(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】(R)-(2-メチルオキシラン-2-イル)メチル 4-ブロモベンゼンスルホネート
(51)【国際特許分類】
C07D 303/08 20060101AFI20240731BHJP
C07B 53/00 20060101ALN20240731BHJP
【FI】
C07D303/08
C07B53/00 G
(21)【出願番号】P 2021563661
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(86)【国際出願番号】 US2020030337
(87)【国際公開番号】W WO2020223267
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-03-20
(32)【優先日】2019-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】パテル ニティンチャンドラ ディー
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-297305(JP,A)
【文献】特表2011-530621(JP,A)
【文献】特開2004-269500(JP,A)
【文献】特表2004-507461(JP,A)
【文献】MIKLEUSEVIC, A. et al.,Oxazolidinone Synthesis through Halohydrin Dehalogenase-Catalyzed Dynamic Kinetic Resolution,Advanced Synthesis & Catalysis,2015年,357(8),pp. 1709-1714
【文献】KLUNDER, Janice M. et al.,Arenesulfonate Derivatives of Homochiral Glycidol: Versatile Chiral Building Blocks for Organic Synthesis,Journal of Organic Chemistry,1989年,54(6),pp. 1295-1304
【文献】飛田 満彦,気体および液体の精製技術(8) 有機溶媒の精製(その1),電気化学,1965年,33,pp. 458-462
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D303
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】
(式中、R
1
はクロロ、ブロモ又はヨードである
)、
の化合物を製造するための方法であって、式:
【化2】
の化合物
1を、Xがクロロ、ブロモ、又はヨードである式(CH
3CH
2)
4N
+X
-のテトラエチルアンモニウムハリドと好適な希釈剤/溶媒中で反応させること
を含む、方法。
【請求項2】
Xがヨードであり、生成物が
式:
【化3】
の化合物2である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記好適な希釈剤/溶媒がジメチルホルムアミドである、請求項1又は
2に記載の方法。
【請求項4】
下記工程
(i)メチルアリルアルコール、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(L-DIPT)及び溶媒/希釈剤を含む混合物をモレキュラーシーブスと接触させて、第1の無水混合物を得ること;
(ii)前記第1の無水混合物を冷却すること;
(iii)工程(ii)で冷却された無水混合物にTi(O-iPr)
4
を加えて、第2の無水混合物を得ること;
(iv)工程(iii)の第2の無水混合物にクメンヒドロペルオキシドを加えて、第1の反応混合物を得ること;
(v)前記第1の反応混合物の内容物を反応させて、INT-1
【化4】
を含む混合物を得ること;
(vi)工程(v)から得られた混合物を濾過して、INT-1を含む濾液を得ること;
(vii)所望により、工程(vi)から得られた濾液を亜リン酸トリメチルで処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチすること(「クエンチされた濾液」);
(viii)工程(vi)からの濾液又は工程(vii)の所望によりクエンチされた濾液をトリエチルアミン(Et
3
N)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及び4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(BrsCl)で処理して、第2の反応混合物を得ること;及び
