(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】試料の特性評価のための装置、方法およびキット
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20240731BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20240731BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240731BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20240731BHJP
【FI】
G01N27/447 331E
G01N27/447 315K
G01N21/33
G01N21/27 A
G01N27/62 F
G01N27/447 331K
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022212882
(22)【出願日】2022-12-31
(62)【分割の表示】P 2020541449の分割
【原出願日】2019-01-29
【審査請求日】2022-12-31
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518187374
【氏名又は名称】インタバイオ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】エリック ジェンタレン
(72)【発明者】
【氏名】スコット マック
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0003674(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0194419(US,A1)
【文献】特表2015-516078(JP,A)
【文献】NORDMAN, N. et al.,Interfacing microchip isoelectric focusing with on-chip electrospray ionization mass spectrometry,J. Chromatography A,2015年,Vol.1398,p.121-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
G01N 21/33
G01N 21/27
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、前記システムは、
i.マイクロ流体装置であって、前記マイクロ流体装置は、
a)分析物の混合物を電気泳動分離するための分離チャネルであって、前記分離チャネルは、窓を備える、分離チャネルと、
b)
第1の端部と前記第1の端部とは反対側の第2の端部とを有する可動化チャネルであって、
前記可動化チャネルの前記第1の端部は、前記分離チャネルに流体結合されて
おり、前記可動化チャネルは、分離された分析物の可動化のために、可動化電解質を前記分離チャネルに送達するためのものである、可動化チャネルと、
c)前記分離チャネルの近位端に電気的に結合されている第1の電極と、
d)前記分離チャネルの遠位端に電気的に結合されている第2の電極と、
e)前記可動化チャネルの
前記第2の端部に電気的に結合されている第3の電極と
を備える、マイクロ流体装置と、
ii.前記分離チャネルの前記窓を透過した光を捕捉するように配置されているイメージングユニットと
を備える、システム。
【請求項2】
前記システムは、
iii.トリガ信号を生成するために、前記イメージングユニットから画像を受信および処理するプロセッサユニットをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサユニットからの前記トリガ信号は、前記分析物の混合物の電気泳動分離および前記分離された分析物の可動化の間
、前記第2の電極および前記第3の電極のオン状態とオフ状態とを制御する
、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
電気泳動分離および可動化の間、前記第1の電極は、オン状態である、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
電気泳動分離の間、前記第2の電極は、オン状態であり、かつ、前記第3の電極は、オフ状態である、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
可動化の間、前記第2の電極は、オフ状態であり、かつ、前記第3の電極は、オン状態である、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記イメージングユニットは、UV吸光度または蛍光を取り込む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記イメージングユニットは、15秒ごとに少なくとも1つの画像の速度で複数の画像を取得する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサユニットは、前記分離チャネル内の分析物ピークの有無を監視するための画像処理アルゴリズムを備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項10】
前記プロセッサユニットによって分析物ピークが検出されない場合には、前記第3の電極は、オフ状態に維持される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記プロセッサユニットは、前記分離チャネル内の分析物ピークの位置および/または幅の経時的な変化を監視するための画像処理アルゴリズムを備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項12】
20秒よりも長い時間の間、前記分析物ピークの位置または幅の変化が存在しないまたは前記分析物ピークの位置または幅の変化率が減少する場合には、前記第2の電極および前記第3の電極がオン状態からオフ状態に切り替わる、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記第2の電極および前記第3の電極は、電気泳動分離の開始後のユーザ指定時間に、オン状態とオフ状態との間で切り替わる、請求項3に記載のシステム。
【請求項14】
前記ユーザ指定時間は、少なくとも30秒である、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記ユーザ指定時間は、多くて20分である、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記マイクロ流体装置は、
f)前記分離チャネルの前記遠位端に流体結合されているオリフィスをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記オリフィスは、質量分析計とのエレクトロスプレーイオン化インターフェースである、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記第1の電極は、アノードであり、前記第2の電極および前記第3の電極は、カソードである、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記第1の電極は、カソードであり、前記第2の電極および前記第3の電極は、アノードである、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記電気泳動分離は、等電点電気泳動、キャピラリゲル電気泳動、キャピラリゾーン電気泳動、等速電気泳動、キャピラリ動電クロマトグラフィ、ミセル動電クロマトグラフィ、フローカウンタバランスキャピラリ電気泳動、電場勾配フォーカシング、または、動的場勾配フォーカシングである、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月29日に出願された米国仮特許出願第62/623,492号明細書の利益を主張し、該出願全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本開示は、試料の処理および特性評価のための装置および方法、ならびにそれらの様々な使用に関する。特に、本開示は、分析物の混合物中の分析物の分離および特性評価のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
分析物の1つ以上の固有の性質に基づいて、複雑性の高い分析物混合物から分析物成分を分離し、場合により、特定の分析物成分について濃縮された試料画分のセットを提供することは、分析化学の重要な部分である。このように、複雑な混合物を単純化すると、下流の分析の複雑性が低下する。場合によっては、直交(例えば、異なるおよび/または無関係な性質に基づく)である2つ以上の濃縮工程を行うことが有利であり得る。もっとも、多くの場合、公知の方法および/または装置を使用して直交濃縮工程を行うプロセスは煩雑であるが、下流の分析装置の検出感度を超える濃度まで分析物を希釈することができる。さらに、公知の濃縮方法および/または装置と分析装置および/または技術とを接合させようとすると、複雑さが生じる可能性がある。いくつかの例では、試料の分離および/または濃縮は、上流で、または試料分析と並行して行われ得る。例えば、試料濃縮を行うための装置は、分析機器と直接結合され得る。
【0004】
例えば、タンパク質試料調製技術と質量分析計などの下流の検出システムとを接合させるために、様々な方法が使用されてきた。一般的な方法は、液体クロマトグラフィを使用して試料を調製し、質量分析のための画分を収集することである。これは、分析しなければならない多数の試料画分にタンパク質試料を分離する必要があるという欠点を有し、複雑なデータ再構成を実行後に行わなければならない。特定の形態の液体クロマトグラフィは、質量分析計(LC-MS)、例えばペプチドマップ逆相クロマトグラフィに結合することができるが、これらの公知の技術は、無傷のタンパク質ではなく、ペプチド断片の使用に制限されており、それらの有用性が限定される。
【0005】
質量分析計に試料を導入する別の方法が、エレクトロスプレーイオン化(ESI)である。ESIでは、キャピラリまたはマイクロ流体装置の遠位端で試料および溶液の小滴がイオン化されて、質量分析計の荷電プレートに対して吸引力が誘導される。次いで、液滴は、この誘導された電場内で円錐形(「テイラーコーン」)に伸長し、次いで、この円錐形から、分析のために質量分析計内に小滴が放出される。典型的には、これは、ESIに便利な容積およびサイズを提供するキャピラリ内で行われる。しかし、キャピラリは、多段階処理を可能にしない直線流路を提供する。
【0006】
マイクロ流体装置を用いた他の研究が行われ続けている。マイクロ流体装置は、様々な公知の技術によって製造され、様々な流体操作を行うように設計されたチャネル網を構成することができる画定された寸法の流体チャネルを提供することができる。これらの装置は、キャピラリと比較して高度な制御と複雑性とを提供し、試料調製のための優れた選択肢となる。ただし、キャピラリベースのシステムと同様に、これらのツールは多くの場合、質量分析計に導入する前に、分離された分析物画分の限られた特性評価を提供する。
【0007】
タンパク質質量分析の1つの用途は、生物学的製剤およびバイオシミラー製剤の開発および製造中のタンパク質の特性評価である。生物学的製剤およびバイオシミラー製剤は、例えば、組換えタンパク質、抗体、生ウイルスワクチン、ヒト血漿由来タンパク質、細胞ベースの医薬品、天然由来タンパク質、抗体薬物複合体、タンパク質薬物複合体および他のタンパク質薬を含む薬物のクラスである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
規制を遵守するためには、開発および製造中に生物学的製剤の広範囲な試験を行う必要があるが、これは低分子薬物には必要とされない。これは、例えば、生物学的製剤を製造するために生体材料を使用することにより、生物学的製剤の製造がさらに複雑になり、生物分子自体がさらに複雑になり、製造プロセスがさらに複雑になるためである。定義する必要のある特性には、例えば、質量、電荷、疎水性の変化、およびグリコシル化状態、ならびに効力が含まれる。現在、これらの試験は互いに独立して行われているため、生物学的製剤を特性評価するためのプロセスを非常に時間および費用のかかるものにしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示では、分析物分離を行い、定量的分離データの精度を改善し、定量的分離データと下流の分析的特性評価データ、例えば質量分析特性評価データとの改善された相関を達成するための方法、装置およびシステムが記載される。
【0010】
本明細書では、生物医学研究、臨床診断および製薬製造の潜在的な用途を有する、分析物混合物中の分析物の分離および分析のための改善された定量的性能を可能にする方法、装置およびシステムが開示される。例えば、規制当局によって、生物学的薬物および薬物候補(例えばタンパク質)の厳密な特性評価が要求されている。本明細書に記載される方法および装置は、タンパク質および/または他の分析物を特性評価するのに好適であり得る。いくつかの例では、本明細書に記載される方法および装置は、分析物混合物を特性評価することに関し得、分析物混合物を濃縮された分析物画分に分離するために1つ以上の濃縮工程が行われる。いくつかの例では、本明細書に記載される方法および装置は、分析物混合物を特性評価することに関し、分析物混合物を濃縮された分析物画分に分離し、続いてこれをエレクトロスプレーイオン化インターフェースを介して質量分析計に導入するために、1つ以上の濃縮工程が行われる。開示される方法および装置は、分析物の分離および特性評価の利便性、再現性および/または分析性能を改善することができる。
【0011】
本明細書では、分離された複数の分析物を含む分離チャネルに可動化電解質を導入する方法が開示され、方法は、分離された分析物の画像から得られたデータを使用して、分離チャネルへの可動化電解質の導入を自動的に開始することを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、分離チャネルは、マイクロ流体装置内のマイクロチャネルである。いくつかの実施形態では、分離チャネルはキャピラリである。いくつかの実施形態では、方法は、等電点電気泳動によって複数の分析物を分離することをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法は、質量分析計とのエレクトロスプレーイオン化インターフェースに向かって、分離された分析物を可動化することをさらに含む。いくつかの実施形態では、可動化電解質は、両性イオン緩衝液を含む。いくつかの実施形態では、可動化電解質は、酢酸、ギ酸、炭酸またはそれらの任意の組合せを含む。いくつかの実施形態では、方法は、分離チャネルの全部または一部の画像を取得することをさらに含む。いくつかの実施形態では、画像は、分離チャネルを透過した光を使用して取得される。いくつかの実施形態では、画像は、UV吸光度画像または蛍光画像である。いくつかの実施形態では、画像由来データは、ピーク位置、ピーク幅およびピーク速度からなる群から選択される分離された分析物ピーク情報を含む。いくつかの実施形態では、可動化電解質の導入は、電気泳動的に行われる。いくつかの実施形態では、a)分離チャネル装置の第1の端部は第1の電極に電気的に結合され、分離チャネルの第2の端部は第2の電極に電気的に結合され、分離チャネルの第2の端部と交差する可動化チャネルは、第3の電極に電気的に結合され、b)可動化電解質の電気泳動的導入は、第2または第3の電極とそれらのそれぞれのチャネルとの電気的結合をオン状態とオフ状態との間で切り替えることによって行われる。いくつかの実施形態では、第1の電極はアノードであり、第2および第3の電極はカソードである。いくつかの実施形態では、少なくとも20秒の期間にわたる、1つ以上の分離された分析物ピークの画像データから得られたピーク位置またはピーク幅の変化の欠如または変化率の減少は、第2および第3の電極のオン状態とオフ状態との間の切り替えをトリガする。いくつかの実施形態では、期間は、少なくとも30秒、40秒、50秒、または30秒である。いくつかの実施形態では、可動化電解質の電気泳動的導入により、1つ以上の分離された分析物のさらに正確なpI決定が可能になる。いくつかの実施形態では、可動化電解質の電気泳動的導入により、等電点電気泳動分離の完了時に達成されるものと比較して、可動化後の分離分解能が改善される。
【0013】
また、本明細書では、a)等電点電気泳動を行って、内部に含まれた分析物の混合物を分離させるための分離チャネル、b)分離チャネルに可動化電解質を送達するために分離チャネルの遠位端と交差する可動化チャネル、およびc)分離チャネルの近位端に電気的に結合された第1の電極と、分離チャネルの遠位端に電気的に結合された第2の電極と、可動化チャネルに電気的に結合された第3の電極とを備える3つの電極を備えるシステムが開示され、第2または第3の電極とそれらのそれぞれのチャネルとの電気的結合は、オン状態とオフ状態との間で切り替え可能である。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1の電極はアノードであり、第2および第3の電極はカソードである。いくつかの実施形態では、第2または第3の電極のオン状態とオフ状態との間の切り替えは、分離チャネルへの可動化電解質の電気泳動的導入を開始する。いくつかの実施形態では、可動化電解質の電気泳動的導入により、1つ以上の分離された分析物のさらに正確なpI決定が可能になる。いくつかの実施形態では、可動化電解質の電気泳動的導入により、等電点電気泳動分離の完了時に達成されるものと比較して、可動化後の分離分解能が改善される。いくつかの実施形態では、システムは、等電点電気泳動分離の開始後のユーザ指定時間に、第2または第3の電極をオン状態とオフ状態との間で切り替えるように構成される。いくつかの実施形態では、ユーザ指定時間は、等電点電気泳動分離の開始から少なくとも30秒後である。いくつかの実施形態では、ユーザ指定時間は、等電点電気泳動分離の開始から最大20分後である。いくつかの実施形態では、システムは、等電点電気泳動分離反応中に分離チャネルを通って流れる電流を監視し、電流が、特定の電流閾値を下回ると、第2または第3の電極をオン状態とオフ状態との間で切り替えるように構成される。いくつかの実施形態では、特定の閾値電流は、約1マイクロアンペア(μA)から約10マイクロアンペア(μA)の値の範囲である。いくつかの実施形態では、システムは、(i)イメージングユニットと、(ii)プロセッサユニットとをさらに備え、分離が行われる際にイメージングユニットによって取り込まれた一連の画像は、プロセッサユニットによってさらに処理されて、第2および第3の電極のオン状態とオフ状態との間の切り替えを非対称にトリガするトリガ信号を生成する。いくつかの実施形態では、イメージングユニットは、分離チャネルの全部または一部の画像を取り込むように構成される。いくつかの実施形態では、イメージングユニットは、分離チャネル窓を透過した光を使用して画像を取り込むように構成される。いくつかの実施形態では、イメージングユニットは、UV吸光度画像または蛍光画像を取り込むように構成される。いくつかの実施形態では、一連の画像は、15秒ごとに少なくとも1つの画像の速度で取得される。いくつかの実施形態では、プロセッサユニットは、分離チャネル内の分析物ピークの有無を監視するために使用される画像処理アルゴリズムを実行するように構成される。いくつかの実施形態では、システムは、分離チャネル内で分析物ピークが検出されない場合、第3の電極をオフ状態に維持するように構成される。いくつかの実施形態では、プロセッサユニットは、分離された分析物ピークの位置の経時的な変化または分離された分析物ピークの幅の経時的な変化を監視するために使用される画像処理アルゴリズムを実行するように構成される。いくつかの実施形態では、少なくとも20秒の期間にわたる、1つ以上の分離された分析物ピークのピーク位置またはピーク幅の変化の欠如または変化率の減少は、第2および第3の電極のオン状態とオフ状態との間の切り替えをトリガする。いくつかの実施形態では、期間は、少なくとも30秒、40秒、50秒、または30秒である。いくつかの実施形態では、システムは、分離チャネルの遠位端と流体連通しているオリフィスをさらに備え、オリフィスは、質量分析計とのエレクトロスプレーイオン化インターフェースとして機能するように構成される。いくつかの実施形態では、システムは、等電点電気泳動によって分離された分析物のpIデータと質量分析計データを相関させるように構成される。
【0015】
本明細書では、
図1、
図4、
図5、
図7、
図8または
