(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】下肢のための義肢装置、義肢装置のための調整装置、及び手動調整する方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/62 20060101AFI20240731BHJP
A61F 2/66 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
A61F2/62
A61F2/66
(21)【出願番号】P 2021577580
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 EP2020068367
(87)【国際公開番号】W WO2021001353
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】102019118118.6
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】502220838
【氏名又は名称】オットーボック・エスイー・ウント・コンパニー・カーゲーアーアー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】カルテンボルン、スフェン
(72)【発明者】
【氏名】シュバルツ、ミクラス
(72)【発明者】
【氏名】グロリュー、ドリス
(72)【発明者】
【氏名】メジア・ニノ、ユアン・パブロ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー、グレゴリー
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-522102(JP,A)
【文献】特表2007-524483(JP,A)
【文献】国際公開第2018/085014(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/60 - 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義足(10)、及び前記義足(10)に取り付けられた下腿部材(20)、並びに前記義足(10)に相対する前記下腿部材(20)の方位を手動調整するための装置を有する下肢のための義肢装置において、前記義肢装置に慣性角度センサ(30)が配置され、前記慣性角度センサは、空間内の前記下腿部材(20)の方位を検出し、かつ前記空間内の前記下腿部材(20)の前記方位を、又は利用者のための事前に設定された方位への到達を認識できるように出力信号を出力する出力装置(40)と結合されていることを特徴とする、義肢装置。
【請求項2】
前記慣性角度センサ(30)と前記出力装置(40)がモジュールとして統合されて前記義肢装置に組み込まれているか、又は前記義肢装置に取外し可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の義肢装置。
【請求項3】
前記慣性角度センサ(30)は、前記下腿部材(20)に配置されている、又は前記義肢装置は、前記下腿部材(20)に対して近位に配置された義肢コンポーネント(50)を有し、前記義肢コンポーネントに前記慣性角度センサ(30)が配置されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の義肢装置。
【請求項4】
負荷センサ(60)が前記義肢装置に配置され、負荷を検出した場合に前記出力信号が出力されるように前記出力装置(40)と結合されていることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の義肢装置。
【請求項5】
前記負荷センサ(60)は、軸力センサ、圧力センサ、又はモーメントセンサとして形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の義肢装置。
【請求項6】
前記出力装置(40)は、光学的、音響的、及び/又は触覚的出力信号を出力するように形成されていることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の義肢装置。
【請求項7】
前記義足(10)は、矢状面上で旋回可能に支承されていることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の義肢装置。
