(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】金属製の複合部材、金属製の複合部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20240731BHJP
【FI】
B23K20/00 350
B23K20/00 310C
(21)【出願番号】P 2023085927
(22)【出願日】2023-05-25
(62)【分割の表示】P 2018241228の分割
【原出願日】2018-12-25
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】手島 政和
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩二
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-187462(JP,A)
【文献】特開昭58-141882(JP,A)
【文献】特開昭48-085464(JP,A)
【文献】国際公開第2008/074964(WO,A1)
【文献】特開平07-204009(JP,A)
【文献】特許第6372636(JP,B1)
【文献】特開2013-049063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
B21D 39/00 - 41/04
B21J 1/00 - 13/14、
17/00 - 19/04
B21K 1/00 - 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散接合の可能な金属のめっき被膜を形成した接合部材に被接合部材を嵌合させた状態で加圧された両部材の少なくとも一方の塑性変形により当該両部材が一体に接合された接合部を有する複合部材であり、加熱により前記接合部に生成される拡散層を有することを特徴とする金属製の複合部材。
【請求項2】
前記めっき被膜は、ニッケルめっき被膜であることを特徴とする請求項
1に記載の金属製の複合部材。
【請求項3】
接合部材に被接合部材を嵌合させた状態で両部材を加圧することにより両部材を塑性変形させて当該両部材を一体に接合した接合部を有する複合部材と成し、前記塑性変形によって当該両部材の表面に施されている被膜が押し延ばされて破壊されることにより新生面が露出し、当該両部材の前記新生面同士が結合して前記接合部を生成したことを特徴とする金属製の複合部材の製造方法。
【請求項4】
拡散接合の可能な金属のめっき被膜を形成した接合部材に被接合部材を嵌合させた状態で両部材を加圧することにより両部材の少なくとも一方を塑性変形させて当該両部材を一体に接合した接合部を有する複合部材と成し、当該複合部材を加熱することにより前記接合部に拡散層を生成したことを特徴とする金属製の複合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき被膜を形成した金属材料でなる接合部材と被接合部材とを密着性が高くなるように一体に接合してなる金属製の複合部材、及び金属製の複合部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料でなる接合部材と被接合部材とを接合して複合部材を製造する場合には、当該複合部材の用途によってはその接合個所に高度な密着性が要望されている。例えば、リチウム電池にあっては、電極端子に溶接等によりリード線等を取付けることから、電極端子には導電率の高い銅部材と耐食性の高いアルミ部材とを電気抵抗が高くならないように密着性を高めて接合した複合部材が要望されている。この種の要望に応じた金属部材の接合方法としては、特公昭59-52031号公報(以下、031号特許という)、特公昭64-4581号公報(以下、581号特許という)等に記載の拡散接合方法が最適な方法として知られているが、いずれも両部材が薄い板材であったり、一方の部材が他方の部材に被覆されるめっき被膜であったりする場合に限られている。
【0003】
例えば、これら接合方法中の031号特許の拡散接合方法にあっては、薄い板材接合に限られるものであって、両部材を圧造する際に両部材の接合部に付着する酸化膜や不純物が除去されて新生面が得られる。これにより、両部材の接合部分の新生面同士が接触して、拡散接合が得られるものである。また、581号特許に記載の拡散接合方法は、金属材料とその外周に被覆されるめっき被膜との接合に限定されるもので、めっき被膜の被覆時には事前に金属材料から酸化膜や不純物が洗浄される。そのため、当該拡散接合方法にあっては、両部材を所定温度に加熱することにより、密着性の高い拡散接合が得られている。すなわち、これら接合方法では、両部材の接合部に酸化膜、不純物のないことが要件となっている。そのため、接合される両部材が棒状であって、両部材を一体に接合する場合や、一方の部材が棒状部材で他方が肉厚のある部材であってこれら部材を一体に接合する場合には、一般的な一体接合方法では当該両部材に付着する酸化膜、不純物を除去できないことから、当該接合部では拡散接合ができないという問題があった。また、これら部材の一方に拡散接合の困難な金属のめっき被膜が被覆されている場合も同様に、一般的な一体接合方法では、両部材の接合部にめっき被膜が剥がされずに残ることから、拡散接合ができないという問題があった。
