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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-30
(45)【発行日】2024-08-07
(54)【発明の名称】消火訓練システム
(51)【国際特許分類】
   G09B 9/00 20060101AFI20240731BHJP
   G09B 19/24 20060101ALI20240731BHJP
   A62C 99/00 20100101ALI20240731BHJP
【FI】
G09B9/00 M
G09B19/24 Z
A62C99/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024033260
(22)【出願日】2024-03-05
【審査請求日】2024-03-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520100343
【氏名又は名称】株式会社日本防災技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】指川 司
(72)【発明者】
【氏名】前田 利幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克己
【審査官】安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-012154(JP,A)
【文献】特開2020-122962(JP,A)
【文献】特開2018-004825(JP,A)
【文献】特開2018-124624(JP,A)
【文献】特開2002-008056(JP,A)
【文献】特開2004-004633(JP,A)
【文献】VR消火器訓練!,[online],AR・MR・VRイベントレンタル,2019年12月,<URL:https://asatec.jp/xrevent/contents/vr消火器訓練!/>,2024年4月24日検索
【文献】39 基本のスキル、初期消火,[online],JUAVAC,2024年02月01日,<URL:https://juavac-droneschool.jp/39基本のスキル、初期消火/>,2024年5月1日検索
【文献】バーチャル煙・消火体験-ARとVRを活用した防災訓練,[online],2023年10月31日,<URL:https://web.archive.org/web/20231031220230/https://arbosai.org/?service=sample-service1/>,2024年4月24日検索
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00
G09B 19/24
A62C 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火器を模擬した形状でなり、少なくとも訓練対象者による消火剤の噴射レバー及びホースの操作を検知可能な模擬消火器と、
検知された前記噴射レバー及びホースの操作に基づく煙炎画像を形成する煙炎画像形成部と、
火災現場の環境画像と、前記煙炎画像形成部によって形成された前記煙炎画像とを合成した合成画像を形成する合成画像形成部と、
前記合成画像を表示するディスプレイと、
前記合成画像に含まれる前記環境画像に対する、前記煙炎画像の関係に基づいて、前記訓練対象者に行動指示を提示する提示部と、
を備え
前記行動指示には、避難指示が含まれ、
前記環境画像には、火災が生じた部屋の床の画像が含まれ、
前記提示部は、前記環境画像に含まれる床と前記煙炎画像に含まれる煙の下端部との距離が所定値以下となった場合に、前記避難指示を提示する、
消火訓練システム。
【請求項2】
前記環境画像には、火災が生じた部屋の天井の画像が含まれ、
前記提示部は、前記環境画像に含まれる天井と前記煙炎画像に含まれる炎の上端部との距離が所定値以下となった場合に、前記避難指示を提示する、
請求項に記載の消火訓練システム。
【請求項3】
前記煙炎画像形成部は、前記煙炎画像として、仮想の煙炎画像を形成し、
前記合成画像形成部は、現実の前記環境画像と、仮想の前記煙炎画像と、を合成することでAR(Augmented Reality)の前記合成画像を形成する、
請求項1に記載の消火訓練システム。
【請求項4】
前記提示部は、前記行動指示を前記ディスプレイに画像として提示する、
請求項1からのいずれか一項に記載の消火訓練システム。