【請求項8】
前記事前に設定された方位への到達後、前記慣性角度センサ(30)及び/若しくは前記出力装置(40)を、又は前記出力装置(40)との前記慣性角度センサ(30)の接続をオフに切り替えるスイッチオフ装置を特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の義肢装置。
【請求項9】
下肢の義肢装置の義足(10)に相対する下腿部材(20)の方位を手動調整するための調整装置において、前記調整装置が慣性角度センサ(30)を有し、前記慣性角度センサは、空間内の前記下腿部材(20)の方位を検出し、かつ前記空間内の前記下腿部材(20)の前記方位を、又は利用者のために事前に設定された方位への到達を認識できるように出力信号を出力する出力装置(40)と結合されていることを特徴とする、調整装置。
【請求項10】
前記出力装置(40)は、光学的、音響的、及び/又は触覚的出力信号を出力するように形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の調整装置。
【請求項11】
義肢装置に固定するための取付装置(70)が前記調整装置に配置又は形成されていることを特徴とする、請求項9又は請求項10に記載の調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義足、及び義足に取り付けられた下腿部材を有する下肢のための義肢装置、並びに義足に相対する下腿部材の方位(Orientierung)を手動調整するための装置に関する。本発明は、義足、義肢装置、下肢に相対する下腿部材の方位を手動調整するための調整装置、及び下腿部材に取り付けられた義足に相対する下腿部材、義肢装置、下肢の方位を手動調整する方法にも関し、義肢装置に慣性角度センサを有する調整装置が配置され、慣性角度センサは、空間内の下腿部材の方位を検出し、かつ出力装置と結合されている。
【背景技術】
【0002】
義肢は、存在しないか、又は存在しなくなった四肢を補い、通常、義肢が四肢の形状だけでなく、機能の少なくとも一部分も補うことが目指される。下肢の義肢装置は、足部材、つまり患者に固定される義足を有する。下腿又は下腿の一部がまだ存在する限り、義足を下腿ソケットを介してそれぞれの断端に固定することができる。下腿ソケットは、例えば義肢ライナ及び吸着式ソケット技術を用いるなど様々な仕方で断端に固定することができる。生来の膝関節がもはや存在しない場合、義肢装置は、通常、大腿ソケットを介して大腿断端に固定される。その場合、大腿ソケットには義肢膝関節が固定され、義肢膝関節は、義足を義肢膝関節と結合するために、下腿パイプ又は下腿部材を有している。下腿部材には、ダンパ装置、調節装置、並びにセンサ、及び例えば義肢膝関節に影響を及ぼすべくダンパ装置を制御するための制御装置を配置することができる。
【0003】
運動が企図されるたびごとに患者を補助するために、義足を関節式に、かつモータ駆動で下腿部材に支承することができる。この種の実施形態では、膝関節と踝関節の運動の協調が複雑であり、さらに、それぞれの駆動装置が多くのスペースを必要とし、比較的重い。義足の最も簡単な実施形態では、義足が無関節の義足として形成さていて、一旦方向合わせされると、下腿部材に恒久的に固定される。この場合、患者が靴の取替えを行うと、異なった踵高さに義足の向き(Ausrichtung)を適合させることが困難である。さらに、踝関節を中心に旋回可能に支承されるいくつかの義足が知られ、これらの義足は、背屈又は底屈に影響を及ぼすために受動的ダンパ装置を有している。さらに、足部材と、足部材と旋回可能に接続されている近位の連結手段とを有する義足がある。足部材を調節装置によって連結手段に相対して調節することができる。調節装置に少なくとも1つのポジションセンサを割り当てることができ、このポジションセンサは、ポジションセンサの信号に依存して足部材のポジションへの到達に関する信号を出力する信号生成要素と結合されている。ポジションセンサは、連結手段又は連結手段に取り付けられた下腿部材に対する足部材の相対位置を検知する。これに代えて、ポジションセンサは、調整過程中の足部材の空間位置を検知する。この種の義足は、独国特許出願公開第102014010938号明細書から知られている。これによって、踵高さの調整が再び見出され得ることが可能である。
【0004】