【0004】
これら問題を解決するため、両部材の一体接合にあっては、前工程で各部材に付着する酸化膜や不純物を除去し、その後に両部材を一体に接合する方法もあるが、両部材の一体接合を大気炉で行うと、即座に両部材に新たに酸化膜や不純物が付着する。そのため、これらが両部材の接合部付近には酸化膜や不純物が残ることとなる。この状態で、複合部材が加熱されてもこれらの接合部には十分な拡散接合が得られず、固溶強化された密着性の高い接合部で接合される複合部材を製造することができないという第1の問題があった。
【0005】
また、一体接合される部材の一方が拡散接合の困難な金属のめっき被膜が被覆された部材である場合には、当該めっき被膜のない状態で一体接合し、その後に一体接合された複合部材の一方に当該めっき被膜を被覆する以外に方法がなく、これが大変面倒な作業となって、複合部材の製造コストが高くなるとい第2の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭59-52031号公報
【文献】特公昭64-4581号公報
【文献】特公昭59-48714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の第1の問題を解決する接合方法としては、
図10に示すように真空炉107内に加圧装置107aと加熱装置107bとを配置し、当該加圧装置107aに接合部材101と被接合部材102とを当接させて一定加圧下で加熱装置107bにより所定温度で所定時間保持する接合方法が利用されている。この接合方法では、前工程で両部材の接合面の酸化膜(図示せず)、不純物(図示せず)を取り除いておけば、真空炉107内では酸化膜や不純物が両部材に付着することがなく、両部材の接合部には十分な拡散接合が得られる。しかしながら、当該真空炉107には、内部に加熱装置107bのほかに加圧装置107aが必要となるもので、当該真空炉107が高価となるばかりか、真空炉107内の加圧装置107aにセットできる両部材の数に限りがあり、大量の複合部材の製造には適さないという新たな問題が生じている。
【0008】
また、前述の第2の問題を解決する接合方法としては、特公昭59-48714号公報に記載された接合方法がある。この接合方法は、両部材間に共晶合金を介在させて、これを一定加圧下で溶融させて両部材を接合するもので、共晶合金を両部材間の所定位置に挿入するための面倒な挿入工程が必要となり、製造コストが高くなるという新たな問題が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
また、本発明に係る金属製の複合部材の製造方法は、接合部材に被接合部材を嵌合させた状態で両部材を加圧することにより両部材を塑性変形させて当該両部材を一体に接合した接合部を有する複合部材と成し、前記塑性変形によって当該両部材の表面に施されている被膜が押し延ばされて破壊されることにより新生面が露出し、当該両部材の前記新生面同士が結合して前記接合部を生成したことを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る金属製の複合部材は、拡散接合の可能な金属のめっき被膜を形成した接合部材に被接合部材を嵌合させた状態で加圧された両部材の少なくとも一方の塑性変形により当該両部材が一体に接合された接合部を有するものであって、加熱により前記接合部に生成される拡散層を有することを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る金属製の複合部材の製造方法は、拡散接合の可能な金属のめっき被膜を形成した接合部材に被接合部材を嵌合させた状態で両部材を加圧することにより両部材の少なくとも一方を塑性変形させて当該両部材を一体に接合した接合部を有する複合部材と成し、当該複合部材を加熱することにより前記接合部に拡散層を生成したことを特徴としている。
【0013】
