(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/233 20060101AFI20240731BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240731BHJP
【FI】
B60R21/233
B60R21/207
(21)【出願番号】P 2023514564
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014881
(87)【国際公開番号】W WO2022220082
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2021069470
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中島 敦
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-147426(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235730(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0075084(KR,A)
【文献】特開2008-030528(JP,A)
【文献】特開2021-059320(JP,A)
【文献】特開2017-088023(JP,A)
【文献】特開2006-297997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0158933(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/233
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、
前記乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、
前記座席の背もたれ部にヘッドレストを取り付ける取付部材を挿通可能な貫通孔を有すると共に、前記第1サイドクッションと前記第2サイドクッションとを接続する接続部材と、
を有するエアバッグと、
前記エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、
前記エアバッグの膨張展開時には、前記接続部材は、前記貫通孔に前記取付部材が挿通されている、エアバッグ装置。
【請求項2】
前記取付部材は、前記ヘッドレストを支持する支持部材である、請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記接続部材は、ガスが内部を流通可能なダクトであり、
前記貫通孔の周囲は、前記ダクトのガス流路から区画されている、請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記インフレータは、前記第1サイドクッションに取り付けられ、
前記インフレータから前記第1サイドクッションに噴射されたガスの一部が、前記ダクトを通じて前記第2サイドクッションに供給される、請求項3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記貫通孔の形状及びサイズは、前記取付部材の形状及びサイズに一致している、請求項1乃至4の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記貫通孔は長円形又は楕円形であり、その長円又は楕円の長軸方向が前記接続部材の長手方向となる向きに前記貫通孔が配設されている、請求項1乃至4の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記貫通孔は、スリット状である、請求項1乃至4の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記貫通孔は、前記接続部材の幅方向の中央部に設けられている、請求項1乃至7の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
未膨張のエアバッグを広げて平坦面に平置きにした平置き状態において、前記ダクトには、前記ダクトの延伸方向に交差する方向に幅が拡大している拡幅部を有しており、前記拡幅部は、膨張完了状態では、座席の後方に向かって膨張する部分を有している、請求項
3に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記拡幅部は、前記平置き状態において、前記貫通孔の後ろ側に位置する後方チャンバーと、前記貫通孔の前側に位置する前方チャンバーとからなり、前記取付部材は前記ヘッドレストを支持する支持部材であり、膨張完了状態では、前記後方チャンバーが、前記支持部材の後方に位置して後部座席の乗員の頭部保護用のクッションとなる、請求項9に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記後方チャンバーの前後方向の幅は、前記前方チャンバーの前後方向の幅よりも長い、請求項10に記載のエアバッグ装置。
【請求項12】
前記エアバッグでは、前記第1サイドクッション及び前記第2サイドクッションの一方に前記座席への固定部が設けられ、他方に前記インフレータの収納部が設けられ、
前記エアバッグは、前記固定部と前記インフレータの収納部とで、前記座席に固定される、請求項1乃至11の何れか1つに記載のエアバッグ装置。
【請求項13】
前記接続部材には、前記座席への固定部が設けられていない、請求項12に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の側部を保護するエアバッグ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の側面衝突や横転時に乗員を保護するためのエアバッグ装置が知られている。この種のエアバッグ装置では、座席に着座した乗員の側部を覆うように、エアバッグが膨張展開する。
【0003】
特許文献1には、この種のエアバッグ装置として、ニアサイドからの衝撃に対してもファーサイドからの衝撃に対しても乗員を保護できる乗員拘束装置が記載されている。この乗員拘束装置は、ニアサイドからの衝撃に対して乗員をケアするエアバッグと、ファーサイドからの衝撃に対して乗員をケアする上胴部拘束部材とを備えている。上胴部拘束部材は、乗員の肩部又は胸部に車両前側から当接して、乗員を座席に拘束する。特許文献1の