図9のいずれか1つに示されている装置が開示される。いくつかの実施形態では、装置は、少なくとも1つの分離チャネルまたは濃縮チャネルを備え得る。いくつかの実施形態では、装置は、少なくとも1つの分離チャネルまたは濃縮チャネル内で等電点電気泳動を行うように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、装置は、等電点電気泳動工程の完了後に分離チャネルまたは濃縮チャネルへの可動化剤の電気泳動的導入を行うように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、装置は、(a)等電点電気泳動を行って、内部に含まれた分析物の混合物を分離させるための分離チャネル、(b)分離チャネルに可動化電解質を送達するために分離チャネルの遠位端と交差する可動化チャネル、および(c)分離チャネルの近位端に電気的に結合された第1の電極と、分離チャネルの遠位端に電気的に結合された第2の電極と、可動化チャネルに電気的に結合された第3の電極とを備える3つの電極を備えてもよく、第2または第3の電極とそれらのそれぞれのチャネルとの電気的結合は、オン状態とオフ状態との間で切り替え可能である。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
複数の分離された分析物を含む分離チャネルに、可動化電解質を導入する方法であって、
前記分離された分析物の画像から得られたデータを使用して、前記分離チャネルへの前記可動化電解質の導入を自動的に開始することを含む方法。
(項目2)
前記分離チャネルが、マイクロ流体装置内のマイクロチャネルである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記分離チャネルがキャピラリである、項目1に記載の方法。
(項目4)
等電点電気泳動により前記複数の分析物を分離することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
質量分析計とのエレクトロスプレーイオン化インターフェースに向かって、前記分離された分析物を可動化することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記可動化電解質が両性イオン緩衝液を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記可動化電解質が、酢酸、ギ酸、炭酸またはそれらの任意の組合せを含む、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記分離チャネルの全部または一部の画像を取得することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記画像が、前記分離チャネルを透過した光を使用して取得される、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記画像が、UV吸光度画像または蛍光画像である、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記画像由来データが、ピーク位置、ピーク幅およびピーク速度からなる群から選択される分離された分析物ピーク情報を含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記可動化電解質の導入が電気泳動的に行われる、項目1に記載の方法。
(項目13)
項目12に記載の方法であって、
a)前記分離チャネル装置の第1の端部が第1の電極に電気的に結合され、前記分離チャネルの第2の端部が第2の電極に電気的に結合され、前記分離チャネルの前記第2の端部と交差する可動化チャネルが、第3の電極に電気的に結合され、
b)前記可動化電解質の前記電気泳動的導入が、前記第2または第3の電極とそれらのそれぞれのチャネルとの前記電気的結合をオン状態とオフ状態との間で切り替えることによって行われる方法。
(項目14)
前記第1の電極がアノードであり、前記第2および第3の電極がカソードである、項目13に記載の方法。
(項目15)
少なくとも20秒の期間にわたる、1つ以上の分離された分析物ピークの画像データから得られたピーク位置またはピーク幅の変化の欠如または変化率の減少が、前記第2および第3の電極のオン状態とオフ状態との間の前記切り替えをトリガする、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記期間が、少なくとも30秒、40秒、50秒、または30秒である、項目15に記載の方法。
(項目17)
可動化電解質の前記電気泳動的導入により、1つ以上の分離された分析物のさらに正確なpI決定が可能になる、項目13に記載の方法。
(項目18)
前記可動化電解質の前記電気泳動的導入により、等電点電気泳動分離の完了時に達成されるものと比較して、可動化後の分離分解能が改善される、項目13に記載の方法。
(項目19)
a)等電点電気泳動を行って、内部に含まれた分析物の混合物を分離させるための分離チャネル、
b)前記分離チャネルに可動化電解質を送達するために前記分離チャネルの遠位端と交差する可動化チャネル、および
c)前記分離チャネルの近位端に電気的に結合された第1の電極と、前記分離チャネルの前記遠位端に電気的に結合された第2の電極と、前記可動化チャネルに電気的に結合された第3の電極とを備える3つの電極
を備えるシステムであって、
前記第2または第3の電極とそれらのそれぞれのチャネルとの前記電気的結合が、オン状態とオフ状態との間で切り替え可能であるシステム。
(項目20)
前記第1の電極がアノードであり、前記第2および第3の電極がカソードである、項目19に記載のシステム。
(項目21)
前記第2または第3の電極のオン状態とオフ状態との間の前記切り替えが、前記分離チャネルへの前記可動化電解質の電気泳動的導入を開始する、項目19に記載のシステム。
(項目22)
可動化電解質の前記電気泳動的導入により、1つ以上の分離された分析物のさらに正確なpI決定が可能になる、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記可動化電解質の前記電気泳動的導入により、等電点電気泳動分離の完了時に達成されるものと比較して、可動化後の分離分解能が改善される、項目21に記載のシステム。
(項目24)
前記システムが、等電点電気泳動分離の開始後のユーザ指定時間に、前記第2または第3の電極をオン状態とオフ状態との間で切り替えるように構成される、項目19に記載のシステム。
(項目25)
前記ユーザ指定時間が、前記等電点電気泳動分離の前記開始から少なくとも30秒後である、項目24に記載のシステム。
(項目26)
前記ユーザ指定時間が、前記等電点電気泳動分離の前記開始から最大20分後である、項目24に記載のシステム。
(項目27)
前記システムが、等電点電気泳動分離反応中に前記分離チャネルを通って流れる電流を監視し、前記電流が、特定の電流閾値を下回ると、前記第2または第3の電極をオン状態とオフ状態との間で切り替えるように構成される、項目19に記載のシステム。
(項目28)
前記特定の閾値電流が、約1マイクロアンペア(μA)から約10マイクロアンペア(μA)の値の範囲である、項目27に記載のシステム。
(項目29)
(i)イメージングユニットと、(ii)プロセッサユニットとをさらに備え、前記分離が行われる際に前記イメージングユニットによって取り込まれた一連の画像が、前記プロセッサユニットによってさらに処理されて、前記第2および第3の電極のオン状態とオフ状態との間の前記切り替えを非対称にトリガするトリガ信号を生成する、項目19に記載のシステム。
(項目30)
前記イメージングユニットが、前記分離チャネルの全部または一部の画像を取り込むように構成される、項目29に記載のシステム。
(項目31)
前記イメージングユニットが、分離チャネル窓を透過した光を使用して画像を取り込むように構成される、項目30に記載のシステム。
(項目32)
前記イメージングユニットが、UV吸光度画像または蛍光画像を取り込むように構成される、項目31に記載のシステム。
(項目33)
前記一連の画像が、15秒ごとに少なくとも1つの画像の速度で取得される、項目29に記載のシステム。
(項目34)
前記プロセッサユニットが、前記分離チャネル内の分析物ピークの有無を監視するために使用される画像処理アルゴリズムを実行するように構成される、項目29に記載のシステム。
(項目35)
前記システムが、前記分離チャネル内で分析物ピークが検出されない場合、前記第3の電極をオフ状態に維持するように構成される、項目34に記載のシステム。
(項目36)
前記プロセッサユニットが、分離された分析物ピークの位置の経時的な変化または分離された分析物ピークの幅の経時的な変化を監視するために使用される画像処理アルゴリズムを実行するように構成される、項目29に記載のシステム。
(項目37)
少なくとも20秒の期間にわたる、1つ以上の分離された分析物ピークのピーク位置またはピーク幅の変化の欠如または変化率の減少が、前記第2および第3の電極のオン状態とオフ状態との間の前記切り替えをトリガする、項目36に記載のシステム。
(項目38)
前記期間が、少なくとも30秒、40秒、50秒、または30秒である、項目37に記載のシステム。
(項目39)
前記分離チャネルの前記遠位端と流体連通しているオリフィスをさらに備え、前記オリフィスが、質量分析計とのエレクトロスプレーイオン化インターフェースとして機能するように構成される、項目19に記載のシステム。
(項目40)
前記システムが、等電点電気泳動によって分離された分析物のpIデータと質量分析計データを相関させるように構成される、項目39に記載のシステム。
【0016】
参照による組み込み
本明細書中で言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願のそれぞれが、参照によりその全体が組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同程度に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書中の用語と組み込まれた参考文献中の用語との間に矛盾がある場合、本明細書中の用語が支配する。
【0017】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴および利点の良好な理解は、本発明の原理を利用した例示的な実施形態を説明している以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の一態様による、分析物の二次元分離と、その後の自動ロード試料のエレクトロスプレーイオン化(ESI)とを行うためのマイクロ流体装置の概略図を提供する。
【
図2】本開示の一態様による、3つの層を備えるマイクロ流体装置の概略分解図を提供する。
図2A:上層。
図2B:中間(「フルイディクス」)層。
図2C:最下層。
図2D:組み立てられた装置。
【
図3A】本開示の一態様による、マイクロ流体装置内の分離チャネルと一体化された透明窓(
図3A)、およびマイクロ流体装置を通る光路(
図3B)の概略図を提供する。
【
図3B】本開示の一態様による、マイクロ流体装置内の分離チャネルと一体化された透明窓(
図3A)、およびマイクロ流体装置を通る光路(
図3B)の概略図を提供する。
【
図4】本開示の一態様による、等電点電気泳動(IEF)と、その後の自動ロード試料のESIとを行うためのマイクロ流体装置の概略図を提供する。
【
図5】本開示の一態様による、マイクロ流体装置の概略図を提供する。
【
図6】分析物特性評価のための例示的な方法のフローチャートを提供する。
【
図7】本開示の一態様による、マイクロ流体装置の概略図を提供する。
【
図8】本開示の一態様による、マイクロ流体装置の概略図を提供する。
【
図9】本開示の一態様による、マイクロ流体装置の概略図を提供する。
【
図10】市販の機器を使用して得られた、分析物の混合物を含む試料内の分析物の分離からのデータの例を示す。
【
図11】同じ設計の異なるマイクロ流体装置内で分離が行われた際の分離データの再現性の非限定的な例を提供する。
【
図12】pIマーカのセットに関する等電点電気泳動データの非限定的な例を提供する。
【
図13】
図12に示されるデータの線形性プロット(分離チャネルをイメージングするために使用されるセンサ上のピクセル位置対勾配pH)の非限定的な例を提供する。
【
図14】集束工程が完了した後の等電点電気泳動データの非限定的な例を提供する。
【
図15A】等電点電気泳動を使用して分析物の混合物中の分析物を分離した後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【
図15B】等電点電気泳動を使用して分析物の混合物中の分析物を分離した後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【
図15C】等電点電気泳動を使用して分析物の混合物中の分析物を分離した後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【
図15D】等電点電気泳動を使用して分析物の混合物中の分析物を分離した後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【
図15E】等電点電気泳動を使用して分析物の混合物中の分析物を分離した後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【
図15F】等電点電気泳動を使用して分析物の混合物中の分析物を分離した後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【
図16A】等電点電気泳動、および可動化電解質の電気泳動的導入の使用の混合物中の分析物の分離後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【
図16B】等電点電気泳動、および可動化電解質の電気泳動的導入の使用の混合物中の分析物の分離後の試料の可動化に関するデータの非限定的な例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、試料に含まれる分析物混合物をそれらの個々の成分に分離し、その物理的特性および/または化学的特性を再現性、精度および正確性を改善して特性評価するための方法、装置およびシステムが開示される。特に、等電点電気泳動(IEF)などの技術を使用して試料の分離および濃縮を行い、続いて質量分析などの分析機器を使用して個々の分析物成分の特性評価を行うための方法および装置が記載される。開示される方法、装置およびシステムは、分離データの再現性および定量的精度の改善を可能にするとともに、分離データと、例えば、質量分析計または他の分析機器を使用して得られる下流の分析的特性評価データとの間の相関の改善を可能にする。
【0020】
開示される方法、装置およびシステムの1つの重要な特徴は、分離反応、例えば等電点電気泳動反応の完了後の分離チャネルへの可動化緩衝液または電解質の電気泳動的導入を制御するために、オン状態とオフ状態との間で切り替え可能な電極を使用して、それによって、分離チャネルの出口または遠位端に分離チャネル内の1つ以上の分離された分析物ピークを移動させる可動化工程をトリガすることである。いくつかの例では、分離反応の完了、例えば、等電点電気泳動反応の完了に到達するのに必要な時間は既知であり、可動化工程の開始はユーザ指定時間に設定される。いくつかの例では、分離工程の完了は、例えば、等電点電気泳動が行われる際に分離チャネルを流れる電流を監視することによって検出される。いくつかの例では、分離反応の完了は、分離反応が行われる際に分離反応を監視するために分離チャネルの全部または一部の連続的または定期的なイメージングを使用して検出される。いくつかの例では、分離チャネルの処理画像から得られたデータは、分離反応がいつ完了したかを決定するためだけでなく、電極の切り替えを自動的にトリガし、それによって、可動化電解質の電気泳動的導入を開始するトリガ信号を生成するためにも使用される。いくつかの例では、分離チャネルへの可動化電解質の導入(例えば、可動化剤の電気泳動的導入のための電場および/または可動化剤を導入するための流体動圧を使用して)は、分離チャネルの出口または遠位端に向かって分析物ピークが移動する間のピークの広がりを最小限に抑える方法で、分離された分析物ピークの可動化を開始する。いくつかの例では、電気泳動圧力および/または流体動圧を使用して分離チャネル内に可動化電解質を導入すると、分離チャネルの出口または遠位端に向かって分析物ピークが移動する間の分析物ピークが狭くなる(すなわち、それによって分離分解能が改善される)。
【0021】
開示される方法、装置およびシステムの別の重要な特徴は、上記のように、分析物ピークの存在を検出するために、および/または分離反応がいつ完了したかを決定するために、分離チャネル内の分離反応を監視するためのイメージングの使用である。いくつかの例では、分離チャネルの全部または一部について画像を取得してもよい。いくつかの例では、画像を使用して、分離チャネル内の濃縮された分析物ピークの位置を検出してもよい。いくつかの例では、画像を使用して、分離チャネル内の1つ以上のマーカまたはインジケータ(例えば等電点(pI)標準物質)の存在を検出し、それにより、1つ以上の分析物のpIを決定してもよい。いくつかの例では、そのような画像から得られたデータを使用して、分離反応がいつ完了するか(例えば、ピーク速度、ピーク位置および/またはピーク幅を監視することによって)を決定し、続いて可動化工程をトリガしてもよい。いくつかの例では、可動化工程は、分離チャネルに可動化緩衝液または可動化電解質を導入することを含み得る。いくつかの例では、可動化緩衝液または可動化電解質は、流体動圧を使用して導入されてもよい。いくつかの例では、可動化緩衝液または可動化電解質は、電気泳動によって導入されてもよい。いくつかの例では、可動化緩衝液または可動化電解質は、電気泳動と流体動圧との組合せによって導入されてもよい。いくつかの例では、一連の1つ以上の分離された分析物バンドの可動化は、分離チャネルの出口または遠位端に向かって、分離された分析物バンドを移動させることを含み得る。いくつかの例では、一連の1つ以上の分離された分析物バンドの可動化は、下流の分析機器と流体連通している分離チャネルの出口または遠位端に向かって、分離された分析物バンドを移動させることを含み得る。いくつかの例では、分離チャネルの出口または遠位端は、移動する分析物ピークが質量分析計に注入されるように、エレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェースと流体連通していてもよい。いくつかの例では、分析物ピーク位置を検出し、分析物のpIを決定するために使用される画像データはまた、分析物分離日を質量分析データと相関させるために使用されてもよい。
【0022】
好ましい態様では、開示される方法は、マイクロ流体装置形式で行われ得、それにより、極めて少量の試料体積の処理と、2つ以上の試料処理工程および分離工程の統合とを可能にする。別の好ましい態様では、開示されるマイクロ流体装置は、下流の分析機器に結合するための統合インターフェース、例えば、分離した分析物に対して質量分析を行うためのESIインターフェースを備える。いくつかの例では、開示される方法は、比較的従来型のキャピラリ形式で行われ得る。
【0023】
本明細書に記載される開示される方法、装置およびシステムの様々な態様は、以下に記載される特定の用途のいずれかに、または任意の他のタイプの試料分析用途に適用され得る。開示される方法、装置およびシステムの様々な態様は、個別に、集合的に、または互いに組み合わせて認識することができることを理解されたい。
【0024】
定義:別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の言及を含む。本明細書における「または」への言及は、別段の記載がない限り、「および/または」を包含することが意図される。同様に、用語「備える(comprise)」、「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」および「含む(including)」は、限定を意図するものではない。
【0026】
本明細書で使用される場合、「~を含むがこれらに限定されない」および「1つの非限定的な例は~」という句は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるように、所与の例の変形例および派生物を含むことを意味する。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「約」何らかの数とは、その数の10%を加えたか減じたその数を指す。範囲の文脈で使用される場合、用語「約」は、その最小値の10%を減じたその範囲およびその最大値の10%を加えたその範囲を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「特性評価」および「分析」は、区別なく使用され得る。「特性評価する」または「分析する」とは、一般に、試料を評価すること、例えば、試料もしくはその成分の1つ以上の特性を決定すること、または試料の同一性を決定することを意味し得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「チップ」および「装置」は、本明細書では区別なく使用され得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「分析物」および「種」は、区別なく使用され得る。分析物とは、一般に、測定可能な特性の点で、別の分子、生体分子、化学物質、巨大分子などとは異なる分子、生体分子、化学物質、巨大分子などを意味する。例えば、2つの種は、わずかに異なる質量、疎水性、電荷または正味電荷、等電点、効力を有し得るか、化学修飾、タンパク質修飾などの点で異なり得る。