従来技術で提案される装置の欠点は、義足と下腿との相対角しか検知されないため、靴ごとに個別に、正しいポジションを調整しなければならないということである。したがって、まず、新たな踵高さのための適切な調整を突き止め、基準として記憶しなければならない。これに加えて、利用者は、複数の基準信号からそれぞれの踵高さに適合する信号を識別しなければならないが、これは誤調整につながる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第102014010938号明細書
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の課題は、簡単に使用することができ、使用者に適切な義肢アライメントに関する確実なフィードバックを与える、義肢装置の下腿部材の方位を調整する義肢装置、調整装置、及び方法を提供することである。
【0007】
本発明によれば、上記課題は、主請求項の特徴を有する義肢装置、並びに並列独立請求項の特徴(を有する)調整装置及び方法によって解決される。本発明の有利な実施形態及び発展形態は、従属請求項、以下の説明、及び図に開示されている。
【0008】
義足、及び義足に取り付けられた下腿部材、並びに義足に相対する下腿部材の方位を手動調整するための装置を有する下肢のための義肢装置は、義肢装置に慣性角度センサが配置され、慣性角度センサは、空間内の下腿部材の方位を検出し、かつ空間内の下腿部材の方位を、又は利用者のために事前に設定された方位への到達を認識できるように出力信号を出力する出力装置と結合されていることを企図する。出力装置は、好ましくは利用者のための空間内の下腿部材の設定された方位を認識できるように、例えば光学的、音響的、又は触覚的に示し、それにより下腿部材の方位に関するフィードバック(Rueckkopplung oder Feedback)を提供する。出力は、質的及び/又は量的に行うことができ、あるいは空間内の下腿部材の以前に記憶された方位に到達したことを信号によって示すことができる。空間内の義足の方位を測定し、この方位が所望の方位に相当するかどうかを照合する代わりに下腿部材の空間位置が検出されるのであって、義足に対する下腿部材の相対ポジションが検出されるのではない。この種の義肢装置によって、下腿部材に調節可能な義足を組付けた後、義肢装置を整形外科技工士により最適に調整すること、すなわち最適な義肢アライメントを保証することが可能である。義肢アライメントは、それぞれの義肢コンポーネント相互の位置決めと方位である。義肢アライメントは患者ごとに個別に調整され、機能と、患者による義肢装置の受容とに決定的に寄与する。義肢アライメントが一旦適切に調整されると、患者は、本発明による義肢装置を用いることで、異なる踵高さ及び異なる靴底剛性を有する別の靴モデルを使用したときに、最適な義肢アライメントを簡単に再び見出すことができる。義足を、記憶された標準角度又は空間内の下部の基準角度に達するまで下部に相対して調節することによって、整形外科技工士により調整された最適位置が簡単に見出され、靴の取替え、又はそれに類することの後に、この位置で義足を下腿部材に固定することができる。1つの慣性センサ又は複数の慣性センサ、及び出力装置による下腿角度の決定の組み合わせは、下腿部材の方位を手動調整するための装置を有する任意の義足の踵高さを調整することを可能にする。その際、下腿部材の方位の調整は、関節のロック解除から、角度の調節を経て、新たにロックされるまで完全に手動で行われる。したがって、複雑なメカトロニクス踝関節の必要がない。患者にはむしろ、調節可能な踝関節ごとに、種々異なる踵高さに対して正しい調整を見出す簡単で信頼できる可能性が提供される。空間内の方位は、特に重力方向に相対する下腿部材の方位である。下腿が、例えば矢状面内にある場合、下腿部材の方位は、鉛直線からそれぞれ逆方向に前方への傾き又は後方への傾きにより定義される。義肢装置の利用者が義足をロック解除、特に手動でロック解除した場合、義足を下腿部材に相対して動かすことができる。これは、義足を装着し、かつ下腿部材を矢状面内で、例えば踝関節の領域で旋回軸を中心に旋回させた場合に生じる。下腿部材の適切なポジションに達した場合、利用者が知覚できる信号が出力される。
【0009】