【請求項5】
前記提示部は、前記行動指示を音声により提示する、
請求項1からのいずれか一項に記載の消火訓練システム。
【請求項6】
前記煙炎画像形成部、前記合成画像形成部、前記ディスプレイ及び前記提示部は、前記訓練対象者が装着するヘッドマウンテッドディスプレイに設けられている、
請求項1からのいずれか一項に記載の消火訓練システム。
【請求項7】
前記模擬消火器は、検知した前記噴射レバー及びホースの操作の情報を無線送信する送信部を備え、
前記ヘッドマウンテッドディスプレイは、前記模擬消火器の前記送信部からの前記操作の情報を受信する通信部を備え、
前記煙炎画像形成部は、前記通信部により受信した前記操作の情報に基づいて前記煙炎画像を形成する、
請求項に記載の消火訓練システム。
【請求項8】
コントローラーと、
前記模擬消火器の前記ホースに前記コントローラーを固定するアタッチメントと、
をさらに備える、
請求項1から3のいずれか一項に記載の消火訓練システム。
【請求項9】
前記アタッチメントは、
前記コントローラーに係合する第1係合部と、
前記ホースに係合する第2係合部と、
前記第1係合部と前記第2係合部とを連結する連結部と、
を有し、
前記連結部には、指を差し込み可能な開口部が形成されている、
請求項に記載の消火訓練システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、模擬消火器を用いた消火訓練システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、模擬消火器を用いた消火訓練システムがある。この種の消火訓練システムは、例えば特許文献1にも記載されているように、仮想的な煙炎を表示し、この仮想的な煙炎を、ユーザーによる模擬消火器の操作に基づいて変更する。つまり、ユーザーによる模擬消火器の操作が適切であれば仮想的な煙炎は縮小表示され、模擬消火器の操作が適正でなければ仮想的な煙炎は拡大表示される。特許文献1では、いわいるAR(Augmented Reality:拡張現実)技術が用いられており、臨場感のある消火訓練を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-21560号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】建築環境工学・建築設備工学人門<空気調和設備編>、換気設備の基礎[Last Update 2015/04/30]
【文献】大阪市北区ビル火災に係る 消防庁長官の火災原因調査結果報告書、令和4年6月21日、総務省消防庁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような従来の消火訓練システムは、火を消すための訓練としては非常に有意義である。
【0006】
しかしながら、消火を行う人間が実際の火災現場でどのように行動したら良いかを総合的に訓練するには、未だ不十分であると考えられる。
【0007】
本開示は、以上の点を考慮してなされたものであり、火を消すための訓練のみならず、消火を行う人間が火災現場でどのように行動したら良いかを総合的に訓練することができる消火訓練システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の消火訓練システムの一つの態様は、
消火器を模擬した形状でなり、少なくとも訓練対象者による消火剤の噴射レバー及びホースの操作を検知可能な模擬消火器と、
検知された前記噴射レバー及びホースの操作に基づく煙炎画像を形成する煙炎画像形成部と、
火災現場の環境画像と、前記煙炎画像形成部によって形成された前記煙炎画像とを合成した合成画像を形成する合成画像形成部と、
前記合成画像を表示するディスプレイと、
前記合成画像に含まれる前記環境画像に対する、前記煙炎画像の関係に基づいて、前記訓練対象者に行動指示を提示する提示部と、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、火を消すための訓練のみならず、消火を行う人間が火災現場でどのように行動したら良いかを総合的に訓練することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】住宅火災における経過別死者発生状況を示す図
図2】建物火災における死因を示す図
図3】一酸化炭素の人体への影響を示した図
図4】一酸化炭素濃度の経時変化の一例を示した図
図5】避難できる確率の経時的変化を示した図
