]。
【0076】
活性化FIX(FIXa)の触媒(プロテアーゼ)ドメインは、FVIIIaへの結合に関与する。このドメイン中の残基E245は、カルシウムイオンに結合し、この位置における変異は、FVIIIへの結合を低減し、血友病B、例えば、置換E245Vをもたらす可能性がある。残基330~338によって形成されたFIXヘリックス内の変異は、FVIIIへの結合の低減、その結果として血友病Bとも関連している。
【0077】
一塩基多型(SNP)および長多型を含む、第IX因子における非病原性変異もまた報告されており、[9]でレビューされている。これらには、エクソン6中のMnII SNPが含まれ、残基148におけるT/A置換(Malmo多型)をもたらし、これは、白人および黒人のアメリカ人集団間では比較的一般的である[9]。
【0078】
第X因子(FX)
文脈が他の意味を必要としない限り、本明細書で言及される第X因子は、ヒト第X因子であり、第Xa因子は、ヒト第Xa因子である。ヒトFXのアミノ酸配列が、図4に示される。
【0079】
FXは、スチュアート・プロワー因子としても既知である。それは、セリンエンドペプチダーゼである。FXは、加水分解によって、第IX因子(上記のようにその補因子である第FVIII因子と一緒に)または第VII因子(その補因子である組織因子と一緒に)のいずれかによって第Xa因子に活性化される。FXは、Arg-Thr結合において、次いでArg-Ile結合においてプロトロンビンを2つの場所で開裂することによって作用して、活性トロンビンを得る。
【0080】
抗原結合
二重特異性抗原結合分子の望ましい特徴は、結合したFIXaが結合したFXを活性化することを可能にする方法で、FIXaおよびFXを結合することである。
【0081】
FIXaおよびFXを一緒にし、それによりFIXaによるFXの活性化を促進するために、二重特異性抗原結合分子は、これらの2つの補因子に同時に結合し得る。結合は連続して起こり得、例えば、初期の二元複合体が、第1の結合アームとその同種抗原との間に形成され得、第2の結合アームのその同種抗原への結合が後に続く。原則として、これら2つの結合事象は、FIXaに続いてFX、またはFXに続いてFIXaのいずれかの順序で生じ得る。分子振り付けは、2つの結合部位のそれぞれの抗原に対する相対的親和性の影響を受ける。二重特異性抗原結合分子、FIXaおよびFXの集団では、多くの異なる複合体が並行して存在すると予想される。したがって、プールは、遊離抗原結合分子、遊離FIXa、遊離FX、抗原結合分子と複合体化されたFIXa、抗原結合分子と複合体化されたFX、ならびにFIX、FX、および抗原結合分子の三元複合体を含み、これらの種の各々は、個々の相互作用の相対的なオンレートおよびオフレートに従って異なる割合で存在する。
【0082】
二重特異性抗原結合分子は、FXよりもFIXaに対して高い親和性を有することが望ましくあり得る。そのような二重特異性分子は、FIXaと初期の複合体を形成することが想定され、これがFXに結合し、活性化する。FXに対する比較的低い親和性は、不完全な抗体-抗原複合体中で結合するFXの割合を低減する(すなわち、FIXaなし)。これの潜在的な利点は、より大きい割合のFXが患者の血液中に存在する可能性のある任意のFVIIIと自由に関与する状態のままであることを可能にすることである。血友病Aは、軽度の欠乏から機能的FVIIIの完全な欠如に及ぶ、幅広いFVIIIの欠乏を包含する。ある程度機能的なFVIIIを保持する患者の場合、この自然な活性を可能な限り保持することが望ましくあり得る。したがって、FX結合アームがFXへの結合についてFVIIIと競合しない二重特異性抗原結合分子を提供することが望ましくあり得る。
【0083】
好ましくは、FX結合アームは、FXaよりもFXに対して高い親和性を有する。FXaに対する低い親和性は、活性化された生成物の放出を促進し、凝固カスケードにおけるFVIII模倣分子の役割を完了し、FX結合部位を再利用のために自由にする。様々な実施形態では、本明細書に記載の二重特異性(例えば、抗体IXAX-1280.0999.0325または抗体IXAX-1441.0999.0325)、そのような二重特異性のFX結合アーム(例えば、T0999H VHドメインを含む結合アーム)、またはそのような2つのアームのホモ二量体を含む抗FX単一特異性抗体は、FXaよりもFXに対して少なくとも2倍高い、少なくとも3倍高い、少なくとも4倍高い、少なくとも5倍高い、少なくとも10倍高い、少なくとも100倍高い親和性を有し、例えば、FXaよりもFXに対して、少なくとも1000倍高い親和性を有し、任意選択で、例えば、ELISAによって測定されるように、FXaに対して有意な結合を示さない。例えば、様々な実施形態では、二重特異性、FX結合アームまたは抗FX単一特異性抗体(例えば、TINA-0999.0325)は、ELISAにより測定され、および陰性対照IgGを参照すると、ヒトFXaに結合しない。ELISAの代替として、親和性はSPRによって測定され、FXに対する親和性はFXaに対する親和性と比較される。
【0084】
-FIXa結合
二重特異性抗原結合分子のFIXa結合アームは、FIXaの軽鎖および/または重鎖に結合し得る。初期の研究は、実施例に記載のN128系統のFIXa結合アームが、単独で(重鎖の非存在下で)FIXa軽鎖に結合しないことを示した。
【0085】
したがって、本発明の二重特異性抗原結合分子(またはそのFIXa結合ポリペプチドアーム)は、重鎖および軽鎖を含むFIXa分子に結合し、かつ重鎖の非存在下でFIX軽鎖に結合しないものであってもよい。任意選択で、FIXa結合アームは、FIXa重鎖および軽鎖の組み合わせによって形成されるか、または安定化されるエピトープを認識する。それは例えば、FIXa分子中の軽鎖とのみ接触し、FIXa分子中の重鎖と組み合わせて軽鎖が存在する場合にのみ曝露または安定化されるエピトープに結合し得る。あるいは、それは、軽鎖および重鎖の両方からの1つ以上の残基を含むか、または重鎖の残基のみを含むエピトープと接触してもよい。
【0086】
本発明による抗原結合分子、またはそのFIXa結合ポリペプチドアームは、10mM以下、好ましくは5mM以下、より好ましくは1mM以下の親和性(Kとして測定)でヒトFIXaのECドメインに結合し得る。例えば、Kは、1nM~3μMであってもよい。
【0087】
ヒトFIXaに結合するためのKは、0.1μM~1μM、例えば、0.15~0.3μMであってもよい。Kは、0.6μM以下、0.5μM以下、0.4μM以下、0.3μM以下、0.25μM以下、または2μM以下であってもよい。Kは、少なくとも0.1μM、例えば、少なくとも0.2μMであってもよい。それは0.1μM~0.5μMであってもよい。
【0088】
は、10~100nM、例えば、25~75nMであってもよい。
【0089】
は、50nM以下、10nM以下、5nM以下、2nM以下、または1nM以下であってもよい。Kは、0.9nM以下、0.8nM以下、0.7nM以下、0.6nM以下、0.5nM以下、0.4nM以下、0.3nM以下、0.2nM以下、または0.1nM以下であってもよい。Kは、少なくとも0.001nM、例えば、少なくとも0.01nM、または少なくとも0.1nMであってもよい。Kは、0.1~10nMであってもよい。
【0090】
本発明による抗原結合分子またはそのFIXa結合ポリペプチドのアームは、0.1μM~1μM、例えば、0.15~0.3μMの親和性(Kとして測定)でヒトFIXに結合し得る。Kは、0.6μM以下、0.5μM以下、0.4μM以下、0.3μM以下、0.25μM以下、または2μM以下であってもよい。Kは、少なくとも0.1μM、例えば、少なくとも0.2μMであってもよい。
【0091】
FIXとの相互作用のKは、FIXaとの相互作用のKに匹敵し得、FIXaに対する親和性と比較して、FIXに対するFIXa結合アームの親和性において25%未満、任意に10%未満の差が存在し得る。FIXaと比較して、FIXとの相互作用のKにおいて統計的に有意な差が存在しない場合がある。
【0092】
本明細書の他の箇所に記載されるように、親和性は、例えば、25℃で、分析物としての溶液中の抗原を用い、任意選択で二量体として(例えば、単一特異性IgGとして)固体表面に結合した結合アームを用いた、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して決定され得る。
【0093】
-FX結合
本発明による抗原結合分子、またはそのFX結合ポリペプチドアームは、10mM以下、好ましくは5mM以下、より好ましくは1mM以下のKでヒトFXのECドメインに結合し得る。例えば、Kは、5μM~1nM、例えば、5μM~10nMであってもよい。
【0094】
は、0.1μM~2μM、例えば、0.1μM~1μM、例えば、0.15~0.3μMであり得る。Kは、0.6μM以下、0.5μM以下、0.4μM以下、0.3μM以下、または0.25μM以下であってもよい。Kは、少なくとも0.1μMであってもよい。
【0095】
は、50nM以下、10nM以下、5nM以下、2nM以下、または1nM以下であってもよい。Kは、0.9nM以下、0.8nM以下、0.7nM以下、0.6nM以下、0.5nM以下、0.4nM以下、0.3nM以下、0.2nM以下、または0.1nM以下であってもよい。Kは、少なくとも0.001nM、例えば、少なくとも0.01nM、または少なくとも0.1nMであってもよい。例えば、Kは、1~100nMであってもよい。Kは、1~10nMであってもよい。
【0096】
本明細書の他の箇所に記載されるように、親和性は、例えば、25℃で、分析物としての溶液中の抗原を用い、任意選択で二量体として(例えば、単一特異性IgGとして)固体表面に結合した結合アームを用いた、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して決定され得る。
【0097】
-抗原結合親和性の測定
FIX、FIXa、FX、およびFXaに結合するための抗原結合分子の親和性は、平衡解離定数K、会合のKa/Kd比またはオンレート(Ka)、および解離または結合相互作用のオフレート(kd)の観点から定量化され得る。K、抗原結合のためのKaおよびKdは、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して測定され得る。SPRの手順および条件の例を実施例10に示す。
【0098】
親和性の定量化は、一価形態の抗原結合ポリペプチドアーム、例えば、抗原結合部位を含む抗体FabもしくはFv、または当該の抗原に対する単一抗原結合アームを有するヘテロ二量体免疫グロブリン(例えば、IgG)を用いたSPRを使用して実施され得る。代替的には、二価形態の抗原結合ポリペプチドアーム、例えば、ホモ二量体抗原結合アームを含むIgGに対する親和性を決定することが便利であり得る。SPRは、抗原結合ポリペプチドアームの二量体をバイオセンサチップに(直接または間接的に)コーティングすること、抗原結合ポリペプチドアームを幅広い濃度の緩衝液中の抗原に曝露すること、結合を検出すること、および結合相互作用のための平衡解離定数Kを計算することを含んでもよい。SPRは、25℃で実施されてもよい。好適な緩衝液は、150mM NaCl、0.05%界面活性剤(例えば、P20)、および3mM EDTA、pH7.6である。2.5mM CaClを有するHBS-P 1X(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%ポリソルベート20 pH7.6)が、例示的な緩衝液である。結合データは、使用する機器に固有であり得る標準アルゴリズムを使用して、1:1モデルに適合され得る。Biacore(商標)、ProteOn XPR36(商標)(Bio-Rad(登録商標))、およびKinExA(登録商標)(Sapidyne Instruments,Inc)などの様々なSPR機器が既知である。
【0099】
-交差反応性
規制機関は、候補治療分子がヒトの臨床試験に進む前に実験動物における治療効果を実証していることを要求し得る。後天性血友病A動物モデルの一例は、FVIII中和抗体またはFVIIIに対する小分子阻害剤の投与を通して血液凝固が欠乏した状態にされ、それによりヒト血友病A患者の表現型を再現した、カニクイザルである。動物モデルにおける二重特異性抗原結合分子の試験を可能にするために、各アームの結合部位は、1つ以上の非ヒト哺乳動物からの対応する抗原と交差反応することが望ましい。したがって、抗原結合分子のFIXa結合部位は、ネズミ科(例えば、マウスもしくはラット)、ウサギ、または非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)FIXaならびにヒトFIXaに結合し得、FX結合部位は、ネズミ科(例えば、マウスもしくはラット)、ウサギ、または非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)FXaおよびヒトFXaに結合し得る。
【0100】
抗原結合分子(またはより正確には、その抗原結合部位)の種交差反応性の程度を定量化するための一方法は、別の種の抗原と比較した抗原または1つの種に対する親和性の倍数差として、例えば、ヒト抗原対カニクイザル抗原に対する親和性の倍数差としてのものである。親和性は、Kとして定量化され得、抗原の抗原結合分子への結合の平衡解離定数を指す。Kは、本明細書の他の箇所に記載されるようにSPRによって決定され得る。
【0101】
種交差反応性結合分子は、30倍以下、25倍以下、20倍以下、15倍以下、10倍以下、または5倍以下であるヒトおよび非ヒト抗原に結合するための親和性の倍数差を有し得る。言い換えると、ヒト抗原の細胞外ドメインに結合するKは、非ヒト抗原の細胞外ドメインに結合するKの30倍、25倍、20倍、15倍、10倍、または5倍以内であり得る。
【0102】
好ましくは、ヒトおよび非ヒト抗原の結合親和性は、10倍以下の範囲内、より好ましくは5倍以内または2倍以内である。例えば、表面プラズモン共鳴によって決定されるような、非ヒトFIXaに結合するためのKは、ヒトFIXaに結合するためのKdよりも最大10倍(好ましくは、最大5倍もしくは最大2倍)大きくてもよいか、または最大10倍(好ましくは、最大5倍もしくは最大2倍)低くてもよい。同様に、例えば、SPRによって決定されるような、非ヒトFXに結合するためのKは、ヒトFXに結合するためのKdよりも最大10倍(好ましくは、最大5倍もしくは最大2倍)大きくてもよいか、または最大10倍(好ましくは、最大5倍もしくは最大2倍)低くてもよい。親和性を決定する方法は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0103】
結合分子はまた、両方の種の抗原に結合するためのKが閾値を満たす場合、例えば、ヒト抗原に結合するKおよび非ヒト抗原に結合するKが両方、10mM以下、好ましくは5mM以下、より好ましくは1mM以下である場合、種交差反応性であるとみなされ得る。Kは、10nM以下、5nM以下、2nM以下、または1nM以下であってもよい。Kは、0.9nM以下、0.8nM以下、0.7nM以下、0.6nM以下、0.5nM以下、0.4nM以下、0.3nM以下、0.2nM以下、または0.1nM以下であってもよい。
【0104】
異なる種の抗原に結合するための種交差反応性が有利であり得る一方で、それでもなお、望ましくない副作用を回避するために、FIXa結合アームおよびFX結合アームのそれぞれの抗原に対する選択性が望ましい。したがって、体内では、FIX/FIXaおよびFX/FXaが、好ましくは、抗原結合分子によって結合される唯一の抗原である。
【0105】
FIXaを介したFXの活性化の増強
FIXaを介したFXからFXaへの活性化を増強する二重特異性抗原結合分子の能力は、インビトロまたはインビボアッセイで決定され得る。
【0106】
好適なインビトロアッセイは、実施例3および実施例7に例示され、図7に示されるFX活性化アッセイである。アッセイは、
(i)FXaの形成に適した条件下(例えば、リン脂質の存在下、37℃の緩衝液中)で、二重特異性抗原結合分子をFIXaおよびFXと接触させることと、
(ii)FXaによって開裂可能である基質を添加して、検出可能な生成物を生成することと、
(iii)検出可能な生成物の存在を検出し、任意選択で定量化することと、を含む。
【0107】
詳細なプロトコルを、実施例7に示す。
【0108】
生成物のレベルは、FIXa-FX二重特異性抗原結合分子が反応混合物に存在しない対照アッセイと比較され得る。対照と比較した二重特異性抗体を用いたアッセイにおける生成物レベルの有意差は、二重特異性抗体がFIXaを介したFXの活性化を増強することが可能であることを示す。FVIIIは、陽性対照として含まれる場合がある。
【0109】
生成物のレベルは、FIXa-FX二重特異性抗原結合分子がエミシズマブであるアッセイと比較され得る。本発明による二重特異性抗体は、エミシズマブと同一もしくは同様の程度(例えば、10%の差以内または5%の差以内)まで、またはより高い程度(例えば、検出可能な生成物のレベルによって測定されたエミシズマブで達成されるよりも10%超多いFXからFXaへの活性化)まで、FIXaを介したFXからFXaへの活性化を増強し得る。好ましくは、二重特異性抗体は、FIXaを介したFXからFXaへの活性化を少なくともエミシズマブと同程度に増強する。アッセイは、典型的には、37℃の生理学的温度で実施される。アッセイで使用するのに適した二重特異性の濃度は、本明細書の実施例に示されており、例えば、12.5μg/ml(10.4nM)または125nMである。
【0110】
別の好適なアッセイは、FVIII欠乏血漿中の活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を測定することであり、これは、阻害剤の存在下または非存在下で実施され得、二重特異性分子の活性を組換えヒトFVIIIと比較するために使用され得る。このアッセイは、実施例8に例示される。aPTTは、血餅形成の全体的な概要を提供し、アッセイ読み出しとして凝固時間を提供するエンドポイントアッセイである。FVIII欠乏血漿は、典型的には、aPTTアッセイにおいて約80~90秒の凝固時間を有する。本発明の二重特異性抗原結合分子は、aPTTアッセイにおける凝固時間を短縮するのに有効である(陰性対照と比較して)。本発明による二重特異性抗原結合分子を用いたaPTTアッセイにおけるヒトFVIII欠乏の凝固時間は、例えば、組換えヒトFVIIIaを用いた凝固時間と同じか、またはそれより短い可能性がある。正常な(FVIII+)ヒト血漿の生理学的凝固時間は、典型的には40秒未満、例えば、37~34秒の範囲である。活性化FVIIIaを提供すると、FVIII欠乏血漿でも同様の値が達成可能であり、これは、参照値に対する装置/測定の較正を通してアッセイを標準化する便利な方法を提供する。あるいは、正常な(FVIII+)ヒト血漿の凝固時間は、参照のために使用され得、aPTTアッセイは、カルシウムの添加を通した凝固の誘発によって開始される。アッセイは、典型的には、37℃の生理学的温度で実施される。アッセイで使用するのに適した二重特異性の濃度は、本明細書の実施例に示され、0.1mg/ml(44nM)、0.3mg/ml(133nM)、および0.5mg/ml(222nM)を含む。
【0111】
本発明の二重特異性抗原結合分子は、aPTTアッセイにおいて、FVIIIaの凝固時間の10秒以内の凝固時間を与え得る(すなわち、FVIIIaを用いたaPTTアッセイの凝固時間よりも最大10秒長いか、または最大10秒短い)。好ましくは、本発明の二重特異性抗原結合分子を用いたaPTTアッセイにおける凝固時間は、FVIIIaを用いた凝固時間よりも短い。二重特異性抗原結合分子は、凝固時間を40秒未満、35秒未満、または30秒未満に短縮し得る。凝固時間は、20~40秒、例えば20~30秒であり得る。好ましくは、凝固時間は、22~28秒、例えば、24~26秒である。
【0112】
機能の別の尺度は、二重特異性抗原結合分子の存在下で、FVIII欠乏血漿中でトロンビンが生成される速度である。二重特異性抗体の活性は、トロンビン生成アッセイ(TGA)で測定できる[10]。最近レビューされたように[11]、多くのトロンビン生成アッセイが記載されている。本質的に、TGAは、試験分子(本明細書では、候補となる二重特異性抗体)の添加後の経時的なプロトロンビンからトロンビンへの変換(活性化)を測定することを含み、トロンビンは、検出可能な生成物を形成するための基質の切断を介して検出される。
【0113】
図1を参照すると、凝固カスケードを開始するために外因性組織因子(TF)経路が存在することが思い出される。TFを発現する細胞は通常、血管系の外側に存在し、組織が損傷すると、そのようなTFを含む細胞は循環血小板と接触することになる。TFは、第VIIa因子による少量の第IX因子および第X因子の活性化を促進する補因子として機能する。活性化された第Xa因子および第V因子は、TF含有細胞上でプロトロンビナーゼ複合体を形成し、限られた量のトロンビンを生成する。新たに生成されたトロンビンは、損傷部位に蓄積した血小板および血小板に存在する第XI因子を活性化する。FIXaをさらに確実に活性化するには、血小板に結合したFXIaが必要である。TGAがエクスビボアッセイであることを考えると、TF含有細胞は存在せず、カスケードを開始するためには凝固トリガーを供給する必要がある。市販のアッセイでは通常、組換えTF/リン脂質混合物を使用して凝固を開始する[11]。本明細書で例示されるTGA法(実施例13を参照されたい)は、FXIaなどの他の上流活性化因子を使用することができるが、第IXa因子/リン脂質混合物をトリガーとして使用する。
【0114】
TGAを実施するために、FVIII欠乏血漿を、(i)トリガー試薬、(ii)トロンビンによって検出可能な生成物に変換可能な基質、例えば、トロンビンによる切断時に視覚的に検出可能な生成物を産生する蛍光発生または発色基質、および(iii)試験分子(例えば、二重特異性抗体)と接触させて、FVIII模倣活性の存在がトロンビン生成をもたらし、したがって検出可能な生成物からのシグナルをもたらす条件を作り出す。通常、血漿には、血液凝固カスケードに必要なカルシウムなどの遊離金属イオンが不足している(図1)。Ca2+イオンは、アッセイを開始するために供給されてもよいが(例えば、溶液中のCaClとして)、例えば、それは、基質溶液内に含まれてもよい。開始に続いて、検出可能な生成物の生成(トロンビンの生成を表す)が、例えば、蛍光または色を検出することによって、経時的に(好ましくは連続的に、または頻繁な間隔で、例えば、約20秒毎に)監視される。プレートリーダーは、例えば、蛍光発生基質のフルオロフォアへの変換を監視するために使用され得る。TGAは37℃の生理学的温度で実施される。
【0115】
血漿を制御するために添加された既知の濃度のトロンビンに対して較正することにより、蛍光をトロンビン濃度に変換することができる。次に、トロンボグラムが生成される(図26図27)。
【0116】
好ましくは、二重特異性抗体(または他の試験分子)は、TGAで使用するために(例えば、プロテインAクロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーまたは疎水性相互作用クロマトグラフィーによって)、例えば、少なくとも95%の二重特異性の組成物中で二重特異性ヘテロ二量体を提供するために(すなわち、5%以下のホモ二量体または他の抗体汚染物質が存在する必要がある)、適切に精製される。好ましくは、試験分子は、可能な限り100%に近い純度で提供される。それは約98、99%または100%純粋な二重特異性である可能性がある。
【0117】
蛍光発生TGAにおける健康な個人からの血漿のおおよその基準範囲は、Cmax 200~450nMおよびTmax5~8分である[11]。TGAの活性は、健康な個人、重度のFVIII欠乏症の患者、およびFVIII注入後の重度のFVIII欠乏症の患者からの血漿についての公表された典型的なトロンビン生成曲線と比較することもできる[12]。標準化のために、TGAの性能を、既知の濃度の陽性対照分子を表すキャリブレーターと比較することもできる。試験二重特異性の希釈系列は、一連の既知の固定濃度でキャリブレーターと比較することができる。適切なキャリブレーターは、エミシズマブキャリブレーターである。エミシズマブキャリブレーターは市販されており、100μg/mLのエミシズマブ(Hemlibra(登録商標))を添加したFVIII免疫枯渇クエン酸ヒト血漿から調製し、緩衝液および安定剤をさらに含む。それは凍結乾燥された形で供給され、TGAで使用される前に水中で再構成される。キャリブレーター薬瓶内のエミシズマブの正確な濃度はわかっているため、アッセイでの試験二重特異性分子の活性を、濃度を正規化した後のキャリブレーターの活性と比較することができる。エミシズマブに対する二重特異性抗体を比較するための代替対照として、TGAにおける試験二重特異性抗体の性能を、エミシズマブのアミノ酸配列を有する対照二重特異性抗体の性能と比較することができ、ここで、試験二重特異性抗体と、エミシズマブのアミノ酸配列を有する二重特異性抗体とは、TGAで同一の条件下で試験される。
【0118】
TGAは、トロンビン生成の6つの側面を特徴づけるために使用できる:ラグタイム(lag)、ピークまでの時間(Tmax)、最大ピーク高さ(Cmax)、内因性トロンビン電位(ETP)、速度指数(VI)、および「テールスタート」またはベースラインへのリターン。ラグタイムは、トロンビンピークが生成され始める前の開始段階を表し、トリガーを追加すると、凝固カスケードが活性化される。開始されると、伝播段階で大量のトロンビンが迅速に生成される。ピークまでの時間は、最大トロンビンピーク高さ(Cmax)に到達するのにかかる時間(Tmax)を表し、ETPは生成されたトロンビンの総量を表し、速度指数は、ラグタイムとピークまでの時間の間の勾配を表す。ベースラインへのリターン(テールスタート)は、トロンビン形成の阻害(活性化プロテインCによる)およびすでに形成されたトロンビンの不活性化(抗トロンビンによる)を反映している。Cmaxおよび/またはTmaxは、通常、TGAの活動を表すために使用される重要な指標である。TGAの参照値(Cmax、Tmax、ラグタイムなど)は、固定濃度、例えば、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、または300nMで二重特異性抗体に対して決定できる。パラメーターは、一連の濃度、例えば、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、および300nM、および/または他の濃度で測定して、完全な用量反応曲線を得て、次いで、EC50値を決定することができる。用量反応曲線は、非線形対数(抗体)対反応可変勾配モデル(例えば、GraphPad Prism v8.0.0を使用して実行できる可変勾配4パラメーターロジスティック回帰モデル)を使用して適合させることができる。EC50は、最大効果の半分(ベースラインと測定パラメーターの最大値の中間)に達する試験分子(抗体など)の濃度である。EC50は、用量反応曲線から決定できる。EC50データを用いた実施例は、本明細書の実施例14に示されている。
【0119】
一実施形態では、TGAは以下:
(a)遊離カルシウムイオンを欠くFVIII欠乏血漿を
(i)第IXa因子/リン脂質混合物を含むトリガー試薬、
(ii)トロンビンによる切断時に視覚的に検出可能なフルオロフォアを生成する蛍光発生基質(例えば、2nMのZGGR-AMC蛍光発生基質)、およびカルシウムイオン(例えば、100mMのCaCl2)を含む溶液(例えば、StagoからのFluCa試薬)、および
(iii)二重特異性抗体(例えば、純度95%~100%、例えば、99%~100%)と接触させること、
(b)FVIII模倣活性の存在がトロンビン生成をもたらし、したがってフルオロフォアからのシグナルをもたらす条件下で、血漿を37℃でインキュベートすること、
(c)蛍光を経時的に検出して、蛍光発生基質からフルオロフォアへの変換を監視すること、
(d)所定の濃度のトロンビンの溶液からの蛍光に対して検出された蛍光を較正すること、ならびに
(e)トロンボグラムの1つ以上のパラメーターを決定することであって、ここで、パラメーターは、
到達する最大トロンビンピーク高さ(Cmax)、
最大トロンビンピーク高さ到達するのにかかる時間(Tmax)、および/または
トロンビンピークが生成され始める前の開始段階の長さ(ラグタイム)である、決定すること、を含む。
【0120】
1つ以上のパラメーターは、反応のベースラインおよびトッププラトー(最大値)を含む完全な用量反応曲線を得るために、二重特異性抗体の一連の濃度で決定される。用量反応曲線は、非線形対数[抗体]対反応パラメーター可変勾配モデル(4パラメーターロジスティック回帰モデル)を使用してデータポイントに適合させることができる。EC50は、該用量反応曲線から決定される。該1つ以上のパラメーター、または該1つ以上のパラメーターについてのEC50は、試験二重特異性抗体とエミシズマブ(例えば、Enzyme Research Laboratoriesから入手可能なエミシズマブキャリブレーター)との間で比較され得る。
【0121】
本発明による二重特異性抗体は、好ましくは、蛍光測定TGAにおいてエミシズマブと同等またはそれ以上の効力を示す。より高い効力は、該アッセイにおける1つ以上のパラメーター、例えば、Cmax、Tmaxまたはラグタイムについてのより低いEC50によって表され得る。本明細書の実施例に示されるように、本発明の実施形態は、より低い濃度でエミシズマブよりも高い効力を一貫して示した。例えば、図29図30図31図33、および図34に示されている結果を参照されたい。