【0031】
試料分析の方法
本明細書では、分離チャネルを含むマイクロ流体装置に分析物混合物を導入することを含む、試料分析の方法が開示される。いくつかの例では、分離チャネルを横切って圧力が印加されて、分析物混合物の分離に影響を及ぼしてもよい。いくつかの例では、分離チャネルを横切って電場が印加されて、分析物混合物の分離に影響を及ぼしてもよい。いくつかの例では、分析物混合物は、例えば、マイクロ流体装置の透明部分を介して、分離中にイメージングされてもよい。例えば、窓および/または光学スリットを使用して、分離チャネルへの光学アクセスを提供して、分離が起こっている間および/または分離された分析物画分が分離チャネルの出口に向かって可動化される際に分離チャネル全体またはその一部をイメージングすることができる。いくつかの例では、分析物混合物の少なくとも一部が、分離チャネルと流体連通しているオリフィスから排出されてもよい。例えば、分析物混合物の少なくとも一部(例えば、1つ以上の分離された分析物バンドまたは分析物ピーク)が、ESIを介して排出されてもよい。エレクトロスプレーイオン化を使用して分離装置と質量分析計とを接合させるいくつかの例では、オリフィスは、皿面によって画定された凹部内にテイラーコーンが形成されるように、マイクロ流体装置の皿面に配置され得る。
【0032】
したがって、開示される試料分析方法は、(i)分析物混合物を含む試料を分離チャネルに導入すること、(ii)1つ以上の分離工程もしくは濃縮工程を行って、試料中に含有される分析物の混合物から分析物を分離すること、(iii)分離工程および/または可動化工程が行われている間、分離チャネルの全部もしくは一部を定期的もしくは継続的にイメージングすること、(iv)分離チャネルに可動化緩衝液もしくは可動化電解質を導入すること、ここで、導入は、ユーザ指定時間、分離チャネルを流れる電流のレベル、および/または分離チャネルの画像から得られたデータに基づいて自動的にトリガされ、(v)可動化剤の電気泳動的導入および/または圧力誘起導入、およびその後の分離チャネルから分離チャネルの出口もしくは遠位端に向かう分離された分析物ピークもしくは濃縮された分析物画分の可動化、(vi)下流の分析機器への1つ以上の可動化された分析物ピークもしくは濃縮された分析物画分の移動、または(vii)それらの任意の組合せのうちの1つ以上を含み得る。分析物の分析は、吸光度または蛍光シグナルの測定、1つ以上の分離された分析物ピークまたは分析物バンドの存在、位置および/またはピーク幅を検出するためのイメージング、質量の決定、化学構造の分析などのような様々な方法のいずれかを含み得る。
【0033】
試料:開示される方法、装置、システムおよびソフトウェアは、様々な生物学的試料または非生物学的試料のいずれかから得られた分析物の分離および特性評価に使用することができる。例には、限定するものではないが、組織試料、細胞培養試料、全血試料(例えば、静脈血試料、動脈血試料または毛細管血試料)、血漿、血清、唾液、間質液、尿、汗、涙、工業用酵素または生物学的薬物の製造プロセスから得られたタンパク質試料、環境試料(例えば、空気試料、水試料、土壌試料、表面スワイプ試料)などが挙げられる。いくつかの実施形態では、試料は、統合された化学分離および質量分析特性評価のための開示される方法および装置を使用する分析の前に、当業者に公知の様々な技術のいずれかを使用して処理され得る。例えば、いくつかの実施形態では、試料は、タンパク質または核酸を抽出するために処理され得る。試料は、様々な供給源または対象のいずれか、例えば、細菌、ウイルス、植物、動物またはヒトから採取され得る。
【0034】
試料体積:開示される方法および装置のいくつかの例では、マイクロ流体装置を使用することにより、非常に少量の試料体積の処理が可能になり得る。いくつかの実施形態では、装置にロードされ、分析に使用される試料体積は、約0.1μl~約1mlの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、装置にロードされ、分析に使用される試料体積は、少なくとも0.1μl、少なくとも1μl、少なくとも2.5μl、少なくとも5μl、少なくとも7.5μl、少なくとも10μl、少なくとも25μl、少なくとも50μl、少なくとも75μl、少なくとも100μl、少なくとも250μl、少なくとも500μl、少なくとも750μlまたは少なくとも1mlであり得る。いくつかの実施形態では、装置にロードされ、分析に使用される試料体積は、最大1ml、最大750μl、最大500μl、最大250μl、最大100μl、最大75μl、最大50μl、最大25μl、最大10μl、最大7.5μl、最大5μl、最大2.5μl、最大1μlまたは最大0.1μlであり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの実施形態では、装置にロードされ、分析に使用される試料体積は、約5μl~約500μlの範囲であり得る。当業者であれば、分析に使用される試料体積が、この範囲内の任意の値、例えば、約18μlを有し得ることを認識するであろう。
【0035】
分析物:いくつかの例では、試料は複数の分析物種を含み得る。いくつかの例では、試料中に存在する分析物種の全部または一部が、分析前または分析中に濃縮され得る。いくつかの例では、これらの分析物は、例えば、グリカン、炭水化物、DNA、RNA、組換えタンパク質、無傷のタンパク質、タンパク質アイソフォーム、消化されたタンパク質、融合タンパク質、抗体薬物複合体、タンパク質薬物複合体、ペプチド、代謝産物または他の生物学的に関連する分子であり得る。いくつかの例では、これらの分析物は低分子薬物であり得る。いくつかの例では、これらの分析物は、タンパク質混合物中のタンパク質分子、例えば、生物学的タンパク質医薬品および/または培養物から単離されたかインビボで単離された細胞から収集された溶解物であり得る。
【0036】
分析物の分離および濃縮:いくつかの例では、開示される方法(および該方法を行うように構成された装置またはシステム)は、混合物中の複数の分析物が個々の画分に分離および/または濃縮される1つ以上の分離工程または濃縮工程を含み得る。例えば、いくつかの例では、開示される方法は、第1の濃縮工程を含み得、第1の濃縮工程では、元の試料または分析物混合物から得られた分析物分子のサブセットを含有する画分が、一度に1つの画分に溶出され、次いで、これらの濃縮された分析物画分が、別の濃縮工程に供され得る。最後の濃縮工程に続いて、濃縮された分析物画分はその後の分析のために排出される。
【0037】
いくつかの例では、開示される方法は、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ以上の分離工程および/または濃縮工程を含み得る。いくつかの実施形態では、分離工程または濃縮工程のうちの1つ以上は、固相分離技術、例えば、逆相HPLCを含む。いくつかの実施形態では、分離工程または濃縮工程のうちの1つ以上は、液相分離技術、例えば、キャピラリゾーン電気泳動(CZE)を含む。いくつかの実施形態では、等電点電気泳動(IEF)などの最終工程を使用して、濃縮された分析物画分を濃縮してから排出する。
【0038】
開示される方法(および該方法を行うように構成された装置またはシステム)は、当業者に公知の様々な分析物分離または濃縮技術のいずれかを含み得、(1または複数の)分離工程または濃縮工程は、イメージングされるように構成された少なくとも1つの第1の分離チャネル内で行われて、その結果、分離プロセスは、それが行われる際に監視され得る。例えば、いくつかの例では、イメージングされる分離は、例えば、分析物混合物から1つ以上の分離された分析物画分を生成する等電点電気泳動、キャピラリゲル電気泳動、キャピラリゾーン電気泳動、等速電気泳動、キャピラリ動電クロマトグラフィ、ミセル動電クロマトグラフィ、フローカウンタバランスキャピラリ電気泳動、電場勾配フォーカシング、動的場勾配フォーカシング(dynamic field gradient focusing)などを含む電気泳動分離であり得る。
【0039】
キャピラリ等電点電気泳動(CIEF):いくつかの例では、分離技術は、キャピラリ等電点電気泳動(CIEF)などの等電点電気泳動(IEF)を含み得る。等電点電気泳動(または「等電点分離法」)は、等電点(pI)、すなわち、分子が正味のゼロ電荷を有するpHの差によって分子を分離する技術である。CIEFは、アノードまたはカソードを含む試薬リザーバに両性電解質(ampholyte)(両性電解質(amphoteric electrolyte))溶液を加えて、分離電圧が印加される分離チャネル(すなわち、電極含有ウェルを接続する流体チャネル)内にpH勾配を生成することを含む。負に帯電した分子は、正極に向かって媒体中のpH勾配を移動し、正に帯電した分子は負極に向かって移動する。等電点(pI)未満のpH領域にあるタンパク質(または他の分子)は正に帯電するため、カソード(すなわち、負に帯電した電極)に向かって移動する。タンパク質の全体的な正味電荷は、タンパク質が正味電荷を有しないそのpIに対応するpH領域に到達するまで、増加するpH(例えば、カルボキシル基または他の負に帯電した官能基のプロトン化による)の勾配をタンパク質が移動するにつれて減少し、したがって移動は停止する。その結果、タンパク質の混合物は酸性残基と塩基性残基との相対的含有量に基づいて分離し、各タンパク質がそのpIに対応するpH勾配のある点に位置する鋭い定常バンドに集束する。この技術により、単一の電荷によって異なるタンパク質を別個のバンドに分画することによって、極めて高い分解能を実現することができる。いくつかの実施形態では、等電点電気泳動は、電気浸透流(EOF)を排除するために、例えば中性および親水性ポリマーコーティングによって恒久的または動的にコーティングされた分離チャネル内で行われてもよい。好適なコーティングの例には、限定するものではないが、ポリアクリルアミド、線状ポリアクリルアミド、ヒドロキシプロリセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール(PVA)またはGuarant coating(Alcor Bioseparations,Palo Alto,CA)が挙げられる。いくつかの実施形態では、分離媒体にメチルセルロースまたはグリセロールなどの添加剤を使用して(例えば、コーティングされていない分離チャネル内で)等電点電気泳動を行って、電気浸透流を大幅に減少させ、タンパク質の可溶化を向上させ、電解質の粘度を増加させることによって流体チャネルのキャピラリ内部の拡散を制限してもよい。
【0040】
上記のように、キャピラリ等電点電気泳動技術に使用されるpH勾配は、両性電解質、すなわち、酸性基および塩基性基の両方を含み、特定のpH範囲内で両性イオンとしてほとんどが存在する両性分子を使用することによって生成される。分離チャネルのアノード側の電解液のその部分は、「アノード液」として知られている。分離チャネルのカソード側の電解液のその部分は、「カソード液」として知られている。したがって、等電点電気泳動に使用するための両性電解質は、酸/塩基対(またはアノード液/カソード液対)の使用を含み得る。限定するものではないが、リン酸/水酸化ナトリウム、グルタミン酸/リジン、ギ酸/ジメチルアミン、市販の担体両性電解質混合物(例えば、Servalyt pH 4-9(Serva,Heildelberg,Germany)、Beckman pH 3-10(Beckman Instruments,Fullerton,CA,USA)、Ampholine 3.5-9.5およびPharmalyte 3-10(いずれもGeneral Electrics Healthcare,Orsay,France製)などを含め、当業者に公知の様々な両性電解質のいずれも、開示される方法および装置に使用することができる。担体両性電解質混合物は、近接したpI値および良好な緩衝能を有する多数の脂肪族アミノ基およびカルボキシレート基を含む小分子(約300~1,000Da)の混合物である。印加電場の存在下では、担体両性電解質は、アノードからカソードへ直線的に増加する滑らかなpH勾配に分配される。
【0041】
分離された分析物ピークの等電点を計算するための開示される方法および装置では、様々なpI標準物質のいずれも、適切なイメージング技術を使用してそれらを視覚化することができることを条件に使用することができる。一般に、CIEF用途に使用されるpIマーカには、タンパク質pIマーカおよび合成小分子pIマーカの2種類がある。タンパク質pIマーカは、一般的に許容されるpI値を有する特定のタンパク質に基づく。それらは一般に、厳格な保管条件の採用を必要とし、低い安定性を示し得るため、CIEFでは複数のピークを生じる可能性がある。合成小分子(酵素分離に使用され得るように、好ましくは非ペプチド分子)は保管中に一般に安定性が高く、CIEFでは単一ピークに集中する。様々なタンパク質pIマーカまたは合成小分子pIマーカ、例えば、Advanced Electrophoresis Solutions,Ltd.(Cambridge,Ontario,Canada)から入手可能な小分子pIマーカが利用可能である。
【0042】
キャピラリゾーン電気泳動(CZE):いくつかの例では、分離技術は、印加電場内の溶液中の荷電分析物を分離するための方法であるキャピラリゾーン電気泳動を含み得る。荷電分析物分子の正味の速度は、分離システムによって示される電気浸透流(EOF)μEOF、および個々の分析物(分子のサイズ、形状および電荷に依存する)に関する電気泳動移動度μEPの両方の影響を受け、その結果、異なるサイズ、形状または電荷を示す分析物分子は、異なる移動速度を示し、バンドに分離する。他のキャピラリ電気泳動法とは異なり、CZEは分離に「単純な」緩衝液を使用する。
【0043】
キャピラリゲル電気泳動(CGE):いくつかの例では、分離技術は、巨大分子(例えば、DNA、RNAおよびタンパク質)、ならびにそれらのサイズおよび電荷に基づくそれらの断片の分離および分析のための方法であるキャピラリゲル電気泳動を含み得る。この方法は、ゲル充填分離チャネルの使用を含み、ゲルは、印加電場内の荷電分析物分子の電気泳動移動中、抗対流媒体(anti-convective medium)および/または篩媒体(sieving medium)として作用する。ゲルは、電場の印加によって引き起こされる熱対流を抑制するように機能するとともに、分子の通過を遅らせる篩媒体として作用し、それによって、異なるサイズまたは電荷の分子に対して異なる移動速度をもたらす。
【0044】
キャピラリ等速電気泳動(CITP):いくつかの例では、分離技術は、好適な寸法のキャピラリまたは流体チャネル内で2つの電解質(先行電解質および終末電解質として知られている)の不連続系を使用する、荷電分析物の分離方法であるキャピラリ等速電気泳動を含み得る。先行電解質は最も高い電気泳動移動度を有するイオンを含有し、終末電解質は最も低い電気泳動移動度を有するイオンを含有する。分離される分析物混合物(すなわち、試料)は、これら2つの電解質の間に挟まれ、電場を印加すると、電気泳動移動度を減少させる順序で、キャピラリまたは流体チャネル内の荷電分析物分子を近接した隣接ゾーンに分配する。ゾーンは、印加電場内で一定の速度で移動するため、検出器、例えば、導電率検出器、光検出器またはイメージング装置を利用して、分離チャネルに沿ったそれらの通過を記録してもよい。キャピラリゾーン電気泳動とは異なり、キャピラリ等速電気泳動を使用して行われる単一分析では、アニオン性分析物およびカチオン性分析物の同時決定または同時検出は実行不可能である。
【0045】
キャピラリ動電クロマトグラフィ(CEC):いくつかの例では、分離技術は、液体クロマトグラフィ分離法と電気泳動分離法との組合せに基づく、分析物混合物の分離方法であるキャピラリ動電クロマトグラフィを含み得る。CECは、キャピラリ電気泳動(CE)の効率と、充填キャピラリ高速液体クロマトグラフィ(HPLC)の選択性および試料容量とをともに提供する。CECに使用されるキャピラリにはHPLC充填材が充填されているため、HPLCに利用可能な多種多様な分析物選択性がCECでも利用可能である。これらの充填材の高い表面積は、CECキャピラリが比較的大量の試料を収容することを可能にし、続いて溶出した分析物の検出をキャピラリゾーン電気泳動(CZE)でのそれよりもやや簡単な作業にする。
【0046】
ミセル動電クロマトグラフィ(MEKC):いくつかの例では、分離技術は、界面活性剤ミセル(擬似固定相)と周囲の水性緩衝液(移動相)との間の差次的な分配に基づく分析物混合物の分離方法であるキャピラリ動電クロマトグラフィを含み得る。MEKCに使用される基本的なセットアップおよび検出方法は、CZEに使用されるものと同じである。相違は、界面活性剤モノマーがミセルと平衡にあるように、緩衝液が臨界ミセル濃度(CMC)よりも高い濃度の界面活性剤を含有することである。MEKCは、典型的には、強力な電気浸透流を生成するためにアルカリ条件を使用して、開放キャピラリまたは開放流体チャネル内で行われる。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、MEKC用途に一般的に使用される界面活性剤の一例である。SDSの硫酸基のアニオン特性により、界面活性剤およびミセルは、強力な電気浸透流の方向とは逆の電気泳動移動度を有する。その結果、界面活性剤モノマーおよびミセルは、それらの正味の移動が依然として電気浸透流の方向にある、すなわちカソードに向かっているにもかかわらず、非常にゆっくりと移動する。MEKC分離中、分析物は、ミセルの疎水性内部と親水性緩衝液との間に分散する。ミセル内部で不溶性の親水性分析物は、電気浸透流速度uoで移動し、緩衝液の保持時間tMで検出される。ミセル内で完全に可溶化する疎水性分析物は、ミセル速度ucで移動し、最終溶出時間tcで溶出する。
【0047】
フローカウンタバランスキャピラリ電気泳動(FCCE):いくつかの例では、分離技術は、キャピラリを通る分析物の動電移動を積極的に遅延させるか、停止させるか、反転させるために圧力誘起カウンタフローを利用する、キャピラリ電気泳動の効率および分解能を増加させる方法であるフローカウンタバランスキャピラリ電気泳動を含み得る。検出窓を横切って分析物を遅延させるか、停止させるか、前後に移動させることによって、目的の分析物が、通常の分離条件下よりもはるかに長い時間にわたって分離チャネルに効果的に閉じ込められ、それによって、分離の効率および分解能の両方が増大する。
【0048】
クロマトグラフィ:いくつかの例では、分離技術は、試料流体中の分析物混合物(移動相)が、混合物の様々な成分を差動的に保持し、それによってそれらを異なる速度で移動させ分離させるカラムまたはチャネル充填材(固定相)を通過するクロマトグラフィ技術を含み得る。いくつかの例では、固定相に対して高い結合親和性を有する分析物を移動させるために、溶出または可動化の後続工程が必要になり得る。開示される方法に組み込まれ得るクロマトグラフィ技術の例には、限定するものではないが、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィおよび逆相クロマトグラフィが挙げられる。
【0049】
分離チャネルのイメージング:ほとんどの場合、開示される方法(および該方法を行うように構成された装置およびシステム)は、分離および/または可動化反応が行われている間それを監視するために、少なくとも1つの分離チャネルの全部または一部をイメージングすることを含み得る。いくつかの例では、当業者に公知の様々なイメージング技術のいずれかを使用して、分離および/または可動化反応がイメージングされ得る。例には、限定するものではないが、紫外線(UV)吸光度、可視光吸光度、蛍光(例えば、天然蛍光、またはフルオロフォアにより1つ以上の分析物を標識することから生じる蛍光)、フーリエ変換赤外分光法、フーリエ変換近赤外分光法、ラマン分光法、光学分光法などが挙げられる。いくつかの例では、分離(または濃縮)チャネルの全部もしくは一部、分離チャネルの端部と下流の分析機器もしくはエレクトロスプレーオリフィスもしくは先端、エレクトロスプレーオリフィスもしくは先端自体とを接続する接合部もしくは接続チャネル、またはそれらの任意の組合せがイメージングされ得る。いくつかの例では、分離(または濃縮)チャネルは、キャピラリの内腔であってよい。いくつかの例では、分離(または濃縮)チャネルは、マイクロ流体装置内の流体チャネルであってよい。
【0050】
分離された分析物バンドの検出に使用される(1または複数の)波長範囲は、典型的には、イメージング技術の選択と、装置またはその一部が製造される(1または複数の)材料とに依存する。例えば、分離チャネル、またはマイクロ流体装置の他の部分の全部または一部をイメージングするためにUV吸光度が使用される場合、約220nm(ペプチド結合の自然吸光度による)および/または約280nm(芳香族アミノ酸残基の自然吸光度による)での検出は、装置の少なくとも一部、例えば、分離チャネルまたはその一部がこれらの波長の光に対して透明であることを条件に、分離および/または可動化中にタンパク質バンドを視覚化することを可能にし得る。いくつかの例では、ESI-MSを介して分離および特性評価される分析物は、分離の前に、例えば、フルオロフォア、化学発光タグまたは他の好適な標識を用いて標識されて、蛍光イメージングまたは他の好適なイメージング技術を使用してイメージングされ得る。いくつかの例では、例えば、分析物が商業的製造プロセスによって生成されたタンパク質を含む場合、タンパク質は、蛍光を使用してイメージングされ得るように、緑色蛍光タンパク質(GFP)ドメインまたはその変異体を組み込むように遺伝子操作されてもよい。タンパク質または他の分析物分子を標識する際には、標識自体が、選択された分離技術の基礎となる分析物特性を妨げたり、乱したりしないように注意しなければならない。
