(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】認知症患者外出支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/22 20240101AFI20240801BHJP
G16H 20/00 20180101ALI20240801BHJP
G06Q 50/26 20240101ALI20240801BHJP
【FI】
G06Q50/22
G16H20/00
G06Q50/26
(21)【出願番号】P 2019184198
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2022-10-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508179637
【氏名又は名称】学校法人冬木学園
(74)【代理人】
【識別番号】100152700
【氏名又は名称】泉谷 透
(72)【発明者】
【氏名】冬木 正紀
【審査官】梅岡 信幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-053371(JP,A)
【文献】特開2014-055779(JP,A)
【文献】特表2004-534999(JP,A)
【文献】特開2018-005536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の身体に装着する患者用端末と、管理アプリケーションを有する介護者用端末と、インターネット・携帯通信ネットワークを介して前記患者用端末及び前記介護者用端末と通信可能なサーバとからなる認知症患者外出支援システムであって、
前記患者用端末は、少なくとも位置検出手段と、患者の状態データを検知可能な状態検知手段と、音声入出力手段と、映像入力手段と、音声認識手段とを備え、
前記サーバは、少なくとも記憶部と、ナビゲーション部と、サポート部とを備え、
前記記憶部は、
患者の外出行程の設定入力により前記ナビゲーション部が生成した少なくとも外出の目的地までの往復の移動経路、利用公共交通機関の時刻や乗り換え、目的地での滞在時間、予定帰宅時刻からなる外出スケジュールと、
患者個人の標準的な歩行速度を含む正常時の状態データである基準状態データと、
認知症の症状の判定基準を定義したパラメータテーブルと、
症状に応じて実行すべき対策の関係を定義した対策テーブル・ナビゲーション用のガイド音声・前記対策テーブルの対策ごとに対応したサポート用のサポート音声・患者以外の所定の対象向けの連絡用音声等の音声データを登録した対策データベース
とを、前記管理アプリケーションにより設定・書換・追加・削除して記憶可能とし、
患者の外出行程を通じて、
前記ナビゲーション部は、外出スケジュールに対応したガイド音声によるナビゲーションを実行するとともに、
前記位置検出手段が検出した患者の現在位置と
前記外出スケジュール
での予定位置との照合における不一致により遅延・逸脱を検知した場合に、検知時点における目的地までの行程の再計算を行い、再計算
の結果に基づいて前記外出スケジュールへの復帰が不可能と判定し
た場合には、判定時点の時刻・位置を基準に、現在位置から目的地及び帰宅するまでの次善の変更スケジュールと、外出行動を中止して現在位置から帰宅するまでの帰宅用スケジュールとを再計算して患者に提示して、患者のいずれかの選択によるナビゲーションを実行し、
前記サポート部は、前記状態検知手段により検知した患者の状態データと前記基準状態データとを照合し、照合の結果前記パラメータテーブルに定義された認知症の症状を検出した場合には、前記対策テーブルを参照して症状に対応する所定のサポート音声を出力する対策を実行することを特徴とする認知症患者外出支援システム。
【請求項2】
前記サポート部が認知症の症状を検出した場合において、前記ナビゲーション部は、前記標準的な歩行速度を所定の割合で減じた上で前記変更スケジュール及び帰宅用スケジュールを再計算して患者に提示し、患者の選択によるナビゲーションを実行すること
を特徴とする請求項1に記載の認知症患者外出支援システム。
【請求項3】
前記サーバは、患者の外出行程を通じて、
前記状態検知手段が検知した患者の状態データと、前記音声入出力手段及び前記映像入力手段から入力された音声・映像データとを統合して前記介護者用端末に送信し、前記管理アプリケーションによりモニタ可能としたこと
を特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の認知症患者外出支援システム。
【請求項4】
前記サーバは、患者の外出行程を通じて、
前記ナビゲーション部が実行したナビゲーションの記録と、患者の状態データの記録と、前記サポート部が実行した対策の記録と、前記音声入出力手段及び前記映像入力手段で記録した音声・映像の各データとを時系列に統合したログデータを生成して前記記憶部に記憶し、前記管理アプリケーションにより前記介護者用端末で出力可能とするとともに、
必要に応じて前記管理アプリケーションからスケジュールに対応するナビゲーションのガイド音声、あるいは、対策に対応するサポート音声を再設定可能としたこと
を特徴とする
請求項3に記載の認知症患者外出支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知症患者の単独での外出を支援するシステムに関し、より詳細には、事前に外出の目的地とその経路・交通手段等を設定した外出スケジュールに基づいて認知症患者の行動を誘導する歩行者ナビゲーションシステムと、外出中の認知症患者の体調や状況から認知症の症状の前兆や発症を検知してその回復と安全確保を図るサポートシステムとを連携させた認知症患者外出支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会を迎えた我が国においては、いわゆる団塊の世代が75歳以上となる2025年には認知症患者数は700万人前後となり、65歳以上の高齢者の5人に1人を占める見込みといわれている。いわゆる認知症には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの種類があるが、その中核症状は、記憶障害、見当識障害、判断力低下などである。
【0003】
認知症の進行により、記憶障害と判断力低下のために物事の計画や段取りを立てられなくなり、社会生活や対人関係に支障をきたして生活の自立度を失うことが問題となっている。特に、患者の単独での外出は、本人の安全確保や家族等の心配や負担、他人への迷惑等を理由に、抑制あるいは禁止される場合が多い。しかし、多くの認知症患者は健常者と同様に意思や経験、自尊心もあるから、行動の制約、特に単独での外出の抑制・禁止は、患者の人間性の否定や生活の質の低下につながりやすい。また、一方的な行動の制約は患者の自立性を損ない、生活における刺激を奪うこととなり、却って認知症を進行させる要因ともなり得る。
