(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】血液脳関門を通過して輸送するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/64 20170101AFI20240731BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240731BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240731BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240731BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240731BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240731BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20240731BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K45/00
A61K31/713
A61P25/28
A61K47/65
A61K48/00
C07K7/08
C07K19/00
(21)【出願番号】P 2022007151
(22)【出願日】2022-01-20
(62)【分割の表示】P 2020089946の分割
【原出願日】2012-06-03
【審査請求日】2022-02-21
(32)【優先日】2011-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513305205
【氏名又は名称】オフィディオン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス バルツ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-518202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 45/00-45/08
A61K 31/00-31/80
A61K 48/00
A61P 1/00-43/00
C07K 7/08
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4の配列
からなるペプチド;
及び
エフェクター剤
を含むペプチド
-エフェクター剤コンジュゲートであって、
ペプチドとエフェクター剤のモル比が約10:1である、ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート。
【請求項2】
予防上又は治療上の有効量の請求項1に記載のペプチド-エフェクター剤コンジュゲート;
及び
医薬として許容される賦形剤
を含む
医薬組成物。
【請求項3】
治療に使用するための請求項1
又は2に記載の
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物であって、前記使用が、標的に該
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物を提供することを含む、脳に見出される標的に該
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物を輸送することを含む前記
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物。
【請求項4】
治療に使用するため
の請求項1又は2に
記載のペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物であって、前記使用が、
脳に見出される標的に
、エフェクター剤にコンジュゲートされたペプチドを含む複合体を提供することを含む、
該標的に
該複合体を輸送することを含む前記
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物。
【請求項5】
標的に請求項1~
4のいずれか1項に記載の
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物
を提供することを含む、脳に見出される標的にペプチド組成物を輸送するためのインビトロの方法。
【請求項6】
標的に組成物若しくは複合体を提供することがインビトロ細胞培養で行われるか、又は標的に組成物若しくは複合体を提供することがマウス若しくはヒトの対象で行われる
、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
標的が細胞又は細胞外分子であり、任意選択的に細胞がニューロン、神経細胞、脳細胞、グリア細胞、星状細胞、ニューロン支持細胞、及び中枢神経系の細胞から選択からなる群から選択される
、請求項
5又は6に記載の方法。
【請求項8】
標的が、ニコチン受容体を含む細胞、又はタンパク質を含む細胞外分子である、請求項
7に記載
の方法。
【請求項9】
エフェクター剤が、siRNA、shRNA、マイクロRNA、二本鎖RNA、鎖鋳型RNA、オリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド、アプタマー
、オリゴヌクレオチド、遺伝子、ペプチド、タンパク質、低化学分子、大化学分子、ウイルス粒子、リポソーム、エンドソーム、エキソソーム、ナノ粒子、デンドリマー、陽電子放出断層撮影(PET)リガンド、真核細胞、原核細胞、マイクロスフェア、ナノゲル及びバイオナノカプセルの組み合わせからなる群から選択される、請求項
1若しくは2に記載の
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート若しくは医薬組成物、
又は請求項
4に記載の使用するための組成物若しくは複合体
。
【請求項10】
エフェクター剤がsiRNAである、請求項
9に記載の
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物、
又は使用するための組成物
若しくは複合体
。
【請求項11】
siRNAがペプチドにコンジュゲートされている、請求項
10に記載の
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート又は医薬組成物、
又は使用するための組成物
若しくは複合体
。
【請求項12】
エフェクター剤が、
ポリDアルギニンリンカーによってペプチドにコンジュゲートされ
る、請求項
1若しくは2に記載の
ペプチド-エフェクター剤コンジュゲート若しくは医薬組成物、請求項4
に記載の使用するための組成物
若しくは複合体
、又は請求項
9~
11のいずれか1項に記載
の使用するための組成物
若しくは複合体
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に援用される、2011年6月3日に出願された米国仮出願第61/492,884号優先権を主張し、その利益を主張する。
【0002】
連邦政府支援の研究又は開発に関する陳述
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた5R43MH094004-01及び5R43MH094004-02の下での政府支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
分野
本開示は、血液脳関門を横切ることができる組成物、及び血液脳関門内の標的にエフェクター剤を送達させるためのこれらの組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
認知能力の減退は、多くの疾患状態(例えば、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、うつ病、統合失調症、及び注意欠陥多動性障害(ADHD)などの行動障害)と関連している。これらの疾患状態は、常に、生活の質に最も有害なものとなっている。過去数十年間において、コリン作動系、特にニコチン性アセチルコリン受容体は、正常な認知のために極めて重要であることが示されている。しかし、多くの努力にもかかわらず、ニコチン性アセチルコリン受容体に基づく認知強化療法が市場に投入されていない。実際、これまでに、有効な治療法は、認知機能の低下を軽減するために開発されていない。
【0005】
有効な治療法はまだ開発されていないが、認知機能の低下を軽減するために可能性を示す多くの治療化合物が同定されている。例えば、低分子干渉RNA(siRNA)は、それらの優れた特異性、低毒性及び免疫原性プロファイルのために大きな期待を持っている。まだ課題は、これらの頭蓋治療薬の送達に残され、これは、細胞外及び細胞内環境において安定性問題の克服、そして特定の標的細胞へのインビボ送達のための方法の考案を含む。最近の研究では、狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG29)からのペプチドが正常にニコチン性アセチルコリン受容体に結合することにより、血液脳関門(BBB)を横切って、無傷及び機能的siRNAを送達することが示されている。同様に、キングコブラ毒素b(KC2S)のループ2は、ニューロンのニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR類)に結合し、頭蓋内薬物送達を増強することが報告されている。しかしながら、狂犬病由来又は毒素由来のペプチドの使用は安全上の懸念をもたらし、BBBを通過するそれらの能力に関係なくリスクをもたらす。実際、最大のハードルは、脳内の関連する標的への治療薬の安全かつ効率的な頭蓋内送達である。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの実施形態において、本発明は、血液脳関門を通過することが可能であるlynx1-ループ2由来のペプチドを含む組成物及び方法に関する。本発明の他の実施形態において、lynx1-ループ2由来ペプチドは、血液脳関門内に発見される標的への輸送のためのエフェクター剤にコンジュゲートされる。
【0007】