図6には、上胴部拘束部材としてエアバッグを用いる形態が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の側面衝突が生じると、乗員は、衝突初期に慣性力により、衝突を受けた側に向かって移動し、その後、衝突による衝撃力により、その反対側に向かって移動する。しかし、従来のエアバッグ装置は、ニアサイド側のエアバッグとファーサイド側のエアバッグとは互いに独立している。そのため、従来のエアバッグ装置では、座席の両サイドに膨張展開する各サイドクッションが、乗員の動く方向に対応してその移動を抑制する作用を及ぼすように互いに協働することがない。従って、従来のエアバッグ装置は、上述のように移動する乗員の拘束を効果的に行うことができない虞がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両の側面衝突時などに、座席の両サイドに膨張展開するサイドクッションが一体的に挙動すると共に、各サイドクッションを接続する部材の膨張展開時における位置等を安定させることができるエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエアバッグ装置は、車両の座席に着座した乗員の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッションと、乗員の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッションと、座席の背もたれ部にヘッドレストを取り付ける取付部材を挿通可能な貫通孔を有すると共に、第1サイドクッションと第2サイドクッションとを接続する接続部材と、を有するエアバッグと、エアバッグを膨張させるガスを噴射するインフレータとを備え、エアバッグの膨張展開時には、接続部材は、貫通孔に取付部材が挿通されている。
【0008】
本発明は、取付部材は、ヘッドレストを支持する支持部材であってもよい。
【0009】
本発明は、接続部材は、ガスが内部を流通可能なダクトであり、貫通孔の周囲は、ダクトのガス流路から区画されているようにしてもよい。
【0010】
本発明は、インフレータは、第1サイドクッションに取り付けられ、インフレータから第1サイドクッションに噴射されたガスの一部が、ダクトを通じて第2サイドクッションに供給されるようにしてもよい。
【0011】
本発明は、貫通孔の形状及びサイズは、取付部材の形状及びサイズに一致しているようにしてもよい。
【0012】
本発明は、貫通孔は長円形又は楕円形であり、その長円又は楕円の長軸方向が接続部材の長手方向となる向きに貫通孔が配設されているようにしてもよい。
【0013】
本発明は、貫通孔は、スリット状であるようにしてもよい。
【0014】
本発明は、貫通孔は、接続部材の幅方向の中央部に設けられていてもよい。
【0015】
本発明は、未膨張のエアバッグを広げて平坦面に平置きにした平置き状態において、ダクトには、ダクトの延伸方向に交差する方向に幅が拡大している拡幅部を有しており、拡幅部は、膨張完了状態では、座席の後方に向かって膨張する部分を有しているようにしてもよい。
【0016】
本発明は、拡幅部は、平置き状態において、貫通孔の後ろ側に位置する後方チャンバーと、貫通孔の前側に位置する前方チャンバーとからなり、取付部材はヘッドレストを支持する支持部材であり、膨張完了状態では、後方チャンバーが、支持部材の後方に位置して後部座席の乗員の頭部保護用のクッションとなるようにしてもよい。
【0017】
本発明は、後方チャンバーの前後方向の幅は、前方チャンバーの前後方向の幅よりも長くなるようにしてもよい。
【0018】
本発明は、エアバッグでは、第1サイドクッション及び第2サイドクッションの一方に座席への固定部が設けられ、他方にインフレータの収納部が設けられ、エアバッグは、固定部とインフレータの収納部とで、座席に固定されるようにしてもよい。
【0019】
本発明は、接続部材には、座席への固定部が設けられていないようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、第1サイドクッションと第2サイドクッションとを接続する接続部材が、背もたれ部にヘッドレストを取り付ける取付部材を挿通可能な貫通孔を有している。エアバッグの膨張展開時には、接続部材は、貫通孔に取付部材が挿通されている。また、エアバッグの膨張展開が完了した膨張完了状態では、接続部材は、背もたれ部の上部とヘッドレストの下部との間に位置しており、座席の幅方向に延びた状態となる。ここで、車両の側面衝突が生じると、座席に着座する乗員は、肩部から上側が大きく横方向に移動し、一方のサイドクッションに衝突する。この時、その一方のサイドクッションは、乗員の肩部から上側の範囲に対応する座席の上部の高さ範囲で、乗員の衝突荷重を受けて外側に移動する。そして、その移動に伴って、他方のサイドクッションが、接続部材を介して横方向に引っ張られて乗員側に移動する。また、乗員が衝突初期とは反対側に向かって移動する場合、乗員は他方のサイドクッションに衝突する。
【0021】
本発明では、膨張完了状態で、接続部材を、乗員が最初に衝突する高さ範囲の位置に安定させることができる。そのため、接続部材には横方向の荷重が直接的に作用する。従って、例えば乗員の頭部の上方で両サイドクッションが接続されているエアバッグと比較して、両サイドクッションは一体的に横方向に移動する。これにより、衝突初期とは反対側に移動する乗員が、他方のサイドクッションに衝突するまでの移動距離が短くなり、乗員を早期に拘束することができる。
【0022】
また、本発明では、接続部材の貫通孔に取付部材が挿通されているため、膨張展開時にエアバッグ自体のバタつきを防止することができる。また、接続部材の貫通孔に取付部材が挿通されているため、乗員が最初に衝突して衝突荷重を受けるサイドクッションの外側への移動量を抑制できる。本発明によれば、側面衝突時などに、座席の両サイドのサイドクッションが一体的に挙動すると共に、接続部材の膨張展開時における位置等を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】
図1Aは、実施形態に係るエアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が着座した座席を前方から見た図である。
【
図1B】
図1Bは、エアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が不在の座席を前方から見た図である。