前述の構成によれば、拡散接合の可能な金属のめっき被膜を形成した接合部材に被接合部材を嵌合させた状態で両部材を加圧することで接合部材と被接合部材とを一体に接合して複合部材を成形すると、これらの接合部付近では各部材が加圧方向と交差する方向に十分に押し延ばされる。そのため、両部材の接合部付近では両部材が押し延ばされて位置するので、これらに付着する酸化膜、不純物または被覆されためっき被膜が破壊される。これにより、当該酸化膜、不純物またはめっき被膜は両部材の接合部から除去、または分離され、両部材に新生面が生成される。その後、両部材が一体接合されてなる複合部材が加熱されると、両部材の新生面の接触個所に拡散層が生成される。しかも、両部材は接合部付近では十分押し延ばされているので、当該接合部付近には密着性が低くなるような空気層が形成されない。また、当該接合部に大気が回り込むこともないので、複合部材の加熱が大気炉で行われても、両部材の接合部の新生面が新たな酸化膜に覆われるようなこともない。これにより、複合部材の接合部には十分な厚さの拡散層が生成され、固溶強化されて密着性の高い接合部で接合される複合部材を製造することができる。
【0014】
さらに、本発明のめっき被膜は、ニッケルめっき被膜であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した本発明によれば、接合部材と被接合部材とを十分に押し延ばして一体に接合してなる複合部材を得ることができ、さらにこのような複合部材を加熱することにより、両部材に付着する酸化膜、不純物等の影響を受けることなく、拡散接合により固溶強化された密着性の高い接合部で接合される金属製の複合部材、及び金属製の複合部材を製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る金属部材の接合方法の圧延工程図(a)および加熱工程図(b)。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る金属部材の接合方法の圧延工程を工程順に示す説明図。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る複合部材の拡大縦断面図。
【
図4】
図3のA部を一部切り欠いて拡大した模式断面図。
【
図5】
図3の複合部材に係る接合部断面の拡大写真(a)と同写真(ニッケルメッキを被覆した接合部材の使用時)の要部拡大写真(b)。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る複合部材の変形例を示す断面図。
【
図7】
図6のB部を一部切り欠いた拡大模式断面図(a)と、同部分のセレーション部をセレーション溝の底面を通る直線で切断した拡大模式断面図(b)。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る圧延工程の工程順を示す説明図。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係る圧延工程の工程順を示す説明図。
【
図10】従来の拡散接合を利用した金属部材の接合方法を説明する概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る金属部材の接合方法(以下、第1接合方法という)を図面に基づき説明する。第1接合方法は、
図1(a)および
図2(a),(b),(c)に示す圧延工程と、
図1(b)に示す加熱工程とからなっている。前記圧延工程は、軸部1aとつば部1bと突部1cとを有する銅材料でなる接合部材1と、前記つば部1bに当接しながら突部1cに嵌合する穴部2aが形成された柱状のアルミ合金材料でなる被接合部材2と、これら両部材を加圧可能に配置された受け型3および押し型4とを有し、押し型4の加圧により被接合部材2を接合部材1に一体に接合させて複合部材CCを成形するように構成されている。前記受け型3は、被接合部材2の一部を案内する拡開穴3aとこれに連通して接合部材1の軸部1aを位置決めする位置決め穴3bとを有している。当該位置決め穴3bには、その同心軸上に延びるノックアウトピン5が突出可能に配置されており、このノックアウトピン5の端面は位置決め穴3bの底部を塞ぐように構成されている。また、このノックアウトピン5は位置決め穴3b内の接合部材1のつば部1bを受け型3の拡開穴3aに位置させるとともに、接合部材1の突部1cを受け型3から露出させるように構成されている。さらに、このノックアウトピン5は前記押し型4の後退後に位置決め穴3b内に突出する時には位置決め穴3bに位置する接合部材1の軸部1aが一体に接合された被接合部材2とともに受け型3から取出されるように構成されている。
【0018】
前記圧延工程は、好ましくは