【0004】
一般的に、日常生活における認知症患者の自立度は個人差が大きい。
図1に示すように、厚生労働省老人保健福祉局の「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」では、「ランク1」(何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している)から「ランク4」(日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁にみられ、常に介護を必要とする)まで分類されている。「ランク3」以上と判定される認知症患者の場合は単独での外出は危険度が大き過ぎるが、「ランク2」以下の場合は、むしろ積極的な外出行動が認知症の進行抑制に有効と考えられる。また、このような比較的軽度の認知症患者は一般的に自尊心や向上心も高いため、介護者の付き添いなしの単独外出を希望する場合も多い。
【0005】
そのため、比較的軽度の(具体的には前述の「レベル1~2」の)認知症患者の単独での外出行動を適切かつ安全に案内誘導し、かつ、認知症の症状の予兆や発症を検知した場合には自動的に必要な回復措置を講じ、それでも回復しない場合や緊急事態にあっては家族等の介護者や救急・警察等への通報を行うシステムが実現できれば、介護者の付き添い負担を軽減できるだけでなく、従来は「自分ではなにもできない」と思われていた認知症患者の自信の回復や生活の質の向上を図ることが期待できる。
【0006】
ここで、外出行動を案内誘導するための、いわゆる歩行者用ナビゲーションシステムは、スマートフォン用アプリケーションで相当に高精度なものがすでに実現しており、地図サービスシステムや公共交通機関の時刻表データ等との連携により、最適な経路や乗り換えの案内も可能となっている。さらに、たとえば特許文献1に記載の鉄道網最適経路案内システムの如く、階段やエレベーター、エスカレーター等を健常者のようには利用できない高齢者や障碍者などの身体的条件を考慮した最適経路や乗り換え方法を案内できるシステムが提案されている。また、特許文献2に記載の行動監視システムの如く、携帯型行動監視装置によって高齢者の行動を監視し、移動許可範囲からの逸脱や転倒などの異常を監視するシステムも提案されている。一方、個人の安全や健康状態を監視・管理するシステムについても、たとえば特許文献3に記載の監視用レコーダー及び監視システムの如く、認知症患者等が事故に遭遇した際に状況を記録し監視者に報知するシステムが提案されている。また、特許文献4に記載の健康管理システムの如く、利用者の健康状態を示す生体情報を検知して、変化した健康状態に相応しい処置を行えるシステムも提案されている。
【文献】特開2003-54407号公開特許公報
【文献】特開2007-279837号公開特許公報
【文献】特開2019-83423号公開特許公報
【文献】特開2015-72664号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの先行技術は、比較的軽度の認知症患者にみられる以下のような特性を必ずしも十分考慮したものではない。すなわち、(1)平常時は自分の経験や判断が間違っているかも知れないとは考えていない、(2)従って、単独行動中のシステムの過度な介入を嫌い、自ら判断・決定したいと考える、(3)しかし、複雑な外出スケジュール全体を念頭に置きつつ行動を逐次修正することは難しい、(4)そして、突然の症状の発症や自分の状況が把握不能になると容易にパニックに陥りやすい、といった特性である。
【0008】
先行技術をはじめ、従来の歩行者用ナビゲーションシステムは、あくまで健常者が自らスマートフォン等を操作して利用することを想定している。また、目的地までのルート上で何らかの理由でスケジュールからの遅延や逸脱が生じた場合、利用者が自ら新しいスケジュールを再設定することを予定している。一方、認知症患者の多くにとってスマートフォンのような電子機器の操作は、その基本的な手順自体を忘れてしまうおそれがあり、誘導案内は状況に応じた音声で行うことが望ましい。また、認知症患者の場合、遅延や逸脱をただちには自覚できない場合が多いだけでなく、いざ遅延や逸脱を自覚した時点で困惑してしまい、場合によってはパニック状態に陥ることが多い。そのため、認知症患者の利用を前提とするナビゲーションシステムにおける誘導案内は、患者に直近の取るべき行動を適切に確認させつつスケジュールからの遅延や逸脱を防止し、遅延や逸脱が回復不能となった場合や、症状が発症した場合には、自動的にスケジュールを再設定(プランB)するとともに、患者の安全確保のためにその場所・時点からの帰宅用スケジュールも同時に設定して患者に提示し、患者自身に選択させることが望ましい。
【0009】
また、先行技術に係る個人の安全や健康状態を監視・管理するシステムは、利用者の行動や健康状態を監視して、異常を検知した場合に所定の機関等に通報したり、利用者本人にメールや電話でメッセージやアラーム音声を発信して適切な処置・対応を促すものである。一方、認知症患者は、健忘、識失調、勘違い等から緊張状態に陥り、パニック障害を誘発する傾向があるため、認知症患者用外出支援システムには、突然に生じる前兆を検知して、適切なサポート音声で患者を落ち着かせ、ナビゲーションとの連携により、可能な限りスケジュールへの復帰を図り、あるいは安全に帰宅させるよう案内誘導を行うことが求められる。
【0010】
認知症患者にとって初体験となる外出行動(目的地、目的行動等)は、患者本人にとって刺激となり自信にもなるため、認知症の進行抑制にも効果が期待できるが、患者にとってはリスクが高く、介護者等の不安も大きい。そのため、「本番」の単独外出行動の前に、患者と介護者等が実際の外出行動スケジュールをシミュレーションし、想定されるリスクや患者自身の要望を考慮して、適宜外出行動スケジュールや誘導案内の内容を修正可能とすることが望ましい。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑み、比較的軽度の認知症患者の症状の特性を考慮して、単独での外出行動を安全かつ適切にサポートし、介護者等の負担や不安を軽減するとともに、認知症患者の積極的な外出行動を促進できる外出支援システムを提供することを課題とするものである。
【0012】
