(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の再利用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2022578176
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021048043
(87)【国際公開番号】W WO2022163252
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2021011522
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕己
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸行
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-022969(JP,A)
【文献】特開2000-260491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック正極層、セラミックセパレータ及びセラミック負極層を含む電池要素と、電解液と、前記電池要素及び前記電解液を収容する電池容器とを備えた、使用済みのリチウムイオン二次電池を用意する工程と、
前記リチウムイオン二次電池から前記電池要素を取り出す工程と、
前記リチウムイオン二次電池内の前記電解液を新鮮な電解液と入れ替える工程と、
前記電池要素に、洗浄及び/又は熱処理を含む電極復活処理を施す工程と、
前記電極復活処理が施された電池要素を前記電池容器内に戻して、リチウムイオン二次電池を組み立てる工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項2】
前記電極復活処理が、前記電池要素を極性溶媒で洗浄して前記電池要素に含まれる及び/又は付着される不純物を除去した後、乾燥することを含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項3】
前記電池要素が、正極集電体及び/又は負極集電体をさらに備えており、
前記洗浄の前及び/又は間に、正極集電体及び/又は負極集電体が取り外され、かつ、
前記電極復活処理の後に、前記電池要素に正極集電体及び/又は負極集電体が取り付けられる、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項4】
前記電極復活処理が、前記洗浄及び乾燥された電池要素を300~1000℃で加熱することを含む、請求項2又は3に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項5】
前記電極復活処理が、前記電池要素を300~600℃で脱脂すること、及び/又は前記電池要素を650~1000℃で焼成することを含む、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項6】
前記セラミック正極層、前記セラミックセパレータ及び前記セラミック負極層が全体として1つの一体焼結体を成している、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項7】
前記セラミック正極層が、リチウム複合酸化物焼結体で構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項8】
前記セラミック正極層が、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、前記複数の一次粒子が前記正極層の層面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極層である、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項9】
前記リチウム複合酸化物がコバルト酸リチウムである、請求項7又は8に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項10】
前記セラミック負極層が、チタン含有焼結体で構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項11】
前記チタン含有焼結体が、チタン酸リチウム又はニオブチタン複合酸化物を含む、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項12】
前記セラミックセパレータが、MgO、Al
2O
3、ZrO
2、SiC、Si
3N
4、AlN、及びコーディエライトからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【請求項13】
前記電池要素を取り出した後で、かつ、前記電池要素を前記電池容器内に戻す前に、前記電池容器を別の電池容器と交換する工程をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の再利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池又はその構成要素を再利用するための様々な方法が提案されている。例えば、特許文献1(特開2014-127417号公報)には、負極活物質層の再利用方法が開示されており、非水系バインダーを含む負極活物質層と、集電体とを有する負極電極を水溶液に浸漬し、剥離した負極活物質層を回収し、回収した負極活物質層を再び集電体に貼り付けることが提案されている。特許文献2(特開2019-145315号公報)には、非水電解液を含む使用済みリチウムイオン二次電池の内部にドライエアを注入することを含む、リチウムイオン二次電池の再利用方法が開示されている。特許文献3(特許第5077788号公報)には、電池材料からコバルト及びリチウムを回収する方法が開示されており、電極材料を硫酸に溶解してコバルトイオン及びリチウムイオンを溶解した溶液とし、この溶液を不溶分から分離することが提案されている。特許文献4(特許第5664043号公報)には、廃リチウムイオン電池から電解液を回収し、当該電解液を燃料として用いることを含む、廃リチウムイオン電池電解液の再利用方法が開示されている。特許文献5(特開2014-82120号公報)には、非水電解液二次電池の再利用の適否を判定するシステムが開示されており、このシステムは、正極に生じるフッ化リチウム被膜の生成量を測定して得られる第1測定値を取得する第1取得部と、予め求められた、正極に生じるフッ化リチウム被膜の第1範囲を保持する第1記憶部と、第1測定値及び第1範囲に基づき、対象電池の再使用の適否を判定する第1判定部とを備える。
【0003】
ところで、既存の多くのリチウムイオン二次電池では、正極活物質、導電助剤、バインダー等を含む正極合剤を塗布及び乾燥させて作製された、粉末分散型の正極(いわゆる塗工電極)が採用されている。
【0004】
一般的に、粉末分散型の正極は、容量に寄与しない成分(バインダーや導電助剤)を比較的多量に(例えば10重量%程度)含んでいるため、正極活物質としてのリチウム複合酸化物の充填密度が低くなる。このため、粉末分散型の正極は、容量や充放電効率の面で改善の余地が大きかった。そこで、正極ないし正極活物質層をリチウム複合酸化物焼結体板で構成することにより、容量や充放電効率を改善しようとする試みがなされている。この場合、正極又は正極活物質層にはバインダーや導電助剤(例えば導電性カーボン)が含まれないため、リチウム複合酸化物の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率が得られることが期待される。例えば、特許文献6(特許第6374634号公報)には、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる、コバルト酸リチウムLiCoO2(以下、LCOという)等のリチウム複合酸化物焼結体板が開示されている。このリチウム複合酸化物焼結体板は、層状岩塩構造を有する複数の一次粒子が結合した構造を有しており、かつ、気孔率が3~40%であり、平均気孔径が15μm以下であり、開気孔比率が70%以上であり、厚さが15~200μmであり、複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径が20μm以下であるとされている。また、このリチウム複合酸化物焼結体板は、上記複数の一次粒子の(003)面とリチウム複合酸化物焼結体板の板面とがなす角度の平均値、すなわち平均傾斜角が0°を超え30°以下であるとされている。
【0005】