【0122】
蛍光測定TGAの最大応答(例えば、最高のCmax、最低のTmax、最短のラグタイムなど)も注目に値する。最大応答は、測定されたパラメーター(例えば、Cmax)が抗体濃度の増加に伴ってプラトーになるレベルであり、達成可能な最大レベル(例えば、最大Cmax)を表す。過剰な最大反応は、凝固促進経路の異常に増加した活性化を特徴とする消費凝固障害または播種性血管内凝固症候群(DIC)のリスクを含む、二重特異性分子の過剰投与のリスクの増加と関連している可能性がある。凝固亢進は、動脈/静脈血栓症、塞栓症、血栓性微小血管症などの凝固障害イベントを通じて患者の安全性を損なう可能性があり、したがって治療域、すなわち、許容できない副作用または有害事象のリスクなしに有益な効果が達成される用量または血漿濃度の範囲を狭める。
【0123】
エミシズマブは、ヒトの臨床試験で許容できると考えられた安全性プロファイルに基づいて規制当局の承認を受けているため、TGAにおけるエミシズマブの最大応答は確立された安全限界を表している。任意選択で、本発明の二重特異性は、エミシズマブのそれとは20%以下(例えば、15%以下または10%以下)異なる、TGAにおける最大Cmaxおよび/または最大Tmax応答を有する。これらの参照値は、エミシズマブキャリブレーターまたはエミシズマブの配列同一類似体を使用して決定することができる。
【0124】
本発明の二重特異性抗体は、以下のように、TGAにおいて最大応答を示し得る:
-TGAのCmaxが500nMを超えないこと。任意選択で、Cmaxの最大応答は450nMを超えない、例えば、400nMを超えない。Cmaxの最大応答は、200~450nM、例えば250~350nMである。および/または
-TGAのTmaxは、最大応答1分以上である。任意選択で、Tmaxの最大応答は5分以上、4分以上、3分以上、または2分以上である。Tmaxの最大応答は、2~10分、例えば2~8分、または5~8分であり得る。
【0125】
本発明による二重特異性抗原結合分子は、蛍光測定TGAによって決定されるように、100~450nM(例えば、200~450nM)の範囲のCmaxを有してもよく、例えば、二重特異性抗体は、該アッセイでは、100nMまたは300nMの濃度である。Cmaxは、好ましくは、少なくとも200nM、より好ましくは、少なくとも250nM、または少なくとも300nMである。二重特異性のCmaxは、エミシズマブのCmaxと同じか類似している(例えば、10%以内の差がある)場合もあれば、エミシズマブのCmaxよりも大きい場合もある。二重特異性は、エミシズマブのCmax EC50の10%以内であるか、またはそれよりも低い、上記アッセイにおけるCmax EC50を有し得る。EC50がエミシズマブのEC50よりも低い場合、本発明の二重特異性抗体とエミシズマブとの間でTGAのCmax EC50に少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍の差がある可能性がある。任意選択で、TGAのCmax EC50は、最大10倍、最大15倍、または最大20倍異なる場合がある。蛍光測定TGAの二重特異性抗原結合分子のCmaxのEC50は、50nM未満、例えば、1nM~50nM、5nM~20nM、または5nM~10nMである場合がある。
【0126】
本発明による二重特異性抗原結合分子は、蛍光測定TGAによって決定されるように、8分以下、例えば、4~8分の範囲のTmaxを有してもよく、例えば、二重特異性抗体は、該アッセイでは、100nMまたは300nMの濃度である。二重特異性のTmaxは、エミシズマブのTmaxと同じもしくは類似している(例えば、10%以内の差がある)場合もあれば、エミシズマブのTmaxよりも小さい場合もある。二重特異性は、エミシズマブのTmax EC50の10%以内であるか、またはそれよりも低い、上記アッセイにおけるTmax EC50を有し得る。
【0127】
蛍光測定TGAにおける二重特異性抗原結合分子についてのTmaxのEC50は、5nM未満、例えば、3nM未満または2nM未満であり得る。それは、1nM~5nM、例えば、1nM~2nMであり得る。
【0128】
本発明による二重特異性抗原結合分子は、蛍光測定TGAによって決定されるように、2~6分のラグタイムを有してもよく、例えば、二重特異性抗体は、該アッセイでは、100nMまたは300nMの濃度である。二重特異性のラグタイムは、エミシズマブのラグタイムと同じもしくは類似している(例えば、10%以内の差がある)場合もあれば、エミシズマブのラグタイムよりも短い場合もある。二重特異性は、エミシズマブのラグタイムEC50の10%以内であるか、またはそれよりも低い、上記アッセイにおけるラグタイムEC50を有し得る。
【0129】
二重特異性抗原結合分子
二重特異性抗原結合分子は、FIXa結合ポリペプチドアームおよびFX結合ポリペプチドアームを含む。それは、多鎖または単鎖ポリペプチド分子であってもよい。FIXa結合ポリペプチドアームおよびFX結合ポリペプチドアームは、二重特異性分子の異なる部分を表すが、1つのポリペプチドが任意選択で、FIXa結合アームおよびFX結合アームの両方の全部または一部を形成することができる。
【0130】
ポリペプチド結合アームは、抗原(FIXaまたはFX)のうちの1つに対する結合部位を含む二重特異性分子の領域である。二重特異性分子の一方または両方の抗原結合部位は、ポリペプチドアームの相補性決定領域(またはペプチドループ)のセットによって提供され得、ポリペプチドアームは、抗体(例えば、抗体Fv領域)または非抗体分子のものであるかどうかにかかわらず、任意の好適な骨格ポリペプチドである。結合アームは、1つまたは2つ以上(例えば、2つ)のポリペプチドまたはその部分(例えば、ドメイン)を含んでもよい。
【0131】
本発明は、二重特異性抗体に関して本明細書に詳細に記載され、抗原結合ポリペプチドアームのうちの少なくとも1つは、抗体VHおよび/またはVLドメイン、任意選択でFv領域におけるCDRのセットによって提供される。
【0132】
抗体は、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンドメインを含む分子である。抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、もしくはIgE分子、またはその抗原特異性抗体断片を含む分子であってもよい。「抗体」という用語は、抗体の抗原結合部位を含む任意のポリペプチドまたはタンパク質を含む。抗体の抗原結合部位(パラトープ)は、その標的抗原のエピトープに結合し、かつそれに相補的である抗体の一部である。「エピトープ」という用語は、抗体によって結合される抗原の領域を指す。エピトープは、構造的または機能的であると定義され得る。機能的エピトープは概して、構造的エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。エピトープはまた、立体構造的であり、すなわち、非線形アミノ酸で構成されてもよい。ある特定の実施形態では、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、またはスルホニル基などの分子の化学的に活性な表面グループである決定基を含んでもよく、ある特定の実施形態では、特定の三次元構造特性、および/または特定の電荷特性を有してもよい。
【0133】
抗体の抗原結合部位は、抗体VHおよび/またはVLドメインの相補性決定領域(CDR)のセットによって提供され、抗原に結合することが可能である。一例において、抗体結合部位は、単一可変ドメイン、例えば、重鎖可変ドメイン(VHドメイン)、または軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)によって提供される。別の例では、結合部位は、VH/VL対(Fv)または2つ以上のそのような対によって提供される。
【0134】
抗体可変ドメインは、相補性決定領域(CDR、すなわち、CDR1、CDR2、およびCDR3)のアミノ酸配列、ならびにフレームワーク領域(FR)を含む、抗体の軽鎖および重鎖の部分である。したがって、VHおよびVLドメインの各々の中にCDRおよびFRがある。VHドメインは、HCDRのセットを含み、VLドメインは、LCDRのセットを含む。VHは、重鎖の可変ドメインを指す。VLは、軽鎖の可変ドメインを指す。各VHおよびVLは典型的には、3つのCDRおよび4つのFRで構成され、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配置される。CDRおよびFRに割り当てられたアミノ酸の位置は、IMGT命名法に従って定義され得る。抗体は、VH CDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにフレームワークを含む抗体VHドメインを含んでもよい。あるいは、またはさらに、抗体は、VL CDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにフレームワークを含む抗体VLドメインを含んでもよい。抗体VHおよびVLドメインならびにCDRの例示的な配列は、本開示の一部を形成する。CDRは、IMGTシステムに従って定義される[13]。本明細書に開示されるすべてのVHおよびVL配列、CDR配列、CDRのセット、およびHCDRのセット、およびLCDRのセットは、本発明の態様および実施形態を表す。本明細書に記載されるように、「CDRのセット」は、CDR1、CDR2およびCDR3を含む。したがって、HCDRのセットは、HCDR1、HCDR2、およびHCDR3を指し、LCDRのセットは、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を指す。特に明記しない限り、「CDRのセット」は、HCDRおよびLCDRを含む。
【0135】
抗体は、抗体フレームワーク内に1つ以上のCDR、例えば、CDRのセットを含んでもよい。フレームワーク領域は、ヒト生殖細胞遺伝子セグメント配列を有してもよい。したがって、抗体は、ヒト生殖細胞フレームワーク内にHCDRのセットを含むVHドメインを有するヒト抗体であってもよい。通常、抗体は、例えば、ヒト生殖細胞フレームワーク内にLCDRのセットを含むVLドメインも有する。抗体「遺伝子セグメント」、例えば、VH遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント、またはJH遺伝子セグメントは、抗体のその部分が由来する核酸配列を有するオリゴヌクレオチドを指し、例えば、VH遺伝子セグメントは、FR1からCDR3の一部までのポリペプチドVHドメインに対応する核酸配列を含むオリゴヌクレオチドである。ヒトv、d、およびj遺伝子セグメントは、組換えられてVHドメインを生成し、ヒトvおよびjセグメントは、組換えられてVLドメインを生成する。Dドメインまたは領域は、抗体鎖の多様性ドメインまたは領域を指す。Jドメインまたは領域は、抗体鎖の結合ドメインまたは領域を指す。体細胞超変異は、対応する遺伝子セグメントと正確に一致または整合しないフレームワーク領域を有する抗体VHまたはVLドメインをもたらす可能性があるが、最も近い遺伝子セグメントを同定し、したがって特定のVHまたはVLドメインが遺伝子セグメントのどの特定の組み合わせに由来するかを同定するために、配列アライメントが使用され得る。抗体配列を遺伝子セグメントと整合する場合、抗体のアミノ酸配列が、遺伝子セグメントによってコードされるアミノ酸配列と整合されてもよく、または抗体ヌクレオチド配列が、遺伝子セグメントのヌクレオチド配列と直接整合されてもよい。本明細書に記載の例示的な抗体のフレームワーク領域に対応する生殖細胞遺伝子セグメントが、表S-12に示される。
【0136】
抗体は、定常領域を含む免疫グロブリン全体であってもよく、または抗体断片であってもよい。抗体断片は、無傷の抗体の一部分であり、例えば、無傷の抗体の抗原結合および/または可変領域を含む。抗体断片は、1つ以上の定常領域ドメインを含んでもよい。
【0137】
本発明の抗体は、ヒト可変領域および非ヒト(例えば、マウス)定常領域を含むヒト抗体またはキメラ抗体であってもよい。本発明の抗体は、例えば、ヒト可変領域を有し、任意選択でヒト定常領域も有する。
【0138】
したがって、抗体は任意選択で、定常領域またはその一部、例えば、ヒトIgG4定常領域などのヒト抗体定常領域またはその一部を含む。例えば、VLドメインは、そのC末端で抗体軽鎖カッパまたはラムダ定常ドメインに付着し得る。同様に、抗体VHドメインは、そのC末端で任意の抗体アイソタイプ、例えば、IgG、IgA、IgE、およびIgM、ならびにIgG1またはIgG4などのアイソタイプサブクラスのうちのいずれかに由来する、免疫グロブリン重鎖定常領域の全部または一部(例えば、CH1ドメインまたはFc領域)に付着し得る。
【0139】
酵素パパインによる免疫グロブリン全体(二価)の消化は、「Fab」断片および「Fc」断片として既知の2つの同一(一価)の抗原結合断片をもたらす。Fcは、抗原結合活性を有しないが、結晶化する能力を有する。「Fab」は、本明細書で使用される場合、重鎖および軽鎖の各々の1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインを含む抗体の断片を指す。本明細書における「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義し、天然配列Fc領域および可変Fc領域を含む。「Fc断片」は、ジスルフィドによってともに保持された両方のH鎖のカルボキシ末端部分を指す。
【0140】
酵素ペプシンによる抗体の消化は、抗体分子の2つのアームが連結されたままである、二価F(ab’)2断片をもたらす。F(ab’)2断片は、ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片である。単鎖抗体(例えば、scFv)は、別の断片である。scFvなどの2つの異なる一価の単一特異性抗体断片が一緒に連結されて、二価の二重特異性抗体を形成してもよい。
【0141】
本明細書で使用される場合の「Fv」は、抗原認識部位および抗原結合部位の両方を保持する抗体の最小断片を指す。この領域は、強い非共有結合または共有結合によって会合した1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を規定する。集合的に、6つのCDRにより、抗体に抗原結合特異性が付与される。しかしながら、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、通常は結合部位全体よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識し、それに結合する能力を有する。
【0142】
好ましくは、二重特異性抗体は、二重結合抗体、すなわち、両方の抗原結合ドメインがVH/VL対によって形成される二重特異性抗体である。二重結合抗体としては、FIT-Ig(参照により本明細書に組み込まれるWO2015/103072を参照されたい)、mAb-dAb、ドック・アンド・ロック、Fabアーム交換、SEEDボディ、トリオマブ、LUZ-Y、Fcab、κλ-ボディ、直交Fab、scダイアボディ-Fc、ダイアボディ-Fc、タンデムscFv-Fc、Fab-scFv-Fc、Fab-scFv、イントラボディ、BiTE、ダイアボディ、DART、TandAb、scダイアボディ、scダイアボディ-CH3、ダイアボディ-CH3、トリプルボディ、ミニ抗体、ミニボディ、scFv-CH3 KIH、scFv-CH-CL-scFv、F(ab’)2-scFv、scFv-KIH、Fab-scFv-Fc、四価HCab、ImmTAC、ノブ・イン・ホール、共通の軽鎖を有するノブ・イン・ホール、共通の軽鎖および電荷対を有するノブ・イン・ホール、電荷対、共通の軽鎖を有する電荷対、DT-IgG、DutaMab、IgG(H)-scFv、scFv-(H)IgG、IgG(L)-scFv、scFv-(L)IgG、IgG(L,H)-Fv、IgG(H)-V、V(H)-IgG、IgG(L)-V、V(L)-IgG、KIH IgG-scFab、2scFv-IgG、IgG-2scFv、およびscFv4-Igが挙げられる。
【0143】
一実施形態では、二重特異性抗体は、FIXa結合ポリペプチドアームおよびFX結合ポリペプチドアームを含む二重特異性IgGであり、各ポリペプチドアームは、重鎖および軽鎖を含む。IgGは、
FIXa結合性Fv領域を含む抗体重鎖および軽鎖の第1の対(重鎖-軽鎖対)と、
FX結合性Fv領域を含む第2の重鎖-軽鎖対と、を含む、四量体免疫グロブリンであり、
各重鎖は、VHドメインおよび定常領域を含み、各軽鎖は、VLドメインおよび定常領域を含み、第1および第2の重鎖-軽鎖対は、それらの重鎖定常領域のヘテロ二量体化を通して会合して、免疫グロブリン四量体を形成する。
【0144】
任意選択で、2つのポリペプチドアームは、共通の軽鎖を含み、そのため、第1および第2の重鎖-軽鎖対の軽鎖は、同一のアミノ酸配列を有する(図5)。あるいは、2つのポリペプチドアームは、異なる軽鎖を含んでもよい。
【0145】
二重特異性抗体は、FIXaへの結合およびFXへの結合に対して一価であってもよい。
【0146】
抗体定常領域
上述のように、抗体は、様々なアイソタイプで、かつ異なる定常領域とともに提供され得る。抗体のFc領域は、Fc受容体によって認識され、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(CDC)活性、および抗体依存性細胞食作用(ADCP)活性を含む、細胞性エフェクター機能を仲介する抗体の能力を決定する。これらの細胞性エフェクター機能は、Fc受容体を有する細胞の標的細胞の部位への動員を伴い、抗体結合細胞の死滅をもたらす。
【0147】
本発明の文脈において、ADCC、ADCP、および/またはCDCなどの細胞性エフェクター機能を回避することが望ましい。したがって、本発明による二重特異性抗原結合分子は、Fcエフェクター機能を欠いてもよく、例えば、それらは、ADCC、ADCP、または/もしくはCDCを仲介しないFc領域を含んでもよいか、あるいはそれらは、Fc領域を欠くか、または抗体定常領域を完全に欠いてもよい。抗体は、エフェクターヌルである定常領域を有してもよい。
【0148】
抗体は、1つ以上の型のFc受容体に結合するが、細胞性エフェクター機能を誘導しない、すなわち、ADCC、CDC、またはADCP活性を仲介しない、重鎖定常領域を有してもよい。そのような定常領域は、ADCC、CDC、またはADCP活性を誘発する原因となる特定のFc受容体(複数可)に結合できない場合がある。
【0149】
抗体は、Fcγ受容体に結合しない重鎖定常領域を有してもよく、例えば、定常領域は、Leu235Glu変異を含んでもよく(すなわち、野生型ロイシン残基がグルタミン酸残基に変異される)、これは、「E」変異、例えば、IgG4-Eと称され得る。重鎖定常領域の別の任意の変異は、Ser228Pro(「P」変異)であり、これは、Fabアーム交換を低減することによって安定性を高める。重鎖定常領域は、Leu235Glu変異およびSer228Pro変異の両方を含むIgG4であってもよい(EU番号付け)。この「IgG4-PE」重鎖定常領域は、エフェクターヌルである。代替のエフェクターヌルヒト定常領域は、機能しないIgG1である。
【0150】
抗体定常領域は、インビボでの半減期が延長されるように操作することができる。例としては、「YTE」変異および他の半減期延長変異(Dall’Acqua、Kiener&Wu、JBC 281(33):23514-23524 2006およびWO02/060919、参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。三重変異YTEは、IgG CH2ドメインの3アミノ酸の置換であり、これらの変異は、残基252にチロシン、残基254にスレオニン、残基256にグルタミン酸を提供し、KabatのEUインデックスに従って番号が付けられている。参考文献で記載されているように、YTE修飾は、ヒトCH2野生型ドメインを有する対応する抗体の半減期と比較して、抗体の半減期を増加させる。インビボでの有効期間の延長を提供するために、本発明の抗体は、対応する野生型ヒト定常領域(例えば、IgG、例えば、IgG CH2ドメイン)と比較して抗体の半減期を増加させる1つ以上の変異を有する抗体定常領域(例えば、IgG定常領域、例えば、IgG CH2ドメイン)を含み得る。半減期は、WO02/060919に記載されているような標準的な方法によって決定することができる。
【0151】
いくつかの実施形態では、ガンマ-カルボキシグルタミン酸に富む(Gla)ドメインまたは他の膜結合ドメインは、二重特異性抗体に(例えば、FcのC末端に)含まれ、(Glaドメインと膜の間の相互作用を介して)血小板表面のリン脂質膜への抗体の局在化を促進し、それにより、FIXおよびFXがインビボで天然に存在する二重特異性抗体の局所濃度を増加させる。WO2018/145125は、FIX/FX二重特異性抗体および膜結合ドメイン、例えば、C1、C2ドメインなどの血小板結合ドメイン、PHドメイン、GLAドメイン、または血小板の膜糖タンパク質の膜結合ドメインを含むFVIII模倣タンパク質を記載した。本明細書に記載されるように、膜結合ドメインは、二重特異性抗体の重鎖定常ドメインの一方または両方のC末端に連結され得る。本発明の二重特異性抗原結合分子は、任意選択で、WO2018/145125に記載されている特徴および分子形式を含み得る。
【0152】
以下で考察されるように、異なる抗原結合アームが定常領域を介してヘテロ二量体化される二重特異性IgG形式または他の抗体形式では、定常領域は、ホモ二量体形成よりもヘテロ二量体形成を促進し、および/または異なる種の混合物からのヘテロ二量体の精製を促進するように操作され得る。
【0153】
抗FIXaxFX二重特異性抗体エミシズマブは、そのアセンブリ、精製および/または治療性能を促進するように設計された特徴を含む重鎖定常領域を含む。本発明による二重特異性抗体は、これらの特徴のいずれか1つ以上を含み得る。したがって、それは、以下の変化のうちの1つ以上を含むヒトIgG4(例えば、IgHG4*03)重鎖定常領域アミノ酸配列を含み得る(EU番号付け):
CH1のLys196Gln、
ヒンジ領域のSer228Pro(P変異)、
CH2のDEターンのPhe296Tyr、
CH3のGlu356Lys、
CH3のLys439Glu、
CH3のLeu445Pro、
Gly446の欠失、
Lys447の欠失。
【0154】
変異Glu356LysおよびLys439Gluの各々1つは、ヘテロ二量体二重特異性のFc内の2つの反対向きに対になった重鎖定常領域に含まれ、すなわち、一方の重鎖定常領域はGlu356およびLys439Gluを含み、他方の重鎖定常領域はGlu356LysおよびLys439を含む(下記の電荷の対合(charge pairing)に関する議論を参照されたい)。
【0155】
本発明による二重特異性抗体は、エミシズマブのFc領域に存在する特徴のいずれか1つまたは複数を有するFc領域を含み得る。それは、エミシズマブのFc領域を含む場合がある。一実施形態では、重鎖定常領域のアミノ酸配列は、エミシズマブ重鎖定常領域のアミノ酸配列である。
【0156】
重鎖定常領域のアミノ酸配列の例を表S-100に示す。
【0157】
ヘテロ二量体形成および/または精製を促進するための二重特異性抗体の操作
診療所で二重特異性抗体を使用することの難しさの1つは、歴史的に、大量かつ医薬品グレードの純度でそれらを産生することの難しさであった。「従来の」二重特異性IgG形式は、重鎖および軽鎖の2つの異なる対、したがって4つの異なるポリペプチド鎖を含み、これは、一緒に発現すると、アセンブルして10個の異なる潜在的な抗体分子になり得る。種の混合物は、ホモ二量体(ホモ二量体抗FIXa結合アームおよびホモ二量体抗FX結合アーム)、一方または両方の軽鎖がH-L対間で交換される分子、ならびに「正しい」二重特異性ヘテロ二量体構造を含む。
【0158】
この潜在的な誤対合を回避する代替の分子形式が開発されており、いくつかの例が本明細書に提供される。これらには、例えば、化学結合またはロイシンジッパー(fos:jun)アセンブリ、ダイアボディ、およびscFvヘテロ二量体によって調製されたF(ab’)2が含まれる。それにもかかわらず、二重特異性IgGを使用して、血流中の抗体の本来の構造を反映し、かつ投与された治療用分子の免疫原性を最小限に抑えることが可能であることが依然として望ましい。加えて、完全長の二重特異性抗体は、より長い血清半減期を有し得る。
【0159】
二重特異性抗体を作製するための「ノブ・イントゥ・ホール」技術は、[14]、および参照により本明細書に組み込まれるUS5,731,168に記載されている。その原理は、ヘテロ二量体重鎖の対になったCH3ドメインを操作して、一方のCH3ドメインが「ノブ」を含み、他方のCH3ドメインが立体的に反対の位置に「ホール」を含むようにすることである。ノブはCH3ドメイン間の界面で小さなアミノ酸側鎖を置き換えることによって形成され、ホールは大きな側鎖をより小さなものに置き換えることによって形成される。ノブはホールに挿入するように設計されており、ホモ二量体形成を不安定にしながら、様々なCH3ドメインのヘテロ二量体化に有利となる。したがって、アセンブルして二重特異性抗体を形成する抗体重鎖および軽鎖の混合物において、対になったヘテロ二量体重鎖を有するIgG分子の割合が増加し、活性分子の収量および回収率を高める。
【0160】
変異Y349Cおよび/またはT366Wは、IgG CH3ドメインに「ノブ」を形成するために含まれ得る。変異E356C、T366S、L368Aおよび/またはY407Vは、IgG CH3ドメインに「ホール」を形成するために含まれ得る。ノブおよびホールは、任意のヒトIgG CH3ドメイン、例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 CH3ドメインに導入され得る。好ましい例はIgG4である。前述のように、IgG4は、「P」および/または「E」変異などのさらなる修飾を含み得る。例示的なIgG4-PE配列、およびノブ・イントゥ・ホール変異を含む他の例示的な定常領域が、表S-100に示される。IgG4型a(「ra」)配列は置換Y349CおよびT366W(「ノブ」)を含み、IgG4型b(「γb」)配列は置換E356C、T366S、L368A、およびY407V(「ホール」)を含む。raおよびγbはまた、両方とも、重鎖のヒンジ領域を安定化するためにヒンジの228位に「P」置換を含む(S228P)。raおよびγbの両方はまた、FcγRへの結合を無効にするために、235位におけるCH2領域内の「E」置換(L235S)も含む。したがって、IgG4-PE重鎖の関連配列は、ppcpPcpapefEggps(配列番号401)である。本発明の二重特異性抗原結合分子は、IgG4 PEヒト重鎖定常領域(例えば、配列番号143)、任意選択で2つのそのような対になった定常領域を含んでもよく、任意選択で、1つは、「ノブ」変異を有し、1つは、「ホール」変異を有し、例えば、1つの重鎖定常領域は、配列番号144(ノブ)の配列を有し、1つの重鎖定常領域は、配列番号145(ホール)の配列を有する変異。
【0161】
二重特異性IgG操作のさらなる進歩は、WO98/50431で説明されているように、共通の軽鎖を使用するという考えであった。2つの重鎖-軽鎖対を含む二重特異性抗体が説明されており、両方の重鎖-軽鎖対の可変軽鎖が共通の配列を有していた。WO98/50431は、共通の軽鎖アプローチを、重鎖ヘテロ二量体化界面(例えば、ノブ・イントゥ・ホール)における特定の相補的相互作用と組み合わせて、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨げることを説明した。総合して、これらのアプローチは、望ましくないヘテロ二量体およびホモ二量体と比較して、所望のヘテロ二量体の形成を増強する。
【0162】
ノブ・イントゥ・ホール技術では、アミノ酸側鎖を操作して、二重特異性ヘテロ二量体の対になったCH3ドメインの界面に相補的な分子形状を形成するが、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体の形成を妨げる別の方法は、アミノ酸側鎖を反対の電荷を有するように操作することである。重鎖ヘテロ二量体のCH3ドメインの結合は、反対に帯電した残基の対合によって有利となるが、対になった正電荷または対になった負電荷は、ホモ二量体形成をエネルギー的に有利にしない。WO2006/106905は、2種以上のポリペプチドで構成されるヘテロ多量体(例えば2つの異なる抗体重鎖のヘテロ二量体)であって、アミノ酸残基に置換を含み、ヘテロ多量体結合が調節されるように該ポリペプチドとの間に界面を形成するヘテロ多量体を生成するための方法を説明しており、この方法は、
(a)1つ以上の多量体を形成するポリペプチド間の会合が2種以上の多量体を形成し得るヘテロ多量体において阻害されるように、元の核酸からのポリペプチド間の界面を形成するアミノ酸残基をコードする核酸を修飾することと、
(b)ステップ(a)によって修飾された核酸配列が発現されるように、宿主細胞を培養することと、
(c)宿主細胞培養物から該ヘテロ多量体を回収することと、
を含み、ステップ(a)の修飾は、界面を形成する変異残基を含む2つ以上のアミノ酸残基が同じ種類の正または負の電荷を保持するように、1つ以上のアミノ酸残基が置換されるように元の核酸を修飾する。
