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特許7530424使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの環境に優しい精製及び再活性化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの環境に優しい精製及び再活性化方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20240731BHJP
   B01D 11/02 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
C09C1/48
B01D11/02 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022524122
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-02
(86)【国際出願番号】 IT2020050257
(87)【国際公開番号】W WO2021079395
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】102019000019595
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】522164178
【氏名又は名称】ティー.イー.シー. エス.アール.エル.
【氏名又は名称原語表記】T.E.C. S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】カタルド, フランコ
(72)【発明者】
【氏名】プリオリ, アンジェロ
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0047779(US,A1)
【文献】特表2016-520413(JP,A)
【文献】特開2002-097386(JP,A)
【文献】特開2002-265664(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0221920(US,A1)
【文献】米国特許第04264568(US,A)
【文献】特開2001-286894(JP,A)
【文献】特開昭58-164738(JP,A)
【文献】特開昭58-222157(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106554794(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1424380(CN,A)
【文献】国際公開第2015/093947(WO,A1)
【文献】J. Pisorz et al.,Recovery of Carbon Black from Scrap Rubber,ENERGY & FUELS,1999年03月19日,Vol. 13, No. 3,544-551
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/44-1/60
B01D 11/00-11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Reichardtスケールで36.5≦ET(30)≦41.6kcal/molの間の極性を有する溶媒を用いた抽出による、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法。
【請求項2】
記抽出溶媒が、メチルテトラヒドロフラン(Me-THF)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(AcOEt)、炭酸ジメチル(DMC)、酢酸メチル(AcOMe)、ジクロロメタン(CHCl)、ギ酸エチル(HCOEt)、酢酸エチルとエタノール(AcOEt/EtOH)が3:1(体積/体積)の共沸化合物から選択される、請求項1に記載の使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法。
【請求項3】
不活性雰囲気中での熱処理が、溶媒を用いた前記抽出の前に行われる、請求項1又は2に記載の使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法。
【請求項4】
溶媒抽出又は溶媒抽出及び不活性雰囲気中での熱処理によって事前に精製したカーボンブラックから亜鉛を選択的に抽出するステップをさらに含み、前記亜鉛を選択的に抽出するステップが、クエン酸及び酒石酸から選択されるカルボン酸を含む水溶液を使用することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法。