(ix)前記第2の反応混合物の内容物を反応させて、化合物1を含む混合物を得ること
を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(i)で使用される、水スカベンジャー法のモレキュラーシーブスが4Åモレキュラーシーブスである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(i)で使用される、水スカベンジャー法の溶媒/希釈剤が塩化メチレン又はトルエンである、請求項4及び5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(x)工程(ix)の混合物から化合物1を単離すること
を更に含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
下記工程
(i)クメンヒドロペルオキシド、及び共沸混合物を形成することが可能な溶媒を含む溶液の共沸蒸留を実施して、第1の無水溶液を得ること;
(ii)前記第1の無水溶液を冷却すること;
(iii)メチルアリルアルコール、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(L-DIPT)、及び共沸混合物を形成することが可能な溶媒を含む溶液の共沸蒸留を実施して、第2の無水溶液を得ること;
(iv)前記第2の無水溶液を冷却すること;
(v)工程(iv)で冷却された第2の無水溶液にチタンテトライソプロキシド(Ti(O-iPr)
4
)を加えること;
(vi)工程(ii)からの冷却された第1の溶液を工程(v)からの冷却された第2の無水溶液と合わせて、第1の反応溶液を得ること;
(vii)工程(vi)からの第1の反応溶液の内容物を反応させて、INT-1
【化5】
を含む溶液を得ること;
(viii)所望により、工程(vii)から得られた溶液を亜リン酸トリメチルで処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチすること;及び
(ix)工程(vii)から得られた溶液、又は工程(viii)の所望によりクエンチされた溶液をトリエチルアミン(Et
3
N)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及び4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(BrsCl)で処理して、化合物1を含む反応溶液を得ること
を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(R)-(2-メチルオキシラン-2-イル)メチル-4-ブロモベンゼンスルホネート及びそのハロ類似体、これらの化合物を製造するための方法、並びに有機変換を実施する際のそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物(R)-(2-メチルオキシラン-2-イル)メチル-4-ニトロベンゼンスルホネート(A)は、以下に示す構造を有し、例えば、米国特許第2018162878号、国際公開第2005/037814号、及び欧州特許第1553088号に記載されているようなより複雑な化学化合物の調製のための出発材料又は中間体として有用である。
【化1】
しかしながら、化合物Aは、エネルギーが高く、この化合物が関与する反応には特別な取り扱い及び処理装置が必要である。従って、有機変換を実施するための化合物Aの低エネルギーの代替物が必要である。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様(実施形態1)において、本発明は、式I:
【化2】
式中、R
1は、クロロ、ブロモ、ヨード又は以下の構造:
【化3】
を有するブロシレート基であり、アスタリスク(
*)は結合点を示す、の化合物
に関する。
【0004】
式Iの化合物は、不斉有機変換、例えば、そうでなければ高エネルギー化合物Aを利用する可能性がある有機変換の出発材料及び中間体として使用することができる。式Iの化合物が関与する有機変換は、化合物Aが関与する同様の有機変換よりも発熱が少ない。従って、式Iの化合物は、有機変換を実施するための化合物Aのより安全な代替物であり、大規模な(商業的)工程での使用により適している。
【0005】
別の実施形態(実施形態2)では、本発明は、式Iの化合物に関し、ここで、R
1がブロシレートであり(以下「化合物1」)、以下の構造を有する:
【化4】