本発明の一発展形態は、慣性角度センサと出力装置がモジュールとして統合されて義肢装置に組み付けられるか、又は義肢装置に取外し可能に取り付けられていることを企図する。それによって、調整装置を後から義肢装置に取り付けるか、又は追加装備を行い、当初はそれのために設計されていなかった義肢装置にモジュールを装備することが可能である。基本的に、慣性角度センサは、可能な限り歪曲されずに空間位置を検出するために、下腿部材の任意の箇所に、例えば離れた遠位に位置することが企図されている。慣性センサは、義足の近位及び踝関節の近位にあることが好ましく、それにより義足における貴重な設置スペースを節約することができる。出力装置は、例えば下腿ソケット、大腿ソケット、又は別の場所など、容易にアクセスできるか、又は比較的容易に知覚できる箇所に、義肢装置とは無関係に配置することができる。一実施形態では、出力装置は、別個の要素として、鍵束、バッグのストラップとして、腕輪として、又は携帯電話のアプリとして形成することができ、それにより利用者は可能な限り簡単にフィードバッグを受け取ることができる。その場合、慣性角度センサは、出力装置と好ましくはケーブル無しに、無線で、又は類似のデータ伝送方式で結合されている。モジュール、特に追加装備可能なモジュールとしての実施形態では、慣性角度センサと出力装置が恒久的に、特にケーブルにより互いに接続されている。分離した配置の場合、必要な場合にのみ出力装置を慣性角度センサと結合することができる。その場合、慣性角度センサは、残りの義肢装置のための制御装置の一部分として形成することもできる送信装置と結合され、この送信装置を介して、空間内の下腿部材のポジションに関する信号が出力装置に供給される。慣性角度センサも出力装置も、センサデータが評価される制御装置と結合されていることが好ましい。制御装置には、センサデータを評価するため、空間内の基準角度と照合するため、及び信号を出力するために、例えばコンピュータ及び記憶装置が存在する。
【0010】
慣性角度センサは、下腿部材に配置できることが好ましい。これに代えて、慣性角度センサが、慣性角度センサに対して近位に配置された義肢装置の要素に、例えば義肢膝関節の上部、又は大腿ソケットに取り付けられていることが企図される。大腿ソケットに対する下腿部材の位置を測定する角度センサとともに、近位の要素の空間位置に関する情報から下腿部材の空間位置を算出することができる。これに代えて、又はこれに加えて、下腿に対する大腿の相対角を予め定義して下腿角度の検知を行うことができ、それにより角度センサの必要がない。このために、使用者が、膝が完全に伸展した場合にはいつも調整を行うか、又は行わなければならないことが企図されてもよい。
【0011】
本発明の一発展形態は、義肢装置に負荷センサが配置され、負荷を検出した場合に出力信号が出力されるように出力装置と結合されていることを企図する。下腿部材の方位は、異なった負荷がかかった場合、特に異なった軸方向負荷がかかった場合に変化し得る。靴を取り替えた場合、靴底の剛性と靴底のジオメトリが異なることにより、異なった下腿方位、したがってそれぞれ異なった義肢アライメントとなり得る。負荷センサによって、調整がいつも同じ負荷、例えば軸方向負荷で行われることを確保することができ、それによっていつも同じ義肢アライメントが保証される。負荷センサを軸力センサ、圧力センサ、又はモーメントセンサとして形成することができ、例えば下腿部材、義足と下腿部材との接続装置、関節、又は義足に配置することができる。
【0012】
出力装置は、光学的、音響的、及び/又は触覚的出力信号を出力するように形成され、下腿部材の、特に矢状面上の瞬時空間位置、入力及び記憶された方位に対する特定の方向の偏差、及び/又は予め定められた方位への到達を表示することができる。出力装置を、下腿部材の方位を手動調整するための装置と接続することもできるか、又はこの装置に組み込むことができる。この場合、利用者は、調節装置をラッチ解除し、基準ポジションに到達するまで義足を手動で動かす。基準ポジションに到達すると、信号が出力され、それによって使用者は、適切な調整が行われたことに関するフィードバックを受け取る。
【0013】
好ましくは、踵高さの変化を補償するために、義足は矢状面上で旋回可能に支承されている。前額面での空間位置も検出される限り、予め調整された値との偏差が大きすぎる場合に、例えば警告信号を発することができる。
【0014】