一方、負極としてチタン含有焼結体板を用いることも提案されている。例えば、特許文献7(特許第6392493号公報)には、リチウムイオン二次電池の負極に用いられるチタン酸リチウムLi4Ti5O12(以下、LTOという)の焼結体板が開示されている。このLTO焼結体板は、複数の一次粒子が結合した構造を有しており、かつ、厚さが10~290μmであり、複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径が1.2μm以下であり、気孔率が21~45%であり、開気孔比率が60%以上であるとされている。
【0006】
正極層、セパレータ及び負極層が全体として1つの一体焼結体板を成す構成を採用することで、高い放電容量と優れた充放電サイクル性能の両立を図ったリチウムイオン二次電池も提案されている。例えば、特許文献8(WO2019/221140A1)には、リチウム複合酸化物(例えばコバルト酸リチウム)の焼結体で構成される正極層と、チタン含有焼結体(例えばチタン酸リチウム)で構成される負極層と、セラミックセパレータと、セラミックセパレータに含浸される電解質とを備えた、リチウムイオン二次電池が開示されている。この電池は、正極層、セラミックセパレータ及び負極層が全体として1つの一体焼結体板を成しており、それにより正極層、セラミックセパレータ及び負極層が互いに結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-127417号公報
【文献】特開2019-145315号公報
【文献】特許第5077788号公報
【文献】特許第5664043号公報
【文献】特開2014-82120号公報
【文献】特許第6374634号公報
【文献】特許第6392493号公報
【文献】WO2019/221140A1
【発明の概要】
【0008】
上述したようなリチウムイオン二次電池又はその構成要素の再利用は、リサイクル(再資源化)とリユース(再使用)に大別される。電池のリサイクルは、電極等の材料の活物質又は合金としての回収を伴うが、複雑な工程を経るため高コストになる。一方、電池のリユースは、電池を性能評価して、劣化具合に応じて用途を分けて再使用することが行われている。例えば、劣化の度合いが小さい場合は、電気自動車(EV)やフォークリフト用途に再使用することができ、劣化の度合いが大きい場合にはバックアップ電源用途に再使用されうる。
【0009】
このように、リチウムイオン二次電池のリサイクルは工程が複雑で高コストである一方、リユースは用途が限定的である。このため、リチウムイオン二次電池又はその構成要素の再利用はほとんど進んでいないのが現状である。特に、電極に有機バインダーや導電助剤を含む従来のリチウムイオン二次電池は劣化因子が多いため、使用済み電極を取出してそのまま電極として再利用することが困難であった。
【0010】
本発明者らは、今般、セラミック正極層、セラミックセパレータ及びセラミック負極層を含む電池要素を備えた焼結体タイプの使用済のリチウムイオン二次電池に、電解液の交換、並びに電池要素の洗浄及び/又は熱処理を実施することで、十分に性能が回復したリチウムイオン二次電池を簡便な手順及び低コストで再組立できるとの知見を得た。
【0011】
したがって、本発明の目的は、使用済のリチウムイオン二次電池を用いて、十分に性能が回復したリチウムイオン二次電池を簡便な手順及び低コストで再組立可能とする、リチウムイオン二次電池の再利用方法を提供することにある。
【0012】
本発明の一態様によれば、
セラミック正極層、セラミックセパレータ及びセラミック負極層を含む電池要素と、電解液と、前記電池要素及び前記電解液を収容する電池容器とを備えた、使用済みのリチウムイオン二次電池を用意する工程と、
前記リチウムイオン二次電池から前記電池要素を取り出す工程と、
前記リチウムイオン二次電池内の前記電解液を新鮮な電解液と入れ替える工程と、
前記電池要素に、洗浄及び/又は熱処理を含む電極復活処理を施す工程と、
前記電極復活処理が施された電池要素を前記電池容器内に戻して、リチウムイオン二次電池を組み立てる工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池の再利用方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の方法に用いるリチウムイオン二次電池の一例の模式断面図である。
【
図2】配向正極層の層面に垂直な断面の一例を示すSEM像である。
【
図3】
図2に示される配向正極層の断面におけるEBSD像である。
【
図4】
図3のEBSD像における一次粒子の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムである。
【
図5】例6~9で作製したグリーンシート積層体の層構成を示す模式断面図である。
【
図6】例6~9で作製したグリーンシート積層体の切断位置を模式的に示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
リチウムイオン二次電池の再利用方法
本発明の方法に用いる使用済みのリチウムイオン二次電池は、セラミック正極層、セラミックセパレータ及びセラミック負極層を含む電池要素を電解液とともに備えた焼結体タイプの電池(半固体電池)である。
図1にそのような焼結体タイプのリチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す。なお、
図1に示されるリチウムイオン二次電池10はコイン形電池の形態となっているが、本発明はこれに限定されず、ボタン形電池、円筒形電池、角形電池、パック形電池、カーバッテリー、シート型電池等の他の形態の電池であってもよい。
【0015】
すなわち、本発明によるリチウムイオン二次電池の再利用方法においては、まず、セラミック正極層12、セラミックセパレータ20及びセラミック負極層16を含む電池要素21と、電解液22と、電池要素21及び電解液22を収容する電池容器24とを備えた、使用済みのリチウムイオン二次電池10を用意する。そして、リチウムイオン二次電池10から電池要素21を取り出した後、リチウムイオン二次電池10内の電解液22を新鮮な電解液22と入れ替える。次いで、電池要素21に、洗浄及び/又は熱処理を含む電極復活処理を施す。最後に、電極復活処理が施された電池要素21を電池容器24内に戻して、リチウムイオン二次電池10を組み立てる。このように、セラミック正極層12、セラミックセパレータ20及びセラミック負極層16を含む電池要素21を備えた焼結体タイプの使用済のリチウムイオン二次電池10に、電解液22の交換、並びに電池要素21の洗浄及び/又は熱処理を実施することで、十分に性能が回復したリチウムイオン二次電池10を簡便な手順及び低コストで再組立できる。
【0016】
前述したように、リチウムイオン二次電池のリサイクルは工程が複雑で高コストである一方、リユースは用途が限定的である。このため、リチウムイオン二次電池又はその構成要素の再利用はほとんど進んでいないのが現状である。特に、電極に有機バインダーや導電助剤を含む従来のリチウムイオン二次電池は劣化因子が多いため、使用済み電極を取出してそのまま電極として再利用することが困難であった。この問題点が本発明によれば好都合に解消される。このことは以下のとおり説明される。
【0017】
まず、従来のリチウムイオン二次電池の一般的な劣化因子として、様々な因子が考えられる。まず、電池作成時や使用初期において、電解質に含まれた水分と電解質陰イオンであるPF5
-との反応、この反応で生成したPF5やHFと溶媒との反応、電解質と活物質との反応、この副反応で生じる電極表面での炭酸層やフッ素化層の生成、及びガス発生が起こる。次に、電池の使用により、電極の活物質層に使用されている活物質自身の劣化と減少が起こる。充放電の繰り返しにより、粒子の膨潤収縮変化による粒子の割れ、相変化や歪みによる構造劣化及び破壊、正極活物質の溶解、その溶解物質の負極での析出、このことによる正極と負極との短絡、リチウムイオンの減少、低温作動/大電流作動による負極でのLiデンドライト生成、このことによるリチウムイオンの減少及び正極と負極との短絡、並びに界面の劣化が誘起される。また、集電体表面の腐食、集電体からの活物質の剥離、電極の導電性の低下、活物質層内の導電網の変化と不均ー化、バインダーの劣化、セパレータの目詰まり、及びこれらの変化によりセルの内部抵抗の増加が起こる。また、使用条件により、過充電や過放電による活物質の反応量の低下、電解液の酸化、還元反応による劣化、反応界面層の劣化、及び充放電時の電極の膨張と収縮に起因する劣化等、多様な因子を容量劣化の原因として挙げることができる。
【0018】
