(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】少なくともジルコニウムとマグネシウムとを含む合金である、アルミニウム合金製部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/20 20210101AFI20240731BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240731BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20240731BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240731BHJP
B23K 20/12 20060101ALI20240731BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20240731BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240731BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240731BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240731BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240731BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20240731BHJP
B22F 12/13 20210101ALN20240731BHJP
【FI】
B22F10/20
B22F1/00 N
B22F3/14 101B
B22F10/64
B23K20/12 A
B23K26/34
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
C22C21/00 N
C22C21/06
B22F12/13
(21)【出願番号】P 2021543268
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 FR2020050107
(87)【国際公開番号】W WO2020152427
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-12-09
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519367223
【氏名又は名称】シーテック コンステリウム テクノロジー センター
【氏名又は名称原語表記】C-TEC CONSTELLIUM TECHNOLOGY CENTER
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】シュア,ベシール
(72)【発明者】
【氏名】シャアニ,ラヴィ
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-242749(JP,A)
【文献】特開2018-184659(JP,A)
【文献】国際公開第2018/206876(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,3/14,10/20,10/64,12/13
B23K 20/12,26/34
B33Y 10/00,70/00,80/00
C22C 21/00,21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに重ね合わされた連続的な金属層(20
1・・・・20
n)の形成を含む、部品の製造方法であって、各層が、溶加材(15、35)の堆積によって形成され、前記溶加材が、エネルギー供給を受けて溶融しそれから凝固することによって前記層となり、前記方法が、前記溶加材(15、35)が質量パーセントで以下の合金元素、
-
1%~6%のMg、
- 0.7%~2.5
%のZr、
- 各元素につき少なくとも0.1
%の、Fe、Cu、Mn、Niおよび/またはLaの中で選択される少なくとも1つの合金元素、
- 任意には、他の合金元素または他の合金元素のそれぞれの含有量が0.05%~5%の、Hf、V、Cr、Ta、Nb、W、Ti、Y、Yb、Ce、Co、Mo、Ndおよび/またはErの中で選択される少なくとも1つの他の合金元素、
- 各々0.05%未満、か
つ合計で0.15%未満の不純物、
残部がアルミニウムからなるアルミニウム合金であることを特徴とする方法。
【請求項2】
アルミニウム合金が
、1~5質量
%のMgを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルミニウム合金が、3.5質量%未
満のMg含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、層の形成後すなわち最終部品の形成後に、少なくとも1つの熱処理の適用を含
む、請求項1から
3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
層の形成後すなわち最終部品の形成後に焼入れタイプの熱処理を含まない、請求項1から
4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
溶加材が粉末(15)の形態をなし、光ビーム(12)や荷電粒子ビームへのその曝露が、局所溶融とそれに続く凝固を生じさせて固体層(20
1・・・20
n)を形成する、請求項1から
5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
溶加材がフィラーワイヤー(35)に由来し、熱源(32)へのその曝露が、局所溶融とそれに続く凝固を生じさせて固体層(20
1・・・20
n)を形成する、請求項1から
5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
付加製造法のフィラー材として利用されることを目的とした粉末であって、前記粉末が、加熱されることを目的とし加熱の影響下で層を形成し、前記層が、溶融とそれに続く凝固の結果として生じ、前記粉末が、アルミニウム合金の粒子を含み、前記粉末が、アルミニウム合金が質量パーセントで以下の合金元素、
-
1%~6%のMg、
- 0.7%~2.5
%のZr、
- 各元素につき少なくとも0.1
%の、Fe、Cu、Mn、Niおよび/またはLaの中で選択される少なくとも1つの合金元素、
- 任意には、他の合金元素または他の合金元素のそれぞれの含有量が0.05%~5%の、Hf、V、Cr、Ta、Nb、W、Ti、Y、Yb、Ce、Co、Mo、Ndおよび/またはErの中で選択される少なくとも1つの他の合金元素、