【請求項5】
前記水溶液が、フッ化水素酸を、クエン酸及び酒石酸から選択される前記カルボン酸と組み合わせて含む、請求項に記載の使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの環境に優しい精製及び再活性化方法に関する。
【0002】
詳細には、本発明は、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法であって、熱分解から得られたカーボンブラックの表面に堆積した熱分解ゴムの残渣、及びその中に含まれる多環芳香族炭化水素を除去するための、好ましくは-限定するものではないが-再生可能で非化石源からの原材料に由来する、毒性及び環境影響が低い又はゼロであることを特徴とする溶媒抽出による、すなわち、不活性雰囲気中での熱処理による、又は不活性雰囲気中での熱処理とそれに続く溶媒抽出による、精製方法に関する。
【0003】
本発明はまた、溶媒抽出によって、又は熱処理によって、又は熱処理とそれに続く溶媒抽出によって事前に精製した熱分解から得られたカーボンブラックから、完全に再生可能な供給源から得られたクエン酸及び酒石酸など、天然由来のカルボン酸を使用して亜鉛を抽出する方法に関する。
【0004】
使用済みタイヤの回収に関する様々な提案の中で、熱分解は、循環経済の原則を実行可能にするため、すなわち、大気中にCOを放出することなく回収済み材料を回収し、循環に戻すことを可能にするため、最良の解決策の1つと思われることが公知である[J.D.Martinezら、Sustainable Energy Reviews、23巻、179~213頁(2013)を参照]。実際、使用済みタイヤの熱分解により、熱分解生成物のうちのいくつかの画分を新しいゴム化合物に再使用できる可能性があり[F.Cataldo、(2006).Progress in Rubber,Plastics and Recycling Technology、22巻、147~164頁及び243~252頁(2006)を参照]、しかし、とりわけ、工業品目と新しいタイヤの両方のための新しいゴム化合物の製造において熱分解カーボンブラック(以下「CBp」と略す)の回収及び再使用が可能になる[F.Cataldo、Macromolecular Materials&Engineering、290巻、463~467頁(2005)を参照]。CBpの工業的生産は、様々なEU諸国並びに非EU諸国で既に行われており、ゴム産業における低補強用「充填材」としてのCBpの使用は限られている。実際、現在製造されているCBPは、普及する可能性をいくらか制限する一連の欠点を有する。まず第一に、現在製造されているCBpの表面は、そのCBpが由来するタイヤゴムの不完全な熱分解によって生成される約10~22重量%の炭化ゴム(以下の本発明の説明において「瀝青質の残渣又は画分」とする)によって覆われ、不活性化されており、さらに悪いことに、炭化ゴムのこの画分はまた、多環芳香族炭化水素(以下の本発明の説明において「PAH」とし、そのいくつかは潜在的に発がん性があることが公知である)を含有している[F.Cataldo、Fullerenes Nanotubes Carbon Nanostructures、28巻、368~376頁(2020)を参照]。また、ゴム化合物中の総PAH含有量は、規制(EC)第1907/2006号などの厳しい規制によって制限されていることにも留意されたい。CBpの表面に堆積した熱分解からの炭化ゴム、瀝青質残渣は、CBpの表面積(一般にカーボンブラックの、特にCBpの補強効果の基本パラメータ)を減少させ、CBpの表面の活性部位を覆ってしまうが、もし活性部位が空いていたならば、ゴム-ブラック相互作用の場所となり、それによって、CBpを新しいゴム化合物の製造における「充填材」として再使用した場合により大きな補強効果がもたらされるであろう[F.Cataldo、Carbon、40巻、157~162頁(2002);F.Cataldo、Polymer International、50巻、828~834頁(2001)を参照]。さらに、CBpの表面に炭化ゴムが存在すると、CBpの加工性がいくらか制限されて、製造後の粉砕が妨げられる。言い換えると、炭化ゴムは、瀝青質樹脂のような挙動を示して、CBp粉砕専用の任意のミルをドライアウトさせる。この問題の解決策には、オランダ国特許第2015888B1号及び国際公開第2013/095145A1号において、瀝青質画分を揮発させ燃焼させるために空気存在下で制御熱処理する方法が提案されている。しかし、このような処理には火災及び爆発の危険性がないわけではなく、それらは実際に工業プラント規模で起こっている。
【0005】