本発明のいくつかの実施形態において、組成物は、配列番号1の配列を有するペプチドを含む。いくつかの実施形態においては、配列番号1のペプチドは、配列番号2、3、4及び5から選択される配列を有する。他の実施形態において、配列番号1の配列は、残基3と4の間に挿入された配列番号8のペプチドをさらに含む配列番号1の配列を有する。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態において、組成物は、配列番号1、2、3、4、及び5の配列を有するペプチドとエフェクター剤を含む。他の実施形態において、配列番号1のペプチドは、残基3と4の間に挿入された配列番号8のペプチドをさらに含む配列番号1の配列を有する。
【0009】
いくつかの態様において、エフェクター剤は、siRNA、shRNA、マイクロRNA、二本鎖RNA、鎖鋳型RNA、オリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド、アプタマー、アナログ、並びにオリゴヌクレオチド、遺伝子、ペプチド、タンパク質、低化学分子、大化学分子、ウイルス粒子、リポソーム、エンドソーム、エキソソーム、ナノ粒子、デンドリマー、陽電子放出断層撮影(PET)リガンド、真核細胞、原核細胞、マイクロスフェア、ナノゲル及びバイオナノカプセルの組み合わせからなる群から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態において、エフェクター剤は、ペプチドにコンジュゲートされたsiRNAである。
【0011】
いくつかの実施形態において、組成物は、配列番号13、14、又は15の配列を有するペプチドを含む。他の実施形態において、配列番号13、14、又は15の配列を有するペプチドを含む組成物もまたエフェクター剤を含む。
【0012】
本発明のいくつか実施形態において、血液脳関門を通過するlynx1-ループ2由来のペプチドを輸送する方法は、血液脳関門に見出される標的に配列番号1の配列を有するペプチドを提供することを含み、ここで、該標的はインビボ又はインビトロであってもよい。他の実施形態において、ペプチドは、配列番号2、3,4、又は5の配列を有する。さらに他の実施形態において、ペプチドは、残基3と4の間に挿入された配列番号8のペプチドをさらに含む配列番号1の配列を有する。
【0013】
本発明のいくつか実施形態において、血液脳関門内に見出される標的にエフェクター剤を輸送する方法が提供される。該方法は、配列番号1の配列を有するペプチドをエフェクター剤にコンジュゲートさせて複合体を形成させ、該複合体を標的に提供することを含み、ここで、該標的は、インビボ又はインビトロであってもよい。
【0014】
他の実施形態において、本方法は、配列番号2、3、4、5、又は10の配列を有するペプチドを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、複合体は、インビトロにおける細胞培養物中の標的に提供される。他の実施形態において、複合体は、マウス又はヒト被験体における標的に提供される。
【0016】
いくつかの実施形態では、標的は、細胞又は細胞外分子である。いくつかの実施形態において、細胞は、ニューロン、神経細胞、脳細胞、グリア細胞、星状細胞、ニューロン支持細胞、又は中枢神経系の細胞から選択される。いくつかの実施形態において、標的細胞は、ニコチン性アセチルコリン受容体を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、エフェクター剤は、siRNA、shRNA、マイクロRNA、二本鎖RNA、鎖鋳型RNA、オリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチド、アプタマー、アナログ、並びにオリゴヌクレオチド、遺伝子、ペプチド、タンパク質、低化学分子、大化学分子、ウイルス粒子、リポソーム、エンドソーム、エキソソーム、ナノ粒子、デンドリマー、陽電子放出断層撮影(PET)リガンド、真核細胞、原核細胞、マイクロスフェア、ナノゲル及びバイオナノカプセルの組み合わせからなる群から選択される。
【0018】
いくつかの実施形態では、組成物は医薬組成物である。
【0019】
本発明のいくつか実施形態において、血液脳関門を通過してlynx1-ループ2由来のペプチドを輸送する方法は、血液脳関門に見出される標的に配列番号13の配列を有するペプチドを提供することを含み、ここで、該標的は、インビボ又はインビトロであってもよい。他の実施形態において、ペプチドは、配列番号14又は15の配列を有する。
【0020】
他の実施形態において、血液脳関門内に見出される標的にエフェクター剤を輸送する方法が提供され、該方法は、エフェクター剤に配列番号13、14、又は15の配列を有するペプチドをコンジュゲートし、複合体を形成させ、該標的に該複合体を提供することを含み、ここで、該標的はインビボ又はインビトロであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態によれば、N(アミノ)とC(カルボキシ)末端を示すlynx1ペプチドの構造的な描写である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態によれば、N(アミノ)及びC(カルボキシ)末端を示すα-ブンガロトキシンタンパク質の構造的な描写である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態によれば、野生型、lynx1ホモ接合ノックアウト(KO)、及びlynx1ヘテロ接合型ノックアウト(HET)マウスによってなされた「フリーズ」の回数を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態によれば、脳、筋肉、肺、腸、腎臓及び肝臓からの組織抽出物におけるlynx1のmRNAレベルと野生型マウスからの脳におけるmRNAレベル量と比較したグラフである。
【
図4A】
図4Aは、lynx1を発現する(+lynx1)又はlynx1を発現しない(-lynx1)α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体細胞株からの細胞抽出物のウェルタンブロットである。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施形態によれば、ニコチン性アセチルコリン受容体活性に起因する生理学的変化をモニターする蛍光膜電位色素を用いた、lynx1を発現する(プラスlynx1)又はlynx1を発現しない(lynx1なし)α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体細胞株へのニコチン曝露から得られる蛍光強度を比較したグラフである。
【
図5A】
図5Aは、本発明の実施形態によれば、ポリクローナル抗lynx1抗体を用いた、+/+(野生型)から、+/-(lynx1ヘテロ接合ノックアウト)、及び-/-(lynx1ホモ接合体ノックアウト)からの脳抽出物におけるlynx1タンパク質のウェスタンブロットである。
【
図5B】
図5Bは、本発明の実施形態によれば、野生型細胞の割合としてlynx1タンパク質レベルの正規化された量を比較したグラフであり、WT、HET、及びKO細胞について、
図5Aのウェスタンブロットに対応する。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態によれば、陰性対照トランスフェクション(擬似)と比較した、4つの異なるlynx1-siRNA種(siRNA1、siRNA2、siRNA3、又はsiRNA4)のうちの1つでトランスフェクトされた神経細胞培養物におけるlynx1のmRNAレベルを比較したグラフである。
【
図7】
図7A、7B、7C、及び7Dは、本発明の実施形態によれば、初代神経細胞培養物における、ビオチン化lynx1-ループ2ペプチド(
図7A);ビオチン化RVG29ペプチド(陽性対照)(
図7B);ビオチン化Ly6H-ループ2ペプチド(陰性対照)(
図7C);及びビオチン化lynx2-ループ2ペプチド(
図7D)の蛍光ストレプトアビジン検出を用いた蛍光像である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態によれば、左から右に示されるように、添加なし(擬似)、lynx1のmRNA単独、ly6H-ループ2を連結したlynx1-siRNA、RVG29を連結したlynx1-siRNA、及びlynx1-ループ2を連結したlynx1-siRNAと比較した、培養ニューロンにおけるlynx1の発現をノックダウンするlynx1-ループ2を連結したlynx1のsiRNAの有効性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態によれば、ヒト、マウス、マカク、ウシ、チンパンジー、リスザル、ラット及びフェレット(それぞれ上から下へ)からの全長lynx1アミノ酸配列とループ2(太字)のアラインメントである。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態によれば、培養皮質ニューロンへの抗lynx1 siRNAの送達後のlynx1のmRNAを減少させる有効な能力を示すグラフであり、抗lynx1 siRNAは、指示されるペプチド(lynx1-ループ2、改変体1、改変体4、改変体2、改変体3、ly6H、RVG29、RVG19、及び擬似(siRNAなし)及びペプチドなし(siRNA単独))にコンジュゲートされ、この場合、lynx1のmRNAを減少させる活性パーセントは、lynx1-ループ2抗lynl siRNA(100%に設定)の存在下でのlynx1のmRNAレベルと対比される。
【
図11A】
図11Aは、本発明の実施形態によれば、ly6H-ループ2ペプチド(陰性対照)とコンジュゲートされた、蛍光標識された核のsiRNAを注射されたマウスからの脳切片の共焦点顕微鏡画像である。
【
図11B】
図11Bは、本発明の実施形態によれば、濃縮された蛍光周辺のサークルを有するlynx1-ループ2ペプチドとコンジュゲートされた、蛍光標識された核のsiRNAを注射されたマウスからの脳切片の共焦点顕微鏡画像である。
【
図11C】
図11Cは、本発明の実施形態によれば、
図11Bにおけるサークルの蛍光の光学ズームであり、ここで、標識された細胞は毛細血管内皮細胞の鎌形状特性を提示する。
【
図11D】
図11Dは、毛細血管の内腔を取り囲む毛細血管内皮細胞の断面の典型的な電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