- 各々0.05%未満、か
つ合計で0.15%未満の不純物、
残部がアルミニウムからなることを特徴とする粉末。
【請求項9】
付加製造法のフィラー材として利用されることを目的としたフィラーワイヤーであって、前記フィラーワイヤーが質量パーセントで以下の合金元素、
-
1%~6%のMg、
- 0.7%~2.5
%のZr、
- 各元素につき少なくとも0.1
%の、Fe、Cu、Mn、Niおよび/またはLaの中で選択される少なくとも1つの合金元素、
- 任意には、他の合金元素または他の合金元素のそれぞれの含有量が0.05%~5%の、Hf、V、Cr、Ta、Nb、W、Ti、Y、Yb、Ce、Co、Mo、Ndおよび/またはErの中で選択される少なくとも1つの他の合金元素、
- 各々0.05%未満、か
つ合計で0.15%未満の不純物、
残部がアルミニウムからなるアルミニウム合金から成ることを特徴とするフィラーワイヤー。
【請求項10】
コールドスプレーコンソリデーション(CSC)、レーザー金属堆積(LMD)、摩擦による付加製造(AFS)、通電焼結法(FAST)、または慣性回転摩擦溶接(IRFW)の中で選択される製造
法における、請求項
8に記載の粉末または請求項
9に記載のフィラーワイヤーの利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、アルミニウム合金製部品の製造方法であり、付加製造技術を利用するものである。
【背景技術】
【0002】
80年代以降、付加製造技術は発展した。これらの技術は、素材の付加によって部品を成形することにあり、このことは、素材を切削することを目ざす加工技術とは逆である。付加製造は、以前はプロトタイピングに限定されていたが、今では、金属部品も含めて工業製品を大量生産するために実用化されている。
【0003】
用語「付加製造」は、仏規格XP E67-001によると、「デジタルオブジェクトから物理オブジェクトを、素材の付加によって、層ごとに製造することを可能にする方法の全体」と定義されている。規格ASTM F2792(2012年1月)もまた、付加製造を定義している。規格ISO/ASTM 17296-1において、さまざまな付加製造方式もまた定義および記述されている。国際公開第2015/006447号において、低気孔率のアルミニウム製部品を作製するために付加製造を用いることが記述された。相次ぐ層の適用は一般的に、フィラー材と呼ばれる材料の塗付、ついでレーザービーム、電子ビーム、プラズマトーチまたはアークタイプのエネルギー源を用いた、フィラー材の溶融または焼結によって実現される。適用される付加製造方式がどうであろうと、付加される各層の厚みは、およそ数十ミクロンまたは数百ミクロンである。フィラー材は、粉末またはワイヤの形態をしていることが可能である。
【0004】
利用されうる付加製造法の中で、例えば、粉末の形状をなすフィラー材の溶融または焼結を非制限的に挙げてみる。それはレーザー溶融またはレーザー焼結であることができる。米国特許出願公開第2017/0016096号明細書は、電子ビームまたはレーザービームタイプのエネルギービームへの粉末の曝露によって得られる局所溶融による部品の製造方法を記述しており、この方法はまた、“Selective Laser Melting”を示すアングロサクソン語の頭字語SLM、または“Electron Beam Melting”を示す“EBM”によっても示される。粉末は、銅含有量が5~6質量%であり、マグネシウム含有量が2.5~3.5質量%であるアルミニウム合金から成る。
【0005】
国際公開第2018/185259号は、SLMタイプの付加製造法における、粉末の形状で利用されることを目的とした合金を記述している。合金はとりわけ、2~7質量%のMgを含むことができる。合金はまた、0~1%の質量分率のZrを含むこともできる。
【0006】
国際公開第2018/009359号は、1~10%の質量分率のMgならびに0.3~3%の質量分率のZrを含む、粉末の形状のアルミニウム合金を記述している。合金はまた、Zn、Mn、Cr、Si、Fe、Cuも含むことができるが、これらの元素はその場合、不可避不純物として存在し、その含有量は500ppm未満である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/006447号
【文献】米国特許出願公開第2017/0016096号明細書
【文献】国際公開第2018/185259号
【文献】国際公開第2018/009359号
【発明の概要】
【0008】
付加製造によって得られるアルミニウム部品の機械的性質は、溶加材を形成する合金、またより具体的にはその組成ならびに付加製造の利用の後に適用される熱処理に依る。
【0009】
本発明者らは、付加製造法において利用されると特に硬度に関して傑出した機械的性能を示す部品を得ることを可能にする、合金の組成を決定した。本発明者らによって定義される組成の利点は、溶体化処理および焼入れタイプの熱処理を利用する必要がないということである。また以下に記述される組成は、低レベルの気孔率を有する層を形成することを可能にする。この組成はそのうえ、高出力および高速度による付加製造法の利用に適合する。この組成はこのように、製造収率が高い部品製造を可能にする。
【0010】
[発明の開示]
本発明の第一の対象は、互いに重ね合わされた連続的な金属層の形成を含む、部品の製造方法であって、各層は、溶加材の堆積によって形成され、その溶加材は、エネルギー供給を受けて溶融しそれから凝固することによって前記層となり、該方法は、溶加材が質量パーセントで以下の合金元素、
- Mg:0%~6%、
- Zr:0.7%~2.5%、好ましくは第一の変形例により1%を超えかつ2.5%以下、または好ましくは第二の変形例により0.7~2%、さらには0.7~1.6%、さらには0.7~1.4%、さらには0.8~1.4%、さらには0.8~1.2%、
- Fe、Cu、Mn、Niおよび/またはLaの中で選択される少なくとも1つの合金元素:各元素につき少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも0.25%、より好ましくは少なくとも0.5%、
- 不純物:各々0.05%未満、かつ好ましくは合計で0.15%未満、
を含むアルミニウム合金であることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、合金の残りはアルミニウムである。好ましくは本発明による合金は、少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の質量分率のアルミニウムを含む。
【0012】
Zrの量に関して、Mnの存在下で、第一の変形例がとりわけ適合されることに注目すべきである。