【0163】
この一例は、重鎖ホモ二量体の界面において静電反発力を導入することによって、例えば、CH3ドメインの界面において互いに接触するアミノ酸残基を修飾することによって、重鎖間の会合を抑制することであり、
位置356および439
位置357および370
位置399および409
EU番号付けシステムに従っている残基番号付け、を含む。
【0164】
これらの残基の対の1つ以上を、最初の重鎖のCH3ドメインに同様の電荷(両方が正または両方が負)を有するように修飾することにより、重鎖ホモ二量体の対合が静電反発によって阻害される。第2の(異なる)重鎖のCH3ドメインの同じ対または残基の対を、第1の重鎖の対応する残基と比較して反対の電荷を有するように操作することにより、静電引力による第1および第2の重鎖のヘテロ二量体対合が促進される。
【0165】
重鎖定常領域CH3界面のアミノ酸は、電荷対を導入するように修飾されたが、変異は、WO2006/106905の表1に列挙されている。重鎖位置356、357、370、399、409、および439のアミノ酸を修飾して、CH3界面に電荷誘導分子反発を導入することは、目的の二重特異性抗体の形成効率を増加させる効果を有することが報告された。例えば、EUの番号付けを使用して、一方の重鎖定常領域は変異K439E(正に帯電したLysが負に帯電したGluに置き換えられる)を含むIgG4定常領域であってもよく、他方の重鎖定常領域は変異E356K(負に帯電したGluが正に帯電したLysに置き換えられる)を含むIgG4定常領域であってもよい。「電荷の対合」は、これら2つの定常領域のヘテロ二量体化からアセンブルされたFc領域の残基439および356の空間的近接性から得られる。
【0166】
2つの異なる重鎖定常領域が使用される場合、これらは、いずれかの方向で抗体の2つの異なるVHドメインに接続され得る。例えば、
第1の重鎖は、抗FIX VHドメインと、K439Eを含む定常領域とを含み得、第2の重鎖は、抗FX VHドメインと、E356Kを含む定常領域とを含み得るか、または
第1の重鎖は、抗FIX VHドメインと、E356Kを含む定常領域とを含み得、第2の重鎖は、抗FX VHドメインと、K439Eを含む定常領域とを含み得る。
【0167】
WO2006/106905はまた、IgG4のCH3ドメインがノブ・イントゥ・ホール変異によって操作されたFXおよびFIXaに結合する、二重特異性IgG抗体を例示した。a型a型(IgG4γa)はY349CおよびT366Wで置換されたIgG4であり、b型(IgG4γb)はE356C、T366S、L368A、およびY407Vで置換されたIgG4であった。
【0168】
別の例では、抗体のVHおよびVLドメインへの電荷対の導入を使用して、「誤った」VH-VL対の形成(一方の抗体のVHと他方の抗体のVLの対合)が阻害された。一例では、VHおよびVLのQ残基がKもしくはR(正)またはEもしくはD(負)に変更されて、Q側鎖間の水素結合が阻害され、静電反発が導入された。
【0169】
電荷対のさらなる例は、単一の細胞からヘテロ二量体のCH3ドメインを含む分子を生成するための方法を説明したWO2013/157954に開示されており、分子は、界面を形成することができる2つのCH3ドメインを含む。この方法は、細胞中に、
(a)第1のCH3ドメインを含むポリペプチド鎖をコードする第1の核酸分子であって、この鎖は、EU番号付けシステムに従って366位にK残基を含む、第1の核酸分子と、
(b)第2のCH3ドメインを含むポリペプチド鎖をコードする第2の核酸分子であって、この鎖は、EU番号付けシステムに従って351位にD残基を含む、第2の核酸分子とを提供することを含み、
この方法は、宿主細胞を培養し、2つの核酸分子の発現を可能にし、培養物からヘテロ二量体のCH3ドメインを含む分子を採取するステップをさらに含む。
【0170】
ホモ二量体形成よりもヘテロ二量体形成を促進するためにポリペプチド鎖における静電相互作用を操作するさらなる方法が、WO2011/143545で説明された。
【0171】
CH3-CH3界面での操作の別の例は、ストランド交換操作ドメイン(SEED)CH3ヘテロ二量体である。CH3ドメインは、ヒトIgAおよびIgG CH3配列の交互のセグメントで構成され、「SEED-bodies」と呼ばれる相補的なSEEDヘテロ二量体の対を形成する[15;WO2007/110205]。
【0172】
二重特異性はまた、プロテインAなどの精製試薬への結合に対する親和性を改変するためにCH3ドメインで示差的に修飾されたヘテロ二量体化重鎖を用いて産生される。WO2010/151792は、以下
N末端からC末端まで、第1のエピトープに選択的に結合する第1のエピトープ結合領域、IgG1、IgG2、およびIgG4から選択されるヒトIgGの第1のCH3領域を含む免疫グロブリン定常領域を含む第1のポリペプチドと、
N末端からC末端まで、第2のエピトープに選択的に結合する第2のエピトープ結合領域、IgG1、IgG2、およびIgG4から選択されるヒトIgGの第2のCH3領域を含む免疫グロブリン定常領域を含む第2のポリペプチドと、を含み、ここで、第2のCH3領域は、プロテインAへの第2のCH3ドメインの結合を低減または排除する修飾を含む、ヘテロ二量体二重特異性抗原結合タンパク質を記載した。
【0173】
したがって、Fc領域は、ホモ二量体種からの活性ヘテロ二量体の示差的精製を促進するための1つ以上の変異を含み得る。一方の重鎖定常領域のCH3は、変異His435Argおよび/またはTyr436Phe(EU番号付け)[16]を含み得、他方の重鎖定常領域のCH3は、該変異を欠いている。例えば、エミシズマブは、一方のCH3がHis435を含み、他方のCH3がHis435Argを含むFc領域を含む。
【0174】
本発明の二重特異性抗体は、必要に応じてこれらの技術および分子形式のうちのいずれかを用い得る。
【0175】
抗体の生成および修飾
抗体を同定および調製するための方法は、よく知られている。本明細書に記載の単離された(任意選択で変異された)核酸コード抗体(またはその重鎖-軽鎖対もしくはポリペプチド結合アーム)は、宿主細胞、例えば、議論されるようにCHO細胞に導入され得る。次いで、宿主細胞は、任意の所望の抗体形式を産生するために、抗体の(または抗体重鎖および/もしくは軽鎖可変ドメイン、重鎖-軽鎖対、またはポリペプチド結合アームの)発現のための条件下で培養される。いくつかの可能な抗体形式、例えば、免疫グロブリン全体、抗原結合断片、および他の設計が本明細書に記載されている。
【0176】
VHおよびVLドメインのうちのいずれかの可変ドメインアミノ酸配列バリアント、またはその配列が本明細書に具体的に開示されているCDRは、考察されるように、本発明に従って用いられ得る。
【0177】
本明細書に記載のように、抗体の重鎖および/または軽鎖可変ドメインをコードする核酸に対する改変、例えば残基の変異およびバリアントの生成を実施することができる。大規模製造のための抗体配列の最適化、精製の促進、安定性の増強、または所望の医薬品製剤への含有適合性の改善を含む、バリアントを作り出すことが望ましくあり得る理由は多く存在する。タンパク質操作の作業は、例えば、1つのアミノ酸を代替アミノ酸で置換し(任意選択で、CysおよびMetを例外とする可能性もあるが、この位置においてすべての天然型アミノ酸を含むバリアントを生成すること)、かつ機能および発現への影響を監視して最適な置換を決定するために、抗体配列中の1つ以上の標的残基において実施され得る。場合によっては、残基をCysまたはMetで置換するか、またはこれらの残基を配列に導入することは、そうすることが、例えば、新しい分子内または分子間システイン-システイン結合の形成を通して、製造上の困難を引き起こす可能性があるため、望ましくない。リード候補が選択され、製造および臨床開発用に最適化されている場合、概して、その抗原結合特性を可能な限り変化させないか、または少なくとも親分子の親和性および効力を保持することが望ましいであろう。しかしながら、親和性、交差反応性、または中和効力などの重要な抗体特性を調節するために、バリアントを生成することもできる。
【0178】
本明細書に開示される抗体VHまたはVLドメインのフレームワーク領域内で、1つ以上のアミノ酸変異が任意選択で行われてもよい。例えば、対応するヒト生殖細胞セグメント配列とは異なる1つ以上の残基が生殖細胞に戻され得る。本明細書の例示的な抗体のVHおよびVLドメインに対応するヒト生殖細胞遺伝子セグメント配列が、表S-12に示される。
【0179】
二重特異性抗原結合分子において、抗原結合部位は、開示された抗FIXまたは抗FX抗体のうちのいずれかのHおよび/またはL CDRのセットを含んでもよく、開示されたHおよび/またはL CDRのセット内に1つ以上のアミノ酸変異を伴う。変異は、アミノ酸の置換、欠失、または挿入であってもよい。したがって、例えば、開示されたHおよび/またはL CDRのセット内に1つ以上のアミノ酸置換があってもよい。例えば、Hおよび/またはL CDRのセット内に、最大12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2個の変異、例えば置換があってもよい。例えば、HCDR3には最大6、5、4、3、または2個の変異、例えば置換、および/またはLCDR3には最大6、5、4、3、または2個の変異、例えば置換があってもよい。
【0180】
抗体は、表に示されるように、VHドメインと少なくとも60、70、80、85、90、95、98、もしくは99%のアミノ酸配列同一性を有するVHドメイン、および/またはこれらの抗体のうちのいずれかのVLドメインと少なくとも60、70、80、85、90、95、98、もしくは99%のアミノ酸配列同一性を有するVLドメインを含んでもよい。2つのアミノ酸配列の同一性%を計算するために使用され得るアルゴリズムには、例えば、BLAST、FASTA、または例えば、デフォルトパラメーターを用いるスミス-ウォーターマンアルゴリズムが含まれる。特定のバリアントは、1つ以上のアミノ酸配列の改変(アミノ酸残基の付加、欠失、置換、および/または挿入)を含んでもよい。
【0181】
改変は、1つ以上のフレームワーク領域および/または1つ以上のCDRで行われ得る。バリアントは任意選択で、CDR変異誘発によって提供される。改変は通常、機能の損失をもたらさず、そのため、そのように改変されたアミノ酸配列を含む抗体は、その抗原に結合する能力を保持し得る。それは、例えば、本明細書に記載のアッセイで測定されるように、改変が行われない抗体と同じ定量的結合能力を保持し得る。そのように改変されたアミノ酸配列を含む抗体は、その抗原に結合する改善された能力を有し得る。
【0182】
改変は、1つ以上のアミノ酸残基を非天然型または非標準アミノ酸で置換すること、1つ以上のアミノ酸残基を非天然型または非標準形態に修飾すること、または1つ以上の非天然型もしくは非標準アミノ酸を配列に挿入することを含み得る。本発明の配列における改変の数および位置の例は、本明細書の他の箇所に記載されている。天然型アミノ酸には、それらの標準一文字コードによってG、A、V、L、I、M、P、F、W、S、T、N、Q、Y、C、K、R、H、D、Eとして識別される、20個の「標準」L-アミノ酸が含まれる。非標準アミノ酸には、ポリペプチド骨格に組み込まれるか、または既存のアミノ酸残基の修飾から生じる可能性のある任意の他の残基が含まれる。非標準アミノ酸は、天然型でも非天然型でもよい。
【0183】
本明細書で使用する「バリアント」という用語は、1つ以上のアミノ酸または核酸の欠失、置換、または付加による親ポリペプチドまたは核酸とは異なるが、親分子の1つ以上の特定の機能または生物学的活性を保持するペプチドまたは核酸を指す。アミノ酸置換は、アミノ酸が異なる天然型アミノ酸残基で置き換えられる改変を含む。そのような置換は「保存的」として分類され得、その場合、ポリペプチドに含まれるアミノ酸残基は、極性、側鎖機能性またはサイズのいずれかに関して類似の特徴を有する別の自然に発生するアミノ酸で置き換えられる。かかる保存的置換は、当該技術分野で周知である。本発明によって包含される置換はまた、「非保存的」であってもよく、ペプチド中に存在するアミノ酸残基が、異なるグループ由来の天然型アミノ酸等の異なる特性を有するアミノ酸で置換される(例えば、電荷または疎水性アミノ酸をアラニンで置換する)か、あるいは天然型アミノ酸が、特殊な非従来型アミノ酸で置換される。いくつかの実施形態では、アミノ酸置換は、保存的である。また、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに関して使用される場合、バリアントという用語内に包含されて、参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較して、それぞれ(例えば、野生型ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較して)、1次、2次、または3次構造において変化し得るポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。
【0184】
いくつかの態様では、当該技術分野で周知の方法を使用して単離または生成された「合成バリアント」、「組換えバリアント」、または「化学的に修飾された」ポリヌクレオチドバリアントもしくはポリペプチドバリアントを使用することができる。「修飾されたバリアント」は、以下に記載されるように、保存的または非保存的アミノ酸変化を含むことができる。ポリヌクレオチドの変化は、参照配列によってコードされるポリペプチド中のアミノ酸の置換、付加、欠失、融合、および切断をもたらすことができる。いくつかの態様は、例えば、ヒトタンパク質中で通常生じないオルニチンの挿入であるがこれに限定されない、バリアントの基盤であるペプチド配列中で通常生じない挿入バリアント、欠失バリアント、またはアミノ酸の置換を伴う置換バリアント(アミノ酸および他の分子の挿入および置換を含む)。「保存的置換」という用語は、ポリペプチドを説明する場合、ポリペプチドの活性を実質的に変化させないポリペプチドのアミノ酸組成の変化を指す。例えば、保存的置換は、同様の化学的性質(例えば、酸性、塩基性、正または負電荷、極性または非極性など)を有する異なるアミノ酸残基を、アミノ酸残基で置換することを指す。保存的アミノ酸置換は、ロイシンのイソロイシンまたはバリンによる置き換え、アスパラギン酸のグルタミン酸による置き換え、またはトレオニンのセリンによる置き換えを含む。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当該技術分野で周知である。例えば、以下の6つの群は、互いについて保存的置換であるアミノ酸を各々含有する:1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。(参照によりその全体が組み込まれるCreighton,Proteins,W.H.Freeman and Company(1984)も参照されたい。)いくつかの実施形態では、1個のアミノ酸またはごく一部のアミノ酸を改変、付加、または欠失する個々の置換、欠失、または付加も、その変化がペプチドの活性を低減しない場合は「保存的置換」とみなされ得る。挿入または欠失は、典型的には、約1~5アミノ酸の範囲である。保存的アミノ酸の選択は、ペプチドにおける置換されるアミノ酸の位置、例えば、アミノ酸がペプチドの外側にあり溶媒に曝露するか、または内側にあり溶媒に曝露しないかに基づいて選択してもよい。
【0185】
既存のアミノ酸の位置(溶媒へのその曝露を含む)(すなわち、溶媒に曝露されていない内部局在アミノ酸と比較して、アミノ酸が溶媒に曝露されているか、またはペプチドもしくはポリペプチドの外側表面上に存在するか)に基づき、既存のアミノ酸を置換するアミノ酸を選択することができる。そのような保存的アミノ酸置換の選択は、例えば、Dordo et al,J.MoI Biol,1999,217,721-739、およびTaylor et al,J.Theor.Biol.119(1986);205-218、およびS.French and B.Robson,J.Mol.Evol.19(1983)171に記載されているように、当該分野においてよく知られている。したがって、タンパク質またはペプチドの外側のアミノ酸(すなわち、溶媒に曝露されたアミノ酸)に適した保存的アミノ酸置換を選択することができ、例えば、次の置換:YのFによる置換、TのSまたはKによる置換、PのAによる置換、EのDまたはQによる置換、NのDまたはGによる置換、RのKによる置換、GのNまたはAによる置換、TのSまたはKによる置換、DのNまたはEによる置換、IのLまたはVによる置換、FのYによる置換、SのTまたはAによる置換、RのKによる置換、GのNまたはAによる置換、KのRによる置換、AのS、K、またはPによる置換が使用され得るが、これらに限定されない。
【0186】
代替の実施形態では、タンパク質またはペプチドの内側のアミノ酸に適した、包含される保存的アミノ酸置換を選択することもでき、例えば、タンパク質またはペプチドの内側にあるアミノ酸(すなわち、アミノ酸は溶媒に曝露されていない)の好適な保存的置換を使用することができ、例えば、次の保存的置換:YのFによる置換、TのAまたはSによる置換、IのLまたはVによる置換、WのYによる置換、MのLによる置換、NのDによる置換、GのAによる置換、TはAまたはSによる置換、DのNによる置換、IのLまたはVによる置換、FのYまたはLによる置換、SのAまたはTによる置換、およびAのS、G、T、またはVによる置換を使用することができるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、非保存的アミノ酸置換もバリアントの用語に包含される。
【0187】
本発明は、本明細書の表に示される抗体VHおよび/またはVLドメインのVHおよび/またはVLドメインバリアントを含む、ポリペプチド結合アームを産生する方法を含む。バリアントVHドメインを含むFIXa結合ポリペプチドアームは、
(i)親抗体VHドメインのアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、置換、または挿入によって、親抗体VHドメインのアミノ酸配列バリアントである抗体VHドメインを提供することであって、
ここで、親抗体VHドメインは、図20に示されるVHドメイン、例えば、N1280Hであるか、またはこれらのVHドメインのいずれかの重鎖相補性決定領域を含むVHドメインである、提供することと、
(ii)任意選択で、そのように提供されたVHドメインをVLドメインと組み合わせて、VH/VLの組み合わせを提供することと、
(iii)VHドメインまたはそのように提供されたVH/VLドメインの組み合わせを試験して、1つ以上の所望の特性を有する抗体を同定することと、を含む方法によって産生され得る。
【0188】
VHドメインは、その配列が表S-9Aまたは図20に示される任意のVHドメイン、または表S-9Aまたは図20に示されるVHドメインのHCDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)のセットを含む任意のVHドメインであってもよい。
【0189】
FIXa結合ポリペプチドアーム、およびそれらを含む二重特異性抗FIXa/FX結合分子の望ましい特性は、本明細書の他の箇所に詳述されている。例えば、この方法は、VHドメインまたはVH/VLドメインの組み合わせが本明細書に記載されるようにFIXaに結合することを確認することを含んでもよい。
【0190】
VLドメインがこの方法に含まれる場合、VLドメインは、N0128L VLドメインであってもよいか、またはN0128L VLドメインのアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、置換、または挿入によって提供されるバリアントであってもよいか、またはN0128L VLドメインの軽鎖相補性決定領域を含むVLドメインであってもよい。VLドメインは0325L VLドメインであり得る。
【0191】
バリアント抗体を生成する方法は、任意選択で、抗体またはVH/VLドメインの組み合わせのコピーを産生することを含んでもよい。方法は、例えば、コード核酸の発現によって、FIXa結合ポリペプチドアームを含む二重特異性抗体を産生することをさらに含んでもよい。宿主細胞における組換え発現を含む発現の好適な方法は、本明細書に詳細に記載されている。
【0192】
コード核酸および発現方法
本発明に従って、二重特異性抗原結合分子、例えば、二重特異性抗体をコードする単離された核酸が提供され得る。核酸は、DNAおよび/またはRNAであってもよい。合成起源のゲノムDNA、cDNA、mRNA、もしくは他のRNA、またはそれらの任意の組み合わせは、抗体をコードすることができる。
【0193】
本発明は、上記の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含むプラスミド、ベクター、転写、または発現カセットの形態の構築物を提供する。例示的なヌクレオチド配列は、表に含まれる。本明細書に記載されるヌクレオチド配列への言及は、文脈が他の意味を必要としない限り、特定の配列を有するDNA分子を包含し、TがUに置換される特定の配列を有するRNA分子を包含する。
【0194】
本発明はまた、抗原結合分子をコードする1つ以上の核酸を含む組換え宿主細胞を提供する。コードされた分子を産生する方法は、例えば、核酸を含む組換え宿主細胞を培養することによる、核酸からの発現を含んでもよい。二重特異性分子は、そのように得られ得、任意の好適な技術を使用して単離および/または精製され、次いで必要に応じて使用され得る。産生方法は、薬学的に許容される賦形剤などの少なくとも1つの追加の構成成分を含む組成物に、生成物を製剤化することを含んでもよい。
【0195】
様々な異なる宿主細胞中のポリペプチドのクローニングおよび発現のための系は、よく知られている。好適な宿主細胞には、細菌、哺乳動物細胞、植物細胞、糸状菌、酵母、およびバキュロウイルス系、ならびにトランスジェニック植物および動物が含まれる。
【0196】
原核細胞中の抗体および抗体断片の発現は、当該技術分野において十分に確立されている。一般的な細菌宿主は、E.coliである。培養中の真核細胞中の発現は、産生のための選択肢として当業者にも利用可能である。異種ポリペプチドの発現のために当該技術分野において利用可能な哺乳動物細胞株には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOマウス黒色腫細胞、YB2/0ラット骨髄腫細胞、ヒト胎児由来腎臓細胞、ヒト胎児由来網膜細胞、他多数が含まれる。
【0197】
ベクターは、必要に応じてプロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子、および他の配列を含む、適切な調節配列を含んでもよい。抗体をコードする核酸は、宿主細胞に導入され得る。核酸は、リン酸カルシウムのトランスフェクション、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム媒介トランスフェクション、およびレトロウイルスまたは他のウイルス、例えば、ワクシニアまたは昆虫細胞の場合はバキュロウイルスを使用した形質導入を含む、様々な方法によって真核細胞に導入され得る。宿主細胞、特に真核細胞への核酸の導入は、ウイルスまたはプラスミド系を使用してもよい。プラスミド系は、エピソーム的に維持されてもよいか、または宿主細胞もしくは人工染色体に組み込まれてもよい。組み込みは、単一または複数の遺伝子座において1つ以上のコピーのランダム統合または標的統合のいずれかによるものであり得る。細菌細胞の場合、好適な技術には、バクテリオファージを使用した塩化カルシウムの形質転換、エレクトロポレーション、およびトランスフェクションが含まれる。導入に続いて、例えば、遺伝子の発現のための条件下で宿主細胞を培養し、次いで任意選択で、抗体を単離または精製することによって、核酸を発現させてもよい。
【0198】
本発明の核酸は、宿主細胞のゲノム(例えば、染色体)に統合されてもよい。標準的な技術に従って、ゲノムとの組換えを促進する配列を含むことによって、統合が促進され得る。二重特異性をコードする核酸は、宿主(例えば、CHO)細胞のゲノムDNA、例えば、染色体DNAに統合され得、得られた組換え細胞は、二重特異性を発現するために培養され得る。細胞株開発プロセスは、二重特異性をコードする核酸を複数の宿主細胞に導入し、所望の収量(例えば、少なくとも0.5g/Lまたは少なくとも1g/L)で所望のレベル(例えば、少なくとも95%のヘテロ二量体、および5%以下のホモ二量体汚染物質)の二重特異性抗体を発現する細胞株を選択することを含み得る。好ましくは、細胞株は、細胞培養において数世代にわたって安定した発現を保持し、したがって、例えば、少なくとも60世代にわたってこれらのレベルの産生を維持し得る。
【0199】
本発明はまた、二重特異性抗原結合分子を発現させるために、発現系において本明細書に記載の核酸を使用することを含む方法を提供する。望ましくは、抗原結合分子は、初期発酵後の細胞上清中に少なくとも0.5g/Lの収量で、好ましくは2g/Lを超える収量で発現される。溶解度は、分子の著しい凝集または分解を伴わずに、10mg/mL超、好ましくは50mg/mL超でなければならない。
【0200】
グローバルな治療に適した医薬品を提供するために、抗体は、例えば、少なくとも100リットルまたは少なくとも200リットル、例えば100~250リットルの細胞培養容量で大規模に生産することができる。バッチ培養、特に流加培養は、現在、臨床的および商業的使用のための生物療法の製造に一般的に使用されており、そのような方法は、抗体を生成するために本発明において適切に使用されてもよく、その後、本明細書に記載の精製および製剤化工程が続く。バイオリアクターは、金属(例えば、ステンレス鋼)容器であり得るか、または単回使用のバイオリアクターであり得る。
【0201】
製剤および投与
本発明による二重特異性抗原結合分子(「二重特異性抗体(bispecifics)」)、およびそれらをコードする核酸分子は、通常、単離された形態で提供される。二重特異性抗体VHおよび/またはVLドメイン、ならびに核酸は、それらの自然環境または産生環境から精製されて提供されてもよい。単離された抗原結合分子および単離された核酸は、それらがインビボで見られる他のポリペプチドもしくは核酸、またはそれらが調製され(例えば、細胞培養)、そのような調製がインビトロでの組換えDNA技術によるものである環境など、それらが自然に会合される材料を含まないか、または実質的に含まない。任意選択で、単離された抗原結合分子または核酸は、(1)それが通常見られる少なくともいくつかの他のタンパク質を含まないか、(2)同じ源からの、例えば、同じ種からの他のタンパク質を本質的に含まないか、(3)異なる種の細胞によって発現されるか、(4)ポリヌクレオチド、脂質、炭水化物、または自然界でそれが会合される他の材料の少なくとも約50%から単離されているか、(5)それが自然界で会合されていないポリペプチドと作動可能に会合されているか(共有結合もしくは非共有結合相互作用によって)、または(6)自然界で生じない。
【0202】
二重特異性抗体は、プロテインAクロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーによって(例えば、細胞培養上清から)精製することができる。二重特異性抗体は、
コード核酸を含む培養宿主細胞からの2つの抗体重鎖および共通の軽鎖を発現させることと、
抗体重鎖および共通の軽鎖からアセンブルされた二重特異性抗体および単一特異性抗体を含む細胞培養物を取得することと、
(例えば、プロテインAクロマトグラフィーを使用して)細胞培養物から二重特異性抗体および単一特異性抗体を単離することと、
(例えば、陽イオン交換クロマトグラフィーを使用して)単一特異性抗体から二重特異性抗体を精製することと、を含む方法により生成することができる。
【0203】
二重特異性抗体またはそれらをコードする核酸は、希釈剤またはアジュバントとともに製剤化され、それでもなお実際の目的のために単離され得、例えばそれらは、免疫アッセイに使用するためのマイクロタイタープレートをコーティングするために使用される場合、担体と混合されてもよく、療法に使用する場合、薬学的に許容される担体または希釈剤と混合されてもよい。本明細書の他の箇所に記載されるように、他の活性成分も治療調製物に含まれ得る。抗原結合分子は、生体内で自然に、またはCHO細胞などの異種真核細胞の系によってグリコシル化されてもよく、または(例えば、原核細胞での発現によって産生された場合)非グリコシル化されてもよい。本発明は、修飾グリコシル化パターンを有する抗体を包含する。
【0204】
典型的には、単離された生成物は、所与の試料の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、または少なくとも約50%を構成する。二重特異性抗体は、その自然環境または産生環境に見られる、その治療、診断、予防、研究、または他の使用を妨げるタンパク質またはポリペプチドまたは他の汚染物質を実質的に含まない可能性がある。
【0205】
本明細書の他の場所で論じられるように、二重特異性抗体に対する抗体の重鎖および軽鎖の発現は、活性なヘテロ二量体二重特異性抗体に加えて、望ましくないホモ二量体種(抗FIXおよび抗FX抗体)を生成する可能性がある。好ましくは、二重特異性は、ヘテロ二量体二重特異性抗体が全抗体の少なくとも95%を占め、ホモ二量体抗体汚染物質が5%以下で存在する組成物で提供される。組成物は、少なくとも98%または少なくとも99%のヘテロ二量体二重特異性を含み得、ホモ二量体汚染物質は、それぞれ0~2%または0~1%を表す。