lynx1は、特定のグループのニューロンのニコチン性アセチルコリン受容体に対するアクセサリー分子であり、他のニコチン性アセチルコリン受容体結合タンパク質、例えば、α-ブンガロトキシン(
図1)、SLURP(分泌性Ly-6/uPAR関連タンパク質(
Secreted
Ly-6/
uPAR-
related
protein))、及び前立腺幹細胞抗原と構造が非常に類似している。lynx1の治療態様は、少なくとも2倍である。第一に、lynx1機能低下は、脳活動の増大を付与する。例えば、lynx1ノックアウトマウスは、連想学習行動分析パラダイムにおいて有意な改善を示す(
図2)。第二に、lynx1タンパク質は、ニューロンのニコチン受容体(NNR)又はニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合することが示され、これは、Ibanez-Tallonら,2002,Neuron,33:893-903(全内容は参照により本明細書に援用される)に開示されている。本明細書に開示されるように、lynx1のループ2領域は、NNRの推定結合ドメインであり、血液脳関門(BBB)を横切る治療薬の送達のためのペプチド輸送体として使用することができる。
【0023】
アミノ酸の略語は、本開示を通じて使用され、当該技術分野において知られている標準的な命名法に従っている。例えば、当業者に理解されるように、アラニンは、Ala又はAであり;アルギニンは、Arg又はRであり;アスパラギンは、Asn又はNであり;アスパラギン酸は、Asp又はDであり;システインは、Cys又はCであり;グルタミン酸は、Glu又はEであり;グルタミンは、Gln又はQであり;グリシンは、Gly又はGであり;ヒスチジンは、His又はHであり;イソロイシンは、Ile又はIであり;ロイシンは、Leu又はLであり;リジンは、Lys又はKであり;メチオニンは、Met又はMであり;フェニルアラニンは、Phe又はFであり;プロリンは、Pro又はPであり;セリンは、Ser又はSであり;スレオニンは、Thr又はTであり;トリプトファンは、Trp又はWであり;チロシンは、Tyr又はYであり;バリンは、Val又はVである。
【0024】
本発明のいくつか実施形態において、エフェクター剤にコンジュゲートするとき、lynx1の第2ループ(ループ2)のペプチド断片又は改変体は、種々の代表的なアッセイ及び共焦点顕微鏡法によって決定されるように、血液脳関門を通過し、脳及び/又はニューロンにエフェクター剤を送達することができる。
【0025】
本明細書において使用するとき、ポリヌクレオチド又はポリペプチドの「断片」とは、参照ポリヌクレオチド又はポリペプチドと比較して、ヌクレオチド又はペプチドのより小さなセットを指す。
【0026】
本明細書で使用するとき、ポリヌクレオチド又はポリペプチドの「改変体」とは、参照ポリヌクレオチド又はポリペプチドと比較して、一次、二次、又は三次構造において変化することができるポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。例えば、lynx1-ループ2ペプチドのペプチド断片は、lynx1-ループ2の全ペプチド配列又はより短いペプチド配列を指すことができるペプチドであり、このペプチド断片は、本明細書に記載されるように、アミノ酸置換又は欠失を含んでもよい。例えば、lynx1-ループ2ペプチドの「改変体」は、参照lynx1-ループ2ペプチドと比較して、構造及び機能において実質的に類似する分子を指すが、さらに部分又は置換又は変更を含むことができる。そのため、改変体ペプチドは、例えば、ユビキチン化、標識化、Peg化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)、又は他の分子の付加などの技術によって、化学的に修飾された参照ペプチドである誘導体を含むことができる。分子は、両方の分子が実質的に類似した構造を有するか、又は両方の分子が類似した生物学的活性を有する場合、別の分子と「実質的に類似している」と言われる。したがって、2つの分子が類似した活性を有する場合、これらの分子のうちの1つの構造が他方において見出されないか、又はアミノ酸残基の配列が同一でない場合、その用語が本明細書において使用されるとき、改変体であると考えられる。
【0027】
本明細書で使用するとき、lynx1-ループ2の断片、改変体、及び実質的に類似した分子は、総称して「lynx1-ループ2由来」と呼ばれる。
【0028】
本明細書で使用するとき、「エフェクター剤」とは、血液脳関門内の標的に影響を与える任意の分子を指し、本明細書に開示されているように、標的は、標的細胞又は細胞外分子であり得る。lynx1-ループ2由来のペプチドにコンジュゲートされ又は連結され得るエフェクター剤の非制限的な例には、siRNA;短鎖ヘアピン又はステムループRNA(shRNA);マイクロRNA、二本鎖RNA(dsRNA);鎖鋳型RNA(stRNA);オリゴヌクレオチド(DNA又はRNA);修飾オリゴヌクレオチド(DNA又はRNA);アプタマー;DNA及びRNAの類似体及び組み合わせ;遺伝子;タンパク質、例えば、抗体及び抗原断片;タンパク質、抗体及び抗原;小化学分子;大化学分子;ウイルス粒子;リポソーム;エンドソーム;エキソソーム;ナノ粒子;デンドリマー(例えば、ポリ(アミドアミン)、又はPAMAM);陽電子放出断層撮影(PET)リガンド;真核細胞;原核細胞;マイクロスフェア;ナノゲル;バイオナノカプセルが挙げられる。
【0029】
本明細書で使用するとき、「コンジュゲートした」、「連結した」、及び「複合化した」は、交換可能に使用される。本明細書で使用するとき、用語「コンジュゲートした」又は「コンジュゲート」とは、1つの実体を形成するために2つ以上の実体の結合を指す。例えば、本発明の方法は、エフェクター剤へのlynx1-ループ2由来ペプチドのコンジュゲーションを提供する。結合は、リンカー、化学修飾、ペプチドリンカー、化学リンカー、共有若しくは非共有結合、又はタンパク質融合によって、又は当業者に知られている任意の手段によって行うことができる。接合(joining)は、永続的又は可逆的であり得る。いくつかの実施形態において、いくつかのリンカーは、コンジュゲート中の各リンカー及び各成分の所望の特性を利用するために含めることができる。柔軟なリンカー、及びコンジュゲートの溶解性を増加させるリンカーの使用は、単独での使用、又は本明細書に開示される他のリンカーを伴う使用が企図される。ペプチドリンカーは、コンジュゲート中の1つ以上のタンパク質にリンカーをコードするDNAを発現させることによって連結することができる。リンカーは、酵素的に切断可能なリンカー、酸によって切断可能なリンカー、光によって切断可能なリンカー、及び熱感受性リンカーであり得る。コンジュゲーションのための方法は、当業者によって周知である。
【0030】
本明細書で使用するとき、「標的」とは、完全に、BBBで保護された中枢神経系(CNS)組織内にある細胞又は細胞外分子を意味する。細胞外分子としては、限定されないが、細胞外タンパク質及び組織が挙げられる。BBB内の細胞外タンパク質の例としては、Cramerら,Science,335:1503,2012(全内容は参照により本明細書に援用される)に開示されるアルツハイマー病(AD)を特徴付けるアミロイド斑を含む。ADに加えて、パーキンソン病及びレビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる異常な折り畳み構造のタンパク質の凝集体によって特徴付けられ、これらの小体の主要成分の1つはα-シヌクレインタンパク質であり、これらは、Clintonら,J.Neurosc,30:7281-7289,2010(全内容は参照により本明細書に援用される)に開示されている。
【0031】
本明細書で使用される用語「標的細胞」は、ニコチン性アセチルコリン受容体のアルファ(α)サブユニット及び/又はベータ(β)サブユニットを発現する細胞を指す。本明細書に開示されるlynx1-ループ2由来のペプチドは、ニコチン性アセチルコリン受容体のαサブユニットに結合する。したがって、本明細書に開示されるlynx1-ループ2由来ペプチドは、ニコチン性アセチルコリン受容体のアルファサブユニットを発現する細胞の選択的ターゲティングのためのターゲティング部分として有用である。ニコチン性アセチルコリン受容体のアルファ(α)サブユニットを発現する細胞には、例えば、ニューロン、グリア細胞、及び血液脳関門を含む内皮細胞が挙げられる。また、本発明の標的細胞は、内因性環境がBBBによって分離される細胞、例えば、中枢神経系の細胞、例えば、脳細胞、脊髄細胞、グリア細胞、及びニューロンを支持する他の細胞、例えば、星状細胞又は「栄養細胞(nursing cell)」及び中枢神経系の細胞が挙げられる。いくつかの実施形態において、標的細胞は、ニコチン性アセチルコリン受容体のアルファサブユニットを発現するいずれかの細胞又はそのホモログであってもよく、例えば、限定されないが、対象(すなわち、インビボ)における神経細胞、エクスビボの神経細胞又は培養神経細胞(すなわち、インビトロ)、例えば、初代神経培養細胞、あるいは天然に存在する又はトランスフェクトされたアルファ及び/又はベータニコチン性アセチルコリン受容体構築物の安定な選択を介した、ニコチン性アセチルコリン受容体のアルファ及び/又はベータサブユニットを発現する不死化細胞株が挙げられる。いくつかの実施形態において、標的細胞は、神経前駆体又は神経前駆細胞、例えば、ニコチン性アセチルコリン受容体のαサブユニット又はそのホモログを発現するニューロン前駆幹細胞である。本発明のいくつかの実施形態において、標的は、対象、例えば哺乳動物対象、例えばヒト対象に存在する。代替の実施形態において、標的はエクスビボであり、さらなる実施形態において、標的は生物学的試料中、例えばインビボである。
【0032】
lynxl-ループ2由来ペプチド
ヒトlynx1-ループ2ドメインとマウス、マカク、ウシ、チンパンジー、リスザル、ラット及びフェレット由来のlynx1-ループ2配列のアラインメントを
図9に示す。本発明のいくつかの実施形態において、例えば、本明細書に開示されているエフェクター剤にコンジュゲートされたlynx1-ループ2由来のペプチド輸送因子を注射した対象の脳切片の細胞画像又は共焦点顕微鏡によって決定されるように、lynx1-ループ2に由来するペプチドは、細胞取込み及び/又はBBBを横切る輸送を付与する。したがって、本発明のいくつかの実施形態において、lynx1-ループ2由来ペプチドは、一般配列X