【0013】
溶加材の溶融は、部分的または全体的であることができる。好ましくは、曝露される溶加材の50~100%が、より好ましくは80~100%が溶融する。
【0014】
各層はとりわけ、数値モデルから定義されるパターンを描くことができる。
【0015】
本発明の一変形例によると、Mg含有量は、3.5質量%未満、好ましくは3質量%未満、より好ましくは2質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満、さらにより好ましくは0.05質量%未満であり得る。
【0016】
この変形例によると、本発明による合金は、室温での伝導率(熱伝導率または電気伝導率)と機械的強度との間の良好な妥協を有するためにとりわけ有利であるようである。実際に、本発明による合金の室温での伝導率(電気伝導率または熱伝導率)は、例えば400℃での硬化の焼きなまし温度での維持の継続時間とともに連続的に上昇するようである。室温での機械的強度については、まず上昇して(例えば400℃での)維持の0hと~10hとの間でピークに達した後、低下し始めるようである。このように、求められる妥協に応じて、硬化の焼きなまし温度での維持の時間は、調整されなければならないようである。
【0017】
硬化の焼きなまし温度は、300~500℃であり得る。
【0018】
3.5質量%、さらには3質量%、さらには2質量%を超えるMg含有量は、機械的強度については有益であるようだが、しかし伝導率(熱伝導率または電気伝導率)の価値を低下させるようである。
【0019】
本発明の別の変形例によると、合金は、0.2~6質量%、好ましくは1~5質量%、より好ましくは2~5質量%、さらに好ましくは3~5質量%、さらにより好ましくは3.5~5質量%のMgを含み得る。
【0020】
Zr含有量は、好ましくは第一の変形例により1.2~2%、さらには1.2~1.8%である。
【0021】
Zr含有量は、好ましくは第二の変形例により0.7~2%、さらには0.7~1.6%、さらには0.7~1.4%、さらには0.8~1.4%、さらには0.8~1.2%である。
【0022】
アルミニウム合金は、0.1~5%、好ましくは0.1~4%、より好ましくは0.5~3%、また例えば1%か2%のCuを含み得る。
【0023】
アルミニウム合金は、0.1~5%、好ましくは0.1~4%、より好ましくは0.5~3%、また例えば1%か2%のFeを含み得る。
【0024】
アルミニウム合金は、0.1~5%、好ましくは0.5~3%、また例えば1%か2%のNiを含み得る。
【0025】
アルミニウム合金は、0.1~5%、好ましくは0.5~3%、また例えば1%か2%のLaを含み得る。
【0026】
アルミニウム合金は、0.1~5%、好ましくは0.5~3%、また例えば1%か2%のMnを含み得る。
【0027】
先に挙げられた合金元素の累積含有量は、好ましくは、0.1%を完全に超える。それは0.1%~5%であり得る。それは好ましくは10%未満である。
【0028】
アルミニウム合金は、少なくとも1つの他の合金元素を含み得る。用語「他の合金元素」は、上にリストされた合金元素とは異なる添加元素を意味する。他の合金元素または他の合金元素のそれぞれは、Si、Hf、V、Cr、Ta、Nb、W、Ti、Y、Yb、Ce、Co、Mo、Ndおよび/またはErの中で選択され、他の合金元素または他の合金元素のそれぞれの含有量は、0.05%~5%、または0.1%~3%、または0.1~2%、または0.1~1%、または0.1~0.5%である。他の合金元素の累積含有量は好ましくは10%未満、また好ましくは5%未満である。
【0029】
本方法は、層の形成後すなわち最終部品の形成後に、少なくとも1つの熱処理の適用を含み得るものであって、その熱処理の温度は好ましくは、300℃~600℃である。熱処理は、焼きなましまたは焼戻しであり得る。本方法は好ましくは、層の形成後すなわち最終部品の形成後に、焼入れタイプの熱処理を含まない。
【0030】
一実施形態によると、溶加材は粉末の形態をなし、光ビームや荷電粒子ビームまたはより一般的には熱源へのその曝露が、局所溶融とそれに続く凝固を生じさせて固体層を形成する。
【0031】
別の実施形態によると、溶加材はフィラーワイヤーに由来し、熱源、例えばアークへのその曝露が、局所溶融とそれに続く凝固を生じさせて固体層を形成する。
【0032】
本発明の第二の対象は、本発明の第一の対象による方法によって得られる部品である。
【0033】
本発明の第三の対象は、付加製造法のフィラー材として利用されることを目的とした粉末であって、粉末は、加熱されることを目的とし加熱の影響下で層を形成し、層は溶融とそれに続く凝固の結果として生じ、粉末はアルミニウム合金の粒子を含み、粉末はアルミニウム合金が質量パーセントで以下の合金元素、
- Mg:0%~6%、
- Zr:0.7%~2.5%、好ましくは第一の変形例により1%を超えかつ2.5%以下、または好ましくは第二の変形例により0.7~2%、さらには0.7~1.6%、さらには0.7~1.4%、さらには0.8~1.4%、さらには0.8~1.2%、
- Fe、Cu、Mn、Niおよび/またはLaの中で選択される少なくとも1つの合金元素:各元素につき少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも0.25%、より好ましくは少なくとも0.5%、
- 不純物:各々0.05%未満、かつ好ましくは合計で0.15%未満、
を含むことを特徴とする。
【0034】
粉末は、その粉末を構成する粒子の少なくとも80%が、5~100μm、好ましくは5~25μm、または20~60μmの範囲における平均サイズを有するという状態であり得る。
【0035】
本発明の第四の対象は、付加製造法のフィラー材として利用されることを目的としたフィラーワイヤーであって、フィラーワイヤーが質量パーセントで以下の合金元素、
- Mg:0%~6%、
- Zr:0.7%~2.5%、好ましくは第一の変形例により1%を超えかつ2.5%以下、または好ましくは第二の変形例により0.7~2%、さらには0.7~1.6%、さらには0.7~1.4%、さらには0.8~1.4%、さらには0.8~1.2%、
- Fe、Cu、Mn、Niおよび/またはLaの中で選択される少なくとも1つの合金元素:各元素につき少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも0.25%、より好ましくは少なくとも0.5%、
- 不純物:各々0.05%未満、かつ好ましくは合計で0.15%未満、
を含むアルミニウム合金から成ることを特徴とするものである。
【0036】
フィラー材がワイヤの形態をしているとき、ワイヤの直径はとりわけ、0.5~3mm、また好ましくは0.5~2mm、またさらに好ましくは1~2mmであることができる。
【0037】