【
図1C】
図1Cは、エアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が不在の座席を第1サイドクッション側から見た図である。
【
図1D】
図1Dは、エアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が不在の座席を第2サイドクッション側から見た図である。
【
図1E】
図1Eは、エアバッグの膨張展開が完了した状態を示す図であり、乗員が不在の座席を上方から見た図である。
【
図2】
図2は、エアバッグの平置き状態における平面図である。
【
図3A】
図3A(a)は、貫通孔を長円形にした実施形態を説明するためのエアバッグの平面図であり、
図3A(b)は、貫通孔を楕円形にした実施形態を説明するためのエアバッグの平面図である。
【
図3B】
図3Bは、貫通孔を連続した1本のスリットにした実施形態を説明するためのエアバッグの平面図である。
【
図3C】
図3Cは、貫通孔を2つに分離したスリットにした実施形態を説明するためのエアバッグの平面図である。
【
図4A】
図4A(a)は、エアバッグの折り方法の一例を説明するためのエアバッグの平面図であり、
図4A(b)は、
図4A(a)におけるA-A断面図である。
【
図4B】
図4Bは、エアバッグの折り方法の他の例を説明するためのエアバッグの平面図である。
【
図5】
図5は、エアバッグが収納された状態における座席の正面図である。
【
図6】
図6は、第2サイドクッションに乗員が衝突した時の第1サイドクッションの挙動を説明するための図であり、膨張完了状態のエアバッグをヘッドレストの後方斜め上側から見た図である。
【
図7】
図7(a)~(b)は、第1サイドクッションがシートベルトと乗員の間に介在する状態を説明するための図である。
【
図8】
図8は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグの平置き状態における平面図である。
【
図9】
図9は、実施形態の第1変形例に係るエアバッグを、膨張完了状態において、ヘッドレストの後方斜め上側から見た図である。
【
図10】
図10(a)は、実施形態の第2変形例に係るエアバッグの平置き状態における平面図であり、
図10(b)は、膨張完了状態において、座席の上部を正面側から見た図である。
【
図11】
図11(a)~(b)は、接続部材(ガスダクト)に貫通孔を設けない場合の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0025】
また、本明細書において、「上」「上側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の頭部方向を、「下」「下側」とはその乗員5の足元方向を意味する場合がある。ここで、「正規の位置」とは、座席1におけるシートクッション2の左右方向の中心位置で、その座席1の背もたれ部3に乗員5の背中が上下に亘って接する位置をいう。また、「前」「前側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の正面方向を、「後」「後ろ側」とはその乗員5の背面方向を意味する場合がある。また「左」「左側」とは座席1の正規の位置に着座した乗員5の左手方向を、「右」「右側」とはその乗員5の右手方向を意味する場合がある。また、乗員5は、WorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)を想定したものである。以下、「正規の位置」を「正規の着座位置」と言う場合がある。
【0026】
本実施形態は、乗用車などの車両の側面衝突又は横転時などに、車両内の座席1の両サイドに設けられたサイドクッション21,22が一体的に挙動するように構成されたエアバッグ装置10である。エアバッグ装置10では、両サイドのサイドクッション21,22が1つのエアバッグ11に集約されている。以下では、エアバッグ装置10について説明を行う前に、エアバッグ装置10が搭載される座席1について説明を行う。
【0027】
[座席の概略構成について]
座席1は、
図1A~
図1Eに示すように、シートクッション2と、背もたれ部3とを備えている。背もたれ部3の上端部には、棒状の支持部材6を介して、ヘッドレスト4が取り付けられている。支持部材6は、背もたれ部3の上部とヘッドレスト4の下部との間に位置している。支持部材6は、背もたれ部3にヘッドレスト4を取り付ける取付部材に相当する。以下では、座席1用のドアに近い側を「ニアサイド」、座席1用のドアから遠い側を「ファーサイド」と言う場合がある。
【0028】
[エアバッグ装置の構成について]
エアバッグ装置10は、エアバッグ11と、インフレータ12(
図1C参照)とを備えている。エアバッグ11は、布製の袋体である。インフレータ12は、エアバッグ11を膨張させるガスを噴射する装置である。以下では、左右に隣り合う運転席又は助手席の座席1に設けられるエアバッグ装置10を例にして説明を行う。
【0029】
[膨張完了状態のエアバッグについて]
まず、膨張展開が完了した状態(以下、「膨張完了状態」と言う。)のエアバッグ11について、
図1A~
図1Eを参照しながら説明を行う。
【0030】
エアバッグ11は、
図1A及び
図1Bに示すように、正規の着座位置の乗員5の一方の側部を覆うように膨張展開する第1サイドクッション21と、正規の着座位置の乗員5の他方の側部を覆うように膨張展開する第2サイドクッション22と、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを連通するガスダクト23とを備えている。ガスダクト23は、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続する接続部材に相当する。
【0031】
第1サイドクッション21は、座席1のニアサイドに設けられている。第1サイドクッション21の後ろ側は、座席1のニアサイドに固定されている。第1サイドクッション21は、
図1Cに示すように、座席1への固定箇所から前方に延びている。第1サイドクッション21は、正規の着座位置の乗員5の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部31と、正規の着座位置の乗員5の胴体(肩部から腹部)における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部41とを備えている。第1頭部用クッション部31は、第1胴体用クッション部41の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0032】
