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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】血中フリー体AIM増加用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/06 20060101AFI20240801BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240801BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240801BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240801BHJP
【FI】
A61K38/06
A61K31/7076
A61P43/00 111
A61P13/12
A61P1/16
A61P3/04
A61P25/00
A61P35/00
A61P31/10
A61P29/00
A23L33/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021015422
(22)【出願日】2021-02-03
(62)【分割の表示】P 2020052617の分割
【原出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021075545
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019058964
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521558592
【氏名又は名称】合同会社AiMIYA
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 知倫
(72)【発明者】
【氏名】倉田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌良
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1723913(CN,A)
【文献】国際公開第2017/022315(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043617(WO,A1)
【文献】中国老年学雑誌,2014年,Vol.34,pp.1354-1355
【文献】肝臓,1984年,Vol.25,No.11,pp.1468-1473
【文献】J.Biomol.Res.Ther.,2017年,Vol.6,No.1,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 38/00
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型グルタチオン、及び/又は、コエンザイムAを有効成分として含有する血中のフリー体AIM増加用の組成物。
【請求項2】
還元型グルタチオン、及び/又は、コエンザイムAを有効成分として含有する血中のフリー体AIM増加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中フリー体AIM増加用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
AIM(apoptosis inhibitor of macrophage;CD5L、api6、Spαとも称する)は、組織マクロファージが特異的に産生する分子量約50kDaの分泌型タンパク質である(非特許文献1)。AIMは、システイン残基を多く含む特異的な配列であるscavenger receptor cysteine-rich(SRCR)ドメインをタンデムに3つつなげた構造をしており、それぞれのシステイン残基は各ドメイン内で互いにジスルフィド結合することで、コンパクトな球状の立体構造をしていると考えられている。
【0003】
AIMは、尿中へ排出されず、血液中で安定的に存在する。このために、IgMとの結合が深く関与していること、またほとんどすべてのAIMは血液中ではIgMと複合体を形成し、非結合体で存在することがほとんどないことが報告されている(非特許文献2)。
そしてAIMとIgMの結合様式は、IgM五量体のギャップの中にAIMが嵌まり込むような形で結合し、AIMが持つ、システインを多く含む3つのドメインのうち、2番目のドメインに存在するフリーのシステイン残基が、IgM五量体にあるギャップの片側に存在するフリーのシステインとジスルフィド結合により結合していること、AIMのC末端側の3番目のドメイン内に存在する正に荷電したアミノ酸のクラスターが、ギャップのもう片側に存在する負に荷電したアミノ酸クラスターと電荷による結合をしており、AIMにより、ギャップの両側のIgMがクロスブリッジされていることが明らかになっている(非特許文献3)。
【0004】
ヒトにおけるAIMの作用効果の全貌は、未だ不明な点が多いが、その作用効果の一部が明らかになるにつれて、新たな医薬用途の発明がなされている。
特許文献1には、AIMを含有してなる、肝疾患の予防・治療剤の発明が記載されている。