【0051】
いくつかの例では、イメージング(またはそこから得られたデータ)を使用して、分離チャネルから、分離チャネルの出口端と流体連通している別のチャネルへのための、1つの分離チャネルから別の分離チャネルへの分離された分析物画分またはその部分の可動化工程または他の移動をトリガしてもよい。例えば、いくつかの例では、開示される方法は、第1の分離チャネルおよび第2の分離チャネルを含むマイクロ流体装置に分析物を注入することを含み得る。第1の分離チャネルは、分析物混合物からの分析物に結合するように構成された媒体を含むことができる。したがって、分析物混合物がマイクロ流体装置に注入されると、分析物混合物の少なくとも一部が、マトリックスに結合し得、および/または第1の分離チャネルを通って流れるのを妨げられ得る。例えば、マイクロ流体装置に分析物を注入することにより、第1の分離チャネル内でクロマトグラフィ分離を行うことができる。分析物の少なくとも一部が媒体から可動化されるように、マイクロ流体装置に溶出液を注入することができる。分析物が可動化されている間に、第1の分離チャネルをイメージングすることができる。第1の分離のイメージングは、全カラム(例えば、全チャネル)イメージングおよび/またはチャネルの一部のイメージングを含むことができる。画分が第1の分離チャネルと第2の分離チャネルとの交点に配置されて、画分が第2の分離チャネルに向かって可動化されることがイメージングによって検出されると、第2の分離チャネルに電場を印加することができる。例えば、いくつかの例では、第1の分離チャネルおよび第2の分離チャネルは、T接合部を形成することができる。イメージングにより、画分の一部(例えば、目的の部分)が接合部にある時を検出することができる。電場を印加することにより、分離の第2段階ための第2の分離チャネルに向かって画分の一部(場合により、接合部に位置しない画分の他の部分ではなく)を可動化することができる。いくつかの例では、画分の少なくとも一部がマイクロ流体装置から排出されてもよい。
【0052】
分離された分析物種の可動化:開示される方法のいくつかの例、例えば、逆相クロマトグラフィなどのクロマトグラフィ分離技術を含む方法では、固定相に保持された分析物種の溶出(例えば、分離チャネルを流れる緩衝液を変更することにより)が、「可動化」工程と呼ばれ得る。ほとんどの場合、分離反応を促進するために使用される力(例えば、逆相クロマトグラフィでは圧力、または動電分離もしくは等電点電気泳動反応では電場)は、可動化工程の間オフにされ得る。いくつかの例では、分離反応を促進するために使用される力は、可動化工程の間、オンのままにされてもよい。開示される方法のいくつかの例、例えば、等電点電気泳動工程を含む方法では、分離された分析物バンドが、別の流体チャネル(第2の分離チャネルであってよい)に接続されるか、下流の分析装置、例えば、質量分析計とのエレクトロスプレーイオン化インターフェースと接合する分離チャネルの端部に向かって移動するように、分離された分析物バンドが(例えば、流体動圧および/または化学的可動化技術を使用して)可動化され得る。いくつかの実施形態では、例えば、キャピラリゲル電気泳動、キャピラリゾーン電気泳動、等速電気泳動、キャピラリ動電クロマトグラフィ、ミセル動電クロマトグラフィ、フローカウンタバランスキャピラリ電気泳動、または差速により分析物混合物の成分を分離する他の任意の分離技術が使用される例では、分離工程は可動化工程と考えられ得る。
【0053】
いくつかの例では、分析物バンドの可動化は、分離チャネルの一端に流体動圧を印加することによって実施されてもよい。いくつかの例では、分析物バンドの可動化は、重力が利用され得るように分離チャネルを垂直位置に配向することによって実施されてもよい。いくつかの例では、分析物バンドの可動化は、EOF支援可動化を使用して実施されてもよい。いくつかの例では、分析物バンドの可動化は、例えば、等電点電気泳動に使用されるpH勾配の局所pHをシフトする可動化電解質を分離チャネルに導入することによる化学的可動化を使用して実施されてもよい。いくつかの例では、これらの可動化技術の任意の組合せが使用されてもよい。
【0054】
好ましい一例では、等電点電気泳動された分析物バンドの可動化工程は、化学的可動化を含む。圧力ベースの可動化と比較して、化学的可動化は、圧力の使用により誘導される流体力学的放物線流プロファイルを克服することにより、最小のバンドの広がりを示すという利点を有する。電解質(すなわち、「可動化電解質」)を分離チャネルに導入して、分離された分析物バンド(または両性イオン緩衝液成分)(または両性イオン緩衝液成分および関連する水和シェル)が印加電場内を移動するように、分離された分析物バンド(または両性イオン緩衝液成分)上の局所pHおよび/または正味電荷を変化させることによって、化学的可動化を実施してもよい。いくつかの例では、分離された分析物バンドを可動化するために使用される印加電場の極性は、分析物が、分離チャネルの出口または遠位端と電気通信しているアノードに向かって移動する(アノード可動化)ような極性である。いくつかの例では、分離された分析物バンドを可動化するために使用される印加電場の極性は、分析物が、分離チャネルの出口または遠位端と電気通信しているカソードに向かって移動する(カソード可動化)ような極性である。可動化電解質は、分離チャネルまたはキャピラリへの導入のために、ヒドロキシル(カソード可動化)またはヒドロニウムイオン(アノード可動化)と競合するアニオンまたはカチオンのいずれかを含む。アノード可動化のためのカソード液として使用され得る塩基の例には、限定するものではないが、アンモニア、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ピペリジンなどが挙げられる。カソード可動化でアノード液として使用され得る酸の例には、限定するものではないが、酢酸、ギ酸および炭酸などが挙げられる。いくつかの例では、アノードが接地され得、カソードに負電圧が印加される。いくつかの例では、カソードが接地され得、アノードに正電圧が印加される。いくつかの例では、非ゼロの負電圧がカソードに印加されてもよく、非ゼロの正電圧がアノードに印加されてもよい。
【0055】
いくつかの例では、分離された分析物バンドの可動化は、分離チャネルへの可動化緩衝液または電解質の電気泳動的導入を制御するためにオン状態とオフ状態との間で切り替え可能な電極(例えば、分離チャネルの遠位端と電気通信しているカソード、および可動化チャネル(分離チャネルの出口または遠位端の近くで分離チャネルと交差する流体チャネル)の近位端と電気通信しているカソード)をトリガするユーザ指定時間に開始され得る。
【0056】
いくつかの例では、オン状態とオフ状態との間の1つ、2つ、または3つ以上の切り替え可能な電極の遷移を独立してトリガするためのユーザ指定時間は、可動化スキームのいずれかでは、約30秒~約30分の範囲であり得る。いくつかの例では、ユーザ指定時間は、少なくとも30秒、少なくとも1分、少なくとも2分、少なくとも3分、少なくとも4分、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも15分、少なくとも20分、少なくとも25分または少なくとも30分であり得る。いくつかの例では、ユーザ指定時間は、最大30分、最大25分、最大20分、最大15分、最大10分、最大5分、最大4分、最大3分、最大2分、最大1分または最大30秒であり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの例では、ユーザ指定時間は約2分~約25分の範囲であり得る。当業者であれば、ユーザ指定時間が、この範囲内の任意の値、例えば、約8.5分を有し得ることを認識するであろう。
【0057】
いくつかの例では、本明細書に開示される可動化シナリオのいずれかで可動化に影響を与える(またはそのような分離技術が行われる例では動電分離もしくは等電点電気泳動反応を行う)ために使用される電場は、約0V/cm~約1,000V/cmの範囲であり得る。いくつかの例では、電場強度は、少なくとも0V/cm、少なくとも20V/cm、少なくとも40V/cm、少なくとも60V/cm、少なくとも80V/cm、少なくとも100V/cm、少なくとも150V/cm、少なくとも200V/cm、少なくとも250V/cm、少なくとも300V/cm、少なくとも350V/cm、少なくとも400V/cm、少なくとも450V/cm、少なくとも500V/cm、少なくとも600V/cm、少なくとも700V/cm、少なくとも800V/cm、少なくとも900V/cmまたは少なくとも1,000V/cmであり得る。いくつかの例では、電場強度は、最大1,000V/cm、最大900V/cm、最大800V/cm、最大700V/cm、最大600V/cm、最大500V/cm、最大450V/cm、最大400V/cm、最大350V/cm、最大300V/cm、最大250V/cm、最大200V/cm、最大150V/cm、最大100V/cm、最大80V/cm、最大60V/cm、最大40V/cm、最大20V/cmまたは最大0V/cmであり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの例では、電場強度時間は約40V/cm~約650V/cmの範囲であり得る。当業者であれば、電場強度が、この範囲内の任意の値、例えば、約575V/cmを有し得ることを認識するであろう。
【0058】
いくつかの例では、例えば、等電点電気泳動の場合に、分離チャネルを通過する電流が最小値に達し得る、分離チャネルの電流(または導電率)を監視することから得られたデータに基づいて、分離された分析物バンドの可動化が開始され得る。いくつかの例では、最小電流値の検出、または特定の期間にわたって特定の閾値未満にとどまる電流値の検出は、等電点電気泳動反応が完了に達したかどうかを決定するために使用されてもよく、したがって、化学的可動化工程の開始をトリガするために使用されてもよい。
【0059】
いくつかの例では、最小電流値または閾値電流値は、約0μA~約100μAの範囲であり得る。いくつかの例では、最小電流値または閾値電流値は、少なくとも0μA、少なくとも1μA、少なくとも2μA、少なくとも3μA、少なくとも4μA、少なくとも5μA、少なくとも10μA、少なくとも20μA、少なくとも30μA、少なくとも40μA、少なくとも50μA、少なくとも60μA、少なくとも70μA、少なくとも80μA、少なくとも90μAまたは少なくとも100μAであり得る。いくつかの例では、最小電流値または閾値電流値は、最大100μA、最大90μA、最大80μA、最大70μA、最大60μA、最大50μA、最大40μA、最大30μA、最大20μA、最大10μA、最大5μA、最大4μA、最大3μA、最大2μA、最大1μAまたは最大0μAであり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの例では、最小電流値または閾値電流値は、約10μA~約90μAの範囲であり得る。当業者であれば、最小電流値または閾値電流値が、この範囲内の任意の値、例えば、約16μAを有し得ることを認識するであろう。
【0060】
いくつかの例では、特定の期間は、少なくとも5秒、少なくとも10秒、少なくとも15秒、少なくとも20秒、少なくとも25秒、少なくとも30秒、少なくとも35秒、少なくとも40秒、少なくとも45秒、少なくとも50秒、少なくとも55秒または少なくとも60秒であり得る。
【0061】
いくつかの例では、分離工程が行われる際に分離チャネルの画像から(例えば、自動画像処理を行うことによって)得られたデータに基づいて、分離された分析物バンドの可動化が開始され得る。画像由来データは、1つ以上の分析物ピークの存在もしくは非存在、1つ以上の分析物ピークの位置、1つ以上の分析物ピークの幅、1つ以上の分析物ピークの速度、分離分解能、1つ以上の分析物ピークの存在、位置、幅もしくは速度のその変化率もしくは欠如、またはそれらの任意の組合せを監視するために使用されてもよく、分離反応が完全であるかどうかを決定するために、および/または可動化工程の開始をトリガするために使用されてもよい。場合によっては、分離工程の完了は、ある期間にわたる(例えば、10~60秒の期間にわたる)分離性能パラメータ(例えば、ピーク位置またはピーク幅)の変化率を監視することによって決定されてもよい。
【0062】
開示される方法の好ましい一態様では、化学的可動化工程は、装置内の電場を変化させて分離チャネルに向かって可動化電解質を電気泳動させることによって、CIEFとESI-MSとを統合するように設計されたマイクロ流体装置内で開始され得る。いくつかの例では、可動化工程の開始は、分離チャネルの全部または一部の画像から得られたデータに基づいてトリガされてもよい。いくつかの例では、電場の変化は、1つ以上の電源に取り付けられた1つ以上の電極を接続または切断することによって実施されてもよく、1つ以上の電極は、装置上の試薬ウェルに配置されるか、装置の流体チャネルと統合される。いくつかの例では、1つ以上の電極の接続または切断は、可動化工程のタイミングおよび持続時間が、分離工程、エレクトロスプレーイオン化工程および/または質量分析データ収集と調整され得るように、コンピュータ実施方法およびプログラム可能なスイッチを使用して制御され得る。いくつかの例では、装置内の電場の変化を使用して、保持された分析物が固定相から放出されるように、固定相を含む分離チャネル内に可動化緩衝液を電気泳動的にまたは電気浸透的に流してもよい。
【0063】
いくつかの例では、3つ以上の電極が装置に接続されてもよい。例えば、第1の電極は、分離チャネルの近位端に電気的に結合されてもよい。同様に、次いで、第2の電極が分離チャネルの遠位端に結合されてもよく、第3の電極が、例えば分離チャネルの遠位端で分離チャネルと交差し、可動化緩衝液を含むリザーバに接続するかそれを含む可動化チャネルに結合されてもよい。画像ベースの方法によって決定されるように、分離工程の完了時に、第2または第3の電極とそれらのそれぞれのチャネルとの電気的結合は、「オン」状態と「オフ」状態との間で切り替え可能であり得る。そのような一例では、分離回路のアノードまたはカソードを形成する第2の電極は、「オフ」モードに切り替わってもよく、分離中にオフであってもよい第3の電極は、「オン」モードに切り替わって、チャネルへの可動化緩衝液の導入(例えば、電気泳動を介して)を開始してもよい。いくつかの例では、「オン」状態および「オフ」状態は、それぞれ電極と流体チャネルとの間の電気的結合の完全な接続または切断を含み得る。いくつかの例では、「オン」状態および「オフ」状態は、特定の電極を通過する電流をそれぞれ非ゼロまたはゼロのマイクロアンペアに固定することを含み得る。
【0064】
いくつかの例では、可動化工程のトリガまたは開始は、上記のように、1つ以上の画像由来分離パラメータについて、変化がないこと、または特定の閾値未満の変化を検出することを含み得る。例えば、いくつかの例では、1つ以上の画像由来パラメータ(例えば、ピーク位置、ピーク幅、ピーク速度など)の20%未満、15%未満、10%未満または5%未満の変化を使用して、可動化工程がトリガされてもよい。
【0065】
いくつかの例では、可動化工程のトリガまたは開始は、上記のように、1つ以上の画像由来分離パラメータについて、変化がないこと、または特定の閾値未満の変化率を検出することを含み得る。例えば、いくつかの例では、少なくとも10秒、少なくとも15秒、少なくとも20秒、少なくとも25秒、少なくとも30秒、少なくとも35秒、少なくとも40秒、少なくとも45秒、少なくとも50秒、少なくとも55秒または少なくとも60秒(またはこれらの変化率と期間との任意の組合せ)の期間にわたる1つ以上の画像由来パラメータ(例えば、ピーク位置、ピーク幅、ピーク速度など)の20%未満、15%未満、10%未満または5%未満の変化を使用して、可動化工程をトリガしてもよい。
【0066】
分離時間および分離分解能:一般に、完全な分離を達成するために必要とされる分離時間は、特定の分離技術および利用される操作パラメータ(例えば、分離チャネル長、マイクロ流体装置設計、緩衝液組成、印加電圧など)によって異なる。いくつかの例では、分離時間は約0.1分~約30分の範囲であり得る。いくつかの例では、分離時間は、少なくとも0.1分、少なくとも0.5分、少なくとも1分、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも15分、少なくとも20分、少なくとも25分または少なくとも30分であり得る。いくつかの例では、分離時間は、最大30分、最大25分、最大20分、最大15分、最大10分、最大5分、最大1分、最大0.5分または最大0.1分であり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの例では、分離時間は約1分~約20分の範囲であり得る。当業者であれば、分離時間が、この範囲内の任意の値、例えば、約11.2分を有し得ることを認識するであろう。
【0067】
同様に、開示される方法および装置を使用して達成される分離効率および分離分解能は、利用される特定の分離技術および操作パラメータ(例えば、分離チャネル長、マイクロ流体装置設計、緩衝液組成、印加電圧など)、ならびに一次元または二次元の分離が利用されるかどうかによって異なり得る。いくつかの例では、例えば、等電点電気泳動を行う場合、分離チャネルへの可動化電解質の電気泳動的導入をトリガするために切り替え可能な電極を使用すると、分離分解能が改善され得る。例えば、いくつかの例では、開示される方法および装置を使用して行われるIEFの分離分解能は、約0.1~約0.0001pH単位の範囲でpIが異なる分析物バンドの分解能を提供し得る。いくつかの例では、IEF分離分解能により、pIが0.1pH単位未満、0.05pH単位未満、0.01pH単位未満、0.005pH単位未満、0.001pH単位未満、0.0005pH単位未満または0.0001pH単位未満異なる分析物バンドの分解能が可能になり得る。
【0068】
いくつかの例では、ピーク容量は約10~約20,000の範囲であり得る。いくつかの例では、ピーク容量は、少なくとも10、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも900、少なくとも1,000、少なくとも2,000、少なくとも3,000、少なくとも4,000、少なくとも5,000、少なくとも10,000、少なくとも15,000または少なくとも20,000であり得る。いくつかの例では、ピーク容量は、最大20,000、最大15,000、最大10,000、最大5,000、最大4,000、最大3,000、最大2,000、最大1,000、最大900、最大800、最大700、最大600、最大500、最大400、最大300、最大200、最大100または最大10であり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの例では、ピーク容量は約400~約2,000の範囲であり得る。当業者であれば、ピーク容量が、この範囲内の任意の値、例えば、約285を有し得ることを認識するであろう。
【0069】
いくつかの例では、分離チャネルに可動化電解質を電気泳動的に導入するように構成された開示される装置における化学的可動化の使用、等電点電気泳動中に達成される分離分解能は、可動化工程中にさらに向上することが観察された。いくつかの例では、可動化工程中の分離分解能の向上は、等電点電気泳動工程中に達成された分離分解能と比較して、約10%~約100%の範囲であり得る。いくつかの例では、可動化電解質を電気泳動的に導入するように構成された開示される装置に化学的可動化を使用して達成される向上は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも100%であり得る。いくつかの例では、可動化電解質を電気泳動的に導入するように構成された開示される装置に化学的可動化を使用して達成される向上は、最大100%、最大90%、最大80%、最大70%、最大60%、最大50%、最大40%、最大30%、最大20%、最大10%、最大0%であり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの例では、分離分解能の向上は約20%~約60%の範囲であり得る。当業者であれば、分離分解能の向上が、この範囲内の任意の値、例えば、約23%を有し得ることを認識するであろう。
【0070】
下流の分析のための分析物の排出:いくつかの実施形態では、最終濃縮工程からの濃縮された分析物画分の実質的に全部が、連続的な流れで排出される。いくつかの実施形態では、分析物混合物の一部(例えば、目的の画分)は、分離された分析物画分の定性的、半定量的または定量的特性評価を行うように構成された分析機器、例えば、分光光度計、分光蛍光光度計、質量分析計、フローサイトメータまたは他の機器と接合するように構成された出口を介して、キャピラリまたはマイクロ流体装置から排出される。いくつかの例では、分析物混合物の他の部分(例えば、目的の画分以外の画分を含有する)は、廃棄物チャネルを介して排出されてもよい。