図2(a),(b)に示すように予備成形穴6aを有する予備成形型6を有している。当該予備成形型6は、接合部材1の突部1cに嵌合する被接合部材2をなべ頭様成形部2bに予備成形するように構成されている。この予備成形型6の予備成形穴6aは被接合部材2の余肉がその加圧方向と交差する方向に延びるのを可能にしている。また、前記予備成形型6は被接合部材2の予備成形時には、接合部材1の突部1cに嵌合する被接合部材2の一部を受け型3の拡開穴3aに沿った形状に成形するとともに接合部材1のつば部1bに密着させるように構成されている。さらに、前記予備成形型6は被接合部材2を予備成形する時に硬度の低い被接合部材2を加工硬化させてその硬度を増しながらその穴部2aの内壁を介して硬度の高い接合部材1の突部1cをその外周側から順に押圧するように構成されている。これにより、接合部材1の突部1cは胴膨れせずに、その端面が曲面形状に塑性変形される。この曲面形状の端面は、被接合部材2が突部1cの端面付近で円滑に押し延ばされるのを助長することができる。
【0019】
前記押し型4は、
図2(c)に示すように被接合部材2の予備成形後に、予備成形されたなべ頭様成形部2bを所定厚さの平板様頭部2dに塑性変形させて両部材を一体に接合するように構成されている。また、この押し型4は予備成形型6と同様に、被接合部材2の成形時に硬度の低い被接合部材2を加工硬化させながらその硬度を増してその穴部2aの内壁を介して硬度の高い接合部材1の突部1cを押圧する構成となっている。これにより、接合部材1の突部1cは胴膨れせずに、その端面を曲面形状にする塑性変形するのが助長される。この曲面形状の突部1cの端面は、被接合部材2が前記押し型4に加圧されるにともなって、突部1cの端面付近で円滑に押し延ばされるのも助長することができる。
【0020】
なお、接合部材1は銅材料でなっているが、鉄材料等のより硬度の高い金属材料であってもよく、この場合には被接合部材2のみが塑性変形されて、複合部材CCが成形されることとなるので、接合部材1の突部1cの端面を予め曲面形状としておく必要がある。また、前述の圧延工程は予備成形型6を使用しているが、予備成形型6を使用せずに、押し型4のみで直接柱状の被接合部材2を平板様頭部2dに成形する構成であってもよい。この場合、押し型4が接合部材1の突部1cの端面をその外周側から順に押圧する構成を持つようにするのが好適である。
【0021】
前記加熱工程の加熱炉7は、
図1(b)に示すように、炉内に投入される複合部材CCを加熱する構造があればよく、これを大気雰囲気で400~500℃で2時間以上、好ましくは4時間程度加熱して複合部材CCの接合部に生成された新生面に拡散層を生成するように構成されている。この加熱炉7に投入される複合部材は加熱されるだけで、拡散接合が可能であるため、当該加熱炉7には多数個の複合部材CCを投入することができる。また、当該加熱炉7では前述の温度、時間は銅材料とアルミ合金材料が接合される場合に最適な設定値であり、接合部材1や被接合部材2が別の金属材料に変更されると、これら金属材料およびこれら金属材料に金属めっき皮膜が被覆される時にはこれら金属材料の各融点のうちで、最も低い側の融点の7割程度の温度が、またこれに応じて好適な時間が最適値として選定される。これにより、両部材の接合部には異種金属の拡散により脆弱な金属間化合物が発生するのを防ぐことができる。
【0022】
上記第1接合方法によれば、
図2(a)に示すように受け型3内で接合部材1の軸部1aがノックアウトピン5により位置決めされ、同時にそのつば部1bが受け型3の拡開穴3aの上面で保持される。その後、予備成形型6が受け型3に対して前進して被接合部材2を接合部材1のつば部1bに当接させながらその穴部2aが接合部材1の突部1cに嵌合するように前進する。この予備成形型6が所定ストローク前進すると、被接合部材2の上部を圧縮してなべ頭様成形部2b(
図2(b)参照)が予備成形される。この時、硬度の低い被接合部材2が加工硬化しながらその硬度を増してその穴部2aの内壁を介して成形開始前に硬度が高い接合部材1の突部1cをその外周側から順に加圧する。そのため、接合部材1の突部1cの端面、すなわち上端が加圧方向と交差する方向に延びる曲面形状に塑性変形しながら、その上端外周がわずかに外方に扁平して下側周囲に凹曲面形状を持つオーバハング部1ca(
図2(b)参照)が形成され始める。この時、銅材料でなる接合部材1が持つ硬度と、アルミ合金材料でなる被接合部材2が加工硬化により徐々に増す硬度とから、前記突部1cに形成されるオーバハング部1caの上面は被接合部材2を加圧方向と交差する方向に案内するに十分な大きさの曲面形状となる。また、同様にオーバハング部1caの下側周囲は被接合部材2を加圧方向に案内するに十分な大きさの凹曲面形状となる。
【0023】