【0206】
本発明は、本明細書に記載の二重特異性抗体を含む治療組成物を提供する。そのような二重特異性抗体をコードする核酸を含む治療組成物も提供される。コード核酸は、本明細書の他の箇所でより詳細に記載され、DNAおよびRNA、例えばmRNAを含む。本明細書に記載の治療方法において、二重特異性抗体をコードする核酸の使用、および/またはそのような核酸を含む細胞の使用は、二重特異性分子自体を含む組成物の代替手段として(またはそれに加えて)使用され得る。したがって、任意選択で核酸がゲノムに安定的に統合される、二重特異性抗体をコードする核酸を含む細胞は、患者における治療的使用のための薬剤を表す。二重特異性抗体をコードする核酸は、目的の患者に由来し、かつエクスビボで修飾されたヒト細胞に導入されてもよい。コード核酸を含む細胞の患者への投与は、二重特異性抗体を発現させることが可能な細胞のリザーバを提供し、これは、単離された核酸または単離された二重特異性分子の投与と比較して、より長期間にわたって治療的利益を提供し得る。二重特異性抗体をコードする核酸は、患者の細胞で核酸が発現され、遺伝性第VIII因子欠乏症を補うなどの治療効果を提供するように、インビボで患者の細胞にコード核酸を導入することを含む遺伝子療法に使用するために提供され得る。
【0207】
組成物は、好適な担体、賦形剤、ならびに改善された移動、送達、耐性などを提供するために製剤に組み込まれる他の薬剤を含んでもよい。多数の適切な製剤は、すべての製薬化学者に既知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Paで見ることができる。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(陽イオン性または陰イオン性)含有小胞(LIPOFECTINT(商標)など)、DNA共役体、無水吸収ペースト、水中油および油中水乳剤、カーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカーボワックスを含む半固体混合物が含まれる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。組成物は、医療注射緩衝液と組み合わせて、抗体または核酸を含んでもよい。
【0208】
二重特異性抗体またはそれらをコードする核酸は、患者への所望の投与経路のために、例えば、注射用の液体(任意選択で水溶液)中で製剤化されてもよい。注射用の二重特異性を製剤化するための例示的な緩衝液は、20mMの酢酸ナトリウム、150mMの塩酸アルギニン、0.05%w/vのポリソルベート80、pH5.2の水溶液である。
【0209】
様々な送達システムが既知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用され得る。導入方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、任意の便利な経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮内層または粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管膜など)を通した吸収によって投与されてもよく、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与されてもよい。投与は、全身または局所であり得る。抗原結合分子は、好ましくは、皮下注射によって投与される。
【0210】
医薬組成物はまた、小胞、特に、リポソーム中で送達され得る(Langer(1990)Science 249:1527-1533;Treat et al.(1989)in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353-365;Lopez-Berestein,ibid.,pp.317-327を参照;概して同書を参照)。
【0211】
ある特定の状況では、医薬組成物は、制御放出システムで送達され得る。一実施形態では、ポンプが使用され得る(Langer,上記、Sefton(1987)CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用され得る。Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.(1974)を参照されたい。さらに別の実施形態では、放出制御系を組成物の標的の近傍に配置することができるので、したがって全身用量の一部しか必要としない(例えば、Goodson,in Medical Applications of Controlled Release,supra,vol.2,pp.115-138,1984を参照されたい)。
【0212】
注射用調製物は、静脈内、皮下、皮内および筋肉内注射、点滴注入等のための剤形を含み得る。これらの注射用調製物は公知の方法によって調製され得る。例えば、注射用調製物は、例えば、注射に従来使用されている滅菌水性媒体または油性媒体に上記の抗体またはその塩を溶解、懸濁、または乳化することによって調製され得る。注射用の水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の補助剤を含む等張液などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用されてもよい。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、大豆油などがあり、これらは、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用されてもよい。そのように調製された注射液は、適切なアンプルに充填され得る。本発明の医薬組成物は、標準的な針および注射器で皮下または静脈内に送達され得る。治療は、診療所での使用に限定されないことが想定される。したがって、無針デバイスを使用した皮下注射も有利である。皮下送達に関して、ペン送達デバイスは、本発明の医薬組成物の送達に容易に応用が利く。そのようなペン送達デバイスは、再利用可能または使い捨てであり得る。再利用可能なペン型送達デバイスは、一般に、医薬組成物を含む交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内のすべての医薬組成物が投与され、カートリッジが空になったら、空のカートリッジを容易に廃棄して、医薬組成物を含む新しいカートリッジと交換することができる。その後、ペン型送達デバイスを再利用することができる。使い捨てペン型送達デバイスには、交換可能なカートリッジがない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、デバイス内のリザーバに保持された医薬組成物が事前に充填されている。いったん医薬組成物がなくなりリザーバが空になると、デバイス全体が廃棄される。多数の再利用可能なペンおよび自動注射器送達デバイスが、本発明の医薬組成物の皮下送達に応用が利く。例としては、ほんの数例を挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.,Woodstock,UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems,Burghdorf,Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.,Indianapolis,Ind.)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson,Franklin Lakes,N.J.)、OPTIPENT(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、ならびにOPTICLIKT(商標)(Sanofi-Aventis,Frankfurt,Germany)が挙げられるが、もちろんこれらに限定されない。本発明の医薬組成物の皮下送達における用途を有する使い捨てペン型送達デバイスの例には、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-Aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)が含まれるが、確実にそれらに限定されない。
【0213】
有利に、上記の経口または非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合するのに適した単位用量で剤形に調製される。単位用量のそのような剤形としては、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射液(アンプル)、坐剤などが挙げられる。含まれる該(aforesaid)抗体の量は、概して、単位用量の剤形当たり約5~約500mgであり、特に注射の形態では、該抗体は、約5~約100mgで、他の剤形では約10~約250mgで含まれてもよい。
【0214】
二重特異性抗体、核酸、またはそれを含む組成物は、薬瓶、注射器、IV容器、または注射デバイスなどの医療用容器に含まれてもよい。一例では、二重特異性抗体、核酸、または組成物は、インビトロであり、滅菌容器内にあってもよい。一例では、本明細書に記載されるような治療方法で使用するための二重特異性抗体、パッケージング、および説明書を含むキットが提供される。
【0215】
本発明の一態様は、本発明の二重特異性抗体または核酸と、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物であり、その例は、上に列挙されている。「薬学的に許容される」とは、USA Federalもしくは州政府の規制機関によって承認されたか、または承認見込みのもの、またはU.S.Pharmacopeiaもしくはヒトを含む動物での使用が一般的に認められている薬局方に列挙されたものを指す。薬学的に許容される担体、賦形剤、またはアジュバントは、二重特異性薬剤、例えば、本明細書に記載の任意の抗体またはポリペプチド分子と一緒に患者に投与され得、治療量の薬剤を送達するのに十分な用量で投与された場合に、その薬理活性を破壊せず、無毒である。
【0216】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、本発明による組成物中の唯一の活性成分である。したがって、組成物は、抗体から構成されてもよいか、または1つ以上の薬学的に許容される賦形剤とともに二重特異性抗体から構成されてもよい。しかしながら、本発明による組成物は任意選択で、1つ以上の追加の活性成分を含む。
【0217】
必要に応じて(例えば、急性出血の管理のために)、二重特異性は、組換え第VIII因子(例えば、ツロクトコグアルファ)または組換え第VIIa因子(例えば、エプタコグアルファ)を含む血友病の他の1つ以上の治療と組み合わせることができる。本明細書に記載の二重特異性抗体の機能特性および安全性プロファイルは、そのようなさらなる治療薬とのそれらの安全な組み合わせに適していると考えられている。二重特異性は、組換え因子Va(FVa)、例えば、US10407488に記載されているような活性化バリアントFVaと組み合わせることができる。
【0218】
本発明による二重特異性抗体または核酸とともに投与することが望ましくあり得る他の治療薬には、鎮痛薬が含まれる。そのような薬剤または薬剤の組み合わせは、組み合わせ調製物であるか別個の調製物であるかにかかわらず、本発明による抗体または核酸と組み合わせて投与され得るか、またはそれらとの組成物として提供され得る。本発明による二重特異性抗体または核酸は、言及されたものなどの別の治療薬(複数可)とともに、別々に、順次に、または並行して、かつ任意選択で組み合わせ調製物として投与されてもよい。
【0219】
複数の組成物が別々または同時に投与され得る。別々の投与とは、異なる時間、例えば、少なくとも10、20、30、もしくは10~60分間隔で、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12時間間隔で投与される2つの組成物を指す。組成物を24時間間隔で、またはさらにより長い間隔で投与することもできる。あるいは、2つ以上の組成物が、例えば10分未満または5分未満の間隔で同時に投与され得る。同時に投与される組成物は、いくつかの態様では、構成成分の各々の同様のまたは異なる徐放機構の有無にかかわらず、混合物として投与され得る。
【0220】
二重特異性抗体およびそれらをコードする核酸は、治療薬として使用され得る。本明細書の患者は、概して哺乳動物、典型的にはヒトである。二重特異性抗体または核酸は、例えば、本明細書で言及される任意の投与経路によって哺乳動物に投与され得る。
【0221】
投与は通常、「治療的有効量」であり、これは、投与される目的の所望の効果を生じ、患者に利益を示すのに十分な量である。正確な量は、治療の目的によって決まり、既知の技術を使用して当業者によって確認可能である(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)。治療の処方、例えば、投与量の決定などは、一般開業医および他の医師の責任の範囲内であり、治療されている症状の重症度および/または疾患の進行によって決まり得る。二重特異性抗体または核酸の治療的有効量または好適な用量は、動物モデルにおけるそのインビトロ活性およびインビボ活性を比較することによって決定され得る。マウスおよび他の試験動物における有効投与量をヒトに外挿するための方法は、知られている。
【0222】
二重特異性抗体は、用量毎に以下の範囲のうちの1つの量で投与され得る:
約10μg/kg体重~約100mg/kg体重、
約50μg/kg体重~約5mg/kg体重、
約100μg/kg体重~約10mg/kg体重、
約100μg/kg体重~約20mg/kg体重、
約0.5mg/kg体重~約20mg/kg体重、または
約5mg/kg体重以下、例えば、4未満、3未満、2未満、または1mg/kg未満の抗体。
【0223】
投与される抗原結合分子の用量は、最大1mg/kgであってもよい。それは、例えば30~150mg/mLなど、小児集団に対してはより低い強度で製剤化され得る。二重特異性分子は、小児集団に対してはより少量でパッケージ化されてもよく、例えば、25~75mg、例えば30~60mgの薬瓶で提供されてもよい。
【0224】
本明細書に記載の治療方法では、1回以上の用量が投与されてもよい。場合によっては、長期的な利益を達成するために単一用量が有効である場合がある。したがって、方法は、単一用量の二重特異性抗体、それをコードする核酸、または組成物を投与することを含んでもよい。あるいは、通常は順次に、かつ数日、数週間、または数か月の期間を空けて複数回用量が投与されてもよい。任意選択で、二重特異性抗体は、月に1回、またはより少ない頻度で、例えば2か月毎または3か月毎に患者に投与されてもよい。
【0225】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療」、「治療すること」、または「改善」という用語は、治療的処置を指し、その目的は、疾患または障害に関連する状態の進行または重症度を逆にする、軽減する、改善する、阻止する、遅らせる、または停止することである。「治療すること」という用語は、状態、疾患、または障害の少なくとも1つの有害効果または症状を低減または軽減することを含む。1つ以上の症状または臨床マーカーが低減された場合、治療は概して、「有効」である。あるいは、疾患の進行が低減されたか、または食い止められた場合、治療は、「有効」である。つまり、「治療」には、症状またはマーカーの改善だけではなく、治療がない場合に予想される症状と比較して、症状の停止または少なくとも進行もしくは悪化の減速も含まれる。有益なまたは所望の臨床結果としては、1つ以上の症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患の進行の遅延もしくは減速、病的状態の改善もしくは緩和、寛解(部分的もしくは全体的にかかわらず)、および/または死亡率の減少(検出可能もしくは検出不能にかかわらず)が挙げられるが、これらに限定されない。疾患の「治療」という用語には、疾患の症状または副作用の緩和を提供すること(緩和療法を含む)も含まれる。治療が有効であるためには、完全な治癒は企図されない。方法は、ある特定の側面では治癒も含むことができる。本発明の文脈において、治療は、予防的処置であってもよい。
【0226】
長い半減期は、本発明の二重特異性抗体において望ましい特徴である。半減期の延長は、血流中の分子の治療有効濃度を維持するために必要とされる注射回数がより少なくなり、より頻度の低い投与につながる。ヒトにおける本発明の抗原結合分子のインビボ半減期は、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、もしくは21日、またはより長くあり得る。カニクイザルなどの非ヒト霊長類における抗原結合分子のインビボ半減期は、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、もしくは21日、またはより長くあり得る。
【0227】
血友病の予防的使用には、正常なFVIII活性の1%を維持することが最低限であると考えられている[1]。ACE910(エミシズマブ)を用いたヒトの臨床試験を報告した論文では、インシリコ集団薬物動態モデリングおよびシミュレーションにより、1mg/kgの週用量が少なくとも約300nM(45μg/ml)の血漿濃度をもたらし、通常のFVIII活性の少なくとも10%の継続的な止血効果を生じることを示唆した[4]。この用量はまた、患者において十分に許容されることが報告された。
【0228】
そのデータに基づくと、約30nM(約4.5μg/ml)~300nM(約45μg/ml)の血漿濃度範囲は、1~10%の効果的なFVIII活性に対応しており、抗体濃度とFVIII活性および同等の抗体活性との線形の関係性が推定される。
【0229】
本発明による二重特異性は、30nM(約4.5μg/ml)~300nM(約45μg/ml)の範囲の濃度で非常に高い活性を示し、比較的低用量でさえ強いトロンビン生成活性を維持する。その高い効力によって証明されるように(例えば、実施例14を参照されたい)、本発明による二重特異性抗体は、エミシズマブよりも低い血漿濃度で治療効果を示し得る。したがって、それは、エミシズマブと比較して、同等の用量でより大きな治療効果を提供する可能性があり、より低い用量で同等の治療効果を提供する可能性がある。したがって、患者は、より少量の、および/またはより少ない頻度の注射から利益を得ることができ、医療提供者は、より低い関連費用から利益を得ることができる。
【0230】
米国FDAは現在(2018年10月に発行されたガイダンスで)、エミシズマブを最初の4週間は週に1回、3mg/kgの負荷用量で皮下注射し、その後、
週に1回、1.5mg/kg、または
2週間に1回、3mg/kg、または
4週間に1回、6mg/kgの維持用量を続けることを推奨している。
【0231】
本発明による抗原結合分子は、1週間、2週間、3週間、4週間、または1か月の一定間隔で投与するために提供されてもよい。
【0232】
好ましい一実施形態では、二重特異性は、皮下注射によって投与される。
【0233】
治療的使用
本発明の二重特異性抗原結合分子は、療法によるヒトまたは動物の身体の治療方法で使用され得る。分子の治療指標は、以下を含む。
血友病Aの治療に使用する、
遺伝性第VIII因子欠乏症の治療に使用する、
血友病A患者における出血インシデントの数の大幅な減少のために使用する、
第VIII因子機能の代わりになるために使用する、
および/または
血液凝固の促進のために使用する。
【0234】
患者は典型的には、ヒト患者である。患者は、血友病Aもしくは遺伝性第VIII因子欠乏症と診断されたヒト、または野生型と比較して第VIII因子の発現もしくは活性が低い(またはない)ヒトであってもよい。患者は、小児患者(例えば、2歳~18歳未満)であっても、または成人であってもよい。患者はヒトの男性である可能性がある。患者は、第VIII因子に対する阻害剤を有していても、有していなくてもよい。
【0235】
本発明の二重特異性分子、またはそのような二重特異性分子もしくはそれをコードする核酸を含む組成物は、任意のそのような方法で使用するために使用または提供され得る。任意のそのような方法で使用するための薬剤の製造のための、二重特異性分子、またはそれもしくはそれをコードする核酸を含む組成物の使用も想定される。方法は典型的には、抗体または組成物を哺乳動物、例えば、ヒト患者に投与することを含む。好適な製剤および投与方法は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0236】
FVIIIに対する阻害同種抗体を発生させる血友病A患者の治療に対して、現在満たされていないニーズがある。本発明の抗原結合分子は、そのような患者での使用に適している。したがって、いくつかの態様では、本発明による二重特異性抗原結合分子で治療された患者は、血流中の阻害抗体の存在により、FVIIIでの治療に耐性がある可能性がある。治療に対する耐性は、治療の有効性の低減に現れ得る。そのような耐性は、患者からの血漿試料を用いたインビトロアッセイ(例えば、aPTTアッセイ)において検出され得、治療分子は、対照FVIII欠乏血漿を用いたアッセイと同じレベルまで凝固時間を短縮しない(後者は、治療分子に対する阻害抗体を欠いている)。
【0237】
FIXaおよびFXに対する二重特異性抗体など、血友病の他の治療を受けている患者も、それらの治療抗体に対する阻害抗体を発生させる可能性がある。述べられたように、本発明のようなヒト抗体の使用は、このリスクを最小限に抑えるべきであるが、それにもかかわらず、本発明の抗原結合分子またはFIXaおよびFXに対する他の二重特異性抗原結合分子を受けている一部の患者において、阻害抗体が生成される可能性がある。本発明による二重特異性抗原結合分子で治療された患者は、血流中の阻害抗体の存在により、FIXaおよびFXに対する異なる二重特異性抗原結合分子に対する治療に耐性がある可能性がある。患者は、エミシズマブによる治療に耐性がある可能性がある。
【0238】
阻害抗体が製剤の長期治療投与を通して生成される可能性があるため、患者が複数の異なる治療を交互に受け、循環して、阻害抗体を発生させるリスクを低減することが有益であり得る。したがって、本発明の二重特異性抗原結合分子は、患者が阻害抗体を(まだ)発生させていない場合でさえ、異なるFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物、例えば、FIXaおよびFXに対する二重特異性抗原結合分子、任意選択でエミシズマブによる治療を以前に受けた患者に投与され得る。同様に、エミシズマブもしくはFIXaおよびFXに対する他の二重特異性抗原結合分子、または他のFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物は、概して、本発明の二重特異性抗原結合分子ですでに治療された患者に投与され得る。治療レジメンは、第1の期間(例えば、1~6か月間または6か月~1年)にわたって第1のFVIII活性に取って代わるポリペプチド薬物を投与すること、続いて第2の期間(例えば、1~6か月間または6か月~1年)にわたって異なるFVIII活性に取って代わるポリペプチド薬物に切り替えること、続いて第1の薬物に再び切り替えること、またはさらに別のFVIII活性に取って代わるポリペプチド薬物に切り替えることを含んでもよい。異なる薬物治療の異なるアミノ酸配列は、ある薬物に対する阻害抗体を発生させるリスクのある患者が、異なる薬物(例えば、本発明の分子)に切り替えた後にもはや第1の薬物(例えば、エミシズマブ)に対する阻害抗体を発生させるリスクがないことを確実にするべきである。循環期間は、患者および医師の利便性および選好に応じて、変更または短縮されてもよい。
【0239】
コード核酸の投与が代替療法を表し、ポリペプチド薬物を直接投与する代わりに実施され得ることが認識されるであろう。
【0240】
述べられたように、本発明の二重特異性抗原結合分子は、過敏症反応、同種抗体の発生、臓器毒性、または療法の中止につながるその他の有害事象のインシデントがない(または最小限である)ことに関連する、強力な安全性プロファイルを有すると考えられる。
【0241】
項目
以下の番号付きの項は、本発明の実施形態を表し、本記載の一部である。
【0242】
1.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対は、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、
第2の重鎖-軽鎖対は、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、
第1のVHドメインが、HCDR1は配列番号406であり、HCDR2は配列番号407であり、HCDR3は配列番号408であると定義されたアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含むHCDRのセットを含み、および/または第1のVHドメインが、アミノ酸配列レベルでN1280H VHドメインと少なくとも95%同一であり、
第2のVHドメインが、アミノ酸配列レベルでT0201H VHドメイン、配列番号470と少なくとも95%同一であり、
第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、各々、LCDR1は配列番号6であり、LCDR2は配列番号7であり、LCDR3は配列番号8であると定義されたアミノ酸配列を有するLCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含むLCDRのセットを含み、および/または第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、アミノ酸配列レベルで配列番号10の0128L VLドメインと少なくとも95%同一である、二重特異性抗体。
【0243】
2.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対は、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、
第2の重鎖-軽鎖対は、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、
第1のVHドメインが、免疫グロブリン重鎖v、d、およびj遺伝子セグメントの組換え産物であり、v遺伝子セグメントが、IGHV3-7(例えば、VH3-7*01)であり、j遺伝子セグメントが、IGHJ6(例えば、JH6*02)であり、
第2のVHドメインが、免疫グロブリン重鎖v、d、およびj遺伝子セグメントの組換え産物であり、v遺伝子セグメントが、IGHV1-46(例えば、VH1-46*03)であり、j遺伝子セグメントが、IGHJ1(例えば、JH1*01)であり、任意選択で、d遺伝子セグメントが、IGHD6-6(例えば、DH6-6*01)であり、
第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、共に、ヒト免疫グロブリン軽鎖vおよびj遺伝子セグメントの組換え産物であり、v遺伝子セグメントが、IGLV3-21(例えば、VL3-21*d01)であり、j遺伝子セグメントが、IGLJ2(例えば、JL2*01)またはIGLJ3(例えば、JL3*02)である、二重特異性抗体。
【0244】
3.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対は、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、
第2の重鎖-軽鎖対は、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、
第1のVHドメインが、配列番号443のN1280H VHドメインと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有し、
第2のVHドメインが、配列番号470のT0201H VHドメインと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有し、
第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが各々、配列番号10の0128L VLドメインと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する、二重特異性抗体。
【0245】
4.第1のVHドメインが、HCDR1は配列番号406であり、HCDR2は配列番号407であり、HCDR3は配列番号408であると定義されたアミノ酸配列を有するHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含むHCDRのセットを含む、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0246】
5.第1のVHドメインが、配列番号441のHCDR1を含む、第4項に記載の二重特異性抗体。
【0247】
6.第1のVHドメインが、配列番号634のHCDR2を含む、第4項または第5項に記載の二重特異性抗体。