【0071】
いくつかの例では、1つ以上の分析物画分の排出は、圧力、電場、イオン化またはこれらの組合せを使用して行われる。
【0072】
いくつかの例では、排出は、例えば質量分析計へのエレクトロスプレーイオン化(ESI)を使用して行われる。いくつかの例では、電気泳動分離用の電解質としてシース液が使用される。いくつかの例では、分析物画分を微細な噴霧に縮小するために、噴霧化ガスが提供される。いくつかの例では、誘導結合レーザイオン化(inductive coupled laser ionization)、高速原子衝撃、ソフトレーザ脱離、大気圧化学イオン化、二次イオン質量分析、スパークイオン化、熱イオン化などのような他のイオン化方法が使用され得る。
【0073】
いくつかの例では、濃縮された画分は、マトリックス支援レーザ脱離/イオン化、表面増強レーザ脱離/イオン化、イムノブロットなどによるその後の分析のために表面に堆積される。
【0074】
いくつかの例では、開示される方法(ならびに該方法を行うように構成された開示される装置およびシステム)は、濃縮された画分の排出前および排出中に電気泳動分離で分析物を視覚化することに関する。いくつかの例では、それらは濃縮工程中に分析物を視覚化することに関する。いくつかの例では、それらは濃縮ゾーンの合間にチャネル内の分析物を視覚化することに関する。いくつかの例では、上記のように、分析物の視覚化は、紫外線吸光度、可視光吸光度、蛍光、フーリエ変換赤外分光法、フーリエ変換近赤外分光法、ラマン分光法、光学分光法などのような光学検出を介して行うことができる。
【0075】
試料分析用装置
本明細書に記載されるいくつかの例は、1つ以上の濃縮ゾーンと、濃縮された分析物画分を排出するためのオリフィスとを含むという点で、分析物混合物の分析を可能にすることができる装置に関する。いくつかの例では、これらの装置は、特定の波長の光に対して透過性でない少なくとも1つの層と、その特定の波長に対して透過性である少なくとも1つの層とを含む。光に対して透過性でない層の1つ以上の部分は、1つ以上の濃縮ゾーンを画定することができ、その結果、濃縮ゾーンは光学スリットとして機能する。
【0076】
いくつかの例では、分析物混合物は、オートサンプラに装置を接続するチューブまたはキャピラリを介して装置にロードされ得る。いくつかの実施形態では、分析物混合物は、装置上のリザーバに直接ロードされ得る。
【0077】
いくつかの例では、試料の少なくとも一部を装置から排出することができるオリフィスは、皿穴である、および/または空気流から遮蔽されている。いくつかの例では、このオリフィスは導電性でない。本明細書で使用される場合、皿穴とは、凹部の側面または面取りの形状に関係なく、基板の一部が、オリフィスを含む凹部を画定することを意味すると理解されるべきである。同様に述べると、皿穴とは、座ぐり、円錐形および/または円錐台状の皿穴、半球形の穴などを含むと理解されるべきである。
【0078】
本明細書に記載されるいくつかの例は、不透明な材料(例えば、紫外線に対して不透明であるソーダ石灰ガラス)から構成された基板を含むマイクロ流体装置などの機器に関する。基板は、マイクロ流体分離チャネルを画定することができる。同様に述べると、マイクロ流体分離チャネルは、エッチングされるか、そうでなければ基板内に形成され得る。マイクロ流体分離チャネルは、基板の厚さに等しい深さを有することができる。同様に述べると、マイクロ流体分離チャネルは、基板の全深さ(例えば、最上部から最下部まで)にエッチングされ得る。このように、マイクロ流体分離チャネルは、基板を通る光学スリットを画定することができる。基板の最上面に透明層(例えば、最上層)を配置し、例えば、基板の最上面を封止することができる。マイクロ流体分離チャネルの最上部および最下部の両方が封止されるように、基板の底面に透明層(例えば、最下層)を配置することもできる。いくつかの例では、最上層および/または最下層の一部のみが透明であってよい。例えば、最上層および/または最下層は、他の点では不透明な材料で透明窓を画定することができる。窓は、例えば、マイクロ流体分離チャネルへの光学アクセスを提供することができる。
【0079】
本明細書に記載されるいくつかの例は、基板を含むマイクロ流体装置などの機器に関する。基板は、1つ以上の濃縮ゾーンまたはチャネルを画定することができる。例えば、基板は、分析物に結合するように構成された媒体を含む第1の濃縮ゾーンを画定することができる。このような第1の濃縮ゾーンは、分析物混合物をクロマトグラフィにより分離するのに好適であり得る。機器は、第2の濃縮ゾーンの両端部に電気的に結合された2つの電極をさらに含むことができる。そのような第2の濃縮ゾーンは、分析物混合物を電気泳動的に分離するのに好適であり得る。分析物の画分が第1の濃縮ゾーンで分離、濃縮(concentrated)および/または濃縮(enriched)された後、第2の濃縮ゾーンでさらに分離、濃縮(concentrated)および/または濃縮(enriched)され得るように、第2の濃縮ゾーンは第1の濃縮ゾーンと交差することができる。装置はまた、凹んだオリフィスを含むことができる。オリフィスは、第2の濃縮チャネルの出口とすることができ、基板の皿穴、または他の方法で凹んだ表面に配置することができる。機器は、ESIを介してオリフィスから分析物混合物の一部を排出するように構成することができる。凹部は、ESIに関連するテイラーコーンの形成のための安定した環境を提供することができ、および/または質量分析計の入口ポートを受容するように構成することができる。
【0080】
図1は、一実施形態による、自動ロード試料の二次元分離およびESIのための装置の概略図である。マイクロ流体網100は、基板102によって画定される。基板は、行われる濃縮工程に適合した材料から製造される。例えば、化学的適合性、pH安定性、温度、光の様々な波長での透明度、機械的強度などが、材料の選択に関連して考慮される。
【0081】
基板102は、ガラス、石英、溶融シリカ、プラスチック、ポリカーボネート、ポリフルオロテトラエチレン(PFTE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコン、ポリフッ素化ポリエチレン、ポリメタクリレート、環状オレフィンコポリマー、環状オレフィンポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよび/または任意の他の好適な材料から製造され得る。平面基板および/または任意の他の好適な材料の異なる層に対して異なる特性が望まれる場合、材料の混合物を利用することができる。平面基板の異なる層に対して異なる特性が望まれる場合、材料の混合物を利用することができる。
【0082】
チャネル106、110、114、116、118、124、122、126、132、136および140は、マイクロ流体網100を形成し、基板102に加工される。同様に述べると、基板102は、チャネル106、110、114、116、118、124、122、126、132、136および/または140を画定する。
【0083】
チャネルは、例えば、フォトリソグラフィ・エッチング、成形、機械加工、積層(3D)印刷などの任意のチャネル製造方法によって基板に加工されてもよい。
【0084】
チューブ/導管112を通して分析物混合物および外部試薬をロードすることができ、チューブ/導管130を通して過剰な試薬/廃棄物を除去することができる。
【0085】
チューブ112および130は、例えば、溶融シリカ、溶融シリカキャピラリチューブ、シリコーン管および/またはPFTE管を含め、行われるアッセイに適合する任意の材料から製造することができる。
【0086】
チャネル116および124を使用して、分析物および/または分析物の一部(例えば、画分)を分離および/または濃縮することができる。チャネル116および/または124を使用して、クロマトグラフィ分離(例えば、逆相、免疫沈降、イオン交換、サイズ排除、リガンド親和性、色素親和性、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、pH勾配イオン交換、親和性、キャピラリ動電クロマトグラフィ、ミセル動電クロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、アミノ酸分析HPLC、超高性能液体クロマトグラフィ、ペプチドマッピングHPLC、フィールドフローフラクショネーション-多角度光散乱)または電気泳動分離(例えば、等電点電気泳動、キャピラリゲル電気泳動、キャピラリゾーン電気泳動、等速電気泳動、キャピラリ動電クロマトグラフィ、ミセル動電クロマトグラフィ、フローカウンタバランスキャピラリ電気泳動、電場勾配フォーカシング、動的場勾配フォーカシング)を行うことができる。例えば、チャネル116は、第1の濃縮工程を行うための材料により誘導体化するか、その材料を充填することができる。
【0087】
チャネル116および/または124に配置される材料は、例えば、疎水性(逆相)、免疫親和性(免疫沈降)、親和性(効力)、サイズ(サイズ排除クロマトグラフィ)、電荷(イオン交換)に基づいて、または他の形態の液体クロマトグラフィにより、分析物を捕捉するように選択することができる。
【0088】
多くの異なる方法を使用して、チャネル116および/または124内に濃縮材料を配置することができる。例えば、共有結合または吸着分子により壁を直接誘導体化することができるか、ビーズ、ガラス粒子、ゾルゲルなどを誘導体化し、これらのチャネルにロードすることができる。
【0089】
チャネル116に試料をロードした後、チューブ112およびチャネル114を通して洗浄溶液および溶出試薬を導入することができる。
【0090】
溶出プロセスは、チャネル116内で行われる濃縮方法に応じて決まる。結合した分析物の画分を溶出するために好適な溶出液を選択することができる。一部の濃縮オプションは、溶出工程を必要としないものもある(例えば、サイズ排除クロマトグラフィ、電気泳動分離など)。
【0091】
次いで、溶出液またはフロースルーは、チャネル118を通ってチャネル124に流れる。チャネル124は、クロマトグラフィ濃縮工程または電気泳動濃縮工程のいずれかを行うために使用され得る。
【0092】
電気泳動分離は、リザーバ108とリザーバ120との間に電場を印加するために電源を使用することによって、チャネル124内で行うことができる。同様に述べると、装置100は、リザーバ108および/またはリザーバ120と電気的に接触する電極を含むことができる。質量分析計の電気接地に電源の電気接地を接続して、チャネル124から質量分析計への電場に連続性を提供することができる。
【0093】
IEF、等速電気泳動(ITP)、キャピラリゲル電気泳動(CGE)、キャピラリゾーン電気泳動(CZE)など、任意のキャピラリ電気泳動(CE)電気泳動法をチャネル124内で行うことができる。あるいは、非電気泳動濃縮法をチャネル124内で行うことができる。
【0094】
IEFまたはITPの場合、圧力、化学的手段または電気的手段によって、濃縮された精製試料バンドが合流点126に向かって可動化される。リザーバ108および134からのシース溶液が、シースおよびカソード液として機能し得る。
【0095】
シース/カソード液は、電気泳動分離および質量分析に適合する任意の塩基性溶液であり得る(例えば、MeOH/N4OH/H2O)。アノード液は、任意の酸性溶液であり得る(例えば、リン酸10mM)。
【0096】
あるいは、電場を反転させて、カソード液(NaOH)をリザーバ120にロードすることができ、アノード液をリザーバ108および134内でシース溶液として使用することができる。
【0097】
合流点126は、濃縮された分析物画分がシース溶液と混合する場所である。チャネル124内の分析物画分が可動化されると、溶液が合流点126を通ってオリフィス128に押し出される。
【0098】
化学的可動化の場合、シース液は、IEF pH勾配を乱し、それによって試料バンドを可動化することができる酸性または塩基性の可動化剤(例えば、アンモニア、酢酸、ギ酸など)を提供することができる。この可動化剤溶液をリザーバ108にロードすることにより、可動化剤がチャネル124内に電気泳動的に追い込まれる。リザーバ108に圧力を印加することにより、可動化剤溶液は、合流点126を通って流れ、オリフィス128から出ることができる。可動化された試料バンドは、チャネル124から電気泳動的に移動し、次いで、合流点126内の可動化剤溶液の圧力駆動流に入る。
【0099】
オリフィス128は、基板102の表面127によって画定される凹部内に配置することができる。例えば、表面127は皿穴ESI表面であり得る。例えば、
図1に示すように、ウェル108を通して電気的に接地されている濃縮された分析物溶液は、表面127によって画定された凹部内に完全に配置されるオリフィス128から発散するテイラーコーンを形成することができる。オリフィス128および/または表面127は、ウェル108に対して電位差を有することができる質量分析計入口に向けることができる。スプレーがコーン構造から質量分析計に向かって切り離されると、スプレーは、基板102から離れる前に、チャネル106および140を通して提供される噴霧化ガスによって側面を打たれ得る。噴霧化ガスは、任意の不活性ガスまたは非反応性ガス(例えば、アルゴン、窒素など)であり得る。
【0100】
さらに、シース液および/または噴霧化ガスを使用することにより、最後の「装置上」工程としてイオン枯渇工程を使用することが可能になる。シース液は、ESIの前のIEF電荷アッセイ濃縮工程中に失われたイオン電位の補充を可能にし、噴霧化は、オフライン分析のために試料を微細ミスト状で提供する。
【0101】
表面127上にテイラーコーンを生成することによって、コーンは安定したポケットまたは凹部内に生成され、乱気流から保護される。さらに、皿穴オリフィスを囲む円錐形状は、比較的広い範囲のテイラーコーン半径方向断面を収容する自然に拡大する接触表面を有し、比較的広い範囲の流量が質量分析計に向かうことを可能にする。
【0102】
オリフィス128は、質量分析計の入口ポートの近くに配置することができる。いくつかの例では、表面127は、質量分析計の入口ポートが表面127によって画定された凹部内に配置され得るように構成され得る。
【0103】
図2は、一実施形態による、3つの層を有する装置212の概略分解図である。
図2Aは、一実施形態による、装置212の最上層202を示す。
図2Bは、一実施形態による、装置212の中間層206を示す。
図2Cは、一実施形態による、装置212の最下層210を示す。
図2Dは、一実施形態による、組み立てられた装置212を示す。3つの層202、206、210のそれぞれは、装置212が行うことを目的とするアッセイに適合する任意の材料から作製され得る。
【0104】
いくつかの実施形態では、層202は、光の特定の波長または波長範囲に対して透明である材料から製造される。本明細書で使用される場合、「透明」は、特定の波長または波長範囲を有する実質的な多数の光が材料を透過することを意味すると理解されるべきである。また、透明材料とは、材料の一方の側にある光の量が、他方の側にある検出器によって定量されることを可能にするように、材料が十分な透過率を有することを意味すると理解することができる。いくつかの実施形態では、目的の波長範囲は、中紫外範囲(例えば、200nm~300nm)を含み、例えば、ガラス、石英、溶融シリカなどの材料、およびポリカーボネート、ポリフッ素化ポリエチレン、ポリメタクリレート、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマーなどのUV透過性プラスチック、ならびに他のUV透過性材料を透明材料として使用することができる。いくつかの実施形態では、目的の光スペクトルは、可視スペクトル(例えば、200~900nm)を超えて拡大される。
【0105】
貫通孔204は、装置の外部から下層(例えば、層208)内のチャネル網への圧力および電気的インターフェースを可能にするために、層202に加工される。
【0106】
図2Bは、チャネル網208を含む装置212の内部中間層206を示す。チャネル網は、最上層202に加工された貫通孔と接合するように設計される。チャネル網208は、入口チューブおよび出口チューブ/導管209と、濃縮された分析物画分を排出するた
めのオリフィス205と、視認可能な濃縮ゾーン207とを含む。濃縮ゾーン207は、その深さが層206の全厚になるように加工される。他の実施形態では、ゾーン207は、層206の全厚よりも薄くすることができる。
【0107】
いくつかの実施形態では、層206は、光の特定の波長または波長範囲に対して不透明であるおよび/または透明でない材料から製造される。本明細書で使用される場合、「不透明」は、特定の波長または波長範囲を有する実質的な多数の光が材料を透過しない(例えば、材料によって反射、吸収および/または散乱される)ことを意味すると理解されるべきである。また、透明でない材料とは、材料の一方の側にある光の量が他方の側にある検出器によって定量されることを可能にするのに材料が不十分な透過率を有し、チャネル網内のゾーンが層206の全厚と同じくらい深い領域を除いて、材料がこの光を効果的に遮断することを意味すると理解することができる。
【0108】
図2Cは、装置212の最下層210を示す。最下層210は、例えば、中実基板であり得る。いくつかの実施形態では、最下層210は、層202と同じ透過率を有する材料から製造することができる。
【0109】
図2Dは、一実施形態による、組み立てられた、最上層202、中間層206および最下層210を含む装置212を示す。入口チューブおよび出口チューブ209、リザーバ204ならびにオリフィス205は、装置210が組み立てられた後も依然として利用可能であり得る。いくつかの実施形態では、最上層202全体および/または最下層210全体が透明であり得る。他の実施形態では、最上層202の一部および/または最下層210の一部は不透明であり得、最上層202および/または最下層210の別の部分は透明である。例えば、最上層210および/または最下層210は、装置212が組み立てられる際に濃縮ゾーン207の少なくとも一部と整列する光学窓を画定することができる
。
【0110】
図3は、一実施形態による、マイクロ流体装置302を通る光路の概略図である。
図3Aは、マイクロ流体装置302の上面図を示す。
図3Bは、光源306と検出器308との間に配置されたマイクロ流体装置302を示す。検出器308は、装置302を通過する光を測定するように配置される。
図3には示されていないが、マイクロ流体装置302は、
図1および
図2に記載されているのと同様のチャネル構造を有することができるが、チャネル構造は、参照を容易にするために示されていない。いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置302の最上面の一部は不透明であり、光源306から投射された光が検出器308に到達するのを完全にまたは実質的に遮る。不透明な最上面の部分は、試料特性の検出が望ましくない部分で装置を通る光の透過を実質的に防止する。例えば、いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置302は、チャネル304が不透明層の厚さ全体を横断するため、1つ以上の(1または複数の)チャネル領域304上で不透明でない(例えば、いくらかの光が通過することを可能にする)。
【0111】
いくつかの実施形態では、この(1または複数の)透明チャネル領域304は濃縮ゾーンとすることができ、濃縮ゾーンでは、光学検出を使用して分析物を検出し、濃縮の進行を監視し、および/または(1または複数の)濃縮された分析物画分が装置から排出される際にそれらを監視することができる。いくつかの実施形態では、透明チャネル304を通過する光の量の変化を使用して、分析物画分がこのチャネルにある間、それらの吸光度を測定する。したがって、いくつかの実施形態では、(1または複数の)チャネル領域304は光学スリットを画定し、その結果、マイクロ流体装置302の片側に配置された光源306は、(1または複数の)透明チャネル領域304のみを通して検出器308を効果的に照明する。このように、検出器308から迷光(例えば、(1または複数の)透明チャネル領域および/または試料を通過しない光)を効果的に遮断することができ、これにより、ノイズを低減し、(1または複数の)透明チャネル領域304内の試料を観察する検出器308の能力を向上させることができる。いくつかの実施形態では、(1または複数の)透明チャネル領域304は、2つの濃縮ゾーンの間にあり、分析物画分が上流の濃縮ゾーンから溶出される際にそれらを検出するために使用することができる。
【0112】
図6は、本開示の一態様による分析物混合物濃縮の方法を示している。方法は、602では、マイクロ流体装置に分析物混合物をロードおよび/または導入することを含む。マイクロ流体装置は、
図1~
図3を参照して上記で説明されたマイクロ流体装置と同様であり得る。いくつかの例では、分析物混合物は、例えば、グリカン、炭水化物、DNA、RNA、無傷のタンパク質、消化されたタンパク質、ペプチド、代謝産物、ワクチン、ウイルスおよび小分子であり得る。いくつかの例では、分析物混合物は、培養細胞の溶解物、細胞ベースの治療薬、もしくは腫瘍もしくは他の組織由来細胞などのタンパク質の混合物、生物学的製剤を含む組換えタンパク質、血液由来細胞、灌流、または任意の他の供給源由来のタンパク質混合物であってよい。分析物混合物は、装置に直接ロードされても、複数の混合物の連続分析のためにオートサンプラにロードされてもよい。