前記の課題を解決するために、本願の請求項1に係る認知症患者外出支援システムは、患者の身体に装着する患者用端末と、管理アプリケーションを有する介護者用端末と、インターネット・携帯通信ネットワークを介して前記患者用端末及び前記介護者用端末と通信可能なサーバとからなる認知症患者外出支援システムであって、
前記患者用端末は、少なくとも位置検出手段と、患者の状態データを検知可能な状態検知手段と、音声入出力手段と、映像入力手段と、音声認識手段とを備え、
前記サーバは、少なくとも記憶部と、ナビゲーション部と、サポート部とを備え、
前記記憶部は、
患者の外出行程の設定入力により前記ナビゲーション部が生成した少なくとも外出の目的地までの往復の移動経路、利用公共交通機関の時刻や乗り換え、目的地での滞在時間、予定帰宅時刻からなる外出スケジュールと、
患者個人の標準的な歩行速度を含む正常時の状態データである基準状態データと、
認知症の症状の判定基準を定義したパラメータテーブルと、
症状に応じて実行すべき対策の関係を定義した対策テーブル・ナビゲーション用のガイド音声・前記対策テーブルの対策ごとに対応したサポート用のサポート音声・患者以外の所定の対象向けの連絡用音声等の音声データを登録した対策データベース
とを、前記管理アプリケーションにより設定・書換・追加・削除して記憶可能とし、
患者の外出行程を通じて、
前記ナビゲーション部は、外出スケジュールに対応したガイド音声によるナビゲーションを実行するとともに、
前記位置検出手段が検出した患者の現在位置と前記外出スケジュールでの予定位置との照合における不一致により遅延・逸脱を検知した場合に、検知時点における目的地までの行程の再計算を行い、再計算の結果に基づいて前記外出スケジュールへの復帰が不可能と判定した場合には、判定時点の時刻・位置を基準に、現在位置から目的地及び帰宅するまでの次善の変更スケジュールと、外出行動を中止して現在位置から帰宅するまでの帰宅用スケジュールとを再計算して患者に提示して、患者のいずれかの選択によるナビゲーションを実行し、
前記サポート部は、前記状態検知手段により検知した患者の状態データと前記基準状態データとを照合し、照合の結果前記パラメータテーブルに定義された認知症の症状を検出した場合には、前記対策テーブルを参照して症状に対応する所定のサポート音声を出力する対策を実行することを特徴とする。
【0013】
前記患者用端末の形態は任意であるが、患者の音声を検知可能な音声入出力手段や患者の視点からの映像を撮影可能な映像入力手段を設けることを考慮すると、眼鏡型のフレームあるいは患者自身の装用する眼鏡に取り付け可能な、いわゆるアイウェア型デバイスを含む情報通信端末であることが望ましい。また、前記介護者用端末は、あらかじめ前記管理アプリケーションをインストールしたスマートフォンあるいはタブレット端末等の情報通信端末として構成できる。前記患者用端末と前記介護者用端末は、インターネットを介して前記サーバと通信可能とし、患者用端末と介護者用端末とは、携帯通信ネットワークを介して相互に音声通話も可能とする。
【0014】
前記位置検出手段は、たとえばGPSアンテナである。また、前記状態検知手段は、患者の健康状態を検知可能なバイタルセンサ群と、患者の身体の各部位の位置や運動の加速度から身体の物理的状態に関する状態データを検知可能なモーションセンサから構成する。前記バイタルセンサ群としては、体温、血圧、脈拍、呼吸数、発汗(具体的には皮膚のpH値)を検知する患者の皮膚に貼付可能なセンサや、瞼の開閉や瞬き、瞳孔の散大収縮を検知する眼鏡フレームに実装可能な瞳孔センサも実用化されている。また、下着やおしめに装着して膀胱の状態を超音波で検知し排泄のタイミングを数値表示可能な排泄センサも実用化されている。一方、前記モーションセンサとしては、頭(アイウェア型デバイス)、腰、手首、足首に装着可能なものが実用化されており、加速度センサ、ジャイロセンサ、地磁気センサの組み合わせで、各身体部位の3次元の位置情報及び加速度を検知可能である。
【0015】
前記音声入出力手段は、たとえば前記アイウェア型デバイスに装着可能なマイクロフォンとイヤフォン、スピーカーであり、マイクロフォンは患者の音声及び外部音を検出可能とし、患者へのガイド音声による誘導案内に用いるイヤフォンは、通常の耳に装着するもののほか骨伝導イヤフォンも適用可能である。スピーカーは、緊急時や患者用端末を外している際に音声で周辺に居る者にメッセージを伝達するために用いられる。前記映像入力手段は、たとえばアイウェア型デバイスに装着可能な小型のテレビカメラである。前記音声認識手段は、たとえば患者の音声から確認・応答の基本的な意思表示を認識可能とするソフトウェアであって、患者用端末・サーバのいずれかに実装可能とする。
【0016】
前記サーバの構成中、前記記憶部に記憶される外出スケジュールは、主に家族等の介護者が前記介護者用端末の前記管理アプリケーションから設定入力した外出行動の目的地、経由地、目標到着時刻、滞在時間等の要件に基づき、前記ナビゲーション部が生成するナビゲーション用データである。
【0017】
前記患者個人の基準状態データは、あらかじめ健康かつ平静な状態の患者に患者用端末を装着して歩行や軽度の運動を行ってもらうことで、GPSで検出した標準的な歩行速度や、前記バイタルセンサ群で計測した体温、血圧、脈拍、呼吸数等のバイタルデータである。また、前記パラメータテーブルは、認知症の類型ごとの特徴的な事象(患者の状態)と、前記バイタルデータやモーション(身体各部の位置関係や加速度)、GPSで検知される患者の移動状態、外気温湿度等のパラメータの異常(上昇、低下、乱高下、停止/低速)との対応関係を定義したものであり、たとえば、
図2(前兆段階)、
図3(発症段階)のように示すことができる。なお、パラメータの正常/異常の判定は、各パラメータごとにあらかじめ設定した閾値を超えたか否か、あるいは、あらかじめ設定した特定事象を検知したか否かに基づいて行う。
【0018】
前記対策データベースは、前記パラメータテーブルの認知症の類型ごとの特徴的な事象に対して取るべき対策、具体的には、イヤフォンを通じて患者に聴かせるナビゲーション用ガイド音声、異常時のサポート用のサポート音声、所定の第三者への連絡用音声等の音声データからなり、ナビゲーション部及びサポート部において、必要に応じて固有名詞等の箇所を置換して出力するように構成する。たとえば、
図4に例示したような対策テーブルに基づき、事象ごとに症状の前兆検出時あるいは発症時には、
図5に例示したようなサポート音声をイヤフォンから出力させる。なお、示されているサポート音声は例示であり、前記介護者用端末の前記管理アプリケーションにより任意に設定、書換、追加可能とする。
【0019】