【0248】
7.第1のVHドメインが、配列番号436のHCDR2を含む、第4~6項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0249】
8.第1のVHドメインが、配列番号635のHCDR3を含む、第4~7項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0250】
9.第1のVHドメインが、配列番号433のHCDR3を含む、第4~8項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0251】
10.第1のVHドメインが、N1280Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~9項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0252】
11.第1のVHドメインが、配列番号441のN1280H HCDR1、配列番号436のN1280H HCDR2、および配列番号433のN1280H HCDR3を含むN1280H HCDRのセットを含む、第1~10項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0253】
12.第1のVHドメインが、配列番号443のN1280H VHドメインである、第10項または第11項に記載の二重特異性抗体。
【0254】
13.第1のVHドメインが、配列番号454のN1454H VHドメインである、第1~11項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0255】
14.第1のVHドメインが、配列番号456のN1441H VHドメインである、第1~11項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0256】
15.第1のVHドメインが、配列番号458のN1442H VHドメインである、第1~11項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0257】
16.第1のVHドメインが、N1333Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0258】
17.第1のVHドメインが、N1333H CDR1、N1333H CDR2、およびN1333H CDR3を含むN1333H CDRのセットを含む、第16項に記載の二重特異性抗体。
【0259】
18.第1のVHドメインが、N1333H VHドメインである、第16項または第17項に記載の二重特異性抗体。
【0260】
19.第1のVHドメインが、N1327Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0261】
20.第1のVHドメインが、N1327H HCDR1、N1327H HCDR2、およびN1327H HCDR3を含むN1327H HCDRのセットを含む、第19項に記載の二重特異性抗体。
【0262】
21.第1のVHドメインが、N1327H VHドメインである、第19項または第20項に記載の二重特異性抗体。
【0263】
22.第1のVHドメインが、N1314Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0264】
23.第1のVHドメインが、N1314H HCDR1、N1314H HCDR2、およびN1314H HCDR3を含むN1314H HCDRのセットを含む、第22項に記載の二重特異性抗体。
【0265】
24.第1のVHドメインが、N1314H VHドメインである、第22項または第23項に記載の二重特異性抗体。
【0266】
25.第1のVHドメインが、N1172Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0267】
26.第1のVHドメインが、N1172H HCDR1、N1172H HCDR2、およびN1172H HCDR3を含むN1172H HCDRのセットを含む、第25項に記載の二重特異性抗体。
【0268】
27.第1のVHドメインが、N1172H VHドメインである、第25項または第26項に記載の二重特異性抗体。
【0269】
28.第1のVHドメインが、N1091Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0270】
29.第1のVHドメインが、N1091H HCDR1、N1091H HCDR2、およびN1091H HCDR3を含むN1091H HCDRのセットを含む、第28項に記載の二重特異性抗体。
【0271】
30.第1のVHドメインが、N1091H VHドメインである、第28項または第29項に記載の二重特異性抗体。
【0272】
31.第1のVHドメインが、N0511Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0273】
32.第1のVHドメインが、N0511H HCDR1、N0511H HCDR2、およびN0511H HCDR3を含むN0511H HCDRのセットを含む、第31項に記載の二重特異性抗体。
【0274】
33.第1のVHドメインが、N0511H VHドメインである、第31項または第32項に記載の二重特異性抗体。
【0275】
34.第1のVHドメインが、N0436Hと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~3項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0276】
35.第1のVHドメインが、N0436H HCDR1、N0436H HCDR2、およびN0436H HCDR3を含むN0436H HCDRのセットを含む、第34項に記載の二重特異性抗体。
【0277】
36.第1のVHドメインが、N0436H VHドメインである、第34項または第35項に記載の二重特異性抗体。
【0278】
37.第2のVHドメインが、配列番号470のT0201H VHと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~36項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0279】
38.第2のVHドメインが、配列番号462のT0201H HCDR1であるHCDR1、配列番号467のT0201H HCDR2であるHCDR2、および/または配列番号468のT0201H HCDR3であるHCDR3を含む、第37項に記載の二重特異性抗体。
【0280】
39.第2のVHドメインが、配列番号636のHCDR1を含む、第1~38項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0281】
40.第2のVHドメインが、配列番号598のHCDR1を含む、第39項に記載の二重特異性抗体。
【0282】
41.第2のVHドメインが、配列番号467のHCDR2を含む、第1~40項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0283】
42.第2のVHドメインが、配列番号637のHCDR3を含む、第1~41項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0284】
43.第2のVHドメインが、配列番号638のHCDR3を含む、第42項に記載の二重特異性抗体。
【0285】
44.第2のVHドメインが、配列番号639のHCDR3を含む、第43項に記載の二重特異性抗体。
【0286】
45.第2のVHドメインが、配列番号565のHCDR3を含む、第44項に記載の二重特異性抗体。
【0287】
46.第2のVHドメインが、配列番号583のHCDR3を含む、第44項に記載の二重特異性抗体。
【0288】
47.第2のVHドメインが、配列番号632を含む、第37~45項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0289】
48.第2のVHドメインが、配列番号600を含む、第37~45項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0290】
49.第2のVHドメインが、配列番号585を含む、第37~46項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0291】
50.第2のVHドメインが、T0201H HCDR1、T0201H HCDR2、およびT0201H HCDR3を含むT0201H HCDRのセットを含む、第38項に記載の二重特異性抗体。
【0292】
51.第2のVHドメインが、任意選択でCys114での置換を伴うT0201H VHドメインである、第37項、第38項、または第50項に記載の二重特異性抗体。
【0293】
52.Cys114での置換が、Ile、Gln、Arg、ValまたはTrpである、第51項に記載の二重特異性抗体。
【0294】
53.第2のVHドメインが、T0638H HCDR1、T0638H HCDR2、およびT0638H HCDR3を含むT0638H HCDRのセットを含む、第1~38項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0295】
54.第2のVHドメインが、任意選択でCys114での置換を伴うT0638 VHドメインである、第53項に記載の二重特異性抗体。
【0296】
55.Cys114での置換が、Ile、Gln、Arg、ValまたはTrpである、第54項に記載の二重特異性抗体。
【0297】
56.第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが各々、配列番号10の0128Lと少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、第1~55項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0298】
57.第1のVLドメインおよび第2のVLドメインは各々、配列番号6の0128L LCDR1、配列番号7の0128L LCDR2、および配列番号8の0128L LCDR3を含む0128L CDRのセットを含む、第1~56項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0299】
58.第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、アミノ酸配列において同一である、第1~57項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0300】
59.第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、配列番号416の0325Lアミノ酸配列を含む、第58項に記載の二重特異性抗体。
【0301】
60.第1のVLドメインおよび第2のVLドメインが、配列番号10の0128Lアミノ酸配列を含む、第58項または第59項に記載の二重特異性抗体。
【0302】
61.各重鎖-軽鎖対が、CH1ドメインと対になったCL定常ドメインをさらに含む、第1~60項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0303】
62.重鎖-軽鎖対が共通の軽鎖を含む、第1~61項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0304】
63.共通の軽鎖が0128L軽鎖の配列番号146のCLアミノ酸配列を含む、第62項に記載の二重特異性抗体。
【0305】
64.共通の軽鎖が、配列番号414の0325L軽鎖である、第63項に記載の二重特異性抗体。
【0306】
65.共通の軽鎖が、配列番号405の0128L軽鎖である、第63項に記載の二重特異性抗体。
【0307】
66.各重鎖-軽鎖の重鎖が重鎖定常領域を含み、第1および第2の重鎖-軽鎖対が会合して、重鎖定常領域の二量体化を介して四量体免疫グロブリンを形成する、第1~65項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0308】
67.第1の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域が、第2の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域とは異なるアミノ酸配列を含み、異なるアミノ酸配列が、重鎖定常領域のヘテロ二量体化を促進するように操作される、第66項に記載の二重特異性抗体。
【0309】
68.重鎖定常領域が、ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)変異または電荷対変異を含む、第67項に記載の二重特異性抗体。
【0310】
69.一方(例えば、第1)の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域が、置換K439Eを含むヒトIgG4定常領域であり、他方(例えば、第2)の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域が、置換E356Kを含むIgG4領域であり、定常領域の番号付けが、EU番号付けシステムに従うものである、第67項に記載の二重特異性抗体。
【0311】
70.一方または両方の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域が、置換S228Pを含むヒトIgG4定常領域であり、定常領域の番号付けが、EU番号付けシステムに従うものである、第66~69項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0312】
71.一方(例えば、第1)の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域が、配列番号409を含み、他方(例えば、第2)の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域が、配列番号410を含む、第66~70項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0313】
72.
第1のVHドメインの配列番号443または配列番号456のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、
第2のVHドメインの配列番号632のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
VLドメインの配列番号416のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、を含む、第66~71項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0314】
73.
配列番号419のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、を含む、第66~72項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0315】
74.
配列番号424のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、を含む、第66~71項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0316】
75.
配列番号426のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、を含む、第66~72項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0317】
76.
配列番号428のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と
配列番号430のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、を含む、第66~71項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0318】
77.
配列番号428のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と
配列番号432のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、を含む、第66~71項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0319】
78.第1の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域が、第2の重鎖-軽鎖対の重鎖定常領域と同一である、第66項に記載の二重特異性抗体。
【0320】
79.抗体が、ヒトIgGである、第1~68項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0321】
80.抗体が、ヒトIgG4である、第79項に記載の二重特異性抗体。
【0322】
81.IgGが、ヘテロ二量体化を促進するために1つ以上のアミノ酸置換で任意選択で操作された、配列番号143のIgG4-PE重鎖定常領域を含む、第79項または第80項に記載の二重特異性抗体。
【0323】
82.抗体が、エミシズマブのFc領域を含む、第79項または第80項に記載の二重特異性抗体。
【0324】
83.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対が、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、第1のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号443のN1280H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第2の重鎖-軽鎖対が、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、第2のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号632のT0999H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第1および第2の重鎖-軽鎖対が各々、配列番号414の0325L軽鎖アミノ酸配列を含む共通の軽鎖を含む、二重特異性抗体。
【0325】
84.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対が、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、第1のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号454のN1454H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第2の重鎖-軽鎖対が、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、第2のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号632のT0999H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第1および第2の重鎖-軽鎖対が各々、配列番号414の0325L軽鎖アミノ酸配列を含む共通の軽鎖を含む、二重特異性抗体。
【0326】
85.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対が、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、第1のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号456のN1441H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第2の重鎖-軽鎖対が、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、第2のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号632のT0999H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第1および第2の重鎖-軽鎖対が各々、配列番号414の0325L軽鎖アミノ酸配列を含む共通の軽鎖を含む、二重特異性抗体。
【0327】
86.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対が、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、第1のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号458のN1442H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第2の重鎖-軽鎖対が、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、第2のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号600のT0736H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第1および第2の重鎖-軽鎖対が各々、配列番号414の0325L軽鎖アミノ酸配列を含む共通の軽鎖を含む、二重特異性抗体。
【0328】
87.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対が、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、第1のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号458のN1442H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第2の重鎖-軽鎖対が、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、第2のVHドメインが、アミノ酸配列において、配列番号585のT0687H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第1および第2の重鎖-軽鎖対が各々、配列番号414の0325L軽鎖アミノ酸配列を含む共通の軽鎖を含む、二重特異性抗体。
【0329】
88.FIXaおよびFXに結合し、FIXaを介したFXの活性化を触媒する二重特異性抗体であって、この抗体が、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含み、
第1の重鎖-軽鎖対が、第1のVLドメインと対になった第1のVHドメインを含むFIXa結合性Fv領域を含み、第1のVHドメインが、アミノ酸配列において、N1333H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第2の重鎖-軽鎖対が、第2のVLドメインと対になった第2のVHドメインを含むFX結合性Fv領域を含み、第2のVHドメインが、アミノ酸配列において、T0638H VHドメインと少なくとも98%同一であり、
第1および第2の重鎖-軽鎖対が各々、配列番号405の0128L軽鎖アミノ酸配列を含む共通の軽鎖を含む、二重特異性抗体。
【0330】
89.aPTTアッセイにおいて、FVIII欠乏ヒト血漿の凝固時間を40秒未満に短縮する、第1~88項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0331】
90.aPTTアッセイにおいて、FVIII欠乏ヒト血漿の凝固時間を30秒未満に短縮する、第89項に記載の二重特異性抗体。
【0332】
91.aPTTアッセイにおいて、FVIII欠乏ヒト血漿の凝固時間を22~28秒に短縮する、第90項に記載の二重特異性抗体。
【0333】
92.aPTTアッセイにおいて、FVIII欠乏ヒト血漿の凝固時間を24~26秒に短縮する、第91項に記載の二重特異性抗体。
【0334】
93.FXaseアッセイにおいて、FIXaを介したFXからFXaへの活性化をエミシズマブと同じまたは同程度に増強する、第1~92項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0335】
94.FIXaを介したFXからFXaへの活性化を少なくともエミシズマブと同程度に増強する、第1~93項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0336】
95.該凝固時間またはFIXaを介する活性化が、37℃で0.1mg/ml、0.3mg/mlまたは0.5mg/mlの抗体濃度で決定される、第89~94項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0337】
96.抗体が、蛍光測定トロンビン生成アッセイ(TGA)において、該アッセイにおけるエミシズマブのCmax EC50の10%以内であるか、またはそれよりも低い、CmaxについてのEC50を有し、および/または抗体が、蛍光測定TGAにおいて、200~450nMのトロンビンのCmaxの最大応答を生成する、第1~95項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0338】
98.抗体が、蛍光測定TGAにおけるCmaxについて50nM未満のEC50を有する、第96項に記載の二重特異性抗体。
【0339】
99.蛍光測定TGAにおけるCmaxについて10nM未満のEC50を有する、第98項に記載の二重特異性抗体。
【0340】
100.Cmaxの最大応答が、250nM~400nMである、第1~99項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0341】
101.抗体が、蛍光測定TGAにおいて、該アッセイにおけるエミシズマブのTmax EC50の10%以内であるか、またはそれよりも低い、TmaxについてのEC50を有し、および/または抗体が、1~10分のTmaxの最大応答を生成する、第1~100項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0342】
102.抗体が、蛍光測定TGAにおけるTmaxについて5nM未満のEC50を有する、第1~101項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0343】
103.TmaxについてのEC50が、2nM未満である、第102項に記載の二重特異性抗体。
【0344】
104.抗体が、蛍光測定TGAにおいて、2~8分のTmaxの最大応答を生成する、第1~103項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0345】
105.第1~104項のいずれかに記載の第1の重鎖-軽鎖対の2つのコピーを含む抗FIXa抗体。
【0346】
106.第1~104項のいずれかに記載の第2の重鎖-軽鎖対の2つのコピーを含む抗FX抗体。
【0347】
107.第1~106項のいずれかに記載の抗体をコードする単離された核酸。
【0348】
108.
第1~104項のいずれかに記載の第1のVHドメインを含む抗体重鎖、
第1~104項のいずれかに記載の第2のVHドメインを含む抗体重鎖、および/または
第1~104のいずれかに記載の第1または第2のVLドメインを含む抗体軽鎖、をコードする組換えDNAを含むインビトロでの宿主細胞。
【0349】
109.
配列番号419または配列番号426のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、をコードする組換えDNAを含む、第108項に記載の宿主細胞。
【0350】
110.各宿主細胞が、第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体をコードする組換えDNAを含む、インビトロでの宿主細胞の集団。
【0351】
111.第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体を産生するためのキットであって、
第1~104項のいずれかに記載の第1のVHドメインを含む抗体重鎖、または該重鎖をコードする核酸、
第1~104項のいずれかに記載の第2のVHドメインを含む抗体重鎖、または該重鎖をコードする核酸、
第1~104項のいずれかに記載の第1のVLドメインを含む抗体軽鎖、または該軽鎖をコードする核酸、および
第1~104項のいずれかに記載の第2のVLドメインを含む抗体軽鎖、または該軽鎖をコードする核酸を含む、キット。
【0352】
112.