別の実施形態(実施形態3)では、本発明は、式Iの化合物に関し、ここで、Xがヨードであり(以下「化合物2」)、以下の構造を有する:
【化5】
本発明の他の実施形態は、式Iの化合物を製造する方法及び有機変換におけるそれらの使用に関する。
【0006】
水スカベンジャー法
一実施形態(実施形態4)では、本発明の方法は、化合物1を製造するための方法であって、以下を含む方法に関する:
(i)メチルアリルアルコール、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(L-DIPT)及び溶媒/希釈剤を含む混合物をモレキュラーシーブスと接触させて、第1の無水混合物を得ること;
(ii)前記第1の無水混合物を冷却すること;
(iii)工程(ii)で冷却された無水混合物にTi(O-iPr)
4を加えて、第2の無水混合物を得ること;
(iv)工程(iii)の第2の無水混合物にクメンヒドロペルオキシドを加えて、第1の反応混合物を得ること;
(v)前記第1の反応混合物の内容物を反応させて、INT-1
【化6】
を含む混合物を得ること;
(vi)工程(v)から得られた混合物を濾過して、INT-1を含む濾液を得ること;
(vii)所望により、工程(vi)から得られた濾液を亜リン酸トリメチルで処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチすること(「クエンチされた濾液」);及び
(viii)工程(vi)からの濾液又は工程(vii)の所望によりクエンチされた濾液をトリエチルアミン(Et
3N)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及び4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(BrsCl)で処理して、第2の反応混合物を得ること;及び
(ix)前記第2の反応混合物の内容物を反応させて、化合物1を含む混合物を得ること。
実施形態4などの水スカベンジャーを含む本発明の実施形態は、本明細書では「水スカベンジャー法」とも呼ばれる。
【0007】
別の実施形態(実施形態5)では、工程(i)で使用される、水スカベンジャー法のモレキュラーシーブスが4Åモレキュラーシーブスである。
別の実施形態(実施形態6)では、工程(i)で使用される、水スカベンジャー法の溶媒/希釈剤が塩化メチレン又はトルエンである。
別の実施形態(実施形態7)では、工程(i)で使用される、水スカベンジャー法の溶媒/希釈剤が塩化メチレン又はトルエンである。
別の実施形態(実施形態8)では、本発明は、
(x)工程(ix)の混合物から化合物1を単離すること
を更に含む実施形態4~7のいずれか1つに関する。
【0008】
別の実施形態(実施形態9)では、本発明は、化合物1を製造するための方法であって、以下を含む方法に関する:
(i)メチルアリルアルコール、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(L-DIPT)及び溶媒/希釈剤を含む混合物を4Åモレキュラーシーブスと接触させて、第1の無水混合物を得ること;
(ii)前記第1の無水混合物を冷却すること;
(iii)工程(ii)で冷却された第1の無水混合物にTi(O-iPr)
4を加えて、第2の無水混合物を得ること;
(iv)工程(iii)の第2の無水混合物にクメンヒドロペルオキシドを加えて、第1の反応混合物を得ること;
(v)前記第1の反応混合物の内容物を反応させて、INT-1
【化7】
を含む混合物を得ること;
(vi)工程(v)から得られた混合物を濾過して、INT-1を含む濾液を得ること;
(vii)工程(vi)から得られた濾液を亜リン酸トリメチルで処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチすること(「クエンチされた濾液」);及び
(viii)工程(vii)のクエンチされた濾液をトリエチルアミン(Et
3N)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及び4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(BrsCl)で処理して、第2の反応混合物を得ること;
(ix)前記第2の反応混合物の内容物を反応させて、化合物1を含む混合物を得ること;及び
(x)工程(ix)の混合物から化合物1を単離すること。
【0009】
共沸蒸留法
更に別の実施形態(実施形態10)では、本発明の方法は、化合物1を製造するための方法であって、以下を含む方法に関する:
(i)クメンヒドロペルオキシド、及び共沸混合物を形成することが可能な溶媒を含む溶液の共沸蒸留を実施して、第1の無水溶液を得ること;
(ii)前記第1の無水溶液を冷却すること;
(iii)メチルアリルアルコール、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(L-DIPT)、及び共沸混合物を形成することが可能な溶媒を含む溶液の共沸蒸留を実施して、第2の無水溶液を得ること;
(iv)前記第2の無水溶液を冷却すること;
(v)工程(iv)で冷却された第2の無水溶液にチタンテトライソプロキシド(titanium tetraisoproxide)(Ti(O-iPr)4)を加えること;
(vi)工程(ii)からの冷却された第1の溶液を工程(v)からの冷却された第2の無水溶液と合わせて、第1の反応溶液を得ること;
(vii)工程(vi)からの第1の反応溶液の内容物を反応させて、INT-1を含む溶液を得ること;
(viii)所望により、工程(vii)から得られた溶液を亜リン酸トリメチルで処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチすること;及び
(ix)工程(vii)から得られた溶液、又は工程(viii)の所望によりクエンチされた溶液をトリエチルアミン(Et3N)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及び4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(BrsCl)で処理して、化合物1を含む反応溶液を得ること。
実施形態10などの共沸蒸留を含む本発明の実施形態は、本明細書では「共沸蒸留法」とも呼ばれる。
【0010】
別の実施形態(実施形態11)では、共沸混合物を形成することが可能な、工程(i)及び工程(iii)で使用される、共沸蒸留法の溶媒が塩化メチレン又はトルエンである。
別の実施形態(実施形態12)では、本発明は、
(x)工程(ix)の反応溶液から化合物1を単離すること
を更に含む、実施形態10又は11に関する。
【0011】
別の実施形態では、(実施形態13)、本発明の方法は、化合物1を製造するための方法であって、以下を含む方法に関する:
(i)クメンヒドロペルオキシド及び塩化メチレンを含む溶液の共沸蒸留を実施して、第1の無水溶液を得ること;
(ii)前記第1の無水溶液を冷却すること;
(iii)メチルアリルアルコール、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(L-DIPT)、及び塩化メチレンを含む溶液の共沸蒸留を実施して、第2の無水溶液を得ること;
(iv)前記第2の無水溶液を冷却すること;
(v)工程(iv)で冷却された第2の無水溶液にチタンテトライソプロキシド(titanium tetraisoproxide)(Ti(O-iPr)4)を加えること;
(vi)工程(ii)からの冷却された第1の無水溶液を工程(v)からの冷却された第2の無水溶液と合わせて、第1の反応溶液を得ること;
(vii)工程(vi)からの第1の反応溶液の内容物を反応させて、INT-1を含む溶液を得ること;
(viii)所望により、工程(vii)から得られた溶液を亜リン酸トリメチルで処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチすること;
(ix)工程(vii)から得られた溶液、又は工程(viii)の所望によりクエンチされた溶液をトリエチルアミン(Et3N)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、及び4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(BrsCl)で処理して、化合物1を含む混合物を得ること;及び
(x)工程(ix)の混合物から化合物1を単離すること。
【0012】
別の実施形態(実施形態14)では、本発明の方法は、R
1がクロロ、ブロモ又はヨードである式Iの化合物を製造するための方法であって、以下を含む方法に関する:
化合物1をテトラエチルアンモニウムハリド(TEAX)と反応させて、X(ハリド)がクロリド、ブロミド又はヨージドである式Iの化合物を得ること
【化8】
ここで、Xは、クロリド、ブロミド又はヨージドである。
別の実施形態(実施形態15)では、本発明は、XがI(ヨード)である実施形態14の方法に関する。
本発明の追加の実施形態は、以下の発明の詳細な説明及び実施例に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