本発明の一発展形態は、スイッチオフ装置が、事前に設定された方位への到達後、慣性角度センサ及び/若しくは出力ユニット(Ausgabeeinheit)を、又は出力ユニットとの慣性角度センサの接続をオフに切り替え、それによりエネルギーを節約することができる。出力ユニットは、調整及び新たな靴への適合が行われるべき場合にのみ動作することが好ましい。このために、義肢装置を、例えば出力装置の入力フィールドを介して、又は別のスイッチ若しくは命令により調整モードにすることができる。次いで、調節及び調整が終了した場合、このことが自動的に検出されるか、又は手動で操作され得る。その場合、調整モードが終了し、出力装置がオフに切り替えられる。例えばセンサデータを別の義肢コンポーネントの制御装置のために、例えば義肢膝関節を制御するべく提供するために、慣性角度センサを引き続き動作させることができる。慣性角度センサが義肢装置の制御装置の一部として形成されることが好ましく、それにより慣性角度センサの空間位置データは、踵高さが変化した場合、又は靴を取り替えた場合に認識及び調整するために使用されるだけでなく、歩行中に、例えば踝関節及び/又は膝関節における緩衝抵抗の変化の基準として用いることもできる。
【0015】
義足、義肢装置、下肢に相対する下腿部材の方位を手動調整するための調整装置は、調整装置が、慣性角度センサを有し、慣性角度センサは、空間内の下腿部材の方位を検出し、かつ空間内の下腿部材の方位を、又は利用者のための事前に設定された方位への到達を認識できるように出力信号を出力する出力装置と結合されていることを企図する。特に、出力は、光学的、音響的、及び/又は触覚的出力信号として行われ、本発明の一変形形態では、出力装置は、慣性角度センサと、慣性角度センサデータを評価するための、及び出力装置に伝送するための計算装置とモジュールに統合して結合されている。
【0016】
調整装置には、義肢装置に固定するための取付装置を配置又は形成することができ、恒久的な、又は着脱可能な、及び取り替え可能な取付を保証するために、例えば、クリップ、面ファスナ部材、ねじ、スナップ嵌め要素、及び/若しくはフックなどの形状結合要素、又は磁石などの力結合要素をそれぞれのコンポーネントに配置又は形成することができる。好ましくは、下腿部材又は別の義肢コンポーネントへの取付けは、例えば装着縁、又は別のガイドに沿って、例えばレール上又は溝内に所定の方位で行われる。
【0017】
下腿部材に取り付けられた義足に相対する下肢における義肢装置の下腿部材の方位を手動調整する方法であって、空間内の下腿部材の方位を検出する、かつ出力装置と結合されている慣性角度センサを有する調整装置が義肢装置に配置されている方法は、利用者のための空間内の下腿部材の基準方位が調整され、利用者のための事前に調整された基準方位への到達を認識できるように出力信号が出力されることを企図する。下腿部材の基準方位は、整形外科技工士又は他の、それのために訓練されたエキスパートによって行われる。基準方位の入力は、義肢装置が装着された状態で通常の負荷での義肢装置の基準アライメントで行われることが好ましい。通例の負荷は、例えば供給側及び非供給側に均等に重量の負荷がかかった状態で立つことである。この種の方法では、関連する量として、空間内の下腿部材の方位を使用することが可能であり、それにより義足の異なったポジションごとに基準ポジションを記憶する必要がない。すなわち、使用者は、基準方位に到達した場合に、ただ1つの信号を、場合によっては、基準方位に到達するために、どの方向にどれだけの調節が必要であるのかというメッセージとともに受け取る。調節は、手動で、特に前額面上の下腿部材の長手方向延在に対して垂直に延びる踝関節軸を中心に旋回させることによって行われる。それにより、下腿部材が矢状面上でのみ旋回することが保証される。これに代えて、下腿部材への足部材の取付装置、例えばいわゆるピラミッドアダプタで旋回を行うことができ、そこで前額面上での旋回も基本的に可能である。
【0018】
下腿部材の方位の調整は、利用者に、使用時に、靴が異なる場合でも変わらない義肢アライメントを保証できるようにするために、義肢装置が装着された、特に負荷がかかった場合に行われることが好ましい。
【0019】
調整は、義足が取り替えられるたびごとに、踵高さが変わるたびごとに、又は別のアクティブ化信号に応答して、自動的に開始及び実施することができる。例えば義肢装置の装着後、基準方位と異なる空間位置が検出された場合、方位変更、又は検査に関するメッセージを利用者に出力することができ、調整モード又は検査モードをオンに切り替えることができる。調整が行われた後、調整装置は、好ましくは自動的にオフに切り替わり、特に、エネルギー消費量を最小限にするために出力装置がオフに切り替えられる。例えば靴が取り替えられた場合、出力装置は、現在の下腿方位が基準方位とは異なるという出力信号又はフィードバックを送る。その結果、下腿方位が基準方位に相当するか、又は十分に近似しているという出力信号又はフィードバックを出力装置が送るまで、下腿と義足との間の相対角が手動で調整される。適切なポジションに到達した後、義足は、この位置で、特に手動で固定され、それにより義足の近位の連結手段、例えばピラミッドアダプタが下腿部材に相対して動かなくなる。義足自体は関節を有するか、又は下腿部材に相対して部分的に動くことができる。例えば、適切な調整であることが自動的に認識された後、又は相応の操作信号が入力された場合に、出力装置上に調整過程の終了を表示又は出力することができる。