これに対して、本発明に用いられる使用済みリチウムイオン二次電池は、セラミック正極層12、セラミックセパレータ20及びセラミック負極層16を含む電池要素21を電解液22とともに備えた焼結体タイプの電池(以下「半固体電池」という)であり、一般的なリチウムイオン二次電池に対して劣化因子が少ない上、電池要素21がセラミック構成のため堅牢で、何度でも電解液22を交換して電池を組み直せる。有利なことに、かかる半固体電池における主な劣化モードは、上述した極めて多岐にわたる劣化因子の中で、「電解質と活物質との反応」及び「正極活物質の溶解」のみである。すなわち、半固体電池における電池要素21の各層はセラミック(すなわち焼結体)製のため、有機バインダー等の劣化因子となる成分を含まない(焼結により有機バインダーは消失する)。その結果、バインダー等を含まないセラミック電極は劣化が少ない(バインダー由来の劣化が無い)。また、正極/セパレータ/負極層の構造体はセラミックス製であるため、使用後も、元の形態のまま取り出すことが可能であり、簡便なハンドリングが可能である。しかも、この構造体はセラミックス単体である(金属箔が接着されていても取り外し又は剥離できる)ため、洗浄は勿論のこと、脱脂、焼成等の熱処理も可能である。もっとも、電解液22の酸化分解による劣化が起こるが、セラミック電極自体の劣化が少ないため、電解液22を入れ替えるだけでもある程度電池の性能を戻すことができる。したがって、本発明の方法によれば、使用済のリチウムイオン二次電池を用いて、十分に性能が回復したリチウムイオン二次電池を簡便な手順及び低コストで再組立することができる。
【0019】
(1)使用済みのリチウムイオン二次電池の用意
使用済みのリチウムイオン二次電池10を用意する。このリチウムイオン二次電池10は、セラミック正極層12、セラミックセパレータ20及びセラミック負極層16を含む電池要素21と、電解液22と、電池要素21及び電解液22を収容する電池容器とを備える焼結体タイプの電池(半固体電池)である。この焼結体タイプの電池は、特許文献7及び8に開示されるように公知であり、その好ましい構成については後述するものとする。特に、セラミック正極層12、セラミックセパレータ20及びセラミック負極層16が全体として1つの一体焼結体を成しているのが、セラミック正極層12、セラミック負極層16及びセパレータ20を別々に取り扱う必要がなく、一体焼結体単位で取り扱えるため、作業効率向上の観点から好ましい。電池要素は、正極集電体14及び/又は負極集電体18をさらに備えていてもよい。
【0020】
(2)電池要素の取り出し
リチウムイオン二次電池10(具体的には電池容器24)から電池要素21を取り出す。電池要素21の取り出しは、電池容器24の一部(例えば負極缶24b)を取り外して電池内部を開放し、電池要素21を取り出せばよく、電池容器24の構成に応じて適宜行えばよい。特に、セラミック正極層12、セラミックセパレータ20及びセラミック負極層16が全体として1つの一体焼結体を成している場合には、電池容器24から一体焼結体を丸ごと取り出せるため、作業がしやすい点で特に有利である。
【0021】
(3)電解液の入れ替え
リチウムイオン二次電池10内(具体的には電池容器24内)の電解液22を新鮮な電解液22と入れ替える。電解液22の入れ替えは、電池要素21の取り出し後に行うのが好ましいが、これに限定されない。例えば、電池容器24を交換する場合には、交換された別の電池容器24に新鮮な電解液22を入れればよい。新鮮な電解液22は、リチウムイオン二次電池10で当初使用されていた電解液22と同一組成のものであってもよいし、許容可能な性能を発揮できるかぎり、当初使用されていた電解液22とは異なる組成の電解液22を用いてもよい。例えば、当初使用されていた電解液22と比較して、より良い性能をもたらす電解液22を用いてもよい。好ましい電解液22の詳細については後述するものとする。
【0022】
(4)電極復活処理
電池要素21に、洗浄及び/又は熱処理を含む電極復活処理を施す。電極復活処理は、劣化した電極性能を改善可能な洗浄及び/又は熱処理であれば、その手法は特に限定されない。典型的には、電極復活処理は、電池要素21を極性溶媒で洗浄して電池要素21に含まれる及び/又は付着される不純物を除去した後、乾燥することにより行われる。極性溶媒は、非水溶媒及び水のいずれであってもよい。非水溶媒の例としては、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)、エタノール等が挙げられる。極性溶媒での洗浄方法は特に限定されないが、極性溶媒に電池要素21を浸漬して超音波洗浄や攪拌することにより行うのが好ましい。
【0023】
こうして洗浄及び乾燥された電池要素21を300~1000℃で加熱するのが、電極性能を更に高めることができる点で好ましい。本発明における電池要素21は(正極集電体14及び/又は負極集電体18を除けば)セラミックス単体であるため、(活物質やバインダーを含む塗工電極では実施できない)、脱脂、焼成等の熱処理を施すことができる。この場合、電池要素21を脱脂及び/又は焼成するのが好ましく、より好ましくは脱脂及び焼成の両方を行う。電池要素21の脱脂は、電池要素を好ましくは300~600℃、より好ましくは400~600℃で加熱することにより行えばよく、上記温度範囲での好ましい保持時間は0.5~20時間、より好ましくは2~20時間である。これにより、電池要素21内に残留する不要成分又は不純物(SEI等)を消失又は焼失させて、その残留量をより一層低減し、電池性能をさらに高めることができる。電池要素21の焼成は、電池要素を好ましくは650~1000℃、より好ましくは700~950℃で加熱することにより行えばよく、上記温度範囲での好ましい保持時間は0.01~20時間、より好ましくは0.01~15時間である。これにより、物質の結晶性を復活ないし改善することができ、電池性能をさらに高めることができる。また、電極活物質をより焼結させることにより電極活物質層の強度向上が可能である。また、脱脂、焼成等の熱処理の際に、リチウム化合物を共存させる、及び/又はリチウム含有雰囲気を採用することで、電極活物質におけるリチウム含有量を最適化して、正極層12及び/又は負極層16の性能回復を促進することも可能である。
【0024】
なお、電池要素21が、正極集電体14及び/又は負極集電体18をさらに備える場合には、洗浄の前及び/又は間に、正極集電体14及び/又は負極集電体18が取り外され、かつ、電極復活処理の後に、電池要素21に正極集電体14及び/又は負極集電体18が取り付けられるのが好ましい。こうすることで、セラミックス単体に対して、上述したような洗浄や熱処理を行うことができる。電極復活処理の後に電池要素21に取り付けられる正極集電体14及び/又は負極集電体18は、新たな正極集電体14及び/又は負極集電体18に限られず、取り外した正極集電体14及び/又は負極集電体18を再利用してもよい。
【0025】
(5)電池の組み立て
電極復活処理が施された電池要素21を電池容器24内に戻して、リチウムイオン二次電池10を組み立てる。このとき、電池容器24を構成する少なくとも一部の部品を新しい部品と交換してもよい。あるいは、電池要素21を取り出した後で、かつ、電池容器24内に戻す前に、電池容器24を別の電池容器24と交換してもよい。
【0026】
リチウムイオン二次電池
図1に示されるように、リチウムイオン二次電池10は、セラミック正極層12(以下、正極層12という)と、セラミック負極層16(以下、負極層16という)と、セラミックセパレータ20(以下、セパレータ20という)と、電解液22と、電池容器24とを備える。正極層12はリチウム複合酸化物焼結体等のセラミックで構成される。負極層16は チタン含有焼結体等のセラミックで構成される。セパレータ20は正極層12と負極層16との間に介在される。電解液22は、正極層12、負極層16、及びセパレータ20に含浸される。電池容器24は密閉空間を備えており、この密閉空間内に正極層12、負極層16、セパレータ20及び電解液22が収容される。
【0027】
正極層12は、リチウム複合酸化物焼結体で構成される。正極層12が焼結体で構成されるいうことは、正極層12がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。そして、正極層12がバインダーを含まないことで、電解液22による正極の劣化を回避できるとの利点がある。なお、焼結体を構成するリチウム複合酸化物は、コバルト酸リチウム(典型的にはLiCoO2(以下、LCOと略称することがある))であるのが特に好ましい。様々なリチウム複合酸化物焼結体板ないしLCO焼結体板が知られており、例えば特許文献6(特許第6374634号公報)に開示されるものを参考にすることができる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、正極層12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体板は、リチウム複合酸化物で構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極層の層面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極層である。配向正極層は上記のとおり配向しているため、充放電に伴う膨張収縮による構造的破損が少なく、再使用に特に適する。