図6】実施の形態の消火訓練システムを用いた消火訓練の様子を示した図
図7】実施の形態の消火訓練システムの構成を示すブロック図
図8】実施の形態の消火訓練システムの動作の例を示すシーケンス図
図9】出火場所確認時(出火から120秒経過時)の表示画像を示す図
図10】初期消火開始時(出火から140秒経過時)の表示画像を示す図
図11】消火失敗時(出火から155秒経過時)の表示画像を示す図
図12】消火失敗からさらに時間が経過した後(出火から159秒経過時)の表示画像を示す図
図13】実施の形態のアタッチメントの構成を示す斜視図
図14】アタッチメントにホース及びコントローラーを取り付けた状態を示す斜視図
図15】アタッチメントの分解斜視図
図16】コントローラーを握った状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1>経緯
本開示の実施の形態を説明する前に、本開示に至った経緯について説明する。
【0012】
本開示の発明者は、長年にわたる消防活動の経験から、従来の模擬消火器及び仮想画像を用いた消防訓練システムについて鋭意検討し、人命を救う上で非常に有意義な消火訓練を行うことができるシステムを実現するに至った。
【0013】
<1-1>住宅火災における経過別死者発生状況
先ず、発明者は、住宅火災における経過別死者発生状況に着目した。図1は、住宅火災における経過別死者発生状況を示す円グラフである。なお、図1は、総務省消防庁消防白書令和4年版より発表された令和3年中に発生した住宅火災に関するものである。また、図1のデータには放火自殺者等は除かれている。
【0014】
発明者は、図1に示した住宅火災の死に至った経過を見ると、逃げ遅れが48.9%であり、そのうち消火しようとして消火できず逃げ遅れて死亡した人が5.1%いることに着目した。これは、消火から避難への移行が困難な場合があることを意味している。また、その他の死亡者446人の中には、初期消火に失敗し消防機関に通報していて、また他の人を救助しようとして避難できなかった事例などがあり、これらを含めると消火活動が原因となった逃げ遅れで死亡した人は10%程度になる。
【0015】
<1-2>建物火災における死因
また、発明者は、建物火災における死因に着目した。図2は、総務省消防庁消防白書令和4年版により発表された令和3年中に発生した建物火災における死因を示す。図2から、建物火災における死者1,165人のうち429人が一酸化炭素中毒で死亡していることが分かる。また、COによる逃げ遅れ者を含めると、この割合はさらに高いと想定される。つまり、火傷で死亡した人の中にはCO-HBが50%を超えている人が多くみられ、COなどの有毒ガスで意識が不明となり、その後に火傷した例が多数ある。現在も死体検案書では焼死とされ血液まで調べていない場合が多い。よって、死因が火傷とされている人の中には実際には一酸化炭素中毒で死亡している人が多数存在すると考えられる。
【0016】
<1-3>避難タイミングの考察
さらに、発明者は、消火活動と適切な避難タイミングとの関係について考察した。
【0017】
図3は、一酸化炭素の人体への影響を示した図である。図3は、非特許文献1に記載されている数値である。なお、図3の数値は一例であり、一酸化炭素の人体への影響を及ぼす数値は、例えば日本火災学会や医師会、救急学会ごとに異なる。これらによれば、およそ一酸化炭素の濃度が約3000ppmを超えると約30分で死亡に至る場合があるとしている。しかし過去のガソリン放火の様に延焼が早い火災での死者は避難の途中で倒れて死亡しており、時間的余裕がないと考えられる。
【0018】
図4は、一酸化炭素濃度の経時変化の一例を示した図である。図4は、非特許文献2に記載されているものである。具体的には、令和3年12月17日に、大阪府大阪市北区曽根崎新地1-3-17堂島北ビル4階で発生したガソリン放火火災において火災にあったクリニックの待合室での一酸化炭素濃度をシュミレートしたものである。なお、一酸化炭素濃度は、一般に、床から高いほど高くなるので、それを表すために、床から0.3m、1.0m、1.8mの高さの一酸化炭素濃度がシュミレートされている。
【0019】
発明者は、図3に示したような一酸化炭素の人体への影響と、図4に示したような火災時の一酸化炭素濃度の経時的変化とさらには二酸化炭素やシアン、イオウ系ガスの増加、酸素の低下もはぼ同時であることから、避難できる時間は、図5の曲線K1のようになると推察した。曲線K1は、避難できる確率の経時的変化を示したものである。図5の曲線K1から分かるように、火災発生から160秒前後を境に避難できる可能性は急激に下がる。