第2サイドクッション22は、座席1のファーサイドに設けられている。第2サイドクッション22の後ろ側は、座席1のファーサイドに固定されている。第2サイドクッション22は、
図1Dに示すように、座席1への固定箇所から前方に延びている。第2サイドクッション22は、正規の着座位置の乗員5の頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部32と、正規の着座位置の乗員5の胴体(肩部)における他方の側部を覆うように膨張展開する第2胴体用クッション部42とを備えている。第2頭部用クッション部32は、第2胴体用クッション部42の前側部分から、後ろ向きの斜め上方に立設されている。
【0033】
ガスダクト23は、ガスが内部を流通可能となるように管状に形成されている。本実施形態では、ガスダクト23に、支持部材6を挿通させるための貫通孔24が設けられている。本実施形態では、
図1Bに示すように、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22の膨張展開時には、ガスダクト23の貫通孔24に支持部材6が挿通されている。そのため、膨張展開の途中の段階においても、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22がバタつかない。また、ガスダクト23の貫通孔24に支持部材6が挿通されているので、膨張展開時、ガスダクト23が背もたれ部3の上端部とヘッドレスト4の下端部の間の位置に安定する。膨張完了状態では、ガスダクト23は、背もたれ部3の上端部とヘッドレスト4の下端部の間の位置で、座席1の幅方向に延びる状態となる。ガスダクト23の一端は第1サイドクッション21内に開口しており、ガスダクト23の他端は第2サイドクッション22内に開口している。
【0034】
ガスダクト23は、背もたれ部3の上端部及びヘッドレスト4の下端部の双方に接する程度の太さを有する。本実施形態では、
図1Eに示すように、ガスダクト23の幅方向(径の方向)の中央部に間隔を空けて円形の貫通孔24を2個設け、各貫通孔24に円柱状の支持部材6がそれぞれ挿通された状態となっている。また、本実施形態では、ガスダクト23の幅方向(径の方向)の中央部に貫通孔24が設けられている。このため、ガスダクト23を、ヘッドレスト4の真下に位置させることができる。ガスダクト23は、ヘッドレスト4の下方で背もたれ部3の上端面に沿って座席1の幅方向に延びる状態となっている。
【0035】
[平置き状態のエアバッグについて]
次に、未膨張のエアバッグ11を広げて平坦面に平置きした状態(以下、「平置き状態」と言う。)におけるエアバッグ11の構成について、
図2を参照しながら説明を行う。
【0036】
エアバッグ11は、同じ形状で同じ大きさの2枚の基布を重ねた状態で、外周部など所定の箇所を縫製することにより構成された袋体である。
図2では、太線の破線により縫製箇所を表す。エアバッグ11は、
図2に示すように、横長の略長方形状を呈する。平置き状態のエアバッグ11の説明では、エアバッグ11の長手方向を「左右方向」、短手方向を「前後方向」と言い、エアバッグ11の前後方向において、座席1に固定される側(
図2において上側)を「後ろ側」、その反対側を「前側」と言う。なお、
図2に示すエアバッグの上側は、膨張完了状態でも後ろ側となる。
【0037】
エアバッグ11は、左右方向に延びるガスダクト23と、ガスダクト23の一端に接続された第1サイドクッション21と、ガスダクト23の他端に接続された第2サイドクッション22とを備えている。
【0038】
ガスダクト23は、エアバッグ11の後ろ側に設けられており、横長の略長方形状を呈する。ガスダクト23の前後方向の寸法(太さ)は、各サイドクッション21,22の前後方向の寸法の半分以下である。
図2に示すように、ガスダクト23の前後方向の中央部に間隔を空けて円形の貫通孔24が2個設けられている。一方の貫通孔24は、他方の貫通孔24に対し、ガスダクト23内を流れるガスの流れと同じ方向となる位置に配設されている。
【0039】
本実施形態では、貫通孔24の形状は円、支持部材6の形状は円柱であり、貫通孔24の内径は支持部材6の外径に一致している。つまり、貫通孔24の形状及びサイズは、支持部材6の形状及びサイズに一致している。ここで、「一致している」とは、貫通孔24内に支持部材6が挿通できる程度の余裕は持たせつつ、形状及びサイズを揃えることを意味する。
【0040】
ガスダクト23は、
図2に示すように、貫通孔24の周囲が縫製されている。本実施形態では、貫通孔24は、縫製によってガスダクト23内のガス流路から区画されている。これにより、貫通孔24の形成に特別な工程を追加することなく、貫通孔24に対して必要な強度も確保できる。ガスダクト23の前端(
図2において、横スリット35の位置)は、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22の各々の前端より後ろ側に位置している。
【0041】
第1サイドクッション21は、左右方向においてガスダクト23の外側に位置する第1胴体用クッション部41と、ガスダクト23の前側に位置する第1頭部用クッション部31とを有する。第1胴体用クッション部41は、ガスダクト23の前端よりも前側に延び出ている。第1頭部用クッション部31は、第1胴体用クッション部41のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(
図2において左側)に延びている。第1胴体用クッション部41は外側クッション部に相当し、第1頭部用クッション部31は内側クッション部に相当する。
【0042】
第1頭部用クッション部31は、略長方形状(又は略正方形状)を呈する。第1頭部用クッション部31は、左右方向に延びる横スリット35を介して、ガスダクト23に隣り合う。また、第1胴体用クッション部41は、横長の略長方形状を呈する。厳密には、第1胴体用クッション部41は、左右方向における外側部分で、前後方向の寸法が外端に近づくに従って徐々に短くなっている。第1胴体用クッション部41におけるガスダクト23側の部分は、乗員5の肩部の側部を保護するための上側クッション部41aを構成している。第1胴体用クッション部41におけるガスダクト23とは反対側の部分は、乗員5の胸部及び腹部の側部を保護するための下側クッション部41bを構成している。
