(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】放射性廃棄物の地下運送システム
(51)【国際特許分類】
G21F 9/36 20060101AFI20240801BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20240801BHJP
B61B 13/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
G21F9/36 531C
G21F9/28 A
G21F9/36 531D
G21F9/36 541D
B61B13/00 A
(21)【出願番号】P 2020170624
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】大井戸 康介
(72)【発明者】
【氏名】三井 崇
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-107491(JP,A)
【文献】特開2013-091366(JP,A)
【文献】特表2018-518688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/36
G21F 9/28
B60R 1/00
B61B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃棄物を車両に搭載して地上から地下の埋設場所まで坑道を使用して運送する放射性廃棄物の地下運送システムであって、
前記坑道は、
傾斜した路面により構成される複数の直線区間と、平坦な路面により構成される複数のカーブ区間と、前記直線区間及び前記カーブ区間の路面に配置され前記車両を案内するラインと、
少なくとも前記直線区間の前記カーブ区間を見通せる場所に配置された坑道側中継機と、を備え、
前記車両は、前記ラインを読み取って走行するライントレース用センサと、前記坑道側中継機と通信しながら前記車両を無人走行させる車両側中継機と、走行用のバッテリーと、前記車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して前記バッテリーに回収する回生ブレーキと、を備え、
さらに、前記車両は、前記車両のID情報を記憶したタグを備え、前記坑道は、前記カーブ区間の上流側及び下流側に配置されたタグリーダを備え、対向車が前記カーブ区間を走行中は前記車両の衝突を避けるため対向車が通り過ぎるまで前記カーブ区間の手前で前記車両を停止させるように構成した、
ことを特徴とする放射性廃棄物の地下運送システム。
【請求項2】
前記車両は、外面に配置されたバンパースイッチを備えている、請求項1に記載の放射性廃棄物の地下運送システム。
【請求項3】
前記車両は、障害物を検知可能なエリアセンサを備えている、請求項1に記載の放射性廃棄物の地下運送システム。
【請求項4】
前記車両は、進行方向前方の映像を撮像可能な車載カメラを備えている、請求項1に記載の放射性廃棄物の地下運送システム。
【請求項5】
前記車両は、有人運転可能な運転席を備えている、請求項1に記載の放射性廃棄物の地下運送システム。
【請求項6】
前記バッテリーは、複数の直列ユニットが並列に接続された構成を有している、請求項1に記載の放射性廃棄物の地下運送システム。
【請求項7】
前記坑道は、
前記直線区間の延長線上に配置され、前記車両の退避場所を形成する枝坑を備えている、請求項1に記載の放射性廃棄物の地下運送システム。
【請求項8】
前記坑道は、走行している前記車両を撮像可能な監視カメラを備えている、請求項1に記載の放射性廃棄物の地下運送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物の地下運送システムに関し、特に、高レベル放射性廃棄物等の地層処分に適した放射性廃棄物の地下運送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所から発生する使用済み燃料の再処理の際に発生する高レベル放射性廃棄物やTRU廃棄物等は、地下数百mの深度に埋設(地層処分)することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、地上施設と坑底施設とを結ぶアクセス坑道、放射性廃棄物を埋設するための多数の処分坑道、処分坑道を取り囲む主要坑道、坑底施設と主要坑道を結ぶ連絡坑道および放射性廃棄物の積み替えを行う積替エリア等を備えた処理施設が開示されている。
【0004】