特許文献2には、AIMもしくはその部分ペプチドを含有してなる、腎疾患の予防・治療剤の発明が記載されている。
特許文献1および2には、いずれもAIMタンパク質又はペプチド断片を有効成分とする疾患治療剤や、その遺伝子を利用した新たな治療剤やAIM遺伝子の利用が開示されている。
また特許文献3は、AIMの作用を抑止する医薬発明が記載されている。すなわちAIMと結合性を有し、AIM作用を抑制する抗体やAIM遺伝子に対するアンチセンス核酸や、RNAi効果を有する二本鎖核酸を投与することで、AIMの作用を抑制し、メタボリックシンドロームを治療するための医薬発明が記載されている。
【0005】
AIMは、生体中ではマクロファージによって産生されるが、血液中では、上記の通り、IgMと複合体を形成しており、不活性化されている。そして、腎疾患や肝臓疾患の進行に伴って、フリー体のAIMが出現し、疾患の改善にプラスに作用する。
例えば、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症などさまざまな疾患症状に対し抑制的な効果を示すことが確認されている。特にネコに腎不全が多発するのは、ネコのAIMが、AIM-IgM五量体(複合体)から解離しないためであることが明らかになっている(非特許文献4)。
また、このような疾患の指標として、血中のAIM濃度を測定する技術が、特許文献4、5、6に開示されている。
しかし、これまで血中に存在するIgMの五量体とAIMの複合体からAIMをフリー体として生成させる手段や薬剤は提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/162021号
【文献】国際公開第2015/119253号
【文献】国際公開第2011/145723号
【文献】国際公開第2011/145725号
【文献】国際公開第2017/022315号
【文献】国際公開第2017/043617号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Miyazaki T et al., J Exp Med 189:413-422,1999
【文献】Miyazaki T et al.,Cell Reports 3,1187-1198,April 25,2013
【文献】Hiramoto et al., Sci. Adv. 2018; 4 : eaau1199 10 October 2018
【文献】Sugisawa, R. et al. Sci. Rep. 6: 35251 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、天然物や化合物のAIMに対する作用を研究する過程で、多数の天然物や抽出物のスクリーニングを行い、化学構造式中にチオール基を持つ化合物が特異的に、血中のAIMとIgMの複合体からAIMを生成させることを見出し、本発明をなした。
すなわち、本発明は、血中のAIMとIgMの複合体からAIMを生成させ、血中のフリー体のAIM濃度を上昇させる作用を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成からなる。
(1)化学構造式中にチオール基を持つ化合物を有効成分として含有する血中のフリー体AIM増加用の組成物。
(2)化学構造式中にチオール基を持つ化合物が、1-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、シクロペンタンチオール、2-ヒドロキシベンゼンチオール、ジヒドロリポ酸、L-シスチン、還元型グルタチオン、L-システイン、コエンザイムA、γ-グルタミルシステインからなる群から選択される1又は2以上の化合物である(1)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により血中のフリー体AIM増加用の組成物が提供される。
本発明の組成物は、血中のAIMを増加させ、血中のフリー体AIMの増加により、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症等のフリー体AIMの関与する疾患の予防改善剤として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】1-プロパンチオール:0.5V/V%、2-メチル-1-プロパンチオール:0.5V/V%、シクロペンタンチオール:0.5V/V%、2-ヒドロキシベンゼンチオール:5mg/mLのフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図2図1の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図3】L-シスチン:10mg/mL、5mg/mLのフリー体AIM増加作用試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図4図3の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図5】L-システイン:0.5mM、5mMのフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図6図5の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図7】ジヒドロリポ酸:0.5