【0020】
以下、本発明の実施例を添付の図をもとにして詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】
図2は、異なった靴を有する義肢装置の図である。
【
図3】
図3は、下腿ソケットを有する義肢装置の模式図である。
【
図4】
図4は、義肢膝関節及び大腿ソケットを有する
図3の一変形形態の図である。
【
図5】
図5は、別個の出力装置を含む模式図である。
【
図6】
図6は、出力装置が組み込まれた一変形形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、義肢装置が使用中にとり得る3つのポジション又は状態を示す。
図1の左の図示では、義肢装置が義足10及び下腿部材20とともに示されている。下腿部材20の近位端には、図示されない大腿ソケットと接続された義肢膝関節が配置されている。義肢装置が、大腿ソケットを介して大腿断端に固定される。図示された実施例では、慣性測定ユニット又はIMUと呼ばれる慣性角度センサ30が下腿部材20に配置され、この慣性角度センサは、1つ又は複数のジャイロスコープからなる、場合によっては加速度センサを追加したアセンブリとして組み立てることができる。
図1の左の図示に示された方位は基準方位として記憶され、義足10及び下腿部材20のそれぞれの長手方向延在が基準量として考えられる。記憶された基準方位は、義肢装置のいわゆる基準アライメントであり、この基準アライメントが整形外科技工士によって調整、保存、及び記録される。義肢膝関節におけるダンパ装置を制御するための制御装置の一部であり得る記憶装置に記憶を行うことができる。同様に、慣性角度センサ30は、義肢膝関節のための制御装置の一部であり得る。義肢アライメントは、個々の義肢コンポーネント相互の空間的割り当てである。基準調整では、義肢利用者が義肢装置を最大限に利用できるようにするために、すべての義肢コンポーネントを互いに最適に方向合わせすることが目指される。通常、義肢装置に靴11を履かせるので、装着した靴11とともに義肢アライメントを調整することが必要である。靴11は、通常、利用者が普通一般に履くモデルである。靴モデルが取り替えられ、靴11が、例えば
図1の真ん中の図示に示されるような異なる高さの踵を有する場合、義肢アライメント、特に下腿部材20の方位が変化する。
図1の真ん中の図示では、踵高さが異なることによって、下腿部材20の長手方向延在が前方に傾けられていることが見て取れ、義足10の傾きも変化している。慣性角度センサ30又はIMU30は、利用者による検査モードのアクティブ化後に、又は自動的に、空間内の下腿部材20の傾き及び方位を検出する。下腿部材20の方位が基準方位に相当しなくなったので、向きと義肢アライメントが適切でなくなっていることの信号が図示されない出力装置を介して出力される。次に、例えば義足10が下腿部材20に相対して旋回することができる旋回軸のラッチが解除又は解放され、下腿部材20が、再び基準方位がとられるまで旋回させられる。そうなると直ちに、出力装置が対応する信号を利用者に送り、利用者は、ラッチ装置を再びアクティブ化して旋回軸をロックすることができる。適切な空間位置がIMU又は慣性角度センサ30により検出され、光学的、音響的、及び/又は触覚信号によって表示される。これに代えて、それぞれとられた空間位置角度又は基準角度若しくは基準方位との隔たりを出力装置により表示することができる。右の図示では、下腿部材20が再び元の基準方位にあり、このことが破線で示されている。
【0023】