前記ナビゲーション部は、GPSにより検出した現在位置と地図データ、公共交通機関の時刻表に基づき、目的地までの経路や進行方向、右左折、交通機関の乗車/降車や乗り換え等の案内誘導をガイド音声の出力により行う。ナビゲーション部には、本システムに固有のナビゲーションシステムを実装することも可能であるが、既存の歩行者用ナビゲーションサービスや地図サービス、公共交通機関の時刻表情報等のウェブサービスと連携可能なアプリケーションシステムをサーバに実装することにより、外出スケジュールの設定や再計算(リルート:reroute)を行わせ、さらに、対策データベースのガイド音声を任意に設定、書換、追加可能に構成するものとする。
【0020】
前記サポート部は、認知症患者外出支援システムの稼働中、常時、前記患者用端末の前記状態検知手段が検知した患者の健康状態や身体の物理的状態の前記状態データを受信して前記基準状態データと照合する。状態データのパラメータがあらかじめ設定した基準状態データの閾値を超えた場合、あるいは、あらかじめ設定した特定の事象を検知した場合にこれを異常と判定し、前記パラメータテーブルの定義に基づき認知症の症状の前兆あるいは発症を判定する。さらに、前記サポート部は、前記パラメータテーブルを参照して判定された症状への対策を決定し、対策データベース中の所定のサポート音声を患者のイヤフォンから出力し、あるいは、前記介護者端末や救急医療機関・警察署への緊急通報を発信可能とする。
【0021】
次に、請求項2に係る発明は、請求項1に記載した認知症患者外出支援システムであって、前記サポート部が認知症の症状を検出した場合において、前記ナビゲーション部は、前記標準的な歩行速度を所定の割合で減じた上で前記変更スケジュール及び帰宅用スケジュールを再計算して患者に提示し、患者の選択によるナビゲーションを実行することを特徴とする。
【0022】
サポート部が認知症の症状の前兆や発症を検知しても、その程度が軽微であったり、サポート音声による対策の実行により状態データが基準状態データの閾値内に復帰したりした場合は、ナビゲーション部は、遅延・逸脱が生じない限り、設定された外出スケジュールに基づくナビゲーションを継続する。しかし、認知症の症状の前兆や発症の検知後に遅延・逸脱が生じ、外出スケジュールへの復帰が不可能となった場合は、症状とのなんらかの因果関係が推定され、患者の歩行速度も低下している可能性が高い。であれば、ナビゲーション部が提示すべき変更スケジュール及び帰宅用スケジュールも歩行速度の低下を考慮して再計算することが望ましい。
【0023】
そのため、前記サポート部が認知症の症状の前兆や発症を検出した後に、ナビゲーション部が変更スケジュール及び帰宅用スケジュールを再計算する場合には、患者の歩行速度を、標準的な歩行速度のたとえば20%減として再計算することで、提示するスケジュールの冗長性を高めることができる。すなわち、外出行動中に一旦サポート部が認知症の症状を検出した場合には、以降のナビゲーション部のスケジュール再計算において患者の歩行速度の低下を反映させるのである。
【0024】
かかる構成により、目的地や自宅への到着時間が多少遅れても、新たなスケジュールにおいて遅延を生じる可能性を低減することができ、遅延・逸脱への対応プロセスを繰り返すことによる患者の負担を軽減できる。なお、歩行速度の低減の割合は、症状を問わず一律としてもよいが、異常を検出した状態データの種類や異常の程度によって個別に設定することが望ましい。
【0025】
次に、請求項3に係る発明は、請求項1または2のいずれかに記載した認知症患者外出支援システムであって、前記サーバは、患者の外出行程を通じて、前記状態検知手段が検知した患者の状態データと、前記音声入出力手段及び前記映像入力手段から入力された音声・映像データとを統合して前記介護者用端末に送信し、前記管理アプリケーションによりモニタ可能としたことを特徴とする。
【0026】
前記管理アプリケーションは、前記介護者用端末上で視聴可能なモニタ表示を可能とする。該モニタ表示では、前記患者用端末の前記映像入力手段で撮影した患者の視点からの外部映像と、前記音声入出力手段で集音した患者の音声及び外部音響を介護者等がリアルタイムで視聴可能とするとともに、患者の体温、血圧、脈拍、呼吸数等のバイタルデータを数値やグラフで表示し、異常値を示しているバイタルデータについて注意喚起を表示可能とする。
【0027】
次に、請求項4に係る発明は、請求項3に記載した認知症患者外出支援システムであって、前記サーバは、患者の外出行程を通じて、前記ナビゲーション部が実行したナビゲーションの記録と、患者の状態データの記録と、前記サポート部が実行した対策の記録と、前記音声入出力手段及び前記映像入力手段で記録した音声・映像の各データとを時系列に統合したログデータを生成して前記記憶部に記憶し、前記管理アプリケーションにより前記介護者用端末で出力可能とするとともに、必要に応じて前記管理アプリケーションからスケジュールに対応するナビゲーションのガイド音声、あるいは、対策に対応するサポート音声を再設定可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る認知症患者外出支援システムによれば、患者の行動が設定された外出スケジュールから遅延・逸脱して復帰不可能となった場合に、次善の変更スケジュールと帰宅用スケジュールとを再計算して患者に提示し、患者本人の選択に従って案内誘導を継続するため、患者の尊厳の維持と安全の確保を両立させることができる。また、認知症特有の症状を検知して、症状に対応したサポート音声を出力して自力での回復を促すことで、可能な限りスケジュールへの復帰を図ることで、患者の単独外出の成功確率を向上させて、認知症の進行抑制と生活の質の向上に資することが期待できる。
【0029】
請求項2に係る認知症患者外出支援システムによれば、外出行動中に一旦サポート部が認知症の症状を検出した場合には、以降のナビゲーション部のスケジュール再計算において患者の歩行速度の低下が反映されるため、変更後のスケジュールの冗長性が高まり、更なる遅延が生じにくくなるため、患者の負担が低減される。
【0030】
請求項3に係る認知症患者外出支援システムによれば、患者の単独外出行動中も、介護者等が管理アプリケーションによって患者の行動状況と状態データをリアルタイムに遠隔看視可能であるため、介護者等の負担と不安を軽減でき、予期せぬ緊急事態にも迅速な対応が可能となる。
【0031】
請求項4に係る認知症患者外出支援システムによれば、患者の外出行程を通じたナビゲーション、サポート部の実行した対策、患者の状態データ、映像・音声による状況が統合されたログデータとして記録され、管理アプリケーションで出力可能であるため、