前記被接合部材2の下端は、前述のなべ頭様成形部2bの予備成形と同時に、接合部材1のつば部1bと金型3の拡開穴3aの壁面との間隙に押し延ばされて充満される。これにより、接合部材1のつば部1bの周面付近の被接合部材2は大きく塑性変形し、被接合部材2に付着する酸化膜や不純物(図示せず)を破壊して除去または分離することができる。そのため、当該つば部1b付近の被接合部材2には新生面が生成されることとなる。
【0024】
前記被接合部材2を予備成形後、予備成形型6を後退させた後に、
図2(b),(c)に示すように押し型4が受け型3に対して所定位置まで前進する。この押し型4の前進にともなって、被接合部材2のなべ頭様成形部2bが圧縮されて接合部材1の突部1cが露出しない所定厚さの平板様頭部2dに成形され、所定形状の複合部材CC(
図3参照)が成形される。この時、予備成形の際に曲面形状に塑性変形した突部1cの上端が加圧方向と交差する方向にさらに押し延ばされる。これにより、
図4に示すように当該突部1cの上端にはさらに大きな曲面形状が得られるように外方に扁平して十分な引張強度が得られる大きさのオーバハング部1caが形成される。この時、接合部材1のつば部1bとオーバハング部1caとの間にはオーバハング部1caの下側周辺の凹曲面形状に沿ってなべ頭様成形部2bの余肉が押し延ばされて回り込む。この回り込んだ余肉がオーバハング部1caによりわずかながらも加圧され、接合部材1の上面はもとより突部1cの周囲、当該突部1cに成形されるオーバハング部1caの周辺も被接合部材2と密着することができる。しかも、この密着する接合部材1と被接合部材2とは異種金属であるので、加圧の際の残留応力の大きさの相違によりこれらの密着性が向上することとなり、両部材の接合を高めることができる。
【0025】
前記複合部材CCの接合部では、
図4に示すように接合部材1、被接合部材2の両部材とも、大きく押し延ばされて塑性変形しているので、当該塑性変形部分では、これらに付着する酸化膜2cや不純物、または被接合部材2を被覆するめっき被膜1dは破壊されて除去、または分離されて、新生面が生成される。しかも、当該塑性変形部分に生成される新生面同士が密着しながら両部材が一体に接合するので、当該新生面は直ちにそれぞれの部材で覆われ、当該新生面に酸化膜が生じることがない。これにより、当該新生面を接合部に持つ複合部材CCを大気中で加熱することが可能となり、圧延工程と加熱工程とを分離して構成することが可能となっている。
【0026】
その後、前記圧延工程で成形された複合部材CCが加熱工程の加熱炉7に投入される(
図1(b)参照)。この時、当該複合部材CCを大気中で構成される加熱工程、例えば大気炉(図示せず)で加熱しても、当該複合部材CCにあっては接合部材1の突部1c付近の被接合部材2との接合部では接合部材1と被接合部材2とは密着していて、両部材の接合部に空気層がなく、また当該接合部に大気が回り込むこともない。そのため、当該接合部を構成する両部材に生成された新生面を新たな酸化膜が覆うようなことがなく、両部材の密着性は
図5(a)に示すように高くなっており、当該新生面には
図5(b)に示すように十分な厚さの拡散層が生成される。これにより、固溶強化されて密着性の高い接合部で接合される複合部材CCを製造することができる。
【0027】
同様に、当該複合部材CCの加熱の際には、接合部材1のつば部1b周辺には新生面が生成された被接合部材2が充満しているので、当該つば部1bの周辺接合部では十分な厚さの拡散層が生成される。これにより、当該つば部1bの周辺においても、固溶強化されて密着性の高い接合部で接合される複合部材CCであって、電気特性も良好な複合部材CCを製造することができる。
【0028】
また、前記加熱工程にあっては、加熱炉7は一体に接合される複合部材CCを所定温度に加熱するだけであるので、加熱炉7の構造が簡単となってそのコストを低減できる。また、この加熱炉7内には複数個の複合部材CCを投入することができるので、加熱工程に要する時間を効率よく使用することとなり、加熱炉7のコストの低減と相まって複合部材の加熱に要する単価を低減することができる。
【0029】
なお、前記複合部材CCに係る接合部材1は突部1cに連なるつば部1bを有する構造であるが、つば部1bのない構造であってもよい。また、
図6に示すように外周に歯部1eaを備えたセレーション部1eが突部1cに連なる構造としてもよい。この場合、被接合部材2は
図7(a)および