【0014】
上記のように、本発明は、式Iの化合物及びそのような化合物を製造及び使用するための方法に関する。本発明は、化合物Aを使用する方法のより安全で低エネルギーの代替物の必要性から生じる。出願人は、化合物Aを使用する有機変換の代わりに使用できることを見出した。有利には、式Iの化合物が関与する反応は、化合物Aが関与する反応よりも発熱が少ない。従って、化合物1を使用する有機変換は、商業規模の工程により適している。
【0015】
化合物Aを製造する方法は、一般に、エポキシ化工程中に存在する可能性のある水を除去するためにモレキュラーシーブスを使用する必要がある。例えば、国際公開第2005/037814A1号、欧州特許第1553088A1号、及び米国公開特許第2018162878号を参照。水スカベンジャーとしてのモレキュラーシーブスの使用は、本明細書で水スカベンジング法と呼ばれる化合物1を調製するために使用することができる。この方法はスキーム1に示す。
【化9】
【0016】
スキーム1に示されるように、メチルアリルアルコール(1モル当量)をジクロロメタン希釈剤中、無水条件下及び低温、例えば、-15℃~0℃で過剰なクメンヒドロペルオキシド(約1.9モル当量)と反応させて、INT-1及び水(示していない)を形成する。スキーム1に示されるように、この反応は、チタン(IV)イソプロポキシド及び(+)-L-酒石酸ジイソプロピルからin situで形成される触媒(約0.06モル当量)の存在下で実施される。この触媒は、反応混合物中に存在する可能性のある水と反応し、触媒を不活性にする。従って、INT-1を形成するための反応は又、反応工程中に低含水量を維持するのに十分な量、例えば、液体希釈剤中100ppm未満又は約60ppm(60 about ppm)の4Åモレキュラーシーブスの存在下で実施される。反応は、INT-1を形成するのに十分な時間及び十分な温度で実施される。次に、反応混合物をセライト(登録商標)で濾過して、モレキュラーシーブスを除去する。INT-1を含有する濾液を冷却し(例えば、-15℃~-5℃)、亜リン酸トリメチル(約1モル当量)で処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチする。次に、冷却(クエンチ)された濾液を4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(1モル当量)、トリメチルアミン(約1.2モル当量)、及び4-ジメチルアミノピリジン(約0.059モル当量)で処理し、実質的にすべての4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリドを反応させるのに十分な時間(例えば、6時間)及び十分な温度(例えば、-5℃)で撹拌して、化合物1を得る。次に、化合物1は、実施例節に記載されているか又は当業者に公知の手順を用いて、反応混合物から単離することができる。
【0017】
化合物1を製造するための代替方法(本明細書では共沸蒸留法として記載)は、モレキュラーシーブスを必要とせず、有利には、モレキュラーシーブススカベンジャー法で上記に論じた濾過工程を回避する。出願人は、水スカベンジャーに頼る代わりに、INT-1の形成中に発生又は存在する水を共沸蒸留によって除去できることを見出した。共沸蒸留法に従って化合物1を製造するための限定されない実施形態がスキーム2に示されている。
【化10】
【0018】
スキーム2に示されるように、ジクロロメタン中のメチルアリルアルコール(1モル当量)、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(0.06モル当量)の溶液を蒸留して、含水量が60ppm未満になるまで水を除去する。次に、反応器の内容物を0~-15℃に冷却し、Ti(OiPr)4(0.05モル当量)で処理する。別の反応器で、ジクロロメタン中のCHP(1.1モル当量)の溶液を蒸留して、ジクロロメタンの共沸蒸留によって水を除去する。次に。CHP溶液を-15℃に冷却し、メチルアリルアルコールが入った反応器にゆっくりと加える。反応は、実質的にすべてのメチルアリルアルコールを反応させるのに十分な時間(例えば、24時間)及び十分な温度(例えば、-15℃~-5℃)で進行させる。反応器の内容物を冷却し(例えば、-15℃)、亜リン酸トリメチル(0.45モル当量)で処理して、未反応のクメンヒドロペルオキシドをクエンチする。更に、クエンチされた溶液を低温(-15℃~-5℃)でトリエチルアミン(1.1モル当量)、4-ジメチルアミノピリジン(0.05モル当量)及び4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(0.95モル当量)で処理し、実質的にすべての4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリドを反応させるのに十分な時間(例えば、2~6時間)及び十分な温度(例えば、-5℃)で撹拌して、化合物1を得る。次に、化合物1は、実施例節に記載されているか又は当業者に公知の手順を用いて、反応混合物から単離することができる。一実施形態では、化合物1は、n-ブタノール及びヘプタンから結晶化される。