【0020】
発明者は、上述したような考察から、ガソリン放火の様な急激な延焼拡大を想定した消火訓練では、火を消す訓練だけでなく、どのタイミングで避難するかを訓練することが非常に重要であると考え、本開示に至った。
【0021】
本開示の一つの特徴は、訓練対象者に、避難指示などの行動指示を提示するようにしたことである。
【0022】
また、本開示の一つの特徴は、避難指示などの行動指示を提示するタイミングを、訓練対象者の消火操作が反映された仮想的な煙炎画像に基づいて決定したことである。
【0023】
これにより、訓練対象者は、どのような状況及び時間になったら、どのような行動を行えばよいかを体感できるので、実際の火災において逃げ遅れて死亡する確率を大幅に低減できる。
【0024】
<2>実施の形態
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
<2-1>消火訓練システムの全体構成
図6は、実施の形態の消火訓練システムを用いた消火訓練の様子を示した図である。消火訓練システム10は、訓練対象者1が操作する模擬消火器100と、訓練対象者1の頭部に装着されるHMD(Head Mounted Display)200と、を有する。模擬消火器100は、実際の消火器を模した形状でなり、ボンベ110、レバー101、ホース102及び安全栓(図示せず)などを有する。模擬消火器100のホース102には、コントローラー300が機械的に結合されている。
【0026】
図7は、本実施の形態の消火訓練システム10の構成を示すブロック図である。
【0027】
模擬消火器100は、訓練対象者1によって消火剤を噴射するためのレバー101が握られると、送信部103からそのことを示す信号をHMD200に無線にて送信する。
【0028】
コントローラー300は、操作部301、ジャイロセンサー(以下「ジャイロ」と略記する)302及び送信部303などを有する。操作部301は、例えば操作ボタンやジョグダイヤルなどであり、訓練対象者1の操作を受け付ける。ジャイロ302は、ホース102の向きを検知する。操作部301から出力された操作信号及びジャイロ302から出力された検知信号は、送信部303からHMD200に無線にて送信される。
【0029】
HMD200は、制御部210、カメラ201、ディスプレイ202、通信部203、基本煙炎画像記憶部204、煙炎画像形成部205、合成画像形成部206、提示情報制御部207及びスピーカー208などを有する。制御部210は、HMD200の全体の動作を制御する。
【0030】
ここで、本実施の形態のHMD200は、訓練対象者1の前方の現実の環境画像に、仮想的な煙炎画像などの様々な情報を付加して表示する、所謂AR(Augmented Reality)表示を行うものである。
【0031】
カメラ201は、訓練対象者1の前方画像を撮像する。ディスプレイ202は、訓練対象者1の視界位置に設けられている。通信部203は、模擬消火器100の送信部103及びコントローラー300の送信部303からの信号を無線にて受信する。また、通信部203は、外部サーバーなどと無線接続可能となっている。
【0032】
基本煙炎画像記憶部204には、火災が発生したときの、炎及び煙のモデル画像が基本煙炎画像として記憶されている。具体的には、火災が発生してから経時的に炎及び煙が広がる様子が経時的な画像データとして記憶されている。例えば、基本煙炎画像記憶部204には、炎及び煙が時間の経過とともに広がる様子が動画データとして記憶されている。
【0033】
基本煙炎画像記憶部204に記憶される基本煙炎画像は、通信部203を介して外部のサーバーなどから取得することもできる。このようにすることで、基本煙炎画像記憶部204に、様々なパターンの基本煙炎画像を記憶させることができる。例えば、木造の建物とコンクリートの建物とでは、炎及び煙の経時的な広がり方は異なる。基本煙炎画像記憶部204に様々パターンの煙炎画像を記憶させることで、様々なパターンの火災を模擬できる。
【0034】
煙炎画像形成部205は、基本煙炎画像記憶部204から基本煙炎画像を入力するとともに、通信部203を介して模擬消火器100及びコントローラー300からの消火器操作情報を入力する。ここで、消火器操作情報とは、送信部103からのレバー101の操作情報及び送信部303からのジャイロ302の情報(つまりホース102の向きの情報)である。
【0035】