本発明の第三および第四の対象において利用される合金は、本発明の第一の対象に関係して記述される合金の、個別に選ばれるまたは技術的に実現可能な組合せにより選ばれる特徴を有することができる。
【0038】
本発明の第五の対象は、コールドスプレーコンソリデーション(CSC)、レーザー金属堆積(LMD)、摩擦による付加製造(AFS)、通電焼結法(FAST)、または慣性回転摩擦溶接(IRFW)の中で選択される製造法、好ましくはコールドスプレーコンソリデーション(CSC)における、上に記述されたようなまた明細書のその他において記述されるような粉末またはフィラーワイヤーの利用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】選択的レーザー溶融(SLM)による付加製造法を示す図である。
【
図2】Zr含有量(横座標軸)に応じた液相線温度(縦座標軸)の変化を示している。
【
図3】再溶融した層における2つのヌープ硬度圧痕を有する切断かつ研磨された、レーザーを用いた表面のスキャン後のサンプルの横断面の顕微鏡写真を示している。
【
図4A-4D】400℃での後熱処理の継続時間(横座標軸)に応じた、本発明による組成を利用して作製されたサンプルのヌープ硬度値(縦座標軸)を示している。
【
図5A-5F】さまざまなスキャン速度によるレーザービームに曝された基準合金のサンプルの断面を示しており、レーザーの出力はそれぞれ250W、300W、350W、400W、450Wそして500Wである。
【
図6A-6F】さまざまなスキャン速度によるレーザービームに曝されたAl-4%Mg-1.5%Zr-2%Cu合金の本発明によるサンプルの断面を示しており、レーザーの出力はそれぞれ250W、300W、350W、400W、450Wそして500Wである。
【
図7A-7F】さまざまなスキャン速度によるレーザービームに曝されたAl-4%Mg-1.5%Zr-2%Ni合金の本発明によるサンプルの断面を示しており、レーザーの出力はそれぞれ250W、300W、350W、400W、450Wそして500Wである。
【
図8A-8F】さまざまなスキャン速度によるレーザービームに曝されたAl-4%Mg-1.5%Zr-2%Fe合金の本発明によるサンプルの断面を示しており、レーザーの出力はそれぞれ250W、300W、350W、400W、450Wそして500Wである。
【
図9A-9F】さまざまなスキャン速度によるレーザービームに曝されたAl-4%Mg-1.5%Zr-2%Mn合金の本発明によるサンプルの断面を示しており、レーザーの出力はそれぞれ250W、300W、350W、400W、450Wそして500Wである。
【
図10A-10F】さまざまなスキャン速度によるレーザービームに曝されたAl-4%Mg-1.5%Zr-2%La合金の本発明によるサンプルの断面を示しており、レーザーの出力はそれぞれ250W、300W、350W、400W、450Wそして500Wである。
【
図11】一般に頭字語WAAM(Wire Arc Additive Manufacturing)によって示されるワイヤアーク式付加製造法を示す図である。
【
図12】いくつかの例にしたがって利用される試験片の図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[特定実施形態の開示]
説明において、相反する指示がない限り、
- アルミニウム合金の呼称は、The Aluminum Associationの学術用語に従っており、
- 化学元素の含有量は、%で示され、また質量分率を示す。x%~y%の記号表記は、x%以上でありかつy%以下であることを示す。
【0041】
図1は、先行技術との関連において言及された、SLMタイプの付加製造装置を示している。装置は、台座10の上に乗っている粉末15の形状で配置されるフィラー材を形成するアルミニウム合金を利用する。エネルギー源、この場合レーザー源11は、レーザービーム12を発する。レーザー源は、光学システム13によってフィラー材につながれ、その動きは、数値モデルMに応じて決定される。レーザービーム12は、数値モデルに依存するパターンを描く、長手方向面XYに沿った動きをたどる。移動は、粉末との関係におけるビームの移動速度を示す、スキャン速度に従って行われる。粉末15とのレーザービーム12の相互作用は、粉末の選択的溶融とそれに続く凝固を引き起こし、結果として層20
1・・・20
nの形成をもたらす。層が一つ形成されると、該層は、粉末15ですっかり覆われ、そして別の相が、先に作製された層に重ね合わされて形成される。一層を形成する粉末の厚みは、例えば10~200μmであることができる。
【0042】
アルミニウム合金について、台座10またはトレーは、350℃まで至る温度で加熱されることができる。現在市場で入手可能な機器は一般的に、200℃までのトレーの加熱を提供する。トレーの加熱温度は、例えばおよそ50℃、100℃、150℃または200℃であることができる。トレーの加熱は一般的に、粉末床のところの水分を減らすこと、そしてまた製造中の部品での残留応力を減らすことを可能にする。粉末床のところの水分レベルは、最終部品の気孔率への直接的な影響を有するようである。実際に、粉末の水分が多いほど、最終部品の気孔率は高いようである。トレーの加熱が、加熱式の付加製造を実現するための既存の手段のうちの一つであることに注目すべきである。しかしながら本発明は、この単一の加熱手段の利用に制限されることはできないであろう。例えば赤外線ランプのような、他のすべての加熱手段が、加熱および温度の調整のために本発明の範囲内で利用されることができる。このように本発明による方法は、350℃まで至る温度で実現されることができる。
【0043】
粉末は、以下の特徴のうちの少なくとも1つを有し得る。
- 5~100μm、好ましくは5~25μm、または20~60μmの平均粒径。所定値は、粒子の少なくとも80%が、特定範囲における平均サイズを有していることを示すものである。
- 球形。粉末の球形は例えば、モルフォグラニュロメーターを利用することによって決定されることができる。
- 良好な流動性。粉末の流動性は例えば、規格ASTM B213または規格ISO 4490:2018に準じて決定されることができる。規格ISO 4490:2018によると、流動時間は、好ましくは50秒未満である。
- 好ましくは0~5体積%、より好ましくは0~2体積%、さらにより好ましくは0~1体積%の低気孔率。気孔率はとりわけ、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡またはヘリウムピクノメトリー(規格ASTM B923を参照)によって決定されることができる。
- より大きい粒子に密着する、サテライト粒子と呼ばれる小さな粒子(粉末の平均サイズの1~20%)の量が少ないことまたはないこと(10体積%未満、好ましくは5体積%未満)。