患者個人の外出行動における問題点や危険性、設定したスケジュールの妥当性を介護者等が検証でき、以後のスケジュール設定の精度を向上させることができる。また、必要に応じて、介護者等が管理アプリケーションからガイド音声、サポート音声を再設定可能とすることにより、患者個人の希望や音声への反応を踏まえたナビゲーションや対策の最適化及び精度向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図6は、本発明に係る認知症患者外出支援システム(以下、「本システム」と記す。)の構成の一例を示す。本システムは患者用端末1、介護者用端末2、サーバ3から構成され、各構成はインターネットNを介して相互にデータ通信が可能であるとともに、患者用端末1と介護者用端末2とは公衆携帯電話ネットワークを通じて直接音声通話も可能とする。また、サーバ3は、インターネットNを通じて各種ウェブサービスとのデータ通信、及び救急・警察の情報通信端末E、医療機関の情報通信端末Mとのデータ通信を可能とする。
【0033】
患者用端末1は、少なくとも位置検出手段10、状態検知手段11、映像入力手段12、音声認識手段13、音声入出力手段14、及び制御通信部(患者用端末)15とからなる。本実施例での位置検出手段10はGPSアンテナであり、状態検知手段11は、体温、血圧、脈拍、呼吸数、発汗、瞳孔、排泄といったバイタルデータを検知可能なバイタルセンサ群と、患者の頭、腰、手、足の各部位の位置及び加速度(モーションデータ)を検知可能なモーションセンサと、温度・湿度データを検知する温湿度センサである。本実施例での映像入力手段12はウェブカメラであり、音声入出力手段14は、患者の音声及び外部音響を検出するマイクロフォン、患者にガイド音声、サポート音声を聴かせる骨伝導スピーカー、所定の場合に外部にサポート音声を発する外部スピーカーとからなる。音声認識手段13は、マイクロフォンで検出した患者あるいは外部の第三者の音声を認識して後述の対策データベースC上の特定音声データと照合可能とするソフトウェアである。
【0034】
状態検知手段11以外の構成は眼鏡型フレーム状の本体に実装し、状態検知手段11の各バイタルセンサは、患者の身体の適切な箇所に貼付等の方法で装着し、前記本体と有線あるいはBluetooth(登録商標)等の短距離無線通信により本体の制御通信部(患者用端末)15とデータ通信可能に接続する。なお、制御通信部(患者用端末)15は、介護者用端末2と音声通話が可能な携帯電話端末としての機能を備えるものとする。また、前記音声認識手段13は必ずしも患者用端末1に実装されている必要はなく、サーバ3に設けてもよい。
【0035】
介護者用端末2は、インターネット及び公衆携帯電話ネットワークに接続可能な制御管理部(介護者用端末)21を有する一般的なスマートフォンあるいはタブレットであり、管理アプリケーション20をインストールしたものである。管理アプリケーション20は、サーバ3にアクセスして外出スケジュールの作成や変更を可能とする。また、介護者用端末2上で視聴可能なモニタ表示可能とする。具体的には、患者用端末1の映像入力手段12で撮影した患者の視点からの外部映像と、音声入出力手段14で集音した患者の音声及び外部音響を介護者等がリアルタイムで視聴可能とするとともに、患者の体温、血圧、脈拍、呼吸数等のバイタルデータを数値やグラフで表示し、異常値を示しているバイタルデータについて注意喚起を表示可能とする。また、介護者等は、管理アプリケーション20によってサーバ3にアクセスし、対策データベースC上のガイド音声、サポート音声を修正、追加、削除可能とする。
【0036】
サーバ3は、少なくとも記憶部30、ナビゲーション部31、サポート部32、制御通信部(サーバ)33とから構成され、記憶部30は、外出スケジュール34、基準状態データR、パラメータテーブルP、対策データベースC、ログデータLを記憶可能な記憶媒体である。ナビゲーション部31とサポート部32は、それぞれ情報処理アプリケーションソフトウェアであり、サーバ3内の独立した記憶媒体あるいは記憶部30上に構築されて情報処理を行い、制御通信部(サーバ)33を介してデータ通信を行う。
【0037】
なお、前記ログデータLは、本システムの起動中に、ナビゲーション部31が実行したナビゲーションの記録と、患者の状態データの記録と、サポート部32が実行した対策の記録と、音声入出力手段14及び映像入力手段12で記録した音声・映像の各データとを時系列に統合したデータとして記憶部30に記憶させ、管理アプリケーション20により介護者用端末2で出力可能としたものである。
【0038】
(基準状態データの設定)
本実施例に係る認知症患者外出支援システムでは、患者の実際の単独外出に先立ち、あらかじめ患者の基準状態データRをサーバ3の記憶部30に記憶させておく。具体的には、患者が患者用端末1を装着した状態で本システムを起動し、平静な状態の患者に、本人が特段の緊張を感じない屋外空間(たとえば慣れ親しんだ自宅周辺や近隣の公園等)で一定時間歩行してもらい、その間に前記位置検出手段10としてのGPSアンテナで計測した患者の標準的な歩行速度や、前記バイタルセンサ群が検出するバイタルデータを記憶部30に記録する。かかる記録作業を、時間帯や歩行距離等の負荷を変更して可能な限り複数回繰り返し、前記標準的な歩行速度や各バイタルデータの平均値・最小値・最大値を基準状態データRとして記憶部30に設定する。基準状態データRは、基本的には各バイタルデータの最小値と最大値を正常/異常の判定を行う患者固有の閾値とするが、患者の健康診断記録等に基づき、かかりつけ医師等、患者の健康状態や認知症の症状を把握している専門家の指導を得て前記閾値を適宜修正することが望ましい。
【0039】
(対策データベース)
本実施例に係る対策データベースCは、ナビゲーションに使用するガイド音声、異常時のサポートに使用するサポート音声、所定の第三者への連絡用音声、及び、特定音声の音声データ及びテキストデータのセットをあらかじめ収録したものである。ここでの特定音声とは、本システムの特定のガイド音声やサポート音声に対する患者の所定の応答(「はい」、「いいえ」、「了解」、「分かりません」、「大丈夫」、「よくない」など)や、患者からの本システムへの特定の質問や指示(「次はどこ?」、「次はどっち?」、「ここはどこ?」など)、患者によりパニックの引き金となり得る特定のフレーズ(「ばか」、「こら!」など)である。なお、マイクロフォンから検知された患者自身あるいは周囲の第三者の音声は、音声認識手段13によって対策データベースCに収録されている特定音声のテキストデータと照合されて認識される。
【0040】