従来のCBpのさらなる欠点は、高含有量の鉱物画分に関係があり、この鉱物画分は、「ファーネス法」として公知のプロセスによって重油及び/又は石炭画分を酸素の不在下で燃焼させることによって製造するカーボンブラックには明らかに含まれていない。この鉱物画分は、技術文献において、時として「灰分」と呼ばれることもあり、CBpの約13.5重量%に相当し、本質的にシリカ及びケイ酸塩と混合された硫化亜鉛からなる。灰分は「充填材」としてのカーボンブラックとともにタイヤ化合物に添加され、熱分解プロセス後にCBpに蓄積する。CBp中の鉱物画分の問題は、鉱物画分がCBpの内部及び表面に密接に捕捉され、その結果、新しいゴム化合物に再使用された場合に、その補強効果を制限し、硫黄ベースの加硫系を妨げるという事実に関係がある。
【0006】
炭化材料は、定義上、有機溶媒に不溶又は難溶である。一方、CBp中に存在する炭化ゴムの画分を抽出することができる一連の有機溶媒が驚くべきことに見出され、ひいてはそれが本発明の目的を形成するものであるが、これにより、CBpは、粉砕の場合にCBpの加工性を制限するこの画分がない状態になり、したがって、活性部位を塞ぎ、かつ表面積により判定される補強作用をいくらか制限する炭化画分がなくなる。さらに、本発明の目的の溶媒を用いた抽出はまた、CBp中に存在するすべてのタイプのPAHを効果的に除去して、CBpを完全に精製し、バージンCBpの代わりに使用した場合に考えられる障害を受けることなく、新しいゴム化合物の充填材としてすぐに使用できるようにする。
【0007】
本発明による解決策は、本文脈に挿入されており、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法であって、熱分解から得られたブラックカーボンの表面に堆積した熱分解ゴムの残渣、及びその中に含まれる多環芳香族炭化水素を除去するための、好ましくは、限定するものではないが、再生可能で非化石源からの原材料に由来する、毒性及び環境影響が低い若しくはゼロであることを特徴とする溶媒抽出による、又は不活性雰囲気中での熱処理による、又は不活性雰囲気中での熱処理とそれに続く溶媒抽出による、精製方法を提供することを提案する。
【0008】
さらに、本発明は、溶媒抽出によって、又は熱処理によって、又は熱処理とそれに続く溶媒抽出によって事前に精製した熱分解から得られたカーボンブラックから、完全に再生可能な供給源から得られたクエン酸及び酒石酸など、天然由来のカルボン酸を使用して亜鉛を抽出する方法を提供することを提案する。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来技術によるプロセスの限界を克服し、前述の技術的結果を得ることを可能にする、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの環境に優しい精製及び再活性化方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの前記環境に優しい精製及び再活性化方法が、実質上コストを抑えて実施され得ることである。
【0011】
とりわけ、本発明の目的は、簡単で安全でかつ信頼性の高い、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの環境に優しい精製及び再活性化方法を提案することである。
【0012】
したがって、本発明の特定の目的は、中極性溶媒を用いた抽出若しくは不活性雰囲気中での熱処理による、又は不活性雰囲気中での熱処理とそれに続く中極性溶媒を用いた抽出による、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法であって、好ましくは、前記中極性抽出溶媒が、Reichardtスケールで36.5≦ET(30)≦41.6kcal/molの間の極性を有し、さらにより好ましくは、メチルテトラヒドロフラン(Me-THF)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(AcOEt)、炭酸ジメチル(DMC)、酢酸メチル(AcOMe)、ジクロロメタン(CHCl)、ギ酸エチル(HCOEt)、酢酸エチルとエタノール(AcOEt/EtOH)が3:1(体積/体積)の共沸化合物から選択され、不活性雰囲気中での前記熱処理が、好ましくは500℃~750℃の温度、より好ましくは550℃~600℃の温度で、並びに好ましくはN、Ar、CO、過熱蒸気、又はそれらの組合せから選択される不活性ガスの流れの下で、より好ましくはCO流、過熱蒸気、又はそれらの組合せの下で行われる、精製方法である。
【0013】