1-X
2-X
3-X
4-X
5-X
6-X
7-X
8-X
9-X
10-X
11-X
I2-X
13-X
14-X
15-X
16(配列番号1)を有する16マーのペプチドであり、ここで、配列番号1については以下の通りである。
【0033】
X1は、M又はTであり;
X2は、T又はIであり;
X3は、T又はWであり;
X4は、R又はCであり;
X5は、T又はDであり;
X6は、Y、I、又はGであり;
X7は、F又はYであり;
X8は、T又はCであり;
X9は、P、N、又はSであり;
X10は、Y、T、又はSであり;
X12は、M又はGであり;
X14は、V又はRであり;
X15は、R、S、A、又はIであり;
X16は、K、S、又はDである。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態において、lynx1-ループ2由来ペプチドは、保存されているか又は
図9に示される様々な種において見出される整列された配列に類似しているものを表す配列を有する。例えば、BBBを通過することができるlynx1-ループ2由来ペプチドは、MTTRTYFTPYRMKVRK(配列番号2)、MTTRTYYTPTRMKVSK(配列番号:3)、MTWCDYFTPSRGKVRKS(配列番号4)、又はMTTRTYFTPYRGKVRK(配列番号5)を含む。
【0035】
図10に示すように、抗lynx1 siRNAにコンジュゲートされた配列番号4(変異体1)は、培養皮質ニューロンにおいてlynx1発現を減少させることができ、並びに配列番号2の配列を有するペプチドである。しかしながら、アラニン(A)で置換された、7位にフェニルアラニン(F)を有する変異体2(MTTRTY
ATPYRMKVRKS)(配列番号6)、及びAMADで置換された、11~14位にRMKV残基を有する変異体3(MTTRTYFTPY
AM
ADRKS)(配列番号7)は、
図10に示すように、抗lynx1 siRNAにコンジュゲートしたとき、培養皮質ニューロンにおけるlynx1発現の減少にそれほど効果的ではなかった。
【0036】
本発明の他の実施形態において、さらなるアミノ酸配列は、16マーのlynx1-ループ2ペプチドに付加されてもよい。例えば、MPENPRPGTP(配列番号8)の配列は、配列番号1について上記で定義された16マーのペプチドに付加される。一実施形態において、MPENPRPGTP(配列番号8)は、上記で定義される配列番号1のX3とX4残基の間に付加され、X
1X
2X
3MPENPRPGTPX
4X
5X
6X
7X
8X
9X
10RX
12KX
14X
15X
16(配列番号9)を与える。また、
図10に示すように、抗lynx1 siRNAにコンジュゲートされた、MTT
MPENPRPGTPRTYFTPYRMKVRKS(配列番号10)のペプチド配列を有する変異体4は、培養皮質ニューロンにおいてlynx1 mRNAを減少させることができる。配列番号8は、RVG29に見出される配列であるが、RVG19において見出されない。RVG29は、配列YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKRASNG(配列番号11)を有し、RVG19は、配列YTIWCDIFTNSRGKRASNG(配列番号12)を有する。
図10に示すようにlynx1-ループ2(配列番号2のペプチドを有する)、変異体1(配列番号4のペプチドを有する)、変異体4(配列番号10ペプチドを有する)はすべて、抗lynx1-siRNAと比較した場合、RVG29とRVG19ペプチドの両方よりも効果的に培養皮質ニューロンにおいてlynx1 mRNAを減少させる。
【0037】
いくつかの実施形態において、1個のアミノ酸又は少ない割合のアミノ酸を変更、付加又は欠失する個々の置換、欠失又は付加は、本発明のlynx1-ループ2由来のペプチドに対して作製される。挿入又は欠失は、典型的には、約1~5個のアミノ酸の範囲である。保存的置換のための保存的アミノ酸の選択は、例えば、アミノ酸がペプチドの外側にあり、溶媒に曝露される場合、又は内部にあり、溶媒に曝露されない場合、ペプチドにおいて置換されるべきアミノ酸の位置に基づいて選択されてもよい。
【0038】
代替の実施形態において、既存のアミノ酸の位置、すなわち、溶媒へのその曝露に基づいて(すなわち、溶媒に曝露されない内部に位置付けられたアミノ酸と比較して、アミノ酸が溶媒に曝露されるか、又はペプチド若しくはポリペプチドの外面に存在する場合)、既存のアミノ酸を置換するアミノ酸を選択することができる。保存的アミノ酸置換の選択は当該技術分野において周知であり、例えば、Dordoら,J.Mol.Biol.,1999,217,721-739、及びTaylorら,J.Theor,Biol.119(1986)l205-218、及びS.French & B.Robson,J.Mol.Evol.19(1983)171に開示されている。したがって、タンパク質又はペプチドの外側におけるアミノ酸(すなわち、溶媒に曝露されるアミノ酸)に適した保存的アミノ酸置換を選択することができ、例えば、限定されないが、以下の置換を使用することができる:YをF;TをS、K又はA;PをA;EをD又はQ;NをD又はG;RをK;GをN又はA;TをS、K又はA;DをN又はE;IをL又はV;FをY又はL;SをT又はA;RをK;GをN又はA;KをR;AをSK、P、G、T又はV;WをY;及びMをLに置換する。本明細書に記載した結果を考慮し、変異体1~4について
図10に示すように、及びlynx1類似体中の配列の観点から、本発明のいくつかの実施形態において、lynx1-ループ2由来のペプチドは、X
3-X
4-X
5-X
6-X
7-X
8-X
9-X
10-R
11-X
12-X
13-X
14(配列番号13)である配列番号1由来の配列を有する小さい12マーのペプチドであり、ここで、配列番号13については以下の通りである。
【0039】
X3は、T又はWであり;
X4は、R又はCであり;
X5は、T又はDであり;
X6は、任意のアミノ酸であり;
X7は、F又はYであり;
X8は、任意のアミノ酸であり;
X9は、任意のアミノ酸であり;
X10は、任意のアミノ酸であり;
X12は、M又はGであり;及び
X14は、V又はRである。
【0040】
代替の実施形態において、配列番号1由来の配列は、配列X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-R-X12-K-X14(配列番号14)を有し、ここで、配列番号14については、以下の通りである。
【0041】
X3は、T又はWであり;
X4は、R又はCであり;
X5は、T又はDであり;
X6は、Y、G、又はIであり;
X7は、F又はYであり;
X8は、T又はCであり;
X9は、P、N、又はSであり;
X10は、Y、T、又はSであり;
X12は、M又はGであり;及び
X14は、Vである。
【0042】
代替の実施形態において、配列番号1由来の配列は、配列X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-R11-X12-K13-X14(配列番号15)を有し、ここで、配列番号15については、以下の通りである。
【0043】
X3は、T又はWであり;
X4は、R又はCであり;
X5は、T又はDであり;
X6は、Y、G又はIであり;
X7は、F又はYであり;
X8は、Tであり;
X9は、Pであり;
X10は、Y又はTであり;
X12は、M又はGであり;及び
X14は、Vである。
【0044】
lynx1-ループ2由来のペプチドを含む本明細書に開示されているすべてのペプチドは、当該技術分野において知られている任意の適切な方法によって構築することができる。例えば、ペプチドは、ペプチド合成機(Applied Biosystems Model 433)を用いて合成されてもよく、又は当該該技術分野において周知の方法によって組換え的に合成することができる。ポリペプチドの化学合成のための方法及び材料は当業者に周知である。例えば、Merrifield,1963,“Solid Phase Synthesis”,J.Am.Chem.Soc.,83:2149-2154を参照されたい。本発明のペプチドを合成する方法は、本発明を限定するものではない。例えば、ペプチドは、LifeTein,LLC又はBio-Synthsis,Inc.から市販されている。
【0045】
本発明のペプチドは、特定の標的効果に適合するように変更されてもよい。lynx1-ループ2ペプチドは、エフェクター剤なしにBBBを通過し、効果を付与することができるが、いくつかの所望の効果は、エフェクター剤にコンジュゲートして促進される。このように、ペプチドは特異的エフェクター剤に適合するように変更されてもよい。例えば、lynx1-ループ2由来ペプチドは、例えば親水性を増加させるように、アミノ末端で修飾することができる。増加した親水性は、親ペプチド-脂質コンジュゲートがリポソーム又は脂質担体とともに使用するために組み込まれた脂質系担体の表面上へのペプチドの曝露を高める。疎水性を増大させるようにペプチドへの結合に適した極性基は周知であり、例えば、限定されないが、アセチル(「Ac」)、3-シクロヘキシルアラニル(「Cha」)、アセチル-セリン(「Ac Ser」)、アセチル-セリル-セリン(「Ac-Ser-Ser-」)、スクシニル(「Sue」)、スクシニル-セリン(「Suc-Ser」)、スクシニル-セリル-セリン(「Suc-Ser-Ser」)、メトキシスクシニル(「MeO-Suc」)、メトキシスクシニル-セリン(「MeO-Suc-Ser」)、メトキシスクシニル-セリル-セリン(「MeO-Suc-Ser-Ser」)及びセリル-セリン(「Ser-Ser-」)基、ポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリアクリルアミド、ポリアクリロモルホリン、ポリビニルピロリジン、ポリヒドロキシル基及びカルボキシ糖、例えば、ラクトビオン酸、N-アセチルノイラミン酸及びシアル酸基が挙げられる。これらの糖のカルボキシ基は、アミド結合を介してペプチドのN末端に連結される。現在、好ましいN末端修飾はメトキシ-スクシニル修飾である。
【0046】
エフェクター剤