図2に配向正極層12の層面に垂直な断面SEM像の一例を示す一方、
図3に配向正極層12の層面に垂直な断面における電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)像を示す。また、
図4に、
図3のEBSD像における一次粒子11の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムを示す。
図3に示されるEBSD像では、結晶方位の不連続性を観測することができる。
図3では、各一次粒子11の配向角度が色の濃淡で示されており、色が濃いほど配向角度が小さいことを示している。配向角度とは、各一次粒子11の(003)面が層面方向に対して成す傾斜角度である。なお、
図2及び3において、配向正極層12の内部で黒表示されている箇所は気孔である。
【0029】
配向正極層12は、互いに結合された複数の一次粒子11で構成された配向焼結体である。各一次粒子11は、主に板状であるが、直方体状、立方体状及び球状などに形成されたものが含まれていてもよい。各一次粒子11の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、或いはこれら以外の複雑形状であってもよい。
【0030】
各一次粒子11はリチウム複合酸化物で構成される。リチウム複合酸化物とは、LixMO2(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にはCo、Ni及びMnの1種以上を含む)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的にはα-NaFeO2型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。リチウム複合酸化物の例としては、LixCoO2(コバルト酸リチウム)、LixNiO2(ニッケル酸リチウム)、LixMnO2(マンガン酸リチウム)、LixNiMnO2(ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixNiCoO2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LixCoNiMnO2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixCoMnO2(コバルト・マンガン酸リチウム)等が挙げられ、特に好ましくはLixCoO2(コバルト酸リチウム、典型的にはLiCoO2)である。リチウム複合酸化物には、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Bi、及びWから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。
【0031】
図3及び4に示されるように、各一次粒子11の配向角度の平均値、すなわち平均配向角度は0°超30°以下である。これにより、以下の様々な利点がもたらされる。第一に、各一次粒子11が厚み方向に対して傾斜した向きに寝た状態になるため、各一次粒子同士の密着性を向上させることができる。その結果、ある一次粒子11と当該一次粒子11の長手方向両側に隣接する他の一次粒子11との間におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるため、レート特性を向上させることができる。第二に、レート特性をより向上させることができる。これは、上述のとおり、リチウムイオンの出入りに際して、配向正極層12では、層面方向よりも厚み方向における膨張収縮が優勢となるため、配向正極層12の膨張収縮がスムーズになるところ、それに伴ってリチウムイオンの出入りもスムーズになるからである。第三に、リチウムイオンの出入りに伴う配向正極層12の膨張収縮が層面と垂直な方向に優勢となるため、配向正極層12とセパレータ20との接合界面での応力が発生しにくくなり、当該界面での良好な結合を維持しやすくなる。
【0032】
一次粒子11の平均配向角度は、以下の手法によって得られる。まず、
図3に示されるような、95μm×125μmの矩形領域を1000倍の倍率で観察したEBSD像において、配向正極層12を厚み方向に四等分する3本の横線と、配向正極層12を層面方向に四等分する3本の縦線とを引く。次に、3本の横線と3本の縦線のうち少なくとも1本の線と交差する一次粒子11すべての配向角度を算術平均することによって、一次粒子11の平均配向角度を得る。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、30°以下が好ましく、より好ましくは25°以下である。一次粒子11の平均配向角度は、レート特性の更なる向上の観点から、2°以上が好ましく、より好ましくは5°以上である。
【0033】
図4に示されるように、各一次粒子11の配向角度は、0°から90°まで広く分布していてもよいが、その大部分は0°超30°以下の領域に分布していることが好ましい。すなわち、配向正極層12を構成する配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうち配向正極層12の層面に対する配向角度が0°超30°以下である一次粒子11(以下、低角一次粒子という)の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。これにより、相互密着性の高い一次粒子11の割合を増加させることができるため、レート特性をより向上させることができる。また、低角一次粒子のうち配向角度が20°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して50%以上であることがより好ましい。さらに、低角一次粒子のうち配向角度が10°以下であるものの合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の総面積に対して15%以上であることがより好ましい。
【0034】
各一次粒子11は、主に板状であるため、
図2及び3に示されるように、各一次粒子11の断面はそれぞれ所定方向に延びており、典型的には略矩形状となる。すなわち、配向焼結体は、その断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子11のうちアスペクト比が4以上である一次粒子11の合計面積が、断面に含まれる一次粒子11(具体的には平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11)の総面積に対して70%以上であるのが好ましく、より好ましくは80%以上である。具体的には、
図3に示されるようなEBSD像において、これにより、一次粒子11同士の相互密着性をより向上することができ、その結果、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11のアスペクト比は、一次粒子11の最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径は、断面観察した際のEBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離である。最小フェレー径は、EBSD像上において、一次粒子11を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。
【0035】
配向焼結体を構成する複数の一次粒子の平均粒径が5μm以上であるのが好ましい。具体的には、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子11の平均粒径が、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは12μm以上である。これにより、リチウムイオンが伝導する方向における一次粒子11同士の粒界数が少なくなって全体としてのリチウムイオン伝導性が向上するため、レート特性をより向上させることができる。一次粒子11の平均粒径は、各一次粒子11の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各一次粒子11と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0036】