【0044】
本発明者らは、層の形成の直後すなわち最終部品の形成後の、ゆがみを誘発するおそれのある熱処理の適用を必要とすることなく、許容される機械的性質を得ることを可能にする、フィラー材を形成する合金組成を探し求めた。それはとりわけ、温度の突然の変化をもたらす熱処理である。本発明はこのように、とりわけ硬度という観点から満足のゆく機械的性質を有する部品を、付加製造によって得ることを可能にする。選択される付加製造法のタイプに応じて、フィラー材は、先に記述されたように、粉末の形態をしていることが可能である。この場合、光ビーム(12)や荷電粒子ビームへの粉末(15)の曝露が、局所溶融とそれに続く凝固を生じさせて固体層(201・・・20n)を形成する。
【0045】
一変形例によるとフィラー材はまた、
図11との関連において記述されるように、ワイヤの形態をしていることも可能である。この場合、熱源(32)へのフィラーワイヤー(35)の曝露が、局所溶融とそれに続く凝固を生じさせて固体層(20
1・・・20
n)を形成する。
【0046】
本発明者らは、以下を組み合わせるアルミニウム合金を利用することによって満足のゆく機械的性質を有する部品を得ることができることを確認した。
- 0~6%、また好ましくは1~6%、また好ましくは3~4.5%のマグネシウム含有量。3.5%未満のマグネシウム含有量はまた、特に熱曝露後の耐腐食性についても有利であることができる。
- 第一の変形例による、1~2.5%、また好ましくは1~2%であって、1%を完全に超えるジルコニウム含有量である。1.2~2%または1.2~1.8%のZr含有量が最適と考えられる。または第二の変形例によれば0.7~2%、さらには0.7~1.6%、さらには0.7~1.4%、さらには0.8~1.4%、さらには0.8~1.2%のジルコニウム含有量。
- 0.1%を超える含有量、または0.25%もしくは0.5%を超える含有量の合金元素であって、合金元素は、Fe、Cu、Ni、Mnおよび/またはLaの中で選択される。各合金元素の含有量は、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満である。各合金元素の累積含有量は、好ましくは0.1~5%である。それは10%未満であることができる。
【0047】
付加製造法におけるそのような合金の利用は、以下の利点を伴う。
- 付加製造による方法、とりわけSLM法との良好な適合性。そのことは、相次いで形成される層のところに亀裂がないことによって示される。
- とりわけマグネシウム含有量が3~4.5%のとき、またはそれが3.5%未満のときの良好な耐腐食性。
- 1050℃未満、また好ましくは1000℃未満の溶融温度(液相線温度)であって、このことにより溶融の間中のMgの蒸発が抑えられる。Mg含有量が4%のとき、液相線温度は、Zr含有量が2.2%未満の場合1050℃未満である。Zr含有量が1.6%未満の場合、液相線温度は1000℃未満である。そのような合金をもってすれば、高い硬度を有する部品が得られる。これらの理由で、Mg含有量がおよそ4%でありかつ好ましくはMnが存在する場合、0.7~2%または1~2%または1.2~1.8%のZr含有量が最適である。
【0048】
図2は、4%のMgを含むアルミニウム合金についての、Zr含有量に応じた液相線温度の変化を示している。この曲線は、VLABデータベースを使ってソフトウェアFactSage 7.1を利用することによって得られた。この曲線は、2.2%未満のZr含有量が、液相線温度を1050℃以下に保つことを可能にすることを示している。しかし0.7%以下、さらには1%以下のZr含有量は、有利ではないと考えられ、機械的性質はその場合不十分であり、例えば最高硬度は120HK0.05未満である。約1.5%、すなわち1~2%、または1.2~2%または1.2~1.8%のZr含有量が、第一の変形例により、好ましくはMnの存在下で、最適であるようである。
【0049】
合金は、Si、Hf、V、Cr、Ta、Nb、W、Ti、Y、Yb、Ce、Co、Mo、Ndおよび/またはErの中で選択される、他の合金元素を含むことができ、他の合金元素または他の合金元素のそれぞれの含有量は、0.05~5%、または0.1~3%、または0.1~2%、または0.1~1%、または0.1~0.5%である。合計で定められる、他の合金元素の質量分率は、好ましくは10%未満、また好ましくは5%未満、また好ましくは3%未満もしくはさらに2%未満である。そのような元素は、固溶体効果によりかつ/または分散質もしくは薄い金属間化合物の形成により、硬度の上昇を引き起こすことができる。
【0050】
合金はSr、Ba、Sb、Bi、Ca、P、B、In、Snの中で選択される他の合金元素を、各元素について1%以下、また好ましくは0.1%以下、またさらに好ましくは700ppm以下の質量分率により含むことができる。好ましくは、これらの元素の総質量分率は、2%未満、また好ましくは1%未満である。Biの過度な添加は避けるほうがよい可能性があり、好ましい質量分率は、0.05%未満、また好ましくは0.01%未満である。
【0051】
合金は、以下のような他の元素を含み得る。
- 0.06~1%の質量分率によるAg、
- および/または0.06~2%の質量分率によるLi、
- および/または0.05~5%、好ましくは0.1~3%の質量分率によるZn。
【0052】
一実施形態によると合金は、結晶粒を精錬して粗い柱状ミクロ組織を回避するための少なくとも1つの材料、例えばAlTiCやAlTiB2、例えばAT5BやAT3Bの形態での精錬材料もまた、各材料につき50kg/トン以下、また好ましくは20kg/トン以下、さらにより好ましくは12kg/トンに等しい量により、またこれらの材料の全体につき50kg/トン以下、また好ましくは20kg/トン以下の量により、含むことができる。
【0053】
方法は、層の形成後すなわち最終部品の形成後に、後処理という用語によって示される熱処理を含み得る。方法は、溶体化処理とそれに続く焼入れおよび焼戻しを含むことができる。しかしながら先に記述されたように、焼入れは、付加製造によって形成される部品の変形を、とりわけ部品の寸法が大きいときに引き起こし得る。したがって、熱処理が適用されるとき、その温度が300~600℃、好ましくは500℃未満またはより好ましくは450℃以下、また例えば100℃~450℃であるほうが好適である。それはとりわけ、硬化の焼戻しまたは焼きなましであることができる。一般的に、熱処理は、残留応力の除去および/または硬化相の追加の析出を可能にすることができる。
【0054】
好ましくは、本発明による方法は、層の形成後すなわち最終部品の形成後に、焼入れタイプの熱処理を含まない。
【0055】