また、これらの音声データのうち、少なくともガイド音声とサポート音声については、地名や交通機関名、人名などの固有名詞等、場合に応じて変化する単語の箇所を任意の単語と入れ替え可能とし、ナビゲーション部31が、外出スケジュール34や現在位置情報等に基づき適宜入れ替えて出力可能とするように構成する。さらに、介護者等は、管理アプリケーション20により対策データベースCにアクセスし、テキスト入力又は音声入力によってガイド音声、サポート音声、連絡用音声、特定音声を任意に設定、書換、追加可能とする。
【0041】
(外出スケジュール作成プロセス)
本システムでは、患者の外出行動に先立って外出スケジュールの作成を行う。外出スケジュールの作成は、可能な場合には患者本人が行ってもよいが、基本的には介護者等が患者の意思を確認した上で、介護者用端末2の管理アプリケーションで外出スケジュール作成プロセス100を実行することを想定している。
【0042】
図7は、外出スケジュール設定プロセス100のフローチャートの一例である。最初に外出の目的地を設定する(101)。この際、目的地同じ過去の外出スケジュールが既登録の場合は、これを選択することも可能とする。次に、目的地において特定の約束時刻や到着すべき時間帯がある場合は到着時刻の設定を行い(102)、目的地での滞在等の所要時間を想定している場合は、標準的及び最大限の所要時間を設定する(103)。さらに、必要な場合に連絡すべき相手方が存在する場合には同人の連絡先情報(電話番号又はメールアドレス)を設定する(104)。次に、また、一回の外出行動で複数の目的地を予定する場合は、上記の設定手順により目的地を追加可能とする。
【0043】
以上の設定を行った上でナビゲーション部31に外出スケジュール案の生成を命令すると、ナビゲーション部31は、インターネットを介して外部の経路検索サービス及び地図サービスにアクセスし、設定した条件を満たす外出スケジュール案を計算して管理アプリケーション20の画面に表示する。この際、外出スケジュール案は、往復の移動経路、利用公共交通機関の時刻や乗り換え、目的地での滞在時間、予定帰宅時刻だけでなく、目的地や右左折する箇所、駅やバス停などの公共交通機関の乗り降りする箇所のすべてを経由地(WP:ウェイポイント)として含むものとし、設定した条件を満たす外出スケジュール案が複数生成された場合は、利用する公共交通機関の乗り換え回数、経由地の数も併せて表示するように構成する。認知症患者にとっては一般的に乗り換え回数や経由地の数が多いほど外出スケジュールの難易度が高まり、予定帰宅時刻が遅くなるほどリスクが高まると考えられるため、介護者等は表示された複数の外出スケジュール案Sの難易度とリスクを比較考量して外出スケジュールを選択し、いずれの外出スケジュール案も適切でないと判断した場合は、フローチャートの最初に戻って条件の再設定を行い、最終的に決定した外出スケジュールS1をサーバ3の記憶部30に格納する。
【0044】
なお、前記の難易度は、時間帯別の利用公共交通機関の混雑度、経路の危険度、天候等によっても変動する。そのため、経路検索サービスが交通機関の予想混雑度データを提供している場合や、地図サービスが歩行者への危険度の高い箇所のハザードマップデータを提供している場合は、外出スケジュール案にこれらを難易度やリスクの指標として併せて表示することで、介護者等がより適切な選択が可能となる。
【0045】
(外出支援プロセスの構成)
本実施例に係る認知症患者外出支援システムにより実際に患者の外出支援を行うプロセスは、ガイドプロセス200、遅延逸脱対応プロセス300、フォロープロセス400、サポートプロセス500、パニック対応プロセス600の5つのプロセスから構成される。患者の外出行動の開始にあたり、本システムは、ただちにガイドプロセス200とフォロープロセス400を開始する。
【0046】
(ガイドプロセス、遅延逸脱対応プロセス)
図8は、ガイドプロセス200、及び、遅延逸脱対応プロセス300のフローチャートの一例である。外出に当たって患者に患者用端末1を装着させた後、介護者等が介護者用端末2の管理アプリケーション20を起動して、サーバ3の記憶部30に格納されている外出スケジュールS1を選択し、ナビゲーション部31にガイドプロセスをスタートさせ、ナビゲーションを開始する(201)。
【0047】
患者が単独で自宅を出発した後、ナビゲーション部31は、患者用端末1の位置検出手段10で検出した患者の現在位置と外出スケジュールS1での予定位置とを常時照合し(202)、患者の位置に応じたガイド音声を順次、対策データベースCから読み出して患者用端末1のイヤフォンから出力することでナビゲーションを実行する。
【0048】
図9は、具体的なナビゲーションの一例として、「自宅H」から目的地「デイサービスセンターD」までバスを利用して往復し、目的地で所定時間滞在することを想定した外出スケジュールS1とガイド音声の概略を示したものである。例示したナビゲーションでは、乗り降りするバス停だけでなく、経路上で右左折するすべての箇所をウェイポイントWPとして設定しており、ナビゲーション部31は、患者の現在位置と各ウェイポイントWPとの関係に基づいて所定のガイド音声を対策データベースCから読み出し、必要な固有名詞等を入れ替えた上で患者に聴かせる。また、例示したナビゲーションでは、目的地である「デイサービスセンターD」に到着時に、患者用端末1を外してあらかじめ設定した施設担当者に預け、帰宅準備の予定時刻に外部スピーカーからアラームメッセージを発報して本人及び施設担当者に再装着を促す。
【0049】
ナビゲーションは、患者の外出行動が外出スケジュールS1から特段の遅延・逸脱がない限り上記の例のように実行される。一方、前記照合201において、患者の現在位置が外出スケジュールS1の予定時刻における予定位置と一致せず、遅延・逸脱が生じた場合は、ナビゲーション部31はその時点における目的地Dまでの経路の再計算を行い(203)、再計算の結果外出スケジュールS1への復帰が可能と判断した場合は、患者に対してガイド音声(リカバリガイド)で歩行ペースを上げるよう促し(204)、結果的に外出スケジュールS1への復帰を確認したら通常のナビゲーションを再開する。一方、再計算(203)の結果、遅延・逸脱が大きく外出スケジュールS1への復帰が困難と判断した場合、あるいは、リカバリガイドを行っても復帰が確認できない場合、ナビゲーション部31は遅延・逸脱対応プロセス300を実行する。
【0050】
遅延・逸脱対応プロセス300は、実行時点の時刻・位置を基準に目的地D及び帰宅までの外出スケジュールS2(プランB)と、外出行動を中止して帰宅するための帰宅スケジュールSHとを計算し(301)、両選択肢をガイド音声で患者に両方の概要(目的地D到着や帰宅の新予定時刻を含む)を提示して選択を求める(302)。患者に選択してもらうのは、あくまで患者自身の尊厳と自立心を尊重するためである。一方、サポート部32が、後述するサポートプロセス500実行中に認知症の症状を検出し、やはり後述するパニック対応プロセス600に移行した場合は、ナビゲーション部31は、前記標準的な歩行速度を所定の割合で減じた上で変更スケジュールS2(プランB)及び帰宅用スケジュールSHを再計算して患者に提示し、患者の選択によるナビゲーションを実行する。