【0043】
第1胴体用クッション部41の後ろ側には、インフレータ12の収納部45が形成されている。収納部45内には、ガスガイド18が設けられている。ガスガイド18は、インフレータ12から噴射されたガスの出口として、上側クッション部41aに開口する第1出口18aと、下側クッション部41bに開口する第2出口18bを有する。
【0044】
第2サイドクッション22は、左右方向においてガスダクト23の外側に位置する第2胴体用クッション部42と、ガスダクト23の前側に位置する第2頭部用クッション部32とを有する。第2胴体用クッション部42は、ガスダクト23の前端よりも前側に延び出ている。第2頭部用クッション部32は、第2胴体用クッション部42のうち前側に延び出た部分から、左右方向の内側(
図2において右側)に延びている。第2胴体用クッション部42は外側クッション部に相当し、第2頭部用クッション部32は内側クッション部に相当する。
【0045】
第2頭部用クッション部32は、略長方形状(又は略正方形状)を呈する。第2頭部用クッション部32は、上述の横スリット35を介して、ガスダクト23に隣り合う。また、第2胴体用クッション部42は、やや縦長の略長方形状を呈する。第2胴体用クッション部42は、乗員5の肩部の側部を保護するための部分である。
【0046】
第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32とは、前後方向に延びる縦スリット36を介して、互いの先端が隣り合う。第1頭部用クッション部31と第2頭部用クッション部32は、縦スリット36を挟んで左右対称に形成されている。縦スリット36は、エアバッグ11の前端から前後方向に延びる切れ込みであり、後ろ側で横スリット35の中心位置に繋がる。横スリット35は、縦スリット36の後ろ端の位置から、左右にそれぞれ延びている。横スリット35及び縦スリット36を合わせると、略T字状の切れ込みとなる。
【0047】
エアバッグ11の後端には、座席1のシートフレーム1aにエアバッグ11を固定するための固定部として、タブ16が設けられている。本実施形態では、タブ16は、第2サイドクッション22の外端部(
図2において左端部)の位置に設けている。あるいは、タブ16は、第1サイドクッション21の外端部(
図2において右端部)に設けてもよい。これらの場合、エアバッグ11は、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22の何れか一方の外端部を固定するタブ16と、インフレータ12の収納部45との2箇所で、座席1への固定ができる。
【0048】
なお、タブ16は、上述の実施形態以外に、例えばガスダクト23における第1サイドクッション21側の端部(
図2において右端部)、ガスダクト23における第2サイドクッション22側の端部(
図2において左端部)などにも設け、複数個のタブでエアバッグ11を固定する構成も可能である。
【0049】
もっとも、エアバッグ装置10では、膨張完了状態で、貫通孔24にヘッドレスト4を支持する支持部材6が挿通されているため、ガスダクト23の位置を安定させることができる。このため、エアバッグ11のシートフレーム1aへの取り付けに用いるタブ16の数を減らし、本実施形態のようにタブ16は1個のみにすることができる。タブ16の個数を最小限にすることで、エアバッグ11に合わせたシートフレーム1aの改造が容易になる。
【0050】
[貫通孔の形状について]
次に、ガスダクト23に設ける貫通孔24の形状について、上述の実施形態で示した円形以外の例を、
図3A~
図3Cを参照しながら説明する。
【0051】
貫通孔24は、
図3A(a)に示すように、ガスダクト23の長手方向(
図3A(a)において左右方向)を長軸方向とする長円形としてもよい。また、
図3A(b)に示すように、ガスダクト23の長手方向(
図3A(b)において左右方向)を長軸方向とする楕円形としてもよい。貫通孔24が円形の場合、円柱状の支持部材6の外径とサイズが一致していれば、貫通孔24に挿通される2本の支持部材6間の距離は固定的になる。これに対し、貫通孔24が長円形又は楕円形であり、その長円又は楕円の長軸方向がガスダクト23の長手方向となる向きに貫通孔24が配設されている場合は、支持部材6間の距離について自由度を増やすことができる。そのため、エアバッグ11に対応可能な座席1の製品数を増やすことができる。
【0052】
貫通孔24は、スリット状としてもよい。この場合、
図3Bに示すように、連続している1本のスリットとしてもよいし、
図3Cに示すように、分離している2本のスリットとしてもよい。何れのスリットも、ガスダクト23の長手方向(
図3B及び
図3Cにおいて左右方向)と同じ向きに切れ込みを有する。このようなスリット状の貫通孔24も、2本の支持部材6間の距離について自由度を増やすことができ、エアバッグ11に対応する製品数を増やすことができる。なお、本実施形態では、貫通孔24のスリットは、隙間がほとんどない切れ込みであるが、ある程度の隙間がある切れ込みであってもよい。
【0053】
貫通孔24を長円形、楕円形、あるいは、スリット状とする場合も、貫通孔24の周囲は、
図3A~
図3Cに示すように縫製されている。貫通孔24は、その周囲が縫製されることにより、ガスダクト23内のガス流路から区画される。
【0054】
[エアバッグの収納と座席への設置]
続いて、座席1にエアバッグ11を収納するための折り方法について
図4A及び
図4Bを参照しながら説明し、座席1へのエアバッグ11の設置状態について、
図5を参照しながら説明を行う。
【0055】
エアバッグ11は、
図2に示す平置き状態において、前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、前側から後ろ側に向かって蛇腹状に折り畳むことにより、前後方向の寸法が短くなり、座席1に収納される時の収納形態となる。ロール状に巻く方法としては、
図2の表側又は裏側にエアバッグ11を巻いてもよい。また、エアバッグ11の略全体をロール状に巻いてもよいし、前後方向の途中までをロール状に巻いてもよい。
【0056】
また、エアバッグ11を前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、蛇腹状に折り畳む前に、
図4Aに示すように、各胴体用クッション部41,42の内部に各頭部用クッション部31,32を押し込んでもよい。また、エアバッグ11を前側から後ろ側に向かってロール状に巻く、又は、蛇腹状に折り畳む前に、