V/V%のフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図8図7の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図9】コエンザイムA:0.5mg/mLのフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図10図9の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図11】還元型グルタチオン:5mg/mLのフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図12図11の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図13】γ-グルタミルシステイン:1.25μMのフリー体AIM増加作用の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図14図13の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図15】L-シスチンを経口投与したマウス血漿中のAIM増加を試験したウエスタンブロット画像である。
図16図15の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
図17】L-シスチン粉末を経口摂取したヒトの血清中のフリー体AIM増加の試験結果を示すウエスタンブロット画像である。
図18図17の画像から読み取ったフリー体AIMの相対量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について具体的に説明する。
本発明でいう「フリー体AIM」とは、AIMがIgMの五量体から生成して、単独で血中に存在している状態をいう。当該フリー体AIMは、IgMをはじめとする血中のタンパク質や糖タンパク質と非結合の状態である。
本発明においては、IgM等と結合した状態のAIMを「複合体AIM」という。また複合体AIMとフリー体AIMの両方を合わせたAIM量を「全AIM量」という。
なお、全AIMの検出、定量は、特許文献4~6に開示された抗AIMモノクローナル抗体を用いるイムノアッセイ法で測定することができる。
【0013】
本発明でいう「組成物」とは、チオール化合物を含有し、血中フリー体AIM増加効果を発揮するものをいう。「組成物」には食品、医薬品、健康食品、動物用飼料を包含する。
発明組成物に配合されるチオール化合物は、その分子内にSH基を有する化合物である。
【0014】
本発明の組成物に含有されるチオール化合物は、目的に応じて、適宜選択されるが、使用性、安全性及び有効性の点から、アミノ酸系のチオール化合物や食品医薬品として使用実績のある化合物が好ましい。具体的には、1-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、シクロペンタンチオール、2-ヒドロキシベンゼンチオール、ジヒドロリポ酸、L-シスチン、還元型グルタチオン、L-システイン、コエンザイムA、γ-グルタミルシステインであり、特に、γ-グルタミルシステインが最も好ましい。
【0015】
本発明組成物には、これらのチオール化合物の1種又は2種以上を配合することができる。
【0016】
本発明組成物におけるチオール化合物の配合量は、経口投与の場合、具体的用途、剤形、他の配合成分との兼ね合い等に応じて、適宜選択され、特に限定されるものではない。通常、経口投与剤の場合、全量に対して、0.00001~99質量%、好ましくは0.001~99質量%、特に好ましくは1~99質量%の範囲で配合される。
【0017】
本発明のチオール化合物を含む組成物は、フリー体のAIM増加の目的で各種医薬品、食品、健康食品、動物用飼料等とすることが可能である。また摂取剤形としては特に制限されず、種々の形態とすることができ、具体的には、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等経口投与のための形態とすることができる。そして製剤化に有用な賦形剤を適宜配合することができる。
【実施例
【0018】
実施例、試験例を示し、本発明についてさらに説明する。
<実施例1:チオール化合物による血中AIM増加試験>
1.チオール化合物
市販されている以下のチオール化合物を試験試料とした。
1-プロパンチオール、2-メチル-1-プロパンチオール、シクロペンタンチオール、2-ヒドロキシベンゼンチオール、ジヒドロリポ酸(以上東京化成工業株式会社)、L-シスチン(味の素ヘルシーサプライ株式会社)、還元型グルタチオン、L-システイン(以上富士フイルム和光純薬株式会社)、コエンザイムA(ナカライテスク株式会社)、γ-グルタミルシステイン(シグマアルドリッチジャパン合同会社)。
【0019】
2.フリー体AIM増加効果確認試験
(1)試験方法
各化合物は、次の濃度になるようPBS(-)に溶解させ試験試料を調製した。L-シスチンはPBS(-)に難溶であるため、下記濃度でPBS(-)と混合し、1500g、15℃で3分間遠心後、上清を回収し試験に使用した。
1-プロパンチオール :1.0V/V%
2-メチル-1-プロパンチオール:1.0V/V%
シクロペンタンチオール :1.0V/V%