一実施形態によると、方法は、熱間等方圧加圧(HIP)を含むことができる。HIP処理はとりわけ、伸び特性および疲労特性を向上させることを可能にすることができる。熱間等方圧加圧は、熱処理の前、後または代わりに行われることができる。有利には、熱間等方圧加圧は、250℃~550℃また好ましくは300℃~450℃の温度および500~3000バールの圧力で、0.5~10時間の継続時間の間行われる。求められる特性に応じて、HIP処理の温度は、温度の上昇が機械的強度を低下させるため、450℃さらには400℃を超えないであろう。
【0056】
場合によっては行われ得る熱処理および/または熱間等方圧加圧は、特定の条件において、とりわけ特定の温度条件において、得られる製品の硬度を上げることを特に可能にする。
【0057】
組織硬化型合金に適合した別の実施形態によると、形成された部品の溶体化処理とそれに続く焼入れおよび焼戻し、および/または熱間等方圧加圧を行うことができる。熱間等方圧加圧はこの場合、有利には、溶体化処理の代わりとなり得る。
【0058】
しかしながら本発明による方法は、溶体化処理とそれに続く焼入れの処理を好ましくは必要としないため、有利である。溶体化処理は、薄い金属間化合物または分散質の増大に関与することから、特定の場合において機械的強度への不利な影響を及ぼし得る。
【0059】
一実施形態によると、本発明による方法はそのうえ任意に、加工処理、および/または化学的表面処理、電気化学的表面処理もしくは機械的表面処理、および/またはトライボ仕上げを含む。これらの処理はとりわけ、粗さを減らす、および/または耐腐食性を向上させる、および/または耐疲労亀裂発生を向上させるために行われ得る。
【0060】
任意に、例えば付加製造の後かつ/または熱処理の前に、部品の機械的変形を施すことが可能である。
【0061】
以下の明細書において記述される試験は、本発明による合金の利用が、高い硬度を有する部品の獲得を可能にすること示している。このことは、先に言及されたように、温度の突然の変化をもたらしまたゆがみを誘発するおそれのある製造後の熱処理の利用を回避することを可能にする。
【0062】
本発明者らはまた、先に記述されたような合金が、合金が局所溶融とそれに続く凝固を受ける付加製造法において適用されるのにとりわけ適していることも確認した。特に、合金は高出力と高スキャン速度とを組み合わせる方法に適合している。合金はこのように、付加製造法の効果的な利用に適している。
【実施例】
【0063】
[試験1]
テストされる合金は、小型鋳造機Induthem VC 650Vを利用して銅金型において鋳造され、高さ130mm、幅95mmおよび厚み5mmのインゴットが得られた。
【0064】
表1中に記述されているような上の合金は、ラピッドプロトタイピング法によってテストされた。サンプルは、上で得られたインゴットから、60×22×3mmの寸法の小板の形に、レーザーを用いた表面のスキャン用に加工された。小板は、SLM機の中に配置され、そして表面のスキャンが、同じスキャン戦略とSLM法に利用される作業条件を示す作業条件とに従って、レーザーを用いて実行された。実際に、そのようにして、SLM法に対する合金の適性、またとりわけ表面の質、熱間割れ感度、未処理の状態での硬度そして熱処理後の硬度を評価することが可能であることが確認された。
【0065】
レーザービーム下で、金属は10~350μmの厚みの浴中で溶融する。レーザーの通過後、金属は、SLM法においてと同じように急速に冷える。レーザースキャンの後、10~350μmの厚みの表面薄層は、溶融しそれから凝固した状態である。この層における金属の性質は、スキャンのパラメータが適切に選択されるため、SLMによって製造される部品の中心の金属の性質に近い。さまざまなサンプルの表面のレーザーによるスキャンは、メーカー3DSystemsの選択的レーザー溶融機ProX300を使って実行された。レーザー源は250Wの出力を有し、散乱ベクトルは60μmであり、スキャン速度は300mm/sであり、またビームの直径は80μmであった。
【0066】
ヌープ硬度の測定
硬度は、合金にとって重要な性質である。実際に、レーザーを用いた表面のスキャンによる再溶融層における硬度が高い場合、同じ合金を用いて製造される部品は、潜在的に高い引張強さを有するであろう。
【0067】
再溶融層の硬度を評価するために、上で得られた小板は、レーザーパスの方向に垂直な平面において切断され、そして次に研磨された。研磨の後、硬度測定が、再溶融層において実行された。硬度測定は、StruersのDurascanモデルの器機を用いて実行された。圧痕の長対角線が再溶融層の平面に平行して配置される50gのヌープ硬度法が選択され、圧痕とサンプルの縁との間の距離が十分に保たれた。再溶融層の厚みの半ばのところに、15個の圧痕が位置決めされた。
図3は、硬度測定の一例を示している。参照符号1は、再溶融層に相当し、また参照符号2は、ヌープ硬度の圧痕に相当する。
【0068】
レーザー処理後に(未処理の状態で)、そしてさまざまな継続時間にわたる400℃での追加の熱処理後に、50gの荷重を用いたヌープ尺度に従って硬度が測定され、熱処理時の合金の硬化に対する適性と、場合によっては行われ得るHIP処理の機械的性質への効果とを評価することをとりわけ可能にした。
【0069】
各試験のために、後熱処理が特定のサンプルに適用された。熱処理は、400℃の温度での、硬化の焼きなましタイプであり、該熱処理は、1時間、または4時間、または10時間の間継続された。
【0070】
アルミニウムならびにMg(4%)、Zr(1.5%)の合金元素を含む基準合金を利用した。基準合金は、国際公開第2018/185259号中に記述されているとおりである。
【0071】
テストされるアルミニウム合金の組成は、以下の表1中に、質量パーセントで示されている。
【0072】
【0073】
以下の表2は各合金について、レーザー処理後に未処理の状態(列0h)で測定された、またはレーザー処理後に400℃での硬化の焼きなましを1時間(列1h)、もしくは4時間(列4h)、もしくは10時間(列10h)行った後に測定された0.05ヌープ硬度値を示している。列maxは、さまざまな試験サンプルで測定された、硬度の最高レベルを示している。太字の値は、最も高い硬度値の獲得に導いた熱処理を示している。
【0074】
【0075】
図4Aは、組成2(1%Fe)、組成3(2%Fe)および組成4(1%Fe、1%Cu)に関して、ならびに基準組成を用いて得られた結果を示している。熱処理の継続時間がどうであろうと、組成2、3および4が、基準組成を上回る硬度を得ることを可能にすることが確認される。最も高い硬度値は、4hの熱処理継続時間を伴って得られる。最も高い値は、組成3(2%Fe)および組成4(1%Fe、1%Cu)を用いて得られる。
【0076】