【0019】
化合物1の使用方法
本発明は又、化合物1を有機変換のための試薬として使用する方法に関する。限定されない例には、例えば、米国特許第2018162878号、国際公開第2005/037814号、及び欧州特許第1553088号に記載されているように、化合物1が化合物Aの代替物(replacement/alternative)として使用されるものが含まれる。
【0020】
化合物1を使用して有機変換を実施するための限定されない方法を以下に化合物2を調製するためのスキーム3において示す。
【化11】
ここで、TEAIはテトラエチルアンモニウムヨージドである。
【実施例】
【0021】
実施例1
化合物1の調製(方法A)
機械撹拌器、熱電対及び窒素入口を備えたマルチネック1Lジャケット付き反応器にモレキュラーシーブス(4Å)粉末(40.0g)を投入する。反応器の排気及び窒素再充填を3回行う。ジクロロメタン(400mL)を反応器に投入し、続いて、メチルアリルアルコール(40.0g、555.0ミリモル)及び(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(6.955mL、33.28ミリモル、6.0モル%)を投入する。得られた混合物を-15℃に冷却し、-15℃でチタン(IV)イソプロポキシド(8.21mL、28.0ミリモル、5.0モル%)で処理し、更に0.5時間撹拌する。90%工業用クメンヒドロペルオキシド(194.6. 1054.0ミリモル、1.9当量)を-15℃~-5℃で反応器に滴下し、0℃で24時間撹拌する。反応混合物をセライト(登録商標)のショートパッドで濾過し、亜リン酸トリメチル(65.4mL、555.0ミリモル、1.0当量)を-15℃~-5℃で濾液に滴下して、過剰なクメンヒドロペルオキシドをクエンチする。クエンチされた濾液反応体をトリエチルアミン(92.79mL、666.0ミリモル、1.2当量)、4-ジメチルアミノピリジン(4.06g、33.0ミリモル、6.0モル%)で処理し、続いて、ジクロロメタン(320mL)中の4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(141.75g、555.0ミリモル、1.0当量)の溶液の滴加を-15℃~-5℃で行う。反応器の内容物を-5℃で更に6時間維持した後、HPLC分析で>97%の変換が示される。反応混合物を、13%酒石酸水溶液(460g、400.0ミリモル、0.72当量)、7%重炭酸ナトリウム水溶液(431.0g、369.0ミリモル、0.66当量)、次いで、飽和ブライン水溶液(270.0g、1198.0ミリモル、2.15当量)でこの順に洗浄する。得られた有機層を硫酸マグネシウム(20g)で乾燥させ、減圧下で濃縮して、粗生成物を褐色の油状物として得る(375.0g)。粗生成物を、ヘキサン中20%~50%EtOAcで溶出することによるシリカゲルパッド濾過(335g)により精製する。合わせた生成物画分を合わせ、減圧下で濃縮して、327gの透明な油状物を得、これに、ヘキサン(150mL)を加える。得られた混合物を500mLマルチネックジャケット付き反応器へ移し、-2℃に冷却し、0℃で20時間撹拌して、白色のスラリーを得る。固体を濾取し、ヘキサン(50mL)ですすぎ、続いて、窒素流を用いて周囲温度で真空乾燥を行い、化合物1を白色の固体として得(収量:78.0g、46.0%)、HPLC面積純度は>99%である。光学純度:96.0%e.e.(鏡像体過剰率)(Chirapak AD-3、94%ヘプタン及び6%IPA)。
1HNMR(CDCl3,400MHz):δ7.79-7.77(m,2H),7.72-7.69(m,2H),4.12(d,J=10.8Hz,1H),3.96(d,J=10.8Hz,1H),2.70(d,J=4.4Hz,1H),2.66(d,J=4.4Hz,1H),1.37(s,3H);13CNMR(CDCl3,100MHz):δ134.8,132.7,129.4,129.3,73.5,54.2,51.7,17.9.