本発明のlynx1由来ペプチドは、血液脳関門を通過することができ、また、それが標的細胞及び/又は分子への送達のためにコンジュゲートされるエフェクター剤をターゲティングすることができる。エフェクター剤が本発明のlynx1由来ペプチドとコンジュゲートし、連結され又は複合化され得るエフェクター剤及び方法の例には、本明細書、及び全ての全内容が参照により本明細書に援用されるKumarら,Nature 448:39-43,2007;Pulfordら,PLoS One 5:e11085,2010;Rohnら,J Drug Target,20:381-388,2012に開示されるsiRNA;全内容が参照により本明細書に援用されるHwang doら,Biomaterials,32:4968-4975,2011に記載されるhsRNA又はマイクロRNA;全内容が参照により本明細書に援用されるPardridge, Jpn J.Pharmacol,87:97-103,2001に記載されるオリゴヌクレオチド(DNA又はRNA);Pardridge,2011(上述)に記載される修飾されたオリゴヌクレオチド(例えば、DNA又はRNA);Pardridge,2011(上述)、及び全内容が参照により本明細書に援用されるGongら,Biomaterials,33:3456-3463,2012に記載される遺伝子;Pardridge,2011(上述)に記載されるペプチド及びPETリガンド;Pardridge,2011(上述)、及び全内容が参照により本明細書に援用されるXiangら,J Drug Target,19:632-636,2011に記載されるタンパク質;全内容が参照により本明細書に援用されるZhanら,Mol Pharm,7:1940-1947,2010に記載される小化学分子;大化学分子;ウイルス粒子;Pulfordら,2010(上述)に記載されるリポソーム;エンドソーム;全内容が参照により本明細書に援用されるAlvarezら,Nat.Biotechnol,29:341-345,2011に記載されるエキソソーム;全内容が参照により本明細書に援用されるChenら,J Drug Target,19:228-234,2011及びLiuら,Biomaterials,30:4195-4202,2009に記載されるナノ粒子;Lirら(上述)に記載されるデンドリマー(例えば、PAMAM);真核細胞;原核細胞;全内容が参照により本明細書に援用されるPatelら,CNS Drugs,23:35-58,2009に記載されるマイクロスフェア、ナノゲル及びバイオナノカプセルが挙げられる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態において、エフェクター剤、例えば、本明細書に開示されているsiRNA治療薬は、「プロドラッグ」形態で送達されるように調製することができる。用語「プロドラッグ」は、内因性酵素若しくは他の化学物質の作用及び/又は条件によって、生体又はその細胞内で活性形態(すなわち、薬物)に変換される不活性な形態で調製される治療薬を示す。
【0048】
いくつかの実施形態において、本発明のエフェクター剤は、種々の標的細胞又は組織に輸送することができる。例えば、本発明のエフェクター剤は、任意の神経細胞、例えば、中枢神経系、嗅覚、又は視覚系の神経細胞に輸送することができる。また、本発明のエフェクター剤は、神経学的に関連した標的細胞又は組織、例えば、神経系と相互作用し又は神経系の標的となる細胞又は組織に輸送することができる。
【0049】
本明細書で使用するとき、用語「遺伝子」とは、エクソンと(任意に)イントロン配列の両方を含む、ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸を指す。「遺伝子」は、遺伝子産物のコード配列、ならびに遺伝子産物の5’UTRと3’UTR領域、イントロン及びプロモーターを含む遺伝子産物の非コード配列を指す。これらの定義は、一般に、一本鎖分子を指すが、特定の実施形態において、一本鎖分子に対して部分的に、実質的又は完全に相補的であるに追加の鎖も含む。このようにして、核酸は、二本鎖分子、又は1つ以上の相補鎖(単数又は複数)を含む二本鎖分子、又は特定配列を含む分子の「相補物(単数又は複数)」を包含することができる。本明細書で使用するとき、一本鎖核酸は、接頭辞「ss」によって表すことができ、二本鎖核酸は接頭辞「ds」によって、三本鎖は接頭辞「ts」で表すことができる。用語「遺伝子」は、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し、それはコード領域の前後の領域、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)領域を含む。「プロモーター」は、転写の開始及び速度が制御される核酸配列の領域である。これは、核酸配列の特異的転写を開始させるために、RNAポリメラーゼ及び他の転写因子などの、調節タンパク質及び分子が結合可能な要素を含むことができる。用語「エンハンサー」は、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用調節配列を指す。エンハンサーは、いずれかの配向において機能し、プロモーターの上流又は下流にあってもよい。本明細書で使用するとき、用語「遺伝子産物(単数又は複数)」は、遺伝子から転写されたRNA、又は遺伝子によってコードされる又はRNAから翻訳されたポリペプチドを含むことを指すために使用される。
【0050】
標的細胞の核内への遺伝子の転座について、シグナル配列は、エフェクター剤遺伝子にコンジュゲートされてもよい。多くの核シグナル配列は、当該技術分野において知られている。核膜シグナル配列又はペプチドは、一般に、約10~約50個以上のアミノ酸残基の長さであるアミノ酸の配列であり、その多く(典型的には約55~60%)の残基は疎水性であり、その結果、疎水性脂溶性部分を有する。一般に、シグナルペプチドは、細胞タンパク質のインポート及び/又はエクスポートを可能にするために、細胞膜(例えば、核膜)を貫通することができるペプチドである。そのようなシグナル配列は、遺伝子中に天然に存在してもよく、又は多くの周知の組換えDNA技術を用いて提供されてもよい。
【0051】
シグナルペプチド配列は、SIGPEPデータベース(von Heijne、Protein Sequence Data Analysis 1:4142(1987);von Heijne and Abrahmsen、L.、FEBS Letters 224:439-446(1989)、両者の全内容は参照により本明細書に援用される)から選択することができます。
【0052】
lynx1-ループ2由来のペプチドを用いた血液脳関門を通過する輸送
本発明のいくつかの実施形態において、血液脳関門を通過させて脳内の標的にペプチドを輸送する方法は、標的を含む対象又は細胞培養物にlynx1-ループ2由来ペプチドを提供することを含む。いくつかの実施形態において、BBB内で見出された標的に到達することができるlynx1-ループ2由来のペプチドは配列番号1を有する。他の実施形態において、ペプチドは、配列番号2、3、4又は5の配列を有する。さらに他の実施形態においては、ペプチドは、配列番号1の配列を有し、配列番号8のペプチドは残基3と4の間に挿入される。
【0053】
lynx1-ループ2由来のペプチドを用いたエフェクター剤の輸送
本発明のいくつかの実施形態において、標的細胞にエフェクター剤を輸送させる方法は、複合体を形成するために、エフェクター剤にlynx1-ループ2由来のペプチドをコンジュゲートさせ、標的細胞又は標的細胞を有する対象に複合体を提供することを含む。
【0054】
いくつかの実施態様において、本方法は、配列番号1のlynx1-ループ2ペプチドを含む。他の実施形態において、本方法は、配列番号13、14又は15から選択されるlynx1-ループ2ペプチドを含む。さらに他の実施形態において、本方法は、配列番号2、3、4、5又は10から選択されるlynx1-ループ2ペプチドを含み、この場合、標的細胞への輸送は、コンジュゲートされたエフェクター剤の効果を測定することによって決定される。いくつかの実施形態において、コンジュゲートされたエフェクター剤の効果の測定は、標的でエフェクター剤の画像化することを含む。さらなる実施形態において、コンジュゲートされたエフェクター剤の効果の測定は、タンパク質又は核酸の活性又はレベルの増加又は減少を測定することによって、エフェクター剤の存在をアッセイすることを含む。例えば、エフェクター剤がsiRNAである場合、siRNAに対応するmRNAのレベルは、lynx1-ループ2由来ペプチドにコンジュゲートされたsiRNAの複合体を提供した後に測定することができ、この場合、効果は、エフェクター剤が標的に送達される指標となる。
【0055】
いくつかの実施態様において、エフェクター剤を輸送する方法は、脳細胞、脊髄細胞、グリア細胞、ニューロン、分子及び中枢神経系の他の細胞から選択される標的細胞において起こる。いくつかの実施形態において、標的細胞にエフェクター剤を輸送する方法は、対象に複合体を提供することを含み、この場合、標的細胞が血液脳関門内にある。他の実施形態において、標的細胞を有する被験体はヒトである。いくつかの実施形態において、BBB中に見られる標的にエフェクター剤を輸送する方法はインビトロで起こる。
【0056】
本方法のいくつかの実施形態において、エフェクター剤は、siRNA;短鎖ヘアピン又はステムループRNA(shRNA);マイクロRNA、二本鎖RNA(dsRNA);鎖鋳型RNA(stRNA);オリゴヌクレオチド(DNA又はRNA);修飾オリゴヌクレオチド(DNA又はRNA);DNA及びRNAの類似体及び組み合わせ;アプタマー;遺伝子又は遺伝子産物;抗体及び抗原断片を含むペプチド;タンパク質、例えば、抗体及び抗原;小化学分子;大化学分子;ウイルス粒子;リポソーム;エンドソーム;エキソソーム;ナノ粒子;デンドリマー;陽電子放出断層撮影(PET)リガンド;真核細胞;原核細胞;マイクロスフェア;ナノゲル;バイオナノカプセルを含む。
【0057】
本方法の他の実施形態において、エフェクター剤はsiRNAである。例えば、本明細書に開示されているように、siRNAは、lynx1-ループ2由来のペプチドにコンジュゲートされているlynx1のsiRNAである。
【0058】
本方法のいくつかの実施形態において、複合体は、医薬組成物である。
【0059】