煙炎画像形成部205は、消火器操作情報に基づいて、基本煙炎画像を変更することで、煙炎画像を形成する。具体的には、煙炎画像形成部205は、レバー101が握られていない場合、あるいは、ホース102の向きが炎の方向から大きくずれている場合には、基本煙炎画像を変更せずに、経時的に炎及び煙が広がる煙炎画像を形成する。
【0036】
一方、煙炎画像形成部205は、レバー101が握られ、かつ、ホース102の向き(つまり消火剤の向き)が炎の方向に向けられた場合には、消火剤によって消えていく炎及び煙からなる煙炎画像を形成する。
【0037】
このように、煙炎画像形成部205は、炎に対するホース102の向きや、ホース102を向けたときの炎の大きさなどに基づいて、炎及び煙が経時的に広がっていく煙炎画像、あるいは、炎及び煙が経時的に小さくなっていく煙炎画像を形成する。炎及び煙と、消火剤との関係がどのような場合に、炎及び煙がどのような早さで広がっていき、あるいは、炎及び煙がどのような早さで小さくなっていくかは、実際の火災から模擬することができるので、煙炎画像形成部205は、実際の火災を模擬した演算を行うことにより、煙炎画像を形成する。なお、煙炎画像には、噴射された消火剤の仮想画像も含まれる。消火剤の仮想画像は、ホース102の向きに基づいて形成することができる。
【0038】
合成画像形成部206は、カメラ201によって得られた撮像画像と、煙炎画像形成部205によって形成さられた煙炎画像と、を合成する。これにより、訓練対象者1の前方の環境画像(カメラ201による撮像画像)に煙炎画像が重畳され、あたかも訓練対象者1の前方で火災が生じているかのような模擬画像が形成される。合成画像形成部206により得られた模擬画像(合成画像)は、ディスプレイ202に出力され表示される。
【0039】
また、合成画像形成部206により得られた模擬画像(合成画像)は、提示情報制御部207に出力される。提示情報制御部207は、模擬画像(合成画像)に含まれる環境画像に対する、煙炎画像の関係に基づいて、訓練対象者1に行動指示を提示する。
【0040】
具体的には、提示情報制御部207は、模擬画像(合成画像)に含まれる環境画像に対して、煙炎画像が所定の関係にある場合には、ディスプレイ202から行動指示を画像にて提示したり、あるいは、スピーカー208から行動指示を音声にて提示する。
【0041】
なお、煙炎画像形成部205及び提示情報制御部207の各々は、主たるコンポーネントとして、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。CPUは、ROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムと協働して、上述した煙炎画像形成処理及び提示情報制御処理を実現する。なお、煙炎画像形成部205の全部又は一部を、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードワイヤード回路で形成してもよい。
【0042】
<2-2>消火訓練システムの動作
次に、本実施の形態の消火訓練システム10の動作について説明する。
【0043】
図8は、消火訓練システム10の動作の例を示すシーケンス図である。図8において、縦軸は時間軸である。横方向には、訓練の全体の流れ等、煙炎画像の状況、表示コメント及び表示ランプの状態が示されている。
【0044】
先ず、消火訓練システム10は、訓練対象者1によってコントローラー300の操作部301に含まれる訓練開始ボタンが操作されると、出火状態となる(0秒)。このとき、コントローラー300の送信部303からHMD200に訓練開始を示す信号が送信される。すると、HMD200の制御部210は、スピーカー208を制御することで、出火から5秒の時点でスピーカー208から自動火災報知設備を発報し、40秒の時点でスピーカー208から火災放送を出力する。また、HMD200の制御部210は、ディスプレイ202を制御することで、ディスプレイ202に「火点確認」といったコメントを表示するとともに黄色ランプを点滅表示する。これにより、訓練対象者1は、音声及び画像により、火災が発生したことを知ることができる。
【0045】
出火から120秒が経過すると、訓練対象者1によって出火場所が確認される。勿論、この出火場所の確認までに要する時間は、120秒に限らない。実施例では、一般に出火から出火場所を確認するまでに要する時間の平均値が120秒であるので、120秒に設定しているが、この値はシステム管理者などによって適宜設定することができる。
【0046】
訓練対象者1によって出火場所が確認されると、訓練対象者1は出火場所に模擬消火器100を搬送することとなる。