配列番号419または配列番号426のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、または該第1の重鎖をコードする核酸、
配列番号421のアミノ酸配列を含む第2の重鎖、または該第2の重鎖をコードする核酸、および
配列番号414のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖、または該共通の軽鎖をコードする核酸、を含む、第111項に記載のキット。
【0353】
113.該アミノ酸配列または該核酸が細胞内に提供される、第111項または第112項に記載のキット。
【0354】
114.該アミノ酸配列または該核酸が無細胞緩衝水性媒体中で提供される、第111項または第112項に記載のキット。
【0355】
115.該アミノ酸配列の各々または該核酸の各々が別個の薬瓶に提供される、第111~114項のいずれかに記載のキット。
【0356】
116.第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体を産生する方法であって、二重特異性抗体の発現のための条件下で第108項または第109項に記載の宿主細胞を培養し、宿主細胞培養物から二重特異性抗体を回収することを含む、方法。
【0357】
117.少なくとも100リットルの容量を含む容器内で宿主細胞を培養することを含む、第116項に記載の方法。
【0358】
118.容器が、ステンレス鋼製であるか、または単回使用のバイオリアクターである、第117項に記載の方法。
【0359】
119.薬学的に許容される賦形剤を伴う溶液中に、第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体、または第107項に記載の単離された核酸を含む、組成物。
【0360】
120.二重特異性抗体または核酸が滅菌水溶液中にある、第119項に記載の組成物。
【0361】
121.組成物が5%以下のホモ二量体抗体汚染物質を含むように、二重特異性抗体が少なくとも95%の純度である、第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体を含む、第119項または第120項に記載の組成物。
【0362】
122.組成物が1%以下のホモ二量体抗体汚染物質を含むように、二重特異性抗体が少なくとも99%の純度である、第121項に記載の組成物。
【0363】
123.患者における出血を制御する方法であって、第119~122項のいずれかに記載の組成物を患者に投与することを含む、方法。
【0364】
124.療法によるヒトの身体の治療方法における使用のための、第119~122項のいずれかに記載の組成物。
【0365】
125.患者の出血を制御する方法における使用のための、第119~122項のいずれかに記載の組成物。
【0366】
125.血友病A患者の出血を制御するための薬剤の製造のための、第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体の使用。
【0367】
126.患者が血友病A患者である、第123項に記載の方法、または第125項に記載の使用のための組成物もしくは使用。
【0368】
127.患者が、血流中の阻害抗体の存在により、FVIIIでの治療に耐性がある、第126項に記載の方法または使用のための組成物。
【0369】
128.患者が、血流中の阻害抗体の存在により、FIXaおよびFXに対する別の二重特異性抗体による治療に耐性がある、第126項または第127項に記載の方法、または使用のための組成物。
【0370】
129.患者が、エミシズマブでの治療に耐性がある、第128項に記載の方法、または使用のための組成物。
【0371】
130.FVIIIa活性に取って代わるポリペプチドでの治療を受けている血友病A患者における、阻害抗薬物抗体の発生を低減する方法であって、
第1のFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物を、1~12か月間の期間にわたって患者に投与することと、
患者を、1~12か月間の期間にわたって、第2の異なるFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物に切り替えることと、
患者を、1~12か月間の期間にわたって、第1の抗原結合分子、または第3の異なるFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物のいずれかに切り替えることと、を含み、
第1、第2または第3のFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物は、第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体であり、
各場合において、FVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物またはそのコード核酸が、患者においてFVIIIaに機能的に取って代わる治療有効量で投与され、患者が、FVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物のうちのいずれかに対して阻害抗薬物抗体を発生させるリスクが、そのFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物での治療を受け続けている患者と比較して低減される、方法。
【0372】
131.阻害抗薬物抗体の発生を低減しながら血友病A患者を治療する方法で使用するための、FVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物もしくはそのコード核酸を含む組成物、または阻害抗薬物抗体の発生を低減しながら血友病A患者を治療する方法で使用するための薬剤の製造のための、FVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物またはそのコード核酸の使用であって、方法が、
第1のFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物を、1~12か月間の期間にわたって患者に投与することと、
患者を、1~12か月間の期間にわたって、第2の異なるFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物に切り替えることと、
患者を、1~12か月間の期間にわたって、第1の抗原結合分子、または第3の異なるFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物のいずれかに切り替えることと、を含み、
第1、第2または第3のFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物は、第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体であり、
各場合において、FVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物またはそのコード核酸が、患者においてFVIIIaに機能的に取って代わる治療有効量で投与され、患者が、FVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物のうちのいずれかに対して阻害抗薬物抗体を発生させるリスクが、そのFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物での治療を受け続けている患者と比較して低減される、組成物または使用。
【0373】
132.第1、第2および第3のFVIIIa活性に取って代わるポリペプチド薬物が、任意の順序で、組換えまたは血漿由来のFVIII、エミシズマブ、および第1~104項のいずれかに記載の二重特異性抗体である、第130項に記載の方法、または第131項に記載の使用のための組成物もしくは使用。
【0374】
133.治療が、患者への組成物の皮下投与を含む、第123~132項のいずれかに記載の方法、使用のための組成物、または使用。
【0375】
当業者は、本明細書に記載の発明の特定の実施形態の多数の均等物を多数認識し、または日常的にすぎない研究を用いて確認することができるであろう。そのような均等物は、添付の特許請求の範囲内にあることを意図している。
【実施例
【0376】
ヒトFIXaおよびヒトFXのFv結合部位を含む二重特異性IgG抗体は、2018年6月22日に提出された「Bispecific antibodies for factor IX and factor X」(WO2018/234575)という題名のPCT/EP2018/066836に記載されているように生成された。そこに記載されているように、免疫化およびスクリーニングの広範な試みにより、抗FIXa抗体NINA-0128が同定されるに至り、この抗体は、IgG形式で選択した異なる抗FX結合Fvのいずれかと組み合わせると、テナーゼアッセイおよびaPTTアッセイを含む機能的スクリーニングにおいて卓越した活性を示した。NINA-0128は、VHドメインN0128HおよびVLドメイン0128Lを含む。N0128H VHドメインの多くのバリアントが生成および試験され、その結果、例えばN0436H VHドメインを含む二重特異性形式での機能がさらに改善された。
【0377】
その研究に基づいて、二重特異性IgGは、共通の軽鎖としてNINA-0128のVLドメインを使用して設計された。抗FX抗体のパネルは、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含むトランスジェニックマウスにおいてインビボで生成された。これらは、ヒト定常領域を含む共通の軽鎖の0128L VLドメインを使用して、抗FIX結合アームとしてNINA-0128と共発現した。1つのVHドメインであるT0200は、二重特異性形式で卓越した活性を示し、さらなる開発のために選択された。T0200Hクローンと同じ免疫動物から得られた構造的に関連する抗体には、抗FIX VHドメインと0128L共通軽鎖を有する二重特異性IgG4のT0200H VHドメインよりもさらに優れた性能を示すさらなる抗FX VHドメインが含まれた。
【0378】
一方、さらなる抗FIXa抗体バリアントが生成され、共通の0128L VLドメインを保持しながらVHドメインに変異が導入された。抗FIXa N0436H VHドメイン配列は、CDR1、CDR2、およびCDR3の各位置ですべての可能なアミノ酸を置換し、共通の軽鎖を含む二重特異性抗体との関連で得られたVHドメインバリアントを発現させ、バリアント二重特異性抗体を一連の機能的アッセイにおいて評価し、機能的活性の増加に関連する変異を同定し、機能的活性の増加に関連する変異の組み合わせを含むさらなるバリアントを生成することによって最適化された。
【0379】
改善されたT0200H VHドメインバリアントは、改善されたN0436H VHドメインバリアントと組み合わされ、各々がN0128L共通軽鎖と対にされ、最適化、スクリーニング、および選択のラウンドが繰り返された。
【0380】
図6は、スクリーニングプログラムの簡単な概要を示している。
【0381】
非常に強力なFVIII模倣活性は、最適化された配列を含む共通の軽鎖二重特異性抗体で達成された。以下の二重特異性抗体は、様々な疾患関連アッセイでの機能的特性評価によって示されるように、強力なパフォーマーの例である。共通の軽鎖を有する二重特異性抗体の命名法は、IXAX-nnnn.tttt.llllであり、nnnnは、抗FIX VHドメインの4桁の数値識別子であり、ttttは、抗FX VHドメインの4桁の識別子であり、llllは、共通VLドメインの4桁の数値識別子である。
IXAX-0128.0201.0128(抗FIXa VHドメインN0128H;抗FX VHドメインT0201H;0128L共通軽鎖)
IXAX-0436.0201.0128
IXAX-0511.0201.0128
IXAX-1091.0201.0128
IXAX-1172.0201.0128
IXAX-1280.0201.0128
IXAX-1341.0201.0128
IXAX-1327.0201.0128
IXAX-1333.0201.0128
【0382】
二重特異性抗体において上記および他の抗FIX VHドメインとよく結合する他の高性能抗FX VHドメインは、図11に列挙されたものおよび他の関連配列などのT0201H系統およびそのバリアントのものであった。特に良好な結果は、以下から選択される抗FIX VHドメイン、抗FX VHドメイン、および共通の軽鎖を含む二重特異性抗体で得られた。
【表1】
【0383】
本明細書に記載の二重特異性抗体は、本明細書に記載の治療用途の候補医薬品分子を表す。それらは、エミシズマブなどの既存の治療に代わるものを提供することによって、特に抗薬物抗体の存在のためにそのような既存の治療がもはや効果的でない患者において、患者に不可欠な医療オプションを提供できる可能性がある。
【0384】
これらの実施例において、参照抗体AbEまたは抗体Eは、エミシズマブの重鎖および軽鎖アミノ酸配列を有する二重特異性抗体である[3]。
【0385】
実施例1.共通の軽鎖を有する抗FX抗体パネルの作成
0128L VLドメインを含む共通の軽鎖を発現するトランスジェニックマウスをヒト第X因子で免疫化した。抗原特異的B細胞をフローサイトメトリーによって単一細胞選別し、VHおよびVL配列を次世代シーケンシング(NGS)で回収した。200個の抗FX重鎖が、単一細胞で選別されたリンパ球のNGS分析によって同定された。同じトランスジェニック動物から採取した骨髄およびリンパ節組織について、さらにバルクNGS分析を実施した。
【0386】
実施例2.共通の軽鎖を有する抗FIXaxFIX二重特異性抗体の作成
各抗FX重鎖は、抗FIX N0128H重鎖および0128L共通軽鎖を含む二重特異性抗体としてHEK293細胞で発現された。二重特異性抗体は、参照により本明細書に組み込まれる2018年6月22日に提出された「Bispecific antibodies for factor IX and factor X」と題されたPCT/EP2018/066836に実質的に記載されるようにプロテインAによって精製された。
【0387】
実施例3.活性化凝固第VIII因子(FVIIIa)様活性アッセイ(FXaseまたはテナーゼアッセイ)を使用した抗FXアームの初期スクリーニング
各々がN0128H抗FIX重鎖および0128L共通VLドメインと組み合わされた一連の異なる抗FX重鎖を含む200個の二重特異性抗体を、第Xa因子生成アッセイを使用してスクリーニングした。この機能的スクリーニングは、FVIIIa模倣活性、すなわち、酵素的「FXase」アッセイによってインビトロで、FIXaを介したFXのFXaへの活性化を増強(触媒)する能力を検出する。このアッセイでは、FXaの形成に適した条件下で、リン脂質の存在下において、試験二重特異性分子をFIXaおよびFXと接触させる。FXaの基質を添加し、これは、FXaによって開裂されると、検出可能な生成物を生成する。試験二重特異性抗体の存在下でのこの生成物の検出を、試験抗体が存在しない(対照抗体が含まれる場合がある)陰性対照と比較する。検出されたシグナルを、405nmでの反応溶液の吸光度を記録することによって定量化する。吸光度を、アッセイにおける広範囲の抗体濃度にわたって測定し、EC50値を、このアッセイにおける二重特異性抗体の効力の尺度として計算する。試験抗体と対照との間のEC50の有意差は、試験抗体がFIXaを介したFXの活性化を増強することが可能であることを示す。図7
【0388】
結果
アッセイされたすべての二重特異性抗体の中で、単一の抗体が卓越したFXase活性を示した。0128L共通VLドメインと対になったN0128H抗FIX重鎖およびT0200H抗FX重鎖は、パネル内の他のすべての抗体よりも著しく高いFXase活性を示した。図8
【0389】
材料および方法-標準的なFXase反応条件
7.5μLのFIX(3.75μg/mL)、および組換え抗体を産生するExpi293細胞(実施例8)からの5μLの上清をアッセイプレートの各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。2.5μLのFXIa(10ng/mL)、5μLのFX(50ng/mL)、0.05μLのリン脂質(10mg/mL)、および5μLのTBSB-S緩衝液の混合物を各ウェルに添加して、酵素反応(FXaを生成するためのFXのFIXa開裂)を開始し、37℃で1時間インキュベートした。60分後、5μLの0.5M EDTAを添加することによって反応を終了した。10μLのS2765基質溶液を各ウェルに添加した後、405nm(参照波長655nm)での吸光度を30分間測定した(10分毎に1回読み取り)。特に明記しない限り、すべての反応を37℃で実施した。
TBSB:
0.1%ウシ血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩水
7.5mLのTBSBを作製するには:
0.1mLの7.5% BSA溶液(Sigma)
7.4mLの1X TBS溶液(20X TBS溶液ThermoFisherから希釈)
TBSB-S:
5mMのCaCl2および1mMのMgCl2を含むTBSB
100mLのTBSB-Sを作製するには:
99.4mLのTBSB
0.5mLの1M CaCl2(Sigma)
0.1mLの1M MgCl2(Sigma)
FXIa原液(10μg/mL):
10mLのTBSB-Sを0.1mgのFXIa(Enzyme Research Laboratories)に添加して、10μg/mLの原液を作製する。
使用前に10ng/mL(1:1,000)の希釈標準溶液に希釈する。
F.IXa原液(5μg/mL)
100mLのTBSB-Sを0.5mg FIXa(HFIXa 1080)(Enzyme Research Laboratories)に添加して、5μg/mLの原液を作製する。
使用前に1.0μg/mL(1:5)の希釈標準溶液に希釈する。
FIX原液(37.5μg/mL):
13.3mLのTBSB-Sを0.5mgのFIX(Enzyme Research Laboratories)に添加して、37.5μg/mLの原液を作製する。
使用前に3.75μg/mL(1:10)の希釈標準溶液に希釈する。
FX希釈標準溶液(50μg/mL):
16mLのTBSB-Sを0.8mgのFX(Enzyme Research Laboratories)に添加して、50μg/mLの希釈標準溶液を作製する。
使用前にさらなる希釈は必要ない。
S2765原液:
25mgのS2765(Chromogenix)発色基質(0.035mmol)
2mMの原液を作製するには:
17.493mLの水をバイアルに添加し、振盪しながら溶解する。
ポリブレン溶液:
0.6g/Lの臭化ヘキサジメトリン原液を作製するには:
0.15gの臭化ヘキサジメトリン(Sigma)を250mLの水に添加する。
使用前に0.6mg/L(1:1,000)の希釈標準溶液に希釈する。
S2765基質希釈標準溶液
2mMのS-2765原液および0.6mg/Lのポリブレン溶液の1:1混合物。
【0390】
実施例4.抗FXT0200H VHドメインの同定
N0128H抗FIX VHドメイン、T0200H抗FX VHドメイン、および0128L共通軽鎖を含むIXAX.0128.0200.0128と指定された二重特異性抗体は、他の二重特異性抗体と比較して高いFXase活性を示した。T0200H VHドメインは、なおさらに改善された二重特異性抗体の産生を試みるためのさらなる開発のために選択された。
【0391】
実施例5.抗FXT0200H VHドメインの最適化
系統発生分析
バルクNGS(実施例1)および系統発生分析から、113個の抗FX重鎖が、抗FX重鎖T0200Hと同じリンパ球クラスターに属するものとして同定された。このクラスターは、共通の進化系統を共有しているように見えるB細胞を表している。クラスター内の抗FX重鎖は、アミノ酸レベルでT0200Hと約95%の配列同一性を共有していた。図9
【0392】
113個の抗FX重鎖は、異なる抗FIX重鎖および0128L共通軽鎖のパネルを用いた二重特異性抗体で発現され、FXaseアッセイによってスクリーニングされた。
【0393】
本発明者らは、二重特異性抗体としてアッセイした場合、T0200H VHドメインと比較してFXase活性の増加を示したいくつかの抗FX重鎖を同定した。図10は、Xaseアッセイからの実施例データを示している。
【0394】
最も活性のあるFXアーム配列の選択を図11に示す。これらのVHドメインは、それぞれT0201HからT0217Hと指定された。二重特異性形式で最も強い活性を示したのは、T0204、T0207、T0205、およびT0201だった(図10b)。
【0395】
アミノ酸配列の比較を使用し、機能データによって支持されているため、本発明者らは、最も活性のあるVHドメインが異なり、T0200Hと比較して生物活性の増強に寄与し得る抗FX重鎖のフレームワークおよびCDR領域のいくつかのアミノ酸残基を同定した。例えば、VHドメインの以下のアミノ酸の特徴のうちの1つ以上は、VHドメインを含む二重特異性抗体のFVIII模倣活性を増加させる可能性がある(IMGT残基の番号付け)。
FR1の5位でのバリン(V)のイソロイシン(I)による置換。
FR1の13位でのリジン(K)のグルタミン(Q)による置換。
FR2の39位でのロイシン(L)のメチオニン(M)による置換。
CDR2の62位でのスレオニン(T)のセリン(S)による置換。
CDR2の64位でのアスパラギン酸(D)のセリン(S)による置換。
FR3の85位でのスレオニン(T)のセリン(S)による置換。
CDR3の112位でのアラニン(A)のセリン(S)による置換。
【0396】
それにもかかわらず、T0200H自体が二重特異性抗体で強い活性を示し、これらの置換のいずれもが、すべての上位VHドメインに一貫して存在しなかったため、これらのアミノ酸置換がなくても活性が高いことは明らかである(図11)。
【0397】
機能最適化のための標的変異誘発
VHドメインT0201HのCDR3を体系的に変異させて、各位置の残基が個別に別のアミノ酸に置き換えられたVHドメインのライブラリを提供した。得られたVHドメインはT0XXXHと名付けられ、ここで、IMGT位置114(Cys)、115(Leu)、116(Gln)、および117(Leu)の変異体のXXX番号が図12に示されている。IMGTの番号付けについては、図13を参照されたい。
【0398】
潜在的な開発責任の除去
CDR3に存在する対になっていないシステイン(C)残基は、高リスクの配列モチーフとして同定された。T0200HのCDR3の114位に存在するこの対になっていないシステインと、バルクNGS分析から同定された113個のさらなる抗FX VHドメインすべてが、二重特異性抗体の開発について開発責任を負っている。本発明者らは、T0201Hのこの位置にあるシステインを他のすべてのアミノ酸で置換したVHドメインをスクリーニングした。これらの新しいバリアントは、IgG4二重特異性抗体としてN1280H(実施例6を参照されたい)および0128L共通軽鎖で発現され、プロテインAによって精製され、FXaseアッセイによってFVIII模倣活性についてスクリーニングされた。114位のシステインをイソロイシン(I)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)、バリン(V)、またはトリプトファン(W)で置き換えると、T0201HまたはT0202H VHドメインを有する二重特異性抗体と同様のFVIII模倣活性を有する二重特異性抗体が得られた。本発明者らは、C114は他の様々なアミノ酸に置き換えることができ、引き続きFVIII模倣活性を維持できると結論付けている。
【0399】
実施例6.抗FIX VHの体系的な配列最適化
CDR1、CDR2、およびCDR3の各アミノ酸残基を個別に変異させて、抗FIX N0128H重鎖の単一位置変異体を生成した。このように生成された抗FIX重鎖バリアントは、HEK293の抗FX重鎖T0201HおよびN0128L共通VLドメインと対になって二重特異性形式で発現された。
【0400】
プロテインA精製二重特異性抗体を、FXase(実施例7)およびaPTTによって生物学的活性についてアッセイし、二重特異性抗体のFVIII模倣活性を改善するアミノ酸変化を探した。次に、改善されたバリアントを組み合わせて、CDR1、CDR2、およびCDR3領域に二重または三重変異体を生成した。
【0401】
表Nは、CDRの1つ以上の残基が他のアミノ酸に変異しているN0128H VHドメインの変異体を同定している。例えば、N0436H VHドメインは、CDR3のIMGT位置111Aのセリンがイソロイシンに置き換えられている、N0128H VHドメインのSer->Ile変異体である。最初の単一点変異に加えて、さらなる残基変異が導入された。例えば、N0511H VHドメインは、CDR3のIMGT位置112Aのセリンがイソロイシンに置き換えられている、N0436H VHドメインのSer112ALys変異体である。例えば、N1172Hは、CDR2のIMGT位置64のグルタメートがアルギニンに置き換えられている、N0511H VHドメインのGlu64Arg変異体である。例えば、N1280Hは、CDR1のIMGT位置29のThrがアルギニンに置き換えられている、N1172H VHドメインのThr29Arg変異体である。他の名前付きVHドメインは、同じ方法で表Nから同定できる。
【0402】
IMGTの番号付けについては、図14を参照されたい。
【0403】
実施例7.FXaseアッセイにおける改善された二重特異性抗体のスクリーニング
各々が0128L共通VLドメインと対になった、実施例5に記載のように生成されたVHドメインバリアントを含む抗FXアームを、実施例6に記載のように生成されたVHドメインバリアントを含む抗FIXアームと組み合わせ、FIXAxFX二重特異性抗体を生成し、テナーゼアッセイにおける機能的活性についてスクリーニングした。
【0404】
結果
実施例データを示す。
図10
図15
図16
【0405】
各々が0128L共通VLドメインと対になった、抗FIX VHドメインと抗FX VHドメインのいくつかの組み合わせについて、高活性の二重特異性抗体が同定された。抗FIX VHおよび抗FX VHドメインの組み合わせの例を図16に示す。
【0406】
抗FX VHドメインの同一性は、これらの二重特異性アームの組み合わせについて、抗FIX VHドメインの同一性よりも強い影響力を有しているようであり、T0638H、T0616H、T0596H、およびT0663Hは最高性能の抗FX VHドメインの1つである。これらの抗FXドメインは、図16に示すようなN1280Hのバリアントを含む、様々な抗FIXアームとの組み合わせで良好に機能した。抗FIX VHドメイン配列は、添付の表Nを参照することによって同定される。抗FX VHドメイン配列は、図12を参照することによって同定される。
【0407】
N128二重特異性抗体のFVIII模倣活性は、3つのCDRのいずれかのアミノ酸残基を修飾することによって順次最適化された。CDR全体でFVIII模倣活性を高めるためにいくつかのアミノ酸残基が同定され、これらの変異を組み合わせて活性を最大化した。N0128H VHドメインを有する抗体のFVIII模倣活性は、次の順序:N0128H->N0436H->N0511H->N1091H->N01172H->N1280H->N1333H、でさらにVHドメインを用いて徐々に改善された。図17
【0408】
材料および方法-修飾されたFXase反応条件。
二重特異性抗体FVIII模倣活性の初期スクリーニングは、上記の実施例3に記載された標準FXase反応条件を使用して評価された。二重特異性抗体のFVIII模倣活性が増加するにつれて、標準FXase反応条件はFXase活性の改善を検出するのにもはや十分ではなかった。したがって、より感度の高い修飾されたFXase反応条件が確立された。
