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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-31
(45)【発行日】2024-08-08
(54)【発明の名称】還元処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 5/00 20060101AFI20240801BHJP
   C23F 4/00 20060101ALI20240801BHJP
   B08B 7/00 20060101ALI20240801BHJP
【FI】
C23G5/00
C23F4/00 A
B08B7/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020094569
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021188092
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 章弘
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-251415(JP,A)
【文献】特開2013-135033(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124321(WO,A1)
【文献】特開2012-023245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0154743(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0297534(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00-5/06
C23F 1/00-4/04
B08B 1/00-1/54
B08B 5/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを含む水素ラジカル源含有物に波長が205nm以下の紫外光を照射して水素ラジカルを生成し、生成した前記水素ラジカルを被処理物の表面に接触させて、前記表面を還元することを特徴とする、還元処理方法。
【請求項2】
前記水素ラジカル源含有物はROH(Rは炭素数3以上かつ10以下のアルキル基を表す)を含むことを特徴とする、請求項に記載の還元処理方法。
【請求項3】
前記被処理物の表面に前記水素ラジカル源含有物を接触させ、
前記被処理物の表面に接触している前記水素ラジカル源含有物に対して前記紫外光を照射することを特徴とする、請求項1又は2に記載の還元処理方法。
【請求項4】
前記水素ラジカル源含有物に前記紫外光を照射して水素ラジカルを生成し、
生成した前記水素ラジカルを前記被処理物の表面に吹き付けることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の還元処理方法。
【請求項5】
前記被処理物は、表面に金属又は半導体の酸化膜があることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の還元処理方法。
【請求項6】
前記被処理物は、表面に親水基を有する樹脂があることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の還元処理方法。
【請求項7】
前記紫外光はキセノンエキシマランプによって生成されたものであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の還元処理方法。
【請求項8】
アルコールを含む材料を被処理物の表面に接触させて、
前記被処理物の表面に接触させた前記材料に、波長が205nm以下の紫外光を照射して、前記被処理物の表面を還元することを特徴とする、還元処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、還元処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体物質の表面の物質の還元反応は、様々な分野で利用されている。例えば、電極や配線等の導電材料として広く使用されている銅は、酸素プラズマ、紫外光による有機物洗浄、酸素や水を含む雰囲気下での時間経過等により、導通不良の原因となる酸化膜が表面に形成される。そして、その酸化膜を取り除くために還元反応が使用されている。また、シリコンや窒化ガリウム等の半導体の表面に設けられた酸化膜であるゲート絶縁膜など、所望の目的を有する酸化膜にその機能を発揮させるには、当該酸化膜の膜厚、膜質及び形状の制御が重要となる。そして、斯かる制御にあたっては還元反応が使用される。さらに、樹脂等の固体物質の表面を疎水化するために、表面に存在するヒドロキシ基やカルボキシ基等の親水基から酸素原子を取り除く還元反応が使用される。