図4Bに示すように、各胴体用クッション部41,42の外面に重なる位置で各頭部用クッション部31,32を蛇腹状に折り畳んでもよい。
【0057】
図4Aの折り方法を使用した場合、エアバッグ11の収納形態では、各胴体用クッション部41,42の内部に各頭部用クッション部31,32が押し込まれた状態となる。また、
図4Bの折り方法を使用した場合、エアバッグ1の収納形態では、各胴体用クッション部41,42の外面に重なるように各頭部用クッション部31,32が折り畳まれた状態となる。何れの収納形態でも、エアバッグ11は、平置き状態における頭部用クッション部31,32の付け根の位置よりも外側に、頭部用クッション部31,32の全体又は大部分を移動させており、ガスダクト23の部分が他の部分よりも細くなる。
【0058】
収納形態のエアバッグ11は、
図5に示すように、シートフレーム1aに沿って折り曲げられた状態で座席1に収納される。エアバッグ11は、ガスダクト23が背もたれ部3の上端部に収納され、第1サイドクッション21が座席1のニアサイドに収納され、第2サイドクッション22が座席1のファーサイドに収納される。背もたれ部3の上端部にはシートフレーム1aに対してヘッドレスト4を支持する一対の支持部材6が設けられている。ガスダクト23を背もたれ部3の上端部に収納する際に、ガスダクト23の各貫通孔24に支持部材6をそれぞれ挿通しておく。
【0059】
ここで、本実施形態とは異なり、ガスダクト23に貫通孔24を設ける構成を採用しない場合は、背もたれ部3の上端部において、一対の支持部材6間の前側又は後ろ側にエアバッグ11の収納部を確保することになる。しかし、一対の支持部材6間の前側又は後ろ側にエアバッグ11の収納部を確保する場合は、エアバッグ11の収納部として確保できる幅が狭くなる。本実施形態では、ガスダクト23に設けた貫通孔24に支持部材6を挿通させるので、一対の支持部材6を挟んでその前側及び後ろ側の双方が収納部となり、エアバッグ11の収納部が広くなる。
【0060】
座席1に収納された設置状態のエアバッグ11は、タブ16と、インフレータ12の収納部45との2箇所で、座席1のシートフレーム1aに固定される。インフレータ12の収納部45では、スタッドボルト(図示省略)によりインフレータ12がシートフレーム1aに固定される。この固定では、収納部45の挿通孔にスタッドボルトが通されることで、収納部45もシートフレーム1aに固定される。
【0061】
また、設置状態のエアバッグ11では、シートフレーム1aに対してヘッドレスト4を支持して取り付ける支持部材6が、ガスダクト23の貫通孔24に挿通されている。そのため、本実施形態では、インフレータ12から噴射されたガスが流通する際に、ガスダクト23の形態が安定し、ガスダクト23におけるガスの流通がスムーズとなる。また、本実施形態では、貫通孔24に支持部材6が挿通されており、ガスダクト23の位置が安定するので、例えば第2サイドクッション22が乗員5の最初の衝突荷重を受けた場合、第2サイドクッション22の外側への移動量を抑制できる。これらの効果が得られる本実施形態では、ガスダクト23の入口側及び/又は出口側を固定するタブを省略することができる。
図5に示すように、ガスダクト23には、シートフレーム1aに対する固定具(タブ16)を設けていない。これにより、タブ16の個数は1個のみとなり、エアバッグ11に合わせたシートフレーム1aの改造が容易になる。
【0062】
設置状態のエアバッグ11では、平置き状態における各胴体用クッション部41,42の左右方向の外側が下側になる。胴体用クッション部42は、タブ16により、平置き状態の左方向の外端部がシートフレーム1aに固定される。また、平置き状態のエアバッグ11では、頭部用クッション部31,32の間に縦スリット36が設けられている。そのため、各胴体用クッション部41,42が前方に膨張展開をする際に、頭部用クッション部31,32が上側に立ち上がる。
【0063】
[本実施形態の効果等]
本実施形態に係るエアバッグ装置10は、例えば側面衝突や横転などによって車両に衝撃が加わると、センサーからの信号を受けたインフレータ12が、第1サイドクッション21内にガスを噴射し、第1サイドクッション21が膨張展開する。また、インフレータ12から第1サイドクッション21に噴射されたガスの一部は、ガスダクト23を通じて第2サイドクッション22に供給される。これにより、第2サイドクッション22が膨張展開する。そして、膨張完了状態では、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続するガスダクト23が、座席1の背もたれ部3の上部とヘッドレスト4の下部との間に位置する。また、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とは、乗員5を挟んで互いに対向する。
【0064】
ここで、ファーサイドの側面衝突の直後、座席1に着座する乗員5は、胴体の肩部から上側が大きく横方向に移動し、第2サイドクッション22に衝突する。この時、第2サイドクッション22は、乗員5の肩部から上側の範囲に対応する座席1の上部の高さ範囲で、乗員5の衝突荷重を受けて外側に移動する。そして、その移動に伴って、第1サイドクッション21が、ガスダクト23を介して横方向に引っ張られて乗員5側に移動する。乗員5が衝突初期とは反対側に向かって移動する場合、乗員5は第1サイドクッション21に衝突する。一方、ニアサイドの側面衝突の直後は、第1サイドクッション21が、乗員5の衝突荷重を受けて外側に移動し、その移動に伴って、第2サイドクッション22が、ガスダクト23を介して横方向に引っ張られて乗員5側に移動する。
【0065】
本実施形態では、乗員5が最初に衝突する高さ範囲に、ガスダクト23が位置する。そのため、ガスダクト23には、横方向の荷重が直接的に作用する。従って、例えば乗員の頭部の上方で両サイドクッションが繋がるエアバッグに比べて、両サイドクッション21,22は一体的に横方向に移動する。これにより、衝突初期とは反対側に移動する乗員5が、サイドクッション21,22に衝突するまでの移動距離が短くなり、乗員5を早期に拘束することができる。また、本実施形態では、ガスダクト23の貫通孔24に取付部材が挿通されているため、膨張展開の途中の段階においても、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22のバタつきを防止できる。また、本実施形態は、膨張展開時、ガスダクト23の貫通孔24に支持部材6が挿通されているため、乗員1が最初に衝突して衝突荷重を受けるサイドクッション21,22を引き止めて、その外側への移動量を抑制できる。この移動量は、貫通孔24の形状及びサイズが支持部材6の形状及びサイズに一致している場合は、移動量をより小さくすることができる。また、本実施形態では、膨張完了状態で、ガスダクト23の貫通孔24に支持部材6が挿通されているため、ダクトの形態を安定させることができる。本実施形態によれば、側面衝突時に、座席1の両サイドのサイドクッション21,22が一体的に挙動すると共に、ガスダクト23の膨張展開時における位置や形態を安定させて、乗員1を早期に拘束することができる。