【0409】
この修飾されたアッセイは、次の点で標準FXase反応条件と異なる:FXIaが使用されていない、第IX因子の活性化型(FIXa)が使用されている、インキュベーション工程がない。すべてのFXase試薬は二重特異性抗体と混合され、FXaの生成は、37℃に設定されたEnvisionプレートリーダーを使用して、405nmで30秒毎に40~50回、反応溶液の吸光度を記録することによって検出される。
【0410】
18.45μlのTBSB-S緩衝液を0.05μlのリン脂質(10mg/ml)と混合し、ピペッティングにより激しく混合してリン脂質を分散させた。この混合物に、すべて37℃まで予熱した、1.5μlのFIXa(1μg/ml)および5μlのFX(50μg/ml)を、5μlのポリブレン(0.6mg/L)および5μlのS2765(4mM)と組み合わせた。最後に、FXase活性について調査中の5ulの二重特異性抗体を追加した。405nm(参照波長655nm)での吸光度は、30秒毎に40~50回記録された。
【0411】
実施例8.血漿凝固アッセイにおける改善された二重特異性抗体のスクリーニング
各々が0128L共通VLドメインと対になった、実施例5に記載のように生成されたVHドメインバリアントを含む抗FXアームを、実施例6に記載のように生成されたVHドメインバリアントを含む抗FIXアームと組み合わせ、FIXaxFX二重特異性抗体を生成した。血友病A患者の血液の凝固能力を修正する本発明の二重特異性抗体の能力を決定するために、FVIII欠乏血漿を使用した活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)に対するこれらの抗体の効果を検査した。
【0412】
様々な濃度を有する5μLの二重特異性抗体溶液、20μLのFVIII欠乏ヒト血漿(Helena Biosciences)、および25μLのaPTT試薬(APTT Si L Minus、Helena Biosciences)の混合物を、37℃で3分間加温した。25μLの25mM CaCl(Helena Biosciences)を混合物に添加することによって、凝固反応を開始した。凝固までの期間を測定した。これに使用された装置は、C-4 4チャネル凝固分析装置(Helena Biosciences)だった。
【0413】
結果の試料を図18に示す。
【0414】
続いて、最高の凝固時間短縮効果を示した二重特異性抗体に対する濃度依存性を決定した。
【0415】
例えば、IXAX-1280.0201.0128 IgG4抗体は、参照抗体AbE(陽性対照)に匹敵する、aPTTの用量依存的な減少を示した。図19。アイソタイプ対照抗体では、aPTTの短縮は観察されなかった。このアッセイに使用した抗体調製物は、プロテインAでの一工程精製の結果であり、それらは、所望の二重特異性画分に加えて、残留抗FIX単一特異性抗体および残留抗FX単一特異性抗体が含まれていることに注意されたい。
【0416】
実施例9.二重特異性抗体における抗FIX VHドメインの分析
実施例7および実施例8に記載されたものを含む様々な機能アッセイからのデータを考慮すると、抗FX VHドメインT0201およびその配列バリアントは、共通の軽鎖を有する二重特異性抗体において様々な抗FIX VHドメインと組み合わせて良好に機能することが注目された。例えば、抗FIX VHドメインN0128H、N0436H、N0511H、N1091H、N1172H、N1280H、N1314H、N1327H、およびN1333Hはすべて、二重特異性抗体で良好な機能的活性を示した。これらの抗FIX VHドメインは、密接な構造的関係を共有している。図20。それらの性能は、置換による残基の微調整(表N)および改善された活性に関連する置換の組み合わせによってさらに増強する可能性がある。
【0417】
実施例10.抗原結合に対する親和性
結合親和性および抗体-抗原相互作用の動力学は、SPRを使用して決定された。精製された試験抗体(すべてIgG4PE)の親和性および動態を、陽性対照としてのコンパレーター抗FIX抗体AbNまたはコンパレーター抗FX抗体AbT、および陰性対照としてのアイソタイプ対照(ISTC)と比較した。
【0418】
FIXに対する結合親和性
分析した抗FIX抗体は、約0.18μM~0.3μMの親和性範囲でのFIXへの結合、ならびにFIXの高速会合(kオン)および解離(kオフ)速度を示した。分析された抗FIX抗体は、コンパレーター抗体AbNと比較して、FIXへのわずかに高い結合親和性およびより高い会合速度を示した。ISTCではFIXへの結合は観察されなかった。表E-10-1。
【表2】
【0419】
FXに対する結合親和性
分析した抗FX抗体は、約0.1μM~1.4μMの親和性範囲でのFXへの結合、ならびにFXの高速会合(kオン)および解離(kオフ)速度を示した。ISTCではFXへの結合は観察されなかった。
【0420】
分析した抗FX抗体は、ベンチマーク抗体AbTと比較してFXへの同様の結合親和性を示した。
【表3】
【0421】
材料および方法
SPRを使用して、FIXまたはFXそれぞれに対する結合親和性(K)、反応速度定数オンレート(kオン)およびオフレート(kオフ)を決定した。Biacore 8K(GE Healthcare)システムを使用して分析を実施した。
【0422】
製造業者の説明書に従って、抗ヒトIgG Fc抗体をCM4チップ(GE Healthcare)上に固定した。チップ表面はアミンカップリングによって活性化され、続いて1Mのエタノールアミンでブロックされた。固定化ランは、固定化ランニング緩衝液としてHBS-EPを使用して25℃で実施された。
【0423】
プロテインAで精製された単一特異性抗体(リガンドと呼ばれる)は、約2μg/mlで抗ヒトIgG Fc CM4表面に捕捉された。リガンドを、8つすべての流動チャネルのすべての活性チャネルに10μL/分で60秒間注入した。ランは、中性pH HBS-P 1X+CaCl 2.5mMをランニング緩衝液として使用して25℃で実施した。
【0424】
ヒトFIX(MW約55KDa)またはヒトFX(MW約58KDa)をランニング緩衝液中1mg/mlで再構成し、分析物として使用した。分析物を、複数サイクル反応速度(MCK)モードで、3つの濃度(1.5μM、500nM、および166.7nM)において、120秒の会合相および200秒(FIXについて)または300秒(FXについて)の解離相を用いて、活性チャネルおよび参照チャネルの両方において流速30μL/秒で注入した。10μL/分で60秒間、10mMグリシンpH1.5の3回の注入を再生相に使用した。
【0425】
抗FIX分析のために、ISTC抗体hIgG4PEを、参照チャネルにおいて10μL/分で60秒間、1μg/mLで捕捉した。hIgG4PE ISTCおよびhIgG1 ISTCを、陰性対照として活性チャネルに捕捉した。単一特異性抗体AbNを陽性対照として使用した。
【0426】
抗FX分析のために、hIgG4PE ISTCも陰性対照として活性チャネルに捕捉した。単一特異性抗体AbTを陽性対照として使用した。
【0427】
会合速度定数(kオン)、解離速度定数(kオフ)、および解離定数(KD)の値を、BIAevaluationソフトウェアによって結合データから計算した。データを参照し、緩衝液を差し引いて、一工程生体分子反応(Langmuir 1:1)モデルに適合した。モデルにおいて、解離の最初の30秒を評価した。
【0428】
実施例11.FXおよびFIXへの二重特異性抗体の同時結合
FIXxFX二重特異性抗体IXAX-0436.0202.0128がFIXおよびFXに同時に結合する能力は、SPRを使用して実証された。精製された二重特異性抗体の結合動態をアイソタイプ対照(ISTC)と比較した。結合のセンサーグラムは、二重特異性抗体がFIXおよびFXに同時に結合する一方で、ISTCではFIXおよびFXへの結合が観察されなかったことを示した。図21A
【0429】
FIXは、二重特異性抗体で捕捉された表面上を飛び超えて、第1の分析物との結合を可能にした。二重特異性抗体間の相互作用は、センサーグラム図21に示されているように、ベースライン応答を生成した。次の2番目の分析物であるFXの注入により、シグナルがさらに増加し、FXがすでにFIXと複合体を形成している二重特異性抗体に結合することを示している。
【0430】
逆に、FIXおよびFXがアイソタイプ対照が捕捉された表面上を飛び超えた場合、FIXまたはFXへの結合は観察されず、二重特異性抗体に対するFIとFXとの間の相互作用の特異性を示している。図21A
【0431】
二重特異性抗体のセンサーグラムは、単一特異性抗体のセンサーグラムと比較することもできる。捕捉された抗体が抗FX単一特異性である場合、同じ一連の注入は、FIXを飛び超える場合に有意な反応をいずれも示さず、代わりに、第2の注入(1:1混合)を実施すると、約50応答単位(RU)が観察され、一方で、二重特異性では、その応答は25RU高くなる。図21B
【0432】
FVII模倣二重特異性抗体の主要な特徴は、FIXとFXに同時に結合し、FIXaによるFXからFXaへの変換を促進する能力である。観察された結合は、本明細書に記載の二重特異性抗体が第IX因子および第IX因子と同時に相互作用できるという生物物理学的確認を表し、これは添付の実施例に記載の機能データと一致する。
【0433】
材料および方法
Biacore 8K(GE Healthcare)システムを使用してSPR分析を実施した。
【0434】
製造業者の説明書に従って、抗ヒトIgG Fc抗体をCM4チップ(GE Healthcare)上に固定した。チップ表面はアミンカップリングによって活性化され、続いて1Mのエタノールアミンでブロックされた。固定化ランは、固定化ランニング緩衝液としてHBS-EPを使用して25℃で実施された。
【0435】
プロテインA捕捉、次いで、イオン交換クロマトグラフィーによって精製された二重特異性抗体(リガンド)は、約2μg/mlで抗ヒトIgG Fc CM4表面に捕捉された。リガンドは、1つの活性チャネルに、10μl/分で60秒間10μg/mlで注入された。ランは、中性pH HBS-P 1X+CaCl 2.5mMをランニング緩衝液として使用して25℃で実施した。
【0436】
ヒトFIXまたはヒトFX(分析物)をランニング緩衝液中1.15mg/mlで再構成し、分析物として使用した。分析物は、10μM単独で注入するか、1:1(10μM 10μM)で10μl/分で180秒間混合した。
【0437】
アイソタイプ対照hIgG4PE抗体を、陰性対照として、参照チャネルにおいて10μL/分で60秒間、10μg/mLで捕捉した。二重参照プロセスで使用されるすべての試料に対して、緩衝液のブランク注入が実施された。30μL/分で30秒間、10mMのグリシンpH1.5の3回の注入を再生相に使用した。データを参照し、緩衝液を差し引いて、Langmuir 1:1モデルに適合した。
【0438】
実施例12.抗FX VHのさらなる最適化
二重特異性抗体の抗FIX結合アームは、N1280HのCDRを含むVHドメインおよび0128LのCDRを含むVLドメインとして「固定」され、性能を改善させるために抗FX VHドメインがさらに改良された。0128Lは共通の軽鎖として使用された。
【0439】
表Tは、CDRの1つ以上の残基が他のアミノ酸に変異しているT0201H VHドメインの変異体を同定している。この表は、同定された変異を有する各バリアントVHドメインに付けられた名前を示している。いずれの場合も、示されたもの以外の残基は変更されない。例えば、T0616H VHドメインは、CDR3のIMGT位置115のロイシン(L)がイソロイシン(I)に置き換えられている、T0201H VHドメインのLeu115Ile変異体である。T0201H VHドメインに単一の変異を含むバリアントにさらなる残基の変化が導入され、T0201H VHドメインに異なる変異の組み合わせを表すさらなるバリアントが生じた。例えば、T0687H VHドメインは、T0201H VHドメインのSer111APhe、Cys114Val、Leu115Ile変異体である。すなわち、CDR3のIMGT位置111Aのセリンがフェニルアラニンに置き換えられており(T0537H変異)、CDR3のIMGT位置114のシステインがバリンに置き換えられており(T0606H変異)、IMGT位置115のロイシンがイソロイシンに置き換えられている(T0616H変異)。他の名前付き抗FX VHドメインの配列は、同じ方法で表Tから同定される。IMGTの番号付けについては、図13を参照されたい。
【0440】
プロテインAクロマトグラフィーによって精製された二重特異性抗体は、T0201H VHドメインを含む親二重特異性に対する改善を探索するために機能的活性について試験された。
【0441】
改善された抗体は、FXaseアッセイ(実施例7に詳述されている修飾されたFXase反応条件を使用する)およびaPTTアッセイ(実施例8に詳述されている方法)で同定された。
【0442】
HCDR3の変異誘発により、FVIII模倣活性が改善された。改善された活性を示すVHドメインのHCDRを図25に示す。例えば、T0201H VHドメインCDR3における以下の置換および置換の組み合わせの各々は、FVIII模倣活性(括弧内に示される結果のVHドメインの名前)を改善することが見出された(非網羅的リスト):
CDR3(T0638H VH)のGln116Met;
CDR3(T0616H VH)のLeu115Ile;
CDR3(T0537H VH)のSer111APhe;
Cys114Ile Leu115Ile(T0666H VH);
Ser111APhe Cys114Ile Leu115Ile(T0678H VH);
Ser111APhe Cys114Leu Leu115Ile(T0681H VH);
Ser111APhe Cys114Val Leu115Ile(T0687H)。
【0443】
T0201HのHCDR3変異誘発を結論付けると、VHドメインT0687H、T0678H、およびT0681Hは、二重特異性抗体で最も強い活性を示した。
【0444】
二重特異性抗体の機能的活性は、抗FXアームにおけるHCDR1およびHCDR2の変異誘発によってなおさらに改善された。T0681H以降、CDR1およびCDR2の各アミノ酸残基は、他のすべての可能なアミノ酸によって体系的に置き換えられ、表Tに示されているT0690H~T0993Hの番号が付けられたVHドメインが生成された。
【0445】
HCDR1バリアントの機能評価を支持するために、aPTTおよびTGA分析も実行された。VHドメインT0736(S29K変異)、T0713、T0734、T0742、T0774、およびT0785は、T0681Hと比較して改善された活性を示した。T0681HのHCDR1バリアントの機能分析に基づいて、VHドメインT0736Hがトップパフォーマーとして選択された。T0201Hと比較すると、T0736Hは、CDR1のSer29Lys置換と、CDR3のSer111APhe Cys114ValおよびLeu115Ile置換を組み合わせたものである。
【0446】
HCDR2バリアントの機能評価を支持するために、FXase、aPTTおよびTGA分析も実行された。T0681HのHCDR2バリアントの機能分析に基づいて、以下のVHドメインがT0681H:T0926H(S62K)、T850H(I56L)、T0925H(S62L)、T0951H(G63S)、T0958H(S64D)、T0989(T65R)およびT0990H(T65S)と比較して改善された活性を有することが同定された。
【0447】
次に、選択したCDR1およびCDR2バリアントを選択したCDR3と組み合わせて、さらにVHドメインバリアントを生成し、活動のさらなる改善の可能性を調査した。
【0448】
高性能抗体のFXaseアッセイデータを図22および図23に要約されている。aPTTアッセイデータは図24に要約されている。
【0449】
図22および23に示すVHドメインを含む二重特異性抗体は、T0201Hを含む二重特異性抗体と比較して、改善した、または類似の凝固時間を示し、T0999HはaPTTアッセイで最短の凝固時間を示した。
【0450】
FXase活性および凝固時間は、コンパレーター二重特異性抗体AbEと同等だった。
【0451】
図25は、変異誘発プロセスでFVIII模倣活性が徐々に改善されたVHドメインのCDRを同定している。
【0452】
実施例13.トロンビン生成アッセイにおける二重特異性抗体の強力な活性
トロンビン生成アッセイ(TGA)は、血漿中のトロンビンへのプロトロンビンの活性化を検出する。トロンビンが生成されると、蛍光発生基質がフルオロフォアに変換され、それが、プレートリーダーによって継続的に監視される。TGAは、FVIII欠乏血漿の凝固カスケードでFVIIIを置換する二重特異性抗体の能力の強力な尺度を提供し、TGAでのトロンビン生成の動態は、FVIII模倣薬のインビボ治療性能の指標として非常に信頼できると考えられている。
【0453】
結果
TGAトリガーとしての第IXa因子の適切な濃度を確立するために、本発明者らは、トリガー試薬に存在するFIXaの濃度を変化させながら、最初に固定濃度の二重特異性抗体を使用してTGAを実施した。本発明者らは、222nMのFIXaを含む1mlのMP試薬の原液は、Cmaxが418.11nMのトロンビン、Tmaxが7.67分、ラグタイムが5.83分の正常なプールされたヒト血漿(最終濃度、0.33nMのFIXa)のトロンビン生成を誘発するのに十分であると判断した。図26。これらの値は、健康な成人の基準範囲と同等であり(例えば、参考文献[11]の表3を参照)、TGAトリガーとしてのFIXaの使用を確証するものである。
【0454】
二重特異性抗体VHドメインT0201H、ならびにT0201HのCDR1、CDR2およびCDR3コンビナトリアルバリアントを、HEK細胞でFIX N1280HアームおよびN0128共通軽鎖で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーで精製し、最終濃度133nMおよび80nMで分析した。VHドメインバリアントは、T0201Hと比較して、ラグタイムの短縮、Cmaxの増加、ピークまでの時間の短縮を示し、T0999は、分析した両方の濃度で最大のトロンビンピーク高さおよび最短のピーク時間を示した。少なくともIXAX-1280.0999.0128の性能は、AbEおよびエミシズマブキャリブレーターの性能と同等だった。AbEは、ラグタイム、ピーク高さ、およびピークまでの時間がそれぞれ2.5分、291.8nM、および6.0分を示し、IXAX-1280.0999.0128は、ラグタイム、ピーク高さ、およびピークまでの時間が2.0分、317.2nM、および5分を示した。図27図28図27に示すように、Tmaxの昇順で、本発明者らは、T0999、T0687、T0736、T0678、T0681、T0666、T0201、およびT0596をそれぞれ含む二重特異性抗体のTmaxが5、6.83、6.83、7、7.67、13.17、15、15.67分であることを観察した。
【表4】
【表5】
【表6】
【0455】
用量反応TGAの場合、二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0128をHEK細胞で発現させ、プロテインAクロマトグラフィーで精製し、イオン交換クロマトグラフィーで二重特異性ヘテロ二量体を精製した。0.3nMのFIXaトリガーを使用して、TGAにおけるCmax(nM)およびTmax(分)の用量反応を、二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0128を添加したFVIII欠乏血漿で実行し、エミシズマブキャリブレーターと比較した。両方の二重特異性抗体は、抗体濃度の増加とともにCmaxの直線的な減少を示した。IXAX-1280.0999.0128は、キャリブレーター抗体よりも大きなCmaxを達成した。この増加は、二重特異性抗体の濃度が低いほど顕著になる。図29を参照されたい。
【表7】
【表8】
【0456】
材料および方法
TGAトリガーとして第IXa因子の適切な濃度を確立するための最初の実験作業では、健康な個人から採取した80μlの正常なプール血漿(Helena Biosciences)を、Immulon 2HB透明U底96ウェルプレート(ThermoFisher#3665)にて、20μlのトリガー試薬(様々な量のFIXaのみを含有するリン脂質から構成される微粒子(MP)試薬)と混合した。すべての試薬は製造元の指示に従って使用し、水浴で37℃に予熱した。
【0457】
0.33nMのFIXaの最終濃度が正常血漿のトロンビン生成を誘発するのに十分であると決定されたら、0.3nMのFIXaを含む同じアッセイ条件を、較正された自動トロンボグラムアッセイにおいてFVIII枯渇血漿に適用した。
【0458】
FVIII免疫枯渇血漿(Helena Biosciences)を、Immulon 2HB透明U底96ウェルプレートにて、20μlのトリガー試薬(222nMのFIXaのみを含有するリン脂質から構成される微粒子(MP)試薬、最終濃度0.33nM)と混合した。すべての試薬は製造元の指示に従って使用し、水浴で37℃に予熱した。TGA用量反応は、300nMの試験二重特異性抗体またはエミシズマブキャリブレーター((FVIII欠乏血漿(Enzyme Research Laboratories)に添加したエミシズマブ)で開始し、5ポイントにわたって3分の1の希釈系列で実行した。ヒトIgG4アイソタイプ対照抗体を陰性対照として使用し、PBSを添加した正常(FVIII+ve)プール血漿を陽性対照として使用した。
【0459】
試料は、同じ血漿中にトロンビンキャリブレーター(所定量のトロンビンを含有する)を含有する2つ組キャリブレーターウェルを伴って、2つ組で測定された。96ウェルプレートをFluoroskan Ascentプレートリーダー(Thermo)で10分間37℃に温めた。20μlのFluCa試薬(100mMのCaClを含む緩衝液中の蛍光基質、ZGGR-AMC(2.5mM))を添加すると、トロンビンの生成が始まった。TGA試薬はStagoから入手した。経時にわたる蛍光の増加は、プレートリーダーによって監視された。
【0460】
トロンビンキャリブレーター曲線は、調査対象の各試料と一緒に実行された。既知の濃度のトロンビンを含むキャリブレーターを使用すると、ソフトウェアThrombinoscopeBVを使用して取得した蛍光シグナルから、調査中の試料で生成されたトロンビンの量を計算できる。試験ウェルからの蛍光を、トロンビンキャリブレーターウェルからの蛍光に対して較正して、試験ウェルで生成された同等のトロンビンを決定した。
【0461】
実行データは、Stago分析ソフトウェアを使用して分析された。生成されたトロンビンの量は、既知の活性を有するトロンビンキャリブレーター曲線を使用して決定された。トロンボグラムの以下の態様が決定された:ラグタイム(分)、内因性トロンビン電位(ETP;トロンビン下の面積、nMのトロンビン/分)、ピーク高さ(Cmax;nMのトロンビン)、ピークまでの時間(Tmax/分)、速度指数(VI;nM/分、ラグタイムとピークまでの時間との間の勾配)、およびテールスタート(分;トロンビン生成が終了した時間)。
【0462】
実施例14.トロンビン生成アッセイにおける用量反応および効力
二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0325の最大トロンビンピーク高さ(Cmax、nMのトロンビン)およびピークまでの時間(Tmax、分)を評価するために、本発明者らは、実施例13に記載された方法に従って、完全な抗体濃度用量を使用して、ヒトFVIII枯渇血漿でトロンビン生成アッセイ(TGA)を実施した。用量反応曲線から生成したデータは、非線形対数[抗体]対反応パラメーター可変勾配モデル(4パラメーターロジスティック回帰モデル)を使用して適合させた。比較のためにAbEを含めた。このアッセイで使用されたIXAX-1280.0999.0325およびAbEは、質量分析によって100%のヘテロ二量体に近く、ホモ二量体汚染物質は検出されなかったと判断された。
【0463】
45~4.5μg/mlに相当する300~30nMに及ぶ前向き治療域にわたって、本発明者らは、分析したすべての濃度でAbEと比較してIXAX-1280.0999.0325と同等(10%以内)またはそれ以上のCmax(nMのトロンビン)値を観察した(図30)。IXAX-1280.0999.0325のCmaxは、二重特異性抗体の濃度が100~300nMの場合、通常の血漿対照のCmaxに近かった(図30および図31)。対照的に、AbEのCmaxは、IgG濃度が300nMの場合にのみ正常レベルに達した。この研究では、IXAX-1280.0999.0325(8.0nM)のEC50は、AbE(54.4nM)のEC50の約15%だった。
【0464】
Cmax曲線を使用すると、IXAX-1280.0999.0325は、その濃度が8μg/mL以上の場合に45μg/mLのエミシズマブと同じ活性を達成できると予測できる。これは、エミシズマブと比較して、IXAX-1280.0999.0325の潜在的な有効性の利点を示唆している。
【0465】
同じ用量反応の分析であるが、Tmaxに関しては、本発明者らは、分析したすべての濃度でAbEと比較してIXAX-1280.0999.0325のTmax値が同等(10%以内)またはそれ以下(もしくは低減した)であることを観察した(図32)。得られたTmax値に基づいて計算されたEC50値は、AbE(四角)では2.8nMであるのに対して、IXAX-1280.0999.0325(丸)では1.65nMである。
【0466】
図30および32に示されている治療範囲に関して、本発明者らは、AbEと比較してそれぞれ大きいおよび小さいIXAX-1280.0999.0325CmaxおよびTmax用量反応曲線を観察する。
【表9】
【表10】
【0467】
さらに3つの二重特異性抗体(BiAb 2、3、および4)の活性も、TGAで評価され、IXAX-1280.0999.0325(BiAb 1)、および市販のヒトFVIII枯渇血漿(Helena Biosciences)中の市販のエミシズマブキャリブレーター(Enzyme Research Laboratories)の性能と比較された。BiAbは以下の通りであり、各々2つの重鎖にそれぞれ配列番号409および配列番号410の重鎖定常領域を含み、共通の軽鎖に配列番号146のラムダ軽鎖定常領域を含む:
1.IXAX-1280.0999.0325.配列番号419の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
2.IXAX-1454.0999.0325.配列番号424の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
3.IXAX-1441.0999.0325.配列番号426の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
4.IXAX-1442.0736.0325.配列番号428の抗FIX重鎖、配列番号430の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
【0468】
BiAb_1、2、3、および4は、エミシズマブと同じように、トロンビンのピーク高さ(Cmax)を用量依存的に増加させ、ピークまでの時間(Tmax)を用量依存的に減少させた。BiAb_1のCmax曲線の上部は、エミシズマブ(334.8nM)よりも高い約368nMで測定された。BiAb_1、2、3、および4のEC50(Cmax)は互いに類似しており、それぞれ6.45nM、5.87nM、5.2nM、および4.81nMのEC50を計算した。これは、エミシズマブのEC50(18.33nM)の26%~35%のEC50を表す。図33A。BiAb_1~BiAb_4の計算されたEC50(Tmax)値は、エミシズマブの2.53nMと比較して、それぞれ0.56nM、0.65nM、1.08nM、0.93nMだった。図33B