【0003】
ところで、固体物質の表面を還元する方法としては、一酸化炭素を用いる方法、ギ酸を用いる方法、水素を用いる方法等が挙げられる。このうち、水素を用いる方法として、以下の文献が知られている。
【0004】
特許文献1には、Arと水素を混合したガスをプラズマ化して水素を活性化し、銅酸化膜を還元処理することが記載されている。特許文献2には、真空環境下で水素ガスからマイクロ波表面波水素プラズマを生成し、被処理物の錆(酸化物)を還元除去することが記載されている。特許文献3には、水素含有ガスをプラズマ化して水素ラジカルを生成し、加熱したウエハにおける金属層上の金属化合物膜を還元除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/063474号
【文献】特開2006-307255号公報
【文献】特開2009-010043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被処理物の表面を還元するために水素ラジカルを使用することは公知であるが、特許文献1~3に記載の水素ラジカルの生成方法には、下記の問題を含んでいる。
【0007】
特許文献1,3に記載の処理方法では、水素を含むガスを高周波電力でプラズマ化するため、処理工程や装置構成が複雑化する。また、水素を含むガスは、安全性やプラズマの点灯性から、通常、Ar等の不活性ガスとの混合ガスを使用する。そうすると、水素ガスの成分比率が低いため、還元効率の向上には限界がある。
【0008】
特許文献2に記載の処理方法では、真空環境下での処理に限定され、マイクロ波を使用するため、処理環境を実現するための処理工程や装置構成が複雑化する。また、多量の水素ラジカルを効率よく生成することが困難である。
【0009】
上記の問題意識から、比較的簡単な処理工程で、還元処理に必要な量の水素ラジカルを効率よく生成し、被処理物の表面を還元する還元処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、高周波電力やマイクロ波によるプラズマを使用せずに、被処理物の表面を還元できる量の水素ラジカルを効率よく生成する方法を創出した。詳細は後述するが、その方法とは、水素ラジカル源含有物に波長が255nm以下の紫外光を照射して水素ラジカルを生成する方法である。
【0011】
本発明の還元処理方法は、水素ラジカル源含有物に波長が255nm以下の紫外光を照射して水素ラジカルを生成し、生成した前記水素ラジカルを被処理物の表面に接触させて、前記表面を還元する。
【0012】
波長が255nm以下の紫外光を照射して水素ラジカルを生成する方法は、高周波電力やマイクロ波によるプラズマを使用する方法よりも、処理工程や、処理のための装置構成を簡単にできる。そして、波長が255nm以下の紫外光を照射して水素ラジカルを生成する方法は、還元処理に必要な量の水素ラジカルを生成できる。
【0013】
本明細書でいう、「還元する」及び「還元処理」という表現は、「酸化する」及び「酸化処理」と対になる表現である。言い換えると、「還元」とは、対象物質から酸素を奪う反応、あるいは水素を与える反応、あるいは電子を与える反応をいう。
【0014】
水素ラジカル源含有物は、水素ガス、炭化水素、HO、アルコール、フェノール類、NH、アミン、HS及びチオールからなる群に属する一以上の物質を含んでも構わない。これらの物質は、多くの水素ラジカルを生成できる。
【0015】
前記水素ラジカル源含有物は、ROH(Rは水素原子又はアルキル基を表す)を含んでも構わない。
【0016】
前記水素ラジカル源含有物は、ROH(Rは炭素数3以上かつ10以下のアルキル基を表す)を含んでも構わない。斯かる材料に対する紫外光は、波長が205nm以下の光であっても構わない。
【0017】
前記還元処理方法は、前記被処理物の表面に前記水素ラジカル源含有物を接触させ、
前記被処理物の表面に接触している前記水素ラジカル源含有物に対して前記紫外光を照射しても構わない。大量の水素ラジカルを同時に生成して、多くの面積を同時に還元処理できるため、処理効率が高い。
【0018】
前記還元処理方法は、前記水素ラジカル源含有物に前記紫外光を照射して水素ラジカルを生成し、生成した前記水素ラジカルを前記被処理物の表面に吹き付けても構わない。還元処理が必要な領域に選択的に水素ラジカルを供給できる。