【0022】
実施例2
化合物1の調製(方法B)
反応器1:熱電対、機械撹拌、コンデンサー及び窒素入口を備えた三ツ口2Lジャケット付き反応器1(反応器1)に、80%の工業等級クメンヒドロペルオキシド(CHP)溶液(211.8. 1.11モル、1.1当量)、続いて、ジクロロメタン(1741g)を投入する。ジャケット温度を35℃に上げ、内部温度を15℃~25℃に保ちながらジクロロメタンを減圧下で蒸留して、バッチ容量を約530mLに調整する。追加のジクロロメタン(1306g)を反応器1に投入し、蒸留を上記条件でバッチ容量約530mLまで続ける。
反応器(2):別の反応器(反応器2)(反応器1と同様のサイズ及びセットアップ)に、メチルアリルアルコール(72.44g、1.0モル)、(+)-L-酒石酸ジイソプロピル(14.44g、0.06モル、6.0モル%)及びジクロロメタン(1742g)を投入する。ジャケット温度を35℃に上げ、内部温度を15℃~25℃に保ちながらジクロロメタンを減圧下で蒸留して、バッチ容量を約430mLに調整する。追加のジクロロメタン(1306g)を反応器に投入し、蒸留を上記条件でバッチ容量約430mLまで続けて、混合物の含水量を60ppm未満にする(カール・フィッシャー滴定により確認)。反応器の内容物を2℃~-15℃に冷却し、温度を-5℃未満に保ちながらチタン(IV)イソプロポキシド(12.92g、0.05モル、5.0モル%)を投入する。得られた混合物を更に15分間撹拌し、15℃に冷却する。
反応器1からのCHP溶液を冷却し(-15℃)、内部温度を-5℃未満に保ちながら反応器2にゆっくりと加える。反応混合物を更に18時間撹拌した後、GC分析でエポキシドアルコール((S)-(2-メチルオキシラン-2-イル)メタノール)(INT-1)への変換>93%が示される。
【0023】
INT-1を含有する反応混合物を-15℃に冷却し、-15℃~-5℃で亜リン酸トリメチル(55.83g、0.45モル、0.45当量)で滴下処理して、過剰なCHPをクエンチする。トリエチルアミン(111.6g、1.1モル、1.1当量)及び4-ジメチルアミノピリジン(6.58g、0.05モル、6.0モル%)を、クエンチした混合物に投入する。反応器の内容物を-15℃~-5℃の温度で維持し、ジクロロメタン(695g)中の4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリド(238.0g、0.91モル、0.91当量)で滴下処理する。HPLC分析で4-ブロモベンゼン-1-スルホニルクロリドの消費が>99%に示されるまで反応器の内容物を-5℃で2~6時間撹拌する。反応混合物を、13%酒石酸水溶液(754g、0.66モル、0.65当量)、7%重炭酸ナトリウム水溶液(706g、0.6モル、0.6当量)、次いで、飽和ブライン水溶液(371g、0.63モル、0.63当量)でこの順に洗浄する。得られたジクロロメタン層を減圧下で蒸留し、蒸留の最初の部分では内部温度を20℃~25℃に維持し、真空を上げながら30℃にゆっくりと上げて、橙色の油状物を得る(510.0g)。ヘプタン(181g)を粗油状物に加え、内部温度を25℃未満に保ちながら蒸留を減圧下で続けて暗褐色の油状物を得、これを研磨濾過し、清浄な2L反応器(反応器3)に移す。
【0024】
反応器3.第3の反応器(反応器3)に、真上からの暗褐色の油状物、n-ブタノール(389g)、及びヘプタン(584g)を投入する。反応器の内容物を20℃に冷却し、化合物1の純粋な種晶(1~2質量%)(例えば、実施例1から得たもの)を播種し、20℃で3~4時間撹拌し、4時間かけて0℃に冷却し、0℃で18時間保持する。固体を吸引濾過により収集し、湿潤ケークをn-ブタノール(98g)及びヘプタン(389g)の混合物、続いて、ヘプタン(486g)で洗浄する。湿潤固体を真空下20℃で乾燥させて、化合物1を白色の固体として得(収量:160g、51.9%)、HPLC面積純度は>99%である。光学純度:98.2%e.e.(鏡像体過剰率)(Chirapak AD-3、94%ヘプタン及び6%IPA)。
【0025】
実施例3
デラマニドの調製