【0469】
第3の研究では、BiAb_1(IXAX-1280.0999.0325)を、ヒトFVIII枯渇血漿でTGAアッセイを使用して、市販のエミシズマブキャリブレーターと再度比較した。BiAb_1は、トロンビンのピーク高さ(Cmax)を用量依存的に増加させ、ピークまでの時間(Tmax)を用量依存的に減少させた。図34。BiAb_1についてのCmax曲線の上部は、エミシズマブ(286.3nM)よりも高い約396.5nMだった。BiAb_1のEC50は7.7nMであり、エミシズマブのEC50(25.9nM)の約30%だった。
【0470】
BiAb_1がそれぞれ約400nM、375nM、および375nMのCmaxを示し、エミシズマブが275nM、300nM、および350nMのCmaxを示した図34図33、および図30で示されるように、TGA間では、アッセイ間の変動が観察された。絶対値の変動にもかかわらず、観察された傾向は、TGAの各事象で同じだった。
【0471】
要約すると、市販のエミシズマブキャリブレーターまたは生成された参照抗体AbEのいずれかを使用したTGAデータは、エミシズマブと比較してBiAb_1(IXAX-1280.0999.0325)の有効性の利点を一貫して示した。試験した他の抗体(BiAb_2、BiAb_3、およびBiAb_4)でも利点が観察された。
【0472】
エミシズマブに関するFDAの学際的レビューによると、エミシズマブの定常状態のトラフ血漿濃度が45μg/mL以上の場合、年間出血率(ABR)の中央値は0となる[17]。上記のTGAのCmax曲線を使用すると、BiAb_1は、その濃度が約2~4μg/mL以上の場合、45μg/mLのエミシズマブと同じ活性を達成できると予測される。この観察は、エミシズマブに関して潜在的な有効性および/または投薬上の利点を示唆している。活性の違いは、二重特異性抗体がエミシズマブよりも低用量および/または低頻度で投与された場合に同じ治療効果を達成できることを潜在的に意味し、臨床的利点を表す。より高いCmaxは、より強力な凝固促進能力の可能性を示しているが、この増加の規模が安全上の懸念に関連している可能性は低い。
【0473】
実施例15.最適化された抗体アームの親和性
それぞれの抗原に結合するための精製された抗FIXおよび抗FX抗体の親和性および動態は、上記の実施例10に記載されるようにSPRによって決定された。
【0474】
抗FIX抗体は、親和性が増加する一般的な傾向(より低いK)と、二重特異性抗体のより大きな活性と相関するより速いオフレートとを伴って、約0.05μM~0.3μM(50~300nM)の親和性範囲でFIXへの結合を示した。表E15-1。
【表11】
【0475】
抗FX抗体は、約0.3~3μMの親和性範囲でFXへの結合を示した。表E15-2。抗FX抗体MONAは、単一細胞選別から得られたIgMクローンからのVHおよびVLドメインを有する対照低親和性抗体として含まれていた(実施例1)。
【表12】
【0476】
実施例16.初期の生物物理学的評価
二重特異性抗体の発現を評価するために、IXAX-1172.0201.0128をミニプール分析の代表的な抗体として選択した。ミニプール分析は、大量(少なくとも1g/l)のヘテロ二量体二重特異性抗体を発現するCHO安定トランスフェクト細胞のスクリーニングを可能にし、安定した二重特異性抗体発現を評価する手段を表す。
【0477】
安定的にトランスフェクトされたCHO-K1細胞のための標準的なロンザ流加培養増殖プロトコルを使用して、二重特異性抗体が発現された。トランスフェクション後、ウェル当たり5000個の生細胞を分注して、複数のミニプールを生成した。オクテットによって測定された抗体価に基づいて、8つが進められた。
【0478】
細胞を採取し、濾過し、プロテインAクロマトグラフィーで精製して、上清から抗体を単離した。抗体濃度(mg)はOD280で定量し、抗体の総量(mg)は、試料の量と、細胞培養量に応じて割り当てられた精製収率(mg/L)とに基づいて計算した。8つのミニプール試料の各々におけるヘテロ二量体とホモ二量体の相対的なパーセンテージは、画像化されたキャピラリー等電点フォーカシング(icIEF)(Protein Simple、Maurice)を使用して決定された。ホモ二量体およびヘテロ二量体のピークは、FIXおよびFXの一時的に発現した参照ホモ二量体アームを使用して割り当てられた。
【0479】
本発明者らは、最大約95%のヘテロ二量体を伴う約1g/Lの二重特異性抗体を発現する安定的にトランスフェクトされた細胞を分離することができた(例えば、図35のMP_1およびMP_7で示されているように)。
【0480】
FXaseアッセイにおける二重特異性抗体活性は、ピアソンの相関係数が0.99のヘテロ二量体%と相関していた(図36)。
【0481】
実施例17.二重特異性抗体の精製
二重特異性抗体の2つの重鎖および1つの共通の軽鎖の共発現は、二重特異性抗体および単一特異性抗体副産物を含む組成物を生成する。これらは、単一特異性ホモ二量体と比較した二重特異性ヘテロ二量体の等電点の違いを利用して、イオン交換クロマトグラフィーによって分離することができる。
【0482】
二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0128は、配列番号419の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、および配列番号405の共通の軽鎖を含む。二重特異性抗体は、プロテインAクロマトグラフィーを使用して細胞上清から抗体を単離し、続いてイオン交換クロマトグラフィーを使用してヘテロ二量体を単離することにより、HEK細胞におけるこれらのポリペプチドの共発現後に精製された。
【0483】
二重特異性抗体IXAX-0436.0201.0128は、配列番号324のVHドメインならびにP(ヒンジ)変異およびK439Eを有するIgG4ヒト重鎖定常領域を含む抗FIX重鎖と、配列番号470のVHドメインならびにP(ヒンジ)変異およびE356Kを有するIgG4ヒト重鎖定常領域を含む抗FX重鎖と、配列番号405の共通の軽鎖とを含む。
【0484】
二重特異性抗体IXAX-0436.0202.0128は、配列番号324のVHドメインならびにP(ヒンジ)変異およびK439Eを有するIgG4ヒト重鎖定常領域を含む抗FIX重鎖と、配列番号472のVHドメインならびにP(ヒンジ)変異およびE356Kを有するIgG4ヒト重鎖定常領域を含む抗FX重鎖と、配列番号405の共通の軽鎖とを含む。
【0485】
二重特異性抗体IXAX-1172.0201.0128は、配列番号440のVHドメインならびにP(ヒンジ)変異およびK439Eを有するIgG4ヒト重鎖定常領域を含む抗FIX重鎖と、配列番号470のVHドメインならびにP(ヒンジ)変異およびE356Kを有するIgG4ヒト重鎖定常領域を含む抗FX重鎖と、配列番号405の共通の軽鎖とを含む。
【0486】
イオン交換クロマトグラフィーは、各抗体組成物をその構成要素にきれいに分離した。ベースラインの分離が観察された。抗FIXxFXヘテロ二量体二重特異性抗体は、ホモ二量体汚染物質抗FIXおよび/または抗FX単一特異性抗体から分離される。
【0487】
図37aは、抗FIXホモ二量体NINA-1280.0128および抗FXホモ二量体TINA-0999.0128と混合された二重特異性抗体を含む組成物からのIXAX-1280.0999.0128の精製の成功を示している。
【0488】
図37bは、抗FIXホモ二量体NINA-0436.0128および抗FXホモ二量体TINA-0202.0128と混合された二重特異性抗体を含む組成物からのIXAX-0436.0202.0128の精製の成功を示している。クロマトグラムは、酢酸ナトリウムpH5中で最大500nMにNaCl濃度を増加させた一連の段階的溶出を使用した、ホモ二量体汚染物質からのN436二重特異性抗体の陽イオンイオン交換精製を表している。ピーク1は抗FIXホモ二量体抗体を表す。ピーク2は抗FIX/FX二重特異性抗体であり、ピーク3は抗FXホモ二量体抗体を表す。ピーク1、2、および3は、それぞれ合計ピーク面積の18%、79%、および3%を構成する。
【0489】
図37cは、二重特異性抗体および抗FIXホモ二量体NINA-1172.0128を含む組成物からのIXAX-1172.0201.0128の精製の成功を示している。ここでのカラム精製により、31.5%の抗FIXホモ二量体および68.5%の二重特異性ヘテロ二量体が得られた。クロマトグラムは、弱く結合したピーク1(抗FIXホモ二量体)を除去するための最初の段階的溶出と、それに続く抗FIX/FX二重特異性を溶出するためのNaCl濃度の増加を使用したグラジエント溶出を使用した、抗FIXホモ二量体汚染物質からのN1172二重特異性抗体の陽イオンイオン交換精製を表している。抗FXホモ二量体の存在は検出されなかった。
【0490】
材料および方法
IXAX-1280.0999.0128精製では、二重特異性抗体はExpi293F HEK細胞で一過性に発現した。細胞培養上清を回収し、濾過し、1xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で平衡化した5mlのHiTrap MabSelect Sure(MSS)カラム(GE Healthcare)にロードした。カラムを5カラム容量のPBSで洗浄し、結合した抗体をIgG溶出液(ThermoFisher)を使用して溶出した。溶出した二重特異性抗体を4℃で一晩1xPBSに透析し、分子量10kDaのカットオフを有する遠心フィルターユニットを使用して濃縮した。
【0491】
クロマトグラフィーは室温で実施した。1mlのHiTrap Capto SPカラム(GE Healthcare)を20mMのリン酸ナトリウム、pH6.0で平衡化し、平衡化緩衝液(20mMのリン酸ナトリウム、pH6.0)中で1:20に希釈した0.5mgのプロテインA精製物質をカラムにロードした。続いて、カラムを10カラム容量の平衡化緩衝液で洗浄した後、直線グラジエント(90カラム容量にわたる100%B~500mMのNaCl)を使用して、二重特異性抗体と単一特異性汚染物質を溶出した。このプロセスでは、緩衝液をA(20mMのリン酸ナトリウム、pH6.0、塩なし)からB(500mMのNaClを添加した緩衝液A)に、1mlのカラムについて1ml/分の流速で90cvで徐々に変化させる。
【0492】
IXAX-0436.0202.0128精製では、緩衝液A(50mMの酢酸ナトリウム、pH5)と緩衝液B(50nMの酢酸ナトリウムおよび500mMの塩化ナトリウム)の比率を変えて、3つの異なるイオン強度での洗浄を含む段階的なグラジエントを適用した。
【0493】
IXAX-1172.0201.0128精製では。最初の段階的溶出を使用して、弱く結合したピーク1(抗FIXホモ二量体)を除去し、続いて濃度を増加させたNaClを使用してグラジエント溶出を行い、抗FIX/FX二重特異性を溶出した。
【0494】
続いて、以下の二重特異性抗体がCHO細胞で発現された。
5.IXAX-1280.0999.0325.配列番号419の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
6.IXAX-1454.0999.0325.配列番号424の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
7.IXAX-1441.0999.0325.配列番号426の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
8.IXAX-1442.0736.0325.配列番号428の抗FIX重鎖、配列番号430の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
9.IXAX-1442.0687.0325.配列番号428の抗FIX重鎖、配列番号421の抗FX重鎖、配列番号414の共通の軽鎖。
【0495】
これらの二重特異性抗体の各々は、2つの重鎖についてそれぞれ配列番号409および配列番号410の重鎖定常領域、ならびに共通の軽鎖に配列番号146のラムダ軽鎖定常領域を含む。
【0496】
CHO細胞における上記の抗体1~5の各々の一過性発現から観察された力価は、単一特異性アイソタイプ対照抗体の力価と同等だった。安定したプールおよびミニプール(トランスフェクション後に最大4,000個の細胞を播種)も生成された。安定したプールは低いパーセンテージ(11~19%)のヘテロ二量体抗体を生成したが、力価が最大4.9g/l、ヘテロ二量体のパーセンテージが最大82%のミニプールは、限られた数のスクリーニングされたミニプールから確立された。
【0497】
プロテインA精製後、陽イオン交換クロマトグラフィーを使用して、ホモ二量体副産物を除去し、機能アッセイおよび開発性スクリーニングでの使用に適した高純度の材料を生成した。
【0498】
グラジエント陽イオン交換法を使用して、抗体1~4をホモ二量体副産物から分離し、溶出した物質中91~96%のヘテロ二量体を提供した。したがって、この予備精製法を使用しても、本発明者らは、91~96%の純粋なヘテロ二量体を得ることができた。図38。この技法を使用した抗体5では、同等のホモ二量体/ヘテロ二量体の分離は観察されなかった。
【0499】
実施例18.質量分析による品質評価
治療用モノクローナル抗体の構造的完全性は、製品の不均一性をもたらす複数のタイプの翻訳後修飾によって損なわれる可能性がある。質量分析(MS)を使用して、陽イオン交換精製後の二重特異性抗体の品質を特徴付け、評価した。
【0500】
実施例17に記載の陽イオン交換分離後、BiAb_1 IXAX-1280.0999.0325の溶出組成物中の3つの異なる種(それぞれ、抗FIX/抗FXヘテロ二量体、抗FIXホモ二量体、および抗FXホモ二量体)をMSによって分析した。MSによって決定された3つの分子の分子量(MW)は、BiAb_1のアミノ酸配列によって予測された理論上のMWと一致した。したがって、MSの結果により、陽イオン交換精製後のFIX/FXヘテロ二量体の同一性および純度が確認された。
【0501】
実施例19.安定性評価
実施例17に記載の精製の後、BiAb_1、2、3および4をそれぞれ、緩衝液1(酢酸ナトリウム、pH5.5)または緩衝液2(クエン酸/リン酸、pH6.0)のいずれかに緩衝液交換し、4℃で2週間保存するか、25℃で4週間保存するか、または1回の凍結/解凍サイクルに付した。処理による抗体の損失を計算するために、処理の前後にIgGの濃度を測定した。SEC-HPLCも、二重特異性抗体の分解および凝集を監視するために、処理の前後に実施された。BiAb_1、2、3、または4の明らかな損失または分解は観察されなかった。したがって、これらの4つの二重特異性抗体は、緩衝液1および緩衝液2の両方ですべて安定だった。
【0502】
実施例20.FXaseアッセイにおける用量反応および効力
FXase動態アッセイを実行して、用量反応におけるIXAX-1280.0999.0325およびAbEの第VIII因子模倣活性を測定し、実施例7に従ってそれらのEC50値を決定した。用量反応曲線から生成したデータは、非線形対数[抗体]対反応パラメーター可変勾配モデル(4パラメーターロジスティック回帰モデル)を使用して適合させた。図39。y軸は、600秒のアッセイ時点でのOD405nm値をプロットしている。IXAX-1280.0999.0325およびAbEの両方のEC50値は、データの非線形回帰曲線から計算され、IXAX-1280.0999.0325のEC50は3.99nM、AbEのEC50は261.2nMだった。用量反応曲線が不完全だったため、これらは概算である。これにもかかわらず、IXAX-1280.0999.0325のEC50はAbEよりも有意に低いことは明らかである。IXAX-1280.0999.0325およびAbEの活性は用量依存的である。IXAX-1280.0999.0325は、AbEと比較して、特に低濃度で、より高いFVIII模倣活性を示した。
【表13】
【0503】
実施例21.ハイフンアッセイの用量反応
ヒト血漿中の第Xa因子産生を分析する発色アッセイ(HYPHEN BioMed)を使用して、IXAX-1280.0999.0325およびAbEの第VIII因子模倣活性を測定した。このアッセイでは、FXaの生成は、発色基質の添加後に測定されたOD405に比例する。抗体濃度用量反応曲線を生成し、非線形対数[抗体]対反応パラメーター可変勾配モデル(4パラメーターロジスティック回帰モデル)を使用して適合させた。用量反応に基づくEC50値を計算した。AbEの15.43nMと比較して、IXAX-1280.0999.0325のEC50値は5.92nMと計算された。
【0504】
IXAX-1280.0999.0325は、ほぼすべての濃度で、AbEよりも優れたFVIII模倣能力を一貫して達成した。60nMでは、A405nmは両方の分子で4.988で飽和した。IXAX-1280.0999.0325は20nMでこの飽和を維持したが、AbEは3.457の減少したA405nmを示した。0.028nMの最低濃度では、IXAX-1280.0999.0325はAbEよりも4倍以上高い吸光度を示した。計算されたEC50値は、IXAX-1280.0999.0325が用量反応アッセイ全体でAbEと比較した場合に優れた効力を示すことを確証している。図40
【表14】
【0505】
材料および方法
BIOPHEN FVIII:C(Ref.221402)キットは、製造元のアッセイプロトコルに従って使用された。簡単に説明すると、FVIII欠乏血漿(Helena Biosciences Europe)をトリス-BSA緩衝液(R4)を使用して1:40に希釈し、透明な底の96ウェルプレートに45μlを加えた。5μlの二重特異性抗体を希釈した血漿に加えた。37℃にプレインキュベートした試薬R1(FX)およびR2(FIXa)を各々50μlずつ各ウェルに添加し、37℃で5分間インキュベートした。続いて、50μlの試薬R3(SXa-11、発色試薬)を添加し、混合し、さらに5分間正確にインキュベートした。50μlの20%酢酸の添加により反応を停止させた。第Xa因子の生成は、特定の第Xa因子基質(SXa-11)を切断する第Xa因子の能力によって監視された。この基質が切断されると、着色生成物pNAが放出される。これは、分光光度計を使用して405nMで監視され、ブランク試料と比較することができる。
【0506】
このアッセイで使用されたIXAX-1280.0999.0325およびAbEは、質量分析によって100%のヘテロ二量体に近く、ホモ二量体汚染物質は検出されなかった(または低いレベルのみ検出された)と判断された。
【0507】
IXAX-1280.0999.0325およびAbE試料は、希釈剤としてPBSを使用した1:3希釈系列を使用して希釈した。5μLの容量を45μLの第VIII因子欠乏血漿に加えた。希釈系列の各試料の最終濃度(nM)(アッセイ時)は、60.0、20.0、6.67、2.22、0.741、0.247、0.082、および0.028だった。濃度をlog(M)に変換し、プロットした。EC50計算を可能にするために、非線形回帰がグラフにプロットされた。
【0508】
実施例22.血漿凝固アッセイにおける用量反応および効力
本発明者らは、完全抗体濃度用量反応(実施例8による方法)を使用して、IXAX-1280.0999.0325に対する二重特異性抗体AbEの活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を評価した。用量反応曲線から生成したデータは、非線形対数[抗体]対反応パラメーター可変勾配モデル(4パラメーターロジスティック回帰モデル)を使用して適合させた。
【0509】
分析された濃度値にわたって、本発明者らは、分析されたすべての濃度でAbEと比較してIXAX-1280.0999.0325の同等のaPTT値(10%以内)を観察した(図41)。用量反応曲線を、止血効果を示さなかったヒトIgG4モノクローナル抗体アイソタイプ対照と比較した。得られたaPTT値に基づいて計算されたEC50値は、AbE(四角)では2.0nMであるのに対して、IXAX-1280.0999.0325(丸)では2.1nMであった。
【0510】
30~300nMの将来的な治療範囲に関して、本発明者らは、AbEと同等のaPTT用量反応曲線をIXAX-1280.0999.0325で観察する。
【0511】
このアッセイで使用されたIXAX-1280.0999.0325およびAbEは、質量分析によって100%のヘテロ二量体であり、ホモ二量体汚染物質は検出されなかったと判断された。
【0512】
実施例23.抗FVIII阻害抗体の存在下での活性
患者が外因的に投与されたFVIIIに対して同種抗体を産生した場合、第VIII因子補充療法は、血友病Aの患者の治療に効果がなくなる可能性がある。阻害性抗FVIII同種抗体は、FIX、リン脂質、およびヴォン・ヴィレブランド因子のFVIIIへの結合を遮断し、FVIIIを不活性にし得る。
【0513】
有利なことに、治療用二重特異性抗体は、同種抗体がFVIIIに特異性を有するため、患者の血液中のFVIII同種抗体の存在に対して非感受性である。これは、阻害性患者から採取した血漿中の止血を機能的に回復する二重特異性抗体の能力によって確認される。この実施例では、本発明者らは、2つの止血アッセイ:阻害性同種抗体を有する血友病Aを有する患者からの血漿(「阻害剤血漿」と呼ばれる)を使用する、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)およびトロンビン生成アッセイ(TGA)、を使用してこれを実証する。凝固時間の回復は、分析された二重特異性抗体がFVIII阻害性同種抗体の存在下で機能的であることを示した。したがって、本明細書で提示されたデータは、IXAX-1280.0999.0325およびIXAX-1441.0999.0325が、FVIIIに対する阻害性同種抗体を有する患者の凝固時間を機能的に救済できることを示している。
【0514】
ベセスダ(Bethesda)アッセイまたはナイメゲン(Nijmegen)改変ベセスダアッセイを使用して、FVIIIに対する同種抗体の力価を測定する。これらのアッセイでは、患者の血漿の様々な希釈液を等量の「正常な」血漿と混合し、一定期間インキュベートし、FVIIIのレベルを測定する。残留FVIIIの減少が観察された場合、阻害剤の存在が示される。これらのアッセイの測定単位は、ベセスダ単位(BU)として知られている。BUが高いほど、阻害が大きく、残留FVIII活性が低いことを示す。本明細書に記載される実験では、70BUの特定の阻害剤レベルを有する患者の血漿を使用した。
【0515】
aPTT
IgG4二重特異性抗体IXAX-1280.0999.0325、IXAX-1441.0999.0325、およびAbEをCHO細胞で発現させた後、プロテインAクロマトグラフィー、続いて陽イオン交換クロマトグラフィーで精製し、活性ヘテロ二量体を汚染ホモ二量体から分離し、aPTTにより、6つの異なる濃度、300、100、33.3、11.1、3.7および1.23nMで分析した。aPTTは、実施例8に従って実行された。用量反応曲線から生成したデータは、非線形対数[抗体]対反応パラメーター可変勾配モデル(4パラメーターロジスティック回帰モデル)を使用して適合させた。IXAX-1280.0999.0325とIXAX-1441.0999.0325IgG4抗体はどちらも、AbEと同様の方法で、阻害性患者試料の凝固障害を救済することができた。図42
【0516】
トロンビン生成アッセイ
阻害性血漿(70BU)でのトロンビン生成は、IXAX-1280.0999.0325、IXAX-1441.0999.0325、AbE IgG4二重特異性抗体について、以下のプロテインA、その後の陽イオン交換クロマトグラフィーでの精製を用いて、決定された。実施例13に従って、トロンビン生成アッセイを使用した。トロンビンピークがすべての二重特異性抗体で観察され、これは、IXAX-1280.0999.0325およびIXAX-1441.0999.0325の両方が、AbEと同様に、FVIIIに対する阻害性同種抗体を含有する血漿中の止血を機能的に回復できることを示している。
【0517】
各二重特異性抗体の用量反応を実行し、ピークトロンビン高さ(Cmax)を決定した。図43。分析した濃度範囲では、IXAX-1280.0999.0325およびIXAX-1441.0999.0325のCmax用量反応は、AbEのCmaxよりも大きく、トロンビンバーストが大きいことを示し、IXAX-1280.0999.0325およびIXAX-1441.0999.0325のTmax用量反応は、AbEのTmaxよりも低く、トロンビンバーストが速いことを示している。図44
________
【0518】
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【0519】
FIXa結合アームVHドメインポリペプチド配列
【表15-1】
【表15-2】
【表15-3】
【表15-4】
【表15-5】
【表15-6】
【表15-7】
【表15-8】
【表15-9】
【表15-10】
【表15-11】
【表15-12】
【表15-13】
【表15-14】
【表15-15】
【表15-16】
【表15-17】
【表15-18】
【表15-19】
【表15-20】
【表15-21】
【表15-22】
【表15-23】
【表15-24】
【表15-25】
【表15-26】
【表15-27】
【表15-28】
【表15-29】
【0520】
【表16-1】
【表16-2】
【0521】
FX結合アームVHドメインポリペプチド配列
【表17-1】
【表17-2】
【表17-3】
【0522】
【表18-1】
【表18-2】
【0523】
【表19-1】
【表19-2】
【表19-3】
【表19-4】
【表19-5】
【表19-6】
【表19-7】
【表19-8】
【表19-9】
【表19-10】
【表19-11】
【表19-12】
【表19-13】
【表19-14】
【表19-15】
【0524】
【表20-1】
【表20-2】
【表20-3】
【表20-4】
【表20-5】
【表20-6】
【表20-7】
【0525】
ヒト生殖細胞遺伝子セグメント
【表21】
【0526】
共通の軽鎖配列
【表22】
【0527】
【表23】
【0528】
【表24】
【0529】
共通の軽鎖N0128LとそのネイティブヒトIgλリーダー配列(v3-21リーダーペプチドMAWTALLLGLLSHCTGSVT、配列番号519)を使用した二重特異性抗体の組換え発現により、N末端Serがクリッピングされ、VLドメインがN0325VLドメインについて本明細書に示される配列と同等な抗体を生じた。成熟軽鎖ポリペプチドがSer後の切断によって生じる代替リーダー配列で使用するために、同じ成熟生成物を達成するために軽鎖0325が生成された。0325は、0128LのN末端Ser残基を省略している。
【0530】
定常領域
【表25-1】
【表25-2】
【表25-3】
【0531】
【表26-1】
【表26-2】
【0532】
【表27-1】
【表27-2】
【表27-3】
【表27-4】
図1
図2-1】
図2-2】
図3
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図10-2】
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図20-2】
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図33-1】
図33-2】
図34-1】
図34-2】
図35
図36
図37-1】
図37-2】
図38-1】
図38-2】
図39
図40
図41
図42
図43
図44
【配列表】
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