【0019】
前記被処理物は、表面に金属又は半導体の酸化膜があるか、表面に親水基を有する樹脂があっても構わない。
【0020】
前記紫外光はキセノンエキシマランプによって生成されたものであっても構わない。
【0021】
還元処理方法は、水素原子を含む材料を被処理物の表面に接触させて、前記被処理物の表面に接触させた前記材料に波長が255nm以下の紫外光を照射して、前記被処理物の表面を還元する。
【発明の効果】
【0022】
これにより、単純な処理工程で必要量の水素ラジカルを効率よく生成し、被処理物の表面を還元する還元処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】水に対する光の吸収スペクトルを表す図である。
図2】メタノールに対する光の吸収スペクトルを表す図である。
図3】エタノールに対する光の吸収スペクトルを表す図である。
図4】アンモニアに対する光の吸収スペクトルを表す図である。
図5】硫化水素に対する光の吸収スペクトルを表す図である。
図6A】還元処理方法の第一実施形態を説明する図である。
図6B】還元処理方法の第一実施形態の変形例を説明する図である。
図7】還元処理方法の第二実施形態を説明する図である。
図8】還元処理方法の第三実施形態を説明する図である。
図9A】XPSで酸化膜付き銅板を分析した結果を示すグラフである。
図9B】XPSで還元処理を行った後の銅板を分析した結果を示すグラフである。
図10】XPSで還元処理を行った後の銅板を分析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[還元処理の概要]
はじめに、還元処理の概要を説明する。還元処理に使用する光として、波長が255nm以下の紫外光が使用される。
【0025】
本明細書において使用される、「波長が255nm以下の紫外光」とは、255nm以下に発光帯域を有する光である。斯かる光には、例えば、ブロード波長光における最大強度を示すピーク発光波長が255nm以下となる発光スペクトルを示す光や、複数の極大強度(複数のピーク)を示す発光波長を有する場合、そのうちの何れかのピークが255nm以下の波長範囲に含まれるような発光スペクトルを示す光を含む。また、発光スペクトル内における全積分強度に対して、255nm以下の光が、少なくとも30%以上の積分強度を示す光も、「波長が255nm以下の紫外光」に含まれる。なお、波長の上限が、255(nm)以外の数値である場合についても、同様に定義される。
【0026】
詳細は後述するが、波長が255nm以下の紫外光(以下、単に「紫外光」とだけ記載するときは、波長が255nm以下の光をいう。)の中でも、より好適な波長が、水素ラジカル源に応じて存在する。また、使用する光源のタイプについて、例えば、172nmの波長の光を得るためにはキセノンエキシマランプを使用するなど、所望の光の波長に応じて、使用する光源を選択できる。
【0027】
還元処理方法に使用される水素ラジカル源の詳細は後述するが、ここでは、水素ラジカル源に使用される代表的な物質である、水素又は炭化水素(RH)、水又は1価アルコール(ROH)、硫化水素又はチオール(RSH)、アンモニア、第一級アミン又は第二級アミン(RNH)について(R、R又はRは、いずれも、水素原子又はアルキル基を表す)、これら物質に紫外光(UV)を照射して水素ラジカル(H・)を生成する反応式を以下に示す。
RH + UV → R・ + H・
ROH + UV → R-O・+H・
RSH + UV → R-S・+H・
NH + UV → RN・+H・
【0028】
水素ラジカル源に紫外光(UV)を照射して水素ラジカル(H・)を生成する。この生成反応は圧力に関係なく進行するので、通常、反応場を減圧環境にする必要がなく、大気圧環境下で還元処理できる。そして、詳細は後述するが、水素ラジカル源は、気体、液体及び固体のいずれの状態でも構わない。また、水素ラジカル源の濃度を高くすると、水素ラジカルの生成効率が向上しやすい。
【0029】
生成された水素ラジカル(H・)が被処理物の表面に接触すると、被処理物の表面を還元する。還元処理は、上記したように、導電材料表面に形成された酸化膜の除去や、ゲート酸化膜の膜厚、膜質及び形状の制御、及び固体物質の表面の疎水化など様々な用途に使用できる。
【0030】
[水素ラジカル源]