正極層12は気孔を含んでいるのが好ましい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、正極板として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。これは、焼結体内におけるリチウムイオンの伝導は、焼結体の構成粒子を経る伝導と、気孔内の電解液を経る伝導の2種類があるところ、気孔内の電解液を経る伝導の方が圧倒的に速いためである。
【0037】
正極層12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体は気孔率が20~60%であるのが好ましく、より好ましくは25~55%、さらに好ましくは30~50%、特に好ましくは30~45%である。気孔による応力開放効果、及び高容量化が期待できるとともに、一次粒子11同士の相互密着性をより向上できるため、レート特性をより向上させることができる。焼結体の気孔率は、正極層の断面をCP(クロスセクションポリッシャ)研磨にて研磨した後に1000倍率でSEM観察して、得られたSEM画像を2値化することで算出される。配向焼結体の内部に形成される各気孔の平均円相当径は特に制限されないが、好ましくは8μm以下である。各気孔の平均円相当径が小さいほど、一次粒子11同士の相互密着性をさらに向上することができ、その結果、レート特性をさらに向上させることができる。気孔の平均円相当径は、EBSD像上の10個の気孔の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各気孔と同じ面積を有する円の直径のことである。配向焼結体の内部に形成される各気孔は、正極層12の外部につながる開気孔であるのが好ましい。
【0038】
正極層12、すなわちリチウム複合酸化物焼結体の平均気孔径は0.1~10.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.2~5.0μm、さらに好ましくは0.25~3.0μmである。上記範囲内であると、大きな気孔の局所における応力集中の発生を抑制して、焼結体内における応力が均一に開放されやすくなる。
【0039】
正極層12の厚さは60~450μmであるのが好ましく、より好ましくは70~350μm、さらに好ましくは90~300μmである。このような範囲内であると、単位面積当りの活物質容量を高めてリチウムイオン二次電池10のエネルギー密度を向上するとともに、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制できる。
【0040】
負極層16は、チタン含有焼結体で構成される。チタン含有焼結体は、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(以下、LTO)又はニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7を含むのが好ましく、より好ましくはLTOを含む。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLi4Ti5O12(スピネル構造)とLi7Ti5O12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。
【0041】
負極層16が焼結体で構成されるということは、負極層16がバインダーや導電助剤を含んでいないことを意味する。これは、グリーンシートにバインダーが含まれていたとしても、焼成時にバインダーが消失又は焼失するからである。負極層にはバインダーが含まれないため、負極活物質(例えばLTO又はNb2TiO7)の充填密度が高くなることで、高容量や良好な充放電効率を得ることができる。LTO焼結体は、特許文献7(特許第6392493号公報)に記載される方法に従って製造することができる。
【0042】
負極層16、すなわちチタン含有焼結体は、複数の(すなわち多数の)一次粒子が結合した構造を有している。したがって、これらの一次粒子がLTO又はNb2TiO7で構成されるのが好ましい。
【0043】
負極層16の厚さは、70~500μmが好ましく、好ましくは85~400μm、より好ましくは95~350μmである。負極層16が厚いほど、高容量及び高エネルギー密度の電池を実現しやすくなる。負極層16の厚さは、例えば、負極層16の断面をSEM(走査電子顕微鏡)によって観察した場合における、略平行に観察される層面間の距離を測定することで得られる。
【0044】
負極層16を構成する複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径は1.2μm以下が好ましく、より好ましくは0.02~1.2μm、さらに好ましくは0.05~0.7μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0045】
負極層16は気孔を含んでいるのが好ましい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、負極層として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。これは、焼結体内におけるリチウムイオンの伝導は、焼結体の構成粒子を経る伝導と、気孔内の電解液を経る伝導の2種類があるところ、気孔内の電解液を経る伝導の方が圧倒的に速いためである。
【0046】
負極層16の気孔率は20~60%が好ましく、より好ましくは30~55%、さらに好ましくは35~50%である。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0047】
負極層16の平均気孔径は0.08~5.0μmであり、好ましくは0.1~3.0μm、より好ましく0.12~1.5μmである。このような範囲内であるとリチウムイオン伝導性及び電子伝導性を両立しやすく、レート性能の向上に寄与する。
【0048】
セパレータ20は、セラミック製の微多孔膜である。セパレータ20は、耐熱性に優れるのは勿論のこと、正極層12及び負極層16と一緒に全体として1つの一体焼結体板として製造できるとの利点がある。セパレータ20に含まれるセラミックはMgO、Al2O3、ZrO2、SiC、Si3N4、AlN、及びコーディエライトから選択される少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはMgO、Al2O3、及びZrO2から選択される少なくとも1種である。セパレータ20の厚さは3~40μmであるのが好ましく、より好ましくは5~35μm、さらに好ましくは10~30μmである。セパレータ20の気孔率は30~85%が好ましく、より好ましくは40~80%である。
【0049】
セパレータ20は、正極層12及び負極層16との接着性向上の観点から、ガラス成分を含有してもよい。この場合、セパレータ20に占めるガラス成分の含有割合はセパレータ20の全体重量に対して0.1~50重量%が好ましく、より好ましくは0.5~40重量%、さらに好ましくは0.5~30重量%である。セパレータ20へのガラス成分の添加はセラミックセパレータの原料粉末にガラスフリットを添加することにより行われるのが好ましい。もっとも、セパレータ20と、正極層12及び負極層16との所望の接着性が確保できるのであれば、セパレータ20におけるガラス成分の含有は特に必要とされない。
【0050】
正極層12、セパレータ20及び負極層16が全体として1つの一体焼結体板を成しているのが好ましく、それにより正極層12、セパレータ20及び負極層16が互いに結合しているのが好ましい。すなわち、正極層12、セパレータ20及び負極層16の3層は接着剤等の他の結合手法に頼ることなく互いに結合されているのが好ましい。ここで、「全体として1つの一体焼結体板を成す」ということは、正極層12をもたらす正極グリーンシート、セパレータ20をもたらすセパレータグリーンシート、及び負極層16をもたらす負極グリーンシートからなる3層構造のグリーンシートを焼成して各層が焼結された状態であることを意味する。このため、焼成前の3層構造のグリーンシートを打ち抜き型で所定の形状(例えばコイン形やチップ形)に打ち抜いてしまえば、最終形態の一体焼結体板においては正極層12及び負極層16間のずれは一切存在しないことになる。すなわち、正極層12の端面と負極層16の端面が揃うので、容量を最大化できる。あるいは、仮にずれが存在するとしても一体焼結体板はレーザー加工、切削、研磨等の加工に適するため、そのようなずれを最小化又は無くすように端面を仕上げ加工すればよい。いずれにしても、一体焼結体板である以上、正極層12、セパレータ20及び負極層16が互いに結合しているため、正極層12及び負極層16間のずれが事後的に生じることもない。このように正極層12及び負極層16間のずれを最小化又は無くすことで、期待どおりの(すなわち理論容量に近い)高い放電容量を得ることができる。また、セラミックセパレータを含む3層構成の一体焼結体板であるため、1枚の焼結体板として作製される正極板単体や負極板単体と比較して、うねり又は反りが生じにくく(すなわち平坦性に優れ)、それ故正負極間距離にばらつきが生じにくく(すなわち均一になり)、充放電サイクル性能の向上に寄与するものと考えられる。このような一体焼結体は、特許文献8(WO2019/221140A1)に記載される方法に従って製造することができる。