【0113】
マイクロ流体装置は、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンを含むことができる。いくつかの実施形態では、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンは、クロマトグラフィ分離のために構成され得る。例えば、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンは、分析物混合物からの分析物に結合する、および/またはそうでなければクロマトグラフィ分離をもたらすように構成された媒体を含むことができる。604では、第1の濃縮を行うことができる。例えば、クロマトグラフィ分離は、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーン内で行うことができる。分析物混合物がタンパク質混合物である実施形態などのいくつかの実施形態では、604での第1の濃縮により、タンパク質混合物を単純化することができる。604での第1の濃縮は、分析物の任意の識別可能な性質に基づくことができる。
【0114】
次いで、この濃縮された分析物画分は、606で溶出される。例えば、マイクロ流体装置に溶出液を注入して、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーン内に配置された媒体から、濃縮された分析物画分を可動化することができる。いくつかの実施形態では、濃縮された分析物画分の濃縮および/または可動化をイメージングすることができる。例えば、上述のように、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンは、光学スリットを画定することができる。マイクロ流体装置に光を投射することができ、検出器が、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンを通過する光を検出することができる。試料またはその一部は、吸光度および/または蛍光イメージング技術を介して検出することができる。
【0115】
マイクロ流体装置は、第2の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンを含むことができる。いくつかの実施形態では、第2の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンは、電気泳動分離のために構成され得る。608では、例えば、溶離液に対して第2の濃縮を行うことができる。例えば、電場および/または電位が、第2の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンにわたって適用され得る。
【0116】
いくつかの例では、分析物混合物の画分が第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンと第2の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンとの交点に配置された際に、608で第2の濃縮を開始することができる。例えば、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンは監視(例えば、イメージング)され得、目的の画分が交点に到達した際に電位および/または電場が印加され得る。
【0117】
いくつかの例では、第2の濃縮は、608で、電荷特性(電荷アイソフォーム)に基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、ゲル等電点電気泳動、可動化による等電点電気泳動、全カラムイメージングによる等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィ、pH勾配交換クロマトグラフィ、等速電気泳動、キャピラリゾーン電気泳動、キャピラリゲル電気泳動、または例えば電荷に基づく他の濃縮技術が含まれ得る。
【0118】
604での第1の濃縮はクロマトグラフィ濃縮として記載されており、608での第2の濃縮は電気泳動濃縮として記載されているが、任意の好適な濃縮を任意の好適な順序で行うことができることを理解されたい。例えば、604での第1の濃縮および608での第2の濃縮は、ともにクロマトグラフィ濃縮であり得るか、ともに電気泳動濃縮であり得る。別の例として、604での第1の濃縮は電気泳動濃縮であり得、608での第2の濃縮はクロマトグラフィ濃縮であり得る。
【0119】
いくつかの例では、1つ以上の濃縮は、酸化などの疎水性変化に基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、逆相クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、または例えば疎水性に基づく他の濃縮技術が含まれ得る。
【0120】
いくつかの例では、1つ以上の濃縮は、翻訳後修飾、ガラクトシル化、フコシル化、シアリル化、マンノース誘導体およびその他のグリコシル化を含むグリコフォーム、ならびにグリケーション、酸化、還元、リン酸化、スルファネーション(sulphanation)、ジスルフィド結合形成、脱アミド、アシル化、ペグ化、切断、抗体薬物コンジュゲーション(ADC)、タンパク質薬物コンジュゲーション、C末端リジンプロセシング、他の天然および非天然の翻訳後修飾、およびタンパク質の翻訳後に導入される他の化学的および構造的修飾などに基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、結合アッセイなどが含まれ得る。
【0121】
いくつかの例では、1つ以上の濃縮は、酸化などの疎水性変化に基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、逆相クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、親水性相互作用クロマトグラフィ、または疎水性に基づく他の濃縮技術が含まれ得る。
【0122】
いくつかの例では、1つ以上の濃縮は、変異、製造中のアミノ酸置換などによって引き起こされるような一次アミノ酸配列に基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、電荷アイソフォームによる分離、疎水性変化、または一次アミノ酸配列の差を区別することができる他の濃縮技術が含まれ得る。
【0123】
いくつかの例では、1つ以上の濃縮は、効力に基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、バイオアッセイ、酵素阻害アッセイ、酵素活性化アッセイ、競合アッセイ、蛍光偏光アッセイ、シンチレーション近接アッセイ、または効力に基づく他の濃縮技術などが含まれ得る。
【0124】
いくつかの例では、1つ以上の濃縮は、親和性に基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、標的に対する溶液相結合、ビーズベースの標的に対する結合、表面結合標的、免疫沈降、プロテインA結合、プロテインG結合などが含まれ得る。
【0125】
いくつかの例では、1つ以上の濃縮は、質量またはサイズに基づいて濃縮された画分を提供することができる。そのような濃縮には、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリゲル電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィ、ゲル浸透クロマトグラフィ、または質量に基づく他の濃縮技術が含まれ得る。
【0126】
いくつかの例では、分析物混合物は、装置から排出される前に2つを超える濃縮を経る。
【0127】
610では、濃縮された分析物画分を装置から排出することができる。いくつかの実施形態では、濃縮された分析物画分は、エレクトロスプレーイオン化を介して排出することができる。608では、分析物画分を濃縮することにより、マイクロ流体装置から排出される前に分析物画分を濃縮することができる。
【0128】
いくつかの例では、分析物画分は、エレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化などのイオン化技術を使用して、610で排出される。
【0129】
いくつかの例では、分析物画分は、動電学的な力または流体力を使用して、610で排出される。
【0130】
いくつかの例では、濃縮されたタンパク質画分は、610で、質量分析計に結合された方法で装置から排出される。
【0131】
マイクロ流体装置から排出される(例えば、生物学的またはバイオシミラー)分析物の質量は、例えば、飛行時間質量分析、四重極質量分析、イオントラップまたはオービトラップ質量分析、飛行距離質量分析、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴、共鳴質量測定およびナノメカニカル質量分析(nanomechanical mass spectrometry)によって測定することができる。
【0132】
いくつかの例では、pIマーカを使用して、視覚化されたIEFチャネル(例えば、第1の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーンおよび/または第2の分離チャネルおよび/または濃縮ゾーン)のpI範囲をマッピングする。いくつかの実施形態では、pIマーカまたは両性電解質を使用して、下流の質量分析データ中のそれらの存在によって分析物のpIを決定することができる。
【0133】
いくつかの例では、可動化およびESI中にIEFを監視することができる。このように、質量分析データをIEFのピークと相関させることができ、これにより、ピーク分解能を維持および/または改善することができる。
【0134】
いくつかの例では、分析物混合物および/またはその一部は、圧力源を使用してマイクロ流体装置内で可動化することができる。いくつかの例では、可動化は静水圧を用いて行われる。いくつかの例では、可動化は化学的可動化である。いくつかの例では、可動化は動電学的可動化である。
【0135】
図8は、本開示の一態様による、マイクロ流体装置の概略図である。マイクロ流体網800が、基板802内に配置され、および/または基板802によって画定される。基板は、行われる濃縮工程に適合した材料から製造される。例えば、化学的適合性、pH安定性、温度、光の様々な波長での透明度、機械的強度などが、材料を選択する際に懸念され得る 基板802は、ガラス、石英、溶融シリカ、プラスチック、ポリカーボネート、PFTE、PDMS、シリコン、ポリフッ素化ポリエチレン、ポリメタクリレート、環状オレフィンコポリマー、環状オレフィンポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよび/または任意の他の好適な材料から製造され得る。平面基板の異なる層に対して異なる特性が望まれる場合、材料の混合物を利用することができる。
【0136】
チャネル806、808、810、811、817、814、812は、チャネル網を形成し、基板802に加工される(例えば、基板802によって画定される)。
【0137】
チャネルは、フォトリソグラフィ・エッチング、成形、機械加工、積層(3D)印刷などの任意のチャネル製造方法によって基板に加工されてもよい。
【0138】
チューブ804を通して分析物混合物および外部試薬をロードすることができ、チューブ810および818を通して過剰な試薬/廃棄物を除去することができる。
【0139】
チューブ804および810 818は、溶融シリカ、溶融シリカキャピラリチューブ、シリコーン管、PFTE管などを含め、行われるアッセイに適合する任意の材料から製造することができる。
【0140】
チャネル806および814は、分離/濃縮ゾーンとして指定することができる。チャネル806および/または814のいずれかを使用して、クロマトグラフィ分離(逆相、免疫沈降、イオン交換、サイズ排除、リガンド親和性、色素親和性、疎水性相互作用、親和性、キャピラリ動電クロマトグラフィ、ミセル動電クロマトグラフィなど)または電気泳動分離(等電点電気泳動、キャピラリゲル電気泳動、キャピラリゾーン電気泳動、等速電気泳動、キャピラリ動電クロマトグラフィ、ミセル動電クロマトグラフィ、フローカウンタバランスキャピラリ電気泳動、電場勾配フォーカシング、動的場勾配フォーカシングなど)を行うことができる。例えば、チャネル806は、チャネル806内の暗色の円によって表される、第1の濃縮工程を行うための材料により誘導体化するか、その材料を充填することができる。
【0141】
チャネル806に配置される材料は、疎水性(逆相)、親和性(効力)、サイズ(サイズ排除クロマトグラフィ)、電荷(イオン交換)、免疫親和性(免疫沈降)、タンパク質間相互作用、DNA-タンパク質相互作用、アプタマーに基づく捕捉、小分子に基づく捕捉に基づいて、または他の形態の液体クロマトグラフィなどにより、分析物を捕捉するように選択することができる。
【0142】
多くの異なる方法を使用して、チャネル806および/または814内に濃縮材料を配置することができる。共有結合または吸着分子により壁を直接誘導体化することができるか、ビーズ、ガラス粒子、ゾルゲルなどを誘導体化し、これらのチャネルにロードすることができるか、線状ポリマー溶液、例えば、線状ポリアクリルアミド(LPA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキシド(PEO)、デキストランなど、架橋ポリマー溶液、例えば、ポリアクリルアミドなど、液体クロマトグラフィ用のマトリックス、または他の材料などの篩材料(sieving material)をチャネルに充填することができる。
【0143】
行われる特定のアッセイに応じて、化学反応性溶液を加えてもよい。場合によっては、材料の誘導体化は、材料がチャネル806(またはチャネル814)にロードされた後、ロードされた材料に吸着するか共有結合する分子、または材料に反応性要素を化学的に架橋し得る分子を加えることによって行ってもよい。例えば、プロテインA、プロテインG、エポキシなどのような抗体結合分子によってコーティングされた材料をチャネル806内に配置することができる。抗体溶液を用いたその後のリンスは、抗体によってコーティングされた材料を残し、免疫親和性捕捉に関与することができる。場合によっては、抗体が材料上にコーティングされる前に遊離溶液中でその標的に結合することができるように、抗体と標的分析物または溶解物とを混合してもよい。
【0144】
濃縮材料が装置にロードされた後、チューブ804を介してチャネル806に試料がロードされる。その後、洗浄溶液および溶出試薬が、チューブ804を通してチャネル806に導入され得る。
【0145】
場合によっては、捕捉された材料に結合するように検出試薬が加えられる。リジン、システインおよび他のアミノ酸部分などのアミノ酸側鎖に対する結合によって、ポリペプチドの末端の標的タンパク質にフルオロフォア、発色団または他の検出分子などの検出部分を共有結合させることができる多数の標識試薬が利用可能である。共有結合された検出部分により、蛍光励起、発色団アッセイまたは他の間接的な手段を通じてタンパク質を検出することが可能になる。場合によっては、標的タンパク質は標識されないままであり、220nm、280nm、もしくはタンパク質が光を吸収する他の任意の波長の自然吸光度、または自然蛍光によって検出され得る。場合によっては、非共有結合の蛍光発生標識、発色性標識、蛍光標識または発色団標識、例えば、SYPRO(登録商標)ルビー、クマシーブルーなどを使用してタンパク質が検出される。
【0146】
場合によっては、チャネル814に検出試薬を直接加えて検出を支援する。
【0147】
溶出プロセスは、チャネル806内で行われる濃縮方法に応じて決まる。溶出プロセスは、結合した分析物の少なくとも一部を溶出するように選択される。場合によっては、これは、熱と、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、もしくは他の界面活性剤、グリシン、尿素、または捕捉された分析物の放出を誘導する任意の他の方法との組合せによって達成することができる。一部の濃縮オプションは、直接溶出工程を必要としないものもある(例えば、サイズ排除クロマトグラフィ)。場合によっては、溶出の後に変性が続く。
【0148】
次いで、溶出液は、チャネル808を通って次の分離/濃縮ゾーンであるチャネル814に流れる。チャネル814は、クロマトグラフィ濃縮工程または電気泳動濃縮工程のいずれかを行うために使用され得る。
【0149】
電気泳動分離は、リザーバ812とリザーバ816との間に電場を印加するために電源を使用することによって、チャネル814内で行うことができる。チャネル806からの溶離液がチャネル808と814との交点を通過すると、電場が有効になり、分析物がチャネル814にロードされる。場合によっては、タンパク質分析物がSDSのような負に帯電した界面活性剤によって飽和される標準的なゲル電気泳動モードのように、分析物は負に帯電される。ただし、例えば、タンパク質分析物が臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)などの正に帯電した界面活性剤によって飽和される系に対応するために、チャネル814の極性は容易に反転させることができる。他の場合には、タンパク質分析物は、中性界面活性剤によってコーティングされてもよいか、例えば、天然ゲル電気泳動では界面活性剤を用いずコーティングされてもよい。この場合、選択された緩衝系でのタンパク質標的の予測電荷に基づいて極性が選択されて、タンパク質分析物はチャネル814内に移動する。
【0150】
チャネル814では、IEF、ITP、CGE、CZEなどの任意のCE電気泳動法を行うことができる。あるいは、非電気泳動濃縮法をチャネル内で行うことができる。
【0151】
全カラムイメージング、部分的なカラムのイメージングによって、および/または単一点検出によって、チャネル814内の分析物を視認することができる。
【0152】
場合によっては、別の分析物試料に対して装置を使用することができるように、チャネル806、814または両方の濃縮材料を除去し、新鮮な材料を補充してもよい。場合によっては、
図8などのチャネル設計が、装置に対して複数回繰り返されてもよく、その結果、複数の分析物試料が並行して分析され得る。
【0153】
マイクロ流体装置の設計および製造:開示される方法、装置およびシステムのいくつかの例では、混合物からの分析物の分離、および場合により、ESI-MSまたは他の分析機器を使用したそれらのその後の分析は、1つ以上の試料調製工程(例えば、濾過工程、予備濃縮工程または抽出工程など)および/または分離工程(例えば、上述のように)をエレクトロスプレーイオン化工程と統合するように設計されたマイクロ流体装置を使用して行われてもよい。
【0154】
いくつかの例では、開示されるマイクロ流体装置は、1つ以上の試料ポートまたは試薬ポート(入口ポート、試料ウェルまたは試薬ウェルとも呼ばれる)、1つ以上の廃棄物ポート(出口ポートとも呼ばれる)、該入口ポートおよび出口ポートを互いに、もしくは中間流体チャネル(例えば、分離チャネル)と接続する1つ以上の流体チャネル、またはそれらの任意の組合せを備え得る。いくつかの実施形態では、開示されるマイクロ流体装置は、1つ以上の反応チャンバもしくは混合チャンバ、1つ以上の微細加工弁、1つ以上の微細加工ポンプ、1つ以上のベント構造、1つ以上の膜(例えば、濾過膜)、1つ以上のマイクロカラム構造(例えば、クロマトグラフィ分離媒体が充填された流体チャネルまたは改変された流体チャネル)、またはそれらの任意の組合せをさらに備え得る。
【0155】
当業者に公知の様々な流体作動機構のいずれかを使用して、装置を通る試料および試薬の流体の流れを制御してもよい。開示される方法、装置およびシステムに使用するのに適した流体作動機構の例には、限定するものではないが、1つ以上の入口ポートもしくは出口ポートに対する正圧もしくは負圧の印加、重力もしくは遠心力、動電学的な力、エレクトロウェッティング力またはそれらの任意の組合せが挙げられる。いくつかの実施形態では、正圧または負圧は、例えば、流体チャネルを通る試料または試薬の流れを作動させるために入口ポートおよび/または出口ポートに結合される機械的アクチュエータまたはピストンを使用することによって直接印加されてもよい。いくつかの実施形態では、機械的アクチュエータまたはピストンは、入口ポートおよび/または出口ポートを封止するために使用される可撓性膜または隔壁に対して力を及ぼし得る。いくつかの実施形態では、正圧または負圧は、例えば、1つ以上の入口ポートおよび/または出口ポートに接続された加圧ガスラインまたは真空ラインを使用することによって間接的に印加されてもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上の入口ポートおよび/または出口ポートに接続されたポンプ、例えば、プログラム可能なシリンジポンプ、HPLCポンプ、または蠕動ポンプを使用して、流体の流れを駆動してもよい。いくつかの実施形態では、動電学的な力および/またはエレクトロウェッティング力は、電場を使用して、および装置内の表面特性の制御を通じて印加されてもよい。電場は、1つ以上の入口ポートおよび/または出口ポートに挿入された電極によって、または装置内の1つ以上の流体チャネルに組み込まれた電極によって印加されてもよい。電極は、装置内の電圧および/または電流を制御するために、1つ以上のDC電源またはAC電源と接続されてもよい。