用語「組成物」又は「医薬組成物」は、本明細書において互換的に使用され、通常、当該技術分野において慣例である医薬として許容される担体などの賦形剤を含み、哺乳動物、例えば、ヒト又はヒト細胞への投与に適した組成物又は製剤を意味する。このような組成物は、多数の経路の1つ以上を介した投与用に具体的に製剤化されてもよく、該経路には、限定されないが、経口、非経口、静脈内、動脈内、皮下、鼻腔内、舌下、脊髄内、脳室内などが挙げられる。本明細書に開示される組成物を投与される細胞は、例えば、治療、診断、又は予防目的のために、対象の一部であってもよい。細胞はまた、例えば、潜在的な医薬組成物をスクリーニングするためのアッセイの一部として培養されもよく、細胞は、研究目的のためにトランスジェニック動物の一部であってもよい。また、局所(例えば、口腔粘膜、呼吸粘膜)投与及び/又は経口投与のための組成物は、溶液、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル、徐放製剤、経口リンス、又は粉末を形成してもよく、本明細書に記載されるように当該技術分野において知られている。組成物はまた、安定剤及び保存剤を含むことができる。担体、安定剤及びアジュバントの例は、University of the Sciences in Philadelphia(2005)Remington: The Science and Practice of Pharmacy with Facts and Comparisons,21st Ed.を参照されたい。
【0060】
本明細書に開示される組成物は、非経口、経腸、経粘膜、局所、例えば、皮下、静脈内、局所、筋肉内、腹腔内、経皮、直腸、膣、鼻内又は眼内を含む任意の都合のよい経路によって投与することができる。一実施形態において、本明細書に開示される組成物は、局所的に投与されない。一実施形態において、送達は、組成物製剤の経口投与による。一実施形態において、送達は、特に脳及び関連臓器(例えば、髄膜及び脊髄)の治療に使用するために、組成物の鼻腔内投与による。これらのラインに沿って、眼内投与も可能である。別の実施形態において、送達手段は、長期の持続的なi.v.製剤が望まれる場合に特に有利である組成物の静脈内(i.v.)投与による。適切な製剤は、各々が参照により本明細書に援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences,16th and 18th Eds.,Mack Publishing,Easton,Pa(1980 and 1990),及びIntroduction to Pharmaceutical Dosage Forms,4th Edition,Lea & Febiger,Philadelpha(1985)に見出すことができる。
【0061】
本明細書に開示される組成物は、予防上又は治療上の有効な量で投与することができる。本明細書に開示される標的化送達組成物は、医薬として許容される担体とともに投与することができる。予防上又は治療上の有効量は、少なくとも部分的には、所望の効果を達成し、又は治療されるべき特定の疾患若しくは障害の発症を遅延させ、その進行を阻害し、又はその発症若しくは進行を完全に停止させるのに必要な両を意味する。このような量は、当然に、治療される特定の状態、該状態の重症度及び個々の患者のパラメータ、例えば、年齢、体調、大きさ、体重及び併用療法に依存する。これらの因子は当業者に周知であり、日常的な実験程度で対処することができる。一般に、最大投薬量、すなわち、健全な医学的判断に従った最も安全な投薬量を用いることが好ましい。しかしながら、当業者は、より低い用量又は耐容用量が医学的理由、心理学的理由又は事実上の任意の他の理由のために投与することができることを理解する。
【0062】
「医薬として許容される担体」は、対象への標的化された送達組成物を混合及び/又は送達するための任意の医薬として許容される手段を意味する。使用する用語「医薬として許容される担体」は、本明細書で使用するとき、生体のある臓器又はその一部から、別の臓器又はその一部に対象薬物を運ぶ又は輸送することを伴う、医薬として許容される材料、組成物又はビヒクル、例えば、液体若しくは固体充填剤、希釈剤、溶媒又はカプセル化材料を意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合するという意味において「許容される」ものでなければならず、対象、例えばヒトへの投与に適合している。本発明のいくつかの実施形態に従う方法の臨床的使用に関して、いくつかの実施形態に従う標的化された送達組成物は、非経口投与、例えば静脈内投与;粘膜、例えば鼻腔内;経腸、例えば経口;局所、例えば経皮;眼、例えば角膜乱切又は他の様式を介した投与用の医薬組成物又は医薬製剤に製剤化される。医薬組成物は、1つ以上の医薬として許容される成分と組み合わせて、本発明のいくつかの実施形態に従う化合物を含む。担体は、固体、半固体又は液体希釈剤、クリーム又はカプセルの形態であってもよい。これらの医薬調製物は、本発明のいくつかの実施形態に従うさらなる目的である。通常、活性化合物の量は、調製物に基づいて0.1~95重量%の間であり、例えば、非経口投与については調製物に基づいて0.2~20重量%の間であり、例えば、経口投与については調製物に基づいて1~50重量%の間である。
【0063】
用語「非経口投与」及び「非経口的に投与される」は、本明細書で使用するとき、経腸及び局所投与以外の投与様式を指し、通常は、注射による投与であり、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、気管内、皮下、くも膜、サブ莢膜、くも膜下、脊髄内、脳内脳脊髄、及び胸骨内の注射及び注入が挙げられる。語句「全身投与」、「全身的に投与される」、「末梢投与」、「末梢的に投与される」は、本明細書で使用するとき、中枢神経系に直接的に投与すること以外で、化合物、薬物又は他の材料の投与を意味し、その結果、それが、動物系に進入し、したがって、代謝及び他の似たプロセスに供される、例えば、皮下投与が挙げられる。
【0064】
本明細書で使用するとき、用語「投与すること」、「導入すること」、及び「提供すること」は互換的に使用され、本発明の実施形態によれば、所望の部位で薬剤(例えば、標的細胞及び/又は分子)の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法又は経路によって、対象又はインビトロの培養物に、コンジュゲートされたエフェクター剤を含む又は含まないlynx1-ループ2由来のペプチドを含む医薬組成物の配置を指す。本発明の薬剤は、対象における効果的な治療をもたらす任意の適切な経路によって投与されてもよい。
【0065】
経口投与用の投与単位の形態で本発明の標的化された送達組成物を含む医薬製剤の製造において、選択された化合物は、固体、粉末成分、例えば、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アミロペクチン、セルロース誘導体、ゼラチン、又は他の適切な成分と混合してもよく、ならびに崩壊剤及び潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム及びポリエチレングリコールワックスと混合されてもよい。次に、混合物を顆粒に加工されてもよく、又は錠剤に圧縮されてもよい。
【0066】
以下の実施例は、説明のみを目的として提示され、本出願の範囲又は内容を限定するものではない。
【実施例】
【0067】
実施例1:マウスにおいて観察されるlynx1の効果。魅力的な生物学の原理証明は、遺伝子操作されたマウスにおいてlynx1を操作することによって実証された(全内容が参照により本明細書に援用されるMiwa et al.,Neuron,51:587-600,2006参照)。Lynx1ノックアウトマウスは、連想学習行動分析パラダイムにおいて有意な改善を示す(
図2)。ニコチン性アセチルコリン受容体におけるlynx1の大きな打撃と、コリン作動性トーンが認知機能の低下と関連付けられるという事実を考慮すると、この結果はlynx1の除去が実際にコリン作動性トーンを増大させることを示している。しかしながら、同じlynx1ノックアウトマウスは、それらの生命の後期段階において神経変性表現型を示したので、長期間にわたるlynx1の完全な除去は、潜在的に最適窓の外側にあるコリン作用をスペクトルの高活性端にシフトさせるようである。この実証は、ヘテロ接合lynx1ノックアウトマウスにおけるlynx1の部分的な減少が神経変性を全く示さなかったという事実である。興味深いことに、認知増強は、ホモ接合lynx1ノックアウト又は野生型動物と比較してさらに改善された(
図2)。このようにして、広範囲のlynx1投与量は、調整コリン作動性トーンを微調整する実施可能な戦略であるようである。ニコチン性アセチルコリン自体を操作することが同様の結果を生じさせなかったことは注目すべきことであり、これは、lynx1操作が、ニコチン性アセチルコリン受容体に基づく認識促進薬の治療薬を開発するためのより望ましい方法であると実際に証明する可能性があり、他の認知促進戦略と肩を並べるか、又はそれらより優れている可能性があることを示す。
【0068】
具体的には、
図2は、恐怖条件付けアッセイにおける野生型(WT)と比較して、lynx1ホモ接合ノックアウト(KO)及びヘテロ接合lynx1ノックアウト(HET)マウスに関する連想学習能力を高めたことを示す。マウスは、無害刺激、トーン、有害刺激、軽度の足のショックの組み合わせによって条件付けられ、恐怖はフリーズによって測定された。翌日、lynx1のKO動物は、WT動物と比較して、穏やかなトーンに対してフリーズことを示し、これは、WTマウスよりも良好な連想学習を指示した。HET動物は、このタスクにおいて、KO動物よりもさらに良好に振る舞った。lynx1のKOとHET動物についてP<0.05であった。Y軸は、フリーズの数(#)である。
【0069】
実施例2:qPCRアッセイ。lynx1発現の程度を決定するために、mRNA転写物は、マウスにおいて定量的に測定された。マウスは、動物福祉ガイドラインに従ってCO2窒息により安楽死させた。器官を回収し、均質化し、超音波処理した。RNAは、RNAeasyプロテクトミニキット(Qiagen)を用いて抽出し、DNase(Qiagen)で処理された。RNA濃度を決定した。RNAを5ng/μlに希釈し、50ngのRNAは、qScript cDNAスーパーミックス(Quanta Bio)を用いて逆転写された。qPCRは、Life TechnologiesからのアッセイとQuanta BioからのPerfeCTa Fastmix IIを用いて、ウェルあたり1ngのcDNAについて行われた。3つの複製が試料あたり行われ、3匹の動物を用いた。lynx1のCT(サイクル閾値)値は、GAPDHレベルのものに対して標準化した。データは、脳の発現レベルを100%として、脳発現のパーセンテージとして表される。