【0051】
電解液22は特に限定されず、有機溶媒(例えばエチレンカーボネート(EC)及びメチルエチルカーボネート(MEC)の混合溶媒、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒、あるいはエチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒)の非水溶媒中にリチウム塩(例えばLiPF6)を溶解させた液等、リチウム電池用の市販の電解液を使用すればよい。
【0052】
耐熱性に優れたリチウムイオン二次電池とする場合には、電解液22は、非水溶媒中にホウフッ化リチウム(LiBF4)を含むものが好ましい。この場合、好ましい非水溶媒は、γ-ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましくはEC及びGBLからなる混合溶媒、PCからなる単独溶媒、PC及びGBLからなる混合溶媒、又はGBLからなる単独溶媒であり、特に好ましくはEC及びGBLからなる混合溶媒又はGBLからなる単独溶媒である。非水溶媒はγ-ブチロラクトン(GBL)を含むことで沸点が上昇し、耐熱性の大幅な向上をもたらす。かかる観点から、EC及び/又はGBL含有非水溶媒におけるEC:GBLの体積比は0:1~1:1(GBL比率50~100体積%)であるのが好ましく、より好ましくは0:1~1:1.5(GBL比率60~100体積%)、さらに好ましくは0:1~1:2(GBL比率66.6~100体積%)、特に好ましくは0:1~1:3(GBL比率75~100体積%)である。非水溶媒中に溶解されるホウフッ化リチウム(LiBF4)は分解温度の高い電解質であり、これもまた耐熱性の大幅な向上をもたらす。電解液22におけるLiBF4濃度は0.5~2mol/Lであるのが好ましく、より好ましくは0.6~1.9mol/L、さらに好ましくは0.7~1.7mol/L、特に好ましくは0.8~1.5mol/Lである。
【0053】
電解液22は添加剤としてビニレンカーボネート(VC)及び/又はフルオロエチレンカーボネート(FEC)及び/又はビニルエチレンカーボネート(VEC)をさらに含むものであってもよい。VC及びFECはいずれも耐熱性に優れる。したがって、かかる添加剤を電解液22が含むことで、耐熱性に優れたSEI膜を負極層16表面に形成させることができる。
【0054】
電池容器24は密閉空間を備え、この密閉空間内に正極層12、負極層16、セパレータ20及び電解液22が収容される。電池容器24はリチウムイオン二次電池10のタイプに応じて適宜選択すればよい。例えば、リチウムイオン二次電池が
図1に示されるようなコイン形電池の形態の場合、電池容器24は、典型的には、正極缶24a、負極缶24b及びガスケット24cを備え、正極缶24a及び負極缶24bがガスケット24cを介してかしめられて密閉空間を形成している。正極缶24a及び負極缶24bはステンレス鋼等の金属製であることができ、特に限定されない。ガスケット24cはポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、PFA樹脂等の絶縁樹脂製の環状部材であることができ、特に限定されない。
【0055】
リチウムイオン二次電池10は、正極集電体14及び/又は負極集電体18をさらに備えているのが好ましい。正極集電体14及び負極集電体18は特に限定されないが、好ましくは銅箔やアルミニウム箔等の金属箔である。正極集電体14は正極層12と電池容器24(例えば正極缶24a)との間に配置されるのが好ましく、負極集電体18は負極層16と電池容器24(例えば負極缶24b)との間に配置されるのが好ましい。また、正極層12と正極集電体14との間には接触抵抗低減の観点から正極側カーボン層13が設けられるのが好ましい。同様に、負極層16と負極集電体18との間には接触抵抗低減の観点から負極側カーボン層17が設けられるのが好ましい。正極側カーボン層13及び負極側カーボン層17はいずれも導電性カーボンで構成されるのが好ましく、例えば導電性カーボンペーストをスクリーン印刷等により塗布することにより形成すればよい。
【0056】
電池要素は、正極層12、セパレータ20及び負極層16を含む単位セルを複数個有するセル積層体の形態であってもよい。セル積層体は、平らな板ないし層を積み上げた形態の平板積層構造に限らず、以下の例示を含む様々な積層構造でありうる。なお、以下に例示するいずれの構成もセル積層体全体として1つの一体焼結体であるのが好ましい。
‐折り返し構造:単位セル及び集電層を含む層構成のシートが1回又は複数回折り返されることにより多層化(大面積化)された積層構造。
‐巻回構造:単位セル及び集電層を含む層構成のシートが巻回されて一体化されることにより多層化(大面積化)された積層構造。
‐積層セラミックコンデンサ(MLCC)様構造:厚さ方向に集電層/正極層/セラミックセパレータ層/負極層/集電層の積層単位が繰り返されることにより多層化(大面積化)され、かつ、複数の正極層が一方の側(例えば左側)で、複数の負極層が他方の側(例えば右側)で集電される積層構造。
【実施例】
【0057】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例において、LiCoO2を「LCO」と略称し、Li4Ti5O12を「LTO」と略称するものとする。
【0058】
例1
(1)LCOグリーンシート(正極グリーンシート)の作製
まず、Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo3O4粉末(正同化学工業株式会社製)とLi2CO3粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合後、780℃で5時間保持し、得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕してLCO板状粒子からなる粉末を得た。得られたLCO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。LCOグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが60μmになるようにした。
【0059】
(2)LTOグリーンシート(負極グリーンシート)の作製
まず、LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。LTOグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが70μmになるようにした。
【0060】
(3)MgOグリーンシート(セパレータグリーンシート)の作製
炭酸マグネシウム粉末(神島化学工業株式会社製)を900℃で5時間熱処理してMgO粉末を得た。得られたMgO粉末とガラスフリット(日本フリット株式会社製、CK0199)を重量比4:1で混合した。得られた混合粉末(体積基準D50粒径0.4μm)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、スラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、セパレータグリーンシートを形成した。セパレータグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが25μmになるようにした。
【0061】
(4)積層、圧着及び焼成
LCOグリーンシート(正極グリーンシート)、MgOグリーンシート(セパレータグリーンシート)及びLTOグリーンシート(負極グリーンシート)を順に積み重ね、得られた積層体をCIP(冷間等方圧加圧法)により200kgf/cm2でプレスしてグリーンシート同士を圧着した。こうして圧着された積層体を打ち抜き型で直径10mmの円板状に打ち抜いた。得られた円板状積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで800℃まで昇温して10分間保持する焼成を行い、その後冷却した。こうして、正極層(LCO焼結体層)、セラミックセパレータ(MgOセパレータ)及び負極層(LTO焼結体層)の3層を含む1つの一体焼結体板を得た。