【0156】
一般に、装置の本体を含め、開示されるマイクロ流体装置の入口ポート、出口ポート、流体チャネルまたは他の構成要素は、限定するものではないが、ガラス、溶融シリカ、シリコン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、環状オレフィンコポリマー(COC)もしくは環状オレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)または他のエラストマー材料を含む様々な材料のいずれかを使用して製造され得る。好適な製造技術は、一般に、材料の選択に応じて決まり、逆もまた同様である。例には、限定するものではないが、CNC機械加工、フォトリソグラフィおよび化学エッチング、レーザフォトアブレーション、射出成形、熱エンボス加工、ダイカット、3D印刷などが挙げられる。いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置は、例えば、流体チャネルを備えるフルイディクス層が上層および/または下層の間に挟まれてチャネルを封止する層状構造を備えてもよい。上層および/または下層は、フルイディクス層の流体チャネルと整列して、入口ポートおよび/または出口ポートなどを作成する開口部を備えてもよい。2つ以上の装置層を一緒に締結して、分解され得るか、恒久的に結合され得る装置を形成してもよい。好適な結合技術は、一般に、層を製造するために使用される材料の選択に応じて決まる。例には、限定するものではないが、陽極接合、熱接合、レーザ溶接、またはUV硬化性接着剤の使用が挙げられる。
【0157】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置内の入口ポート、出口ポートまたは流体チャネルの全部または一部は、入口ポート、出口ポートまたは流体チャネル壁の電気浸透流特性(例えば、HPCまたはPVAコーティング)および/または疎水性/親水性特性(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)コーティング)を改変するために使用される表面コーティングを含み得る。
【0158】
開示される装置の入口ポートおよび/または出口ポートは、様々な形状およびサイズで製造することができる。適切な入口ポートおよび/または出口ポートの形状には、限定するものではないが、円筒形、楕円形、立方体、円錐形、半球形、長方形もしくは多面体(例えば、いくつかの平面、例えば、長方形直方体、六角柱、八角柱、逆三角錐、逆四角錐、逆五角錐、逆六角錐または逆切頭角錐から構成される三次元形状)またはそれらの任意の組合せが含まれる。
【0159】
入口ポートおよび/または出口ポートの寸法は、平均直径および深さに関して特徴付けられ得る。本明細書で使用される場合、入口ポートまたは出口ポートの平均直径とは、入口ポートおよび/または出口ポートの形状の平面断面内に内接し得る最大の円を指す。本開示のいくつかの実施形態では、入口ポートおよび/または出口ポートの平均直径は、約0.5mm~約10mmの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、入口ポートおよび/または出口ポートの平均直径は、少なくとも0.5mm、少なくとも1mm、少なくとも2mm、少なくとも4mm、少なくとも8mmまたは少なくとも10mmであり得る。いくつかの実施形態では、平均直径は、最大10mm、最大8mm、最大6mm、最大4mm、最大2mm、最大1mmまたは最大0.5mmであり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの実施形態では、平均直径は約2mm~約8mmの範囲であり得る。当業者であれば、入口ポートおよび/または出口ポートの平均直径が、この範囲内の任意の値、例えば、約5.5mmを有することを認識するであろう。
【0160】
いくつかの実施形態では、入口ポートおよび/または出口ポート(例えば、試料ウェルまたは試薬ウェル)の深さは、約5μm~約500μmの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、深さは、少なくとも5μm、少なくとも10μm、少なくとも25μm、少なくとも50μm、少なくとも75μm、少なくとも100μm、少なくとも200μm、少なくとも300μm、少なくとも400μmまたは少なくとも500μmであり得る。いくつかの実施形態では、深さは、最大500μm、最大400μm、最大300μm、最大200μm、最大100μm、最大50μm、最大25μm、最大10μmまたは最大5μmであり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの実施形態では、入口ポートおよび/または出口ポートの深さは約50μm~約200μmの範囲であり得る。当業者であれば、深さが、この範囲内の任意の値、例えば、約130μmを有し得ることを認識するであろう。
【0161】
いくつかの実施形態では、開示される装置の流体チャネルは、正方形、長方形、円形などの様々な断面形状のいずれかを有し得る。一般に、流体チャネルの断面形状は、流体チャネルを作成するために使用される製造技術に応じて決まり、逆もまた同様である。いくつかの実施形態では、流体チャネルの断面寸法(例えば、非長方形断面の流体チャネルの高さ、幅または平均直径。ここで、平均直径とは、流体チャネルの断面形状内に内接し得る最大の円の直径として定義される)は、約5μm~約500μmの範囲であり得る。いくつかの実施形態では、流体チャネルの寸法は、少なくとも5μm、少なくとも10μm、少なくとも25μm、少なくとも50μm、少なくとも75μm、少なくとも100μm、少なくとも200μm、少なくとも300μm、少なくとも400μmまたは少なくとも500μmであり得る。いくつかの実施形態では、流体チャネルの寸法は、最大500μm、最大400μm、最大300μm、最大200μm、最大100μm、最大50μm、最大25μm、最大10μmまたは最大5μmであり得る。本項に記載される下限値および上限値のいずれかを組み合わせて、本開示内に含まれる範囲を形成してもよく、例えば、いくつかの実施形態では、流体チャネルの寸法は約75μm~約300μmの範囲であり得る。当業者であれば、寸法が、この範囲内の任意の値、例えば、約95μmを有し得ることを認識するであろう。いくつかの実施形態では、流体チャネルの深さは、装置の入口ポートおよび/または出口ポートの深さと等しくてもよい。
【0162】
開示される装置のいくつかの例では、可動化チャネルと分離チャネルとの間の交点は、約10度~約90度の範囲の角度を含み得る。いくつかの例では、可動化チャネルと分離チャネルとの間の角度は、少なくとも10度、少なくとも20度、少なくとも30度、少なくとも40度、少なくとも50度、少なくとも60度、少なくとも70度、少なくとも80度または少なくとも90度であり得る。
【0163】
試料分析のためのシステム
本開示の試料分析システムは、(i)開示される装置に試料を注入するための1つ以上のオートローダもしくは他の流体操作機器、(ii)分析物の分離を行うための開示される装置のうちの1つ以上、(iii)1つ以上の流体ポンプ(またはフルイディクスコントローラ)、(iv)1つ以上の高電圧電源(または電場/電流コントローラ)、(v)1つ以上のイメージングシステム(または「モジュール」、「ユニット」など)、(vi)1つ以上の質量分析計もしくは他の分析機器、および(vii)1つ以上のプロセッサ、コントローラもしくはコンピュータ、またはそれらの任意の組合せを備え得る。いくつかの例では、1つ以上のプロセッサ、コントローラまたはコンピュータは、試料のロードプロセスを自動化し、印加された圧力および/または電場により装置内の流体の流速を制御し(分離および/または可動化反応を行うことを含む)、画像取得プロセスを制御し、半自動化または完全自動化された画像処理を行い、マイクロ流体装置の動作と質量分析計または他の下流の分析機器との間の同期を制御し、質量分析計または他の下流の分析機器によるデータ取得、ならびに日付処理、保管および表示、またはそれらの任意の組合せを制御するためのコード化された命令を含むソフトウェアを実行するように構成されてもよい。
【0164】
イメージングハードウェア:開示される方法、装置およびシステムを実装するために、様々なイメージングシステムまたはシステムコンポーネントのいずれかを利用してもよい。例には、限定するものではないが、1つ以上の光源(例えば、発光ダイオード(LED)、ダイオードレーザ、ファイバレーザ、ガスレーザ、ハロゲンランプ、アークランプなど)、コンデンサレンズ、対物レンズ、ミラー、フィルタ、ビームスプリッタ、プリズム、画像センサ(例えば、CCD画像センサまたはカメラ、CMOS画像センサまたはカメラ)など、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。光源および画像センサは、利用されるイメージングモードに応じて、例えば、吸光度ベースの画像が取得され得るように、マイクロ流体装置の対辺に配置され得る。いくつかの例では、光源および画像センサは、例えば、エピ蛍光画像が取得され得るように、マイクロ流体装置の同じ側に配置され得る
。
【0165】
画像は、分離および/または可動化工程中に連続的に取得されてもよいし、ランダムに、または指定された時間間隔で取得されてもよい。いくつかの例では、一連の1つ以上の画像が連続的に、またはランダムに、または指定された時間間隔で取得される。いくつかの例では、一連の短い露光画像(例えば、10~20枚の画像)が高速(例えば、ミリ秒のタイムスケール)で取得され、次いで平均化されて、改善された信号対雑音比を有する「単一画像」を提供する。いくつかの例では、「単一画像」は、1秒、5秒、10秒、20秒、30秒ごとに、またはさらに長い時間間隔で取得される。いくつかの例では、いくつかの例では、一連の1つ以上の画像は、ビデオ画像を含み得る。
【0166】
画像処理ソフトウェア:いくつかの例では、上記のように、システムは、分析物ピークの存在を検出し、pIマーカまたは分離された分析物バンドの位置を決定し、ピーク形状、またはこれらのパラメータのいずれかの経時的な変化を決定するための画像処理ソフトウェアを実行するように構成されたプロセッサ、コントローラまたはコンピュータを備え得る。開示される方法およびシステムを実装する際の画像前処理または画像処理に、当業者に公知の様々な画像処理アルゴリズムのいずれかが利用されてもよい。例には、限定するものではないが、キャニーエッジ検出法、キャニー・デリチェエッジ検出法、1次勾配エッジ検出法(例えば、ソーベル演算子)、2次微分エッジ検出法、位相適合(位相コヒーレンス)エッジ検出法、他の画像セグメンテーションアルゴリズム(例えば、強度閾値処理、強度クラスタリング法、強度ヒストグラムベースの方法など)、機能およびパターン認識アルゴリズム(例えば、任意の形状を検出するための一般化ハフ変換、円形ハフ変換など)、ならびに数学的分析アルゴリズム(例えば、フーリエ変換、高速フーリエ変換、ウェーブレット分析、自己相関など)、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0167】
プロセッサおよびコンピュータシステム:1つ以上のプロセッサまたはコンピュータを使用して、本明細書に開示される方法を実装してもよい。1つ以上のプロセッサは、中央処理装置(CPU)、グラフィック処理装置(GPU)、汎用処理装置またはコンピューティングプラットフォームなどのハードウェアプロセッサを備え得る。1つ以上のプロセッサは、様々な好適な集積回路(例えば、ディープラーニングネットワークアーキテクチャを実装するために特別に設計された特定用途向け集積回路(ASIC)、計算時間などを加速するため、および/または配備を容易にするためのフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA))、マイクロプロセッサ、新興の次世代マイクロプロセッサ設計(例えば、メモリスタベースのプロセッサ)、論理デバイスなどのいずれかから構成され得る。本開示はプロセッサを参照して説明されているが、他のタイプの集積回路および論理デバイスも適用可能であり得る。プロセッサは、任意の好適なデータ運用能力を有し得る。例えば、プロセッサは、512ビット、256ビット、128ビット、64ビット、32ビットまたは16ビットのデータ運用を実行し得る。1つ以上のプロセッサは、シングルコアプロセッサもしくはマルチコアプロセッサ、または並列処理用に構成された複数のプロセッサであり得る。
【0168】
用途
開示される方法、装置およびシステムは、限定するものではないが、プロテオミクス研究、細胞研究、創薬および臨床診断を含む様々な分野で潜在的な用途を有する。例えば、開示される方法を使用して分析物試料の分離ベースのESI-MS分析のために達成され得る改善された再現性および定量は、開発および/または製造中の生物学的製剤およびバイオシミラー製剤の特性評価のために非常に有益であり得る。
【0169】
生物学的製剤およびバイオシミラー製剤は、例えば、組換えタンパク質、抗体、生ウイルスワクチン、ヒト血漿由来タンパク質、細胞ベースの医薬品、天然由来タンパク質、抗体薬物複合体、タンパク質薬物複合体および他のタンパク質薬を含む薬物のクラスである。FDAおよび他の規制当局は、バイオシミラリティを実証するための段階的アプローチの使用を要求しており、これには、構造、機能、動物毒性、ヒトでの薬物動態(PK)および薬力学(PD)、臨床での免疫原性、ならびに臨床での安全性および有効性に関して、提案された製品と参照製品との比較が含まれ得る(“Scientific Considerations in Demonstrating Biosimilarity to a Reference Product:Guidance for Industry”,U.S.Department of Health and Human Services,Food and Drug Administration,April 2015を参照)。タンパク質製品に必要になり得る構造特性評価データの例には、一次構造(すなわち、アミノ酸配列)、二次構造(すなわち、αヘリックス構造またはβシート構造を形成するためのフォールディングの程度)、三次構造(すなわち、ポリペプチド骨格および二次構造ドメインにより生成されたタンパク質の三次元形状)および四次構造(例えば、活性タンパク質複合体を形成するのに必要なサブユニットの数、またはタンパク質の凝集状態))が挙げられる。多くの場合、この情報は、X線結晶解析法など、困難で時間および費用のかかる技術を使用しなければ利用できない可能性がある。したがって、候補生物学的薬物と参照薬物との間のバイオシミラリティを確立するために、タンパク質構造の便利で、リアルタイムで、比較的ハイスループットな特性評価を可能にする実験技術が必要である。
【0170】
いくつかの例では、開示される方法、装置およびシステムは、バイオシミラリティを確立するために、生物学的薬物候補(例えば、モノクローナル抗体(mAb))および参照生物学的薬物の構造比較データを提供するために使用され得る。例えば、いくつかの例では、薬物候補および参照薬物の等電点データおよび/または質量分析データは、バイオシミラリティの実証を裏付ける重要な証拠を提供し得る。いくつかの実施形態では、同一の反応条件下でともに部位特異的プロテアーゼにより処理された薬物候補および参照薬物の等電点データおよび/または質量分析データは、バイオシミラリティの実証を裏付ける重要な証拠を提供し得る。いくつかの実施形態では、開示される方法、装置およびシステムを使用して、生物学的薬物製造プロセスを監視して(例えば、リアルタイムでバイオリアクタプロセスを監視して)、製造プロセスの異なる時点で採取された試料、または異なる製造工程から採取された試料を分析することによって、製品の品質および一貫性を保証してもよい。
【0171】
[実施例]
これらの実施例は、例示のみを目的として提供されており、本明細書で提供される特許請求の範囲を限定するものではない。
【0172】
[実施例1]-質量分析(MS)の前にチップ上のタンパク質電荷を特性評価する
この実施例では、
図4に示すチャネル網は、ソーダ石灰ガラスのプレートから製造され、このソーダ石灰ガラスは、標準的なフォトリソグラフィ・エッチング技術を使用して、280nmの光の非常に低い透過率を有する。濃縮チャネル418の深さは、ガラス層402の厚さと同じである、すなわち、濃縮チャネル418は、このガラスプレート402の最上部から最下部まで通っている。装置400は、装置400の片側に配置された光源によって照明され、装置400の反対側に配置された検出器によってイメージングされ得る。基板402は不透明であるが、濃縮チャネル418は光学スリットを画定するため、基板402は濃縮チャネル418を通過しない光を遮断し、迷光を遮断し、イメージングプロセスの解像度を向上させることができる。
【0173】
ガラス層402は、280nmの光に対して透過性(例えば、透明)である2つの溶融シリカプレートの間に挟まれている。
図2のように、最上部プレートは、機器およびユーザがチャネル網と接合するための貫通孔を含むのに対して、最下部プレートは中実である。3つのプレートを520℃で30分間接着する。入口管および出口管を開裂キャピラリ(100μm ID、polymicro)から製造し、チャネル網に接着する。
【0174】
装置は、窒素ガス源、ヒータ、正圧ポンプ(例えば、Parker、T5-1IC-03-1EEP)、2つの白金イリジウム電極(例えば、Sigma-Aldrich、357383)で終端する電気泳動電源(Gamm High Voltage、MC30)、UV光源(例えば、LED、qphotonics、UVTOP280)、CCDカメラ(例えば、ThorLabs、340UV-GE)、および装置に試料をロードするためのオートサンプラを含む機器に取り付けられる。電源は質量分析計と共通の接地を共有している。機器はソフトウェア(例えば、labView)を介して制御される。
【0175】
タンパク質試料を両性電解質pH勾配およびpIマーカと予め混合してからバイアルに入れ、オートサンプラにロードする。それらは、オートサンプラから入口412を介して、濃縮チャネル418を通してマイクロ流体装置400に連続的にロードされ、装置から出て、出口434を通して廃棄物430に送られる。
【0176】
シース/カソード液(50%MeOH、N4OH/H2O)を2つのカソード液ウェル404、436にロードし、アノード液(10mM H3PO4)をアノード液ウェル426にロードし、加熱された窒素ガスの供給源を2つのガスウェル408、440に取り付ける。
【0177】
すべての試薬をロードした後、アノード液ウェル426およびカソード液ウェル404、436に電極を接続することによりアノード液ウェル426からカソード液ウェル404、436に+600V/cmの電場を印加して、等電点電気泳動を開始する。濃縮チャネル418の下にUV光源を整列させ、濃縮チャネル418の上にカメラを配置して、濃縮チャネル418を通過する光を測定し、それにより、それらの吸光度によって集束タンパク質を検出する。ソーダ石灰ガラスから構成されるガラスプレート402は、カメラからの迷光を遮断するように機能するため、濃縮チャネル418を通過しない光がカメラに到達するのが妨げられ、測定の感度が向上する。
【0178】
集束タンパク質の画像は、IEF中に継続的および/または定期的に取り込むことができる。集束が完了すると、入口412から低圧を印加し、オリフィス424に向かってpH勾配を可動化する。この時点で電場を維持して、高分解能IEF分離を維持することができる。ESIプロセス中に濃縮チャネル418をイメージングし続けることを使用して、各タンパク質がオリフィス424から排出される際にそれらのpIを決定することができる。
【0179】
濃縮されたタンパク質画分が濃縮チャネル418から合流点420に移動すると、それがシース流体と混合し、これにより、タンパク質画分が質量分析適合溶液に入れられ、集束されたタンパク質に対する電荷が回復され(IEFはタンパク質を非荷電状態にする)、イオン化が改善される。
【0180】
次いで、濃縮されたタンパク質画分は、ガラスプレート402の皿面422によって画定され得るオリフィス424に向かって進み続ける。濃縮されたタンパク質画分は、シース流体ウェル接地と質量分析計負極との間の電場に捕捉された後、テイラーコーンを生成することができる。
【0181】
溶液が濃縮チャネル418からテイラーコーンを押し続けると、流体の小滴がテイラーコーンから排出され、質量分析計入口に向かって飛翔する。窒素ガス(例えば、150℃)が、ガスウェル408、440から流れ、ガスチャネル410、432を下って、テイラーコーンの側面を打つ窒素ガスジェットを形成し、これにより、マイクロ流体装置を離れる前に、テイラーコーンから発散する液滴を微細ミストに変換することができ、質量分析計内での検出を支援することができる。入口412からの圧力を調整することにより、必要に応じてテイラーコーンのサイズを調整して、質量分析計内での検出を改善することができる。