【0066】
ここで、本実施形態によって得られるガスダクト23の形態を安定させる効果について視覚的な説明を加える。仮に本実施形態のように、ガスダクト23の貫通孔24に支持部材6を挿通させる構成を採用せずに、
図11(a)に示すように、一対の支持部材6間の前側にガスダクト23を収納する場合は、
図11(b)に示すように、膨張展開時にガスダクト23が、その長手方向の中央部で折れ曲がる虞がある。本実施形態では、ガスダクト23は、貫通孔24に支持部材6が挿通されており、膨張完了時には、背もたれ部3の上端部とヘッドレスト4の下端部との間に挟まれて、座席1の幅方向に真っすぐに伸びた状態となる。本実施形態では、ガスダクト23の形態が安定し、ガスの流れを阻害することがない。
【0067】
なお、車両が横転する場合、車両の回転に応じて乗員5は左右に移動する。この場合においても、本実施形態に係るエアバッグ装置10は、両サイドのサイドクッション21,22が一体的に挙動するため、乗員5を早期に拘束することができる。
【0068】
ところで、従来、側面衝突に対して乗員を保護するために、ニアサイド衝突時に乗員の頭部を保護するカーテンエアバッグ、ニアサイド衝突時に乗員の肩部から腰部までの範囲を保護するニアサイドエアバッグ、及び、ファーサイド衝突時に頭部を保護するファーサイドエアバッグをそれぞれ設ける場合がある。一方、今後、自動運転に対応できるエアバッグ装置が求められるようになる。自動運転では、乗員が座席の背もたれ部を後方に倒して安楽姿勢をとったり、乗員が座席の向きを車両の前方と後方で切り替えたりすることが想定される。しかし、上述の従来のエアバッグの構成では、自動運転に対応できるようにするためには、各エアバッグの保護範囲を拡張する必要があり、コスト面及び意匠面で課題が生じる。
【0069】
それに対し、本実施形態では、乗員5を早期に拘束することができるため、各サイドクッション21,22のサイズが大型化することを抑制することができるし、各サイドクッション21,22を適度なサイズにすることができるため、意匠性が良好なエアバッグ11を構成することができる。また、各頭部用クッション部31,32が頭部側に少し倒れているため、頭部に対する拘束位置が乗員5に近づき、拘束性能を向上させることができる。さらに、第1サイドクッション21が乗員5の頭部から腹部までを保護範囲としているため、カーテンエアバッグを省略することができる。これにより、車両のルーフにエアバッグを搭載する必要がなくなり、車両レイアウトの自由度が向上する。また、本実施形態によれば、座席1の両サイドに別々のサイドエアバッグを設ける場合に比べて、コスト及び重量を低減させることが可能である。
【0070】
なお、エアバッグ装置10は、車両のフロントシートとリアシートの何れにも設置することができるし、1人乗りの車両の座席にも設置することができる。また、エアバッグ装置10は、車両レイアウトに依存したものとはならないため、エアバッグ装置10の一部又は全部について、複数車種に適用できるようにモジュール化が可能である。
【0071】
また、本実施形態では、1つのインフレータ12によりエアバッグ11全体を膨張させることができるため、エアバッグ装置10の部品点数の増加を抑制することができる。
【0072】
また、本実施形態では、エアバッグ11が、膨張完了状態で、第1頭部用クッション部31の後部と第2頭部用クッション部32の後部とが、座席1のヘッドレスト4を挟んで対面する(
図1C、
図1D参照)。側面衝突時に、乗員5が第2サイドクッション22に衝突すると、第2サイドクッション22が、その後端部における上下方向の軸を中心に回転し、座席1の外側に向かって移動する。そうすると、
図6に示すように、第1サイドクッション21の第1頭部用クッション部31が、ガスダクト23を介して第2サイドクッション22によって引っ張られて、ヘッドレスト4の側面に衝突する。この衝突により、エアバッグ11がヘッドレスト4から反力を受けるため、エアバッグ11の揺動を抑制することができ、エアバッグ11による乗員5の拘束性能が向上する。
【0073】
また、本実施形態では、座席1に着座する乗員5の胴体には、シートベルト7が、第1サイドクッション21側から第2サイドクッション22側に斜め下向きに掛け渡される場合に、膨張完了状態では、
図7に示すように、第1サイドクッション21が、シートベルト7と乗員5の間に介在する。第1サイドクッション21の前部は、シートベルト7により受け止められた状態となる。そのため、第1サイドクッション21から乗員5への反力が早期に作用し、側方及び前方での乗員5の拘束を早期に行うことができる。なお、この効果は、シートベルト7の上側アンカー7aの設置位置(B-ピラー、座席など)に依存せず得られる。
【0074】
また、本実施形態では、インフレータ12が取り付けられた第1サイドクッション21が、座席1のニアサイドに設けられている。また、ニアサイドでは、ガスガイド18の2つ出口18a,18bが、上側クッション部41a及び下側クッション部41bに開口している。そのため、ニアサイドの衝突時に、衝突から乗員5を保護するまでに時間の猶予の少ない第1胴体用クッション部41を、他のクッション部に先んじて膨張展開させることができる。
【0075】
[本実施形態に含まれる構成]
以上の説明から理解されるように、エアバッグ装置10は、以下の構成についても含むものである。
【0076】
エアバッグ装置10では、第1サイドクッション21は、乗員5の頭部における一方の側部を覆うように膨張展開する第1頭部用クッション部31と、乗員5の胴体における一方の側部を覆うように膨張展開する第1胴体用クッション部41とを有し、第2サイドクッション22は、頭部における他方の側部を覆うように膨張展開する第2頭部用クッション部32を有するようにしてもよい。
【0077】