2-ヒドロキシベンゼンチオール :10mg/mL
L-シスチン :2mg/mL、10mg/mL
L-システイン :1mM、10mM
ジヒドロリポ酸 :1.0V/V%
コエンザイムA :1.0mg/mL
還元型グルタチオン :10mg/mL
γ-グルタミルシステイン :2.5μM
【0020】
ヒト血清とPBS(-)とを2:3の比率で混合し、血清希釈液を調製した。
試験試料溶液と血清希釈液を等容量で混合し、37℃1時間インキュベートした。インキュベートしたものをフリー体AIMの増加を確認するウエスタンブロッティング用の試料とした。
【0021】
(2)ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティング用試料に4×LDS試料用緩衝液(Thermo Scientific)を加え混合し、1ウェルあたり血清が1μL含まれるようXV PANTERA MP Gel(ゲル濃度:5~20%、ディー・アール・シー)にロードし、200Vの定電圧でSDS-PAGE法により試料中のタンパク質を分離した。
SDS-PAGE後、タンパク質をPVDF膜(Amersham Hybond P PVDF 0.45、GEヘルスケア)に転写した。
転写後のPVDF膜をTris buffered saline with Tween(TBST 0.05%Tween20)で洗浄し、続いてブロッキング溶液(5%スキムミルク/TBST)に浸した後、室温で1時間振盪し、ブロッキング処理を行った。
ブロッキング処理を行ったPVDF膜は抗体希釈用緩衝液で希釈した抗体と4℃、16~18時間反応させた。反応後、PVDF膜を3回TBSTで洗浄し、ブロッキング溶液で二次抗体を希釈して室温、1時間の条件で二次抗体反応を行った。なお、使用した抗体の希釈条件は以下の通りである。
一次抗体:抗ヒト/マウスAIM抗体 rab1(1:3000)(宮崎研究室で生産・非特許文献2等で使用)
二次抗体:抗ウサギ IgG(H+L)抗体HRP conjugate(1:5000)(Thermo Scientific)
反応終了後、再度3回、TBSTで洗浄し、ECL Prime Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を基質として用い、ChemiDoc Touch(BioRad)にてシグナルの検出・撮影を行った。
同様の操作を血清のみの試料(PBS添加)についても行った。
【0022】
(3)結果
ウエスタンブロッティングの撮影画像、及び各画像からデンシトメーターにより読み取った試験試料のフリー体AIM相対量(PBSを1とする)を図1~14に示す。なお比較対照として、ヒト血清とPBSの混合物に試料に相当する容量のPBSを添加したものをPBSと略記して表示した。
図1~14に示すとおり、血清には殆ど検出されないフリー体のAIMに相当するバンドが試験試料のウエスタンブロットのバンドとして出現した。このバンドがフリー体のAIMであることは非特許文献2等で使用している組み換えAIMを電気泳動の対照とすることで確認できた。
【0023】
<実施例2:L-シスチンの単回経口投与によるフリー体AIM増加作用試験>
(1)被検体
L-シスチン(純度98%以上 味の素ヘルシーサプライ株式会社製)
【0024】
(2)試験方法
8週齢ICRマウス雄(日本クレア株式会社)を1週間飼育部屋で馴化飼育した後本試験に供した。なお本試験では、1群8匹のマウスを使用した。
L-シスチンは、0.5質量%のカルボキシメチルセルロースを溶解した水に200mg/mLの濃度になるように分散懸濁させた。
試験当日、マウスの体重を測定し、その体重測定結果に基づいて、L-シスチン2000mg/kg体重(10mL)を、ゾンデを用いて単回経口投与した。またコントロール群は、0.5%カルボキシメチルセルロース含有水溶液を10mL/kg・体重を同様に単回経口投与した。
投与0.5時間後にイソフルラン吸入麻酔下において、EDTA処理済みのシリンジで心採血を行った。得られた血液から遠心分離により血漿を単離した。
【0025】
(3)ウエスタンブロッティング
採取したマウス血漿とPBS(-)とを1:4の比率で混合し、血漿希釈液を調製した。この希釈液を、フリー体AIMの増加を確認するウエスタンブロッティング用の試料とした。
ウエスタンブロッティング用希釈血漿試料に4倍希釈したLDS試料用緩衝液(Thermo Scientific)を加え混合した。次いで、1ウェルあたり血漿が1μL含まれるようXV PANTERA MP Gel(ゲル濃度:5~20%、ディー・アール・シー)にロードし、200Vの定電圧でSDS-PAGE法により試料中のタンパク質を分離した。
SDS-PAGE後、分離したタンパク質をPVDF膜(Amersham Hybond P PVDF 0.45、GEヘルスケア)に転写した。
転写後のPVDF膜をTris buffered saline with Tween(TBST 0.05%Tween20)で洗浄し、続いてブロッキング溶液(5%スキムミルク/TBST)に浸した後、室温で1時間振盪し、ブロッキング処理を行った。
ブロッキング処理を行ったPVDF膜は、抗体希釈用緩衝液で希釈した抗体と4℃、16~18時間反応させた。反応後、PVDF膜を3回TBSTで洗浄し、ブロッキング溶液で二次抗体を希釈して室温、1時間の条件で二次抗体反応を行った。
なお、使用した抗体の希釈倍率は以下の通りである。