【0182】
[実施例2]-逆相->IEF->MS
実施例2は、実施例1と同様であり得るが、
図1を参照して説明される。チャネル116は、C18により誘導体化されたゾルゲルがロードされた第1の濃縮ゾーンであり得る。タンパク質をロードした後、一定体積の溶出液(IEF両性電解質および標準物質を含むMeCN/H
2O)をチャネル116にロードして、ゾルゲルに捕捉された最も疎水性の低いタンパク質を溶出することができる。溶離液はチャネル124に向けられ、チャネル124は、IEF、UV吸光度モニタリング、および実施例1で説明したように最終的にESIが行われる第2の濃縮ゾーンであり得る。第1の溶離液のESIが完了すると、一定体積のさらに高いMeCN濃度を使用して、次に低い疎水性タンパク質画分を溶出する。
【0183】
[実施例3]-効力->IEF->MS
実施例3は、実施例2と同様であり得るが、生物学的薬物標的誘導体化ビーズがチャネル116にロードされ、タンパク質を捕捉するために使用され得る。溶液相標的(競合)、塩、pHなどによる溶出によって、反応の親和性を特性評価する。
【0184】
[実施例4]-逆相->キャピラリゾーン電気泳動->MS
実施例4は実施例2と同様であり得るが、
図5を参照して説明される。タンパク質混合物が、入口521を通してロードされ、逆相クロマトグラフィ用にC18により誘導体化されたビーズを含み得る濃縮ゾーン510まで通過し得る。ロード中、流体はゾーン510を通過し、視認領域511を通過し、出口522から出て廃棄される。視認領域510は、280nmのUV光に対して不透明であるソーダ石灰ガラスから作製された内部層を横断し、最上層および最下層は、280nmの光に対して透明である溶融シリカから作製される。
【0185】
280nmの光源が視認領域511の下に配置され、CCD検出器が視認領域511の上に配置される。
【0186】
20%MeCN/H2Oの溶液が、入口521および濃縮ゾーン510を通してロードされる。この溶液は、混合物中の最も疎水性の低いタンパク質が濃縮された画分を溶出する。濃縮ゾーン510から出口522に移動する際の濃縮されたタンパク質画分の280nmでの吸光度について、視認領域511が監視される。画分が濃縮ゾーン510と濃縮ゾーン515との交点に配置されると、電源がオンになり、リザーバ514の正極とリザーバ504の接地との間に電場が生成される。この極性は、電源の極性を切り替えることにより容易に反転させることができる。電場が存在すると、濃縮されたタンパク質画分は、キャピラリゾーン電気泳動によってタンパク質を分離する濃縮ゾーン515に移動する。分離されたタンパク質は、合流点516でシース、電解液と混合し、表面518にテイラーコーンを形成する。噴霧化窒素ガスラインが、ポート508および528で装置に接続され、チャネル512および530を通って移動し、エレクトロスプレーからの材料がオリフィス520を介して装置から出る際に、それらの側面を打つ。
【0187】
あるいは、流体動圧を使用して、濃縮されたタンパク質画分を濃縮ゾーン515にロードすることができる。
【0188】
[実施例5]-免疫沈降->タンパク質溶解物のキャピラリゲル電気泳動
この実施例では、
図8のレイアウトによって表されるマイクロ流体チャネル層が、環状オレフィンコポリマーから製造されている。同様に述べると、マイクロ流体装置800の基板802は、チャネル網を画定する。多くの用途では、例えば、蛍光検出が使用される場合、マイクロ流体装置800は、材料が分析物を検出するのに必要な光の波長範囲を透過させることを条件に、単一の材料を使用して製造され得る。
【0189】
プロテインAコーティングされたビーズがチャネル806にロードされる。これらのビーズは、プロテインAビーズに結合する、目的の標的に対して生じた抗体の溶液によりリンスされる。次いで、分析物の検出を妨げる抗体の脱落を減少させるために、ジメチルピメリミデート(DMP)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)などの市販の架橋試薬を使用して、この抗体をビーズに対する抗体に共有結合的に架橋する。免疫沈降ビーズを調製し、チャネル806にロードした後、チューブ804を介して溶解物分析物試料をロードすることができる。分析物が固定化抗体によって捕捉されるのに十分な時間を与えた後、未結合タンパク質を洗浄し、チューブ822を介して廃棄物に排出する。
【0190】
次に、タンパク質が抗体ビーズから溶出し、これを分析することができる。溶出は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の溶液をロードし、50℃で10分間加熱することによって達成される。溶出した分析物は、放出されると、チャネル808を通ってチャネル808と814との交点に向かって流れる。分析物プラグがチャネル808と814との交点に達すると、リザーバ812の負極とリザーバ816の正極との間で電場がオンになり、負に帯電したタンパク質が、蛍光発生タンパク質色素SYPRO(登録商標)ルビーがロードされたチャネル814内のデキストラン線状ポリマー溶液を通って移動する。
【0191】
蛍光標識された標的タンパク質は、全カラムイメージングを使用してCGE中にチャネル814で視覚化することができる。同様に述べると、SYPRO(登録商標)ルビー色素が280nmの光により励起され、618nmの放出光が検出器により測定されている間に、チャネル814全体をイメージングすることができる。
【0192】
[実施例6]-質量分析計インターフェースを用いないマイクロ流体設計の変形例
場合によっては、質量分析計インターフェースの有無によって異なる2つの設計のマイクロ流体層を有することが有利であろう。分析物を特性評価した後、質量分析データがなくても確認特性評価を行うことができる。ほぼ同じマイクロ流体設計で確認特性評価を行うことにより、異常が同定された場合、質量同定のための質量分析計インターフェースを有するチップにアッセイを戻すことは簡単であろう。これにより、確認データの異常が、質量分析データに対して分析されていることを示すために必要な作業を省略することができる。
【0193】
一例として、
図9は、オリフィス424および皿面422を有しない、
図4に示されるマイクロ流体装置400と同様のマイクロ流体設計を示す。分析物は、依然として入口904およびチャネル906を通して濃縮チャネル908までチップに導入されるが、分析後、試料は、オリフィスでエレクトロスプレーイオン化を行うのではなく、出口チャネル910を通してフラッシングされる。この設計は、一般的な操作のために実行することができ、次いで、質量同定が必要とされる時に、
図4に示されるマイクロ流体装置400上で同じ濃縮を行うことができ、これにより、
図8のマイクロ流体装置900上に見られる分析物変異体の同定を確実にする。
【0194】
[実施例7]-化学的可動化を使用して質量分析(MS)の前にチップ上のタンパク質電荷を特性評価する
この実施例では、
図4に示すチャネル網は、ソーダ石灰ガラスのプレートから製造され、このソーダ石灰ガラスは、標準的なフォトリソグラフィ・エッチング技術を使用して、280nmの光の非常に低い透過率を有する。濃縮チャネル418の深さは、ガラス層402の厚さと同じである、すなわち、濃縮チャネル418は、このガラスプレート402の最上部から最下部まで通っている。装置400は、装置400の片側に配置された光源によって照明され、装置400の反対側に配置された検出器によってイメージングされ得る。基板402は不透明であるが、濃縮チャネル418は光学スリットを画定するため、基板402は濃縮チャネル418を通過しない光を遮断し、迷光を遮断し、イメージングプロセスの解像度を向上させることができる。
【0195】
ガラス層402は、280nmの光に対して透過性(例えば、透明)である2つの溶融シリカプレートの間に挟まれている。
図2のように、最上部プレートは、機器およびユーザがチャネル網と接合するための貫通孔を含むのに対して、最下部プレートは中実である。3つのプレートを520℃で30分間接着する。入口管および出口管を開裂キャピラリ(100μm ID、polymicro)から製造し、チャネル網に接着する。
【0196】
装置は、窒素ガス源、ヒータ、正圧ポンプ(例えば、Parker、T5-1IC-03-1EEP)、2つの白金イリジウム電極(例えば、Sigma-Aldrich、357383)で終端する電気泳動電源(Gamm High Voltage、MC30)、UV光源(例えば、LED、qphotonics、UVTOP280)、CCDカメラ(例えば、ThorLabs、340UV-GE)、および装置に試料をロードするためのオートサンプラを含む機器に取り付けられる。電源は質量分析計と共通の接地を共有している。機器はソフトウェア(例えば、labView)を介して制御される。
【0197】
タンパク質試料を両性電解質pH勾配およびpIマーカと予め混合してからバイアルに入れ、オートサンプラにロードする。それらは、オートサンプラから入口412を介して、濃縮チャネル418を通してマイクロ流体装置400に連続的にロードされ、装置から出て、出口434を通して廃棄物430に送られる。
【0198】
カソード液(H2O中の1%N4OH)をカソード液ウェル436にロードし、アノード液(10mM H3PO4)をアノード液ウェル426にロードし、可動化剤溶液(49%MeOH、49%H2O、1%酢酸)をウェル404に加え、加熱された窒素ガスの供給源を2つのガスウェル408、440に取り付ける。
【0199】
すべての試薬をロードした後、アノード液ウェル426およびカソード液ウェル436に電極を接続することによって、アノード液ウェル426からカソード液ウェル436に+600V/cmの電場を印加して、等電点電気泳動を開始する。濃縮チャネル418の下にUV光源を整列させ、濃縮チャネル418の上にカメラを配置して、濃縮チャネル418を通過する光を測定し、それにより、それらの吸光度によって集束タンパク質を検出する。ソーダ石灰ガラスから構成されるガラスプレート402は、カメラからの迷光を遮断するように機能するため、濃縮チャネル418を通過しない光がカメラに到達するのが妨げられ、測定の感度が向上する。
【0200】
集束タンパク質の画像は、IEF中に継続的および/または定期的に取り込むことができる。集束が完了すると、カソード液ウェル436を接続する電極を切断し、可動化剤ウェル404の電極を使用して、アノード液ウェル426から可動化剤ウェル404に600V/cmの電場を印加する。さらに、ウェル404に圧力を印加して、404から424のオリフィスへ約100nL/分の流量を開始する。
【0201】
可動化剤溶液中の酢酸は、電場によって濃縮チャネル418に引き込まれ、そこでタンパク質および両性電解質をイオン化し、pH勾配を乱す。濃縮されたタンパク質画分をイオン化すると、それらはチャネル418から合流点420に移動する。次いで、濃縮されたタンパク質画分は、合流点420を通して可動化剤溶液とともに流れ、エレクトロスプレーイオン化(ESI)によってチップオリフィス424を介して排出される。ESIプロセス中に濃縮チャネル418をイメージングし続けることを使用して、各タンパク質がオリフィス424から排出される際にそれらのpIを決定することができる。
【0202】
濃縮されたタンパク質画分が濃縮チャネル418から合流点420に移動すると、それが可動化剤溶液と混合し、これにより、タンパク質分画が質量分析適合溶液に入れられ、タンパク質のイオン化が維持される。
【0203】
次いで、濃縮されたタンパク質画分は、ガラスプレート402の皿面422によって画定され得るオリフィス424に向かって進み続ける。濃縮されたタンパク質画分は、シース流体ウェル接地と質量分析計負極との間の電場に捕捉された後、テイラーコーンを生成することができる。
【0204】
溶液が濃縮チャネル418からテイラーコーンを押し続けると、流体の小滴がテイラーコーンから排出され、質量分析計入口に向かって飛翔する。窒素ガス(例えば、150℃)が、ガスウェル408、440から流れ、ガスチャネル410、432を下って、テイラーコーンの側面を打つ窒素ガスジェットを形成し、これにより、マイクロ流体装置を離れる前に、テイラーコーンから発散する液滴を微細ミストに変換することができ、質量分析計内での検出を支援することができる。入口412からの圧力を調整することにより、必要に応じてテイラーコーンのサイズを調整して、質量分析計内での検出を改善することができる。
【0205】
[実施例8]-市販の機器を用いて行われたIEF分離と、開示される装置を用いて行われた分離との比較
図10は、2つの異なるC末端リジン変異体を含むNISTモノクローナル抗体(mAb)を集束させるために市販の等電点電気泳動機器(Protein Simple,San Jose,CA)を使用して得られた分析物分離データの例を提供する(Genentech,Emerging Technologies for Therapeutic Monoclonal Antibody Characterization,Volume 2.Biopharmaceutical Characterization:The NISTmAb ACS Symposium Series;American Chemical Society:Washington,DC,2015)。タンパク質分析物ピークの吸光度を測定し、分離軸に沿った(画像センサピクセル内の)ピーク位置の関数としてプロットした。IEFを使用してモノクローナル抗体アイソフォームを分離し、それぞれのpIに基づいて分離する。IEF電気泳動図では、モノクローナル抗体の2つのC末端リジン変異体(1006)に対応する2つの異なる塩基性アイソフォームを観察することができる。
【0206】
図11は、
図10に示されるデータに使用されるのと同じNISTモノクローナル抗体の分離のための等電点電気泳動データの例を提供する。
図7に示す装置(
図4に示され、上述されたものと同様であるが、ウェル408および440、チャネル410および432、ならびに凹部422を欠き、幅250μm×深さ100μmの断面を有する長さ5cmの分離/濃縮チャネル718を備える。Guarantコーティング(Alcor Bioseparations,Palo Alto,CA)により分離チャネルをコーティングした)で等電点電気泳動を行った。装置700は、分離チャネル718の厚さを画定するガラスまたはポリマー層702と、チャネル706を介して合流点領域724と流体連通している可動化剤ウェル704と、チャネル714を介して分離/濃縮チャネル718の近位端と流体連通している入口712と、チャネル728を介して分離/濃縮チャネル718の近位端と流体連通しているアノード液ウェル726と、流体チャネル730を介して分離/濃縮チャネル718の遠位端と流体連通している出口734と、チャネル738を介して合流点領域724と流体連通しているカソード液ウェル736と、装置の動作中にテイラーコーン720を生成するエレクトロスプレーオリフィス722とを備える。等電点電気泳動と可動化剤の電気泳動的導入とを行うためのアノード、カソードおよび可動化電極の間の電場の印加は、上記のように、
図4に示す装置の対応する特徴について述べた通りである。
【0207】
1.5%Pharmalyte 3-10、1.5%Pharmalyte 8-10.5(水中)中の250μg/mLのNIST mAbの試料を分離チャネルにロードし(1%ギ酸をアノード液として使用、1%ジエチルアミンをカソード液として使用(いずれも水中))、300V/cmの分離電場を1分間印加し(ジュール熱を最小限に抑えるため)、続いて600V/cmの電場を6分間印加した(試料の最初の集束に続いて、分離チャネルの導電率は低下し、電場が増加されてIEF分離が加速され得る)。分離チャネルの全チャネルイメージングによりUV吸光度トレースを取得した。NIST mAbの2つのC末端リジン変異体は明確に分離されている。開示されるマイクロ流体装置および方法を使用して行われるIEF分離の再現性は、3つの異なるチップ(2811、2808および2805)を使用して取得されたトレースの比較によって示される。
【0208】
[実施例9]-pH勾配の線形性
図12は、
図7に示され、上述されたマイクロ流体装置で行われる分離反応の等電点電気泳動データの例を提供する。3%Pharmalyte 3-10(水中)にpH3.38、4.05、7.00、8.40、9.99および10.17のpIマーカを含む試料を分離チャネルにロードし(1%ギ酸をアノード液として使用、1%ジエチルアミンをカソード液として使用(いずれも水中))、300V/cmの分離電場を1分間印加した後、600V/cmの電場を6分間印加した。分離チャネルの全チャネルイメージングにより、
図12に示すUV吸光度トレースを取得した。pH10.0および10.2マーカを含むpIマーカは、十分に分離されている。
【0209】
図13は、
図12に示されるデータに関する、(画像センサピクセルに関する)ピーク位置対pHのプロットを提供する。破線は、直線に対する実験データの最良の適合を示し、開示される装置および方法を使用して達成され得るpH勾配の極めて高い精度を示している。
【0210】
[実施例10]-可動化剤の電気泳動的導入および分離分解能の向上
図14は、
図7に示され、上述されたものなどのマイクロ流体装置における一連のpI標準物質の等電点電気泳動のデータの例を示す。3%Pharmalyte 3-10(水中)にpH3.38、4.05、7.00、8.40、9.99および10.17(各250μg/mL)のpIマーカを含む試料を分離チャネルにロードし(1%ギ酸をアノード液として使用、1%ジエチルアミンをカソード液として使用、1%ギ酸、50%イソプロピルアルコールを可動化剤として使用(いずれも水中))、300V/cmの分離電場を1分間印加した後、600V/cmの電場を6分間印加した。分離チャネルの全チャネルイメージングにより、
図14に示すUV吸光度トレースを取得した。
【0211】
等電点電気泳動分離の完了後、分離電場を提供するために使用したカソードをオフにし、可動化チャネルと電気通信しているカソードをオンにして、分離チャネルへの可動化剤の電気泳動的導入による可動化を開始した。カソードとアノードとの間に電場(400V/cm)を印加して、可動化剤の電気泳動を5分間駆動した。
図15A~Fは、可動化場をオンにした後、1分(
図15A)、2分(
図15B)、3分(
図15C)、4分(
図15D)、5分(
図15E)、および6分(
図15F)の時点で取得されたUV吸光度トレースの例を示す。図から分かるように、この一連のトレースではバンドの広がりの拡大はほとんどまたは全く観察されず、電極のオンチップスイッチングと、可動化剤の電気泳動的導入の使用とは、それらが分離チャネルから移動される際であっても、IEFによって達成される分離分解能を維持することを示す。
【0212】
図16Aは、
図7に示され、上述されたものなどのマイクロ流体装置における、2つのpI標準物質(7.00および9.99)およびモノクローナル抗体を含む試料の等電点電気泳動のデータの例を示す。1.5%Pharmalyte 3-10、1.5%Pharmalyte 8-10.5(水中)にpH7.00および9.99のpIマーカ(各250μg/mL)ならびに250μg/mLのトラスツズマブを含む試料を分離チャネルにロードし(1%ギ酸をアノード液として使用、1%ジエチルアミンをカソード液として使用、1%ギ酸、50%イソプロピルアルコールを可動化剤として使用(いずれも水中))、300V/cmの分離電場を1分間印加した後、600V/cmの電場を6分間印加した。分離チャネルの全チャネルイメージングにより、
図16Aに示すUV吸光度トレースを取得した。
【0213】
等電点電気泳動分離の完了後、分離電場を提供するために使用したカソードをオフにし、可動化チャネルと電気通信しているカソードをオンにして、分離チャネルへの可動化剤の電気泳動的導入による可動化を開始した。カソードとアノードとの間に電場(400V/cm)を印加して、可動化剤の電気泳動を5分間駆動した。
図16Bは、電気泳動可動化工程の開始後5分に取得されたUV吸光度トレースの例を示す。
【0214】
異なるピーク対の分離分解能は、
図16A~
図16Bに示すUV吸光度トレースから計算し、推定分離分解能は、2つのピーク(ピクセル単位)に関する移動時間の差を全ベースラインピーク幅(ピクセル単位)で割って計算した。この計算は、かろうじてベースライン分解されたガウスピークに対して0.5の値を生じる。
図16A~Bに示すUVトレースから計算された分解能データを表1に要約し、開示される電気泳動可動化法の使用が、可動化が行われる際にピーク分解能の測定可能な改善をもたらすことを示す。
【表1】
【0215】
開示される方法、装置およびシステムの好ましい実施形態を本明細書に示し、説明してきたが、そのような実施形態が例としてのみ提供されていることは当業者には明らかであろう。ここで、本発明から逸脱することなく、多数の変形例、変更および置換が当業者に思い浮かぶであろう。本明細書に記載される方法、装置およびシステムの実施形態に対する様々な代替案が、本発明を実施する際に任意の組合せで使用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を規定し、これらの特許請求の範囲内の方法および構造ならびにそれらの均等物が特許請求の範囲によって包含されることが意図される。