図2において、義肢装置の関連するコンポーネントが個別に示されている。左の図示は、踵12を有する靴11を履いた義足10を示す。義足10は、下腿パイプの形態の下腿部材20を旋回軸を中心に旋回させることができるようにするために旋回装置15を有する。下腿部材20には慣性角度センサ30が取り付けられている。左から2つ目の図示は、より高い踵12を有する別の靴11を示す。左から3つ目の図示では、義足10が別の靴11に挿入されている。2つの靴モデル間の差高が異なることにより、下腿部材20を逆方向に向かって、すなわち後方へ旋回させる必要がある。このために、下腿部材20は、矢印方向に後方へ旋回され、下腿部材20の旋回過程又は空間位置方位が慣性角度センサ30により検査される。空間内の下腿部材20の適切な向きに達すると直ちに、特に患者が供給側と非供給側に均等に負荷をかけた場合に、適切な方向に到達したことを示す光学的、音響的、及び/又は触覚的信号が出力装置40により出力される。その場合、利用者は、下腿部材20に相対する義足10の意図しない変位を防ぐべく旋回装置15をラッチする。続いて、エネルギーを節約するために、出力装置40への電力供給を停止することができる。センサデータを提供するために慣性角度センサ30を引き続き使用することができる。
【0024】
図3において、義足10及び下腿部材20、並びにこれに取り付けられた慣性角度センサ30を有する義肢装置が模式図で示されている。義足10は、旋回装置15により軸を中心に旋回可能に下腿部材20に支承されている。下腿部材20は、下腿ソケット及び下腿パイプを有し、下腿部材に慣性角度センサ30が恒久的に、又は取去り可能に固定されている。下腿ソケットにはさらに取付装置70が設けられ、取付装置には図示されない出力装置40、又は慣性角度センサ30及び出力装置40からなるモジュールを固定することができる。モジュール、出力装置40及び/又は慣性角度センサ30は、好ましくは破壊せずに取外し可能に取付装置70に固定可能及び取付可能に形成されている。固定は、ねじ、ボルト、フック、又はクリップ要素などの形状結合要素により、あるいは磁石を用いて力結合的に、あるいは形状結合要素と力結合要素の組合せにより行うことができる。慣性角度センサ30又はIMUの配置は、下腿部材20と固定的に接続されている踝関節の一部に組み込むか、又は取外し可能に取り付けて行うことができる。センサ30を下腿部材20の構造部品、例えば下腿パイプ又は下腿ソケットに配置することも可能である。
【0025】
図4において、近位の義肢コンポーネント50が下腿部材20に配置されている義肢装置が模式的に示されている。近位の義肢コンポーネント50は、例えば義肢膝関節25との接続パイプを有する大腿ソケットである。図示された実施例では、慣性角度センサ30が再び下腿部材20に配置され、これに代えて、慣性角度センサ30、及び場合によっては出力装置40も組み込まれるか、又は取外し可能に取り付けられて、膝関節25又は大腿ソケット又は大腿ソケットと義肢膝関節との間の接続部分に配置することができる。慣性角度センサ30を義肢膝関節の上部に配置することもできる。下腿部材20と近位のコンポーネント50との間の角度を検出する角度センサとともに、近位のコンポーネント50の空間位置から下腿部材20の空間位置を検出することができる。
図4の実施例では、さらに、義足10及び旋回装置15に配置されている負荷センサ60が設けられている。負荷センサ60は、義肢装置へのそれぞれの負荷を検出するための、例えば軸力センサ、圧力センサ、及び/又はモーメントセンサであり得る。複数の負荷センサ60又は1つの負荷センサ60が制御装置と結合され、制御装置もまた慣性センサ30と結合されている。したがって、例えば義肢装置に負荷がかかった場合に義肢アライメントの調整を行うか否かを認識することができる。
図4による実施例では、出力装置40は、慣性角度センサ30と統合してモジュールとされ、下腿部材20に固定されている。
【0026】
図5において、出力装置40は、慣性角度センサ30から分離され、空間的に切り離して形成され、例えば携帯電話の形態であり、携帯電話に慣性角度センサ30からの対応するデータが、場合によっては別個の送信装置を介してワイヤレスで伝送される。センサ系から出力装置40へのデータ伝送は、無線、WLAN、ブルートゥース(登録商標)、NFC、又は他の伝送路を介して行うことができる。利用者に踵の高さが変わった後に適切な調整に関して知らせるために、出力装置は、光学的表示器の他に、音響的フィードバック、又はバイブレーション信号を出力することができる。
【0027】