化合物1は、多剤耐性結核(MDR-TB)の治療に有用な化合物であるデラマニドを調製するために使用される。以下に示すように、化合物1を2-ブロモ-4-ニトロ-1H-イミダゾールを反応させて、中間体(S)-2-ブロモ-1-((2-メチルオキシラン-2-イル)メチル)-4-ニトロ-1H-イミダゾールを得る。次に、EP1553088に記載され、以下に示すように、この中間体を使用して、デラマニドを調製する。
【化12】
【0026】
(S)-2-ブロモ-1-((2-メチルオキシラン-2-イル)メチル)-4-ニトロ-1H-イミダゾールの調製:
2-ブロモ-4-ニトロ-1H-イミダゾール(0.5g、2.61ミリモル、1当量)、化合物1(0.92g、2.995ミリモル、1.15当量)、K2CO3(1.08g、7.81ミリモル、3.0当量)、及びDMF(3.0mL)を窒素下で50mL丸底フラスコに投入し、窒素下で55℃に12時間加熱する。反応混合物を飽和NH4Clの冷溶液(8mL)でクエンチし、水(10mL)及びEtOAc(25mL)で希釈する。得られた混合物をフリット漏斗に通して、2層を得る。上部の有機層を水(10mL)で洗浄し、得られた有機物を硫酸マグネシウムで乾燥させる。濾液を減圧下で濃縮乾固し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン中0~70%EtOAc;100%EtOAc中Rf0.67)を使用して精製して、(S)-2-ブロモ-1-((2-メチルオキシラン-2-イル)メチル)-4-ニトロ-1H-イミダゾールを60%収率(0.410g、1.57ミリモル)で淡黄色の油状物として得、これを冷却すると固化してベージュ色の固体が得られる。上記のように、この生成物は、欧州特許第1553088号に記載されるように、デラミニド(delaminid)を調製するために使用することができる。
【0027】
実施例4
(R)-2-(ヨードメチル)-2-メチルオキシラン(化合物2)の調製
【化13】
【0028】
テトラエチルアンモニウムヨージド(TEAI)(4.6g、17.91ミリモル、110モル%)及びN,N-ジメチルホルムアミド(13.3mL)を、撹拌子及び窒素ラインを備えた三ツ口丸底フラスコに投入する。得られた混合物を5℃に冷却し、内部温度を12℃未満に保ちながらN,N-ジメチルホルムアミド(6.8mL)中の化合物1(5.0g、16.3ミリモル、1.0当量)の溶液を投入する。得られた混合物を20℃~30℃で更に24時間撹拌した後、HPLCで>98%の変換が示される。粗生成物(化合物2)は、次の工程のためにそれ以上精製せずにそのまま使用する。
【0029】
実施例5
(S)-2-ブロモ-1-((2-メチルオキシラン-2-イル)メチル)-4-ニトロ-1H-イミダゾールの調製の代替法
実施例3に記載されたものと同様の方法で、化合物2を使用して、(S)-2-ブロモ-1-((2-メチルオキシラン-2-イル)メチル)-4-ニトロ-1H-イミダゾールを調製することができる。
【化14】
【0030】
2-ブロモ-4-ニトロ-1H-イミダゾール(0.734g、3.83ミリモル、1当量)、実施例4からの化合物2の粗混合物(DMF中9質量%で9.7g、4.4ミリモル、1.15当量)、K2CO3(1.59g、11.5ミリモル、3.0当量)、及びDMF(4.0mL)を窒素雰囲気下で50mL丸底フラスコに投入し、45℃に12時間加熱する。反応混合物を飽和NH4Cl(10mL)の冷溶液でクエンチし、水(20mL)及びEtOAc(35mL)で希釈する。上部の有機層を水(20mL)で洗浄し、得られた有機物を硫酸マグネシウムで乾燥させる。濾液を減圧下で濃縮乾固し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン中0~70%EtOAc;100%EtOAc中Rf0.67)を使用して精製して、(S)-2-ブロモ-1-((2-メチルオキシラン-2-イル)メチル)-4-ニトロ-1H-イミダゾールを70%収率(0.7g、2.68ミリモル)で淡黄色の油状物として得、これを冷却すると固化してベージュ色の固体が得られる。上記の実施例3に記載されているように、この生成物は、欧州特許第1553088号に記載されるように、デラミニド(delaminid)を調製するために使用することができる。