【0047】
図9は、このときにディスプレイ202に表示される画像を示したものである。ディスプレイ202には、初期の煙炎画像とともに、「初期消火急げ!」とのコメント及び黄色に点滅したランプが表示される。ここで、煙炎画像は合成画像形成部206によって環境画像と煙炎画像とが合成されてなる合成画像であり、コメント及びランプは提示情報制御部207の表示制御による画像である。
【0048】
出火から140秒が経過すると、訓練対象者1によって消火器放射が開始される。具体的には、訓練対象者1は模擬消火器100の安全栓を外した後にレバー101を握る。また、訓練対象者1はホース102(コントローラー300)を煙炎画像の炎の方向に向けて模擬消火を行う。
【0049】
図10は、このときにディスプレイ202に表示される画像を示したものである。なお、実際には、ディスプレイ202には放射されている消火剤の画像も表示されるが、図10などでは図を分かり易くするために消火剤は省略してある。ディスプレイ202には、煙炎画像とともに、「危険迫る!」とのコメント及び黄色に点灯したランプが表示される。上述したのと同様に、煙炎画像は合成画像形成部206によって環境画像と煙炎画像とが合成されてなる合成画像であり、コメント及びランプは提示情報制御部207の表示制御による画像である。
【0050】
出火から155秒が経過すると、訓練対象者1による消火が失敗或いは成功したことが判定される。消火が失敗したか或いは成功したかの判定は、提示情報制御部207が煙炎画像の大きさに基づいて行う。
【0051】
本実施の形態の場合には、提示情報制御部207が、炎の天井からの距離、及び、煙の床からの距離に基づいて、消火が失敗したか否かを判定する。例えば、提示情報制御部207は、炎の天井からの距離が第1の閾値以下となった場合、又は、煙の床からの距離が第2の閾値以下となった場合に、消火が失敗したと判定する。
【0052】
図11は、消火が失敗したと判定されたときにディスプレイ202に表示される画像を示したものである。ディスプレイ202には、煙炎画像とともに、「危険避難開始!」とのコメント及び赤色に点滅したランプが表示される。上述したのと同様に、煙炎画像は合成画像形成部206によって環境画像と煙炎画像とが合成されてなる合成画像であり、コメント及びランプは提示情報制御部207の表示制御による画像である。
【0053】
一方、提示情報制御部207は、消火が成功したと判定したときには、ディスプレイ202に、「避難誘導開始」とのコメントを表示し、訓練対象者1に避難誘導を促す。
【0054】
出火から159秒が経過すると(すなわち消火失敗と判定して、避難開始指示を表示した直後)には、図12に示したような画像がディスプレイ202に表示される。ディスプレイ202には、煙炎画像(黄褐色混濁)とともに、「直ちに避難!」とのコメント及び赤色に点灯したランプが表示される。
【0055】
出火から160秒が経過すると避難が困難な状況となり、165秒が経過すると避難の限界となる。このとき、煙炎画像は全面黒色となり、表示制御部207はディスプレイ202に「直ちに避難!」のコメントを表示する。
【0056】
このように、本実施の形態の消火訓練システム10では、環境画像(天井や床が含まれる画像)に対する、煙炎画像の関係に基づいて、訓練対象者1に消火を止めて避難を開始することを指示するなどの行動指示を提示する提示情報制御部207を設けたことにより、訓練対象者1は、環境画像と煙炎画像との関係がどのような状況になったら、どのような行動を取ればよいかを体感できるので、実際の火災において逃げ遅れて死亡する確率を大幅に低減できるようになる。
【0057】
<2-3>コントローラー120のアタッチメントの構成
上述したように、本実施の形態のコントローラー300はホース102の先端付近に専用のアタッチメントによって機械的に結合される。
【0058】
図13は、本実施の形態のアタッチメント400の構成を示す斜視図である。図14は、アタッチメント400にホース102及びコントローラー300を取り付けた状態を示す斜視図である。
【0059】
アタッチメント400は、大きく分けて、コントローラー300に係合する第1係合部410と、ホース102に係合する第2係合部420と、第1係合部410と第2係合部420とを連結する連結部430と、を有する。
【0060】
第1係合部410は嵌合孔411を有する。嵌合孔411にコントローラー300の根元部分が嵌合することにより、コントローラー300が第1係合部410に固定される。第2係合部420は嵌合孔421を有する。嵌合孔421にホース102が嵌合することにより、ホース102が第2係合部420に固定される。なお、嵌合孔411と嵌合孔421の軸方向は同一方向である。