水素ラジカル源について詳しく説明する。水素ラジカル源は、ラジカル化される前の水素原子を含む物質である。特に、水素ガス(H)、炭化水素、HO、アルコール、フェノール類、NH、アミン、HS及びチオールからなる群に属する一以上の物質を含む物質が、水素ラジカル源として好適である。上記の物質は、多くの水素ラジカルを生成できる。上記において、炭化水素として、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、・・・で表されるアルカン(C2n+2)、および、エチレン(C)、プロピレン(C)、・・・で表されるアルケン(C2n)、および、アセチレン(C)、メチルアセチレン(CH4)、・・・で表されるアルキン(C2n-2)などが使用できる。上記において、アルコールとして、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、・・・で示される1価アルコールのみならず、エチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールを使用できる。上記において、フェノール類は、芳香族にOH基が結合した物質の総称である。上記において、アミンとして、メチルアミン(CHNH)、エチルアミン(CNH)、・・・などの第一級アミンの他に、第二級アミン(例えば、ジメチルアミン((CHNH))や第三級アミン(例えば、トリメチルアミン)を使用しても構わない。上記において、チオールとして、メタンチオール(CHSH)、エタンチオール(CSH)、・・・で示されるアルカンチオールの他に、チオフェノール(CSH)などの、芳香族にSH基が結合した物質を使用しても構わない。
【0031】
上記した水素ラジカル源のなかでも、安全性や取扱いの簡便性、さらに入手の容易性や経済性などの諸事情を考慮すれば、水又は1価のアルコール(ROHで、Rは水素又はアルキル基である)を好適に使用できる。
【0032】
水又は1価のアルコールの中でも、水、又は吸湿性を有するメタノールやエタノールの場合、水素ラジカル源に含まれる水分にUVが照射されることで、水素ラジカルと同時に酸化性の化学種であるOHラジカルを生成する。OHラジカルは還元反応を妨げるおそれがある。そうすると、吸湿性の低い、炭素数が3以上の1価アルコールは、UV照射に伴って生じるOHラジカルの生成量が少なく、とりわけ還元処理に特に適している。取扱いの簡便性などを考慮すれば、炭素数は10以下の1価アルコールがより好ましい。
【0033】
図1図5の各図は、主要な水素ラジカル源に対する紫外光の吸収スペクトルを表している。図1図5において、横軸は紫外光の波長[nm]を表し、縦軸は分子一個当たりの光の吸収断面積(absorption cross section)[cm・molecule-1]を対数目盛で表す。図1図5の各図に基づき、水素ラジカル源ごとの還元処理に好適な紫外光の波長について説明する。
【0034】
図1は水(HO)に対する光の吸収スペクトルを表す。図1に基づいて、水素ラジカル源に水を使用する場合には190nm以下の光を使用すると効果的である。図2はメタノール(CHOH)に対する吸収スペクトルを表し、図3はエタノール(COH)に対する吸収スペクトルを表す。図2及び図3に基づいて、水素ラジカル源に各種アルコールを使用する場合には205nm以下の光を使用すると効果的である。図4はアンモニア(NH)に対する吸収スペクトルを表す。図4に基づいて、水素ラジカル源にアンモニアを使用する場合には225nm以下の光を使用すると効果的である。図5は硫化水素(HS)に対する吸収スペクトルを表す。図5に基づいて、水素ラジカル源に硫化水素を使用する場合には255nm以下の光を使用すると効果的である。
【0035】
上記において、何れの水素ラジカル源の吸収スペクトルにおいても、分子一個当たりの光の吸収断面積が、概ね1×10-20(cm・molecule-1)付近以上となる波長に基づいて設定されている。これは、本発明者らの鋭意研究の結果、水素ラジカル源の種類を問わず、分子一個当たりの光の吸収断面積が1×10-20(cm・molecule-1)付近以上である波長の紫外光が、概ね、水素ラジカル源から還元処理のための水素ラジカルを効率的に生成できる吸収能を有することが、判明したことに基づいている。より好ましくは、分子一個当たりの光の吸収断面積が1×10-19(cm・molecule-1)以上となるように波長を設定するとよい。ただし、水素ラジカルを効率的に生成するのに好適な波長範囲は、分子一個当たりの光の吸収断面積のみならず、水素ラジカル源含有物における水素ラジカル源の濃度や、光源と被処理物の距離によっても変化する。
【0036】
[被処理物]
被処理物として、例えば、表面に酸化膜を有する金属や半導体が挙げられる。還元反応によって、表面の酸化膜を除去する。また、被処理物は、表面にヒドロキシ基やカルボキシ基等の親水基を有する樹脂等の材料でもよい。還元反応によって、親水基中の酸素原子を取り除いて材料の表面を疎水化する。なお、被処理物の形状は、板状の物体に限られず、厚みのある形状又は立体構造を有する形状から構成されても構わない。