さらに、本発明によれば、使用済みタイヤの熱分解から得られたカーボンブラックの精製方法は、溶媒抽出及び/又は不活性雰囲気中での熱処理によって事前に精製したカーボンブラックから亜鉛を選択的に抽出するステップであって、前記亜鉛を選択的に抽出するステップが、クエン酸及び酒石酸から選択されるカルボン酸を、好ましくはフッ化水素酸と組み合わせて含む水溶液を使用することを含む、ステップをさらに含む。
【0014】
(実施例1~20)
本発明を、いくつかの例示的な実施例を特に参照して、非限定的な例示によって以下に説明する。
【0015】
諸実施例において、溶媒抽出は、500mlの抽出チャンバを備えたSoxhlet型固液抽出器[L.Gattermann、Die Praxis der Organischen Chemikers,de Gruyter(1957)を参照]で実施した。各抽出バッチに関して、CBp約262gを特殊なセルロース円筒ろ紙に入れ、次いでSoxhlet抽出チャンバに挿入した。表1に報告した各実施例に関して、以下の表1の実施例1~20に報告した溶媒を随時使用して、8時間の標準時間スパンで抽出を実施した。抽出の最後に、抽出されたCBpが入っているセルロース円筒ろ紙をSoxhletから取り出し、重量が一定になるまで換気フード下、次いで乾燥機中に放置して乾燥させた。続いて、乾燥したブラックをセルロース円筒ろ紙から取り出し、必要に応じて乳鉢又は特殊な粉末粉砕機を使用して穏やかに粉砕し、最後に秤量した。この秤量により、抽出後に円筒ろ紙に残っている精製済みCBpの量を決定した。抽出後に回収したCBpの重量パーセントを、精製済みCBpの重量から推定し、これによって、除去した瀝青質画分の重量パーセントを推定した。ASTM D6559-19の方法を使用して、溶媒抽出後のCBpの表面積も決定した。したがって、バージンCBpは41m/gの表面積を有し、瀝青質画分の抽出に有効な溶媒のみが、CBpの表面積を著しく増加させることができ、これは比較目的のために報告した他の有効ではない溶媒では起きていない。表1に示す実施例1~5は、比較であり、いくつかの溶媒、この場合、ペンタン、ヘキサン、デカリン、ソルベントナフサ、テレピン油エッセンス、及びリモネンなどの一連の脂肪族及び環状脂肪族(又はナフテン)炭化水素では、CBpの熱分解からの残存瀝青質画分を除去する効果が不十分であり、これらを用いた処理はしばしばCBpの表面積に明白な影響を及ぼさないことを示している。
【0016】
【表1】


【0017】
したがって、J.Piskorzらが論文[Energy and Fuels、13巻、544~551頁(1999)]で述べている溶媒、ナフサが、試験した他のすべての脂肪族及び環状脂肪族溶媒とともに、CBpの瀝青質画分の溶媒として全く効果がないように見えると判断することが可能であった。一方、異性体混合物のキシレン、トルエン、及びベンゼン(表1の実施例6~8)などのいくつかの芳香族溶媒は、脂肪族及びナフテン酸よりも優れた抽出効果を有するように見えるが、表1の実施例10~17に報告した本発明の目的の一連の溶媒と比べると、完全に満足できる結果とは言えない。したがって、表1の実施例6~8も比較例として報告するが、それらは、カーボンブラックの抽出及び精製剤として米国特許[G.W.Denison、米国特許出願公開第2004/047779A1号]に記載のベンゼン、トルエン、及びキシレンが、この操作に適した最良の溶媒ではなく、表1の実施例10~17に報告した、本発明で確認した本発明の目的の溶媒の方が効率においてはるかに上回っていることを示す。実際、驚くべきことに、Reichardtスケール及びその方法で測定され、かつET(30)[C.Reichardt、Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry.Wiley-VCH、2003年版及び2011年更新版を参照]と呼ばれる中極性を有する一連の溶媒が、CBpの瀝青質画分の抽出に非常に有効であり、前述の脂肪族、環状脂肪族、テルペン、及び芳香族の炭化水素(表1の実施例1~8)と、Piskorzら[前引用書]がCBp抽出溶媒として可能であると言及した、トリクロロエチレン(表1の実施例9)などのある種の塩素化化合物とのどちらをも効率においてはるかに上回っており、Piskorzら[前引用書]によりアセトンがCBpの精製に適した溶媒として既に推奨されているが、アセトン及びエタノール(表1の実施例18及び19)などのある種の高極性溶媒を効率においてさらに上回っていることが見出され、ひいてはこれが本発明の目的を形成するものである。
【0018】