【0061】
連結部430には、長方形状の開口部431が形成されている。
【0062】
図15は、アタッチメント400の分解斜視図である。図から分かるように、アタッチメント400は、2つの分割部材401、402が結合されて構成される。2つの分割部材401、402に分割された状態において、嵌合孔411及び嵌合孔421のそれぞれに対応する位置にコントローラー300及びホース201を当接させ、ボルト451及びナット452でネジ止めすることで、2つの分割部材401、402を結合する。これにより、アタッチメント400によりコントローラー300とホース102とが機械的に結合される。
【0063】
図16は、訓練対象者1が訓練時にコントローラー300を握った状態を示す斜視図である。訓練対象者1は、親指をコントローラー300の上部に沿わせ、他の指をコントローラー300の下側に巻回させるようにして、コントローラー300を把持することができる。
【0064】
このとき、訓練対象者1は、コントローラー300の下側に巻回させる何本かの指の少なくとも1つ(図の例では3本の指)を、開口部431に差し込むようにする。これにより、訓練対象者1は、アタッチメント400を意識せずに、あたかもコントローラー300のみを握っているような感覚で、コントローラー300とアタッチメント400を握ることができる。
【0065】
訓練対象者1がコントローラー300の操作面を上に向けた状態でコントローラー300とアタッチメント400を握ると、コントローラー300の真下にホース102が位置する。また、コントローラー300の長手方向の向きと、ホース102の長手方向の向きとが一致する。
【0066】
これにより、訓練対象者1は、ホース102と一体化したコントローラー300を握りながら、あたかもホース102を炎にむける感覚でコントローラー200を炎に向けて模擬消火を行うことができる。その結果、模擬消火を行いながら、親指などでコントローラー300を操作できるので、例えば、消火訓練中にHMD200の動作や設定の変更などを容易に行うことができる。
【0067】
<2-3>実施の形態のまとめ
以上説明したように、本実施の形態の消火訓練システムの一つの態様は、消火器を模擬した形状でなり、少なくとも訓練対象者による消火剤の噴射レバー101及びホース102の操作を検知可能な模擬消火器100と、検知された噴射レバー101及びホース102の操作に基づく煙炎画像を形成する煙炎画像形成部205と、火災現場の環境画像と煙炎画像形成部205によって形成された煙炎画像とを合成した合成画像を形成する合成画像形成部206と、合成画像を表示するディスプレイ202と、合成画像に含まれる環境画像に対する、煙炎画像の関係に基づいて、訓練対象者1に行動指示を提示する提示部(提示情報制御部207)と、を有する。
【0068】
これにより、訓練対象者1は、環境画像と煙炎画像との関係がどのような状況になったら、どのような行動を行えばよいかを体感できるようになる。
【0069】
また、本実施の形態の消火訓練システムの一つの態様は、前記行動指示には、避難指示(例えば「危険避難開始!」、「直ちに避難!」、赤色ランプ点滅、赤色ランプ点灯)が含まれる。
【0070】
これにより、訓練対象者1は、いつ消火を諦めて避難すれば良いかを体感できる。
【0071】
また、本実施の形態の消火訓練システムの一つの態様は、前記環境画像には、火災が生じた部屋の床及び天井の画像が含まれ、提示部(提示情報制御部207)は、前記環境画像に含まれる床と前記煙炎画像に含まれる煙の下端部との距離が所定値(1m、30cm)以下となった場合に、前記避難指示を提示する。
【0072】
実施の形態の例では、床と煙との距離が1mとなったときに避難することを勧め、床と煙との距離が30cmとなったときに避難することを命令する。このようにしたのは、煙の高さと一酸化炭素の高さはほぼ一致するといった知見に基づき、一酸化炭素中毒による逃げ遅れを防ぐためである。
【0073】
また、本実施の形態の消火訓練システムの一つの態様は、前記環境画像には、火災が生じた部屋の床及び天井の画像が含まれ、提示部(提示情報制御部207)は、前記環境画像に含まれる天井と前記煙炎画像に含まれる炎の上端部との距離が所定値(20cm、0)以下となった場合に、前記避難指示を提示する。
【0074】