また、特許文献1に記載された処理施設では、地上施設において、遮蔽コンテナ内に放射性廃棄物が収納され、遮蔽コンテナ内に収納された状態の放射性廃棄物がアクセス搬送車に積載され、放射性廃棄物を積載したアクセス搬送車が、アクセス坑道内を走行して地下に下降し、積替エリアに至ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1に記載されたアクセス搬送車は有人運転であることを前提としているが、地上施設から坑底施設まで片道数時間の長時間運転を要し、坑道の勾配も大きいことから、作業員(運転者)の負担が大きいという問題がある。また、放射性廃棄物を扱っていることから、作業員(運転者)が被爆する可能性もゼロではない。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、作業員の負担を軽減し、安全性及び信頼性を向上させることができる、放射性廃棄物の地下運送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、放射性廃棄物を車両に搭載して地上から地下の埋設場所まで坑道を使用して運送する放射性廃棄物の地下運送システムであって、前記坑道は、傾斜した路面により構成される複数の直線区間と、平坦な路面により構成される複数のカーブ区間と、前記直線区間及び前記カーブ区間の路面に配置され前記車両を案内するラインと、少なくとも前記直線区間の前記カーブ区間を見通せる場所に配置された坑道側中継機と、を備え、前記車両は、前記ラインを読み取って走行するライントレース用センサと、前記坑道側中継機と通信しながら前記車両を無人走行させる車両側中継機と、走行用のバッテリーと、前記車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して前記バッテリーに回収する回生ブレーキと、を備え、さらに、前記車両は、前記車両のID情報を記憶したタグを備え、前記坑道は、前記カーブ区間の上流側及び下流側に配置されたタグリーダを備え、対向車が前記カーブ区間を走行中は前記車両の衝突を避けるため対向車が通り過ぎるまで前記カーブ区間の手前で前記車両を停止させるように構成した、ことを特徴とする放射性廃棄物の地下運送システムが提供される。
【0010】
前記車両は、外面に配置されたバンパースイッチを備えていてもよい。
【0011】
前記車両は、障害物を検知可能なエリアセンサを備えていてもよい。
【0012】
前記車両は、進行方向前方の映像を撮像可能な車載カメラを備えていてもよい。
【0013】
前記車両は、有人運転可能な運転席を備えていてもよい。
【0014】
前記バッテリーは、複数の直列ユニットが並列に接続された構成を有していてもよい。
【0015】
前記坑道は、前記直線区間の延長線上に配置され、前記車両の退避場所を形成する枝坑を備えていてもよい。
【0016】
前記坑道は、走行している前記車両を撮像可能な監視カメラを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明に係る放射性廃棄物の地下運送システムによれば、放射性廃棄物を運送する車両を坑道内で無人走行させるようにしたことから、作業員の負担を軽減し、安全性及び信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放射性廃棄物の地下運送システムを構成する車両を示す斜視図であり、(a)は荷役非搭載状態、(b)は荷役搭載状態、を示している。
【
図2】本発明の一実施形態に係る放射性廃棄物の地下運送システムを構成する坑道を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について
図1(a)~
図3を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係る放射性廃棄物の地下運送システムを構成する車両を示す斜視図であり、(a)は荷役非搭載状態、(b)は荷役搭載状態、を示している。
図2は、本発明の一実施形態に係る放射性廃棄物の地下運送システムを構成する坑道を示す部分平面図である。
図3は、坑道の垂直断面図である。
【0020】
本発明の一実施形態に係る放射性廃棄物の地下運送システムは、放射性廃棄物を車両1に搭載して地上から地下の埋設場所まで坑道2を使用して運送するものである。
図1(a)に示したように、車両1は、例えば、前方に配置された運転席11と、後方に配置された荷台12と、を備えている。
【0021】