【0070】
Applied BiosystemsのStepOne qPCR機器を用いて、lynx1と、ニコチン性アセチルコリン受容体サブユニットα4、α7及びβ2についてTaqManアッセイを開発した。lynx1のmRNAレベルは、マウスにおける多くの組織(
図3)、培養皮質ニューロン、及びlynx1安定細胞株において測定された。
図3に示されるように、y軸は、すべての他の組織よりも顕著に高かった脳の発現レベルのパーセンテージとしての相対量である。腸が小腸である。肝臓は、バックグラウンドを超えるlynx1発現を示さず、腎臓は最小のlynx1発現であった。
【0071】
実施例3:lynx1でトランスフェクトされたα4β2 nAChR細胞株。マウスのニコチン性アセチルコリン受容体サブユニットであるα4-黄色蛍光タンパク質(α4YFP)とβ2-シアン蛍光タンパク質(β2CFP)の一過性のバージョンは、堅牢なアセチルコリン(ACH)とニコチン応答を示し、高品質の細胞株を単離するための、α4とβ2の蛍光タグを付されたバージョンの使用の有用性を確認する。Nashmiら(全内容が参照により本明細書に援用されるJ of Neuroscience,2003,23:11554-11567)によれば、報告されているように、α4ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)cDNAはYFPとインフレームで融合され、かつβ2 nAChRはCFPとインフレームで融合された。構築物をHEK293細胞にトランスフェクトし、安定な組込みを有するコロニーを選択するために抗生物質で処理された。200を超える単離され、選択されたクローンは、CFPとYFP蛍光測定、蛍光共鳴エネルギー移動(25%を超えるFRET効率)、及びFlexStation(登録商標)(ニコチン応答を測定するための流体工学を用いたリアルタイム蛍光ベースのマルチウェルプレートリーダー)における機能的分析などのアッセイを用いた反復的等級付け及び選抜プロセスをうけた。これらの分析後、最適化されたα4YFPβ2CFP nAChR細胞株は、受容体のタンパク質レベルを検出するためのウェスタンブロット研究、及びα4とβ2の相互作用を確認するための共免疫沈降研究を用いて、さらに特徴付けられた。α4YFPβ2CFP細胞株を選択し、特徴付けた後、優良のα4YFPβ2CFPの安定な細胞株は、CMV(サイトメガロウイルス)-lynx1構築物でトランスフェクトされた。そのトランスフェクションからのクローンは、親α4YFPβ2CFP細胞株からのlynx1の安定な組込みについて再び選択された。20を超えるコロニーを選択し、増殖し、特徴付けた。測定されたパラメータは、最大ニコチン誘発性応答のFlexStation(登録商標)測定、ニコチンの連続希釈に対する用量反応であった。最良の細胞株をさらに増殖させ、ウェスタンブロットによって特徴付け、lynx1タンパク質量を決定した。さらに、細胞株は、受容体が抗GFP抗体によって沈降される共免疫沈降研究に供され、lynxタンパク質は、lynx1:受容体相互作用を確認するために、抗lynx1抗体で検出された。受容体に対するlynx1の機能的差異は、さらに、圧押出されるニコチンパルスを用いて、パッチクランプ電気生理学的測定によって確認された。
【0072】
市販の抗lynx1モノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットアッセイによるlynx1-α4YFPβ2CFP nAChR細胞株におけるlynx1の測定可能な減少を
図4Aに示す。lynx1は、-lynx1細胞株において検出可能ではないが、+lynx1細胞株においてかなり検出される。FlexStation(登録商標)蛍光は、lynx1-α4YFPβ2CFP nAChR細胞株及びα4YFPβ2CFP nAChR細胞株の両方において定量される(
図4B)。lynx1-α4YFPβ2CFP(プラスlynx1)における最大の記録可能なシグナル差を用いて、lynx1を発現しないα4YFPβ2CFP nAChR細胞株(lynx1なし)と比較した。
【0073】
FlexStation(登録商標)アッセイで検出可能な最大シグナル。膜電位に応答する蛍光染料を使用して、FlexStation(登録商標)プレートリーダーは、lynx1を含まない(左)又はlynx1を含む(右)のいずれかのα4YFPβ2CFPニコチン性アセチルコリン受容体細胞株を100μMニコチンに曝露させることから得られる最大シグナルを測定する。ニコチン性アセチルコリン受容体はイオンチャネルであるため、ニコチンの結合は、細胞膜を通過する電流および膜電位の同時変化をもたらす。siRNA誘導によるlynx1 mRNA分解に起因したlynx1細胞株内でのlynx1発現の何らかの低下は、α4YFP2βCFP細胞株のみに見られるものまでに最大シグナルを増加させる。
【0074】
実施例4:定量的ウェスタンブロットアッセイ。lynx1の脳タンパク質レベルをモニターするために、定量的ウェスタンブロットアッセイを確立した。lynx1抗体(Santa Cruz Biotechnology,Inc.から購入した)及びLi-Cor Odyssey機器を用いて、タンパク質発現は、野生型、ヘテロ接合及びホモ接合lynx1 KOマウスにおいて定量された(
図5A及び5B)。タンパク質はlynx1 KOマウスの脳組織から抽出された(野生型=+/+、ヘテロ接合=+/-、及びホモ接合=-/-)、レーン1~3。タンパク質をブロットし、抗lynx1抗体を用いて検出した。ウェスタンブロットは、Li-Cor Odyssey検出系を用いて定量され(
図5)、野生型レベルに対して正規化された。Y軸は、野生型マウスと比較したlynx1レベルのパーセンテージを示す。値は、遺伝子型あたり4匹のマウスからの4つ試料の平均である。
【0075】
実施例5:細胞におけるlynx1ノックダウン。lynx1 TaqManアッセイを使用して、lynx1 siRNA種は、培養皮質ニューロンにおけるlynx1ノックダウンについてアッセイされた(
図6)。4つのsiRNA種は、Thermo Scientific/Dharmaconから購入した。アクセルsiRNA種を次のように注文した:siRNA1(GCACUGAUUUGAUAGAAUU)(配列番号16)、SMARTプールsiRNA A-062811-13LYNX1;siRNA2:(CUUUGGUGCAUGGUUACUU)(配列番号17)、アクセルSMARTプールsiRNA A-062811-14 LYNX1;siRNA 3:(GCAUCUGGGAGAAUGUUUA)(配列番号18)、アクセルSMARTプールsiRNA A-062811-15 LYNX1;及びsiRNA4:(UGGUUAUCUAGAGUUGCAA)(配列番号19)、アクセルSMARTプールsiRNA A-062811-16 LYNX1。
【0076】
図6に示されるように、lynx1 mRNAレベルは、培養ニューロンにおけるlynx1発現の非常なレベルを指示する皮質ニューロン(擬似)において測定される。ノックダウン実験では、siRNAは、Dharmacon(ThermoScientific)によるアクセル法を用いて、培養ニューロンにトランスフェクトされた。siRNA1、siRNA2、siRNA3、及びsiRNA4の各々は、それ自体で又は2つ、3つ若しくは4つすべてを組み合わせて使用された。すべてのsiRNA及びそれらの組み合わせがlynx1のmRNAレベルを容易に減少させ、
図6に示すように、siRNA1は、90%を超えるまでlynx1発現を減少させた。従って、その後、siRNA1(GCACUGAUUUGAUAGAAUU)(配列番号16)は、脳内へのニューロン取り込み及び輸送をアッセイするために、様々なペプチドと複合して使用された。
【0077】
実施例6:結合試験。培養中のニューロンに結合するlynx1-ループ2ペプチド(配列番号2)の能力を測定した。これを行うために、初代皮質ニューロンを培養し、培養物は、それらがニコチン性アセチルコリン受容体を発現する時点まで成熟させた。次に、細胞は、指示されたビオチン化ペプチドと結合され、その後、蛍光ストレプトアビジンに結合された。ニューロンは、共焦点顕微鏡を用いて画像化された。ニューロンは、RVG29ペプチド:YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKRASNG(配列番号11)(全内容が参照により本明細書に援用されるKumar et al.,Nature,448:39-43,2007)(
図7B)とlynx1-ループ2ペプチドU(
図7A)を用いて、神経突起様過程中に標識された。さらに、RVG29とlynx1-ループ2の間の同等数のニューロンが、このアッセイにおいて観察され、一方、ニコチン性アセチルコリン受容体に結合しないことが知られている(
図7C)、構造的に類似したly6H-ループ2ペプチド(VRITDPSSSRKDHSVN)(配列番号20)は、ニューロンに結合せず、lynx2-ループ2ペプチド(EVMEQSAGIMYRKS(配列番号21)(
図7D)は、ニューロンに容易に結合しなかった。このように、RVG29は、lynx1-ループ2ペプチドの陽性対照であり、ly6H-ループ2とlynx2-ループ2の両方は陰性対照である。
【0078】