図4Bは、組成8(1%La)、組成9(2%La)および組成10(1%La、1%Cu)に関して、ならびに基準組成を用いて得られた結果を示している。熱処理の継続時間がどうであろうと、組成8、9および10が、基準組成を上回る硬度を得ることを可能にすることが確認される。最も高い硬度値は、4hの熱処理継続時間を伴って得られる。最も高い値は、組成9(2%La)および組成10(1%La、1%Cu)を用いて得られる。
【0077】
図4Cは、組成5(2%Ni)、組成7(1%Cu、1%Ni)に関して、ならびに基準組成を用いて得られた結果を示している。熱処理の継続時間がどうであろうと、組成5および7が、基準組成を上回る硬度を得ることを可能にすることが確認される。最も高い硬度値は、組成7について4時間の熱処理継続時間また組成5について1時間の熱処理継続時間を伴って得られる。最も高い値は、組成7(1%Cu、1%Ni)を用いて得られる。
【0078】
図4Dは、組成1(2%Cu)、組成6(2%Mn)に関して、ならびに基準組成を用いて得られた結果を示している。熱処理の継続時間がどうであろうと、組成1および6が、基準組成を上回る硬度を得ることを可能にすることが確認される。最も高い値は、組成6(2%Mn)を用いて得られる。
【0079】
これらの結果は以下を示している。
- 各々0.1%以上の含有量をともなうFe、Cu、Ni、Mn、Laの中で選択される少なくとも1つの合金元素を利用することにより、これらの合金元素を含まない基準組成と比べて硬度を上げることが可能になる、
- とりわけ400℃の温度での硬化の焼きなましの適用は、硬度を向上させ、最適な硬度は、1h~8h、例えば4hの継続時間による熱処理を利用することによって得られる、
- 組成3(2%Fe)、組成4(1%Cu、1%Fe)、組成6(2%Mn)、組成7(1%Cu、1%Ni)、組成9(2%La)および組成10(1%La、1%Cu)は、最も高い硬度値に導く、
- Feおよび/またはCuを2%の累積含有量で有する組成は、とりわけ有利なようである。
【0080】
[試験2]
サンプルは、上で得られたインゴットから、60×22×3mmの寸法の小板の形に加工された(試験1を参照)。これらのサンプルは、第2の一連の試験中に、さまざまな出力(250Wと500Wとの間)とさまざまな速度(300mm/sと2500mm/sとの間)とに従って、レーザービームを使ったスキャンを受けた。レーザービームのサイズは、80μmであった。以下のように速度範囲は、出力に適合された。
- 250Wの出力で、速度は300mm/sと1500mm/sとの間で、200mm/s単位で変化した、
- 300Wの出力で、速度は、500mm/sと1700mm/sとの間で、200mm/s単位で変化した、
- 350Wの出力で、速度は、700mm/sと1900mm/sとの間で、200mm/s単位で変化した、
- 400Wの出力で、速度は、900mm/sと2100mm/sとの間で、200mm/s単位で変化した、
- 450Wの出力で、速度は、1100mm/sと2300mm/sとの間で、200mm/s単位で変化した、
- 500Wの出力で、速度は、1300mm/sと2500mm/sとの間で、200mm/s単位で変化した。
【0081】
これらの試験の目的は、溶融および凝固段階後の各サンプルの表層部分の形態を分析することであった。これらの相変化を受けた表層部分は、用語「溶融領域」で示される。このような表層部分は、付加製造によって形成される層の形態を示すものとみなされる。試験は、サンプルの表面の状態、とりわけ気孔率および粗さを特徴づけることを可能にした。各サンプルは、厚みに沿った断面となり、断面は光学顕微鏡を使って特徴づけられている。さまざまな組成についての特徴づけの結果は、
図5A~5F、
図6A~6F、
図7A~7F、
図8A~8F、
図9A~9F、
図10A~10Fで示されている。各図は1つの断面に相当し、それは一定出力で、図の左側に示されている最低速度と図の右側に示されている最大速度との間のスキャン速度に変化をつけながら実現された。各図はこのように、同じ出力で異なる速度についての、レーザービームに曝された表面のパターンを示している。各出力レベルで、7つの速度を、1速度につき4ラインを用いてテストした。同じ通過速度に相当するサンプルの部分を、ブレースによって示した。図で、同じ速度(すなわち同じブレース内)に相当するラインが部分的に重なり合っていることが観察される。
【0082】
図5A、
図5B、
図5C、
図5D、
図5Eおよび
図5Fは、表1中に記述される基準組成に相当する組成を有するサンプルを用いて得られた断面を、それぞれに出力250W、300W、350W、400W、450W、500Wについて示している。
【0083】
図6A、
図6B、
図6C、
図6D、
図6Eおよび
図6Fは、表1中に記述される組成番号1(4%Mg、1.5%Zr、2%Cu)に相当する組成を有するサンプルを用いて得られた断面を、それぞれに出力250W、300W、350W、400W、450W、500Wについて示している。
【0084】
図7A、
図7B、
図7C、
図7D、
図7Eおよび
図7Fは、表1中に記述される組成番号5(4%Mg、1.5%Zr、2%Ni)に相当する組成を有するサンプルを用いて得られた断面を、それぞれに出力250W、300W、350W、400W、450W、500Wについて示している。
【0085】
図8A、
図8B、
図8C、
図8D、
図8Eおよび
図8Fは、表1中に記述される組成番号3(4%Mg、1.5%Zr、2%Fe)に相当する組成を有するサンプルを用いて得られた断面を、それぞれに出力250W、300W、350W、400W、450W、500Wについて示している。
【0086】
図9A、
図9B、
図9C、
図9D、
図9Eおよび
図9Fは、表1中に記述される組成番号6(4%Mg、1.5%Zr、2%Mn)に相当する組成を有するサンプルを用いて得られた断面を、それぞれに出力250W、300W、350W、400W、450W、500Wについて示している。
【0087】
図10A、
図10B、
図10C、
図10D、
図10Eおよび
図10Fは、表1中に記述される組成番号9(4%Mg、1.5%Zr、2%La)に相当する組成を有するサンプルを用いて得られた断面を、それぞれに出力250W、300W、350W、400W、450W、500Wについて示している。
【0088】
図6~
図10に示される試験の対象になった組成は、第1の一連の試験中に最も有利な硬度値をもたらす組成に相当する。これらの組成が、基準組成と比べてより平滑なまたより気孔率の低い表面の状態を得ることを可能にすることが観察される。これらの組成はしたがって、付加製造法における利用により良く適合される。これらの組成はさらに、高速度および高出力で満足のゆく表面の状態を得ることを可能にする。これらの組成は、高い製造速度(英語でbuild rate)を伴う付加製造法の利用にとりわけ適している。
【0089】
[試験3]