実際、本発明の目的の溶媒(表1の実施例10~17)の性能の独自性と同様に抽出効率を、標準Soxhlet抽出時間においてCBpから抽出された瀝青質画分の量と、精製済みCBpで測定された表面積の増加とを組み合わせて評価すると、これは同等ではなく、比較目的で報告したどの溶媒にも反映されていない。本発明の目的の溶媒(表1の実施例10~17)を用いた抽出は、CBpの表面積の著しい増加を伴い、バージンCBpの41m/gと比較して、実施例10~14及び16~17では74~76m/gに達し、実施例15では77m/gの最高値となる。特に、表1は、調査した溶媒の抽出効率が、Reichardtによって提案かつ測定された溶媒の極性スケールである前記ET(30)[C.Reichardt、前引用書を参照]の傾向に従い、最大抽出効率が、ET(30)の値が36.5≦ET(30)≦41.6kcal/molの溶媒で確認され得ることを明確に示す。したがって、CBpの抽出に好ましい溶媒及び本発明の目的物は、実施例10~17の溶媒であり、正確には、メチルテトラヒドロフラン(Me-THF)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル(AcOEt)、炭酸ジメチル(DMC)、酢酸メチル(AcOMe)、ジクロロメタン(CHCl)、ギ酸エチル(HCOEt)、酢酸エチルとエタノール(AcOEt/EtOH)が3:1(体積/体積)の共沸化合物である。本発明の目的の溶媒すべてが環境に優しい特徴を有することを強調することが重要である。実際、Me-THF及びTHFは、完全に再生可能な天然源、すなわち、例えば、トウモロコシの穂軸、イネ殻、サトウキビバガス、及び他の同様の農業廃棄物から得られ、Me-THFは、刺激的な毒物学的及び環境的プロファイルを有する[V.Paceら、ChemSusChem、5巻、1369~1379頁(2012)を参照]。次に、酢酸エチル、酢酸メチル、及びギ酸エチルはまた、それぞれ酢酸発酵、アルコール発酵、及びアセトン-ブチル発酵という再生可能な供給源から得ることができ[M.Giua、Chimica Industriale、8巻、283~386頁(1975)を参照]、容易に生分解されるため、環境への影響はほとんどない。DMCは、非常に好ましい環境影響プロファイルとともに非常に低い毒性かつ急速な生分解性プロファイルを有する[F.Miziaら、Chimica&Industria、83巻、47~54頁(2001)を参照]。表1の実施例15において、CHClは、CBpの最も効率的な精製溶媒の1つであり、したがって、本発明の目的の溶媒に挙げられていることが分かる。CHClはまた、少なくとも部分的には、バイオメタンの塩素化によってなど、再生可能な供給源から得ることができる。CHClの毒性に関して不安はあるが、強調しておきたいのは、CHClが適切に設計された閉鎖系で使用された場合、これらの不安が克服できることである。実際、CHClは、低コスト、高抽出効率、低沸点(約40℃)、80.5kcal/kgの低蒸発エンタルピー(溶媒リサイクル工程で重要)、及びとりわけ表1の例10~17で試験した溶媒の中でほぼ唯一の特徴である不燃性という明白な利点を有する。環境負荷の観点から、ジクロロメタンは、環境中に分散した場合、急速に分解し、成層圏のオゾンに影響を及ぼさない[C.M.Trudingerら、Journal of Geophysical Research:Atmospheres、109巻、D22号、(2004)を参照]。表1はまた、溶媒抽出によってCBp表面から熱分解ゴム残渣を除去すると、ASTM D6559-19の方法に従って測定したCBp表面積が増加することを示す。ブラックとゴムの相互作用に関与するCBp表面の活性部位が利用可能になることから、表面積の増加はカーボンブラックの補強効果の増加に対応する。したがって、CBpから抽出可能な画分を除去することは、PAH(瀝青質画分に含有されている)を除去するだけでなく、CBpを新しいゴム化合物の充填材として再使用する場合にCBpの補強特性を改善にも関係する。
【0019】
(実施例21~28)
本発明の別の一実施形態では、CBpは、選択されたガス、いずれの場合でも空気と酸素のどちらとも異なる化学的性質のガスの下で管状炉において熱処理される。熱処理は、500℃~750℃、好ましくは550℃~600℃で実施した。この温度範囲において、CBpの瀝青質画分が蒸留され、選択したガスの流れによってCBpから離され、表2に報告した諸実施例に示すように、適切な処理時間の後、完全に精製され、瀝青質画分が除去される。
【0020】
これらの好ましい諸実施形態では、2つの雄コーンを両端に有する、内径2cm及び長さ30cmの石英管を、Carbolite型MTF10/25/130管状炉に挿入した。表2に報告するように実施例21~28では、石英管に処理すべきバージンCBpの塊を装入し、それを炉で覆われた管の有用部分に注意深く配置した。2つのタップで石英管の端を閉じ、その各々を雌コーンに接続した。雌コーンとタップの間に、気孔率G1を有する焼結ガラスの多孔質セプタムを挿入して、反応器からCBp粉末が拡散するのを防いだ。表2の実施例21~28は、炉を選択した温度(表2に示す)まで20℃/分からの加熱勾配を用いて加熱し、この温度を表2に示す時間維持し、その後、炉のスイッチを切り、室温まで冷却するのを待つことによって実施した。