実施の形態の例では、天井と炎との距離が20cmとなったときに避難することを勧め、天井と炎とが接炎したときに避難することを命令する。このようにしたのは、炎が天井に達すると火の燃え広がる速度は一気に大きくなるといった知見に基づくものである。
【0075】
<3>他の実施の形態
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【0076】
上述の実施の形態では、行動指示をディスプレイ202から画像により提示する場合について述べたが、これに限らず、行動指示をスピーカー208から音声により提示してもよい。
【0077】
上述の実施の形態では、煙炎画像形成部205、合成画像形成部206、ディスプレイ202及び提示情報制御部207を、HMD200に設けた場合について述べたが、本開示はこれに限らない。例えば、図7の制御部210、通信部203、基本煙炎画像記憶部204、煙炎画像形成部205、合成画像形成部206及び提示情報制御部207をパソコンなどの情報処理装置に設けるとともに、カメラ201及びディスプレイ202を訓練対象者1のメガネ型デバイスに設け、情報処理装置とメガネ型デバイスとが無線通信を行うことで実施の形態の動作を実現してもよい。
【0078】
上述の実施の形態では、本開示を、AR画像を表示するシステムに適用した場合について述べたが、本開示は、これに限らず、例えばVR(Virtual Reality)、MR(Mixed Reality)、SR(Substitutional Reality)などの画像を表示するシステムにも適用可能である。例えばMR画像を表示するシステムに適用する場合には、図7のカメラ202に代えて仮想的な環境画像を形成する環境画像形成部を設ければよい。そして、環境画像形成部は、訓練対象者1の頭や目の動きに応じて環境画像を変更する。このようにすれば、合成画像形成部206では、仮想的な環境画像と仮想的な煙炎画像とを合成したVR画像を得ることができる。
【0079】
上述の実施の形態では、提示部(提示情報制御部207)が、床と煙の下端部との距離、及び、天井と炎の上端部との距離に基づいて、行動指示の種類とタイミングを判定した場合について述べたが、床と煙の下端部との距離、及び、天井と炎の上端部との距離のいずれか一方に基づいて、行動指示の種類とタイミングを判定してもよい。また、上述した実施の形態の床と煙の下端部との距離、及び、天井と炎の上端部との距離は例示であって、要は、合成画像に含まれる環境画像に対する煙炎画像の関係に基づいて、訓練対象者に行動指示を提示すればよい。例えば、環境画像に対する煙炎画像の割合が例えば8倍以上になった場合に、避難指示を提示してもよい。つまり、全画像に対する煙の割合が所定値以上になった場合に避難指示を提示してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示の消火訓練システムは、模擬消火器を用いた消火訓練システムに有用である。
【符号の説明】
【0081】
1 訓練対象者
10 消火訓練システム
100 模擬消火器
101 レバー
102 ホース
103、303 送信部
200 ヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD)
201 カメラ
202 ディスプレイ
203 通信部
204 基本煙炎画像記憶部
205 煙炎画像形成部
206 合成画像形成部
207 提示情報制御部
208 スピーカー
210 制御部
300 コントローラー
301 操作部
302 ジャイロ
400 アタッチメント
410 第1係合部
411、421 嵌合孔
420 第2係合部
430 連結部
431 開口部
【要約】
【課題】火を消すための訓練のみならず、消火を行う人間が火災現場でどのように行動したら良いかを総合的に訓練することができる消火訓練システムを提供すること。
【解決手段】消火訓練システム10は、消火器を模擬した形状でなり、少なくとも訓練対象者による消火剤の噴射レバー101及びホース102の操作を検知可能な模擬消火器100と、検知された噴射レバー101及びホース102の操作に基づく煙炎画像を形成する煙炎画像形成部205と、火災現場の環境画像と煙炎画像形成部205によって形成された煙炎画像とを合成した合成画像を形成する合成画像形成部206と、合成画像を表示するディスプレイ202と、合成画像に含まれる環境画像に対する、煙炎画像の関係に基づいて、訓練対象者1に行動指示を提示する提示部(提示情報制御部207)と、を有する。
【選択図】図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16