【0037】
<第一実施形態>
還元処理方法の一実施形態につき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0038】
図6Aを参照しながら、還元処理方法の第一実施形態について説明する。紫外光を出射する光源1(ハッチングした領域)を内部に有する処理チャンバ2のステージ3上に、酸化物を表面に有する被処理物4を配置する。そして、処理チャンバ2に接続された入側配管8から水素ラジカル源含有ガスG1(例えば、水素ラジカル源であるガスに、窒素ガスや希ガス等の不活性ガスを加えたもの)を供給し、出側配管9から処理チャンバ2内の雰囲気ガスG2を排出して、処理チャンバ2内をガスG1で置換(パージ)する。
【0039】
処理チャンバ2内をガスG1でパージした後に、紫外光L1(図中の破線矢印)を出射して、処理チャンバ2内のガスG1に含まれる水素ラジカル源を励起して水素ラジカル(H・)を生成する。生成された水素ラジカル(H・)が被処理物4の表面の酸化物に接触し還元反応が行われる。
【0040】
本実施形態では、比較的広範囲にわたる還元処理を同時に行うことができるため、大きな面積に亘る被処理物4の表面の還元を短時間で処理できる。また、被処理物4の近傍にて水素ラジカルを生成するため、生成した水素ラジカルの利用効率が高い。
【0041】
被処理物4の配置について、紫外光L1はガスG1に吸収されるため、紫外光L1が被処理物近傍において水素ラジカルを生成するように、被処理物4が光源1から離れすぎないようにする。また、被処理物4が光源1に接近しすぎると光を吸収する水素ラジカル源の量が減少するため、被処理物4が光源1に接近しすぎないようにする。つまり、紫外光L1により水素ラジカルが生成し、生成した水素ラジカルが被処理物4の表面に接触できる程度に、被処理物4を光源1から離間させる。
【0042】
還元処理を行う間、入側配管8と処理チャンバ2及び出側配管9と処理チャンバ2を接続した状態で、ガスG1を処理チャンバ2に供給し続けながら紫外光L1を出射しても構わないし、入側配管8と処理チャンバ2の間、及び出側配管9と処理チャンバ2の間を、それぞれバルブ等で遮断し、ガスG1の供給を停止した状態で紫外光L1を出射しても構わない。
【0043】
図6Bは、図6Aの変形例を示す。2つの被処理物(4a,4b)が光源1を挟んで配置されている。図6Bでは、2つの被処理物(4a,4b)が、光源1から互いに等距離になるように配置して還元処理速度の統一を図っている。なお、2つの被処理物(4a,4b)を光源1から等距離に配置しなくても構わない。
【0044】
<第二実施形態>
図7を参照しながら、還元処理方法の第二実施形態について説明する。以下に説明する以外の事項は、第一実施形態と同様に実施できる。図7では、水素ラジカル源を含有する液5(以下、「水素ラジカル源液5」ということがある)が被処理物4を覆うように供給されている。例えば、常温常圧下で水素ラジカル源含有物が液体である場合には、被処理物4に当該液体(水素ラジカル源液5)を注いで被処理物4の表面を濡らすか、被処理物4上に水素ラジカル源液5からなる液膜を形成する。水素ラジカル源液5は、被処理物4と光源1との間を満たすように供給されている。処理チャンバ2の内において、光源1の点灯前に、不図示の供給ノズルから被処理物4の上に水素ラジカル源液5を供給しても構わない。または、処理チャンバ2の外において、水素ラジカル源液5を被処理物4の上に供給し、濡らした(又は、液膜を形成した)被処理物4を処理チャンバ2の中に搬入しても構わない。ここで、処理チャンバ2内は、雰囲気ガスとして窒素ガスや希ガス等の不活性ガスが充填されると好ましい。
【0045】
水素ラジカル源含有物は固体でも構わない。常温常圧下で水素ラジカル源含有物が固体である場合には、被処理物4の上に水素ラジカル源含有物の固体を配置しても構わない。ただし、光が被処理物4と固体との界面に紫外光が到達できる厚みより薄い固体であることが求められる。また、水素ラジカル源含有物が気体・液体よりも固体の方が望ましい場合には、液体の被処理物4を低温にして水素ラジカル源含有物を凝固させても構わない。
【0046】
<第三実施形態>