【0021】
【表2】
【0022】
加熱勾配全体において、プロセス温度の維持の間において、及び冷却ステップ全体において、CBpを反応管内で選択したガス(0.1~0.5L/分の流量):実施例21~22では窒素、実施例23ではアルゴン、実施例24~26では二酸化炭素(CO)、及び最終的に実施例27及び28では約600℃の過熱水蒸気を用いてフラッシングした。過熱水蒸気を、特別な生成ボイラーからタッピングし、大きな炎を有するBunsenバーナーで赤熱に達するまで外部加熱された銅コイルに通すことによって生成した[Gattermann、前引用書又は類似書を参照]。表2の実施例21~23は、窒素及びアルゴンなどの不活性ガスが、CBpを550℃~600℃に加熱したとき、CBpを覆う瀝青質画分を引き離すことができることを示す。不活性ガス中での熱処理による瀝青質画分の除去は、溶媒抽出で既に観察され、かつ表1にまとめたように、精製済みCBpの表面積の増加を伴う。言い換えると、N又はAr下でのCBpの熱処理は、溶媒抽出によって達成されるのと同じ効果を有する。一方、表2における実施例24~28から示されるように、二酸化炭素COの流れの下、過熱蒸気の流れの下、又はそれらの組合せの下でのCBpの処理は、瀝青質画分を完全に除去するだけでなく、得られるCBpの表面積の驚くべき増加も伴う。炭素質基材の活性化のこの現象は、以下の反応に従って起こることが文献において公知である:
CO+C→2CO (1)
並びに
O+C→CO+H (2)
2HO+C→CO+H (3)
しかし、これにはさらに高い温度、すなわち、850℃~1000℃が必要であるが、活性炭の典型的な表面積に達することができる[Lopez,FAら、Journal of the Air&Waste Management Association、63巻、534~544頁(2013)を参照]。一方、驚くべきことに、CO雰囲気中及び過熱水蒸気中の両方においてわずか600℃でCBpを活性化することが可能であることが見出され、ひいてはそれが本発明の目的を形成するものである。おそらく、亜鉛化合物、シリカ、並びに微量の金属鉄及び酸化鉄の形でCBpに存在する不純物が、低温での触媒活性化を可能にしているのであろう。一方、実施例21~23と比較した実施例24~28におけるCBpの表面積の増加は、非常に少なめではあるが、本特許で生成したCBpの最終的な使用目的が、約100m/gの表面積が有効であるタイヤ用の新しいゴム化合物においての再使用に関係している場合、絶対的に重要なことである。したがって、本発明に従って記載のように、CBpの熱処理はまた、精製したCBpの表面積を意のままに調節することができて、半補強用ブラックが必要とされるタイヤ化合物での用途のためにはN及びAr下での処理によって精製済みCBpの表面積を比較的低いままにすることが可能であり、代わりに、CO及び/又は過熱水蒸気を使用すれば、より長い熱処理により最大約90~100m/gの本格的な補強用カーボンブラックを作りだすことを可能にする。特に、CO及び/又は過熱水蒸気下で600℃でCBpを活性化することは、驚くべきことであり、得られるカーボンブラックが、タイヤ化合物での使用を意図しており、他の使用のために設計された非常に高い表面積を有する活性炭としてではないということである[Lopezら、前引用書を参照]。表2の対応する実施例24~28において反応(1)、(2)、及び(3)が実現しているかどうかの確認は、CO下で600℃で処理したCBpにおいて観察されたバーンオフ質量から得られ、それは実施例24では2%、実施例25では4%、及び実施例26では6%になり、一方、過熱水蒸気下の600℃ではバーンアウト質量は実施例27及び28ではそれぞれ6~9%である。バーンアウト質量とは、反応(1)、(2)、及び(3)から予想される、CO又は蒸気とCBp表面との化学反応によりガス化したCの質量のことである。
【0023】
前述のことから、以下に、これらの好ましい諸実施形態において、本発明は、互いに完全に同等である、バージンCBpの2種の精製方法:溶媒抽出プロセス又は不活性若しくは反応ガス下での熱処理プロセスについて説明する。しかし、熱処理では、得られる改質CBpの表面積の変更が可能になり、溶媒プロセスでは、これを行うことはできない。しかし、述べておかなければならないのは、いくつかのニッチな用途、例えば、限定するものではないが、食品と接しなければならないゴム及びプラスチック用のカーボンブラック並びに/又は化粧品用のカーボンブラックなどについて、残存PAHの含有量に関する最も厳格な規制に完全に合致する厳密に清浄なCBpをこれらのニッチな用途の市場に提供するために、最初にCBpを熱的に精製し、続いて溶媒で抽出して、最後のわずかなPAHでさえ除去する一連の方法を提供することができることである。