一次抗体:抗ヒト/マウスAIM抗体 rab1(宮崎研究室で生産・非特許文献2等で使用)1:3000に希釈
二次抗体:抗ウサギ IgG (H+L)抗体HRP conjugate(Thermo Scientific製)1:5000に希釈
反応終了後、再度3回、TBSTで洗浄し、ECL Prime Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を基質として用い、ChemiDoc Touch (BioRad) にてシグナルの検出・撮影を行った。
【0026】
(4)結果
ウエスタンブロッティングの撮影画像を図15に示す。
図15に示すとおり、コントロールでは僅かに検出されるフリー体AIMに相当するバンドがシスチンを経口投与した試験動物の血漿試料において増加した。
この画像からデンシトメーターにより読み取った試験試料のフリー体AIM相対量(0.5%CMC溶液投与の値を1とする)の平均値を図16に示す。
【0027】
動物を用いた経口投与試験からチオール基を有する化合物であるL-シスチンは、経口投与することで血中のフリー体AIMを増加させることが確認できた。
【0028】
<実施例3:L-シスチン単回経口投与によるフリー体AIM増加作用(ヒト臨床試験)>
(1)試験食品
精製L-シスチン(純度98%以上 味の素ヘルシーサプライ株式会社製)を2.1g含有する粉末
【0029】
(2)試験方法
1)被験者
20歳以上65歳未満の健常成人男女10人を被験者とした。
2)試験食品の摂取
各被験者に対し、12時間以上の絶食後に、試験食品(L-シスチン粉末)を摂取直前に水150mlに懸濁して全量摂取させた。なお、摂取前および摂取30分後、120分後に採血を行った。また検査中は水以外の飲食を禁止とした。
3)採血
採血は、プレーン採血管(テルモ株式会社)を用いて行った。得られた血液を遠心分離により血清を単離した。
【0030】
(3)ウエスタンブロッティング
採取したヒト血清とPBS(-)とを1:4の比率で混合し、血清希釈液を調製した。
この希釈液を、フリー体AIMの増加を確認するウエスタンブロッティング用の試料とした。
ウエスタンブロッティング用に希釈した血清試料に4倍希釈したLDS試料用緩衝液(Thermo Scientific)を加え混合した。次いで、1ウェルあたり血清が1μL含まれるようXV PANTERA MP Gel(ゲル濃度:5~20%、ディー・アール・シー)にロードし、200Vの定電圧でSDS-PAGE法により試料中のタンパク質を分離した。
SDS-PAGE後、分離したタンパク質をPVDF膜(Amersham Hybond P PVDF 0.45、GEヘルスケア)に転写した。
転写後のPVDF膜をTris buffered saline with Tween(TBST 0.05%Tween20)で洗浄し、続いてブロッキング溶液(5%スキムミルク/TBST)に浸した後、室温で1時間振盪し、ブロッキング処理を行った。
ブロッキング処理を行ったPVDF膜は、抗体希釈用緩衝液で希釈した抗体と4℃、16~18時間反応させた。反応後、PVDF膜を3回TBSTで洗浄し、ブロッキング溶液で二次抗体を希釈して室温、1時間の条件で二次抗体反応を行った。
なお、使用した抗体の希釈倍率は以下の通りである。
一次抗体:抗ヒト/マウスAIM抗体 rab1(宮崎研究室で生産・非特許文献2等で使用)1:3000に希釈
二次抗体:抗ウサギ IgG (H+L)抗体HRP conjugate(Thermo Scientific製)1:5000に希釈
反応終了後、再度3回、TBSTで洗浄し、ECL Prime Western Blotting Detection Reagents(GEヘルスケア)を基質として用い、ChemiDoc Touch (BioRad)にてシグナルの検出・撮影を行った。シグナル値を基に、試験食品の摂取前後のフリー体AIM量の変化を対応のあるt検定(1標本t検定)を用いて評価した。統計解析ソフトはJMP(登録商標)14.0(SAS社製)及びMicrosoft Excel 2010(Microsoft社製)を使用した。
【0031】
(4)結果
試験食摂取120分後の血清を用いたウエスタンブロッティングの撮影画像を図17に示す。
図17に示すとおり、シスチンを摂取していないヒトの血清には殆ど検出されないフリー体のAIMに相当するバンドが、シスチンを経口投与した被験者の血清試料のウエスタンブロットには出現した。
この画像からデンシトメーターにより読み取った試験試料のフリー体AIM相対量摂取前を1とした相対値の平均値を図18に示す。
【0032】
図18に示す通りシステインのチオール基がジスルフィド結合した化合物であるL-シスチンは、経口投与することでヒト血中AIMを有意に増加させることが確認できた。
【0033】
以上のインビトロ、インビボ試験及び人臨床試験の結果から、チオール基を有する化合物には、通常血中に存在しないフリー体のAIMを増加させる作用があることがわかった。また、γ-グルタミルシステインは低濃度で強い活性を持つことが確認された。したがってチオール化合物による血中のフリー体AIMの増加により、急性腎障害、脂肪肝、肝細胞癌、肥満、真菌性腹膜炎、多発性硬化症等のフリー体AIMが関与する疾患の予防改善剤として期待される。
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