【0062】
(5)リチウムイオン二次電池の作製
図1に模式的に示されるようなコイン形リチウムイオン二次電池10を以下のとおり作製した。
【0063】
(5a)負極層と負極集電体の導電性カーボンペーストによる接着
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを導電性接着剤として調製した。負極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(すなわち導電性カーボンペーストで塗布された領域)内に負極層が収まるように上記(4)で作製した一体焼結体を載置し、60℃で30分間真空乾燥させることで、負極層と負極集電体とが負極側カーボン層を介して接着された構造体を作製した。なお、負極側カーボン層の厚さは10μmとした。
【0064】
(5b)カーボン層付き正極集電体の準備
アセチレンブラックとポリイミドアミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを調製した。正極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した後、60℃で30分間真空乾燥させることで、表面に正極側カーボン層が形成された正極集電体を作製した。なお、正極側カーボン層の厚さは5μmとした。
【0065】
(5c)コイン形電池の組立
電池ケースを構成することになる正極缶と負極缶との間に、正極缶から負極缶に向かって、正極集電体、正極側カーボン層、一体焼結体板(LCO正極層、MgOセパレータ及びLTO負極層)、負極側カーボン層、並びに負極集電体がこの順に積層されるように収容し、電解液を充填した後に、ガスケットを介して正極缶と負極缶をかしめることによって封止した。こうして、直径12mm、厚さ1.0mmのコインセル形のリチウムイオン二次電池10を作製した。このとき、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びγ-ブチロラクトン(GBL)を1:3の体積比で混合した有機溶媒に、LiBF4を1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた液を用いた。
【0066】
(6)保存後容量維持率の測定
電池の保存後容量維持率を以下の手順で測定した。まず、25℃環境下において2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量を測定した。次いで、60℃の環境下において2.7Vの電圧を印加した状態で50日保持した。最後に、2.7Vで定電圧充電した後、0.2Cで放電することにより、保存後容量を測定した。測定された保存後容量を初期容量で除して100を乗じることにより、保存後容量維持率(%)を得た。
【0067】
(7)保存後電池の解体、洗浄及び再組立
保存後に放電した状態の電池を用意し、正極缶と負極缶をかしめた封止部を開放した。次に電池から負極缶及びガスケットを取り外し、内部から、正極集電体、一体焼結板及び負極集電体を取り出した。次に、取り出した一体焼結板から正極集電体を取り外し、負極集電体が接着された一体焼結板を適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に浸漬し60分攪拌することで、一体焼結板に接着した正極側カーボン層及び負極側カーボン層、並びに一体焼結板に付着した電解液分解物等の不純物を溶解し除去すると同時に、負極集電体を剥離した。同じ作業を2回繰り返し、不純物を除去した一体焼結板を120℃で12時間真空乾燥させた。次に、真空乾燥した一体焼結板を上記(5a)、(5b)及び(5c)の手順でコイン形電池として再組立した。
【0068】
(8)再組立した電池の容量維持率
再組立した電池の容量維持率を以下の手順で測定した。まず、25℃環境下において2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより再組立後容量を測定した。測定された再組立後容量を初期容量で除して100を乗じることにより、再組立後容量維持率(%)を得た。
【0069】
例2
真空乾燥した一体焼結板を600℃で5時間加熱することで脱脂した後に、電池の再組立に用いたこと以外は、例1と同様にして再組立電池の評価を行った。
【0070】
例3
脱脂した一体焼結板を800℃で10分焼成した後に、電池の再組立に用いたこと以外は、例2と同様にして再組立電池の評価を行った。
【0071】
例4(比較)
電池解体後の電極復活処理(洗浄及び乾燥)を行うことなく電解液の交換のみを行ったこと以外は、例1と同様にして再組立電池の評価を行った。
【0072】
例5(比較)
a)正極板としてLCO焼結体板の代わりに市販のLCO塗工電極(宝泉株式会社製)を用いたこと、b)負極板及び負極集電体として以下に示される手順で作製された負極集電体上カーボン塗工電極を用いたこと、c)セパレータとしてセルロースセパレータを用いたこと以外は、例1と同様にして電池の作製を行った。また、充電電圧及び保存中の印加電圧を4.2Vとしたこと以外は、例1と同様にして電池の評価を行った。
【0073】
(カーボン塗工電極の作製)
負極集電体(アルミニウム箔)の表面に、活物質としてのグラファイトと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)との混合物を含むペーストを塗布し、乾燥させて、厚さ280μmのカーボン層を備えたカーボン塗工電極を作製した。
【0074】
評価結果
表1に例1~5の評価結果を示す。
【0075】
【0076】
表1に示される結果から分かるように、例1~3では、電極復活処理により不純物除去等の効果で容量維持率の大幅な回復が見られた。一方、電解液の交換しか行わなかった比較例である例4では容量維持率の大きな改善は見られなかった。また、(バインダー等を含む)塗工電極を用いた比較例で例5では洗浄工程で活物質の脱離等により劣化が生じた。
【0077】
例6
(1)各種グリーンシートの作製
積層体を構成するための各種グリーンシートの作製を以下のとおり行った。なお、以下のグリーンシートの作製に関して言及するスラリーの粘度はブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。また、スラリーをPETフィルム上に成形する際にはドクターブレード法を用いた。
【0078】
(1a)LCOグリーンシート(正極グリーンシート)の作製
Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo3O4粉末(正同化学工業株式会社製)とLi2CO3粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合後、780℃で5時間保持し、得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕してLCO板状粒子からなる粉末を得た。得られたLCO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)8重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)2重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)4.5重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。調製されたスラリーをPETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。焼成後のLCO層の厚さが12μmになるように調整した。
【0079】
(1b)LTOグリーンシート(負極グリーンシート)の作製
LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。調製されたスラリーをPETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。焼成後のLTO層の厚さが10μmになるように調整した。
【0080】
(1c)集電体層の形成
上記(1b)で作製したLTOグリーンシートの片面に、印刷機にてAuペースト(田中貴金属社製、製品名:GB-2706)を印刷した。印刷層の厚さは、焼成後0.2μmになるようにした。
【0081】
(1d)セパレータグリーンシートの作製