実施例7:ニューロンへのペプチド-siRNA複合体のsiRNA取り込み試験。実験は、ニューロン内のlynx1-ループ2ペプチド-lynx1 siRNA複合体をアッセイし、lynx1ノックダウンの程度、及びこの複合体の細胞内取り込み効率を決定するために実施された。lynx1 siRNA(配列番号16)(siRNA1)と結合したペプチドの種々の複合体は、マウス皮質ニューロンから作られた一次ニューロン培養物とともにインキュベートされた。特に明示がない限り、lynx1 mRNAノックダウン実験を以下のように行った。ペプチドとsiRNAのモル比は10:1であった。ペプチド及びsiRNAの最終濃度は25μMペプチド(LifeTein)+2.5μM lynx1 siRNA(Dharmacon)であった。ペプチドは、各ペプチドのC末端に結合したポリDアルギニンリンカーを介して最終体積の半分のNeural Basal Media中で室温にて30分間、siRNAと複合体化された。複合体は、アルギニンの正電荷とsiRNA中に存在するリン酸基の負電荷の間の静電(非共有結合)相互作用に起因して形成された。30分後、2倍の最終濃度のサプリメントB27(Invitrogen)とGlutaMAX(Invitrogen)を含むNeural Basal Media(Invitrogen)を最終体積の半分を加えた。複合体を十分にボルテックスし、細胞に添加した。ニューロン培養物は、24時間のインキュベーション後に回収され、ホモジナイズされ、RNAは、RNAeasy Protect Miniキット(Qiagen)を用いて抽出され、DNase(Qiagen)で処理された。RNA濃度は、Qubit(Life Technologies)を介して決定された。RNAは5ng/μlに希釈され、50ngのRNAは、qScript cDNA Supermix(Quanta Bio)を用いて逆転写された。qPCRは、Life TechnologiesからのアッセイとQuanta BioからのPerfeCTa Fastmix IIを用いて、ウェルあたり1ngのcDNAについて行われた。試料あたり4つの複製が行われ、3つの試料を条件ごとに処理した。RQ値は、lynx1のCT値に基づいて計算され、それはGAPDHレベルに対して正規化された(RQ=2∧-デルタデルタCt)。データは、lynx1ループ2-lynx1 siRNA試料からノックダウンのレベルを100%として、ノックダウンの割合として表される。mRNAレベルを減少させない処置を0%ノックダウンとして表した。試料をスチューデントT検定により分析した。
【0079】
lynx1 siRNA分子がlynx1-ループ2ペプチドと複合化された場合、又はRVG29ペプチドと複合化された場合、siRNA無し(擬似)と比較して、lynx1 mRNAの減少が観察された。陰性対照ペプチドであるly6H-ループ2、及び裸のsiRNA(siRNA単独)は、lynx1 mRNAレベルの有意な減少を示さなかった(
図8)。これらのデータは、ニューロンにsiRNA分子を運搬するlynx1-ループ2ペプチドの能力を実証する。
【0080】
実施例8:ペプチド-siRNA複合体を介した培養皮質ニューロンへの抗lynx1 siRNAの送達後のlynx1 mRNAのノックダウン。培養皮質ニューロンへのsiRNAを送達させる、異なるlynx1-ループ2ペプチド改変体の能力を試験するために、ペプチド改変体と抗lynx1 siRNAのいくつかの異なる複合体を調製した。これらの複合体はニューロン培養物に添加され、ニューロンにsiRNAを移動させるペプチドの能力はqPCRによって測定された。結果を
図10に示す。4つのlynx1-ループ2改変体をアッセイした。これらの改変体は、変異体1(MTWCDYFTPSRGKVRKS)(配列番号4)、変異体2(MTTRTY
ATPYRMKVRKS)(配列番号6)、変異体3(MTTRTYFTPY
AM
ADRKS)(配列番号7)及び変異体4(MTT
MPENPRPGTPRTYFTPYRMKVRKS(配列番号10)と呼ばれ、これらは、lynx1-ループ2ペプチド(配列番号2)と比較された。陰性対照は、Ly6H-ループ2ペプチド(配列番号20)、非複合化siRNA(ペプチドなし)、擬似のインキュベートした試料である。RVG29ペプチド(配列番号11)とRVG19ペプチド:YTIWCDIFTNSRGKRASNG(配列番号12)はともに、lynx1-siRNAにコンジュゲートされ、比較のためにアッセイされた。lynx1 mRNAレベルのノックダウンレベルは、lynx1-ループ2ペプチド-siRNA複合体の割合として提示される。
【0081】
一次皮質培養物は、野生型マウスから調製され、培養物を48ウェルディッシュ中で約2週間インキュベートした。ニューロンは、5μMペプチド及び0.5μMのsiRNA(10:1のモル比)の複合体とともに24時間インキュベートされた。複合体は、それぞれのペプチドのC末端に結合したポリDアルギニンリンカーを介して形成された。細胞を回収し、mRNAを単離し、cDNAに転写し、qPCRを用いて分析した。データは、指定されたペプチドとlynx1-ループ2ペプチド効率(100%)と間の比較として表示された。したがって、低い割合は、培養ニューロンへのsiRNAのより少ない効果的な送達を示す。siRNA単独(ペプチドなし)を0%に設定している。
【0082】
【0083】
変異体1は、表1、上記の表1に記載したアミノ酸の第1及び第2ブロックの両方の代替的改変体を含む(すなわち、lynx1 TRTの代わりにWCD、lynx1 RMKVの代わりにRGKV)。lynx1-ループ2は、両ブロックがいずれかの亜種において機能的であることを指示しているので、この変異体1(配列番号4のペプチドを有する)は、ニューロンにsiRNAを移動させることができる。変異体2(配列番号6ペプチドを有する)は、第1のブロックのFをAと置換し、この置換は、ニューロンにsiRNAを移動させるlynx1-ループ2ペプチド能力を低下させ、その後のノックダウンは、この位置でのフェニルアラニン(F)の有用性を示す。変異体3(配列番号7のペプチドを有する)は、R(M/G)KVモチーフにおけるR(アルギニン)、K(リジン)、及びV(バリン)を、それぞれA(アラニン)、A(アラニン)、及びD(アスパラギン酸)で置換する。変異体4(配列番号10を有する)は、残基3と4の間に挿入されたMPENPRPGTP(配列番号8)を有する配列番号2の改変体である。示されるように、変異体3の置換は、lynx1-ループ2ペプチドの機能を無効にし、これは、このブロック内のこれらのアミノ酸の有用性を示す。Ly6H-ループ2、siRNA単独、及び擬似処置は、lynx1 mRNAのノックダウンをもたらさなかった。変異体1及び変異体4は、配列番号2のペプチドに比べてノックダウンを増強した。興味深いことに、配列番号2(lynx1-ループ2)、変異体1及び変異体4は、RVG29及びRVG19と比較して、lynx1 mRNAレベルの減少により効果的であった。
【0084】
実施例9:マウス脳内の毛細血管内皮細胞へのペプチド-複合体の送達。lynx1-ループ2ペプチドが脳内にsiRNAを輸送することができるかどうかを同定するために、蛍光標識したsiRNAは、静脈内注射されたマウスの脳切片において可視化された。lynx1-ループ2は、製造業者の使用説明書に従って、細胞の核内で蛍光的に視覚化し、局在化し得る特異的に修飾されたsiRNA(Thermo Scientific/DharmaconからのsiGLO)を有する複合体においてコンジュゲートされた。RVG29ペプチド(配列番号11)-siRNA複合体は陽性対照であり、ly6H-ループ2(配列番号20)-siRNA複合体は陰性対照である。
【0085】
核siRNAにコンジュゲートしたlynx1-ループ2ペプチド(配列番号2)を尾静脈に注射し、動物を2時間後に屠殺した。蛍光標識された核は、脳の毛細血管内皮細胞であると思われるものにおいて同定された。これは、2時間は、ペプチド-siRNA複合体が血管を横切って実際の脳に入るには不十分な時間であるが、ペプチド-siRNAが上皮細胞に取り込まれるには十分な時間であることが推論された。このように、これは、血液脳関門横断の第一段階を構成している。類似の染色は、マウスに注射されたRVG29-siRNA複合体で見ることができたが、このような染色は、マウスに注射されたly6H-ループ2-siRNAの複合体では見られなかった。
1モル比:
【0086】
複合体は、10:1のモル比で細胞核に入るように設計された、蛍光的にコンジュゲートされたsiRNA分子とペプチド分子を混合することによって調製された。具体的には、ペプチドは、LifeTeinから購入され、30分間、室温にてsiGLO siRNA(Dharmacon)(最終濃度:38.7μMペプチドと3.87μMのsiGLO)と複合体を形成させた。試料を完全にボルテックスし、動物に50ml/kgで投与した。体重が33g以下のCD-1マウスに尾静脈を介して注入し、2時間後、4%パラホルムアルデヒドで心臓を通して潅流させた。脳を氷上で4%パラホルムアルデヒド中にて2時間、後固定し、4℃にて一晩、1%パラホルムアルデヒドを含有する30%ショ糖に沈めた。脳を30ミクロンに切断した。顕微鏡スライド上に切片をマウントした後、蛍光siRNA分子は、共焦点顕微鏡法を介して検出された。血管の同定は、明視野画像によって確認された。
【0087】
図11A、11B、及び11Cは、脳の毛細血管内皮細胞に輸送された後の核蛍光標識されたsiRNAの画像を示す。
図11Aは、血管を染色しない(蛍光siGLOとコンジュゲートされたly6H-ループ2対照ペプチドを注射された)陰性対照動物からの脳切片の共焦点顕微鏡画像である。
図11Bは、蛍光標識された核siRNAとコンジュゲートされたlynx1-ループ2ペプチドに由来する複合体を注射されたマウスの脳切片の共焦点顕微鏡画像である。画像は、毛細血管内皮細胞内でのペプチド-siRNA複合体の取り込みを提示する毛細血管を示す。蛍光は鎌状であり、これは、
図11Dの参照電子顕微鏡(EM)画像に示すように、毛細血管内皮細胞の形態を反映する。
図11Cは、毛細管の管腔の端で、鎌状を提示する2つの標識細胞(白矢印)を示す、画像
図11Bの光学ズームである。
図11Dは、毛細管の管腔を囲む毛細血管内皮細胞の断面における代表的な電子顕微鏡(EM)画像である。形態は長く、細い、三日月形状を提示し、この鎌状形態は、
図11B及び11Cに見られる形状と類似した毛細血管の内腔の境界で見られる。
【0088】
全体の開示及び図面から分かるように、lynx1-ループ2由来ペプチドは、血液脳関門を通過することができる。例えば、
図7Bに示すように、lynx1-ループ2ペプチドは、初代神経培養物に取り込まれた。さらに、
図10のmRNAのノックダウンデータ及び
図11A~11Cの共焦点顕微鏡は、lynx1-ループ2由来のペプチドが血液脳関門を通過し、ニューロンへのエフェクター剤を送達することができることを示す。さらに、lynx1-ループ2由来ペプチドを単独で、及び血液脳関門を通過するための少なくともエフェクター剤と複合して用いる方法を提供する。
【0089】
本発明は特定の例示的な実施形態を参照して図示及び説明してきたが、当業者は、種々の修正及び変更が、本の精神及び範囲から逸脱することなく、記載された実施形態に対してなされ得ることを理解する。
【配列表】