エアバッグ装置10では、平置き状態における第1サイドクッション21と第2サイドクッション22の各々は、エアバッグ11の左右方向においてガスダクト23の外側に位置してガスダクト23の前端よりも前側に延び出た外側クッション部と、この外側クッション部のうち前側に延び出た部分から内側に延びる内側クッション部とを有するようにしてもよい。
【0078】
エアバッグ装置10では、膨張完了状態で、第1サイドクッション21及び第2サイドクッション22の一方に、座席1に着座する乗員5が衝突すると、他方のサイドクッションが、ガスダクト23を介して一方のサイドクッションによって引っ張られて、座席1のヘッドレスト4の側面に衝突するようにしてもよい。
【0079】
エアバッグ装置10では、座席1に着座する乗員の胴体には、シートベルトが、第1サイドクッション21側から第2サイドクッション22側に斜め下向きに掛け渡される場合に、膨張完了状態では、第1サイドクッション21が、シートベルトと乗員5の間に介在するようにしてもよい。
【0080】
[実施形態の第1変形例]
本変形例は、エアバッグ11の平置き状態において、
図8に示すように、ガスダクト23の延伸方向に交差する方向(
図8において上下方向)に幅が拡大している拡幅部(23a,23b)を有している。拡幅部(23a,23b)は、膨張完了状態では、座席の後方に向かって膨張する部分23aを有している。
【0081】
本変形例では、拡幅部は、貫通孔24の後ろ側(
図8において上側)に位置する後方チャンバー23aと、貫通孔24の前側(
図8において下側)に位置する前方チャンバー23bからなる。後方チャンバー23aの前後方向の幅は、前方チャンバー23bの前後方向の幅よりも長くしている。
【0082】
本変形例によれば、拡幅部(23a,23b)を設けることによりガスダクト23の径が大きくなり、第1サイドクッション21から第2サイドクッション22に流れるガスの流量が増加し、第2サイドクッションを早期に膨張展開させることができる。
【0083】
また、本変形例では、後方チャンバー23aの幅を前方チャンバー23bの幅よりも長くすることで、
図9に示すように、膨張完了状態で、ヘッドレスト4の支持部材6の後方に位置する後方チャンバー23aのサイズを大きくすることができる。本変形例では、膨張完了状態で、支持部材6の後方に位置する後方チャンバー23aに、後部座席の乗員の頭部保護用のクッションとしての機能を付与することができる。
【0084】
[実施形態の第2変形例]
本変形例は、エアバッグ11の平置き状態において、
図10(a)に示すように、上述の実施形態に比べて、横スリット35の切れ込みの長さを、左右方向に長くしたものである。
【0085】
本変形例によれば、横スリット35を若干長くした分だけ、膨張完了状態におけるガスダクト23の長さが長くなる。そのため、背もたれ部3の上端面とヘッドレスト4の下端面の間に位置するガスダクト23の可動域を増やすことができ、ヘッドレスト4が上下可動式の車両にエアバッグ11を適用しやすくなる。例えば、ヘッドレスト4が上下可動式で、
図10(b)に示すように、最も高い位置で側面衝突が発生した場合でも、ガスダクト23の可動域が増えているため、ガスダクト23がレッドレスト4の位置に添い易くなる。
【0086】
[その他の変形例]
上述の実施形態において、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22とを接続する接続部材23が、ガスが内部を流通不能な部材であってもよい。接続部材23には、例えば1枚の基布を用いた帯状部材を使用し、この帯状部材に貫通孔24を設けることができる。この場合、第2サイドクッション22に第2のインフレータを取り付けてもよいし、二又に分岐する管路を用いて、1つのインフレータから両方のサイドクッション21,22にガスが供給されるようにエアバッグ装置10を構成してもよい。
【0087】
上述の実施形態において、貫通孔24は、接続部材23の幅方向の一端の近傍に設けてもよい。この場合、接続部材23をガスダクト(膨張部)と、ガスを流通不能な部分(非膨張部)とに区画し、接続部材23の幅方向の一端側は非膨張部として、貫通孔24は非膨張部に設けるようにしてもよい。
【0088】
上述の実施形態において、支持部材6は、背もたれ部3と一体であってもよいし、ヘッドレスト4と一体であってもよい。また、支持部材6の形状は角柱でもよいし、支持部材6の本数は1本でも3本以上でもよい。この場合、支持部材6の形状や本数に応じて、貫通孔24の形状や個数も適宜変更すればよい。また、上述の実施形態において、取付部材6は、ヘッドレスト4を支持する部材とは別の部材であってもよい。
【0089】
上述の実施形態において、横スリット35の長さは、シートフレーム1aの上端部の幅に合わせて調整することができる。あるいは、ヘッドレスト4が上下可動式の場合など、ガスダクト23の可動域を増やす必要性があれば、横スリット35の長さを自由に調整すればよい。また、本実施形態では、各スリット35,36は、隙間がほとんどない切れ込みであるが、ある程度の隙間がある切れ込みであってもよい。
【0090】
上述の実施形態において、第1サイドクッション21の保護範囲が、乗員5の頭部から腰部までとなるように、エアバッグ11を構成してもよい。
【0091】
上述の実施形態において、第2サイドクッション22の保護範囲が頭部だけとなるように、エアバッグ11を構成してもよいし、保護範囲が腹部又は腰部までとなるようにエアバッグ11を構成してもよい。また、頭部用クッション部31,32は、第1サイドクッション21と第2サイドクッション22の何れか一方だけに設けてもよい。また、車両のセンターコンソールが大型の場合、第2サイドクッション22が膨張展開できる空間が狭くなるが、この場合に、第2サイドクッション22が、センターコンソールの上面に沿って膨張展開するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、乗員の側部を保護するエアバッグ装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 座席
3 背もたれ部
4 ヘッドレスト
5 乗員
6 支持部材(取付部材)
10 エアバッグ装置
11 エアバッグ
12 インフレータ
16 タブ(固定部)
21 第1サイドクッション
22 第2サイドクッション
23 ガスダクト(接続部材)
23a 後方チャンバー(拡幅部)
23b 前方チャンバー(拡幅部)
24 貫通孔
31 第1頭部用クッション部(内側クッション部)
32 第2頭部用クッション部(内側クッション部)
41 第1胴体用クッション部(外側クッション部)
42 第2胴体用クッション部(外側クッション部)