運転席11は、非常時又は緊急時に作業員が車両1を有人運転することができるように配置されたものであり、シート、ハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル等の有人運転に必要な機器が配置されている。
【0022】
また、運転席11には、車両1を無人走行させる車両側中継機13が配置されている。車両側中継機13は、坑道2に配置された坑道側中継機21と通信可能に構成されている。車両1は、坑道側中継機21及び車両側中継機13を介して、地上の遠隔監視室(図示せず)から走行制御及び遠隔運転ができるように構成されている。なお、車両1の暴走を防ぐため、坑道側中継機21及び車両側中継機13の中継が切れた場合には、自動的にブレーキがかかるように制御される。
【0023】
また、運転席11には、進行方向前方の映像を撮像可能な車載カメラ14が配置されていてもよい。車載カメラ14の映像は、遠隔監視室に転送され、安全確認しながら遠隔運転可能に構成されている。
【0024】
荷台12は、例えば、
図1(a)及び
図1(b)に示したように、車両1に動力である電力を供給する走行用のバッテリー3を搭載可能な第一荷台12aと、放射性廃棄物を収容した遮蔽容器4を搭載可能な第二荷台12bと、を備えている。
【0025】
バッテリー3は、例えば、複数の直列ユニット3aが並列に接続された構成を有している。ここでは、六個の直列ユニット3aを三列二段に配置しているが、かかる個数及び配置に限定されるものではない。バッテリー3は、例えば、外部電源から充電可能なリチウムイオンバッテリーであるが、これに限定されるものではない。
【0026】
このように、バッテリー3を並列に構成することにより、異常を生じた直列ユニット3aの接点を開放し、切り離すことができる。したがって、バッテリー切れや断線があっても、残りの直列ユニット3aで緊急避難所まで走行することができる。また、走行中にバッテリー3の容量が低下した場合は、アラームを出し自動運転を停止し、有人運転に切り替えるようにしてもよい。
【0027】
遮蔽容器4は、放射性廃棄物を密封し、放射能漏れを抑制することができるように構成されている。また、遮蔽容器4は、例えば、
図1(b)に示したように、固定治具41を介して第二荷台12bに固定される。なお、遮蔽容器4及び固定治具41の構成は図示した構成に限定されるものではない。
【0028】
また、車両1は、坑道2の路面に描かれたライン22を読み取って走行するライントレース用センサ15と、車両1の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリー3に回収する回生ブレーキ(図示せず)と、車両1のID情報を記憶したタグ16と、外面に配置されたバンパースイッチ17と、障害物を検知可能なエリアセンサ18と、を備えていてもよい。
【0029】
ライントレース用センサ15は、路面上のライン22に沿って車両1を自動追尾させるためのセンサである。また、ライントレース用センサ15は、色や線の形状等を識別可能に構成されており、斜面やカーブ等の坑道2の状況に応じた走行制御を行うことができる。ライントレース用センサ15は、例えば、運転席11の下面に配置される。
【0030】
回生ブレーキは、車両1の車輪を回転させるモーターにより構成され、減速中にモーターを発電機として使用することにより運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する。車両1の走行時におけるブレーキは基本的に回生ブレーキによって制御される。なお、車両1の車輪には、緊急時用に摩擦ブレーキが搭載されていてもよい。
【0031】
タグ16は、例えば、いわゆるRFID(Radio Frequency Identifier)タグである。タグ16は、例えば、運転席11の下面に配置される。図示したように、ライントレース用センサ15に併設するようにしてもよい。坑道2に配置されたタグリーダ23により、タグ16を読み取ることにより、車両1の現在位置を把握することができる。
【0032】
バンパースイッチ17は、車両1の衝突や接触を検知するスイッチである。バンパースイッチ17は、例えば、感圧センサをクッション性に優れた緩衝材で覆ったものである。バンパースイッチ17は、例えば、運転席11の前面、車両1の側面や後面等に配置される。バンパースイッチ17が接触を感知した場合には、自動的にブレーキがかかるように構成されている。
【0033】
エリアセンサ18は、例えば、運転席11の前面に配置される。エリアセンサ18は、車両進行方向の一定範囲内にある障害物を検知する光電センサである。エリアセンサ18が障害物を検知した場合には、自動的にブレーキがかかるように構成されている。なお、障害物が人間であることも考慮し、障害物まで距離が離れているときはアラームを鳴らし、障害物が一定の範囲内に到達した際にブレーキがかかるように構成してもよい。