炭酸マグネシウム粉末(神島化学工業株式会社製)を900℃で5時間熱処理してMgO粉末を得た。得られたMgO粉末とガラスフリット(日本フリット株式会社製、CK0199)を重量比7:3で混合した。得られた混合粉末(体積基準D50粒径0.4μm)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)30重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)6重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、スラリーを調製した。調製されたスラリーをPETフィルム上にシート状に成形することによって、セパレータグリーンシートを形成した。焼成後のセパレータ層の厚さは25μmになるようにした。
【0082】
(1e)第1の絶縁層(正極側絶縁層)グリーンシートの作製
炭酸マグネシウム粉末(神島化学工業株式会社製)を900℃で5時間熱処理してMgO粉末を得た。得られたMgO粉末とTiO2(石原産業株式会社製、CR-EL)を重量比6:4で混合した。得られた混合粉末(体積基準D50粒径0.4μm)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)30重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)6重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、スラリーを調製した。調製されたスラリーをPETフィルム上にシート状に成形することによって、第1の絶縁層グリーンシートを形成した。焼成後の第1の絶縁層の厚さは12μmになるようにした。
【0083】
(1f)第2の絶縁層(負極側絶縁層)グリーンシートの作製
上記(1e)と同様にスラリーを調製した。調製されたスラリーをPETフィルム上にシート状に成形することによって、第2の絶縁層グリーンシートを形成した。焼成後の第2の絶縁層の厚さは10μmになるようにした。
【0084】
(2)シートの切断
上記(1)で作製された各種グリーンシートをそれぞれ以下に示される幅のシート片に切断した。
‐ LCOグリーンシート(正極グリーンシート): 7460μm
‐ LTOグリーンシート(負極グリーンシート): 7460μm
‐ セパレータグリーンシート: 10000μm
‐ 第1の絶縁層(正極側絶縁層)グリーンシート: 2540μm
‐ 第2の絶縁層(負極側絶縁層)グリーンシート: 2540μm
【0085】
(3)積層、圧着、切断および焼成
図5及び6に示されるような層構成となるように、LCOグリーンシート(正極グリーンシート)112、LTOグリーンシート(負極グリーンシート)116、セパレータグリーンシート120、第1の絶縁層(正極側絶縁層)グリーンシート111a、及び第2の絶縁層(負極側絶縁層)グリーンシート111bを積層した。
図5に示される層構成は、LCOグリーンシート112、LTOグリーンシート116、セパレータグリーンシート120、並びに第1及び第2の絶縁層グリーンシート111a,111bを含むユニットuを合計5つ有しており、それら5個の積層ユニットUが
図6に簡略化して示されている。なお、LTOグリーンシート116が2枚重ねられる場合は、集電体層119(
図5では省略、
図6を参照)同士が互いに接するように積層した。得られた積層体をCIP(冷間等方圧加圧法)により100kgf/cm
2でプレスしてグリーンシート同士を圧着し、未焼成グリーンシート積層体を得た。続いて、
図5及び6に示されるように未焼成グリーンシート積層体をトムソン刃で切断線Cに沿って切断した。このとき、積層体の幅方向の両端からそれぞれ2500μmの部分を切除し、奥行きの方向に5000μmの長さとなるように積層体を切り分けた。切断後の未焼成積層体を、室温から600℃まで昇温して5時間脱脂した後、800℃まで昇温して10分間保持する焼成を行い、その後冷却した。このようにして積層一体焼結体を得た。積層一体焼結体に形成されるセル数は11である。
【0086】
(4)導電性カーボンペーストの調製
純水に対してバインダー(CMC:MAC350HC、日本製紙株式会社製)が1.2wt%となるように秤量し、スターラー混合で溶解させて、1.2wt%CMC溶液を得た。カーボン分散液(品番:BPW―229、日本黒鉛株式会社製)および分散材溶液(品番LB-300、昭和電工株式会社製)を準備した。続いて、カーボン分散液と、分散材溶液と、1.2wt%CMC溶液とが、0.22:0.29:1となるように秤量し、これを自公転ミキサーにより混合して、導電性カーボンペーストを調製した。
【0087】
(5)積層一体焼結体の正極露出面へのアルミニウム箔の接着
正極集電体としてのアルミニウム箔上に上記(4)で得た導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(導電性カーボンペーストが塗布された領域)内に収まるように、上記(3)で得た積層一体焼結体の正極露出面が接着されるように載置し、指で軽く押さえつけた後に、50℃で60分間真空乾燥させた。このようにして、積層一体焼結体の正極露出面と正極集電体とが、導電性カーボン接着層を介して接着された。なお、導電性カーボン接着剤層の厚さは30μmとした。
【0088】
(6)積層一体焼結体の負極露出面へのアルミニウム箔の接着
上記(5)と同様にして、積層一体焼結体の負極露出面に、導電性カーボン接着層を介して、負極集電体であるアルミニウム箔を接着した。
【0089】
(7)コイン形電池の組立
電池ケースを構成することになる正極缶と負極缶との間に、正極缶から負極缶に向かって、正極集電体、積層一体焼結体、並びに負極集電体がこの順に積層されるように収容し、電解液を充填した後に、ガスケットを介して正極缶と負極缶とをかしめることによって封止した。こうして、直径20mm、厚さ1.6mmのコインセル形のリチウム二次電池を作製した。電解液としては、プロピレンカーボネート(PC)およびγ-ブチロラクトン(GBL)を1:3の体積比で混合した有機溶媒に、LiPF6を1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた液を用いた。
【0090】
(8)保存後容量維持率の測定
電池の保存後容量維持率を以下の手順で測定した。まず、25℃環境下において2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより初期容量を測定した。次いで、60℃の環境下において2.7Vの電圧を印加した状態で50日保持した。最後に、2.7Vで定電圧充電した後、0.2Cで放電することにより、保存後容量を測定した。測定された保存後容量を初期容量で除して100を乗じることにより、保存後容量維持率(%)を得た。
【0091】
(9)保存後電池の解体、洗浄及び再組立
保存後に放電した状態の電池を用意し、正極缶と負極缶をかしめた封止部を開放した。次に電池から負極缶及びガスケットを取り外し、内部から、正極集電体、積層一体焼結体及び負極集電体を取り出した。次に、取り出した積層一体焼結体を適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に浸漬し60分攪拌することで、一体焼結板に接着した正極側カーボン層及び負極側カーボン層、並びに積層一体焼結体に付着した電解液分解物等の不純物を溶解し除去すると同時に、正極集電体及び負極集電体を剥離した。同じ作業を2回繰り返し、不純物を除去した積層一体焼結体を120℃で12時間真空乾燥させた。次に、真空乾燥した一体焼結板を上記(5)、(6)及び(7)の手順でコイン形電池として再組立した。
【0092】
(10)再組立した電池の容量維持率
再組立した電池の容量維持率を以下の手順で測定した。まず、25℃環境下において2.7Vで定電圧充電した後、放電レート0.2Cで放電することにより再組立後容量を測定した。測定された再組立後容量を初期容量で除して100を乗じることにより、再組立後容量維持率(%)を得た。
【0093】
例7
真空乾燥した一体焼結板を600℃で5時間加熱することで脱脂した後に、電池の再組立に用いたこと以外は、例6と同様にして再組立電池の評価を行った。
【0094】
例8
脱脂した一体焼結板を800℃で10分焼成した後に、電池の再組立に用いたこと以外は、例7と同様にして再組立電池の評価を行った。
【0095】
例9(比較)
電池解体後の電極復活処理(洗浄及び乾燥)を行うことなく電解液の交換のみを行ったこと以外は、例6と同様にして再組立電池の評価を行った。
【0096】
評価結果
表2に例6~9の評価結果を示す。
【0097】
【0098】
表2に示される結果から分かるように、例6~8では、電極復活処理により不純物除去等の効果で容量維持率の大幅な回復が見られた。一方、電解液の交換しか行わなかった比較例である例9では容量維持率の大きな改善は見られなかった。