図6において、出力装置40が、近位のコンポーネントとしての義肢ソケット50に配置されている本発明の別の変形形態が示されている。出力装置40は、義肢ソケット50に組み込まれている。慣性角度センサ30又はIMUは、下腿部材20に配置されている。慣性角度センサ30から出力装置40への伝送はワイヤレスで行われる。下腿部材20に相対して義足10を手動でラッチ解除した後、例えば靴、特に予め適合させた靴とは異なる踵高さの靴を有する義足10が地面に置かれる。義足10の地面との接触は力センサ60により検知される。下腿部材20は、空間内の下腿部材20の予め調整された基準方位に達するまで踝関節15を中心に旋回される。このために、例えば、下腿部材20が矢状面内、又は設定された角度範囲内で矢状面の内側及び外側にあることが企図され得る。下腿部材20の基準方位に達した場合、出力装置40から、所望の位置へ到達したという光学的、音響的、又は触覚的信号が出力される。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 義足(10)、及び前記義足(10)に取り付けられた下腿部材(20)、並びに前記義足(10)に相対する前記下腿部材(20)の方位を手動調整するための装置を有する下肢のための義肢装置において、前記義肢装置に慣性角度センサ(30)が配置され、前記慣性角度センサは、空間内の前記下腿部材(20)の方位を検出し、かつ前記空間内の前記下腿部材(20)の前記方位を、又は利用者のための事前に設定された方位への到達を認識できるように出力信号を出力する出力装置(40)と結合されていることを特徴とする、義肢装置。
[2] 前記慣性角度センサ(30)と前記出力装置(40)がモジュールとして統合されて前記義肢装置に組み込まれているか、又は前記義肢装置に取外し可能に取り付けられていることを特徴とする、[1]に記載の義肢装置。
[3] 前記慣性角度センサ(30)は、前記下腿部材(20)に配置されている、又は前記義肢装置は、前記下腿部材(20)に対して近位に配置された義肢コンポーネント(50)を有し、前記義肢コンポーネントに前記慣性角度センサ(30)が配置されていることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の義肢装置。
[4] 負荷センサ(60)が前記義肢装置に配置され、負荷を検出した場合に前記出力信号が出力されるように前記出力装置(40)と結合されていることを特徴とする、[1]から[3]のいずれか1項に記載の義肢装置。
[5] 前記負荷センサ(60)は、軸力センサ、圧力センサ、又はモーメントセンサとして形成されていることを特徴とする、[4]に記載の義肢装置。
[6] 前記出力装置(40)は、光学的、音響的、及び/又は触覚的出力信号を出力するように形成されていることを特徴とする、[1]から[5]のいずれか1項に記載の義肢装置。
[7] 前記義足(10)は、矢状面上で旋回可能に支承されていることを特徴とする、[1]から[6]のいずれか1項に記載の義肢装置。
[8] 前記事前に設定された方位への到達後、前記慣性角度センサ(30)及び/若しくは前記出力装置(40)を、又は前記出力装置(40)との前記慣性角度センサ(30)の接続をオフに切り替えるスイッチオフ装置を特徴とする、[1]から[7]のいずれか1項に記載の義肢装置。
[9] 下肢の義肢装置の義足(10)に相対する下腿部材(20)の方位を手動調整するための調整装置において、前記調整装置が慣性角度センサ(30)を有し、前記慣性角度センサは、空間内の前記下腿部材(20)の方位を検出し、かつ前記空間内の前記下腿部材(20)の前記方位を、又は利用者のために事前に設定された方位への到達を認識できるように出力信号を出力する出力装置(40)と結合されていることを特徴とする、調整装置。
[10] 前記出力装置(40)は、光学的、音響的、及び/又は触覚的出力信号を出力するように形成されていることを特徴とする、[9]に記載の調整装置。
[11] 義肢装置に固定するための取付装置(70)が前記調整装置に配置又は形成されていることを特徴とする、[9]又は[10]に記載の調整装置。
[12] 下腿部材(20)に取り付けられた義足(10)に相対する下肢における義肢装置の前記下腿部材(20)の方位を手動調整する方法であって、空間内の前記下腿部材(20)の方位を検出する、かつ出力装置(40)と結合されている慣性角度センサ(30)を有する調整装置が前記義肢装置に配置されている方法において、利用者のための前記空間内の前記下腿部材(20)の基準方位が調整され、利用者のための予め調整された基準方位への到達を認識できるように出力信号が出力されることを特徴とする、方法。
[13] 前記調整は、義肢装置が装着された、特に負荷がかかった場合に行われることを特徴とする、[12]に記載の方法。
[14] 前記調整は、義足が取り替えられるごとに、踵高さが変わるたびごとに、又はアクティブ化信号に応答して自動的に行われることを特徴とする、[12]又は[13]に記載の方法。