【0024】
典型的なCBpの化学分析[F.Cataldo、Fullerenes Nanotubes and Carbon Nanostructures、前引用書を参照]により、亜鉛はCBpの5.5%に相当し、一方、亜鉛に加えてシリカ及びケイ酸塩も含有する総灰分はCBpの13.5%、最終的には、ほとんどが硫化亜鉛の形である硫黄はCBpの3.2%に相当することが分かった。
【0025】
本発明のさらなる一部として、驚くべきことに、表1に報告した実施例10~17に示したような溶媒抽出によって、又は表2の実施例21~28のような熱処理によって事前に精製したCBpから、天然由来のカルボン酸、この場合、完全に再生可能な供給源から得られ、ひいては非常に好ましい毒物学的及び環境的プロファイルを有するクエン酸及び酒石酸を使用して亜鉛を定量的に抽出できることを見出した[M.Giua、Chimica Industriale、前引用書を参照]。実際、驚くべきことに、クエン酸水溶液又は酒石酸水溶液が、表1に報告した実施例10~17のような溶媒抽出によって、又は表2の実施例21~28のような熱処理によって事前に精製したCBpに含有される亜鉛を抽出するのに有効であることが見出され、これは本発明のさらなる目的である。さらに、CBp中の亜鉛はほとんどが硫化亜鉛(ZnS)の形であるため、亜鉛の除去は、鉱物硫黄の除去も自動的に含み、クエン酸と酒石酸のどちらもの水溶液が、ZnSを分解し、溶液中にZn2+をもたらすことが可能であるが、これは酢酸など他の一般のカルボン酸では不可能なことである。
【0026】
(実施例29~35)
実施例10~17のいずれかに記載した、又は実施例21~28のように熱処理で調製した溶媒抽出済みCBp250gを秤量し、フラスコの中央首部にメカニカルスターラーを通した平底の三つ口フラスコ中に配置した。フラスコの別の首にはバブル冷却器を取り付け、その上部にはガス排出用のタップを挿入し、10%のNaOH溶液600mlが入っている大きなDrechsellボトルに通気した[Gattermann、前引用書を参照]。圧縮空気(小型の実験室用コンプレッサによって生成)の流れを導入するために、3つ目の首に管を挿入した。次いで、酸性水溶液1000mlをフラスコに加え、その性質及び濃度を表3の実施例29~37に示す。撹拌機とコンプレッサの両方を作動させた。CBp中に存在するZnSは酸性水溶液の作用によって分解されるため、CBpから発生したガスは、本質的に硫化水素(HS)からなる。発生したHSは、コンプレッサの空気流によってDrechsellボトルに運ばれ、NaOH水溶液に吸収された。80℃~120℃に維持した外部オイルバスによって反応スラリーを加熱して、処理を3時間継続した。処理終了後、CBpスラリーを熱いうちに「ラピッドA」ろ紙でポンプろ過した。フィルタ上のCBpを脱塩水で十分に洗浄した。溶解した亜鉛を定量するために、Hach LCK 360分光光度法を使用して、ろ過水を分析した。中性になるまで洗浄した後、CBpを80℃の炉において非常にゆっくりとした撹拌下で12時間乾燥させた。
【0027】
【表3】

【0028】
精製済みCBpの灰分を、空気流中での熱重量分析によって決定した。
【0029】
表3は、CBp自体、及び表1に報告した実施例10~17による溶媒で抽出したCBp、又は表2の実施例21~28のような熱処理によるCBpの分析データを一緒に含めた実施例29~37のすべての分析データを示す。表3の実施例34及び36から、CBp中に存在するZnのほぼ完全な抽出効率において、クエン酸及びとりわけ酒石酸の両方が6Mの塩酸に等しく、クエン酸及び酒石酸に関しては、毒性がないこと、環境への影響がないこと、及び完全に再生可能な供給源から得られることという点で前例のない利点を有していることが推論され得る。
【0030】
実際、亜鉛はかなりの商業的価値を有しており、CBp精製方法の包括的な経済性を目的として、CBpから亜鉛を抽出することは有利であると考えられている。さらに、CBpからの亜鉛の除去は、大部分がZnSの形である硫黄もほぼ完全に同時に除去することを含む。
【0031】
完全に無灰で絶対的に清浄なCBpを生成する場合、実施例32は、塩酸/フッ化水素酸の組合せがCBpの鉱物画分の完全除去に有効であることを示す。実際、実施例35及び37は、クエン酸とフッ化水素酸の組合せ並びに酒石酸とフッ化水素酸の組合せがCBpの鉱物画分を除去するのに同等に有効であることを示す。
【0032】
本発明は、その好ましい諸実施形態に記載されている。当業者なら、特許保護の相対的な範囲から逸脱することなく、例えば、溶媒の選択又はカルボン酸の選択において変更を加えることが可能であることが理解されよう。