還元処理方法の第三実施形態につき、図面を参照しながら説明する。以下に説明する以外の事項は、第一実施形態及び第二実施形態と同様に実施できる。図8では、水素ラジカル源含有ガスG3が流れる配管6の外に配置された光源1から、配管6内を通過する水素ラジカル源含有ガスG3に向かって紫外光L1を照射して、水素ラジカル源含有ガスG3を励起し水素ラジカル(H・)を生成する。そして、水素ラジカル(H・)を含むガスを配管6の先端7から被処理物4の表面に向けて吹きつける。被処理物4の表面の酸化物に水素ラジカルが接触すると、還元反応が行われる。本実施形態では、被処理物4と配管6の先端7との間隔を保ちつつ、被処理物4と先端7を相対移動させることで、還元処理が必要な領域のみを選択的に処理できる。また、本実施形態では、処理空間を水素ラジカル源含有ガスでパージする必要がない。
【0047】
本実施形態において、光源1が複数の配管6に挟まれる配置であるが、この配置に限られない。例えば、一つの配管の内壁に接することなく、当該配管の中央に光源1が挿入されるような配置でも構わないし、複数の光源が、一つ又は複数の配管を取り囲むような配置でも構わない。さらに、本実施形態において、光源1が配管6の先端7の近傍に配置されているが、光源1が先端7から離れた配管6に配置されても構わない。本実施形態は、水素ラジカル源含有物が流体であるときに使用できる。
【0048】
以上で第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、上記した各実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の各実施形態に種々の変更又は改良を加えたりすることができる。また、第一実施形態と第三実施形態とを組み合わせて、被処理物の表面に接触させる前に前記水素ラジカル源に前記紫外光を照射すること、被処理物の表面に水素ラジカル源を接触させた後に紫外光を照射することの両方を行ってもよい。これにより、水素ラジカルの生成効率を高めることができる。
【実施例1】
【0049】
表面に酸化膜を有する銅板を準備した。この表面に酸化膜を有する銅板を酸化膜付き銅板という。図9AはX線光電子分光法(XPS)で酸化膜付き銅板を分析した結果を示す。横軸は光電子の結合エネルギー(Binding energy)を、縦軸は光電子強度(intensity)の相対値を表す。図9Aでは、結合エネルギーが935eV付近に第一ピークP1と、940~945eV付近の幅広の第二ピークP2とが見られる。第一ピークP1は、結合エネルギーが933.8eVであるCuO(又は932.5eVであるCuO)の存在を示し、第二ピークP2はCuOのサテライトピークを表す。図9Aから、表面における銅の酸化膜が検出されていることがわかる。
【0050】
水素ラジカル源としてIPA(イソプロピルアルコール)を20mL準備した。酸化膜付き銅板を第一実施形態(図6A)で示される処理チャンバ2内に、光源から2mmの間隔を空けて配置し、準備したIPAの中に窒素ガスを1L/minで送り込み、バブリングして得たIPAを含む窒素ガスを、処理チャンバ2内に送り込んだ。
【0051】
処理チャンバ2内が、IPAを含む窒素ガスでパージされると、光源(主に172nmの波長の光を出射し、ランプ表面での放射照度が30mW/cmとなるキセノンエキシマランプ)を15分間点灯させて、酸化膜付き銅板の還元処理を行った。本実施例では、還元処理の間じゅう、IPAを含む窒素ガスを処理チャンバ2内に送り込み続けている。
【0052】
還元処理を行った後の銅板をXPSで分析した結果を図9Bに示す。図9Aで表出していたCuOやCuOの存在を示すピーク(P1,P2)が消失し、Cuの存在を示す第三ピークP3(結合エネルギーが932.7eV)が確認できる。よって、還元処理により、酸化銅が銅に還元されたことが確認された。
【実施例2】
【0053】
実施例1と同じ処理チャンバ内に、IPAの代わりにエタノールを含む窒素ガスを送り込み、実施例1と同じ酸化膜付き銅板の還元処理を行った。他の処理条件は実施例1と同じである。
【0054】
還元処理を行った後の銅板をXPSで分析した結果を図10に示す。図9Aで表出していたCuOやCuOの存在を示すピーク(P1,P2)が消失し、Cuの存在を示す第三ピークP3(結合エネルギーが932.7eV)が確認できる。よって、エタノールのガスに光源1からの出射光が照射されて形成された水素ラジカルにより、酸化銅が銅に還元されたことが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 :光源
2 :処理チャンバ
3 :ステージ
4 :被処理物
5 :水素ラジカル源液
6 :配管
7 :先端
8 :入側配管
9 :出側配管
G1 :水素ラジカル源含有ガス
G2 :処理チャンバ内の雰囲気ガス
G3 :水素ラジカル源含有ガス
L1 :紫外光
P1 :第一ピーク
P2 :第二ピーク
P3 :第三ピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10