図7(b)に示すように平板様頭部2dに成形される際には、前記セレーション部1eの歯部1ea.1ea間に押し延ばされる。すなわち、前述の接合部材1に係るオーバハング部1caの下側周辺の凹曲面形状に沿って押し延ばされたなべ頭様成形部2bの余肉はセレーション溝1ebの底部付近では複雑な塑性変形を起こしながら、またセレーション溝1ebの底部から離れた部分では円滑に押し延ばされ、当該複合部材CCには十分な回転方向の強度が得られる。その上に、前記セレーション部1eのセレーション溝1eb付近でも、両部材に付着する酸化膜2c、不純物(図示せず)、めっき被膜1dが破壊されて除去、または分離されて新生面が生成される。これにより、当該複合部材CCを前述の加熱炉7に投入して、同様に所定温度で所定時間加熱すると、複合部材CCのオーバハング部1caの上面に加え、オーバハング部1caの凹曲面形状付近にも十分な拡散層を生成することができる。また、接合部材1にめっき被膜がなかったり、拡散接合が容易な金属のめっき被膜(図示せず)が被覆されていたりすると、セレーション部1eのセレーション溝1eb付近の新生面にも十分な拡散層を生成することができる。そのため、引張強度も十分でかつ拡散接合により固溶強化された密着性の高い接合部で接合される複合部材CCを製造することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る金属部材の接合方法(以下、第2接合方法という)を説明する。第2接合方法は、前述の第1接合方法とは圧延工程のみを異にし、加熱工程は同一であるので、加熱工程の説明を省略し、圧延工程(以下、第2圧延工程という)について説明する。この第2圧延工程は、
図8(a)に示すように軸部21aと凹溝の一例の非円形穴21faを有する頭部21fとを有する銅材料でなる接合部材21と、前記頭部21fに嵌合する穴部22aが形成されたアルミ合金材料でなる柱状の被接合部材22とを備えている。また、この第2圧延工程は前述の両部材を加圧可能に配置された受け型23と被接合部材22を平板様頭部22dに成形する押し型24とを有し、押し型24の加圧により接合部材21に被接合部材22を一体に接合して複合部材CCを成形するように構成されている。前記被接合部材22の穴部22aの壁面は前記押し型24により加圧される際に、接合部材21の頭部21fの端部に外周側から当接するように構成されている。これにより、前記被接合部材22はその穴部22aの壁面により接合部材21の頭部21fに形成された非円形穴21faの壁面を曲面形状に塑性変形させながら、当該頭部21fを外周方向に押し延ばすように構成されている。また、当該頭部21fの非円形穴21faの壁面に形成される曲面形状は、被接合部材22が加圧方向にも押し延ばされるのを助長することができる。
【0031】
前記受け型23は、
図8(a)に示すように前記接合部材21の頭部21fを保持しながら加圧方向と交差する方向を拘束しない上面と当該接合部材21の軸部21aを位置決めする位置決め穴23bとを有している。また、前記位置決め穴23bにはその同心軸上に延びるノックアウトピン25が突出可能に配置されており、このノックアウトピン25の端面は位置決め穴23bの底部を塞ぐように位置している。さらに、このノックアウトピン25は位置決め穴23b内に突出する時には位置決め穴23bに位置する軸部21aを持つ複合部材CCが受け型23から取出されるように構成されている。
【0032】
前記押し型24は、被接合部材22および接合部材21の頭部21fを成形する際には、両部材が加圧方向と交差する方向に延びるのを拘束しない形状をしている。また、前記押し型24は前述の両部材を塑性変形させて当該両部材を一体に接合して複合部材CCを成形するように構成されているが、接合部材21の頭部21fの塑性変形は非円形穴21faの上端を拡開し、当該非円形穴21faの壁面の上部に加圧方向と交差する方向に延びる曲面形状を成形する程度となっている。すなわち、被接合部材22が所定厚さの平板様頭部22dに成形される際には、接合部材21の頭部21fに形成された非円形穴21faの壁面上部には加圧方向に延びる曲面形状が形成される。当該曲面形状は、被接合部材22が非円形穴21fa内に押し延ばされるのを助長する形状となっている。
【0033】
上記第2接合方法によれば、
図8(a)に示すように受け型23内で接合部材21の軸部21aがノックアウトピン25により位置決めされ、同時にその頭部21fが受け型23の上面で保持される。その後、被接合部材22がその穴部22aを接合部材21の頭部21fに嵌合するように前進した後に、