テスト部品は、合金11を利用してSLMによって作製され、ICPによって測定されるその質量組成は、Al、1.64%のZr、2.12%のFe、2.56%のMg、各々0.05%未満でその累積が0.15%未満である不純物を含んでいた。
【0090】
これらの試験は、EOS290SLM(納入業者EOS)タイプの機器を利用して行われた。
【0091】
この機器は、200℃の温度までのトレーの加熱を可能にする。試験は200℃の加熱温度で行われたが、補足の試験は、より低い加熱温度、例えば25℃、50℃、100℃または150℃での本発明による合金の良好な加工性を示した。
【0092】
レーザーの出力は370Wであった。スキャン速度は1250mm/sに等しかった。用語「散乱ベクトル」によって一般に示される、スキャンの2つの隣接するライン間の差は、0.111mmであった。層の厚みは60μmであった。
【0093】
利用された粉末は、38μmのメジアン径を伴う、主として3μm~100μmに含まれる粒径、14μmの10%フラクタイル、および78μmの90%フラクタイルを有していた。
【0094】
テスト部品は、平面(X-Y)においてベースを形成する組立トレーに対して垂直(Z方向)の中実円柱の形に作製された。円柱は、11mmの直径と46mmの高さとを有していた。全ての部品は、300℃で4時間のSLM製造後の応力除去処理を受けた。
【0095】
いくつかの部品は、1h~4hの間に含まれる処理継続時間の間、400℃での製造後の熱処理を受けた。全ての部品(製造後の熱処理を伴う部品および伴わない部品)は、加工されて、以下の特徴をmmで有する円筒形の引張試験片を得た(表3および
図12を参照)。
【0096】
図12および表3において、φは、試験片の中心部分の直径を示し、Mは試験片の2つの端部の幅を示し、LTは試験片の全体の長さを示し、Rは試験片の中心部分と端部との間の曲率半径を示し、Lcは試験片の中心部分の長さを示し、そしてFは試験片の2つの端部の長さを示している。
【0097】
【0098】
これらの円筒形の試験片は、規格NF EN ISO 6892-1(2009-10)に準じて製造方向Zにおいて室温で引張試験が行われた。
【0099】
以下の表4は、製造後の熱処理の条件(継続時間、温度)に応じた引張特性(降伏応力、引張強さ、および破断伸び)をまとめたものである。
【0100】
【0101】
[試験4]
試験3に類似した第4の試験は、合金4を利用して行われ、ICPによって測定されるその質量組成は、Al、1.3%のZr、4.47%のMn、2.53%のMg、各々0.05%未満でその累積が0.15%未満である不純物を含んでいた。
【0102】
利用された粉末は、40μmのメジアン径を伴う、主として3μm~100μmに含まれる粒径、14μmの10%フラクタイルおよび84μmの90%フラクタイルを有していた。
【0103】
以下の表5は、製造後の熱処理の条件(継続時間、温度)に応じた引張特性(降伏応力、引張強さ、および破断伸び)をまとめたものである。
【0104】
【0105】
[試験5]
試験3および試験4に類似した第5の試験は、合金5を利用して行われ、ICPによって測定されるその質量組成は、Al、1.13%のZr、4.45%のMn、1.09%のMg、各々0.05%未満でその累積が0.15%未満である不純物を含んでいた。
【0106】
利用された粉末は、25μmのメジアン径を伴う、主として3μm~100μmに含まれる粒径、9.6μmの10%フラクタイルおよび52μmの90%フラクタイルを有していた。
【0107】
【0108】
先に記述された複数の組成は、好ましい方法に相当するSLMタイプの付加製造法に関係して記述されてはいるが、他のタイプの試験において利用されることができる。
【0109】
図11は、先行技術に関係して言及される、WAAMタイプの付加製造装置を示している。エネルギー源31、この場合トーチは、アーク32を作り出す。この装置において、トーチ31は、溶接ロボット33によって保持される。製造されるべき部品は、台座10の上に配置される。この例において、製造される部品は、台座10によって定義される長手方向面XYに垂直に、横断軸Zに沿って広がる壁である。フィラーワイヤー35は、アーク32の影響下で、溶融して、溶接ビードを形成する。溶接ロボットは、数値モデルMによって制御される。フィラーワイヤーは位置を変えて、互いの上に積み重ねられ壁20を形成するさまざまな層20
1・・・20
nを形成するようになり、各層は溶接ビードに相当する。各層20
1・・・20
nは、数値モデルMによって定義されるパターンにしたがって、長手方向面XYにおいて広がる。
【0110】
フィラーワイヤーの直径は、好ましくは3mm未満である。それは0.5mm~3mmであることができ、また好ましくは0.5mm~2mm、さらには1mm~2mmである。それは例えば1.2mmである。
【0111】
例えば、また非限定的に、他の製造方法がそのうえ考えられる。
- 選択的レーザー焼結(Selective Laser SinteringまたはSLS)、
- 直接金属レーザー焼結(Direct Metal Laser SinteringまたはDMLS)、
- 選択的加熱焼結(Selective Heat SinteringまたはSHS)
- 電子ビーム溶融(Electron Beam MeltingまたはEBM)、
- 指向性エネルギー堆積(Direct Energy DepositionまたはDED)、
- 直接金属堆積(Direct Metal DepositionまたはDMD)、
- 直接レーザー堆積(Direct Laser DepositionまたはDLD)、
- レーザー堆積技術(Laser Deposition Technology)、
- レーザー操作型ネットシェイピング(Laser Engineering Net Shaping)、
- レーザークラッディング技術(Laser Cladding Technology)、
- レーザーフリーフォーム製造技術(Laser Freeform Manufacturing TechnologyまたはLFMT)、
- レーザー金属堆積(Laser Metal DepositionまたはLMD)、
- コールドスプレーコンソリデーション(Cold Spray ConsolidationまたはCSC)、
- 摩擦による付加製造(Additive Friction StirまたはAFS)、
- 通電焼結法(Field Assisted Sintering Technology,FAST)または放電プラズマ焼結(spark plasma sintering)、
- 慣性回転摩擦溶接(Inertia Rotary Friction WeldingまたはIRFW)。
【符号の説明】
【0112】
10 台座
15、35 溶加材
11、31 エネルギー源
12 レーザービーム
20 層
32 熱源