【0034】
坑道2は、例えば、
図2に示したように、傾斜した路面により構成される直線区間2aと、平坦な路面により構成されるカーブ区間2bと、を備えている。
図2では、説明の便宜上、直線区間2aを灰色に塗り潰してある。また、坑道2を走行している車両1を一点鎖線で図示してある。また、坑道2は、例えば、地上から地下に向かう往路2c及び地下から地上に向かう復路2dの二車線により構成される。
【0035】
また、坑道2は、例えば、所定の間隔で配置された坑道側中継機21と、路面に配置され車両1を案内するライン22と、カーブ区間の上流側及び下流側に配置されたタグリーダ23と、走行している車両1を撮像可能な監視カメラ24と、車両1の退避場所を形成する枝坑25と、を備えていてもよい。
【0036】
坑道側中継機21は、往路2c及び復路2dのそれぞれに所定の間隔で配置される。坑道側中継機21は、例えば、直線区間2aのカーブ区間2bを見通せる場所に配置される。坑道側中継機21は、遠隔監視室と通信可能に構成されている。遠隔監視室からの走行制御指令は、坑道側中継機21及び車両側中継機13を介して車両1に伝達され、車両1が遠隔操作される。
【0037】
ライン22は、往路2c及び復路2dのそれぞれの中心線として路面に描かれている。例えば、直線区間2aのライン22とカーブ区間2bのライン22とは、異なる色に配色されていてもよい。車両1は、ライントレース用センサ15でライン22を読み取りながらライン22に沿って走行する。
【0038】
車両1は、ライントレース用センサ15によりライン22の色を識別することにより速度を自動的に変更するようにしてもよい。なお、ライン22は、色ではなく線の形状(点線の間隔、線の種類等)を異ならせるようにしてもよいし、色と線の形状の両方を異ならせるようにしてもよい。
【0039】
タグリーダ23は、例えば、RFIDタグアンテナである。タグリーダ23は、例えば、カーブ区間2bの上流側及び下流側に配置される。対向車がカーブ区間2bを走行中は、車両1の衝突を避けるため対向車が通り過ぎるまでカーブ区間2bの手前で車両1を停止させることが好ましい。そこで、タグリーダ23が車両1のタグ16を読み取った際には車両1を一時停止させ、カーブ区間2bに対向車がいないことを確認してから車両1を再始動させる。
【0040】
例えば、カーブ区間2bの上流側に配置されたタグリーダ23が車両1を認識し、下流側に配置されたタグリーダ23が車両1を認識していない場合に、カーブ区間2bに車両1(対向車)が存在していると判断することができる。
【0041】
また、カーブ区間2bの上流側に配置されたタグリーダ23が車両1を認識した後、下流側に配置されたタグリーダ23が車両1を認識した場合に、車両1(対向車)がカーブ区間2bを通り過ぎたと判断することができる。
【0042】
監視カメラ24は、例えば、坑道2の往路2c側の側面及び復路2d側の側面に所定の間隔で配置される。坑道2内に複数の監視カメラ24を配置することにより、遠隔監視室からあらゆる場所の車両1を確認することができる。
【0043】
枝坑25は、車両1や坑道2に異常が発生した際に車両1を緊急退避させる退避場所である。異常を生じた車両1を枝坑25へ避難させることにより、他の車両1の運行に影響を与えることなく救援を待つことができる。
【0044】
枝坑25は、例えば、
図2に示したように、直線区間2aの延長線上に配置される。図では、説明の便宜上、枝坑25を点線で図示してある。なお、直線区間2aが長い場合には、枝坑25を直線区間2aの途中に形成するようにしてもよい。
【0045】
上述した本実施形態に係る放射性廃棄物の地下運送システムによれば、放射性廃棄物を運送する車両1を坑道2内で無人走行させるようにしたことから、作業員の負担を軽減し、安全性及び信頼性を向上させることができる。
【0046】
本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 車両
2 坑道
2a 直線区間
2b カーブ区間
2c 往路
2d 復路
3 バッテリー
3a 直列ユニット
4 遮蔽容器
11 運転席
12 荷台
12a 第一荷台
12b 第二荷台
13 車両側中継機
14 車載カメラ
15 ライントレース用センサ
16 タグ
17 バンパースイッチ
18 エリアセンサ
21 坑道側中継機
22 ライン
23 タグリーダ
24 監視カメラ
25 枝坑
41 固定治具