【0051】
患者の選択に従い、ナビゲーション部31は、外出スケジュールS2(プランB)又は帰宅スケジュールSHのいずれかに基づくガイドプロセスを再開するとともに(303、304)、目的地Dの相手先や介護者等に対して、スケジュール変更に伴い必要となる連絡を行うフォロープロセス400を実行する。フォロープロセス400については後述する。
【0052】
遅延・逸脱対応プロセス300の実行によりナビゲーション部31が患者に外出スケジュールS2と帰宅スケジュールSHの選択肢を提示した際、認知症患者の場合、遅延あるいは逸脱が生じたことを知った時点で緊張状態に陥り、選択肢の提示に対して応答しないことも想定される。患者からの応答がない場合には、ナビゲーション部31は、患者に対してとりあえず現在地に留まり、本システムからの指示に従うよう求める音声であるステイガイド(305)を出力させ、パニック対応プロセス600を実行する。パニック対応プロセス600についても後述する。
【0053】
(サポートプロセス)
図10は、サポートプロセス500及びパニック対応プロセス600のフローチャートの一例である。患者が単独で自宅を出発した後、本システムはただちにサポートプロセス500の実行を開始する。患者用端末1は、状態検出手段11で検出した患者のバイタルデータ、モーションデータ、温度・湿度データ、及び、映像入力手段12で検知した外部映像データ、音声入出力手段14で検知した患者あるいは外部の音声データ等の状態データををサーバ3に継続的に送信し(501)、サポート部32は、これらの状態データを検出してパラメータテーブルPと照合し、異常値の有無を監視し続ける(502)。パラメータのいずれかがあらかじめ設定された閾値(許容範囲)を超えた場合、サポート部32は患者に異常が発生したものと判断し、パニック対応プロセス600を実行する。
【0054】
(パニック対応プロセス)
パニック対応プロセス600では、サポート部32は、たとえば
図2及び
図3に例示したようなパラメータテーブルPを参照して異常値から認知症の症状の前兆あるいは発症を推定し、たとえば
図4に例示したような対策テーブルを参照して推定された症状に対応する対策を決定する(601)。そして、たとえば
図5に例示したようなサポート音声を対策データベースCから選択して出力して患者に聴かせる対策を実施する(602)。
【0055】
対策の実施後、サポート部32は、患者用端末1からの患者のバイタルデータの確認(604)と、サポート音声での患者への状態確認(605)を行い、サポート音声へ症状の回復が確認できた場合は通常のパラメータ監視に復帰する。一方、患者からの応答は得られるが症状が回復しない場合は、対策データベースCから患者の状態及び現在位置を含む所定の音声データを介護者用端末2へ発信して連絡するとともに、患者用端末1との音声通話回線を接続状態とし、介護者等から患者への直接の音声通話での支援を可能とする(606)。さらに、症状が回復せず患者からの応答も得られない場合は、前記の介護者用端末2への連絡に加え、対策データベースCから患者の症状と現在位置を含む所定の音声を救急・警察端末E及び医療機関端末Mへ発信して緊急事態を通報する(607)。
【0056】
ここで、患者の安全のみを優先するならば、発症が確認された時点でただちに介護者等に連絡し、あるいは、症状が回復しないことが確認できた時点でただちに救急・警察・医療機関等に通報することが望ましい。しかし、サポート部32による対策により症状が回復して事なきを得た場合には、一般的に患者は介護者等への連絡を望まない場合が多く、また、介護者等も、症状が回復しなくても患者本人と直接電話連絡がついて、自ら対応が可能と判断できる場合には、むやみに救急・警察・医療機関への通報することは避けたいと考えるのが一般的である。パニック対応プロセス600における、前記の段階的な連絡・通報のプロセスは、かかる事情を踏まえ、認知症患者の尊厳や自立心の尊重、あるいは介護者等の心理的負担の軽減を考慮したものである。
【0057】
(フォロープロセス)
前記フォロープロセス400は、プランBとしての外出スケジュールS2が選択された場合と、帰宅用スケジュールSHが選択された場合により、相手方や介護者等への連絡内容が異なる。
【0058】
図11は、外出スケジュールS2が選択された場合のフォロープロセス400のフローチャートの一例を示す。ナビゲーション部31は、当初の外出スケジュールS1において次の目的地に予め設定した特定の相手方がいるか否かを確認し(401)、いない場合は、フォロープロセス400を終了する。特定の相手方がいる場合には、相手方への連絡が必要か否かを確認し(402)、不要な場合は、やはりプロセスを終了する。連絡が必要な場合は、連絡すべき主体を確認し(403)、主体が患者本人である場合は、ナビゲーション部31は対策データベースCから所定のガイド音声(たとえば、「〇〇さんに〇分遅れると連絡して下さい。」など)を出力し(404)、患者の了解を得て相手方に架電し、連絡の完了を確認した後、終了する。主体が介護者等である場合は、ナビゲーション部31が介護者用端末2に自動で架電し、患者の遅延及び新たな到着予定時刻を連絡する(405)。介護者等は、自ら相手方に電話連絡を行った後、介護者用端末2からサーバ3に完了を応答する(406)。介護者等からの応答がない場合は、ナビゲーション部31が代わりに相手方に架電し、患者の遅延及び新たな到着予定時刻を連絡し(407)、プロセスを終了する。なお、主体が患者本人で、あらかじめ設定した許容時間内に相手方への連絡が完了しなかった場合には、患者本人にガイド音声で通知した上で、相手方への連絡の主体が介護者等である場合のプロセス(405)に移行する。
【0059】
図12は、帰宅用スケジュールSHが選択された場合のフローチャートの一例を示す。プロセスの処理手順は
図11と同様であるが、相手方及び介護者等への連絡の内容は予定のキャンセルとなる。
【0060】
本発明に係る認知症患者外出支援システムは、上記の複数のプロセスの連携により、患者にとって初めての目的地・経路での単独外出でも、患者の安全と介護者等の安心を確保するものである。しかし、認知症患者の症状の程度は個人差が大きく、案内誘導やサポートに対する患者個人の反応も一概に想定することは難しい。そこで、「本番」としての患者の単独外出に先立ち、患者に外出スケジュールによる外出行動を「仮想体験」あるいは「予行演習」させることで、作成した外出スケジュールの妥当性を事前に検証し、必要に応じてナビゲーションの方法やガイド音声、サポート音声を適宜変更することでナビゲーションやサポートの精度や安全性を向上させることができる。