図8(b)に示すように押し型24が受け型23に対して前進し、被接合部材22の上部が圧縮されて所定厚さの平板様頭部22dが成形される。この時、押し型24が接合部材21よりも柔らかい金属材料でなる被接合部材22を加工硬化させながらその硬度を増してその穴部22aの壁面を介して接合部材21の頭部21fを上端外周側から順に塑性変形させる。これにより、接合部材22の上端外周がわずかに外方に扁平してオーバハング部21caが形成される。その際、接合部材21の頭部21fの上端は非円形穴21faを有するため、外方に簡単に塑性変形するばかりか、非円形穴21faの壁面上部には曲面形状が形成される。この頭部21fのオーバハング部21caの上面および周辺付近の被接合部材22は第1接合方法と同様に円滑に押し延ばされているので、これに付着する酸化膜や不純物は破壊されて除去、または分離され、当該被接合部材22には新生面が生成される。その上に、当該頭部21fに形成された非円形穴21faの上部の曲面形状により、被接合部材22が押し延ばされて非円形穴21fa内に円滑に充満されるので、当該非円形穴21faの壁面付近の被接合部材22にも新生面が生成される。そのため、被接合部材22が接合部材21に対して回転方向に十分な強度を有するばかりか、頭部21fの周辺のほか当該頭部21fの非円形穴21fa内にも新生面が生成された被接合部材22を持つ複合部材CCを成形することができる。
【0034】
当該複合部材CCを第1接合方法で説明した加熱炉7(
図2参照)に投入して、所定温度で所定時間加熱すると、接合部材21の頭部21fの上面およびその周辺付近および当該付近に位置する被接合部材22には十分な拡散層が生成される。また、当該接合部材21の頭部21fに形成された非円形穴21faの壁面上部の曲面形状付近に被接合部材22にも拡散層が生成され、頭部21f付近はもとより頭部21fの非円形穴21faの壁面付近にも固溶強化された接合部で接合される複合部材CCを製造することができる。
【0035】
なお、前記接合部21の頭部21fは軸部21aよりも小径の突部(図示せず)であってもよい。また、接合部材21、被接合部材22に融点の高い金属材料が使用され、両部材の接合部に十分な拡散層が得られないような場合には、前記接合部材21の非円形穴21fa内に両部材よりも融点の低い金属材料でなるインサート部材(図示せず)を配置してもよい。この場合、両部材の固相接合に加え、固液相接合によっても、両部材が接合されるので、密着性の高い複合部材CCを製造することができる。
【0036】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る金属部材の接合方法(以下、第3接合方法という)を説明する。第3接合方法は、前述の第1接合方法とは圧延工程のみを異にし、加熱工程は同一であるので、加熱工程の説明を省略し、圧延工程(以下、第3圧延工程という)について説明する。この第3圧延工程は、
図9(a),(b),(c)に示すように軸部31aとつば部31bと係合突部31cとを有する銅材料でなる接合部材31と、前記係合突部31cに嵌合する穴部32aが形成されたアルミ合金材料でなる柱状の被接合部材32と、これら両部材を軸線方向に加圧可能に配置された受け型33および押し型34ならびに一対の割型38,38を有している。
【0037】
前記接合部材31の係合突部31cの外周には突条の一例のねじ山31caが形成され、このねじ山31caは全周にわたって所定間隔でその頂部を削り取られている。このねじ山31caの頂部の削り取り部分は被接合部材32が隣接するねじ山31ca,31ca間に押し延ばされて充満されるのを補足する開口となっている。なお、前記係合突部31cはねじ山31caを有しているが、これに代えリング様突条(図示せず)、その他引張強度を高めるために有効な突起(図示せず)のいずれでもよく、またこれら突条を有さない構造であってもよい。また、前記接合部材31は、めっき被膜が被覆されてない部材であるのが望ましいが、拡散接合が可能な金属のめっき被膜が被覆された部材であってもよい。
【0038】
前記押し型34は、受け型33に向かって移動して被接合部材32を加圧するように構成されている、この押し型34は、被接合部材32の加圧時に被接合部材32が加圧方向と交差する方向に延びるのを拘束しない形状をなし、被接合部材32の胴膨れ(
図9(b)参照)を可能にしている。また、この押し型34は被接合部材32の胴膨れと同時に、後記する拡開穴33aに位置する被接合部材32の一部を接合部材31のつば部31bと同径となるように膨らませるように構成されている。さらに、この押し型34は接合部材31の係合突部31cに形成されたねじ山31caの頂部と被接合部材32の外周を拘束する受け型33との間隙から被接合部材32の余肉を当該係合突部31cの外周の隣接するねじ山31ca,31ca間に押し延ばすように構成されている。これにより、被接合部材32の余肉が隣接するねじ山間に充満することとなり、両部材が一体に接合される。
【0039】