【0061】
本実施例では、本システムを(1)シミュレーションモード、(2)オリエンテーションモード、(3)外出支援モードの3つのモードで運用可能に構成する。(3)外出支援モードは、前記の患者による単独外出を支援するモードである。
図13は、これら3つのモードの概要を例示したものであり、
図14は、各モードにおいて実行されるプロセスを例示したものであり、
図15は、これら3つのモードによる本システムの運用を例示したものである。
【0062】
(1)シミュレーションモードでは、患者本人ではなく介護者等が患者用端末1を装着し、患者の代わりに外出スケジュールS1に忠実に従って外出行動を行う。このモードでは、基本的にバイタルセンサやモーションセンサは使用せず、ガイドプロセスを実行しながら、映像入力手段12、音声入力手段14からの映像・音声データを記録してログデータLとして保存する。介護者等が外出行動を終了して帰宅した後、介護者用端末2の管理アプリケーション20により、サーバ3から大画面テレビ等のAVモニタでログデータLの映像・音声を再生し、患者に視聴してもらう。これにより患者は、外出スケジュールS1による外出行動を仮想体験できる。その際に、介護者等は、患者の反応を見ながら適宜ログデータLの再生を一時停止して本人の意見や感想を聴取し、外出スケジュールS1、ナビゲーションの内容、ガイド音声に問題点や過不足がある場合には、管理アプリケーション20を使用して都度それらの修正、変更、追加、削除を行うことができ、本システムの精度を向上し効果を高めることが可能となる。
【0063】
(2)オリエンテーションモードでは、患者本人に患者用端末1を装着し、介護者等が同行して外出スケジュールS1に従った外出行動を行う。このモードでは、すべてのセンサを使用し、介護者等は大きな問題の発生や危険性がない限り、できるだけ患者に干渉せず、介護者用端末2に表示させた患者のバイタルデータを監視し、ナビゲーションの有効性や患者の反応を観察する。実際に患者の行動が外出スケジュールS1から遅延・逸脱を生じた場合は、遅延・逸脱対応プロセス300が実行されたにもかかわらず患者が提案された外出スケジュールS2と帰宅用スケジュールSHのいずれも選択しようとしない場合を除き介護者等は介入せず、フォロープロセス400の効果を検証する。あるいは、同行している介護者等が患者に切迫した危険がないと判断した場合は、患者が前記選択をしないまま所定の時間が経過して、最終的にパニック対応プロセス600が実行されるのを待ち、その効果を検証してもよい。
【0064】
また、認知症の症状が発症した場合には、同行している介護者等は、その引き金となった事象を確認し、サポートプロセス500、パニック対応プロセス600の効果を検証する。外出行動を終了して帰宅した後、介護者等は(1)シミュレーションモードと同様に管理アプリケーション20あるいは外部AVモニタでログデータLを再生してレビューを行い、同行時の検証結果を踏まえて、外出スケジュールS1、ナビゲーションやサポートの内容、あるいはガイド音声、サポート音声の問題点や過不足を修正、変更、追加、削除を行うことができるので、さらに本システムの精度を向上し効果を高めることが可能となる。
【0065】
1つの外出スケジュールS1について、(1)シミュレーションモードと(2)オリエンテーションモードの両方あるいはいずれかを実行してログデータLによるレビューを行えば、「本番」の(3)外出支援モードでの単独外出における患者の安全性と介護者等の安心感を大幅に向上させることができる。そして、(3)外出支援モードでの単独外出のログデータLについても同様にレビューを行うことで、時間帯や気象などの外部環境の違いにより生じ得る問題点に対しても対応が可能となる。また、認知症患者は経験済みの外出行動について忘れたり記憶が曖昧になったりすることが当然あり得るが、そのような場合も、患者が過去のログデータLを視聴して「復習」することで経験を思い出し、あるいは定着させることができるので、患者自身の安心感と自信を深めることができる。
【0066】
以上述べたように、ログデータLを活用した3つのモードでの本システムのレビューによる検証、スケジュールやシステムのアップデート、「本番」の単独外出を繰り返すことにより、システム自体の精度や安全性を向上させることができる。また、患者自身も、本システムの支援により単独で外出できる目的地や機会が増え、何よりも「一人で行動できた」という成功体験を得て外出行動に積極的になることで、認知症の進行抑制への効果が期待できる。
【0067】
以上、本発明に係る認知症患者外出支援システムの具体的な構成について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において改良又は変更が可能であり、それらは本発明の技術的範囲に属するものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る認知症患者外出支援システムは、認知症患者の単独での外出行動を支援するための個人用のシステムとして利用可能であるが、多数の認知症患者の外出行動をログデータとして蓄積・解析することにより、道路環境や公共交通機関・公共施設等における認知症患者の行動への障害となる要因や、症状の発症の引き金となる事象についての研究資料となり得る。これにより、認知症のメカニズムや対策の研究、あるいは認知症に対する社会的インフラの改善に資することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】認知症高齢者の日常生活自立度判定基準(抜粋)
【
図7】外出スケジュール設定プロセスのフローチャート
【
図8】ガイドプロセス、遅延逸脱対応プロセスのフローチャート
【
図10】サポートプロセス、パニック対応プロセスのフローチャート
【
図11】フォロープロセスのフローチャート(外出スケジュール選択時)
【
図12】フォロープロセスのフローチャート(帰宅スケジュール選択時)
【符号の説明】
【0070】
C 対策データベース
E 救急・警察端末
L ログデータ
M 医療機関端末
N インターネット
R 基準状態データ
S 外出スケジュール
W 各種ウェブサービス
1 患者用端末
10 位置検出手段
11 状態検知手段
12 映像入力手段
13 音声認識手段
14 音声入出力手段
15 制御通信部(患者用端末)
2 介護者用端末
20 管理アプリケーション
21 制御通信部(介護者用端末)
3 サーバ
30 記憶部
31 ナビゲーション部
32 サポート部
33 制御通信部(サーバ)