前記受け型33は被接合部材32の一部を案内する拡開穴33aとこれに連通して接合部材31の軸部31aを位置決めする位置決め穴33bとを有している。当該位置決め穴33bには、その同心軸上に延びるノックアウトピン35が突出可能に配置されており、このノックアウトピン35の端面は位置決め穴33bの底部を塞ぐように位置している。また、このノックアウトピン35は前記接合部材31のつば部31bを受け型33の拡開穴33aに位置させるとともに、接合部材31の係合突部31cを受け型33から露出するように保持するように構成されている。さらに、このノックアウトピン35は位置決め穴33b内に突出する時には位置決め穴33bに位置する接合部材31の軸部31aを一体に接合された被接合部材32とともに受け型33から取出すように構成されている。
【0040】
前記割型38,38は、
図9(c)に示すように前記押し型34の後退後に胴膨れした被接合部材32の周囲に位置するように配置されており、被接合部材32の周面に向かって前進可能に配置されている(
図9(c)中の一点鎖線矢印参照)。また、この割型38,38は前記被接合部材32の周面に当接するにともなって、当該被接合部材32を受け型33の拡開穴33a内に保持される接合部材31のつば部31bと同径に修整するように構成されている。
【0041】
上記第3接合方法によれば、
図9(a)に示すように受け型33内で接合部材31の軸部31aがノックアウトピン35により位置決めされ、同時にそのつば部31bが受け型33の拡開穴33aで保持される。その後、押し型34が受け型33に向かって前進し、被接合部材32の穴部32aが接合部材31の係合突部31cに嵌合するとともに、その一端が受け型33の拡開穴33a内に保持されたつば部31bに当接する。この状態から、
図9(b)に示すように前記押し型34がさらに前進すると、受け型33から露出している被接合部材32が胴膨れするとともに、受け型33の拡開穴33aに位置する被接合部材32の一部が接合部材31のつば部31bと同径となるように膨らむ。この時、当該被接合部材32の胴膨れにより、両部材の接合部にあって受け型33の上面付近でも被接合部材32は加圧されている。そのため、被接合部材32の余肉が接合部材31の係合突部31cに形成されたねじ山31caの頂部と接合部材31の外周を拘束する受け型33との間隙から、押し延ばされて前記係合突部31cの外周の隣接するねじ山31ca,31ca間に充満し、該両部材が一体に接合される。
【0042】
その後、押し型34が後退し、
図9(c)に示すように被接合部材32の胴膨れ部分を挟むように一対の割型38,38が配置され、当該割型38,38が被接合部材32の胴膨れ部分の周面に向かって前進するにともない、被接合部材32が所定径の棒状に修整される。当該被接合部材32の修整後には、割型38,38が後退すると、受け型33内のノックアウトピン35が作動し、接合部材31に被接合部材32を一体に接合した複合部材CCが受け型33から取出される。
【0043】
当該複合部材CCを第1接合方法で説明した加熱炉7に投入して、所定温度で所定時加熱すると、接合部材31の係合突部31cのねじ山31ca,31ca間に押し延ばされて充満している被接合部材32には新生面が生成されているので、当該部分に拡散層が生成され、固溶強化された接合部で接合される複合部材CCを製造することができる。
【0044】
なお、前述の第1の実施形態、第2の実施形態および第3の実施形態に記載の発明による成果物である複合部材CCを、金属接合物としてもよい。この場合、当該金属接合物は圧延工程中に被接合部材2,12.22、接合部材1,11.21の両部材または被接合部材2,12.22が押し延ばされてなる接合部を備えていることから、当該押し延ばされた部分に生成される新生面には加熱工程で所定厚さの拡散層が生成されることとなる。そのため、当該金属接合物は拡散接合により固溶強化されて密着性の高い接合部を備えているので、当該拡散接合のみでも、接合部を形成する両部材間には十分な回転方向の強度を得ることができる。また、当該金属接合物の接合部に形成する両部材が異種金属の場合には、用途に応じて好適な金属が使用される金属接合物を提供することができる。さらに、前述の両部材が同種の金属でなる接合にも利用でき、この場合、切削加工時の材料ロスを考慮した2部材とすることにより、これらが接合される金属接合物の製造コストを材料ロスのない分低減することができる。さらに、前述の第1、第2、第3の実施形態に記載の発明は金属部材の接合方法として記載されているが、前述したように複合部材CCを金属接合物として金属接合物の製造方法としてもよい。その他、本発明の各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0045】
CC…複合部材
1…接合部材、
1a…軸部、
1b…つば部、
1c…突部、
2…被接合部材、
2a…穴部、
2d…平板様頭部、
3…受け型、
3a…拡開穴、
3b…位置決め穴、
4…押し型、
5…ノックアウトピン、
7…加熱炉、